説明

膜厚測定方法及び膜厚測定装置

【課題】 膜厚測定方法及び膜厚測定装置に関し、簡単な装置構成により、高速且つ高精度で基板上に形成された大面積の薄膜の膜厚を測定する。
【解決手段】 測定対象となる試料一方向に移動させながら、可視光乃至近赤外光領域の線状の連続波長光を前記試料に照射し、試料からの反射光を1ライン毎に撮像手段により撮像し、撮像した1ライン毎の試料の位置と波長とを座標とした各分光波形データについて、各所定の位置毎に第1主成分乃至第K主成分を求めて第1主成分乃至第K主成分のセットからなる分光波形特徴データを作成し、各所定の位置毎に分光波形特徴データを参照用テーブルと比較して最も一致度の高い膜厚値を求め、各所定の位置毎に求めた各膜厚値から二次元膜厚分布を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定方法及び膜厚測定装置に関するものであり、特に、試料の分光波形データをライン状に取得して高速且つ高精度に膜厚を測定するための構成に特徴のある膜厚測定方法及び膜厚測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハ等の平板試料の表面に形成された多層薄膜の膜厚の計測には、エリプソメトリ(偏光測定法)を利用して偏光の回転角から測定対象物の膜厚と膜の素材の屈折率とを求める技術が用いられている。
【0003】
このエリプソメトリを利用した膜厚測定法においては、測定対象物となる平板上の一つの測定点について、反射光における偏光の回転角から膜厚を求め、複数の測定点について順次測定した結果から求めた膜厚が許容範囲内であれば、平板全面の膜厚が許容範囲内であると見做していた。
【0004】
しかし、半導体ウェーハの大口径化や液晶パネルの大面積化にともなって、測定対象物の表面全体の膜厚分布を求めることが要請されている。このような要請に応えるために、エリプソメトリによる膜厚測定方法をそのまま適用して平板表面全体の膜厚分布を測定しようとすれば、膨大な測定点について測定を繰り返す必要があり、測定に多大な時間を要してしまうという問題がある。特に、大面積の液晶パネルの場合には非現実的なものとなる。
【0005】
そこで、エリプソメトリによる膜厚測定方法に代えて、薄膜の分光特性を測定し、この測定結果に基づいて、膜厚を推定する手法も提案されている。例えば、膜面の傾斜、基板の厚みの影響を考慮した分光反射率モデルを作成し、このモデルと実測分光反射率との比較演算をすることで精度良く膜厚値を求めることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、光透過性膜との界面で反射された光との干渉により得られる反射光を600nm以上の範囲にわたって分光して、分光した反射光の光量を検出して反射率曲線を求め反射率曲線を反射率が既知の標準試料を用いて校正して、反射率曲線から極小及び極大を有する反射率曲線を求め、極大及び極小を有する反射率曲線の極大及び極小での波長並びに光透過性膜の屈折率を用いて光透過性膜の膜厚を測定することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、薄膜の表面について、光学条件の異なる複数の反射像を取得する取得手順と、反射像を構成する各画素について個々の光学条件に対応して得られた輝度値と、光学条件に対応する多層膜干渉式とのフィッティング計算によって、固定表面の反射像に対応する領域の2次元の膜厚分布を算出することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−220525号公報
【特許文献2】特開2007−198771号公報
【特許文献3】特開2010−025575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1においては、測定対象物ではなく、測定ヘッドを動作させる機構にしているので、測定ヘッドを動かす場合に測定ヘッドの位置決め精度が求められるとともに、測定ヘッドを動作させる機構を組み込む必要があり、小型ではあっても装置構成が複雑化するという問題がある。
【0010】
また、一度に取得する画像は微小領域に限られるので、液晶パネル等の大型の測定対象物を測定する場合には、多大の時間を要することになり、高速測定が困難であるという問題がある。
【0011】
