説明

繊維補強複合材料、その製造方法、複合材料成形体および複合材料成形体の積層体

【課題】種々の熱可塑性樹脂の成形体、特にシート状や薄肉成形体の機械物性を改善するために、マトリクス樹脂と同種の樹脂で形成されたナノファイバーを用いて補強された複合材料を提供する。
【解決手段】電界紡糸法によって得られ、かつ特定の要件を満たした熱可塑性樹脂製繊維と熱可塑性樹脂シートとが積層されてなる複合材料であって、熱可塑性樹脂としての加工可能温度(TB℃)を有する熱可塑性樹脂Bからなる樹脂製繊維と熱可塑性樹脂A(加工可能温度TA℃)からなるシートとを複合化する際に、その製造温度(TP℃)としてTA<TP<TBである条件下に成形されたものが有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度の熱可塑性樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブやシート状の熱可塑性樹脂からなる薄肉成形品は医療用途を始め工業製品の部品等でも多数用いられている。熱可塑性樹脂としては汎用樹脂からエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックまで種々あるが、これらの使い分けは、例えば、分子鎖間の相互作用をより高めることで実現された耐熱性(熱変形温度)の観点から判定され、結果として材料の機械物性はその樹脂種の分子間相互作用の大小に依存しておおよそ決まってしまう。これらの性能を後から改変するための手法には強化材との複合化(コンポジット化)や他の樹脂との複合化(アロイ化)等があり、機械物性を向上させる観点からは、母材よりも強い、あるいは硬い成分を選定し、それを強化材あるアロイ相手材として母材マトリクス中に均一分散させる必要がある。しかし、これらの複合材を形成させるには、第二成分の分散だけではなく、母材樹脂と第二成分が形成する分散相との界面の接着性も必要であり、いずれかが単独で存在する要素ではない。必然的に第三成分として界面接着のための成分が必要となり複合材組成は複雑化する。場合によっては、この接着相の分率がマトリクス分率と逆転するなど本末転倒な組成になることもあり、複合材形成における課題の一つである。
【0003】
次にこれらの複合材を薄肉成形品として利用する場合、成形品厚みや形状の点で使用できる第二成分が限定される場合がある。例えば、その大きさがナノメートルオーダーであることが必須になる事例や、その分散状態に一定の条件(配向や形状)が必要になることもある。いずれも強化材やアロイ相手材を選定するための制約となり、実際に検討するに値する系が少なくなってくる。加えて、これらを考慮するほど前記した接着相の設計が困難となる傾向にある。いわゆるナノコンポジット材料の検討が難しい所以である。
【0004】
ナノコンポジット材料を形成する第二成分(強化材)としては、膨潤性層状珪酸塩のシリケート層、シリカナノ粒子やカーボンナノチューブ等が知られているが、いずれも樹脂とは異なる化学構造を有することから必然的に、マトリクス樹脂中への分散の難易度が高く、界面接着のための手立ても必須となる。一方で、樹脂そのものを用いた第二成分(強化材)としては、剛直性の分子鎖構造を有するポリマーを用いた、いわゆるモレキュラーコンポジットが知られているが、最近になって、ナノファイバーと呼ばれる有機系の微細繊維を用いる場合が検討されるようになってきた。ナノファイバーを得る手法として最もよく知られている電界紡糸法の場合、紡糸に最適な濃度のポリマー溶液をつくることができれば、直径が数nmから数十mm程度で不織布状の樹脂製ナノファイバーを得ることは容易である。
【0005】
電界紡糸によるナノファイバーを樹脂と複合化させた事例としては、例えば、溶融紡糸によって得られたマイクロ繊維糸(直径が数百mm程度)からなる繊維層上にナノファイバー層を積層させて形成させた複合繊維フィルター(特許文献1)やエラストマー成分、親水成分や接着剤成分を同時に電界紡糸することで形成されるナノファイバー不織布の集成体(複合体)(特許文献2)のような不織布形状をそのまま利用してフィルターや包帯のような非シート形状でのアプリケーション検討事例があるが、いずれもバルク成形体としての機械物性改良を志向したものではない。一方、シート形状での検討事例としては、化学合成系の生分解ポリマーに生分解速度を調節した化学組成をもつ生分解ポリマー製のナノファイバーを積層したフィルムを作成し、生分解速度を向上させた場合(特許文献3)、電界紡糸による樹脂製ナノファイバー不織布に特定のエポキシ樹脂原料を含浸させ、それを硬化させてなる複合材料(特許文献4)や不飽和ポリエステル樹脂と複合化した事例(非特許文献1)が挙げられる。