自動車の下部車体構造
【課題】本発明は、フロアパネルの下方に燃料タンクを設置する自動車の下部車体構造において、車両部品の取付けブラケットをメンバー部材も利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、ボルト先端を露出させつつ、後突時等の燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができる自動車の下部車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料タンク3の隆起部3aと、シート取付けブラケット4の締結具5,6の間には、保護ブラケット7を設置して、燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐように構成している。
【解決手段】燃料タンク3の隆起部3aと、シート取付けブラケット4の締結具5,6の間には、保護ブラケット7を設置して、燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐように構成している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の下部車体構造に関し、特に、フロアパネルの下方で燃料タンクを支持する自動車の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の下部において燃料タンクを支持することが知られている。一般に、この燃料タンクは、フロアパネルの下方で支持されるが、後突時等にはサスペンションクロスメンバー等によって後方から押圧されて、他の車両部品と干渉するおそれがある。そこで、こうした干渉を防ぐ構造を採用することが求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、燃料タンク近傍のフロアパネルにシートブラケットを設けたものにおいて、シートブラケットを固定する締結具との干渉を防ぐため、燃料タンクと締結具の間にプロテクタを設けることが開示されている。
【0004】
このようにプロテクタを設けることにより、後突時に燃料タンクが後方から押圧されて締結具側に変位したとしても、締結具との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
【特許文献1】特開昭64−28077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、シートブラケット等の車両部品の取付けブラケットの取付け剛性を高めるため、フロアパネルだけではなく、サイドフレームやクロスメンバー等のメンバー部材の接合フランジを利用して、取付けブラケットを締結固定することがある。このように、メンバー部材の接合フランジを利用して取付けブラケットを締結固定することで、余計な補強ブラケット等を必要とせず、部品点数を増加させずに、取付けブラケットの取付け剛性を高めることができる。
【0006】
当然、こうした場合でも燃料タンクと締結具の干渉の問題は生じるため、前述の特許文献1のように、燃料タンクと締結具との間にプロテクタを設け、プロテクタによって接合フランジに設けた締結具を完全に覆ってしまうことが考えられる。
【0007】
しかし、フロアパネルとメンバー部材の接合フランジとの間には、両者間に水が侵入してメンバー部材のエッジ部から錆が発生するのを防止するため、車体溶接後に、シーラー(シール剤)を塗布することが行なわれる。こうして、シーラーを塗布することを考慮すると、接合フランジに設けた締結具をプロテクタで覆ってしまうと、接合フランジが露出せずシーラー塗布作業が行えないといった問題が生じる。
【0008】
そこで、プロテクタを設けることなく燃料タンクを保護する構造として締結具に「袋ナット」を設定して、フロアパネル下方で露出するボルト先端を覆う構造が考えられる。
【0009】
しかしながら、このように「袋ナット」を設定すると、生産コストが増大するという問題が新たに生じ、さらに、締結作業時においてもボルトの先端が露出しないため、ボルトの誤組付け等を目視で確認できないという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、フロアパネルの下方に燃料タンクを設置する自動車の下部車体構造において、車両部品の取付けブラケットをメンバー部材も利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、ボルト先端を露出させつつ、後突時等の燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができる自動車の下部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車の下部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネルと、該フロアパネルとの間で閉断面を形成するようにフロアパネル下面に接合フランジを介して接合されるフレーム部材と、該フレーム部材の接合フランジに設けられ、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットのうちボルトの先端がフロアパネル下方に露出する締結具と、該締結具に近接するフロアパネル下方に配設される燃料タンクと、前記フロアパネル若しくは前記フレーム部材のいずれか一方に取付けられ、略下面視で、通常時には前記締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時には燃料タンクの接触により該締結具を覆うように変形する保護ブラケットとを備えたものである。
【0012】
上記構成によれば、保護ブラケットが通常時には締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時、すなわち後突時等には、燃料タンクの接触により締結具を覆うように変形することになる。
このため、保護ブラケットの変形が生じていない通常時に締結具及びフレーム部材の接合フランジが保護ブラケットで覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケットが邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、後突時等の保護ブラケットの変形時には、保護ブラケットが締結具を覆うことになるため、燃料タンクと締結具、特に、フロアパネル下方に露出したボルト先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
【0013】
なお、保護ブラケットの形状は、どのようなものであってもよく、例えばZ形状、V字形状、L形状、I形状等、様々な形状が考えられる。
また、フレーム部材も、接合フランジでフロアパネル下面に接合されるものであれば、クロスメンバー、サイドフレーム等が考えられる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットに、燃料タンクの変位荷重を受けるタンク受け部と、該タンク受け部で荷重を受けた際に変形起点となる変形起点部とを備えたものである。
上記構成によれば、保護ブラケットにタンク受け部と変形起点部を設けたことにより、確実に、燃料タンクの変位荷重をタンク受け部で受けて、その変位荷重に応じた変形を、変形起点部で生じさせることができる。このため、保護ブラケットに安定した変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの変形挙動を安定させることで、燃料タンクの保護性能を、より確実に確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記フレーム部材の近傍のフロアパネルに、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットからなる第二の締結具を設置して、略下面視で通常時及び変形時に第二の締結具を覆うように前記保護ブラケットを配設したものである。
上記構成によれば、変形時に締結具を覆う保護ブラケットが、フロアパネルに設置した第二の締結具を、変形時のみならず通常時も覆うことになる。
このため、シーラー塗布が不要なフロアパネルの第二の締結具については、通常時も含めて保護ブラケットで覆われるため、複数の締結具を一つの保護ブラケットで覆う場合においても、より確実に二つの締結具を覆うことができ、安定して燃料タンクとの干渉を防ぐことができる。また、複数の締結具を一つの保護ブラケットで覆うことになるため、個々の締結具ごとに保護ブラケットを設けなくてもよい。
よって、締結具が複数になった場合にも、一つの保護ブラケットで安定的に燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができ、確実に燃料タンクを保護することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記フレーム部材の接合フランジに設けた締結具を第一の締結具として、該第一の締結具よりも前記第二の締結具を、燃料タンク側に近接して設置したものである。
上記構成によれば、通常時も保護ブラケットで覆われる第二の締結具を燃料タンク側に近接配置しているため、保護ブラケットが十分に変形しない軽衝突の場合でも、第二の締結具と燃料タンクの干渉を防ぐことができる。一方、保護ブラケットの変形が生じる大きな衝突の場合には、第二の締結具のみならず第一の締結具も覆うことで、第一の締結具と燃料タンクの干渉をも防ぐことができる。
よって、衝突度合に応じて形状が変化する保護ブラケットを利用して、設置位置の異なる第一の締結具と第二の締結具を適切に覆うことができ、燃料タンクとの干渉を防ぐことができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記車両部品の取付けブラケットが、フロアパネルの傾斜面に取付けられるものであり、前記保護ブラケットが、前記フレーム部材の接合フランジに取付けられる座部と、車両に対する垂直面と前記フロアパネルの傾斜面に対する垂直面の間の範囲で、前記座部から第一の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から前記第二の締結具を覆うように横方向に延びる横壁部とを備えたものである。
上記構成によれば、燃料タンクと締結具の干渉を防ぐ保護ブラケットを、座部、縦壁部及び横壁部を備えて構成したことで、座部によりフレーム部材の接合フランジに取付けられるため、保護ブラケットをフレーム部材にサブアッセンブリー状態(仮組み状態)にして、車体に組み付けることができる。
また、縦壁部が第一の締結具側に傾斜して設置されていることから、燃料タンクが下方から上方に変位してきた際に、確実に第一の締結具側に変形して第一の締結具を覆うことができる。さらに、横壁部が第二の締結具を覆うように横方向に延びることから、燃料タンクが変位した時にも、また通常時にも、横壁部で第二の締結具を覆うことができる。
このため、車体の組立作業性を悪化させることなく、保護ブラケットを第一の締結具と第二の締結具の近傍位置に配置することができる。また、縦壁部と横壁部がそれぞれ変形して上方に変位することで、燃料タンクと第一の締結具及び第二の締結具との干渉を防ぐことができる。
よって、車両生産性を悪化させることなく、燃料タンクの保護性能を確保することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間に脆弱部を設けたものである。
上記構成によれば、座部と縦壁部の間に脆弱部を設けたことにより、衝突時等に燃料タンクが上方へ変位して、保護ブラケットに接触して荷重を付与した場合に、この脆弱部が起点となり、縦壁部の第一の締結具側への変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケットが第一の締結具側に変形して、燃料タンクの保護性能を高めることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記脆弱部が開口部又は切欠部であり、該開口部又は切欠部の近傍のフロアパネル側にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けたものである。
上記構成によれば、脆弱部を開口部又は切欠部をすることで、この開口部又は切欠部を利用して、保護ブラケットの背面側(フロアパネル側)へシール剤を流し込むことができる。そして、その近傍にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けたことで、シール剤を塗布した際に、シール剤が堰き止められて、保護ブラケットの背面側にシール剤を留めておくことができる。
