説明

脊髄性筋萎縮症を治療するためのユビキチン/プロテアソーム阻害剤

本発明は、脊髄性筋萎縮症の治療を必要とする対象に少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤を治療有効量投与するステップを含む、脊髄性筋萎縮症を治療するための組成物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
近位型脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄の前角細胞の変性を特徴とする神経筋障害の臨床的に不均一な群である。患者は体幹および肢の筋肉の対側性衰弱に苦しみ、脚の方が腕よりも罹患の程度は大きく、近位の筋肉の方が遠位の筋肉よりも衰弱がひどく、横隔膜筋、顔筋、および眼筋は冒されない。3種類の型の小児期発症SMA(I型、II型、およびIII型)があり、発症年齢ならびに臨床検査、筋肉生検、および筋電図検査(EMG)によって評価される臨床経過の重症度に基づいて区別することができる(Munsat T L、Davies K E(1992年))。
【0002】
I型(ウェルドニッヒ・ホフマン病)は最も急性かつ重症の型であり、6カ月未満で発症し、通常2年未満で死亡する。子供は支え無しで座ることは終生不可能である。この疾患の症状は、胎児の動作の減少として子宮内で、出産時に、またはより多くの場合、生後4カ月以内に現れ得る。罹患した子供は特に筋緊張が低下しており、摂食が困難で、横隔膜で呼吸をする。死亡は、一般に呼吸不全に起因する。
【0003】
II型(中間型、慢性型)は、生後6カ月〜18カ月に発症する。筋線維束性攣縮が一般的であり、腱反射が次第に低下する。子供は援助無しには立つことも歩くこともできない。大半の患者は、一般に、外科的矯正を必要とし得る進行性の筋肉脊柱側弯症を発症する。
【0004】
III型(クーゲルバーグ・ウェランダー病)は軽度の慢性型であり、生後18カ月以降に発症する。運動マイルストーンの達成は正常であり、様々な年齢まで歩行は維持され得る。平均余命はほぼ正常であるが、クオリティ・オブ・ライフは著しく損なわれる。
【0005】
遺伝的観点からは、SMAは、5q13に位置するSMN1遺伝子の破壊によって引き起こされる常染色体劣性状態である(Lefebvre S.、Burglen L.、Reboullet S.、Clermont O.、Burlet P.、Viollet L.、Benichou B.、Cruaud C.、Millasseau P.、Zeviani M.、Le Paslier D.、Frezal J.、Cohen D.、Weissenbach J.、Munnich A.、Melki J.(1995年).Cell 80巻:155〜165頁)。この遺伝子は、患者の大多数(95%)において欠失しており、また、小規模の遺伝子内変異が2〜3%の症例において記述されている。この疾患の発生率は、1/6000から1/10000まで様々であり、一般母集団における健常な保有者は非常に一般的(1/40〜1/50)である(Wirth.B.、Schmidt T.、Hahnen E.、Rudnik−Schoneborn S.、Krawczak M.、Muller−Myhsok B.、Scholing J.、Zerres K.(1997年)Am.J.Hum.Genet.、61巻:1102〜1111頁)。
【0006】
ゲノムレベルでは、SMN1遺伝子をSMN2遺伝子と区別するわずか5個のヌクレオチドが発見されている。さらに、これら2種の遺伝子は、エキソン7におけるサイレントなヌクレオチド変化、すなわち、SMN1と比べてSMN2のエキソン7内部のCがTに変化した6つの塩基対を除いて、同一のmRNAを生成する。この変異により、エキソンスプライシングエンハンサーの活性が変化する(LorsonおよびAndrophy(2000年)Hum.Mol.Genet.9巻:259〜265頁)。この変化ならびにイントロン領域およびプロモーター領域における他のヌクレオチド変化の結果、大半のSMN2転写物は、エキソン3、5、または7を欠く。一方、SMN1遺伝子から転写されたmRNAは一般に完全長mRNAであり、ごく一部の転写物がスプライシングされてエキソン3、5、または7を除去されている(Gennarelliら、(1995年)Biochem.Biophys.Res.Commun.213巻:342〜348頁;Jongら、(2000年)J.Neurol.Sci.173巻:147〜153頁)。患者は皆、少なくとも1つ、一般に2〜4つのSMN2遺伝子コピーを有し、この遺伝子はSMN1とほぼ同一であり、同じタンパク質をコードする。しかし、SMN2遺伝子は、ごく低レベルの完全長SMNタンパク質しか産生しない。SMA患者の臨床的重症度は、SMN2遺伝子の数および産生される機能的SMNタンパク質のレベルと逆相関している(Lorson C L、Hahnen E、Androphy E J、Wirth B.Proc Natl Acad Sci 1999;96巻:6307〜6311頁。Vitali T、Sossi V、Tiziano Fら、Hum Mol Genet 1999;8巻:2525〜2532頁。Brahe C.Neuromusc.Disord.2000;10巻:274〜275頁。Feldkotter M、Schwarzer V、Wirth R、Wienker T I、Wirth B.Am J Hum Genet 2002;70巻:358〜368頁、Lefebvre S、Burlet P、Liu Qら、Nature Genet 1997;16巻:265〜269頁。Coovert D D、Le T T、McAndrew P Eら、Hum Mol Genet 1997;6巻:1205〜1214頁。Patrizi A L、Tiziano F、Zappata S、Donati A、Neri G、Brahe C.Eur J Hum Genet 1999;7巻:301〜309頁)。
【0007】
異種核リボ核タンパク質(hnRNP)の機能の研究の過程で(Dreyfussら、1993年、Ann.Rev.Biochem.62巻:289〜321頁)、SMNタンパク質が、rRNAプロセッシングに関与しているRNA結合タンパク質であるフィブリラリン、およびいくつかの他のRNA結合タンパク質と相互作用することが発見された(LiuおよびDreyfuss、1996年、EMBO J.15巻:3555〜3565頁)。SMNに対するモノクローナル抗体は、このタンパク質を独特な細胞位置に局在させた。SMNは、細胞質中に一般的に局在し、また、gems(コイル体の二価染色体(gemini of coiled bodies))と呼ばれるいくつかの顕著な核小体(nuclear body)中に特に濃縮されている。gemsは新規な核内構造であり、コイル体に数およびサイズが関連し、通常、それらの極めて近くに存在する(LiuおよびDreyfuss、1996年、EMBO J.15巻:3555〜3565頁)。Ramn y Cajal(1903年、Trab.Lab.Invest.Biol.2巻:129〜221頁)によって最初に記述されたコイル体は、植物細胞および動物細胞を含む広範囲に渡る様々な生物中に存在する顕著な核小体である(Bohmannら、1995年、J.Cell Sci.19巻:107〜113頁;Gallら、1995年、Dev.Genet.16巻:25〜35頁)。コイル体は、スプライソソームU1、U2、U4/U6、およびU5 snRNP、U3 snoRNA、ならびに、特異的マーカーp80コイリン、フィブリラリン、およびNOP140を含むいくつかのタンパク質を含む(Bohmannら、1995年、J.Cell Sci.19巻:107〜113頁およびその中の文献;Gallら、1995年、Dev:Genet.16巻:25〜35頁)。p80コイリン変異体の発現および顕微鏡的観察結果から、コイル体と仁(nucleolus)の密接な関連が示唆されている(Raskaら、1990年、J.Struct.Biol.104巻:120〜127頁;Andradeら、1991年、J.Exp.Med.173巻:1407〜1419頁;Bohmannら、1995年、J.Cell Biol.131巻:817〜831頁)。しかし、コイル体の具体的な機能は明らかではない。現在の認識では、コイル体は核中のsnRNAおよびsnoRNAのプロセッシング、選別、および組立てに関与している可能性があると提唱されている。gemsとコイル体が密接に関連していることから、SMNタンパク質およびgemsも核内低分子RNAのプロセッシングおよび代謝に関与している可能性がある(LiuおよびDreyfuss、1996年、EMBO J.15巻:3555〜3565頁)。
【0008】
運動神経脱落および筋萎縮をもたらす機序は依然として不明瞭なままであるが、この疾患の動物モデルの入手可能性が、この分野において急速に知識を高めている(Frugier T、Tiziano F D、Cifuentes−Diaz C、Miniou P、Roblot N、Dierich A、Le Meur M、Melki J.(2000年)Hum Mol Genet.9巻:849〜58頁;Monani U R、Sendtner M、Coovert D D、Parsons D W、Andreassi C、Le T T、Jablonka S、Schrank B、Rossol W、Prior T W、Morris G E、Burghes A H.(2000年)Hum Mol Genet 9巻:333〜9頁;Hsieh−Li H M、Chang J G、Jong Y J、Wu M H、Wang N M、Tsai C H、Li H.(2000年)Nat Genet 24巻:66〜70頁;Jablonka S、Schrank B、Kralewski M、Rossoll W、Sendtner M.(2000年)Hum Mol Genet.9巻:341〜6頁)。同様に、SMNタンパク質の機能も依然として部分的に不明であるが、研究により、これがmRNA代謝(Meister G、Eggert C、Fischer U.(2002年)Trends Cell Biol.12巻:472〜8頁;Pellizzoni L、Yong J、Dreyfuss G.(2002年)Science.298巻:1775〜9頁)およびおそらくは神経筋接合部へのタンパク質/mRNAの輸送(Ci−fuentes−Diaz C、Nicole S、Velasco M E、Borra−Cebrian C、Panozzo C、Frugier T、Millet G、Roblot N、Joshi V、Melki J.(2002年)Hum Mol Genet.11巻:1439〜47頁;Chan Y B、Miguel−Aliaga I、Franks C、Thomas N、Trulzsch B、Sattelle D B、Davies K E、van den Heuvel M.(2003年)Hum Mol Genet.12巻:1367〜76頁;McWhorter M L、Monani U R、Burghes A H、Beattie C E.(2003年)J Cell Biol.162巻:919〜31頁;Rossoll W、Jablonka S、Andreassi C、Kroning A K、Karle K、Monani U R、Sendtner M.(2003年)J Cell Biol.163巻:801〜812頁)に関与している可能性があることが示唆されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在のところ、SMAの治癒法はなく、したがって、SMAを治療するための組成物および方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態では、SMAを治療するための医薬品を製造するために、ユビキチン/プロテアソーム経路の阻害剤として有用である化合物またはその薬学的に許容できる塩形態もしくはプロドラッグを提供する。
【0011】
本発明の別の実施形態では、SMAを治療するための医薬品を製造するために、薬学的に許容できる担体および少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩形態もしくはプロドラッグの治療有効量を提供する。
【0012】
本発明の別の実施形態では、SMAの治療を必要とする対象に、少なくとも1種の本明細書に記載する化合物、特にプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩形態もしくはプロドラッグを治療有効量投与するステップを含む、SMAを治療するための方法を提供する。
【0013】
本発明は、プロテアソーム阻害剤が、SMNタンパク質の産生だけでなく、さらに、SMA患者から単離された線維芽細胞中のgemsのレベルを増大させるという発見に基づいている。
【0014】
さらに、本発明は、SMA治療法を特定するための、本明細書に記載するアッセイおよびスクリーニング方法の使用に関する。例えば、プロテアソーム阻害剤であることが推測される化合物を、線維芽細胞におけるgems形成に対する活性に関してスクリーニングすることができる。代替例では、SMNエキソン7の遺伝子発現を調節すると推測される化合物をスクリーニングすることができる。本発明は、このスクリーニング技術によって同定された化合物およびSMAを治療するためにそれらの化合物を使用する方法を含む。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の第1の実施形態は、少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、もしくは誘導体を含む、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物および方法である。
【0016】
第2の実施形態は、少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、もしくは誘導体を含み、コイル体の二価染色体(gems)のレベルをSMA患者線維芽細胞において上昇させる、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物および方法である。
【0017】
プロテアソーム(多触媒性プロテアーゼ(MCP)、多触媒性プロテイナーゼ、多触媒性プロテイナーゼ複合体、多触媒性エンドペプチダーゼ複合体、20S、26S、またはインゲンシンとも呼ばれる)は、すべての真核細胞の細胞質および核の両方に存在する大型の多タンパク質複合体である。これは、大半の細胞タンパク質のATP依存性のタンパク分解を担っている高度に保存された細胞構造体である(Tanaka、Biochem Biophy.Res.Commun.、1998年、247巻、537頁)。26Sプロテアソームは、各末端が19S調節サブユニットによって覆われている20Sのコア触媒複合体からなる。より複雑な真核生物20Sプロテアソームは、約15個の異なる20kDa〜30kDaのサブユニットから構成され、ペプチド基質に関する3つの主要な活性を特徴としている。例えば、プロテアソームは、トリプシン活性、キモトリプシン活性、およびペプチジルグルタミルペプチド加水分解活性を示す(Rivett、Biochem.J.、1993年、291巻、1頁およびOrlowski、Biochemistry、1990年、29巻、10289頁)。さらに、プロテアソームは、スレオニン残基を触媒的求核剤として利用すると考えられている独特な活性部位機序を有する(Seemullerら、Science、1995年、268巻、579頁)。
【0018】
プロテアソームはまた、転写因子NF−κBの阻害性タンパク質IκBの分解による転写因子NF−κBの活性化にも必要とされている(Palombellaら、Cell、1994年、78巻、773頁)。NF−κBは、アポトーシスの阻害剤の転写を通じて、細胞生存の維持における役割を有する。NF−κB活性を妨害すると、細胞がアポトーシスの影響をより受けやすくなることが実証されている。
【0019】
26Sプロテアソームは、ユビキチン分子の付加によって特徴づけられたタンパク質を分解することができる。典型的には、ユビキチンは、ATPならびにE1(ユビキチン活性化)酵素およびE2(ユビキチン結合)酵素を利用する多段階プロセスにおいてリシンのε−アミノ基に結合する。マルチユビキチン化された基質タンパク質は26Sプロテアソームによって認識され、分解される。マルチユビキチン鎖は、一般に、複合体から放出され、ユビキチンは再利用される(Goldbergら、Nature、1992年、357巻、375頁)。
【0020】
多数の調節タンパク質が、ユビキチン依存性タンパク分解の基質である。これらのタンパク質の多くが、生理学的細胞プロセスならびに病態生理学的細胞プロセスの調節因子として機能する。プロテアソーム活性の変化は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ならびに閉塞/虚血再灌流傷害、および中枢神経系の老化などの神経変性疾患を含むいくつかの病状に関係があるとされている。
【0021】
本発明は、以下に示す式Iによって表される化合物、またはその薬学的に許容できる塩、エステル、もしくはプロドラッグを含む:
【0022】
【化1】