特許文献3の場合は植物由来材料の機械特性を改善する目的で検討された事例として有用であり、非特許文献1の場合は機械特性改善への効果が検証されているが、通常の熱可塑性樹脂系での効果については言及はなされていない。また有機系以外のナノファイバーとの複合化事例としては、ゾル−ゲル法を利用した金属酸化物からなるナノファイバーと樹脂マトリクスとからなる事例も報告されているが、熱伝導率と絶縁性の両立を謳う材料として機械物性への言及はない。またこの系ではナノファイバーと樹脂マトリクスとの接着には別途シランカップリング剤も必要である(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−95266号公報
【特許文献2】特表2006−501373号公報
【特許文献3】特開2008−223185号公報
【特許文献4】特開2007−302718号公報
【特許文献5】特開2008−179752号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.cit.nihon-u.ac.jp/kenkyu/kouennkai/reference/No_41/1_kikai/ 1-030.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
種々の熱可塑性樹脂の成形体、特にシート状や薄肉成形体の機械物性を改善するために、マトリクス樹脂と同種の樹脂で形成された樹脂製繊維を用いて補強された複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記に示す発明を完成するに至った。
【0010】
〔1〕熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Aよりも高い加工可能温度を有する熱可塑性樹脂Bの樹脂製繊維とからなる複合材料であって、前記熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Bがその繰返し分子鎖構造において同じ種類の樹脂であることを特徴とする複合材料。
【0011】
〔2〕前記熱可塑性樹脂Aおよび/または前記樹脂製繊維が球状、板状、繊維状および針状のフィラーのうちいずれか1以上のフィラーで複合化されていることを特徴とする前記〔1〕の複合材料。
【0012】
〔3〕前記樹脂製繊維が電界紡糸法によって形成されたものであることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕の複合材料。
【0013】
〔4〕前記樹脂製繊維が電界紡糸法によって形成された不織布であることを特徴とする前記〔3〕の複合材料。
【0014】
〔5〕前記樹脂製繊維の両側に熱可塑性樹脂Aを位置させ、熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で、熱可塑性樹脂Aを溶融して複合化したことを特徴とする前記〔1〕から〔4〕のいずれかの複合材料。
本願発明でいう加工可能温度とは、熱可塑性樹脂の温度が上がり、流動性が現れ、流体としての粘度が低下し、成形機での加工が可能となる温度である。
【0015】
〔6〕熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Aよりも高い加工可能温度を有する熱可塑性樹脂Bの樹脂製繊維とからなる複合材料の製造方法であって、前記〔1〕また〔2〕の熱可塑性樹脂Aと前記〔1〕から〔4〕のいずれかの樹脂製繊維を用い、前記樹脂製繊維の両側に前記熱可塑性樹脂Aを接触させて位置させ、前記熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、前記熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で、熱可塑性樹脂Aを溶融して複合化することを特徴とする複合材料の製造方法。
【0016】
〔7〕前記〔5〕に記載の複合材料をフィルム、シートまたは板状に成形したことを特徴とする複合材料成形体。
【0017】
〔8〕前記〔7〕の複合材料成形体を積層し、熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で融着させてなることを特徴とする複合材料成形体の積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合材料は、その構成上種々の熱可塑性樹脂について形成可能であり、材質が熱可塑性樹脂であるため成形加工が容易にできる。
