説明

耐熱性樹脂ベルトの製造方法

【課題】高温に加熱しても接着力の低下が少なく、また、190℃での接合部の強度が高く、しかも、画像形成装置に応用した場合に、該接合部に起因する画像への影響がない耐熱性無端ベルトを製造する方法を提供する。
【解決手段】
耐熱性樹脂シートの両端にそれぞれ傾斜状薄肉部を形成する傾斜状薄肉部形成工程、前記傾斜状薄肉部の傾斜面に接着剤組成物をスクリーン印刷法により塗布する接着剤塗布工程、傾斜面同士を貼り合わせる貼り合せ工程、及び、接着剤組成物を硬化させる接着剤硬化工程をこの順に有する耐熱性樹脂ベルト製造方法において、前記接着剤組成物として、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.9重量%を含有する付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用い、付加重合型シリコーン系接着剤組成物の硬化前の23℃での粘度を50Pa・s以上100Pa・s以下とし、接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸びを、250%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ、インクジェットプリンター等の電子写真装置に用いられる中間転写ベルト、定着ベルト、紙搬送ベルト、紙乾燥ベルト等に用いられる耐熱性無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置等に用いられる耐熱性無端ベルトの内でも、紙搬送ベルト、中間転写ベルト等の耐熱性無端ベルトには、高い圧力が作用し、また、定着ベルトには、高い温度と高い圧力とが作用するので、これらの電子写真装置に用いられる耐熱性無端ベルトには、高い耐熱性と機械的強度とが要求され、それらのために、これらの耐熱性無端ベルトを構成する材料にはポリイミド樹脂が用いられている。ポリイミド樹脂から耐熱性無端ベルトを製作する技術としては、ポリイミドワニスを金属で構成される円筒体の外周面にキャスト成形した後、このキャスト成形したポリイミドワニスを加熱してイミド化することによりポリイミド無端ベルトとする技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術には、イミド化工程に時間がかかるので、金型が多数個必要となってコストが高くなるという問題があり、また、寸法規格が変更されるたびに新たな金型が必要になるので、イニシャルコストが高くなるという問題があった。
【0004】
また、安価なポリイミドシートを加工して、ポリイミド無端ベルトとする技術が提案されている(特許文献2)。
【0005】
特許文献2に記載の技術では、非熱可塑性ポリイミドフィルムと熱可塑性ポリイミド樹脂とを貼り合せて、熱可塑性ポリイミド樹脂を溶融接着させることにより、ポリイミド無端ベルトを得ている。
【0006】
しかしながら、この技術では、接合部を溶融接着して膜厚を非接合部の膜厚と等しいものとすることが難しく、また、接合部の硬さを非接合部の堅さと異なるものとすることなく、かつ、平滑性を損じることなく接合することが難しいので、このようなベルトを用いた接合部分の定着画像にスジ状の不良が発生するという問題があった。
【0007】
また、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂シートの両端部に厚さ方向に溝形状の凹凸部を互いに形成して、それらの凹凸部を嵌め合わせ接着することにより、ポリイミド無端ベルトとする技術が提案されている(特許文献3)。
【0008】
特許文献3には、この技術に適用される接着剤として、1)シリコーン系弾性接着剤、2)ウレタン系弾性接着剤、3)ホットメルト型シリコーン接着剤、4)シラン変性ポリイミド系接着剤、及び、5)エポキシ系接着剤が例示され、また、これらの接着剤を単独又は併用するとポリイミドシートを強固に接着できるので、中間転写ベルトに応用できると記載されている。
【0009】
しかしながら、ポリイミド無端ベルトを定着ベルトとするには、ポリイミド無端ベルト形成後にその表面にシリコーン弾性層やフッ素樹脂系離型層を積層する工程が実施されるが、フッ素樹脂離型層を形成するための工程での加熱温度が300〜350℃と高温であるために、この加熱温度によりポリイミド無端ベルトの接合部の接着剤が熱劣化して、接着強度が低下するという問題が発生する。
【0010】
ここで、前記1)〜3)の一般的な接着剤は、何れも耐熱温度が190℃以下であるので、フッ素樹脂離型層を形成するために採用される焼成温度の300〜350℃に加熱すると、接着強度が低下する。また、前記4)の接着剤は、耐熱性は良好であるが、硬化物が固いので、ポリイミド無端ベルトの接合部分に対応するトナー定着画像にスジ状不良が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−295396号特公報
