説明

船舶の運航支援システムと船舶の運航支援方法

【課題】実海域での船体性能を精度よく推定して、実運航にフィードバックすることで、燃費を向上し、CO2排出量の削減し、到着予定時刻(ETA)の精度を向上し、効果的な修繕計画を立てることができる船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法を提供する。
【解決手段】運航モニタリングシステム10が収集した就航データ等を、就航解析システム20が入力して、最新の推定性能の情報等のデータを出力し、このデータと航路で予測される気象等の情報のデータを最適航路計算システム30が入力して、最適航路に関する航海計画の情報等のデータを算出し、このデータと、スポット気象、海象の情報等のデータとを前記運航モニタリングシステム10が入力して前記就航データ等を算出するように形成し、前記運航モニタリングシステム10と前記就航解析システム20と前記最適航路計算システム30で解析サイクルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運航モニタリングシステムと就航解析システムと最適航路計算システムを統合した総合的な船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶数の急増による運航規模の拡大、船員の減少と国際化、急激な原油高騰、そして環境問題、とりわけ地球温暖化ガス排出削減の必要性は国内外において急速な高まりをみせ、地球上で物流活動を営む海運業にとっても重要な課題となっている。このような海運業界を取り巻く環境は大きな変貌を示し、経済性と効率化のみではなく環境負荷や安全性を考慮した船舶の運航管理を実現する技術が要求されつつあり、海運業を支える造船業においても重要な課題となりつつある。
【0003】
特に海運業界におけるCO2削減の取り組みとしても実海域性能の向上とウェーザールーティングに代表される運航状況の効率化が重要なテーマとして注目されている。これらの実海域性能の向上と運航状況の効率化を実現するためには就航船のモニタリングとタイムリーな支援そして性能評価技術が必要となる。
【0004】
経済性と効率化のみでなく環境負荷を考慮した船舶の実海域性能向上を実現するための運航管理には、気象海象情報、船速、主機関の運転状況などの運航情報を収集蓄積するだけでなく、より信頼性の高い状態でリアルタイムに船内と陸上オフィスが運航情報を共有化しながらモニタリングする技術が必要である。
【0005】
近い将来インターネット技術の発展により広帯域で安価な海洋ブロードバンド(BB)の普及が予測されるが、現実は、現在船と陸の通信回線は高価で細いため、メールベースでの送受信に限定されている。
【0006】
このような環境において船内と陸上オフィスで就航船の運航情報を共有化しながら運航管理を行う船陸統合型の情報インフラシステム構築の可能性を模索し,運航情報をリアルタイムに信頼性の高い状態で船内と陸上オフィスが共有化しながら船舶の運航支援を行う運航モニタリングシステムを開発し、この技術に関する発明を特願2007−035503号で出願している。
【0007】
この運航モニタリングシステムは、就航船の航海・機関データをインターネット・ポータルサイト経由で陸上オフィスからモニタリングを可能とするシステムである。図8に示すような航海データ(船位、気象・海象)のみを表示するモニタリングと異なり、図9に示すような主機をはじめとした搭載機器の運転データも同時にモニタリング可能となっている。
【0008】
このようにインターネット回線を有効利用することにより、世界中の様々な場所から、本船の運航状態(生データ)を閲覧、利用可能となり、陸上オフィスから正確でタイムリーな船舶の運航支援が実現できることで、本船の状態に即したタイミングでの運航最適化を行うことによって、燃費削減などの環境負荷低減と、図10に示すような遠隔監視による主機・補機に対する高精度の性能解析・余寿命診断(e−GICS)の可能性が示されている。
【0009】
また、一方、船舶の「実海域性能」という、実際の就航状況に即した「総合的な性能」を表す言葉が注目され、実海域波浪中を航行する船舶の性能、安全性などライフサイクルの視点での解析・評価技術の研究開発が進められている。
【0010】
また、海運業界と造船業界における地球温暖化ガス排出削減の取り組みにおいて実海域性能の解析と評価技術を合わせ、気象・海象情報に対応して安全性と経済性を考慮した航路の最適化技術である最適航法(Optimum Routing)若しくはウェーザールーティング(Weather Routing )も注目されている。
【0011】
そして、下記のような、運行データから船舶の推進性能の評価を行う船舶の性能評価システム、計測データから船体運動モデルを導く船体動揺予測機能付き船体運動監視装置、船舶の航海計画支援システム、運航診断システム、余寿命を推定する船体構造の保守管理システム等が提案されている。
【0012】
例えば、航海の船速、エンジン回転数、時刻等の運行データの管理及び分析を自動的に行うと共に、航海情報ファイルを作成して、船速、馬力、プロペラ回転数などの船舶の推進性能に関する性能評価を容易に、短時間で、定量的に行うための船舶の性能評価システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0013】
また、船体運動モデルに関しては、一定時間内における船体運動の蓄積データを解析して、船体運動を一意的に決定するモデル式を計算し、予測する時間帯の気象・海象の予報値から求めた波スペクトラムとを重ねあわせて、予測する時間帯での動揺のピークの予測値を求める船体動揺予測機能付き船体運動監視装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0014】
また、航路の選択を危険海域情報・波浪推算データ受信装置からの情報に基づいて選択し、同航路における多数の通過点を選択し、各通過点における通過予定時刻を設定し、船舶の現在の位置および時刻から目的港への到達時刻に見合うように船舶の通過予定時刻、航海速度及び舵角を順次設定する航海計画支援システムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0015】
