説明

航空機翼構造の成形方法

【課題】飛行性能及び外観性の向上が図れる航空機翼構造の成形方法を提供する。
【解決手段】中空構造物用プリプレグ成形体26、28が、それぞれに対応する成形型としての前縁型、前中間用シリコン樹脂製中子型35、後中間型、後縁用シリコン樹脂製中子型51び後縁用金属製中子型53に前縁用プリプレグ、前中間用プリプレグ、後中間用プリプレグ、後縁用プリプレグを両端部が重なる形で巻き付けるように形成され、その重なり部が中間桁となる領域に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機翼構造の成形方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の航空機翼構造の成形方法として、出願人は、航空機の複合材料製翼構造の製造方法に関して出願している(例えば、特許文献1参照。)。
この成形方法では、金属製中子型及びシリコン樹脂製中子型にそれぞれプリプレグを両端部が重なるように巻き付けてプリプレグ成形体を成形し、この後に、真空バッグで覆って加熱・加圧し、硬化させて複合材料製翼を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−158073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機主翼や動翼(エルロン、フラップ)は、空力的な観点から平滑な表面が要求され、外表面に凹凸、段差が有ると、空気抵抗が増大するとともに外観性が低下する。
しかし、上記の特願2009−158073では、プリプレグの両端部が重なるように巻き付けられ、プリプレグの重なり部が翼外表面に配置されていることから、重なり部の端部の段差によって、空気抵抗の増加、ひいては飛行性能の低下を招くとともに、外観性の低下をも招く。
本発明の目的は、飛行性能及び外観性の向上が図れる航空機翼構造の成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、複数の中空部と、これらの各中空部を区画する中間桁とを含む航空機翼構造の成形方法であって、下型に下側外皮用プリプレグを積層し、この下側外皮用プリプレグ上に複数の中空構造物用プリプレグ成形体を並列に隣接させて載置し、これらの中空構造物用プリプレグ成形体上に上側外皮用プリプレグを積層し、この後に、これらの下型、下側外皮用プリプレグ、複数の中空構造物用プリプレグ成形体、上側外皮用プリプレグを真空バッグで覆い、この真空バッグ内を真空引きするとともに加圧・加熱することで翼構造を一体成形する航空機翼構造の成形方法において、中空構造物用プリプレグ成形体が、それぞれに対応する成形型にプリプレグを両端部が重なる形で巻き付けるように形成され、その重なり部が中間桁の領域に配置されることを特徴とする。
【0006】
プリプレグの重なり部が中間桁の領域に配置され、上側外皮用プリプレグ及び下側外皮用プリプレグの外表面に、重なり部の端部の段差による凹凸が生じない。
【0007】
請求項2に係る発明は、重なり部の端部が、中間桁の上端部又は下端部に配置されることを特徴とする。
重なり部が中間桁の上下方向の全体に亘って形成され、プリプレグの強化繊維が中間桁の上下方向の全体に配置される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明では、中空構造物用プリプレグ成形体が、それぞれに対応する成形型にプリプレグを両端部が重なる形で巻き付けるように形成され、その重なり部が中間桁の領域に配置されるので、翼構造の外表面、詳しくは、翼構造の上下面にプリプレグの重なり部による凹凸や段差が現れず、翼構造の外表面に沿って空気流をスムーズに流すことができ、空気抵抗を低減することができるとともに、翼構造の外観性を向上させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、重なり部の端部が、中間桁の上端部又は下端部に配置されるので、中間桁の全体を重なり部で構成することができ、重なり部によって中間桁を補強することができ、各中空構造物用プリプレグ成形体内の長繊維を切れ目なく配置することができるとともに、各中空構造物用プリプレグ成形体を層状に重ねて中間桁を形成することができ、中間桁の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る航空機翼構造の完成品を示す斜視図(実施例1)である。
【図2】本発明に係る前縁用プリプレグ成形体の成形方法を示す作用図(実施例1)である。
【図3】本発明に係る前中間用プリプレグ成形体の成形方法を示す第1作用図(実施例1)である。