[式中、Wは、
【0023】
【化2】

(mは0または1であり、
各Rは、ヒドロキシ、アルコキシ、もしくはアリールオキシであるか、または、各Rは酸素原子であり、それぞれが結合しているホウ素と一緒になって、5〜7員の単環式、二環式、三環式、もしくは多環式の環を形成し、この環は、ハロゲン、N、S、もしくはOで置換されていてもよく、
各Rは、独立に、水素、非置換もしくは置換の、飽和もしくは非飽和の脂肪族、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のシクロアルキル、または非置換もしくは置換の複素環であるか、または、同じ窒素原子に結合している2つのR基は、その窒素原子と一緒になって、ハロゲン、N、S、またはOで置換されていてもよい5〜7員の単環式複素環系を形成する。)
であり、
Yは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Zは、
【0024】
【化3】

(AおよびBは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択され、
Xは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Qは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族であり、
は水素であるか、または、2つの隣接したRが相互に結合して、置換もしくは非置換のアリールを形成し、かつ他のRは水素である。)
から選択され、
Vは、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールである。]
【0025】
一実施形態では、化合物は、
【0026】
【化4】

ではない。
【0027】
脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物は、ペプチドアルデヒドを含んでよい。ペプチドアルデヒド化合物の構造は、以下に示すことができる。
【0028】
【化5】

[式中、V、Y、およびZは、先に定義したとおりである。]
【0029】
ペプチドアルデヒドは、プロテアソームに関連したキモトリプシン様活性を阻害することが報告されている(Vinitskyら、Biochemistry、1992年、31巻、9421頁、Tsubukiら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、1993年、196巻、1195頁;およびRockら、Cell、1994年、78巻、761頁)。また、in vitroで10〜100nMの範囲のIC50値を有するジペプチジルアルデヒド阻害剤(Iqbal,M.ら、J.Med.Chem.、1995年、38巻、2276頁)も報告されている。Steinらによる米国特許第5693617号では、動物におけるタンパク質の分解速度を低下させるのに有用なプロテアソーム阻害剤としてペプチジルアルデヒド化合物を報告している。PalombellaらによるWO95/25533では、動物細胞をプロテアソーム機能またはユビキチン結合のペプチドアルデヒド阻害剤と接触させることによって、動物中のNF−κBの細胞含有量および活性を低減させるためのペプチドアルデヒドの使用を報告している。
【0030】
脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物は、ペプチドビニルスルホンを含んでよい。ペプチドビニルスルホン化合物の構造は、以下に示すことができる。
【0031】
【化6】

[式中、V、Y、Z、およびRは、先に定義したとおりである。]
【0032】
脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物は、ペプチドボロネートを含んでよい。ペプチドボロネート化合物の構造は、以下に示すことができる。
【0033】
【化7】

[式中、V、Y、Z、およびRは、先に定義したとおりである。]
【0034】
好ましい実施形態では、ペプチドボロネートは、商標ベルケイド(Velcade)(登録商標)として販売されているボルテゾミブである。N末端ペプチジルボロン酸エステルおよびボロン酸化合物は以前に報告されている(米国特許第4499082号および同第4537773号;WO91/13904;Kettnerら、J.Biol.Chem.、1984年、259巻(24号)、15106頁)。これらの化合物が、ある種のタンパク分解酵素の阻害剤であることが報告されている。WO96/13266では、ボロン酸エステルおよびボロン酸化合物ならびにタンパク質の分解速度を低下させるための方法が報告されている。ボロン酸ならびに新規なボロン酸無水物およびボロン酸エステル化合物の薬学的に許容できる組成物が、Plamondonらによる米国特許出願公開第2002/0188100号によって報告されている。一連のジペプチジルボロン酸およびトリペプチジルボロン酸は20Sおよび26Sのプロテアソームの阻害剤であることが、Gardnerら、Biochem.J.、2000年、346巻、447頁において示されている。他のホウ素を含むペプチジル化合物および関連化合物が、米国特許第5250720号、同第5242904号、同第5187157号、同第5159060号、同第5106948号、同第4963655号、同第4499082号、ならびにWO89/09225、WO98/17679、WO98/22496、WO00/66557、WO02/059130、WO03/15706、WO96/12499、WO95/20603、WO95/09838、WO94/25051、WO94/25049、WO94/04653、WO02/08187、EP632026、およびEP354522において報告されている。
【0035】
脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための組成物は、ペプチドエポキシケトンを含んでよい。ペプチドエポキシケトン化合物の構造は、以下に示すことができる。
【0036】
【化8】

[式中、V、Y、Z、およびRは、先に定義したとおりである。]
好ましくは、ペプチドエポキシケトンは、エポキソミシンおよびエポネマイシンである。
【0037】
また、これらの化合物は、以下に示す式IIおよび式IIIのラクタムおよびβ−ラクトン、またはその薬学的に許容できる塩、エステル、もしくはプロドラッグによって表すことができる。
【0038】
【化9】

