説明

自動車用エアーダクトの耐油性と脱型性を改善する方法

【課題】オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)で構成された自動車用エアーホースの耐油性及び射出成形における脱型性を改善する方法並びに脱型性及び耐油性に優れた自動車用エアーホースを提供する。
【解決手段】オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対して、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されたグラフト共重合体(B1)と、脂肪酸アミド(B2)とを含むグラフト共重合体組成物(B)を配合して射出成形することにより、自動車用エアーホースの耐油性と脱型性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下「TPO」とも称する)で構成された自動車用エアーホース(エアーダクト)、並びにこのエアーホースの耐油性と射出成形における脱型性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関に空気を供給するダクトの一部には、ゴム製や熱可塑性エラストマー製のエアーホースが用いられており、近年では、材料のリサイクル性や軽量性に優れる熱可塑性エラストマー(特にTPO)製のエアーホースの使用が望まれている。このような自動車用エアーホースは、通常、屈曲したり、アンダーカット部を有している。しかし、熱可塑性エラストマーは、一般にゴムと比べると強度や伸びなどの物性が劣る傾向にあるため、脱型性が低く、射出成形した成形品を金型から脱型する際に成形品が伸びたり、破れる問題点が知られている。
【0003】
このような課題を解決する技術として、例えば、国際公開WO2005/16626号公報(特許文献1)には、金型のコア型を軸方向に分割して段階的にコア型を脱型することにより、TPO製エアーホースの脱型性を高める方法が開示されている。しかし、この方法でも、エアーホースの屈曲部や蛇腹形状部のアンダーカットの程度によっては、TPO製エアーホースの脱型が困難となる場合があり、脱型性を更に高めることが望まれている。
【0004】
さらに、エアーホースの射出成形において、脱型性を向上させるために、金型に離型剤を吹き付ける方法などにより、金型と成形品との間の離型性を向上させる方法も行われている。しかし、この方法でも、十分な脱型性を持たせるには至らない。
【0005】
一方、自動車用エアーホースは、その使用箇所によっては、ブローバイガスに含まれるエンジンオイルがエアーホース内部に付着したり、交換時に漏れたエンジンオイルが付着し易い。しかし、TPOは、耐油性が低く、エンジンオイルを吸収して膨潤し、剛性や強度が低下し易いため、エアーホースに適用できる場合が限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2005/16626号公報(請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)で構成された自動車用エアーホースの耐油性及び射出成形における脱型性を改善する方法並びに脱型性及び耐油性に優れた自動車用エアーホースを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、TPOで構成され、かつアンダーカット部を有する自動車用エアーホースの耐油性及び射出成形におけるコア型との脱型性を改善する方法並びに脱型性及び耐油性に優れた自動車用エアーホースを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、高い可撓性を有するとともに、耐擦傷性及び耐引裂性にも優れる自動車用エアーホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、TPOに特定のグラフト共重合体及び脂肪酸アミドで構成された組成物を配合することにより、自動車用エアーホースの耐油性及び射出成形における脱型性を改善できることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の方法は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対して、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されたグラフト共重合体(B1)と、脂肪酸アミド(B2)とを含むグラフト共重合体組成物(B)を配合して射出成形することにより、自動車用エアーホースの耐油性と脱型性を改善する。前記グラフト共重合体(B1)は、連続相とこの連続相中に粒状に分散した分散相とで形成され、前記分散相の平均粒径が0.001〜10μm程度であってもよい。前記グラフト共重合体(B1)は、プロピレン系ブロック共重合体で構成された幹セグメントと、窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントとで形成されていてもよい。前記脂肪酸アミド(B2)は、炭素数10〜25の脂肪酸アミドであってもよい。前記グラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)との割合(重量比)は、前者/後者=50/50〜99/1程度であってもよい。本発明の方法は、屈曲部及び/又はアンダーカット部(蛇腹部など)を有するホースの射出成形におけるコア型との脱型性も改善できる方法であってもよい。本発明の方法において、グラフト共重合体組成物(B)をオレフィン系熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して1〜50重量部配合してもよい。
【0012】
本発明には、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)及びグラフト共重合体組成物(B)で構成されたホースであって、前記グラフト共重合体組成物(B)が、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されたグラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)とを含む自動車用エアーホースも含まれる。
【0013】
なお、本明細書において、「アンダーカット」とは、通常、金型脱型時に金型の移動軌跡と成形品とがオーバーラップする領域が生じ、成形品を弾性変形させることなく脱型できなくなる部位を意味し、蛇腹部などがアンダーカット部に相当する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、特定のグラフト共重合体と脂肪酸アミドとを組み合わせた組成物を配合するため、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)で構成されたエアーホースの耐油性と射出成形における脱型性を改善できる。特に、ホースがアンダーカット部を有する自動車用エアーホースであっても、前記脱型性(特にコア型との脱型性)を改善できる。さらに、得られたホースは、高い可撓性(弾性変形性)を有するとともに、耐擦傷性及び耐引裂性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明が適用される自動車用エアーホースの一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、図1の自動車用エアーホースを成形するための射出成形型の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対して、グラフト共重合体組成物(B)を配合して射出成形することにより、自動車用エアーホースの耐油性と脱型性を改善できる。
