自動車駆動用モータの回転角度検出装置および回転角度検出装置付き軸受
【課題】コンパクト・軽量で簡単に組付けでき、外部での電気回路や部品を少なくできる自動車駆動用モータの回転角度検出装置および回転角度検出装置付き軸受を提供する。
【解決手段】回転角度検出装置1は、同心のリング状に設けられ互いに磁極数が異なる複数の磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2と、各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサ3A,3Bとを備える。各磁気センサ3A,3Bは、磁気トラック2A,2Bの磁極内の位置情報を検出する機能を有する。各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段6と、この検出した位相差に基づき磁気トラック2A,2Bの絶対角度を算出する角度算出手段7と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段8とを設ける。磁気エンコーダ2は、自動車駆動用モータの出力軸51またはその軸受に設置する。
【解決手段】回転角度検出装置1は、同心のリング状に設けられ互いに磁極数が異なる複数の磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2と、各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサ3A,3Bとを備える。各磁気センサ3A,3Bは、磁気トラック2A,2Bの磁極内の位置情報を検出する機能を有する。各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段6と、この検出した位相差に基づき磁気トラック2A,2Bの絶対角度を算出する角度算出手段7と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段8とを設ける。磁気エンコーダ2は、自動車駆動用モータの出力軸51またはその軸受に設置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラシレスモータ等のモータ制御に必要なロータ角度の検出、特に、電気自動車やハイブリッド自動車における駆動用モータのロータ角度検出に用いられる回転角度検出装置、およびこの回転角度検出装置を一体に組み込んだ回転角度検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の機器における回転角度検出に用いられる回転角度検出装置として、異なる磁極数で着磁した複列の磁気エンコーダと、その磁極対内の位相を検出できるセンサとを組み合わせて、隣接する磁気エンコーダ間の位相差から絶対角度を検出するようにしたもの、およびこの回転角度検出装置を軸受に搭載した回転角度検出装置付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
回転角度検出装置の他の例として、そのセンサを、熱可塑性エラストマもしくはゴム弾性を示す材料で覆い状態に成形したもの、およびその回転角度検出装置を車輪用軸受に搭載した回転角度検出装置付き車輪用軸受、さらにその回転角度検出装置のセンサ部品の振動や熱膨張による損傷を防止し、防水性、密封性を高めた回転角度検出装置の実装方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0004】
なお、上記特許文献1,2に開示の回転角度検出装置では、電気自動車やハイブリッド自動車に組み込んだ使用形態については開示されていない。電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータを制御するためには、モータロータの回転角度を正確に把握する必要がある。従来、モータロータの回転角度を検出する回転角度検出装置として、レゾルバを用いた各種のもの(特許文献3〜6)が知られている。
【0005】
特許文献3には、自動車駆動用モータの電磁ノイズを避けるために、隔壁の外側にレゾルバを配置した構成例が開示されている。特許文献4には、ハイブリッド自動車の変速機ユニットにおけるレゾルバの固定構造が開示されている。特許文献5には、ハイブリッド自動車の回転角度検出装置として、プリント基板で構成したレゾルバを適用したものが開示されている。この文献では、積層鋼板を用いた可変リラクタンス型レゾルバ(VR型レゾルバ)での課題が挙げられており、回転ぶれの影響や、小型化が難しいことが述べられている。特許文献6には、ハイブリッド自動車の回転角度検出装置として、プリント基板で構成したレゾルバを適用した場合に、冷却(潤滑)用オイルにさらされた環境での課題点が述べられている。高速回転時のオイルによるせん断力や、オイル添加剤に含まれる硫黄などの化学的作用に対する耐性が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−233069号公報
【特許文献2】特願2007−223481号
【特許文献3】特開2001−078393号公報
【特許文献4】特開2007−336714号公報
【特許文献5】特開2008−197046号公報
【特許文献6】特開2008−215835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、自動車用駆動用モータの制御のためには高精度のロータ角度情報が必要であり、その回転角度検出装置としてレゾルバが広く用いられている。
しかし、自動車用部品は、燃費向上のために小型,軽量化が強く求められる。回転角度検出装置においても、サイズを小さくして重量を減らすために、できるだけコンパクトに構成する必要があるが、従来のレゾルバでは対処が難しい。
自動車駆動用モータに広く使われているレゾルバは、コイルによる検出方式のVR型レゾルバであり、磁性材料の積層鋼板で構成されるため、重量もサイズも大きくなる。また、検出精度を確保するためには、レゾルバロータとレゾルバステータに高い加工精度が要求され、組み付け工程では相対位置を精度良く管理する必要がある。
【0008】
一方、特許文献5,6に開示されているように、自動車駆動用モータに組み込まれる回転角度検出装置の設置環境は苛酷であり、高い環境耐性を備えている必要がある。レゾルバの検出部は積層鋼板とコイルとで構成されるため、上記のように苛酷な環境に強いという特徴があるが、レゾルバ信号から回転角度を算出するには別途処理回路(RDコンバータ)が必要で、制御装置などにこの処理回路を搭載する必要があるため、実装スペースや部品コストが増加してしまう。特許文献5,6に開示されているようなプリント基板を用いたレゾルバの場合、積層鋼板とコイルを用いた構成よりも軽量で省スペース化を実現しやすいが、RDコンバータのような処理回路が必要なのは同様である。
【0009】
この発明の目的は、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる自動車駆動用モータの回転角度検出装置および回転角度検出装置付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置は、それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、
自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたことを特徴とする。磁気エンコーダの磁気トラックは、例えば2列または3列とされる。磁気トラックは、1回転の間にそれぞれの位相関係が繰り返して変化する構成でも良い。
【0011】
磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダ、例えば磁極対が12の磁気トラックと13の磁気トラックを用いて回転させると、これらの磁界を検出する2つの磁気センサの信号の間には、1回転に1磁極対分の位相ずれが発生する。この位相差を位相差検出手段で検出し、その位相差に基づいて角度算出手段により1回転の区間での絶対角度を算出し、これをモータロータの回転角度として信号出力手段により外部のモータ制御装置に送信することができる。各磁気センサは、各磁気エンコーダの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものとしているので、精度良く絶対角度を検出できる。
また、磁気エンコーダと磁気センサとを備えた構成により小型・軽量な回転角度検出装置となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータにおいては、モータロータの内径側位置に回転角度検出装置を配置することができる。これにより、自動車駆動用モータの軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置を組み込むことができる。また、モータロータの内径側に回転角度検出装置を配置できることから、自動車駆動用モータの洩れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した回転角度検出が可能となる。
その結果、自動車駆動用モータに使用しても、コパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる回転角度検出装置とすることができる。
【0012】
この発明において、前記磁気センサは、磁気トラックの磁極の並び方向に並べて配置された複数の磁気検出部を有し、それらの磁気検出部の出力を演算してsin およびcos の2相の信号を生成して、磁極内における位置を検出するものであっても良い。
このように、使用する磁気センサの検出方式を、磁気トラックの磁極内の磁界強度分布に基づいて磁気的な位相情報を検出する差動式の検出方式とすると、洩れ磁界などのノイズの影響を受けにくく、磁気トラックの信号を正確に読み取って、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0013】
この発明において、前記磁気センサ、位相差検出手段、角度算出手段、および信号出力手段が、集積回路に一体化されていても良い。集積回路に集積した場合、信頼性の向上、小型化、堅固化が図れ、また量産時のコスト低下が図れる。
【0014】
この発明において、前記磁気センサがセンサケースに組み込まれ、磁気センサの背面には、少なくとも磁気センサよりも広い面積の磁性板が配置されているのが望ましい。この構成の場合、磁気センサに駆動用モータからの洩れ磁界が侵入するのを磁性板で防止することができる。
【0015】
この発明において、隣り合う磁気トラック間に磁性体からなるスペーサを介在させても良い。この構成の場合、隣り合う磁気トラックがスペーサで分離される。これにより、対応する磁気センサの間隔を広げなくても、両磁気トラックの磁気パターンの間での干渉を小さくすることができ、磁界の干渉に起因する絶対角度の検出誤差も低減でき、絶対角度を精度良く検出できる。
【0016】
この発明において、前記各磁気トラックは、磁性体製の共通の板状芯金の表面に磁極を並べて設けられ、前記スペーサは前記板状芯金を折り曲げ加工して形成されていても良い。この構成の場合、共通の板状芯金の表面に各磁気トラックの磁極を並べて設けるので、簡単な構造とすることができる。
【0017】
この発明において、前記各磁気トラックがゴム磁石またはプラスチック磁石からなるものであっても良い。自動車駆動用モータに回転角度検出装置を組み込む場合、高い環境耐性を備えている必要があるが、各磁気トラックがゴム磁石やプラスチック磁石からなるものであると、高温対応および耐油性能を備えたものとすることができる。
【0018】
この発明において、前記各磁気エンコーダは、磁気トラックの磁極の並びの特定位置を示す目視可能なマークを有するものとしても良い。前記特定位置は、例えば原点位置である。前記マークは、記号等であっても、また切欠や刻印等であっても良い。この構成の場合、駆動用モータのロータへ磁気エンコーダを組み付ける時に、取付け位相を確認しながら作業することができる。
【0019】
この発明において、前記信号出力手段は信号ケーブルを有し、この信号ケーブルはシールド構造のものであっても良い。この構成の場合、駆動用モータのスイッチングノイズなどに対するノイズ耐性を確保することができ、信号伝達の信頼性を高めることができる。
【0020】
この発明において、前記ロータの回転軸を支持する転がり軸受の内輪に前記磁気エンコーダを設置し、外輪に前記磁気センサを設置しても良い。この構成の場合、転がり軸受に磁気エンコーダおよび磁気センサが取付けられるので回転角度検出装置の自動車駆動用モータへの設置が容易となる。
【0021】
この発明において、前記自動車駆動用モータが、インホイール式の自動車駆動用モータであっても良い。インホイール式の自動車駆動用モータである場合にも、この発明の、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできるという効果が、効果的に発揮される。なお、この明細書で言うインホイール式の自動車駆動用モータは、必ずしもモータ自身がホイールに内蔵されていなくても良く、モータを含むアセンブリ部品の一部がホイールに内蔵されているものを含む。例えば、モータと減速機と車輪用軸受が一つのアセンブル部品として組まれていて、そのアセンブル部品の車輪用軸受の部分がホイール内に位置するものも、上記モータをインホイール式の自動車駆動用モータと称す。
【0022】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受は、自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、この発明の上記いずれかの構成の回転角度検出装置を一体に取付けたことを特徴とする。
この構成によると、絶対角度の検出機能を有しながら、自動車駆動用モータの部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。また、組付け時にセンサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化できる。
【0023】
この発明において、前記軸受の回転輪となる内輪に、前記磁気エンコーダの原点位置を示す目視可能なマークが設けられていても良い。この構成の場合、駆動用モータに回転角度検出装置付き軸受を組み込む際に、機械的に概略の位相を合わせることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置は、それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたため、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けできて、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる。
【0025】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受は、自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、この発明の上記いずれかの構成の回転角度検出装置を一体に取付けたため、絶対角度の検出機能を有しながら、自動車駆動用モータの部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの断面図である。
【図2】同回転角度検出装置付き軸受の拡大断面図である。
【図3】同回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の概略構成を示す図である。
【図4】同回転角度検出装置における磁気エンコーダの部分拡大断面図である。
【図5】同回転角度検出装置における磁気センサの一構成例の説明図である。
【図6】磁気センサの他の構成例の説明図である。
【図7】磁気センサの検出信号および位相差検出手段の検出信号の波形図である。
【図8】各磁気センサの検出信号の位相と両検出信号の位相差を示す波形図である。
【図9】この回転角度検出装置の絶対角度検出回路の一構成例を示すブロック図である。
【図10】この回転角度検出装置における角度情報出力回路の一構成例を示すブロック図である。
【図11】回転角度検出装置付き軸受の他の構成例の拡大断面図である。
【図12】回転角度検出装置における磁気エンコーダの他の構成例の部分平面図である。
【図13】この発明の他の実施形態の回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの部分断面図である。
【図14】(A)は同回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の概略構成を示す正面図、(B)は同回転角度検出装置における磁気エンコーダの部分拡大断面図である。