【図4】本発明に係る前中間用プリプレグ成形体の成形方法を示す第2作用図(実施例1)である。
【図5】本発明に係る後中間用プリプレグ成形体の成形方法を示す作用図(実施例1)である。
【図6】本発明に係る後縁用プリプレグ成形体の成形方法を示す第1作用図(実施例1)である。
【図7】本発明に係る後縁用プリプレグ成形体の成形方法を示す第2作用図(実施例1)である。
【図8】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第1作用図(実施例1)である。
【図9】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第2作用図(実施例1)である。
【図10】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第3作用図(実施例1)である。
【図11】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第4作用図(実施例1)である。
【図12】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第5作用図(実施例1)である。
【図13】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第6作用図(実施例2)である。
【図14】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第7作用図(実施例3)である。
【図15】本発明に係る翼構造の成形方法を示す第8作用図(実施例4)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1を説明する。
図1に示すように、エルロン(Aileron)10は、航空機の主翼の後縁に可動するように取付けられる繊維強化複合材料製の補助翼であり、上側外板11と、下側外板12と、これらの上側外板11及び下側外板12とに上下に渡すとともに長手方向に延びる複数の中間桁13〜15とからなる一体成形品である。なお、符号10a〜10dは上側外板11、下側外板12及び中間桁13〜15で囲まれた中空部、17はエルロン10の前縁、18はエルロン10の後縁である。
上記のエルロン10の後縁18は、長手方向に単純なストレート形状ではなく、長手方向でわずかに捩れるように形成されている。
【0013】
次に、図2〜図7において、エルロン10の成形工程の途中の一段階である各成形体25,26,27,28(図8(c)参照)の成形方法について説明する。
図2(a)は前縁型31の横断面を示している。
前縁型31は、前縁上型32と、この前縁上型32の下方に配置された前縁下型33と、これらの前縁上型32及び前縁下型33の位置決めをする前縁型用キー34とからなり、前縁型用キー34は、前縁上型32及び前縁下型33のそれぞれの合わせ面に形成された長手方向に延びる一対のキー溝に嵌合している。
【0014】
図2(b)において、前縁型31の表面に離型剤を塗布した後に、前縁型31にシート状の前縁用プリプレグ25Pを両端部が前縁型31の背面31a側で重なるように巻く。
【0015】
次に、前縁用プリプレグ25Pを巻いた前縁型31に図示せぬ真空バッグを被せ、真空バッグ内を真空引きして、真空バッグで前縁用プリプレグ25Pに圧力を加えることにより、前縁用プリプレグ25Pを前縁型31に密着させ、図2(c)に示すように、前縁用プリプレグ成形体25に成形する。なお、符号25Aは前縁用プリプレグ成形体25の重なり部である。
【0016】
図3(a)は柔軟性のある前中間用シリコン樹脂製中子型35の横断面を示している。なお、符号35a,35bはそれぞれ前中間用シリコン樹脂製中子型35の前面、背面である。
【0017】
図3(b)において、前中間用シリコン樹脂製中子型35に内側離型フィルム36を巻いて、前中間用シリコン樹脂製中子型35の表面を内側離型フィルム36で被覆する。
図3(c)は内側離型フィルム36を前中間用シリコン樹脂製中子型35の表面に密着させた状態を示している。
上記の前中間用シリコン樹脂製中子型35、内側離型フィルム36は、前中間用プリプレグ挿入物38を構成している。
【0018】
図3(d)において、内側離型フィルム36上に外側離型フィルム37を巻いて、内側離型フィルム36を外側離型フィルム37で被覆する。
図3(e)は外側離型フィルム37を内側離型フィルム36に密着させた状態を示している。
上記した内側離型フィルム36及び外側離型フィルム37は薄く出来ているので、フィルムの重なり部の段差とはならない。
【0019】
