説明

結晶製造方法および結晶製造装置

【課題】冷却固化したフラックスの中から短時間のうちに結晶を取り出すことができるようにした結晶製造方法を提供する。
【解決手段】処理槽300内に坩堝107を収納させ、この坩堝107を処理槽300内に入れる前、あるいは、入れた後に、処理槽300内にフラックス処理溶液301を流入させ、坩堝107内には、種基板と、この種基板上に生成された結晶205と、これらの種基板および結晶205を覆ったフラックス204とが収納された状態とし、フラックス処理溶液301の気液界面に対して種基板を傾斜させる傾斜手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶製造方法に関し、より詳細にはフラックス法にて成長した結晶を取り出すための結晶製造方法に関する。さらに詳細にはアルカリ金属等を用いて結晶成長させ、それらの中から結晶を取り出すための結晶製造方法の高速化処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体のなかでも窒化ガリウム(GaN)などのIII族元素窒化物(以下、III族窒化物、またはIII族窒化物半導体という場合がある)は、青色や紫外光を発光する半導体素子の材料として注目されている。青色レーザダイオード(LD)は高密度光ディスクやディスプレイなどに応用され、青色発光ダイオード(LED)はディスプレイや照明などに応用されている。紫外線LDは、バイオテクノロジなどへの応用が期待され、紫外線LEDは蛍光灯の紫外線源として期待されている。
【0003】
LDやLED用のIII族窒化物半導体(例えば、GaN)の基板は、通常、サファイア基板上に、気相エピタキシャル成長法を用いて、III族窒化物単結晶をヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されている。気相成長方法としては、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、水素化物気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などがある。
【0004】
一方、気相エピタキシャル成長ではなく、液相で結晶成長を行う方法も検討されてきている。GaNやAlNなどのIII族窒化物の単結晶の融点における窒素の平衡蒸気圧は、1万気圧以上である。このため、公知の技術においては、窒化ガリウムを液相で育成させるためには、1200℃で8000気圧(8000×1.01325×10Pa)の条件が必要とされている。これに対し、近年、Naなどのアルカリ金属を用いることで、750℃、50気圧(50×1.01325×10Pa)という比較的低温低圧でGaNを合成できることが明らかにされた。
【0005】
最近では、アンモニアを含む窒素ガス雰囲気下においてGaとNaとの混合物を800℃、50気圧(50×1.01325×10Pa)で溶融させ、この融解液を用いて、96時間の育成時間で、最大結晶サイズが1.2mm程度である単結晶が得られている(例えば、JP2002−293696A)。
【0006】
また、サファイア基板上に有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によってGaN結晶層を成膜した後、液相成長(LPE:Liquid Phase Epitaxy)法によって単結晶を育成させる方法も提案されている(例えば、JP2005−263622A)。
【0007】
図8はGaN結晶を液相成長法によって育成させるための公知の製造装置の概略構成を示す。100は加熱式の育成炉であり、その内部に、結晶育成を行うための密閉性の耐圧耐熱容器103が設けられている。104は容器103の蓋である。101は原料ガス109である窒素ガスを供給する原料ガス供給装置で、接続配管114によって耐圧耐熱容器103に接続されている。接続配管114は、圧力調整器102、リーク弁106、ジョイント108、ストップバルブ105を有している。育成炉100は、断熱材111とヒータ112とを備える電気炉として構成されており、熱電対113により温度管理されている。育成炉100は、水平方向の軸心Aのまわりで全体を揺動されることが可能である。
【0008】
耐圧耐熱容器103の内部には、坩堝107が設置される。坩堝107の内部には高温の原料液110が貯留され、このフラックス204の内部に種基板201が浸漬される。個々での種基板201は、テンプレートであり、サファイア基板にGaNからなる半導体層が成膜されたものである。このテンプレートは、サファイア基板が1020℃〜1100℃になるように加熱され、その上にトリメチルガリウム(TMG)とアンモニア(NH)とが供給されることによって調製されたものである。フラックス204は、原料である金属ガリウムとナトリウムが高温で溶融されたものである。