また、特許文献2においては、700nm〜1000nmを含む、600nm以上の範囲の分光波形を使用して膜厚測定をしているので、測定対象物が制限される可能性がある。また、測定手段が特殊な構成であり、一度に取得する画像は微小領域に限られるので、液晶パネル等の大型の測定対象物を測定する場合には、多大の時間を要することになり、高速測定が困難であるという問題がある。
【0012】
また、特許文献3によれば、膜厚を算出するために光学条件の異なる複数の反射像を取得する必要があり、そのため、膜厚算出のために必要なデータが複数必要になり、計算コストの増大や装置の大型化をもたらすという問題がある。
【0013】
したがって、本発明は、簡単な装置構成により、高速且つ高精度で基板上に形成された大面積の薄膜の膜厚を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明は、上記課題を解決するために、膜厚測定方法において、予め所定間隔毎の膜厚について反射波長と反射率との相関関係に対して、波長をN分割した変数として主成分分析を行って、各主成分についての第1係数乃至第N係数を求めるととともに、前記各所定間隔の膜厚に対する第1主成分乃至第K主成分(但し、K<N)のセットからなる参照用テーブルを求める工程と、測定対象となる試料一方向に移動させながら、可視光乃至近赤外光領域の線状の連続波長光を前記試料に照射し、前記試料からの反射光を1ライン毎に撮像手段により撮像する工程と、撮像した1ライン毎の試料の位置と波長とを座標とした各分光波形データについて、各所定の位置毎に第1主成分乃至第K主成分を求めて第1主成分乃至第K主成分のセットからなる分光波形特徴データを作成する工程と、前記各所定の位置毎に前記分光波形特徴データを前記参照用テーブルと比較して最も一致度の高い膜厚値を求める工程と、前記各所定の位置毎に求めた各膜厚値から二次元膜厚分布を作成する工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
このように、線状の光を用いて1ライン毎に分光波形データを撮像しているので、大面積の試料全面のデータを高速に取得することが可能になる。また、分析に際して、主成分分析を用いているので、N次元のデータをK次元まで圧縮することができるので、メモリ使用量を削減することが可能になり、その結果、計算コストを削減することができるとともに、高速に膜厚を求めることが可能になる。
【0016】
(2)また、本発明は、上記(1)において、前記第1主成分から第K主成分までの累積寄与率が80%以上であり、且つ、K≦8であることを特徴とする。このように、分析に使用する主成分は、累積寄与率が80%を超えれば、かなり高精度の分析が可能になるので、最低で80%になる第K主成分までを用いるだけで良く、通常は第8主成分までで良く、それにより、計算コストを抑えることができる。
【0017】
(3)また、本発明は、上記(1)または(2)において、前記可視光乃至近赤外光領域が400nm乃至1000nmの範囲であり、前記N分割の間隔が0.1nm乃至100nmであることを特徴とする。このように、400nm乃至1000nmの波長帯の光を用いることによって、測定対象物に対する制限が緩和される。また、N分割の間隔を0.1nm乃至100nmとすることによって、測定精度の向上と計算時間の短縮を両立することができる。
【0018】
(4)また、本発明は、上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、前記撮像した1ライン幅が、前記試料における10μm乃至100mmに対応することを特徴とする。このように、撮像した1ライン幅が、試料における10μm乃至100mmに対応するように設定することによって、測定精度の向上と測定時間の短縮を両立することができる。
【0019】
(5)また、本発明は、上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、前記所定間隔毎の膜厚が10nm乃至100μmであることを特徴とする。このように、テーブルにおける所定間隔毎の膜厚を10nm乃至100μmに設定することによって、測定精度の向上と計算時間の短縮を両立することができる。
【0020】
