説明

自動車用ブレーキ装置およびその作動方法並びに油圧装置

本発明は、間接的にマスタ・ブレーキ・シリンダ(9)と結合されている少なくとも2つの油圧ブレーキ回路(1、2)と、並びに制御装置(22)を介してマスタ・ブレーキ・シリンダとは独立に操作可能な他のブレーキ回路(3)と、を備えた自動車用ブレーキ装置および油圧装置に関するものである。前車軸の範囲内の別々の油圧ブレーキ回路(1、2)により必要な冗長性が与えられ、一方、マスタ・ブレーキ・シリンダとは独立に操作可能な、典型的には後車輪に作用する第3のブレーキ回路(3)は、自動操作において、例えば駆動される発電機のような追加の作用装置(20)によるブレーキ作用の考慮を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーキ回路を備えた自動車用多回路ブレーキ装置の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車構造の分野において、かなり以前から、油圧ブレーキがその効率および機能の確実性のために広く使用されてきた。この場合、機能の確実性をさらに向上させる冗長性のために多回路ブレーキ装置が使用され、多回路ブレーキ装置においては、しばしば複数の油圧ブレーキ回路が1つまたは複数のマスタ・ブレーキ・シリンダによって圧力付勢される。この場合、圧力は、はじめにブレーキ・ペダルの操作によって発生され、且つこのとき場合により増幅される。マスタ・ブレーキ・シリンダから、しばしば弁により制御されて、車輪ブレーキが圧力付勢され且つこれにより操作される。
【0003】
同様に、車両ブレーキの負荷を追加の減速要素により軽減することが既知である。この場合、例えば弁制御によって良好に投入可能なエンジン・ブレーキが使用されても、または渦電流ブレーキまたは発電機のような電気装置が使用されてもよい。発電機として、通常、始動用バッテリの充電のためにおよび自動車の装置への電気供給のために使用される、各車両内に存在する点灯用発電機であっても、またはハイブリッド車内に存在する、寸法の大きい車両の駆動モータであってもよい。この駆動モータは、車両の駆動に使用されるバッテリを充電するために発電運転が可能である。これにより、減速時に車両の運動エネルギーは蓄積され且つのちに車両の加速のために再び使用可能である。バッテリの充電により制動を支援する過程は回生制動と呼ばれる。
【0004】
しかしながら、車両のこのような減速過程においては種々の問題が発生する。存在するそれぞれの交通状況に対して制動距離および制動減速度の大きさを最適化可能にするために、ドライバは、通常、ブレーキ作用をブレーキ・ペダルの操作によって適切に投入可能であることを希望する。ドライバは、同時に、達成された車両減速度によりブレーキ・ペダルにおいて反力を感知するので、ドライバにとっては反復制御過程が可能となる。
【0005】
ブレーキ回路の直接ブレーキ作用に、運転される発電機の形の追加の減速装置が付加された場合、一方でこの減速作用はドライバに対して最適に感知可能ではなく、他方で発電機の減速作用は多くの周辺条件の関数でもあり且つ最終的に時間的に変化可能ではない。例えば、発電機のブレーキ作用は車両速度が変化した場合に増大したりまたは低減したりし、且つ駆動伝動装置を切り離した場合、減速作用は一時的に完全に中断されるので、駆動伝動装置を再び結合したのちにおいては減速作用が慎重に与えられなければならない。他の問題は、バッテリが完全に充電されているときに発生し、その理由は、このとき、発生された追加の電力は他の方法で除去されなければならないからである。
【0006】
したがって、機械的制動と他の手段による車両の追加の減速との組み合わせは、ドライバにとっては確かに実行可能であるが、快適性の観点からは最適に制御可能ではない。ドライバは車両の減速度の変化をブレーキ・ペダルを介してのブレーキ力の調節のみにより補償可能である。
【0007】
従来技術から、ブレーキの制御において快適性および確実性の観点からドライバを支援する多数の方法が既知である。走行安定性を向上させるための滑り制御のみならず動的カーブ制動もまたこのような方法に含まれる。
【0008】
ドイツ特許公開第4128087号から、カーブ制動において後車軸の不足制動が阻止される車両用ブレーキ圧力制御装置が既知である。この場合、前車軸におけるブレーキ圧力はドライバにより予め与えられ、後車軸におけるブレーキ圧力はこれの関数として制御される。
【0009】
基本的に、摩擦の利用を考慮してできるだけ強い車両の制動が達成されるようにブレーキ力を分配することもまた既知であり、この場合、静的および/または動的により強く力が加えられた車輪に、それに対応してより強い制動力を与えることが可能である。
【0010】