よって、変形の起点となる開口部又は切欠部を、シール剤を塗布する際の開口として利用した際に、シール剤を保護ブラケットの背面側に留めておけるため、保護ブラケット近傍のシール性能も向上することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの縦壁部に、補強部を設けたものである。
上記構成によれば、縦壁部に補強部を設けたことにより、保護ブラケットの変形時に縦壁部自体の変形が抑えられ、保護ブラケットに所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの燃料タンク保護性能をより高めることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの横壁部の先端に、上方に延びる係合縁部を備えたものである。
上記構成によれば、横壁部の先端に係合縁部を設けたことで、保護ブラケットが変形した際に、第二の締結具に係合縁部を係止させることができる。
よって、大きな変形が生じた場合でも、それ以上の変形が生じることなく、横壁部が確実に第二の締結具を覆うことになり、保護ブラケットの燃料タンク保護性能をさらに高めることができる。
【0022】
この発明の一実施形態においては、前記保護ブラケットが、前記第一の締結具及び第二の締結具を挟んで前記フレーム部材から離間したフロアパネルに取付けられる座部と、該座部から第一の締結具及び第二の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、該縦壁部の下端部近傍から上方に折り返されて、前記第二の締結具に近接する位置まで延びる折り返し部と、該折り返し部の上端から第二の締結具が取付けられるフロアパネル面に対して略平行となるように屈曲して延び、第二の締結具のみを覆う折曲部とを備えたものである。
上記構成によれば、燃料タンクと締結具の干渉を防ぐ保護ブラケットを、座部、縦壁部、係合縁部及び折曲部を備えて構成したことで、座部によりフロアパネルに取付けられるため、フレーム部材に取付けられる場合よりも、車体組付け時に締結具との位置関係が一定となり、保護ブラケット変形時に安定して締結具を覆うことができる。
また、縦壁部と係合縁部で略V字状となった保護ブラケットは、変形時にそのV字の上端間隔を広げるように変形して、折曲部が第二の締結具の下端をスライド移動して、第一の締結具を覆うように変形する。
このため、保護ブラケットと締結具との間の位置関係を確実に規定して、保護ブラケットを第一の締結具と第二の締結具の近傍に配置できる。また、縦壁部と係合縁部がそれぞれ広がるように変形することで、折曲部で第二の締結具だけでなく第一の締結具も覆うことができる。
よって、保護ブラケットの変形時に、確実に第一の締結具と第二の締結具を覆うことができ、保護ブラケットの燃料タンク保護性能を高めることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間、及び縦壁部と折り返し部の間に、脆弱部を設けたものである。
【0024】
上記構成によれば、座部と縦壁部の間及び縦壁部と折り返し部の間に脆弱部を設けたことにより、衝突時等に燃料タンクが上方へ変位して、保護ブラケットに接触して荷重を付与した場合に、これらの脆弱部が起点となり、縦壁部と折り返し部の変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケットの折曲部が第一の締結具側に変位して、燃料タンクの保護性能を高めることができる。
【0025】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの縦壁部、及び折り返し部に、補強部を設けたものである。
上記構成によれば、縦壁部及び折り返し部に補強部を設けたことにより、保護ブラケット変形時に縦壁部自体及び折り返し部自体の変形が抑えられ、保護ブラケットに所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの燃料タンク保護機能をより高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、保護ブラケットの変形が生じていない通常時に締結具及びフレーム部材の接合フランジが保護ブラケットで覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケットが邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、後突時等の保護ブラケットの変形時には、保護ブラケットが締結具を覆うことになるため、燃料タンクと締結具、特に、フロアパネル下方に露出したボルト先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
よって、フロアパネルの下方に燃料タンクを設置する自動車の下部車体構造において、車両部品の取付けブラケットをメンバー部材の接合フランジも利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、ボルト先端を露出させつつ、後突時等の燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1〜図4により、本発明の第一実施形態について説明する。図1は自動車の下部車体構造の縦断面図、図2は燃料タンクを除いた状態における自動車の下部車体構造の詳細底面図、図3は保護ブラケット近傍の詳細縦断面図、図4は保護ブラケットの斜視図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の自動車の下部構造は、車両前後方向で水平方向に延びるフロアパネル1と、フロアパネル1上方に設置されるリアシート2と、フロアパネル1下方に設置される燃料タンク3とを備えている。
【0029】
前述のフロアパネル1は、車両前方側のフロントフロア部11と、一段高く形成された車両後方側のリアフロア部12とを備え、この間に後上がりに傾斜させた傾斜部13を形成して、フロントフロア部11とリアフロア部12が連続するように構成している。
【0030】
フロントフロア部11上面のリアシート2前部下方には、断面略Γ形状の第一クロスメンバー14を車幅方向に延びるように設置するともに、リアフロア部12と傾斜部13の間の下面には、断面略ハット形状の第二クロスメンバー15を車幅方向に延びるように設置している。
【0031】
また、第二クロスメンバー15前方のフロアパネル1下面には、傾斜部13に沿うように平板状のアンカーレインパネル16を貼着し、図示しないシートベルトアンカーからフロアパネル1側に作用するシートベルト荷重を支持するように構成している。
【0032】
前述のリアシート2は、フロントフロア部11の後方に設置されるシートクッション21と、その後方で上方に起立して設置されるシートバック22とを備える。このうち、シートバック22は、傾斜部13上面に固設したシート取付けブラケット4を介して、フロアパネル1に設置している。
【0033】
このシートバック22を取付けるシート取付けブラケット4は、シートバック22と共に回動する回動ヒンジ41を備え、シートバック22を回動自在に前倒するように構成している。また、このシート取付けブラケット4には、図示しないチャイルドシートの固定ロッドも設けており、大きな荷重が作用しうるように構成している。
【0034】
よって、シート取付けブラケット4は、取付け強度を高めるため、フロアパネル1に対して、溶接固定のみならず、締結ボルト51,61と溶接ナット52,62からなる締結具5,6によって締結固定している。
【0035】
この締結具は、第一締結具5と第二締結具6といった二組の締結具を設定することで、締結強度を高めている。特に、後方且つ上方に位置する第一締結具5については、図2及び図3に示すように、第二クロスメンバー15の前側の接合フランジ15aも貫通することで、シート取付けブラケット4を締結固定している。こうして、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aを利用して、別途補強ブラケットを設けることなく、締結強度を高めている。
【0036】
前述の燃料タンク3は、リアシート2の下方位置で、車両前後方向に延びるように設置しており、図示しないタンク支持バンドで、フロアパネル1下方に吊り下げ支持している。この燃料タンク3は、できるだけ容量を確保するため、その後部にフロアパネル1の傾斜部13に沿って上方に隆起する隆起部3aを設けている。
【0037】
この燃料タンク3の隆起部3aと、シート取付けブラケット4の締結具5,6の間には、保護ブラケット7を設置して、燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐように構成している。
【0038】
保護ブラケット7は、具体的には、図4に示すように、略Z形状に折り曲げた金属製のプレス部材で形成され、上部に第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに溶接固定される座部71を設け、下部に燃料タンク3上部に当接する横壁部72を設け、中間位置に両者を繋ぐ縦壁部73を設けている。
【0039】
前述の座部71は、略矩形状に形成され、その略中央位置に前述の締結具(第一締結具5)の締結ボルト51を挿通する挿通穴74を形成している。この座部71をフロアパネル1と第二クロスメンバー15の接合フランジ15aとの間で挟持するように接合固定することで、保護ブラケット7をフロアパネル1下方に設置する。車体組立時においては、この座部71を予め第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに接合しておくことで、保護ブラケット7を第二クロスメンバー15にサブアッセンブリー(仮組み)した状態で車体に組付けることができる。
【0040】
前述の横壁部72は、略矩形状に受け皿状に形成され、その周縁には上方に延びる係合縁部75を形成している。この横壁部72は、燃料タンク3の隆起部3aと対向するように配置して(図1参照)、後突時、後方のサスペンションクロスメンバー(図示せず)等に押圧されて、燃料タンク3が上方に変位した際には、その隆起部3aと当接するように構成している。
【0041】
前述の縦壁部73は、下部から中央部を細く形成した略T字状に形成され、その中央部には上下方向に延びる補強ビード76を形成している。この補強ビード76は車両前方側に膨出するように形成している。この補強ビード76によって、縦壁部73の上下方向の剛性を高めて、縦壁部73自体が折れ曲がるのを防止している。
【0042】
また、座部71と横壁部72との間の陵線77上には、車幅方向に3つの開口部78…を形成している。この開口部78を陵線77上に形成することで、この稜線77で保護ブラケット7が折れ曲がりやすくなり、所望の変形が生じやすくなる。
なお、この実施形態では、開口部78で折れ曲がりの起点となる「脆弱部」を構成したが、稜線77の両端から内方側に切り欠くように形成した切欠部によって「脆弱部」を構成してもよいし、板厚の薄い薄板部を形成して「脆弱部」を構成してもよい。
【0043】
この開口部78の前方位置のアンカーレインパネル16(図3参照)には、車幅方向に延びる堰ビード16aを設けている。具体的には、図2に示すように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aの前方位置の第一締結具5と第二締結具6の間に、下方に突出する堰ビード16aを形成している。この堰ビード16aの車幅方向長さは、保護ブラケット7の車幅方向長さWよりもやや長く形成している。
【0044】
この堰ビード16aを設けたことで、図4に示すように、保護ブラケット7を車体に組み付けた状態で、開口部78…の車両前方側に下方に突出する「堰」が形成されることになる。このため、この開口部78…を利用して、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16との間にシーラーを塗布する際には、図示するように、堰ビード16aがシーラーSを堰き止め、シーラーSを車幅方向に案内して、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16の間にシーラーSを充填させることができる。
【0045】
次に、図5で、本実施形態のシーラー塗布作業について説明する。図5は、フロアパネル1の傾斜部13と直交する下方からみた保護ブラケット7近傍の車体構造である。なお、各構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