図4(a)において、外側離型フィルム37の表面にシート状の前中間用プリプレグ26Pを両端部が前中間用シリコン樹脂製中子型35の前面35a側で重なるように巻く。
【0020】
図4(b)において、前中間用プリプレグ26Pで覆われた外側離型フィルム37及び前中間用プリプレグ挿入物38を平板77上に載せ、真空バッグ78を被せる。なお、符号79は平板77と真空バッグ78との間をシールするシール部材である。
【0021】
そして、真空バッグ78内を真空引きし、前中間用プリプレグ26Pを外側離型フィルム37に密着させて、図4(c)に示すように、前中間用プリプレグ成形体26に成形する。なお、符号26Aは前中間用プリプレグ成形体26の重なり部である。
これで、図4(d)に示すように、前中間用プリプレグ成形体26を含む前中間用中間成形品80が完成する。
【0022】
図5(a)は後中間型39の横断面を示している。
後中間型39は、上から順に配置された中間上型41、中間中型42、中間下型43と、中間上型41及び中間中型42のそれぞれを互いに位置決めするとともに、中間中型42及び中間下型43のそれぞれを互いに位置決めする中間型用キー45とからなる。
【0023】
図5(b)において、後中間型39の表面に離型剤を塗布した後に、後中間型39にシート状の後中間用プリプレグ27Pを両端部が後中間型39の背面39a側で重なるように巻く。
【0024】
そして、後中間用プリプレグ27Pを巻いた後中間型39に図示せぬ真空バッグを被せ、真空バッグ内を真空引きして、真空バッグで後中間用プリプレグ27Pに圧力を加えることにより、後中間用プリプレグ27Pを後中間型39に密着させて、図5(c)に示すように、後中間用プリプレグ成形体27に成形する。なお、符号27Aは後中間用プリプレグ成形体27の重なり部である。
【0025】
図6(a)において、後縁用シリコン樹脂製中子型51に内側離型フィルム52を巻いて、後縁用シリコン樹脂製中子型51の表面を内側離型フィルム52で被覆する。
図6(b)は内側離型フィルム52を後縁用シリコン樹脂製中子型51の表面に密着させた状態を示している。
【0026】
図6(c)において、後縁用シリコン樹脂製中子型51に形成された段部51aに内側離型フィルム52を介して後縁用金属製中子型53を載せる。
後縁用シリコン樹脂製中子型51、内側離型フィルム52及び後縁用金属製中子型53は、後縁用プリプレグ挿入物56を構成している。
【0027】
図6(d)において、内側離型フィルム52及び後縁用金属製中子型53を外側離型フィルム54で一括して被覆する。
図6(e)は外側離型フィルム54を内側離型フィルム52及び後縁用金属製中子型53の表面に密着させた状態を示している。
上記した内側離型フィルム52及び外側離型フィルム54は薄く出来ているので、フィルムの重なり部の段差とはならない。
【0028】
図7(a)において、外側離型フィルム54の表面にシート状の後縁用プリプレグ28Pを両端部が後縁用シリコン樹脂製中子型51の前面51a側で重なるように巻く。
図7(b)において、後縁用プリプレグ28Pで覆われた外側離型フィルム54及び後縁用プリプレグ挿入物56を平板77上に載せ、真空バッグ78を被せる。
【0029】
そして、真空バッグ78内を真空引きし、後縁用プリプレグ28Pを外側離型フィルム54に密着させて、図7(c)に示すように、後縁用プリプレグ成形体28に成形する。
これで、図7(d)に示すように、後縁用プリプレグ成形体28を含む後縁用中間成形品81が完成する。なお、符号28Aは後縁用プリプレグ成形体28の重なり部である。
【0030】
次に、完成した各成形体25,26,27,28が、後述する図8、図9の如く積層され、更に、図10〜図12の各工程を経てエルロンが完成することになる。
図8(a)において、下型21の表面に離型剤を塗布した後、外皮用プリプレグ22を下型21に積層する。外皮用プリプレグ22のうち、下型21の凹部21a内に配置された部分は下側プリプレグ22a、下型21の平坦部21bに載った部分は上側プリプレグ22dである。
【0031】
図8(b)において、前述した前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27及び後縁用プリプレグ成形体28を外皮用プリプレグ22の下側プリプレグ22a上に、図8(c)の如く、前後方向(図の左右方向)に隣り合うように並べ、図8(b)において、これらの下型21、外皮用プリプレグ22、前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27及び後縁用プリプレグ成形体28の上を真空バッグ83で覆う。なお、符号84は下型21と真空バッグ83との間をシールするシール部材である。
【0032】