[式中、
、R、およびRは、水素、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族から独立に選択され、
は、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族であり、
およびRは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択される。]
【0039】
好ましい実施形態では、式IIおよび式IIIの化合物は、ラクタシスチン、オムラリド、およびアンチプロテアリドである。ラクタシスチンは、プロテアソーム複合体のタンパク質分解活性を特異的に阻害するストレプトミセス代謝産物である(Fenteanyら、Science、1995年、268巻、726頁)。この分子は、いくつかの細胞型の増殖を阻害することができる(Fenteanyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1994年、91巻、3358頁)。ラクタシスチンが、そのβ−ラクトン部分を介して、プロテアソームのβサブユニットのアミノ末端に位置しているスレオニン残基に不可逆に結合することが示されている。
【0040】
他の阻害剤には、哺乳動物における20Sプロテアソームによって媒介される障害を治療するために有用なα−ケトアミド化合物が含まれ、Wangらによる米国特許第6075150号で報告されている。FranceらによるWO00/64863では、2,4−ジアミノ−3−ヒドロキシカルボン酸誘導体のプロテアソーム阻害剤としての使用を報告している。プロテアソーム阻害剤としてのカルボン酸誘導体は、YamaguchiらによるEP1166781によって報告されている。DitzelらによるEP0995757では、プロテアソームの二価阻害剤を報告している。20Sプロテアソームのキモトリプシン様活性を非共有結合的に阻害する2−アミノベンジルスタチン誘導体が、Garcia−Echeverriaら、Bioorg.Med.Chem.Lett.、2001年、11巻、1317頁によって報告されている。インダノン誘導体による26Sおよび20Sプロテアソームの阻害ならびにインダノン誘導体を用いた細胞増殖を阻害するための方法は、Lumらによる米国特許第5834487号によって報告されている。
【0041】
上記の参考文献および特許はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0042】
定義
本発明を説明するために使用される様々な用語の定義を以下に挙げる。これらの定義は、特定の例において別段の限定が無い限り、個別にまたはより大きなグループの一部分として、本明細書および特許請求の範囲の全体を通して使用される用語に適用される。
【0043】
本明細書において使用される場合、「完全長SMN遺伝子発現」または「SMNエキソン7の発現レベル」とは、SMN遺伝子が転写され、結果として生じる転写物がSMN遺伝子のエキソン7を含むシナリオを意味する。具体的には、エキソン7を含む転写物がヒトSMN1遺伝子から転写されるか、またはヒトSMN2遺伝子から転写されるかは重要ではない。SMNエキソン7を含む転写物は、294アミノ酸のSMNポリペプチドに翻訳される。294アミノ酸のSMNポリペプチドのアミノ酸配列は、GenBank登録番号「GI:624186」に記載されている。SMNエキソン7の核酸配列は、GenBank登録番号「GI:624185」のほぼ868からほぼ921位の核酸の間に含まれる配列である。エキソン7の6番目の塩基の同定結果は、転写物がSMN1に由来する場合にはC(シトシン)であることができ、または、転写物がSMN2に由来する場合にはU(ウラシル)であることができる。エキソン7の発現は、SMN1が欠失または変異している細胞において分析することができる。したがって、関連するSMNエキソン7配列は、873位にウラシルを含むが、配列の残りの部分は、GenBank登録番号「GI:624185」のおよそ868〜およそ921位のヌクレオチドから挙げられるとおりである。
【0044】
「アリール」という用語は、本明細書において使用される場合、それだけには限らないが、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、イデニルなどを含む、1つまたは複数の芳香環を有する単環式または多環式の炭素環系を意味する。
【0045】
「ヘテロアリール」という用語は、本明細書において使用される場合、5個〜10個の環原子(このうち1つまたは複数の環原子は、例えば、S、O、およびNから選択される)を有する、単環式または多環式(例えば二環式もしくは三環式以上)の芳香族基または環を意味し;0個、1個、または2個の環原子は、例えば、S、O、およびNから独立に選択される付加的なヘテロ原子であり;残りの環原子は炭素であり、環内に含まれる任意のNまたはSは、場合によっては酸化されていてよい。ヘテロアリールには、それだけには限らないが、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノキサリニルなどが含まれる。
【0046】
本発明によれば、本明細書に記載する任意のアリール、置換アリール、ヘテロアリール、および置換ヘテロアリールは、任意の芳香族基であることができる。芳香族基は、置換または非置換であることができる。
【0047】
「脂肪族基」は、炭素原子、水素原子、ハロゲン原子、酸素、窒素、または他の原子の任意の組合せを含んでよく、かつ、1つまたは複数の不飽和単位、例えば、二重結合および/または三重結合を含んでいてもよい、非芳香族部分である。脂肪族基は、直鎖、分枝状、または環状でよく、好ましくは、約1〜約24個の炭素原子、より典型的には約1個〜約12個の炭素原子を含む。脂肪族炭化水素基に加えて、脂肪族基には、例えば、ポリアルキレングリコールなどのポリアルコキシアルキル、ポリアミン、および、ポリイミンが例えば含まれる。このような脂肪族基は、さらに置換されていてもよい。
【0048】
「脂環式」という用語は、本明細書において使用される場合、1つの水素原子の除去によって単環式または二環式の飽和炭素環化合物から誘導される一価の基を示す。例としては、それだけには限らないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、およびビシクロ[2.2.2]オクチルが挙げられる。このような脂環基は、さらに置換されていてもよい。
【0049】
「複素環式」という用語は、本明細書において使用される場合、非芳香族の5員環、6員環、もしくは7員環、または二環基もしくは三環基の融合系を意味し、(i)各環は、酸素、硫黄、および窒素から独立に選択される1個〜3個のヘテロ原子を含み、(ii)各5員環は、0個〜1個の二重結合を有し、各6員環は、0個〜2個の二重結合を有し、(iii)窒素および硫黄ヘテロ原子は、場合によっては酸化されていてよく、(iv)窒素ヘテロ原子は、場合によっては四級化されていてよく、(iv)上記の環のうちいずれかは、ベンゼン環に融合されていてよく、かつ、(v)残りの環原子は、場合によってはオキソ置換されていてよい炭素原子である。代表的なヘテロシクロアルキル基としては、それだけには限らないが、[1,3]ジオキソラン、ピロリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、キノキサリニル、ピリダジノニル、およびテトラヒドロフリルが挙げられる。このような複素環基は、さらに置換されていてもよい。
【0050】
「置換アリール」、「置換ヘテロアリール」、または「置換脂肪族」という用語は、本明細書において使用される場合、それだけには限らないが、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、保護されたヒドロキシル、−NO、−CN、(例えばハロゲンで置換されていてもよい)−C〜C12アルキル、(例えばハロゲンで置換されていてもよい)−C〜C12アルケニル、(例えばハロゲンで置換されていてもよい)−C〜C12アルキニル、−NH、保護アミノ、−NH−C〜C12−アルキル、−NH−C〜C12−アルケニル、−NH−C〜C12−アルケニル、−NH−C〜C12−シクロアルキル、−NH−アリール、−NH−ヘテロアリール、−NH−ヘテロシクロアルキル、−ジアルキルアミノ、−ジアリールアミノ、−ジヘテロアリールアミノ、−O−C〜C12−アルキル、−O−C〜C12−アルケニル、−O−C〜C12−アルケニル、−O−C〜C12−シクロアルキル、−O−アリール、−O−ヘテロアリール、−O−ヘテロシクロアルキル、−C(O)−C〜C12−アルキル、−C(O)−C〜C12−アルケニル、−C(O)−C〜C12−アルケニル、−C(O)−C〜C12−シクロアルキル、−C(O)−アリール、−C(O)−ヘテロアリール、−C(O)−ヘテロシクロアルキル、−CONH、−CONH−C〜C12−アルキル、−CONH−C〜C12−アルケニル、−CONH−C〜C12−アルケニル、−CONH−C〜C12−シクロアルキル、−CONH−アリール、−CONH−ヘテロアリール、−CONH−ヘテロシクロアルキル、−OCO−C〜C12−アルキル、−OCO−C〜C12−アルケニル、−OCO−C〜C12−アルケニル、−OCO−C〜C12−シクロアルキル、−OCO−アリール、−OCO−ヘテロアリール、−OCO−ヘテロシクロアルキル、−OCONH、−OCONH−C〜C12−アルキル、−OCONH−C〜C12−アルケニル、−OCONH−C〜C12−アルケニル、−OCONH−C〜C12−シクロアルキル、−OCONH−アリール、−OCONH−ヘテロアリール、−OCONH−ヘテロシクロアルキル、−NHC(O)−C〜C12−アルキル、−NHC(O)−C〜C12−アルケニル、−NHC(O)−C〜C12−アルケニル、−NHC(O)−C〜C12−シクロアルキル、−NHC(O)−アリール、−NHC(O)−ヘテロアリール、−NHC(O)−ヘテロシクロアルキル、−NHCO−C〜C12−アルキル、−NHCO−C〜C12−アルケニル、−NHCO−C〜C12−アルケニル、−NHCO−C〜C12−シクロアルキル、−NHCO−アリール、−NHCO−ヘテロアリール、−NHCO−ヘテロシクロアルキル、−NHC(O)NH、−NHC