説明

耐摩耗性材料

マトリックス材料の硬度を増大し、その耐摩耗性を改善するための硬質相材料を提供する。硬質材料はAlB8-16構造を有するホウ化アルミニウム材料である。ホウ化アルミニウム硬質相は、粒子状ホウ化アルミニウムをマトリックス材料と混合、マトリックス材料からのホウ化アルミニウムの沈殿を介してマトリックス材料に組み込んでもよい。ホウ化アルミニウム硬質相を含む材料を硬質耐摩耗性材料を提供するために、コーティング用途に用いてもよい。冶金生成物の硬度及び耐摩耗性を改善するために、ホウ化アルミニウム硬質相を冶金生成物に組み込んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬質相材料、より詳細にはコーティング及び冶金製品の硬度及び耐摩耗性を増大させるのに用いられ得る硬質相材料に関するものである。特に、金属コーティングマトリクスに組み込まれたときに、AlB8−16をベースにしたホウ化アルミニウム化合物は金属コーティングの硬度を増大させることを開示する。本発明はまた、供給原材料としての主要なホウ化アルミニウム化合物、及び、これを金属、セラミック又はポリマーマトリックス材料に組み込んだものを製造する方法に関するものである。さらに、本発明はまた、特定の同定された合金組成物で、種々の選択された濃度で主要なホウ化アルミニウム化合物の選択的組み込みに関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性材料は、その下の材料をこすり、衝撃、摩擦等の簡単な損傷を生ずる機械的な作用から保護するためにコーティング又は硬化の用途に用いられることが多い。耐摩耗コーティング又は硬化は、一様に硬い又は耐摩耗性材料の層を含んでもよい。しかしながら、かかる材料は高価であることが多く、それ自体コーティングを形成するのが容易でないこともある。このため、耐摩耗コーティングを行う際の手法としては、硬質相をコーティング若しくは硬化工程をしやすく、よりコストのかからない材料に組み込むことである。効果的な耐摩耗コーティング材料を製造するためには、高ボリュームの硬質相をコーティング材料に組み込むことを要することもある。
【0003】
耐摩耗コーティングに分散された耐摩耗性材料の硬質相又はドメインはセラミック材料であるのが通常である。特に一般に適したセラミック材料は、(共有結合であることもあるが)非常に強いイオン結合につながる電子移動を含む化学的構造を有する。その結果、非常に安定で、強く、非常に高融点の化合物である。
【0004】
従来、耐摩耗コーティング材料は硬質相を組み込んだセラミック、金属若しくは高分子材料である。例えば、硬質相は鉄ベースの合金に組み込まれてもよい。鉄ベースの合金はコーティングを基板に付着できるようにし、硬質相は耐摩耗特性を提供する。セラミック硬質相材料の場合、硬質相はセラミック、金属若しくはポリマーマトリックスに分散された粒子として提供されてもよい。
【0005】
最近、多くの研究開発が、炭化物材料を延性マトリックスに組み込む耐摩耗熱スプレー及び硬化合金の開発に向いている。炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化クロム(Cr)等の炭化物は、コバルト、鉄、ニッケル等の延性材料内に硬質相として用いられてきた。耐摩耗コーティング用の一般的なパラダイムにおいて見られるように、延性コンポーネントは費用効果の高いコーティングを基板上に形成可能とするものであり、他方、炭化物材料は所望の耐摩耗性を提供する。
【0006】
他の耐摩耗コーティングは硬質酸化物から発展してきた。例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化アルミニウム(Al)等は耐摩耗コーティングを形成するのに用いられてきた。炭化物の硬質相を組み込んだコーティングと同様に、酸化物硬質相は金属マトリックスに組み込まれてもよい。また、酸化物ベースのコーティングは硬質酸化物を緻密化してセラミックを形成することによって作製されてきた。
【0007】
