説明

耐アルカリ性バインダー樹脂組成物

【課題】本発明は、耐水性、耐アルカリ性、耐薬品性が極めて優れており、更に保存安定性も良好なバインダー樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体100重量%中にエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、及びN−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.1〜5重量%と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.2〜5重量%とを含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関し、更に詳しくは、得られる塗膜の耐薬品性、耐水性、耐アルカリ性に優れた耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バインダー樹脂組成物は、様々な分野で使用されており、その適用範囲は拡大の一途をたどっているが、それに伴い、バインダー樹脂組成物に対する要求性能もますます高度化している。近年では、密着性、耐薬品性、耐湿性、耐候性、耐(温)水性、耐アルカリ性、汚染回復性などの性能バランスに優れ、かつ硬度の高い塗膜を形成し得るバインダー樹脂組成物が求められている。このような要求の一部を満たすバインダー樹脂組成物として、オルガノシランの部分縮合物、コロイダルシリカの分散液及びシリコーン変性アクリル樹脂からなる組成物(特許文献1)、あるいはオルガノシランの縮合物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および加水分解性シリル基含有ビニル系樹脂からなる組成物(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、これらのバインダー樹脂組成物は、いずれも溶剤型であり、近年における低公害、省資源、安全衛生などの観点から、脱溶剤化への要請が強く、水系へと移行しつつある。
【0003】
しかし水系のバインダー樹脂組成物は、様々な物性の中でも特に耐水性、耐アルカリ性、耐薬品性などが溶剤型のものに比べて劣るという問題があった。そのような中で、耐水性、耐アルカリ性、耐薬品性などの性能の向上を期待できるものとして、反応型樹脂エマルジョンの開発が鋭意検討され、その一つに加水分解性シリル基を有する樹脂エマルジョンが提案されている。その例として、特許文献3には、加水分解性シリル基とアミンイミド基とを有するビニル系重合体を含有する反応型樹脂エマルジョンが、又、特許文献4には、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体の水分散体とスズ化合物の水分散体からなる水性塗料組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの加水分解性シリル基含有樹脂エマルジョンは、保存安定性に劣り、特にこのエマルジョンを長期間保存した場合、ゲル化してしまう、又は長期保存後のエマルジョンから得られる塗膜の性能が、製造直後のエマルジョンから得られる塗膜とは異なり、安定した品質を確保できないという欠点があり、実用性の面で問題がある。あるいは、保存安定性が比較的良好な場合にも、密着性、耐薬品性、耐湿性、耐候性、耐(温)水性、汚染回復性などを総合した性能バランスの面で、満足できないものであった。
【特許文献1】特開昭60−135465号公報
【特許文献2】特開昭64−1769号公報
【特許文献3】特開平7−26035号公報
【特許文献4】特開平7−91510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を背景になされたもので、耐水性、耐アルカリ性、耐薬品性が極めて優れており、更に保存安定性も良好なバインダー樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、エチレン性不飽和単量体100重量%中に、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、及びN−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.1〜5重量%と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.2〜5重量%とを含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関する。
【0007】
又、第2の発明は、エチレン性不飽和単量体100重量%中に、カルボキシル基含有不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.5〜10重量%を含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンと、カルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物とを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関する。
【0008】
又、第3の発明は、エチレン性不飽和単量体100重量%中にカルボニル基含有不飽和単量体0.5〜10重量%を含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンと、カルボニル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物とを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関する。
【0009】
又、第4の発明は、更に、エチレン性不飽和単量体中に、スチレン、2−エチルヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも1つの単量体を含むことを特徴とする第1〜3いずれかの発明の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、極めて優れた耐水性、耐アルカリ性、耐薬品性をもち、更に保存安定性も良好なバインダー樹脂組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物は、特定の官能基を有するエチレン性不飽和単量体を含む単量体を乳化重合して得られる架橋型エマルジョンを含む。架橋型エマルジョンが、特定の官能基による架橋構造をとることにより、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性、基材との密着性及び可とう性に優れたバインダー樹脂組成物を得ることができる。本発明における架橋型エマルジョンの架橋構造は、粒子内部での架橋であっても粒子同士による架橋であってもよく、更には別途、架橋剤を添加して架橋したものであってもよい。
【0012】
まず、架橋型エマルジョンの架橋構造が粒子内部での架橋である場合について説明する。この場合の、本発明の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に用いる架橋型エマルジョンは、エチレン性不飽和単量体100重量%中に、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、及びN−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.1〜5重量%と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.2〜5重量%と、を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合することにより得ることができる。
【0013】
エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、及びN−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体が0.1重量%未満であるとエマルジョンの架橋が十分でなくなり、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなる。又、5重量%を超えると、乳化重合する際の重合安定性に問題を生じるか、重合できたとしても保存安定性に問題を生じる。
【0014】
又、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体が0.2重量%未満であると、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなるとともに、エマルジョンの安定性も悪くなる。又、5重量%を超えると、乾燥後の親水性が強くなりすぎて高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなる。
【0015】
エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体中のエポキシ基は、重合中及び乾燥時にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体中のカルボキシル基と反応してエマルジョン粒子に架橋構造を導入できる。この時、ターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体中のターシャリーブチル基も一定温度以上の熱が加わるとターシャリーブチルアルコールが生成するとともにカルボキシル基が形成されるため、前記同様エポキシ基と反応することができる。エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0016】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体中のアルコキシシリル基は、主に重合中にお互いが反応してエマルジョン粒子に架橋構造を導入できる。アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0017】
N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体中のN−メチロール基は、主に重合中にお互いが反応してマルジョン粒子に架橋構造を導入できる。N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0018】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などが挙げられる。又、ターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体としては、ターシャリーブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
次に、架橋型エマルジョンの架橋構造が粒子間での架橋である場合について説明する。この場合の、本発明の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に用いる架橋型エマルジョンは、エチレン性不飽和単量体100重量%中に、カルボキシル基含有不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体を0.5〜10重量%含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合することにより得ることができる。更にこの場合は、得られたエマルジョンにカルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物を架橋剤として添加し、バインダーとして使用して乾燥する際に架橋構造を導入することができる。
【0020】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体が0.5重量%未満であると、エマルジョンの架橋が十分でなくなり、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなるとともに、エマルジョンの安定性も悪くなる。又、10重量%を超えると、乾燥後の親水性が強くなりすぎて高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなるとともに、架橋剤を添加した後の安定性が悪くなる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体としては、上記したものと同様の単量体が挙げられる。
【0021】
架橋剤として使用するカルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物としては、例えば、多官能エポキシ化合物、多官能アミン化合物、多官能アジリジン化合物、多官能カルボジイミド化合物、多官能オキサゾリン化合物、及び金属キレート化合物などが挙げられる。
【0022】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1、3−ビス(N、N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0023】
多官能アジリジン化合物としては、例えば、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1、3、5−トリアジン、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−(2−メチル)アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)−2−メチルプロピオネート]、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラ[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、ジフェニルメタン−4,4−ビス−N,N’−エチレンウレア、1,6−ヘキサメチレンビス−N,N’−エチレンウレア、2,4,6−(トリエチレンイミノ)−Syn−トリアジン、ビス[1−(2−エチル)アジリジニル]ベンゼン−1,3−カルボン酸アミド等が挙げられる。
【0024】
多官能カルボジイミド化合物としては、例えば、カルボジイミド基(−N=C=N−)を分子内に2個以上有する化合物が好ましく用いられ、公知のポリカルボジイミドを用いることができる。
【0025】
又、多官能カルボジイミド化合物としては、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドも使用できる。このような化合物としては、以下のジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させたものが挙げられる。
【0026】
ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1−メトキシフェニル−2,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートの内の一種、または、これらの混合物を使用することができる。
【0027】
カルボジイミド化触媒としては、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシドを利用することができる。
【0028】
このような多官能カルボジイミド化合物としては、例えば、日清紡績株式会社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。その中でもカルボジライトV−01、03、05、07、09は有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0029】
多官能オキサゾリン化合物としては、分子内にオキサゾリン基を2個以上有する化合物が好ましく用いられ、具体的には、2’−メチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−プロピレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−フェニレンビス−2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)等を挙げることができる。または、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンや、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリンなどのビニル系単量体と、これらのビニル系単量体と共重合しうる他の単量体との共重合体でもよい。
【0030】
金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウムなどの多価金属がアセチルアセトンやアセト酢酸エチルに配位した化合物が挙げられる。
【0031】
これらの化合物は、架橋型エマルジョンの固形分100重量部に対して0.1〜10重量部添加するのが好ましく、1〜5重量部添加するのが更に好ましい。
【0032】
更に、本発明では、耐アルカリ性バインダー樹脂組成物に用いる架橋型エマルジョンは、エチレン性不飽和単量体100重量%中に、カルボニル基含有不飽和単量体を0.5〜10重量%含む単量体を乳化重合することにより得ることができる。更にこの場合も、得られたエマルジョンにカルボニル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物を架橋剤として添加し、バインダーとして使用して乾燥する際に架橋構造を導入する。
【0033】
カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体が0.5重量%未満であると、エマルジョンの架橋が十分でなくなり、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性が悪くなる。又、10重量%を超えると、架橋剤を添加した後の安定性が悪くなる。カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0034】
架橋剤として使用するカルボニル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物としては、1分子中に少なくとも2つのヒドラジド基を有するヒドラジン誘導体が挙げられ、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの脂肪族ジヒドラジドの他、炭酸ポリヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸のポリヒドラジド、芳香族炭化水素のジヒドラジド、ヒドラジン−ピリジン誘導体及びマレイン酸ジヒドラジドなどの不飽和ジカルボン酸のジヒドラジドなどが挙げられる。これらの化合物は、エマルジョンの固形分100重量部に対して0.1〜10重量部添加するのが好ましく、1〜5重量部添加するのが更に好ましい。