(O)NH−C〜C12−アルキル、−NHC(O)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(O)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(O)NH−C〜C12−シクロアルキル、−NHC(O)NH−アリール、−NHC(O)NH−ヘテロアリール、−NHC(O)NH−ヘテロシクロアルキル、NHC(S)NH、−NHC(S)NH−C〜C12−アルキル、−NHC(S)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(S)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(S)NH−C〜C12−シクロアルキル、−NHC(S)NH−アリール、−NHC(S)NH−ヘテロアリール、−NHC(S)NH−ヘテロシクロアルキル、−NHC(NH)NH、−NHC(NH)NH−C〜C12−アルキル、−NHC(NH)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(NH)NH−C〜C12−アルケニル、−NHC(NH)NH−C〜C12−シクロアルキル、−NHC(NH)NH−アリール、−NHC(NH)NH−ヘテロアリール、−NHC(NH)NH−ヘテロシクロアルキル、−NHC(NH)−C〜C12−アルキル、−NHC(NH)−C〜C12−アルケニル、−NHC(NH)−C〜C12−アルケニル、−NHC(NH)−C〜C12−シクロアルキル、−NHC(NH)−アリール、−NHC(NH)−ヘテロアリール、−NHC(NH)−ヘテロシクロアルキル、−C(NH)NH−C〜C12−アルキル、−C(NH)NH−C〜C12−アルケニル、−C(NH)NH−C〜C12−アルケニル、−C(NH)NH−C〜C12−シクロアルキル、−C(NH)NH−アリール、−C(NH)NH−ヘテロアリール、−C(NH)NH−ヘテロシクロアルキル、−S(O)−C〜C12−アルキル、−S(O)−C〜C12−アルケニル、−S(O)−C〜C12−アルケニル、−S(O)−C〜C12−シクロアルキル、−S(O)−アリール、−S(O)−ヘテロアリール、−S(O)−ヘテロシクロアルキル−SONH、−SONH−C〜C12−アルキル、−SONH−C〜C12−アルケニル、−SONH−C〜C12−アルケニル、−SONH−C〜C12−シクロアルキル、−SONH−アリール、−SONH−ヘテロアリール、−SONH−ヘテロシクロアルキル、−NHSO−C〜C12−アルキル、−NHSO−C〜C12−アルケニル、−NHSO−C〜C12−アルケニル、−NHSO−C〜C12−シクロアルキル、−NHSO−アリール、−NHSO−ヘテロアリール、−NHSO−ヘテロシクロアルキル、−CHNH、−CHSOCH、−アリール、−アリールアルキル、−ヘテロアリール、−ヘテロアリールアルキル、−ヘテロシクロアルキル、−C〜C12−シクロアルキル、ポリアルコキシアルキル、ポリアルコキシ、−メトキシメトキシ、−メトキシエトキシ、−SH、−S−C〜C12−アルキル、−S−C〜C12−アルケニル、−S−C〜C12−アルケニル、−S−C〜C12−シクロアルキル、−S−アリール、−S−ヘテロアリール、−S−ヘテロシクロアルキル、またはメチルチオメチルを含む置換基によって、その水素原子のうち1個、2個、または3個以上が独立な置換によって置換されている、先に定義したアリール、ヘテロアリール、脂肪族基を意味する。アリール、ヘテロアリール、アルキルなどがさらに置換されてよいことが理解されよう。
【0051】
「ハロゲン」という用語は、本明細書において使用される場合、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選択される原子を意味する。
【0052】
本発明によって想定される置環基および変数の組合せは、安定な化合物の形成をもたらすもののみである。「安定な」という用語は、本明細書において使用される場合、製造を可能にするのに十分な安定性を有し、かつ、本明細書において詳述する目的(例えば、対象への治療的投与または予防的投与)のために有用となるのに十分な期間、化合物の完全性を維持する化合物を意味する。
【0053】
合成された化合物は、反応化合物から分離し、かつ、カラムクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー、または再結晶などの方法によってさらに精製することができる。当業者なら理解することができるように、本明細書の式の化合物を合成する別の方法は、当業者には明らかである。さらに、様々な合成ステップを、所望の化合物を与える代替の順番または順序で実施してよい。本明細書に記載する化合物を合成する際に有用である合成化学変換および保護基方法論(保護および脱保護)は当技術分野において公知であり、例えば、R.Larock、Comprehensive Organic Transformations、VCH Publishers(1989年);T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis、第2版;John Wiley and Sons(1991年)、L.FieserおよびM.Fieser、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis、John Wiley and Sons(1994年)、およびL.Paquette編、Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis、John Wiley and Sons(1995年)ならびにこれらのその後の版において記述されているものが含まれる。
【0054】
「対象」という用語は、本明細書において使用される場合、動物を意味する。好ましくは、動物は哺乳動物である。より好ましくは、哺乳動物はヒトである。また、対象は、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、雌ウシ、ブタ、モルモット、トリなどを意味し、特に、SMAの動物モデルを含む。
【0055】
本発明の化合物は、選択的な生物学的特性を高めるために適切な官能基を付加することによって修飾してよい。このような修飾は当技術分野において公知であり、所与の生物学的系(例えば、血液、リンパ系、中枢神経系)への生物学的浸透を増加させ、経口による利用可能性を高め、注射による投与を可能にするために溶解度を高め、代謝を変更し、排泄速度を変更するものを含んでよい。
【0056】
本明細書に記載する化合物は、1つまたは複数の不斉中心を含み、したがって、エナンチオマー、ジアステレオマー、および他の立体異性体を生じ、これらは、絶対的立体化学の観点から、(R)−もしくは(S)−、またはアミノ酸の場合には(D)−もしくは(L)−と定義することができる。本発明は、このような存在し得るすべての異性体、ならびにそれらのラセミ体および光学的に純粋な形態を含むことを意図している。光学異性体は、前述の手順によって個々の光学的に活性な前駆体から、またはラセミ混合物を分割することによって調製することができる。分割は、分割剤の存在下で、クロマトグラフィーによって、もしくは晶析の繰り返しによって、または、当業者に公知であるこれらの技術の何らかの組合せによって、実施することができる。分割に関するさらなる詳細は、Jacquesら、Enantiomers,Racemates,and Resolutions(John Wiley&Sons、1981年)において見ることができる。本明細書に記載する化合物がオレフィン二重結合、他の不飽和、または幾何学的不斉の他の中心を含む場合、かつ、別段の指定が無い限り、これらの化合物はEおよびZ両方の幾何異性体またはシス異性体およびトランス異性体を含むことが意図される。同様に、すべての互変異性体も含まれることが意図される。本明細書において現れる任意の炭素−炭素二重結合の立体配置は、便宜上選択されるにすぎず、文面がそのように記載しない限り、特定の立体配置を指定するものではない。したがって、本明細書において任意にトランスとして示される炭素−炭素二重結合または炭素−ヘテロ原子二重結合は、シス、トランス、または任意の比率のこれら2つの混合物でよい。
【0057】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容できる塩」という用語は、適切な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに適しており、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを伴わず、かつ、妥当な利益/リスク比に見合っているような塩を意味する。薬学的に許容できる塩は、当技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらは、J.Pharmaceutical Sciences、66巻:1〜19頁(1977年)において薬学的に許容できる塩を詳細に記述している。これらの塩は、本発明の化合物を最終的に単離および精製する間にin situで、または、遊離の塩基官能基を適切な有機酸と反応させることによって別々に、調製することができる。