【0017】
(自動車用エアーホース)
本発明の方法は、TPOで構成され、かつ射出成形で得られるホース、特に、脱型が困難な屈曲部やアンダーカット部(蛇腹部など)を有するホースに有用である。このようなホースの一例として、自動車用エアーホースが例示でき、図1は、本発明が適用される自動車用エアーホースの一例を示す概略断面図である。
【0018】
中空円筒形状のエアーホース1は、長さ方向(ホースの軸芯方向)の略中央域を占める蛇腹部2(アンダーカット部)と、蛇腹部2の両端部から延出する非蛇腹部3a,3bとで構成されている。前記蛇腹部2は、径大の複数の山部2aと径小の複数の谷部2bとが軸芯方向に沿って交互に形成された構造を有している。一方、非蛇腹部3a,3bは、それぞれ、略平滑な表面を有するとともに、長さ方向に対して屈曲した構造を有している。さらに、非蛇腹部3a,3bには、それぞれ、ホースの開口部(端部)近辺の外周面において、補強リブ4a,4bが円周方向に沿って一体成形されている。このエアーホース1は、ホースの両開口部が、それぞれ、締付具(図示せず)によりエンジン本体又はエアクリーナ(いずれも図示せず)に接続固定され、エアーダクトとして使用される。
【0019】
このような自動車用エアーホース1の典型的な寸法は、ホース長さが50〜500mm(好ましくは100〜300mm)程度、ホース内径が20〜100mm(好ましくは30〜80mm)程度、蛇腹部の肉厚が0.5〜3mm(好ましくは0.8〜2mm)程度、非蛇腹部5の肉厚が1.5〜7mm(好ましくは2〜5mm)程度である。さらに、蛇腹部2の山高さ(山部3と谷部4との間の径方向の寸法)は、例えば、3〜15mm、好ましくは5〜12mm程度である。
【0020】
このエアーホース1は、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を成形材料として射出成形して一体に成形され、JIS K6301(スプリング式A型)に準拠した硬度がHs(JIS A)50〜95(特に55〜90)程度を有するエラストマーが使用される。
【0021】
図2は、図1のエアーホース1を射出成形するための射出成形型10の概略断面図を示す。成形型10は、内部にエアーホース1の外形状に対応する空隙部(製品形状に一致した空隙部)であるキャビティー14を有する金型であり、エアーホース1の外周面と接触し、ホースの外周面形状を形成するためのキャビティー型11と、エアーホースの内周面と接触し、ホースの内周面形状を形成するためのコア型12とで構成されている。
【0022】
キャビティー型11は、上下一対(又は左右一対)に等分割されたキャビティー型11aとキャビティー型11bとで開閉可能に構成された構造を有している。キャビティー型11aとキャビティー型11bとが閉じ状態では、内部にエアーホース1の外周面形状に対応する形状の空孔を有する中空形状であり、エアーホースを成形後、キャビティー型11を分割して型開きされる(図示せず)。
【0023】
コア型12は、エアーホース1の内周面形状に対応する形状を含む円柱形状であり、軸方向において、短尺のコア型12aと長尺のコア型12bとに分割されており、両者は隣接する端面同士が突き合される当接面13を形成している。さらに、短尺のコア型12aは、当接面13側においてエアーホースの非蛇腹部を形成するための表面平滑な側部を有し、長尺のコア型12bは、中央部から当接面13寄りの側部においてエアーホースの蛇腹部を形成するための表面凹凸構造を有し、当接面13側とは反対側の端部にエアーホースとは接触しない台部が形成されている。
【0024】
この射出成形型を用いた成形方法は、キャビティー14に溶融状態のTPOを射出し、冷却・固化した後、型開きして成形品であるエアーホース1を取り出す慣用の方法を利用できるが、このような分割された金型を利用した方法の詳細については、前述の国際公開WO2005/16626号公報(特許文献1)に記載された方法を利用できる。
【0025】
特に、自動車用エアーホースの場合、屈曲部やアンダーカット部分(蛇腹形状のために成形品を弾性変形・拡径しなければ脱型できない部分)が存在するため、脱型が困難である。
【0026】
具体的には、キャビティー14に溶融状態のTPOを射出し、冷却・固化した後に、まず、一方のキャビティー型11b(又は11a)を型開きした状態で、短尺のコア型12bを引き抜いた後、他方のキャビティー型11aを型開きする。この工程では、キャビティー型11の型開きは、上下一対に分割されたキャビティー型11aとキャビティー型11bとを、ぞれぞれ、ホースの長さ方向に略垂直な方向に移動するため、容易に脱型が可能である。一方、短尺コア型12aの引き抜きについても、ホースの長さ方向に引き抜かれ、その方向には屈曲部やアンダーカット部がないため、比較的容易に脱型が可能である。
【0027】
次に、長尺コア型12bについては、屈曲部及び蛇腹部を有するため、短尺コア型12aと同様の引き抜き方法では脱型が困難であり、通常、抜き取り治具を利用する方法が利用される。すなわち、この方法では、短尺コア型12aを引き抜いた側のホース内に、略円筒状の抜き取り治具を挿入し、長尺コア型12bと成形体の内周面との間に空気又は圧縮空気を吹き込んで成形体を膨張させる。さらに、膨張した成形体と長尺コア型12bとの間には隙間が形成され、アンダーカット状態が解除されるため、この状態で長尺コア型12bを引き抜くことにより、脱型が完了する。
【0028】
しかし、TPOでは、滑性や可撓性が充分でなく、抜き取り治具を用いる方法においても、膨張による成形体の変形や損傷、屈曲部や蛇腹部における長尺コア型12bと成形体との接触による成形体の損傷が発生し易い。これに対して、本発明の方法では、後述するグラフト共重合体組成物(B)をTPOに配合することにより、成形材料の離型性(滑性)が向上するとともに、可撓性を有しながら、耐引裂性などの強度も向上するため、アンダーカット部の脱型を簡便かつ円滑に行うことができる。特に、本発明の方法は、前記抜き取り治具を用いる脱型方法だけでなく、抜き取り治具を用いない脱型方法においても有効である。
【0029】
(A)オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)
本発明において、前記エアーホースに使用されるTPOとしては、前述の硬度を有する慣用のTPOであれば特に限定されず使用でき、例えば、ハードセグメントであるオレフィン系重合体とソフトセグメントであるゴム成分とを含むエラストマーなどが使用できる。このようなエラストマーは、両成分の共重合体であってもよく、ブレンド物であってもよい。
【0030】
