説明

繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置、およびトルク伝達軸

【課題】接着剤を介して繊維強化プラスチック製シャフトと金属継ぎ手要素を接合した場合でも、大きなトルクが作用したときに接合部が滑らない表面多角形構造を有するとともに、製造が簡単で、コストの低いトルク伝達軸、および、それに用いられる繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置を提供するものである。
【解決手段】連続的に引き出された強化繊維に含浸させる樹脂を貯蔵した樹脂含浸バスと、樹脂を含浸させた強化繊維を軸方向に対し所定の角度で巻き付けることができるように構成されたマンドレルとを有する繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置であって、前記マンドレルの両端部には前記樹脂を含浸させた強化繊維を係止するための繊維折り返し治具を有し、前記繊維折り返し治具の係止部が前記マンドレルの径方向に突出した7〜15本の針形状の部材で構成されている繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置、およびトルク伝達軸(推進軸)に関するものであり、特に自動車、船舶、ヘリコプターに好適に用いられる、繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置、およびトルク伝達軸(推進軸)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や船舶等のトルク伝達軸はほとんど金属製であるが、近年、車両重量を軽減して燃費を向上させるなどの目的で、熱硬化性樹脂を強化繊維で強化してなる繊維強化プラスチック(以下、「FRP」と称することがある。)製のトルク伝達軸が検討されている。そのようなFRP製トルク伝達軸は、FRP製のシャフトの両端部に、駆動軸や従動軸と連結してトルクを伝達するための金属製継ぎ手要素を装着して構成されていることが一般に知られている。
【0003】
ところで、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素の接合方法として様々な方法が提案されている。例えば、繊維強化プラスチック製シャフトの両端内部内周に金属製継ぎ手要素の接合部に設けたセレーションを圧入させることにより、両者を一体に接合する方法が特許文献1に開示されている。しかしながら、この方法では、金属製継ぎ手要素のセレーションと、圧入の過程で繊維強化プラスチック製シャフトの両端内部内周に形成された刻み目とがかみ合うことにより接合されているため、圧入の過程でセレーションが繊維強化プラスチック製シャフトの両端内部内周の繊維を切断し、繊維強化プラスチック製シャフトの品質が低下する。また、接合部に設けたセレーション加工を高精度で行う必要があるため、金属製継ぎ手要素の加工コストが高くなる。
【0004】
特許文献2および特許文献3には、両端内部内周に金属製スリーブを埋め込んだ繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素を溶接し両者を接合する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、金属製スリーブを繊維強化プラスチック製シャフトに埋め込むため繊維強化プラスチック製シャフトの利点の一つである軽量化のメリットが低下する、金属製継ぎ手要素との正確な接続位置の関係でマンドレルへの金属製スリーブの配置作業が困難である、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素との溶接時の熱により、繊維強化プラスチック製シャフトが劣化するなどの問題が生じる。
【0005】
かかる問題を解決するため、接着剤を介して、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素を接合する方法が特許文献4に開示されている。しかしながら、この方法では、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素の接合は接着剤を介して相互に円筒状のものを嵌め合わせているだけなので、高トルクの伝達や高温での耐久性に問題がある。
【0006】
また、こうした問題を解決するために、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素の接合部の断面形状を多角形にし、各角部の機械的な反力と摩擦力により接合部での滑りを抑制する方法が提案されている。例えば、フィラメントワインディング法により繊維強化プラスチック製シャフトを製造する際に、多角形のマンドレルを使用して、多角形状の繊維強化プラスチック製シャフトを成形し、得られた繊維強化プラスチック製シャフトの多角形状の内面とその内面と相似関係にある金属製継ぎ手要素とを接合してトルク伝達軸を製造する方法がある。
【0007】
しかしながら、この方法で製造したシャフトは全長にわたって多角形であるため、トルクを加えたとき、表面の角の部分に応力が集中し、簡単に破壊する。そのため、金属製継ぎ手要素との接合部は多角形状であるが、中央部は円筒状であるような繊維強化プラスチック製シャフトが求められる。