かかる構成の製造装置において、結晶を製造するときには、まず製造装置の外で、図9(a)に示すように、坩堝107内に種基板201を、坩堝107の底面に沿ってこの底面に平行な向きに配置する。坩堝107内には、さらに原料である金属ガリウムとナトリウムとを所定の量だけ秤量してセットする。
【0009】
そして坩堝107を密閉性の耐圧耐熱容器103内に挿入し、この耐圧耐熱容器103を育成炉100内にセットし、耐圧耐熱容器103を接続パイプ114を介して原料ガス供給装置101に接続する。そして、育成温度850℃、窒素雰囲気圧力50気圧として、育成炉100を軸心Aのまわりに揺動させることで、図9(b)に示すよう金属ガリウムとナトリウムが高温で溶融された状態のフラックス204としてのGa/Na融解液に窒素ガスを溶解させて、種基板201上にGaN単結晶の育成を行う。
【0010】
GaN単結晶の育成が完了したなら、耐圧耐熱容器103を冷却して原料液110を冷却固化し、耐圧耐熱容器103から坩堝107を取り出す。その後に、坩堝107内で冷却固化したフラックス204をエタノールなどで溶解処理して、GaN単結晶が育成された結晶205を取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−293696号公報
【特許文献2】特開2005−263622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、GaN単結晶の育成後に、冷却固化したフラックスをエタノールなどで処理する際、上述のように種基板201は坩堝107の底面に沿って底面と平行に配置されているため、種基板201と坩堝107の底面との隙間に回り込んだ状態でフラックスが固化している。この部分の固化したフラックスは処理し難く、処理に長時間を要し、なかなか結晶を取り出せないという問題がある。
本発明は、上記問題に鑑み、GaN単結晶などのIII族元素窒化物の結晶を高温の原料液中で育成した後、この結晶を、冷却固化したフラックスの中から、短時間のうちに取り出すことができるようにした、結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、この目的を達成するために本発明は、処理槽内に坩堝を収納させ、この坩堝を処理槽内に入れる前、あるいは、入れた後に、前記処理槽内にフラックス処理溶液を流入させ、前記坩堝内には、種基板と、この種基板上に生成された結晶基板と、これらの種基板および結晶基板を覆ったフラックスとが収納された状態とし、前記フラックス処理溶液の気液界面に対して前記種基板を傾斜させる傾斜手段を設けた構成とし、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明は、処理槽内に坩堝を収納させ、この坩堝を処理槽内に入れる前、あるいは、入れた後に、前記処理槽内にフラックス処理溶液を流入させ、前記坩堝内には、種基板と、この種基板上に生成された結晶基板と、これらの種基板および結晶基板を覆ったフラックスとが収納された状態とし、前記フラックス処理溶液の気液界面に対して前記種基板を傾斜させる傾斜手段を設けた構成としたので、GaN単結晶などのIII族元素窒化物の結晶を、冷却固化したフラックスの中から、短時間のうちに取り出すことができる。
【0015】
従来例においては、冷却固化したフラックスをエタノールなどで処理する際、種基板は坩堝の底面に沿って底面と平行に配置されているため、種基板と坩堝の底面との隙間に回り込んだ状態でフラックスが固化していて、このフラックスを処理するのに時間を要していた。
【0016】
この原因としては、例えば、上述したように、種基板と坩堝の底面との隙間に形成されたフラックスは、エタノール等のフラックス処理溶液と接することができる接触面が小さくなってしまう。この接触面に、フラックス処理溶液と反応してできた気泡が付いてしまい、この気泡がフラックス処理溶液とフラックスの反応を邪魔することになり、処理時間を要していたことが考えられる。
【0017】
このようなことは、全く予想だにしなかったことであったが、研究の結果、種基板の配置を適切に管理し、フラックス表面に付いた気泡が、上方に逃げやすい構成にすることで、フラックス処理時間を短縮できることを見出した。
【0018】