また補強材として機能する樹脂製繊維とマトリクス(前記熱可塑性樹脂A)がその繰返し分子鎖構造において同じ種類の樹脂であるため、樹脂製繊維とマトリクスとの接着が相溶化剤を用いることなく良好であることから引張変形等で大きな変形を付与された際にも界面剥離を起こすことが少なく、高い強さを発現するシート状成形体や薄肉成形体を形成することが可能となる。
【0019】
そして、マトリクス(前記熱可塑性樹脂A)に各種形状のフィラーを混ぜ込むことにより、複合材料の靭性を向上させることがでる。また、樹脂製繊維に各種形状のフィラーを混ぜ込むことにより、複合材料の剛性、寸法安定性を向上させることがでる。
【0020】
更に、電界紡糸法で生成した樹脂製繊維は、より繊維径の細かい繊維にすることができるので、複合材料に用いた場合は、繊維の比表面積が増大することでマトリクスの補強効果が高まる効果を発揮することができる。そして、樹脂製繊維を電界紡糸法で不織布とした場合には、繊維がより長繊維になるため、複合材料の破断強さを更に向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電界紡糸法の概念
【図2】PA6ナノファイバーからなる不織布のSEM像
【図3】PA6NCナノファイバーからなる不織布のSEM像
【図4】複合材料シートの外観
【図5】複合材料シートの断面のSEM像
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について、詳細に説明すれば以下のとおりである。
【0023】
(熱可塑性樹脂)
本発明における熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bに用いられる熱可塑性樹脂とは、製品として利用される環境では固体であり、これら樹脂を賦型する際の加工温度、具体的には、融点あるいは軟化点以上の温度、では液体のごとく流動性を有する樹脂のことである。
【0024】
具体的には、ポリスチレン、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、αオレフィンコポリマー、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、EVOH樹脂。スチレン系ブロックコポリマー樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン類、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド類、シンジオ型ポリスチレン、熱可塑性エラストマーに含まれるスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、1、2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、生分解性プラスチックに含まれれるポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(エチレンサクシネート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート)ポリビニルアルコールやこれらの共重合体およびこれらを含むアロイ材が挙げられる。
【0025】
本願発明の複合材料を構成する複数の熱可塑性樹脂はお互いにその分子鎖を構成する繰り返し単位の構造において、同じ種類に属することが必要である。
【0026】
同じ種類とは、繰り返し単位中に特長的な化学結合が共通に含まれていることを意味し、強い分子間相互作用、例えば、水素結合性相互作用、静電的相互作用、ファンデルワールス相互作用、p/pスタッキング、配位結合、電荷移動相互作用、疎水性相互作用等を有する特性基を有することを意味する。
【0027】
例えば、アミド結合を有するポリアミド樹脂の場合、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD-6、ポリアミド610や共重合ポリアミドであるポリアミド6/66、ポリアミド6/12等の分子鎖構造内にアミド結合を共通に含むことで同様の物理化学的性質を発現すると理解されている一群の樹脂がこれに相当する。上記したポリアミドの場合では既に工業的に大量に生産されている製品を列挙したが、必ずしもこれに限定されるわけではなく、分子鎖中の繰り返し単位としてアミド結合がある樹脂であれば問題なく、他の熱可塑性樹脂においても同様である。
【0028】
また、ポリオレフィン樹脂のように繰り返し単位中に特別な化学結合が見出しにくい樹脂の場合、同じ種類の樹脂とはかかる特性基を繰り返し単位中に有しない樹脂同士となる。
【0029】