【図15】(A)は図13の実施形態の回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の他の構成例を示す断面図、(B)は同回転角度検出装置における磁気センサ側の正面図、(C)は(A)のA部の拡大図である。
【図16】同回転角度検出装置のさらに他の概略構成を示す正面図である。
【図17】この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの断面図である。
【図18】同回転角度検出装置の概略構成を示す図である。
【図19】この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置における磁気センサ側部品であるセンサアッシの断面図である。
【図20】同センサアッシの圧縮成形前の段階を表す断面図である。
【図21】同センサアッシを上型、下型間に挟み込んだ状態を表す断面図である。
【図22】図13の実施形態の回転角度検出装置を装備したインホイールモータ付き車輪用軸受装置の断面図である。
【図23】図22のXXIII-XXIII 線断面図である。
【図24】図22のXXIV部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図10と共に説明する。図1は、この実施形態の回転角度検出装置付き軸受が組み付けられたハイブリッド自動車における駆動用モータとその周辺部の断面図を示す。同図において、図示しないエンジンの出力軸が駆動用モータ50の出力軸51に接続され、さらにその出力軸51が減速機53を介して発電機54の出力軸55に接続されている。駆動用モータ50と発電機54の回転、および減速機53の状態を制御して、最適な出力状態が得られるように構成される。これら駆動用モータ50、減速機53および発電機54は密封構造のハウジング56内に設置される。ハウジング56は、周壁56aと、両側の端部壁56b,56cと、駆動用モータ50と減速機53との設置空間を仕切る仕切り壁56dと、減速機53と発電機54との設置空間の間を仕切る仕切り壁56eとで構成される。
駆動用モータ50の本体部はモータロータ50aとその外周に配置されるモータステータ50bとでなる。モータロータ50aは、出力軸51となる回転軸が中心に設けられ、モータステータ50bはハウジング56の周壁56aの内面に設置される。駆動用モータ50の出力軸51は、軸受57および回転角度検出装置付き軸受58を介して前記ハウジング56に回転自在に支持されている。各軸受57,58は転がり軸受からなり、これら軸受57,58の外輪は、ハウジング56の端部壁56bおよび仕切り壁56dにそれぞれ設置されている。軸受57,58の内輪は、出力軸51,55に圧入等により固定されている。
【0028】
発電機54の本体部は発電機ロータ54aとその外周に配置される発電機ステータ54bとでなる。発電機ロータ54aは出力軸55に嵌着され、発電機ステータ54bはハウジング56に設置される。発電機54の出力軸55は、軸受59および回転角度検出装置付き軸受58Aを介して前記ハウジング56に回転自在に支持されている。この構成により、駆動用モータ50と発電機54の回転、および減速機53の状態を制御して、最適な出力状態が得られるようにされる。駆動用モータ50および発電機54の制御には、それらのロータ角度を精度良く検出する必要があり、ステータコイルの駆動電流を切り替えるなどの制御のために、前記回転角度検出装置付き軸受58,58Aにおける回転角度検出装置で検出されるロータ角度が使用される。2つの回転角度検出装置付き軸受58,58Aは共に同じ構成のものである。
【0029】
図2は、駆動用モータ50の出力軸51をハウジング56に回転自在に支持する回転角度検出装置付き軸受58の拡大断面図を示す。この回転角度検出装置付き軸受58は、回転側軌道輪である内輪22と固定側軌道輪である外輪23の間に複数の転動体24が介在する転がり軸受21の一端部に、回転角度検出装置1を設けたものである。転がり軸受21は深溝玉軸受からなり、内輪22の外径面および外輪23の内径面にはそれぞれ転動体24の転走面22a,23aが形成されている。内輪22と外輪23の間の軸受空間は、回転角度検出装置1の設置側とは反対側の端部がシール26で密封されている。
【0030】
図3は、この実施形態における前記回転角度検出装置1の概略構成を示す。この回転角度検出装置1は、前記転がり軸受21の内輪22の外周に設けられた磁気エンコーダ2と、磁気センサ3A,3Bを有するセンサユニット3とを備える。磁気エンコーダ2は、その軸心Oに対して同心のリング状に設けられた複数(ここでは2つ)の磁気トラック2A,2Bを有する。前記磁気センサ3A,3Bは、これら各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出するセンサである。これら磁気センサ3A,3Bは、図3の例では、各磁気トラック2A,2Bに対して微小のギャップを介してそれぞれ径方向(ラジアル方向)に対向するように固定部材であるセンサケース5に設けられる。ここでは、磁気センサ3Aが磁気エンコーダ2Aに対向し、磁気センサ3Bが磁気エンコーダ2Bに対向する。
【0031】
磁気トラック2A,2Bは、複数の磁極対(磁極Sと磁極Nの1組)を周方向に等ピッチで着磁させたリング状の磁性部材であり、ラジアルタイプであるこの例では、その外周面に磁極対が着磁されている。これら2つの磁気トラック2A,2Bの磁極対の数は互いに異ならせてある。磁気トラック2A,2Bは、1回転の間にそれぞれの位相関係が繰り返して変化する構成でも良い。例えば、120度毎に位相が一致する構成では、120度区間を絶対角度で検出することができる。また、この実施形態では2列の磁気トラック2A,2Bを設けたが、磁気トラックは3列であっても、さらに多数列としても良い。列数を増やせば、より広い角度範囲の絶対角度が検出できる。
【0032】
図2の一部を拡大して示す図4のように、両磁気トラック2A,2Bは、磁性体製の共通の芯金12に設けられ、この芯金12および磁気トラック2A,2Bからなる磁気エンコーダ2が、転がり軸受21の内輪22の外周に取付けられる。すなわち、芯金12はリング状の部材であって、その外周面に2つの磁気トラック2A,2Bが、軸方向に並べて設けられている。芯金12における磁気トラック設置部12aの一側部には、磁気トラック設置部12aよりも小径となって軸方向に延びる嵌合筒部12bが形成されている。この嵌合筒部12bを転がり軸受21の内輪22の外周面に圧入等で嵌合させることで、芯金12が内輪22に固定される。芯金12の磁気トラック設置部12aには、隣り合う各磁気トラック2A,2Bの間に位置してこれら磁気トラック2A,2Bを分離するスペーサとなるリング状の曲げ形状部12aaが、磁気トラック2A,2Bと同心に形成されている。曲げ形状部12aaは、芯金12の各磁気トラック2A,2Bが設けられる外周面側に向けて折り重ね片状に突出する。この曲げ形状部12aaで、隣り合う磁気トラック2A,2Bが分離される。これにより、対応する磁気センサ3A,3Bの間隔を広げなくても、2つの磁気トラック2A,2Bの間での磁界の干渉を抑え、磁界の干渉に起因する検出誤差も低減でき、各磁気トラック2A,2Bの磁気信号を精度良く検出することができる。また、共通の芯金12の外周面に各磁気トラック2A,2Bの磁極を並べて設けるので、簡単な構造とすることができる。これら磁気トラック2A,2Bは、ゴム磁石やプラスチック磁石とする場合、前記スペーサとなる曲げ形状部12aaを有する芯金12と一体成形成形することが望ましい。
なお、転がり軸受21の内輪22には、クリープを防止するためにキー溝や切欠き等の回り止め手段(図示せず)を設けても良い。回り止め手段を設ける場合、磁気エンコーダ2の取付位置や取付方向のマーク、すなわち指標を兼ねるものとしても良い。この場合、磁気トラック2A,2Bの原点位置を前記キー溝などの位置に合わせて固定すると良い。これにより、回転角度検出装置付き軸受58を駆動用モータ50に組み付ける際に、機械的に磁気トラック2A,2Bの位相を合わせることができる。
【0033】
磁気トラック2A,2Bは、耐油性および高温対応特性を備えたものとするために、磁性体製とした芯金12に、磁性体粉が混入された弾性部材を加硫接着し、この弾性部材を、円周方向に交互に磁極を形成してゴム磁石として構成される。この場合の弾性材料としては、NBR(ニトリルゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)、アクリルゴム、フッ素ゴムなどが望ましい。
磁気トラック2A,2Bの他の構成例として、磁性体製とした芯金12に、磁性体粉が混入された樹脂を成形した樹脂成形体を設け、この樹脂成形体を、円周方向に交互に磁極を形成して樹脂磁石としても良い。
磁気トラック2A,2Bのさらに他の構成例として、磁性体粉と非磁性体粉との混合粉が焼結された焼結体に、円周方向に交互に磁極を形成して焼結磁石としても良い。これらの磁石としては、磁性体粉としてフェライトを用いたものや、SmFeN,SmCo,NdFeBなど希土類磁石が使用される。
【0034】
磁気センサ3A,3Bは、対応する磁気トラック2A,2Bの磁極対の数よりも高い分解能で磁極検出できる機能、つまり磁気トラック2A,2Bの磁極の範囲内における位置の情報を検出する機能を有するものとされる。この機能を満たすために、例えば磁気センサ3Aとして、対応する磁気トラック2Aの1磁極対のピッチλを1周期とするとき、図5のように90度位相差(λ/4)となるように磁極の並び方向に離して配置したホール素子などの2つの磁気センサ素子3A1,3A2を用い、これら2つの磁気センサ素子3A1,3A2により得られる2相の信号(sinφ,cosφ) から磁極内位相(φ=tan-1(sinφ/cos φ))を逓倍して算出するものとしても良い。他の磁気センサ3Bについても同様である。なお、図5の波形図は、磁気エンコーダ2Aの磁極の配列を磁界強度に換算して示したものである。
【0035】
磁気センサ3A,3Bをこのような構成とすると、磁気トラック2A,2Bの磁界分布をオン・オフ信号としてではなく、アナログ電圧による正弦波状の信号としてより細かく検出でき、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0036】
磁気トラック2A,2Bの磁極内における位置の情報を検出する機能を有する磁気センサ3A,3Bの他の例として、図6(B)に示すようなラインセンサを用いても良い。すなわち、例えば磁気センサ3Aとして、対応する磁気エンコーダ2Aの磁極の並び方向に沿って磁気センサ素子3aが並ぶラインセンサ3AA,3ABを用いる。なお、図6(A)は、磁気エンコーダ2Aにおける1磁極の区間を磁界強度に換算して波形図で示したものである。この場合、磁気センサ3Aの第1のラインセンサ3AAは、図6(A)における180度の位相空間のうち90度の位相区間に対応付けて配置し、第2のラインセンサ3ABは残りの90度の位相区間に対応付けて配置する。このような配置構成により、第1のラインセンサ3AAの検出信号を加算回路31で加算した信号S1と、第2のランセンサ3ABの検出信号を加算回路32で加算した信号S2を別の加算回路33で加算することで、図6(C)に示すような磁界信号に応じたsin 信号を得る。また、信号S1と、インバータ35を介した信号S2をさらに別の加算回路34で加算することで、図6(C)に示すような磁界信号に応じたcos 信号を得る。このようにして得られた2相の出力信号から、磁極内における位置を検出する。
【0037】
磁気センサ3A,3Bをこのようにラインセンサで構成した場合、磁界パターンの歪みやノイズの影響が低減されて、より高い精度で磁気エンコ−ダ2A,2Bの位相を検出することが可能である。
【0038】
例えば、図3の構成例において、磁気センサ3A,3Bは位相差検出手段6に接続される。位相差検出手段6は、各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を求める手段であり、その後段に角度算出手段7が接続される。角度算出手段7は、位相差検出手段6の検出した位相差に基づいて磁気トラック2A,2Bの絶対角度を算出する手段である。算出された絶対角度の情報は、信号ケーブル37を含む信号出力手段8によって外部に出力される。
【0039】
回転角度検出装置1の2つの磁気センサ3A,3Bは、これら磁気センサ3A,3Bと他の信号処理回路とが実装された回路基板27と共にセンサモジュール25として一体化され、リング状の金属製センサケース5の内側に挿入される。これらの磁気センサ3A,3B、センサモジュール25、およびセンサケース5によりセンサユニット3が構成される。油による化学的作用を防止するために、センサモジュール25における回路基板27は、樹脂材料あるいはゴム材料からなるモールディング部30で被覆され、センサケース5を介して転がり軸受21の外輪23の一端部の内径面に取付けられる。これにより、磁気トラック2A,2Bと対応する磁気センサ3A,3Bとがラジアル方向に対向配置される。センサケース5と磁気トラック2A,2Bとの位置関係が転がり軸受21への組み込みによって管理されるため、磁気センサ3A,3Bと磁気トラック2A,2Bとの位置決め固定が容易になる。また、前記センサモジュール25は、センサケース5における周方向の一部だけに配置される。これにより、センサケース5からセンサモジュール25だけを取り外しできるので、メンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0040】
磁気センサ3A,3Bの検出する磁気トラック2A,2Bの磁界情報が、モータ磁界によって乱されるのを防止するために、センサケース5の材料として磁性材料を用いるのが望ましい。具体的には、センサケース5の材料として、例えば板厚0.5mm程度の圧延鋼板(SPCC材)を用いるのが望ましい。センサケース5が磁性材料でない場合でも、磁気センサ3A,3Bの磁気トラック2A,2Bと対向する面とは反対側の背面には、少なくとも磁気センサ3A,3Bよりも広い面積の磁性板36が配置される。これにより、磁気センサ3A,3Bに駆動用モータ50からの洩れ磁界が侵入するのを磁性板36で防止することができる。
【0041】
上記構成の回転角度検出装置1による絶対角度検出の概略動作を、図7および図8を参照して以下に説明する。図3において、2つの磁気エンコーダ2B,2Aの磁極対の数をPとP+nとすると、両磁気トラック2A,2Bの間では1回転あたり磁極対にしてn個分の位相差があるので、これら磁気トラック2A,2Bに対応する磁気センサ3A,3Bの検出信号の位相は、360/n度回転するごとに一致する。
【0042】
図7(A),(B)には両磁気トラック2A,2Bの磁極のパターン例を示し、図7(C),(D)にはこれら磁気エンコーダに対応する磁気センサ3A,3Bの検出信号の波形を示す。この場合、磁気エンコーダ2Aの3磁極対に対して、磁気エンコーダ2Bの2磁極対が対応しており、この区間内での絶対位置を検出することができる。図7(E)は、図7(C),(D)の検出信号に基づき、図3の位相差検出手段6より求められる位相差の出力信号の波形図を示す。
なお、図8は、各磁気センサ3A,3Bによる検出位相と位相差の波形図を示す。すなわち、図8(A),(B)には両磁気トラック2A,2Bの磁極のパターン例を示し、図8(C),(D)には対応する磁気センサ3A,3Bの検出位相の波形図を示し、図8(E)には位相差検出手段6より出力される位相差信号の波形図を示す。
【0043】
図9は、この回転角度検出装置1における絶対角度検出回路の構成例を示す。図7(C),(D)に示したような各磁気センサ3A,3Bの検出信号に基づき、それぞれ対応する位相検出回路13A,13Bは、図8(C),(D)に示したような検出位相信号を出力する。位相差検出手段6は、これらの検出位相信号に基づき、図8(E)に示したような位相差信号を出力する。その次段に設けられた角度算出手段7は、位相差検出手段6で求められた位相差を、予め設定された計算パラメータにしたがって絶対角度へ換算する処理を行う。角度算出手段7で用いられる計算パラメータは不揮発メモリなどのメモリ9に記憶されている。このメモリ9には、前記計算パラメータのほか、磁気トラック2A,2Bの磁極対の数の設定、絶対角度基準位置、信号出力の方法など、装置の動作に必要な情報が記憶されている。ここでは、メモリ9の次段に通信インタフェース10を設けることで、通信インタフェース10を通じてメモリ9の内容を更新できる構成とされている。これにより、個別の設定情報を使用状況に応じて可変設定でき、使い勝手が良くなる。
【0044】
角度算出手段7で算出された絶対角度情報は、パラレル信号、シリアルデータ、アナログ電圧、PWMなどの変調信号として、角度情報出力回路11から、あるいは前記通信インタフェース10を介して出力される。また、角度算出手段7からは回転パルス信号も出力される。回転パルス信号としては、2つの磁気センサ3A,3Bの検出信号のうち、いずれか1つの信号を出力すれば良い。上記したように、各磁気センサ3A,3Bはそれぞれ逓倍機能を備えているので、高い分解能で回転信号を出力することができる。
【0045】