炭化物及び酸化物に加えて、ホウ化チタン(TiB)及びホウ化ジルコニウム(ZrB)から成るものもある。炭化物及び酸化物と同様に、ホウ化チタン及びホウ化ジルコニウムを含む耐摩耗コーティングは一般に、ホウ化チタン及びホウ化ジルコニウムの硬質相を金属、セラミック若しくはポリマーマトリックスとして提供することによって作製さされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐摩耗性材料、金属コーティング、粉末材料、ワイヤー材料、又は冶金製品はホウ化アルミニウムを備える。ホウ化アルミニウムは一般式AlB8−16であり、例えば、AlB、AlB、AlB10、AlB11、AlB12、AlB13、AlB14、AlB15、AlB16、及び、前記組成範囲内の他の化合物、並びにこれらの混合物である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
方法については、本発明は、一般式AlB8−16のホウ化アルミニウムを備えた耐摩耗性材料を作製する方法であって、一般式AlB8−16のホウ化アルミニウムを供給する段階と、前記ホウ化アルミニウムを金属材料、セラミック材料又はポリマー材料のうちの一つに組み込む(インコーポレートする)段階とを備えた方法に関するものである。
【0010】
他の実施形態では、本発明は、耐摩耗コーティングを作製する方法であって、一般式AlB8−16のホウ化アルミニウムを備えた材料を提供する段階と、前記材料を溶融すること、及び、前記溶融された材料を基板の上につける段階と、前記コーティングを形成する段階とを備えた方法に関するものである。
【0011】
他の実施形態では、本発明は鉄ベースの合金の硬度を増大する方法であって、硬度を有する鉄合金を供給する段階と、ホウ化アルミニウムを一般式AlB8−16の前記鉄合金に加える段階と、前記ホウ化アルミニウムを加えることによって前記鉄合金の前記硬度を増大する段階とを備えた方法に関するものである。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、アルミニウムとホウ素とが元素として又は標準的な原料の態様(例えば、ホウ素についてフェロボロン)で添加された合金において一般式AlB8−16を有するホウ化アルミニウム相を形成する方法に関するものである。
【0013】
他の実施形態では、本発明は粉末原料を作製する方法であって、金属粉末を備える段階と、一般式AlB8−16を有するホウ化アルミニウムを備える段階と、前記金属粉末と前記ホウ化アルミニウムとを結合して前記粉末原料を作製する段階を備えた方法に関するものである。
【0014】
他の実施形態では、本発明は冶金製品を作製する方法であって、一般式AlB8−16を有する粉末のホウ化アルミニウムを供給する段階と、前記ホウ化アルミニウムを所望の形状に形成する段階とを備えた方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、マトリックス材料に組み込まれたときに、硬度及び耐摩耗性を増大させる硬質相材料に関するものである。特に、本発明の硬質相材料は一般式AlB8−16を有するホウ化アルミニウムである。ホウ化アルミニウムはAlB12の構造を有する二元化合物であるのが好ましいが、AlB12について記載しているが、この組成に限定されない。本発明では、ホウ化アルミニウムは固体−固体混合を介してマトリックス材料に組み込んでもいいし、ホウ化アルミニウムとマトリックス材料を固体−液体混合してもよい。また、ホウ化アルミニウムは、マトリックス材料を含有するアルミニウム及びホウ素からのホウ化アルミニウムの沈殿を介してマトリックス材料に組み込んでもよい。
【0016】
表1は、従来の硬質相材料をサンプリングしてその硬度及び密度をリストにしたものである。ホウ化アルミニウムの硬度及び密度も表1に示す。表1に示したように、ホウ化アルミニウムは硬度26GPaで、密度2.58g/cmを有する。ホウ化アルミニウムの硬度は従来の硬質相材料のものと匹敵するが、密度は多くの硬質相材料のものより比較的低い。ホウ化アルミニウムと炭化タングステンとの間の密度の差は特に大きい。
【表1】

【0017】
多くの従来の硬質相材料に対してホウ化アルミニウムの密度が低いために、かなり低い重量パーセントのホウ化アルミニウムがマトリックス材料で硬質相の大きめの体積の破片を形成する。従って、ホウ化アルミニウムには、多くの従来の硬質相材料に比して、所定の重量パーセントではマトリックス材料が多く含まれている。好適に低密度のホウ化アルミニウム相、AlB12を組み込む有利な効果を、表2に例を示す。
【表2】

【0018】