次に、熱可塑性樹脂が共重合体である場合における同じ種類とは、共重合体を構成する複数のモノマー種の化学構造において、前記した特性基を有する化学結合を有するモノマー種の場合、その特性基を有する化学結合を共通に有する樹脂同士が同じ種類となる。分子間相互作用のエネルギー、ポテンシャルの位置依存性、方向依存性や媒質依存性によって、共重合体組成中に含まれる当該特性基を有する化学結合を有するモノマー種のモル成分比が小さくとも、同種の樹脂とみなす場合もありうる。
【0030】
また、熱可塑性樹脂が複数の樹脂からなるポリマーアロイの場合、海島構造からなるアロイ構造となる組成では、海相となる樹脂に含まれる特性基を有する化学結合を共通に有する樹脂同士が同じ種類となる。一方で、共連続相構造を形成するような場合、分子間相互作用のエネルギー、ポテンシャルの位置依存性、方向依存性を考慮して、ポリマーアロイに含まれる当該特性基を有する化学結合を有する樹脂種のいずれが当該熱可塑性樹脂を代表する樹脂かを決定する必要がある。
【0031】
最後に、ポリマーアロイがその使用条件下で完全相溶である場合、ポリマーアロイを構成する樹脂種のうちから最も体積分率が大きな成分となる樹脂に含まれる特性基を有する化学結合を共通に有する樹脂同士が同じ種類となる。
【0032】
一般に樹脂複合材料を形成させるには構成成分界面の接着性を確保することが必須である。本願発明の複合材料はその構成上はむしろ熱可塑性樹脂AとBとからなるポリマーアロイと見ることができる。
【0033】
この場合は樹脂間の化学的な結合のために相溶化剤が必要となるが、本願発明の複合材料は化学構造上は同種であることから特別な相溶化剤は必要としない。従って、界面に接着層と呼べる熱可塑性樹脂AとB以外の成分は存在しない。同種材料であることから本来界面の形成は起こりにくく、複合化の効果が最大に発現する。また相溶化剤の適切な分散や処理という煩雑な工程が必要なく、相溶化剤の選定やその使用方法等に由来する問題は発生しない。
【0034】
かかる熱可塑性樹脂の分子量には特に限定されるものではないが、少なくとも樹脂材料としての性能が安定する以上の分子量があることが望ましい。オリゴマー程度の分子量の場合、材料としての靭性が発現せず、また熱的にも不安定であるため好ましくない。
【0035】
また前記した熱可塑性樹脂には必要に応じて球状、板状、繊維状あるいは針状のフィラーが配合されていてもよい。そして、これらのフィラーは、通常中実であるが、チューブ状等の中空になっていても問題はない。
【0036】
配合の目的は、複合材料の機械物性、耐熱性や寸法安定性の改善から機能性付与(難燃性、導電性、磁性、熱伝導性、圧電性、制振性、遮音性、摺動制、間雑材、アンチブロッキング、断熱、軽量、電磁波吸収、光散乱、紫外線吸収、放射線吸収、赤外線輻射、坑・殺菌剤、脱水剤、吸着剤、高比重、ガスバリア)まで多様である。
【0037】
具体的には、球状フィラーとして炭酸カルシウム、シリカ、各種ビーズ、アルミナ、酸化チタン、クレー、各種金属粉、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、各種バルーン、カーボンブラック、チタン酸バリウム、PZT、各種フェライト等が挙げられる。板状フィラーとしては、タルク、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、膨潤性層状粘土鉱物(合成フッ素雲母、モンモリロナイト、スメクタイト等)、黒鉛、BN、各種の金属箔、板状炭酸カルシウム、板状アルミナ、ベーマイト等が挙げられる。繊維状あるいは針状フィラーとしては、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、MOS、ホスフェート繊維、ホウ酸アルミニウム、PMF、テトラポット型酸化亜鉛、針状炭酸カルシウム、ドーソナイト、各種ウィスカー等がある。これらフィラーの配合量には特に制限はないが、後述の樹脂製繊維に配合する場合は分散後のフィラーの大きさに注意を要する。
【0038】
目標とする樹脂製繊維の直径以上のフィラー径となる場合、樹脂製繊維の形状は歪になるため、主として機械物性の改善を目的とする場合には問題となることが予測される。樹脂製繊維の直径が数100nm程度以下である場合には、配合できるフィラーは自ずから限定され、例えば、膨潤性層状粘土鉱物やシリカ、一部の炭酸カルシウム、酸化チタンやウィスカー等を用いることが望ましい。
【0039】
(樹脂製繊維)
本願発明における樹脂製繊維とは、前記した熱可塑性樹脂を用いて製造された繊維状成形体のことをいう。
【0040】
