説明

膜厚計測方法および膜厚計測装置

【課題】結晶パターンによる反射率のばらつきがあっても反射光に影響されることなく、反射防止膜のような薄膜の厚さを容易に計測できる膜厚計測装置および膜厚計測方法を提供する。
【解決手段】同軸配置された投受光部を持つ、光干渉式の膜厚計測装置を用いて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する膜厚計測方法は、投受光部の光軸に対する垂直面から、膜の形成された面を傾斜させた状態で板状物体を保持する工程(S21)と、投受光部から板状物体表面に計測光を照射し、かつ、投受光部に板状物体からの反射光を入力する工程と、入力した反射光に基づいて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する工程(S25)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜厚計測方法および膜厚計測装置に関し、特に、太陽電池に用いられる多結晶シリコン基板上の反射防止膜などの透明膜を光干渉式で計測する膜厚計測方法および膜厚計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光干渉式の膜厚計測装置が、たとえば、特許第3944693号公報(特許文献1)に記載されている。図10は、特許文献1に開示された膜厚計測装置100の要部を示す図である。図10(A)は膜厚計測装置100の電気的構成を示すブロック図であり、図10(B)は膜厚計測装置100のセンサヘッド120内の光学系等の構成を示す図である。
【0003】
図10を参照して、膜厚計測装置100は、測定対象物30の間近に取り付けることが可能な小型のセンサヘッド120と、測定対象物30から離隔して設置されたコンピュータ140の内部スロットに装着可能なPCI(Peripheral Component Interconnect)ボード130とを含んでいる。ここでは、測定対象物30はステージ129の上に載置されており、センサヘッド120からの光は測定対象物30に垂直に入射する。
【0004】
センサヘッド120とPCIボード130との間はケーブル(電線)123aで結ばれている。PCIボード130とコンピュータ140の制御部となるCPU(Central Processing Unit,図示せず)との間はPCIバス135で結ばれている。PCIボード130は受光部125からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部131と、所定のファームウエア133を有する信号処理部132と、信号処理部132からの信号を受けて投光部121および受光部125を制御する投受光制御部134とを含む。
【0005】
なお、コンピュータ140には膜厚を計測するためのソフトウエア141が組み込まれている。また、コンピュータ140は外部インターフェイス(I/F)142を介して、膜厚計測データや膜厚判定出力を図示のない外部機器等へ出力し、外部から各種のデジタル指令信号を入力する。
【0006】
センサヘッド120内には、投光部121と受光部125とが含まれている。投光部121は、赤外光を発する赤外光LED122と、赤外光LED122から発せられた赤外光を測定対象物30に向けて出射するための投光側光学系120aを含む。投光側光学系120aは赤外光LED122からの赤外光を反射して測定対象物30に投光するとともに、測定対象物30からの反射光を透過するハーフミラー123と、投光された赤外光を測定対象物30上の所定の位置に入射させるとともに、その反射光を分光素子に送るレンズ124とを含む。受光部125は、測定対象物30からの反射光を入射する受光側光学系と、受光側光学系で受光した反射光を分光する分光素子126と、分光素子126から得られる一連の成分光を適宜に区分して個別に光電変換するCCD(Charge Coupled Device)127とを含む。なお、この例では、投光側光学系120aは受光側光学系としても作動する。すなわち、膜厚計測装置100は同軸配置された等受光部を有する。
【0007】
CCD127からのアナログ信号はケーブル123aを介してA/D変換部131に出力される。また、投受光制御部134は投光部121、および受光部125を制御するための制御信号をセンサヘッド120に出力する。