図9(a)において、真空バッグ83内を真空引きし、真空バッグ83で中空構造物用プリプレグ集合体23に圧力を加え、下側プリプレグ22aと、前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27、後縁用プリプレグ成形体28とを密着させる。
図9(b)において、上側プリプレグ22dを中空構造物用プリプレグ集合体23上に折り曲げて後端部が下側プリプレグ22aの端部に接するように載せる。
【0033】
図10(a)〜図10(d)では、図9(b)に示した外皮用プリプレグ22を省いた状態を示している。
図10(a)において、後縁用プリプレグ成形体28内から、まず、内側離型フィルム52で覆われた後縁用シリコン樹脂製中子型51を長手方向に抜き、この後で、後縁用金属製中子型53(図7(d)参照)を抜く。また、同様にして、前中間用プリプレグ成形体26内から内側離型フィルム36で覆われた前中間用シリコン樹脂製中子型35を抜く。
【0034】
後縁用シリコン樹脂製中子型51は、その性質上、内側離型フィルム52が密着しやすく、また、内側離型フィルム52と外側離型フィルム54(図7(d)参照)とは離れやすいため、後縁用シリコン樹脂製中子型51は、内側離型フィルム52と一体になって脱型することになる。
【0035】
また、図10(b)のように、外側離型フィルム54は、後縁用プリプレグ成形体28の内面側に密着し、内面に残ることになる。
なお、後縁用シリコン樹脂製中子型51を抜くと、そこに空間が出来ることになり、後縁用金属製中子型53を下方向に脱落させることが可能になり、後縁用金属製中子型53を長手方向に抜くことが可能になる。(後縁用金属製中子型53には、凹状開口部11a(図1参照)に追従するように中子型凹部が形成されており、後縁用シリコン樹脂製中子型51を抜かないと、凹状開口部11aと中子型凹部が噛み合った状態のため、後縁用金属製中子型53が抜けない。)
【0036】
同様にして、図10(a)において、内側離型フィルム36と前中間用シリコン樹脂製中子型35とが一体になって脱型され、前中間用プリプレグ成形体26の内面側には外側離型フィルム37(図4(d)参照)が密着することになる。
【0037】
図10(c)において、前中間用プリプレグ成形体26の中空部にナイロン製のチューブバッグ85を挿入し、後縁用プリプレグ成形体28の中空部にナイロン製のチューブバッグ86を挿入する。チューブバッグ85,86の両端は、それぞれ開口部85a,86a(手前側の符号85a,86aのみ図示)になっている。
図10(d)はチューブバッグ85が前中間用プリプレグ成形体26内に挿入され、チューブバッグ86が後縁用プリプレグ成形体28内に挿入された状態を示している。
【0038】
図11(a)において、上側プリプレグ22d及び下型21上に上型に相当する炭素繊維強化プラスチック製のプレッシャプレート91を載せる。
図11(b)において、プレッシャプレート91の上に、真空引きによる減圧時に通気するためのブリーザクロス92を載せ、下型21、プレッシャプレート91及びブリーザクロス92の上を真空バッグ93で覆い、真空バッグ93内を真空引きする。なお、チューブバッグ85,86の両端部である開口部85a,86a(図10(d)参照)は、真空バッグ93の外側に露出している。
【0039】
図11(c)において、真空バッグ93内を真空引きした状態で、オートクレーブ内に入れ、0.3〜0.6MPaに加圧、120〜180℃に加熱する。加圧、加熱が終了し、温度が常温まで低下すれば、各プリプレグ、プリプレグ成形体が結合、本硬化してエルロン10が得られる。
【0040】
上記の後、エルロン10から前縁型31、後中間型39及びチューブバッグ85,86を取り外す。
前縁型31については、図2(c)において、前縁上型32又は前縁下型33のいずれかを長手方向に向けてハンマー等で軽く叩いて前縁上型32と前縁下型33と前縁型用キー34との相対的な位置関係をずらし、この状態で工具(ペンチ等)で前縁型用キー34の端部を挟んで引き抜き、前縁上型32及び前縁下型33の一方を引き抜き、前縁上型32及び前縁下型33の他方を引き抜く。
【0041】
後中間型39についても、図5(c)参照において、前縁型31と同様に、中間上型41、中間中型42又は中間下型43のいずれかを長手方向に向けてハンマー等で軽く叩いて中間上型41、中間中型42、中間下型43及び中間型用キー45の相対的な位置関係をずらし、この状態で2本の中間型用キー45をそれぞれ工具(ペンチ等)で端部を挟んで引き抜き、まず、中間中型42を引き抜き、次いで、残りの中間上型41及び中間下型43を引き抜く。
【0042】