図9の角度情報出力回路11では、前記角度算出手段7で算出された絶対角度を、互いに90度位相の異なるA相およびB相の2つのパルス信号と、原点位置を示すZ相のパルス信号とでなるABZ相信号として出力するようにしても良い。
この場合、図10に示すように、受信側回路14から角度情報出力回路11に対して絶対角度出力の要求信号が入力されると、これに呼応して角度情報出力回路11における絶対角度実行手段15が動作可能となり、角度情報出力回路11におけるモード実行信号生成手段16から絶対角度出力モード中であることを示すモード実行信号(ABS_mode=1)が生成され、角度情報出力回路11における回転パルス信号生成手段17からA,B,Z相信号が出力されるように、角度情報出力回路11を構成しても良い。
受信側回路14では、Z相信号を受信することで絶対角度値を示すポジションカウンタ18が0にリセットされ、Z相信号に続いて出力されるA相信号およびB相信号を、前記ポジションカウンタ18が計数する。A相信号およびB相信号のパルス出力が、一旦現在の絶対角度値に達すると、そこで絶対角度出力モード動作が終了する(ABS_mode=0)。その後は、モータ出力軸51つまりモータロータ50a(図1)の回転に伴い検出される絶対角度の変化に応じた回転パルス信号(ABZ相信号)を角度算出手段7から出力する。これにより、パルスを計数することで絶対角度を知る受信側回路14では、絶対角度出力モード動作が終了(ABS_mode=0)となった後は実際の絶対角度情報を常に取得している状態となる。前記角度情報出力回路11、信号ケーブル37、受信側回路14などにより前記信号出力手段8が構成される。使用する信号ケーブル37はシールド構造のものが望ましい。
【0046】
上記した絶対角度情報を出力するために、前記信号ケーブル37としては、例えば6本の電線(電源、GND、A相、B相、Z相、通信線)が必要となる。駆動用モータ50のスイッチングノイズなどに対するノイズ耐性を確保するためには、各信号線を差動信号で構成するのが望ましいが、それでは導体本数が増えてしまう。そのため、省配線、省スペース化を優先すると、信号を差動にせず最低限の導体本数で構成し、シールドケーブルを使用してノイズ対策を施すのが望ましい。
【0047】
このように、角度情報出力回路11からABZ相信号のような回転パルス信号を出力し、絶対角度出力モードによって絶対角度情報を出力する構成とすると、絶対角度を出力するインタフェースを別途備える必要がなく、この回転角度検出装置1の回路構成、および回転角度検出装置1を一体に取付た回転角度検出装置付き軸受58の構成を簡略化することができる。
【0048】
また、この回転角度検出装置1では、前記磁気センサ3A,3Bと、図9に示した角度情報出力回路11を含む信号処理回路とを、センサモジュール25として一体化しているが、このセンサモジュール25を1つの半導体チップに集積しても良い。このように構成した場合、部品点数の低減、磁気センサ3A,3Bの互いの位置精度の向上、製造コストの低減、組立コストの低減、信号ノイズ低減による検出精度・信頼性向上などのメリットが得られ、小型かつ堅固で低コストの回転角度検出装置1とすることができる。
【0049】
このように、この回転角度検出装置1は、同心のリング状に設けられ互いに磁極数が異なる複数の磁気トラック2A,2Bと、これら各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサ3A,3Bとを備え、これら各磁気センサ3A,3Bは磁気トラック2A,2Bの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものとし、各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を位相差検出手段6で求め、この検出した位相差に基づいて磁気トラック2A,2Bの絶対角度を角度算出手段7で算出し、算出した絶対角度を信号出力手段8で外部に取り出すようにしているので、構造が簡単となり、精度良く絶対角度を検出し外部に取り出すことができる。
また、磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2と磁気センサ3A,3Bとを備えた構成により小型・軽量な回転角度検出装置1となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータ50においては、モータロータ50aの内径側位置に回転角度検出装置1を配置することができる。これにより、駆動用モータ50の軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置1を組み込むことができる。また、モータロータ50aの内径側に回転角度検出装置1を配置できることから、駆動用モータ50の洩れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した回転角度検出が可能となる。その結果、自動車駆動用モータ50に使用して、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる回転角度検出装置1とすることができる。
【0050】
この実施形態では、2つの磁気トラック2A,2Bを用いたものを例示したが、磁気トラックは2つでなくても良く、磁極対の数の異なる3つ以上の磁気トラックを組み合わせて、より広い範囲の絶対角度を検出する構成としても良い。この回転角度検出装置1の磁極対の数の差の調整において、駆動用モータ50(図1)のロータ極数Pnに合わせてPとP+Pnという組合せとすれば、回転角度検出装置1により駆動用モータ50の電気角を検出できるため、駆動用モータ50の回転制御に好都合である。
【0051】
また、上記回転角度検出装置1を一体に取付けた回転角度検出装置付き軸受58では、上記回転角度検出装置1を転がり軸受21に搭載しているので、絶対角度の検出機能を有しながら、駆動用モータ50の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化を図ることができる。また、組付け時にセンサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化できる。発電機54の出力軸55を支持する回転角度検出装置付き軸受58Aの作用効果も、駆動用モータ50の出力軸51を支持する回転角度検出装置付き軸受58の場合と同様である。
【0052】
この実施形態の効果を整理すると、次の各効果が得られる。
・磁気エンコーダ2と磁気センサ3A,3Bの構成により小型・軽量な回転角度検出装置となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータ50においては、ロータ50aの内径側位置に磁気センサ3A,3Bを配置することが可能になる。
その結果、自動車駆動用モータ50の軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置を組み込むことができる。
・モータロータ50aの内径側にセンサ回転角度検出装置が配置できるため、モータの漏れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した検出が可能になる。
・磁気センサ3A,3Bの背面に磁性板36を配置して組み込むことにより、漏れ磁界の侵入を防止することができ、より安定した検出が可能になる。
・使用する磁気センサ3A,3Bが、磁気エンコーダ2の磁極内の磁界強度分布に基づいて磁気的な位相情報を検出する、差動式の検出方式であるため、漏れ磁界などのノイズの影響を受けにくく、磁気エンコーダ2の信号を正確に読み取って、精度よく角度を算出することができる。
・センサユニット3の内部に位相差検出手段6,角度算出手段7,信号出力手段等の角度演算処理回路が組み込まれているので、モータの制御装置に別途RDコンバータなどを搭載する必要がなく、回路部品点数と搭載面積の削減、部品コストの低減が可能になる。
・センサユニット3からモータ制御装置間への情報は、ノイズに強いデジタル信号で伝達されるため、大きなモータノイズにも影響を受けにくい。さらに、シールドケーブルにより耐性を高めることで、信号伝達の信頼性を高めることができる。
・軸受21と一体化したため、センサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化される。
【0053】
図11は、回転角度検出装置付き軸受58の他の構成例を示す。この回転角度検出装置付き軸受58では、図2で示した構成例において、回転角度検出装置1における2つの磁気トラック2A,2Bの間に介在してスペーサとなる芯金12の曲げ形状部12aaを省略している。転がり軸受21の内輪22の外周に嵌合する芯金12の嵌合筒部12bは、磁気トラック設置部12aよりも大径とされている。
【0054】
また、この構成例では、磁気エンコーダ2の芯金12に、磁気トラック2A,2Bの磁極の並びの特定位置を示す切り欠きなどの目視可能なマーク19を設けている。マーク19は、記号や刻印等であっても良い。前記特定位置は、例えば、磁気エンコーダ2の全周における1か所となる原点位置とされる。このようにマーク19を設けることにより、駆動用モータ50への回転角度検出装置付き軸受58の組み付け時に、取付け位相を確認しながら作業することが可能となる。その他の構成は、図2で示した構成例の場合と同様である。なお、磁気エンコーダ2が、磁気トラック2A,2Bの磁極の並びにつき、回転方向の正逆によって異なる特性となるものである場合は、磁気エンコーダ2の芯金12に回転方向の正逆を区別する目視可能なマーク(図示せず)を施すことが好ましい。これにより、磁気エンコーダ2の回転方向を誤って出力軸51に取付けることが防止される。磁気エンコーダ2が、芯金12の形状の非対称形状などにより、回転方向の正逆を誤って取付けられる可能性のないものである場合は、上記回転方向の正逆を区別するマークは不要である。
【0055】
駆動用モータ50への回転角度検出装置付き軸受58の組付け時に取付け位相を適正にする対策として、このほか、回転角度検出装置付き軸受58を駆動用モータ50へ組み付けた状態で電源をオンにし、駆動用モータ50を原点位置におよそ位置合わせしたところで原点記憶操作を実行することにより、その位置を原点として登録して角度を算出するように動作する原点位置登録機能部(図示せず)を回転角度検出装置1に設けても良い。この原点位置登録機能部は、例えばセンサモジュール25内の一部、あるいは磁気センサ3A,3Bの実装された回路基板27上に設けた不揮発性メモリ(フラッシュメモリ、EEPROM、フューズメモリなど)で構成でき、これに原点位置情報が記憶される。この構成によると、機械的に初期位相を調整する必要がなく、組み立て時に一度記憶させるだけで良い。また、再調整も記憶し直すだけで済ませることができる。
【0056】
図12は、回転角度検出装置1での磁気トラック2A,2Bにおける磁極の他の構成例を示す。同図では、隣り合う2つの磁気トラック2A,2Bの間に、これらを分離するスペーサとして介在させていた芯金12の曲げ形状部12aaが省略されている例について示している。この例では、一方の磁気トラック2Bにおける原点位置となる1磁極対の磁極N,Sの幅を、他方の磁気トラック2Aの磁極N,Sの幅より狭くしている。他の磁極幅は、2つの磁気トラック2A,2Bの間で互いに同一とされている。これにより、両磁
気トラック2A,2Bの間での磁極区間の相違から、原点位置を検出することができる。
【0057】
図13は、この発明の他の実施形態の回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの部分断面図を示す。この実施形態では、図2に示した回転角度検出装置付き軸受58において、回転角度検出装置1の磁気エンコーダ2として、リング状の磁性部材である芯金12の軸方向端面に、磁気トラック2A,2Bの複数の磁極対を周方向に等ピッチで並ぶように着磁させたアキシアルタイプのものを用いている。ここでは、2つの磁気トラック2A,2Bを、内外周に隣接するように配置している。この場合、その着磁面に対向する軸方向に向けて各磁気センサ3A,3Bが配置される。
【0058】
アキシアルタイプの磁気トラック2A,2Bも、磁性体製の共通の芯金12を介して転がり軸受21の内輪22に取付けられる。この場合の芯金12は、図14のように、各磁気トラック2A,2Bが同心に設置されるリング状で平坦な磁気トラック設置部12aと、この磁気トラック設置部12aの内径側端から軸方向に延びる嵌合筒部12cとでなる。この嵌合筒部12cを内輪22の外周面に嵌合させることで、芯金12が内輪22に固定される。この場合も、芯金12の前記磁気トラック設置部12aには、隣り合う各磁気トラック2A,2Bの間に位置してこれら磁気トラック2A,2Bを互いに分離するスペーサとして、2つの磁気トラック2A,2Bが設けられる表面側に向けて2重の折り重ね片状に突出し円周方向に延びるリング状の曲げ形状部12aaが、磁気トラック2A,2Bと同心に形成されている。この曲げ形状部12aaで、隣り合う磁気トラック2A,2Bが分離される。
【0059】
また、この実施形態では、センサケース5が、駆動用モータ50のハウジング56に固定されている。この場合、センサモジュール25が設けられるセンサケース5は、その磁気トラック2A,2Bに対向する面を非磁性の金属や樹脂材料で形成した密封構造とされている。センサモジュール25には、磁気センサ3A,3Bを実装した回路基板27と信号ケーブル37の一部が、前記非磁性の金属や樹脂材料の外装により封止される。その他の構成は、図1〜図10に示した実施形態の場合と同様である。
【0060】
図15は、図13の回転検出装置付き軸受58におけるセンサケース5の他の構成例を示す。このセンサケース5は、転がり軸受21の中心軸を中心とする円環状の磁性体製品とされ、大径部分5aaおよび小径部分5abを有する段付きの円筒部5aと、この円筒部5aの小径部分5abの端縁から内径側に延びた鍔部5bとからなる。磁気センサ3A,3Bを実装した回路基板27には、絶対角度の算出信号を外部に取り出す信号ケーブル37の一端部が取付けられ、磁気センサ3A,3Bや回路基板27を含むセンサモジュール25が前記センサケース5の鍔部5bに固定される。センサモジュール25はモールディング部30によって覆われる。モールディング部30はゴム弾性を有する材料からなるものとされ、ゴム材または熱可塑性エラストマが適している。ゴム材としては、ニトリルゴム、フッ素ゴムが望ましい。これらは、耐熱性、低温特性、および耐油性に優れる。熱可塑性エラストマとしては、塩化ビニル系、エステル系、アミド系が望ましい。これらは耐熱性、耐油性に優れる。
【0061】
図16は、図13の実施形態における回転角度検出装置の他の構成例を示す正面図である。この回転角度検出装置1では、図13で示した構成例において、2つの磁気トラック2A,2Bの間に介在してスペーサとなる芯金12の曲げ形状部12aaを省略している。その他の構成は図13の構成例の場合と同様である。
【0062】
図17および図18は、この発明の回転角度検出装置のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1に示す実施形態において搭載した回転角度検出装置付き軸受58,58Aを回転角度検出装置1に置き換えている。すなわち、この実施形態では、駆動用モ
ータ50の出力軸51および発電機の出力軸55に、図18に示すラジアルタイプの磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2を直接取付けている。回転角度検出装置付き軸受58,58Aの設置部分には、通常の軸受60,61が設置される。
【0063】
回転角度検出装置1は、出力軸51,55の外周に、その軸心Oに対して同心のリング状に軸方向に並べて設けられたラジアルタイプの2つの芯金付き磁気トラック2A,2Bと、これら各芯金付き磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する2つの磁気センサ3A,3Bとを備える。
【0064】
磁気センサ3A,3Bは、前記各芯金付き磁気トラック2A,2Bに対して微小のギャップを介してそれぞれ径方向(ラジアル方向)に対向するように、駆動用モータ50のハウジング56に設けられる。隣り合う芯金付き磁気トラック2A,2Bの間には、これらの間を分離する磁性体からなるリング状のスペーサ42が介在させてある。その他の構成は、先述した各実施形態の回転角度検出装置1の場合と同様である。
【0065】
図19は、この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置における磁気センサ側部品であるセンサアッシ(すなわち、センサアセンプル部品)の断面図である。このセンサアッシ43は、磁気センサ3A,3B、電極端子45、ケーブル芯線46、ケーブル絶縁被覆47およびケーブルカバー48を有する。センサアッシ43は、その要部が弾性部材49で覆われる。磁気センサ3A,3Bの先端部3aが磁気エンコーダに対向し、磁気センサ3A,3Bのセンサ端子3bに電極端子45が電気的に接続されている。これらセンサ端子3b、電極端子45の延在方向をy方向と定義し、電極端子45の厚み方向をz方向と定義する。y方向およびz方向に直交する方向をx方向と定義する。