本発明に合致するように、ホウ化アルミニウム硬質相が金属マトリックスの第2の相沈殿物として形成されるのが好ましい。液相又は固相反応を介した金属マトリックスのホウ化アルミニウム硬質相を形成することによって、硬質相を金属マトリックスに機械的に混合する必要はない。機械的混合を介して硬質相を金属マトリックスに混合するときに、金属マトリックスに溶け込み得る硬質相の濃度は液体溶解性のために制限されることがよくあることは当業者は認識するだろう。
【0019】
本発明では、多量のホウ素及びアルミニウム(典型的には、アルミニウム及びホウ素を合わせて50原子パーセント)を金属系の液相に溶解するという鉄、ニッケル、コバルト含有合金のような金属系の能力は、インサイチューでホウ化アルミニウム硬質相を形成するという特徴を有してもよい。インサイチューのホウ化アルミニウム硬質相の形成は、分離した要素としてすなわち既にホウ化アルミニウムでない状態でホウ素とアルミニウムとを金属系に溶解することによって実現してもよい。アルミニウム及びホウ素は液相金属系において互いに反応してホウ化アルミニウムを形成してもよい。ホウ化アルミニウムは、液相金属系から沈殿してもよいし、固化中に形成してもよいし、又は、その後の熱処理を介して固体沈殿を介して形成してもよい。
【0020】
第2の相の沈殿を介してインサイチューで硬質相を形成する能力は、ホウ素を含む合金において硬質相を形成するのに用いられるときに特に有利であり得る。多くのニッケル及び鉄をベースにした合金は共通に、15原子%から20原子%のホウ素を組み込んでいる。少量のアルミニウムをこのような高ホウ素合金に添加してもよいし、合金においてホウ素と反応してもよい。添加したアルミニウムが合金内のホウ素と反応するときは、ホウ化アルミニウム沈殿物は、本発明に従って、過飽和固溶体から形成され得る。
【0021】
一の態様では、本発明は材料の耐摩耗特性を改善する方法を提供する。上述したように、ホウ化アルミニウムの比較的高い硬度はマトリックス又はベース、ホウ化アルミニウムを組み込んだ材料、好適には一般式AlB12のホウ化アルミニウムの硬度及び耐摩耗性を強化する。本発明の第1の態様に対応するホウ化アルミニウムを含む材料は、マトリックス材料の耐摩耗性を強化する従来の組み込み技術を用いてマトリックス材料に組み込まれてもよい。ホウ化アルミニウムを組み込むことによって耐摩耗性が改良された材料は、表面硬化用、又は、マトリックス材料の機械的な摩耗を低減するための特別な応用に用いてもよい。
【0022】
他の態様では、原材料は、金属マトリックス、セラミックマトリックス又はポリマーマトリックスに組み込まれる好適なAlB12を含んでいる。原材料は最終的には、種々のその後の工程において適切な、粉末、ワイヤー、ロッド等として供給されてもよい。例の金属材料には鉄、ニッケル及びコバルト合金が含まれる。ポリマーマトリックス材料の例としては、ケブラ(KevlarTM)のような芳香族ポリアミドや、スペクトラ(SpectraTM)の名称で市販されている配向性ポリエチレンのようなポリオレフィン材料を含まれる。
【0023】
この態様に合致するように、ホウ化アルミニウム硬質相は、従来の酸化物又は炭化物粒子を作るのに用いられるもののような適切な化学的工程を用いて合成してもよい。当業者であれば、種々の代替工程が生のホウ化アルミニウム硬質相を作るのに用いられてもよいことは理解するだろう。必要ならば、ホウ化アルミニウムの粒子サイズは例えば、研磨、高エネルギーフライス等によって、所望のサイズ範囲に小さくしてもよい。サイジングに続き、典型的には0.5ミクロンから500ミクロンのサイズ範囲である好適な粒子AlB12を適当なマトリックスに組み込んでもよい。
【0024】
一例として、高速度酸素燃料(HVOF)熱スプレーコーティングに適した粉末原材料は、ホウ化アルミニウム硬質相を鉄、ニッケル及びコバルト含有金属マトリックス合金のような金属バインダーと混合することによって準備してもよい。金属バインダーは粉末として供給してもよく、硬質相と液体とを混合してスラリを形成してもよい。必要というわけでないが、液体成分の使用は混合及び金属バインダーに対する硬質相の分散を容易にしてもよい。次いで、スラリは粉末原材料を製造するために、例えば、スプレー乾燥によって乾燥してもよい。この技術を用いて用意した粉末原材料は、プラズマ溶射(スプレー)、フレーム溶射等の他の公知の熱的な溶射コーティング応用と共に用いるのに適していてもよい。
【0025】
