説明

組み合わせ転がり軸受

【課題】潤滑剤の封入量を多くすることができ、かつ、軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れることのない組み合わせ転がり軸受を提供することである。
【解決手段】2つのアンギュラ玉軸受1の突き合わせ側で、内輪2の端面同士を直接突き合わせるとともに、各外輪3の外周面に設けた凹段差部7に環状のシール部材8を差し渡して装着して、軸受の突き合わせ側を密封し、この突き合わせ側と反対側でのみ、内輪2と外輪3の間を密封するシール部材6を装着することにより、共通の軸受空間への潤滑剤の封入量を多くすることができ、かつ、軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れる恐れのないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の転がり軸受を軸方向で突き合わせて組み合わせた組み合わせ転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
回転部材の支持には、内外輪の軌道輪間の軸受空間に複数の転動体が配列された複数の転がり軸受を軸方向で突き合わせて組み合わせ、これらの突き合わせた転がり軸受の軸受空間を密封して、軸受空間に潤滑剤を封入するようにした組み合わせ転がり軸受が用いられることがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1、2に記載されたものは、いずれも玉軸受同士を突き合わせた組み合わせ玉軸受であり、各玉軸受の軸受空間を、その両側で内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で個別に密封している。特許文献1に記載されたものは、深溝玉軸受の内輪と外輪の幅を互いに異なる寸法に形成し、内外輪のうちの一方の軌道輪の端面を突き合わせて、2列の深溝玉軸受に接触角を持たせて予圧を負荷し、アンギュラ玉軸受のようにアキシアル方向での剛性も得られるようにしている。
【0004】
また、組み合わせ玉軸受には、内輪と外輪の幅を互いに同寸法に形成して、内外輪の両方の軌道輪の端面を突き合わせ、各玉軸受の突き合わせ側と反対側のみを、内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で密封したものもある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−339961号公報
【特許文献2】特開2006−125433号公報
【特許文献3】特開2003−74547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された組み合わせ転がり軸受としての組み合わせ玉軸受は、各玉軸受の両側で軌道輪間にシール部材を装着しているので、突き合わせ側で装着した各シール部材の占有分だけ共通の軸受空間が狭くなり、グリース等の潤滑剤の封入量が少なくなって、潤滑寿命が短くなる問題がある。
【0007】
一方、特許文献3に記載された組み合わせ玉軸受は、共通の軸受空間を広くして、潤滑剤の封入量を多くすることができるが、内輪と外輪の幅を互いに同寸法に形成しても、わずかな寸法誤差等によって、内外輪のうちの一方の軌道輪の端面を突き合わせたときに、他方の軌道輪の端面間に隙間が生じ、この端面間の隙間から軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れる問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、潤滑剤の封入量を多くすることができ、かつ、軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れることのない組み合わせ転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、内外輪の軌道輪間の軸受空間に複数の転動体が配列された複数の転がり軸受を軸方向で突き合わせて組み合わせ、これらの突き合わせた転がり軸受の軸受空間を密封して、軸受空間に潤滑剤を封入した組み合わせ転がり軸受において、前記転がり軸受の突き合わせ側で、前記内外輪のうちの少なくとも一方の軌道輪の端面間を密封手段により密封し、突き合わせ側でない端面側でのみ、前記内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で密封した構成を採用した。
【0010】
すなわち、転がり軸受の突き合わせ側で、内外輪のうちの少なくとも一方の軌道輪の端面間を密封手段により密封し、突き合わせ側でない端面側でのみ、内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で密封することにより、潤滑剤の封入量を多くすることができ、かつ、軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れる恐れのないようにした。また、この組み合わせ転がり軸受は、潤滑剤を共通の軸受空間に封入して、その封入量を共通に管理できるので、潤滑剤の封入や封入量の管理を容易にすることもできる。