この図に示すように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aでは、車体溶接後、車体塗装前に、接合フランジ15aとフロアパネル1の間にシーラーSを塗布する。これは、接合フランジのエッジ部分がメッキされておらず、そのままにしておくと、そのエッジ部分から錆が発生するため、この間にシーラーSを塗布するのである。
【0047】
このとき、保護ブラケット7が、第一締結具5と接合フランジ15aを覆っていないため、接合フランジ15aに沿って車幅方向に行なうシーラーSの塗布作業を容易に行なうことができる。すなわち、通常時には、保護ブラケット7が第二締結具6のみを覆っているため、保護ブラケット7を設置したとしても、接合フランジ15aのシーラーSの塗布作業を容易に行なうことができるのである。
【0048】
また、前述のように開口部78…を陵線77上に複数形成することで、このシーラー塗布の際に、この開口部78…を通じて、保護ブラケット7の背面側にも、シーラーSを充填させることができ、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16の間にもシーラーSを存在させることができる。
【0049】
このようにして、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aとフロアパネル1との間にシーラーSを容易に塗布できるため、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aにおいて、シーラー切れによる不具合の発生を防止できる。
【0050】
次に、図6で、本実施形態の保護ブラケット7変形時の変形挙動について説明する。図6は、保護ブラケット7の変形状態を説明する縦断面図である。なお、この図でも、各構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
後突が生じた場合には、後方のサスペンションクロスメンバーから押圧されて、燃料タンク3が上方に変位する。この変位に応じて、燃料タンク3の隆起部3aも上方に変位する。
【0052】
このため、隆起部3aが横壁部72に当接して、横壁部72を上方に押し上げる。この隆起部3aの押し上げ荷重によって、保護ブラケット7の稜線77上に設けた開口部78…が起点となって折り曲げ変形が発生する。さらに、縦壁部73と横壁部72の間の稜線79においても折り曲げ変形が生じて、横壁部72が上方且つ後方側(第一締結具5側)に倒れるような変形が、保護ブラケット7に生じる(一点鎖線で示した状態参照)。
【0053】
このように、保護ブラケット7が変形することにより、保護ブラケット7が第一締結具5側に変位して、第一締結具5と接合フランジ15aを覆うように変形する。このため、燃料タンク3の隆起部3aが、第一締結具5、特にフロアパネル1下方側に露出する締結ボルト51の先端と干渉するのを防止することができる。
【0054】
また、さほど大きな荷重が作用しない衝突の場合であっても、保護ブラケット7は、燃料タンク3に近接した第二締結具6を常時覆っているため、燃料タンク3と第二締結具6との干渉を防止することができる。
【0055】
一方、さらに大きな荷重が作用する衝突の場合には、横壁部72に設けた係合縁部75が第一締結具5に係止されるため、保護ブラケット7は、それ以上の変形が生じず、確実に第一締結具5と第二締結具6を覆う位置で変形が抑制されることになる。
【0056】
ところで、保護ブラケット7に所望の変形を生じさせるには、図6に示すように、縦壁部73を、車両に対する垂直面F1からフロアパネル1の傾斜部13の傾斜面13aに対する垂直面F2までの間の領域(範囲)Eに位置するように傾斜させるのが望ましい。
【0057】
なぜなら、燃料タンク3から変位荷重を受けた際に、縦壁部73が第一締結具5側(後方側)に変形しやすくなり、確実に第一締結具5を覆うことができるからである。また、この領域Eに縦壁部73を傾斜させることで、縦壁部73が接合フランジ15aを覆わないため、シーラー塗布も容易に行なうことができる。
【0058】
また、この図6に示すように、第一締結具5と燃料タンク3の位置関係は、第一締結具5の締結ボルトの締結方向の延長線P上に燃料タンク3が位置しないように、延長線Pとの間に「隙Q」を設けるように設定している。これは、第一締結具5のナットのネジ山が誤組付け等で無くなった場合に、修復工具(タップ工具)で修復するにあたり、修復工具によって燃料タンク3を破損させないようにするためである。
【0059】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の下部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネル1と、そのフロアパネル1下面に接合フランジ15aを介して接合される第二クロスメンバー15と、その第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに設けられ、シート取付けブラケット4を固定する第一締結具5と、その締結具に近接するフロアパネル1下方に配設される燃料タンク3と、第二クロスメンバー15に取付けられ、略下面視で、通常時には第一締結具5を覆わないように位置して、燃料タンク3変位時には燃料タンク3の接触により第一締結具5を覆うように変形する保護ブラケット7とを備えている。
【0060】
これにより、保護ブラケット7が通常時には第一締結具5を覆わないように位置して、燃料タンク3変位時、すなわち後突時等には、燃料タンク3の接触により第一締結具5を覆うように変形することになる。
このため、保護ブラケット7の変形が生じていない通常時には、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aが保護ブラケット7で覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケット7が邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、保護ブラケット7の変形時には、保護ブラケット7が第一締結具5を覆うことになるため、燃料タンク3と第一締結具5、特に、フロアパネル1下方に露出した締結ボルト51の先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンク3を保護することができる。
よって、フロアパネル1の下方に燃料タンク3を設置する自動車の下部車体構造において、シート取付けブラケット4を第二クロスメンバー15の接合フランジ15aも利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、締結ボルト51の先端を露出させつつ、後突時の燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐことができる。
【0061】
なお、本実施形態では、シート取付けブラケット4で説明したが、車両部品を取付けるブラケットであれば、例えば、シートベルトを取付けるシートベルトブラケットや、カーゴフックを取付けるフックブラケット等であってもよい。
さらに、本実施形態では、締結具5,6を二組設定したもので説明したが、締結具が一つであるものであってもよい。
【0062】
また、この実施形態では、前記保護ブラケット7に、燃料タンク3の変位荷重を受ける横壁部72と、その横壁部72で荷重を受けた際に変形起点となる開口部78…とを備えている。
これにより、確実に、燃料タンク3の変位荷重を横壁部72で受けて、その変位荷重に応じた変形を、開口部78…で生じさせることができる。このため、保護ブラケット7に安定した変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット7の変形挙動を安定させることで、燃料タンク3の保護性能を、より確実に確保することができる。
【0063】
なお、燃料タンク3の変位荷重を受ける部分は、必ずしも平面部でなくてもよく、例えば、角部であってもよい。
【0064】
また、この実施形態では、第二クロスメンバー15の近傍のフロアパネル1に、シート取付けブラケット4を固定する第二締結具6を設置して、略下面視で通常時及び変形時に第二締結具6を覆うように保護ブラケット7を配設している。
これにより、変形時に第一締結具5を覆う保護ブラケット7が、フロアパネル1に設置した第二締結具6を、変形時のみならず通常時も覆うことになる。
このため、シーラー塗布が不要なフロアパネル1の第二締結具6については、通常時も含めて保護ブラケット7で覆われるため、複数の締結具5,6を一つの保護ブラケット7で覆う場合においても、より確実に二つの締結具5,6を覆うことができ、安定して燃料タンク3との干渉を防ぐことができる。また、複数の締結具5,6を、一つの保護ブラケット7で覆うため、個々の締結具5,6ごとに保護ブラケット7を設けなくてもよい。
よって、締結具5,6が複数であっても、一つの保護ブラケット7で安定的に燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐことができ、確実に燃料タンク3を保護することができる。
【0065】
また、この実施形態では、第一締結具5よりも第二締結具6を、燃料タンク3側に近接して設置している。
これにより、通常時においても保護ブラケット7で覆われる第二締結具6を燃料タンク3側に近接してさせているため、保護ブラケット7が十分に変形しない軽衝突の場合でも、近接する第二締結具6と燃料タンク3の干渉を防ぐことができる。一方、保護ブラケット7の変形が生じる大きな衝突の場合には、第二締結具6のみならず第一締結具5も覆うことで、第一締結具5及び第二締結具6と燃料タンク3の干渉を確実に防ぐことができる。
よって、設置位置の異なる第一締結具5と第二締結具6を、衝突度合によって変化する保護ブラケット7の形状変化を利用して、適切に覆うことができ、確実に燃料タンク3と締結具5,6の干渉を防ぐことができる。
【0066】
また、この実施形態では、保護ブラケット7が、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに取付けられる座部71と、車両に対する垂直面F1とフロアパネル1の傾斜面13aに対する垂直面F2の間の範囲Eにおいて、第一締結具5側に傾斜して延びる縦壁部73と、その縦壁部73の下端から第二締結具6を覆うように横方向に延びる横壁部72とを備えている。
これにより、座部71で第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに取付けられるため、保護ブラケット7を第二クロスメンバー15にサブアッセンブリー状態(仮組み状態)にして、車体に組み付けることができる。
また、縦壁部73が第一締結具5側に傾斜して設置されることから、燃料タンク3が上方に変位してきた際に、縦壁部73が確実に第一締結具5側に変形して第一締結具5を覆うことができる。さらに、横壁部72が第二締結具6を覆うように横方向に延びることから、燃料タンク3が上方に変位した時にも、通常時にも、横壁部72で第二締結具6を覆うことができる。
このため、車体の組立作業性を悪化させることなく、保護ブラケット7を第一締結具5と第二締結具6の近傍の車体下部に配置することができる。また、縦壁部73と横壁部72がそれぞれ変形して上方に変位することで、燃料タンク3と第一締結具5及び第二締結具6との干渉を防ぐことができる。
よって、車両生産性を悪化させることなく、燃料タンク3の保護性能を確保することができる。
【0067】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の座部71と縦壁部73の間の稜線77に開口部78…を設けている。
これにより、後突時に燃料タンク3が上方へ変位して、保護ブラケット7に接触して荷重を付与した時に、開口部78…が起点となり、縦壁部73の第一締結具5側への変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケット7が第一締結具5側に変形して、燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
【0068】
また、この実施形態では、この開口部78…の近傍のフロアパネル1側(アンカーレインパネル16)にシーラーの流れを堰き止める堰ビード16aを設けている。
これにより、変形起点となる開口部78…を利用して、保護ブラケット7の背面側(フロアパネル1側)へシーラーを流し込むことができる。そして、その近傍にシーラーの流れを堰き止める堰ビード16aを設けたことで、シーラーを塗布した際に、シーラーが堰き止められて、保護ブラケット7の背面側にシーラーを充填できる。
