説明

繊維強化樹脂部材及び締結構造

【課題】一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂部材であっても、締結部分の強度を高めると共に、軽量を維持することができる。
【解決手段】一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、締結部材20を挿入するための締結用の貫通穴13が形成された繊維強化樹脂部材であって、前記締結部材20の座面20aと接触する貫通穴13周りの繊維強化樹脂部材10Aの表層には、強化繊維が交差して配列された強化繊維材12aに前記マトリクス樹脂が含浸された補強部12Aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され繊維強化樹脂部材に係り、特に、締結部材により好適に締結することができる繊維強化樹脂部材、及びこれらを用いた締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸した繊維強化樹脂部材(FRP)は、金属材料に比べて軽量であり、樹脂材料に比べて高強度であるので、車両用部材等の適用に注目されている材料である。
【0003】
例えば、被締結部材を締結する際の締結構造の軽量化を図るべく、締結用の貫通穴に挿入される締結部材の筒状部分の表面、及び被締結部材に接触する座面に、織物状の強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸した補強層が形成された締結部材が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−285330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の締結部材を用いた場合であっても、被締結部材に繊維強化樹脂部材を用いて機械締結する場合、以下の問題が生じることがある。具体的には、曲げやねじりを受ける梁、平板構造を繊維強化樹脂部材で構成する場合には、図6に示すように最も入力の大きい長手方向に沿って強化繊維を配列することが、最も軽量且つ最適な構造になる。そして、一方向(長手方向)に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シート11aを複数積層した繊維強化樹脂部材6に穴加工を施し、ボルト、リベット、ポップナットなどの締結部材20を用いて、これを締結される。しかしながら、組付・調整などで締結後も頻繁に締結部材を取り外す場合、さらに、締め付け時の圧着力や曲げ捩りが入力時に、このような締結部分が存在すると、貫通穴を中心にせん断・引張り荷重が作用するため、強化繊維間にせん断力が作用し、繊維方向に沿って亀裂9が生じ、締結力が保持されないどころか、繊維強化樹脂部材6が破壊に至ることがある。
【0006】
このような場合には、締結部(穴加工部)を補強するために、一方向積層のみでなく、直行積層(短手方向の積層)、配向積層(長手方向に対して角度をつけた方向の)など、強化繊維の方向が異なる方向となるように、強化繊維を多軸に積層することが考えられる。これにより、せん断力に対する繊維強化樹脂部材の強度を高めることができる。
【0007】
しかしながら、厚み、大きさ等が制約される繊維強化樹脂部材全体に、このような層を介在させてしまうと、本来必要な方向(前記一方向)への強化繊維の割合が減少してしまい、繊維強化樹脂部材の曲げ、ねじりの強度の低下が生じてしまう。そして、必要な強度・剛性を得るために、さらに一方向に沿った強化繊維を含む層を積層してしまうと、繊維強化樹脂部材の重量増加を招くおそれがあり、軽量効果が薄れてしまう。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂部材であっても、締結部分の強度を高めると共に、軽量を維持することができる繊維強化樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本発明に係る繊維強化樹脂部材は、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、締結部材を挿入するための貫通穴が形成された繊維強化樹脂部材であって、前記締結部材の座面と接触する貫通穴周りの前記繊維強化樹脂部材の表層には、前記強化繊維と少なくとも交差する方向に配列された強化繊維を含むフィルム状の強化繊維材に、前記マトリクス樹脂が含浸された補強部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、少なくとも、締結部材の座面と接触する貫通穴周りの前記繊維強化樹脂部材の表層には、前記一方向とは異なる方向にフィルム状の強化繊維が配列された補強部が形成されているので、貫通穴にせん断・引張り荷重が作用しても、貫通穴近傍の繊維強化樹脂部材の破損を抑えることができる。特に、締結部分に曲げ応力が作用した場合、その表層には最大応力が作用するところ、表層には補強部が形成されているので、曲げ応力による破損も抑制することができる。また、フィルム状の強化繊維材を用いることにより、補強部が形成されることによる繊維強化樹脂部材の厚みの増加を抑えることができる。