【0011】
前記軌道輪の端面間の密封手段としては、前記軌道輪の突き合わせ側の軸受外側または内側の周面に凹段差部を設けて、この突き合わせ側に設けた両側の凹段差部に環状のシール部材を差し渡すように装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものを採用することができる。
【0012】
前記軌道輪の端面間の密封手段としては、前記軌道輪の突き合わせ側の端面の少なくとも一方に環状溝を設けて、この環状溝にOリングを装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものも採用することができる。
【0013】
前記軌道輪の端面間の密封手段としては、前記軌道輪の突き合わせ側の端面間に間座を介在させ、前記軌道輪の突き合わせ側の軸受外側または内側の周面に凹段差部を設けて、前記間座に設けた軸方向両側への環状張り出し部を、前記軌道輪の凹段差部と径方向で対向するように張り出させ、これらの対向する間座の各環状張り出し部と各軌道輪の凹段差部の少なくとも一方に環状溝を設けて、これらの各環状溝にOリングを装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものも採用することができる。
【0014】
上述した各組み合わせ転がり軸受は、前記軸方向で突き合わせた複数の転がり軸受が玉軸受同士であるものに好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組み合わせ転がり軸受は、転がり軸受の突き合わせ側で、内外輪のうちの少なくとも一方の軌道輪の端面間を密封手段により密封し、突き合わせ側でない端面側でのみ、内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で密封したので、潤滑剤の封入量を多くして潤滑寿命を延長することができ、かつ、軸受の突き合わせ側で潤滑剤が漏れる恐れもない。また、この組み合わせ転がり軸受は、潤滑剤を共通の軸受空間に封入して、その封入量を共通に管理できるので、潤滑剤の封入や封入量の管理を容易にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態を示す。この組み合わせ転がり軸受は、内輪2と外輪3の間の軸受空間に複数のボール4が保持器5で保持されて配列された2つのアンギュラ玉軸受1を、外輪3のカウンタボア部3aを内向きとした正面合わせで軸方向に突き合わせた組み合わせ玉軸受であり、共通の軸受空間にグリース等の潤滑剤が封入される。なお、内輪2の幅寸法は外輪3の幅寸法よりも大きく形成され、内輪2の端面のみが突き合わされて、外輪3の突き合わせ側の端面間には隙間が開けられている。
【0017】
前記各アンギュラ玉軸受1は、突き合わせ側と反対側でのみ内輪2と外輪3の間にシール部材6が装着され、潤滑剤が封入される共通の軸受空間の両端側が密封されている。また、突き合わせ側の各外輪3の外周面には凹段差部7が設けられて、これらの凹段差部7に環状のシール部材8が差し渡して装着され、突き合わせ側の外輪3の端面間が密封されている。なお、内輪2の端面間は、直接の突き合わせによって密封されている。この実施形態では、外輪3の外周面側に設けた凹段差部7にシール部材8を装着したが、外輪3の内周面側に設けた凹段差部に環状のシール部材を装着することもできる。
【0018】
図2は、第2の実施形態を示す。この組み合わせ転がり軸受も、第1の実施形態のものと同様に、2つのアンギュラ玉軸受1同士を正面合わせで突き合わせた組み合わせ玉軸受であり、前記隙間を開けた外輪3の突き合わせ側の各端面に環状溝9が設けられ、これらの環状溝9間に装着されたOリング10によって、突き合わせ側の外輪3の端面間が密封されている点が異なる。その他の部分は、第1の実施形態のものと同じである。なお、Oリング10を装着する環状溝9は、いずれか一方の外輪3の突き合わせ側の端面のみに設けてもよい。
【0019】
図3は、第3の実施形態を示す。この組み合わせ転がり軸受も、第1の実施形態のものと同様に、2つのアンギュラ玉軸受1同士を正面合わせで突き合わせた組み合わせ玉軸受であり、前記外輪3の突き合わせ側の端面間に間座11を介在させ、この間座11に設けた軸方向両側への環状張り出し部11aを、外輪3の突き合わせ側の外周面に設けた両側の凹段差部12と径方向で対向するように張り出させ、これらの各張り出し部11aの内周面に設けた環状溝13に装着したOリング14によって、突き合わせ側の外輪3の端面間が密封されている点が異なる。その他の部分は、第1の実施形態のものと同じである。なお、Oリング14を装着する環状溝13は、外輪3の凹段差部12に設けてもよい。