(6)また、本発明は、上記(1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記所定の位置が、前記撮像手段の1画素に対応することを特徴とする。このように、所定の位置を、撮像手段の1画素に対応させることによって、高精度の膜厚測定が可能になる。なお、測定速度を問題にする場合には、数画素、典型的には4画素を1つの単位としても良い。
【0021】
(7)また、本発明は、膜厚測定装置において、測定対象となる試料を載置するともに、一方向に移動させる試料ステージと、可視光乃至近赤外光領域の連続波長光を前記試料に照射する線状光源と、前記試料からの線状の反射光を分光する手段を備えた撮像手段と、前記撮像手段で撮像した1撮像ライン毎の試料の位置と波長とを座標とした分光波形データについて、主成分分析を行う機能を備えた制御手段とを少なくとも備えたことを特徴とする。
【0022】
このように、線状光源を用いることによって、面光源を用いた場合に比べて装置構成を小型化することができる。また、主成分分析を行う機能を備えた制御手段を用いることによって、メモリ容量を小さくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
開示の膜厚測定方法及び膜厚測定装置によれば、簡単な装置構成により、高速且つ高精度で基板上に形成した大面積の薄膜の膜厚の測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の膜厚測定システムの原理的構成図である。
【図2】測定対象物における1ラインと撮像した分光波形像の関係の説明図である。
【図3】反射光強度の波長依存性を模式的に示した図である。
【図4】膜厚算出工程の概念的説明図である。
【図5】本発明の実施例1の膜厚測定方法に用いる膜厚測定装置の概略的構成図である。
【図6】イメージ分光ユニットを中心とした構成説明図である。
【図7】参照用テーブルの一例の説明図である。
【図8】図7に示した参照用テーブルにおける各主成分の累積寄与率の説明図である。
【図9】主成分と係数の説明図である。
【図10】得られた二次元膜厚分布データのモノクロ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態の膜厚測定方法を説明する。図1は、本発明の実施の形態の膜厚測定システムの原理的構成図であり、液晶パネルを形成するためのガラス基板等の測定対象物1を一定速度で一方向に走査しながら、イメージ分光ユニット2を介して撮像手段3により1ライン毎の分光波形像4を撮像する。なお、この時、測定対象物1には、線状光源を用いて可視光乃至近赤外光領域、例えば、400nm〜1000nmの連続波長光を照射する。
【0026】
図2は、測定対象物1における1ラインと撮像した分光波形像4の関係の説明図であり、1ライン分の分光波形像4は、位置と波長を直交座標として、その座標点において反射光強度としてデジタル的に表わされる。図においては位置50で示しているが、1ライン上の所定の位置(図2においては位置50の場合を示している)における、反射光強度の波長依存性を求める。この場合の所定位置は、撮像手段の1画素或いは4画素に対応する。
【0027】
図3は、反射光強度の波長依存性を模式的に示した図である。この各位置における反射光強度の波長依存性を各分光波形像4,4,4・・・・における各位置について、全て求める。次いで、全ての点における反射光強度の波長依存性のデータについて主成分分析を行って、各位置について第1主成分から第N主成分のセットからなる分光波形特徴データ5を作成する。
【0028】
図4は、膜厚算出工程の概念的説明図である。この主成分分析においては、予め光学シミュレーションにより各膜厚に対する第1主成分から第N主成分のセットからなる多数の膜厚についての参照用テーブル6を作成しておき、この参照用テーブル6と分光波形特徴データ5を対比して、第1主成分から第N主成分のセットと最も近い参照用テーブル6の膜厚、即ち、最確値を測定位置における膜厚とした変換膜厚データを測定した1ライン毎に7,7,7・・・として再構成する。
【0029】
最確値を決定するためには、各主成分毎の差の総和が最も小さくなるところを探索する必要があり、そのために、一般的にはユークリッド距離が最小になるもの、即ち、最小二乗法を用いて最確値を求める。
【0030】
次いで、図1に示すように、1ライン毎の変換膜厚データ7,7,7・・・撮像順に再配置することで、全面膜厚分布データ8を作成する。この全面膜厚分布データ8は、撮像手段3の各画素毎の膜厚を表した2次元デジタルマップとなる。以降は、必要に応じて、膜厚の違いをモニタに明度や色相の違いで表示することで、膜厚分布像9として視覚化する。
