説明

線形的誘電特性を示す誘電体薄膜組成物

【課題】電子トンネリングを防止するのに十分な厚さにおいても、要求されるキャパシタンス値を満たすことができる高誘電率の誘電定数を有し、誘電損失が非常に低く、常誘電特性を示す線形的なBSTO誘電体薄膜組成物を提供する。
【解決手段】(Ba、Sr)TiO(BSTO)誘電体薄膜に錫酸化物(SnO)が連続組成拡散法によって添加され、一般式Ba(1−x)SrTi(1−y)Sn(式中、モル分率xは0.06≦x≦0.82の範囲であり、モル分率yは0.05≦y≦0.28の範囲である)(BSTSO)である誘電体薄膜組成物とする。これにより、電界によるキャパシタンスの変化がほとんどなく、要求されるキャパシタンス値を示し誘電損失は非常に低く、既存の誘電体素材であるSiOのような常誘電(paraelectric)特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Ba、Sr)TiO(以下、「BSTO」という)誘電体薄膜に錫酸化物(SnO)が連続組成拡散法により添加された、一般式Ba(1−x)SrTi(1−y)Sn(式中、モル分率xは0.06≦x≦0.82の範囲であり、モル分率yは0.05≦y≦0.28の範囲である)(以下、「BSTSO」という)で表される線形的誘電特性を有する誘電体薄膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを基板にした集積回路が高密度化されるに連れて、DRAM(dynamic random access memory)の場合、キャパシタ(capacitor)薄膜であるSiO層の有効厚さが次第に減少して電子トンネリング(electron tunneling)などで漏洩電流が発生する等、電気的特性が低下する問題が深刻化している。このような問題を解決するために、シリコンにトレンチ(trench)を形成して有効表面積を増加させ、集積度を向上させる方法が用いられているが、この方法は最終製品の形状を複雑化するので限界に直面している。他の方法として、誘電膜の誘電定数を増加させる方法があり、誘電定数が大きければ薄膜の有効厚さをそれだけ厚くすることができるので、現在この方法に関して多くの研究が進められている。
【0003】
特に、SiO(ε≒4)に取って代わることができる高い誘電定数を有する誘電膜素材を開発するために、非晶質Si−O−N(εr≒6)、非晶質または結晶質Ta(ε≒23)、Zr−Sn−Ti−O(ε≒50)等の中程度の誘電定数を有する素材に加えて、高い誘電定数を有する(Ba、Sr)TiO(BSTO、ε≒200)に関する研究が活発に行われている。BSTOは、高い誘電定数、低い温度係数、シリコン素子との優れた適合性(compatibility)などによってG−bitスケールの次世代メモリ誘電膜として有望視されているが、シリコン素子を扱う分野ではBSTOを代替誘電膜として用いることを避けようとしている。その理由はBSTOが非線形的な誘電特性(non-linear electric property、△C/C)を示し、高い誘電損失を示すからである。非線形的な誘電特性、即ちチューナビリティー(tunability)はチューナブルフィルタのようなチューナブル素子には好ましい特性であるが、DRAM素子の動作には非常に深刻な影響を及ぼす。また、BSTOがDRAM素子として用いられるためには、誘電損失が0.005以下にならなければならないが、現在BSTO薄膜の誘電損失は0.02を示し、薄膜のテクスチャリング(texturing)、誘電体と電極の界面調節、ストレス、表面や微細構造の調節、組成の変化などを通じて0.01まで誘電損失を減少させたという報告があるが、これをさらに半分程度に下げなければならないという難題に直面している。
【0004】
DRAMのような半導体を基板とするメモリ集積回路は、電荷が充電されるキャパシタ層が必要であり、このようなキャパシタ層に電荷が充電された状態と充電されていない状態を用いて記憶素子として活用されている。このようなキャパシタ層のキャパシタンス値は、面積と誘電定数に比例し、厚さに反比例する。従って、半導体素子が高集積化されることによって同じ誘電定数を有する誘電体を用いる場合、キャパシタ層の面積が減少するようになり、同一のキャパシタンスを得るためには誘電体薄膜の厚さを減少させなければならない。現在は半導体素子の集積度が向上することによって誘電体薄膜(主にSiO)の厚さを減少させる方法が主に用いられているが、今後の次世代G−bitスケールのメモリではこのような方法は限界があり、大きな漏洩電流が発生するという非常に難しい問題に直面している。