【0020】
上述した第1乃至第3の実施形態では、アンギュラ玉軸受1を正面合わせで突き合わせたものとしたが、外輪3の各カウンタボア部3aを外向きとした背面合わせや、外輪3の各カウンタボア部3aを同じ向きとした並列合わせで突き合わせたものとすることもできる。
【0021】
図4は、第4の実施形態を示す。この組み合わせ転がり軸受は、内輪22と外輪23の間の軸受空間に複数のボール24が保持器25で保持されて配列された2つの深溝玉軸受21同士を軸方向に突き合わせた組み合わせ玉軸受であり、第1の実施形態のものと同様に、突き合わせ側と反対側でのみ内輪22と外輪23の間にシール部材26が装着されて、共通の軸受空間の両端側が密封されるとともに、突き合わせ側の各外輪23の外周面に設けられた凹段差部27に環状のシール部材28が差し渡して装着され、突き合わせ側の外輪23の端面間が密封されている。また、内輪22の端面間は、直接の突き合わせによって密封されている。
【0022】
上述した各実施形態では、軸受の突き合わせ側で内輪の端面を直接突き合わせ、外輪の端面間を環状のシール部材やOリング等の密封手段で密封したが、外輪の端面を直接突き合わせて、内輪の端面間をこれらの密封手段で密封することもできる。なお、内輪と外輪の両方の端面間をこれらの密封手段で密封してもよい。
【0023】
また、上述した各実施形態では、組み合わせ転がり軸受を、2つの玉軸受同士を突き合わせた組み合わせ玉軸受としたが、本発明に係る組み合わせ転がり軸受は、ころ軸受同士を突き合わせたものや、玉軸受ところ軸受のように異なる転がり軸受を突き合わせたものとすることもでき、これらの転がり軸受を3つ以上突き合わせたものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態の組み合わせ転がり軸受を示す縦断面図
【図2】第2の実施形態の組み合わせ転がり軸受を示す縦断面図
【図3】第3の実施形態の組み合わせ転がり軸受を示す縦断面図
【図4】第4の実施形態の組み合わせ転がり軸受を示す縦断面図
【符号の説明】
【0025】
1 アンギュラ玉軸受
2 内輪
3 外輪
3a カウンタボア部
4 ボール
5 保持器
6 シール部材
7 凹段差部
8 シール部材
9 環状溝
10 Oリング
11 間座
11a 張り出し部
12 凹段差部
13 環状溝
14 Oリング
21 深溝玉軸受
22 内輪
23 外輪
24 ボール
25 保持器
26 シール部材
27 凹段差部
28 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪の軌道輪間の軸受空間に複数の転動体が配列された複数の転がり軸受を軸方向で突き合わせて組み合わせ、これらの突き合わせた転がり軸受の軸受空間を密封して、軸受空間に潤滑剤を封入した組み合わせ転がり軸受において、前記転がり軸受の突き合わせ側で、前記内外輪のうちの少なくとも一方の軌道輪の端面間を密封手段により密封し、突き合わせ側でない端面側でのみ、前記内外輪の軌道輪間に装着したシール部材で密封したことを特徴とする組み合わせ転がり軸受。
【請求項2】
前記軌道輪の端面間の密封手段が、前記軌道輪の突き合わせ側の軸受外側または内側の周面に凹段差部を設けて、この突き合わせ側に設けた両側の凹段差部に環状のシール部材を差し渡すように装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものである請求項1に記載の組み合わせ転がり軸受。
【請求項3】
前記軌道輪の端面間の密封手段が、前記軌道輪の突き合わせ側の端面の少なくとも一方に環状溝を設けて、この環状溝にOリングを装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものである請求項1に記載の組み合わせ転がり軸受。
【請求項4】
前記軌道輪の端面間の密封手段が、前記軌道輪の突き合わせ側の端面間に間座を介在させ、前記軌道輪の突き合わせ側の軸受外側または内側の周面に凹段差部を設けて、前記間座に設けた軸方向両側への環状張り出し部を、前記軌道輪の凹段差部と径方向で対向するように張り出させ、これらの対向する間座の各環状張り出し部と各軌道輪の凹段差部の少なくとも一方に環状溝を設けて、これらの各環状溝にOリングを装着し、前記軌道輪の端面間を密封したものである請求項1に記載の組み合わせ転がり軸受。
【請求項5】
前記軸方向で突き合わせた複数の転がり軸受が玉軸受同士である請求項1乃至4のいずれかに記載の組み合わせ転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−133885(P2008−133885A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319965(P2006−319965)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】