オレフィン系重合体には、炭素数2以上のα−オレフィンの単独又は共重合体が含まれる。このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのC2−10オレフィンなどが挙げられる。これらのオレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのオレフィンのうち、エチレン、プロピレンなどのα−C2−4オレフィンが汎用される。
【0031】
好ましいオレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレンやエチレン−プロピレン共重合体などのエチレン系重合体、プロピレン系重合体などが挙げられる。さらに、プロピレン系重合体を含有するグラフト共重合体組成物(B)との相溶性や強度などの点から、プロピレン系重合体であってもよい。プロピレン系重合体としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体などのプロピレンと炭素数が2又は4以上のα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
【0032】
ゴム成分には、オレフィン系ゴム、ジエン系ゴム(ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴムなど)、アクリル系ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、天然ゴムなどが含まれる。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのゴム成分のうち、オレフィン系重合体との相溶性の点から、オレフィン系ゴムが好ましい。
【0033】
オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン−プロピレン系共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、エチレン−ブテン系共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体ゴム、プロピレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体ゴム、ポリイソブチレンゴムなどが挙げられる。非共役ジエンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。これらのオレフィン系ゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのオレフィン系ゴムのうち、エチレン−プロピレン系共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムなどが汎用される。
【0034】
前記オレフィン系重合体と、ゴム成分との割合(重量比)は、例えば、オレフィン系重合体/ゴム成分=10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30程度である。
【0035】
TPOには、前記オレフィン系成分の特性を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂など)、可塑剤(非芳香族系の鉱物油または低分子量の合成軟化剤など)などが含まれていてもよい。
【0036】
TPOの市販品としては、例えば、商品名「ミラストマー」(三井化学(株)製)、商品名「サントプレーン」(エー・イー・エスジャパン(株)製)、商品名「住友TPE」(住友化学(株)製)、商品名「キャタロイ」(サンアロマー(株)製)などが挙げられる。
【0037】
(B)グラフト共重合体組成物
本発明では、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対して、グラフト共重合体組成物(B)を配合することにより、自動車用エアーホースの射出成形における脱型性及び耐油性を改善でき、このような方法により脱型性及び耐油性が改善された自動車用エアーホースは、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)とグラフト共重合体組成物(B)とで構成されている。さらに、グラフト共重合体組成物(B)は、グラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)とを含む。
【0038】
(B1)グラフト共重合体
グラフト共重合体(B1)は、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されている。
【0039】
プロピレン系重合体には、プロピレンの単独又は共重合体が含まれる。共重合体における共重合性単量体としては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどのプロピレン以外のα−C2−16オレフィン、環状オレフィン類(ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセンなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエンなど)、後述するビニル系重合体におけるビニル系単量体などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの共重合性単量体のうち、α−オレフィン、特に、エチレンやブテンなどのC2−10オレフィン(特にα−C2−6オレフィン)が好ましい。
【0040】
プロピレン系重合体としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン三元共重合体などが挙げられる。共重合体の形態は、ランダム共重合であってもよいが、ブロック共重合が好ましい。
【0041】
プロピレン系重合体は、アタクチック重合体であってもよく、アイソタクチック重合体、シンジオタクチック重合体、メタロセン触媒を用いて得られる重合体などの立体規則性を有する構造であってもよい。これらのうち、簡便性などの点から、アイソタクチック構造を有するプロピレン系重合体が好ましい。
【0042】
共重合体において、プロピレンと共重合性単量体(特にα−オレフィン)との割合(モル比)は、例えば、プロピレン/共重合性単量体=30/70〜99/1、好ましくは40/60〜90/10、さらに好ましくは50/50〜80/20(特に55/45〜70/30)程度である。本発明では、グラフト共重合体の合成の容易性などの点から、このような共重合割合を有するブロック共重合体が特に好ましい。
【0043】
本発明では、前記幹セグメントであるプロピレン系重合体に対して、少なくとも窒素含有ビニル系単量体を含むビニル系単量体をグラフト重合して、窒素含有ビニル系重合体を枝セグメントとすることにより、TPO及び脂肪酸アミドの両成分との親和性を向上できるため、ホース表面における脂肪酸アミドのブリードアウトを抑制しつつ、表面に滑性を付与して脱型性も向上できる。
【0044】
