説明

緩衝器

【課題】アクチュエータの動力方向を変換する機構が不要で車両における乗り心地を向上することが可能な緩衝器を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、筒状の外側部材1と、外側部材1内に出入りする内側部材2とを備えて、外側部材1と内側部材2の相対移動によって生じる流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する緩衝器D1において、外側部材1および内側部材2の一方に固定される磁歪素子4,4を駆動源とするアクチュエータ3と、当該アクチュエータ3によって駆動されて外側部材1および内側部材2の他方に当接および離脱可能な摩擦体5とを備え、外側部材1および内側部材2の他方と摩擦体5との間に生じる摩擦力に起因した減衰力を発生可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、緩衝器としては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドとを備え、シリンダとロッドとの相対移動時に流体圧を利用して減衰力を発揮する緩衝器が知られている。
【0003】
流体圧を利用して減衰力を発揮する緩衝器は、基本的には、シリンダ内に挿入したピストンで二つの圧力室を画成しており、ピストンはロッドに連結され、シリンダに対してロッドが移動する際に、ピストンで一方の圧力室の容積を減少させるとともに他方の圧力室の容積を増大せしめ、容積が減少する圧力室から容積が増大する圧力室へ流体が移動する流れに減衰バルブで抵抗を与えて、これら圧力室に差圧を発生させて減衰力を発揮するようになっている。
【0004】
ここで、特に車両用途で使用される緩衝器に対しては、近年、乗り心地や操縦安定性の向上の観点から、高速走行時に車線変更する場合等、緩衝器が極低速で伸縮作動する際の減衰特性(伸縮速度に対する緩衝器が発生する減衰力の性質)に対しても要求が高まってきており、伸縮速度が低速領域を超える領域における減衰特性はそのままに、伸縮速度が極低速領域で作動する際にもしっかりと減衰力を出力できるようにとの要望がある。しかしながら、上記のような緩衝器の場合、伸縮速度が極低く振動振幅が小さい場合には、減衰バルブを通過する流体量が少なかったり、あるいは、流体の圧縮性によって圧力室間で流体の移動が生じなかったりして、緩衝器は流体圧に依存した減衰力を発生できない処がある。
【0005】
そこで、このような場合にも減衰力を発揮することができるように、緩衝器のピストンロッドとシリンダの一方に固定されるソレノイドやモータといったアクチュエータと、当該アクチュエータによってピストンロッドとシリンダの他方に押付けられる摩擦子とを設けて、緩衝器が流体圧によって減衰力を発揮し得ない状態にあっても、ピストンロッドとシリンダの他方と摩擦子との間に生じる摩擦力で、シリンダとピストンロッドとの相対移動を抑制する減衰力を発揮できるようになっている(たとえば、特許文献1,2,3参照)。
【特許文献1】特開2002−349630号公報
【特許文献2】特開2003−1666578号公報
【特許文献3】特許2001−349363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の緩衝器にあっては、流体圧では減衰力を発揮し辛い状況にあっても摩擦力によって減衰力を発生できる点で有用ではある。
【0007】
しかしながら、特開2002−349630号公報の技術にあっては、ピストンロッドの外周に装着される弾性な摩擦子と、摩擦子の外周に設けたテーパ面とを備え、摩擦子を上方からソレノイドによって下方へ押圧し、テーパ面によって摩擦子がピストンロッド側へ押付けられて摩擦力を生じさせるようになっており、摩擦子は絶えずピストンロッドに摺接し、シリンダ内の圧力の作用によって摩擦子が押し潰されると摩擦力による減衰力の発揮を望まない場合にあっても摩擦力が生じて減衰力が過剰となって、車両における乗り心地を損なってしまう可能性がある。
【0008】
また、特開2003−1666578号公報や特許2001−349363号公報の技術にあっては、シリンダの内周に対向する摩擦子をシリンダ内周へ押付けて摩擦力を生じさせるようにしており、摩擦子を駆動するには、軸方向あるいは周方向へ駆動するアクチュエータの動力を径方向に変換する機構が必要となり、減衰力発生の応答性も懸念され、車両における乗り心地を損なってしまう可能性がある。
【0009】