薬学的に許容できる塩の例としては、それだけには限らないが、非毒性酸付加塩が挙げられ、これらは、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸などの無機酸、または酢酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、もしくはマロン酸などの有機酸と形成されるか、または、イオン交換など当技術分野において使用される他の方法を用いることによって形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容できる塩としては、それだけには限らないが、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重硫酸、ホウ酸、酪酸、ショウノウ酸、カンファースルホン酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジグルコン酸、ドデシル硫酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、グルコへプトン酸、グリセロリン酸、グルコン酸、ヘミ硫酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヨウ化水素酸、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸、ラクトビオン酸、乳酸、ラウリン酸、硫酸ラウリル、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、メタンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、ペクチン酸、過硫酸、3−フェニルプロピオン酸、リン酸、ピクリン酸、ピバル酸、プロピオン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、チオシアン酸、p−トルエンスルホン酸、ウンデカン酸、吉草酸の塩などが挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。その他の薬学的に許容できる塩としては、適切な場合、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸、硫酸、リン酸、硝酸、1個〜6個の炭素原子を有するアルキル、スルホン酸、およびアリールスルホン酸などの対イオンを用いて形成される、非毒性アンモニウム、四級アンモニウム、およびアミンの陽イオンが挙げられる。
【0058】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容できるエステル」という用語は、in vivoで加水分解するエステルを意味し、また、ヒト体内で容易に分解して、親化合物またはその塩を残すものを含む。適切なエステル群には、例えば、薬学的に許容できる脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸、およびアルカン二酸から誘導されるものが含まれ、その際、各アルキルまたはアルケニル部分は、有利には6個以内の炭素原子を有する。具体的なエステルの例としては、それだけには限らないが、ホルマート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、アクリレート、およびエチルスクシネートが挙げられる。
【0059】
「薬学的に許容できるプロドラッグ」という用語は、本明細書において使用される場合、適切な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに適しており、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを伴わず、妥当な利益/リスク比に見合い、かつ、それらの意図される用途に対して有効である本発明の化合物のプロドラッグ、ならびに、可能な場合には、本発明の化合物の両性イオン型を意味する。「プロドラッグ」とは、本明細書において使用される場合、代謝手段によって(例えば加水分解によって)in vivoで式Iの化合物に変換可能である化合物を意味する。様々な形態のプロドラッグが当技術分野において公知であり、例えば、Bundgaard(編)、Design of Prodrugs、Elsevier(1985年)、Widderら(編)、Methods in Enzymology、第4巻、Academic Press(1985年)、Krogsgaard−Larsenら(編)、「Design and Application of Prodrugs」、Textbook of Drug Design and Development、5章、113〜191頁(1991年)、Bundgaardら、Journal of Drug Deliver Reviews、8巻:1〜38頁(1992年)、Bundgaard、J.of Pharmaceutical Sciences、77巻:285頁以下参照(1988年)、HiguchiおよびStella(編)、Prodrugs as Novel Drug Delivery Systems、American Chemical Society(1975年)、ならびに Bernard TestaおよびJoachim Mayer、「Hydrolysis In Drug And Prodrug Metabolism:Chemistry,Biochemistry And Enzymology」、John Wiley and Sons,Ltd.(2002)において考察されている。
【0060】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、1種または複数種の薬学的に許容できる担体または賦形剤と共に配合された治療有効量の本発明の化合物を含む。
【0061】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容できる担体または賦形剤」という用語は、非毒性、不活性な固体、半固体、もしくは液体の増量剤、希釈剤、封入材、または任意のタイプの製剤補助物質を意味する。薬学的に許容できる担体としての機能を果たし得る材料のいくつかの例は、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンなどのデンプン、セルロースならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどその誘導体、粉末状トラガカントゴム、麦芽、ゼラチン、タルク、ココアバターおよび坐剤用ワックスなどの賦形剤、ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油などの油、プロピレングリコールなどのグリコール、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張性の生理食塩水、リンガー溶液、エチルアルコール、およびリン酸緩衝液溶液、ならびに、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなど他の非毒性相容性の滑沢剤であり、同様に、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、矯味剤および着香料、保存剤、ならびに抗酸化剤もまた、調剤者の判断に従って組成物中に存在してよい。
【0062】
本発明の医薬組成物は、経口的に、非経口的に、吸入によって、局所的に、直腸経由で、経鼻的に、口腔内に、腟内に、または埋め込まれた貯蔵器を介して、好ましくは、経口投与または注射による投与によって、投与してよい。本発明の医薬組成物は、任意の従来の非毒性の薬学的に許容できる担体、補助物質、またはビヒクルを含んでよい。場合によっては、薬学的に許容できる酸、塩基、または緩衝剤で製剤のpHを調整して、製剤化される化合物またはその送達形態の安定性を高めてよい。非経口という用語は、本明細書において使用される場合、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液包内、胸骨内、くも膜下腔内、病巣内、および頭蓋内への注射または注入技術を含む。薬学的に許容できる製剤とは、所望の活性のために最も適している身体部位に本発明の化合物を効果的に分配することを可能にする組成物または製剤を意味する。いくつかの実施形態では、化合物、例えば、CNS中への薬物の移行を促進することができるP−糖タンパク質阻害剤(プルロニックP85など)(Jolliet−RiantおよびTillement、1999年、Fundam.Clin.Pharmacol.、13巻、16〜26頁)が含まれてよく、また、血液脳関門を越えて薬物を送達することができ、かつ、神経細胞の取込み機序を変更することができる、ポリブチルシアノアクリレート製のものなどのナノ粒子(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry、23巻、941〜949頁、1999年)が含まれてもよい。本発明のプロテアソーム阻害剤を含むリポソームまたは他の薬物担体の使用により、例えば、中枢神経系の組織など特定の組織型に薬物を潜在的に局在化させることができる。薬物とマンノースおよびガラクトース輸送体など血液脳関門の表面上の活性な輸送分子との結合を促進することができるリポソーム製剤もまた、有用である。このアプローチは、脳に糖を送達するための輸送体の効率をうまく利用することによって、中枢神経系細胞への薬物送達を促進することができる。本発明のプロテアソーム阻害剤の送達戦略の他の非限定的な例には、Boadoら、1998年、J.Pharm.Sci.,87巻;1308〜1315頁、Tylerら、1999年、FEBS Lett.、421巻、280〜284頁、Pardridgeら、1995年、PNAS USA.、92巻、5592〜5596頁、Boado、1995年、Adv.Drug Delivery Rev.、15巻、73〜107頁、Aldrian− Herradaら、1998年、Nucleic Acids Res.、26巻、4910〜4916頁、およびTylerら、1999年、PNAS USA.、96巻、7053〜7058頁において記述されている材料が含まれる。脊髄グリアなどの神経系を標的とするための好ましい方法は、くも膜下腔内送達による。標的化された阻害剤は、周囲のCSFおよび/または組織中に放出され、放出された阻害剤は、短時間のくも膜下注入の直後に、脊髄実質中に侵入することができる。CNS送達を含む薬物送達戦略に関する包括的な総説については、Hoら、1999年、Curr.Opin.Mol.Ther.、1巻、336〜343頁およびJain、Drug Delivery Systems:Technologies and Commercial Opportunities、Decision Resources、1998年、ならびにGroothuisら、1997年、J Neuro Virol.、3巻、387〜400頁を参照されたい。