欧州特許第0173954号から、個々のブレーキに対するブレーキ圧力が、車両に対する基準質量およびドライバにより設定された目標減速度により、記憶されている車両固有の特性曲線群内において決定される装置が既知である。決定されたブレーキ圧力がブレーキ内に供給され、車両減速度が目標値から偏差を有している場合、必要に応じて目標減速度に到達するまで後続制御される。
【0011】
ドイツ特許公開第3313078号から、個々の車輪ブレーキの均等摩耗が継続して達成されるように、種々の車輪ブレーキの摩耗が決定され且つこれが考慮されるブレーキ圧力制御装置が既知である。
【0012】
ドイツ特許公開第102005046606号から、車両の車軸の1つにそれぞれ1つのブレーキ回路が付属され、これにより、駆動滑り制御装置並びに走行動特性制御装置が1つのブレーキ回路内のみに設けられており、このことから構造的全体費用が低減されるブレーキ装置が既知である。
【0013】
最後に、ドイツ特許公開第10316090号から、基本的に油圧的に作用し且つ個々の車輪の摩擦ブレーキに作用する複数のブレーキ回路を備え、並びに発電機、ないしは発電運転が可能であり且つブレーキ回路に付属された車輪の減速のために追加的に利用可能な駆動電動機を備えたブレーキ装置が既知である。種々の走行動特性変数を考慮して個々の全ての車輪へのブレーキ力分配を最適化するために、制御装置が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】ドイツ特許公開第4128087号
【特許文献2】欧州特許第0173954号
【特許文献3】ドイツ特許公開第3313078号
【特許文献4】ドイツ特許公開第102005046606号
【特許文献5】ドイツ特許公開第10316090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来技術を背景として、本発明の課題は、ブレーキ動特性および走行動特性の複合制御過程であってもそれを支援し、できるだけ高い信頼性を有し、且つこの場合、構造的にできるだけ簡単に形成可能な自動車用ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、本発明により、請求項1の特徴並びに請求項15に記載の方法および請求項16に記載の油圧装置によって解決される。
【0017】
ここに記載のブレーキ装置は、ブレーキ圧力発生装置により直接操作される、ブレーキ回路からなるグループが、少なくとも2つの別々の油圧ブレーキ回路を有し、これにより、電気系統が故障した場合においても十分な冗長性したがって機能の確実性が保証されていることを特徴とする。第2のグループのブレーキ回路は油圧ポンプのみにより駆動可能であるので、ブレーキ・ペダルにより直接ブレーキ・シリンダに圧力を付勢可能ではない。通常の場合、評価またはセンサにより、例えばブレーキ・ペダルにおける位置センサまたは圧力センサによってブレーキ希望が測定され、且つ対応する信号が制御装置に出力される。制御装置は、ブレーキ希望を測定し、および第2のグループのブレーキ回路の必要なブレーキ操作を決定するために、測定されたブレーキ・ペダルのストロークから第1のグループのブレーキ回路の設定されたブレーキ作用を決定するか、またはこれを加速度センサにより決定可能である。
【0018】
測定されたブレーキ希望および実際に行われたブレーキ作用から、第2のグループのブレーキ回路により操作される車輪によって発生されなければならない特定の差ブレーキ作用が得られる。
【0019】
制御装置は、さらに、場合により作動される作用装置により対応する車輪に作用する減速作用を考慮し且つこの減速作用をブレーキ装置によって設定されるべきブレーキ作用から減算する。この結果、制御装置は、対応して形成された油圧により車輪ブレーキを操作するために、ブレーキ回路からなる第2のグループの対応する弁を操作する。このかぎりにおいて、本発明は、内燃機関を備えた標準車両においてのみならず、複数の異なる駆動装置を利用可能なハイブリッド車においてもまた使用可能である。
【0020】
作用装置による減速作用が次第にまたは急激に変化した場合、制御装置はそれに応答し、且つ全体ブレーキ作用を有利に一定に保持する目的をもって、第2のグループのブレーキ回路のブレーキ作用を変化させる。この場合、制御装置は種々のセンサによって支援され、これらのセンサは作用装置の変化する減速作用の事前予測を可能にする。
【0021】
本発明の可能性のある有利な一形態は、それらの車輪ブレーキが第2のグループのブレーキ回路または第1のグループのブレーキ回路と結合されている車輪の少なくとも1つが、さらに、それぞれの車輪を減速させる作用装置と結合されているように設計されている。