【0005】
そこで、本発明者らは前記のような従来技術の問題を解決するために鋭意研究努力した結果、BSTO誘電体薄膜にSnOを連続組成拡散法により添加すると、印加される電界によるキャパシタンスの変化がほとんどなく、電子トンネリングを防止するのに十分な厚さにおいても、要求されるキャパシタンス値を満たすことができる高誘電率の誘電定数を有し、誘電損失が非常に低く、既存の誘電体素材であるSiOのように常誘電特性を示す線形的な誘電体薄膜組成物を提供できることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高誘電率の誘電定数を有する反面、誘電損失とチューナビリティーが非常に低いものの、常誘電特性を示す線形的な誘電体薄膜組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明は(Ba、Sr)TiO(BSTO)誘電体薄膜に錫酸化物(SnO)を連続組成拡散法により添加することにより、一般式Ba(1−x)SrTi(1−y)Sn(式中、モル分率xは0.06≦x≦0.82の範囲であり、モル分率yは0.05≦y≦0.28の範囲である)(BSTSO)で表される線形的誘電特性を有する誘電体薄膜組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による誘電体薄膜組成物は、BSTOにSnOを添加して高い誘電定数を維持しながら非常に低い誘電損失及びチューナビリティーを示し、線形的な誘電特性を示すので、次世代G−bitスケールのDRAMキャパシタ、TFTの誘電膜のような機能性誘電薄膜として用いることができ、素子の集積度を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による連続組成拡散法によって、(Ba、Sr)TiO(BSTO)に錫酸化物(SnO)が添加されたBa(1−x)SrTi(1−y)Sn(BSTSO)薄膜の誘電損失特性を示した図である(A:BSTO薄膜、B:BSTSO薄膜)。
【図2】本発明による連続組成拡散法によって、(Ba、Sr)TiO(BSTO)に錫酸化物(SnO)が添加されたBa(1−x)SrTi(1−y)Sn(BSTSO)薄膜のチューナビリティー特性を示した図である(A:BSTO薄膜、B:BSTSO薄膜)。
【図3】本発明による連続組成拡散法によって、(Ba、Sr)TiO(BSTO)に錫酸化物(SnO)が添加されたBa(1−x)SrTi(1−y)Sn(BSTSO)薄膜の誘電定数特性を示した図である(A:BSTO薄膜、B:BSTSO薄膜)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、(Ba、Sr)TiO(BSTO)誘電体薄膜に錫酸化物(SnO)を連続組成拡散法によって添加し、高い誘電定数を維持しながら低い誘電損失及びチューナビリティーを示す、BSTOの非線形的誘電特性が線形的に転換されたことを特徴とする、一般式Ba(1−x)SrTi(1−y)Snで表され、ここでモル分率xの範囲は0.06≦x≦0.82であり、モル分率yの範囲は0.05≦y≦0.28であるBSTSO誘電体薄膜組成物に関するものである。
【0011】
本発明の目的は、組成の変化を通じてBSTOが有する非線形的誘電特性を線形的誘電特性に変化させ、即ち、チューナビリティーの減少を誘導して非線形的特性による誘電損失を減少させることによって、BSTOをDRAMキャパシタ薄膜として用いるための誘電体薄膜組成物を開発することである。このために本発明では、連続組成拡散法によりBSTOにSnOを添加して、イオン半径が大きいSn+4(0.069nm)がイオン半径が相対的に小さなTi+4(0.061)を置換してペロブスカイト格子(perovskite lattice)を拡張させることによって、Ti+4とTi+3との間の電子ホッピング(electron hopping)による伝導が抑制され、誘電損失を減少させる原理を用いている。
【0012】
このような原理に基づく本発明によるBSTSO誘電体薄膜組成物の特性は、BSTOとSnOの組成比に従って変化する。例えば、本発明の好ましい実施形態によれば、BaTiO、SrTiO及びSnOを連続組成拡散法により400℃で20分間蒸着した後、650℃で30分間の後熱処理してBSTSO薄膜を製作する時、SnOのモル分率が5モル%から28モル%まで増加するに伴って、誘電損失は0.007〜0.031に減少し、チューナビリティーは急激に減少して0の値を有し、誘電定数は200〜230程度を維持することが確認される。