【0063】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容できる乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤、およびエリキシル剤が含まれる。活性化合物に加えて、液体剤形は、例えば水または他の溶媒など当技術分野において一般に使用される不活性な希釈剤、可溶化剤、ならびに乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジンアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(具体的には、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物を含んでよい。不活性な希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味料、矯味剤、ならびに着香料などの補助物質も含んでよい。
【0064】
注射可能な製剤、例えば、無菌の注射可能な水性または油性懸濁剤は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いる公知技術に従って調剤することができる。無菌注射製剤は、例えば、1,3−ブタンジオール中の液剤として、非経口的に許容される無毒性の希釈剤または溶媒に溶かした無菌注射用の液剤、懸濁剤、または乳剤でもよい。使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒としては、水、リンガー溶液(U.S.P.)および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに、無菌の不揮発性油も、溶媒または懸濁媒体として慣例的に使用される。この目的には、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含めて、任意の無刺激性の不揮発性油が使用され得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も注射剤の調製において使用される。
【0065】
注射製剤は、例えば、細菌を保持するフィルターを通すろ過によって、または、使用前に滅菌水もしくは他の無菌の注射可能な媒体中に溶解もしくは分散することができる無菌の固体組成物の形態に滅菌剤を混合することによって、滅菌することができる。
【0066】
薬物の作用を延長するために、しばしば、皮下注射または筋肉内注射からの薬物の吸収を減速させることが望ましい。これは、水溶性が乏しい結晶性材料または非結晶性材料の懸濁液剤を使用することによって達成することができる。その場合、薬物の吸収速度は、溶解速度に依存し、次いで、結晶の大きさおよび結晶の形態に依存し得る。あるいは、非経口的に投与される薬物形態の吸収の遅延は、油性ビヒクル中に薬物を溶解または懸濁させることによって達成される。注射可能なデポー剤は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に薬物のマイクロエンカプセルマトリックスを形成させることによって製造される。薬物とポリマーの比率および使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物の放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が含まれる。また、デポー注射製剤は、体組織に適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を閉じ込めることによっても調製される。
【0067】
直腸投与または膣投与用の組成物は、好ましくは、周囲温度では固体であるが体温では液体であり、したがって、直腸または膣腔で融解し、活性化合物を放出する、ココアバター、ポリエチレングリコール、または坐剤用ワックスなど適切な非刺激性賦形剤または担体と本発明の化合物を混合することによって調製することができる坐剤である。
【0068】
経口投与用の固体剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、および顆粒剤が含まれる。このような固体剤形において、活性化合物は、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウムなど少なくとも1種の不活性な薬学的に許容できる賦形剤もしくは担体、ならびに/またはa)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸などの増量剤もしくはエキステンダー、b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアラビアゴムなどの結合剤、c)グリセロールなどの湿潤剤、d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のシリケート、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、e)パラフィンなどの溶解遅延剤、f)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、g)例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、h)カオリンおよびベントナイトクレイなどの吸着剤、ならびにi)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物などの滑沢剤と混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、これらの剤形はまた、緩衝剤も含んでよい。
【0069】
類似したタイプの固体組成物もまた、ラクトースまたは乳糖、ならびに高分子量のポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用した軟および硬充填ゼラチンカプセル剤中の充填剤として使用され得る。
【0070】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティングおよび医薬製剤技術において周知の他のコーティングなどのコーティングまたはシェルを用いて調製することができる。これらは、場合によって不透明化剤を含んでよく、また、腸管の特定の部分において、場合によっては遅延様式で活性成分をそれのみまたは優先的に放出する組成物であってもよい。使用され得る包埋組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。
【0071】
本発明の化合物を局所投与または経皮投与するための剤形としては、軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、散剤、液剤、スプレー剤、吸入剤、またはパッチ剤が挙げられる。有効成分は、必要に応じて、薬学的に許容できる担体および任意の必要とされる保存剤または緩衝剤と無菌条件下で混合される。眼科用製剤、点耳液、眼用軟膏剤、散剤、および液剤もまた、本発明の範囲内として企図される。
【0072】
軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤、およびゲル剤は、本発明の活性化合物に加えて、動物性および植物性の脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカントゴム、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、および酸化亜鉛、またはそれらの混合物などの賦形剤も含んでよい。
【0073】
散剤およびスプレー剤は、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、およびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含んでよい。スプレー剤は、クロロフルオロ炭化水素など慣例の噴射剤もさらに含んでよい。
【0074】
経皮パッチには、身体への化合物の制御送達を実現するという付加的な利点がある。このような剤形は、適切な媒体に化合物を溶解または分配することによって製造することができる。また、化合物の経皮的流動を増大させるために、吸収促進剤も使用することができる。この速度は、速度制御膜を提供することによって、またはポリマーマトリックスもしくはゲル中に化合物を分散させることによって、制御することができる。
【0075】
肺送達の場合、本発明の治療用組成物は、固体微粒子形態または液体微粒子形態で製剤化され、直接投与、例えば、呼吸器系への吸入によって患者に投与される。本発明を実施するために調製される活性化合物の固体微粒子形態または液体微粒子形態には、呼吸に適するサイズの粒子、すなわち、吸入の際に口および喉頭を通過し、気管支および肺の肺胞中に到達するのに十分な小ささのサイズの粒子が含まれる。エアロゾル化された治療物質、特にエアロゾル化された抗生物質の送達は、当技術分野において公知である(例えば、すべて参照により本明細書に組み入れられる、VanDevanterらの米国特許第5767068号、Smithらの米国特許第5508269号、およびMontgomeryによるWO98/43650を参照されたい)。抗生物質の肺送達に関する考察は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6014969号においても見出される。
【0076】
本発明の化合物の「治療有効量」とは、任意の医学的治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で、治療される対象に治療効果を与える化合物の量を意味する。治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験またはマーカーによって測定可能である)でも、主観的(すなわち、対象が効果の徴候を示すか、または効果を感じる)でもよい。前述の化合物の有効量は、約0.1mg/Kg〜約500mg/Kg、好ましくは約1〜約50mg/Kgの範囲であり得る。また、有効用量は、投与経路、ならびに他の作用物質との同時使用の可能性に応じて変動すると考えられる。しかし、本発明の化合物および組成物の1日の総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で、主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の患者に対する具体的な治療有効用量レベルは、治療される障害および障害の重症度、使用される個々の化合物の活性、使用される個々の組成物、患者の年齢、体重、全体的健康状態、性別、および食生活、投与時間、投与経路、ならびに使用される個々の化合物の排泄速度、治療の持続期間、使用される個々の化合物と組み合わせてまたは同時に使用される薬物、ならびに医薬技術において周知である同様の因子を含む、様々な因子に依存すると考えられる。