【0008】
図10に示す従来例では 赤外光を用いているが、より一般的には ハロゲンランプ・白色LEDなどの白色光を膜付の計測物体に照射し、その反射光を分光して得られる実測の反射スペクトル(光干渉波形)と、 薄膜の光干渉理論から導かれる理論の光干渉波形とをカーブフィッティングすることにより、膜厚を計測するのが好ましい。
【0009】
次に、従来の膜厚計測装置を用いた、多結晶シリコン型太陽電池に形成された反射防止膜の膜厚測定について述べる。太陽光で発電するためのデバイスが太陽電池である。太陽電池には、いくつかの種類があるが、現在の主流は、多結晶シリコン型太陽電池である。図11は、代表的な多結晶シリコン型太陽電池ウエハ200の構造を示す図である。ICやLSIなどの半導体回路は、シリコンの単結晶インゴットをスライスして作られる単結晶ウエハを使用するが、太陽電池ではより安価に作成できる多結晶シリコンウエハが用いられることが多い。
【0010】
図11を参照して、太陽電池ウエハ200は、p型多結晶シリコンウエハ201とp型多結晶シリコンウエハ201を挟んで上下に設けられたn型層202、および、p層203と、n型層202の上に形成された反射防止膜204と、n型層202と接続され、反射防止膜204の上の所定の位置に設けられた表面電極206と、p層203の下部に設けられた裏面電極207とを含む。反射防止膜204を通して太陽光208が入射して電力が発生する。
【0011】
図12は図11に示したp型多結晶シリコンウエハの表面の一例を示す図である。図12(A)は表面の一部を示す図であり、図12(B)は図12(A)において暗く見える部分の拡大図であり、図12(C)は図12(A)において明るく見える部分の拡大図である。
【0012】
図12を参照して、多結晶ウエハの表面には、約0.2〜1平方cm程度の非定型のパターンが観測される。このように見える理由は、多結晶インゴットでは、結晶がさまざまな方向に非定型で成長していくからである。さらに、インゴットをウエハ状にスライスした後、アルカリエッチングすると、結晶の方位面によってエッチングされやすい面とされにくい面という違いがあるため、ある結晶方向のみが選択的に残りやすい。結果として、図12のように、10μm程度の大きさの微細なピラミッド状の凹凸が発生し、かつ ピラミッドの高さおよび向きが非定型なパターンを形成することになる。
【0013】
このような形状が形成されていることにより、シリコン面が全体として太陽の方向に向けられていたとしても、太陽光がシリコン面に斜めに入射することになり、一度斜め面に入射した光が反射してさらに隣のピラミッドに照射される確率が高まり、結果として表面がフラットな状態よりもより多くの光エネルギがシリコンに吸収され、より発電効率が高まる。
【0014】
さらに、シリコン表面で反射した光が外部に放出されるのを減少させてエネルギ吸収効率を上げる目的で、SiN(Silicon Nitride)などの反射防止膜204が、約80nm程度の厚さで形成される。反射防止膜204による反射防止の効果は その膜厚で決定されるため、膜厚を計測し管理することが重要である。
【特許文献1】特許第3944693号公報(図2および図3ならびにそれらに関連する記載)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、太陽電池ウエハ200として完成した製品の反射防止膜204の膜厚を非破壊で計るために、光学式膜厚計測装置で膜厚を計る必要がある。
【0016】
しかし、多結晶シリコン型太陽電池ウエハは、通常図12に示すように結晶の方向や大きさが異なる、数多くの非定型な結晶パターンで構成されており、パターンごとに反射率が大きく異なっている。
【0017】
パターンごとに反射率が大きく異なっている理由は、図12で見られるように多結晶シリコンのインゴットを製造する際、結晶粒の大きさがさまざまになるためである。たとえば結晶粒の大きさが小さいところ(図12(B)の、10μmと図示されている部分)では、ピラミッド状の粒の側面の傾斜がウエハ面と垂直に近く、ウエハ面に入射した光は側面方向に反射するため、周囲より暗く見える、つまり、反射率が低くなっていると推測される。
【0018】