【0022】
この場合、作用装置として発電機が使用されることが有利である。発電機は運動エネルギーを電気に変換可能であり、電気はバッテリ内に蓄積されてもまたは消費されてもよい。これにより、場合により発生する熱の問題は減速エネルギーの消失により回避可能であり且つ車両の運動エネルギーが回収可能であることは有利である。
【0023】
本発明は、対応する発電機が、発電運転される自動車の駆動電動機であるように形成されてもよいことが有利である。
【0024】
これは、電気のみにより駆動される車両の場合、または駆動電動機のみならず内燃機関もまた有しているハイブリッド車の場合に可能である。
【0025】
対応する充電制御によりバッテリの充電が制御されてもよい。バッテリが充満されている場合、発電機の有効減速動力は低下する。この場合、電気エネルギーを消費するために、例えば加熱抵抗または車両の照明のような電気消費機器を発電機に接続することが有利なことがある。
【0026】
作用装置のこのような制御は、油圧ブレーキ回路の操作のほかに同様に制御装置によって行われてもよい。
【0027】
制御装置が、バッテリ充電センサおよび発電機出力センサの少なくともいずれかと結合されていることが有利であり、これにより、発電機の減速動力の事前予測が可能となる。したがって、車両の衝撃を回避するために、制御装置が早めに係合可能である。
【0028】
作用装置の減速作用と直接の油圧ブレーキによるブレーキ作用との間でバランスさせるほかに、例えば加速時に滑りが発生したときに対応する車輪の滑り回転を回避するために車輪ブレーキが自動的に応答されることにより、カーブを急速に通過するときに車両の安定性を失う前に車両の道路上の位置どりを改善させるためにそれに対応して片側が制動されることにより、または制御装置によってカーブ内側の車輪を制動することによってカーブ走行が支援されることにより、制御装置は走行動特性の課題を果たすことが可能である。
【0029】
本発明の他の有利な一形態は、第1のグループのそれぞれ1つのブレーキ回路が自動車の1つの前車輪の車輪ブレーキと結合されているように設計されている。
【0030】
このようにして、前車輪のブレーキは相互に独立に冗長な油圧ブレーキ回路により応答可能であり且つ対応するブレーキの確実性が達成されることが保証されている。このとき、減速作用を与える対応作用装置は、第2のグループの1つまたは複数のブレーキ回路と結合されている自動車の後車輪へ作用を与えるものとして使用されることが好ましい。
【0031】
これは、特に、後車軸が、内燃機関または電動機または選択的に両者のいずれかにより駆動されているときに提供される。
【0032】
制御装置が、第1のグループのブレーキ回路へのブレーキ力分配を調節するための手段と結合されているように設計されていてもよいことが特に有利である。
【0033】
この場合、制御装置は、個々の車輪ブレーキまたは車輪ブレーキからなるグループの操作において、およびブレーキ力の分配において、必要な全ての動特性制御を実行可能である。
【0034】
さらに、走行快適性を向上させるために、第1のグループのブレーキ回路に付属された油圧ポンプが、特にポンプ駆動軸の回転方向によって制御可能なフリーホイール・クラッチにより、ポンプ駆動装置から機械的に切離し可能であるように設計されていてもよい。
【0035】
これにより、ブレーキ回路からなる第1のグループの1つまたは複数の油圧ポンプは、それらが車両の減速作用を達成するために必要とされない場合、即ち例えば走行動特性制御の場合における部分制動において、ポンプ駆動装置から切り離される。この状態においては、第2のグループのブレーキ回路に圧力を供給する油圧ポンプまたは油圧ポンプからなるグループのみが駆動される。したがって、制御装置は、このブレーキ回路によって応答された車輪ブレーキに圧力を付勢する可能性を利用可能である。同時に、ブレーキ回路からなる第1のグループの油圧ポンプは切り離されているので、ブレーキ・ペダルの操作が必要となったときにドライバに不快感を与えることがある例えばポンプ脈動のような、走行快適性を害するポンプ作用が発生することはない。
【0036】
第1のグループのブレーキ回路に付属された油圧ポンプの吸込側が、弁を介して、それぞれの吐出側と結合可能であり、且つ特にばね付勢された逆止弁を介して、それぞれのブレーキ回路の高圧側と結合されているように設計されていてもよいことが有利である。この場合、油圧配管の対応する配管案内および弁の制御により、ブレーキ回路からなる第1のグループの油圧ポンプは昇圧しないことが保証されている。油圧ポンプは油圧液を無負荷回路内で循環させる。
【0037】