そこで、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、アクチュエータの動力方向を変換する機構が不要で車両における乗り心地を向上することが可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、筒状の外側部材と、外側部材内に出入りする内側部材とを備えて、外側部材と内側部材の相対移動によって生じる流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する緩衝器において、外側部材および内側部材の一方に固定される磁歪素子を駆動源とするアクチュエータと、当該アクチュエータによって駆動されて外側部材および内側部材の他方に当接および離脱可能な摩擦体とを備え、外側部材および内側部材の他方と摩擦体との間に生じる摩擦力に起因した減衰力を発生可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の緩衝器によれば、磁歪素子で摩擦体を駆動して外側部材および内側部材と摩擦体との間に摩擦力を生じさせて、摩擦力に起因する減衰力を発揮することができるので、緩衝器に流体圧による減衰力を発揮させることが期待できないような事態にあっても、摩擦力によって減衰力を発揮することができ、また、摩擦力による減衰力の発揮が不要である場合には摩擦体を外側部材および内側部材から離脱させて摩擦力に起因する減衰力の発生を阻止できる。
【0012】
したがって、緩衝器の伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器の伸縮速度が低速域を超える場合には、外側部材および内側部材と摩擦体との間で生じる摩擦力が緩衝器の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0013】
また、摩擦体の駆動に応答が極めて高速な磁歪素子を使用しているので、緩衝器の減衰力制御において減衰力の発生に遅れが生じにくく、車両における乗り心地を悪化させることない。
【0014】
さらに、アクチュエータの動力を変更する機構が不要であるので、緩衝器の大型化を招くことが無く、構造を簡単なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。図2は、一実施の形態における緩衝器の要部横断面図である。図3は、他の実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。図4は、別の実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。
【0016】
一実施の形態における緩衝器D1は、図1および図2に示すように、筒状の外側部材たるシリンダ1と、シリンダ1内に出入りする内側部材たるロッド2と、シリンダ1に固定される磁歪素子4を駆動源とするアクチュエータ3と、当該アクチュエータ3によって駆動されてロッド2に当接および離脱可能な摩擦体5とを備えて構成され、シリンダ1とロッド2の相対移動によって生じる流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮するとともに、ロッド2と摩擦体5との間に生じる摩擦力に起因した減衰力をも発生することができるようになっている。
【0017】
詳しくは、緩衝器D1におけるシリンダ1内は、当該シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにロッド2に連結されるピストン6によって、流体としての作動油が充填される二つの圧力室R1,R2に仕切られており、二つの圧力室R1,R2を連通する流路7をピストン6に設けて、外側部材たるシリンダ1に対して内側部材たるロッド2が相対移動する際に、通路7を介して圧力室R1,R2を行き来する作動油の流れに抵抗を与えて圧力室R1,R2間に差圧を生じせしめて、所定の減衰力を発生するようになっている。
【0018】
なお、緩衝器D1は、図示しない車両の車体と車軸との間に介装されて、車体振動を抑制するようになっている。また、流路7は、緩衝器D1の伸縮時に圧力室R1,R2に差圧を生じさせて減衰力を発生させることが可能であればよく、その構成は任意であり、具体的にはたとえば、減衰弁を途中に備えた通路とされる。
【0019】