また、気象海象予報により予測される船舶の風圧抵抗及び波浪抵抗並びに潮流抵抗を演算し、その演算結果に基づき予測される航路上の通過点における通過予定時刻を過去のデータに基づく統計処理により補正して、目的港に許容誤差内に到達するための船速、舵角を演算し、この演算結果に基づいて主機関と舵角を制御して、目的港への定時到着と燃料消費率の改善と環境負荷の低減を図っている環境負荷低減型航海計画提供システムも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
また、船舶の個船性能データと海気象データとに基づいてある海域から目的地までの間で、船速、燃料消費量及びシーマージンを考慮して最適な航路を短時間で効率よく探索する最適航路探索システムも提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0017】
また、船舶の機関部の諸元データから異常を検出し、検出した異常と予め用意された複数のキーワードから異常内容を定性的に示すキーワードを検出し、キーワードと異常に係る複数の事例データとから検出した異常に関連する事例データを検出し、検出したキーワードとベクトル空間法とを用いて、検出された事例データの優先度を決定し、検出された事例データを優先度に応じて出力する船舶の運航診断方法及び船舶の運航診断システムが提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0018】
また、船舶上でモニタリング取得された実遭遇海象データと船舶の複数の所定の構造部位の疲労強度データと、船舶が将来遭遇する予測短期海象モデルデータとから疲労亀裂進展解析を行って、各構造部位の亀裂進展量を推定し、その亀裂進展量が板厚に達するまでの余寿命を推定する船体構造の保守管理システムが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0019】
しかしながら、この実海域における性能解析技術及び最適航法若しくはウェーザールーティングを運航管理の現場で実用的に運用するためには、運航状況に応じたリアルタイムな評価とフィードバックが行える実海域性能解析機能と収集蓄積された就航データを解析することによって統計的に予測する実海域健康診断機能を統合したトータル船舶の運航支援システムの構築が必要と考えられる。
【0020】
【特許文献1】特開2007−296929号公報
【特許文献2】特開平11−79076号公報
【特許文献3】特開2005−162117号公報
【特許文献4】特開2007−45338号公報
【特許文献5】特開2007−57499号公報
【特許文献6】特開2007−50760号公報
【特許文献7】特開2007−78376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、実海域での船体性能を精度よく推定して、実運航にフィードバックすることで、燃費を向上し、CO2排出量の削減し、到着予定時刻の精度を向上し、効果的な修繕計画を立てることができる船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するための本発明の船舶の運航支援システムは、船舶の船舶の運航支援を行う船舶の運航支援システムであって、対象船舶の機器と船体運動に関してデータ収集を行う運航モニタリングシステムと、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システムと、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システムとを有して構成されると共に、前記運航モニタリングシステムは、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを算出し、前記就航解析システムは、前記第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、前記最適航路計算システムは、前記第2データと、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、前記運航モニタリングシステムは、前記第4データと、スポット気象、海象の情報を含む第5データとを入力して前記第1データを算出するように形成され、前記運航モニタリングシステムと前記就航解析システムと前記最適航路計算システムは解析サイクルを形成するように構成される。
【0023】
つまり、この船舶の運航支援システムは、個々の対象船舶に対して、運航モニタリングシステムで対象船舶の運航状態をリアルタイムにモニタリングしながら、就航解析システムで就航解析や実海域性能評価を行ない、最適航路計算システムで目的に合った最適航路を算出し、この算出結果を実際の運航と照らし合わせながら、運航モニタリングシステムで使用して、サイクルを形成したシステムである。この実船計測、就航解析、最適航路計算のサイクルを統合されたシステムとして提供するものである。このシステムは、燃費最小化を支援する、高精度かつ効果的な実海域性能モニタリングシステムとなる。
【0024】
この構成により、対象船舶の一生において、データの収集と解析をサイクル的に行って、対象船舶に関する各種データを効率よく収集及び蓄積できると共に、対象船舶におけるデータ統計解析、実海域性能の推定と評価、船舶の性能の悪化の要因分析等を精度よく行うことができるようになる。つまり、従来技術では、船舶の一要素毎に、分散して行われていた各種データの収集及び蓄積と、個々の解析システムで行われていた解析及び評価を統合して行うことができる。
【0025】
その上、実海域におけるデータで性能評価し、この性能評価に基づいて運航データを作成するので、リアルタイムのデータを反映した推定性能に基づいて、海象、気象、海流の予測情報を考慮しながら、実際の運航における船舶の速力、燃料消費量、CO2排出量、船体動揺の監視と管理を行うことができるようになり、管理の精度を著しく向上できる。
【0026】
特に、運航モニタリングシステムによって収集及び蓄積された長期のデータとリアルタイムの就航データを用いて就航解析システムで、実海域における船舶の速力、燃料消費量、船体動揺等のデータ解析で、実海域での性能の推定と評価、就航実績データの統計解析を行うことができるので、対象船舶の実海域の性能評価と対象船舶の水槽実験から導いた性能評価とを容易に比較することができる。そのため、水槽実験から導く性能評価の補正方法が明確になりより精度を高めることができる。
【0027】
