説明

薄膜の成膜方法

【課題】透明性を向上させたSiNxOyCz膜、および成膜速度を向上させた薄膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】被成膜基材2にRFバイアスを印加し、1ターンのコイル6にICP出力を印加して誘導結合プラズマを発生させ、誘導結合プラズマによって有機金属を含む原料ガスを分解するCVD法を用いることによりSiNxOyCz膜を形成する。SiNxOyCz膜は、x、y及びzそれぞれが下記式(1)〜(3)の範囲である。0.2<x<1.5・・・(1)、0.3<y<0.8・・・(2)、0.03<z<0.4・・・(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiNxOyCz膜及び薄膜の成膜方法に係わり、特に、透明性を向上させたSiNxOyCz膜、また成膜速度を向上させた薄膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、今後益々発展する情報化に伴い、従来より使用されてきた液晶などに比べ、低消費電力、自己発光、広範囲視野角などの優れた点から期待されている。有機EL素子の保護膜としては、例えば、真空蒸着法によって高分子ポリマーが成膜され、その高分子ポリマーの上にプラズマCVD(chemical vapor deposition)法によってシリコンオキシナイトライド(SiON)膜が成膜された積層構造のものが使用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−282250号公報(第2段落、第4段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来のシリコンオキシナイトライド膜では、有機EL素子の保護膜として十分な透明性を確保することができないという問題がある。
また、RF出力を印加してプラズマを発生させる通常のプラズマCVD法では、十分な成膜速度を確保することができないという問題がある。さらに、被成膜基材にRF出力を印加してプラズマを発生させるプラズマCVD法では、被成膜基材の温度が上昇してしまうので、例えばプラスチック基材のように熱に弱い被成膜基材を用いることができないという問題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、透明性を向上させたSiNxOyCz膜を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、被成膜基材の温度上昇を抑制しつつ成膜速度を向上できる薄膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るSiNxOyCz膜は、x、y及びzそれぞれが下記式(1)〜(3)の範囲であることを特徴とする。
0.2<x<1.5 ・・・(1)
0.3<y<0.8 ・・・(2)
0.03<z<0.4 ・・・(3)
【0007】
上記本発明に係るSiNxOyCz膜によれば、上記組成範囲とすることにより透明性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係るSiNxOyCz膜において、このSiNxOyCz膜が有機EL素子の保護膜であることが好ましい。
また、本発明に係るSiNxOyCz膜において、このSiNxOyCz膜は、400nm〜800nmの波長光で95%以上の透過率を有することが可能である。
【0009】
また、本発明に係るSiNxOyCz膜において、このSiNxOyCz膜は、1ターンのコイルにICP出力を印加して発生させた誘導結合プラズマによって原料ガスを分解するCVD法を用いて成膜されたものであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る薄膜の成膜方法は、1ターンのコイルにICP出力を印加して誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマによって有機金属を含む原料ガスを分解するCVD法を用いることにより、被成膜基材上に薄膜を成膜することを特徴とする。
【0011】
上記本発明に係る薄膜の成膜方法によれば、誘導結合プラズマによって有機金属を含む原料ガスを分解するため、その分解作用を大きくすることができる。このため、薄膜の成膜速度を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る薄膜の成膜方法において、前記被成膜基材上に薄膜を成膜する際、前記被成膜基材にRF出力を印加して前記被成膜基材にRFバイアスを発生させることが好ましい。これにより、より膜質の良い緻密な薄膜を成膜することができる。
また、本発明に係る薄膜の成膜方法において、前記薄膜が炭化、窒化及び酸化によって合成された化合物からなることも可能である。
【0013】
また、本発明に係る薄膜の成膜方法において、前記薄膜がSiNxOyCz膜であり、前記SiNxCyOz膜におけるx、y及びzそれぞれは下記式(1)〜(3)の範囲であることが好ましい。これにより、SiNxOyCz膜の透明性を十分に確保することができる。
0.2<x<1.5 ・・・(1)
0.3<y<0.8 ・・・(2)
