説明

能動型流体封入式エンジンマウント

【課題】 アイドリング振動等の中乃至高周波数域の小振幅振動に対しては、加振部材の加振による能動的防振効果が有効に発揮され得ると共に、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対しては、オリフィス通路を通じての流体流動量が有利に確保されて、オリフィス通路による防振効果が有効に発揮され得る、新規な構造の能動型流体封入式エンジンマウントを提供することを、目的とする。
【解決手段】 自動車の走行時には、加振部材位置調節手段により加振部材52,54が当接部材48に対して当接せしめられるようにする一方、自動車のアイドリング時には、加振部材位置調節手段により加振部材52,54が当接部材48から離隔せしめられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振すべき振動に対して積極的乃至は相殺的な防振効果を発揮し得る能動型防振装置に係り、非圧縮性流体が封入された受圧室の壁部の一部を加振部材で構成して、かかる加振部材を加振手段によって加振駆動せしめて受圧室の圧力を制御することで能動的な防振効果を得るようにした能動型流体封入式エンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振支持体乃至は防振連結体の一種として、相互に離隔配置された第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結し、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を設けると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた構造の流体封入式防振装置が提案されている。
【0003】
このような流体封入式防振装置においては、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用等に基づいて、本体ゴム弾性体のみでは得られ難い防振効果を得ることが出来ることから、例えば、自動車用のエンジンマウント等への適用が検討されている。
【0004】
ところで、自動車用のエンジンマウントでは、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対しては高減衰効果が要求される一方、アイドリング振動等の中乃至高周波数域の小振幅振動に対しては低動ばね特性による振動絶縁効果が要求される。
【0005】
そこで、特許文献1(特開2004−293604号公報)に記載されているように、オリフィス通路をエンジンシェイクに相当する低周波数域にチューニングする一方、加振部材を電磁式アクチュエータ等の加振手段で加振駆動せしめて受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型流体封入式エンジンマウントが提案されている。
【0006】
このような構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対してはオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて高減衰効果を得るようになっている一方、アイドリング振動等の中乃至高周波数域では、加振手段で加振部材を加振駆動して能動的な防振効果により低動ばね効果を得るようになっている。
【0007】
しかしながら、このような能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、加振部材を加振手段によって加振駆動せしめて受圧室の圧力を能動的に制御するようになっていることから、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の入力時に、加振部材に対して受圧室の圧力が及ぼされることにより、加振部材が変位するおそれがある。そして、このような加振部材の変位が生ぜしめられると、受圧室の圧力変動が吸収されてしまい、オリフィス通路を流動せしめられる流体量が十分に確保され難くなって、オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づいて発揮される、低周波大振幅振動に対する目的の減衰効果が十分に得られ難くなるおそれがある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−293604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、アイドリング振動等の中乃至高周波数域の小振幅振動に対しては、加振部材の加振による能動的防振効果が有効に発揮され得ると共に、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対しては、オリフィス通路を通じての流体流動量が有利に確保されて、オリフィス通路による防振効果が有効に発揮され得る、新規な構造の能動型流体封入式エンジンマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することが出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
本発明の第一の態様は、自動車のパワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材を、該パワーユニットと該車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材から離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結し、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を設けると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設ける一方、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成して、加振手段で該加振部材に加振力を及ぼすことにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記オリフィス通路をエンジンシェイクの周波数域にチューニングする一方、前記加振部材に対してその加振方向で対向位置する当接部材を前記第二の取付部材に固定的に設けると共に、前記自動車がアイドリング状態か走行状態かを判定する状態判定手段を設け、該状態判定手段によってアイドリング状態であると判定された場合に該加振部材を該当接部材に対して離隔位置せしめる一方、該状態判定手段によって走行状態であると判定された場合に該加振部材を該当接部材に対して当接させる加振部材位置調節手段を設けることにより、該自動車のアイドリング時には該加振部材が該当接部材から離隔状態で前記加振手段によって加振されるようにする一方、該自動車の走行時には該加振部材が該当接部材に対して当接せしめられるようにしたことを、特徴とする。
【0012】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにあっては、自動車の走行時において、加振部材位置調節手段により加振部材が当接部材に対して当接せしめられていることから、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動が入力された際の加振部材の変位を抑えることが可能となり、それによって、振動が入力された際の加振部材の変位に起因する受圧室の圧力吸収を有利に抑えることが可能となる。それ故、オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動量を十分に確保することが可能となって、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果を十分に得ることが可能となる。
【0013】
一方、自動車のアイドリング時には、加振部材位置調節手段によって加振部材が当接部材から離隔せしめられていることから、加振部材の加振変位に基づく能動的な防振効果が、当接部材等で阻害されることなく有効に発揮される。
【0014】
従って、本態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、アイドリング振動等の中乃至高周波数域の小振幅振動に対しては、加振部材の加振による能動的な防振効果を発揮すると共に、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対しては、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を有効に発揮することとなる。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記加振部材と前記当接部材の少なくとも一方の対向面において該加振部材を該当接部材に対して弾性的に当接せしめる弾性当接部材を設けて、前記状態判定手段によって前記自動車が走行状態であると判定された場合に、前記加振部材位置調節手段により前記加振部材が前記当接部材に対して該弾性当接部材を介して弾性的に当接せしめられるようにすると共に、該加振部材が該当接部材に対する弾性的な当接状態で前記加振手段により加振されるようにしたことを、特徴とする。
【0016】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにあっては、自動車の走行時において、加振部材が当接部材に対する弾性的な当接状態で加振手段により加振されるようになっていることから、自動車の走行時において問題となる、走行こもり音等の高周波数域の振動に対しても、加振部材の加振変位に基づく能動的な防振効果を得ることが可能となる。
【0017】
特に、自動車の走行時において問題となる、走行こもり音等の高周波数域の振動は、その振幅が小さいことから、弾性当接部材の弾性変形量、即ち、加振部材の変位量が小さい場合であっても、加振部材の加振変位に基づく能動的な防振効果を有効に得ることが可能となる。
【0018】
すなわち、加振部材の当接部材への当接状態を維持したまま、弾性当接部材の弾性変形に基づいて加振部材の加振変位が許容される。それ故、前述の如き大振幅振動に対するオリフィス通路の防振効果と併せて、小振幅振動に対する能動的な防振効果も得ることが出来るのである。
【0019】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記加振部材の少なくとも外周部分がゴム弾性体で形成されており、該ゴム弾性体で形成された該加振部材の外周部分における外周縁部が前記第一の取付部材又は前記第二の取付部材に固定されることによって、該ゴム弾性体の弾性変形に基づいて該加振部材が変位可能とされていることを、特徴とする。このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、受圧室の流体密性を有利に確保しつつ、加振部材の有効ピストン面積を大きく確保することが可能となり、それによって、受圧室における圧力変動を、加振部材の小さなストロークで効率的に生ぜしめることが可能となる。
【0020】
本発明の第四の態様は、前記第二の態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記第三の態様に記載された前記加振部材を採用して、該加振部材の少なくとも外周部分を形成する前記ゴム弾性体によって、前記弾性当接部材が一体形成されていることを、特徴とする。なお、本態様では、例えば、加振部材の中央部分に硬質の加振板を配設して、該加振板の外周面を覆うようにして被着したゴム弾性体を該加振板から外周側に広がるように延び出させると共に、該加振板の一方の面上でゴム弾性体を突出形成することにより、弾性当接部材を一体形成するようにした構成が好適に採用される。
【0021】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記加振部材の初期位置を、前記当接部材からの離隔位置に弾性的に位置決めする離隔保持手段を有していることを、特徴とする。
【0022】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにあっては、自動車のアイドリング時において、外部からの特別なエネルギーの供給を必要とすることなく離隔保持手段の弾性に基づいて、加振部材を当接部材からの離隔位置に保持することが出来る。また、本態様では、加振部材位置調節手段により離隔保持手段の弾性的な付勢力に抗して加振部材が当接部材に対して当接せしめられることから、加振部材の当接部材に対する当接状態を加振部材位置調節手段により適当に調節することが可能となる。
【0023】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記加振部材の初期位置を、前記当接部材に対する当接位置に弾性的に位置決めする当接保持手段を有していることを、特徴とする。