また、この実施の形態の場合、緩衝器D1は、流体を液体として片ロッド型の緩衝器に設定されているため、シリンダ1から出没するロッド2の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいは気体室を別途備えている。なお、流体を気体とする場合、気体封入圧力によっては緩衝器D1の伸縮作動時におけるシリンダ1から出没するロッド2の体積分を気体体積の膨張と収縮によって補償することができるため、このような場合、必ずしもリザーバを設ける必要はない。
【0020】
つづいて、各部について詳細に説明すると、シリンダ1は、図1中下端が閉塞されており、上端の開口端には、環状のロッドガイド8が固定されている。このロッドガイド8は、シリンダ1の開口端を閉塞すると共に、内周側に保持した筒状のベアリング9を介してシリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2を軸支しており、このロッドガイド8には、同じく、シリンダ1の開口端に固定される環状のシール部材10が積層されている。
【0021】
そして、摩擦体5は、ロッド2の外周を挟み込むように配置した一対の摩擦片5a,5aを備えて構成され、摩擦片5a,5aは、ロッド2の外周に沿うように、横断面が円弧状とされている。
【0022】
この摩擦片5a,5aを駆動するアクチュエータ3は、シリンダ1の上端に固定される筒状のハウジング11と、各摩擦片5a,5aを保持する各保持部13,13と、保持部13,13間に介装されて双方をロッド2から離間する方向に附勢するバネ14,14と、ハウジング11と各保持部13,13との間に介装されてハウジング11の内周に180度の間隔を空けて配置される一対の磁歪素子4,4と、磁歪素子4,4の外周を取り巻くようにしてハウジング11に取付けられたコイル12,12とを備えて構成されている。
【0023】
ハウジング11は、内部に磁歪素子4,4を収容しコイル12,12を保持する有底筒状の収容筒11aと、収容筒11aの開口端を閉塞する環状のキャップ11bと、収容筒11aの図1中下端に設けたソケット11cとを備えて構成され、ソケット11cをシリンダ1の図1中上端外周に螺着することでシリンダ1の上端に固定されるようになっている。また、収容筒11aの底部には孔11dが設けられており、ロッド2の挿通が許容されている。なお、ハウジング11のシリンダ1への固定に関しては、螺着以外の方法、たとえば、溶接によってもよいが、螺着による固定を採用することでアクチュエータ3の取外しが簡単となって、メンテナンスも容易となる利点がある。
【0024】
このアクチュエータ3の場合、コイル12,12を励磁して磁界を発生すると、磁歪素子4,4が磁界の大きさに応じて軸方向に伸長する方向へ歪む、正歪みを呈するようになっている。なお、磁歪素子4,4としては、磁界の発生に対して歪む素子であればよいが、磁界の大きさに対して伸縮量が大きい超磁歪素子を用いるとよい。
【0025】
したがって、コイル12を励磁すると磁歪素子4,4が伸長作動し、磁歪素子4,4に当接した保持部13,13がバネ14,14の附勢力に抗してロッド2側へ変位し、摩擦片5a,5aをロッド2の外周に摺接させてロッド2との間に摩擦力を生じ、シリンダ1とロッド2の図1中上下方向の相対変移動を抑制する減衰力を発揮するようになっている。
【0026】
また、コイル12,12への通電量の大きさに磁界の強さを調節でき、磁歪素子4,4の歪量を調節して、ロッド2と摩擦片5a,5aとの間に生じる摩擦力を調節でき、コイル12,12に通電しない場合には、摩擦片5a,5aがバネ14,14の附勢力によってロッド2から離脱してロッド2との間に空隙を生じさせ、この状態では、摩擦片5a,5aがロッド2に接触しないので、緩衝器D1は、摩擦力に起因した減衰力を発揮しないようになっている。
【0027】
磁歪素子4,4には、予荷重を与える必要があるが、このように、バネ14,14の附勢力が保持部13,13を介して磁歪素子4,4に作用するようにしてあるので、バネ14,14を保持部13,13の初期位置への復帰用途のみならず磁歪素子4,4の予荷重用途にも使用でき、別途の手段によって予荷重を与える必要がなくなるので便利である。
【0028】
なお、上記したところでは、磁歪素子4,4が磁界の作用で伸長する正の歪を呈するようになっているが、収縮作動する負の歪を呈する磁歪素子を使用してもよい。この場合には、コイル12,12に通電しない状態では磁歪素子がロッド2に最大の推力で摩擦片5a,5aを押付けるようになり、通電量を大きくしていくに従って摩擦片5a,5aの押付力が小さくなり、最終的には、ロッド2から離脱するようになる。