【0066】
電極端子45のy方向先端部にケーブル芯線46が電気的に接続され、このケーブル芯線46の電気的絶縁を確保するケーブル絶縁被覆47が設けられている。さらにこのケーブル絶縁被覆47の外部をカバーをするケーブルカバー48が設けられている。磁気センサ3A,3Bを除く電極端子45、ケーブル芯線46、ケーブル絶縁被覆47、およびケーブルカバー48が、周辺部品に相当する。
【0067】
弾性部材49は、例えば加硫剤を混合したゴム材料であってゴム弾性を示す材料からなる。弾性部材49は、磁気センサ3A,3B、電極端子45、ケーブル芯線46およびケーブル絶縁被覆47の全体を、隙間なく密着状態に覆う。さらに弾性部材49は、ケーブルカバー48のy方向一端部を除く大部分を、隙間なく密着状態に覆うように構成されている。
【0068】
弾性部材49として用いるゴム部材には、例えばニトリルゴム、フッ素ゴムが耐熱性、低温特性および耐油性に優れ望ましいが、その他のゴム材料であっても良い。これらのゴム材料の代わりに、熱可塑性エラストマを用いても良い。その中でも、特に耐熱性・耐油性に優れた塩化ビニル系、エステル系、アミド系が望ましい。いずれもセンサアッシ43をモールディングする材料は、ゴム弾性を示す材料であれば良く、図20および図21に示す後述の金型圧縮成型とする。
【0069】
図20は、上型、下型、ゴム材料、およびセンサアッシの金型による圧縮成型前の段階を表す断面図である。図21は、上型、下型間にセンサアッシおよびゴム材料を介在させ挟み込んだ状態を表す断面図である。
【0070】
その成型手順を以下に説明する。センサアッシ43を、上型69および下型70を含む金型62によって、加硫剤を混合したゴム材料49Aとともに挟み成型する。つまり、図20に示すように、上型69、上型70間に、加硫剤を混合したゴム材料49Aとともに
センサアッシ43を挟み、図21に示すように、上型69、下型70でセンサアッシ43等を完全に挟み込んだ状態で、上型69と下型70とを一定時間加熱し、さらにセンサアッシ43等に圧力を付加して圧縮成型する。
【0071】
この場合、加熱前にセンサアッシ43等に圧力を付加すると、磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が破損する可能性があるので、予め加熱によりゴム材料49Aが軟化した状態で加圧することが望ましい。換言すれば、この実施形態では金型成型工程において、上型69および下型70を加熱してゴム材料49Aを軟化させ、その後、前記上型69、下型70間に圧力を付加しているので、硬いゴムに磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が押圧されて破損することを未然に防止することができる。
【0072】
適用可能な金型は、上型および下型からなる金型に限定されるものではなく、上型および下型を含む金型であれば足りる。この実施形態では、上型69と下型70とを一定時間加熱しているが、雰囲気温度、前回の加熱終了時からの経過時間などによっては、上型69および下型70のいずれか一方だけを一定時間加熱する場合もあり得る。金型62の加熱時間は連続的な一定時間に限定されず、間欠的に実施することも可能である。
【0073】
さらに、上型69および下型70間には、予め定める容積しか構成されないので、ゴム材料の量が少ないと弾性部材内部に巣が発生したり、逆に多すぎるとゴム材料が金型62内に収まらず良好に成型できない可能性がある。そこで、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で余分なゴム材料が金型62の外部に流出する隙間δ(図21)を形成する構成が望ましい。
【0074】
この実施形態では、予め定める加圧対象に圧力を付加した状態で、上型69、下型70間に予め定める微小隙間δが形成されるべく上型69および下型70を構成した。これによって、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で、余分なゴム材料の量が少ないことに起因して弾性部材内部に巣か発生することを未然に防止することができる。逆にゴム材料が多すぎることに起因してゴム材料が金型62内に収まらず良好に成型できない不具合を未然に防止することができる。
【0075】
このセンサアッシ43およびその製造方法によれば、センサアッシ43を、熱可塑性エラストマまたはゴム弾性を示す材料49Aで成型してなるので、センサアッシ43の耐久性を高めることができる。センサアッシ43に振動、外力が作用した場合にも、破損などの不具合を防止することができる。環境温度および電子部品の自己発熱によって、センサアッシ43とモールド材である弾性部材49とで異なる熱膨張が発生した場合であっても、弾性部材49の弾性によって、熱膨張差を吸収することができる。したがってセンサアッシ43と弾性部材49との間に不所望に隙間が発生することを防止することができ、センサアッシ43の防水性を保つことができる。前記成型を金型による圧縮成型としているので、一回の成型で大量のセンサアッシ423を製造することができる。したがって射出成形する従来技術のものより、単位時間あたりのセンサアッシ43の製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0076】
また、上記したセンサアッシ43の製造方法によれば、センサアッシ43およびゴム材料49Aを上型69、下型70間に介在させ挟み込んだ後、上型69および下型70を予め定める温度で加熱してゴム材料49Aを軟化させ、その後、前記上型69、下型70間に圧力を付加しているので、(軟化前の)硬いゴムに磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が押圧されて破損することを未然に防止することができる。加圧対象に圧力を付加した状態で、上型69、下型70間に予め定める微小隙間δが形成されるべく上型69、下型70を構成したので、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で、余分なゴム材料49Aを金型42の外部にスムースに流出させることができる。
【0077】
図22〜図24と共に、インホイールモータに適用した例を説明する。この例では、図13の実施形態におけるアキシャル型の構成の回転角度検出装置1を、モータ部Bにおける回転出力軸124の後端側の支持軸受153における外側に配置している。図24に拡大して示すように、支持軸受153の内輪154に、複列の磁気エンコーダ2を嵌合固定し、この磁気エンコーダ2と対向する位置に、磁気センサ3A,3Bを含むセンサモジュール25のセンサケース5を配置している。センサモジュール25およびそのセンサケース5を保持したセンサ支持枠156によりセンサ側部材157が構成される。このセンサ側部材157は、モータハウジング122にボルト158によって取付けられ、支持軸受153の外輪155の端面に押し当て状態とすることで位置決めされている。センサ側部材157の径方向の位置決めは、軸受ハウジングとなるモータハウジング122の軸受取付穴の内径面にセンサ支持枠156の一部を係合させることで成され、これらの位置決めにより、センサ側部材157は、回転出力軸124および磁気エンコーダ2に対して、定められた位置関係になるように固定保持される。
【0078】
図22のインホイールモータ付き車輪用軸受装置の構成を説明する。この車輪用軸受装置は、車両の車輪用軸受AとモータBとの間に減速機Cを介在させ、車輪用軸受Aで支持される駆動輪のハブと駆動用モータBの回転出力軸124とを同軸心上で連結したものである。減速機Cは、サイクロイド減速機であって、モータBの回転出力軸124に同軸に連結される回転入力軸132に偏心部132a,132bを形成し、偏心部132a,132bにそれぞれ軸受135を介して曲線板134a,134bを装着し、曲線板134a,134bの偏心運動を車輪用軸受Aへ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0079】
車輪用軸受Aは、内周に複列の転走面103を形成した外方部材101と、これら各転走面103に対向する転走面104を外周に形成した内方部材102と、これら外方部材101および内方部材102の転走面103,104間に介在した複列の転動体105とで構成される。内方部材102は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受Aは、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体105はボールからなり、各列毎に保持器106で保持されている。外方部材101と内方部材102との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材107でシールされている。
【0080】
外方部材101は静止側軌道輪となるものであって、減速機Cのアウトボード側のハウジング133bに取り付けるフランジ101aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ101aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔114が設けられている。また、ハウジング133bには,ボルト挿通孔114に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔144が設けられている。ボルト挿通孔114に挿通した取付ボルト115をボルト螺着孔144に螺着させることにより、外方部材101がハウジング133bに取り付けられる。
【0081】
内方部材102は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ109aを有するアウトボード側材109と、このアウトボード側材109の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材109に一体化されたインボード側材110とでなる。これらアウトボード側材109およびインボード側材110に、前記各列の転走面104が形成されている。インボード側材110の中心には貫通孔111が設けられている。ハブフランジ109aには、周方向複数箇所にハブボルト116の圧入孔117が設けられている。アウトボード側材109のハブフランジ109aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部113がアウトボード側に突出している。このパイロット部113の内周には、前記貫通孔111のアウトボード側端を塞ぐキャップ118が取り付けられている。
【0082】
減速機Cは、上記したようにサイクロイド減速機であり、図23のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板134a,134bが、それぞれ軸受135を介して回転入力軸132の各偏心部132a,132bに装着してある。これら各曲線板134a,134bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン136を、それぞれハウジング133bに差し渡して設け、内方部材102のインボード側材110に取り付けた複数の内ピン138を、各曲線板134a,134bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔139に挿入状態に係合させてある。前記曲線板134a,134bの外形はサイクロイド曲線であっても良い。この明細書で言う「サイクロイド減速機」は、前記曲線板134a,134bの外形がトロコイド曲線またはサイクロイド曲線であって、この曲線板134a,134bと前記外ピン136および内ピン138とを含む減速機を言う。回転入力軸132は、駆動用モータBの回転出力軸124とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸32はインボード側のハウジング133aと内方部材102のインボード側材110の内径面とに2つの軸受140で両持ち支持されている。
【0083】
駆動用モータBの回転出力軸124が回転すると、これと一体回転する回転入力軸132に取り付けられた各曲線板134a,134bが偏心運動を行う。この各曲線板134a,134bの偏心運動が、内ピン138と貫通孔139との係合によって、内方部材2に回転運動として伝達される。回転出力軸124の回転に対して内方部材2の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0084】
2枚の曲線板134a,134bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸32の各偏心部132a,132bに装着され、各偏心部132a,132bの両側には、各曲線板134a,134bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部132a,132bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト141が装着されている。前記各外ピン136と内ピン138には転がり軸受(図示せず)が装着され、これらの軸受の外輪が、それぞれ各曲線板134a,134bの外周と各貫通孔139の内周とに転接する。
【0085】
駆動用モータBは、円筒状のモータハウジング22に固定したモータステータ23と、回転出力軸124に取り付けたモータロータ25との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸124は、減速機Cのインボード側のハウジング133aの筒部に2つの軸受126で片持ち支持されている。また、モータハウジング22の周壁部には冷却液流路145が設けられている。この冷却液流路45に潤滑油もしくは水溶性の冷却剤を流すことにより、モータステータ123の冷却が行われる。
【符号の説明】
【0086】
1…回転角度検出装置
2…磁気エンコーダ
2A,2B…磁気トラック
3…センサユニット
3A,3B…磁気センサ
5…センサケース
6…位相差検出手段
7…角度算出手段
8…信号出力手段
12…芯金
12aa…芯金の曲げ形状部(磁性体からなるスペーサ)
36…磁性板
42…スペーサ
51…出力軸(回転軸)
50a…モータロータ
50b…モータステータ
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラシレスモータ等のモータ制御に必要なロータ角度の検出、特に、電気自動車やハイブリッド自動車における駆動用モータのロータ角度検出に用いられる回転角度検出装置、およびこの回転角度検出装置を一体に組み込んだ回転角度検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の機器における回転角度検出に用いられる回転角度検出装置として、異なる磁極数で着磁した複列の磁気エンコーダと、その磁極対内の位相を検出できるセンサとを組み合わせて、隣接する磁気エンコーダ間の位相差から絶対角度を検出するようにしたもの、およびこの回転角度検出装置を軸受に搭載した回転角度検出装置付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
回転角度検出装置の他の例として、そのセンサを、熱可塑性エラストマもしくはゴム弾性を示す材料で覆い状態に成形したもの、およびその回転角度検出装置を車輪用軸受に搭載した回転角度検出装置付き車輪用軸受、さらにその回転角度検出装置のセンサ部品の振動や熱膨張による損傷を防止し、防水性、密封性を高めた回転角度検出装置の実装方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0004】
なお、上記特許文献1,2に開示の回転角度検出装置では、電気自動車やハイブリッド自動車に組み込んだ使用形態については開示されていない。電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータを制御するためには、モータロータの回転角度を正確に把握する必要がある。従来、モータロータの回転角度を検出する回転角度検出装置として、レゾルバを用いた各種のもの(特許文献3〜6)が知られている。
【0005】