【0024】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにあっては、自動車の走行時において、外部からの特別なエネルギーの供給を必要とすることなく当接保持手段の弾性に基づいて、加振部材を当接部材への当接位置に保持することが出来る。また、本態様では、例えば、加振手段を電磁式アクチュエータや空気圧式アクチュエータによって構成し、このようなアクチュエータの出力を利用して加振部材を当接部材に対する離隔方向に変位させるようにするに際して、実情としてアイドリング状態よりも状態頻度が格段に高い走行状態下でアクチュエータを停止させることが出来ることから、アクチュエータへの外部からのエネルギー(例えば、電力)の供給量を抑えることが可能となる。
【0025】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れかの態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記加振手段が電磁式アクチュエータおよび空気圧式アクチュエータの何れかによって構成されており、該電磁式アクチュエータおよび該空気圧式アクチュエータの何れかによる出力を利用して前記加振部材を前記当接部材に対する当接方向及び/又は離隔方向に変位させるようにすることで前記加振部材位置調節手段が構成されていることを、特徴とする。このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、既存の電磁式アクチュエータや空気圧式アクチュエータを用いることが可能となる。また、極めて簡単な構成で加振部材位置調節手段を実現することが可能となる。
【0026】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れかの態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、自動車の走行状態下において入力される振動が予め定められた大きさ以上の大振動入力状態であるか否かを判定する振動判定手段を設けると共に、該振動判定手段によって大振動入力状態ではないと判定された場合には、前記加振部材位置調節手段による前記加振部材の前記当接部材に対する当接制御をキャンセルして、該加振部材を該当接部材から離隔状態とする第二の加振部材位置調節手段を設けたことを、特徴とする。
【0027】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、振動判定手段の判定レベル(しきい値)を調節することで、必要なレベルの振動が入っているときにだけ加振部材を当接部材に当接させるようにすることが出来る。これにより、不必要に当接部材に当接させて加振部材の変位を制限することなく、例えば受動的な防振特性も得ることが出来るし、能動的防振効果を得る場合でも加振部材において大きな加振ストロークを効率的に得ることが出来て、防振効果の更なる向上が図られ得る。
【0028】
しかも、本態様においては、大振動入力状態の場合のみ、加振部材が当接部材に対して当接せしめられることから、例えば、加振手段を電磁式アクチュエータや空気圧式アクチュエータによって構成し、このようなアクチュエータの出力を利用して加振部材を当接部材に対する当接方向に変位させる場合には、出力を得るためのアクチュエータの駆動時間を短くすることができる。特に、電磁式アクチュエータでは一層高精度の制御が実現可能となると共に、空気圧式アクチュエータでは簡単な構造とエネルギ消費量の低減が図られ得る。
【0029】
なお、本態様における大振動入力状態とは、例えば、一般的な乗用自動車の場合において、振幅が±0.5mm以上となるエンジンシェイク等の低周波大振幅振動が入力されている状態を設定することが、防振上有効である。
【0030】
本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れかの態様に係る能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、前記第二の取付部材を略円筒形状とし、該第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結することにより該第二の取付部材の該一方の開口部を流体密に覆蓋すると共に、前記加振部材の少なくとも外周部分をゴム弾性体で形成して、該加振部材を該第二の取付部材の他方の開口部に配設し、該ゴム弾性体で形成された該加振部材の外周縁部を該第二の取付部材に連結することにより該第二の取付部材の該他方の開口部を流体密に覆蓋して、それら本体ゴム弾性体と加振部材の間に非圧縮性流体が封入された前記受圧室を形成する一方、該第一の取付部材と該第二の取付部材における該一方の開口部との間に跨って広がるように該本体ゴム弾性体の外方に離隔して前記可撓性膜を配設することにより、該本体ゴム弾性体を挟んで該受圧室と反対側において該可撓性膜で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された前記平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室を相互に連通する前記オリフィス通路を設け、更に、該加振部材の外方に前記加振手段を配設したことを、特徴とする。
【0031】
このような本態様に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにおいては、本体ゴム弾性体の内方に受圧室が形成される一方、本体ゴム弾性体の外方に平衡室が形成されることから、第一の取付部材と第二の取付部材の離隔距離を小さく抑えることが可能となって、エンジンマウントの中心軸方向におけるサイズのコンパクト化や、エンジンマウントにおける弾性中心の低位置化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた能動型流体封入式エンジンマウントにあっては、自動車の走行時に大振幅振動が入力された際に、加振部材位置調節手段により加振部材が当接部材に対して当接せしめられることで、加振部材の過大な変位が抑えられる。これにより、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動には、受圧室の有効な圧力変動に基づいてオリフィス通路を流動せしめられる流体による防振効果が発揮され得ることとなる。一方、自動車のアイドリング時には、加振部材位置調節手段により加振部材が当接部材から離隔せしめられていることから、加振部材の加振変位に基づく防振効果が阻害されることなく有効に発揮され得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0034】
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結された構造とされており、第一の取付金具12が自動車のパワーユニット17(図2参照)に取り付けられる一方、第二の取付金具14が自動車のボデー19(図2参照)に取り付けられることにより、パワーユニット17をボデー19に対して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、パワーユニット17の分担支持荷重と、防振すべき主たる振動が、何れも、エンジンマウント10の略軸方向(図1中、上下方向)に入力されるようになっている。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向をいうものとする。
【0035】
より詳細には、第一の取付金具12は、厚肉の円板形状を有している。また、第一の取付金具12は、略中央部分に挿通孔18が貫設されていると共に、外周部分の上面に取付板部20が一体的に突設されている。そして、取付板部20に貫設されたボルト挿通孔22に挿通される図示しない固定ボルトにより、第一の取付金具12が自動車のパワーユニット17(図2参照)に取り付けられるようになっている。
【0036】
一方、第二の取付金具14は、薄肉大径の円筒形状を有しており、その軸方向下側の開口部には、径方向外方に向かって広がる円環板形状の段差部24が一体形成されており、更に、段差部24の外周縁部には、軸方向下方に向かって突出する円環状のかしめ筒部26が一体形成されている。
【0037】
そして、第二の取付金具14の軸方向上方に離隔して、第一の取付金具12が、略同一中心軸上に配されており、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、可撓性膜としてのダイヤフラム28によって連結されている。ダイヤフラム28は、薄肉のゴム膜によって形成されており、容易に弾性変形が許容されるように、大きな弛みを持った湾曲断面形状をもって周方向に延びる略円環形状を有している。そして、ダイヤフラム28の内周縁部が、第一の取付金具12の外周縁部に対して加硫接着されていると共に、ダイヤフラム28の外周縁部が、第二の取付金具14の軸方向上側の開口周縁部に加硫接着されている。これにより、ダイヤフラム28は、第一の取付金具12および第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0038】
このようなダイヤフラム28の一体加硫成形品に対して、別体加硫成形された本体ゴム弾性体16が、後から組み付けられており、かかる本体ゴム弾性体16によって、第一の取付金具12と第二の取付金具14が弾性連結されている。
【0039】
本体ゴム弾性体16は、全体として大径の円錐台形状を有しており、その中央部分には、本体ゴムインナ金具30が同軸的に配されて加硫接着されていると共に、その大径側端部外周面に対して本体ゴムアウタ筒金具32が重ね合わせられて加硫接着されている。
【0040】
本体ゴムインナ金具30は、逆向きの略円錐台形状を有しており、その中央部分には上面に開口するねじ穴34が設けられている。一方、本体ゴムアウタ筒金具32は、略大径円筒形状を有する筒壁部36を備えており、この筒壁部36の軸方向下端部には径方向外方に向かって広がるフランジ状部38が一体形成されていると共に、筒壁部36の軸方向上端部分は、軸方向上方に行くに従って次第に拡開するテーパ筒状部40とされている。これにより、本体ゴムアウタ筒金具32の外周側には、外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びる周溝42が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16に対して加硫接着せしめられた状態下で、本体ゴムインナ金具30における逆テーパ形状の外周面と本体ゴムアウタ筒金具32におけるテーパ筒状部40が相互に離隔して対向位置せしめられており、かかる対向面間において、本体ゴムインナ金具30と本体ゴムアウタ筒金具32が、本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。
【0041】
このような本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して、ダイヤフラム28の一体加硫成形品が上方から重ね合わせられて組み付けられており、第一の取付金具12が本体ゴムインナ金具30の上面に重ね合わされて固着されていると共に、第二の取付金具14が本体ゴムアウタ筒金具32に外嵌されて固着されており、更に、ダイヤフラム28が、本体ゴム弾性体16の外方に離隔して、本体ゴム弾性体16の外面を全体に亘って覆うようにして配設されている。
【0042】
すなわち、第一の取付金具12が本体ゴムインナ金具30の上面に直接に重ね合わされて、連結ボルト44で相互に固定されている。なお、第一の取付金具12と本体ゴムインナ金具30の重ね合わせ面間には凹凸嵌合部が設けられており、それによって、第一の取付金具12と本体ゴムインナ金具30が、軸直角方向および周方向で位置決めされている。一方、本体ゴムアウタ筒金具32は、その下端部において、フランジ状部38の外周縁部が第二の取付金具14の段差部24に対して軸方向に直接に重ね合わされていると共に、その上端部において、テーパ筒状部40の開口周縁部が第二の取付金具14の内周面に対して、全周に亘って径方向で重ね合わされている。
【0043】
そして、本体ゴムアウタ筒金具32のフランジ状部38の外周縁部に対して、第二の取付金具14のかしめ筒部26がかしめ固定されることによって、本体ゴムアウタ筒金具32と第二の取付金具14が相互に固定されて組み付けられるようになっている。なお、これら本体ゴムアウタ筒金具32の上下両端部における第二の取付金具14との重ね合わせ部位には、それぞれ、本体ゴム弾性体16又はダイヤフラム28と一体成形されたシールゴムが介在されており、流体密にシールされている。これにより、本体ゴムアウタ筒金具32に形成された周溝42が第二の取付金具14で流体密に覆蓋されており、その結果、本体ゴムアウタ筒金具32の筒壁部36と第二の取付金具14の径方向対向面間を周方向に所定長さで延びる環状通路46が形成されている。
【0044】
さらに、本体ゴムアウタ筒金具30の下側開口部には、当接部材としての仕切板金具48と蓋部材50が組み付けられている。蓋部材50は、略円環板形状の支持ゴム弾性体52に対して、その中央部分に加振板54が加硫接着されていると共に、その外周部分に環状保持金具56が加硫接着されており、それら加振版54と環状保持金具56が支持ゴム弾性体52で弾性的に連結された構造となっている。