そこで、本発明においては、坩堝内に設けた種基板をフラックス処理溶液の気液界面に対して傾斜させる傾斜手段を設けたことによって、フラックス表面の気泡がフラックスに付着することを防止し、フラックス処理溶液とフラックスの反応を促進できるので、これによってフラックス処理時間を短縮できるという効果が得られるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の結晶製造方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図8は、本発明の実施の形態1におけるIII族元素窒化物の結晶の製造装置の概略構成を示す。
【0021】
100は加熱式の育成炉であり、その内部に、結晶育成を行うための密閉性の耐圧耐熱容器103が設けられている。104は、容器103の蓋である。101は原料ガスである窒素ガスを供給する原料ガス供給装置で、接続配管114、115によって耐圧耐熱容器103に接続されている。接続配管114と接続配管115とは、ジョイント108によって互いに切り離し可能に連結されている。(また、フレキシブル配管によってジョイントしても良い。)接続配管114には、圧力調整器102とリーク弁106とが設けられている。接続配管115には、ストップバルブ105が設けられている。
【0022】
原料ガス供給装置101は、原料ガス109を一定の圧力で加圧できればよく、この圧力を常圧(1×1.01325×10Pa)〜100気圧(100×1.01325×10Pa)の範囲で制御可能である。接続配管114、115に設けられた圧力調整器102、ストップバルブ105、リーク弁106を電気的に連動させることで、耐圧耐熱容器103に供給する圧力を一定に保つことができる。原料ガス109としては、窒素ガスや、アンモニアガスや、窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガス等が用いられる。
【0023】
耐圧耐熱容器103は、内部に坩堝107を収納可能であって、温度が常温〜1100℃、圧力が常圧(1×1.01325×10Pa)〜100気圧(100×1.01325×10Pa)の範囲の高温高圧で密閉性を保つ容器であればよい。詳細には、耐圧耐熱容器103は、JISに規定されるSUS316やSUS310Sなどのステンレス系材料や、インコネル、ハステロイ若しくはインコロイ(いずれも登録商標)などの高温高圧に耐性のある材料を使用した容器を用いることが出来る。特に、インコネル、ハステロイ若しくはインコロイなどの材料が、高温高圧化における酸化に対しても耐性があり、不活性ガス以外の雰囲気でも利用でき、再利用、耐久性の点から好ましい。
【0024】
育成炉100は、断熱材111と加熱装置112とを備える電気炉として構成されている。加熱装置112としては、誘導加熱型ヒータ(高周波コイル)、抵抗加熱ヒータ(ニクロム、カンタル、SiC、MoSi等を用いたヒータ)等を使用することができる。この中で、誘導加熱型ヒータが、高温時に不純物ガスの発生が少ないため好ましい。育成炉100は、温度管理のための熱電対113などを備えていて、常温〜1100℃まで制御可能とされている。坩堝107内でのフラックス204の「凝集」を防止する観点から、耐圧耐熱容器103の温度が均一に保持されるように温度管理をすることが好ましいからである。育成炉100は、炉内の雰囲気圧力を調整する圧力調整器(図示せず)を備えていて、同圧力を、100気圧(100×1.01325×10Pa)以下の範囲で制御可能である。また、密閉性耐圧耐熱容器103にフロー用の配管を装着し(図示せず)、密閉性耐圧耐熱容器103内と育成炉100内を同程度の圧力に保つことも可能で、育成炉100にリーク弁を設けて(図示せず)、圧力調整器によりフローにすることも可能である。坩堝107内の原料液110の攪拌のために、育成炉100は、その全体が水平方向の軸心Aのまわりに揺動可能である。また原料液110の攪拌のために、育成炉100内の上下に温度差をつけて原料液110に熱対流を発生させることが可能とされている。
【0025】
坩堝107には、アルミナ(Al)、サファイア(Al)、イットリア(Y)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、窒化ホウ素(BN)、タングステン(W)など、III族元素やアルカリ金属と反応しにくい材料を用いることができる。
【0026】