本発明は、上記のブレーキ装置に関するのみならず、第2のグループのブレーキ回路および場合により作用装置の作用が、ブレーキ希望の関数として、およびブレーキ回路からなる第1のグループにより実際に達成されたブレーキ作用の関数として制御される、このようなブレーキ装置の作動方法にも関するものである。
【0038】
以下に本発明が一実施例に基づいて図面に示され且つそれに続いて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、3つの油圧ブレーキ回路を備えた本発明によるブレーキ装置の油圧配管図を示す。
【図2】図2は、油圧ポンプに対する機械的切離し装置の機能を示す。
【図3】図3は、油圧ポンプをブレーキ回路から切り離すための油圧的切離し装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1に示されているブレーキ装置は、個々の部分において、能動的昇圧を有する既知の標準調節装置と同じである。左前車輪4および右前車輪4aを有する前車軸は、2つの別々のブレーキ回路、即ち第1のブレーキ回路1および第2のブレーキ回路2を備え、これらのブレーキ回路の各々は調節可能な完全なブレーキ装置を示している。第3のブレーキ回路3は第1および第2のブレーキ回路1、2と同様に油圧式で形成され且つ車輪5、6の両方の後車輪ブレーキに共通して油圧を供給する。個々のブレーキ回路は一点鎖線によって区分されている。3つの全てのブレーキ回路の油圧ポンプ15、15a、15bに対して共通のポンプ駆動装置Mが設けられているので、各ブレーキ回路内において個々にそれ自身で能動的昇圧が実行可能である。個々の車輪への個別のブレーキ作用は、第1のグループのブレーキ回路1、2の個別制御または第2のグループのブレーキ回路3の車輪ブレーキの個別操作により実行可能である。
【0041】
前車軸に付属されている油圧ポンプは車輪ブレーキごとに1ピストン・ポンプ15、15bとして形成され、一方、第3のブレーキ回路3に油圧を供給する油圧ポンプ15aは3ピストン・ポンプとして形成されていてもよい。他のピストン数を有する他のポンプ構成または他の原理に従って作動する例えば歯車ポンプのようなポンプもまた同様に考えられる。ブレーキ操作装置7のマスタ・ブレーキ・シリンダ9は第3のブレーキ回路3と結合されていない。したがって、電気故障においては、前車輪ブレーキに付属されているブレーキ回路1、2のみが応答されるが、このことは、冗長性および利用可能なブレーキ力増幅に基づいて十分である。
【0042】
制動されていない場合、全ての弁は無通電である。このとき第3のブレーキ回路3の圧力制御弁18aは開放されているので、後車輪5、6の車輪ブレーキ・シリンダから圧力のない貯蔵容器16aに均圧が実行可能である。部分制動の場合、ブレーキ回路1、2は通常油圧操作されるが、一方、第3のブレーキ回路3は、センサ21によりブレーキ希望を測定する制御装置22を介して、制御出力32により圧力制御弁18a並びに昇圧弁11a、12aおよび降圧弁13a、14aを介して制御される。圧力制御弁18aは、所定の圧力差により制御される定常的に設定可能な圧力制御弁として形成されていてもよいことが有利である。しかしながら、絶対圧力が操作されるように設計されていてもよい。しかし、このために、第3のブレーキ回路3の高圧部分内に対応する圧力センサを設けることが必要である。1つないしは複数のこのセンサは例えば車輪ブレーキ・シリンダの付近に配置されていてもよい。
【0043】
本発明は直接油圧で応答されないブレーキ回路3に対して高圧蓄圧器は不必要であるが、これにより必要な冗長性を失うことはない。必要な冗長性は前車輪ブレーキ装置の多回路構成によって与えられている。個々の車輪ブレーキの制御可能性は、前車輪において個々のブレーキ回路の異なる応答により実行可能であるばかりでなく、後車輪においてもまた制御装置22による対応制御によって実行可能である。
【0044】
図1は、図の右側の、第2のブレーキ回路2と同様に形成されている第1のブレーキ回路1と、および図示の実施例においてブレーキ回路からなる第2のグループのただ1つのブレーキ回路を形成する第3のブレーキ回路3と、を備えた多回路ブレーキ装置を示す。
【0045】
以下において、はじめに第1のブレーキ回路1の機能が説明され、次に第3のブレーキ回路3の特殊性が説明される。
【0046】
図1は、二軸自動車の1つの前車輪4aに付属されている右側の第1のブレーキ回路1並びに自動車の1つの前車輪4に付属されている第2のブレーキ回路2を示す。ブレーキ回路はそれぞれ一点鎖線により区分されている。自動車が3つのブレーキ回路のみを有する具体的な場合、第1の両方のブレーキ回路は直接油圧操作可能なブレーキ回路からなる第1のグループを形成し、一方、第3のブレーキ回路は、油圧ブレーキ操作装置7と結合されていないブレーキ回路からなる第2のグループを形成する。