これに対して、結晶粒の大きさが大きいところ(図12(C)の、20μmと図示されている部分)では、ピラミッド状の粒の側面の傾斜がウエハ面と平行に近く、ウエハ面に垂直入射した光は、粒の側面で反射して垂直に近い方向に進むため、周囲より明るく見える、つまり、反射率が高くなっていると推測される。
【0019】
また、これらの中間の明るさに見える部分は、反射率も中間の値を示すと推測される。
【0020】
太陽電池ウエハの表面はこのようなメカニズムにより、反射率が異なる。
【0021】
このため、図10に示した従来例のような光学式膜厚計で膜厚を計ろうとすると、反射光量が少なすぎて干渉波形のSN(signal/noise)が著しく劣化したり、逆に光量が多すぎて受光素子が飽和を起こしたりし、安定して計測することができないという問題があった。
【0022】
この発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、結晶パターンにより反射率にばらつきがあっても影響されることなく、反射防止膜のような薄膜の厚さを容易に計測できる膜厚計測方法および膜厚計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この発明に係る膜厚計測方法は、同軸配置された投受光部を持つ、光干渉式の膜厚計測装置を用いて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する。膜厚計測方法は、投受光部の光軸に対する垂直面から、膜の形成された面を傾斜させた状態で前記板状物体を保持する工程と、投受光部から板状物体表面に計測光を照射し、かつ、投受光部に板状物体からの反射光を入力する工程と、入力した反射光に基づいて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する工程とを含む。
【0024】
好ましくは、板状物体を、投受光部に対する垂直平面から傾斜させる角度は5度から20度の範囲である。
【0025】
さらに好ましくは、板状物体を、投受光部に対する垂直平面から傾斜させる角度は10度から20度の範囲である。
【0026】
板状物体は一方面と他方面とを有するとともに、一方面にのみ膜を有しており、板状物体が他方面を投受光部に向くように保持した状態で計測位置の位置決めを行う工程と、
一方面を投受光部に向けて保持し、測定位置に計測光が照射されるように位置決めする工程と、をさらに含んでもよい。
【0027】
なお、板状物体は多結晶シリコン基板であってもよい。
【0028】
この発明の他の局面においては、膜厚計測装置は、光干渉を用いて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する。膜厚計測装置は、板状物体に対して、計測用の光を照射し、かつ板状物体からの反射光を入力する同軸投受光部と、同軸投受光部の光軸に対する垂直面から、膜の形成された面を傾斜した状態で板状物体を保持する保持部と、を含む。
【0029】
好ましくは、保持部は同軸投受光部の光軸に対する垂直平面から5度から20度の範囲で傾斜している。
【0030】
さらに好ましくは、保持部は同軸投受光部の光軸に対する垂直平面から10度から20度の範囲で傾斜している。
【0031】
同軸投受光部と保持部の相対位置を任意に変更させる移動手段を含むのが好ましい。
【0032】
また、板状物体は一方面と他方面とを有するとともに、一方面にのみ膜を有しており、板状物体が他方面を前記投受光部に向くように保持した状態で決定した計測位置を記憶する手段と、一方面を投受光部に向けて保持し、記憶した測定位置に前記計測光が照射されるように位置決めする手段と、をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0033】
この発明においては、結晶パターンの違いによる反射率のばらつきの影響が少なくなることにより、反射防止膜のような薄膜の厚さを容易に計測できる膜厚計測方法および膜厚計測装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
この発明は、発明者らが、多結晶シリコン型太陽電池には反射率の異なる領域が存在し、その領域ごとに光を反射する方向が異なるという現象を発見したことに基づき、多結晶シリコン基板を傾けることにより、反射率の影響が少ない状態で基板上の反射防止膜等の薄膜の膜厚計測を可能としたものである。