種基板201は、組成式AlGaIn1−u+vNで表される半導体層がサファイアなどの基板上に形成されたものや、同じ組成式AlGaIn1−u+vNで表される単結晶がサファイアなどの基板上に形成されたものや、同じ組成式AlGaIn1−u+vNで表される自立した半導体や、同じ組成式AlGaIn1−u+vNで表される単結晶などにて構成される。ただし、これらの各組成式において、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦u+v≦1である。
かかる種基板201を種結晶として用いることで、種基板201に単結晶を育成させることができ、容易に大面積の単結晶を育成させることが可能である。
【0027】
上記製造装置を用いたIII族元素窒化物単結晶の製造方法を、以下に説明する。
【0028】
図9(a)に示すように、坩堝107内に、平板状の種基板201を、坩堝底面に平行な姿勢で配置する。
【0029】
この種基板201の上に、原料であるIII族元素材料203とアルカリ金属202とを供給する。III族元素材料203としては、ガリウム、アルミニウム、若しくはインジウムを用いることができる。アルカリ金属202としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを用いることができる。アルカリ金属202に代えて、アルカリ土類金属であるところの、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ベリリウム、マグネシウムなどを用いても構わない。これらアルカリ金属202やアルカリ土類金属は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。III族元素材料203およびアルカリ金属203の秤量や取り扱いは、アルカリ金属202の酸化や水分吸着を回避するために、窒素ガスやアルゴンガスやネオンガスなどで置換されたグローブボックス中で行うことが好ましい。
【0030】
次に、坩堝107を密閉性耐圧耐熱容器103に挿入し、上蓋104を閉め、上蓋104に一体化されている配管115のストップバルブ105を閉じ、その状態でグローブボックスから取り出す。
【0031】
その後、密閉性耐圧耐熱容器103を図1に示すように育成炉100内に固定し、密閉性耐圧耐熱容器103の配管115を図1に示す原料ガス供給装置101に接続し、ストップバルブ105を開放して、原料ガス供給装置101から密閉性耐圧耐熱容器103に原料ガス109を注入する。このとき、図示していないが、ロータリーポンプやターボポンプなどで密閉性耐圧耐熱容器103内を真空引きし、その後に原料ガス109を注入して置換することが好ましい。
【0032】
そのうえで、熱電対113や圧力調整器102によって育成炉100の温度および育成雰囲気の圧力を管理しながら、III族元素窒化物単結晶の育成を行う。
このとき、育成炉100内には、不活性ガス、たとえば、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、窒素ガスなどを充填することが好ましい。密閉性耐圧耐熱容器103であっても、空気の雰囲気中で高温下に保持するとそれ自体が酸化してしまい、再利用が困難となるためである。
【0033】
III族元素窒化物単結晶を生成するための原料の溶融および育成の条件は、原料であるIII族元素材料203やアルカリ金属202の成分、および原料ガスの成分およびその圧力に依存する。例えば温度は、700℃〜1100℃、好ましくは700℃〜900℃といった、比較的低温が用いられる。圧力は、20気圧(20×1.01325×105Pa)以上、好ましくは30気圧(30×1.01325×105Pa)〜100気圧(100×1.01325×105Pa)が用いられる。
【0034】
育成温度に昇温することにより、坩堝107内で、図9(b)に示すように、III族元素材料203/アルカリ金属202の融解液、つまり上述のフラックス204が形成される。すると、このフラックス204中に原料ガス109が溶け込み、III族元素材料203と原料ガス109とが反応して、種基板201上に結晶205が育成される。
【0035】
種基板201を上述のように坩堝107の底面に平行に設置する理由は、そのことにより、種基板201の表面全体においてフラックス204の気液界面までの距離が均一になり、その表面近傍のフラックス204への原料ガス109の溶け込み量が均一となるため、結晶205の均一な成長が可能となるからである。坩堝201の底面に対して完全に平行でなくとも、ほぼ平行であればよい。
【0036】
