説明

絶縁材料及び積層構造体

【課題】硬化後の硬化物の熱伝導性が高く、硬化物の吸水率が低く、かつ硬化物の弾性率が低く、更に該硬化物の冷熱サイクル特性に優れている絶縁材料及び積層構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、硬化性化合物と、硬化剤と、フィラーとを含む。該硬化剤は、主鎖にポリエーテル結合を有しかつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する。本発明に係る積層構造体1は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体2と、熱伝導体2の少なくとも一方の表面に積層された絶縁層3と、絶縁層3の熱伝導体2が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層4とを備える。絶縁層3は、上記絶縁材料を硬化させることにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーと硬化性化合物と硬化剤とフィラーとを含む絶縁材料に関する。また、本発明は、該絶縁材料を用いた積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び通信機器では、絶縁層を有するプリント配線板が用いられている。該絶縁層は、ペースト状又はシート状の絶縁接着材料を用いて形成されている。
【0003】
上記絶縁接着材料の一例として、下記の特許文献1には、エポキシ樹脂と、シアネートエステル樹脂と、グアニジン化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体と、金属系硬化触媒とを含む樹脂組成物及び接着フィルムが開示されている。この樹脂組成物及び接着フィルムは、高分子樹脂及び無機充填材を含んでいてもよい。また、高分子樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びポリエステル樹脂が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−90237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。このため、上記電子機器及び通信機器に用いられるプリント配線板では、多層化及び薄膜化が進行しており、かつ電子部品の実装密度が高くなっている。これに伴って、電子部品から大きな熱量が発生しやすくなっており、発生した熱を放散させる必要が高まっている。熱を放散させるために、プリント配線板の絶縁層は、高い熱伝導率を有する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の絶縁接着材料を用いたプリント配線板では、絶縁層の熱伝導率が低く、充分な放熱性が得られないことがある。さらに、絶縁層の弾性率が高すぎることがある。このため、冷熱サイクルに晒されたときに、絶縁層にクラックが生じることがある。また、絶縁層の吸水率が高いことから、プリント配線板の信頼性に欠けるという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献1に記載の接着フィルムでは、ハンドリング性が低いことがある。
【0008】
本発明の目的は、硬化後の硬化物の熱伝導性が高く、硬化物の吸水率が低く、かつ硬化物の弾性率が低く、更に該硬化物の冷熱サイクル特性に優れている絶縁材料、並びに該絶縁材料を用いた積層構造体を提供することである。
【0009】
本発明の限定的な目的は、シート状の絶縁シートであって、未硬化状態での該絶縁シートのハンドリング性に優れている絶縁材料、並びに該絶縁材料を用いた積層構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、硬化性化合物と、硬化剤と、フィラーとを含み、該硬化剤が、主鎖にポリエーテル結合を有しかつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する、絶縁材料が提供される。
【0011】
本発明に係る絶縁材料のある特定の局面では、硬化物の吸水率が2重量%以下であり、硬化物の300Kでの貯蔵弾性率が5000MPa以下である。
【0012】
本発明に係る絶縁材料の他の特定の局面では、上記ポリマーはフェノキシ樹脂である。
【0013】
本発明に係る絶縁材料のさらに他の特定の局面では、上記硬化性化合物は、環状エーテル基を有する硬化性化合物である。
【0014】
本発明に係る絶縁材料の別の特定の局面では、上記硬化性化合物は、アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物を含む。
【0015】
本発明に係る絶縁材料のさらに別の特定の局面では、上記硬化性化合物の合計100重量%中、上記アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物の含有量は10重量%以上である。
【0016】
本発明に係る絶縁材料の他の特定の局面では、該絶縁材料は、シート状の絶縁シートである。
【0017】
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために好適に用いられる。
【0018】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、該熱伝導体の少なくとも一方の表面に積層された絶縁層と、該絶縁層の上記熱伝導体が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層とを備えており、上記絶縁層が、上述した絶縁材料を硬化させることにより形成されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、硬化性化合物と、ポリエーテル結合を有しかつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する硬化剤と、フィラーとを含むので、絶縁材料の硬化物の熱伝導性を高くし、かつ該硬化物の吸水率及び弾性率を低くすることができる。さらに、硬化物の耐冷熱サイクル特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0022】
本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマー(A)と、硬化性化合物(B)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含む。硬化剤(C)は、主鎖にポリエーテル結合を有しかつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する。
【0023】
本発明に係る絶縁材料における上記組成の採用により、硬化物の吸水率及び弾性率を低くすることができる。本発明に係る絶縁材料の硬化物の吸水率は低いので、本発明に係る絶縁材料を用いた積層構造体の信頼性を高めることができる。さらに、上記組成の採用により、本発明に係る絶縁材料の硬化物の熱伝導性を高くすることができる。本発明に係る絶縁材料の硬化物の熱伝導性は高いので、本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために好適に用いられる。さらに、本発明における上記組成の採用により、絶縁材料の硬化物の耐冷熱サイクル特性を高めることができる。
【0024】
さらに、本発明に係る絶縁材料における上記組成の採用により、硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性も高めることができる。
【0025】
本発明に係る絶縁材料は、液状の絶縁組成物であってもよく、シート状の絶縁シートであってもよい。取り扱い性を高めるために、本発明に係る絶縁材料は、シート状の絶縁シートであることが好ましい。本発明に係る絶縁材料は上記組成を有するので、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性を高めることができる。特に、本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマー(A)を含むので、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性が効果的に高くなる。
【0026】
以下、先ず、本発明に係る絶縁材料に含まれている各成分の詳細を説明する。
【0027】
(ポリマー(A))
本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマー(A)を含む。ポリマー(A)は、芳香族骨格を有することが好ましい。この場合には、硬化物の耐熱性が高くなり、かつ硬化物の吸水率が低くなる。ポリマー(A)が芳香族骨格を有する場合には、ポリマー(A)は、芳香族骨格をポリマー全体のいずれかの部分に有していればよく、主鎖骨格内に有していてもよく、側鎖中に有していてもよい。硬化物の耐熱性をより一層高くし、かつ硬化物の吸水率をより一層低くする観点からは、ポリマー(A)は、芳香族骨格を主鎖骨格内に有することが好ましい。ポリマー(A)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記芳香族骨格としては特に限定されず、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びビスフェノールA型骨格等が挙げられる。なかでも、ビフェニル骨格又はフルオレン骨格が好ましい。この場合には、絶縁材料の硬化物の耐冷熱サイクル特性及び耐熱性がより一層高くなる。
【0029】
ポリマー(A)として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂等が使用可能である。ポリマー(A)は硬化性樹脂であることが好ましい。
【0030】