ビニル系単量体には、窒素含有ビニル系単量体の他、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、クロトン酸エステル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、ビニルシラン系単量体などが含まれる。
【0045】
窒素含有ビニル系単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体、アミノ基含有ビニル系単量体、ビニルアミド系単量体、窒素含有複素環を有するビニル系単量体などが挙げられる。
【0046】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、t−ブチルスチレンなど)、α−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレンなど)、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのC1−20アルキル(メタ)アクリレートなど]、ヒドロキシ基含有(メタ)アクレート[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートなど]、アルコキシ(メタ)アクリレート[エトキシ(メタ)アクリレートなど]、アリール(メタ)アクリレート[フェニル(メタ)アクリレートなど]、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0048】
クロトン酸エステル系単量体としては、例えば、クロトン酸アルキルエステル(クロトン酸メチル、クロトン酸エチルなどのクロトン酸C1−20アルキルエステルなど)、クロトン酸ヒドロキシアルキルエステル(クロトン酸ヒドロキシエチル、クロトン酸ヒドロキシプロピルなど)などが挙げられる。
【0049】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニルなどの飽和又は不飽和C4−24脂肪酸ビニルなどが挙げられる。
【0050】
ビニルエーテル系単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのC1−10アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸などが挙げられる。
【0052】
ビニルシラン系単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0053】
これらのビニル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できるが、これらのビニル系単量体のうち、少なくとも窒素含有ビニル系単量体を含む必要がある。本発明では、窒素含有ビニル系単量体が含まれることにより、脂肪酸アミド(B2)との親和性が向上し、脂肪酸アミド(B2)のブリードアウトも抑制できる。
【0054】
前記窒素含有ビニル系単量体のうち、シアン化ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0055】
アミノ基含有ビニル系単量体としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのN,N−ジアルキルアミノC2−4アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0056】
ビニルアミド系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド類{例えば、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN−C1−10アルキル(メタ)アクリルアミドなど]、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのN,N−ジC1−10アルキル(メタ)アクリルアミドなど]、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジC1−10アルキルアミノC2−4アルキル(メタ)アクリルアミドなど]、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド[例えば、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのN−C1−4アルコキシC1−10アルキル(メタ)アクリルアミドなど]、N−(ジアルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド[例えば、N−(2−ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミドなどのN−(ジC1−10アルキルアミノC2−4アルキル)(メタ)アクリルアミドなど]など}、不飽和ジカルボン酸アミド類(例えば、マレイン酸アミドなど)などが挙げられる。
【0057】
窒素含有複素環を有するビニル系単量体としては、例えば、窒素含有複素環を有する(メタ)アクリレート{例えば、異項原子として窒素のみを含む4〜10員複素環を有する(メタ)アクリレート[例えば、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピロール、N−(メタ)アクリロイルイミダゾール、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクリロイルヘキサメチレンイミンなどの窒素含有5〜8員複素環を有する(メタ)アクリレートなど]、異項原子として窒素及び酸素を含む4〜10員複素環を有する(メタ)アクリレート[例えば、N−(メタ)アクリロイルモルフォリンなどの窒素及び酸素含有5〜8員複素環を有する(メタ)アクリレートなど]など}、ビニル基を有する窒素含有複素環化合物[例えば、ビニル基を有する窒素含有4〜10員複素環化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、ビニルピペリジン、ビニルピリジンなどのビニル基を有する窒素含有5〜8員複素環化合物など)、ビニル基を有する窒素含有5〜12員縮合複素環化合物(例えば、N−ビニルフタルイミド、ビニルキノリンなどのビニル基を有する6〜10員縮合複素環化合物など)など]、不飽和ジカルボン酸類(例えば、マレイミドなど)などが挙げられる。
【0058】
これらの窒素含有ビニル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
さらに、窒素含有ビニル系単量体は、他のビニル系単量体(特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体)と組み合わせてもよく、両者の割合(モル比)は、窒素含有ビニル系単量体/他のビニル系単量体=100/0〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、90/10〜5/95、好ましくは70/30〜10/90、さらに好ましくは50/50〜20/80(特に55/45〜30/70)程度である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体を窒素含有ビニル系単量体と組み合わせると、成形性や剛性と耐油性とのバランスに優れたグラフト共重合体を得ることができる。
