説明

表皮成長因子受容体を活性化するレチノイド療法、石鹸および他の刺激物による副作用を防止する目的での天然EGFR阻害剤の使用

【課題】所望の治療効果を著しく損なうことなく、拮抗、競合または他の方法で局所および全身(経口)レチノイド療法に伴う副作用(剥離、落屑、乾燥等)を防ぐことが可能な製剤の提供。
【解決手段】表皮成長因子受容体(EGFR)の阻害剤、特に天然阻害剤を、レチノイドと同時に投与するか、あるいはレチノイドとは別に投与する(必要に応じて投与するなど)またはその両方の形で局所投与することで、上記の副作用を低減または排除することができる。レチノイドと天然のEGFR阻害剤の両方を含む、局所適用に適した組成物を使用すると、2成分の同時投与が可能となる。好ましい天然EGFR阻害剤には、天然に生じる物質から抽出されるゲニステインおよび他のイソフラボンあるいはこれらの物質の単純な誘導体がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、レチノイドをヒトの治療用として局所的に使用する場合に、EGF受容体阻害剤、特にイソフラビノイドゲニステインなどの農産物や食品に天然に生じるものを用いて、好ましからざる副作用を防ぐことに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2.先端技術
レチノイドの局所投与はさまざまな皮膚科学的疾患の治療に用いられている。たとえば、周知の商品名であるレチンA(ヤンセンファーマシューティカルより)ならびにこれほどは知られていない商品名であるアヴィタ(ペネダームより)の名称で販売されている全トランスレチノイン酸(トレチノイン)などを用いた尋常性座瘡の治療が行われており、重篤な座瘡事例には経口投与用13−シスレチノイン酸(経口投与向けに商品名アキュテインとして販売されているイソトレチノイン)が用いられている。AIDSに関連するカポジ肉腫(リガンドファーマシューティカル社のパンレチンブランドのゲル)の皮膚病変の治療には9−シスレチノイン酸(アリトレチノイン)が局所的に使用され、慢性湿疹および腎臓癌の治療にはこれが全身投与されている。座瘡での使用が承認された合成レチノイドにはアダパレン(商品名ディフェリンで販売)が、乾癬での使用が承認された合成レチノイドにはタザロテン(商品名タゾラックで販売)がある。また、乾癬についてはレチノイン酸エチルエステルのトリメチルメトキシフェニル類似物(エトレチナート;商品名ソリアタン(アセトレチン)、かつてはテギソン(エトレチナート)として販売)での治療も行われている。レチノイドは、他の種類の座瘡(嚢胞性座瘡および酒さ性座瘡)や、さまざまな角化障害(魚鱗癬(葉状魚鱗癬、尋常性魚鱗癬など)、毛孔性紅色秕糠疹およびダリエ病など)治療にも用いられている。さらに、レチノイドは、皮膚癌および前癌病変の化学療法ならびに化学予防(基底細胞および扁平上皮癌ならびにケラトアカントーマ用など)にも使用されている。また、レチノイドは、疣贅、過角化(hyperkaratotic)による手足の湿疹、皮膚サルコイドーシスなどの皮膚症状の治療にも用いられている。さらに、レチノイドは商品名レノバで販売されているものなどの組成物での光老化皮膚治療に使用されている。このように、レチノイドはさまざまな症状において局所用と全身用(経口用)の両方で広く用いられる。
【0003】
本願発明者らおよびその同僚は、ヒトの皮膚における光老化の防止(米国特許第5,837,224号、米国特許第6,130,254号、2000年7月13日出願の出願番号第615218号など)、ヒトの皮膚の年齢による老化の防止と逆転(1998年2月24日出願の出願番号第28,435号など)、黒色皮膚における炎症後色素沈着の治療(米国特許第5,750,570号および米国特許第6,017,960号など)、UVによってコラーゲン生合成ができなくなることの防止(1999年4月2日出願の出願番号第285,860号など)、UVによって誘発される機能的ビタミンA不足の防止(1999年10月14日出願の出願番号第418,413号など)、座瘡による瘢痕および炎症の防止(2000年5月22日出願の576,597号など)をはじめとして、レチノイドの他の用途をいくつか創出した。これらの特許および出願の開示内容を本願明細書に援用する。
【0004】
レチノイドの使用に熟練した者であれば毒性の問題について知っているが、特にレチノイドを長期間にわたって使用する場合に、はるかに一般的で予測可能な問題として、紅斑(赤み)、落屑、灼熱感および/または掻痒(痒み)などの共通してみられる副作用がある。たとえば、JW Fluhrら、「Tolerance profile of retinol, retinaldehyde and retinoic acid under maximized and long-term clinical conditions(長期にわたる最大臨床症状下でのレチノール、レチンアルデヒドおよびレチノイン酸の寛容度プロファイル)」、Dermatology 1999; 199増補1:57〜60など。
【0005】