特許文献3には、自動車駆動用モータの電磁ノイズを避けるために、隔壁の外側にレゾルバを配置した構成例が開示されている。特許文献4には、ハイブリッド自動車の変速機ユニットにおけるレゾルバの固定構造が開示されている。特許文献5には、ハイブリッド自動車の回転角度検出装置として、プリント基板で構成したレゾルバを適用したものが開示されている。この文献では、積層鋼板を用いた可変リラクタンス型レゾルバ(VR型レゾルバ)での課題が挙げられており、回転ぶれの影響や、小型化が難しいことが述べられている。特許文献6には、ハイブリッド自動車の回転角度検出装置として、プリント基板で構成したレゾルバを適用した場合に、冷却(潤滑)用オイルにさらされた環境での課題点が述べられている。高速回転時のオイルによるせん断力や、オイル添加剤に含まれる硫黄などの化学的作用に対する耐性が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−233069号公報
【特許文献2】特願2007−223481号
【特許文献3】特開2001−078393号公報
【特許文献4】特開2007−336714号公報
【特許文献5】特開2008−197046号公報
【特許文献6】特開2008−215835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、自動車用駆動用モータの制御のためには高精度のロータ角度情報が必要であり、その回転角度検出装置としてレゾルバが広く用いられている。
しかし、自動車用部品は、燃費向上のために小型,軽量化が強く求められる。回転角度検出装置においても、サイズを小さくして重量を減らすために、できるだけコンパクトに構成する必要があるが、従来のレゾルバでは対処が難しい。
自動車駆動用モータに広く使われているレゾルバは、コイルによる検出方式のVR型レゾルバであり、磁性材料の積層鋼板で構成されるため、重量もサイズも大きくなる。また、検出精度を確保するためには、レゾルバロータとレゾルバステータに高い加工精度が要求され、組み付け工程では相対位置を精度良く管理する必要がある。
【0008】
一方、特許文献5,6に開示されているように、自動車駆動用モータに組み込まれる回転角度検出装置の設置環境は苛酷であり、高い環境耐性を備えている必要がある。レゾルバの検出部は積層鋼板とコイルとで構成されるため、上記のように苛酷な環境に強いという特徴があるが、レゾルバ信号から回転角度を算出するには別途処理回路(RDコンバータ)が必要で、制御装置などにこの処理回路を搭載する必要があるため、実装スペースや部品コストが増加してしまう。特許文献5,6に開示されているようなプリント基板を用いたレゾルバの場合、積層鋼板とコイルを用いた構成よりも軽量で省スペース化を実現しやすいが、RDコンバータのような処理回路が必要なのは同様である。
【0009】
この発明の目的は、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる自動車駆動用モータの回転角度検出装置および回転角度検出装置付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置は、それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、
自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたことを特徴とする。磁気エンコーダの磁気トラックは、例えば2列または3列とされる。磁気トラックは、1回転の間にそれぞれの位相関係が繰り返して変化する構成でも良い。
【0011】
磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダ、例えば磁極対が12の磁気トラックと13の磁気トラックを用いて回転させると、これらの磁界を検出する2つの磁気センサの信号の間には、1回転に1磁極対分の位相ずれが発生する。この位相差を位相差検出手段で検出し、その位相差に基づいて角度算出手段により1回転の区間での絶対角度を算出し、これをモータロータの回転角度として信号出力手段により外部のモータ制御装置に送信することができる。各磁気センサは、各磁気エンコーダの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものとしているので、精度良く絶対角度を検出できる。
また、磁気エンコーダと磁気センサとを備えた構成により小型・軽量な回転角度検出装置となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータにおいては、モータロータの内径側位置に回転角度検出装置を配置することができる。これにより、自動車駆動用モータの軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置を組み込むことができる。また、モータロータの内径側に回転角度検出装置を配置できることから、自動車駆動用モータの洩れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した回転角度検出が可能となる。
その結果、自動車駆動用モータに使用しても、コパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる回転角度検出装置とすることができる。
【0012】
この発明において、前記磁気センサは、磁気トラックの磁極の並び方向に並べて配置された複数の磁気検出部を有し、それらの磁気検出部の出力を演算してsin およびcos の2相の信号を生成して、磁極内における位置を検出するものであっても良い。
このように、使用する磁気センサの検出方式を、磁気トラックの磁極内の磁界強度分布に基づいて磁気的な位相情報を検出する差動式の検出方式とすると、洩れ磁界などのノイズの影響を受けにくく、磁気トラックの信号を正確に読み取って、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0013】
この発明において、前記磁気センサ、位相差検出手段、角度算出手段、および信号出力手段が、集積回路に一体化されていても良い。集積回路に集積した場合、信頼性の向上、小型化、堅固化が図れ、また量産時のコスト低下が図れる。
【0014】
この発明において、前記磁気センサがセンサケースに組み込まれ、磁気センサの背面には、少なくとも磁気センサよりも広い面積の磁性板が配置されているのが望ましい。この構成の場合、磁気センサに駆動用モータからの洩れ磁界が侵入するのを磁性板で防止することができる。
【0015】
この発明において、隣り合う磁気トラック間に磁性体からなるスペーサを介在させても良い。この構成の場合、隣り合う磁気トラックがスペーサで分離される。これにより、対応する磁気センサの間隔を広げなくても、両磁気トラックの磁気パターンの間での干渉を小さくすることができ、磁界の干渉に起因する絶対角度の検出誤差も低減でき、絶対角度を精度良く検出できる。
【0016】
この発明において、前記各磁気トラックは、磁性体製の共通の板状芯金の表面に磁極を並べて設けられ、前記スペーサは前記板状芯金を折り曲げ加工して形成されていても良い。この構成の場合、共通の板状芯金の表面に各磁気トラックの磁極を並べて設けるので、簡単な構造とすることができる。
【0017】
この発明において、前記各磁気トラックがゴム磁石またはプラスチック磁石からなるものであっても良い。自動車駆動用モータに回転角度検出装置を組み込む場合、高い環境耐性を備えている必要があるが、各磁気トラックがゴム磁石やプラスチック磁石からなるものであると、高温対応および耐油性能を備えたものとすることができる。
【0018】
この発明において、前記各磁気エンコーダは、磁気トラックの磁極の並びの特定位置を示す目視可能なマークを有するものとしても良い。前記特定位置は、例えば原点位置である。前記マークは、記号等であっても、また切欠や刻印等であっても良い。この構成の場合、駆動用モータのロータへ磁気エンコーダを組み付ける時に、取付け位相を確認しながら作業することができる。
【0019】
この発明において、前記信号出力手段は信号ケーブルを有し、この信号ケーブルはシールド構造のものであっても良い。この構成の場合、駆動用モータのスイッチングノイズなどに対するノイズ耐性を確保することができ、信号伝達の信頼性を高めることができる。
【0020】
この発明において、前記ロータの回転軸を支持する転がり軸受の内輪に前記磁気エンコーダを設置し、外輪に前記磁気センサを設置しても良い。この構成の場合、転がり軸受に磁気エンコーダおよび磁気センサが取付けられるので回転角度検出装置の自動車駆動用モータへの設置が容易となる。
【0021】
この発明において、前記自動車駆動用モータが、インホイール式の自動車駆動用モータであっても良い。インホイール式の自動車駆動用モータである場合にも、この発明の、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできるという効果が、効果的に発揮される。なお、この明細書で言うインホイール式の自動車駆動用モータは、必ずしもモータ自身がホイールに内蔵されていなくても良く、モータを含むアセンブリ部品の一部がホイールに内蔵されているものを含む。例えば、モータと減速機と車輪用軸受が一つのアセンブル部品として組まれていて、そのアセンブル部品の車輪用軸受の部分がホイール内に位置するものも、上記モータをインホイール式の自動車駆動用モータと称す。
【0022】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受は、自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、この発明の上記いずれかの構成の回転角度検出装置を一体に取付けたことを特徴とする。
この構成によると、絶対角度の検出機能を有しながら、自動車駆動用モータの部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。また、組付け時にセンサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化できる。
【0023】
この発明において、前記軸受の回転輪となる内輪に、前記磁気エンコーダの原点位置を示す目視可能なマークが設けられていても良い。この構成の場合、駆動用モータに回転角度検出装置付き軸受を組み込む際に、機械的に概略の位相を合わせることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置は、それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたため、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けできて、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる。
【0025】
この発明の自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受は、自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、この発明の上記いずれかの構成の回転角度検出装置を一体に取付けたため、絶対角度の検出機能を有しながら、自動車駆動用モータの部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの断面図である。
【図2】同回転角度検出装置付き軸受の拡大断面図である。
【図3】同回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の概略構成を示す図である。
【図4】同回転角度検出装置における磁気エンコーダの部分拡大断面図である。
【図5】同回転角度検出装置における磁気センサの一構成例の説明図である。
【図6】磁気センサの他の構成例の説明図である。
【図7】磁気センサの検出信号および位相差検出手段の検出信号の波形図である。
【図8】各磁気センサの検出信号の位相と両検出信号の位相差を示す波形図である。
【図9】この回転角度検出装置の絶対角度検出回路の一構成例を示すブロック図である。
【図10】この回転角度検出装置における角度情報出力回路の一構成例を示すブロック図である。
【図11】回転角度検出装置付き軸受の他の構成例の拡大断面図である。
【図12】回転角度検出装置における磁気エンコーダの他の構成例の部分平面図である。
【図13】この発明の他の実施形態の回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの部分断面図である。
【図14】(A)は同回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の概略構成を示す正面図、(B)は同回転角度検出装置における磁気エンコーダの部分拡大断面図である。
【図15】(A)は図13の実施形態の回転角度検出装置付き軸受における回転角度検出装置の他の構成例を示す断面図、(B)は同回転角度検出装置における磁気センサ側の正面図、(C)は(A)のA部の拡大図である。
【図16】同回転角度検出装置のさらに他の概略構成を示す正面図である。
【図17】この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの断面図である。
【図18】同回転角度検出装置の概略構成を示す図である。
【図19】この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置における磁気センサ側部品であるセンサアッシの断面図である。
【図20】同センサアッシの圧縮成形前の段階を表す断面図である。
【図21】同センサアッシを上型、下型間に挟み込んだ状態を表す断面図である。
【図22】図13の実施形態の回転角度検出装置を装備したインホイールモータ付き車輪用軸受装置の断面図である。
【図23】図22のXXIII-XXIII 線断面図である。
【図24】図22のXXIV部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図10と共に説明する。図1は、この実施形態の回転角度検出装置付き軸受が組み付けられたハイブリッド自動車における駆動用モータとその周辺部の断面図を示す。同図において、図示しないエンジンの出力軸が駆動用モータ50の出力軸51に接続され、さらにその出力軸51が減速機53を介して発電機54の出力軸55に接続されている。駆動用モータ50と発電機54の回転、および減速機53の状態を制御して、最適な出力状態が得られるように構成される。これら駆動用モータ50、減速機53および発電機54は密封構造のハウジング56内に設置される。ハウジング56は、周壁56aと、両側の端部壁56b,56cと、駆動用モータ50と減速機53との設置空間を仕切る仕切り壁56dと、減速機53と発電機54との設置空間の間を仕切る仕切り壁56eとで構成される。
駆動用モータ50の本体部はモータロータ50aとその外周に配置されるモータステータ50bとでなる。モータロータ50aは、出力軸51となる回転軸が中心に設けられ、モータステータ50bはハウジング56の周壁56aの内面に設置される。駆動用モータ50の出力軸51は、軸受57および回転角度検出装置付き軸受58を介して前記ハウジング56に回転自在に支持されている。各軸受57,58は転がり軸受からなり、これら軸受57,58の外輪は、ハウジング56の端部壁56bおよび仕切り壁56dにそれぞれ設置されている。軸受57,58の内輪は、出力軸51,55に圧入等により固定されている。
【0028】
発電機54の本体部は発電機ロータ54aとその外周に配置される発電機ステータ54bとでなる。発電機ロータ54aは出力軸55に嵌着され、発電機ステータ54bはハウジング56に設置される。発電機54の出力軸55は、軸受59および回転角度検出装置付き軸受58Aを介して前記ハウジング56に回転自在に支持されている。この構成により、駆動用モータ50と発電機54の回転、および減速機53の状態を制御して、最適な出力状態が得られるようにされる。駆動用モータ50および発電機54の制御には、それらのロータ角度を精度良く検出する必要があり、ステータコイルの駆動電流を切り替えるなどの制御のために、前記回転角度検出装置付き軸受58,58Aにおける回転角度検出装置で検出されるロータ角度が使用される。2つの回転角度検出装置付き軸受58,58Aは共に同じ構成のものである。
【0029】
図2は、駆動用モータ50の出力軸51をハウジング56に回転自在に支持する回転角度検出装置付き軸受58の拡大断面図を示す。この回転角度検出装置付き軸受58は、回転側軌道輪である内輪22と固定側軌道輪である外輪23の間に複数の転動体24が介在する転がり軸受21の一端部に、回転角度検出装置1を設けたものである。転がり軸受21は深溝玉軸受からなり、内輪22の外径面および外輪23の内径面にはそれぞれ転動体24の転走面22a,23aが形成されている。内輪22と外輪23の間の軸受空間は、回転角度検出装置1の設置側とは反対側の端部がシール26で密封されている。
【0030】