これに対し、種基板201を坩堝107の底面に対して垂直に設置する場合を考えると、坩堝107内のフラックス204の液面を高くせざるを得ない。すると、気相に近いフラックス204の上部では原料ガス109が溶け込みやすく、これに対し気相から遠いフラックス204の下部では原料ガス109は溶け込みにくい。それにより、フラックス204の上部と下部とで原料ガス109の溶け込む量が異なることになる。その結果、種基板201の上部は結晶205の成長が早くなり、下部では結晶205の成長が遅くなってしまい、結晶205の厚みが均一でなくなってしまう。
【0037】
所定の時間が経過して結晶205の育成が終了した後は、育成炉100内の温度が常温にもどると坩堝107を育成炉100および密閉性耐圧耐熱容器103から取り出す。するとフラックス204も冷却固化されており、結晶205はこの固化した原料の内部に埋設されることになる。そこで、結晶205を、坩堝107内で冷却固化されたフラックス204の内部から取り出すために、その固化したフラックス204の処理を行う。
【0038】
育成後のフラックス204すなわち固化したフラックス204の中には、III族元素材料203は、5〜30%程度しか残存しない。固化したフラックス204は、その殆どがアルカリ金属202である。そこで、図1(a)に示すように処理槽300の中に、坩堝107を任意の角度に保持が可能な角度保持ジグ303上に配置、または、処理槽300を任意の角度に傾斜させて、坩堝107を任意の角度に傾斜させても良い(図示せず)。そして、処理槽300にフラックス処理溶液301である水酸基(−OH)を含む任意の溶液、たとえばエタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類や、水などやそれらの1つ又はそれらを複数混合したものを注入する。また、複数混合する場合は処理途中に溶液の濃度や溶液を変更したり、炭化水素等の濃度制御をしたりして、処理速度を制御しても良い。また、これらのフラックス処理溶液301は自動的に導入及び排出して常に新しい溶液を使用しても良い。そして、固化したフラックス204をフラックス処理溶液301に浸漬させて、注入されたフラックス処理溶液301中で金属アルコキシド(水を用いる場合は金属水酸化物)と水素とを生成させる。これによって、結晶205の周囲の固化したフラックス204を処理する。
【0039】
フラックス処理中の坩堝107の配置の角度に付いて説明する。図10に示す従来の坩堝107の配置方法である気液界面である線ABと種基板201の底面のなす線CDを平行に配置したときと、図1に示す本発明の坩堝107の配置方法である気液界面である線A’B’と種基板201の底面のなす線C’D’が平行にならないように配置したとき(ここではαを45度にしている。)について比較して説明する。
【0040】
はじめに、図10(a)及び図1(a)に示すように、共に線CD及び線C’D’より上部の固化したフラックス204を処理する場合は、坩堝107の開放されている面のフラックス204全面にフラックス処理溶液301が当たるため、フラックス204とフラックス処理溶液301が反応し、フラックス処理溶液301中で金属アルコキシド(水を用いる場合は金属水酸化物)と水素ガス302とを生成させることで比較的早く処理することが可能であるが、線CD及び線C’D’より上部の固化したフラックス204を処理するとき、図1(a)に示すように線A’B’と線C’D’が平行にならないように配置したときの方が早く処理することが可能である。これは、フラックス204とフラックス処理溶液301が反応することで熱が発生し、線A’B’と線C’D’が平行にならないように配置したことで、図1(a)の破線の矢印で示すようなフラックス処理溶液301の熱対流が発生して常に新しいフラックス処理溶液301を供給するため、線C’D’より上部の固化したフラックス204の処理が早くなると考えられる。
【0041】
次に、フラックス処理が進み図10(b)及び図1(b)に示すように、線CD及び線C’D’より上部の固化したフラックス204を処理後、結晶205裏面と坩堝204の間に残ったフラックスの処理を行う場合を説明する。
【0042】
図10(b)に示すように線ABと線CDを平行に配置したときは、図10(b)のZ部を拡大した図11(a)に示すように、結晶205と坩堝107の間にフラックス処理溶液301が入り込み、結晶205と坩堝107の間から水素ガスが発生し、フラックス204の処理が進む。しかしながら、線ABと線CDを平行に配置しているために、図11(b)に示すように、結晶205の裏に水素ガス302が滞留し、ある程度水素ガス302が滞留しないと放出されない。そのため、滞留した水素ガス302が覆っている部分のフラックス204処理が進行しにくくなり、フラックス204処理に多くの時間がかかってしまう。