よって、変形の起点となる開口部78…を、シーラーを塗布する際の開口として利用した時に、シーラーを保護ブラケット7の背面側に充填できるため、保護ブラケット7近傍のシール性能も向上することができる。
【0069】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の縦壁部73に、補強ビード76を設けている。
これにより、保護ブラケット7の変形時に縦壁部73自体の変形が抑えられ、保護ブラケット7に所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット7の燃料タンク保護性能をより高めることができる。
なお、この補強ビード76の代わりに、縦壁部73の板厚を肉厚にしたり、別の板材等を貼着することで、縦壁部73の剛性を高めるようにしてもよい。
【0070】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の横壁部72の先端に、上方に延びる係合縁部75を備えている。
これにより、保護ブラケット7が変形した際に、第二締結具6に係合縁部75を係止させることができる。
よって、大きな変形が生じた場合でも、それ以上の変形が生じることなく、横壁部72が確実に第二締結具6を覆うことになり、保護ブラケット7の燃料タンク3保護性能をさらに高めることができる。
【0071】
次に、第二実施形態について、図7、図8で説明する。図7は第二実施形態の保護ブラケット107の変形状態を説明する縦断面図、図8は保護ブラケット107の斜視図である。なお、第一実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
この実施形態では、保護ブラケット107を、フロアパネル1側(アンカーレインパネル16)に固定される座部171と、下方に延びる縦壁部173と、その下端から横方向に延びる横壁部172と、その他端から上方に傾斜して延びる折り返し部174と、その上端から後方側に傾斜して延びる折曲部175とで構成している。このうち、縦壁部173と折り返し部174で略V字状を形成するように設定して、下方から燃料タンク3から変位荷重を受けた場合には、このV字の上端間隔が広がるように変形することで、第一締結具5を覆うように構成したものである。
【0073】
前述の実施形態と同様に、シート取付けブラケット4は、第一締結具5と第二締結具6によりフロアパネル1に締結固定されており、このうち、第一締結具5は、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aも利用して締結剛性を高めている。よって、前述したように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aにはシーラーを塗布しなければならないため、接合フランジ15aと第一締結具5は、通常時においては、略下面視で保護ブラケット107で覆うことができない。
【0074】
そこで、本実施形態では、通常時には、保護ブラケット107の折曲部175が第二締結具6のみを覆うように設定しており、後突時等の保護ブラケット107変形時には、第一締結具5まで覆うようにしている。
【0075】
具体的には、図7に示すように、縦壁部173を、傾斜部13の傾斜面13aの垂直面F3から所定角度α(約10°)程、締結具5,6側に傾斜させておくことで、燃料タンク3から荷重を受けた場合に、確実に締結具5,6側に倒れるように設定しておき、また、折曲部175及び折り返し部174を第二締結具6の締結ボルト61の先端に当接しながらスライド変形するように設定しておくことで、変形時に折曲部175の先端が第二締結具6を覆うようにしている(一点鎖線の変形状態参照)。
【0076】
これにより、前述の第一実施形態と同様に、保護ブラケット107で、第二締結具6のみならず、第一締結具5も覆うように構成することができる。
【0077】
本実施形態の保護ブラケット107は、図8に示すように、所望の変形が生じるように、縦壁部173と折り返し部174にそれぞれ補強ビード176,177を設けると共に、座部171と縦壁部173の間の稜線178、縦壁部173と横壁部172の間の稜線179、そして横壁部72と折り返し部174の稜線180にそれぞれ切欠部181,182,183を設けている。
【0078】
これにより、縦壁部173と折り返し部174では上下方向の剛性が高くなり、各稜線178,179,180では、剛性が低下するため、確実に所望の変形が生じることになり、より確実に縦壁部173と折り返し部174の変位が生じて、締結具5,6を覆うことができる。
【0079】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の下部車体構造は、保護ブラケット107が、第一締結具5及び第二締結具6を挟んで第二クロスメンバー15から離間したフロアパネル1側(アンカーレインパネル16)に取付けられる座部171と、その座部171から第一締結具5及び第二締結具6側の下方に傾斜して延びる縦壁部173と、その縦壁部173の下端から横方向に延びる横壁部172と、その他端から上方に折り返されて、第二締結具6に近接する位置まで延びる折り返し部174と、その折り返し部174の上端から第二締結具6が取付けられるフロアパネル1の傾斜面13aに対して略平行になるように屈曲して延びて、第二締結具6のみを覆う折曲部175とを備えている。
これにより、座部171が直接フロアパネル1側に取付けられるため、座部71が第二クロスメンバー15に取付けられる第一実施形態よりも、締結具5,6との位置関係が一定となり、変形時に確実に締結具5,6を覆うことができる。
また、燃料タンク3が上方へ変位してきた際には、縦壁部173と折り返し部174で略V字状を形成した保護ブラケット107が、そのV字の上端間隔を広げるように変形して、折曲部175が、第二締結具6の下端をスライド移動して、第一締結具5を覆うように変形する。
このため、保護ブラケット107と締結具との間の位置関係を確実に規定して、保護ブラケット107を第一締結具5と第二締結具6の近傍に配置できる。また、縦壁部173と係合縁部75がそれぞれ変形して変位することで、折曲部175で第二締結具6だけでなく第一締結具5も覆うことができる。
よって、保護ブラケット107の変形時に、確実に第一締結具5と第二締結具6を覆うことができ、保護ブラケット107の燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
なお、本実施形態では、横壁部172を設けたが、必ずしも横壁部172を設けなくても、縦壁部173と折り返し部174の下端部で、燃料タンク3の上方変位の荷重を受けるように構成してもよい。
【0080】
また、この実施形態では、保護ブラケット107の座部171と縦壁部173の間の稜線178及び縦壁部173と折り返し部174の間の稜線179,180に、切欠部181,182,183を設けている。
【0081】
これにより、後突時等に燃料タンク3が上方へ変位して、保護ブラケット107に接触して荷重を付与した場合に、これらの切欠部181,182,183が起点となり、縦壁部173と折り返し部174の変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケット107の折曲部175が第一締結具5側に変位して、燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
【0082】
また、この実施形態では、保護ブラケット107の縦壁部173及び折り返し部174に、補強ビード176,177を設けている。
これにより、保護ブラケット107変形時に縦壁部173自体及び折り返し部174自体の変形が抑えられ、保護ブラケット107に所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット107の燃料タンク3保護機能をより高めることができる。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0083】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のフレーム部材は、実施形態の第二クロスメンバー15に対応し、
以下同様に、
取付けブラケットは、シート取付けブラケット4に対応し、
第一の締結具は、第一締結具5に対応し、
第二の締結具は、第二締結具6に対応し、
タンク受け部は、横壁部72,172に対応し、
変形起点部は、開口部77、切欠部181,182,183に対応し、
脆弱部は、開口部77、切欠部181,182,183に対応し、
補強部は、補強ビード76,176,177に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の下部車体構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第一実施形態の自動車の下部車体構造の縦断面図。
【図2】燃料タンクを除いた状態における自動車の下部車体構造の詳細底面図。
【図3】保護ブラケット近傍の詳細縦断面図。
【図4】保護ブラケットの斜視図。
【図5】フロアパネルの傾斜部と直交する下方からみた保護ブラケット近傍の車体構造。
【図6】保護ブラケットの変形状態を説明する縦断面図。
【図7】第二実施形態の保護ブラケットの変形状態を説明する縦断面図。
【図8】第二実施形態の保護ブラケットの斜視図。
【符号の説明】
【0085】
1…フロアパネル
3…燃料タンク
4…シート取付けブラケット
5…第一締結具
6…第二締結具
7…保護ブラケット
15…第二クロスメンバー
15a…接合フランジ
107…保護ブラケット
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の下部車体構造に関し、特に、フロアパネルの下方で燃料タンクを支持する自動車の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の下部において燃料タンクを支持することが知られている。一般に、この燃料タンクは、フロアパネルの下方で支持されるが、後突時等にはサスペンションクロスメンバー等によって後方から押圧されて、他の車両部品と干渉するおそれがある。そこで、こうした干渉を防ぐ構造を採用することが求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、燃料タンク近傍のフロアパネルにシートブラケットを設けたものにおいて、シートブラケットを固定する締結具との干渉を防ぐため、燃料タンクと締結具の間にプロテクタを設けることが開示されている。
【0004】
このようにプロテクタを設けることにより、後突時に燃料タンクが後方から押圧されて締結具側に変位したとしても、締結具との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
【特許文献1】特開昭64−28077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、シートブラケット等の車両部品の取付けブラケットの取付け剛性を高めるため、フロアパネルだけではなく、サイドフレームやクロスメンバー等のメンバー部材の接合フランジを利用して、取付けブラケットを締結固定することがある。このように、メンバー部材の接合フランジを利用して取付けブラケットを締結固定することで、余計な補強ブラケット等を必要とせず、部品点数を増加させずに、取付けブラケットの取付け剛性を高めることができる。
【0006】
当然、こうした場合でも燃料タンクと締結具の干渉の問題は生じるため、前述の特許文献1のように、燃料タンクと締結具との間にプロテクタを設け、プロテクタによって接合フランジに設けた締結具を完全に覆ってしまうことが考えられる。
【0007】
しかし、フロアパネルとメンバー部材の接合フランジとの間には、両者間に水が侵入してメンバー部材のエッジ部から錆が発生するのを防止するため、車体溶接後に、シーラー(シール剤)を塗布することが行なわれる。こうして、シーラーを塗布することを考慮すると、接合フランジに設けた締結具をプロテクタで覆ってしまうと、接合フランジが露出せずシーラー塗布作業が行えないといった問題が生じる。
【0008】
そこで、プロテクタを設けることなく燃料タンクを保護する構造として締結具に「袋ナット」を設定して、フロアパネル下方で露出するボルト先端を覆う構造が考えられる。
【0009】