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、特に限定されない。上記熱可塑性樹脂としては特に限定されず、スチレン樹脂、フェノキシ樹脂、フタレート樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ケトン樹脂及びノルボルネン樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては特に限定されず、アミノ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂及びアミノアルキド樹脂等が挙げられる。上記アミノ樹脂としては、尿素樹脂及びメラミン樹脂等が挙げられる。
【0031】
硬化物の酸化劣化を抑え、硬化物の耐冷熱サイクル特性及び耐熱性をより一層高め、更に硬化物の吸水率をより一層低くする観点からは、上記ポリマー(A)は、スチレン樹脂、フェノキシ樹脂又はエポキシ樹脂であることが好ましく、フェノキシ樹脂又はエポキシ樹脂であることがより好ましく、フェノキシ樹脂であることが更に好ましい。特に、フェノキシ樹脂又はエポキシ樹脂の使用により、硬化物の耐熱性がより一層高くなる。また、フェノキシ樹脂の使用により、硬化物の弾性率がより一層低くなり、かつ硬化物の耐冷熱サイクル特性がより一層高くなる。なお、ポリマー(A)はエポキシ基などの環状エーテル基を有していなくてもよい。
【0032】
上記スチレン樹脂として、具体的には、スチレン系モノマーの単独重合体、及びスチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体等が使用可能である。中でも、スチレン−メタクリル酸グリシジルの構造を有するスチレン重合体が好ましい。
【0033】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン及び3,4−ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0034】
上記フェノキシ樹脂は、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。
【0035】
上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有することが好ましい。中でも、上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格及びビフェニル骨格からなる群から選択された少なくとも1種の骨格を有することがより好ましく、フルオレン骨格及びビフェニル骨格の内の少なくとも1種の骨格を有することが更に好ましい。これらの好ましい骨格を有するフェノキシ樹脂の使用により、絶縁材料の硬化物の耐熱性が更に一層高くなる。
【0036】
上記エポキシ樹脂は、上記フェノキシ樹脂以外のエポキシ樹脂である。上記エポキシ樹脂としては、スチレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0037】
ポリマー(A)の重量平均分子量は10000以上である。ポリマー(A)の重量平均分子量は、好ましくは30000以上、より好ましくは40000以上、好ましくは1000000以下、より好ましくは250000以下である。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記下限以上であると、絶縁材料が熱劣化し難い。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記上限以下であると、ポリマー(A)と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になり、並びに絶縁材料の硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0038】
ポリマー(A)は、原材料として添加されていてもよく、また本発明の絶縁材料又は絶縁シートの作製時における攪拌、塗工及び乾燥などの各工程中における反応を利用して生成されたポリマーであってもよい。
【0039】
絶縁材料及び絶縁シートに含まれている全樹脂成分(以下、全樹脂成分Xと略記することがある)の合計100重量%中、ポリマー(A)の含有量は好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。ポリマー(A)の含有量が上記下限以上であると、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になる。ポリマー(A)の含有量が上記上限以下であると、フィラー(D)の分散が容易になる。なお、全樹脂成分Xとは、硬化性化合物(B)、硬化剤(C)及び必要に応じて添加される他の樹脂成分の総和をいう。全樹脂成分Xに、フィラー(D)は含まれない。
【0040】
(硬化性化合物(B))
本発明に係る絶縁材料に含まれている硬化性化合物(B)は、硬化性を有する。硬化性化合物(B)は、熱硬化性化合物であることが好ましい。硬化性化合物(B)は、環状エーテル基を有する硬化性化合物(B1)であること好ましい。該環状エーテル基としては、エポキシ基及びオキセタニル基等が挙げられる。環状エーテル基を有する硬化性化合物(B1)は、エポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物であることが好ましい。硬化性化合物(B)は、硬化剤(C)の作用により硬化する。硬化性化合物(B)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
硬化性化合物(B1)は、エポキシ基を有するエポキシ化合物(B1a)を含んでいてもよく、オキセタニル基を有するオキセタン化合物(B1b)を含んでいてもよい。
【0042】
硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性をより高める観点からは、硬化性化合物(B)は芳香族骨格を有することが好ましい。
【0043】
エポキシ基を有するエポキシ化合物(B1a)の具体例としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマー、ナフタレン骨格を有するエポキシモノマー、アダマンタン骨格を有するエポキシモノマー、フルオレン骨格を有するエポキシモノマー、ビフェニル骨格を有するエポキシモノマー、バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマー、キサンテン骨格を有するエポキシモノマー、アントラセン骨格を有するエポキシモノマー、及びピレン骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。これらの水素添加物又は変性物を用いてもよい。エポキシ化合物(B1a)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
上記ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマーとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型又はビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。
【0045】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマーとしては、ジシクロペンタジエンジオキシド、及びジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマー等が挙げられる。
【0046】
上記ナフタレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、及び1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等が挙げられる。
【0047】
上記アダマンタン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンタン、及び2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンタン等が挙げられる。
【0048】
上記フルオレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0049】
上記ビフェニル骨格を有するエポキシモノマーとしては、4,4’−ジグリシジルビフェニル、及び4,4’−ジグリシジル−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル等が挙げられる。
【0050】
上記バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、及び1,2’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0051】
上記キサンテン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3,4,5,6,8−ヘキサメチル−2,7−ビス−オキシラニルメトキシ−9−フェニル−9H−キサンテン等が挙げられる。
【0052】
オキセタニル基を有するオキセタン化合物(B1b)の具体例としては、例えば、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エステル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、及びオキセタン変性フェノールノボラック等が挙げられる。オキセタン化合物(B1b)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物を含むことが好ましく、環状エーテル基を有し、かつアルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物を含むことがより好ましい。硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、アルキレンエーテル構造を有することが好ましく、炭素数2〜6のアルキレンエーテル構造を有することがより好ましい。炭素数2〜6のアルキレンエーテル構造は、下記式(1)で表される。該アルキレンエーテル構造の炭素数は、好ましくは4以下である。
【0054】
【化1】