図11(c)に戻って、チューブバッグ85,86については、前中間用プリプレグ成形体26及び後縁用プリプレグ成形体28の内面にそれぞれ外側離型フィルム37(図4(d)参照),54(図7(d)参照)が残っているため、取外しやすくなっている。
【0043】
前中間用プリプレグ成形体26及び後縁用プリプレグ成形体28の内面側(チューブバッグ85,86と接する面)には、通常、離型フィルムを配置する作業が大変である。
本実施例1では、二重になった離型フィルムのうちの内側離型フィルムと中子型とを一緒に引き抜くことで、外側離型フィルムが前中間用プリプレグ成形体26、後縁用プリプレグ成形体28の内面側に密着して残るため、通常の離型フィルムの配置作業が要らなくなる。
【0044】
以上に述べたオートクレーブ内での加圧・加熱時の作用を説明する。
図12に示すように、前中間用プリプレグ成形体26内のチューブバッグ85及び後縁用プリプレグ成形体28内のチューブバッグ86にそれぞれ圧縮空気を送り、前中間用プリプレグ成形体26及び後縁用プリプレグ成形体28に所定の圧力を作用させる。
【0045】
この状態で、真空バッグ内を真空引きさせ、外皮用プリプレグ22に外側から所定の圧力を作用させるとともに、外皮用プリプレグ22及び外皮用プリプレグ22内の各プリプレグを所定の温度に加熱する。
【0046】
この結果、前中間用プリプレグ成形体26及び後縁用プリプレグ成形体28は所定の形状に維持されながら、前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27及び後縁用プリプレグ成形体28と外皮用プリプレグ22とが結合し、加圧・加熱を終了させて常温まで低下した後に、エルロン10(図1参照)が完成する。
【0047】
図8(c)に戻って、前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27及び後縁用プリプレグ成形体28の各重なり部25A,26A,27A,28Aは中間桁13,15(図1参照)が形成される部分に配置されているので、図1において、上側外板11及び下側外板12に凹凸や段差が生じないため、エルロン10の空気抵抗を低減することができ、また、エルロン10の外観性を向上させることができる。
【実施例2】
【0048】
次に本発明の実施例2を説明する。実施例1と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図13に示すように、前縁用プリプレグ成形体25Xの重なり部25Bの一端部25dを前縁型31の背面31a側(即ち、中間桁の領域)に配置し、重なり部25Bの他端部25eを前縁型31の前端部31b側に配置し、前中間用プリプレグ成形体26Xの重なり部26Bの一端部26dを前中間用シリコン樹脂製中子型35(図3(a)参照)の前面35a側(中間桁の領域)に配置し、重なり部26Bの他端部26eを前中間用シリコン樹脂製中子型35(図3(a)参照)の背面35b(図3(a)参照)側(中間桁の領域)に配置する。
【0049】
また、後中間用プリプレグ成形体27Xの重なり部27Bの一端部27dを後中間型39の背面39aに配置し、重なり部27Bの他端部27eを後中間型39の前面39bに配置し、後縁用プリプレグ成形体28Xの重なり部28Bの一端部28dを後縁用シリコン樹脂製中子型51(図6(a)参照)の前面51a(図6(a)参照)側(中間桁の領域)に配置し、重なり部28Bの他端部28eを後縁用シリコン樹脂製中子型51の背面51b(図6(a)参照)側に配置する。
【0050】
上記したように、前縁用プリプレグ成形体25Xの重なり部25Bの他端部25eを前縁型31の前端部31b側に配置し、後縁用プリプレグ成形体28Xの重なり部28Bの他端部28eを後縁用シリコン樹脂製中子型51の背面51b側に配置しても、エルロン10(図1参照)の上側外板11(図1参照)及び下側外板12(図1参照)側となるように重なり部を設けるのに比べて空気抵抗を小さくすることができる。
【実施例3】
【0051】
次に本発明の実施例3を説明する。実施例1と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図14に示すように、前縁用プリプレグ成形体25Yの重なり部25Cの一端部25fを前縁型31の背面31a側(即ち、中間桁の領域)に配置し、重なり部25Cの他端部25gを中間桁の上端となる部分に配置し、前中間用プリプレグ成形体26Yの重なり部26Cの一端部26fを前中間用シリコン樹脂製中子型35(図3(a)参照)の前面35a側(中間桁の領域)に配置し、重なり部26Cの他端部26gを中間桁の下端となる部分に配置する。
【0052】