また、就航解析システムで算出される最新(更新後)の推定性能の情報と最新の船体運動モデルは、対象船舶に固有なデータであるので、このデータを用いて最適航路計算を行うことにより、航路の気象、海象、海流の予測情報だけに基づくウェーザールーティングの最適航路計算に比較して、予測時点で対象船舶の主機特性や波浪中応答特性などを生かした、燃料消費量最小航路計算や船体動揺対応航路計算や両者を統合した航路最適化積算等の最適航路計算を実施できるようになる。
【0028】
また、この最適航路計算の精度を向上できると共に、船体のサイクルの時間を短くしていくことにより、略リアルタイムで、現海域の気象、海象、海流の情報から、現状の運航状況に応じた船体動揺計算を行って安全性を確保することや、燃料消費量最小航路計算等による燃費最適化を時系列的に更新しながら、最適航路選択の支援を行うことができる。
【0029】
上記の船舶の運航支援システムにおいて、運航モニタリングシステムによって収集された就航データを入力して船体と機器の経年変化予測を行う性能診断システムを備えて構成する。
【0030】
この構成によれば、運航モニタリングシステムによって収集蓄積された就航データを用いて、性能診断システムにより、船体及びプロペラの汚損と劣化の老化現象等の経年変化と、主機関の性能の経年変化、更には余寿命を算出できるようになるので、これらの性能診断結果から、対象船舶の余寿命診断も行うことができるようになる。つまり、船体、プロペラ及び主機エンジンの経年変化・性能・余寿命診断を支援する実海域健康モニタリングを統合した船舶の運航支援システムとなる。従って、実海域運航における船全体のLCV(Life Cycle Value)性能という観点からの「船の一生」を評価することができるようになる。
【0031】
そして、上記の目的を達成するための本発明の船舶の運航支援方法は、対象船舶の機器と船体運動に関してデータ収集を行う運航モニタリングシステムと、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システムと、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システムとから構成される船舶の運航支援システムの船舶の運航支援方法であって、前記運航モニタリングシステムで、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを算出し、前記就航解析システムで、前記第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、前記最適航路計算システムで、前記第2データと、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、この第4データと、スポット気象、海象の情報を含む第5データとを前記運航モニタリングシステムに入力して前記第1データを算出することを特徴とする。
【0032】
また、上記の船舶の運航支援方法において、船舶の運航支援システムが、性能診断システムを備えて形成されると共に、この性能診断システムが、運航モニタリングシステムによって収集された就航データを入力して船体と機器の経年変化予測を行うことを特徴とする。
【0033】
これらの船舶の運航支援方法により、上記の船舶の運航支援システムと同様な作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法によれば、対象船舶の機器と船体運動に関してリアルタイムでデータ収集を行う運航モニタリングシステムと、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システムと、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システムとを統合して、各システムから出力されるデータを順次、次のシステムで使用して、全体としてサイクルを形成しているので、対象船舶に関する各種データを効率よく収集及び蓄積できると共に、対象船舶におけるデータ統計解析、実海域性能の推定と評価、船舶の性能の悪化の要因分析等を精度よく行うことができる。また、最適航路計算や運航管理の精度も著しく向上できる。
【0035】
その上、解析のサイクルの時間を短くしていくことにより、略リアルタイムで現状の海域の状況と現状の運航状況に応じた船体動揺計算を行って安全性を確保することや、燃料消費量最小航路計算等による燃費最適化を時系列的に更新しながら、最適航路選択の支援を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下図面を参照して本発明に係る船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法の実施の形態について説明する。
【0037】
最初に、本発明の第1の実施の形態の船舶の運航支援システム1について説明する。図1に示すように、この船舶の情報処理システム1は、対象船舶の機器と船体運動に関してデータ収集を行う運航モニタリングシステム10と、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システム20と、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システム30とを有して構成される。これらのシステム10,20,30は、コンピュータに搭載されたプログラム群で形成する。これらのプログラムが搭載されたコンピュータは、LAN又はインターネット回線等で、データベースの入出力を介して互いに連結される。
【0038】
また、データベースの記憶場所として、運航モニタリングシステム10の出力であり、かつ、就航解析システム20の入力となる、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを記憶する第1データベース記憶装置D10を設け、就航解析システム20の出力であり、最適航路計算システム30の入力となる、最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを記憶する第2データベース記憶装置D20を設ける。
【0039】
更に、最適航路計算システム30の入力となる、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを記憶する第3データベース記憶装置D30と、最適航路計算システム30の出力であり、運航モニタリング10の入力となる、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを記憶する第4データベース記憶装置D40を設ける。また、更に、運航モニタリングシステム10の入力となる、スポット気象、海象の情報を含む第5データを記憶する第5データベース記憶装置D50を設ける。