しかしながら、このように「袋ナット」を設定すると、生産コストが増大するという問題が新たに生じ、さらに、締結作業時においてもボルトの先端が露出しないため、ボルトの誤組付け等を目視で確認できないという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、フロアパネルの下方に燃料タンクを設置する自動車の下部車体構造において、車両部品の取付けブラケットをメンバー部材も利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、ボルト先端を露出させつつ、後突時等の燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができる自動車の下部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車の下部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネルと、該フロアパネルとの間で閉断面を形成するようにフロアパネル下面に接合フランジを介して接合されるフレーム部材と、該フレーム部材の接合フランジに設けられ、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットのうちボルトの先端がフロアパネル下方に露出する締結具と、該締結具に近接するフロアパネル下方に配設される燃料タンクと、前記フロアパネル若しくは前記フレーム部材のいずれか一方に取付けられ、略下面視で、通常時には前記締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時には燃料タンクの接触により該締結具を覆うように変形する保護ブラケットとを備えたものである。
【0012】
上記構成によれば、保護ブラケットが通常時には締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時、すなわち後突時等には、燃料タンクの接触により締結具を覆うように変形することになる。
このため、保護ブラケットの変形が生じていない通常時に締結具及びフレーム部材の接合フランジが保護ブラケットで覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケットが邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、後突時等の保護ブラケットの変形時には、保護ブラケットが締結具を覆うことになるため、燃料タンクと締結具、特に、フロアパネル下方に露出したボルト先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
【0013】
なお、保護ブラケットの形状は、どのようなものであってもよく、例えばZ形状、V字形状、L形状、I形状等、様々な形状が考えられる。
また、フレーム部材も、接合フランジでフロアパネル下面に接合されるものであれば、クロスメンバー、サイドフレーム等が考えられる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットに、燃料タンクの変位荷重を受けるタンク受け部と、該タンク受け部で荷重を受けた際に変形起点となる変形起点部とを備えたものである。
上記構成によれば、保護ブラケットにタンク受け部と変形起点部を設けたことにより、確実に、燃料タンクの変位荷重をタンク受け部で受けて、その変位荷重に応じた変形を、変形起点部で生じさせることができる。このため、保護ブラケットに安定した変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの変形挙動を安定させることで、燃料タンクの保護性能を、より確実に確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記フレーム部材の近傍のフロアパネルに、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットからなる第二の締結具を設置して、略下面視で通常時及び変形時に第二の締結具を覆うように前記保護ブラケットを配設したものである。
上記構成によれば、変形時に締結具を覆う保護ブラケットが、フロアパネルに設置した第二の締結具を、変形時のみならず通常時も覆うことになる。
このため、シーラー塗布が不要なフロアパネルの第二の締結具については、通常時も含めて保護ブラケットで覆われるため、複数の締結具を一つの保護ブラケットで覆う場合においても、より確実に二つの締結具を覆うことができ、安定して燃料タンクとの干渉を防ぐことができる。また、複数の締結具を一つの保護ブラケットで覆うことになるため、個々の締結具ごとに保護ブラケットを設けなくてもよい。
よって、締結具が複数になった場合にも、一つの保護ブラケットで安定的に燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができ、確実に燃料タンクを保護することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記フレーム部材の接合フランジに設けた締結具を第一の締結具として、該第一の締結具よりも前記第二の締結具を、燃料タンク側に近接して設置したものである。
上記構成によれば、通常時も保護ブラケットで覆われる第二の締結具を燃料タンク側に近接配置しているため、保護ブラケットが十分に変形しない軽衝突の場合でも、第二の締結具と燃料タンクの干渉を防ぐことができる。一方、保護ブラケットの変形が生じる大きな衝突の場合には、第二の締結具のみならず第一の締結具も覆うことで、第一の締結具と燃料タンクの干渉をも防ぐことができる。
よって、衝突度合に応じて形状が変化する保護ブラケットを利用して、設置位置の異なる第一の締結具と第二の締結具を適切に覆うことができ、燃料タンクとの干渉を防ぐことができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記車両部品の取付けブラケットが、フロアパネルの傾斜面に取付けられるものであり、前記保護ブラケットが、前記フレーム部材の接合フランジに取付けられる座部と、車両に対する垂直面と前記フロアパネルの傾斜面に対する垂直面の間の範囲で、前記座部から第一の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、該縦壁部の下端から前記第二の締結具を覆うように横方向に延びる横壁部とを備えたものである。
上記構成によれば、燃料タンクと締結具の干渉を防ぐ保護ブラケットを、座部、縦壁部及び横壁部を備えて構成したことで、座部によりフレーム部材の接合フランジに取付けられるため、保護ブラケットをフレーム部材にサブアッセンブリー状態(仮組み状態)にして、車体に組み付けることができる。
また、縦壁部が第一の締結具側に傾斜して設置されていることから、燃料タンクが下方から上方に変位してきた際に、確実に第一の締結具側に変形して第一の締結具を覆うことができる。さらに、横壁部が第二の締結具を覆うように横方向に延びることから、燃料タンクが変位した時にも、また通常時にも、横壁部で第二の締結具を覆うことができる。
このため、車体の組立作業性を悪化させることなく、保護ブラケットを第一の締結具と第二の締結具の近傍位置に配置することができる。また、縦壁部と横壁部がそれぞれ変形して上方に変位することで、燃料タンクと第一の締結具及び第二の締結具との干渉を防ぐことができる。
よって、車両生産性を悪化させることなく、燃料タンクの保護性能を確保することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間に脆弱部を設けたものである。
上記構成によれば、座部と縦壁部の間に脆弱部を設けたことにより、衝突時等に燃料タンクが上方へ変位して、保護ブラケットに接触して荷重を付与した場合に、この脆弱部が起点となり、縦壁部の第一の締結具側への変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケットが第一の締結具側に変形して、燃料タンクの保護性能を高めることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記脆弱部が開口部又は切欠部であり、該開口部又は切欠部の近傍のフロアパネル側にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けたものである。
上記構成によれば、脆弱部を開口部又は切欠部をすることで、この開口部又は切欠部を利用して、保護ブラケットの背面側(フロアパネル側)へシール剤を流し込むことができる。そして、その近傍にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けたことで、シール剤を塗布した際に、シール剤が堰き止められて、保護ブラケットの背面側にシール剤を留めておくことができる。
よって、変形の起点となる開口部又は切欠部を、シール剤を塗布する際の開口として利用した際に、シール剤を保護ブラケットの背面側に留めておけるため、保護ブラケット近傍のシール性能も向上することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの縦壁部に、補強部を設けたものである。
上記構成によれば、縦壁部に補強部を設けたことにより、保護ブラケットの変形時に縦壁部自体の変形が抑えられ、保護ブラケットに所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの燃料タンク保護性能をより高めることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの横壁部の先端に、上方に延びる係合縁部を備えたものである。
上記構成によれば、横壁部の先端に係合縁部を設けたことで、保護ブラケットが変形した際に、第二の締結具に係合縁部を係止させることができる。
よって、大きな変形が生じた場合でも、それ以上の変形が生じることなく、横壁部が確実に第二の締結具を覆うことになり、保護ブラケットの燃料タンク保護性能をさらに高めることができる。
【0022】
この発明の一実施形態においては、前記保護ブラケットが、前記第一の締結具及び第二の締結具を挟んで前記フレーム部材から離間したフロアパネルに取付けられる座部と、該座部から第一の締結具及び第二の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、該縦壁部の下端部近傍から上方に折り返されて、前記第二の締結具に近接する位置まで延びる折り返し部と、該折り返し部の上端から第二の締結具が取付けられるフロアパネル面に対して略平行となるように屈曲して延び、第二の締結具のみを覆う折曲部とを備えたものである。
上記構成によれば、燃料タンクと締結具の干渉を防ぐ保護ブラケットを、座部、縦壁部、係合縁部及び折曲部を備えて構成したことで、座部によりフロアパネルに取付けられるため、フレーム部材に取付けられる場合よりも、車体組付け時に締結具との位置関係が一定となり、保護ブラケット変形時に安定して締結具を覆うことができる。
また、縦壁部と係合縁部で略V字状となった保護ブラケットは、変形時にそのV字の上端間隔を広げるように変形して、折曲部が第二の締結具の下端をスライド移動して、第一の締結具を覆うように変形する。
このため、保護ブラケットと締結具との間の位置関係を確実に規定して、保護ブラケットを第一の締結具と第二の締結具の近傍に配置できる。また、縦壁部と係合縁部がそれぞれ広がるように変形することで、折曲部で第二の締結具だけでなく第一の締結具も覆うことができる。
よって、保護ブラケットの変形時に、確実に第一の締結具と第二の締結具を覆うことができ、保護ブラケットの燃料タンク保護性能を高めることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間、及び縦壁部と折り返し部の間に、脆弱部を設けたものである。
【0024】
上記構成によれば、座部と縦壁部の間及び縦壁部と折り返し部の間に脆弱部を設けたことにより、衝突時等に燃料タンクが上方へ変位して、保護ブラケットに接触して荷重を付与した場合に、これらの脆弱部が起点となり、縦壁部と折り返し部の変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケットの折曲部が第一の締結具側に変位して、燃料タンクの保護性能を高めることができる。
【0025】
この発明の一実施態様においては、前記保護ブラケットの縦壁部、及び折り返し部に、補強部を設けたものである。