【0008】
特許文献5に開示されている方法によれば、フィラメントワインディング法により繊維強化プラスチック製シャフトを製造する際に、あらかじめ、マンドレルの両端に端面の内外周が正八角形で他端が円形のリングを挿入し、その上から樹脂含浸強化繊維を巻き付けると、両端内面が正八角形であり、中央部は円筒状である繊維強化プラスチック製シャフトを得ることができる。得られた繊維強化プラスチック製シャフトとその接合部と相似関係にある金属製継ぎ手要素とを接着剤を介して接合すれば、負荷されたトルクは各角部の機械的な反力と摩擦力、接着剤の接着力により保持されているため、大きなトルクが作用した時も互いに滑ることがなく、かつ中央部が円筒状であるため、高いねじり強度を有するトルク伝達軸を得ることができる。また、接着剤を介して、成形した繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素を接合するため、接合作業も容易に行うことができる。
【0009】
しかしながら、この方法の場合、端面の内外周が正八角形で他端が円形のリングを両端に設置したマンドレルの上から強化繊維を積層しているため、成形した繊維強化プラスチック製シャフトからマンドレルを引き抜く際に、マンドレルの両端に設置したリングがつかえて、成形した繊維強化プラスチック製シャフトからマンドレルを脱型することが困難である。また、従来のフィラメントワインディング法と比較して、リングの脱着作業が必要であり、生産性の低下を招きやすい。
【0010】
このように、接着剤を介しての繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素の接合は、適した多角形の表面構造を有する繊維強化プラスチック製シャフトを簡単に製造することが困難であったために、実用に至っていなかった。
【特許文献1】特開平5−139170号公報
【特許文献2】特開昭55−159311号公報
【特許文献3】特開昭55−159314号公報
【特許文献4】特開平5−215119号公報
【特許文献5】特開平3−254926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、接着剤を介して繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素を接合した場合でも、大きなトルクが作用したときに接合部が滑らない表面多角形構造を有するとともに、製造が簡単で、コストの低い繊維強化プラスチック製シャフトとトルク伝達軸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続的に引き出された強化繊維に含浸させる樹脂を貯蔵した樹脂含浸バスと、樹脂を含浸させた強化繊維を軸方向に対し所定の角度で巻き付けることができるように構成されたマンドレルとを有する繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置であって、前記マンドレルの両端部には前記樹脂を含浸させた強化繊維を係止するための繊維折り返し治具を有し、前記繊維折り返し治具の係止部が前記マンドレルの径方向に突出した7〜15本の針形状の部材で構成されている、繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。
【0013】
(2)前記針形状の部材の直径が2〜5mmの針形状であることを特徴とする、(1)に記載の繊維強化プラスチック製円シャフトの製造装置。
【0014】
(3)前記マンドレル軸方向に対する所定の角度が5〜20°の範囲である、(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。
【0015】
(4)繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素とが接着剤を介して接合されたトルク伝達軸であって、前記繊維強化プラスチック製シャフトの端部の外表面は頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、該繊維強化プラスチック製シャフトの端部から該繊維強化プラスチック製シャフト中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化するように構成されており、かつ、前記金属製継ぎ手要素は前記多角形状と実質的に相似の形状を有する、トルク伝達軸。
【0016】
(5)前記繊維強化プラスチック製シャフトの内面側に円周方向補強層を有する、(4)に記載のトルク伝達軸。
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置は、マンドレルの両端に固定された繊維折り返し治具の係止部が、前記マンドレルの径方向に突出した7〜15本の針形状の部材で構成されているので、接着剤を介して繊維強化プラスチック製シャフトと金属継ぎ手要素を接合した場合でも、大きなトルクが作用したときに接合部が滑らない表面多角形構造を有する繊維強化プラスチック製シャフトを得ることができる。
【0018】