【0029】
つづいて、コイル12,12への通電量の大小と有無は、具体的には、緩衝器D1の外部に設けた制御装置15によって制御される。制御装置15は、たとえば、車両の速度を検出する速度センサ16と、車両運転者の操舵輪の操舵角を検出する角度センサ17とに接続され、車速と操舵角とから車体に作用する横加速度を推定し、当該推定した横加速度に基づいて、コイル12,12への通電量を決定し、コイル12,12へ決定した通電量で通電するようになっている。
【0030】
そして、制御装置15は、たとえば、横加速度が所定の閾値より小さく、緩衝器D1の伸縮量が小さくて油圧による減衰力の発揮を望めない場合に、コイル12,12へ通電して摩擦片5a,5aをロッド2へ押付けて緩衝器D1に摩擦力による減衰力を発揮させ、また、上記所定の閾値とは別に設定されるとともに上記所定の閾値より大きな他の閾値を横加速度が超えて、車体の大きく横へ傾くロールを呈することが予想される場合にはコイル12,12へ通電して緩衝器D1が油圧によって発生する減衰力に摩擦による減衰力を付加して、緩衝器D1に大きな減衰力を発揮させて車体のロールを抑制する制御を行うことも可能である。なお、横加速度は、上記したように速度センサ16と角度センサ17とから演算して求める以外にも、加速度センサにてこれを検知するようにしてもよい。
【0031】
また、これに代えるか、これに加えて、制御装置15にて、シリンダ1に対するロッド2の変位を検知するストロークセンサを接続しておき、当該ストロークセンサで検知したシリンダ1に対するロッド2の変位から相対移動速度あるいは相対移動変位を求め、当該相対移動速度や相対移動変位が極低く、緩衝器D1が油圧による減衰力の発揮を望めない場合に、コイル12,12へ通電して摩擦片5a,5aをロッド2へ押付けて緩衝器D1に摩擦力による減衰力を発揮させるようにしてもよく、また、相対移動速度や相対移動変位が非常に大きく油圧のみでは減衰力が不足すると見込まれる場合にコイル12,12へ通電して緩衝器D1が油圧によって発生する減衰力に摩擦による減衰力を付加して、緩衝器D1に大きな減衰力を発揮させるようにしてもよい。
【0032】
そして、この摩擦力に起因する減衰力は、上記したように車体の横加速度の大きさや緩衝器D1の相対移動速度、相対移動変位の大きさによって、車体姿勢の安定や良好な乗り心地に適するように調節するようにすればよい。
【0033】
なお、制御装置15における処理は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を用いて行うようにしてもよいし、アナログ電子回路によってこれを行う構成としてもよい。
【0034】
このように構成された緩衝器D1は、上述したように、磁歪素子4,4で摩擦体5を駆動して内側部材たるロッド2と摩擦体5との間に摩擦力を生じさせて、摩擦力に起因する減衰力を発揮することができるので、緩衝器D1に流体圧による減衰力を発揮させることが期待できないような事態にあっても、摩擦力によって減衰力を発揮することができ、また、摩擦力による減衰力の発揮が不要である場合には摩擦体5を内側部材たるロッド2から離脱させて摩擦力に起因する減衰力の発生を阻止できる。
【0035】
したがって、緩衝器D1の伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D1の伸縮速度が低速域を超える場合には、内側部材たるロッド2と摩擦体5との間で生じる摩擦力が緩衝器D1の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0036】
また、摩擦体5の駆動に応答が極めて高速な磁歪素子4,4を使用しているので、緩衝器D1の減衰力制御において減衰力の発生に遅れが生じにくく、車両における乗り心地を悪化させることない。
【0037】
さらに、アクチュエータ3の動力の方向を変更する機構が不要であるので、緩衝器D1の大型化を招くことが無く、構造を簡単なものとすることができる。さらに、この実施の形態の場合、シリンダ1の端部にアクチュエータ3を固定しているので、流体圧のみで減衰力を発揮する既存の緩衝器への適用も非常に簡単に行うことができる。
【0038】
本実施の形態においては、説明の都合上、緩衝器D1の伸縮速度に極低速とそれ以上の速度でなる区分を設けているが、これらの区分の境の速度はそれぞれ任意に設定することができる。ちなみに、良路走行中の車線変更時における緩衝器D1の伸縮速度が0.02m/s程度であるため、これが極低速の範囲内に入るように上記境を設定しておくとよい。
