説明

絶縁膜材料、この絶縁膜材料を用いた成膜方法および絶縁膜

【課題】半導体装置の層間絶縁膜などに有用な比誘電率が低く、かつ銅拡散バリア性が高い絶縁膜を得る。
【解決手段】絶縁膜材料として、1−1−ジビニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジアリル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジエチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジビニル−1−シラシクロブタンなどを用い、プラズマCVD法によって成膜する。He、Ar、Kr、Xe、水素、炭化水素などの酸素を含まないキャリアガスを成膜時に同伴させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置の層間絶縁膜などに有用な絶縁膜を成膜する際に用いられる絶縁膜材料およびこれを用いる成膜方法ならびに絶縁膜に関し、低誘電率で、かつ銅拡散バリア性を有する絶縁膜が得られるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積化に伴い、配線層が微細化されつつある。しかし、微細な配線層では、配線層における信号遅延の影響が大きくなり、信号伝送速度の高速化を妨げている。 この信号遅延は、配線層の抵抗と配線層間容量に比例するため、高速化を実現するためには、配線層の低抵抗化と配線層間容量の低減が必須である。
【0003】
このため、最近では配線層を構成する材料として、従来のアルミニウムから抵抗率の低い銅が用いられ、さらに配線層間容量を減らすために比誘電率の低い層間絶縁膜が用いられている。
例えば、SiO膜が4.1、SiOF膜が3.7の比誘電率を有するが、さらに比誘電率の低いSiOCH膜や有機膜を用いるようになっている。
【0004】
このように層間絶縁膜の比誘電率は次第に小さくなっており、次世代用途のための比誘電率が2.4以下である低誘電率層間絶縁膜の研究開発がすすめられ、現在では、比誘電率が2.0を下回る層間絶縁膜が報告されている。
【0005】
また、銅を配線層に使用した多層配線構造では、絶縁膜中に銅が拡散することを防止するため、銅拡散バリア性絶縁膜を銅配線層と絶縁膜の境界に挿入することがなされている。
この銅拡散バリア性絶縁膜には、優れた銅拡散バリア性を有する窒化ケイ素やSiCNなどからなる絶縁膜が用いられているが、比誘電率が4〜7と高く、これは多層配線構造を構成する絶縁膜全体としての実効的な比誘電率を高くしている。
例えば、比誘電率が2.5程度の層間絶縁膜と比誘電率が4程度の銅拡散バリア性絶縁膜を積層させた多層配線構造では、実効的な比誘電率は3程度となる。
【0006】
すなわち、実効的な比誘電率を低くするためには、銅拡散バリア性絶縁膜の低誘電率化が必要であり、そのための研究開発がすすめられている。
これまでに、π電子結合を持つ有機シラン系材料を用いたケイ素と炭素を主成分とする銅拡散バリア性絶縁膜についての報告がある(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−45058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記先行発明において開示された銅拡散バリア性絶縁膜の比誘電率は3.9と高く、かつ、従来のSiCNからなる銅拡散バリア性絶縁膜と比べて銅拡散バリア性が優れているとは言えない問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、銅拡散バリア性を有しかつ極めて低い比誘電率を有した絶縁膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、下記化学式(1)で示されるプラズマCVD用絶縁膜材料である。
【0011】
【化1】

【0012】
化学式(1)において、nは3〜6の整数であり、
およびRは、CH、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C11のいずれかであり、RとRとは、一分子中で同一でも互いに相違であっても良い。
【0013】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の絶縁膜材料を用い、プラズマCVD法により、絶縁膜を成膜する成膜方法である。
請求項3にかかる発明は、成膜の際、キャリアガスを同伴させない請求項2に記載の成膜方法である。
請求項4にかかる発明は、請求項2または3に記載の成膜方法で得られた絶縁膜である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記化学式(1)で示されるケイ素化合物を絶縁膜材料としてプラズマCVD法により成膜した絶縁膜は、その誘電率が低く、しかも銅拡散バリア性が高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のプラズマCVD用絶縁膜材料は、前記化学式(1)で表されるケイ素化合物であり、すべて公知化合物であって、公知合成方法により得ることができる。この化学式(1)で示される化合物を銅拡散バリア性絶縁膜材料として使用することは、従来知られていない。
このケイ素化合物は、3〜6個の−CH−基が互いに結合して、3員環ないし6員環の環状構造を形成して、環の両端部の炭素がケイ素原子に結合しており、この環状構造内には、二重結合が含まれていないものである。
置換基R、Rについては、1つの分子内において、同一の置換基であっても互いに異なる置換基であってもよい。
【0016】
また、前記化学式(1)で表されるケイ素化合物において、置換基Rの炭素数をXとし、置換基Rの炭素数をYとした時、n=X+Y (nは、化学式(1)のCHの結合数である。)の関係を満たすことが、形成された絶縁膜の誘電率の低さ、銅拡散バリア性の有無、機械的強度の点で好ましい。また、RとRとが同一の置換基であることがさらに好ましい。
【0017】
化学式(1)で示される化合物の具体的なものとしては、1−1−ジビニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジアリル−1−シラシクロペンタンが好ましい化合物である。