特に、この製造装置は特別な装備を必要としないので、従来の方法と比較して簡単で、コストの低い繊維強化プラスチック製シャフトと、それを用いたトルク伝達軸が得られるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、連続的に引き出された強化繊維に含浸させる樹脂を貯蔵した樹脂含浸バスと、樹脂を含浸させた強化繊維を軸方向に対し所定の角度で巻き付けることができるように構成されたマンドレルとを有する繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置に関するものである。なお、ここで言う「連続的に引き出されたとは強化繊維」とは、ボビンから引き出されるつなぎ目のない長繊維のことを意味するが、製品に関係のない部分にかかるのであれば、繊維のつなぎが存在しても差し支えはない。
【0020】
本発明の繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置に用いられる強化繊維は、得られる繊維強化プラスチック製シャフト、ならびに該繊維強化プラスチック製シャフトを用いたトルク伝達軸に必要なねじり強度、共振周波数などの特性を満たすために、高強度、高弾性の繊維が望ましく、例えば、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維などが好適に用いられる。使用される繊維は一種類に限定されず、併用して用いられても良い。
【0021】
また、強化繊維に含浸させる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が好適に用いられるが、これらの中でも、良好な作業性と成形後の優れた機械特性という点を考慮すると、エポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。なお、かかる樹脂を貯蔵する樹脂含浸バスの形状および素材は特に限定されないが、優れたメンテナンス性を考慮すると、樹脂バスの素材はステンレス製が好ましい。
【0022】
本発明に用いられるマンドレルは、樹脂を含浸させた強化繊維を当該マンドレルの軸方向に対し所定の角度で巻き付けることができるように構成されていることを必要とする。かかる構成とすることにより、得られる繊維強化プラスチック製シャフトの、該シャフト軸方向に対する強化繊維の配向角度を調整することが可能になるからである。繊維強化プラスチック製シャフトとして必要な強度を保持すること、繊維強化プラスチック製シャフトの端部の外表面を多角形とする部分が維持することの両立、という点を考慮すると、当該シャフト軸方向に対する強化繊維の配向角度は5〜20°であることが望ましく、そのため、本発明に係る繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置は、マンドレルの軸方向に対し5〜20°で巻き付けることができるように構成されていることが好ましい。樹脂を含浸させた強化繊維をマンドレルの軸方向に対し所定の角度を有するようにマンドレルに巻き付ける手段としては、フィラメントワインディング法が例示される。なお、ここで言う「多角形」とは、隣り合う辺(直線部分)同士がある1点で交わってなる図形を意味するが、頂点に丸みを有する多角形、すなわち、隣り合う辺がR部を有して連続している図形であっても差支えは無い。また、本発明の目的を損なわない限りにおいて、多角形の辺の一部に曲線部分を含んでいても差し支えは無い。
【0023】
本発明に用いられるマンドレルは、両端部に前記樹脂を含浸させた強化繊維を係止するための繊維折り返し治具を有し、前記繊維折り返し治具の係止部が前記マンドレルの径方向に突出した、7〜15本の針形状の部材で構成されていることを必要とする。針形状の部材を7本以上とすることにより、得られる繊維強化プラスチック製シャフトのシャフト接合部の応力集中が緩和され、破壊されにくくなり、他方、針形状の部材を15本以下とすることで、得られる繊維強化プラスチック製シャフトと、トルク伝達軸を形成する金属製継ぎ手要素の接合部の断面形状を多角形にするという機能が維持され、各角部の機械的な反力と摩擦力により接合部での滑りを抑制できるからである。かかる観点から、マンドレルの針形状の部材は8〜10本が好ましい。なお、ここで言う「繊維折り返し治具の係止部」とは、マンドレルの端部にきた強化繊維を折り返すためにマンドレルの径方向に突出した繊維折り返し治具上に植設されたピンを意味する。
【0024】
かかるマンドレルを用いて繊維強化プラスチック製シャフトを製造すると、得られる繊維強化プラスチックシャフトは端部の外表面は頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、端部から中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化する構造とすることが可能となる。そして、かかる繊維強化プラスチックシャフトと、その接合部とが相似関係にある金属製継ぎ手要素とを接着剤を介して接合して得られたトルク伝達軸は、繊維強化プラスチック製シャフトに負荷されたトルクが各角部の機械的な反力と摩擦力、接着剤の接着力により保持されているため、大きなトルクが作用した時も互いに滑ることがなく、かつ、繊維強化プラスチック製シャフトの中央部は円筒状であるため、大きなトルクを加えたときも応力集中が発生せず、繊維強化プラスチック製シャフト自体が高いねじり強度を有することとなる。