【0077】
単回投与または分割投与でヒトまたは他の動物に投与される本発明の化合物の1日の総用量は、例えば、0.01〜50mg/kg体重、またはより普通には、0.1〜25mg/kg体重の量であることができる。単回投与用組成物は、1日量を構成するこのような量またはその約数に当たる量を含むことができる。一般に、本発明による治療計画は、このような治療を必要とする患者に、1日当たり約10mg〜約1000mgの本発明の化合物を単回投与または複数回投与で投与することを含む。
【0078】
本明細書における方法は、所望の効果または規定された効果を実現するために有効な量の化合物または化合物組成物の投与を企図する。典型的には、本発明の医薬組成物は、1日当たり約1回〜約6回、あるいは持続注入として投与される。このような投与は、長期的治療法または急性期治療法として使用することができる。単一の剤形を作製するために薬学的な賦形剤または担体と組み合わせてよい活性成分の量は、治療される宿主および個々の投与様式に応じて変動すると考えられる。典型的な製剤は、約5%〜約95%の活性化合物(w/w)を含む。あるいは、このような製剤は、約20%〜約80%の活性化合物を含んでよい。
【0079】
上記に挙げられた用量よりも少ない用量または多い用量が必要とされる場合がある。任意の特定の患者に対する具体的な投薬量および治療計画は、使用される個々の化合物の活性、年齢、体重、全体的健康状態、性別、食生活、投与時間、排泄速度、薬物の組合せ、疾患、病態、または症状の重症度および経過、疾患、病態、または症状に対する患者の素因、ならびに治療担当医の判断を含む、様々な因子に依存すると考えられる。
【0080】
患者の病態が改善したら、必要に応じて、本発明の化合物、組成物、または組合せ物の維持用量を投与してよい。続いて、投薬量もしくは投与頻度または両方を、症状が所望のレベルまで軽減された際に改善された病態が保持されるレベルまで、症状の関数として減少させてよい。しかし、患者は、疾患症状が再発することがあれば、長期に渡って間欠治療を必要とする場合がある。
【0081】
本発明の組成物が、本明細書に記載する式の化合物と1種または複数種の追加の治療物質または予防物質との組合せを含む場合、化合物と追加の作用物質の両方とも、単剤治療計画で通常投与される投薬量の約1〜100%、より好ましくは、約5〜95%の投薬量レベルで存在するべきである。追加の作用物質は、本発明の化合物とは別々に、複数回投与計画の一環として投与してよい。あるいは、これらの作用物質は、単一の組成物中に本発明の化合物と一緒に混合された、単一の剤形の一部分でもよい。
【0082】
本発明はさらに、本明細書に記載するアッセイ法が、SMA治療薬の候補物を選択するための一次的アッセイ法として効率的に使用され得るという理解にも関する。したがって、本発明は、(a)SMNタンパク質の発現およびgem形成に十分な条件下、かつ十分な期間、SMA患者に由来する線維芽細胞培養物と候補物を接触させるステップと、(b)SMNタンパク質のgems形成を判定するステップと、(c)候補物を選択するステップとを含む、SMA治療薬の候補物を選択するための方法に関する。gemsの形成は、細胞培養物中のgemsを有する線維芽細胞のパーセンテージを確かめることによって判定することができる。他の実施形態では、培養物中のgems数またはgems濃度を判定することができる。
【0083】
細胞株はSMA患者に由来する。このような細胞は、本明細書において「SMA細胞」と呼ばれる。これらの細胞は、様々な供給源および組織から単離される。例えば、これらの細胞は、血液試料または生検材料から単離することができる。細胞は、幹細胞、線維芽細胞、神経細胞、またはリンパ系細胞でよい。これらの細胞は、細胞型および細胞起源に応じて培養で増殖させることができる。必要な増殖因子は、培地中で提供することができる。例えば、ウシ胎児血清、精製した因子の反応混液、または個々の増殖因子を培地に補充してよい。これらの細胞は、不死化させずに増殖させることができる。あるいは、癌遺伝子、または形質転換ウイルスタンパク質、例えば、パピローマE6もしくはE7タンパク質を有するウイルスまたはプラスミドを用いて、これらの細胞を不死化してもよい。細胞培養用の線維芽細胞の供給源は、SMA患者から単離しても、そのような単離物に由来してもよい。一実施形態では、これらの細胞は、SMA患者由来のクローン細胞培養物である。
【0084】
細胞株を単離および維持するための手順は、当技術分野において周知であり、適切な実験室マニュアルにおいて見出すことができる。これらの細胞は、試験化合物のアレイをスクリーニングするのに十分な量で増殖させることができる。あるいは、細胞を用いて、個々の化合物のSMA治療薬としての有効性を評価することができる。また、等価な細胞培養条件を使用することができる。本明細書において例示するものなど公知のプロテアソーム阻害剤の存在下でSMNタンパク質およびgem形成が達成されるが、そのような阻害剤の不在下では、実質的に減少したSMNタンパク質およびgem形成が達成され、それによって、有意義な比較根拠が提供される場合には、条件は「等価」とみなすことができる。
【0085】
選択される候補物は、好ましくは、約10uMの濃度で、約50%以上のパーセンテージのgemsを有する線維芽細胞を細胞培養物中で確立する。これは、アッセイ法の条件が本明細書に記載するものでなければならないということを示すものではない。等価な培養条件は容易に想定することができ、かつこのような条件を変更することは、培養物の定性的結果に影響を与え得るため、すべての培養条件に適合する数値の選択は実際的でない。しかし、当業者なら、本明細書において例示する培養条件に基づいた所与の一連の培養条件下で候補物の相対的活性または等価な活性を決定することができる。
【0086】
本発明の方法に従って選択される候補物は、好ましくは、前記の条件下において、約1uMの濃度、例えば約0.5uM、例えば0.1uMで、約50%以上のパーセンテージのgemsを有する線維芽細胞を細胞培養物中で確立する。
【0087】
本発明はさらに、このような方法によって選択される化合物、特にプロテアソーム阻害剤、および、そのような化合物を治療有効量投与するステップを含む、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療する方法に関する。
【0088】
他に規定されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、当業者に一般に公知である意味と一致する。本明細書において言及する刊行物、特許、公開特許出願、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明の実施形態は、相互に排他的であるとみなすべきではなく、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】患者線維芽細胞において対照DMSOと比べた、ベルケイドおよびラクタシスチンによって誘導されたSMAおよびgemsを示す写真である。
【図2】患者線維芽細胞において対照DMSOと比べた、様々な濃度のアンチプロテアリドによって誘導されたSMAおよびgemsを示す写真である。
【図3】ラクタシスチンと比べた、様々な濃度のペプチドボロネートプロテアソーム阻害剤:MG−262、およびPS−341(ベルケイド(登録商標))に対するgemsを有する細胞の比率のグラフである。
【図4】様々な濃度の4種の異なるラクトンプロテアソーム阻害剤:アンチプロテアリド、オムラリド、α−メチルクラスト−ラクタシスチンβ−ラクトン、ラクタシスチンに対するgemsを有する細胞の比率のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、または誘導体を治療有効量投与するステップを含む、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療する方法。
【請求項2】
SMNタンパク質のコイル体の二価染色体(gems)のレベルが上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロテアソーム阻害剤が、ペプチドアルデヒド、ペプチドビニルスルホン、ペプチドボロネート、ペプチドエポキシケトン、β−ラクトン、またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、または誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロテアソーム阻害剤がボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアソーム阻害剤がラクタシスチンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記プロテアソーム阻害剤がオムラリドである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記プロテアソーム阻害剤がアンチプロテアリドである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアソーム阻害剤がエポキソミシンである、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記プロテアソーム阻害剤がエポネマイシンである、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
本発明の前記プロテアソーム阻害剤が式(I):
【化1】