【0039】
つづいて、図3に示す、他の実施の形態の緩衝器D2について説明する。この他の実施の形態の緩衝器D2にあっては、アクチュエータ20と摩擦体24が上述の一実施の形態のアクチュエータ3および摩擦体5と異なるのみであり、この他の実施の形態の緩衝器D2の説明に当たり、上述の緩衝器D1の同様の構成については説明が重複するので、同じ符号を付するのみとしてその詳しい説明を省略することとする。
【0040】
他の実施の形態の緩衝器D2におけるアクチュエータ20は、外側部材たるシリンダ1の上端に固定される筒状のハウジング21と、シリンダ1にハウジング21を介して固定されてロッド2の外周に配置される筒状の磁歪素子22と、ハウジング21内に収容されて磁歪素子22の外周側に配置され磁歪素子22に与える磁界を発生するコイル23とを備えて構成されている。
【0041】
これに対して、摩擦体24は、弾性を備えて筒状とされて磁歪素子22の内周に装着されている。この摩擦体24は、縮径された状態で磁歪素子22の内周に装着されており、磁歪素子22の内径が変化するとそれに追随して自身の内径を変化させることができるようになっている。また、摩擦体24は、この場合、コイル23へ電流供給がなされない状態では、ロッド2の外周に摺接してロッド2のシリンダ1に対する図3中上下方向の相対移動に対してロッド2との間で摩擦力を生じせしめて、ロッド2のシリンダ1に対する相対移動を抑制するようになっている。
【0042】
ハウジング21は、内部に磁歪素子22を収容しコイル23を保持する有底筒状の収容筒21aと、収容筒21aの開口端を閉塞する環状のキャップ21bと、収容筒21aの図3中下端に設けたソケット21cとを備えて構成され、ソケット21cをシリンダ1の図3中上端外周に螺着することでシリンダ1の上端に固定されるようになっている。また、収容筒21aの底部には孔21dが設けられており、ロッド2の挿通が許容されている。
【0043】
そして、このアクチュエータ20の場合、コイル23を励磁して磁界を発生すると、磁歪素子22が磁界の大きさに応じて図3中軸方向へ伸長する方向へ歪む、正歪みを呈するようになっている。
【0044】
したがって、コイル23を励磁すると磁歪素子22は軸方向へ伸長するに伴って径方向には厚みを薄くするように歪むため、内径を拡径する作動を呈し、この磁歪素子22における内径の拡径に伴って内周に装着された摩擦体24の内径も拡径し、所定量の電流をコイル23に供給すると摩擦体24がロッド2の外周から離脱してロッド2との間に空隙を生じせしめて、摩擦力が発生しない状態となる。そして、コイル23へ供給する電流が所定量未満である場合、磁歪素子22の内径の拡径程度では摩擦体24がロッド2の外周から離脱せず接触した状態となり、コイル23へ供給する電流量が小さければ小さいほど、磁歪素子22の内径が小さくなって、摩擦体24をロッド2へ押付ける推力が大きくなるようになっている。
【0045】
したがって、この緩衝器D2にあっては、コイル23へ供給する電流が小さければ小さいほど、摩擦体24がロッド2へ強く押付けられることになり、摩擦力に起因する減衰力が大きくなり、コイル23へ供給する電流量を所定量未満で調節することにより、摩擦力に起因する減衰力の大きさを調節することができる。
【0046】
なお、磁歪素子22には、予荷重を与える必要があるが、このように、摩擦体24が弾性体で縮径された状態で磁歪素子22の内周に装着されて磁歪素子22を拡径する方向の附勢力を作用させているので、摩擦体24自身の初期位置への復帰用途のみならず磁歪素子22の予荷重用途にも使用でき、別途の手段によって予荷重を与える必要がなくなるので便利である。
【0047】
なお、上記したところでは、磁歪素子22が磁界の作用で図3中上下方向となる軸方向へ伸長する正の歪を呈するようになっているが、収縮作動する負の歪を呈する磁歪素子を使用してもよい。この場合には、コイル23に通電すると磁歪素子22の内径が縮径するので、コイル23への通電量が大きくなればなるほど、摩擦体24をロッド2に強く押付け、緩衝器D2は、摩擦力に起因する減衰力を大きくするようになる。したがって、この場合には、コイル23へ通電しない状態では摩擦体24の内周がロッド2の外周に接しないように設定しておき、摩擦力による減衰力を発揮しないようにしておけばよい。なお、アクチュエータ20の制御については、上述した制御装置15によって行えばよい。
【0048】