【0047】
油圧ブレーキ操作装置7はブレーキ・ペダル8並びに二重マスタ・ブレーキ・シリンダ9を有し、二重マスタ・ブレーキ・シリンダ9内に、ブレーキ・ペダル8を踏み込んだときにブレーキ装置を操作するための油圧が形成される。
【0048】
はじめに、例として、第1のブレーキ回路1によりこのようなモジュールの基本機能を説明することにする。
【0049】
ブレーキ・ペダル8が操作された場合、高いブレーキ圧力がマスタ・ブレーキ・シリンダ9内に発生する。高いブレーキ圧力は、それの他の機能がのちに詳細に説明されるいわゆる切換弁10を介して、車輪4aに付属されている昇圧弁12に供給される。
【0050】
基本的に、昇圧弁11、12は高い油圧を車輪4、4aのブレーキ・シリンダに供給し、これにより、例えばディスク・ブレーキの形の対応する摩擦ブレーキが操作される。ブレーキ・ペダルが放されたとき、同様に弁11、12を介してブレーキ解放が行われる。例えばABS制御が係合しているときにおける、ブレーキ・ペダルの操作中の自動ブレーキ解放の場合、降圧弁13、14の少なくとも1つが開放され、対応する車輪ブレーキ・シリンダ内の油圧は低下され且つ油圧液は油圧ポンプ15、15bの吸込側に導かれる。油圧ポンプ15、15bの吸込側に、さらに、油圧液に対して容量を調節するための油圧蓄積器16、16bが設けられている。逆止弁17は、油圧ポンプの吸込側から油圧液が降圧弁13、14ないしは蓄積器16に流入不可能なように働く。
【0051】
通常、個々の車輪に対して、きわめて強い制動における車輪のロックを阻止するアンチロック装置が設けられている。このために、車輪4、4aに例えば図示されていない回転速度センサが設けられ、回転速度センサは、車輪がロックしたとき、制御装置22に信号を出力する。それに続いて、車輪のロックを解放するために、車輪に付属されたブレーキ昇圧弁11、12が閉鎖され、同時に付属のブレーキ降圧弁13、14が開放される。同時に、それらの吸込側に到達した油圧液を再びブレーキ回路の一次側にポンピングするために、油圧ポンプ15、15bが駆動される。
【0052】
対応する車輪が回転し続けた場合、再びロックのおそれがあるまでの間、ブレーキ昇圧弁11、12の開放により圧力したがってブレーキ作用を再び上昇可能である。この繰返しプロセスはブレーキ回路の一次側に高い圧力の油圧液を必要とし、この油圧液はドライバのブレーキ操作によりマスタ・ブレーキ・シリンダから提供される。油圧ポンプ15、15bは油圧蓄積器16を空にし且つ油圧液が戻されるように働く。
【0053】
車両の発進時において1つの車輪または複数の車輪において滑りのおそれがあるとき、または走行動特性制御のために、マスタ・ブレーキ・シリンダ内にブレーキ圧力が発生することなく、車輪ブレーキが操作されたときもまた、上記の過程が同様の形で実行可能である。いずれの場合も、車輪ブレーキ・シリンダを操作するために必要な圧力が油圧ポンプ15、15bにより提供可能である。
【0054】
この場合、切換弁10、10aが油圧ポンプ15、15bと同様に操作される。
【0055】
同時にいわゆる吸込弁18、18bが開放され、これにより、油圧液はマスタ・ブレーキ・シリンダから油圧ポンプ15、15bの吸込側に到達可能である。
【0056】
図1の左側の第3のブレーキ回路3の機能は基本的に第1のブレーキ回路1と同じであるが、第3のブレーキ回路3はマスタ・ブレーキ・シリンダ9から完全に切り離されていることだけが異なっている。第3のブレーキ回路の機能方法の説明において、下記の状態が区別可能である。
【0057】
1.自動車の減速のない走行においては、車輪5、6の車輪ブレーキが操作されないのみならず、例えば発電運転される駆動電動機の形の作用装置20もまた減速のために利用されない。
【0058】
2.部分制動の場合、回生制動が行われることが好ましく、即ち、作用装置20により車輪5、6に周知のブレーキ・トルクが作用する。ブレーキ・ペダル8の操作によってドライバにより表わされる減速希望は、センサ21によりまたは評価によって測定され且つ制御装置22に伝送可能である。作用装置20の減速トルクが制御装置22に伝送されるか、または作用装置20の減速トルクが出力センサ23により測定され且つ伝送される。代替態様または追加態様として、作用装置20の負荷状態を特定するために、作用装置によって充電されるバッテリ25の充電状態が充電センサ24により測定され且つ制御装置22に与えられてもよい。
【0059】