【0035】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係る膜厚計測装置10の要部を示す模式図である。ここでは、測定対象物30として、上記した多結晶シリコン型太陽電池ウエハを計測する場合について説明する。図1を参照して、膜厚計測装置10は、太陽電池ウエハのような測定対象物30を保持するステージ20と、ステージ20上に載置された太陽電池ウエハ31に投光するとともに、反射光を受光するファイバヘッド12と、ファイバヘッド12に接続されたPCIボード130等を含む。ファイバヘッド12は投光ファイバ13および受光ファイバ14を介してPCIボード130に接続されている。なお、図1は図10に対応するが、図1においては、ファイバヘッド12とPCIボード130のみを示している。この実施の形態においては、図10のセンサヘッド120内の投光部および受光部はPCIボードに内蔵されており、光ファイバを介してファイバヘッド12から投受光する構成をとっている。また、この実施の形態においては、ステージ20は従来と異なり、傾斜が可能である。それ以外の部分については図10に示した従来例と同様であるので、異なる部分を除いてその説明は省略する。
【0036】
したがって、ファイバヘッド12は投光部121からの光をステージ20上の測定対象物30である太陽電池ウエハ31に投光し、その反射光を受光部125で受けてCCDへ入力しA/D変換部131に送る。
【0037】
この実施の形態に係る膜厚計測装置10はこのような傾斜可能なステージ20を有する構造とすることにより、測定対象物30が多結晶シリコン型太陽電池ウエハ31であっても、多結晶シリコン基板の、微細なピラミッド状の結晶側面からの反射光を、傾斜角度を調整することによって適切な受光量として受光することができる。よって、ステージが光軸と垂直に対向している従来の膜厚計測装置100では十分な反射光が取れない結晶パターンであっても、安定した計測が可能である。このステージ20の傾斜角度は固定でもよい。
【0038】
なお、ステージ20の水平面からの傾きの角度θは、5度〜20度程度の範囲が好ましい。この理由は後述する。また、このステージ20の傾斜は公知の任意の機械的構成で実現可能であり、手動で傾斜させてもよいし、自動で傾斜させてもよい。
【0039】
図2は多結晶シリコン型太陽電池のSiN膜が形成された表面(A)と、膜が形成されない裏面(B)とを示す図である。図2を参照して、表面において反射率の低い結晶パターンを示す部分は、裏面においても低い反射率を示し、表面において反射率の高い結晶パターンを示す部分は裏面においても高い反射率を示す。太陽電池を構成する多結晶シリコン基板は、200μm程度と非常に薄く、一つの結晶領域が基板の表面から裏面まで貫通しているので、図2に示すように、表面と裏面では、結晶パターンが鏡面のように対応する。
【0040】
そこで、反射率の低いパターンでの膜厚を計りたいときは、裏面の、その位置に対応するパターンでリファレンスを取得する。反射率が高いパターンでの膜厚を計りたいときも、同様に裏面の、その位置に対応するパターンでリファレンスを取得する。なお、リファレンスについては後述する。
【0041】
このようにすることにより、「膜ありの反射率/膜なしの反射率」の比はほぼ一定となるので、従来のようにパターンによって受光量が少なすぎたり、多すぎたりして計測ができたりできなかったりするといった問題はより生じにくくなる。
【0042】
次に、図1に示したような、傾斜可能なステージ20を有する膜厚計測装置10のステージ20の具体的構成について説明する。図3は傾斜可能なステージ20を有する膜厚計測装置10の要部を示す図である。図3(A)は膜厚計測装置10の側面図(X方向からの矢視図)であり、図3(B)は図3(A)において矢印B−Bで示す矢視図である。
【0043】
図3を参照して、ステージ20は移動台21上に設けられている。移動台21は、ファイバヘッド12の下部に設けられ、ファイバヘッド12の移動方向(Z方向)に対して直交するXY平面上で任意の方向に移動可能であり、上端面に図中Y方向において凹部を形成するような円弧状の部分21aを有し、ステージ20を保持するステージ保持手段として作動する。また移動台21のXY平面上での移動は公知の任意の構成を用いて行うことができる。