また、後中間用プリプレグ成形体27Yの重なり部27Cの一端部27fを後中間型39の背面39aに配置し、重なり部27Cの他端部27gを中間桁の上端となる部分に配置し、後縁用プリプレグ成形体28Yの重なり部28Cの一端部28fを後縁用シリコン樹脂製中子型51(図6(a)参照)の前面51a(図6(a)参照)側(中間桁の領域)に配置し、重なり部28Cの他端部28gを中間桁の下端となる部分に配置する。
【0053】
重なり部25Cの一端部25f側と重なり部26Cの一端部26f側、及び重なり部27Cの一端部27f側と重なり部28Cの一端部28f側は、それぞれ中間桁の上下に重ならない位置に配置される、即ち、それぞれ互いに前後方向の隙間を埋めるように隣接して配置されるため、各成形体25Y,26Y,27Y,28Yを前後方向に圧縮させて隙間を埋める必要がなく、成形体25Y,26Y,27Y,28Yを容易に並べて配置することができる。
【実施例4】
【0054】
次に本発明の実施例4を説明する。実施例1と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図15に示すように、前縁用プリプレグ成形体25Zの重なり部25Dの一端部25hを前縁型31の背面31a側で且つ中間桁の下端となる部分に配置し、重なり部25Dの他端部25jを前縁型31の背面31a側で且つ中間桁の上端となる部分に配置し、前中間用プリプレグ成形体26Zの重なり部26Dの一端部26hを前中間用シリコン樹脂製中子型35(図3(a)参照)の前面35a側で且つ中間桁の下端となる部分に配置し、重なり部26Dの他端部26jを前中間用シリコン樹脂製中子型35の前面35a側で且つ中間桁の上端となる部分に配置する。
【0055】
また、後中間用プリプレグ成形体27Zの重なり部27Dの一端部27hを後中間型39の背面39a側で且つ中間桁の下端となる部分に配置し、重なり部27Dの他端部27jを後中間型39の背面39a側で且つ中間桁の上端となる部分に配置し、後縁用プリプレグ成形体28Zの重なり部28Dの一端部28hを後縁用シリコン樹脂製中子型51(図6(a)参照)の前面51a(図6(a)参照)側で且つ中間桁の下端となる部分に配置し、重なり部28Dの他端部28jを後縁用シリコン樹脂製中子型51(図6(a)参照)の前面51a側で且つ中間桁の上端となる部分に配置する。
【0056】
このように、重なり部25D,26D,27D,28Dを中間桁の上端から下端までの全領域に配置することで、中間桁の全領域が重なり部25D,26D,27D,28Dによって各プリプレグ成形体25Z,26Z,27Z,28Zに混合された強化繊維の切れ目のない層状に形成され、中間桁の強度を向上させることができる。
【0057】
上記の図1、図8(a)〜(c)、図9(a),(b)、図11(a)〜(c)に示したように、複数の中空部10a〜10dと、これらの各中空部10a〜10dを区画する中間桁13〜15とを含む航空機翼構造の成形方法であって、下型21に下側外皮用プリプレグとしての下側プリプレグ22aを積層し、この下側プリプレグ22a上に複数の中空構造物用プリプレグ成形体としての前縁用プリプレグ成形体25、前中間用プリプレグ成形体26、後中間用プリプレグ成形体27、後縁用プリプレグ成形体28を並列に隣接させて載置し、これらの中空構造物用プリプレグ成形体25〜28上に上側外皮用プリプレグとしての上側プリプレグ22dを積層し、この後に、これらの下型21、下側プリプレグ22a、複数の中空構造物用プリプレグ成形体25〜28、上側プリプレグ22dを真空バッグ93で覆い、この真空バッグ93内を真空引きするとともに加圧・加熱することで翼構造を一体成形する航空機翼構造の成形方法において、中空構造物用プリプレグ成形体25〜28が、それぞれに対応する成形型としての前縁型31、前中間用シリコン樹脂製中子型35(図3(a)参照)、後中間型39、後縁用シリコン樹脂製中子型51及び後縁用金属製中子型53にプリプレグとしての前縁用プリプレグ25P(図2(b)参照)、前中間用プリプレグ26P(図4(a)参照)、後中間用プリプレグ27P(図5(b)参照)、後縁用プリプレグ28P(図7(a)参照)を両端部が重なる形で巻き付けるように形成され、その重なり部25A,26A,27A,28Aが中間桁13〜15となる領域に配置されることを特徴とする。
【0058】
上記構成により、翼構造の外表面、詳しくは、翼構造の上下面、即ち上側外板11、下側外板12に各プリプレグ25P,26P,27P,28Pの重なり部25A,26A,27A,28Aによる凹凸や段差が現れず、翼構造の外表面に沿って空気流をスムーズに流すことができ、空気抵抗を低減することができるとともに、翼構造の外観性を向上させることができる。
【0059】