前記した熱可塑性樹脂は一般的に結晶性樹脂と非晶性樹脂とに区別して理解されることが多いが、本願発明では、複合材料を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも一種は結晶性高分子であることが望ましく、特に樹脂製繊維を構成する熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であることが好ましい。
【0041】
結晶性高分子の結晶化度は必ずしも高いものではなく、また測定方法によってはその値は変化することが知られているが、樹脂中に含まれる結晶部の多少は樹脂材料としての物理的性質に多大な影響を及ぼす。結晶性の僅かな差でも耐熱性や耐衝撃性等や大きく変化する樹脂が多く、逆に結晶化度を調節することによって所望の性能を付与させることもしばしば行われる。本願では、熱可塑性樹脂Bとして用いる場合に、結晶化度が高いあるいは結晶化度を高めた樹脂を利用することが望ましい。また結晶化度を変化させることで、全く同一材料でも加工温度に違いが生じることから本願発明の複合材料は、場合によっては一種類の熱可塑性樹脂から構成することも可能である。
【0042】
かかる結晶化度の調節には、一般的に樹脂のガラス転移温度以上の温度で一定時間熱処理することが好適に用いられるが、吸湿性の樹脂であれば熱水処理もまた有効な手段である。なお、ここでいう結晶化度の調節には、結晶/非晶の比率を変えること以外にも、結晶を構成する高分子鎖の再配列を伴う結晶部密度の変化も含まれる。
【0043】
樹脂製繊維の大きさは、平均粒子径として10nm以上であることが好ましく、5000nm以下であることが好ましい。10nmより小さい場合、後述の複合材料成形体の製造時に熱可塑性樹脂の繊維への含浸が困難になり好ましくない。一方で5000nmより大きい場合には、複合化に伴う材料物性への改善効果が乏しくなる傾向があり、加えて、通常の溶融紡糸でも十分に作成できる繊維径でもあることから複合材料としては既知である。
【0044】
樹脂製繊維の長さは特に限定されない。すなわち、製造された繊維状成形体をそのまま切断せずに用いてもよく、むしろその方が好ましい。本願発明では後述の電界紡糸法によって得られる不織布状の樹脂製繊維をそのまま用いることが望ましい。なぜなら、熱可塑性樹脂の長繊維が絡み合った形の不織布は、それ自体の引っ張り強さが高いことから、複合材料の強さや靭性への改善効果がある。
【0045】
前記した樹脂製繊維の製造には電界紡糸法が好適に用いられる。電界紡糸法は図1に示すごとく、樹脂溶液を高電圧を印加したシリンジ針とコレクタ間に射出させることによって不織布状の繊維状成形体を得る方法である。既知の不織布製造方法によって得られる繊維状成形体に比べて、得られる樹脂製繊維の直径が小さいことが特徴であり、得られた樹脂製繊維がナノファイバーと呼ばれる所以である。電界紡糸法において、得られる樹脂製繊維の形状に影響を及ぼす因子としては、樹脂の種類、分子量、溶媒の種類、樹脂溶液の濃度、樹脂溶液の射出速度(時間当りの吐出容積)、シリンジ針の直径、シリンジ針先端とコレクタ間の距離、印加電圧、コレクタのアースのとり方等がある。本願発明の樹脂製繊維を得るに当たっては上述の各因子に特別の制限はないが、これらを最適化することで前記した平均粒子径をもつ樹脂製繊維を得ることは必須である。
【0046】
(複合材料の製造方法)
本願発明の複合材料の製造には以下の特徴がある。複合材料を構成する熱可塑性樹脂のうち加工可能温度が高い方、すなわち、樹脂特性として一般的に得られる融点あるいは熱処理等を施すことにより意図的に改変を加えた結果得られる加工可能温度(TB℃)を有する熱可塑性樹脂Bからなる樹脂製繊維と熱可塑性樹脂A(加工可能温度TA℃)とを複合化する際に、その製造温度(TP℃)としてTA<TP<TBであることが必要である。TPがTAより低い場合は複合材料を構成する熱可塑性樹脂の加工可能温度よりも低いため成形そのものが成り立たない。一方でTPがTBよりも高い場合には、樹脂製繊維が溶融するため本願発明の複合形態が成り立たない。かかる温度範囲にある場合には樹脂製繊維は熱可塑性樹脂Aによって含浸されることになり、両者は物理的には一体化される。このとき、温度因子以外には製造方法に関する制限はないが、前記した相溶化剤に相当する一種の界面接着層を形成させるには樹脂製繊維と熱可塑性樹脂とが溶融混合した方が望ましい場合も考えられる。その場合には両者の接触時に印加する圧力等を適切化することが好ましい。
【0047】
本願発明の複合材料は熱可塑性樹脂Bからなる樹脂製繊維が熱可塑性樹脂Aからなる樹脂層で両側からサンドイッチされていることが特徴である。上記した成形時の温度条件下でかかるサンドイッチ構造を形成することで、樹脂製繊維層中に熱可塑性樹脂Aが十分に溶融含浸した構造となり、熱可塑性樹脂AとBが十分に複合化され複合材料成形体を得る。さらにこの複合材料積層体を背気相することで、材料物性を様々に設計し、調整することができる。