【0055】
上記式(1)中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。該アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
【0056】
上記アルキレンエーテル構造としては特に限定されず、エチレングリコール構造、プロピレングリコール構造、テトラメチレングリコール構造、ペンタメチレングリコール構造及びヘキサメチレングリコール構造が挙げられる。
【0057】
硬化物の弾性率をより一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、下記式(1A)で表されるポリアルキレンエーテル構造を有することが好ましい。
【0058】
【化2】

【0059】
上記式(1A)中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表し、nは2〜20の整数を表す。該アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
【0060】
硬化物の弾性率を更に一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性を更に一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性を更に一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造又はポリテトラメチレングリコール構造を有することが好ましい。
【0061】
硬化物の弾性率を更に一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性を更に一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性を更に一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、下記式(1A−1)で表される構造、下記式(1A−2)で表される構造又は下記式(1A−3)で表される構造を有することが好ましい。
【0062】
【化3】

【0063】
上記式(1A−1)中、nは2〜20の整数を表す。
【0064】
【化4】

【0065】
上記式(1A−2)中、nは2〜20の整数を表す。
【0066】
【化5】

【0067】
上記式(1A−3)中、nは2〜20の整数を表す。
【0068】
硬化物の耐熱性をより一層良好にする観点からは、硬化性化合物(B)は、環状エーテル基を2つ以上有することが好ましい。
【0069】
硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、可撓性エポキシ樹脂であることが好ましい。硬化物の弾性率をより一層低くする観点からは、上記可撓性エポキシ樹脂は、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂であることが好ましい。ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂は、ポリアルキレングリコール構造を有する。このような可撓性エポキシ樹脂の具体例としては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0070】
硬化物の弾性率をかなり低くする観点からは、上記可撓性エポキシ樹脂は、ポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂であることが特に好ましい。ポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂は、ポリテトラメチレングリコール構造を有する。上記ポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂は、ポリオキシテトラメチレングリコール構造を有することが好ましい。
【0071】
硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)の合計100重量%中、アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、100重量%以下である。また、硬化性化合物(B)の全体が、アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物であってもよい。
【0072】
硬化物の耐熱性をより一層良好にする観点からは、硬化性化合物(B)の合計100重量%中、環状エーテル基を2つ以上有する硬化性化合物の含有量は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、100重量%以下である。硬化性化合物(B)の合計100重量%中、環状エーテル基を2つ以上有する硬化性化合物の含有量は10重量%以上、100重量%以下であってもよい。また、硬化性化合物(B)の全体が、環状エーテル基を2つ以上有する硬化性化合物であってもよい。
【0073】
硬化性化合物(B)の分子量は、10000未満であることが好ましい。上記ポリマー(A)が熱硬化性樹脂である場合に、硬化性化合物(B)の分子量は10000未満であることが好ましい。硬化性化合物(B)の分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは1200以下、更に好ましくは600以下、特に好ましくは550以下である。硬化性化合物(B)の分子量が上記下限以上であると、硬化性化合物(B)の揮発性が低くなり、絶縁材料の取扱い性がより一層高くなる。硬化性化合物(B)の分子量が上記上限以下であると、硬化物の接着性がより一層高くなる。さらに、絶縁材料が固くかつ脆くなり難く、硬化物の接着性がより一層高くなる。
【0074】
なお、本明細書において、硬化性化合物(B)における分子量とは、重合体ではない場合、及び構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味し、重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
【0075】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化性化合物(B)の含有量は好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下、特に好ましくは60重量%以下、最も好ましくは50重量%以下である。硬化性化合物(B)の含有量が上記下限以上であると、硬化物の接着性及び耐熱性がより一層高くなる。硬化性化合物(B)の含有量が上記上限以下であると、絶縁材料の塗工性及び絶縁シートのハンドリング性がより一層高くなる。
【0076】
(硬化剤(C)及び他の硬化剤)
本発明に係る絶縁シートに含まれている硬化剤(C)は、主鎖にポリエーテル結合を有し、かつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する。硬化剤(C)は、熱硬化剤であることが好ましい。硬化剤(C)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0077】
硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化剤(C)は、主鎖にポリアルキレングリコール構造を有することが好ましい。硬化物の弾性率をより一層低くし、更に硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高める観点からは、硬化剤(C)は、炭素数2〜6のアルキレンエーテル構造を有することがより好ましい。炭素数2〜6のアルキレンエーテル構造は、下記式(2)で表される。該アルキレンエーテル構造の炭素数は、好ましくは4以下である。
【0078】
【化6】

【0079】
上記式(2)中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。該アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
【0080】
上記アルキレンエーテル構造としては特に限定されず、エチレングリコール構造、プロピレングリコール構造、テトラメチレングリコール構造、ペンタメチレングリコール構造及びヘキサメチレングリコール構造が挙げられる。
【0081】
硬化物の弾性率をより一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性をより一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性をより一層高める観点からは、硬化剤(C)は、下記式(2A)で表されるポリアルキレンエーテル構造を有することが好ましい。
【0082】
【化7】

【0083】
上記式(2A)中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表し、nは2〜20の整数を表す。該アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
【0084】
硬化物の弾性率を更に一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性をさらに一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性を更に一層高める観点からは、硬化剤(C)は、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造又はポリテトラメチレングリコール構造を有することが好ましい。
【0085】
硬化物の弾性率を更に一層低くし、硬化物の耐冷熱サイクル特性をさらに一層高くし、更に硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性を更に一層高める観点からは、硬化剤(C)は、下記式(2A−1)で表される構造、下記式(2A−2)で表される構造又は下記式(2A−3)で表される構造を有することが好ましい。
【0086】
【化8】