【0035】
本発明の架橋型エマルジョンを重合して得る際に使用しうる、上記エチレン性不飽和単量体以外の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコールなどの水酸基含有エチレン性不飽和化合物;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のジアルキルアミノ基含有エチレン性不飽和化合物;
(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メチロール)アクリルアミド、N−メチロール−N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド等の置換もしくは非置換のアミド基含有エチレン性不飽和化合物;
パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルウンデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;
パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレン等のパーフルオロアルキルアルキレン類等のパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和化合物;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;
ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;
(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、及びトリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和化合物;
酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル系化合物;
ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系化合物;
1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等のα−オレフィン系化合物;
酢酸アリル、アリルベンゼン、シアン化アリル等のアリル化合物;
シアン化ビニル、ビニルシクロヘキサン、ビニルメチルケトン、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、クロロスチレンなどのビニル化合物;
アセチレン、エチニルベンゼン、エチニルトルエン等のエチニル化合物が挙げられる。
【0036】
これらの単量体中でもスチレン、2−エチルヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも1つの単量体を使用することが、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性、基材との密着性及び可とう性に優れるため好ましい。スチレンを使用する場合、その使用量は、エチレン性不飽和単量体100重量%中、5〜60重量%であるのが好ましい。又、2−エチルヘキシルアクリレートを使用する場合、その使用量は、エチレン性不飽和単量体100重量%中、20〜60重量%であるのが好ましい。又、シクロヘキシルメタクリレートを使用する場合、その使用量は、エチレン性不飽和単量体100重量%中、5〜50重量%であるのが好ましい。
【0037】
本発明の架橋型エマルジョンは、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0038】
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤、及び/又はエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0039】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、耐アルカリ性や耐水性を向上することができるために好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0040】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104等);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2等);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、SE−等);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30等);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70等)が挙げられる。
【0041】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450等);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40等);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114等)が挙げられる。
【0042】
本発明の架橋型エマルジョンを乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
【0043】
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等を例示することができる。
【0044】
又、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類等を例示することができる。
【0045】
本発明において用いられる乳化剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、架橋型エマルジョンが最終的に耐アルカリ性バインダー樹脂組成物として使用される際に求められる物性に従って適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、乳化剤は通常0.1〜30重量部であることが好ましく、0.3〜20重量部であることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の架橋型エマルジョンの乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;
グアガムなどの天然多糖類;などが挙げられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部当り0.1〜5重量部であり、更に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0047】
本発明の架橋型エマルジョンの乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0048】
本発明の架橋型エマルジョンを得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1'−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾビス化合物等を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0049】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。又、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、全エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0050】
更に必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、又、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0051】
架橋型エマルジョンの重合にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体等の酸性官能基を有する単量体を使用した場合、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン類;
2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類;
モルホリン等の塩基で中和することができる。ただ、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。
【0052】
又、架橋型エマルジョンの樹脂のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は、−5〜70℃が好ましく、10℃〜50℃が更に好ましい。Tgが−5℃未満の場合、塗膜にタックが発生しやすくなり、高濃度のアルカリに対する耐性や耐水性も悪くなる場合が多い。又、Tg が70℃を超えると、塗膜の柔軟性が乏しくなり、塗膜の成形性が劣る場合がある。なお、ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値である。