【0060】
このような幹セグメントと枝セグメントとで形成されたグラフト共重合体(B1)は、一方のセグメントが、マトリックスである他方のセグメント中に微細な粒子を形成する多相構造を形成していてもよい。幹セグメント及び枝セグメントのうち、いずれのセグメントがマトリックス(連続相)を形成してもよい。
【0061】
分散相の形状は、特に限定されず、(真)球状、楕円体状、繊維状、不定形状などであってもよいが、(真)球状又は楕円体状が好ましい。分散相の平均粒径は、例えば、0.001〜10μm、好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.05〜3μm(特に0.1〜1μm)程度である。分散相の粒径がこの範囲にない場合は、TPOとのブレンドにおける分散性が低下し、外観やTPOの剛性が低下する傾向がある。
【0062】
グラフト共重合体(B1)における幹セグメントと枝セグメントとの割合(重量比)は、幹セグメント/枝セグメント=99/1〜1/99の範囲から選択でき、例えば、幹セグメント/枝セグメント=99/1〜5/95、好ましくは95/5〜20/80、さらに好ましくは90/10〜30/70(特に80/20〜50/50)程度である。幹セグメントが少なすぎると、TPOへのグラフト共重合体の分散性が低下し、成形体の外観が低下する傾向がある。逆に、幹セグメントが多すぎると、TPOに対する改良効果が不十分となる傾向がある。
【0063】
グラフト共重合体(B1)のメルトフローレート(MFR)は、例えば、0.01〜500g/10分、好ましくは0.1〜300g/10分、さらに好ましくは1〜200g/10分(特に5〜100g/10分)程度である。MFRがこの範囲を外れると、TPOとの相溶性が低下したり、成形体の外観が悪化する傾向がある。なお、MFRは、JIS K 7210に準拠して、JIS K 7210の付属書A表1の条件M[試験温度230℃、公称荷重2.16kgf(21.18N)]で測定できる。
【0064】
(B1)グラフト共重合体の製造方法
グラフト共重合体(B1)の製造方法としては、一般にグラフト化法として知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法などの方法を利用できるが、具体的には、グラフト化率が高く、熱による二次凝集を抑制できる点、簡便な点などから、下記の方法が好ましい。
【0065】
すなわち、本発明では、溶媒中にプロピレン系重合体を分散させた分散液に、少なくとも窒素含有ビニル系単量体を含むビニル系単量体、ラジカル重合有機過酸化物及びラジカル重合開始剤を含む溶液を添加し、前記ビニル系単量体、ラジカル重合有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をプロピレン系重合体粒子中に含浸させ、プロピレン系重合体粒子中で前記ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを共重合した後、溶融、混合することによりグラフト共重合体が得られる。
【0066】
ビニル系単量体の重合温度は、ビニル系単量体及びラジカル重合開始剤の種類に応じて選択でき、特に限定されないが、例えば、50〜100℃、好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは65〜80℃(特に70〜75℃)程度である。
【0067】
本発明では、重合に先立って、ビニル系単量体及びラジカル重合開始剤をプロピレン系重合体の粒子中に含浸させるために、ラジカル重合が開始されず、かつラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件、例えば、40〜70℃、好ましくは50〜65℃、さらに好ましくは60〜65℃程度で懸濁液を撹拌しながら加熱してもよい。含浸のための加熱時間は、例えば、30分〜6時間、好ましくは1〜5時間程度である。
【0068】
さらに、ビニル系単量体及びラジカル重合開始剤の含浸率が添加量の20重量%以上(特に30重量%以上)に達した時点で、懸濁液の温度を、例えば、50〜80℃、好ましくは60〜75℃、さらに好ましくは70〜75℃程度に上昇させ、ビニル系単量体をプロピレン系重合体粒子中で共重合させることによりグラフト化前駆体を得てもよい。加熱時間は、例えば、1〜10時間、好ましくは3〜8時間程度である。
【0069】
さらに、得られたグラフト化前駆体を100〜300℃(特に120〜250℃)程度で加熱して溶融混合することにより、プロピレン系重合体を幹セグメントとし、ビニル系重合体を枝セグメントとするグラフト共重合体が得られる。グラフト共重合体のグラフト率は、例えば、5〜100%、好ましくは10〜100%、さらに好ましくは20〜100%程度であってもよい。前駆体を溶融混合する方法としては、慣用の一軸又は二軸押出機などを用いた押出混練法やロール混練法などが利用できる。
【0070】
溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば、水性溶媒、疎水性溶媒のいずれでも使用できるが、簡便性などの点から、例えば、水、低級アルコール(例えば、エタノールやイソプロパノールなど)、ケトン(例えば、アセトンなど)などの水性溶媒が好ましく、簡便性などの点から、水又は水と低級アルコールとの混合溶媒(特に水)が特に好ましい。
【0071】
プロピレン系重合体の割合は、溶媒100重量部に対して、例えば、1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは10〜50重量部程度である。ビニル系単量体の割合は、プロピレン系重合体100重量部に対して、例えば、1〜400重量部、5〜300重量部、さらに好ましくは10〜100重量部(特に20〜60重量部)程度である。
【0072】
さらに、プロピレン系重合体の分散性を向上させるために、懸濁剤を使用してもよい。懸濁剤としては、溶媒の種類に応じて選択できるが、水性溶媒の場合、例えば、水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、親水性セルロース誘導体など)、多価アルコール(グリセリンなど)などが利用できる。懸濁剤の割合は、水性溶媒100重量部に対して、例えば、0.01〜5重量部(特に0.1〜1重量部)程度である。
【0073】
ラジカル重合開始剤としては、慣用のラジカル重合開始剤、例えば、有機過酸化物(例えば、ベンゾイルペルオキシド、o−メトキシベンゾイルペルオキシド、o−クロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシドなど)、無機過酸化物(例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)、アゾ系化合物{例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]など}などが挙げられる。また、有機又は無機過酸化物は、還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤を形成してもよい。還元剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−ソルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、ロンガリットなどが挙げられる。