【0013】
従って、BSTO薄膜にSnOを添加してイオン置換によるペロブスカイト格子構造の拡大を通じて、非線形的誘電特性を線形的誘電特性へ切り替えるためには、SnOの添加量がモル分率で5〜28モル%、望ましくは15〜18モル%であることが要求される。SnOの添加量が5モル%未満であると、誘電損失と非線形的特性が増加する問題が発生することがあり、SnOの添加量が28モル%を超えると、誘電率が減少する問題が発生することがある。
【0014】
本発明における用語“連続組成拡散法”とは、探索しようとする組成物を、90゜垂直対向する独立したガン(gun)を用いて同時にスパッタリングすることにより、一つの基板上の位置に応じて連続的に異なる組成を有する薄膜を蒸着して、優れた特性を有する化合物の組成を短時間内に探索できる方法を意味する。
【0015】
このように、連続組成拡散法によってBSTO薄膜にSnOを添加して、BSTO薄膜の非線形的誘電特性を線形的に変化させた本発明によるBSTSO誘電体薄膜組成物は、印加される電界によるキャパシタンスの変化がほとんどなく、電子トンネリングを防止するのに十分な厚さであっても、要求されるキャパシタンス値を示すことができる高誘電率の誘電定数を維持しながら、誘電損失が非常に低く、既存の誘電体素材であるSiOのような常誘電特性を示すことを特徴とする。
【0016】
従って、本発明によるBSTSO誘電体薄膜組成物は、次世代G−bitスケールのDRAMキャパシタ、TFTの誘電膜のような機能性誘電薄膜として用いられて素子の集積度を大きく向上させることができる。
【0017】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明することにする。これら実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは当業界で通常の知識を有する者に自明なことである。
【0018】
<実施例>
SnOが添加されたBSTO薄膜の誘電特性を効果的に評価するために、下記の通り連続組成拡散法を用いて一つの基板上に全組成を連続的に蒸着させながら2,500個の電極を用いて2,500種類の組成を評価し、高い誘電定数を維持する反面、低い誘電損失とチューナビリティーを示す誘電体組成を開発した。
【0019】
まずBSTOにSnOが添加されたBSTSO薄膜を、スパッタガンが90゜で配列されたオフ−アクシス(off-axis)反応性スパッタリング法により、白金膜がコーティングされた3インチシリコンウエハに蒸着した。具体的には、基板の中央に誘電定数が高いBa成分を豊富に蒸着するために、BaTiO、SrTiO及びSnOガンをそれぞれ100W、100W及び20Wのパワーでスパッタリングした。蒸着時のガスの圧力は、(Ar+O)が30mTorrにして400℃で20分間蒸着し、蒸着後650℃で30分間の後熱処理した。各組成の誘電特性を測定するために、厚さ130nm、面積が3.14×10−4cmである白金電極をe−ビーム蒸発(evaporation)蒸着法を用いて蒸着させ、MIM(metal-insulator-metal)構造を有するようにした。
【0020】
蒸着されたそれぞれのBSTSO薄膜の誘電特性は、自動プローブステーション(automated probe station)を用いてキャパシタンス(capacitance)と誘電体の損失特性を示す損失タンジェント(loss tangent、 tan δ)を100KHzの周波数で測定し、チューナビリティーはC(0)−C(250KV/cm)/C(0)によって測定及び計算した。この時、履歴特性の如何を観察するために、負の電圧から正の電圧へ測定した後、再び負の電圧に消去(sweep)して測定した。
【0021】
図1は、本発明による連続組成拡散法によってBSTO薄膜にSnOが添加されたBSTSO薄膜の誘電損失特性をBSTO薄膜と比較したものであって、本発明によるBSTSO薄膜はSnOの添加によって誘電損失が低くなることを確認した。具体的には、BSTO薄膜(A)の誘電損失は全組成にわたって0.023〜0.041の値を有するが、BSTSO薄膜(B)の誘電損失は全組成にわたって0.007〜0.031の値を有する。図1〜3において円で表示された部分はいずれも同一の位置を示すが、高い誘電定数を有しながら同時に低い誘電損失と低いチューナビリティーを有する部分を示す。BSTO薄膜(A)の円で表示された部分の誘電損失は0.027〜0.028を示すが、BSTSO薄膜(B)の円で表示された部分の誘電損失は0.013〜0.014と非常に低い値を示した。