図3は、この実施形態における前記回転角度検出装置1の概略構成を示す。この回転角度検出装置1は、前記転がり軸受21の内輪22の外周に設けられた磁気エンコーダ2と、磁気センサ3A,3Bを有するセンサユニット3とを備える。磁気エンコーダ2は、その軸心Oに対して同心のリング状に設けられた複数(ここでは2つ)の磁気トラック2A,2Bを有する。前記磁気センサ3A,3Bは、これら各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出するセンサである。これら磁気センサ3A,3Bは、図3の例では、各磁気トラック2A,2Bに対して微小のギャップを介してそれぞれ径方向(ラジアル方向)に対向するように固定部材であるセンサケース5に設けられる。ここでは、磁気センサ3Aが磁気エンコーダ2Aに対向し、磁気センサ3Bが磁気エンコーダ2Bに対向する。
【0031】
磁気トラック2A,2Bは、複数の磁極対(磁極Sと磁極Nの1組)を周方向に等ピッチで着磁させたリング状の磁性部材であり、ラジアルタイプであるこの例では、その外周面に磁極対が着磁されている。これら2つの磁気トラック2A,2Bの磁極対の数は互いに異ならせてある。磁気トラック2A,2Bは、1回転の間にそれぞれの位相関係が繰り返して変化する構成でも良い。例えば、120度毎に位相が一致する構成では、120度区間を絶対角度で検出することができる。また、この実施形態では2列の磁気トラック2A,2Bを設けたが、磁気トラックは3列であっても、さらに多数列としても良い。列数を増やせば、より広い角度範囲の絶対角度が検出できる。
【0032】
図2の一部を拡大して示す図4のように、両磁気トラック2A,2Bは、磁性体製の共通の芯金12に設けられ、この芯金12および磁気トラック2A,2Bからなる磁気エンコーダ2が、転がり軸受21の内輪22の外周に取付けられる。すなわち、芯金12はリング状の部材であって、その外周面に2つの磁気トラック2A,2Bが、軸方向に並べて設けられている。芯金12における磁気トラック設置部12aの一側部には、磁気トラック設置部12aよりも小径となって軸方向に延びる嵌合筒部12bが形成されている。この嵌合筒部12bを転がり軸受21の内輪22の外周面に圧入等で嵌合させることで、芯金12が内輪22に固定される。芯金12の磁気トラック設置部12aには、隣り合う各磁気トラック2A,2Bの間に位置してこれら磁気トラック2A,2Bを分離するスペーサとなるリング状の曲げ形状部12aaが、磁気トラック2A,2Bと同心に形成されている。曲げ形状部12aaは、芯金12の各磁気トラック2A,2Bが設けられる外周面側に向けて折り重ね片状に突出する。この曲げ形状部12aaで、隣り合う磁気トラック2A,2Bが分離される。これにより、対応する磁気センサ3A,3Bの間隔を広げなくても、2つの磁気トラック2A,2Bの間での磁界の干渉を抑え、磁界の干渉に起因する検出誤差も低減でき、各磁気トラック2A,2Bの磁気信号を精度良く検出することができる。また、共通の芯金12の外周面に各磁気トラック2A,2Bの磁極を並べて設けるので、簡単な構造とすることができる。これら磁気トラック2A,2Bは、ゴム磁石やプラスチック磁石とする場合、前記スペーサとなる曲げ形状部12aaを有する芯金12と一体成形成形することが望ましい。
なお、転がり軸受21の内輪22には、クリープを防止するためにキー溝や切欠き等の回り止め手段(図示せず)を設けても良い。回り止め手段を設ける場合、磁気エンコーダ2の取付位置や取付方向のマーク、すなわち指標を兼ねるものとしても良い。この場合、磁気トラック2A,2Bの原点位置を前記キー溝などの位置に合わせて固定すると良い。これにより、回転角度検出装置付き軸受58を駆動用モータ50に組み付ける際に、機械的に磁気トラック2A,2Bの位相を合わせることができる。
【0033】
磁気トラック2A,2Bは、耐油性および高温対応特性を備えたものとするために、磁性体製とした芯金12に、磁性体粉が混入された弾性部材を加硫接着し、この弾性部材を、円周方向に交互に磁極を形成してゴム磁石として構成される。この場合の弾性材料としては、NBR(ニトリルゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)、アクリルゴム、フッ素ゴムなどが望ましい。
磁気トラック2A,2Bの他の構成例として、磁性体製とした芯金12に、磁性体粉が混入された樹脂を成形した樹脂成形体を設け、この樹脂成形体を、円周方向に交互に磁極を形成して樹脂磁石としても良い。
磁気トラック2A,2Bのさらに他の構成例として、磁性体粉と非磁性体粉との混合粉が焼結された焼結体に、円周方向に交互に磁極を形成して焼結磁石としても良い。これらの磁石としては、磁性体粉としてフェライトを用いたものや、SmFeN,SmCo,NdFeBなど希土類磁石が使用される。
【0034】
磁気センサ3A,3Bは、対応する磁気トラック2A,2Bの磁極対の数よりも高い分解能で磁極検出できる機能、つまり磁気トラック2A,2Bの磁極の範囲内における位置の情報を検出する機能を有するものとされる。この機能を満たすために、例えば磁気センサ3Aとして、対応する磁気トラック2Aの1磁極対のピッチλを1周期とするとき、図5のように90度位相差(λ/4)となるように磁極の並び方向に離して配置したホール素子などの2つの磁気センサ素子3A1,3A2を用い、これら2つの磁気センサ素子3A1,3A2により得られる2相の信号(sinφ,cosφ) から磁極内位相(φ=tan-1(sinφ/cos φ))を逓倍して算出するものとしても良い。他の磁気センサ3Bについても同様である。なお、図5の波形図は、磁気エンコーダ2Aの磁極の配列を磁界強度に換算して示したものである。
【0035】
磁気センサ3A,3Bをこのような構成とすると、磁気トラック2A,2Bの磁界分布をオン・オフ信号としてではなく、アナログ電圧による正弦波状の信号としてより細かく検出でき、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0036】
磁気トラック2A,2Bの磁極内における位置の情報を検出する機能を有する磁気センサ3A,3Bの他の例として、図6(B)に示すようなラインセンサを用いても良い。すなわち、例えば磁気センサ3Aとして、対応する磁気エンコーダ2Aの磁極の並び方向に沿って磁気センサ素子3aが並ぶラインセンサ3AA,3ABを用いる。なお、図6(A)は、磁気エンコーダ2Aにおける1磁極の区間を磁界強度に換算して波形図で示したものである。この場合、磁気センサ3Aの第1のラインセンサ3AAは、図6(A)における180度の位相空間のうち90度の位相区間に対応付けて配置し、第2のラインセンサ3ABは残りの90度の位相区間に対応付けて配置する。このような配置構成により、第1のラインセンサ3AAの検出信号を加算回路31で加算した信号S1と、第2のランセンサ3ABの検出信号を加算回路32で加算した信号S2を別の加算回路33で加算することで、図6(C)に示すような磁界信号に応じたsin 信号を得る。また、信号S1と、インバータ35を介した信号S2をさらに別の加算回路34で加算することで、図6(C)に示すような磁界信号に応じたcos 信号を得る。このようにして得られた2相の出力信号から、磁極内における位置を検出する。
【0037】
磁気センサ3A,3Bをこのようにラインセンサで構成した場合、磁界パターンの歪みやノイズの影響が低減されて、より高い精度で磁気エンコ−ダ2A,2Bの位相を検出することが可能である。
【0038】
例えば、図3の構成例において、磁気センサ3A,3Bは位相差検出手段6に接続される。位相差検出手段6は、各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を求める手段であり、その後段に角度算出手段7が接続される。角度算出手段7は、位相差検出手段6の検出した位相差に基づいて磁気トラック2A,2Bの絶対角度を算出する手段である。算出された絶対角度の情報は、信号ケーブル37を含む信号出力手段8によって外部に出力される。
【0039】
回転角度検出装置1の2つの磁気センサ3A,3Bは、これら磁気センサ3A,3Bと他の信号処理回路とが実装された回路基板27と共にセンサモジュール25として一体化され、リング状の金属製センサケース5の内側に挿入される。これらの磁気センサ3A,3B、センサモジュール25、およびセンサケース5によりセンサユニット3が構成される。油による化学的作用を防止するために、センサモジュール25における回路基板27は、樹脂材料あるいはゴム材料からなるモールディング部30で被覆され、センサケース5を介して転がり軸受21の外輪23の一端部の内径面に取付けられる。これにより、磁気トラック2A,2Bと対応する磁気センサ3A,3Bとがラジアル方向に対向配置される。センサケース5と磁気トラック2A,2Bとの位置関係が転がり軸受21への組み込みによって管理されるため、磁気センサ3A,3Bと磁気トラック2A,2Bとの位置決め固定が容易になる。また、前記センサモジュール25は、センサケース5における周方向の一部だけに配置される。これにより、センサケース5からセンサモジュール25だけを取り外しできるので、メンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0040】
磁気センサ3A,3Bの検出する磁気トラック2A,2Bの磁界情報が、モータ磁界によって乱されるのを防止するために、センサケース5の材料として磁性材料を用いるのが望ましい。具体的には、センサケース5の材料として、例えば板厚0.5mm程度の圧延鋼板(SPCC材)を用いるのが望ましい。センサケース5が磁性材料でない場合でも、磁気センサ3A,3Bの磁気トラック2A,2Bと対向する面とは反対側の背面には、少なくとも磁気センサ3A,3Bよりも広い面積の磁性板36が配置される。これにより、磁気センサ3A,3Bに駆動用モータ50からの洩れ磁界が侵入するのを磁性板36で防止することができる。
【0041】
上記構成の回転角度検出装置1による絶対角度検出の概略動作を、図7および図8を参照して以下に説明する。図3において、2つの磁気エンコーダ2B,2Aの磁極対の数をPとP+nとすると、両磁気トラック2A,2Bの間では1回転あたり磁極対にしてn個分の位相差があるので、これら磁気トラック2A,2Bに対応する磁気センサ3A,3Bの検出信号の位相は、360/n度回転するごとに一致する。
【0042】
図7(A),(B)には両磁気トラック2A,2Bの磁極のパターン例を示し、図7(C),(D)にはこれら磁気エンコーダに対応する磁気センサ3A,3Bの検出信号の波形を示す。この場合、磁気エンコーダ2Aの3磁極対に対して、磁気エンコーダ2Bの2磁極対が対応しており、この区間内での絶対位置を検出することができる。図7(E)は、図7(C),(D)の検出信号に基づき、図3の位相差検出手段6より求められる位相差の出力信号の波形図を示す。
なお、図8は、各磁気センサ3A,3Bによる検出位相と位相差の波形図を示す。すなわち、図8(A),(B)には両磁気トラック2A,2Bの磁極のパターン例を示し、図8(C),(D)には対応する磁気センサ3A,3Bの検出位相の波形図を示し、図8(E)には位相差検出手段6より出力される位相差信号の波形図を示す。
【0043】
図9は、この回転角度検出装置1における絶対角度検出回路の構成例を示す。図7(C),(D)に示したような各磁気センサ3A,3Bの検出信号に基づき、それぞれ対応する位相検出回路13A,13Bは、図8(C),(D)に示したような検出位相信号を出力する。位相差検出手段6は、これらの検出位相信号に基づき、図8(E)に示したような位相差信号を出力する。その次段に設けられた角度算出手段7は、位相差検出手段6で求められた位相差を、予め設定された計算パラメータにしたがって絶対角度へ換算する処理を行う。角度算出手段7で用いられる計算パラメータは不揮発メモリなどのメモリ9に記憶されている。このメモリ9には、前記計算パラメータのほか、磁気トラック2A,2Bの磁極対の数の設定、絶対角度基準位置、信号出力の方法など、装置の動作に必要な情報が記憶されている。ここでは、メモリ9の次段に通信インタフェース10を設けることで、通信インタフェース10を通じてメモリ9の内容を更新できる構成とされている。これにより、個別の設定情報を使用状況に応じて可変設定でき、使い勝手が良くなる。
【0044】
角度算出手段7で算出された絶対角度情報は、パラレル信号、シリアルデータ、アナログ電圧、PWMなどの変調信号として、角度情報出力回路11から、あるいは前記通信インタフェース10を介して出力される。また、角度算出手段7からは回転パルス信号も出力される。回転パルス信号としては、2つの磁気センサ3A,3Bの検出信号のうち、いずれか1つの信号を出力すれば良い。上記したように、各磁気センサ3A,3Bはそれぞれ逓倍機能を備えているので、高い分解能で回転信号を出力することができる。
【0045】
図9の角度情報出力回路11では、前記角度算出手段7で算出された絶対角度を、互いに90度位相の異なるA相およびB相の2つのパルス信号と、原点位置を示すZ相のパルス信号とでなるABZ相信号として出力するようにしても良い。
この場合、図10に示すように、受信側回路14から角度情報出力回路11に対して絶対角度出力の要求信号が入力されると、これに呼応して角度情報出力回路11における絶対角度実行手段15が動作可能となり、角度情報出力回路11におけるモード実行信号生成手段16から絶対角度出力モード中であることを示すモード実行信号(ABS_mode=1)が生成され、角度情報出力回路11における回転パルス信号生成手段17からA,B,Z相信号が出力されるように、角度情報出力回路11を構成しても良い。
受信側回路14では、Z相信号を受信することで絶対角度値を示すポジションカウンタ18が0にリセットされ、Z相信号に続いて出力されるA相信号およびB相信号を、前記ポジションカウンタ18が計数する。A相信号およびB相信号のパルス出力が、一旦現在の絶対角度値に達すると、そこで絶対角度出力モード動作が終了する(ABS_mode=0)。その後は、モータ出力軸51つまりモータロータ50a(図1)の回転に伴い検出される絶対角度の変化に応じた回転パルス信号(ABZ相信号)を角度算出手段7から出力する。これにより、パルスを計数することで絶対角度を知る受信側回路14では、絶対角度出力モード動作が終了(ABS_mode=0)となった後は実際の絶対角度情報を常に取得している状態となる。前記角度情報出力回路11、信号ケーブル37、受信側回路14などにより前記信号出力手段8が構成される。使用する信号ケーブル37はシールド構造のものが望ましい。
【0046】
上記した絶対角度情報を出力するために、前記信号ケーブル37としては、例えば6本の電線(電源、GND、A相、B相、Z相、通信線)が必要となる。駆動用モータ50のスイッチングノイズなどに対するノイズ耐性を確保するためには、各信号線を差動信号で構成するのが望ましいが、それでは導体本数が増えてしまう。そのため、省配線、省スペース化を優先すると、信号を差動にせず最低限の導体本数で構成し、シールドケーブルを使用してノイズ対策を施すのが望ましい。
【0047】
このように、角度情報出力回路11からABZ相信号のような回転パルス信号を出力し、絶対角度出力モードによって絶対角度情報を出力する構成とすると、絶対角度を出力するインタフェースを別途備える必要がなく、この回転角度検出装置1の回路構成、および回転角度検出装置1を一体に取付た回転角度検出装置付き軸受58の構成を簡略化することができる。
【0048】
また、この回転角度検出装置1では、前記磁気センサ3A,3Bと、図9に示した角度情報出力回路11を含む信号処理回路とを、センサモジュール25として一体化しているが、このセンサモジュール25を1つの半導体チップに集積しても良い。このように構成した場合、部品点数の低減、磁気センサ3A,3Bの互いの位置精度の向上、製造コストの低減、組立コストの低減、信号ノイズ低減による検出精度・信頼性向上などのメリットが得られ、小型かつ堅固で低コストの回転角度検出装置1とすることができる。
【0049】
このように、この回転角度検出装置1は、同心のリング状に設けられ互いに磁極数が異なる複数の磁気トラック2A,2Bと、これら各磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサ3A,3Bとを備え、これら各磁気センサ3A,3Bは磁気トラック2A,2Bの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものとし、各磁気センサ3A,3Bの検出した磁界信号の位相差を位相差検出手段6で求め、この検出した位相差に基づいて磁気トラック2A,2Bの絶対角度を角度算出手段7で算出し、算出した絶対角度を信号出力手段8で外部に取り出すようにしているので、構造が簡単となり、精度良く絶対角度を検出し外部に取り出すことができる。