【0040】
これらのデータベース記憶装置D10〜D50は個々の装置として設けてそれぞれのデータをそれぞれ1個の記憶装置に記憶してもよく、大きな記憶装置の一部として、第1〜第5のデータを同一の記憶装置に記憶しても良い。また、海象、気象、海流の情報である第3データは、海象、気象、海流のデータを商業的に配信する気象情報提供者から入手し、スポット気象、海象の情報である第5データも同様に入手する。この第5データは、運航モニタリングシステム10の船内情報処理システムで入手できる気象海象データとは別に得られるデータである。
【0041】
そして、運航モニタリングシステム10は、第4データベース記憶装置D40から最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データと、第5データベース記憶装置D50からスポット気象、海象の情報を含む第5データとを入力して、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを収集及び算出し、第1データベース記憶装置D10に出力する。
【0042】
就航解析システム20は、第1データベース記憶装置D10から第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、第2データベース記憶装置D20に出力する。
【0043】
最適航路計算システム30は、第2データベース記憶装置D20から第2データを、また、それとともに、第3データベース記憶装置D30から航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、第4データベース記憶装置D40に出力する。
【0044】
この航海計画とバラストバランス計画を含む第4データを実船の航海に取り入れて、その計画に基づいて、あるいは修正された計画に基づいて、実海域での航海用データや実船計測データ等を運航モニタリングシステム10で収集及び蓄積を行う。
【0045】
これらのサイクルを何回か経て、次のデータを得ることができる。データ統計解析結果として、就航情報、海象状況、速力状況、馬力状況、燃費状況、回転数状況等のデータを得られ、就航状況を確認できる。また、実海域性能推定・評価のデータとして、シーマージン解析、船速低下解析、平均燃料消費率解析(FOC解析)、モード解析等のデータが得られ、これらのデータは契約速力、バンカー契約の採算計算に活用することができる。
【0046】
また、船体・プロペラ汚損影響などの性能悪化要因として、回転数変化、平均燃料消費率変化、馬力変化、船速変化等のデータが得られ、ドック入りやメンテナンスの修繕計画に活用できる。
【0047】
更に、好ましくは、図2に示すように、性能診断(健康診断)システム40を備えて形成され、この性能診断システム40が、運航モニタリングシステム10によって収集され、第1データベース記憶装置D10に記憶された第1データの内の就航データを入力して船体と機器の経年変化予測や余寿命診断を行って、推定性能経年変化シミュレーションとしての経年変化推定データや主機の余寿命診断等の第6データを算出し、第6データベース記憶装置D60に出力するように構成する。
【0048】
次に、各システムについてより詳細に説明する。最初に、運航モニタリングシステム10について説明する。この運航モニタリングシステム10は、船舶側の船内情報処理システムと陸上の陸側情報処理システムと、インターネット回線及び衛星通信システムからなる、これらの相互間のデータ送受信機構とを有して構成される。
【0049】
船内情報処理システムでは、航海用データと機関用データと含む運航用データの収集及び蓄積を行うと共に、船舶を管理する上で、不可欠なアブログ(ABLOG)とヌーンレポート(Noon Report)等の管理用データの作成及び管理を行う。これらの航海用データ、機関用データ、管理用データが、陸上情報処理システムに送られるが、これらの内から就航データ、波高データ、積み付けデータ等の第1データを抜き出して第1データベース記憶装置D10に出力する。なお、船舶の運航に際しては、航海計画とバラストバランス計画が必要であるので、これらの第4データを第4データベース記憶装置D40から入力する。
【0050】
この航海用データは、電子海図表示システム(ECDIS)、航海情報記録装置(VDR)又は簡易型航海情報記録装置(S−VDR)からリアルタイムで取得したデータ、積み付け計算結果を含み、機関用データは、主機と補機等の各種機器の運転データのデータロガーからリアルタイムで取得したデータを含む。なお、船舶自動識別装置(AIS)や航行警報自動受信装置(NAVTEX)からもデータも、航海用データなどと同様に収集し、蓄積することが好ましい。また、船体運動状態表示装置(SMACS)を備えてリアルタイムで船体運動状態を表示できるように構成する。
【0051】
このアブログとヌーンレポートの作成に必要なデータは、運航モニタリングシステム10の船舶側に設けられた船内情報処理システムが収集及び保有しているデータと新たに乗船員が補足入力するデータから構成される。なお、船内情報処理システムが収集及び保有しているデータは自動的に定形書式に転送され、船内情報処理システムの船側データ表示手段により表示される。乗船員はこの画面から補足データの入力並びに自動的に転送されたデータの修正を行う。作成されたアブログ及びヌーンレポートは船内情報処理システムが収集したデータと一緒に陸側情報システムに送信され、第1データベース記憶装置D10に記憶及び蓄積される。
【0052】
船内情報処理システムは航海情報記録装置に収集されているレーダー映像、船橋音声、VHF通信音声、更には、船内に配置するカメラからの映像・音声データをも収集し、陸側情報処理システムに送信できるように構成することが好ましい。現行のインマルサット(国際移動衛星機構)の衛星通信では、ファイルサイズの関係で通信コストが莫大に掛かるため、常時これらのデータを陸側情報処理システムに送信する構成ではなく、異常時等で、映像・音声データが必要な状況になった場合に、陸上サービス利用者が入手したいデータを陸側情報処理システム経由で船内情報処理システムに指令を出し、この指令に基づいて、データを陸側情報処理システムに送るように構成する。なお、船舶側においても船内情報処理システムにこの指令を乗船員が入力できるように構成する。
【0053】