【0044】
一方、ステージ20は、測定対象物30を保持する矩形状の平面を有する保持部20aと、移動台21の円弧状の部分21aに沿って下部が突出し、X方向に延在した蒲鉾状の底部20bと、保持部20aと底部20bとを矩形状の4辺で接続する側壁部20cとを含む。
【0045】
ステージ20は移動台21上で0度〜30度の範囲の任意の傾斜角度θに保持され、太陽電池ウエハのような測定対象物30をステージ20上に載置した状態でXY平面上の任意の位置に移動可能である。
【0046】
移動台21の初期位置はその中心がXY平面上の原点に位置する位置であり、ファイバヘッド12は、この原点上でXY平面に直交する方向(Z方向)に移動する。また、初期位置においてステージ20は水平である。
【0047】
測定対象物30である太陽電池ウエハ31は、たとえば 各辺12.5cmの正方形であり、ステージ20上で図3(C)に示すガイドピン23等の手段を用いて確実に位置決め固定されるような機構となっている。なお、図3(C)に示す例においては、ガイドピン23bは太陽電池ウエハ31の隣接する2辺に接するように固定されており、ガイドピン23aは図中矢印で示す方向にスライド可能であり、対向するガイドピン23bの位置する右方向にばねで付勢されている。
【0048】
次に、実際の計測手順について説明する。図4はこの実施の形態における膜厚計測装置10の全体構成を示すブロック図であり、従来の図10(A)に対応する。
【0049】
図4を参照して、膜厚計測装置10の全体構成は基本的に図10(A)に示したものと同様であり、測定対象物30を載置する傾斜可能なステージ20と、ファイバヘッド12と、ファイバヘッド12に接続された膜厚計測用のハードウエアであるPCIボード130と、PCIボード130にPCIバスを介して接続されたコンピュータ140とを含む。コンピュータ140には、制御部(CPU)141が設けられている。
【0050】
この実施の形態では上記したように、測定対象物30を載置するステージ20がXY平面上を移動可能で、かつ傾斜可能である。また、測定対象物30に対してファイバヘッド12がXY平面に直交するZ方向に移動可能である。
【0051】
なお、ファイバヘッド12はZ方向に移動可能に設けられたZステージ15に保持されて移動される。したがって、Zステージ15は同軸投受光部と保持部の相対位置を任意に変更させる移動手段として作動する。
【0052】
また、コンピュータ140にロードされた膜厚計測用のソフトウエア145は、移動台21をXY方向に移動させるため、ステージ20を所望の角度θだけ傾斜させるため、および、ファイバヘッド12をZ軸方向に移動させるためのそれぞれのドライバソフトウエアを含む。すなわち、ソフトウエア145はファイバヘッド12をZ軸方向に移動させるZステージ15を移動させるZステージ用ドライバ146と、ステージ20をXY平面上で移動させるためのX,Yステージ用ドライバ147,148と、ステージ20上の測定対象物30を角度θ傾斜させるためのθステージ用ドライバ149とを含む。
【0053】
なお、移動台21の位置決め、ステージ20の傾斜角度の検出のために図示のないエンコーダがステージ20や移動台21に設けられている。
【0054】
ファイバヘッド12をZ軸方向に移動させるZステージ15にはファイバヘッド12からの測定光の焦点が測定対象物30に合っているか否かを検出するフォーカス検出部16がファイバヘッド12に対してX軸方向に設けられている。
【0055】
また、コンピュータ140にはディスプレイ150が接続され、ディスプレイ150には、後に説明するリファレンス処理の指示を行う「リファレンス」ボタン151と、測定対象物に設けられた薄膜の膜厚を自動で計測するための指示を与える「計測」ボタン152とが表示されている。この「リファレンス」ボタン151を押下すると、リファレンスが開始される。リファレンスとは、測定対象物からの反射光量が測定対象物の反射率に応じて最適になるようCCD127のゲインを調整する機能である。
【0056】