また、磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2と磁気センサ3A,3Bとを備えた構成により小型・軽量な回転角度検出装置1となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータ50においては、モータロータ50aの内径側位置に回転角度検出装置1を配置することができる。これにより、駆動用モータ50の軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置1を組み込むことができる。また、モータロータ50aの内径側に回転角度検出装置1を配置できることから、駆動用モータ50の洩れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した回転角度検出が可能となる。その結果、自動車駆動用モータ50に使用して、コンパクトかつ軽量で、簡単に組み付けでき、外部に必要な電気回路や部品を極力少なくできる回転角度検出装置1とすることができる。
【0050】
この実施形態では、2つの磁気トラック2A,2Bを用いたものを例示したが、磁気トラックは2つでなくても良く、磁極対の数の異なる3つ以上の磁気トラックを組み合わせて、より広い範囲の絶対角度を検出する構成としても良い。この回転角度検出装置1の磁極対の数の差の調整において、駆動用モータ50(図1)のロータ極数Pnに合わせてPとP+Pnという組合せとすれば、回転角度検出装置1により駆動用モータ50の電気角を検出できるため、駆動用モータ50の回転制御に好都合である。
【0051】
また、上記回転角度検出装置1を一体に取付けた回転角度検出装置付き軸受58では、上記回転角度検出装置1を転がり軸受21に搭載しているので、絶対角度の検出機能を有しながら、駆動用モータ50の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化を図ることができる。また、組付け時にセンサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化できる。発電機54の出力軸55を支持する回転角度検出装置付き軸受58Aの作用効果も、駆動用モータ50の出力軸51を支持する回転角度検出装置付き軸受58の場合と同様である。
【0052】
この実施形態の効果を整理すると、次の各効果が得られる。
・磁気エンコーダ2と磁気センサ3A,3Bの構成により小型・軽量な回転角度検出装置となるため、外径側に磁気ギャップを配置した自動車駆動用モータ50においては、ロータ50aの内径側位置に磁気センサ3A,3Bを配置することが可能になる。
その結果、自動車駆動用モータ50の軸方向寸法を増加させることなく、コンパクトに回転角度検出装置を組み込むことができる。
・モータロータ50aの内径側にセンサ回転角度検出装置が配置できるため、モータの漏れ磁界による電磁ノイズの影響を受けにくく、安定した検出が可能になる。
・磁気センサ3A,3Bの背面に磁性板36を配置して組み込むことにより、漏れ磁界の侵入を防止することができ、より安定した検出が可能になる。
・使用する磁気センサ3A,3Bが、磁気エンコーダ2の磁極内の磁界強度分布に基づいて磁気的な位相情報を検出する、差動式の検出方式であるため、漏れ磁界などのノイズの影響を受けにくく、磁気エンコーダ2の信号を正確に読み取って、精度よく角度を算出することができる。
・センサユニット3の内部に位相差検出手段6,角度算出手段7,信号出力手段等の角度演算処理回路が組み込まれているので、モータの制御装置に別途RDコンバータなどを搭載する必要がなく、回路部品点数と搭載面積の削減、部品コストの低減が可能になる。
・センサユニット3からモータ制御装置間への情報は、ノイズに強いデジタル信号で伝達されるため、大きなモータノイズにも影響を受けにくい。さらに、シールドケーブルにより耐性を高めることで、信号伝達の信頼性を高めることができる。
・軸受21と一体化したため、センサギャップなどの調整も不要で、よりコンパクト化される。
【0053】
図11は、回転角度検出装置付き軸受58の他の構成例を示す。この回転角度検出装置付き軸受58では、図2で示した構成例において、回転角度検出装置1における2つの磁気トラック2A,2Bの間に介在してスペーサとなる芯金12の曲げ形状部12aaを省略している。転がり軸受21の内輪22の外周に嵌合する芯金12の嵌合筒部12bは、磁気トラック設置部12aよりも大径とされている。
【0054】
また、この構成例では、磁気エンコーダ2の芯金12に、磁気トラック2A,2Bの磁極の並びの特定位置を示す切り欠きなどの目視可能なマーク19を設けている。マーク19は、記号や刻印等であっても良い。前記特定位置は、例えば、磁気エンコーダ2の全周における1か所となる原点位置とされる。このようにマーク19を設けることにより、駆動用モータ50への回転角度検出装置付き軸受58の組み付け時に、取付け位相を確認しながら作業することが可能となる。その他の構成は、図2で示した構成例の場合と同様である。なお、磁気エンコーダ2が、磁気トラック2A,2Bの磁極の並びにつき、回転方向の正逆によって異なる特性となるものである場合は、磁気エンコーダ2の芯金12に回転方向の正逆を区別する目視可能なマーク(図示せず)を施すことが好ましい。これにより、磁気エンコーダ2の回転方向を誤って出力軸51に取付けることが防止される。磁気エンコーダ2が、芯金12の形状の非対称形状などにより、回転方向の正逆を誤って取付けられる可能性のないものである場合は、上記回転方向の正逆を区別するマークは不要である。
【0055】
駆動用モータ50への回転角度検出装置付き軸受58の組付け時に取付け位相を適正にする対策として、このほか、回転角度検出装置付き軸受58を駆動用モータ50へ組み付けた状態で電源をオンにし、駆動用モータ50を原点位置におよそ位置合わせしたところで原点記憶操作を実行することにより、その位置を原点として登録して角度を算出するように動作する原点位置登録機能部(図示せず)を回転角度検出装置1に設けても良い。この原点位置登録機能部は、例えばセンサモジュール25内の一部、あるいは磁気センサ3A,3Bの実装された回路基板27上に設けた不揮発性メモリ(フラッシュメモリ、EEPROM、フューズメモリなど)で構成でき、これに原点位置情報が記憶される。この構成によると、機械的に初期位相を調整する必要がなく、組み立て時に一度記憶させるだけで良い。また、再調整も記憶し直すだけで済ませることができる。
【0056】
図12は、回転角度検出装置1での磁気トラック2A,2Bにおける磁極の他の構成例を示す。同図では、隣り合う2つの磁気トラック2A,2Bの間に、これらを分離するスペーサとして介在させていた芯金12の曲げ形状部12aaが省略されている例について示している。この例では、一方の磁気トラック2Bにおける原点位置となる1磁極対の磁極N,Sの幅を、他方の磁気トラック2Aの磁極N,Sの幅より狭くしている。他の磁極幅は、2つの磁気トラック2A,2Bの間で互いに同一とされている。これにより、両磁
気トラック2A,2Bの間での磁極区間の相違から、原点位置を検出することができる。
【0057】
図13は、この発明の他の実施形態の回転角度検出装置付き軸受が搭載されたハイブリッド自動車の駆動用モータの部分断面図を示す。この実施形態では、図2に示した回転角度検出装置付き軸受58において、回転角度検出装置1の磁気エンコーダ2として、リング状の磁性部材である芯金12の軸方向端面に、磁気トラック2A,2Bの複数の磁極対を周方向に等ピッチで並ぶように着磁させたアキシアルタイプのものを用いている。ここでは、2つの磁気トラック2A,2Bを、内外周に隣接するように配置している。この場合、その着磁面に対向する軸方向に向けて各磁気センサ3A,3Bが配置される。
【0058】
アキシアルタイプの磁気トラック2A,2Bも、磁性体製の共通の芯金12を介して転がり軸受21の内輪22に取付けられる。この場合の芯金12は、図14のように、各磁気トラック2A,2Bが同心に設置されるリング状で平坦な磁気トラック設置部12aと、この磁気トラック設置部12aの内径側端から軸方向に延びる嵌合筒部12cとでなる。この嵌合筒部12cを内輪22の外周面に嵌合させることで、芯金12が内輪22に固定される。この場合も、芯金12の前記磁気トラック設置部12aには、隣り合う各磁気トラック2A,2Bの間に位置してこれら磁気トラック2A,2Bを互いに分離するスペーサとして、2つの磁気トラック2A,2Bが設けられる表面側に向けて2重の折り重ね片状に突出し円周方向に延びるリング状の曲げ形状部12aaが、磁気トラック2A,2Bと同心に形成されている。この曲げ形状部12aaで、隣り合う磁気トラック2A,2Bが分離される。
【0059】
また、この実施形態では、センサケース5が、駆動用モータ50のハウジング56に固定されている。この場合、センサモジュール25が設けられるセンサケース5は、その磁気トラック2A,2Bに対向する面を非磁性の金属や樹脂材料で形成した密封構造とされている。センサモジュール25には、磁気センサ3A,3Bを実装した回路基板27と信号ケーブル37の一部が、前記非磁性の金属や樹脂材料の外装により封止される。その他の構成は、図1〜図10に示した実施形態の場合と同様である。
【0060】
図15は、図13の回転検出装置付き軸受58におけるセンサケース5の他の構成例を示す。このセンサケース5は、転がり軸受21の中心軸を中心とする円環状の磁性体製品とされ、大径部分5aaおよび小径部分5abを有する段付きの円筒部5aと、この円筒部5aの小径部分5abの端縁から内径側に延びた鍔部5bとからなる。磁気センサ3A,3Bを実装した回路基板27には、絶対角度の算出信号を外部に取り出す信号ケーブル37の一端部が取付けられ、磁気センサ3A,3Bや回路基板27を含むセンサモジュール25が前記センサケース5の鍔部5bに固定される。センサモジュール25はモールディング部30によって覆われる。モールディング部30はゴム弾性を有する材料からなるものとされ、ゴム材または熱可塑性エラストマが適している。ゴム材としては、ニトリルゴム、フッ素ゴムが望ましい。これらは、耐熱性、低温特性、および耐油性に優れる。熱可塑性エラストマとしては、塩化ビニル系、エステル系、アミド系が望ましい。これらは耐熱性、耐油性に優れる。
【0061】
図16は、図13の実施形態における回転角度検出装置の他の構成例を示す正面図である。この回転角度検出装置1では、図13で示した構成例において、2つの磁気トラック2A,2Bの間に介在してスペーサとなる芯金12の曲げ形状部12aaを省略している。その他の構成は図13の構成例の場合と同様である。
【0062】
図17および図18は、この発明の回転角度検出装置のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1に示す実施形態において搭載した回転角度検出装置付き軸受58,58Aを回転角度検出装置1に置き換えている。すなわち、この実施形態では、駆動用モ
ータ50の出力軸51および発電機の出力軸55に、図18に示すラジアルタイプの磁気トラック2A,2Bを有する磁気エンコーダ2を直接取付けている。回転角度検出装置付き軸受58,58Aの設置部分には、通常の軸受60,61が設置される。
【0063】
回転角度検出装置1は、出力軸51,55の外周に、その軸心Oに対して同心のリング状に軸方向に並べて設けられたラジアルタイプの2つの芯金付き磁気トラック2A,2Bと、これら各芯金付き磁気トラック2A,2Bの磁界をそれぞれ検出する2つの磁気センサ3A,3Bとを備える。
【0064】
磁気センサ3A,3Bは、前記各芯金付き磁気トラック2A,2Bに対して微小のギャップを介してそれぞれ径方向(ラジアル方向)に対向するように、駆動用モータ50のハウジング56に設けられる。隣り合う芯金付き磁気トラック2A,2Bの間には、これらの間を分離する磁性体からなるリング状のスペーサ42が介在させてある。その他の構成は、先述した各実施形態の回転角度検出装置1の場合と同様である。
【0065】
図19は、この発明のさらに他の実施形態の回転角度検出装置における磁気センサ側部品であるセンサアッシ(すなわち、センサアセンプル部品)の断面図である。このセンサアッシ43は、磁気センサ3A,3B、電極端子45、ケーブル芯線46、ケーブル絶縁被覆47およびケーブルカバー48を有する。センサアッシ43は、その要部が弾性部材49で覆われる。磁気センサ3A,3Bの先端部3aが磁気エンコーダに対向し、磁気センサ3A,3Bのセンサ端子3bに電極端子45が電気的に接続されている。これらセンサ端子3b、電極端子45の延在方向をy方向と定義し、電極端子45の厚み方向をz方向と定義する。y方向およびz方向に直交する方向をx方向と定義する。
【0066】
電極端子45のy方向先端部にケーブル芯線46が電気的に接続され、このケーブル芯線46の電気的絶縁を確保するケーブル絶縁被覆47が設けられている。さらにこのケーブル絶縁被覆47の外部をカバーをするケーブルカバー48が設けられている。磁気センサ3A,3Bを除く電極端子45、ケーブル芯線46、ケーブル絶縁被覆47、およびケーブルカバー48が、周辺部品に相当する。
【0067】
弾性部材49は、例えば加硫剤を混合したゴム材料であってゴム弾性を示す材料からなる。弾性部材49は、磁気センサ3A,3B、電極端子45、ケーブル芯線46およびケーブル絶縁被覆47の全体を、隙間なく密着状態に覆う。さらに弾性部材49は、ケーブルカバー48のy方向一端部を除く大部分を、隙間なく密着状態に覆うように構成されている。
【0068】
弾性部材49として用いるゴム部材には、例えばニトリルゴム、フッ素ゴムが耐熱性、低温特性および耐油性に優れ望ましいが、その他のゴム材料であっても良い。これらのゴム材料の代わりに、熱可塑性エラストマを用いても良い。その中でも、特に耐熱性・耐油性に優れた塩化ビニル系、エステル系、アミド系が望ましい。いずれもセンサアッシ43をモールディングする材料は、ゴム弾性を示す材料であれば良く、図20および図21に示す後述の金型圧縮成型とする。
【0069】
図20は、上型、下型、ゴム材料、およびセンサアッシの金型による圧縮成型前の段階を表す断面図である。図21は、上型、下型間にセンサアッシおよびゴム材料を介在させ挟み込んだ状態を表す断面図である。
【0070】
その成型手順を以下に説明する。センサアッシ43を、上型69および下型70を含む金型62によって、加硫剤を混合したゴム材料49Aとともに挟み成型する。つまり、図20に示すように、上型69、上型70間に、加硫剤を混合したゴム材料49Aとともに
センサアッシ43を挟み、図21に示すように、上型69、下型70でセンサアッシ43等を完全に挟み込んだ状態で、上型69と下型70とを一定時間加熱し、さらにセンサアッシ43等に圧力を付加して圧縮成型する。
【0071】
この場合、加熱前にセンサアッシ43等に圧力を付加すると、磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が破損する可能性があるので、予め加熱によりゴム材料49Aが軟化した状態で加圧することが望ましい。換言すれば、この実施形態では金型成型工程において、上型69および下型70を加熱してゴム材料49Aを軟化させ、その後、前記上型69、下型70間に圧力を付加しているので、硬いゴムに磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が押圧されて破損することを未然に防止することができる。
【0072】
適用可能な金型は、上型および下型からなる金型に限定されるものではなく、上型および下型を含む金型であれば足りる。この実施形態では、上型69と下型70とを一定時間加熱しているが、雰囲気温度、前回の加熱終了時からの経過時間などによっては、上型69および下型70のいずれか一方だけを一定時間加熱する場合もあり得る。金型62の加熱時間は連続的な一定時間に限定されず、間欠的に実施することも可能である。
【0073】
さらに、上型69および下型70間には、予め定める容積しか構成されないので、ゴム材料の量が少ないと弾性部材内部に巣が発生したり、逆に多すぎるとゴム材料が金型62内に収まらず良好に成型できない可能性がある。そこで、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で余分なゴム材料が金型62の外部に流出する隙間δ(図21)を形成する構成が望ましい。
【0074】
この実施形態では、予め定める加圧対象に圧力を付加した状態で、上型69、下型70間に予め定める微小隙間δが形成されるべく上型69および下型70を構成した。これによって、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で、余分なゴム材料の量が少ないことに起因して弾性部材内部に巣か発生することを未然に防止することができる。逆にゴム材料が多すぎることに起因してゴム材料が金型62内に収まらず良好に成型できない不具合を未然に防止することができる。
【0075】
このセンサアッシ43およびその製造方法によれば、センサアッシ43を、熱可塑性エラストマまたはゴム弾性を示す材料49Aで成型してなるので、センサアッシ43の耐久性を高めることができる。センサアッシ43に振動、外力が作用した場合にも、破損などの不具合を防止することができる。環境温度および電子部品の自己発熱によって、センサアッシ43とモールド材である弾性部材49とで異なる熱膨張が発生した場合であっても、弾性部材49の弾性によって、熱膨張差を吸収することができる。したがってセンサアッシ43と弾性部材49との間に不所望に隙間が発生することを防止することができ、センサアッシ43の防水性を保つことができる。前記成型を金型による圧縮成型としているので、一回の成型で大量のセンサアッシ423を製造することができる。したがって射出成形する従来技術のものより、単位時間あたりのセンサアッシ43の製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0076】