【0048】
本願発明の複合材料成形体あるいはその積層体を得るには、成形温度条件を満たす限り、多様な製造方法が適用可能であり、圧縮成形、押し出し成形(複層押し出し)、射出成形(インサート成形)等の一般的な熱溶融加工で対応できる。また、複合化に当たっては樹脂製繊維層と熱可塑性樹脂層の厚みや積層回数等も制限はない。必要とされる材料物性を得るに最適な構成を用いればよい。
【0049】
本発明の複合材料には、その材料物性を損なわない範囲で熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、離型剤、各種の加工助剤が含まれていても良い。
【0050】
本発明の複合材料は薄肉成形品の機械物性や耐熱性あるいはバリア性を改善できるため、チューブやフィルム状のアプリケーションへの応用が考えられる。具体的には、カテーテル、創傷被覆材、飲料ボトルや包装フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
<樹脂製繊維の作製>
ポリアミド6樹脂(PA6と表記、融点:220℃、ユニチカ社製 A1030BRL)および合成フッ素雲母のナノシートで補強されたポリアミド6のナノコンポジット樹脂(PA6NCと表記、融点:220℃、ユニチカ社製 M1030DH)のペレットをそれぞれ80℃で8時間熱風乾燥した後、20wt%ギ酸溶液となるように調製した。電界紡糸は別途作製したポリアミド12(PA12と表記、融点:176℃、アルケマ社製 リルサン AESN O-TL)のフィルム(厚さ100mm)をアルミ製コレクタ上に設置することで行った。具体的には、20〜22kVの印加電圧、直径25Gのシリンジ針、3ml/hの射出速度、シリンジ-コレクタ間距離8cmの条件であった。作製したポリアミド樹脂製繊維からなる不織布のSEM観察像を図2(ポリアミド6の場合:PA6ナノファイバーと表記)および図3(ナノコンポジットの場合:PA6NCナノファイバーと表記)に示す。得られた不織布状繊維の直径はおよそ100〜400nm程度であり、既製の不織布製造方法によりもさらに細いナノファイバーからなることが分かった。
【0053】
<複合材料の製造>
PA12のフィルム上に作製されたPA6ナノファイバーあるいはPA6NCナノファイバーの上にさらにPA12のフィルム(厚さ100mm)を置き、減圧プレス機を用いて200℃の加工温度で全体を圧着した。その後、得られた複合材料シートを80℃で冷却して、回収した。図4に圧着後にダンベル形状に切り出した複合材料シートの外観を示した。SEM観察においてPA12がPA6ナノファイバーあるいはPA6NCナノファイバー不織布層に十分に溶融含浸した場合には、成形品の白化がなく目視観察上は均質なシートが得られることが分かった。図5にPA6NCを用いた場合の断面SEM像を示した。
【0054】
(成形品の性能評価)
<複合材料シートの構成確認>
得られた複合材料シートを液化窒素に浸漬した状態で割ることにより得た断面をFE−SEM観察し、SEM像中のPA12層、PA6ナノファイバー層あるいはPA6NCナノファイバー層の厚さを読み取った。
【0055】
<引張り測定>
厚さ約200mm程度の複合材料シートを小型のダンベル形状に切り出し、100mm/minの速度で引張り試験に供した。
【0056】
〔実施例1〕
PA6ナノファイバー(フィラーは含有しない)を上下からPA12層で挟み込む構成の複合材料シートを前記の方法で作製し、複合材料シートの構成確認および引張り測定に供した。
【0057】
〔実施例2〕
PA6NCナノファイバー(フィラーとして合成フッ素雲母のナノシートを含有)を80℃の温水に2時間浸漬して吸水させた後に取り出し、120℃の温度で6時間熱処理を行った後に、上下からPA12層で挟み込む構成の複合材料シートを前記の方法で作製し、複合材料シートの構成確認および引張り測定に供した。
【0058】
〔比較例1〕
複合材料シートの厚さに合わせて成形したPA12のシートを作製し、引張り測定に供した。
【0059】
〔比較例2〕
PA6のフィルム(電界紡糸はしていない)を上下からPA12層で挟み込む構成の複合材料シートを前記の方法で作製し、複合材料シートの構成確認および引張り測定に供した。
【0060】
〔比較例3〕
PA6NCのフィルム(電界紡糸はしていない)を上下からPA12層で挟み込む構成の複合材料シートを前記の方法で作製し、複合材料シートの構成確認および引張り測定に供した。
【0061】