陸側情報処理システムでは、ポータルサイトサーバーに設けられたデータ集積管理手段により、船内情報処理システムから送信されたデータの整理と管理を行うと共に、第1データの第1データベース記憶装置D10への出力を行う。また、この陸側情報処理システムでは、各陸上サービス利用者側に設けられた管理用コンピュータにより、蓄積されたアブログ及びヌーンレポートを閲覧及び集計ができるように構成される。また、手入力機能の拡張機能として、船内情報処理システムが収集したデータを修正できる機能も持たせ、修正の履歴を修正する前のデータと共に、第1データベース記憶装置D10に記憶できるように構成する。これにより、例えば、船舶に搭載されている温度センサ等の計測機器の経年劣化による誤計測を正すことができるようになる。
【0054】
また、陸側情報処理システムで保有している、第5データベース記憶装置D50に入力された気象、海象データの一部あるいは全部を船舶の乗船員又は陸上サービス利用者からの要求により船内情報処理システムに送信する機能を持たせる。これにより、船舶側でも気象、海象データを参照しながら、航海計画を立案したり、修正したりすることができるようになる。
【0055】
さらに、船内情報処理システムが正常に稼動しているかをモニタリングするため、プログラムの各ステップでの動作状況を記録し、船内情報処理システムが収集したデータと一緒に陸側情報処理システム経由でシステム管理者に送信する機能を持たせる。また、サービスを提供するにあたって、データの更新漏れを防止するため、船内情報処理システムから受信するデータ及び気象情報提供者から受信するデータが一定期間を超えて、受信できない場合、システム管理者に異常を知らせる警報が送信される機能を持たせて構成することが好ましい。
【0056】
次に、就航解析システム20について説明する。この就航解析システム20は、特に燃費低減等の経済性、効率化そして地球温暖化ガス排出削減など環境負荷低減を考慮したより高度な運航支援を実現するため、対象となる船舶の実海域性能をより高精度に把握し、その実海域性能を効果的に利用できるようにするものである、また、就航船の増加による実績データの管理を簡単かつ有効活用できる機能も提供する。
【0057】
この就航解析システム20では、水槽試験データおよび実績のある解析手法を基礎とした船舶性能推定技術を応用し、就航実績データとの相互リンクを併用することで対象船舶の実海域における実力性能の評価を高精度に行い最適航路計算システム30との連携で、対象船舶の経済性向上と環境負荷低減を考慮した運航管理支援機能をもたらすものである。なお、確率密度評価、潮流影響評価、主機特性、意図的な船速低下などの人的影響を考慮できるようにすることがより好ましい。
【0058】
この就航解析システム20は、ポータルサイトサーバーに接続しているシステムであり、図1及び図2に示すように、第1データベース記憶装置D10から就航データ、波高データ、積み付けデータ等の第1データを入力して、就航解析計算プログラムにより、実海域における船舶の性能の推定及び評価を行う。また、発電機関等の各機器ベンダーの提供する遠隔診断サービスとの連携も可能とするような柔軟なシステムとして構築することが好ましい。
【0059】
この就航解析システム20では、基本的な機能として、図3に示すように、船型登録21、就航解析22、実海域性能評価23及び船舶診断(船舶ドクター)24の機能を有して構成され、図4に示すようなフローに従って計算が行われる。
【0060】
船型登録21の機能は、対象船舶のデータを登録する機能と、各種の個別船舶のデータの管理を行う機能を有している。このステップS21の船型登録では、船主等の利用者より提示された船種毎に船型データベースを作成し、そのデータベースより就航解析及び実海域性能評価に必要な船型パラメータを抽出する。つまり、就航解析に先立って、船名、船種、船体長さ、垂線間長、船幅、喫水、排水量等の要目、船体の断面形状、ドック入り前後の最低1年分のヌーンレポート、アブログデータ等の就航データを用意し、これらの船舶諸元から船型モデルを推定する。
【0061】
就航解析22の機能は、対象船舶の就航実績データについて統計解析を行うことにより、対象船舶の実海域性能特性を抽出すると同時に膨大な対象船舶のデータを効率的に管理する機能を有すると共に、就航情報、海象状況、速力状況、馬力状況、燃費状況、回転数状況等の表示機能を有している。また、これらの就航実績データを有効活用できる表示項目を利用者の要望に対応してカスタマイズすることによって、経年変化や対象船舶の状況を迅速に把握できるようになる。
【0062】
このステップS23の就航解析では、統計解析された就航実績データを用いて実海域性能推定と経年変化のチューニングを行い、高精度な実海域推進性能(船速低下、燃費、回転数等)を推定する。それと同時に、航路の季節変動等の外乱の影響のトレンドを把握することにより、運航支援及び新造船投入などの貴重なデータベースを構築する。
【0063】
実海域性能評価23の機能は、就航データ、豊富な水槽試験データ、実績ある性能解析手法及び試運転カーブをベースに対象船舶の主要目、一般配置(GA)等から実海域推進性能(船速低下、燃費、シーマージン等)を推定及び評価する機能を有しており、基本機能として、平水中推進性能推定23a、実海域推進性能推定23b、シーマージン、船速低下及び燃費の推定23c、モード解析23dを有している。また、計算条件の設定、計算結果、シーマージン解析結果、船速低下推定結果、燃料消費量推定結果、モード解析結果等の表示機能も有している。図4のステップS23で就航解析を始める。
【0064】
平水中推進性能推定23aでは、ステップS24で登録された船型データ(主要目、一般配置等)と試運転カーブ及び就航データをベースにして対象船舶の平水中における推進性能を豊富な水槽試験データを基に実績のある解析手法を用いて推定する。これにより、対象船舶の馬力、速力、プロペラ回転数および燃料消費量等の基本特性を推定し、ステップS25で実海域推進性能推定評価に対する基礎データを得る。
【0065】
実海域推進性能推定23bでは、図4のステップS26で、船体の運動応答の数値計算法としてストリップ法を用い、また、波浪中抵抗増加の推定法として運動応答による成分に対して「中村―新谷の方法」、船首部での反射波に由来する成分に対して「藤井―高橋の方法」を用いて計算する。これらの応答計算結果を用いて実海域の推進性能を推定するために、短波頂不規則波中の平均波浪中抵抗増加および船体運動の有義振幅を求める。また、上部構造物の風圧抵抗による抵抗増加に関しても実績のある推定手法を用いて計算を行い実海域において対象船舶が遭遇する状況に対応させる。