【0074】
これらのラジカル重合開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラジカル重合開始剤のうち、10時間半減期を得るための分解温度が40〜90℃であるラジカル重合開始剤(例えば、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシドなどのジC4−10アルキルペルオキシジカーボネートなど)が好ましい。
【0075】
本発明では、TPOとの相溶性を向上させる点から、ラジカル重合開始剤に加えて、ラジカル重合性有機過酸化物を添加する。ラジカル重合性有機過酸化物としては、ビニル基などのラジカル重合性基とO−O結合とを有する限り、特に限定されないが、10時間半減期を得るための分解温度が40〜90℃である点などから、ビニル基を有するペルオキシカーボネートが好ましく利用できる。ビニル基を有するペルオキシカーボネートとしては、例えば、t−ブチルペルオキシメタクリルカーボネートなどのアルキルペルオキシ(メタ)アクリルカーボネート、t−ブチルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシエチルカーボネートなどのアルキルペルオキシ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネートなどのアルキルペルオキシ(メタ)アクリルカーボネートなどが挙げられる。これらのラジカル重合性有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0076】
ラジカル重合開始剤の割合は、ビニル系単量体(ラジカル重合性有機過酸化物を含む場合、ビニル系単量体及びラジカル重合性有機過酸化物の合計)100重量部に対して、例えば、0.01〜8重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度である。ラジカル重合性有機過酸化物の割合は、ビニル系単量体100重量部に対して、例えば、20重量部以下、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部(特に1〜5重量部)程度である。
【0077】
(B2)脂肪酸アミド
脂肪酸アミド(B2)は、TPOとの相溶性や入手容易性などの点から、炭素数10〜25の脂肪酸アミドであってもよい。このような脂肪酸アミドとしては、例えば、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘミン酸アミドなどのC10−24飽和脂肪酸アミド、ミリストレイン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、ペトロセリン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、エライジン酸アミド、ガトレン酸アミド、アラキドン酸アミド、エルカ酸アミド、ブラシジン酸アミドなどのC10−24不飽和脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどのC1−4アルキレンビス飽和又は不飽和脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0078】
これらの脂肪酸アミドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂肪酸アミドのうち、オレイン酸アミドやエルカ酸アミドなどの不飽和C16−24脂肪酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどのC1−4アルキレンビスC16−24不飽和脂肪酸アミドが好ましく、高い滑性を有する点から、オレイン酸アミドなどC16−22不飽和脂肪酸アミドが特に好ましい。
【0079】
グラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)との割合(重量比)は、前者/後者=50/50〜99/1、好ましくは55/50〜95/5、さらに好ましくは60/40〜90/10(特に70/30〜85/15)程度である。グラフト共重合体(B1)の割合が少なすぎると、TPOの剛性が低下するともに、グラフト共重合体組成物(B)のブリードアウトが発生し、逆に多すぎると、脱型効果が低下する。
【0080】
(B)グラフト共重合体組成物
グラフト共重合体組成物(B)は、前記グラフト共重合体(B1)又はそのグラフト化前駆体に、前記脂肪酸アミド(B2)を溶融混合することにより得られる。
【0081】
溶融混合方法としては、慣用の一軸又は二軸押出機を用いた押出混練法やロール混練法などを利用できる。溶融混合における温度は70〜250℃(特に100〜220℃)程度である。この温度が低すぎると、溶融が不完全となったり、溶融粘度が高くなって混合が不十分になり、相分離や層状剥離が発生し易い。逆に、高すぎると、脂肪酸アミドの分解が起こり易い。
【0082】
このようにして得られたグラフト共重合体組成物(B)は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に配合することにより、射出成形における金型の脱型性を改善できる。射出成形の方法としては、一般に使用される熱可塑性樹脂の射出成形機を用いて成形する方法が利用できる。
【0083】
射出成形における溶融混合温度(シリンダー温度)は、120〜250℃(特に150〜220℃)程度である。温度が低すぎると、溶融が不完全となったり、溶融粘度が高くなって混合が不十分になり、相分離や層状剥離が発生し易い。一方、高すぎると、TPOや脂肪酸アミドが分解する。
【0084】
なお、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)とグラフト共重合体組成物(B)との混練は段階的に行ってもよく、例えば、前述の慣用の押出混練法やロール混練法を用いて、両者を溶融混練したマスターバッチをペレット化した後、射出成形においてTPOのペレットと混合して射出成形機に供給し、射出成形機の射出スクリューによって最終的な混練を行ってもよい。
【0085】
射出成形における射出圧力は、例えば、40〜100MPa程度であり、射出速度は、例えば、0.3〜3m/分程度であってもよい。金型温度は、例えば、20〜80℃、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは25〜55℃(特に30〜50℃)程度である。
【0086】