これ以外に用いられるケイ素化合物の例としては、1−1−ジエチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジビニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−1−プロピニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−2−プロピニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジプロペニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジアリル−1−シラシクロブタン、1−1−ジプロピル−1−シラシクロブタン、1−1−ジイソプロピル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−1−ブチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−2−ブチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−3−ブチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−1−ブテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−2−ブテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−3−ブテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジシクロブチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジブチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−s−ブチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−t−ブチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−1−ペンチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−2−ペンチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−3−ペンチニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−1−ペンテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−2−ペンテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−3−ペンテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−4−ペンテニル−1−シラシクロブタン、1−1−ジシクロペンチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジペンチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジ−t−ペンチル−1−シラシクロブタン、1−1−ジエチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジビニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−1−プロピニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−2−プロピニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジプロペニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジアリル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジプロピル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジイソプロピル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−1−ブチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−2−ブチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−3−ブチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−1−ブテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−2−ブテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−3−ブテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジシクロブチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジブチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−s−ブチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−t−ブチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−1−ペンチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−2−ペンチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−3−ペンチニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−1−ペンテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−2−ペンテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−3−ペンテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−4−ペンテニル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジシクロペンチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジペンチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジ−t−ペンチル−1−シラシクロペンタン、1−1−ジエチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジビニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−1−プロピニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−2−プロピニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジプロペニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジアリル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジプロピル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジイソプロピル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