【0053】
又、本発明においては架橋型エマルジョンの粒子構造を多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部又はシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性を向上させることができる。
【0054】
架橋型エマルジョンの分散粒子の平均粒子径は、エマルジョンの安定性の点から、10〜500nmであることが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。又、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになるとエマルジョンの安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5重量%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0055】
本発明の架橋型エマルジョンには、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0056】
成膜助剤は、塗膜の形成を助け、塗膜が形成された後においては比較的速やかに蒸発揮散して塗膜の強度を向上させる一時的な可塑化機能を担うものであり、沸点が110〜200℃の有機溶剤が好適に用いられる。具体的には、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール、ベンジルアルコール等が挙げられる。中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルは少量で高い成膜助剤効果を有するため特に好ましい。これら成膜助剤は、架橋型エマルジョンの固形分100重量部に対して1〜30重量部含まれることが好ましい。
【0057】
粘性調整剤は、架橋型エマルジョン100重量部に対して1〜100重量部用いてもよい。粘性調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(及びその塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。
【0058】
本発明の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物は、建築物や構造物に使用されるコンクリート、モルタルやスレート板、ALC板(軽量気泡コンクリートパネル)、サイディングボード等の窯業系建材等のアルカリ基材表面被覆用の水性建築塗料や、金属表面処理剤、キャパシタ、アルカリ電池用セパレーター、電極バインダー、太陽電池等に使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0060】
実施例1
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)0.2部とを仕込み、別途、スチレン10部、2−エチルヘキシルアクリレート60部、メチルメタクリレート10部、シクロヘキシルメタクリレート10部、アクリル酸5部、アクリルアミド1部、グリシジルメタクリレート4部、イオン交換水53部及び界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%を更に加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を70℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液の残りを3時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。25%アンモニア水を添加して、pHを8.5とし、更にイオン交換水で固形分を48%に調整して架橋型エマルジョンを得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
[実施例2〜4及び比較例1〜2]
表1に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、実施例2〜4の架橋型エマルジョン及び比較例1〜2の非架橋型エマルジョンを得た。
【0061】
[実施例5〜7]
表1に示す配合組成で、実施例1と同様の方法でエチレン性不飽和単量体を重合し、エマルジョンを合成した後に、表1に示した架橋剤を添加して実施例5〜7の架橋型エマルジョンを得た。なお、使用する界面活性剤の10%を反応容器に仕込み、残りの90%をプレエマルジョンの作製に使用した。
【0062】
【表1】

【0063】
カルボジライト V−02;カルボジイミド硬化剤(日清紡績株式会社製、NCN当量600)
アデカリアソープSR−10;アルキルエーテル系アニオン界面活性剤(株式会社ADEKA製)
アデカリアソープER−20;アルキルエーテル系ノニオン界面活性剤(株式会社ADEKA製)
【0064】
[塗膜の作成]
得られたエマルジョン中の固形分100重量部に対してエチレングリコールモノブチルエーテルを2重量部添加し、更に固形分が40%になるように適量のイオン交換水を加えてバインダー樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をガラス基板に塗布し80℃10分乾燥し透明な塗膜を得た。実施例及び比較例で得られたバインダー樹脂組成物について、上記の方法で塗膜を作成し、耐水性、耐アルカリ性及びエマルジョンの保存安定性を評価した。
【0065】
(耐水性)
作製した塗膜をイオン交換水に40℃、12時間浸漬し、浸漬前後の塗膜の重量変化率で判定した。評価基準を下記に示す。評価結果を表2に示す。
○:「重量変化5%未満」
○△:「重量変化5%以上10%未満」
△×:「重量変化10%以上20%未満」
×:「重量変化20%以上」
【0066】
(耐アルカリ性)
作成した塗膜を6規定の水酸化カリウム水溶液に40℃、12時間浸漬し、浸漬前後の塗膜の重量変化率で判定した。評価基準を下記に示す。評価結果を表2に示す。
○:「重量変化5%未満」
○△:「重量変化5%以上10%未満」
△×:「重量変化10%以上20%未満」
×:「重量変化20%以上」
【0067】
(保存安定性評価)
実施例1〜7、比較例1〜2で得られたバインダー樹脂組成物を40℃にて1週間保存し、保存前後の粘度変化率で評価を行った。保存前の粘度を基準として1週間保存後の粘度変化率が±10%以内であれば○、±10%以上であれば×とした。評価結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、実施例1〜7の架橋性エマルジョンを用いたバインダー樹脂組成物は、耐水性、高濃度のアルカリに対する耐性、保存安定性のバランスが取れている。一方、比較例1、2の非架橋性のエマルジョンを用いたバインダー樹脂組成物は、エマルジョンの安定性がよいものもあるが、どちらも耐水性や高濃度のアルカリに対する耐性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体100重量%中に、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、及びN−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.1〜5重量%と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.2〜5重量%とを含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体100重量%中に、カルボキシル基含有不飽和単量体、及びターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体0.5〜10重量%を含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンと、カルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物とを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体100重量%中にカルボニル基含有不飽和単量体0.5〜10重量%を含む単量体を乳化重合してなる架橋型エマルジョンと、カルボニル基と反応しうる官能基を少なくとも2つ有する化合物とを含むことを特徴とする耐アルカリ性バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
更に、エチレン性不飽和単量体中に、スチレン、2−エチルヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも1つの単量体を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の耐アルカリ性バインダー樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−235139(P2009−235139A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79410(P2008−79410)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】