グラフト共重合体組成物(B)の配合割合は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して、例えば、0.1〜80重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜60重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは2〜40重量部(特に3〜35重量部)程度である。グラフト共重合体組成物(B)の割合が少なすぎると、グラフト共重合体組成物(B)による効果が発現せず、多すぎると、成形体の剛性及び耐熱性が低下する。
【0087】
さらに、脂肪酸アミド(B2)の割合は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部程度の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは0.1〜8重量部程度である。脂肪酸アミドの割合が少なすぎると、脱型性の向上効果が不十分であり、逆に多すぎると、得られる成形体の表面に脂肪酸アミドのブリードアウトが発生し易く、成形体の外観が低下する。
【0088】
オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対しては、グラフト共重合体組成物(B)の他に、さらにTPOの特性を損なわず、脱型性や耐油性を低下させない範囲において、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、難燃剤(ハロゲン化スチレンなどのハロゲン含有化合物、燐化合物など)、強化充填剤(炭素繊維などの無機繊維、マイカ、タルクなどの粒状フィラーなど)、安定剤(フェノール系、チオエーテル系、リン系などの酸化防止剤、紫外線吸収剤などの光安定剤、熱安定剤、耐候剤など)、滑剤、分散剤、発泡剤、架橋剤、着色剤、鉱物油系軟化剤などを配合してもよい。
【0089】
このような方法で得られた成形体は、TPOに配合されたグラフト共重合体組成物(B)の作用によって、成形体であるエアーホースを金型から脱型する際の抵抗が少なくなるとともに、成形体の不可逆的な変形が予防されて、金型からの脱型性が向上する。本発明における脱型性が向上するメカニズムは必ずしも明らかではないが、グラフト共重合体組成物(B)の配合による成形品表面の滑性が向上することも、脱型性が向上する要因の一つとなっていると推定される。さらに、グラフト共重合体(B1)におけるプロピレン系重合体及びビニル系重合体の構成成分を調整することにより、表面に平滑性を付与できるだけでなく、適度な剛性と柔軟性とを両立でき、脱型において空気を吹き込む場合でも、円滑に拡径するとともに、アンダーカット部で成形体が金型と接触しても、成形体が破損されることなく、脱型できると推定される。
【0090】
さらに、本発明では、グラフト共重合体組成物(B)の作用によって、成形されたエアーホースの耐油性が向上する。耐油性の向上に関しては、グラフト共重合体の枝セグメントであるビニル系重合体(特に、窒素含有ビニル系単量体)が寄与することに加えて、成形品の表面が滑らかになることにより、表面にオイル成分が付着し難くなることも寄与していると推定される。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で製造したホースの脱型性及び耐油性は、下記の方法に従って評価した。
【0092】
(脱型性の評価)
特許文献1に記載の方法によって、図1に示すエアーホースを射出成形で成形し、図2のアンダーカット部を有する部分のコア金型とエアーホースとの間に空気を吹き込んで脱型した場合の脱型の容易さのレベルを、以下の基準で定性的に評価した。
【0093】
○:量産に十分適用可能なスピード及び軽い抜き取り力で脱型でき、脱型した成形品に破れや伸びが見られないレベル
△:抜き取り力を大きくすれば、試作レベルであれば抜き取り可能であるが、脱型した成形品の一部に伸びや破れが生ずる場合があるレベル
×:脱型できない、又は脱型するとエアーホースが伸びるか、破れて脱型が困難なレベル。
【0094】
(耐油性の評価)
エアーホースの耐油性の評価は、各実施例や比較例に供した樹脂材料を使用して、射出成形により縦横8cm四方で厚さ2mmの試験サンプルを作成して行った。試験方法は、以下の通りである。
【0095】
まず、試験サンプルをエンジンオイル(鉱物系オイル)に一旦浸漬した後、直ちに引き上げて、サンプル表面のオイルが自由に滴下するように20秒間サンプルをぶら下げた。その後、サンプル表面のオイルをふき取ってから、試験サンプルの重量を測定して、試験前後の重量変化率を評価した。
【0096】
即ち、この評価結果は、重量変化率が大きければオイルの吸収量が多く、従って膨潤が激しく、耐油性に劣ることを意味し、逆に重量変化率が小さければオイルの吸収量が少なく、従って膨潤が抑えられ、耐油性に優れることを意味する。
【0097】
なお、重量変化率の算出は試験前のサンプル重量をW、試験後のサンプル重量をWとして、下記の算出式に従って計算した。
【0098】
重量変化率=(W−W)/W×100 (%)。
【0099】
(実施例1)
オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO:エー・イー・エス(株)製、商品名「サントプレーン」)100重量部に対し、以下に示す方法で調製したグラフト共重合体組成物(組成物a)5重量部を、押出機で混練してペレット化した。さらに、得られたペレットを射出成形機に供給して、図1に示すベンド形状及び蛇腹部を有する自動車用エアーホースを射出成形して製造した。エアーホースの主な寸法諸元は、全長250mm、内径65mm、蛇腹部の肉厚1.5mm、非蛇腹部の肉厚3mm、蛇腹部の山高さ8mmである。
【0100】
(グラフト共重合体組成物の調製)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。さらに、このオートクレーブ中に、粒子状のアイソタクチックポリプロピレン(サンアロマー(株)製、商品名「PMシリーズ」)700gを投入し、攪拌、分散した。
【0101】
別途、ラジカル重合開始剤としてのジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド1.5g、ラジカル重合性有機過酸化物としてのt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9gを、スチレン200gと窒素含有ビニル系単量体としてのアクリロイルモルフォリン100gとの混合液中に溶解させた。この溶液を前記オートクレーブ中に投入し、攪拌した。
【0102】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することにより、ラジカル重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体を、アイソタクチックポリプロピレンに含浸させた。続いて、含浸されたビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤の合計量の含浸率が添加量の30重量%以上になっていることを確認した後、温度を70〜75℃に上げ、その温度で6時間維持して重合を完結させ、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0103】