【0011】
また、より好ましい態様としては、前記繊維強化樹脂部材は、前記一方向に引き揃えられた強化繊維に前記マトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを積層したものであり、該繊維強化樹脂シート間における前記貫通穴の周りには、前記補強部がさらに形成されている。
【0012】
本発明によれば、繊維強化樹脂部材の厚さ方向における貫通穴の周りにも、補強部が形成されているので、貫通穴周りの繊維強化樹脂部材の機械的強度をさらに高めることができる。ここで、フィルム状の強化繊維材の厚みは、0.05mm〜0.1mm程度の厚みのものが好ましい。
【0013】
さらに、前記補強部を構成する前記強化繊維材は、たとえば、(1)一方向に引き揃えられた強化繊維と少なくとも交差する方向に引き揃えられた強化繊維のみからなる強化繊維材、または、(2)強化繊維を一方向に引き揃えた複数層を隣接する層の繊維軸が30°〜90°程度ずれるように交差積層させた、いわゆる多軸の繊維構造の強化繊維材、(3)織物からなる強化繊維材などを挙げることができ、補強部の強化繊維が、本体の強化繊維と交差していれば特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記強化繊維材は、織物状の強化繊維材である。
【0014】
本発明によれば、織物状の強化繊維材は、少なくとも2方向に強化繊維が配向しているので、(1)に示す強化繊維材の如く製造時に繊維の配向方向を気にせずに強化繊維材を配置することができる。また、(2)に示す多軸の繊維構造の強化繊維材に比べて、より薄く貫通穴周りの強度が高い繊維強化樹脂部材を簡単に製造することができる。このような織物状の強化繊維材としては、綾織、平織り、格子織のものを挙げることができる。
【0015】
本発明にいう「強化繊維」とは、複合材料の機械的強度を強化するための樹脂強化用の繊維をいい、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、天然繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維が挙げられる。
【0016】
本発明に係るマトリクス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など、強化繊維と合わせて所定の強度を保つことができるのであれば特にその種類は限定されるものではないが、より好ましくは、熱硬化性樹脂である。未硬化の熱硬化性樹脂は、一般的に溶融した熱可塑性樹脂よりも粘度が低いため、繊維強化樹脂部材を積層して製造する際に、強化繊維材にマトリクス樹脂を含浸させやすい。
【0017】
このような熱可塑性樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、シリコーン系樹脂、マレイミド系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、シアネート系樹脂、又はポリイミド系樹脂等の樹脂を挙げられることができ、強化繊維と合わせて所定の強度を保つことができるのであれば特にその種類は限定されるものではない。
【0018】
また、より好ましくは、前記フィルム状の強化繊維材は、開繊された強化繊維からなる。本発明によれば、開繊された強化繊維を用いることにより、強化繊維材の厚みをより薄くすることができるので、製造時における強化繊維材へのマトリクス樹脂の含浸をより容易にして強化繊維の圧着性を向上させると共に、強化繊維材を配置することによる繊維強化樹脂部材の厚みの増大を抑制することができる。また、開繊された強化繊維は、空気開繊、超音波開繊、機械的な開繊など特にその開繊方法は限定されるものではないが、より簡易的に、均一かつ薄く繊維束を開繊することができる空気開繊がより好ましい。
【0019】
さらに、前記強化繊維材は、貫通穴周りの繊維強化樹脂部材の部分を補強することができるのであれば、矩形状、リング状など特に限定されることはないが、より好ましくは、強化繊維材は、リング状であることがより好ましい。本発明によれば、リング状の強化繊維材を用いることにより、最小限の大きさの強化繊維材で、貫通穴周りの繊維強化樹脂部材の部分を補強することができる。