また、上記したセンサアッシ43の製造方法によれば、センサアッシ43およびゴム材料49Aを上型69、下型70間に介在させ挟み込んだ後、上型69および下型70を予め定める温度で加熱してゴム材料49Aを軟化させ、その後、前記上型69、下型70間に圧力を付加しているので、(軟化前の)硬いゴムに磁気センサ3A,3Bを含む電子部品が押圧されて破損することを未然に防止することができる。加圧対象に圧力を付加した状態で、上型69、下型70間に予め定める微小隙間δが形成されるべく上型69、下型70を構成したので、加圧対象であるセンサアッシ43等に圧力を加えた段階で、余分なゴム材料49Aを金型42の外部にスムースに流出させることができる。
【0077】
図22〜図24と共に、インホイールモータに適用した例を説明する。この例では、図13の実施形態におけるアキシャル型の構成の回転角度検出装置1を、モータ部Bにおける回転出力軸124の後端側の支持軸受153における外側に配置している。図24に拡大して示すように、支持軸受153の内輪154に、複列の磁気エンコーダ2を嵌合固定し、この磁気エンコーダ2と対向する位置に、磁気センサ3A,3Bを含むセンサモジュール25のセンサケース5を配置している。センサモジュール25およびそのセンサケース5を保持したセンサ支持枠156によりセンサ側部材157が構成される。このセンサ側部材157は、モータハウジング122にボルト158によって取付けられ、支持軸受153の外輪155の端面に押し当て状態とすることで位置決めされている。センサ側部材157の径方向の位置決めは、軸受ハウジングとなるモータハウジング122の軸受取付穴の内径面にセンサ支持枠156の一部を係合させることで成され、これらの位置決めにより、センサ側部材157は、回転出力軸124および磁気エンコーダ2に対して、定められた位置関係になるように固定保持される。
【0078】
図22のインホイールモータ付き車輪用軸受装置の構成を説明する。この車輪用軸受装置は、車両の車輪用軸受AとモータBとの間に減速機Cを介在させ、車輪用軸受Aで支持される駆動輪のハブと駆動用モータBの回転出力軸124とを同軸心上で連結したものである。減速機Cは、サイクロイド減速機であって、モータBの回転出力軸124に同軸に連結される回転入力軸132に偏心部132a,132bを形成し、偏心部132a,132bにそれぞれ軸受135を介して曲線板134a,134bを装着し、曲線板134a,134bの偏心運動を車輪用軸受Aへ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0079】
車輪用軸受Aは、内周に複列の転走面103を形成した外方部材101と、これら各転走面103に対向する転走面104を外周に形成した内方部材102と、これら外方部材101および内方部材102の転走面103,104間に介在した複列の転動体105とで構成される。内方部材102は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受Aは、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体105はボールからなり、各列毎に保持器106で保持されている。外方部材101と内方部材102との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材107でシールされている。
【0080】
外方部材101は静止側軌道輪となるものであって、減速機Cのアウトボード側のハウジング133bに取り付けるフランジ101aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ101aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔114が設けられている。また、ハウジング133bには,ボルト挿通孔114に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔144が設けられている。ボルト挿通孔114に挿通した取付ボルト115をボルト螺着孔144に螺着させることにより、外方部材101がハウジング133bに取り付けられる。
【0081】
内方部材102は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ109aを有するアウトボード側材109と、このアウトボード側材109の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材109に一体化されたインボード側材110とでなる。これらアウトボード側材109およびインボード側材110に、前記各列の転走面104が形成されている。インボード側材110の中心には貫通孔111が設けられている。ハブフランジ109aには、周方向複数箇所にハブボルト116の圧入孔117が設けられている。アウトボード側材109のハブフランジ109aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部113がアウトボード側に突出している。このパイロット部113の内周には、前記貫通孔111のアウトボード側端を塞ぐキャップ118が取り付けられている。
【0082】
減速機Cは、上記したようにサイクロイド減速機であり、図23のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板134a,134bが、それぞれ軸受135を介して回転入力軸132の各偏心部132a,132bに装着してある。これら各曲線板134a,134bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン136を、それぞれハウジング133bに差し渡して設け、内方部材102のインボード側材110に取り付けた複数の内ピン138を、各曲線板134a,134bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔139に挿入状態に係合させてある。前記曲線板134a,134bの外形はサイクロイド曲線であっても良い。この明細書で言う「サイクロイド減速機」は、前記曲線板134a,134bの外形がトロコイド曲線またはサイクロイド曲線であって、この曲線板134a,134bと前記外ピン136および内ピン138とを含む減速機を言う。回転入力軸132は、駆動用モータBの回転出力軸124とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸32はインボード側のハウジング133aと内方部材102のインボード側材110の内径面とに2つの軸受140で両持ち支持されている。
【0083】
駆動用モータBの回転出力軸124が回転すると、これと一体回転する回転入力軸132に取り付けられた各曲線板134a,134bが偏心運動を行う。この各曲線板134a,134bの偏心運動が、内ピン138と貫通孔139との係合によって、内方部材2に回転運動として伝達される。回転出力軸124の回転に対して内方部材2の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0084】
2枚の曲線板134a,134bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸32の各偏心部132a,132bに装着され、各偏心部132a,132bの両側には、各曲線板134a,134bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部132a,132bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト141が装着されている。前記各外ピン136と内ピン138には転がり軸受(図示せず)が装着され、これらの軸受の外輪が、それぞれ各曲線板134a,134bの外周と各貫通孔139の内周とに転接する。
【0085】
駆動用モータBは、円筒状のモータハウジング22に固定したモータステータ23と、回転出力軸124に取り付けたモータロータ25との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸124は、減速機Cのインボード側のハウジング133aの筒部に2つの軸受126で片持ち支持されている。また、モータハウジング22の周壁部には冷却液流路145が設けられている。この冷却液流路45に潤滑油もしくは水溶性の冷却剤を流すことにより、モータステータ123の冷却が行われる。
【符号の説明】
【0086】
1…回転角度検出装置
2…磁気エンコーダ
2A,2B…磁気トラック
3…センサユニット
3A,3B…磁気センサ
5…センサケース
6…位相差検出手段
7…角度算出手段
8…信号出力手段
12…芯金
12aa…芯金の曲げ形状部(磁性体からなるスペーサ)
36…磁性板
42…スペーサ
51…出力軸(回転軸)
50a…モータロータ
50b…モータステータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、
自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたことを特徴とする自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁気センサは、磁気トラックの磁極の並び方向に並べて配置された複数の磁気検出部を有し、それらの磁気検出部の出力を演算してsin およびcos の2相の信号を生成して、磁極内における位置を検出するものである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記磁気センサ、位相差検出手段、角度算出手段、および信号出力手段が、集積回路に一体化されている自動駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記磁気センサがセンサケースに組み込まれ、磁気センサの背面には、少なくとも磁気センサよりも広い面積の磁性板が配置されている自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、隣り合う磁気トラック間に磁性体からなるスペーサを介在させた自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項6】
請求項5において、前記各磁気トラックは、磁性体製の共通の板状芯金の表面に磁極を並べて設けられ、前記スペーサは前記板状芯金を折り曲げ加工して形成されている自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記各磁気トラックがゴム磁石またはプラスチック磁石からなる自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記各磁気エンコーダは、磁気トラックの磁極の並びの特定位置を示す目視可能なマークを有する自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記信号出力手段は信号ケーブルを有し、この信号ケーブルはシールド構造のものである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記ロータの回転軸を支持する転がり軸受の内輪に前記磁気エンコーダを設置し、外輪に前記磁気センサを設置した自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記自動車駆動用モータが、インホイール式の自動車駆動用モータである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項12】
自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の回転角度検出装置を一体に取付けたことを特徴とする自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記軸受の回転輪となる内輪に、前記磁気エンコーダの原点位置を示す目視可能なマークが設けられている自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受。
【請求項1】
それぞれ等間隔に並んだ磁極が同心のリング状に設けられて互いに磁極数が異なる複数の磁気トラックが形成された磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する複数の磁気センサとを備え、前記各磁気センサは磁気トラックの磁極内における位置の情報を検出する機能を有したものであり、前記各磁気センサの検出した磁界信号の位相差を求める位相差検出手段と、この検出した位相差に基づいて磁気エンコーダの絶対角度を算出する角度算出手段と、この算出した角度情報を外部に出力する信号出力手段とを設け、
自動車駆動用モータのロータの回転軸、またはこの回転軸と一体に回転する部材に前記磁気エンコーダを設置し、前記自動車駆動用モータのロータ角度を検出するものとしたことを特徴とする自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁気センサは、磁気トラックの磁極の並び方向に並べて配置された複数の磁気検出部を有し、それらの磁気検出部の出力を演算してsin およびcos の2相の信号を生成して、磁極内における位置を検出するものである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記磁気センサ、位相差検出手段、角度算出手段、および信号出力手段が、集積回路に一体化されている自動駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記磁気センサがセンサケースに組み込まれ、磁気センサの背面には、少なくとも磁気センサよりも広い面積の磁性板が配置されている自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、隣り合う磁気トラック間に磁性体からなるスペーサを介在させた自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項6】
請求項5において、前記各磁気トラックは、磁性体製の共通の板状芯金の表面に磁極を並べて設けられ、前記スペーサは前記板状芯金を折り曲げ加工して形成されている自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記各磁気トラックがゴム磁石またはプラスチック磁石からなる自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記各磁気エンコーダは、磁気トラックの磁極の並びの特定位置を示す目視可能なマークを有する自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記信号出力手段は信号ケーブルを有し、この信号ケーブルはシールド構造のものである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記ロータの回転軸を支持する転がり軸受の内輪に前記磁気エンコーダを設置し、外輪に前記磁気センサを設置した自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記自動車駆動用モータが、インホイール式の自動車駆動用モータである自動車駆動用モータの回転角度検出装置。
【請求項12】
自動車駆動用モータのロータを回転自在に支持する軸受であって、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の回転角度検出装置を一体に取付けたことを特徴とする自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記軸受の回転輪となる内輪に、前記磁気エンコーダの原点位置を示す目視可能なマークが設けられている自動車駆動用モータの回転角度検出装置付き軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−27719(P2011−27719A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114433(P2010−114433)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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