フォーカス検出部16は、たとえば レーザ光を用いた三角測距方式による変位計を使用できる。変位計の出力はコンピュータ140に設けられた図示のないステージ制御部に送られ、ソフトウエア145に組み込まれたステージ制御ソフトウェアは変位計の出力を監視しながらZ軸ステージ15を上下動させ、あらかじめわかっているジャストフォーカス(合焦)時に相当する変位計出力が得られるように、Z軸ステージ15を制御する。
【0057】
次に膜厚計測装置10を用いて測定対象物の膜厚を計測する手順について説明する。図5はこの場合の処理を示すフローチャートである。図6は太陽電池ウエハ31の裏面をファイバヘッド12に向けてステージ20上に載置した状態(A)と、それを反転して薄膜の設けられた表面をファイバヘッド12に向けて載置した状態(B)を示す図である。
【0058】
図5を参照して、まず測定者が太陽電池ウエハの裏面を上に向けて、ステージ20上に載置する(S11)。このときの座標を初期位置(X,Y,Z)=(0,0,0)とする。初期位置から所望の計測パターンのところに計測光スポットがあたるよう、ステージ台21をXY方向に手動または、上記したXステージドライバ147、および/または、Yステージドライバ148を用いて移動する。
【0059】
続いて、計測スポットがジャストフォーカスとなるよう、ファイバヘッド12を保持したZステージ15を移動させ、計測者が、ディスプレイ150上のリファレンスボタン151を押すと、コンピュータ140の制御部141は、膜厚計測ソフトウェア(ソフトウエア145)の指示に沿ってリファレンス処理を行い(S13)、ステージ制御ソフトウエアが、リファレンス時の座標(X,Y、Z)=(x1、y1、z1)を記憶する(S14)。これは、計測者が自分で紙等に記録してもよいし、それぞれのドライバ146〜149による移動量をコンピュータ140の制御部141が図示のないメモリ(記憶手段)に格納するようにしてもよい。次いで、リファレンス完了のフラグを膜厚計測用ソフトウエア145内に保持し、ディスプレイ150に「リファレンス完了」を表示する(S15)。ステージ20のX、Y、Z座標および傾斜角度θは、上記した絶対座標検出型のリニアエンコーダ等で常に検出可能であり、装置の電源を切ってもステージ座標の原点位置や現在位置情報が消えることはないものとする。以上のように、コンピュータ140の制御部141は位置決め手段として作動する。
【0060】
図7を参照して、次に、測定者がX軸方向について太陽電池ウエハ31を反転して薄膜の設けられている表側を上に向けて、ステージ上に配置し(S21)、ディスプレイ150上の計測ボタン152を押下する(S22)。
【0061】
コンピュータ140の制御部141は、ソフトウエア145の指示に応じて次の動作を行う。まず、上記したリファレンス済のフラグを保持しているか否かを判断する(S23)。リファレンス済みのフラグを保持していれば、ソフトウエア145に含まれるステージ制御ソフトウエアが、ステージ20を座標(−x1,y1、z1)に移動させる(S24)。すなわち、リファレンス処理時に記憶した座標に基づいて、原点を中心として、X軸の反対方向へステージ20を駆動する。Y,Zは変化させない。その後、膜つき面にファイバヘッド12から光が照射され、反射スペクトルが計測され、膜厚計測処理が実行される(S25)。
【0062】
一方、S23で計測ソフトウエアがリファレンス済みのフラグを有していないときは、リファレンス未取得のエラーをディスプレイ150に表示する(S26)。
【0063】
以上のように、コンピュータ140の制御部141は、計測者が測定対象物の載置および反転を行なえば、あとは自動的に膜厚の計測を行う。また、この測定対象物30の反転も自動で行うようにしてもよい。
【0064】
次に、ステージ20の傾き角度を変えた場合の、膜厚計測装置で得られた実測波形と、計算上得られる理論波形との関係について説明する。これは、結晶パターンの反射率の低い場合と高い場合とに分けて説明する。
【0065】
なお、薄膜の計測は計測値と理論値とのフィッティング(カーブフィッテイング)によって行う。具体的には最小二乗法等を用いて行うが、これは計測値と理論値の差の二乗の和(フィッティングレベル)が最小となる理論値を膜厚値として決定する方法である(特許文献1参照)。計測結果として出力される膜厚値は、このフィッティングレベルが小さいほど、実測波形が理論値に近いので信頼性が高いといえる。フィッティングレベルは絶対値としてどの値以下であればよいという基準値はなく、相対的な評価値として用いるものである。