0.03<z<0.4 ・・・(3)
【0014】
また、本発明に係る薄膜の成膜方法において、前記原料ガスがHMDS、窒素ガス及び酸素ガスであることも可能である。
【0015】
また、本発明に係る薄膜の成膜方法において、前記被成膜基材上にSiNxOyCz膜を成膜する前に、1ターンのコイルにICP出力を印加して誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマによってアルゴンガスのプラズマを発生させることにより、前記被成膜基材の表面を清浄化することも可能である。これにより、SiNxOyCz膜と被成膜基材との密着強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、透明性を向上させたSiNxOyCz膜を提供することができる。また、他の本発明によれば、成膜速度を向上させた薄膜の成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態によるSiNxOyCz膜を成膜する際に用いる成膜装置を概略的に示す構成図である。
【図2】酸素ガス流量とSiNxOyCz膜の300nm〜800nmの波長光に対する透過率との関係を示す図である。
【図3】酸素ガス流量とSiNxOyCz膜中の組成比との関係を示す図である。
【図4】酸素ガス流量とSiNxOyCz膜中の元素分布との関係であって(a)が酸素無し、(b)が酸素ガス流量5ccm、(c)が酸素ガス流量10ccmの場合である。
【図5】ICP出力の有無による酸素ガス流量とSiNxOyCz膜の膜厚との関係を示す図である。
【図6】(a)はICP出力無し(ICP出力:0W)で成膜したSiNxOyCz膜中の表面からの元素分布を示す図であり、(b)はICP出力有り(ICP出力:300W)で成膜したSiNxOyCz膜中の表面からの元素分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるSiNxOyCz膜を成膜する際に用いる成膜装置を概略的に示す構成図である。
【0019】
この成膜装置は成膜チャンバー1を有しており、この成膜チャンバー1内には基材2を保持する基材ホルダー3が配置されている。この基材ホルダー3には13.56MHzの高周波電源(RF電源)4が接続されており、基板ホルダー3はRF電極としても作用する。この高周波電源4は基材ホルダー3を介して基材2に13.56MHzの高周波を印加するものである。また、基材ホルダー3の周囲にはヒーター5が配置されており、このヒーター5によって基材2が加熱されるようになっている。なお、基材2は、SiNxOyCz膜を成膜するものであれば、種々の材質及び種々の形状のものを用いることが可能である。また、基材2は、基板に単数又は複数の薄膜を成膜したものを用いても良い。
【0020】
成膜チャンバー1には反応ガスを導入するガス導入口10が設けられている。このガス導入口10には反応ガスを供給するガス配管(図示せず)が接続されている。このガス配管には、ガス流量を計測する流量計(図示せず)及びガス流量を制御するガスフローコントローラー(図示せず)が設けられている。流量計により適量の窒素ガス、酸素ガス及び珪素含有化合物を含む原料ガスがガス導入口より供給されるようになっている。また、成膜チャンバー1には、その内部を真空排気する真空ポンプ13が接続されている。
【0021】
基材ホルダー3の上方には、誘導結合プラズマを発生させて反応を促進する高周波コイルからなるICP(inductively-coupled plasma)電極6が設置されている。このICP電極6は、金属フレキシブル・チューブや網組線のような可撓性のある部材により形成された1ターンのコイルにより構成されている。使用中にICP電極6が過度に加熱されるのを抑制するために、ICP電極6の内部は中空とされている。ICP電極6は、基板ホルダー3に保持された基材2の表面の略中心から該表面に対して垂直上に伸ばした線に対して略同心円状に1ターンのコイルが巻かれたものである。尚、1ターンのコイルによってICP電極6を形成することにより、複数回巻かれたコイルを用いた場合に比べて成膜チャンバー1の大きさを小さくすることができ、その結果、成膜装置を小型化することができる。
【0022】
ICP電極6は整合器7を介してICP用高周波電源8に接続されている。このICP用高周波電源8によって、例えば、13.56MHzの高周波電流を、整合器7を介してICP電極6に供給して、基材2の上方に処理ガスの誘導結合プラズマを発生させるようになっている。また、成膜チャンバー1には発光分光計12が取り付けられており、この発光分光計12は、基材ホルダー3上の基材2とICP電極6との間のプラズマ状態の計測を行なうものである。
【0023】
次に、図1の成膜装置を用いて基材上にSiNxOyCz膜を成膜する方法について説明する。まず、被コーティング材としての基材2を基材ホルダー3上に装着する。次いで、基材2から水を除去するために基材2をヒーター5によって120℃の温度に加熱し、真空ポンプ13によって成膜チャンバー1内を1×10−4Pa以下まで排気する。その後、成膜チャンバー1内にガス導入口10からアルゴンガスを導入し、RF電源4およびICP用高周波電源8を用いて基材上にアルゴンプラズマを形成することにより、基材2の表面の清浄化を行なう。この処理によりSiNxOyCz膜の基材との密着強度を向上させることができる。