好適なAlB12硬質相を含む原材料を用意するための他の例示的なアプローチには、コーティング系に用いるために、構成要素のアルミニウムとホウ素とを金属マトリックスの合金に添加することを含む。次いで、合金は、気体、水、又は遠心噴霧等の従来の方法を用いて粉末に処理してもよい。このアプローチに従うと、所望のホウ化アルミニウム相は、溶解/噴霧工程中、固化又はその後の冷却中、又は、その後のポスト熱処理を介した過飽和固溶体からの沈殿を介しての液体状態反応によって合金においてインサイチューで形成されてもよい。
【0026】
好適なAlB12相を含む原材料は種々の技術によって処理されてよい。例えば、ホウ化アルミニウムを含む粉末原材料を、改善された耐摩耗性を有するコーティングを作製するために基板に付けてもよい。表面コーティングを、プラズマ噴射、フレーム噴射、HVOF噴射等を含む従来の熱噴射法を用いて基板に付けてもよい。同様に、耐摩耗性コーティングを、例えば、プラズマ・トランスファー・アーク溶接や当該分野において同様な法による溶接(weld-on)表面硬化を介して基板に付けてもよい。本発明においては、粉末とはミクロンサイズ範囲の粒子を意味すると理解されるだろう。粒子をある大きさのサイズにし、選別して、工学的な処理のための適当なサイズ範囲である原材料粉末を作り上げる。例えば、高速度酸素燃料粉末は+15ミクロンから−53ミクロンでサイズ化され、プラズマ噴射粉末は+45ミクロンから−106ミクロンでサイズ化され、プラズマ・トランスファー・アーク溶接オーバレイ粉末は+53ミクロンから−150ミクロンでサイズ化される。
【0027】
他の例では、ホウ化アルミニウムはワイヤー又はロッドに組み込まれてもよい。ホウ化アルミニウム粉末、又はホウ化アルミニウム含有粉末原材料、又は種々の形態のアルミニウム及びホウ素を用いてワイヤー又はロッドのコアを形成してもよい。ホウ化アルミニウムコアを有するワイヤー又はロッドを、ツインロールワイヤーアーク、活性アーク、又は高速度アーク工程を含む工程を用いてコーティングを堆積するために用いてもよい。sらに、表面硬化コーティングを、MIG、TIG、又は、ホウ化アルミニウムを含むワイヤー又はロッドを用いてスティック溶接工程を介して作り上げることができる。
【0028】
基板上の耐摩耗性コーティング又は溶接部の形成に加えて、ホウ化アルミニウム粉末、又はホウ化アルミニウム含有粉末原材料は単独で処理されて、種々の粉末冶金生成物を形成する。粉末原材料を含むホウ化アルミニウムを公知の粉末生成工程を受けやすい。工程の例としては、プレス及び焼結、粉末鍛造、高温等圧圧縮(HIP)、及び金属射出成型を含む。これらの工程はそれぞれ、通常は、粉末材料を所望のニア・ネット・シェイプを有するプリフォームに予備成形することを含む。次いで、粉末は、プリフォームを緻密化し、粉末を固体物に固めるために加熱する。粉末を緻密化し、固体物に固める工程はしばしば圧力下で行われる。
【0029】
同様に、好適なAlB12を組み込んだ固体生成物は、高温押し出し、及び等チャネル押し出しを含む押し出し工程を介して形成されてもよい。従来のプロファイル押し出しに対応して、定断面積プロファイルを有する線形部材を生成してもよい。
【0030】
本発明の他の態様では、特定の合金組成物は、ホウ化アルミニウムの組み込み又は沈殿が硬度及び耐摩耗性において特に有効な改善を示すことが確認された。ホウ化アルミニウムの含有を有効に示すものと確認された一の特定の合金は、一般的な組成物Fe52.3Mn2Cr19Mo2.51.7164Si2.5を有するスーパーハードスチール(Superhard SteelTM)合金である。本発明においては、Superhard SteelTM合金は一般には、クロム、モリブデン及びタングステンを含む合金を形成する鉄ベースのガラスである。ホウ化アルミニウムは、Superhard SteelTMと又はホウ化アルミニウム相の沈殿を介して混合される粒子状物質成分として、又は、第2相沈殿物として、Superhard SteelTMに容易にくみこまれてもよい。
【0031】
さらに、ホウ化アルミニウム相の形成は、ニッケルベース合金系において好都合に実現されてもよい。ニッケルは17.0原子%、10.0原子%、39.5原子%及び45.3原子%で複数の低融点(<1150℃)の共融合金を有する。これらの低融点の共融合金は、アルミニウム・ホウ素・ニッケルベースの合金系において過飽和固溶体の外に非常に高濃度のホウ化アルミニウムの沈殿を可能とするものである。ホウ化アルミニウムのこのような沈殿は硬質相をニッケル合金系に容易に組み込まれるのを可能にするものである。アルミニウム及びホウ素の添加を、銅−ニッケルモネルのような現在市販の合金、及び、625及び718のようなニッケルベース超合金に組み込むことができる。この例については次のセクションで述べる。