【0066】
この結果の短波頂不規則波中における平均波浪中抵抗増加と風圧抵抗はシーマージン、船速低下及び燃費の推定に用いられ、船体運動の有義振幅を合わせて最適航路計算システム30においても使用される。
【0067】
シーマージン、船速低下及び燃費(平均燃料消費率(FOC))の推定23cでは、例えば、船速低下の推定計算では、平水中推進性能推定及び実海域推進性能推定によって求められた実海域中での全抵抗を求め、平水中と同様の推力一致法により所要馬力を計算し、得られ速力と所要馬力の関係から所定の主機出力に対する船速低下を求める。なお、解析に際してはビューフォートスケール(階級、風速、平均浪周期、有義浪高)を風浪と波浪の条件として適用する。
【0068】
モード解析23dでは、利用者の要望に合わせて、実海域推定モードを決定し、そのモードに対応したシーマージン、船速低下及び燃費等を評価する。
【0069】
これらの入力データを基により、豊富な水槽試験と実績のある解析技術をベースとした船体運動モデルを採用した解析・推定エンジンで自動計算して、最新推定性能情報と最新船体運動モデル等を含む第2データを算出し、第2データベース記憶装置D20に出力する。
【0070】
これにより、対象船舶の就航実績データを基にした就航解析と理論解析に基づいた実海域性能推定との相互リンクにより実海域における性能評価を高精度で行い、対象船舶の就航状況の確認と実力の把握、契約速力およびバンカー契約などの採算計算の支援、地球温暖化ガス排出量の把握、将来の性能状況予測に結び付ける。
【0071】
最適航路計算システム30は、図1及び図2に示すように、データベース記憶装置D20からの最新の推定性能情報と最新の船体運動モデルを含む第2データと、第3データベース記憶装置D30からの気象、海象、海流情報の第3データを入力し、燃料消費量最小航路計算と船体動揺対応航路計算を行って、航海計画とバラストバランス計画を算出し、これらの第4データを第4データベース記憶装置D40に出力する。図5に最適航路計算システムのフローを示す。
【0072】
この最適航路計算の一つとしては、最新の海流情報や船の現在位置、目的地への到達予定日を基に、航路や船舶のエンジン性能等の基本情報を用いて、船舶の位置やその付近の海流、気圧などから最適な速度(できるだけ一定の速度)を計算する方法がある。
【0073】
最適航路計算システム30では、対象となる船舶毎の船体運動の特性と気象・海象条件を考慮して最適航路の計算を行う。この船体運動の特性は就航解析システム20の出力データを用いる。このデータを用いて、航海時間を最短とする最適航路を計算する。なお、最適化の評価関数として、航海時間、燃料消費量、船体運動等を用いることができる。
【0074】
この最適航路計算について、ウェーザールーティングによる燃費・航海時間の最適化について少し詳細に説明する。船舶が大洋を航海する場合、低気圧の北側を航行するか南側を航行するかで、気象・海象の影響が大きく異なる。プロペラ回転数一定で、西向きに航行する場合を考えると、低気圧の北側を航行するときには、追い風、追い波の状態での航行となり、船速の低下量は少なく、エンジンの負荷も小さくなり、燃料消費量が少なくなる。一方、低気圧の南側を航行するときには、強い向かい風、向かい波の状態での航行となり、船速が著しく低下し、エンジンの負荷が増大し、燃料消費量が多くなる。特に冬季北太平洋を西航する場合は、大圏航路付近を発達した低気圧が通過することにより、大圏航路付近から南側の広い範囲において向かい風、向かい波が卓越した状態になることが多い。
【0075】
船速はエンジンの出力の1/3乗に比例するため、エンジン出力を±30%調整しても、船速は±10%しか変動しない。この程度の船速の調整では、太平洋の気象・海象状況というスケールにおいて低気圧の南側の大波高域を避ける、あるいはより有利な状態の海域を航行することは困難である。
【0076】
そこで、大洋でよりよい状態の海域を航行するためには、まずは航路の選定が重要となる。出港前に、最新の気象・海象予報を利用して、高い向かい波を受けず、船速の低下量が小さくなるような航路を選択する。そして、航行中においては、更新される気象・海象予報を用いて常によりよい航路を選定し直おす。
【0077】
次に、計算手法について説明する。最適航路を求めるには、膨大な量の気象・海象データだけでなく、船舶の耐航性能データをも活用して最適航路計算を行う。まず、最適航路を求めるという問題を定式化し、最適化のための評価基準を数式で表現する。この最適航路選定問題を解くための最適化の手法としては、変分法、ダイナミックプログラミング、等時間曲線法、及び、多目的遺伝的アルゴリズムなどを使用することができる。例えば、等時間曲線法では、出発地から一定時間後も到達し得る領域の外側境界を等時間曲線と言い、これを逐次求めて最短時間航路を決定する。
【0078】
例えば、最小燃料消費航路を計算するには、まず、航海時間を指定し、適当なプロペラ回転数を設定する。航海中のプロペラ回転数を一定とし、等時間曲線法を用いて、最短時間航路とその航海時間を求める。そして、その航海時間が指定した航海時間に近づくように、プロペラ回転数を修正して繰り返し計算を行って、指定航海時間で目的地に到達できる最短時間航路を選定する。この選定した航路を最小燃料消費航路とする。
【0079】
最適航路計算システム30では、図5のステップS31で、気象・海象データを取得する。この気象・海象データは、気象情報提供者、例えば、日本気象コンサルティングのデータ配信サービスから、日本近海の詳細なデータである沿岸波浪GPVは12時間毎に、全球波浪GPVデータは24時間毎に入手する。ステップS32で、これらの気象・海象データを表示する。つまり、風況表示画面等で気象データを画面表示し、波浪表示画面等で海象データを画面表示する。
【0080】
ステップS33で船速・BHP(エンジン出力)計算を行い、ステップS34で就航解析システム20で算出した運動特性のデータを取得する。ステップS35で上記の方法などで最適航路を計算する。ステップS36でこの計算結果を表示する。例えば、最適航路計算画面で計算した航路と選定した最適航路と大圏航路を表示する。また、選定した最適航路と大圏航路に関して気象・海象の風速・有義波高と共に、動揺表示画面等で船体運動(例えば、ロール有義値、ピッチ有義値、船首加速度有義値)を、燃料消費量表示画面等で燃料消費量を、航海時間ベース等で表示する。