このように構成された他の実施の形態における緩衝器D2にあっても、磁歪素子22で摩擦体24を駆動して内側部材たるロッド2と摩擦体5との間に摩擦力を生じさせて、摩擦力に起因する減衰力を発揮することができるので、緩衝器D2に流体圧による減衰力を発揮させることが期待できないような事態にあっても、摩擦力によって減衰力を発揮することができ、また、摩擦力による減衰力の発揮が不要である場合には摩擦体24を内側部材たるロッド2から離脱させて摩擦力に起因する減衰力の発生を阻止できる。
【0049】
したがって、緩衝器D2は、一実施の形態の緩衝器D1と同様に、伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D2の伸縮速度が低速域を超える場合には、内側部材たるロッド2と摩擦体5との間で生じる摩擦力が緩衝器D2の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0050】
また、摩擦体24の駆動に応答が極めて高速な磁歪素子22を使用しているので、緩衝器D2の減衰力制御において減衰力の発生に遅れが生じにくく、車両における乗り心地を悪化させることない。
【0051】
さらに、アクチュエータ20の動力を変更する機構が不要であるので、緩衝器D2の大型化を招くことが無く、構造を簡単なものとすることができる。さらに、この実施の形態の場合、シリンダ1の端部にアクチュエータ20を固定しているので、流体圧のみで減衰力を発揮する既存の緩衝器への適用も非常に簡単に行うことができる。
【0052】
最後に、図4に示す、別の実施の形態の緩衝器D3について説明する。この他の実施の形態の緩衝器D3にあっても、アクチュエータ30と摩擦体33が上述の一実施の形態のアクチュエータ3および摩擦体5と異なるのみであり、この別の実施の形態の緩衝器D3の説明に当たり、上述の緩衝器D1の同様の構成については説明が重複するので、同じ符号を付するのみとしてその詳しい説明を省略することとする。
【0053】
別の実施の形態の緩衝器D3におけるアクチュエータ30は、内側部材たるロッド2の外周に装着される筒状の磁歪素子31と、磁歪素子31とロッド2との間に介装されて磁歪素子31に与える磁界を発生するコイル32とを備えて構成されている。
【0054】
これに対して、摩擦体33は、弾性を備えて筒状とされて磁歪素子31の外周に装着されており、摩擦体33は、上述した摩擦体5,24とは異なり、外側部材たるシリンダ1の内周に対向して、アクチュエータ30に駆動されることでシリンダ1に接触および離脱することが可能となっている。
【0055】
この摩擦体33は、内径が拡径された状態で磁歪素子31の外周に装着されており、磁歪素子31の外径が変化するとそれに追随して自身の外径を変化させることができるようになっている。また、摩擦体33は、この場合、コイル32へ電流供給がなされない状態では、シリンダ1の内周に摺接してシリンダ1のロッド2に対する図4中上下方向の相対移動に対してシリンダ1との間で摩擦力を生じせしめて、シリンダ1のロッド2に対する相対移動を抑制するようになっている。
【0056】
すなわち、この別の実施の形態の緩衝器D3にあっては、上述した一実施の形態の緩衝器D1および他の実施の形態の緩衝器D2とは異なり、内側部材たるロッド2にアクチュエータ30および摩擦体33が設けられており、摩擦体33と外側部材たるシリンダ1との間に生じる摩擦力によって減衰力を発生することができるようになっている。
【0057】
磁歪素子31およびコイル32はともに筒状とされて、ロッド2の外周に装着され、ロッド2に設けた上下のストッパ34,35によって挟持されて、ロッド2の外周に固定され、これらは、全て、圧力室R1内に収容されている。
【0058】
なお、アクチュエータ30および摩擦体33にて、圧力室R1を二つに完全に区画してしまうことがないように、ロッド2には、ストッパ34より上方から開口してストッパ35より下方へ通じる通孔2aを設けている。
【0059】
そして、このアクチュエータ30の場合、コイル32を励磁して磁界を発生すると、磁歪素子31が磁界の大きさに応じて図4中軸方向へ伸長する方向へ歪む、正歪みを呈するようになっている。
【0060】