【0022】
BSTSO薄膜の誘電損失である0.013の値自体は非常に低い値であるが、既に述べたDRAMキャパシタとして用いるための基準である0.005には達し得ない水準である。しかし、BSTO薄膜自体の誘電損失が、薄膜のテクスチャリング(texturing)、界面、ストレス、表面粗さなどを調節する場合、0.02〜0.01に減少するという報告を考慮すれば、本発明によるBSTSO薄膜の蒸着条件を適切に調節する場合、0.005に近接する値を有するものと期待される。
【0023】
図2は、本発明による連続組成拡散法によりBSTO薄膜にSnOが添加されたBSTSO薄膜のチューナビリティー値をBSTO薄膜と比較したものであって、本発明によるBSTSO薄膜がSnOの添加によってチューナビリティーが低くなり、線形的な誘電特性を示すことを確認した。BSTO薄膜(A)のチューナビリティーは全組成にわたって8〜50の値を有するが、BSTSO薄膜(B)のチューナビリティーはSnOの添加量が5モル%から28モル%に増加するに伴って急激に減少して0の値を有する。BSTO薄膜(A)の円で表示された部分のチューナビリティーは30〜35を示すが、BSTSO薄膜(B)の円で表示された部分のチューナビリティーは3〜4と非常に低い値を有し、線形的な誘電特性を示すことが分かる。
【0024】
図3は、本発明による連続組成拡散法によってBSTO薄膜にSnOが添加されたBSTSO薄膜の誘電定数値をBSTO薄膜と比較したものであって、本発明によるBSTSO薄膜がSnOの添加によって誘電定数が多少低くなるが、比較的大きい値を有することを確認した。BSTO薄膜(A)の誘電定数は全組成にわたって157〜726の値を有するが、BSTSO薄膜(B)の誘電定数はイオン半径が大きいSnの添加によって減少した。BSTO薄膜(A)の円で表示された部分の誘電定数は380〜480を示すが、BSTSO薄膜(B)の円で表示された部分の誘電定数は200〜230の値を有し、多少減少したが、200以上の誘電定数値はDRAM素子に応用時、十分に高い値と報告されている。
【0025】
従って、前記図1〜3に示された誘電定数、誘電損失及びチューナビリティー値を共に考慮して最適化された値は、誘電定数212、誘電損失0.013及びチューナビリティー3.4(250KV/cm測定時)を有する組成であり、この領域はBSTO薄膜に16.5モル%のSnOを添加した場合であって、組成式で計算すると、Ba0.63Sr0.37Ti0.835Sn0.165の組成を有する誘電体薄膜組成物が得られる。
【0026】
下記表1は、前記結果に基づいて、高誘電定数、低誘電損失及び低チューナビリティーを示す線形的誘電特性の代表的なBSTSO誘電体薄膜組成物の組成比を示したものである。
【0027】
【表1】

【0028】
以上のように、本発明の内容の特徴的な部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者において、このような具体的技術は単に好ましい実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されるのではない点は明白なことである。従って、本発明の実質的な範囲は添付された請求項とそれらの等価物によって定義されると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式で表示される、高い誘電定数を維持しながら低い誘電損失とチューナビリティーを示す線形的な誘電特性を有する誘電体薄膜組成物:
Ba(1−x)SrTi(1−y)Sn
(式中、モル分率xは0.06≦x≦0.82の範囲であり、モル分率yは0.05≦y≦0.28の範囲である)。
【請求項2】
前記誘電体薄膜組成物が、(Ba、Sr)TiO(BSTO)薄膜に錫酸化物(SnO)を、連続組成拡散法によってモル分率で5〜28モル%添加し、製造されたものである、請求項1に記載の誘電体薄膜組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−45350(P2010−45350A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180554(P2009−180554)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】