【0066】
(1)反射率の低い結晶パターンにおけるステージの傾き角度と干渉波形
図8はこの場合の波長と絶対反射率との関係を傾斜角度ごとに示したグラフである。図8(A)〜図8(G)はそれぞれ、傾斜角度を0度〜30度まで5度間隔で異ならせた場合の実測波形と理論波形とを示すグラフである。角度の右側の数値がそのときのフィッティングレベルを表している。
【0067】
図8を参照して、傾きが0度のときは、フィッティングレベルが他の傾きの場合に比べて相対的に大きい。このことから、出力される膜厚の信頼性が良くないことがわかる。こうなる理由は、反射光量が小さすぎるため分光素子126のリニアリティが確保できなくなり、結果として干渉波形が歪んでくるからである。傾きが増すにつれ、フィッティングレベルが小さくなり、計測値の信頼性が向上してくる。このことから、出力される膜厚の信頼性が高いと判断できる。膜厚計測値の許容値を設計値(たとえば80nm)の±5%以内とすれば、測斜角度は0度から20度が好ましい。さらにフィッティングレベルの許容値を0.02とすれば、最適な角度は、10度から20度程度である。
【0068】
(2)反射率の高い結晶パターンにおけるステージの傾き角度と干渉波形
図9はこの場合の波長と絶対反射率との関係を傾斜角度ごとに示したグラフである。図9(A)〜図9(G)はそれぞれ、傾斜角度を0度〜30度まで5度間隔で異ならせた場合の実測波形と理論波形とを示すグラフである。
【0069】
この場合、傾きが5度から25度にかけて、さほど実測波形に変化がないことがわかる。理由は、ピラミッド状結晶の傾きが小さいため、膜厚計測装置10のファイバヘッド12の方向に十分な光量が返ってくるからと考えられる。
【0070】
反射率が低い場合の結果に比べ膜厚が10nmほど厚いのは、基板内における膜厚むらが原因である。
【0071】
また、この場合、膜厚計測値の許容値を設計値(たとえば90nm)の±5%以内とすれば、ステージ20の傾斜角度は5度から25度が好ましい。この場合、フィッティングレベルの許容値を0.02としても、最適な角度は、5度から25度程度である。
【0072】
以上より、反射率に拘わらず、信頼性の高い計測が可能なステージ20の傾斜角度は、膜厚値だけを考えれば5度から20度が好ましく、さらにフィッテイングレベルを考慮すれば、最適な角度は10度から20度程度である。
【0073】
上記実施の形態においては、ステージを移動台上に設けて、ステージをXY平面上で任意の方向に移動可能な例について説明したが、これに限らず、ファイバヘッドのほうがXY平面上で任意の方向に移動可能としてもよい。Z方向についてもファイバヘッドをステージに向けて移動可能な例について説明したが、これに限らず、両者が相対的に移動可能であればよい。傾きに関しても、ステージがファイバヘッドからの光が入射する方向に対して所望の角度傾斜が可能な例で説明したが、ファイバヘッドがステージに対して傾いている構成としてもよい。
【0074】
また、上記実施の形態においては、傾斜角度を可変とする構成で説明したが、傾斜角度を所定の角度に固定した構成としてもよい。
【0075】
なお、基板を保持し、反転、移動および傾斜させる手段としては、多軸制御可能なロボットハンドを用いてもよい。
【0076】
また、測定対象物がステージ上に保持できれば、ファイバヘッドからの光をステージの下面から照射してもよい。
【0077】
さらに、上記実施の形態においては、太陽電池ウエハとして多結晶シリコンに設けられた薄膜の膜厚を計測する場合について説明したが、これに限らず、単結晶シリコンや、微結晶シリコンやアモルファスシリコン等の太陽電池ウエハについても適用可能である。
【0078】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の一実施の形態に係る膜厚計測装置の要部を示す図である。
【図2】測定対象物となる太陽電池ウエハの表面と裏面とを示す図である。
【図3】膜厚計測装置のステージの詳細を示す図である。
【図4】この実施の形態に係る膜厚計測装置の制御部を含むブロック図である。
【図5】膜厚計測装置におけるリファレンス処理を示すフローチャートである。
【図6】リファレンス時と計測時の基板の位置関係を示す図である。