【0045】
加振板54は、円板形状を有しており、その外周縁部には、上方に向かって突出する環状連結部58が一体形成されている。また、加振板54の中央部分には、下方に向かって延びる駆動軸60が一体形成されており、この駆動軸60の先端部分が雄ねじとされている。なお、加振板54は、環状連結部58や駆動軸60を含んで、金属や合成樹脂等の硬質材で一体形成されている。
【0046】
一方、環状保持金具56は、円筒形状を有する筒状部62の上下開口部に対してそれぞれフランジ状に広がる取付板部64と位置決め突起66が一体形成されており、取付板部64の外周縁部には、下方に突出する円環状の圧入部68が一体形成されている。
【0047】
このような構造とされた環状保持金具56の径方向内方に離隔して略同一中心軸上に加振板54が配設されており、これら環状保持金具56と加振板54の径方向対向面間に広がるようにして支持ゴム弾性体52が配設されている。また、かかる支持ゴム弾性体52は、その内外周縁部が加振板54の環状連結部58と環状保持金具56の筒状部62の対向面に対してそれぞれ加硫接着されており、それによって、加振板54と環状保持金具58の間が支持ゴム弾性体52で流体密に覆蓋されている。
【0048】
また、本実施形態では、加振板54の環状連結部58の付近において、環状連結部58を覆うかたちで弾性当接部材としての当接ゴム70が形成されており、特に、本実施形態では、かかる当接ゴム70は、支持ゴム弾性体52と一体形成されている。なお、本実施形態においては、当接ゴム70の高さは、環状連結部58の周方向で異ならされている。これにより、当接ゴム70の上面は、周方向に適当な間隔をあけて複数の突起が並んだような外観を呈している。
【0049】
一方、仕切板金具48は、薄肉の円板形状を有しており、その外径寸法が、環状保持金具56における取付板部64の径方向中間部分まで至る大きさとされている。また、仕切板金具48の中央部分は、略台地状に上方に突出せしめられており、かかる中央部分に対して、複数のオリフィス通孔72が貫設されている。更に、仕切板金具48の外周縁部近くに位置する周上には、複数の係止片74が上方に向かって突設されている。
【0050】
そして、仕切板金具48は、係止片74によって軸直角方向に位置合わせされて、第二の取付金具14の下側開口部において、そこに組み付けられた本体ゴムアウタ筒金具32のフランジ状部38に対して外周縁部が重ね合わされて組み付けられている。更に、第二の取付金具14の下側開口部には、仕切板金具48の下方から蓋部材50が組み付けられており、蓋部材50における環状保持金具56の取付板部64が、本体ゴムアウタ筒金具32と仕切板金具48に重ね合わされて、それぞれの外周縁部が第二の取付金具14のかしめ筒部26によってかしめ固定されている。
【0051】
これにより、第二の取付金具14の下側開口部が、蓋部材50で流体密に覆蓋されており、このように第二の取付金具14の下側開口部が蓋部材50で流体密に覆蓋されることによって、本体ゴム弾性体16と蓋部材50の対向面間には、非圧縮性流体が封入された受圧室76が形成されている。この受圧室76は、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されており、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて振動が入力されて圧力変動が惹起されるようになっている。
【0052】
更にまた、受圧室76内には、仕切板金具48が配設されており、それによって、受圧室76が、仕切板金具48を挟んで、本体ゴム弾性体16側の振動入力室78と、蓋部材50側の加振室80に二分されていると共に、これら振動入力室78と加振室80がオリフィス通孔72で連通せしめられている。
【0053】
また、本実施形態では、上述の如く蓋部材50と仕切板金具48が重ね合わされた状態で、当接ゴム70が、支持ゴム弾性体52の弾性によって、仕切板金具48の下面に対して当接せしめられている。即ち、本実施形態では、加振部材を構成する支持ゴム弾性体52によって当接保持手段が構成されており、かかる当接保持手段(支持ゴム弾性体52)によって、加振板54の初期位置が仕切板金具48への弾性的な当接状態とされているのである。
【0054】
なお、かかる初期位置においては、支持ゴム弾性体52に弾性変形が生ぜしめられていない状態で当接ゴム70が仕切板金具48に接触しているだけとされていても良いが、必要に応じて、支持ゴム弾性体52に対して軸方向の弾性変形が及ぼされて当接ゴム70が軸方向に所定量だけ弾性変形せしめられた状態とされていても良い。
【0055】
また、本実施形態においては、当接ゴム70の高さが、環状連結部58の周方向で異ならされていることから、当接ゴム70が仕切板金具48に当接せしめられた状態でも、仕切板金具48との間に適当な隙間が確保されて、加振室80を遮断することが回避されている。そして、このように加振室80を分断(分割)状態に遮断することが回避されていることで、密閉状態とされた領域内の液圧による加振板54の作動への悪影響が回避されるようになっている。
【0056】
更にまた、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム28が、それぞれの内周縁部と外周縁部において第一の取付金具12と第二の取付金具14に固着されることにより、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム28の対向面間には、非圧縮性流体が封入された平衡室82が形成されている。即ち、この平衡室82は、壁部の一部が変形容易なダイヤフラム28で構成されており、ダイヤフラム28の弾性変形に基づいて容易に容積変化が許容されるようになっているのである。なお、受圧室76や平衡室82に封入される非圧縮性流体としては、後述するオリフィス通路84を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を自動車用のエンジンマウント10に要求される振動周波数域で効率的に得るために、一般に、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0057】
さらに、受圧室76と平衡室82は、第二の取付金具14内に形成された環状通路46が、その周方向両端部に形成された連通孔(図示せず)を通じて接続されており、それによって、受圧室76と平衡室82を相互に連通せしめて両室76,82間での流体流動を許容するオリフィス通路84が所定長さで形成されている。なお、オリフィス通路84は、振動入力時に受圧室76と平衡室82の間に惹起される圧力差に基づいて内部を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の周波数域で有効に発揮されるように、その通路断面積や通路長さ等が適当に設定されてチューニングされている。
【0058】
また一方、蓋部材50を挟んで受圧室76と反対側には、加振手段としての電磁式アクチュエータ86が配設されている。この電磁式アクチュエータ86は、略カップ形状のハウジング88にコイル90が収容状態で固定的に組み付けられていると共に、コイル90の周りには、それぞれ環状の磁性体からなる上下のヨーク92,94が固定的に組み付けられて磁路が形成されている。詳細には、これら上ヨーク92と下ヨーク94は強磁性体から形成されて、ハウジング88を介して磁気的に接続されており、縦断面においてコイル90の周りを囲むようにして延びる磁路を協働して形成する。この磁路には、コイル90の内周部分において、上ヨーク92と下ヨーク94の間に磁気ギャップが形成されており、この磁気ギャップに相当する位置に滑動子96が配設されている。
【0059】
滑動子96は、全体として略円筒形状を有しており、その内周面には、環状の係合突起102が内方に向かって突出形成されている。このような構造とされた滑動子96は、上ヨーク92の中央を貫通するように形成された案内孔98に対して弾性的に位置決めされて装着されたガイドスリーブ100内を滑動可能に組み付けられている。そして、コイル90への通電によって上下のヨーク92,94の対向面間に対峙する磁極が生ぜしめられて、滑動子96に対して下ヨーク94に向かう軸方向の駆動力が及ぼされるようになっており、それによって、滑動子96がガイドスリーブ100で案内されつつ軸方向に駆動されるようになっている。
【0060】
このような構造とされた電磁式アクチュエータ86は、ハウジング88の開口周縁部に形成されたフランジ部104が、蓋部材50における環状保持金具56の取付板部64に重ね合わせられて、環状保持金具56等と共に、かしめ筒部26で第二の取付金具14にかしめ固定されている。これにより、電磁式アクチュエータ86は、その滑動子96の滑動中心軸が、第一及び第二の取付金具12,14の中心軸に略一致するようにして同一中心軸上に組み付けられている。
【0061】
また、このように組み付けられた電磁式アクチュエータ86には、その中心軸上で上方から加振板54の駆動軸60が差し入れられており、この駆動軸60が、滑動子96の係合突部102に挿通されている。更に、駆動軸60には、コイルスプリング106が外挿されて、加振板54と滑動子96の係合突部102の対向面間に跨って配設されていると共に、駆動軸60の係合突部102に挿通された先端部分には、位置決めナット108が螺着されている。
【0062】
そして、位置決めナット108を駆動軸60にねじ込み、滑動子96の係合突部102を介して、加振板54との間でコイルスプリング106を圧縮せしめることにより、駆動軸60に対して滑動子96が軸方向で固定的に位置決めされている。これにより、駆動軸60と滑動子96は、コイルスプリング106の付勢力で軸方向において実質的に固着状態で連結されて、コイル90への通電で滑動子96に作用せしめられる駆動力が駆動軸60に及ぼされるようになっている。
【0063】
その結果、加振板54が支持ゴム弾性体52の付勢力に抗して下方(電磁式アクチュエータ86側)に向かって変位せしめられることとなる。そこにおいて、受圧室76は、本体ゴム弾性体16と蓋部材50の対向面間に形成されていることから、蓋部材50における支持ゴム弾性体52と加振板54によっても、受圧室76の壁部の一部が構成されることとなる。従って、本実施形態では、電磁式アクチュエータ86の駆動力が及ぼされる加振板54と、かかる加振板54を上下方向で変位可能に支持する支持ゴム弾性体52とによって加振部材が構成されているのである。
【0064】
なお、本実施形態においては、コイルスプリング106の両端には、カラー部材110が冠着されており、コイルスプリング106と他部材との擦れによる磨耗を軽減している。
【0065】
更にまた、電磁式アクチュエータ86のハウジング88の底壁部中央には、透孔112が貫設されており、滑動子96に対向位置せしめられて磁力を及ぼす下ヨーク94が外部に露呈されていると共に、下ヨーク94の中心孔114を通じて、滑動子96が配設された、電磁式アクチュエータ86の内部空間が、直接に外部に開口せしめられるようになっている。また、下ヨーク94の中心孔114は、その下側開口部近くが拡径された大径部116とされており、かかる大径部116には、一方の面の略全体に亘ってゴム層122が加硫接着された蓋板金具124が組み付けられている。これにより、電磁式アクチュエータ86の下ヨーク94に形成された中心孔114が、その下側開口部に形成された大径部116において流体密に覆蓋されている。
【0066】
また、このように蓋板金具124が組み付けられた状態で、蓋板金具124の中央部分は、加振板54の駆動軸60の先端面に対して軸方向下方に所定距離を隔てて対向位置せしめられており、それによって、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に大きな振動荷重が入力されて受圧室76に過大な圧力が惹起された場合等において、駆動軸60の先端がゴム層122を介して蓋板金具124を当接することにより、加振板54の変位量が緩衝的に制限されるようになっている。
【0067】
上述の如き構造とされたエンジンマウント10には、電磁式アクチュエータ86に対して、更に筒形ブラケット126が外挿されている。筒形ブラケット126は、上端開口部にフランジ状部128を有しており、このフランジ状部128が、本体ゴムアウタ筒金具32のフランジ状部38や環状保持金具56の取付板部64,ハウジング88のフランジ部104と共に、第二の取付金具14に対してかしめ筒部26でかしめ固定されている。また、筒形ブラケット126の下側開口部には、取付板部130が形成されており、この取付板部130に対して複数の取付用孔(図示せず)が形成されている。そして、筒形ブラケット126が取付板部130に形成された取付用孔に挿通される固定ボルト(図示せず)で自動車のボデー19(図2参照)に取り付けられることにより、第二の取付金具14が筒形ブラケット126を介して自動車のボデー19に取り付けられるようになっている。
【0068】