【0032】
さらにまた、ホウ化アルミニウム相の形成は、コバルトベース合金系において好都合に実現されてもよい。ニッケルと同様に、コバルトは、高ホウ素濃縮の処理を可能にするホウ素と共に複数の低融点(<1200℃)の共融合金を形成する。アルミニウム及びホウ素の添加又はAlB12硬質相の組み込みのアプローチは、ステライトのような従来のコバルトベース合金について概念的に用い得、又は、全く新しいコバルトベースの合金形成について用い得る。
【0033】
[実験例]
鉄ベース合金
実験的なセットにおいて、好適なAlB12の鉄ベース合金への添加を立証した。ホウ化アルミニウムの添加により、合金のかなり強化された硬度を生じた。
【0034】
実施した実験において、種々の破片のホウ化アルミニウム及び単体のアルミニウムをスーパーハードスチール(Superhard SteelTM)合金に添加することを含んでいる。ホウ化アルミニウムを組み込んだSuperhard SteelTM合金をインゴットの形にした。出来上がった変性合金は、変性していないSuperhard SteelTM合金と比べてかなり大きな硬度の増大を示すことがわかった。
【0035】
実験では、Fe52.3Mn2Cr19Mo2.51.7164Si2.5の構造を有するSuperhard SteelTM合金SHS717を溶融し、1:12の比でアルミニウムとホウ素の添加を行って、合金において10、15、20及び63原子%の合金のホウ化アルミニウムを作った。合金はその後インゴットに形成し、冷めさせた。100kg/mm及び300kg/mmの荷重で測定されたこれらの変性合金の硬度を表3に示す。全ての硬度へこみ(indentation)は最小5個のへこみの平均として報告されていることに留意されたい。
【表3】

【0036】
表3からわかるように、アルミニウム及びホウ素の添加は、添加なしの対照合金と比較してかなりの硬度の増大を示している。10原子%のホウ化アルミニウムの添加は100kg/mmで268の硬度の増大を生成した。15原子%のホウ化アルミニウムの含有率では、対照合金と比較して100kg/mmで560の硬度の増大を生成し、最大の硬度の増大を証明した。ホウ化アルミニウム含有量をさらに20原子%まで増大したとき、測定された硬度が、15原子%のホウ化アルミニウム含有量で測定されたものよりわずかに低く、対照合金より100kg/mmで485だけ硬度が大きい。さらに63原子%までホウ化アルミニウム含有量を増大させたものは、100kg/mmで約1200で破砕された脆弱な構造になった。
【0037】
アルミニウムとホウ素を1:12の比以上でアルミニウムを添加したテスト試料も作製した。表3からわかるように、さらにアルミニウムを添加したものは対照合金と比較して硬度が増大した。1原子%のアルミニウムの添加で、対照合金に対して100kg/mmで630の硬度の増大が特定され、この濃度レベルが最適であることが明らかになった。この合金の鋳造インゴット、DABX15Y1の微細構造を図1の顕微鏡写真で示す。また、DABX0合金の鋳造インゴットの微細構造を図2の顕微鏡写真で示す。いずれの写真もSEMで同じ撮影条件で撮ったものである。明らかに、AlとBの添加によって、立方体沈殿物について名目上立方形状を有する固化状態に形成する。
【0038】
同様に、1:12の比の15原子%アルミニウム及びホウ素添加とをコンバインして(組み合わせ)て3,5,及び7原子%アルミニウムを含んで準備されたテスト試料は、対照合金に比して硬度測定の増大を示した。いかなる特定の理論に縛られる意図ではないが、1:12の比の15原子%アルミニウム/ホウ素とを組み合わせてアルミニウムをさらに添加したものの結果から得られる硬度の増大はSHS717合金におけるホウ素と反応するさらなる(新たな)アルミニウムの添加から生ずるものと信じられる。SHS717合金においてさらなる添加アルミニウムと元々のホウ素との間の反応は、SHS717合金マトリックスにおける新たなホウ化アルミニウム硬質相(AlB12)を生成し、これによって新たな硬度増大をなす。この例は、アルミニウムとホウ素の比が好適な1/12化学量論比からどの程度変わることができるか、さらには、高硬度を得ることができるものである。