【0031】
この場合の主成分分析においては、各主成分の累積寄与率が80%以上になるように、主成分を第1主成分から第K主成分を用いる。分析に使用する主成分は、累積寄与率が80%を超えれば、かなり高精度の分析が可能になるので、最低で80%になる第K主成分までを用いることが望ましく、メモリの使用量を大幅に削減することができ、それにより、計算コストを抑えることができる。
【0032】
例えば、N=100の100次元データをK=8の8次元データ程度にまで圧縮できれば、単純には9割以上のメモリ使用量の削減が可能になる。なお、実際には他の計算でもメモリを使用するので、現行と比べて7割〜8割程度までメモリ使用量を削減することが可能になる。
【0033】
また、100次元データを8次元データ程度にまで圧縮して膜厚を求めた場合には、計算コストを削減することができ、高速に最確値の探索が可能になる。なお、実際には、全ての膜厚値の探索を行わせる必要はなく、算出対象位置と近い位置にある算出済み膜厚値の近傍膜厚値のみを探索させる等、工夫をすればさらに高速化が可能になる。また、ソフト処理の一部、或いは、全てをハード処理に置き換えれば、更に高速化が可能になる。
【0034】
なお、主成分分析に際しては、測定した反射光の波長について、0.1nm乃至100nmの間隔、より好適には、1.0nm乃至10nmの間隔で反射光強度をサンプリングする。したがって、例えば、400nm〜1000nmの範囲で、2nmの波長間隔でデータをサンプリングした場合には、500個のデータからなる500次元データとなる。
【0035】
第1主成分から第N主成分について、それぞれ第1係数から第N係数が得られ、この第1係数から第N係数については、参照用テーブルを求める際の光学シミュレーションにおいて算出された分光波形データから求まる。
【0036】
また、撮像した1ライン幅としては、測定対象物おける幅が10μm乃至100mm、より好適には、10μm乃至10mmとなるように設定する。また、参照用テーブル及び分光波形特徴データは0.1nm乃至100nmの膜厚間隔、より好適には、1.0nm乃至10nmの膜厚間隔、例えば、1nmの間隔で求める。
【0037】
なお、本発明においては、光源として、面光源ではなく線状光源を使用しており、且つ、視野角画像も取得する必要がないので、装置構成の小型化が可能になる。また、装置構成の小型化にともない、これまでは対応しにくいシート状の試料の膜厚測定も可能になる。さらに、装置構成の小型化により、結果的に製造コストも削減される。
【実施例1】
【0038】
以上を前提として、次に、図5乃至図10を参照して、本発明の実施例1の膜厚測定方法を説明する。図5は、本発明の実施例1の膜厚測定方法に用いる膜厚測定装置の概略的構成図であり、測定ユニット10、データ処理ボード30及び専用コントローラ40を備えている。測定対象物としては、ここでは、3000mm×3000mmのガラス基板上に、2μm(=2000nm)程度の膜厚のSiO膜を設けたものを用いる。
【0039】
測定ユニット10は、試料11を載置して一方向に移動する電動機構を備えた移動ステージ12、光源支持機構13に支持された400nm〜1000nmの連続波長で発光する線状光源14、分光ユニット支持機構15に支持されたイメージ分光ユニット20、イメージ分光ユニット20の入射側に取り付けられた対物レンズとなる自動絞りレンズ16、及び、イメージ分光ユニット20の出射側に取り付けられた高速カメラ17を備えている。なお、線状光源14の大きさは直径20mmで長さが3100mmである。
【0040】
図6は、イメージ分光ユニットを中心とした構成説明図であり、イメージ分光ユニット20は、画像をライン状に絞るスリット21、コリメートレンズ22、ライン状の画像を分光する透過型回折格子23、イメージ分光画像を高速カメラ17の撮像面に結像する結像レンズ24を備えており、これらを収容する筐体25のサイズは、ここでは、直径90mmで長さが118mmとする。
【0041】
この実施例1においては、高速カメラ17として、1024ピクセル×1024ピクセルで、120f(フレーム)/秒の撮像速度のCCDカメラを用いるが、CCDカメラに限られるものではない。
【0042】