−1−ブチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−2−ブチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−3−ブチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−1−ブテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−2−ブテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−3−ブテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジシクロブチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジブチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−s−ブチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−t−ブチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−1−ペンチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−2−ペンチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−3−ペンチニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−1−ペンテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−2−ペンテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−3−ペンテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−4−ペンテニル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジシクロペンチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジペンチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジ−t−ペンチル−1−シラシクロヘキサン、1−1−ジエチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジビニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−1−プロピニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−2−プロピニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジプロペニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジアリル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジプロピル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジイソプロピル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−1−ブチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−2−ブチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−3−ブチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−1−ブテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−2−ブテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−3−ブテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジシクロブチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジブチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−s−ブチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−t−ブチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−1−ペンチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−2−ペンチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−3−ペンチニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−1−ペンテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−2−ペンテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−3−ペンテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−4−ペンテニル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジシクロペンチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジペンチル−1−シラシクロヘプタン、1−1−ジ−t−ペンチル−1−シラシクロヘプタンなどがあげられる。
【0018】
次に、本発明の成膜方法について説明する。
本発明の成膜方法は、基本的には、上述の化学式(1)に示される絶縁膜材料を用いプラズマCVD法により成膜を行うものである。この場合、化学式(1)で示されるケイ素化合物の1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
1種以上の絶縁膜材料を混合して使用する場合の混合比率は特に限定されず、得られる絶縁膜の比誘電率、銅拡散バリア性などを勘案して決定することができる。
また、成膜の際に、前記化学式(1)で示されるケイ素化合物からなる絶縁膜材料にキャリアガスを添加して成膜することもできるが、銅拡散バリア性の改善のために、該絶縁膜材料を単独で成膜する方が好ましい。
【0020】
このキャリアガスには、酸素を含まないガス、例えばヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスの他に、窒素、水素、メタン、エタンなど炭化水素などが挙げられるが、特に限定されるものではない。キャリアガスには、2種以上を混合して使用することができ、絶縁膜材料を含めその混合割合に特に限定はない。