【0081】
性能診断システム40を備えた場合には、この性能診断システム40は、運航モニタリングシステム10によって収集され、第1データベース記憶装置D10に記憶された第1データの内の就航データを入力して船体と機器の経年変化予測を行って、推定性能経年変化シミュレーションとしての経年変化推定データや主機の余寿命診断等の第6データを算出し、第6データベース記憶装置D60に出力する。
【0082】
なお、この性能診断システム40の演算と就航解析システム20の演算との間に共通する部分がある時は、適宜その結果を互いに利用できるように構成する。また、この経年変化推定データや主機の余寿命診断等の第6データを、最適航路計算システム30で利用することにより、最適航路計算の精度を向上できる場合もあるので、第6データを最適航路計算システム30から入力できるように構成する。
【0083】
船舶診断41は、図6に示すように、経年変化41a、コスト計算41b及びライフサイクルサポート41cの機能を有して構成され、新造時に比べて実海域性能を低下させる重要な要因となる経年変化と生物汚損に関して、就航実績データベースと実海域性能推定機能を基に船体汚損やプロペラ汚損等の経年変化による船速低下や回転数の低下等、その性能悪化要因の特定とその対策をタイムリーに予測して就航中の船舶の健康状態を維持及び管理する。図7のステップS41にて船舶診断を行う。
【0084】
経年変化41aでは、図7のステップS42で、基本的に回復することがない対象船舶の長期的な運用による船体外板の粗度増加による抵抗増加、主機、プロペラ等の劣化による推進力の低下効果等を推定計算により求め、生物汚損等の性能回復可能な項目を抽出することをサポートする。また、対象船舶の長期的な性能変化に対して就航実績をベースに推定することにより運航管理における異常やトラブル等を未然に防ぎ、就航中の船舶の健康状態を維持及び管理することを支援する。
【0085】
コスト計算41bでは、図7のステップS43で、原油価格、バンカー等を入力し、対象船舶の経年変化等を考慮した燃料消費量の長期的な変化を計算して、燃料コストやCO2排出量を推定し、対象船舶の運用マネージメントのサポートを実現する。また、対象船舶の就航実績やコスト実績をベースに推定することにより、コスト計算の精度と実績と推定との比較を行いコストトレンドの予測に対する支援を実施する。
【0086】
ライフサイクルサポート41cでは、図7のステップS44で、対象船舶の就航実績と経年変化計算による長期的な性能推定を基に生物汚損など性能回復可能な要因を特定し、効果的な洗浄などの対策(治療)による効果を算定するなど、利用者のニーズに合わせた具体的な長期サポート項目を選定し、カスタマイズして対象船舶毎若しくは利用者毎に、燃料消費計算シート、船体汚損・プロペラ汚損予測シート、船体洗浄・プロペラ研磨効果計算シート、省エネ装置効果計算シート、船舶カルテ等を作成する。
【0087】
次に、上記の船舶の運航支援システム1における運航支援方法について説明する。上記の船舶の運航支援システム1では、対象船舶の機器と船体運動に関してリアルタイムでデータ収集を行う運航モニタリングシステム10と、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システム20と、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システム30を使用して、運航モニタリングシステム10で、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを収集し、就航解析システム20で、第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、最適航路計算システム30で、第2データと、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、この第4データと、スポット気象、海象の情報を含む第5データとを運航モニタリングシステム10に入力して第1データを算出する。これにより、計測、解析、航路選定のサイクルを形成する。
【0088】
例えば、対象船舶の本船上で計測・収集されたデータを就航解析システム20の就航解析プログラムで計算し、対象船舶の実海域の性能を推定し、この出力結果を、モード解析結果としてユーザーに提供すると共に、この推定性能を最適航路計算システム30に送り、最適航路計算プログラムで、気象・海象及び海流の予測情報を基にCO2排出量最小の航路を推定する。この運航計画を運航モニタリングシステム10の船内情報処理システムに送り、実航海にフィードバックする。
【0089】
また、例えば、舶用ディーゼルエンジン主機関向け、遠隔診断サービスを利用中のユーザーに対して、就航解析システム20で船体全体の性能と主機関の性能を同時に推定・評価でき、その結果を最適航路計算に反映することができる。
【0090】
上記の船舶の運航支援システム1及び船舶の運航支援方法によれば、図8に示すような運航モニタリングシステム10によって収集及び蓄積された長期データ及びリアルタイムの就航情報を用いて就航解析システム20により就航解析を行って実海域における船舶の速力、燃料消費量及びCO2排出量の監視と管理を行うことが可能となる。この図8では海象のビューフィート別の船速の低下状況を示している。
【0091】
また、リアルタイムの気象、海象の情報と運航状況に応じた船体動揺計算による安全性の確保と燃料消費量最小航路計算による燃費最適化を時系列的に更新しながら、図9に示すように、最適航路支援を実現することも可能となる。図9は、多数の試算航路と選択された燃料消費量最小航路と大圏航路を示す。
【0092】
そして、データ統計解析結果として、就航情報、海象状況、速力状況、馬力状況、燃費状況、回転数状況などを表示でき、就航状況をリアルタイムで確認できる。また、実海域性能推定・評価として、契約速力、バンカー契約の採算計算に活用できる、シーマージン解析、船速低下解析、平均燃料消費率解析、モード解析等の解析結果のデータを得ることができる。また、性能悪化要因の解析結果として、ドック入りやメンテナンスの修繕計画に活用できる、回転数変化、平均燃料消費率変化、馬力変化、船速変化のデータを得ることができる。更に、売船、廃船の検討時に活用できる、経年変化推定データや余寿命データを得ることができる。これらの結果等の幾つかの例を図10〜図16示す。
【0093】