したがって、コイル32を励磁すると磁歪素子31は軸方向へ伸長するに伴って径方向には厚みを薄くするように歪むため、外径を縮径する作動を呈し、この磁歪素子31における外径の縮径に伴って外周に装着された摩擦体33の外径も縮径し、所定量の電流をコイル32に供給すると摩擦体33がシリンダ1の内周から離脱してシリンダ1との間に空隙を生じせしめて、摩擦力が発生しない状態となる。そして、コイル32へ供給する電流が所定量未満である場合、磁歪素子31の外径の縮径程度では摩擦体33がシリンダ1の内周から離脱せず接触した状態となり、コイル32へ供給する電流量が小さければ小さいほど、磁歪素子31の外径が大きくなって、摩擦体33をシリンダ1へ押付ける推力が大きくなるようになっている。
【0061】
したがって、この緩衝器D3にあっては、コイル32へ供給する電流が小さければ小さいほど、摩擦体33がシリンダ1へ強く押付けられることになり、摩擦力に起因する減衰力が大きくなり、コイル32へ供給する電流量を所定量未満で調節することにより、摩擦力に起因する減衰力の大きさを調節することができる。
【0062】
なお、磁歪素子31には、予荷重を与える必要があるが、このように、摩擦体33が弾性体で縮径された状態で磁歪素子31の外周に装着されて磁歪素子31を拡径する方向の附勢力を作用させているので、摩擦体33自身の初期位置への復帰用途のみならず磁歪素子31の予荷重用途にも使用でき、別途の手段によって予荷重を与える必要がなくなるので便利である。
【0063】
なお、上記したところでは、磁歪素子31が磁界の作用で図4中上下方向となる軸方向へ伸長する正の歪を呈するようになっているが、収縮作動する負の歪を呈する磁歪素子を使用してもよい。この場合には、コイル32に通電すると磁歪素子31の内径が縮径するので、コイル32への通電量が大きくなればなるほど、摩擦体33をシリンダ1に強く押付け、緩衝器D3は、摩擦力に起因する減衰力を大きくするようになる。したがって、この場合には、コイル32へ通電しない状態では摩擦体33の外周がシリンダ1の内周に接しないように設定しておき、摩擦力による減衰力を発揮しないようにしておけばよい。なお、アクチュエータ30の制御については、上述した制御装置15によって行えばよい。
【0064】
このように構成された別の実施の形態における緩衝器D3にあっても、磁歪素子31で摩擦体33を駆動して外側部材たるシリンダ1と摩擦体33との間に摩擦力を生じさせて、摩擦力に起因する減衰力を発揮することができるので、緩衝器D3に流体圧による減衰力を発揮させることが期待できないような事態にあっても、摩擦力によって減衰力を発揮することができ、また、摩擦力による減衰力の発揮が不要である場合には摩擦体33を外側部材たるシリンダ1から離脱させて摩擦力に起因する減衰力の発生を阻止できる。
【0065】
したがって、緩衝器D3は、一実施の形態の緩衝器D1と同様に、伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D3の伸縮速度が低速域を超える場合には、外側部材たるシリンダ1と摩擦体33との間で生じる摩擦力が緩衝器D3の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0066】
また、摩擦体33の駆動に応答が極めて高速な磁歪素子31を使用しているので、緩衝器D3の減衰力制御において減衰力の発生に遅れが生じにくく、車両における乗り心地を悪化させることない。
【0067】
さらに、アクチュエータ30の動力を変更する機構が不要であるので、緩衝器D3の大型化を招くことが無く、構造を簡単なものとすることができる。さらに、この実施の形態の場合、ロッド2の外周にアクチュエータ30を固定しているので、流体圧のみで減衰力を発揮する既存の緩衝器への適用も非常に簡単に行うことができる。
【0068】
なお、上記した各実施の形態においては、緩衝器D1,D2,D3を油圧緩衝器としているが、作動流体を作動油以外の流体、たとえば、気体、水、水溶液、電気粘性流体、磁気粘性流体としてもよく、また、アクチュエータと摩擦体とで外側部材と内側部材の相対移動時における摩擦力を調節するものであるから、減衰力の発生原理を流体の通路7の通過時における圧力損失によるものとする緩衝器に限らず、電磁緩衝器のように電磁力を減衰力発生源とする緩衝器にも適用可能である。
【0069】
また、緩衝器D1,D2が、シリンダ1との間にリザーバを形成する外筒をシリンダ1の外方に備える複筒型の緩衝器として構成される場合には、アクチュエータ3,20におけるハウジング11,21を外筒の端部に取付けることによって外側部材たるシリンダ1にハウジング11,21を固定するようにしてもよい。
【0070】