【0087】
上記式(2A−1)中、nは2〜20の整数を表す。
【0088】
【化9】

【0089】
上記式(2A−2)中、nは2〜20の整数を表す。
【0090】
【化10】

【0091】
上記式(2A−3)中、nは2〜20の整数を表す。
【0092】
硬化物の弾性率をより一層低くする観点からは、硬化剤(C)は、芳香族骨格を有さないことが好ましい。
【0093】
硬化物の弾性率をより一層低くする観点からは、硬化剤(C)の分子量は好ましくは350以上、より好ましくは500以上である。硬化剤(C)の分子量の上限は特に限定されないが、5000以下であることが好ましい。
【0094】
なお、本明細書において、硬化剤(C)における分子量とは、重合体ではない場合、及び構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味し、重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
【0095】
硬化速度又は硬化物の物性などを調整するために、上記硬化剤(C)と硬化促進剤とを併用してもよい。
【0096】
上記硬化促進剤は特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類及び有機酸塩などのジアザビシクロアルケン類等が挙げられる。また、上記硬化促進剤としては、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫及びアルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられる。
【0097】
上記硬化促進剤として、高融点のイミダゾール硬化促進剤、高融点の分散型潜在性硬化促進剤、マイクロカプセル型潜在性硬化促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、及び高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等を使用できる。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0098】
上記高融点の分散型潜在性硬化促進剤としては、ジシアンジアミド又はアミンがエポキシモノマー等に付加されたアミン付加型促進剤等が挙げられる。上記マイクロカプセル型潜在性硬化促進剤としては、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面がポリマーにより被覆されたマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤が挙げられる。上記高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤としては、ルイス酸塩及びブレンステッド酸塩等が挙げられる。
【0099】
上記硬化促進剤は、高融点のイミダゾール系硬化促進剤であることが好ましい。高融点のイミダゾール系硬化促進剤の使用により、反応系を容易に制御でき、かつ絶縁シートの硬化速度、及び硬化物の物性などをより一層容易に調整できる。融点100℃以上の高融点の硬化促進剤は、取扱性に優れている。従って、硬化促進剤の融点は100℃以上であることが好ましい。
【0100】
硬化物の絶縁破壊特性などの各種物性を高める観点からは、本発明に係る絶縁材料は、硬化促進剤を含むことが好ましい。硬化物の絶縁破壊特性などの各種物性を高める観点からは、上記硬化促進剤は、ジシアンジアミンド又はイミダゾール化合物であることが特に好ましい。
【0101】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化剤(C)の含有量は好ましくは10重量%以上、より好ましくは12重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。硬化剤(C)の含有量が上記下限以上であると、絶縁材料を充分に硬化させることが容易である。硬化剤(C)の含有量が上記上限以下であると、硬化に関与しない余剰な硬化剤(C)が発生し難くなる。このため、硬化物の耐熱性及び接着性がより一層高くなる。
【0102】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化促進剤の含有量は好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。硬化促進剤の含有量が上記下限以上であると、絶縁材料を充分に硬化させることが容易である。硬化促進剤の含有量が上記上限以下であると、硬化に関与しない余剰な硬化促進剤が発生し難くなる。このため、硬化物の耐熱性及び接着性がより一層高くなる。
【0103】
(フィラー(D))
本発明に係る絶縁材料に含まれているフィラー(D)は特に限定されない。フィラー(D)の使用により、硬化物の熱伝導性が高くなる。この結果、硬化物の放熱性が高くなる。フィラー(D)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0104】
硬化物の熱伝導性をより一層高める観点からは、フィラー(D)の熱伝導率は好ましくは10W/m・K以上、より好ましくは15W/m・K以上、更に好ましくは20W/m・K以上である。フィラー(D)の熱伝導率の上限は特に限定されない。熱伝導率300W/m・K程度のフィラーは広く知られており、また熱伝導率200W/m・K程度のフィラーは容易に入手できる。
【0105】
硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、フィラー(D)は、無機フィラーであることが好ましい。
【0106】
フィラー(D)は、アルミナ、合成マグネサイト、結晶性シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましく、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることがより好ましい。これらの好ましいフィラーの使用により、硬化物の放熱性がより一層高くなる。
【0107】
フィラー(D)は、球状アルミナ、破砕アルミナ及び球状窒化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることがより好ましく、球状アルミナ又は球状窒化アルミニウムであることがさらに好ましい。これらの好ましいフィラーの使用により、硬化物の放熱性がより一層高くなる。
【0108】
フィラー(D)の新モース硬度は、好ましくは12以下、より好ましくは9以下である。
【0109】
フィラー(D)の新モース硬度が9以下であると、硬化物の加工性がより一層高くなる。
【0110】
硬化物の加工性をより一層高める観点からは、フィラー(D)は、合成マグネサイト、結晶シリカ、酸化亜鉛、及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらのフィラーの新モース硬度は9以下である。
【0111】
フィラー(D)は球状のフィラー(球状フィラー)であってもよく、破砕されたフィラー(破砕フィラー)であってもよい。フィラー(D)は、球状であることが特に好ましい。球状フィラーは高密度で充填可能であるため、球状フィラーの使用により硬化物の放熱性がより一層高くなる。
【0112】
上記破砕フィラーとしては、破砕アルミナ等が挙げられる。破砕フィラーは、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー又はボールミル等を用いて、塊状の無機物質を破砕することにより得られる。破砕フィラーの使用により、絶縁材料中のフィラーが、橋掛け又は効率的に近接された構造となりやすい。従って、絶縁材料の硬化物の熱伝導性がより一層高くなる。また、破砕フィラーは、一般的に、通常のフィラーに比べて安価である。このため、破砕フィラーの使用により、絶縁シートのコストが低くなる。
【0113】
上記破砕フィラーの平均粒子径は、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下、好ましくは1μm以上である。破砕フィラーの平均粒子径が上記上限以下であると、絶縁材料中に、破砕フィラーを高密度に分散させることが可能であり、硬化物の絶縁破壊特性がより一層高くなる。破砕フィラーの平均粒子径が上記下限以上であると、破砕フィラーを高密度に充填させることが容易になる。
【0114】
破砕フィラーのアスペクト比は特に限定されない。破砕フィラーのアスペクト比は、好ましくは1.5以上、好ましくは20以下である。アスペクト比が1.5未満のフィラーは、比較的高価であり、絶縁材料のコストが高くなる。上記アスペクト比が20以下であると、破砕フィラーの充填が容易である。
【0115】
上記破砕フィラーのアスペクト比は、例えば、デジタル画像解析方式粒度分布測定装置(日本ルフト社製「FPA」)を用いて、フィラーの破砕面を測定することにより求めることが可能である。
【0116】
フィラー(D)が球状フィラーである場合には、球状フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、好ましくは40μm以下である。平均粒子径が0.1μm以上であると、フィラー(D)を高密度で容易に充填できる。平均粒子径が40μm以下であると、硬化物の絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0117】
上記「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積平均での粒度分布測定結果から求められる平均粒子径である。
【0118】