【特許文献2】特開平11−291348号公報
【特許文献3】特開平10−698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決する、すなわち、例えばフッ素樹脂層形成温度である300〜350℃の高温に加熱しても、接着剤組成物による接着力の低下が少なく、また、定着時の動作温度190℃での接合部の強度がシート自体の強度(求められるベルトとしての強度を満たす強度)以上であり、しかも、画像形成装置に応用した場合に、該接合部に起因する画像への影響がない耐熱性無端ベルトを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、耐熱性樹脂シートの一方の端部の一面に該端部の端に向かって該耐熱性樹脂シートの厚さが徐々に薄くなる第1の傾斜状薄肉部と、該耐熱性樹脂シートの他方の端の前記一面とは異なる面に該端部の端に向かって該耐熱性樹脂シートの厚さが徐々に薄くなる第2の傾斜状薄肉部と、を形成する傾斜状薄肉部形成工程、前記2つの傾斜状薄肉部の傾斜面の少なくとも一方に接着剤組成物をスクリーン印刷法により塗布する接着剤塗布工程、前記2つの傾斜状薄肉部の傾斜面同士を貼り合わせる貼り合せ工程、及び、前記接着剤組成物を硬化させる接着剤硬化工程を順次有する耐熱性樹脂ベルト製造方法において、前記接着剤組成物として、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.9重量%を含有する付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用い、前記付加重合型シリコーン系接着剤組成物の硬化前の23℃での粘度を、50Pa・s以上100Pa・s以下とし、そして、前記接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸びを、250%以上とすることを特徴とする耐熱性樹脂ベルトの製造方法である。
【0014】
本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の耐熱性樹脂ベルトの製造方法において、前記耐熱性無端ベルトの外側表面に、導電性シリコーンゴムからなる弾性層、及び、フッ素樹脂からなる離型層を順次形成する、弾性層及び離型層形成工程を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法によれば、前記接着剤組成物として、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.9重量%を含有する付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用い、前記付加重合型シリコーン系接着剤組成物の硬化前の23℃での粘度を、50Pa・s以上100Pa・s以下とし、そして、前記接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸びを、250%以上とするので、この構成により、フッ素樹脂層形成温度である300〜350℃の高温に加熱しても、接着剤組成物による接着力の低下が少なく、また、定着時の動作温度190℃での接合部の強度がシート自体の強度以上であり、しかも、画像形成装置に応用した場合に、該接合部に起因する画像への影響がない耐熱性無端ベルトを製造することができる。
【0016】
また、本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法によれば、画像形成装置用の優れた定着ベルトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法を説明するためのモデル図である。図1(a)矩形に切った耐熱性樹脂シートαのモデル上面図である。図1(b)耐熱性樹脂シートの側面図である。図1(c)傾斜状薄肉部の形成する方法を示すモデル図である。図1(d)傾斜状薄肉部が形成された耐熱性樹脂シートの側面図である。図1(e)耐熱性樹脂シートαの一方の傾斜面に接着剤βを塗布した状態をモデル的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いる耐熱性樹脂シートを構成する耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネートなどが挙げられ、このうち耐熱性と機械的強度に優れた耐熱性無端ベルトを提供することができるのでポリイミド樹脂からなることが好ましい。
【0019】
耐熱性樹脂シートの厚さとしては必要とされる強度(耐久性)、柔軟性を勘案して適宜決定されるが、例えば、50μm以上125μm以下である。
【0020】
傾斜状薄肉部は傾斜形状に耐熱性樹脂シート(図1(a)に矩形の耐熱性樹脂シートαのモデル上面図、図1(b)に耐熱性樹脂シートαのモデル側面図を示す)