ブレーキ希望と、第1のブレーキ回路1、2により実際に油圧経路において達成された減速作用と、および得られた作用装置20の減速トルクと、を考慮して、制御装置22は、第3のブレーキ回路により達成されるべきブレーキ減速を計算し、およびこれを、主として、例えば差圧制御弁として働く切換弁18aの操作によって設定する。これは場合により油圧ポンプ15aが運転したときに切換弁18aの調節によって可能である。このように発生され且つ設定された油圧はブレーキ昇圧弁11a、12aに伝達され、ブレーキ昇圧弁11a、12aは圧力を車輪5、6の車輪ブレーキ・シリンダに伝達する。ブレーキ解放は通常の部分制動過程において弁18aおよび弁11a、12aを介して行われることが有利である。例えばABS制御において車輪ごとの降圧を行う場合、ブレーキ解放は弁13aまたは14aを介して行われる。
【0060】
第3のブレーキ回路3の必要な操作は、駆動軸27を介して車輪5、6に与えられる作用装置20の追加の減速作用により基本的に低減され、および対応するエネルギーは作用装置を介して回収され且つ例えばバッテリ25内に蓄積される。
【0061】
作用装置20の減速トルクが変動する場合、即ち、例えば、バッテリ25が充満しているとき、車両が減速しているとき、または駆動系が変速機切換過程により車輪から切り離されたとき、全減速度を一定に保持するために、制御装置22により、それに対応して例えば電気消費機器28の投入により作用装置の減速トルクができるだけ上昇されなければならず、および/または第3のブレーキ回路3の操作が、変化されたブレーキ力が作用装置20の変化された減速トルクを補償するように変化されなければならない。
【0062】
これは、本発明によるブレーキ装置においては、通常のブレーキ装置においてよりも本質的により簡単に可能であり、その理由は、一方で、第1のブレーキ回路1、2の直接操作によりそこで得られたブレーキ作用が一定のままであり且つドライバによって良好に制御可能であり、他方で、両方の独立の部分ブレーキ装置3、20の間のブレーキ作用の調整が制御装置22により比較的簡単且つ定常的に実行可能であるからである。
【0063】
図1内に、制御装置22の範囲内において、さらに、センサ29(横方向加速度センサ)、センサ30(滑りセンサ)およびセンサ31(走行速度センサ)が示されている。さらに、前進走行と後退走行との間を区別するために制御装置22を支援する走行方向センサが設けられていてもよく、これにより、後退走行においては後車軸のブレーキをより強く作動可能である。
【0064】
さらに、制御装置22は、車輪5、6における回転速度センサ並びに変速機クラッチの操作を指示するセンサと結合されていてもよい。
【0065】
対応する出力32が、ブレーキ回路の制御可能な弁と結合されている。
【0066】
図2内においては、図を見やすくするために、制御装置22の構成および機能が省略されている。しかしながら、基本的に、図2は図1に示されている図と同じである。同じ部品には同じ符号が付けられている。
【0067】
図2内に、大部分図1内に示されている部分に対応するブレーキ装置が示され、この場合、図を簡単にするために、図の右側部分内には、個々の前車輪に付属された第1および第2のブレーキ回路の代わりに、2つの車輪を含むただ1つのブレーキ回路が示されている。しかしながら、ここでは、例として本発明に使用可能な快適性を向上させる装置が示され、図1からの油圧ポンプ15および15bを代表する、必要とされないそれぞれの油圧ポンプ15は、それが必要とされなくなったとき、ポンプ駆動モータ36の駆動系から切り離されることによって、装置は快適性を向上させる。これは、駆動モータ36が対応する駆動軸37を基本的に両方の回転方向に駆動可能であること、および他のブレーキ回路3の油圧ポンプ15aが軸37の回転方向とは無関係に油圧を発生可能であること、によって行われる。軸37に、駆動モータ36と油圧ポンプ15との間に機械式フリーホイール装置38が形成され、フリーホイール装置38は、第1のブレーキ回路の油圧ポンプ15は軸37の一方の回転方向においてのみ駆動されるが、反対の回転方向には駆動されないように働く。
【0068】
これにより、油圧ポンプ15aによって第3のブレーキ回路3内の圧力が上昇されるとき、第1および第2のブレーキ回路のポンプが共に回転し且つ意図しない脈動を発生し、場合によりブレーキ・ペダルの操作においてドライバがそれを感じるであろうことが阻止される。これは、例えば部分制動の場合である。
【0069】