このような構造とされたエンジンマウント10は、図2に示されているように、パワーユニット17とボデー19の間に装着された状態で、自動車の走行状態に応じて、制御装置132により、コイル90への通電が制御されるようになっている。この制御装置132は、制御装置本体134とマップ記憶装置136を備えている。制御装置本体134は、CPU,制御プログラムや各種データが記憶されたROM,各種処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM等を含んで構成されており、ECU(エンジンコントロールユニット)等から得られるエンジンの点火パルス信号等の基準信号:Bに基づいて、ボデー19における防振すべき振動に対応した周波数の信号を生成し得るようになっている。
【0069】
一方、マップ記憶装置136は、ROM等によって構成されており、ボデー19における防振すべき振動に対応した振幅値(レベル)と位相値が記憶されている。そこにおいて、ボデー19における防振すべき振動の振幅値と位相値は、エンジンのクランク回転数や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等といった自動車の運転状態に応じて、それぞれ異なる値をとる。それ故、マップ記憶装置138においては、クランク回転数の程度や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等に応じて、それぞれ、振幅値と位相値がマップデータとして記憶されている。
【0070】
そして、クランク回転数の程度や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等といった運転状態信号:Rに応じて、マップ記憶装置138に記憶されたマップデータの中から適当なものを選択し、この選択されたマップデータに基づいて、ボデー19の振動を相殺的乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が電磁式アクチュエータ86によって及ぼされ得るように、制御装置本体134において、電磁式アクチュエータ86に対する制御信号:Sが生成されるようになっており、この制御信号:Sが図示しないアンプによって増幅された後、電磁式アクチュエータ86のコイル90に対して駆動電流として供給されるようになっている。
【0071】
また、本実施形態では、このような加振力を得るための駆動電流の供給に加えて、加振板54の位置を調節するための駆動電流の供給が行われるようになっている。かかる加振板54の位置を調節するための制御処理(加振板位置制御処理)について、図3に基づいて説明する。なお、本実施形態では、この加振板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっている。
【0072】
先ず、制御装置132は、ステップ(以下、Sとする)1において、エンジンが運転状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、エンジンの点火パルス信号やエンジンのクランク回転数等に基づいて行われる。エンジンが運転状態でない場合(S1:NO)には、制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。そこにおいて、本実施形態では、加振板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっていることから、先の加振板位置制御処理において、コイル90への通電が行われている場合もあり得る。このような場合において、制御装置132によってエンジンが運転状態でないと判定される(S1:NO)と、本実施形態では、コイル90への通電が終了せしめられるようになっている。即ち、本実施形態では、エンジンが運転状態でない場合(S1:NO)には、コイル90への通電が行われないこととなる。
【0073】
一方、エンジンが運転状態である場合(S1:YES)には、制御装置132は、S2において、自動車のアイドリング状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた速度センサからの信号等に基づいて行われる。自動車のアイドリング状態である場合(S2:YES)には、制御装置132は、S3において、通常処理を実行する。この通常処理は、コイル90に対して所定の大きさの電流を流し、加振板54を支持ゴム弾性体52の付勢力に抗して下方に向けて変位させて、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間を形成するものである。このような通常処理を実行した制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。
【0074】
なお、制御装置132が加振板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置132がS3の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置132がS3の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置132が加振板位置制御処理を実行して、エンジンが停止状態であると判定(S1:NO)するまで、或いは、走行状態であると判定(S2:NO)するまで、維持されるようになっている。
【0075】
また、本実施形態では、このようにコイル90に対して所定の大きさの電流を流している状態からコイル90に流す電流の大きさを変化させることによって、加振板54を加振変位せしめて、アイドリング振動に対して加振板54の加振変位に基づく防振効果を発揮するようになっている。そこにおいて、コイル90に流す電流の大きさを変化させる制御は、制御装置132が、前述の如きマップ制御を実行して、アイドリング振動を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が加振板54に及ぼされ得るような制御信号:Sを生成することによって有利に実現される。
【0076】
一方、アイドリング状態でない場合(S2:NO)には、制御装置132は、S4において、当接処理を実行する。この当接処理は、コイル90に対して電流を流さないようにして、支持ゴム弾性体52の弾性で当接ゴム70を仕切板金具48に当接せしめるものである。このような当接処理を実行した制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。
【0077】
なお、制御装置が加振板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置132がS4の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置132がS4の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置132が加振板位置制御処理を実行して、アイドリング状態である判定(S2:YES)するまで、維持されるようになっている。
【0078】
また、本実施形態では、上述の如く、支持ゴム弾性体52の弾性を利用して当接ゴム70を仕切板金具48に当接せしめた状態から、所定周期毎にコイル90に対して予め定められた大きさの電流を流すことによって、加振板54を変位せしめて、走行こもり音に対して加振板54の加振変位に基づく防振効果を発揮するようになっている。この場合、制御装置132によって行われる、コイル90に対して所定周期毎に電流を流す制御は、制御装置132が、前述のマップ制御を実行して、走行こもり音を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が加振板54に及ぼされ得るような制御信号:Sを生成することによって有利に実現される。
【0079】
上述の説明から明らかなように、本実施形態においては、制御装置132がS2の制御処理を実行することによって、状態判定手段が構成されている。また、本実施形態では、自動車のアイドリング時(S2:YES)において、制御装置132が電磁式アクチュエータ86等を利用してS3の通常処理を実行する一方、自動車の走行時(S2:NO)において、制御装置132がS4の当接処理を実行することによって、加振部材位置調節手段が構成されている。
【0080】
従って、本実施形態のエンジンマウント10は、自動車の走行時には、当接ゴム70が仕切板金具48に当接されて、受圧室76に大振幅振動が入力された場合であっても、加振板54の過大な変位が抑えられるようになっており、その結果、オリフィス通路84を流動せしめられる流体量が確保されて、オリフィス通路84を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が有効に発揮され得るようになっている。
【0081】
一方、自動車のアイドリング時には、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間が形成されていることから、アイドリング振動に対して発揮される、加振板54の加振変位に基づく防振効果を、当接ゴム70や仕切板金具48の存在によって阻害されることなく、有効に得ることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態では、本体ゴム弾性体16の外側に平衡室82が形成されていることから、エンジンマウント10の軸方向長さを短くすることが可能となる。
【0083】
更にまた、本実施形態では、加振板54が当接ゴム70を介して仕切板金具48に対して弾性的に当接せしめられていることから、自動車の走行時に加振板54に加振力を及ぼした場合であっても、受圧室76に対して有効な圧力変動を生ぜしめることが可能となり、それによって、自動車の走行時に問題となる、走行こもり音に対しても加振板54の加振変位に基づく防振効果を有効に得ることが可能となる。
【0084】
なお、当接状態を保ったままで、即ち当接ゴム70の圧縮変形ストローク範囲内で加振板54が加振変位されるようにすることが望ましい。これにより、加振作動に伴って加振板54が仕切板金具48に繰り返し打ち当たって異音等が発生することを防止できる。また、アイドリング状態と走行状態で加振板54の位置(加振変位を除いた略静的な初期位置乃至は変位位置)の切り換えに際して、加振板54が仕切板金具48に打ち当たることに伴う衝撃は、本実施形態では、当接ゴム70の弾性に基づいて回避されるようになっている。
【0085】
更にまた、本実施形態では、加振板54と、かかる加振板54を変位可能に支持する支持ゴム弾性体52によって加振部材が構成されていることから、有効ピストン面積を大きくすることが可能となり、それによって、加振板54のストローク範囲が小さい場合であっても有効な圧力変動を生ぜしめることが可能となる。
【0086】
続いて、本発明の第二の実施形態のエンジンマウント140について、図4に基づいて説明する。なお、以下の説明において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、図中に、第一の実施形態と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0087】
より詳細には、本実施形態のエンジンマウント140は、第一の実施形態のエンジンマウント(10)に比して、当接ゴム(70)が設けられておらず、その代わりに、加振板54の下面外周縁部から下方に向かって突出する、弾性当接部材としての当接ゴム142が支持ゴム弾性体52と一体的に形成されている。そこにおいて、本実施形態では、当接ゴム142の突出高さは、環状連結部58の周方向で異ならされている。これにより、加振板54の下面外周縁部には、複数の突起が周方向に適当な間隔をあけて並んでいるような外観を呈している。
【0088】
また、上ヨーク92の上面内周縁部には、当接部材としての環状突起144が上方に向かって突出するようにして一体形成されている。この環状突起144は、全体として円環形状を呈しており、特に、本実施形態では、その上面は、周方向に連続して延びる環状の平坦面とされている。
【0089】
そして、蓋部材50の下方に電磁式アクチュエータ86が配された状態で、当接ゴム142と環状突起144は、当接ゴム142の突出先端面と環状突起144の上面に所定の隙間が形成されるようにして、上下方向で対向位置せしめられている。即ち、本実施形態では、加振板54を変位可能に支持する支持ゴム弾性体52の弾性によって、当接ゴム142の突出端と環状突起144の間に隙間が形成されているのである。このことから明らかなように、本実施形態では、加振部材を構成する支持ゴム弾性体52によって離隔保持手段が構成されており、かかる離隔保持手段(支持ゴム弾性体52)によって、加振板54の初期位置が環状突起144からの離隔状態とされている。
【0090】