α両端α2の互いに異なる面を、例えば図1(c)にモデル的に示すように
フライス盤のドリル部211と、このフライス盤の加工面に対して耐熱性樹脂シートαを斜めに保持するジグ210とを用いて、切削加工して図1(d)に側面図を示すように形成する。このとき傾斜状薄肉部は、先端部分の厚さを15〜30μmとして、傾斜形状に切削加工されていると、加工時及びその後の取り扱いにおいて、耐熱性樹脂シートの先端に欠けが生じることがなく、そのために、歩留まりよく安定した量産が可能となる。
【0021】
このようにフライス盤を用いることにより、レーザなどの高価な設備が不要となり、その結果、設備コストを低廉とすることができる。
【0022】
本発明では接着剤組成物として、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.5重量%を含有する付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用い、前記付加重合型シリコーン系接着剤組成物の硬化前の23℃での粘度を、50Pa・s以上100Pa・s以下とし、そして、前記接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸びを、250%以上とする。
【0023】
本発明では、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.9重量%を含有する。すなわち溶剤を除去した部分に酸化鉄(III)が6.5〜9.9重量%配合された付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用いる。
【0024】
ここで、酸化鉄(III)は粉末状のものを用いる。粒径は10nm以上1000nm以下であることが好ましい。このようなものとして塊状のベンガラを粉砕したものが市販されている。粒径が10nm未満の場合、混合時の粘度上昇が大きく、充分な量の配合ができない。一方、粒径が1000nmを超えると接合部の厚さを薄くしたときに接合部の厚さのばらつきが大きくなりやすい。
【0025】
このような酸化物(III)を配合することにより接着剤組成物の成分であるシリコーン化合物の熱劣化を防止することができる。
【0026】
酸化物(III)は6.5重量%以上9.9重量%以下となるように、例えば3本ロールミルによって配合する。配合量が6.9重量%未満であるときには充分な耐熱性付加することができず、また9.9重量%を超えて配合した場合にはスクリーン印刷時にかすれが出やすく、このとき、接着層の厚さむらが発生しやすくなり、所定の接着力が得られないおそれがある。
【0027】
ここで、酸化鉄(III)が含有された付加重合型シリコーン系接着剤組成物に、酸化鉄(III)が含有されていない付加重合型シリコーン系接着剤組成物を適量配合して酸化鉄(III)の配合量を調整することができる。
【0028】
本発明の耐熱性樹脂ベルトの製造方法で用いる接着剤組成物は、上記のように付加重合型シリコーン系接着剤組成物であることが必要である。すなわち、付加重合型シリコーン系接着剤は硬化後も柔軟性を有するために接合部が硬くならず、そのために、定着ベルトなどとしたときにも画像への悪影響がなく、かつ、ポットライフが長く、取り扱いが容易である。
【0029】
また、本発明で用いる接着剤組成物は、硬化前の23℃での粘度が50Pa・s以上100Pa・s以下であることが必要である。この構成により、均一に、かつ、薄く塗布することが可能なスクリーン印刷法によって接着剤組成物を塗布することができ、高い接合強度が得られ、過剰に塗布されることがないために、接合部の外へのにじみ出しも最小限度に留めることができるので、硬化後の接着剤組成物によるバリ発生が防止されて、バリ除去工程が不要となるとともに、接合部が不必要に硬くなることが防止され、そのために、定着ベルトなどとしたときにも画像への悪影響があらかじめ防止されている。このような接着剤組成物は市販品の中から適宜選択することもできるし、複数の付加重合型シリコーン系接着剤組成物を混合して粘度を調整することができ、あるいは、溶剤を添加することによって上記の必要な粘度に調整することもできる。
【0030】
また、本発明で用いる接着剤組成物は、硬化後の引張試験での切断時伸びが250%以上のものであることが必要である。このような接着剤組成物となるよう、ベースとする付加重合型シリコーン系接着剤組成物を適宜選択する。ここで引張試験での切断時伸びの値はJIS K6429の引張試験に準拠した方法で行った値である。この切断時伸びが250%以上未満であると充分な接合部の強度が得られない。このような伸びの付加重合型シリコーン系接着剤組成物を得るためには、市販の付加重合型シリコーン系接着剤組成物の中から選択することもでき、あるいは、伸びの異なる複数の付加重合型シリコーン系接着剤組成物同士を混合して調整することもできる。