絶縁材料100体積%中又は絶縁シート100体積%中、フィラー(D)の含有量は20体積%以上、90体積%以下であることが好ましい。フィラー(D)の含有量が20〜90体積%であると、硬化物の放熱性がより一層高くなり、更に絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になる。硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、絶縁材料100体積%中のフィラー(D)の含有量は、より好ましくは30体積%以上で、更に好ましくは35体積%以上、より好ましくは85体積%以下、更に好ましくは80体積%以下、特に好ましくは70体積%以下、最も好ましくは60体積%以下である。フィラー(D)の含有量が上記下限以上であると、硬化物の放熱性がより一層高くなる。フィラー(D)の含有量が上記上限以下であると、絶縁シートのハンドリング性がより一層高くなる。
【0119】
(酸化防止剤(E))
硬化物の耐熱性をより一層高める観点からは、本発明に係る絶縁材料は、酸化防止剤(E)を含むことがより好ましい。酸化防止剤(E)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0120】
酸化防止剤(E)としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤及びラクトン系酸化防止剤等が挙げられる。硬化物の耐熱性をより一層高める観点からは、酸化防止剤(E)は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤であることがより好ましい。
【0121】
上記フェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ C7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−[4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ]フェノール、及びジエチル{[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル}ホスフォネート等が挙げられる。
【0122】
上記リン系酸化防止剤としては、シクロヘキシルフォスフィン、及びトリフェニルフォスフィン等が挙げられる。さらに、上記リン系酸化防止剤の具体例としては、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス{2−[(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサフォスフェフィン−6−イル)オキシ]エチル}アミン、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト等が挙げられる。
【0123】
上記アミン系酸化防止剤の具体例としては、トリエチルアミン、ジシアンジアミド、メラミン、エチルジアミノ−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−トリル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−キシリル−S−トリアジン、及び第四級アンモニウム塩誘導体等が挙げられる。
【0124】
上記ラクトン系酸化防止剤の具体例としては、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンの反応生成物等が挙げられる。
【0125】
上記フェノール系酸化防止剤の市販品としては、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 1076、IRGANOX 1135、IRGANOX 245、IRGANOX 259、IRGANOX 295(以上、いずれもチバ・ジャパン社製)、アデカスタブ AO−30、アデカスタブ AO−40、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80、アデカスタブ AO−90、アデカスタブ AO−330(以上、いずれもADEKA社製)、Sumilizer GA−80、Sumilizer MDP−S、Sumilizer BBM−S、Sumilizer GM、Sumilizer GS(F)、Sumilizer GP(以上、いずれも住友化学工業社製)、HOSTANOX O10、HOSTANOX O16、HOSTANOX O14、HOSTANOX O3(以上、いずれもクラリアント社製)、アンテージ BHT、アンテージ W−300、アンテージ W−400、アンテージ W500(以上、いずれも川口化学工業社製)、並びにSEENOX 224M、SEENOX 326M(以上、いずれもシプロ化成社製)等が挙げられる。
【0126】
上記リン系酸化防止剤の市販品としては、アデアスタブ PEP−4C、アデアスタブ PEP−8、アデアスタブ PEP−24G、アデアスタブ PEP−36、アデアスタブ HP−10、アデアスタブ 2112、アデアスタブ 260、アデアスタブ 522A、アデアスタブ 1178、アデアスタブ 1500、アデアスタブ C、アデアスタブ 135A、アデアスタブ 3010、アデアスタブ TPP(以上、いずれもADEKA社製)、サンドスタブ P−EPQ、ホスタノックス PAR24(以上、いずれもクラリアント社製)、並びにJP−312L、JP−318−0、JPM−308、JPM−313、JPP−613M、JPP−31、JPP−2000PT、JPH−3800(以上、いずれも城北化学工業社製)等が挙げられる。
【0127】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、酸化防止剤(E)の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。酸化防止剤(E)の含有量が上記下限以上であると、硬化物の耐熱性がより一層高くなる。酸化防止剤(E)の含有量が上記上限以下であると、耐熱性の向上に大きく関与しない余剰な酸化防止剤(E)が発生し難くなる。上記全樹脂成分Xには、酸化防止剤(E)が含まれる。
【0128】
(他の成分)
本発明に係る絶縁材料は、カップリング剤を含むことが好ましい。本発明に係る絶縁材料は、チタン系又はジルコン系のカップリング剤を含むことが好ましい。このようなカップリング剤の使用により、硬化物の耐水性及び耐湿性、並びに絶縁材料の硬化物の接着対象部材に対する接着性がかなり高くなり、特に銅により形成された導電層に対する接着性がかなり高くなる。さらに、カップリング剤の使用により、硬化物の耐熱性も高くなる。また、カップリング剤の使用により、フィラー(D)の凝集が抑えられ、かつ硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。カップリング剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0129】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、カップリング剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。カップリング剤の含有量が上記下限以上であると、硬化物の耐熱性と耐湿性とがより一層高くなる。カップリング剤の含有量が上記上限以下であると、絶縁材料の硬化物の耐熱性、及び未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層高くなる。さらに、カップリング剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、フィラー(D)の凝集がより一層抑えられ、かつ硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。上記全樹脂成分Xには、カップリング剤が含まれる。
【0130】
本発明に係る絶縁材料は、イオン捕捉材を含むことが好ましい。イオン捕捉材の使用により、硬化物の耐熱性及び耐湿性がより一層高くなる。
【0131】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、イオン捕捉材の含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。イオン捕捉材の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の耐熱性と耐湿性とがより一層高くなる。上記全樹脂成分Xには、イオン捕捉材が含まれる。
【0132】
本発明に係る絶縁材料は、ゴム粒子を含んでいてもよい。該ゴム粒子の使用により、硬化物の応力緩和性及び柔軟性がより一層高くなる。
【0133】
本発明に係る絶縁材料は、分散剤を含んでいてもよい。該分散剤の使用により、硬化物の熱伝導率及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0134】
上記分散剤は、水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することが好ましい。上記分散剤が水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することで、硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基としては、例えば、カルボキシル基(pKa=4)、リン酸基(pKa=7)、及びフェノール基(pKa=10)等が挙げられる。
【0135】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基のpKaは、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。上記官能基のpKaが上記下限以上であると、上記分散剤の酸性度が高くなりすぎない。従って、絶縁材料の貯蔵安定性がより一層高くなる。上記官能基のpKaが上記上限以下であると、上記分散剤としての機能が充分に果たされ、硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0136】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基は、カルボキシル基又はリン酸基であることが好ましい。この場合には、硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性が更に一層高くなる。