【0025】
本発明で規定する「針形状の部材」とは、先端部が尖っている部材を意味するが、先端部の形状は強化繊維が容易に掛かる形状であれば差し支えは無い。そして、繊維折り返し治具の係止部が折れ易くなり、針形状の部材を交換しなければならないという事態を回避すること、および、強化繊維をマンドレルに巻き付けた際の繊維間の隙間が大きくなり製品として使用できる部分を減少させないことを考慮すると、かかる針形状の部材の直径、すなわち、前記先端部が尖っている部材(繊維折り返し治具上に植設されたピン)が繊維折り返し治具と接する箇所における断面の直径が2〜5mmであることが好ましく、3〜4mmであることがより好ましい。
【0026】
本発明に係るトルク伝達軸は、繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素が接着剤を介して接合されている。なお、ここで言う、「金属製継ぎ手要素」は、ユニバーサルジョイント(自在継ぎ手)と接続する部材であり、ユニバーサルジョイントを固定するための孔部を備えている金属部材である。
【0027】
本発明で得られる繊維強化プラスチック製シャフトは端部の外表面は頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、該繊維強化プラスチック製シャフトの端部から該繊維強化プラスチック製シャフト中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化する構造である。なお、ここで言う、「端部の外表面」は、繊維強化プラスチック製シャフトの端から150mmまでの表面を意味するが、使用するマンドレルの直径や強化繊維の糸幅などの変化により、端部の外表面の領域は端から150mmの範囲から多少(例えば、30mm程度)前後することがあるので、その範囲を含めて、本発明に規定の「端部の外表面」と定義することとする。また、「頂点に丸みを有する多角形状」とは、多角形の頂点が丸みを帯びている形状、すなわち、隣り合う辺がR部を有して連続している図形の形状を意味するが、繊維強化プラスチック製シャフトの断面形状が多角形と認識される範囲内ならば、多角形を構成している各辺が丸みを帯びていても差し支えは無い。また、「中央部に近づくにつれて連続的に円筒状に変化する」とは、繊維強化プラスチック製シャフトの形状が端から中央部に近づくにつれて、頂点に丸みを有する多角形状からマンドレルの形状に沿った円筒状に変化することを意味するが、形状の変化が緩やかであるために、形状が変化する境目が特定することができないものであっても良い。
【0028】
本発明のトルク伝達軸に用いられる金属製継ぎ手要素は、強化繊維製プラスチック製シャフトの外表面と実質的に相似形状を有する。なお、金属製継ぎ手要素が前記多角形状と「実質的に相似形状」とは、金属製継ぎ手要素が前記多角形状をからなる部分を強化繊維製プラスチック製シャフトの軸方向に対して垂直に切断したときの端部の断面形状とが相似であればよく、両者の接合部分全域に渡って相似形状でなければならないという訳ではない。また、金属製継ぎ手要素は、繊維強化プラスチック製シャフトの周方向の強度を向上させるため、前記シャフトの内部内周に嵌合させる金属製リングを備えていても良い。金属製継ぎ手要素が強化繊維プラスチック製シャフトと接合可能であり、かつ、トルクを加えたときに接合部分で滑らないことを考慮すると、強化繊維製プラスチック製シャフトの軸方向に対して垂直に切断したときの端部の断面形状と金属製継ぎ手要素の強化繊維製プラスチック製シャフトとの接合部の形状の相似比は1.01〜1.1が好ましく、さらに、接合の容易さと両者の接合強度の確保を考慮すると1.03〜1.07が好ましい。
【0029】
本発明の繊維強化プラスチック製シャフトは内面側に円周方向補強層を有していることが、周方向の強度を向上させるという点で好ましい。なお、ここで言う、円周方向補強層は、シャフトの軸方向に対する強化繊維の配向角度が70〜90°であることが好ましいが、さらに、優れた成形速度と高い円周方向の強度を両立させるためには75〜85°の配向角度がより好ましい。積層する円周方向補強層は全長に渡って均一にする必要はなく、例えば、金属製継ぎ手要素との接合部の補強層を厚くし、接合部の強度を高めても良い。この際に、上述した繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置は、マンドレルの軸方向に対し5〜20°で巻き付けることができるとともに、マンドレルの軸方向に対し70〜90°、望ましくは75〜85°で巻き付けることができるように構成されていることがさらに好ましい。
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を、図に従ってさらに詳細に説明する。なお、本発明が図面に記載された態様に限定される訳ではない。
【0031】
図1に示すように、円筒状のマンドレル1に離型剤を塗布し、その両端に繊維折り返し治具2を固定する。図1に示す例では、繊維折り返し治具2の係止部に構成された針形状の部材は等間隔に9本配列されている。次にフィラメントワインディング装置により、強化繊維を任意の巻き角度でマンドレルの軸方向に巻き付けていく。