【0020】
そして、このような繊維強化樹脂部材を被締結部材として、貫通穴に締結部材を通して、繊維強化樹脂部材を締結した締結構造は、軽量を維持しつつ、繊維強化樹脂部材の貫通穴を中心にせん断・引張り荷重が作用したとしても、繊維方向に沿って亀裂が発生することを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂部材であっても、締結部分の強度を高めると共に、軽量を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る第1実施形態の繊維強化樹脂部材を締結した締結構造を説明するための模式図であり、(a)は、締結構造の斜視図、(b)は、(a)のA−A線矢視断面図。
【図2】図1に示す繊維強化樹脂部材に配置された補強部の強化繊維材を示した模式図であり、(a)は正面図、(b)は断面図。
【図3】図1に示す繊維強化樹脂部材の製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、熱可塑性樹脂の未硬化時における積層状態を示した図であり、(b)は、(a)を硬化させた後に穴加工を施した状態を示した図。
【図4】図1に示す繊維強化樹脂部材の別の製造方法を説明するための模式図。
【図5】本発明に係る第2実施形態の繊維強化樹脂部材を締結した締結構造を説明するための模式図であり、(a)は、締結構造の斜視図、(b)は、(a)のB−B線矢視断面図であり、(c)は、繊維強化樹脂部材に配置された補強部の強化繊維材の正面図。
【図6】従来の繊維強化樹脂部材を締結した締結構造を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る2つの実施形態について説明する。図1は、本発明に係る第1実施形態の繊維強化樹脂部材を締結した締結構造を説明するための模式図であり、(a)は、締結構造の斜視図、(b)は、(a)のA−A線矢視断面図である。図2は、図1に示す繊維強化樹脂部材に配置された補強部の強化繊維材を示した模式図であり、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明に係る繊維強化樹脂部材10Aは、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シート11aを積層した積層構造体となっている。本実施形態では、強化繊維は、炭素繊維であり、マトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂であり、エポキシ樹脂を用いている。
【0025】
また、繊維強化樹脂部材10A,10A同士を締結するために、各繊維強化樹脂部材10Aには、繊維強化樹脂部材を被締結部材として、締結部材20を挿入し、この締結部材20により、繊維強化樹脂部材10A,10A同士を、締結部材20の座面20aで挟持してこれら部材10A,10Aを締結するための締結用の貫通穴13が形成されている。
【0026】
締結部材20の座面20aと接触する貫通穴周りの前記繊維強化樹脂部材の表層には、繊維強化樹脂シート11aの強化繊維に対して交差して配列された炭素繊維からなるフィルム状の強化繊維材12a(図2参照)に、マトリクス樹脂が含浸された補強部12Aが、形成されている。さらに、繊維強化樹脂シート11aの間、すなわち、積層構造体の層間においても、前記貫通穴の周りにも、同様に補強部12Aがさらに形成されている。
【0027】
より具体的には、フィルム状の強化繊維材12aは、繊維強化樹脂部材10Aの貫通穴13に対する補強パッチを担うものであり、厚さ0.05mm〜0.1mmのリング状の織物で、例えば、補強部12Aは、開繊された強化繊維による平織物の強化繊維材12aにマトリクス樹脂が含浸されている。
【0028】
また、フィルム状の強化繊維材12aの厚さは、繊維強化樹脂シート11aの厚さに比べて充分薄く、フィルム状の強化繊維材12aの総厚さは、繊維強化樹脂シート11aの全体の厚さの20%以下であることが望ましい。開繊された織物は、開繊されていない織物に比べて、低目付で厚みが薄いため、上述した範囲の厚さの関係を満たし、締結部分の板厚の増加を抑制することができ、繊維強化樹脂部材10A全体の板厚可変を最小限にすることができる。また、織物状の強化繊維材を用いることにより、製造時における強化繊維材12aの配置の向きにかかわらず、繊維強化樹脂シート11aの強化繊維に対して、強化繊維材12aの強化繊維の一部は交差することになる。
【0029】