上記の図14、図15に示したように、重なり部25C,26C,27C,28Cの他端部25g,26g,27g,28gが、中間桁13〜15の上端部又は下端部となる部分に配置され、また、重なり部25D,26D,27D,28Dの一端部25h,26h,27h,28h及び他端部25j,26j,27j,28jが中間桁13〜15の上端部及び下端部となる部分に配置されるので、重なり部25D,26D,27D,28Dでは、中間桁13〜15の全体を重なり部25D,26D,27D,28Dで構成することができ、各中空構造物用プリプレグ成形体25Z,26Z,27Z,28Z内の長繊維を中間桁13〜15の長手方向全体に亘って切れ目なく配置することができるとともに、各中空構造物用プリプレグ成形体25Z,26Z,27Z,28Zを層状に重ねて中間桁13〜15を形成することができ、中間桁13〜15の強度を向上させることができる。
【0060】
尚、実施例1〜実施例4では、図8(c)、図13〜図15に示したように、重なり部25A,26A,27A,28A、重なり部25X,26X,27X,28X、重なり部25Y,26Y,27Y,28Y、重なり部25Z,26Z,27Z,28Zを図1に示した中間桁13,15となる位置に形成したが、これに限らず、中間桁14となる位置に形成してもよい。
【0061】
また、図15に示したように、重なり部26Dの一端部26h及び重なり部28Dの一端部28hを中間桁13,15となる部分の下端部に形成し、重なり部26Dの他端部26j及び重なり部28Dの他端部28jを中間桁13,15となる部分の上端部に形成したが、これに限らず、一端部26h,28hを中間桁13,15となる部分の上端部に形成し、他端部26j,28jを中間桁13,15となる部分の下端部に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の翼構造の成形方法は、航空機の製造に好適である。
【符号の説明】
【0063】
10…翼(エルロン)、10a〜10d…中空部、13〜15…中間桁、21…下型、22a…下側外皮用プリプレグ(下側プリプレグ)、22d…上側外皮用プリプレグ(上側プリプレグ)、25,25X,25Y,25Z…中空構造物用プリプレグ成形体(前縁用プリプレグ成形体)、25A,25B,25C,25D…重なり部、25h,26h,27h,28h…重なり部の端部(一端部)、25g,25j,26g,26j,27g,27j,28g,28j…重なり部の端部(他端部)、25P,26P,27P,28P…プリプレグ(前縁用プリプレグ、前中間用プリプレグ、後中間用プリプレグ、後縁用プリプレグ)、26,26X,26Y,26Z…中空構造物用プリプレグ成形体(前中間用プリプレグ成形体)、26A,26B,26C,26D…重なり部、27,27X,27Y,27Z…中空構造物用プリプレグ成形体(後中間用プリプレグ成形体)、27A,27B,27C,27D…重なり部、28,28X,28Y,28Z…中空構造物用プリプレグ成形体(後縁用プリプレグ成形体)、28A,28B,28C,28D…重なり部、31,35,39,51,53…成形型(前縁型、前中間用シリコン樹脂製中子型、後中間型、後縁用シリコン樹脂製中子型、後縁用金属製中子型)、93…真空バッグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空部と、これらの各中空部を区画する中間桁とを含む航空機翼構造の成形方法であって、
下型に下側外皮用プリプレグを積層し、この下側外皮用プリプレグ上に複数の中空構造物用プリプレグ成形体を並列に隣接させて載置し、これらの中空構造物用プリプレグ成形体上に上側外皮用プリプレグを積層し、この後に、これらの下型、下側外皮用プリプレグ、複数の中空構造物用プリプレグ成形体、上側外皮用プリプレグを真空バッグで覆い、この真空バッグ内を真空引きするとともに加圧・加熱することで前記翼構造を一体成形する航空機翼構造の成形方法において、
前記中空構造物用プリプレグ成形体は、それぞれに対応する成形型にプリプレグを両端部が重なる形で巻き付けるように形成され、その重なり部が前記中間桁の領域に配置されることを特徴とする航空機翼構造の成形方法。
【請求項2】
前記重なり部の端部は、前記中間桁の上端部又は下端部に配置されることを特徴とする請求項1記載の航空機翼構造の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−152753(P2011−152753A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16848(P2010−16848)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】