また、データ処理ボード30は、後述する1ライン毎の撮像画像について主成分分析を行って分光波形特徴データを作成する演算処理部と、分光波形特徴データ及び参照用テーブルを格納するメモリ部を備えている。また、演算処理部では、分光波形特徴データと参照用テーブルとを対比して膜厚の最確値を求める。
【0043】
専用コントローラ40は、上述の撮像作業、演算作業等を逐次指示して二次元膜厚分布データを作成させるとともに、作成した二次元膜厚データをモニタに視覚化して表示する。
【0044】
図7は、参照用テーブルの一例の説明図であり、ここでは、ガラス基板上にSiO膜の膜厚を1500nm〜2498nmまで2nm刻みで変化せた場合について、波長が400nm〜600nmの波長範囲において2nm刻みでサンプリングした100〔=(600−400)/2〕次元の分光反射率のサンプリングデータを光学シミュレーションにより作成し、この100次元の分光反射率のサンプリングデータ用いて主成分分析を行った結果を示したものである。この参照用テーブルはデータ処理ボードのメモリ部に格納される。
【0045】
図8は、図7に示した参照用テーブルにおける各主成分の累積寄与率の説明図であり、図8(b)は図8(a)の累積寄与率のデータをグラフ化したものである。N次元データについて第N主成分まで求めても、第1主成分から第8主成分までの累積値、即ち、累積寄与率は98.92%であるので、第8主成分までを用いれば、第100主成分までの全ての主成分を用いた場合とほぼ変わらない結果が得られる。
【0046】
この時、図9(a)に示すように、第1主成分から第100主成分のそれぞれに対して、第1係数から第100係数までが決定される。また、各波長の反射率は光学シミュレーションにより図9(b)のように求まるので、各主成分は各系数と対応する反射率を掛けた総和として求められる。例えば、第1主成分及び第2主成分を例示すれば、
第1主成分=0.3961×A+0.4226×A+0.5372×A+・・・・・+0.6846×A99+0.7016×A100
第2主成分=0.3961×B+0.4226×B+0.5372×B+・・・・・+0.6846×B99+0.7016×B100
となり、図7に示した各膜厚に対する各主成分の値はこのような計算により求めたものである。
【0047】
次に、撮像した1ラインの撮像画像について、1ラインの縦方向の位置(対応する所定の画素)毎の分光波形データを取り出し、この分光波形データに対して、参照用テーブルと同様に、400nm〜600nmの波長範囲において、2nm刻みのサンプリングを行なう。このサンプリングを1ラインの撮像画像の全ての位置(全ての画素)に対して行い、この作業を全ての撮像ラインに対して行う。
【0048】
このサンプリングした、分光波形データに対して主成分分析を行って、各位置(画素)毎に、第1主成分から第8主成分までのセットからなる分光波形特徴データを作成して、データ処理ボードのメモリ部に格納する。
【0049】
次いで、各位置(画素)の分光波形特徴データを参照用テーブルの各膜厚毎の分光波形特徴データと対比して、最小二乗法を用いて差分の総和が最も小さい膜厚をその位置(画素)における膜厚とする。この膜厚計算を全ての位置(画素)について行って、それを試料の対応する位置に再配置することによって、二次元膜厚分布データが得られる。
【0050】
図10は、得られた二次元膜厚分布データのモノクロ画像である。二次元膜厚分布データは膜厚を数値化した二次元デジタルマップであるので、数値化した膜厚の差をモニタにより明度の差として表示したものである。
【0051】
このように、本発明の実施例1においては、100次元のデータを8次元に圧縮しているので、単純には9割以上のメモリ使用量の削減が可能になり、他の特徴点分析方法に比べてメモリ使用量が少なくて済む。なお、実際には他の計算でもメモリを使用するので、現行と比べて7割〜8割程度までメモリ使用量を削減することが可能になる。その結果、演算処理速度を現行の面光源を用いて視野角画像を取得して膜厚を測定する装置に比べて、2倍以上に高めることができる。
【0052】
また、演算処理速度が速くなるので、1ラインの撮像ピッチをより狭くすることが可能になり、高精細の膜厚測定が可能になる。また、面光源を用いる必要がないので、設置面積の縮小が可能であり、既存ラインへの装置追加が可能になる。
【0053】