図3内に、図2内に示されたブレーキ装置と類似のブレーキ装置が示され、この場合、図を簡単にするために、図の右側部分内には、図1内で個々の前車輪に付属された第1および第2のブレーキ回路の代わりに、2つの車輪を含むただ1つのブレーキ回路が示されている。第1/第2のブレーキ回路1/2の油圧発生を、第3のブレーキ回路3内の油圧発生から切り離すという課題は、ここでは油圧ポンプの駆動軸の機械式フリーホイールによって解決されるのではなく、再び第1および第2のブレーキ回路の油圧ポンプ15/15bを代表する第1のブレーキ回路1の油圧ポンプ15は確かに第2のブレーキ回路2の油圧ポンプ15aと同時に運転されるが、切り離す場合に、油圧ポンプ15/15bの吐出側がそれぞれ、この場合に開放された切換弁39を介して、それぞれ同じ油圧ポンプ15、15bの吸込側と結合され、これにより、それぞれのポンプは油圧液を循環させる。これにより、油圧ポンプ15、15bの無負荷運転が保証されるので、脈動は回避される。
【0070】
場合により発生する油圧ポンプ15/15bの脈動を抑制するために、ないしはそれぞれのブレーキ回路1の一次側に発生する圧力ピークを低下させるために、油圧ポンプ15、15bはばね付勢されたそれぞれの逆止弁40を介して第1/第2のブレーキ回路1/2の高圧側と結合されている。
【0071】
したがって、本発明によるブレーキ装置は、回生ブレーキ過程を快適に利用することを可能にし、この場合、ブレーキ装置の部分装置内の変動は検出され且つ補償可能であり、これにより、変動がドライバないしは車両の同乗者によって感知されることはない。さらに、調節過程から影響を受けることなく、通常のように機能するブレーキ装置の他の部分装置が設けられている。適切な制御装置は、発生する全てのブレーキ作用および減速作用を適切な方法で制御する。制御装置22が作用装置20の減速作用の変動に応答可能であることによって、第3のブレーキ回路3のブレーキ作用との定常的な重ね合わせが可能となり、これにより、衝撃のない制動が快適に可能となる。
【符号の説明】
【0072】
1 第1のブレーキ回路
2 第2のブレーキ回路
3 第3のブレーキ回路
4、4a 前車輪
5、6 後車輪
7 ブレーキ圧力発生装置(ブレーキ操作装置)
8 ブレーキ・ペダル
9 マスタ・ブレーキ・シリンダ
10、10a 切換弁
11、11a、12、12a ブレーキ昇圧弁
13、13a、14、14a ブレーキ降圧弁
15、15a、15b 油圧ポンプ
16、16b 油圧蓄積器
16a 貯蔵容器
17 逆止弁
18、18b 吸込弁
18a 圧力制御弁(切換弁)
20 作用装置
21 ブレーキ希望センサ
22 制御装置
23 出力センサ
24 充電センサ
25 バッテリ
27 後車軸(駆動軸)
28 電気消費機器
29 横方向加速度センサ
30 滑りセンサ
31 走行速度センサ
32 制御出力
36 ポンプ駆動装置(ポンプ駆動モータ)
37 ポンプ駆動軸
38 フリーホイール・クラッチ(機械式フリーホイール装置)
39 切換弁
40 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動でまたはペダル(8)により操作可能なブレーキ圧力発生装置(7)と結合され、かつ、車輪ブレーキへのそれらの作用が弁(10、10a、11、12、13、14)により制御可能である少なくとも2つの油圧ブレーキ回路(1、2)からなる第1のグループと、
継続して前記ブレーキ圧力発生装置(7)から油圧的に切り離され、かつ、自動制御装置(22)のみにより制御されている少なくとも1つの油圧ブレーキ回路(3)を含むブレーキ回路からなる第2のグループと、
を備えた自動車用ブレーキ装置。
【請求項2】
車輪ブレーキが前記第2のグループのブレーキ回路(3)と結合されている車輪(5、6)の少なくとも1つが、さらに、それぞれの車輪を減速させる作用装置(20)と結合されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記作用装置(20)が発電機であることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記発電機が、発電運転される自動車の駆動電動機であることを特徴とする請求項3に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記発電機がバッテリ(25)と結合されていることを特徴とする請求項3または4に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記発電機が電気消費機器(28)と結合されていることを特徴とする請求項3、4または5に記載のブレーキ装置。
【請求項7】
前記制御装置(22)が、横方向加速度センサ(29)、滑りセンサ(30)、走行速度センサ(31)、走行方向センサ、および、かじ取り希望センサ、のうちの少なくとも1つのセンサと結合されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記制御装置(22)が、バッテリ充電センサ(24)、および、発電機出力センサ(23)、のうちの少なくとも1つのセンサと結合されていることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項9】