続いて、このような構造とされた本実施形態のエンジンマウント140における加振板位置制御処理について、図5に基づいて説明する。なお、本実施形態の加振板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっている。先ず、制御装置132は、S11において、エンジンが運転状態であるか否かを判定する。この判定は、エンジンの点火パルス信号やエンジンのクランク回転数等に基づいて行われる。エンジンが運転状態でない場合(S11:NO)には、制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。そこにおいて、本実施形態では、加振板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっていることから、先の加振板位置制御処理において、コイル90への通電が行われていることもあり得る。このような場合に、制御装置132によってエンジンが運転状態でないと判定される(S11:NO)と、本実施形態では、コイル90への通電が終了せしめられるようになっている。即ち、本実施形態では、エンジンが運転状態でない場合(S11:NO)には、コイル90への通電は行われないようになっているのである。
【0091】
一方、エンジンが運転状態である場合(S11:YES)には、制御装置132は、S12において、自動車のアイドリング状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた速度センサからの信号等に基づいて行われる。自動車のアイドリング状態である場合(S12:YES)には、制御装置132は、S13において、通常処理を実行する。この通常処理は、コイル90に対して電流を流さないようにすることで、支持ゴム弾性体52の弾性を利用して当接ゴム142の突出端と環状突起144の間に隙間を形成するものである。このような通常処理を実行した制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。
【0092】
なお、制御装置132が加振板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置132がS13の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置132がS13の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置132が加振板位置制御処理を実行して、走行状態であると判定(S12:NO)すると共に、後述する悪路であるか否かの判定(S14)において悪路であると判定(S14:YES)するまで、維持されるようになっている。
【0093】
また、本実施形態では、このように支持ゴム弾性体52の弾性を利用して当接ゴム142を環状突起144から離隔せしめた状態から、所定周期毎にコイル90に対して予め定められた大きさの電流を流すことによって、加振板54を加振変位せしめて、ボデー19において防振すべき振動(例えば、アイドリング振動や走行こもり音)に対して加振板54の加振変位に基づく防振効果を発揮するようになっている。そこにおいて、コイル90に対して所定周期毎に電流を流す制御は、制御装置132が、先に説明したマップ制御を実行して、ボデー19において防振すべき振動を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が加振板54に及ぼされ得るような制御信号:Sを生成することによって有利に実現される。
【0094】
一方、アイドリング状態でない場合(S12:NO)には、制御装置132は、S14において、悪路であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた加速度センサからの検出信号等に基づいて、予め定められた大きさの振動が入力されたか否かで行うようになっている。因みに、本実施形態では、±0.5mm以上の振幅の振動が入力された場合に、大振動入力状態と判定されるようになっている。
【0095】
悪路でない場合(S14:NO)には、制御装置132は、S13の通常処理を実行する一方、悪路である場合(S14:YES)には、制御装置132は、S15において、当接処理を実行する。この当接処理は、コイル90に対して所定の大きさの電流を流し、加振板54を下方(電磁式アクチュエータ86側)に向けて変位せしめて、当接ゴム142を環状突起144に対して当接させるものである。このような当接処理を実行した制御装置132は、加振板位置制御処理を終了する。
【0096】
なお、制御装置132が加振板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置132がS15の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置132がS15の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置132が加振板位置制御処理を実行して、エンジンが停止状態であると判定(S11:NO)するまで、アイドリング状態であると判定(S12:YES)するまで、或いは、悪路でないと判定(S14:NO)するまで、維持されるようになっている。
【0097】
上述の説明から明らかなように、本実施形態では、制御装置132がS12の制御処理を実行することによって、状態判定手段が構成されている。また、本実施形態では、自動車のアイドリング時(S12:YES)において、制御装置132がS13の制御処理を実行する一方、自動車の走行時(S12:NO)において、制御装置132がS15の制御処理を実行することによって、加振部材位置調節手段が構成されている。更に、本実施形態では、制御装置132がS14の制御処理を実行することによって、振動判定手段が構成されている。更にまた、本実施形態では、予め定められた大きさの振動が入力されていない場合(S14:NO)に、制御装置132がS13の制御処理を実行することによって、第二の加振部材位置調節手段が構成されている。
【0098】
このようなエンジンマウント140においても、第一の実施形態のエンジンマウント(10)と同様な効果を得ることが出来る。
【0099】
そこにおいて、本実施形態では、自動車の走行時であっても、予め定められた大きさ以上の振動が入力されない限り、コイル90への通電が行われないようになっていることから、電力の消費を抑えることが可能となる。
【0100】
続いて、本発明の第三の実施形態としてのエンジンマウント150について、図6に基づいて説明する。このエンジンマウント150は、第一の取付部材としての第一の取付金具152と第二の取付部材としての第二の取付金具154が、互いに離隔して対向配置されていると共に、対向面間に介装された本体ゴム弾性体156によって弾性的に連結されている。そして、かかるエンジンマウント150は、第一の取付金具152と第二の取付金具154において、それらの一方がパワーユニット158(図7参照)側に、他方がボデー160(図7参照)側に、それぞれ、固定的に取り付けられることによって、パワーユニット158をボデー160に対して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、このエンジンマウント150には、第一の取付金具152と第二の取付金具154の略対向方向である図6中の略上下方向にパワーユニット158の分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付金具152と第二の取付金具154が互いに接近する方向に本体ゴム弾性体156が弾性変形せしめられると共に、それら第一の取付金具152と第二の取付金具154の略対向方向に、防振すべき主たる振動が入力される。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として図6中の上下方向をいう。
【0101】
より詳細には、第一の取付金具152は、略円板形状を有しており、その中央には、上方に向かって突出する第一の取付ボルト162が固設されている。そして、この第一の取付ボルト162によって、第一の取付金具152が、自動車のパワーユニット158(図7参照)に取り付けられるようになっている。
【0102】
一方、第二の取付金具154は、大径の略円筒形状を有する筒金具164と、大径浅底の略有底円筒形状を有する底金具166によって構成されている。筒金具164は、軸方向上端部が上方に向かって拡径するテーパ部168とされている一方、軸方向中間部分には、径方向に広がる円環板形状の段差部170が形成されており、この段差部170を挟んで、軸方向上側が小径筒部172とされていると共に、軸方向下側が大径筒部174とされている。また、大径筒部174の開口周縁部には、かしめ部176が一体形成されている。また一方、底金具166の開口周縁部には、径方向外方に広がるフランジ状部178が一体形成されている。
【0103】
そして、筒金具164の下側開口部に底金具166が重ね合わせされて、底金具166のフランジ状部178に対して、筒金具164のかしめ部176がかしめ固定されており、それによって、第二の取付金具154が、全体として深底の略有底円筒形状をもって形成されている。なお、底金具166の底部には、下方に向かって突出する二本の第二の取付ボルト180,180が固設されており、これら第二の取付ボルト180,180によって、第二の取付金具154が、自動車のボデー160(図7参照)に取り付けられるようになっている。
【0104】
このような構造とされた第二の取付金具154の開口部側に離隔して、第一の取付金具152が、第二の取付金具154と略同一中心軸上に配設されるようになっている。そして、これら第一の取付金具152と第二の取付金具154の間に本体ゴム弾性体156が配設されており、この本体ゴム弾性体156によって、第一の取付金具152と第二の取付金具154が弾性的に連結されている。
【0105】
この本体ゴム弾性体156は、全体として略円錐台形状を有しており、その小径側端面に第一の取付金具152が重ね合わされて加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体156の大径側端部外周面には、第二の取付金具154を構成する筒金具164におけるテーパ部168の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。要するに、本実施形態では、本体ゴム弾性体156が第一の取付金具152と筒金具164を備えた一体加硫成形品として形成されており、筒金具164の軸方向上側の開口部が本体ゴム弾性体156によって流体密に閉塞されているのである。
【0106】
なお、本体ゴム弾性体156の大径側端面には、筒金具164内に開口する大径凹所182が形成されており、パワーユニット158(図7参照)の分担支持荷重が及ぼされた際の本体ゴム弾性体156における引張応力が軽減されて、耐久性の向上が図られている。
【0107】
また、筒金具164における小径筒部172の内周面には、略全面に亘って薄肉のシールゴム層184が、全体に亘って略一定の肉厚寸法で形成されており、加硫接着等により小径筒部172に固着されている。そこにおいて、本実施形態では、シールゴム層184の上端部が本体ゴム弾性体156と一体的に連接されており、それらシールゴム層184と本体ゴム弾性体156が一体形成されている。
【0108】
更にまた、筒金具164には、前述の如く略一定の内径寸法とされた軸方向中間部分の小径筒部172において、その軸方向の略中央に位置して、シールゴム層184も貫通して延び、内外周面に開口する円形の挿通孔186が一つ形成されている。
【0109】
さらに、本体ゴム弾性体156の一体加硫成形品には、筒金具164の軸方向下側開口部から、仕切部材188と、変形容易な可撓性膜としてのダイヤフラム190が、順次、挿入されて嵌め込まれ、第二の取付金具154に対して固定的に組み付けられている。
【0110】
仕切部材188は、略円形のブロック形状を有しており、その軸方向下側の外周部分には、径方向外方に向かって突出するフランジ状部192が一体形成されている。そして、かかる仕切部材188は、筒金具164の小径筒部172に挿入されて、その外周面が、シールゴム層184を介して、筒金具164の内周面に対して流体密に密着されていると共に、フランジ状部192が、筒金具164の段差部170に重ね合わされて、底金具166のフランジ状部192とともにかしめ固定されることにより、第二の取付金具154に対して固定的に取り付けられている。
【0111】
また、ダイヤフラム190は、変形容易な薄肉のゴム膜で形成されており、中央部分には、容易に変形するように弛みを持たせてあると共に、外周縁部には、略円環板形状の固定金具194が加硫接着されている。そして、このダイヤフラム190は、筒金具164の大径筒部174に挿入配置されており、固定金具194が、筒金具164の段差部170に重ね合わされ、底金具166のフランジ状部192とともにかしめ固定されることによって第二の取付金具154に組み付けられている。これにより、第二の取付金具154の下側開口部が、ダイヤフラム190によって流体密に覆蓋されている。なお、固定金具194と筒金具164における段差部170および底金具166におけるフランジ状部178の間では、ダイヤフラム190と一体形成されたシールゴム196が挟圧されて、かしめ固定部位が流体密にシールされている。
【0112】
これにより、筒金具164の両側開口部が、本体ゴム弾性体156とダイヤフラム190で流体密に覆蓋されて、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域が形成されている。なお、封入される非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が採用され得、特に、後述する流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0113】