上記の本発明の実施例1においては、液晶パネルを形成するためのガラス基板上に形成したSiO膜の膜厚を例に説明しているが、このようなSiO膜の膜厚に限られるものではなく、カラーフィルタを形成するRGB膜の膜厚測定にも用いることができる。
【0054】
さらに、視野角画像を利用せずに、ライン状の撮像画像を用いているので、測定対象物は硬質の基板上に形成された薄膜に限られるものではなく、シート状の部材の測定も可能になる。
【符号の説明】
【0055】
1 測定対象物
2 イメージ分光ユニット
3 撮像手段
4,4,4,4 分光波形像
5 分光波形特徴データ
6 参照用テーブル
,7,7 変換膜厚データ
8 全面膜厚分布データ
9 膜厚分布像
10 測定ユニット
11 試料
12 移動ステージ
13 光源支持機構
14 線状光源
15 光学ユニット支持機構
16 自動絞りレンズ
17 高速カメラ
20 イメージ分光ユニット
21 スリット
22 コリメートレンズ
23 透過型回折格子
24 結像レンズ
25 筐体
30 データ処理ボード
40 専用コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め所定間隔毎の膜厚について反射波長と反射率との相関関係に対して、波長をN分割した変数として主成分分析を行って、各主成分についての第1係数乃至第N係数を求めるととともに、前記各所定間隔の膜厚に対する第1主成分乃至第K主成分(但し、K<N)のセットからなる参照用テーブルを求める工程と、
測定対象となる試料を一方向に移動させながら、可視光乃至近赤外光領域の線状の連続波長光を前記試料に照射し、前記試料からの反射光を1ライン毎に撮像手段により撮像する工程と、
撮像した1ライン毎における試料の位置と波長とを座標とした各分光波形データについて、各所定の位置毎に第1主成分乃至第K主成分を求めて第1主成分乃至第K主成分のセットからなる分光波形特徴データを作成する工程と、
前記各所定の位置毎に前記分光波形特徴データを前記参照用テーブルと比較して最も一致度の高い膜厚値を求める工程と、
前記各所定の位置毎に求めた各膜厚値から二次元膜厚分布を作成する工程と
を備えたことを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
前記第1主成分から第K主成分までの累積寄与率が80%以上で、或いは、K≦N/2であることを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記可視光乃至近赤外光領域が400nm乃至1000nmの範囲であり、前記N分割の間隔が0.1nm乃至100nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記撮像した1ライン幅が、前記試料における10μm乃至100mmに対応することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記所定間隔毎の膜厚が0.1nm乃至100nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記所定の位置が、前記撮像手段の1画素に対応することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
測定対象となる試料を載置するとともに、一方向に移動させる試料ステージと、
可視光乃至近赤外光領域の連続波長光を前記試料に照射する線状光源と、
前記試料からの線状の反射光を分光する手段を備えた撮像手段と、
前記撮像手段で撮像した1撮像ライン毎の試料の位置と波長とを座標とした分光波形データについて、主成分分析を行う機能を備えた制御手段と
を少なくとも備えたことを特徴とする膜厚測定装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−189406(P2012−189406A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52404(P2011−52404)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業「イメージ分光方式を用いた超高速全面膜厚測定技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(597147038)テクノス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】