上記構成によれば、縦壁部及び折り返し部に補強部を設けたことにより、保護ブラケット変形時に縦壁部自体及び折り返し部自体の変形が抑えられ、保護ブラケットに所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケットの燃料タンク保護機能をより高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、保護ブラケットの変形が生じていない通常時に締結具及びフレーム部材の接合フランジが保護ブラケットで覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケットが邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、後突時等の保護ブラケットの変形時には、保護ブラケットが締結具を覆うことになるため、燃料タンクと締結具、特に、フロアパネル下方に露出したボルト先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンクを保護することができる。
よって、フロアパネルの下方に燃料タンクを設置する自動車の下部車体構造において、車両部品の取付けブラケットをメンバー部材の接合フランジも利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、ボルト先端を露出させつつ、後突時等の燃料タンクと締結具との干渉を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1〜図4により、本発明の第一実施形態について説明する。図1は自動車の下部車体構造の縦断面図、図2は燃料タンクを除いた状態における自動車の下部車体構造の詳細底面図、図3は保護ブラケット近傍の詳細縦断面図、図4は保護ブラケットの斜視図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の自動車の下部構造は、車両前後方向で水平方向に延びるフロアパネル1と、フロアパネル1上方に設置されるリアシート2と、フロアパネル1下方に設置される燃料タンク3とを備えている。
【0029】
前述のフロアパネル1は、車両前方側のフロントフロア部11と、一段高く形成された車両後方側のリアフロア部12とを備え、この間に後上がりに傾斜させた傾斜部13を形成して、フロントフロア部11とリアフロア部12が連続するように構成している。
【0030】
フロントフロア部11上面のリアシート2前部下方には、断面略Γ形状の第一クロスメンバー14を車幅方向に延びるように設置するともに、リアフロア部12と傾斜部13の間の下面には、断面略ハット形状の第二クロスメンバー15を車幅方向に延びるように設置している。
【0031】
また、第二クロスメンバー15前方のフロアパネル1下面には、傾斜部13に沿うように平板状のアンカーレインパネル16を貼着し、図示しないシートベルトアンカーからフロアパネル1側に作用するシートベルト荷重を支持するように構成している。
【0032】
前述のリアシート2は、フロントフロア部11の後方に設置されるシートクッション21と、その後方で上方に起立して設置されるシートバック22とを備える。このうち、シートバック22は、傾斜部13上面に固設したシート取付けブラケット4を介して、フロアパネル1に設置している。
【0033】
このシートバック22を取付けるシート取付けブラケット4は、シートバック22と共に回動する回動ヒンジ41を備え、シートバック22を回動自在に前倒するように構成している。また、このシート取付けブラケット4には、図示しないチャイルドシートの固定ロッドも設けており、大きな荷重が作用しうるように構成している。
【0034】
よって、シート取付けブラケット4は、取付け強度を高めるため、フロアパネル1に対して、溶接固定のみならず、締結ボルト51,61と溶接ナット52,62からなる締結具5,6によって締結固定している。
【0035】
この締結具は、第一締結具5と第二締結具6といった二組の締結具を設定することで、締結強度を高めている。特に、後方且つ上方に位置する第一締結具5については、図2及び図3に示すように、第二クロスメンバー15の前側の接合フランジ15aも貫通することで、シート取付けブラケット4を締結固定している。こうして、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aを利用して、別途補強ブラケットを設けることなく、締結強度を高めている。
【0036】
前述の燃料タンク3は、リアシート2の下方位置で、車両前後方向に延びるように設置しており、図示しないタンク支持バンドで、フロアパネル1下方に吊り下げ支持している。この燃料タンク3は、できるだけ容量を確保するため、その後部にフロアパネル1の傾斜部13に沿って上方に隆起する隆起部3aを設けている。
【0037】
この燃料タンク3の隆起部3aと、シート取付けブラケット4の締結具5,6の間には、保護ブラケット7を設置して、燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐように構成している。
【0038】
保護ブラケット7は、具体的には、図4に示すように、略Z形状に折り曲げた金属製のプレス部材で形成され、上部に第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに溶接固定される座部71を設け、下部に燃料タンク3上部に当接する横壁部72を設け、中間位置に両者を繋ぐ縦壁部73を設けている。
【0039】
前述の座部71は、略矩形状に形成され、その略中央位置に前述の締結具(第一締結具5)の締結ボルト51を挿通する挿通穴74を形成している。この座部71をフロアパネル1と第二クロスメンバー15の接合フランジ15aとの間で挟持するように接合固定することで、保護ブラケット7をフロアパネル1下方に設置する。車体組立時においては、この座部71を予め第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに接合しておくことで、保護ブラケット7を第二クロスメンバー15にサブアッセンブリー(仮組み)した状態で車体に組付けることができる。
【0040】
前述の横壁部72は、略矩形状に受け皿状に形成され、その周縁には上方に延びる係合縁部75を形成している。この横壁部72は、燃料タンク3の隆起部3aと対向するように配置して(図1参照)、後突時、後方のサスペンションクロスメンバー(図示せず)等に押圧されて、燃料タンク3が上方に変位した際には、その隆起部3aと当接するように構成している。
【0041】
前述の縦壁部73は、下部から中央部を細く形成した略T字状に形成され、その中央部には上下方向に延びる補強ビード76を形成している。この補強ビード76は車両前方側に膨出するように形成している。この補強ビード76によって、縦壁部73の上下方向の剛性を高めて、縦壁部73自体が折れ曲がるのを防止している。
【0042】
また、座部71と横壁部72との間の陵線77上には、車幅方向に3つの開口部78…を形成している。この開口部78を陵線77上に形成することで、この稜線77で保護ブラケット7が折れ曲がりやすくなり、所望の変形が生じやすくなる。
なお、この実施形態では、開口部78で折れ曲がりの起点となる「脆弱部」を構成したが、稜線77の両端から内方側に切り欠くように形成した切欠部によって「脆弱部」を構成してもよいし、板厚の薄い薄板部を形成して「脆弱部」を構成してもよい。
【0043】
この開口部78の前方位置のアンカーレインパネル16(図3参照)には、車幅方向に延びる堰ビード16aを設けている。具体的には、図2に示すように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aの前方位置の第一締結具5と第二締結具6の間に、下方に突出する堰ビード16aを形成している。この堰ビード16aの車幅方向長さは、保護ブラケット7の車幅方向長さWよりもやや長く形成している。
【0044】
この堰ビード16aを設けたことで、図4に示すように、保護ブラケット7を車体に組み付けた状態で、開口部78…の車両前方側に下方に突出する「堰」が形成されることになる。このため、この開口部78…を利用して、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16との間にシーラーを塗布する際には、図示するように、堰ビード16aがシーラーSを堰き止め、シーラーSを車幅方向に案内して、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16の間にシーラーSを充填させることができる。
【0045】
次に、図5で、本実施形態のシーラー塗布作業について説明する。図5は、フロアパネル1の傾斜部13と直交する下方からみた保護ブラケット7近傍の車体構造である。なお、各構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
この図に示すように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aでは、車体溶接後、車体塗装前に、接合フランジ15aとフロアパネル1の間にシーラーSを塗布する。これは、接合フランジのエッジ部分がメッキされておらず、そのままにしておくと、そのエッジ部分から錆が発生するため、この間にシーラーSを塗布するのである。
【0047】
このとき、保護ブラケット7が、第一締結具5と接合フランジ15aを覆っていないため、接合フランジ15aに沿って車幅方向に行なうシーラーSの塗布作業を容易に行なうことができる。すなわち、通常時には、保護ブラケット7が第二締結具6のみを覆っているため、保護ブラケット7を設置したとしても、接合フランジ15aのシーラーSの塗布作業を容易に行なうことができるのである。
【0048】
また、前述のように開口部78…を陵線77上に複数形成することで、このシーラー塗布の際に、この開口部78…を通じて、保護ブラケット7の背面側にも、シーラーSを充填させることができ、保護ブラケット7とアンカーレインパネル16の間にもシーラーSを存在させることができる。
【0049】
このようにして、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aとフロアパネル1との間にシーラーSを容易に塗布できるため、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aにおいて、シーラー切れによる不具合の発生を防止できる。
【0050】
次に、図6で、本実施形態の保護ブラケット7変形時の変形挙動について説明する。図6は、保護ブラケット7の変形状態を説明する縦断面図である。なお、この図でも、各構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
後突が生じた場合には、後方のサスペンションクロスメンバーから押圧されて、燃料タンク3が上方に変位する。この変位に応じて、燃料タンク3の隆起部3aも上方に変位する。
【0052】
このため、隆起部3aが横壁部72に当接して、横壁部72を上方に押し上げる。この隆起部3aの押し上げ荷重によって、保護ブラケット7の稜線77上に設けた開口部78…が起点となって折り曲げ変形が発生する。さらに、縦壁部73と横壁部72の間の稜線79においても折り曲げ変形が生じて、横壁部72が上方且つ後方側(第一締結具5側)に倒れるような変形が、保護ブラケット7に生じる(一点鎖線で示した状態参照)。
【0053】
このように、保護ブラケット7が変形することにより、保護ブラケット7が第一締結具5側に変位して、第一締結具5と接合フランジ15aを覆うように変形する。このため、燃料タンク3の隆起部3aが、第一締結具5、特にフロアパネル1下方側に露出する締結ボルト51の先端と干渉するのを防止することができる。
【0054】
また、さほど大きな荷重が作用しない衝突の場合であっても、保護ブラケット7は、燃料タンク3に近接した第二締結具6を常時覆っているため、燃料タンク3と第二締結具6との干渉を防止することができる。
【0055】
一方、さらに大きな荷重が作用する衝突の場合には、横壁部72に設けた係合縁部75が第一締結具5に係止されるため、保護ブラケット7は、それ以上の変形が生じず、確実に第一締結具5と第二締結具6を覆う位置で変形が抑制されることになる。
【0056】
ところで、保護ブラケット7に所望の変形を生じさせるには、図6に示すように、縦壁部73を、車両に対する垂直面F1からフロアパネル1の傾斜部13の傾斜面13aに対する垂直面F2までの間の領域(範囲)Eに位置するように傾斜させるのが望ましい。
【0057】
なぜなら、燃料タンク3から変位荷重を受けた際に、縦壁部73が第一締結具5側(後方側)に変形しやすくなり、確実に第一締結具5を覆うことができるからである。また、この領域Eに縦壁部73を傾斜させることで、縦壁部73が接合フランジ15aを覆わないため、シーラー塗布も容易に行なうことができる。
【0058】