そして、運航モニタリングシステム10によって収集蓄積された就航データを用いて、性能診断システム40により船全体の性能診断を行って、船体及びプロペラの経年変化(汚損・劣化の老化現象)の把握と主機関の性能・余寿命診断を行うことによって、実海域運航における船全体のLCV(Life Cycle Value)性能という観点からの「船の一生」を評価することができるようになる。
【0094】
従って、上記の船舶の運航支援システム1及び船舶の運航支援方法によれば、運航モニタリングシステム10により、対象船舶に関する各種データを効率よく収集及び蓄積できる。それと共に、対象船舶におけるデータ統計解析、実海域性能の推定と評価、船舶の性能の悪化の要因分析等を精度よく行うことができる。これにより、より高度な船体運動モデルを推定することが可能となり、CO2排出量の大幅削減に貢献するシステムとなる。また、最適航路計算や運航管理の精度も著しく向上できる。
【0095】
その上、解析のサイクルの時間を短くしていくことにより、略リアルタイムで現状の海域の状況と現状の運航状況に応じた船体動揺計算を行って安全性を確保することや、燃料消費量最小航路計算等による燃費最適化を時系列的に更新しながら、最適航路選択の支援を行うことができる。
【0096】
更に、性能診断システム40により、推定性能の経年変化のシミュレーションとして、経年変化推定のデータを得ることができ、売船、廃船の検討時に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態の船舶の運航支援システムの構成を示す図である。
【図2】性能診断システムを加えた船舶の運航支援システムの構成を示す図である。
【図3】就航解析システムの機能の構成を示す図である。
【図4】就航解析システムのフローを示す図である。
【図5】最適航路計算システムのフローを示す図である。
【図6】性能診断システムの機能の構成を示す図である。
【図7】性能診断システムのフローを示す図である。
【図8】経年変化による船速の低下を表示する画面の一例を示す図である。
【図9】燃料消費量最小航路計算の結果を表示する画面の一例を示す図である。
【図10】航海データ(船位、気象・海象)のモニタリングの画面の一例を示す図である。
【図11】船舶の搭載機器の運転データのモニタリングの画面の一例を示す図である。
【図12】主機・補機の性能解析・余寿命診断の画面の一例を示す図である。
【図13】シーマージン解析の結果の画面の一例を示す図である。
【図14】船速低下推定結果の画面の一例を示す図である。
【図15】燃料消費量推定結果の画面の一例を示す図である。
【図16】経年変化推定結果の画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1 船舶の運航支援システム
10 運航モニタリングシステム
20 就航解析システム
30 最適航路計算システム
40 性能診断システム
D10 第1データベース記憶装置
D20 第2データベース記憶装置
D30 第3データベース記憶装置
D40 第4データベース記憶装置
D50 第5データベース記憶装置
D60 第6データベース記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船舶の運航支援を行う船舶の運航支援システムであって、対象船舶の機器と船体運動に関してデータ収集を行う運航モニタリングシステムと、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システムと、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システムとを有して構成されると共に、
前記運航モニタリングシステムは、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを算出し、前記就航解析システムは、前記第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、前記最適航路計算システムは、前記第2データと、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、前記運航モニタリングシステムは、前記第4データと、スポット気象、海象の情報を含む第5データとを入力して前記第1データを算出するように形成され、前記運航モニタリングシステムと前記就航解析システムと前記最適航路計算システムは解析サイクルを形成するように構成されたことを特徴とする船舶の運航支援システム。
【請求項2】
前記運航モニタリングシステムによって収集された就航データを入力して船体と機器の経年変化予測を行う性能診断システムを備えたことを特徴とする請求項1記載の船舶の運航支援システム。
【請求項3】
対象船舶の機器と船体運動に関してリアルタイムでデータ収集を行う運航モニタリングシステムと、対象船舶の航行中の実海域における性能の解析を行う就航解析システムと、船舶の航行海域の気象、海象、海流の情報を基に最適な航路を計算する最適航路計算システムとから構成される船舶の運航支援システムの船舶の運航支援方法であって、
前記運航モニタリングシステムで、運航時の就航データ、波高データ、積み付けデータを含む第1データを算出し、前記就航解析システムで、前記第1データを入力して、実海域における船舶の性能を解析して最新の推定性能の情報と最新の船体運動モデルを含む第2データを算出し、前記最適航路計算システムで、前記第2データと、航路で予測される気象、海象、海流の情報を含む第3データを入力して、最適航路に関する航海計画の情報とバラストバランス計画の情報を含む第4データを算出し、この第4データと、スポット気象、海象の情報を含む第5データとを前記運航モニタリングシステムに入力して前記第1データを算出することを特徴とする船舶の運航支援方法。
【請求項4】
前記船舶の運航支援システムが、性能診断システムを備えて形成されると共に、この性能診断システムが、前記運航モニタリングシステムによって収集された就航データを入力して船体と機器の経年変化予測を行うことを特徴とする請求項3記載の船舶の運航支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−286230(P2009−286230A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139973(P2008−139973)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】