【0032】
まず、マンドレル1の端部にきた強化繊維は、繊維折り返し治具2上の係止部に引っかけられた後、反対方向への折り返しのため、繊維折り返し治具2の軸部に巻きつけられる。この時、働く張力により係止部に引っかかった繊維は反回転方向に滑り、係止部に集積する。
【0033】
続いて、マンドレル1の端部にきた強化繊維が折り返す時は、強化繊維を繊維折り返し治具2の軸部に巻きつける動作がないので、繊維が係止部に集積されることはない。しかし、繊維が係止部に引っかかった時に盛り上がった強化繊維の影響により、係止部近傍の繊維がマンドレルの径方向に盛り上がる。
【0034】
これらの繰り返しにより、クロス目状に突起する繊維3が現れる(図1)。
【0035】
係止部近傍にない繊維は、マンドレルに対して所定の角度で巻き付けられている。ここで、繊維のクロス目状の突起部分3の影響により扁平状に積層されるが、マンドレル1の端部から中央部に近づくにつれて、繊維の収束が緩和されるためにクロス目状の突起が消失するので、強化繊維はマンドレルの形状に沿って積層されるようになる。よって、得られる繊維強化プラスチック製シャフトの表面形状は端部の外表面に頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、端部から中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化する構造になる(図1)。
【0036】
マンドレル1への強化繊維の巻き付けが完了した後、繊維折り返し治具2とマンドレル1上に巻き付けられた成形体を、繊維折り返し治具2とマンドレル1の接続位置でそれぞれをカッターにより切断する。そして、繊維折り返し治具2をマンドレル1から取り外す。その後、成形体が巻き付けられたマンドレルを硬化炉に入れ、所定の温度と時間で樹脂を硬化させる。硬化後、マンドレル1を引き抜いた成形体を所定の長さに切断し、端部の外表面に頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、端部から中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化する繊維強化プラスチック製シャフト6が得られる(図2)。
【0037】
最後に、繊維強化プラスチック製トルク伝達軸9は繊維強化プラスチック製シャフト6の端部の表面形状に合わせて加工した金属製継ぎ手要素7と繊維強化プラスチック製シャフト6を繊維強化プラスチック製シャフトの外周部に塗布した接着剤8を介して両者を接合することにより製造される(図3、図4)。
【0038】
本発明における金属製継ぎ手要素7は機械的強度に優れて、加工が容易な金属が好ましい。例えば、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどが挙げられる。また、これらの合金でであっても良い。
【0039】
図5はプロペラシャフトのねじり評価試験の概要を示す。両端に継ぎ手7が接合された試験用繊維強化プラスチック製トルク伝達軸9はねじり評価試験機のフランジ部に固定される。このとき、一方の可動部フランジ10は油圧による回転駆動部を有しており試験体へのトルク負荷が可能となる。併せて回転部に角度計11を設けておけば変位量の計測も可能である。他方の固定部フランジ12は試験器ベースに固定され、フランジ部に連結されたロードセル13から破壊時のトルクを検出することができる。この時、トルクvs角度線図を表示させれば破壊時のトルクを読み取ることが可能となる。
【実施例】
【0040】
試験に使用した繊維強化プラスチック製シャフトは次のように製造した。
【0041】
フィラメントワインディング装置に、径方向に突出した直径3mmの丸みを帯びた針形状の部材を有してなる係止部が等間隔に9本配列された繊維折り返し治具を両端に固定した全長1400mm、直径80mmのマンドレルをセットし、当該マンドレルに、東レ株式会社製炭素繊維“トレカ” T700SC−24Kの糸束3本を引き揃え、ビスフェノールA型エポキシと酸無水物、硬化促進剤を混合した溶液を含浸させた状態で給糸した。
【0042】
まず、最内層に、強化繊維をマンドレルの軸方向に対して+83度の巻き角度でマンドレルの全長にわたり、厚さ0.2mmで1層積層した。この時、繊維強化プラスチック製シャフトの両端の接合強度を高めるために、マンドレルの両端部においては、マンドレルの軸方向に対して±83度の巻き角度でなく、マンドレルの軸方向に対して±85度の巻き角度で基準位置から135.7mmの長さにわたって7層積層して、続いて、同じ基準位置から±85度の巻き角度で181.7mmの長さにわたって8層積層して円周方向補強層を得た。
【0043】
次に、強化繊維をマンドレルの軸方向に対して±12度の角度で5層積層し、2.3mmの肉厚とした。ここで、強化繊維がマンドレルの外周面をすべて覆うために、1層当たりの強化繊維の往復回数は13回となった。最後にマンドレルの全長にわたりマンドレルの軸方向に対して−83度の巻き角度で0.2mm積層した。
【0044】