さらに、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で180℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体(1)を得た。このグラフト共重合体(1)を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、粒子径0.3〜0.4μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造型の熱可塑性樹脂であった。
【0104】
得られたグラフト共重合体(1)80重量部を、オレイン酸アミド20重量部とドライブレンドして、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で混練して、グラフト共重合体組成物(組成物A)のペレットを得た。
【0105】
(実施例2)
グラフト共重合体組成物(組成物a)の配合量を10重量部に変更する以外は、実施例1と同様にして自動車用エアーホースを射出成形して製造した。
【0106】
(実施例3)
グラフト共重合体組成物(組成物a)の配合量を30重量部に変更する以外は、実施例1と同様にして自動車用エアーホースの射出成形して製造した。
【0107】
(実施例4)
グラフト共重合体組成物の調製において、アイソタクチックポリプロピレンに代えてブロックタイプのプロピレン−エチレン共重合体を使用し、アクリロイルモルフォリンに代えてアクリロニトリルを使用する以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体組成物(組成物b)を調製した後、実施例1と同様にして自動車用エアーホースの射出成形して製造した。
【0108】
(実施例5)
グラフト共重合体組成物の調製において、アクリロイルモルフォリンに代えてアクリロニトリルを使用する以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体組成物(組成物c)を調製した後、実施例1と同様にして自動車用エアーホースの射出成形して製造した。
【0109】
(比較例1)
グラフト共重合体組成物を配合することなく、オレフィン系熱可塑性エラストマーを単独で使用する以外は、実施例1と同様にして自動車用エアーホースを射出成形して製造した。
【0110】
(比較例2)
グラフト共重合体組成物(a)に代えて、シリコーン系改質剤(ヘキサケミカル社製、商品名「ML−350」)20重量部を使用する以外は、実施例1と同様にして自動車用エアーホースを射出成形して製造した。
【0111】
各実施例及び比較例の配合と評価結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1から明らかなように、実施例では、特定のグラフト共重合体組成物を、エアーホースの射出成形に供するオレフィン系熱可塑性エラストマーに配合することによって、成形されたエアーホースの脱型性が向上した。
【0114】
一方、比較例では、脱型性が低い。特に、シリコーン系の改質剤によって滑り性を向上させて脱型性向上効果を狙った比較例2においても、シリコーン系改質剤が成形品表面に一部ブリードする程の大量の配合を行ったにも関わらず、実施例のような顕著な脱型性向上効果は得られなかった。この理由は、シリコーン系改質剤の添加によるダクト強度の低下のために、脱型操作の際にダクトの変形や破損が発生し易くなったためと推定される。
【0115】
また、実施例では、耐油性評価試験において、ダクト材料の重量変化が少なくなることが確認でき、エアーダクトにエンジンオイルがかかったような状況においても、ダクト材料がエンジンオイルを吸収して膨潤してしまうことが予防され、エアーホースの耐油性が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、射出成形により製造され、アンダーカット部を有するホース、例えば、種々の電化製品(例えば、掃除機や空調機など)に付属するエアーホースや車輌(例えば、自動車などの輸送車など)に搭載されるエアーホースなどに利用でき、特に、自動車の内燃機関に空気を供給するダクトの一部である自動車用エアーホースに有効に利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1…自動車用エアーホース
2…蛇腹部
3a,3b…非蛇腹部
4a,4b…補強リブ
10…射出成形型
11…キャビティー型
12…コア型
13…当接面
14…キャビティー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)に対して、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されたグラフト共重合体(B1)と、脂肪酸アミド(B2)とを含むグラフト共重合体組成物(B)を配合して射出成形することにより、自動車用エアーホースの耐油性と脱型性を改善する方法。
【請求項2】
グラフト共重合体(B1)が、連続相とこの連続相中に粒状に分散した分散相とで形成され、前記分散相の平均粒径が0.001〜10μmである請求項1記載の方法。
【請求項3】
グラフト共重合体(B1)が、プロピレン系ブロック共重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成され、脂肪酸アミド(B2)が、炭素数10〜25の脂肪酸アミドである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
グラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)との割合(重量比)が、前者/後者=50/50〜99/1である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
屈曲部及び/又はアンダーカット部を有するホースの射出成形におけるコア型との脱型性も改善できる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
グラフト共重合体組成物(B)をオレフィン系熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して1〜50重量部配合する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
オレフィン系熱可塑性エラストマー(A)及びグラフト共重合体組成物(B)で構成されたホースであって、前記グラフト共重合体組成物(B)が、プロピレン系重合体で構成された幹セグメント及び窒素含有ビニル系重合体で構成された枝セグメントで形成されたグラフト共重合体(B1)と脂肪酸アミド(B2)とを含む自動車用エアーホース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222449(P2010−222449A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70233(P2009−70233)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】