【0024】
この後、珪素化合物ガスとしてヘキサメチルジシラザン(HMDS)、窒素ガス及び酸素ガスを所定量成膜チャンバー1内に導入する。次いで、RF電源4のRF出力を例えば50Wとし、13.56MHzのICP用高周波電源8のICP出力を例えば300Wとして基材2上に誘導結合プラズマを発生させる。これにより、プラズマCVD法により基材2上にSiNxOyCz膜を成膜する。
【0025】
この場合、RF電極(基板ホルダー3)のみでは、HMDSの分解反応が遅いために成膜速度が遅くなってしまい、生産性が悪い上、成膜されるSiNxOyCz膜中の炭素の含有量が多くなるために膜質が悪化する。しかし、RF電極とICP電極を組み合わせると、高密度のプラズマを安定的に発生させることができ、HMDSの分解が容易になることで成膜速度が速くなり、成膜されるSiNxOyCz膜中の炭素の含有量を低く抑えることができる。炭素含有量を低く抑えることにより、SiNxOyCz膜の透明度を高めることができる。このようにしてSiNxOyCz膜を基材2上に形成することができる。
【0026】
本実施の形態では、ICP出力は大きくし、RF出力は小さくする方が良好な膜質のSiNxOyCz膜を形成することができる。ICP出力を大きくする理由は、プラズマを活性化させるのがICP電極の主な作用で、ICP出力を大きくすることにより高密度プラズマである誘導結合プラズマを発生させることができ、原料ガスを分解する作用が大きくなり、反応性が高くなり、膜質の良い緻密な膜を成膜できるからである。RF出力を小さくする理由は、RF電極は基材にRFバイアスを印加するのが主な作用で、RF出力を小さくすることにより基材の温度上昇を抑制できるからである。例えば有機EL素子の保護膜を成膜する場合は、有機EL素子が高温に弱いため、RF出力を小さくすることが特に好ましい。尚、基材にRFバイアスを発生させることにより、膜質の良い緻密な膜を成膜することができる。
【0027】
上記実施の形態によれば、原料ガスを減圧した成膜チャンバー1内に供給し、ICP電極6にICP出力を印加して高周波電流を流すことにより基材2の上方に高密度プラズマである誘導結合プラズマを安定的に発生させながら、基板ホルダー3を介して基材2に高周波電流を流して該基材2にRFバイアスを印加することにより、前記誘導結合プラズマによりCVD法による成膜を行なう。これにより、透明性及び水分等に対するバリア性を向上させたSiNxOyCz膜を形成することができる。
【0028】
また、ICP出力を大きくすることにより、高密度プラズマである誘導結合プラズマを発生させてHMDSなどの原料ガスを分解する作用を大きくすることができる。このため、RF出力のみによってSiNxOyCz膜を成膜する場合に比べて成膜速度を飛躍的に向上させることができる。
【0029】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、原料ガスとしてHMDSを用いているが、これに限定されるものではなく、他の有機金属(MO;metal organics)を含む原料ガス、例えばTEOS(tetraethylorthosilicate)などを用いることも可能である。
【実施例】
【0030】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
本実施例では、SiNxOyCz膜の透明性が向上することを確認するために、図1に示した成膜装置を用い、成膜時に成膜チャンバー1内に反応ガスとしてHMDS及び窒素ガスを一定量供給し、酸素ガスの流量を変化させることにより、基材上にSiNxOyCz膜を成膜したサンプルを複数作製する。具体的な成膜条件は下記のとおりである。
【0032】
〈成膜条件〉
基材の材質;ステンレス
基板温度;120℃
RF出力;50W
ICP出力;300W
HMDSの流量;2ccm(cubic centimeter per minute)
窒素ガスの流量;50ccm
酸素ガスの流量;5ccm、6ccm、7ccm、7.5ccm、10ccm
成膜時間;50分
SiNxOyCz膜の厚さ;約1.9μm
【0033】
上記成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜のサンプルを酸素ガス流量毎に5つ作製し、これら5つのサンプルのSiNxOyCz膜における300nm〜800nmの波長光に対する透過率を測定し、この測定結果を図2に示している。図2において、参照符号14は酸素ガス流量が5ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果であり、参照符号15は酸素ガス流量が6ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果であり、参照符号16は酸素ガス流量が7ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果であり、参照符号17は酸素ガス流量が7.5ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果であり、参照符号18は酸素ガス流量が10ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果である。