続いて、所定の温度条件にて加熱炉でエポキシ樹脂の硬化を行い、硬化完了後、マンドレルから成形品を脱芯した。脱芯後、成型品の両端100mmを切り落とし長さ1200mm、中央部外径85.6mmの繊維強化プラスチック製シャフトを得た。両端部には外表面に頂点に丸みを有する9角形状からなる部分を有し、端部から中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化する繊維強化プラスチック製シャフトを得た。
【0045】
繊維強化プラスチック製シャフトの9角形の端部表面形状に併せて、金属製継ぎ手要素を機械加工により成形し、嵌合部を40mm設けた。金属製継ぎ手要素との接合部分となる繊維強化プラスチック製シャフトの端部表面に東レ・ファインケミカル社製接着剤“ケミットエポキシ”を塗布し、金属製継ぎ手要素を接合し、図4に示すような繊維強化プラスチック製トルク伝達軸9を得た。
【0046】
続いて、得られた繊維強化プラスチック製トルク伝達軸をねじり評価試験により評価した。ねじり評価試験はトルク検出器とトルク負荷装置を具備するねじり評価試験機によって測定することが可能である。図5の様にトルク伝達軸のねじり評価試験を行った。両端に継ぎ手7が接合された試験用繊維強化プラスチック製トルク伝達軸9はねじり評価試験機のフランジ部に固定される。このとき、一方の可動部フランジ10は油圧による回転駆動部を有しており試験体へのトルク負荷が可能となる。併せて回転部に角度計11を設けておけば変位量の計測も可能である。他方の固定部フランジ12は試験器ベースに固定され、フランジ部に連結されたロードセル13から破壊時のトルクを検出し、トルクvs角度線図を表示させ破壊時のトルクを読み取った。破壊はチューブ中央で発生し、この時の破壊トルクは4.9kNmでありトルク伝達軸として十分な性能を発現した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置は、車両、船舶、ペリコプターなどのあらゆるプロペラシャフトの製造装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るフィラメントワインディング成形を示す説明図。
【図2】本発明に係る繊維強化プラスチック製シャフトの斜視図の一例である。
【図3】本発明に係る繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素の接合方法を示す説明図。
【図4】本発明に係る繊維強化プラスチック製トルク伝達軸。
【図5】本発明に係る繊維強化プラスチック製トルク伝達軸のねじり評価試験を示す説明図。
【符号の説明】
【0049】
1:マンドレル
2:繊維折り返し治具
3:クロス目状に突起する繊維の様子
4:多角形状の表面
5:円筒形状の表面
6:繊維強化プラスチック製シャフト
7:金属製継ぎ手要素
8:接着剤
9:繊維強化プラスチック製トルク伝達軸
10:可動部フランジ
11:角度計
12:固定部フランジ
13:ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に引き出された強化繊維に含浸させる樹脂を貯蔵した樹脂含浸バスと、樹脂を含浸させた強化繊維を軸方向に対し所定の角度で巻き付けることができるように構成されたマンドレルとを有する繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置であって、前記マンドレルの両端部には前記樹脂を含浸させた強化繊維を係止するための繊維折り返し治具を有し、前記繊維折り返し治具の係止部が前記マンドレルの径方向に突出した7〜15本の針形状の部材で構成されている繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。
【請求項2】
前記針形状の部材の直径が2〜5mmである、請求項1に記載の繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。
【請求項3】
前記マンドレル軸方向に対する所定の角度が5〜20°の範囲である、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製シャフトの製造装置。
【請求項4】
繊維強化プラスチック製シャフトと金属製継ぎ手要素とが接着剤を介して接合されたトルク伝達軸であって、前記繊維強化プラスチック製シャフトの端部の外表面は頂点に丸みを有する多角形状からなる部分を有し、該繊維強化プラスチック製シャフトの端部から該繊維強化プラスチック製シャフト中央部に近づくにつれて連続的に円筒形状に変化するように構成されており、かつ、前記金属製継ぎ手要素は前記多角形状と実質的に相似の形状を有するトルク伝達軸。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチック製シャフトの内面側に円周方向補強層を有する、請求項4記載のトルク伝達軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−230031(P2008−230031A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72397(P2007−72397)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】