【0031】
このような、酸化鉄を4.2重量%以上9.8重量%以下含有し、硬化前の23℃での粘度が50Pa・s以上100Pa・s以下で、かつ、硬化後の伸び率が250%以上である接着剤組成物を用いることにより、フッ素樹脂層形成温度である300〜350℃の高温に加熱しても、接着剤組成物による接着力の低下が少なく、また、定着時の動作温度190℃での接合部の強度がポリイミドシート自体の強度(求められる強度に対応した厚さ)以上であり、しかも、画像形成装置に応用した場合に、接合部に起因する画像への影響がない耐熱性無端ベルトを得ることができる。
【0032】
接着剤組成物の塗布はスクリーン印刷法で行う。スクリーン印刷による塗布により、接着剤組成物の塗布厚さが均一になり、また、必要箇所に確実に塗布されるために、得られた耐熱性樹脂ベルトを画像形成装置に応用した場合に、該接合部に起因する画像への悪影響をあらかじめ防ぐことができる。塗布は傾斜状薄肉部の傾斜面の少なくとも一方に行う。図1(e)には耐熱性樹脂シートαの一方の傾斜面に接着剤βを塗布した状態をモデル的に示す。
【0033】
接着剤組成物の塗布後に、傾斜状薄肉部の傾斜面同士を重ね合わせ、次いで用いる接着剤組成物に適した硬化処理を行う。例えば重ね合わせ部を、最適な圧力で加圧しながら、硬化に必要な温度に必要時間保つことにより硬化処理を行う。
【0034】
このように得られた耐熱性無端ベルトの外側表面に、公知の方法により導電性シリコーンゴムからなる弾性層、及び、フッ素樹脂からなる離型層を、順次積層することにより、画像形成装置で用いることができる中間転写ベルトあるいは定着ベルトとして用いることができる。
【実施例】
【0035】
(シリコ−ン系接着剤組成物の作成)
表1に示す原料、及び、表2に示す配合(重量比)によって計20種類の接着剤組成物(実施例1〜7、比較例1〜13)を得た。2種類の接着剤組成物を混合する際には、自転しながら公転するミキサーを用いて行い、その後、減圧脱法処理をおこなった。
【0036】
表1中原料として示した、信越化学社製(酸化鉄配合)X32−2180(A/B)、モメンテイブ社製(酸化鉄配合)TSE3261−G、及び、モメンテイブ社製(酸化鉄配合)TSE326はいずれも酸化鉄(III)の粉末が添加された付加重合シリコーン接着剤組成物である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
これら20種類の接着剤組成物について、23℃での粘度、硬化後の引張試験での切断時伸び、スクリーン印刷性、及び、せん断引張強度、をそれぞれ評価した。
【0040】
<23℃での粘度>
上記の接着剤組成物の23℃での粘度(以下「粘度」とする)は、B型回転粘度計を用いて測定した。
【0041】
<接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸び>
上記それぞれの接着剤組成物の硬化(硬化条件:150度1時間)後の引張試験での切断時伸びをJIS K 6249に準拠して調べた。結果を表3に”伸び率(%)”として示した。
【0042】
<スクリーン印刷性の評価>
400メッシュカレンダータイプ(メッシュ厚さ44μm)のステンレスメッシュを用い、巾5mm、長さ400mmのパターンで、厚さが10〜12μmとなるように、厚さ125μmのポリイミドフィルム:ユーピレックス125S(宇部興産製)に対してスクリーン印刷をおこなった。このときの印刷の状態を目視(かすれやにじみの発生)及びマイクロメーターによる厚さ(厚さむらの発生)を調べた。このとき、かすれ、にじみがなく、その結果、連続印刷が可能であると判断される場合を充分に良好であるとして「○」、かすれ、にじみが発生し、厚さむらが生じる(マイクロメーターで測定される厚さの分布が20%以下である)場合を不充分であるとして「×」として評価した。
【0043】
<せん断引張強度>
ポリイミド樹脂製シート(ユーピレックス125S(宇部興産社製)、厚さ125μm、大きさ:447mm×400mm)の長辺側の両端の互いに異なる面を端部から5mmの幅で、その端に向かってシートの厚さが徐々に薄くなり、端部厚さが19〜22μmとなるように切削加工を行った。この傾斜面の両方の面に上記で調製した接着剤組成物を、それぞれ接着剤層の厚さが10〜12μmとなるようにスクリーン印刷した後、両傾斜面を重ね合わせ、次いで、この重ね合わせ部を加圧・加熱バーを用いて130℃で3分間加圧・加熱し、その後、無加圧状態で250℃・30分の熱処理を行い、接着剤を完全硬化させた。このベルトを20mm巾に切断し、接合部を含む部分について、JIS K6249に準拠して引張試験を行い、接合部の引張強度を測定した。この強度を接合部を含まない部分での引張強度と比較し、接合部の引張強度が接合部を含まない部分での引張強度に比べ50%未満と低く、または、20〜50倍の光学顕微鏡で破断面を観察したときに、切断時の破断が、接合部が接着剤から剥がれて発生している場合を不充分として「×」とし、それ以外を充分であるとして「○」として評価した。このせん断引張強度は室温と、190℃(画像形成装置の定着ベルトの要求耐熱耐久性を想定)との、2つの温度条件でそれぞれおこなった。