【0137】
上記分散剤としては、具体的には、例えば、ポリエステル系カルボン酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリアクリル系カルボン酸、脂肪族系カルボン酸、ポリシロキサン系カルボン酸、ポリエステル系リン酸、ポリエーテル系リン酸、ポリアクリル系リン酸、脂肪族系リン酸、ポリシロキサン系リン酸、ポリエステル系フェノール、ポリエーテル系フェノール、ポリアクリル系フェノール、脂肪族系フェノール、及びポリシロキサン系フェノール等が挙げられる。上記分散剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0138】
絶縁材料100重量%中、上記分散剤の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。上記分散剤の含有量が上記下限以上及び上限以下であると、フィラー(D)の凝集が抑えられ、かつ硬化物の放熱性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0139】
さらに、本発明に係る絶縁材料は、必要に応じて、粘着性付与剤、可塑剤、カップリング剤、チキソ性付与剤、難燃剤、光増感剤及び着色剤などを含んでいてもよい。
【0140】
(絶縁材料)
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために好適に用いられる。
【0141】
上記絶縁シートの製造方法は特に限定されない。絶縁シートは、例えば、上述した材料を混合した混合物を溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する際に、脱泡することが好ましい。
【0142】
上記絶縁シートの厚みは特に限定されない。絶縁シートの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは70μm以上、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは120μm以下である。厚みが上記下限以上であると、絶縁シートの硬化物の絶縁性が高くなる。厚みが上記上限以下であると、金属などの熱伝導体を導電層に接着したときに放熱性が高くなる。
【0143】
未硬化状態での絶縁材料のガラス転移温度Tgは、25℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が25℃以下であると、絶縁材料が室温において固く、かつ脆くなり難い。このため、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性が高くなる。
【0144】
絶縁材料が硬化されたときに、絶縁材料の硬化物の吸水率は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下である。
【0145】
絶縁材料が硬化されたときに、絶縁材料の硬化物の300Kでの貯蔵弾性率は、好ましくは5000MPa以下、より好ましくは3500MPa以下である。硬化物の300Kでの貯蔵弾性率が上記上限以下であると、絶縁シートの硬化物が柔軟になり、硬化物の冷熱サイクル特性が高くなる。
【0146】
上記貯蔵弾性率は、例えば、DMA装置(アイティー計測制御社製「DVA−200」)にて引張モードで測定できる。また、硬化物の貯蔵弾性率を測定する際に、絶縁材料の硬化物は、120℃で1時間、次に200℃で1時間の2段階の温度により硬化させることにより得られる。
【0147】
絶縁材料の硬化物の熱伝導率は、好ましくは0.7W/m・K以上、より好ましくは1.0W/m・K以上、更に好ましくは1.5W/m・K以上である。熱伝導率が高いほど、絶縁材料の硬化物の放熱性が十分に高くなる。
【0148】
絶縁材料の硬化物の絶縁破壊電圧は、好ましくは30kV/mm以上、より好ましくは40kV/mm以上、更に好ましくは50kV/mm以上、特に好ましくは80kV/mm以上、最も好ましくは100kV/mm以上である。絶縁破壊電圧が高いほど、絶縁材料が例えば電力素子用のような大電流用途に用いられた場合に、絶縁性を十分に確保できる。
【0149】
(積層構造体)
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されている積層構造体の絶縁層を構成するために好適に用いられる。
【0150】
図1に、本発明の一実施形態に係る絶縁材料を用いた積層構造体の一例を示す。図1に示す積層構造体1は、熱伝導体2と、熱伝導体2の第1の表面2aに積層された絶縁層3と、絶縁層3の熱伝導体2が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層4とを備える。熱伝導体2の第1の表面2aとは反対の第2の表面2bには、絶縁層及び導電層は積層されていない。絶縁層3は、本発明に係る絶縁材料を硬化させることにより形成されている。熱伝導体2の熱伝導率は10W/m・K以上である。
【0151】
熱伝導体の少なくとも一方の面に、絶縁層と導電層とがこの順に積層されていればよく、熱伝導体の他方の面にも、絶縁層と導電層とがこの順に積層されていてもよい。
【0152】
積層構造体1では、絶縁層3が高い熱伝導率を有するので、導電層4側からの熱が絶縁層3を介して熱伝導体2に伝わりやすい。積層構造体1では、熱伝導体2によって熱が効率的に放散する。
【0153】
例えば、両面に銅回路が設けられた積層板又は多層配線板、銅箔、銅板、半導体素子又は半導体パッケージ等の各導電層に、絶縁材料を介して金属体を接着した後、絶縁材料を硬化させることにより、積層構造体1を得ることができる。
【0154】
上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体は特に限定されない。上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体としては、例えば、アルミニウム、銅、アルミナ、ベリリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びグラファイトシート等が挙げられる。中でも、上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体は、銅又はアルミニウムであることが好ましい。銅又はアルミニウムは、放熱性に優れている。
【0155】
本発明に係る絶縁材料は、基板上に半導体素子が実装されている半導体装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を接着するために好適に用いられる。
【0156】
本発明に係る絶縁材料は、半導体素子以外の電子部品素子が基板上に搭載されている電子部品装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を接着するためにも好適に用いられる。
【0157】
なお、本発明に係る絶縁材料は、積層構造体1以外の用途に用いてもよい。良好な白色度を有する硬化物層を形成することが求められる用途に、本発明に係る絶縁材料は好適に用いられる。
【0158】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0159】
以下の材料を用意した。
【0160】
[ポリマー(A)]
(1)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(三菱化学社製「JER1256」、重量平均分子量51000、エポキシ当量8000)
(2)エポキシ基含有スチレン樹脂1(日油社製「マープルーフG−1005S」、重量平均分子量100000、エポキシ当量3300)
(3)エポキシ基含有スチレン樹脂2(日油社製「マープルーフG−1010S」、重量平均分子量100000、エポキシ当量1700)
(4)エポキシ基含有スチレン樹脂3(日油社製「マープルーフG−1005SA」、重量平均分子量100000、エポキシ当量3300)
(5)エポキシ基含有アクリル樹脂(日油社製「マープルーフG−2050M」、重量平均分子量210000、エポキシ当量340)
【0161】
[硬化性化合物(B)]
(1)ビスフェノールA型エポキシ化合物(三菱化学社製「828US」、分子量370、エポキシ当量185)
(2)ビスフェノールF型エポキシ化合物(三菱化学社製「エピコート807」、分子量370、エポキシ当量173)
(3)クレゾールノボラック型エポキシ化合物(新日鐵化学社製「YDCN−704」、分子量380、エポキシ当量210)
(4)フェノールノボラック型エポキシ化合物(三菱化学社製「JER−152」、分子量370、エポキシ当量177)
(5)ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物(DIC社製「HP−7200」、分子量400、エポキシ当量260)
(6)ポリプロピレングリコール型エポキシ化合物(坂本薬品工業社製「SR−4PG」、エポキシ当量320、分子量640、(上記式(2A−2)で表され、上記式(2A−2)中、nが8程度である構造)
(7)ポリエチレングリコール型エポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「EX830」、エポキシ当量268、(上記式(2A−1)で表され、上記式(2A−1)中、nが9程度である構造)
(8)ポリテトラメチレングリコール型エポキシ化合物(三菱化学社製「YL7410」、エポキシ当量435、(上記式(2A−3)で表され、上記式(2A−3)中、nが10程度である構造)
【0162】
[硬化剤(C)]
(1)ポリエーテル骨格1級アミン硬化剤1(ハンツマン社製「ジェファーミン D230」、分子量230、活性水素当量58)
(2)ポリエーテル骨格1級アミン硬化剤2(ハンツマン社製「ジェファーミン D400」、分子量400、活性水素当量100)
(3)ポリエーテル骨格1級アミン硬化剤3(ハンツマン社製「ジェファーミン D2000」、分子量2000、活性水素当量500)
【0163】
[硬化剤(C)以外の硬化剤]