また、かかる流体封入領域は、筒金具164の軸方向中間部分に配設された仕切部材188によって上下に二分されており、それによって、仕切部材188の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体156で構成された振動入力室198が形成されている一方、仕切部材188の下側には、壁部の一部がダイヤフラム190で構成された平衡室200が形成されている。即ち、振動入力室198は、第一の取付金具152と第二の取付金具154の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体156の弾性変形に基づいて振動が入力されて圧力変化が生ぜしめられる一方、平衡室200は、ダイヤフラム190の変形によって容積変化が容易に許容されることにより圧力変化が吸収、回避されるようになっているのである。なお、ダイヤフラム190を挟んで平衡室200と反対側には、ダイヤフラム190と底金具166の間に位置して、ダイヤフラム190の変形を許容する空気室202が形成されている。また、かかる空気室202は、底金具166に設けられた連通孔204を通じて大気中に連通されている。
【0114】
さらに、振動入力室198と平衡室200を仕切る仕切部材188は、下側仕切部材206と上側仕切部材208が軸方向に重ね合わされることによって形成されている。下側仕切部材206の中央部分には、上方に向かって開口するすり鉢状の中央凹所210が形成されていると共に、この中央凹所210の内周面から下側仕切部材206内を貫通して径方向に延び、外周面に開口する円形断面のエア給排孔212が形成されている。そして、このエア給排孔212の外周面側開口部が、第二の取付金具154の小径筒部172に形成された挿通孔186に位置合わせされており、エア給排孔212が、挿通孔186を通じて、第二の取付金具154の外周面(外部空間)に開口せしめられている。また、かかるエア給排孔212には、第二の取付金具154の挿通孔186を通じて外方から圧入された接続管体228が固着されるようになっている。また一方、上側仕切部材208の中央部分には、下方に向かって開口する円形の中央凹所214が形成されている。
【0115】
このような構造とされた下側仕切部材206と上側仕切部材208は、軸方向で、互いの外周縁部が相互に密接状に重ね合わせられており、かかる重ね合わせ面間には、両仕切部材206,208の中央凹所210,214の開口部が重ね合わされることにより、一つの内部空所が形成されている。また、この内部空所には、加振部材としてのゴム弾性板218が収容配置されている。かかるゴム弾性板218は、外力に抗して一定形状への復元力を発揮し得るだけの板厚を備えた円板形状を有している。そこにおいて、本実施形態では、ゴム弾性板218の上面に対して、弾性当接部材としての当接ゴム226が、ゴム弾性板218の同心円上において周方向に適当な間隔をあけて上方に向かって突出するように複数形成されている。また、ゴム弾性板218の外周面には、リング形状の嵌着金具220が加硫接着されている。そして、この嵌着金具220が二つの仕切部材206,208の重ね合わせ面間に配設されて、該嵌着金具220の軸方向下部が、下側仕切部材206の中央凹所210の開口部に圧入固定されると共に、嵌着金具220の軸方向上部が、上側仕切部材208の中央凹所214の開口部に圧入固定されており、それによって、この嵌着金具220を介して、下側仕切部材206と上側仕切部材208が相互に固着されて、一体的な仕切部材188が構成されている。
【0116】
また、ゴム弾性板218は、下側仕切部材206と上側仕切部材208の重ね合わせ面間で軸直角方向に広がる状態で配設されており、それによって、両仕切部材206,208間に形成された内部空所が、ゴム弾性板218によって仕切られて、上下に流体密に二分されている。そして、ゴム弾性板218の上側には、上側仕切部材208の中央凹所214がゴム弾性板218で流体密に覆蓋されることによって、非圧縮性流体が封入された加振室222が形成されている一方、ゴム弾性板218の下側には、下側仕切部材206の中央凹所210がゴム弾性板218で流体密に覆蓋されることによって、エア給排孔212が開口連通せしめられた作用空気室224が形成されている。
【0117】
更にまた、本実施形態では、上述の如く下側仕切部材206と上側仕切部材208の重ね合わせ面間にゴム弾性板218が配された状態で、当接ゴム226が、上側仕切部材208に形成された中央凹所214の上底面に対してゴム弾性板218の弾性によって当接せしめられている。このことから明らかなように、本実施形態では、上側仕切部材208によって当接部材が構成されている。また、本実施形態では、加振部材としてのゴム弾性板218によって当接保持手段が構成されており、かかる当接保持手段(ゴム弾性板218)によって、ゴム弾性板218の初期位置が当接部材(上側仕切部材208)に対する当接状態とされている。
【0118】
また、仕切部材188の外周面には、エア給排孔212を避けるようにして、周方向に延びる凹溝236が形成されている。この凹溝236は、上下仕切部材206,208の重ね合わせ部分の外周面を周方向に一周弱の長さで延びる上側凹溝238と下側仕切部材206の外周面を周方向に一周以下の長さで延びる下側凹溝240によって構成されており、図面上は明示されていないが、上側凹溝238の周方向他端部と下側凹溝240の周方向一端部が相互に接続されて、全体として周方向に所定長さで延びる凹溝236が形成されている。また、上側凹溝238の周方向一端部が振動入力室198に開口連通されていると共に、下側凹溝240の周方向他端部が平衡室200に開口連通されている。そして、これら上下凹溝238,240からなる凹溝236が、その全長に亘って、仕切部材188の外周面に密接された第二の取付金具154の筒金具164によって、シールゴム層184を介して流体密に覆蓋されており、それによって、振動入力室198と平衡室200を相互に連通して、それら両室198,200間での流体流動を許容するオリフィス通路242が凹溝236によって形成されている。
【0119】
更にまた、図示はされていないが、上側凹溝238の周方向他端部は、上側仕切部材208を径方向に貫通して加振室222にも開口連通されており、その結果、振動入力室198と加振室222を相互に連通する連通流路244が、上側凹溝238によって形成されている。これにより、壁部の一部がゴム弾性板218で構成された加振室222と、壁部の一部が本体ゴム弾性体156で構成された振動入力室198とが、連通流路244によって連通せしめられた構造の流体室が、本体ゴム弾性体156とダイヤフラム190の対向面間に存在することとなり、本実施形態では、かかる流体室によって受圧室が構成されている。
【0120】
そして、第一の取付金具152と第二の取付金具154の間への振動入力時に、振動入力室198と平衡室200の間に生ぜしめられる圧力差に基づいてオリフィス通路242を通じての流体流動が惹起されるようになっている。これにより、オリフィス通路242を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、チューニングされた周波数域の振動に対する防振効果が発揮されるようになっている。なお、本実施形態では、オリフィス通路242を流動する流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対して防振効果が発揮されるように、オリフィス通路242の周波数がチューニングされている。また、連通流路244は、アイドリング振動等の中乃至高周波数域にチューニングされている。
【0121】
このような構造とされたエンジンマウント150は、図7に示されているように、パワーユニット158とボデー160の間に装着された状態で、接続管体228に対して外部空気管路230が接続されるようになっている。そして、外部空気管路230に設けられた切換弁232の作動が、自動車の走行状態に応じて、制御装置246によって、制御されるようになっている。これにより、作用空気室224が大気中と負圧源234に対して択一的に接続されることとなり、その結果、作用空気室224に大気圧と負圧が選択的に及ぼされて、作用空気室224の内圧が切換可能とされている。即ち、本実施形態では、作用空気室224を構成する下側仕切部材206とゴム弾性板218、そして、外部空気管路230と切換弁232を含んで加振手段としての空気圧式アクチュエータが構成されているのである。
【0122】
そこにおいて、切換弁232としては、防振すべき振動の周波数域で十分な作動性を有するものであれば良く、本実施形態では、応答性や制御性に優れた電磁弁であって、3ポート式のものが採用されている。そして、切換弁232は、駆動電流が供給されている場合には、作用空気室224を負圧源234に接続する一方、駆動電流が供給されていない場合には、作用空気室224を大気に接続するようになっている。また、本実施形態では、負圧源234として、自動車のパワーユニット158におけるエアインテーク部分に発生する負圧を利用した負圧タンクやパワーユニット158によって駆動される負圧力発生ポンプ等が採用される。
【0123】
また、制御装置246は、第一および第二の実施形態の制御装置(132)と同様に、制御装置本体248とマップ記憶装置250を備えている。制御装置本体248は、第一および第二の実施形態の制御装置本体(134)と同様に、CPU,制御プログラムや各種データが記憶されたROM,各種処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM等を含んで構成されており、ECU(エンジンコントロールユニット)等から得られるエンジンの点火パルス信号等の基準信号:Bに基づいて、ボデー160における防振すべき振動に対応した周波数の信号を生成し得るようになっている。
【0124】
一方、マップ記憶装置250は、第一および第二の実施形態のマップ記憶装置(136)と同様に、ROM等によって構成されており、ボデー160における防振すべき振動に対応した振幅値(レベル)と位相値が記憶されている。そこにおいて、ボデー160における防振すべき振動の振幅値と位相値は、エンジンのクランク回転数や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等といった自動車の運転状態に応じて、それぞれ異なる値をとる。それ故、マップ記憶装置250においては、クランク回転数の程度や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等に応じて、それぞれ、振幅値と位相値がマップデータとして記憶されている。
【0125】
そして、クランク回転数の程度や変速機のシフトポジション,エアコンスイッチのON/OFF状態等といった運転状態信号:Rに応じて、マップ記憶装置250に記憶されたマップデータの中から適当なものを選択し、この選択されたマップデータに基づいて、ボデー160の振動を相殺的乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が及ぼされ得るように、制御装置本体248において、切換弁232に対する制御信号:Sが生成されるようになっており、この制御信号:Sが図示しないアンプによって増幅された後、切換弁232に対して駆動電流として供給されるようになっている。
【0126】
また、本実施形態では、このような加振力を得るための駆動電流の供給に加えて、ゴム弾性板218の位置を調節するための駆動電流の供給が行われるようになっている。かかるゴム弾性板218の位置を調節するための制御処理(ゴム弾性板位置制御処理)について、図8に基づいて説明する。なお、本実施形態では、ゴム弾性板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっている。
【0127】
先ず、制御装置246は、S21において、エンジンが運転状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、エンジンの点火パルス信号やエンジンのクランク回転数等に基づいて行われる。エンジンが運転状態でない場合(S21:NO)には、制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。そこにおいて、本実施形態では、ゴム弾性板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっていることから、先のゴム弾性板位置制御処理において、切換弁232への駆動電流の供給が行われている場合もあり得る。このような場合において、制御装置246によってエンジンが運転状態でないと判定される(S21:NO)と、本実施形態では、切換弁232への駆動電流の供給が終了するようになっている。即ち、本実施形態では、エンジンが運転状態でない場合(S21:NO)には、切換弁232への駆動電流の供給が行われないようになっている。
【0128】