さらに、たとえば、二輪車のフロントフォークに本発明を適用する場合、外側部材を緩衝器のシリンダあるいはロッドの一方に結合されるアウターチューブとし、内側部材を緩衝器のシリンダあるいはロッドの他方に結合されるインナーチューブとするような構成としてもよく、必ずしも、外側部材と内側部材はシリンダとロッドに限定されない。
【0071】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】一実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。
【図2】一実施の形態における緩衝器の要部横断面図である。
【図3】他の実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。
【図4】別の実施の形態における緩衝器の概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 外側部材たるシリンダ
2 内側部材たるロッド
2a ロッドにおける通孔
3,20,30 アクチュエータ
4,22,31 磁歪素子
5,24,33 摩擦体
5a 摩擦片
6 ピストン
7 通路
8 ロッドガイド
9 ベアリング
10 シール部材
11,21 アクチュエータにおけるハウジング
11a,21a ハウジングにおける収容部
11b,21b ハウジングにおけるキャップ
11c,21c ハウジングにおける孔
11d,21d ハウジングにおけるソケット
12,23,32 アクチュエータにおけるコイル
13 アクチュエータにおける保持部
14 アクチュエータにおけるバネ
15 制御装置
16 速度センサ
17 角度センサ
34,35 ストッパ
D1,D2,D3 緩衝器
R1,R2 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外側部材と、外側部材内に出入りする内側部材とを備えて、外側部材と内側部材の相対移動によって生じる流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する緩衝器において、磁歪素子を駆動源として外側部材および内側部材の一方に固定されるアクチュエータと、当該アクチュエータによって駆動されて外側部材および内側部材の他方に当接および離脱可能な摩擦体とを備え、外側部材および内側部材の他方と摩擦体との間に生じる摩擦力に起因した減衰力を発生可能であることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
摩擦体は、内側部材の外周を挟み込むように配置した一対の摩擦片を備え、アクチュエータは、外側部材に一端が固定されるハウジングと、各摩擦片を保持する各保持部と、保持部間に介装されて双方を内側部材から離間する方向に附勢するバネと、ハウジングと各保持部との間に介装される一対の磁歪素子と、磁歪素子に与える磁界を発生するコイルとを備えてなり、アクチュエータの推力で各摩擦片を内側部材に押付け可能であることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
アクチュエータは、内側部材の外周に装着される筒状の磁歪素子と、磁歪素子に与える磁界を発生するコイルとを備え、摩擦体は弾性を備えて筒状とされて磁歪素子の外周に装着されてなり、アクチュエータの推力で摩擦体を外側部材の内周に押付け可能であることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
アクチュエータは、外側部材に保持されて内側部材の外周に配置される筒状の磁歪素子と、磁歪素子に与える磁界を発生するコイルとを備え、摩擦体は弾性を備えて筒状とされて磁歪素子の内周に装着されてなり、アクチュエータの推力で摩擦体を内側部材の外周に押付け可能であることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項5】
車体と車軸との間に介装されるとともに、車体に作用する横加速度に基づいてアクチュエータを駆動して、外側部材および内側部材の他方と摩擦体との間に生じる摩擦力を調節し、摩擦力に起因する減衰力を調節することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−25144(P2010−25144A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183970(P2008−183970)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】