また、この図6に示すように、第一締結具5と燃料タンク3の位置関係は、第一締結具5の締結ボルトの締結方向の延長線P上に燃料タンク3が位置しないように、延長線Pとの間に「隙Q」を設けるように設定している。これは、第一締結具5のナットのネジ山が誤組付け等で無くなった場合に、修復工具(タップ工具)で修復するにあたり、修復工具によって燃料タンク3を破損させないようにするためである。
【0059】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の下部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネル1と、そのフロアパネル1下面に接合フランジ15aを介して接合される第二クロスメンバー15と、その第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに設けられ、シート取付けブラケット4を固定する第一締結具5と、その締結具に近接するフロアパネル1下方に配設される燃料タンク3と、第二クロスメンバー15に取付けられ、略下面視で、通常時には第一締結具5を覆わないように位置して、燃料タンク3変位時には燃料タンク3の接触により第一締結具5を覆うように変形する保護ブラケット7とを備えている。
【0060】
これにより、保護ブラケット7が通常時には第一締結具5を覆わないように位置して、燃料タンク3変位時、すなわち後突時等には、燃料タンク3の接触により第一締結具5を覆うように変形することになる。
このため、保護ブラケット7の変形が生じていない通常時には、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aが保護ブラケット7で覆われないため、シーラー塗布を行なう際に、保護ブラケット7が邪魔になることなく、シーラー塗布作業を円滑に行なうことができる。
また、保護ブラケット7の変形時には、保護ブラケット7が第一締結具5を覆うことになるため、燃料タンク3と第一締結具5、特に、フロアパネル1下方に露出した締結ボルト51の先端との干渉を防ぐことができ、燃料タンク3を保護することができる。
よって、フロアパネル1の下方に燃料タンク3を設置する自動車の下部車体構造において、シート取付けブラケット4を第二クロスメンバー15の接合フランジ15aも利用して締結固定する際に、袋ナット等を設定することなく、締結ボルト51の先端を露出させつつ、後突時の燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐことができる。
【0061】
なお、本実施形態では、シート取付けブラケット4で説明したが、車両部品を取付けるブラケットであれば、例えば、シートベルトを取付けるシートベルトブラケットや、カーゴフックを取付けるフックブラケット等であってもよい。
さらに、本実施形態では、締結具5,6を二組設定したもので説明したが、締結具が一つであるものであってもよい。
【0062】
また、この実施形態では、前記保護ブラケット7に、燃料タンク3の変位荷重を受ける横壁部72と、その横壁部72で荷重を受けた際に変形起点となる開口部78…とを備えている。
これにより、確実に、燃料タンク3の変位荷重を横壁部72で受けて、その変位荷重に応じた変形を、開口部78…で生じさせることができる。このため、保護ブラケット7に安定した変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット7の変形挙動を安定させることで、燃料タンク3の保護性能を、より確実に確保することができる。
【0063】
なお、燃料タンク3の変位荷重を受ける部分は、必ずしも平面部でなくてもよく、例えば、角部であってもよい。
【0064】
また、この実施形態では、第二クロスメンバー15の近傍のフロアパネル1に、シート取付けブラケット4を固定する第二締結具6を設置して、略下面視で通常時及び変形時に第二締結具6を覆うように保護ブラケット7を配設している。
これにより、変形時に第一締結具5を覆う保護ブラケット7が、フロアパネル1に設置した第二締結具6を、変形時のみならず通常時も覆うことになる。
このため、シーラー塗布が不要なフロアパネル1の第二締結具6については、通常時も含めて保護ブラケット7で覆われるため、複数の締結具5,6を一つの保護ブラケット7で覆う場合においても、より確実に二つの締結具5,6を覆うことができ、安定して燃料タンク3との干渉を防ぐことができる。また、複数の締結具5,6を、一つの保護ブラケット7で覆うため、個々の締結具5,6ごとに保護ブラケット7を設けなくてもよい。
よって、締結具5,6が複数であっても、一つの保護ブラケット7で安定的に燃料タンク3と締結具5,6との干渉を防ぐことができ、確実に燃料タンク3を保護することができる。
【0065】
また、この実施形態では、第一締結具5よりも第二締結具6を、燃料タンク3側に近接して設置している。
これにより、通常時においても保護ブラケット7で覆われる第二締結具6を燃料タンク3側に近接してさせているため、保護ブラケット7が十分に変形しない軽衝突の場合でも、近接する第二締結具6と燃料タンク3の干渉を防ぐことができる。一方、保護ブラケット7の変形が生じる大きな衝突の場合には、第二締結具6のみならず第一締結具5も覆うことで、第一締結具5及び第二締結具6と燃料タンク3の干渉を確実に防ぐことができる。
よって、設置位置の異なる第一締結具5と第二締結具6を、衝突度合によって変化する保護ブラケット7の形状変化を利用して、適切に覆うことができ、確実に燃料タンク3と締結具5,6の干渉を防ぐことができる。
【0066】
また、この実施形態では、保護ブラケット7が、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに取付けられる座部71と、車両に対する垂直面F1とフロアパネル1の傾斜面13aに対する垂直面F2の間の範囲Eにおいて、第一締結具5側に傾斜して延びる縦壁部73と、その縦壁部73の下端から第二締結具6を覆うように横方向に延びる横壁部72とを備えている。
これにより、座部71で第二クロスメンバー15の接合フランジ15aに取付けられるため、保護ブラケット7を第二クロスメンバー15にサブアッセンブリー状態(仮組み状態)にして、車体に組み付けることができる。
また、縦壁部73が第一締結具5側に傾斜して設置されることから、燃料タンク3が上方に変位してきた際に、縦壁部73が確実に第一締結具5側に変形して第一締結具5を覆うことができる。さらに、横壁部72が第二締結具6を覆うように横方向に延びることから、燃料タンク3が上方に変位した時にも、通常時にも、横壁部72で第二締結具6を覆うことができる。
このため、車体の組立作業性を悪化させることなく、保護ブラケット7を第一締結具5と第二締結具6の近傍の車体下部に配置することができる。また、縦壁部73と横壁部72がそれぞれ変形して上方に変位することで、燃料タンク3と第一締結具5及び第二締結具6との干渉を防ぐことができる。
よって、車両生産性を悪化させることなく、燃料タンク3の保護性能を確保することができる。
【0067】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の座部71と縦壁部73の間の稜線77に開口部78…を設けている。
これにより、後突時に燃料タンク3が上方へ変位して、保護ブラケット7に接触して荷重を付与した時に、開口部78…が起点となり、縦壁部73の第一締結具5側への変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケット7が第一締結具5側に変形して、燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
【0068】
また、この実施形態では、この開口部78…の近傍のフロアパネル1側(アンカーレインパネル16)にシーラーの流れを堰き止める堰ビード16aを設けている。
これにより、変形起点となる開口部78…を利用して、保護ブラケット7の背面側(フロアパネル1側)へシーラーを流し込むことができる。そして、その近傍にシーラーの流れを堰き止める堰ビード16aを設けたことで、シーラーを塗布した際に、シーラーが堰き止められて、保護ブラケット7の背面側にシーラーを充填できる。
よって、変形の起点となる開口部78…を、シーラーを塗布する際の開口として利用した時に、シーラーを保護ブラケット7の背面側に充填できるため、保護ブラケット7近傍のシール性能も向上することができる。
【0069】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の縦壁部73に、補強ビード76を設けている。
これにより、保護ブラケット7の変形時に縦壁部73自体の変形が抑えられ、保護ブラケット7に所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット7の燃料タンク保護性能をより高めることができる。
なお、この補強ビード76の代わりに、縦壁部73の板厚を肉厚にしたり、別の板材等を貼着することで、縦壁部73の剛性を高めるようにしてもよい。
【0070】
また、この実施形態では、保護ブラケット7の横壁部72の先端に、上方に延びる係合縁部75を備えている。
これにより、保護ブラケット7が変形した際に、第二締結具6に係合縁部75を係止させることができる。
よって、大きな変形が生じた場合でも、それ以上の変形が生じることなく、横壁部72が確実に第二締結具6を覆うことになり、保護ブラケット7の燃料タンク3保護性能をさらに高めることができる。
【0071】
次に、第二実施形態について、図7、図8で説明する。図7は第二実施形態の保護ブラケット107の変形状態を説明する縦断面図、図8は保護ブラケット107の斜視図である。なお、第一実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
この実施形態では、保護ブラケット107を、フロアパネル1側(アンカーレインパネル16)に固定される座部171と、下方に延びる縦壁部173と、その下端から横方向に延びる横壁部172と、その他端から上方に傾斜して延びる折り返し部174と、その上端から後方側に傾斜して延びる折曲部175とで構成している。このうち、縦壁部173と折り返し部174で略V字状を形成するように設定して、下方から燃料タンク3から変位荷重を受けた場合には、このV字の上端間隔が広がるように変形することで、第一締結具5を覆うように構成したものである。
【0073】
前述の実施形態と同様に、シート取付けブラケット4は、第一締結具5と第二締結具6によりフロアパネル1に締結固定されており、このうち、第一締結具5は、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aも利用して締結剛性を高めている。よって、前述したように、第二クロスメンバー15の接合フランジ15aにはシーラーを塗布しなければならないため、接合フランジ15aと第一締結具5は、通常時においては、略下面視で保護ブラケット107で覆うことができない。
【0074】
そこで、本実施形態では、通常時には、保護ブラケット107の折曲部175が第二締結具6のみを覆うように設定しており、後突時等の保護ブラケット107変形時には、第一締結具5まで覆うようにしている。
【0075】
具体的には、図7に示すように、縦壁部173を、傾斜部13の傾斜面13aの垂直面F3から所定角度α(約10°)程、締結具5,6側に傾斜させておくことで、燃料タンク3から荷重を受けた場合に、確実に締結具5,6側に倒れるように設定しておき、また、折曲部175及び折り返し部174を第二締結具6の締結ボルト61の先端に当接しながらスライド変形するように設定しておくことで、変形時に折曲部175の先端が第二締結具6を覆うようにしている(一点鎖線の変形状態参照)。
【0076】
これにより、前述の第一実施形態と同様に、保護ブラケット107で、第二締結具6のみならず、第一締結具5も覆うように構成することができる。
【0077】
本実施形態の保護ブラケット107は、図8に示すように、所望の変形が生じるように、縦壁部173と折り返し部174にそれぞれ補強ビード176,177を設けると共に、座部171と縦壁部173の間の稜線178、縦壁部173と横壁部172の間の稜線179、そして横壁部72と折り返し部174の稜線180にそれぞれ切欠部181,182,183を設けている。
【0078】
これにより、縦壁部173と折り返し部174では上下方向の剛性が高くなり、各稜線178,179,180では、剛性が低下するため、確実に所望の変形が生じることになり、より確実に縦壁部173と折り返し部174の変位が生じて、締結具5,6を覆うことができる。