[式中、
Wは、
【化2】

(mは、0または1であり、
各Rは、ヒドロキシ、アルコキシ、もしくはアリールオキシであるか、または、各Rは酸素原子であり、それぞれが結合しているホウ素と一緒になって、5〜7員の単環式、二環式、三環式、もしくは多環式の環を形成し、ここで前記環は、ハロゲン、N、S、もしくはOで置換されていてもよく、
各Rは、独立に、水素、非置換もしくは置換の、飽和もしくは非飽和の脂肪族、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のシクロアルキル、または非置換もしくは置換の複素環であるか、または、同じ窒素原子に結合している2つのR基は、その窒素原子と一緒になって、ハロゲン、N、S、またはOで置換されていてもよい5〜7員の単環式複素環系を形成する)
であり、
Yは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Zは、
【化3】

(AおよびBは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択され、
Xは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Qは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族であり、
は水素であるか、または、2つの隣接したRが相互に結合して、置換もしくは非置換のアリールを形成し、かつ他のRは水素である)
から選択され、
Vは、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールである]
によって表されるが、ただし、式(I)は
【化4】

ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
本発明の前記プロテアソーム阻害剤が式(II)および(III):
【化5】

[式中、R、R、およびRは、水素、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族から独立に選択され、
は、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族であり、
およびRは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択される]
によって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プロテアソーム阻害剤が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種のプロテアソーム阻害剤またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、または誘導体を治療有効量投与するステップを含む、患者におけるSMNタンパク質のコイル体の二価染色体(gems)のレベルを上昇させる方法。
【請求項14】
前記プロテアソーム阻害剤が、ペプチドアルデヒド、ペプチドビニルスルホン、ペプチドボロネート、ペプチドエポキシケトン、β−ラクトン、またはその薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、類似体、代謝産物、または誘導体からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロテアソーム阻害剤がボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プロテアソーム阻害剤がラクタシスチンである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記プロテアソーム阻害剤がオムラリドである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記プロテアソーム阻害剤がアンチプロテアリドである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記プロテアソーム阻害剤がエポキソミシンである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記プロテアソーム阻害剤がエポネマイシンである、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
本発明の前記プロテアソーム阻害剤が式(I):
【化6】

[式中、Wは、
【化7】

(mは、0または1であり、
各Rは、ヒドロキシ、アルコキシ、もしくはアリールオキシであるか、または、各Rは酸素原子であり、それぞれが結合しているホウ素と一緒になって、5〜7員の単環式、二環式、三環式、もしくは多環式の環を形成し、ここで前記環は、ハロゲン、N、S、もしくはOで置換されていてもよく、
各Rは、独立に、水素、非置換もしくは置換の、飽和もしくは非飽和の脂肪族、非置換もしくは置換のアリール、非置換もしくは置換のヘテロアリール、非置換もしくは置換のシクロアルキル、または非置換もしくは置換の複素環であるか、または、同じ窒素原子に結合している2つのR基は、その窒素原子と一緒になって、ハロゲン、N、S、またはOで置換されていてもよい5〜7員の単環式複素環系を形成する)
であり、
Yは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Zは、
【化8】

(AおよびBは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択され、
Xは、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールであり、
Qは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族であり、
は水素であるか、または、2つの隣接したRが相互に結合して、置換もしくは非置換のアリールを形成し、かつ他のRは水素である)
から選択され、
Vは、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族、非置換または置換のシクロアルキル、非置換または置換のアリール、非置換または置換のヘテロアリールである]
によって表されるが、ただし、式(I)は
【化9】

ではない、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
本発明の前記プロテアソーム阻害剤が式(II)および(III):
【化10】

[式中、R、R、およびRは、水素、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族から独立に選択され、
は、アシル、置換または非置換の、飽和または不飽和の脂肪族であり、
およびRは、水素、および置換または非置換の脂肪族から独立に選択される]
によって表される、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記プロテアソーム阻害剤が経口投与される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−526854(P2009−526854A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555335(P2008−555335)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/003987
【国際公開番号】WO2007/097980
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508247992)
【Fターム(参考)】