【0039】
3,5,及び7原子%アルミニウムをホウ素なしでSHS717合金に添加するテスト試料の第3シリーズについて行われた硬度測定に基づいて、合金における金属アルミニウムは合金を軟化しているように見える。これは、アルミニウムが比較的ソフトな金属であるという知識に合致する。合金における金属アルミニウムの軟化効果は、新たなアルミニウムの添加が1原子%から3,5,及び7原子%へ増大するので、合金の硬度の低下を説明するだろう。この例は、アルミニウムとホウ素の添加の組み合わせが高硬度を得るのに好適であることを特徴的に示すものである。
【0040】
最終的な点として、Superhard SteelTM合金は、変性なしの合金の硬度を増大する微細構造の微調整(改良)を受けやすい点に留意されたい。これらの微細構造の微調整には、金属構造内で所望されるようなアモルファス構造及びミクロ結晶ドメインを形成することを含む。ホウ化アルミニウム硬質相を組み込んだSuperhard SteelTM合金マトリックスを含む粉末原材料はコーティングとして噴射されるとき、Superhard SteelTM合金マトリックスの微細構造を微調整(リファイン)することによってコーティングの硬度をさらに増大することができると予測される。
【0041】
ニッケルベース合金
実験上のセッティングにおいて、ニッケルベース合金にAlB12を添加することが立証された。ホウ化アルミニウムの添加により、合金の硬度がかなり増大した。
【0042】
表4に、アルミニウム及びホウ素の同時添加して合金化された純ニッケル合金の硬度を示す。3つの元素を表4にリストされた化学量論比でおき、5グラムインゴットにアーク鋳造した。示したように、1462のHV100硬度までアルミニウム及びホウ素を多店化することにより硬度は劇的に増大する。全ての硬度のへこみは最小の5つの凹みの平均として報告されていることに留意されたい。また、ニッケルは非常にソフトな面心立方の原子であり、純ニッケルの硬度は200HV100より低いことに留意されたい。
【表4】

【0043】
表5では、市販の組成物に基づいたニッケルベース合金の変性インゴットについて100グラム及び300グラムの荷重で硬度を示す。NABX43N6合金は市販の625ニッケル超合金に類似しており、NABX43N7合金は市販の718ニッケル超合金に類似しており、NABX43M4合金はCu−Niカートリッジ真ちゅうモネルに類似している。極めて高い硬度、公表されたベース値よりもはるかに高いものがアルミニウム及びホウ素の変性合金で得られた。全ての硬度へこみが最小5つのへこみの平均として報告されている点に留意されたい。
【表5】

【0044】
表6には、現在市販の合金C-22(Ni63.0Cr24.6Mo8.2Fe3.30.70.2)にアルミニウム及びホウ素を添加したものについてHV100硬度を示す。合金は、C-22粉末へさらにアルミニウム及びホウ素を添加し、次いで、アーク溶融を用いて原材料をインゴットに溶融することによって作製した。アーク溶融した15グラムのインゴットをさらに、液体溶融物を接線速度15m/sの高速銅ホイール上に射出することによって溶融スパン(紡ぎ)リボンにプレスした。次いでリボンは金属顕微鏡的に実装して、研磨し、約135ミクロン幅のリボンの断面積を100グラム荷重でビッカースを用いて硬度のテストを行った。ベースC-22合金は268kg/mmでソフトであったが、アルミニウム及びホウ素変性合金の硬度は最大1425kg/mmに劇的に増大した。全ての硬度へこみは最小5つのへこみの平均として報告されている点に留意されたい。
【表6】

【0045】
コバルトベース合金
実験上のセッティングにおいて、コバルトベース合金への好適なAlB12の添加が立証された。ホウ化アルミニウムの添加により、合金の硬度がかなり増大した。
【0046】
表7に、コバルト合金の100グラム及び300グラム荷重の硬度を示す。合金は、原材料を装填するために、コバルト、アルミニウム及びホウ素を準備し、適当な割合でこれらを混同して作製した。次いで装填を、不活性雰囲気中でアーク溶融を用いて5グラムインゴットに溶融した。次いで、インゴットは裁断し、金属顕微鏡的に実装し、研磨する。へこみの断面積でビッカー硬度へこみを得た。全ての硬度へこみは全ての硬度のへこみは最小5つの凹みの平均として報告されていることに留意されたい。また、コバルトの硬度は、アルミニウム及びホウ素の同時に添加し、続いてホウ化アルミニウムの形成によって210から1569に大きく増大していることがわかった。