【0034】
図2に示すように、酸素ガスの流量が5ccmでは500nmより短波長側で透過率が小さくなっており、酸素ガス流量が増加するにつれて透過率が短波長側でも大きくなることが確認された。従って、酸素ガス流量を多くすることにより、SiNxOyCz膜の透明性を向上させることができるといえる。つまり、酸素ガス流量を多くすると、炭素と酸素が反応してCOになることによって、SiNxOyCz膜中のCの濃度を低下させることができ、その結果、SiNxOyCz膜の透明性を向上させることができると考えられる。
【0035】
例えば、有機EL素子の保護膜としてSiNxOyCz膜を使用する場合、400nm〜800nmの波長光に対して95%以上の透過率が要求されると考えられる。図2によれば、5ccm以上の酸素ガス流量でSiNxOyCz膜を成膜することにより、400nm〜800nmの波長光に対して95%以上の透過率を得ることができる。
【0036】
(実施例2)
本実施例では、SiNxOyCz膜中のSi、N、O、C、Hの含有量を確認するために、図1に示した成膜装置を用い、成膜時に成膜チャンバー1内に反応ガスとしてHMDS及び窒素ガスを一定量供給し、酸素ガスの流量を変化させることにより、基材上にSiNxOyCz膜を成膜したサンプルを複数作製する。具体的な成膜条件は下記のとおりである。
【0037】
〈成膜条件〉
基材の材質;ステンレス
基板温度;120℃
RF出力;50W
ICP出力;300W
HMDSの流量;2ccm
窒素ガスの流量;50ccm
酸素ガスの流量;0ccm、2.5ccm、5ccm、6ccm、7ccm、7.5ccm、10ccm
成膜時間;50分
SiNxOyCz膜の厚さ;約1.9μm
【0038】
上記成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜のサンプルを酸素ガス流量毎に7つ作製し、これら7つのサンプルのSiNxOyCz膜中におけるN、O、Cの含有量を測定した。この測定は、グロー放電発光分光測定装置(GDS)によって行った。この測定結果を図3に示している。図3は、酸素ガス流量とSiNxOyCz膜中の組成比との関係を示す図である。
【0039】
図3に示すように、酸素ガスの流量の増加に伴い、SiNxOyCz膜中のSi及びOは増加するのに対し、N及びCは減少している。Cは酸素ガス流量が7ccmでほぼ0at%となる。
【0040】
例えば有機EL素子の保護膜としてSiNxOyCz膜を使用する場合、前記保護膜として必要な透明性及び水等に対するバリア性を確保するには、図3で矢印19によって示される組成比の範囲とすることが好ましい。具体的には、SiNxOyCz膜の組成比の範囲は下記式(1)〜(3)とすることが好ましい。
0.2<x<1.5 ・・・(1)
0.3<y<0.8 ・・・(2)
0.03<z<0.4 ・・・(3)
【0041】
Nの組成比を上記式(1)のようにするのは、SiNxOyCz膜がNをある程度有していないと、有機EL素子の保護膜としての機能を発揮できなくなるからである。また、Cの組成比を上記式(2)のようにするのは、SiNxOyCz膜中のCが多すぎると透明性が低下するからである。
【0042】
図4は、酸素ガス流量とSiNxOyCz膜中のSi、N、O、C、Hの含有量との関係を示す図であり、(a)は前記成膜条件のうち酸素ガス流量が0ccm(酸素無し)の場合であり、(b)は前記成膜条件のうち酸素ガス流量が5ccmの場合であり、(c)は前記成膜条件のうち酸素ガス流量が10ccmの場合である。
【0043】
(実施例3)
図5は、図1に示した成膜装置を用い、ICP出力を大きくし、RF出力を小さくした第1の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜の膜厚と、ICP出力を0とし、RF出力を大きくした第2の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜の膜厚とを比較した図である。
具体的な第1及び第2の成膜条件は下記のとおりである。
【0044】
〈第1の成膜条件〉
基材の材質;ステンレス
基板温度;120℃
RF出力;50W
ICP出力;300W
HMDSの流量;2ccm
窒素ガスの流量;50ccm
酸素ガスの流量; 0ccm、2.5ccm、5ccm、6ccm、7ccm、7.5ccm、10ccm
成膜時間;50分
【0045】
〈第2の成膜条件〉
基材の材質;ステンレス
基板温度;120℃
RF出力;300W
ICP出力;0W
HMDSの流量;2ccm
窒素ガスの流量;50ccm
酸素ガスの流量;7ccm
成膜時間;50分
【0046】
図6(a)は、図1に示した成膜装置を用いて第2の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜における表面からの距離と含有する元素濃度との関係を示す図である。
図6(b)は、図1に示した成膜装置を用い、酸素ガス流量を7ccmとした場合の第1の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜における表面からの距離と含有する元素濃度との関係を示す図である。