実施例1〜2および比較例1〜3で得られた複合材料シートの構成および引張り試験結果をまとめて表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例1ではPA12を超える大きな初期弾性率を有しながら大きな破断伸びを示しており、相溶化剤等を用いずにPA12を改良できたことを意味する。すなわち、不織布層の形状を残しながら複合化がなされたことを示している。合成フッ素雲母のナノシートがフィラーとして配合された樹脂製繊維を用いた実施例2では、実施例1よりも伸びは低下するものの、より高い弾性率および破断強さをもつ複合材料が得られた。
【0064】
一方、比較例2および3では大きな伸びが認められないことから、単純なシートの圧着では相溶化剤(接着層)を適切に設けないと複合化の効果が得られないことが分かった。また比較例1のPA12の原料シートのみでは既知の材料特性に応じた弾性率と伸びが測定され、比較例として十分採用しうる値であると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の熱可塑性樹脂複合材料は、それを構成する原料樹脂の組み合わせを最適に選ぶことで、ポリマーアロイに準じた相溶化剤等を用いることなく、シンプルな組成で構成樹脂の性質を重ね合わせた材料特性を有する複合材料を形成することができる。
本発明の複合材料は薄肉成形品の機械物性や耐熱性あるいはバリア性を改善できるため、チューブやフィルム状のアプリケーションへの応用が考えられる。具体的には、カテーテル、創傷被覆材、飲料ボトルや包装フィルム等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Aよりも高い加工可能温度を有する熱可塑性樹脂Bの樹脂製繊維とからなる複合材料であって、前記熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Bがその繰返し分子鎖構造において同じ種類の樹脂であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂Aおよび/または前記樹脂製繊維が球状、板状、繊維状および針状のフィラーのうちいずれか1以上のフィラーで複合化されていることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記樹脂製繊維が電界紡糸法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記樹脂製繊維が電界紡糸法によって形成された不織布であることを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記樹脂製繊維の両側に熱可塑性樹脂Aを位置させ、熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で、熱可塑性樹脂Aを溶融して複合化したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
熱可塑性樹脂Aと前記熱可塑性樹脂Aよりも高い加工可能温度を有する熱可塑性樹脂Bの樹脂製繊維とからなる複合材料の製造方法であって、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂Aと請求項1から4のいずれかに記載の樹脂製繊維を用い、前記樹脂製繊維の両側に前記熱可塑性樹脂Aを接触させて位置させ、前記熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、前記熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で、熱可塑性樹脂Aを溶融して複合化することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の複合材料をフィルム、シートまたは板状に成形したことを特徴とする複合材料成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の複合材料成形体を積層し、熱可塑性樹脂Aの加工可能温度以上、熱可塑性樹脂Bの加工可能温度以下の温度で融着させてなることを特徴とする複合材料成形体の積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178870(P2011−178870A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43665(P2010−43665)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集58巻2号」に発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】