(1)脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製「MH−700」、分子量164、酸無水物当量164)
(2)芳香族骨格酸無水物(サートマー・ジャパン社製「SMAレジンEF60」、分子量11500、酸無水物当量155)
(3)多脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製「HNA−100」、分子量180、酸無水物当量180)
(4)ビフェニル骨格フェノール樹脂(明和化成社製「MEH−7851−S」、OH当量210)
(5)アリル骨格フェノール樹脂(三菱化学社製「YLH−903」、OH当量170)
【0164】
[硬化促進剤]
(1)ジシアンジアミド
(2)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製「2MZA−PW」)
【0165】
[フィラー(D)]
(1)5μm破砕アルミナ(破砕フィラー、日本軽金属社製「LT300C」、平均粒子径5μm、最大粒子径15μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)
(2)2μm破砕アルミナ(破砕フィラー、日本軽金属社製「LS−242C」、平均粒子径2μm、最大粒子径20μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)
(3)6μm破砕窒化アルミニウム(破砕フィラー、東洋アルミニウム社製「FLC」、平均粒子径6μm、最大粒子径20μm、熱伝導率200W/m・K、新モース硬度11)
(4)球状アルミナ(デンカ社製「DAM−10」、平均粒子径10μm、最大粒子径30μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)
(5)合成マグネサイト(神島化学社製「MSL」、平均粒子径6μm、最大粒子径20μm、熱伝導率15W/m・K、新モース硬度3.5)
(6)窒化アルミニウム(東洋アルミニウム社製「TOYALNITE―FLX」、平均粒子径14μm、最大粒子径30μm、熱伝導率200W/m・K、新モース硬度11)
(7)結晶シリカ(龍森社製「クリスタライトCMC−12」、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm、熱伝導率10W/m・K、新モース硬度9)
(8)炭化ケイ素(信濃電気製錬社製「シナノランダムGP#700」、平均粒子径17μm、最大粒子径70μm、熱伝導率125W/m・K、新モース硬度13)
(9)酸化亜鉛(堺化学工業社製「LPZINC−5」、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm、熱伝導率54W/m・K、新モース硬度5)
(10)酸化マグネシウム(堺化学工業社製「SMO Large Particle」、平均粒子径1.1μm、最大粒子径7μm、熱伝導率35W/m・K、新モース硬度6)
【0166】
[添加剤]
(1)フェノール系酸化防止剤(チバ社製「IRGANOX1010」)
(2)イオン捕捉材(東亜合成社製「IXE600」)
(3)エポキシシランカップリング剤(信越化学工業社製「KBE403」)
(4)チタン系カップリング剤(味の素ファインテクノ社製「プレンアクト138S」)
【0167】
[溶剤]
(1)メチルエチルケトン
【0168】
(実施例1〜29及び比較例1〜15)
ホモディスパー型攪拌機を用いて、下記の表1〜5に示す割合(配合単位は重量部)で各原料を配合し、混練し、絶縁材料を調製した。
【0169】
厚み50μmの離型PETシートに、上記絶縁材料を100μmの厚みになるように塗工し、90℃のオーブン内で30分乾燥して、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0170】
(評価)
(1)ハンドリング性
PETシートと、該PETシート上に形成された絶縁シートとを有する積層シートを460mm×610mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを用いて、室温(23℃)でPETシートから熱硬化前の絶縁シートを剥離したときのハンドリング性を下記の基準で評価した。
【0171】
[ハンドリング性の判定基準]
〇:絶縁シートの変形がなく、容易に剥離可能
△:絶縁シートを剥離できるものの、シート伸び又は破断が発生する
×:絶縁シートを剥離できない
【0172】
(2)ガラス転移温度
示差走査熱量測定装置(セイコーインスツルメンツ社製「DSC220C」)を用いて、3℃/分の昇温速度で未硬化状態での絶縁シートのガラス転移温度を測定した。
【0173】
(3)熱伝導率
熱伝導率計(京都電子工業社製「迅速熱伝導率計QTM−500」)を用いて、絶縁シートの熱伝導率を測定した。
【0174】
(4)半田耐熱試験
厚み1.5mmのアルミニウム板と厚み35μmの電解銅箔との間に絶縁シートを挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間、絶縁シートをプレス硬化し、銅張り積層板を形成した。得られた銅張り積層板を50mm×60mmの大きさに切り出し、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを288℃の半田浴に銅箔側を下に向けて浮かべ、銅箔の膨れ又は剥がれが発生するまでの時間を測定し、以下の基準で判定した。
【0175】
[半田耐熱試験の判定基準]
○○:10分経過しても膨れ及び剥離の発生なし
○:3分経過後、かつ10分経過する前に膨れ又は剥離が発生
△:1分経過後、かつ3分経過する前に膨れ又は剥離が発生
×:1分経過する前に膨れ又は剥離が発生
【0176】
(5)絶縁破壊電圧
絶縁シートを100mm×100mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを120℃のオーブン内で1時間、更に200℃のオーブン内で1時間硬化させ、絶縁シートの硬化物を得た。耐電圧試験器(EXTECH Electronics社製「MODEL7473」)を用いて、絶縁シートの硬化物間に1kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。絶縁シートの硬化物が破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0177】
(6)耐湿熱試験
上記(5)の評価で得られたテストサンプルを135℃及び85RH%のオーブン内で1週間放置した後、絶縁破壊電圧を測定した。オーブン内に放置する前の絶縁破壊電圧の初期値とオーブン内に放置した後の絶縁破壊電圧の値とから、耐湿熱性を下記基準で判定した。
【0178】
[耐湿熱性の判定基準]
○○:初期値の90%以上保持
○:初期値の70%以上、90%未満
△:初期値の50%以上、70%未満
×:初期値の50%未満
【0179】
(7)貯蔵弾性率
絶縁シートを5mm×50mmの大きさに切り出した後、120℃で1時間、200℃で1時間オーブン内で硬化させ、テストサンプルを作製した。このテストサンプルを用いて、DMA装置(アイティー計測制御社製「DVA−200」)にて引張モード、チャック間距離24mm、昇温速度5℃/分、測定周波数10Hz及び1%歪みの各条件で−60〜320℃まで昇温した時の温度−貯蔵弾性率(E’)を読み取った。得られた測定値から、絶縁シートの硬化物の25℃での貯蔵弾性率を評価した。
【0180】
(8)耐冷熱サイクル特性
厚み1.5mmのアルミニウム板と厚み35μmの電解銅箔との間に絶縁シートを挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間、絶縁シートをプレス硬化し、銅張り積層板を形成した。得られた銅張り積層板を50mm×50mmサイズに切り出し、更に銅箔をエッチングして、チップ抵抗を設置可能なパッド部を1つの基板上に5個有する回路を形成した。パッド上に、2.0mm×1.25mmのチップ抵抗を半田付けし、液層冷熱サイクル試験機(エスペック社製「モデルTSB−51」)を用いて、−40℃で5分間保持し、125℃に昇温した後125℃で5分保持し、−40℃に冷却する冷熱サイクル試験を1000回行った。冷熱サイクル試験後に、顕微鏡での半田部分のクラックの有無を確認した。耐冷熱サイクル特性を下記基準で判定した。
【0181】
[耐冷熱サイクル特性の判定基準]
○○:半田500箇所中、半田クラックが発生した箇所の割合が5%未満
○:半田500箇所中、半田クラックの発生した箇所の割合が5%以上、10%未満
△:半田500箇所中、半田クラックの発生した箇所の割合が10%以上、30%未満
×:半田500箇所中、半田クラックの発生した箇所の割合が30%以上
【0182】
(9)銅剥離強度
得られた絶縁シートを厚み1mmのアルミ板と厚み35μmの電解銅箔との間に挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間プレス硬化し銅張り積層板を形成した。得られた銅張り積層板の銅箔をエッチングして幅10mmの銅箔の帯を形成した。銅箔を基板に対して90℃の角度で50mm/分の引っ張り速度で剥離した際の引き剥がし強さを測定した。
【0183】
(10)吸水率
絶縁シートを5mm×50mmの大きさに切り出した後、120℃で1時間、200℃で1時間オーブン内で硬化させ、テストサンプル(縦5mm×横50mm×厚み100μm)を作製した。このサンプルを100℃の水中で2時間煮沸した。煮沸前のテストサンプルの重量をX(g)、煮沸後の重量をY(g)とし、下記式から吸水率を求めた。
【0184】
吸水率(重量%)=(Y−X)/X×100
【0185】
結果を下記の表1〜5に示す。下記の表1〜5において、*1は全樹脂成分X100重量%中のポリマー(A)の含有量(重量%)を示す。*2は、硬化性化合物の合計100重量%中のアルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物の含有量(重量%)を示す。*3は、絶縁シート100体積%中のフィラー(D)の含有量(体積%)を示す。
【0186】
【表1】