一方、エンジンが運転状態である場合(S21:YES)には、制御装置246は、S22において、自動車のアイドリング状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた速度センサからの信号等に基づいて行われる。自動車のアイドリング状態である場合(S22:YES)には、制御装置246は、S23において、通常処理を実行する。
【0129】
この通常処理は、切換弁232に対して駆動電流を供給する時間を切換弁232に対して駆動電流を供給しない時間よりも長くすること、即ち、デューティ比を大きくすることによって、ゴム弾性板218を加振変位せしめながら、当接ゴム226と中央凹所214の上底面との間に隙間が形成された状態を維持するものである。この場合、当接ゴム226と中央凹所214の上底面との間に隙間を形成する制御処理と、ゴム弾性板218を加振変位せしめる制御処理が同時に行われることとなる。また、このような制御処理は、上述の制御装置246によるマップ制御に基づいて有利に実現することが出来る。
【0130】
かかる通常処理を実行した制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。なお、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置246がS23の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置246がS23の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を実行して、エンジンが停止状態であると判定(S21:NO)するまで、或いは、走行状態であると判定(S22:NO)するまで、維持されるようになっている。
【0131】
一方、アイドリング状態でない場合(S22:NO)には、制御装置246は、S24において、当接処理を実行する。この当接処理は、切換弁232に対して駆動電流を供給しないようにして、ゴム弾性板218の弾性で当接ゴム226を中央凹所214の上底面に当接せしめるものである。かかる当接処理を実行した制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。
【0132】
なお、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置246がS24の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置246がS24の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を実行して、アイドリング状態であると判定(S22:YES)するまで、維持されるようになっている。
【0133】
上述の説明から明らかなように、本実施形態においては、制御装置246がS22の制御処理を実行することによって、状態判定手段が構成されている。また、本実施形態では、自動車のアイドリング時(S22:YES)において、制御装置246がS23の制御処理を実行して、当接ゴム226と中央凹所214の上底面との間に隙間が形成された状態を維持する一方、自動車の走行時(S22:NO)において、制御装置246がS24の当接処理を実行することによって、加振部材位置調節手段が構成されている。
【0134】
従って、本実施形態のエンジンマウント150は、自動車の走行時には、ゴム弾性板218が、それ自身の弾性によって、当接ゴム226を介して中央凹所214の上底面に当接されていることから、振動入力室198に低周波大振幅振動が入力された場合であっても、ゴム弾性板218の過大な変位が抑えられ得るようになっており、その結果、オリフィス通路242を流動せしめられる流体量が確保され得て、オリフィス通路242を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が有効に発揮され得るようになっている。
【0135】
一方、自動車のアイドリング時には、当接ゴム226と中央凹所214の上底面との間に隙間が形成されていることから、アイドリング振動に対して発揮される、ゴム弾性板218の加振変位に基づく防振効果を、当接ゴム226の存在によって阻害されることなく、有効に得ることが可能となる。
【0136】
特に、本実施形態では、連通流路244がアイドリング振動等の中乃至高周波数域にチューニングされていることから、ゴム弾性板218をアイドリング振動に対応した周波数で加振変位せしめた際に、加振室222と振動入力室198の間での流体流動を積極的に生ぜしめることが可能となり、それによって、アイドリング振動に対する防振効果を一層効果的に得ることが可能となる。
【0137】
続いて、本発明の第四の実施形態のエンジンマウント260について、図9に基づいて説明する。なお、以下の説明において、第三の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、図中に、第三の実施形態と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0138】
より詳細には、本実施形態のエンジンマウント160は、第三の実施形態のエンジンマウント(150)に比して、当接ゴム(226)が設けられておらず、その代わりに、ゴム弾性板218の下面から下方に向かって突出する、複数の当接ゴム262が一つの同心円上で周方向に適当な間隔をあけてゴム弾性板218に一体形成されている。
【0139】
そして、本実施形態では、下側仕切部材206と上側仕切部材208の重ね合わせ面間にゴム弾性板218が配された状態で、当接ゴム262と下側仕切部材206に形成された中央凹所210の底面との間には、隙間が形成されるようになっている。
【0140】
続いて、このような構造とされた本実施形態のエンジンマウント160におけるゴム弾性板位置制御処理について、図10に基づいて説明する。なお、本実施形態のゴム弾性板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっている。先ず、制御装置246は、S31において、エンジンが運転状態であるか否かを判定する。この判定は、エンジンの点火パルス信号やエンジンのクランク回転数等に基づいて行われる。エンジンが運転状態でない場合(S31:NO)には、制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。そこにおいて、本実施形態では、ゴム弾性板位置制御処理は、所定周期毎に実行されるようになっていることから、先のゴム弾性板位置制御処理において、切換弁232への駆動電流の供給が行われている場合もあり得る。このような場合において、制御装置246によってエンジンが運転状態でないと判定される(S31:NO)と、本実施形態では、切換弁232への駆動電流の供給が終了せしめられるようになっている。即ち、本実施形態では、エンジンが運転状態でない場合(S31:NO)には、切換弁232への駆動電流の供給は行われないようになっている。
【0141】
一方、エンジンが運転状態である場合(S31:YES)には、制御装置246は、S32において、自動車のアイドリング状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた速度センサからの信号等に基づいて行われる。自動車のアイドリング状態である場合(S32:YES)には、制御装置246は、S33において、通常処理を実行する。この通常処理は、切換弁232に対して駆動電流を供給しないようにすることで、ゴム弾性板218の弾性を利用して当接ゴム262と中央凹所210の底面との間に隙間を形成するものである。このような通常処理を実行した制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。
【0142】
なお、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置246がS33の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置246がS33の通常処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を実行して、走行状態であると判定(S32:NO)すると共に、後述する悪路であるか否かの判定(S34)において悪路であると判定(S34:YES)するまで、維持されるようになっている。
【0143】
また、本実施形態では、このようにゴム弾性板218の弾性を利用して当接ゴム262を中央凹所210の底面から離隔せしめた状態から、所定周期毎に切換弁232に対して駆動電流を供給することによって、ゴム弾性板218を変位せしめて、ボデー160において防振すべき振動(例えば、アイドリング振動や走行こもり音)に対してゴム弾性板218の加振変位に基づく防振効果を発揮するようになっている。そこにおいて、切換弁232に対して所定周期毎に駆動電流を供給する制御は、制御装置246が、先に説明したマップ制御を実行して、ボデー160において防振すべき振動を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力がゴム弾性板218に及ぼされ得るような制御信号:Sを生成することによって有利に実現される。
【0144】
一方、アイドリング状態でない場合(S32:NO)には、制御装置246は、S34において、悪路であるか否かを判定する。この判定は、例えば、自動車に取り付けられた加速度センサからの検出信号等に基づいて、予め定められた大きさの振動が入力されたか否かで行うようになっている。因みに、本実施形態では、±0.5mm以上の振幅の振動が入力された場合に、大振動入力状態と判定されるようになっている。
【0145】
悪路でない場合(S34:NO)には、制御装置246は、S33の通常処理を実行する一方、悪路である場合(S34:YES)には、制御装置246は、S35において、当接処理を実行する。この当接処理は、切換弁232に対して駆動電流を供給し続けて、当接ゴム262が中央凹所210の底面に当接せしめられた状態を維持するものである。そして、このような当接処理を実行した制御装置246は、ゴム弾性板位置制御処理を終了する。なお、切換弁232に対して駆動電流を供給しつづける代わりに、切換弁232に対して適当な周期で駆動電流を供給することにより、作用空気室224に及ぼされる負圧の大きさを一定に保つようにしても良い。
【0146】
また、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を終了した状態であっても、制御装置246がS35の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は維持されるようになっている。そして、かかる制御装置246がS35の当接処理を実行したことによって生ぜしめられた状態は、制御装置246がゴム弾性板位置制御処理を実行して、エンジンが停止状態であると判定(S31:NO)するまで、アイドリング状態であると判定(S32:YES)するまで、或いは、悪路でないと判定(S34:NO)するまで、維持されるようになっている。
【0147】
上述の説明から明らかなように、本実施形態では、制御装置246がS32の制御処理を実行することによって、状態判定手段が構成されている。また、本実施形態では、自動車のアイドリング時(S32:YES)において、制御装置246がS33の制御処理を実行する一方、自動車の走行時(S32:NO)において、制御装置246がS35の制御処理を実行することによって、加振部材位置調節手段が構成されている。更に、本実施形態では、制御装置246がS34の制御処理を実行することによって、振動判定手段が構成されている。更にまた、本実施形態では、予め定められた大きさの振動が入力されていない場合(S34:NO)に、制御装置246がS33の制御処理を実行することによって、第二の加振部材位置調節手段が構成されている。
【0148】
また、本実施形態では、当接ゴム226によって弾性当接部材が構成されていると共に、下側仕切部材206によって当接部材が構成されている。更にまた、本実施形態では、加振部材としてのゴム弾性板218によって離隔保持手段が構成されており、かかる離隔保持手段(ゴム弾性板218)によって、ゴム弾性板218の初期位置が当接部材(下側仕切部材206)からの離隔状態とされている。
【0149】
このようなエンジンマウント260においても、第三の実施形態のエンジンマウント(150)と同様な効果を得ることが出来る。
【0150】
そこにおいて、本実施形態では、自動車の走行時であっても、予め定められた大きさ以上の振動が入力されない限り、切換弁232への駆動電流の供給が行われないようになっていることから、電力の消費を抑えることが出来る。
【0151】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0152】
例えば、前記第二の実施形態や第四の実施形態では、悪路であるか否かの判定が行われていたが、かかる判定は必ずしも必要なものではない。また、悪路であるか否かの判定を、第一の実施形態や第三の実施形態において行うことも、勿論可能である。
【0153】