前記第1のグループのそれぞれ1つのブレーキ回路が自動車の1つの前車輪の車輪ブレーキと結合されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項10】
前記第2のグループのブレーキ回路(3)が自動車の2つの後車輪(5、6)の両方の車輪ブレーキと結合されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項11】
前記第2のグループのブレーキ回路(3)が、エンジン/モータにより駆動されている後車軸(27)に作用することを特徴とする請求項10に記載のブレーキ装置。
【請求項12】
前記制御装置(22)が、前記第1のグループのブレーキ回路(1、2)へのブレーキ力分配を調節するための手段(10、10a、11、12、13、14)と結合されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項13】
前記第1のグループのブレーキ回路(1、2)のみならず、前記第2のグループのブレーキ回路(3)もまた、少なくとも1つの油圧ポンプ(15、15a、15b)を有し、この場合、油圧ポンプが共通のポンプ駆動装置(36)と動的に結合されている、ブレーキ装置において、
前記第1のグループのブレーキ回路(1、2)に付属された油圧ポンプ(15、15b)が、特にポンプ駆動軸の回転方向によって制御可能なフリーホイール・クラッチ(38)により、ポンプ駆動装置(36)から機械的に切離し可能であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項14】
前記第1のグループのブレーキ回路(1、2)および前記第2のグループのブレーキ回路(3)が、少なくとも1つの油圧ポンプ(15、15a、15b)を有し、この場合、油圧ポンプが共通のポンプ駆動装置(36)と動的に結合されている、ブレーキ装置において、
前記第1のグループのブレーキ回路(1、2)に付属された油圧ポンプ(15、15b)の吸込側が、弁(39)を介して、それぞれの高圧吐出側と結合可能であり、かつ、特にばね付勢された逆止弁(40)を介して、それぞれのブレーキ回路の高圧側と結合されていることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項15】
前記第1のグループの油圧ブレーキ回路(1、2)が直接ブレーキ圧力発生装置(7)によって付勢され、前記ブレーキ希望がセンサ(21)により決定され、および前記制御装置(22)が、意図された全ブレーキ作用を達成するために、作用する作用装置(20)の減速を考慮して、第2のグループのブレーキ回路(3)を操作する、請求項1ないし14のいずれかに記載のブレーキ装置の作動方法。
【請求項16】
手動でまたはペダル(8)により操作可能なブレーキ圧力発生装置(7)と結合され、かつ、車輪ブレーキへのそれらの作用が弁(10、10a、11、12、13、14)により制御可能である少なくとも2つの油圧ブレーキ回路(1、2)からなる第1のグループと、
継続して前記ブレーキ圧力発生装置(7)から油圧的に切り離され且つ自動制御装置(22)のみにより制御されている少なくとも1つの油圧ブレーキ回路(3)と、
を備えた自動車のブレーキ装置用油圧装置。
【請求項17】
継続して前記ブレーキ圧力発生装置(7)から切り離された前記ブレーキ回路(3)が油圧ポンプを有し、油圧ポンプは、吸込側が前記ブレーキ圧力発生装置の低圧貯蔵容器と結合されていることを特徴とする請求項16に記載の油圧装置。
【請求項18】
継続して前記ブレーキ圧力発生装置(7)から切り離された前記ブレーキ回路(3)が油圧ポンプを有し、油圧ポンプは、高圧側において、一方で、前記ブレーキ回路の高圧部分と、他方で、圧力制御のために、特に無通電において開放する制御可能な弁(18a)を介して、前記ブレーキ圧力発生装置(7)の低圧貯蔵容器と結合されていることを特徴とする請求項16または17に記載の油圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−521842(P2011−521842A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512046(P2011−512046)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054663
【国際公開番号】WO2009/149977
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】