【0043】
一方、図1(b)に示すように線A’B’と線C’D’が平行にならないように配置することで、図1(b)のYを拡大した図2(a)に示すように、結晶205の裏に水素ガス302が滞留することなく、図2(b)に示すように、フラックス204とフラックス処理溶液301が反応して発生した水素ガス302は、すぐに排出されてしまうため、結晶205と坩堝107の間のフラックス204の処理を阻害されなくなり、常にフラックス処理溶液301で満たされるため、フラックス204処理時間が短時間で完了する。
図3に、同じ条件にて成長した後、図10のように線ABと線CDを平行に配置(α=0°)した場合より、図1のように線A’B’と線C’D’が平行にならないようにαを45°配置した場合の方が、フラックス204の処理に要する時間を3分の1程度短縮することが確認された。また、この図からも分かる様に、線A’B’と線C’D’が平行にならないようにαを45°配置することで、線C’D’上のフラックス204の処理についても短縮することが確認された。
【0044】
次に、同じ条件にて成長した後、図1の線A’B’と線C’D’がなす角αを0°(線A’B’と線C’D’が平行状態)から90°まで角度を変更してフラックス204処理を行った処理に要した時間を図4に示す。図より線A’B’と線C’D’がなす角αが0°以上であれば良く、0°以上でフラックス204の処理時間は短縮する。好ましくは、フラックスの時間が10時間程度以下になる5°以上、坩堝201の中で発生した水素ガス302が大気に開放される90°未満にすることで8時間程度まで短縮することが出来る。図4のフラックス204の処理時間は、成長条件により固化したフラックス204に含まれるIII族元素材料203の残量により多少前後するが、III族元素材料203の残量の同じもので同様の実験を行うと図4と同様の傾向が得られる。
【0045】
また、特に図1の線A’B’と線C’D’がなす角αを90°にしたときに、坩堝201内に水素ガス302が滞留しないように、図5(a)及び(b)に示すように、坩堝201の底面までテーパー形状(坩堝204の側壁がある程度の角度を持つこと)にすることが好ましい。さらには、図1の線A’B’と線C’D’がなす角αにある程度の角度を持たせると、フラックス204の処理が終了後に坩堝107から結晶205が剥離される際、下方にスライドしたり、転倒したりするため、結晶205が破損する可能性が高い。
【0046】
そのため、結晶205のスライドや転倒を防止するために、図6(a)に示すように、アルカリに耐性のある緩衝材304を入れたり、図6(b)に示すように、結晶保持網305を用いたり、軽いバネの力で押しておいたりして、転倒防止機構をもたして保持しておくことが望ましい。
【0047】
また、これまで一つの坩堝にて説明を行って来たが、図7に示すように、複数個の固化したフラックス204の入った坩堝107を同時に処理することも可能である。
【0048】
また、フラックスの処理途中に、フラックス処理時に発生する水素量をモニターして、この水素量が所定の量以下になった場合に、フラックス処理溶液に含まれるメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又は水の内の1種または複数種から選ばれる混合比率またはフラックス処理溶液の種類を変更することで、フラックス処理時間をさらに短縮することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明にかかるIII族窒化物の結晶の製造方法は、育成した単結晶を原料液の中から短時間で取り出せるという利点を有するもので、フラックスを用いる窒化ガリウムなどの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1における結晶製造方法の(a)は処理前期の模式図(b)は処理後期の模式図
【図2】(a)(b)ともに本発明の実施の形態1における結晶製造方法の部分拡大図
【図3】本発明の実施の形態1における結晶製造方法のフラックス処理時間と坩堝の坩堝角45°と0°の比較図
【図4】本発明の実施の形態1における結晶製造方法のフラックス処理時間と坩堝の坩堝角βの関係図
【図5】本発明の実施の形態1における結晶製造方法の(a)は処理前期の模式図(b)は処理後期の模式図
【図6】(a)(b)ともに本発明の実施の形態1における結晶製造方法の結晶の転倒による割れ防止の一部を示す図
【図7】本発明の実施の形態1における結晶製造方法の複数個同時処理の一部を示す図
【図8】本発明の実施の形態1における結晶成長装置の一部を示す図