更にまた、前記第一の実施形態では、コイル90に対して予め定められた大きさの電流を流すことによって、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間を形成する通常処理が、S3において行われていたが、このような通常処理の代わりに、コイル90に対して電流を流す時間をコイル90に対して電流を流さない時間よりも長くすること、即ち、デューティ比を大きくすることによって、加振板54を加振変位せしめながら、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間が形成された状態を維持するようにしても良い。
【0154】
この場合には、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間を形成する制御処理と、加振板54を加振変位せしめる制御処理が同時に行われることとなる。また、このような制御処理は、制御装置132が先に説明したマップ制御を実行することによって有利に実現することが出来る。
【0155】
そして、このような通常処理を採用する場合には、自動車のアイドリング時(S2:YES)において、制御装置132が S3の制御処理を実行して、当接ゴム70の突出端と仕切板金具48の間に隙間が形成された状態を維持する一方、自動車の走行時(S2:NO)において、制御装置132がS4の制御処理を実行することによって、加振部材位置調節手段が構成されることとなる。
【0156】
また、前記第三の実施形態において、ゴム弾性板218の弾性を利用して当接ゴム226を中央凹所214の上底面に当接せしめた状態から、制御装置246が、所定周期毎に切換弁232に対して駆動電流を供給することによって、ゴム弾性板218を変位せしめて、走行こもり音に対してゴム弾性板218の加振変位に基づく防振効果を発揮するようにしても良い。
【0157】
この場合、制御装置246による切換弁232への所定周期毎の駆動電流の供給は、制御装置246が、先に説明したマップ制御を実行して、走行こもり音を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力がゴム弾性板218に及ぼされ得るような制御信号:Sを生成することによって有利に実現される。
【0158】
また、この場合には、連通流路244が実質的に目詰まりとならないようにするために、連通流路244を高周波数域にチューニングしておき、かかる連通流路244のチューニング周波数よりも低い周波数でゴム弾性板218を加振変位する必要がある。
【0159】
また、前記第一乃至第四の実施形態では、ボデー19,160において防振すべき振動を相殺的に乃至は積極的に低減せしめ得る周波数と振幅,位相を有する加振力が及ぼされ得るような制御信号:Sの生成が、マップ制御に基づいて行われるようになっていたが、かかる制御信号:Sの生成を適応制御に基づいて行うようにしても良い。或いはまた、振動レベルセンサ等を用いて検出された振動レベルをエラー信号として能動的な加振力をフィードバック制御することも可能である。
【0160】
更にまた、前記第三および第四の実施形態において、外部空気管路230上に、作用空気室224に及ぼされる空気圧の変動幅を抑える調圧弁を設けるようにしても良い。
【0161】
また、前記第一乃至第四の実施形態では、加振部材(支持ゴム弾性体52と加振板54,ゴム弾性板218)側に弾性当接部材(当接ゴム70,142,226,262)が設けられていたが、当接部材(仕切板金具48,環状突起144,上側仕切部材208,下側仕切部材206)側に弾性当接部材を設けるようにしても良い。
【0162】
更にまた、前記第一乃至第四の実施形態では、加振部材(支持ゴム弾性体52,ゴム弾性板218)によって離隔保持手段乃至は当接保持手段が構成されていたが、加振部材の他に、別途コイルスプリング等の弾性的な付勢手段を設けて、かかる付勢手段と加振部材を含んで離隔保持手段や当接保持手段を構成するようにしても良い。
【0163】
また、前記第三および第四の実施形態では、本体ゴム弾性体156とダイヤフラム190の対向面間において第二の取付金具154に対して固定される仕切部材188(下側仕切部材206)を利用して、加振手段としての空気圧式アクチュエータが構成されていたが、特開2000−346120号公報等に記載されているような構造の空気圧式アクチュエータを、前記第一および第二の実施形態のエンジンマウント10,140において採用されている電磁式アクチュエータ86の代わりに採用する等して、エンジンマウントに対して後固定される、別体構造の空気圧式アクチュエータを加振手段として採用することも、勿論可能である。
【0164】
更にまた、前記第一乃至第四の実施形態では、加振部材(支持ゴム弾性体52と加振板54,ゴム弾性板218)に対して弾性当接部材(当接ゴム70,142,226,262)が一体形成されていたが、弾性当接部材を加振部材や当接部材に対して別体形成することも、勿論可能である。
【0165】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】図1に示されたエンジンマウントの制御システムの概略を説明するためのモデル図である。
【図3】第一の実施形態において制御装置が実行する加振板位置制御処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図5】第二の実施形態において制御装置が実行する加振板位置制御処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第三の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図7】図6に示されたエンジンマウントの制御システムの概略を説明するためのモデル図である。
【図8】第三の実施形態において制御装置が実行するゴム弾性板位置制御処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第四の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図10】第四の実施形態において制御装置が実行するゴム弾性板位置制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0167】
10 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
17 パワーユニット
19 ボデー
28 ダイヤフラム
48 仕切板金具
52 支持ゴム弾性体
54 加振板
70 当接ゴム
76 受圧室
82 平衡室
84 オリフィス通路
86 電磁式アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のパワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材を、該パワーユニットと該車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材から離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結し、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を設けると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設ける一方、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成して、加振手段で該加振部材に加振力を及ぼすことにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型流体封入式エンジンマウントにおいて、
前記オリフィス通路をエンジンシェイクの周波数域にチューニングする一方、前記加振部材に対してその加振方向で対向位置する当接部材を前記第二の取付部材に固定的に設けると共に、前記自動車がアイドリング状態か走行状態かを判定する状態判定手段を設け、該状態判定手段によってアイドリング状態であると判定された場合に該加振部材を該当接部材に対して離隔位置せしめる一方、該状態判定手段によって走行状態であると判定された場合に該加振部材を該当接部材に対して当接させる加振部材位置調節手段を設けることにより、該自動車のアイドリング時には該加振部材が該当接部材から離隔状態で前記加振手段によって加振されるようにする一方、該自動車の走行時には該加振部材が該当接部材に対して当接せしめられるようにしたことを特徴とする能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項2】
前記加振部材と前記当接部材の少なくとも一方の対向面において該加振部材を該当接部材に対して弾性的に当接せしめる弾性当接部材を設けて、前記状態判定手段によって前記自動車が走行状態であると判定された場合に、前記加振部材位置調節手段により前記加振部材が前記当接部材に対して該弾性当接部材を介して弾性的に当接せしめられるようにすると共に、該加振部材が該当接部材に対する弾性的な当接状態で前記加振手段により加振されるようにした請求項1に記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項3】
前記加振部材の少なくとも外周部分がゴム弾性体で形成されており、該ゴム弾性体で形成された該加振部材の外周部分における外周縁部が前記第一の取付部材又は前記第二の取付部材に固定されることによって、該ゴム弾性体の弾性変形に基づいて該加振部材が変位可能とされている請求項1又は2に記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項4】
請求項3に記載された前記加振部材を採用して、該加振部材の少なくとも外周部分を形成する前記ゴム弾性体によって、前記弾性当接部材が一体形成されている請求項2に記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項5】
前記加振部材の初期位置を、前記当接部材からの離隔位置に弾性的に位置決めする離隔保持手段を有している請求項1乃至4の何れかに記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項6】
前記加振部材の初期位置を、前記当接部材に対する当接位置に弾性的に位置決めする当接保持手段を有している請求項1乃至4の何れかに記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項7】
前記加振手段が電磁式アクチュエータおよび空気圧式アクチュエータの何れかによって構成されており、該電磁式アクチュエータおよび該空気圧式アクチュエータの何れかによる出力を利用して前記加振部材を前記当接部材に対する当接方向及び/又は離隔方向に変位させるようにすることで前記加振部材位置調節手段が構成されている請求項1乃至6の何れかに記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項8】
自動車の走行状態下において入力される振動が予め定められた大きさ以上の大振動入力状態であるか否かを判定する振動判定手段を設けると共に、該振動判定手段によって大振動入力状態ではないと判定された場合には、前記加振部材位置調節手段による前記加振部材の前記当接部材に対する当接制御をキャンセルして、該加振部材を該当接部材から離隔状態とする第二の加振部材位置調節手段を設けた請求項1乃至7の何れかに記載の能動型流体封入式エンジンマウント。
【請求項9】
前記第二の取付部材を略円筒形状とし、該第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結することにより該第二の取付部材の該一方の開口部を流体密に覆蓋すると共に、前記加振部材の少なくとも外周部分をゴム弾性体で形成して、該加振部材を該第二の取付部材の他方の開口部に配設し、該ゴム弾性体で形成された該加振部材の外周縁部を該第二の取付部材に連結することにより該第二の取付部材の該他方の開口部を流体密に覆蓋して、それら本体ゴム弾性体と加振部材の間に非圧縮性流体が封入された前記受圧室を形成する一方、該第一の取付部材と該第二の取付部材における該一方の開口部との間に跨って広がるように該本体ゴム弾性体の外方に離隔して前記可撓性膜を配設することにより、該本体ゴム弾性体を挟んで該受圧室と反対側において該可撓性膜で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された前記平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室を相互に連通する前記オリフィス通路を設け、更に、該加振部材の外方に前記加振手段を配設した請求項1乃至8の何れかに記載の能動型流体封入式エンジンマウント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−161962(P2006−161962A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354686(P2004−354686)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】