【0047】
図5及び図6に示すように、ICP出力を大きくし、RF出力を小さくした第1の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜の膜厚が、ICP出力を0とし、RF出力を大きくした第2の成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜の膜厚に比べて厚くなることが確認された。つまり、ICP出力を大きくすることにより、誘導結合プラズマを発生させてHMDSなどの原料ガスを分解する作用を大きくすることができ、そのため、RF出力のみによってSiNxOyCz膜を成膜する場合に比べて成膜速度を飛躍的に向上させることができる。従って、生産性を高めることができる。
【0048】
また、図6(a),(b)に示すように、ICP出力無しで成膜するのに比べてICP出力有りで成膜する方がSiNxOyCz膜中のC濃度を低く抑えることができる。従って、ICP出力有りで成膜する方が透明性を高めることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…成膜チャンバー
2…基材
3…基材ホルダー
4…高周波電源(RF電源)
5…ヒーター
6…ICP電極
7…整合器
8…ICP用高周波電源
10…ガス導入口
12…発光分光計
13…真空ポンプ
14…酸素ガス流量が5ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果
15…酸素ガス流量が6ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果
16…酸素ガス流量が7ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果
17…酸素ガス流量が7.5ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果
18…酸素ガス流量が10ccmの成膜条件で成膜したSiNxOyCz膜に関する測定結果
19…透明性等を確保できる組成比の範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ターンのコイルにICP出力を印加して誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマによって有機金属を含む原料ガスを分解するCVD法を用いることにより、被成膜基材上に薄膜を成膜することを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項2】
請求項1において、前記薄膜が炭化、窒化及び酸化によって合成された化合物からなることを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項2において、前記薄膜がSiNxOyCz膜であり、前記SiNxCyOz膜におけるx、y及びzそれぞれは下記式(1)〜(3)の範囲であることを特徴とする薄膜の成膜方法。
0.2<x<1.5 ・・・(1)
0.3<y<0.8 ・・・(2)
0.03<z<0.4 ・・・(3)
【請求項4】
請求項3において、前記SiNxOyCz膜は、400nm〜800nmの波長光で95%以上の透過率を有することを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記SiNxOyCz膜が有機EL素子の保護膜であることを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、前記被成膜基材上に薄膜を成膜する際、前記被成膜基材にRF出力を印加して前記被成膜基材にRFバイアスを発生させることを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、前記原料ガスがHMDS、窒素ガス及び酸素ガスであることを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項において、前記被成膜基材上に薄膜を成膜する前に、1ターンのコイルにICP出力を印加して誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマによってアルゴンガスのプラズマを発生させることにより、前記被成膜基材の表面を清浄化することを特徴とする薄膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−252233(P2011−252233A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156915(P2011−156915)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2005−97764(P2005−97764)の分割
【原出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(509164164)地方独立行政法人山口県産業技術センター (22)
【出願人】(595152438)株式会社ユーテック (59)
【Fターム(参考)】