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】DABX15Y1インゴットの微細構造を示すSEM背面散乱電子による微細構造。溶融タングステン、モリブデン及びクロムと共にアルミニウムおよびホウ素を含む硬質相を白(ホワイト)立体相として示す。
【図2】DABX0インゴットの微細構造を示すSEM背面散乱電子による微細構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた耐摩耗性材料。
【請求項2】
前記材料が、金属材料、セラミック材料、ポリマー材料のうちの少なくとも一つを備えた請求項1に記載の耐摩耗性材料。
【請求項3】
前記金属材料が、鉄、ニッケル、コバルト材料のうちの一つを含む請求項2に記載の耐摩耗性材料。
【請求項4】
前記金属材料が鉄ベース合金を備え、該合金がクロム、モリブデン、及びタングステンを含む請求項2に記載の耐摩耗性材料。
【請求項5】
前記セラミック材料が、アルミナ、チタニア、又はジルコニアセラミックのいずれか一つを含む請求項2に記載の耐摩耗性材料。
【請求項6】
前記ポリマー材料が芳香族ポリアミドを含む請求項2に記載の耐摩耗性材料。
【請求項7】
前記ポリマー材料がポリマーオレフィンを含む請求項2に記載の耐摩耗性材料。
【請求項8】
前記ホウ化アルミニウムがホウ化アルミニウムの離散的な粒子を備えた請求項1に記載の耐摩耗性材料。
【請求項9】
前記離散的な粒子は約0.5から500ミクロンの間の範囲の径を有する請求項8に記載の耐摩耗性材料。
【請求項10】
前記ホウ化アルミニウムは、前記耐摩耗性材料において約5〜90体積パーセントの割合で存在する請求項1に記載の耐摩耗性材料。
【請求項11】
さらにアルミニウムを含む請求項1に記載の耐摩耗性材料。
【請求項12】
前記アルミニウムは約1〜10原子パーセントで存在する請求項11に記載の耐摩耗性材料。
【請求項13】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた耐摩耗性材料を作製する方法において、
(a)一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを供給する段階と、
(b)前記ホウ化アルミニウムを金属材料、セラミック材料、ポリマー材料のうちの一つに組み込む段階と、
を備えた方法。
【請求項14】
前記のホウ化アルミニウムを金属材料に組み込む段階は、前記ホウ化アルミニウムと前記金属材料とを組み合わせるサブ段階と、該組み合わせたものを粉末に噴射乾燥するサブ段階とを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記のホウ化アルミニウムを供給する段階は、アルミニウムとホウ素とを組み合わせて一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを作製するサブ段階と、鉄、ニッケル又はコバルトを備えた金属材料と組み合わせるサブ段階と、粒子状に霧状にするサブ段階とを備えた請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記の霧状にするサブ段階は、気体、水、又は遠心噴霧法のうちの一つを含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記金属材料は、鉄、ニッケル又はコバルト材料のうちの一つを備えた請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記金属材料は、Fe52.3Mn2Cr19Mo2.51.7164Si2.5;Ni64Cr27Mo6Fe3;Ni54Cr22Mo2Fe22;Ni69Cu31;Ni63.0Cr24.6Mo8.2Fe3.30.70.2;及びその混同物のうちの一つを備えた請求項13に記載の方法。
【請求項19】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた耐摩耗性材料を作製する方法において、
(a)一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを供給する段階と、