したがって、成膜装置のチャンバー内に送り込まれ成膜に供される成膜用ガスは、絶縁膜材料からなるガスの他に、キャリアガスが混合された混合ガスとなることがある。
【0021】
絶縁膜材料およびキャリアガスが常温で気体状であればそのまま用いられ、液体状のものであればヘリウムなどの不活性ガスを用いたバブリングによる気化、気化器による気化、または加熱による気化によってガス化して用いられる。
【0022】
プラズマCVD法としては、周知のものが用いられ、例えば、図1に示すような平行平板型のプラズマ成膜装置などを使用して成膜することができる。
図1に示したプラズマ成膜装置は、減圧可能なチャンバー1を備え、このチャンバー1は、排気管2、開閉弁3を介して排気ポンプ4に接続されている。また、チャンバー1には、図示しない圧力計が備えられ、チャンバー1内の圧力が測定できるようになっている。チャンバー1内には、相対向する一対の平板状の上部電極5と下部電極6とが設けられている。上部電極5は、高周波電源7に接続され、上部電極5に高周波電流が印加されるようになっている。
【0023】
下部電極6は、基板8を載置する載置台を兼ねており、その内部にはヒーター9が内蔵され、基板8を加熱できるようになっている。
また、上部電極5には、ガス供給配管10が接続されている。このガス供給配管10には、図示しない成膜用ガス供給源が接続され、この成膜用ガス供給装置からの成膜用のガスが供給され、このガスは上部電極5内に形成された複数の貫通孔を通って、下部電極6に向けて拡散しつつ流れ出るようになっている。
【0024】
また、上記成膜用ガス供給源には、上述の絶縁膜材料を気化する気化装置と、その流量を調整する流量調整弁を備えるとともに、キャリアガスを供給する供給装置が設けられており、これらのガスもガス供給配管10を流れて、上部電極5からチャンバー1内に流れ出るようになっている。
プラズマ成膜装置のチャンバー1内の下部電極6上に基板8を置き、成膜用ガス供給源から上記成膜用ガスをチャンバー1内に送り込む。高周波電源7から高周波電流を上部電極5に印加して、チャンバー1内にプラズマを発生させる。これにより、基板8上に上記成膜用ガスから気相化学反応により生成した絶縁膜が形成される。
基板8には、主にシリコンウェーハからなるものが用いられるが、このシリコンウェーハ上にはあらかじめ形成された他の絶縁膜、導電膜、配線構造などが存在していてもよい。
【0025】
プラズマCVD法としては、平行平板型の他に、ICPプラズマ、ECRプラズマ、マグネトロンプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマなどを用いることが可能であり、平行平板型装置の下部電極にも高周波を導入する2周波励起プラズマを使用することもできる。
【0026】
このプラズマ成膜装置における成膜条件は、以下の範囲が好適であるがこの限りではない。
絶縁膜材料流量 :25〜100cc/分 (2種以上の場合は合計量である)
キャリアガス流量 :0〜50cc/分
圧力 :1Pa〜1330Pa
RFパワー :50〜500W、好ましくは50〜250W
基板温度 :400℃以下
反応時間 :1秒〜1800秒
成膜厚さ :100nm〜200nm
【0027】
次に、本発明の絶縁膜について、説明する。
本発明の絶縁膜は、上述のプラズマCVD用絶縁膜材料またはこれとキャリアガスとを用い、プラズマ成膜装置によって、プラズマCVD反応により成膜されたもので、その比誘電率が2.9〜3.5で、銅拡散バリア性が高いものである。また、この絶縁膜は、酸素が含まれておらず、ケイ素と水素と炭素から構成されている。
【0028】
本発明の絶縁膜形成方法により得られた絶縁膜が、優れた銅拡散バリア性を有しかつ低比誘電率を有する理由は、以下のように推測される。
すなわち、本発明の絶縁膜材料をなすケイ素化合物のケイ素に結合する環状構造は、C−C部分の結合エネルギーが最も低く、プラズマにより結合を切断され開環される。
【0029】
開環されたCHの環状構造は、他の開環されたCHの環状構造と結合をしながら基板上に堆積する。換言すれば、Si−CH−CH−SiなどのCHネットワーク構造が生成され、このネットワーク構造により、緻密でありながら低比誘電率を有する絶縁膜が形成される。
【0030】
また、絶縁膜材料には酸素が含まれていないので、プラズマ雰囲気中で絶縁膜を形成する際に導電膜を構成する銅を酸化させることがなく、銅の拡散性に大きな影響を与える銅イオンを発生させにくい絶縁膜が形成される。
以上より、本発明の絶縁膜が、低比誘電率を有しかつ銅拡散バリア性を有する絶縁膜となるものと考えられる。
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1) −キャリアガスを用いない絶縁膜の形成−
絶縁膜を形成するにあたっては、平行平板型の容量結合プラズマCVD装置を使用し、あらかじめ350℃程度に加熱したサセプター上に、8インチ(直径200mm)または12インチ(直径300mm)のシリコンウェーハを搬送し、絶縁膜材料ガスとして1、1−ジビニル−1−シラシクロペンタンを15cc/minの体積流量で流通させ、プラズマ発生用高周波電源装置の出力を180Wに設定して絶縁膜を形成した。このときの前記プラズマCVD装置のチャンバー内圧力は80Paであった。
【0033】
得られた絶縁膜の比誘電率を測定するために、前記シリコンウェーハをSSM社製CV測定装置495上に搬送し、水銀電極を用いて絶縁膜の比誘電率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0034】
得られた絶縁膜の銅拡散バリア性の評価には、銅電極(以下、Cu電極)とアルミニウム電極(以下、Al電極)とにおける電流−電圧(I−V)特性の相違を比較する方法を採用した。
これは、絶縁膜を100℃〜300℃程度に加熱した状態で電界をかけることにより、銅の絶縁膜中への拡散が加速されることを利用したBiased Temperature Stress試験法である。
【0035】
例えば、銅拡散バリア性を有しない絶縁膜を被試験膜とする場合、Cu電極とAl電極とにおけるI−V特性に差異が生じる。この差異は、電界をかけることによって、Cu電極では銅イオンの絶縁膜中への熱拡散を促進し銅イオンドリフトが発生することでリーク電流が大きくなり、Al電極では熱拡散が起こらないためにリーク電流が大きくならないことで生じる。そこで、Cu電極とAl電極とにおけるI−V特性を比較することで、絶縁膜の銅拡散バリア性を評価することができる。
【0036】
図2は、Cu電極とAl電極とによるI−V特性を示したグラフであり、銅拡散バリア性が高いものでの特性である。すなわち、この例ではCu電極とAl電極とによるI−V特性がほぼ同じである。
図3は、銅拡散バリア性が低いものでの特性を示したグラフである。この例では、Cu電極によるI−V特性とAl電極とによるI−V特性とが大きく異なっており、Cu電極よるI−V特性での電流値が2桁以上、Al電極とによるI−V特性での電流値よりも大きくなっている。