【0079】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の下部車体構造は、保護ブラケット107が、第一締結具5及び第二締結具6を挟んで第二クロスメンバー15から離間したフロアパネル1側(アンカーレインパネル16)に取付けられる座部171と、その座部171から第一締結具5及び第二締結具6側の下方に傾斜して延びる縦壁部173と、その縦壁部173の下端から横方向に延びる横壁部172と、その他端から上方に折り返されて、第二締結具6に近接する位置まで延びる折り返し部174と、その折り返し部174の上端から第二締結具6が取付けられるフロアパネル1の傾斜面13aに対して略平行になるように屈曲して延びて、第二締結具6のみを覆う折曲部175とを備えている。
これにより、座部171が直接フロアパネル1側に取付けられるため、座部71が第二クロスメンバー15に取付けられる第一実施形態よりも、締結具5,6との位置関係が一定となり、変形時に確実に締結具5,6を覆うことができる。
また、燃料タンク3が上方へ変位してきた際には、縦壁部173と折り返し部174で略V字状を形成した保護ブラケット107が、そのV字の上端間隔を広げるように変形して、折曲部175が、第二締結具6の下端をスライド移動して、第一締結具5を覆うように変形する。
このため、保護ブラケット107と締結具との間の位置関係を確実に規定して、保護ブラケット107を第一締結具5と第二締結具6の近傍に配置できる。また、縦壁部173と係合縁部75がそれぞれ変形して変位することで、折曲部175で第二締結具6だけでなく第一締結具5も覆うことができる。
よって、保護ブラケット107の変形時に、確実に第一締結具5と第二締結具6を覆うことができ、保護ブラケット107の燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
なお、本実施形態では、横壁部172を設けたが、必ずしも横壁部172を設けなくても、縦壁部173と折り返し部174の下端部で、燃料タンク3の上方変位の荷重を受けるように構成してもよい。
【0080】
また、この実施形態では、保護ブラケット107の座部171と縦壁部173の間の稜線178及び縦壁部173と折り返し部174の間の稜線179,180に、切欠部181,182,183を設けている。
【0081】
これにより、後突時等に燃料タンク3が上方へ変位して、保護ブラケット107に接触して荷重を付与した場合に、これらの切欠部181,182,183が起点となり、縦壁部173と折り返し部174の変位が促進されることになる。
よって、確実に保護ブラケット107の折曲部175が第一締結具5側に変位して、燃料タンク3の保護性能を高めることができる。
【0082】
また、この実施形態では、保護ブラケット107の縦壁部173及び折り返し部174に、補強ビード176,177を設けている。
これにより、保護ブラケット107変形時に縦壁部173自体及び折り返し部174自体の変形が抑えられ、保護ブラケット107に所望の変形挙動を生じさせることができる。
よって、保護ブラケット107の燃料タンク3保護機能をより高めることができる。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0083】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のフレーム部材は、実施形態の第二クロスメンバー15に対応し、
以下同様に、
取付けブラケットは、シート取付けブラケット4に対応し、
第一の締結具は、第一締結具5に対応し、
第二の締結具は、第二締結具6に対応し、
タンク受け部は、横壁部72,172に対応し、
変形起点部は、開口部77、切欠部181,182,183に対応し、
脆弱部は、開口部77、切欠部181,182,183に対応し、
補強部は、補強ビード76,176,177に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の下部車体構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第一実施形態の自動車の下部車体構造の縦断面図。
【図2】燃料タンクを除いた状態における自動車の下部車体構造の詳細底面図。
【図3】保護ブラケット近傍の詳細縦断面図。
【図4】保護ブラケットの斜視図。
【図5】フロアパネルの傾斜部と直交する下方からみた保護ブラケット近傍の車体構造。
【図6】保護ブラケットの変形状態を説明する縦断面図。
【図7】第二実施形態の保護ブラケットの変形状態を説明する縦断面図。
【図8】第二実施形態の保護ブラケットの斜視図。
【符号の説明】
【0085】
1…フロアパネル
3…燃料タンク
4…シート取付けブラケット
5…第一締結具
6…第二締結具
7…保護ブラケット
15…第二クロスメンバー
15a…接合フランジ
107…保護ブラケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の下部車体構造であって、
車体の床面を形成するフロアパネルと、
該フロアパネルとの間で閉断面を形成するようにフロアパネル下面に接合フランジを介して接合されるフレーム部材と、
該フレーム部材の接合フランジに設けられ、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットのうちボルトの先端がフロアパネル下方に露出する締結具と、
該締結具に近接するフロアパネル下方に配設される燃料タンクと、
前記フロアパネル若しくは前記フレーム部材のいずれか一方に取付けられ、略下面視で通常時には前記締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時には燃料タンクの接触により該締結具を覆うように変形する保護ブラケットとを備えた
自動車の下部車体構造。
【請求項2】
前記保護ブラケットに、燃料タンクの変位荷重を受けるタンク受け部と、
該タンク受け部で荷重を受けた際に変形起点となる変形起点部とを備えた
請求項1記載の自動車の下部車体構造。
【請求項3】
前記フレーム部材の近傍のフロアパネルに、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットからなる第二の締結具を設置して、
略下面視で通常時及び変形時に第二の締結具を覆うように前記保護ブラケットを配設した
請求項1又は2記載の自動車の下部車体構造。
【請求項4】
前記フレーム部材の接合フランジに設けた締結具を第一の締結具とし、
該第一の締結具よりも前記第二の締結具を、燃料タンク側に近接して設置した
請求項3記載の自動車の下部車体構造。
【請求項5】
前記車両部品の取付けブラケットが、フロアパネルの傾斜面に取付けられるものであり、
前記保護ブラケットが、
前記フレーム部材の接合フランジに取付けられる座部と、
車両に対する垂直面と前記フロアパネルの傾斜面に対する垂直面の間の範囲で、前記座部から第一の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、
該縦壁部の下端から前記第二の締結具を覆うように横方向に延びる横壁部とを備えた
請求項4記載の自動車の下部車体構造。
【請求項6】
前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間に、脆弱部を設けた
請求項5記載の自動車の下部車体構造。
【請求項7】
前記脆弱部が開口部又は切欠部であり、
該開口部又は切欠部の近傍のフロアパネル側にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けた
請求項6記載の自動車の下部車体構造。
【請求項8】
前記保護ブラケットの縦壁部に、補強部を設けた
請求項5記載の自動車の下部車体構造。
【請求項9】
前記保護ブラケットの横壁部の先端に、上方に延びる係合縁部を備えた
請求項5〜8いずれか記載の自動車の下部車体構造。
【請求項10】
前記保護ブラケットが、
前記第一の締結具及び第二の締結具を挟んで前記フレーム部材から離間したフロアパネルに取付けられる座部と、
該座部から第一の締結具及び第二の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、
該縦壁部の下端部近傍から上方に折り返されて、前記第二の締結具に近接する位置まで延びる折り返し部と、
該折り返し部の上端から第二の締結具が取付けられるフロアパネル面に対して略平行となるように屈曲して延び、第二の締結具のみを覆う折曲部とを備えた
請求項3記載の自動車の下部車体構造。
【請求項11】
前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間、及び縦壁部と折り返し部の間に、脆弱部を設けた
請求項10記載の自動車の下部車体構造。
【請求項12】
前記保護ブラケットの縦壁部、及び折り返し部に、補強部を設けた
請求項11記載の自動車の下部車体構造。
【請求項1】
自動車の下部車体構造であって、
車体の床面を形成するフロアパネルと、
該フロアパネルとの間で閉断面を形成するようにフロアパネル下面に接合フランジを介して接合されるフレーム部材と、
該フレーム部材の接合フランジに設けられ、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットのうちボルトの先端がフロアパネル下方に露出する締結具と、
該締結具に近接するフロアパネル下方に配設される燃料タンクと、
前記フロアパネル若しくは前記フレーム部材のいずれか一方に取付けられ、略下面視で通常時には前記締結具を覆わないように位置して、燃料タンク変位時には燃料タンクの接触により該締結具を覆うように変形する保護ブラケットとを備えた
自動車の下部車体構造。
【請求項2】
前記保護ブラケットに、燃料タンクの変位荷重を受けるタンク受け部と、
該タンク受け部で荷重を受けた際に変形起点となる変形起点部とを備えた
請求項1記載の自動車の下部車体構造。
【請求項3】
前記フレーム部材の近傍のフロアパネルに、車両部品の取付けブラケットを固定するボルト・ナットからなる第二の締結具を設置して、
略下面視で通常時及び変形時に第二の締結具を覆うように前記保護ブラケットを配設した
請求項1又は2記載の自動車の下部車体構造。
【請求項4】
前記フレーム部材の接合フランジに設けた締結具を第一の締結具とし、
該第一の締結具よりも前記第二の締結具を、燃料タンク側に近接して設置した
請求項3記載の自動車の下部車体構造。
【請求項5】
前記車両部品の取付けブラケットが、フロアパネルの傾斜面に取付けられるものであり、
前記保護ブラケットが、
前記フレーム部材の接合フランジに取付けられる座部と、
車両に対する垂直面と前記フロアパネルの傾斜面に対する垂直面の間の範囲で、前記座部から第一の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、
該縦壁部の下端から前記第二の締結具を覆うように横方向に延びる横壁部とを備えた
請求項4記載の自動車の下部車体構造。
【請求項6】
前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間に、脆弱部を設けた
請求項5記載の自動車の下部車体構造。
【請求項7】
前記脆弱部が開口部又は切欠部であり、
該開口部又は切欠部の近傍のフロアパネル側にシール剤の流れを堰き止める堰部を設けた
請求項6記載の自動車の下部車体構造。
【請求項8】
前記保護ブラケットの縦壁部に、補強部を設けた
請求項5記載の自動車の下部車体構造。
【請求項9】
前記保護ブラケットの横壁部の先端に、上方に延びる係合縁部を備えた
請求項5〜8いずれか記載の自動車の下部車体構造。
【請求項10】
前記保護ブラケットが、
前記第一の締結具及び第二の締結具を挟んで前記フレーム部材から離間したフロアパネルに取付けられる座部と、
該座部から第一の締結具及び第二の締結具側の下方に傾斜して延びる縦壁部と、
該縦壁部の下端部近傍から上方に折り返されて、前記第二の締結具に近接する位置まで延びる折り返し部と、
該折り返し部の上端から第二の締結具が取付けられるフロアパネル面に対して略平行となるように屈曲して延び、第二の締結具のみを覆う折曲部とを備えた
請求項3記載の自動車の下部車体構造。
【請求項11】
前記保護ブラケットの座部と縦壁部の間、及び縦壁部と折り返し部の間に、脆弱部を設けた
請求項10記載の自動車の下部車体構造。
【請求項12】
前記保護ブラケットの縦壁部、及び折り返し部に、補強部を設けた
請求項11記載の自動車の下部車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−331624(P2007−331624A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166849(P2006−166849)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]