(b)アルミニウムを供給する段階と
(c)前記ホウ化アルミニウム及びアルミニウムを金属材料、セラミック材料、ポリマー材料のうちの一つに組み込む段階と、
を備えた方法。
【請求項20】
前記金属材料は硬度“x”を有するとき、前記ホウ化アルミニウムを組み込むと前記硬度は“y”に増大し(ここでy>x)、前記アルミニウムを組み込むと前記硬度は“z”に増大する(ここでz>y)請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1−10原子%アルミニウムを前記金属材料に組み込んだ請求項19に記載の方法。
【請求項22】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた金属コーティング。
【請求項23】
前記金属コーティングは、鉄、ニッケル又はコバルト材料のうちの一つを含む請求項21に記載の方法。
【請求項24】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた粉末材料。
【請求項25】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えたワイヤー材料。
【請求項26】
耐摩耗性材料を作製する方法であって:
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた材料を準備する段階と;、
前記材料を溶融する段階と;
基板上に前記溶融材料を付けて前記コーティングを作製する段階と;を備えた方法。
【請求項27】
前記の材料を溶融する段階が熱噴射を備えた請求項26に記載の方法。
【請求項28】
鉄合金の硬度を増大する方法において:
(a)硬度を有する鉄合金を供給段階と;
(b)ホウ化アルミニウムを一般式AlB8-16の鉄合金に添加する段階と;
(c)前記ホウ化アルミニウムの添加によって前記鉄合金の前記硬度を増大する段階と;を備えた方法。
【請求項29】
前記鉄合金は、マンガン、クロム、ニッケル、モリブデン、タングステン、炭素、シリコン又はこれらの混合物のうちの一つを含む鉄合金である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記鉄合金は、Fe52.3Mn2Cr19Mo2.51.7164Si2.55;Ni64Cr27Mo6Fe3;Ni54Cr22Mo2Fe22;Ni69Cu31;Ni63.0Cr24.6Mo8.2Fe3.30.70.2;及びその混同物のうちの一つを備えた請求項28に記載の方法。
【請求項31】
粉末原材料を作製する方法であって:
金属粉末を準備する段階と;
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを提供する段階と;
前記金属粉末と前記ホウ化アルミニウムとを組み合わせて前記粉末原材料を形成する段階と;を備えた方法。
【請求項32】
前記組み合わせ段階には、液体成分を準備する段階と、前記金属粉末及び前記ホウ化アルミニウムを備えた液体スラリを作製する段階と、前記スラリを乾燥する段階と、を備えた請求項30に記載の方法。
【請求項33】
さらに金属バインダーを準備する段階を備え、前記組み合わせ段階が前記金属粉末、前記ホウ化アルミニウム及び前記バインダーを組み合わせることを含む請求項30に記載の方法。
【請求項34】
一般式AlB8-16のホウ化アルミニウムを備えた冶金生成物。
【請求項35】
(a)一般式AlB8-16の粉末状ホウ化アルミニウムを供給する段階と;
(b)前記ホウ化アルミニウムを選択した形状に形成する段階と;備えた冶金生成物を作製する方法。
【請求項36】
前記形成する段階が、プレス焼結、粉末鍛造、ホットプレス、押し出し成形、又は射出成形を備えた請求項35に記載の方法。

【公表番号】特表2007−527952(P2007−527952A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551540(P2006−551540)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/002994
【国際公開番号】WO2005/072954
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505307611)ザ・ナノスティール・カンパニー (19)
【Fターム(参考)】