【図9】(a)(b)ともに本発明の実施の形態1における坩堝に成長材料を配置方法の一部を示した図
【図10】従来の結晶製造方法の(a)は処理前期の模式図(b)は処理後期の模式図
【図11】(a)(b)ともに従来の結晶製造方法の部分拡大図
【符号の説明】
【0051】
100 育成炉
101 原料ガス供給装置
102 圧力調整器
103 耐圧耐熱容器
104 密閉性耐圧耐熱容器の上蓋
105 ストップバルブ
106 リーク弁
107 坩堝
108 切り離し部分
109 原料ガス
111 断熱材
112 加熱装置
113 熱電対
114、115 接続配管
201 種基板
202 アルカリ金属
203 III族元素材料
204 フラックス
205 結晶
300 処理槽
301 フラックス処理溶液
302 水素ガス
303 坩堝の角度保持ジグ
304 緩衝材
305 結晶保持網
310 フラックス処理溶液導入口
311 フラックス処理溶液排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶を育成した後の工程として、この結晶をフラックスから取り出す結晶の製造方法であって、
処理槽内に坩堝を収納させ、この坩堝を処理槽内に入れる前、あるいは、入れた後に、前記処理槽内にフラックス処理溶液を流入させ、前記坩堝内には、種基板と、この種基板上に生成された結晶基板と、これらの種基板および結晶基板を覆ったフラックスとが収納された状態とし、前記フラックス処理溶液の気液界面に対して前記種基板を傾斜させる傾斜手段を設けた結晶製造方法。
【請求項2】
前記種基板を傾斜させる傾斜手段は、前記坩堝を傾斜させて配置するとした請求項1に記載の結晶製造方法。
【請求項3】
前記坩堝の傾斜手段には、坩堝の角度を一定に保つため、角度保持ジグを用いるとした請求項2に記載の結晶製造方法。
【請求項4】
前記種基板を傾斜させる傾斜手段は、前記処理槽を傾斜させて配置するとした請求項1に記載の結晶製造方法。
【請求項5】
前記種基板を傾斜させる傾斜手段による傾斜角度は、前記フラックス処理溶液の気液界面に対して5〜90度である請求項1から4のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項6】
前記傾斜された坩堝内に緩衝材を設けるとした請求項1から5のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項7】
前記坩堝の内面にテーパーを設けるとした請求項1から6のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項8】
前記種基板に転倒防止機構を設けるとした請求項1から6のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項9】
フラックスがナトリウムであり、III族窒化物が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項10】
フラックス処理溶液は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又は水の内の1種または複数種であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項11】
フラックスの処理途中に、フラックス処理溶液に含まれるメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又は水の内の1種または複数種から選ばれる混合比率またはフラックス処理溶液の種類を変更する手段を有する請求項1から10のいずれか一つに記載の結晶製造方法。
【請求項12】
前記処理槽に複数の前記坩堝を配置した請求項1から11のいずれか1つに記載の結晶製造方法。
【請求項13】
請求項1から12の結晶の製造方法に用いる結晶の製造装置であって、前記処理槽の設置台と、この設置台に置かれた処理槽内に、フラックス処理溶液を流入させるための流入手段と、坩堝内のフラックスをフラックス処理溶液で溶解させた後に、処理槽内から結晶基板と種基板を取り出す取り出し手段と、を備えた結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−269967(P2010−269967A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122887(P2009−122887)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】