【0187】
【表2】

【0188】
【表3】

【0189】
【表4】

【0190】
【表5】

【符号の説明】
【0191】
1…積層構造体
2…熱伝導体
2a…第1の表面
2b…第2の表面
3…絶縁層
4…導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、硬化性化合物と、硬化剤と、フィラーとを含み、
前記硬化剤が、主鎖にポリエーテル結合を有しかつ主鎖の末端に1級アミノ基を有する、絶縁材料。
【請求項2】
硬化物の吸水率が2重量%以下であり、
硬化物の300Kでの貯蔵弾性率が5000MPa以下である、請求項1に記載の絶縁材料。
【請求項3】
前記ポリマーがフェノキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の絶縁材料。
【請求項4】
前記硬化性化合物が、環状エーテル基を有する硬化性化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項5】
前記硬化性化合物が、アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項6】
前記硬化性化合物の合計100重量%中、前記アルキレンエーテル構造を有する硬化性化合物の含有量が10重量%以上である、請求項5に記載の絶縁材料。
【請求項7】
シート状の絶縁シートである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項8】
熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる絶縁材料である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項9】
熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、
前記熱伝導体の少なくとも一方の表面に積層された絶縁層と、
前記絶縁層の前記熱伝導体が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層とを備え、
前記絶縁層が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁材料を硬化させることにより形成されている、積層構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−71960(P2013−71960A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210493(P2011−210493)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】