【図7】膜厚計測装置における計測方法を示すフローチャートである。
【図8】反射率の低い結晶パターンを測定したときのステージの傾斜角度ごとの実測波形と理論波形とのフィッティング状況を示すグラフである。
【図9】反射率の高い結晶パターンを測定したときのステージの傾斜角度ごとの実測波形と理論波形とのフィッティング状況を示すグラフである。
【図10】従来の膜厚計測装置の構成を示すブロック図である。
【図11】太陽電池ウエハの全体構成を示す斜視図である。
【図12】太陽電池ウエハの表面を示す写真である。
【符号の説明】
【0080】
10,100 膜厚計測装置、12 ファイバヘッド、13 投光ファイバ、14 受光ファイバ、15 Zステージ、16 フォーカス検出部、20 ステージ、21 移動台、30 測定対象物、31 太陽電池ウエハ、130 PCIボード、135 PCIバス、140 コンピュータ、141 制御部、145 ソフトウエア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸配置された投受光部を持つ、光干渉式の膜厚計測装置を用いて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する膜厚計測方法であって、
投受光部の光軸に対する垂直面から、膜の形成された面を傾斜させた状態で板状物体を保持する工程と、
投受光部から板状物体表面に計測光を照射し、かつ、投受光部に板状物体からの反射光を入力する工程と、
入力した反射光に基づいて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する工程と、を含む、膜厚計測方法。
【請求項2】
板状物体を、投受光部に対する垂直平面から傾斜させる角度は5度から20度の範囲である、請求項1に記載の膜厚計測方法。
【請求項3】
板状物体を、投受光部に対する垂直平面から傾斜させる角度は10度から20度の範囲である、請求項1に記載の膜厚計測方法。
【請求項4】
板状物体は一方面と他方面とを有するとともに、一方面にのみ膜を有しており、
板状物体が他方面を投受光部に向くように保持した状態で計測位置の位置決めを行う工程と、
一方面を投受光部に向けて保持し、測定位置に計測光が照射されるように位置決めする工程と、をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の膜厚計測方法。
【請求項5】
板状物体は多結晶シリコン基板である、請求項1から4のいずれかに記載の膜厚計測方法。
【請求項6】
光干渉を用いて板状物体の表面に形成された膜の厚さを計測する膜厚計測装置であって、
前記板状物体に対して、計測用の光を照射し、かつ前記板状物体からの反射光を入力する同軸投受光部と、
前記同軸投受光部の光軸に対する垂直面から、前記膜の形成された面を傾斜した状態で前記板状物体を保持する保持部と、を含む、膜厚計測装置。
【請求項7】
前記保持部は前記同軸投受光部の光軸に対する垂直平面から5度から20度の範囲で傾斜していることを特徴とする、請求項6に記載の膜厚計測装置。
【請求項8】
前記保持部は前記同軸投受光部の光軸に対する垂直平面から10度から20度の範囲で傾斜していることを特徴とする、請求項6に記載の膜厚計測装置。
【請求項9】
前記同軸投受光部と前記保持部の相対位置を任意に変更させる移動手段とを含む、請求項6から8のいずれかに記載の膜厚計測装置。
【請求項10】
前記板状物体は一方面と他方面とを有するとともに、一方面にのみ膜を有しており、
前記板状物体が前記他方面を前記投受光部に向くように保持した状態で決定した計測位置を記憶する記憶手段と、
前記一方面を前記投受光部に向けて保持し、前記記憶した測定位置に前記計測光が照射されるように位置決めする位置決め手段と、をさらに含む、請求項9に記載の膜厚計測装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−198460(P2009−198460A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43371(P2008−43371)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】