ここでは、繊維強化樹脂シート11aを3層にし、これらの層間及び表面層に、強化繊維材12aにマトリクス樹脂を含浸した補強部を形成したが、層数及び補強部の数はこれに限定されるものではない。例えば、繊維強化樹脂シート(厚さ0.3mm)を8層に積層して積層構造体(厚さ2.4mm)とし、表面層の両側及び、2層目と3層目の間、及び、4層目と5層目の間に強化繊維材(厚さ0.05mm)を配置してもよい。
【0030】
このような繊維強化樹脂部材10Aは、以下のようにして製造される。図3は、図1に示す繊維強化樹脂部材の製造方法を説明するための模式図であり、(a)熱可塑性樹脂の未硬化時における積層状態を示した図であり、(b)は(a)を硬化させた後に穴加工を施した状態を示した図である。図4は、図1に示す繊維強化樹脂部材の別の製造方法を説明するための模式図である。
【0031】
まず、図3に示すように、長手方向に引き揃えられた強化繊維に未硬化のエポキシ樹脂が含浸された繊維強化樹脂シート(プリプレグ)11bと、開繊平織物である強化繊維材12aを多層に積層する。締結部材20を挿入するための貫通穴13が形成される位置に、強化繊維材12aを配置し、強化繊維材12aは、締結時に締結部材20の座面20a全面と接触することができる大きさのものを用いる。なお、ここでは、強化繊維材12aには、未硬化のエポキシ樹脂は含浸されていないが、積層前に強化繊維材12aに、予め未硬化のエポキシ樹脂を含浸させていてもよい。
【0032】
次に、この積層構造体を減圧成形等により、エポキシ樹脂を熱硬化させながら成形を行う。ここで成形時に、繊維強化樹脂シート(プリプレグ)11bに含浸されていた未硬化のエポキシ樹脂の一部が、強化繊維材12aに含浸され、その後加熱により硬化する。最後に、開繊部分を含む補強部12Aに、締結部材を挿入するための貫通穴13を、ドリル等により穴加工する。
【0033】
また、別の態様としては、図4に示すように、未硬化のエポキシ樹脂が含浸された繊維強化樹脂シート(プリプレグ)11bと、開繊平織物である強化繊維材12aを多層に積層後、この積層構造体に、貫通穴13をパンチングにより穴をあける。
【0034】
次に、金型60にセットしたピン61を、貫通穴13に差し込み、上述したのと同様の方法で、成形を行う。その後、積層構造体を金型から脱型し、貫通穴13からピン61を外す。これにより、上述した穴加工をする必要が不要となる。
【0035】
このようにして、製造された繊維強化樹脂部材10A,10A同士の貫通穴13が一致するように、これらを配置する。次に、貫通穴に締結部材20を挿入し、締結部材20の座面により、繊維強化樹脂部材10A,10A同士が挟持して圧着されるように、繊維強化樹脂部材10A,10A同士を締結部材20で締結する。締結部材20は、座面20aを有する部材であり、例えばリベット又はボルトいずれであってもよく、脱着可能なものであることがより好ましい。このようにして、図1に示す如く、本実施形態に係る締結構造1Aが得られる。
【0036】
本実施形態によれば、少なくとも、締結部材20の座面20aと接触する貫通穴13周りの繊維強化樹脂部材10Aの表層には、異なる方向に配向された強化繊維12aが配列された補強部12Aが形成されているので、貫通穴13にせん断・引張り荷重が作用しても、貫通穴13近傍の繊維強化樹脂部材の破損を抑えることができる。特に、締結部分に曲げ応力が作用した場合、その表層には最大応力が作用するところ、表層には補強部12Aが形成されているので、曲げ応力による破損も抑制することができる。
【0037】
また、強化繊維材12aに開繊平織物を用いたことにより、多軸の繊維構造の強化繊維材10Aに比べて、より薄くかつ貫通穴周りの強度が高い繊維強化樹脂部材を簡単に製造することができる。さらに、リング状の強化繊維材を用いることにより、最小限の大きさの強化繊維材12aで、貫通穴13周りの繊維強化樹脂部材10Aの部分を補強することができる。
【0038】
図5は、本発明に係る第2実施形態の繊維強化樹脂部材を締結した締結構造を説明するための模式図であり、(a)は、締結構造の斜視図、(b)は、(a)のB−B線矢視断面図であり、(c)は、繊維強化樹脂部材に配置された補強部の強化繊維材の正面図である。
【0039】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、補強部を構成する強化繊維材の形状である。従って、第1実施形態と同じ構成は、同一の符号を付し、以下にその説明は省略する。また、その機能が類似する構成は、その末尾のAの符号をBの符号に変更した。
【0040】
図5に示すように、本実施形態の繊維強化樹脂部材10Bの補強部12Bは、中央に貫通穴13が形成された矩形状の補強部であり、補強部12Bを構成する矩形状の強化繊維材12bには、エポキシ樹脂が含浸され、これを硬化させたものである。なお、強化繊維材12bの厚み、及び、強化繊維材12bが、繊維強化樹脂部材10Bにおいて配置される位置は、第1実施形態のものと同様である。