【0037】
このように、Cu電極によるI−V特性とAl電極によるI−V特性における電流値がほぼ同じ場合を銅拡散バリア性が高いと判断でき、Cu電極によるI−V特性における電流値とAl電極によるI−V特性における電流値の差が1桁以上高い場合を銅拡散バリア性が低いと判断できる。
この試験方法に関しては、以下の文献を参照することができる。
【0038】
Alvin L.S.Loke et al.、IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES、VOL.46、NO.11、2178−2187(1999)
【0039】
以下に、絶縁膜の銅拡散バリア性の具体的な評価手順を示す。
まず、30mm程度に切り出した被測定サンプルを2つ作成し、マスクをかけ、一方に直径約1mmのCu電極を他方に直径約1mmのAl電極を真空蒸着により形成する。
【0040】
次に、Cu電極が形成された被測定サンプルを真空プローブ装置に設置し該装置内を0.133Pa以下となる真空雰囲気にした状態でI−V特性を前記CV測定装置で測定した。そして、窒素を圧力が93kPa程度になるまで前記真空プローブ装置内に充填するとともに、ステージ温度を140℃または200℃まで加熱した後、I−V特性を前記CV測定装置で測定した。
【0041】
以上のCu電極が形成された被測定サンプルにおけるI−V特性の測定を、Al電極が形成された被測定サンプルでも同様に実施し、Cu電極とAl電極とにおけるI−V特性の差異により、形成された絶縁膜の銅拡散バリア性を評価した。結果を図4に示す。
その他、膜厚の測定にはファイブラボ社製分光エリプソメトリ装置を使用した。測定結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2) −キャリアガスを用いた絶縁膜の形成−
絶縁膜を形成するにあたって使用する装置および方法は実施例1とほぼ同じであるが、材料ガスとして1、1−ジビニル−1−シラシクロペンタンを17cc/minの体積流量で、キャリアガスとしてヘリウムを40cc/minで同伴して流通させ、プラズマ発生用高周波電源装置の出力を150Wに設定して絶縁膜を形成した。このときの前記プラズマCVD装置チャンバー内圧力は133Paであった。
【0043】
得られた絶縁膜の比誘電率、銅拡散バリア性、膜厚を実施例1と同様にして評価した。測定結果を表1に示す。銅拡散バリア性の評価結果を図5に示す。
【0044】
(比較例1) −CHからなる環状構造を含まない材料ガスによる絶縁膜の形成−
絶縁膜を形成するにあたって使用する装置および方法は実施例1とほぼ同じであるが、材料ガスとしてテトラビニルシランを30cc/minの体積流量でキャリアガスとしてヘリウムを30cc/minの体積流量で同伴して流通させ、プラズマ発生用高周波電源装置の出力を100Wに設定して絶縁膜を形成した。このときの前記プラズマCVD装置チャンバー内圧力は798Paであった。
【0045】
得られた絶縁膜の比誘電率、銅拡散バリア性、膜厚を実施例1と同様にして評価した。測定結果を表1に示す。銅拡散バリア性の評価結果を図6に示す。
【0046】
(比較例2) −CHからなる環状構造を含まない材料ガスによる絶縁膜の形成−
絶縁膜を形成するにあたって使用する装置および方法は実施例1とほぼ同じであるが、材料ガスとしてジアリルジビニルシランを30cc/minの体積流量でキャリアガスとしてヘリウムを30cc/minの体積流量で同伴して流通させ、プラズマ発生用高周波電源装置の出力を100Wに設定して絶縁膜を形成した。このときの前記プラズマCVD装置チャンバー内圧力は133Paであった。
【0047】
得られた絶縁膜の比誘電率、銅拡散バリア性、膜厚を実施例1と同様にして評価した。測定結果を表1に示す。銅拡散バリア性の評価結果を図7に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示した結果および図4ないし図7に示したグラフから、実施例1で形成された絶縁膜は比誘電率が3.08でありかつ銅拡散バリア性を有し、実施例2で形成された絶縁膜は比誘電率が3.38でありかつ銅拡散バリア性を有し、比較例1で形成された絶縁膜は比誘電率が2.87であり銅拡散バリア性を有せず、比較例2で形成された絶縁膜は比誘電率が2.72であり銅拡散バリア性を有しないことがわかる。
【0050】
このように、前記化学式(1)で示されるケイ素化合物からなる絶縁膜材料を用いてプラズマCVD法によって絶縁膜を成膜することで、銅拡散バリア性を有しかつ比誘電率が低い絶縁膜を形成するができる。また、ヘリウムなどのキャリアガスを使用せずに成膜することで、次世代用途に適したさらに低い比誘電率をもつ銅拡散バリア性絶縁膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、次世代に求められる高集積化されたLSI配線を使用する半導体装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の成膜方法に用いられる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明における銅拡散バリア性の評価方法を示すグラフである。
【図3】本発明における銅拡散バリア性の評価方法を示すグラフである。
【図4】実施例1での銅拡散バリア性評価結果を示すグラフである。
【図5】実施例2での銅拡散バリア性評価結果を示すグラフである。
【図6】比較例1での銅拡散バリア性評価結果を示すグラフである。
【図7】比較例2での銅拡散バリア性評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1・・チャンバー、2・・排気管、3・・開閉弁、4・・排気ポンプ、5・・上部電極、6・・下部電極、7・・高周波電源、8・・基板、9・・ヒータ、10・・ガス供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示されるプラズマCVD用絶縁膜材料。
【化1】

化学式(1)において、nは3〜6の整数であり、
およびRは、CH、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C11のいずれかであり、RとRとは、一分子中において同一でも互いに相違であっても良い。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁膜材料を用い、プラズマCVD法により、絶縁膜を成膜する成膜方法。
【請求項3】
成膜の際、キャリアガスを同伴させない請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の成膜方法で得られた絶縁膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−176898(P2009−176898A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13105(P2008−13105)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】