【0044】
これら測定結果、及び、評価結果について表3に併せて示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3の結果より、本発明にかかる製造方法によれば、スクリーン印刷性に優れ、接合部が常温及び高温(190℃)において高い強度を有する耐熱性樹脂ベルトが得られることが判る。
【0047】
<定着ベルトとしての評価>
厚さが125μmのポリイミドシート(ユーピレックス125S(宇部興産社製)を448.5mm×400mmの大きさに切出し、このポリイミドシートの長辺側の両端の互いに異なる面を端部から7mmの幅で、その端に向かってシートの厚さが徐々に薄くなり、端部厚さが19〜22μmとなるように切削加工を行った。この傾斜面の両方の面全体に上記で調製した接着剤組成物のうちの実施例1〜7の接着剤組成物を、それぞれ接着剤層の厚さが10〜12μm、切削加工部全体に接着剤が被覆するようにスクリーン印刷した後、次いで、このシートを直径が140.5mmの、表面に多数の吸気孔が設けられたマンドレルコアに吸引させ、吸着させつつ巻き付け、傾斜面同士を重ね合わせる(接合部)。この接合部を130℃、3分間の条件で加圧・加熱し、接着剤を1次硬化させ、次いで、このように接合されたポリイミド製ベルトに外径139.4mmのアルミニウムからなるマンドレルを挿入し、250℃で30分間熱処理して、接着剤組成物を完全硬化させて、本発明にかかる7種類の耐熱性樹脂ベルトを得た。これら耐熱性樹脂ベルトの表層接合部全体と、接合端部から20mmの範囲までを、竹棒(直径0.5〜0.8mm)を束ね箒状に形成してなるブラシを押し付けながら、約50rpmで回転させて、接合部からはみ出した接着剤をかきとった。
【0048】
7種類の耐熱性樹脂ベルトの表面に、シリコーン樹脂溶液をスプレー塗装して塗膜を形成し、次に、これを150℃、2時間の熱処理をして厚さ205μmのシリコーン弾性層を形成した。
【0049】
さらに上記シリコーン弾性層の表面にコロナ放電処理を行う表面改質処理を行った後、さらにその表面にPFA(パーフルオロアルコキシエチレン)の水分散液をスプレー塗装して塗膜を形成した後、340℃で20分間の熱処理を行って厚さ20μmの離型層を形成し、内径が140mmの耐熱性定着用ベルト(画像形成装置用定着ベルト)をそれぞれ得た。
【0050】
これら定着ベルトの外観検査を行ったがいずれも以上はなく、また、実際の画像形成装置に装着して画像形成テスト(実機通紙試験)を行ったが、いずれも接合部に起因する画像への影響がなく、良好な結果が得られたために充分であるとして「○」と評価とされた。これら結果を表3に併せて記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂シートの一方の端部の一面に該端部の端に向かって該耐熱性樹脂シートの厚さが徐々に薄くなる第1の傾斜状薄肉部と、該耐熱性樹脂シートの他方の端の前記一面とは異なる面に該端部の端に向かって該耐熱性樹脂シートの厚さが徐々に薄くなる第2の傾斜状薄肉部と、を形成する傾斜状薄肉部形成工程、
前記2つの傾斜状薄肉部の傾斜面の少なくとも一方に接着剤組成物をスクリーン印刷法により塗布する接着剤塗布工程、
前記2つの傾斜状薄肉部の傾斜面同士を貼り合わせる貼り合せ工程、及び、
前記接着剤組成物を硬化させる接着剤硬化工程
を順次有する耐熱性樹脂ベルト製造方法において、
前記接着剤組成物として、固形成分中に酸化鉄(III)6.5〜9.9重量%を含有する付加重合型シリコーン系接着剤組成物を用い、
前記付加重合型シリコーン系接着剤組成物の硬化前の23℃での粘度を、50Pa・s以上100Pa・s以下とし、そして、
前記接着剤組成物の硬化後の引張試験での切断時伸びを、250%以上とする
ことを特徴とする耐熱性樹脂ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記耐熱性無端ベルトの外側表面に、導電性シリコーンゴムからなる弾性層、及び、フッ素樹脂からなる離型層を順次形成する、弾性層及び離型層形成工程を有していることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性樹脂ベルトの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−728(P2011−728A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143295(P2009−143295)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】