【0041】
本実施形態では、外形が矩形状の強化繊維材12bを用いることにより、得られた締結構造1Bは、上述した第一実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第一実施形態の如く、外形を円形に加工する必要がないので、より安価に繊維強化樹脂部材10Bを製造することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0043】
第1及び第2の実施形態では、製造時のハンドリング性を向上させるために、マトリクス樹脂として、熱硬化性樹脂を用いたが、成形時にマトリクス樹脂を加熱して強化繊維間に含浸し、積層構造体とすることができるのであれば、例えば、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、またはABS系樹脂等の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0044】
また、第1実施形態では、強化繊維材の形状をリング状にし、第二実施形態では、強化繊維材の形状を内部に穴が形成された矩形状としたが、貫通穴の補強部として機能するのであれば、強化繊維材の形状は特に限定されるものではない。
【0045】
また、第1及び第2の実施形態の積層構造の一対の被締結部材は、いずれも繊維強化樹脂部材であったが、被締結部材のいずれか一方が繊維強化樹脂部材であってもよい。
【0046】
なお、第1及び第2の実施形態にかかる繊維強化樹脂シートは、全ての強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向シート(一方向層)であったが、この方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維を含む繊維強化樹脂シートを他方方向シート(他方向層)としたときに、積層構造体には、一方向層の繊維の割合:他方向層の繊維の割合が8:2〜9:1で存在する積層構造体であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1A,1B:締結構造、10A、10B:(硬化後の)繊維強化樹脂部材、11a:(未硬化の)繊維強化樹脂シート、11b:繊維強化樹脂シート、12A,12B:補強部、12a、12b:強化繊維材、13:貫通穴、20:締結部材、20a:座面、60:金型、61:ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、締結部材を挿入するための貫通穴が形成された繊維強化樹脂部材であって、
前記締結部材の座面と接触する貫通穴周りの前記繊維強化樹脂部材の表層には、前記強化繊維と少なくとも交差する方向に配列された強化繊維を含むフィルム状の強化繊維材に、前記マトリクス樹脂が含浸された補強部が形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂部材。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂部材は、前記一方向に引き揃えられた前記強化繊維に前記マトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを積層したものであり、
該繊維強化樹脂シート間における前記貫通穴の周りには、前記補強部がさらに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂部材。
【請求項3】
前記強化繊維材は、織物状の強化繊維材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂部材。
【請求項4】
前記強化繊維材は、開繊された強化繊維からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂部材。
【請求項5】
前記強化繊維材は、リング状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化樹脂部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂部材を、前記締結部材で締結した締結構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−35442(P2012−35442A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175526(P2010−175526)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】