哺乳動物細胞の重要な機能(細胞成長、細胞死、炎症など)の調節にはタンパク質チロシンキナーゼが関与している。タンパク質チロシンキナーゼには、受容体タンパク質チロシンキナーゼと非受容体タンパク質チロシンキナーゼの2つのクラスがある。細胞表面にある多くの成長因子受容体には内在タンパク質チロシンキナーゼ活性(すなわち受容体タンパク質キナーゼ)があるため、成長因子が細胞表面の対応する受容体に結合すると細胞内のタンパク質チロシンキナーゼ活性が刺激される。この固有活性化によって、一般には細胞の成長と生存につながるシグナルの形質導入カスケード(成長因子から想定される作用など)が開始される。
【0006】
EGFR(表皮成長因子受容体)は境界タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を細胞内部分または細胞質部分に含む膜貫通タンパク質のひとつであり、よってEGFRは「内在の」タンパク質チロシンキナーゼ活性を持つ。EGFがEGFRの細胞外部分に結合すると、PTK部分を持つ細胞内部分がATP(アデノシン三リン酸)でのリン酸化によって活性化され、この過程でADPが放出される。EGFRのPTK酵素部分は活性化されると別のEGFR(近くに1つある場合)である基質に作用する。(個々の受容体次第では、特定の細胞の膜に受容体が少し存在する程度のこともあれば、何千もの受容体が存在する場合もある。)活性化されたEGFRは、ATPでその細胞質部分(境界PTKを含む)をリン酸化することによって、隣接したEGFRを活性化する。活性なPTK酵素を含むリン酸化EGFR(EGF−R−(P))は、細胞に対する付随(contommitant)作用で、さまざまな遺伝子の核情報伝達、上方制御、下方制御につながるさまざまな反応を触媒する。この活性化が起こっている間、EGFに結合した第1のEGFRは、核情報伝達を増やしつつ別のATPに結合し、さらに別のEGFRの細胞質部分を活性化することができる。このように、EGFRは活性化されると他のEGFRを活性化することが可能である。
【0007】
ひとつの作用形態では、レチノイドがヘパリン結合性表皮成長因子(HB−EGF;EGFRに結合するEGFファミリの一メンバ)の上昇を引き起こすことが知られている。このヘパリン結合表皮成長因子は、上述した核情報伝達によって、レチノイドを局所使用している多くの人々に共通して見られる副作用である過形成およびこれに続く落屑ならびに皮膚の剥離の原因となる。(たとえば、J-H Xiaoら、「Identification of heparin-binding EGF-like growth factor as a target in intercellular regulation of epidermal basal cell growth by suprabasal retinoic acid receptors(有棘層レチノイン酸受容体による表皮基底細胞成長の細胞間調節の標的としてのヘパリン結合EGF様成長因子の同定)」、The EMBO J.、第18巻、No.6、第1539〜1548頁(1999)。)薬学的レチノイドを皮膚に局所適用するか経口摂取すると、HB−EGFが放出されることによってEGFR(表皮成長因子受容体)が活性化される。EGFRは表皮に局在し、これが活性化されると表皮下部の細胞が過剰増殖する。この過剰増殖している細胞によって、外方向に移動している細胞に上向きの圧力が加わり、結果として必要以上の数の細胞が皮膚表面に達することになる。この過剰増殖は、皮膚の剥離、落屑および/または乾燥が起こることから一目瞭然である。レチノイドには他の作用形態もあるが、この形態は患者にレチノイド療法の継続を躊躇させるか、あるいは(ひとつの問題による悩みをいくらかましな問題に主観的に交換して)患者にもたらされる利益を減らす副作用の多くの原因になると考えられる。治療を終える以外に、局所適用用の皮膚軟化剤、保湿剤、湿潤剤などが上記の有害な副作用を緩和する目的で局所レチノイド療法に併用されるのが普通である。ヒトの皮膚器官培養物では、合成のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を用いるとマイクロモル濃度のレチノイン酸によって誘導されるHB−EGFの作用が阻害されることが分かった。(S.W.StollおよびJ.T.Elder、「Retinoid regulation of heparin-binding EGF-like growth factor gene expression in human keratinocytes and skin(ヒト角化細胞および皮膚におけるヘパリン結合EGF様成長因子遺伝子発現のレチノイド調節)」、Exp.Dermatol.、1998:7:391〜397。)特に、レチノイドへの曝露後にHB−EGFが増加するが、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤はこの増加によって過形成が生じるのを防ぐことが明らかになった。
【0008】
さまざまな腫瘍がEGFRを発現することをはじめとして、チロシンキナーゼのEGFRサブファミリとヒトの癌との関連性が明らかになりつつあるため、医学の技術分野では抗癌療法に関連してEGFRに注目している。よって、腫瘍細胞によるEGFR発現が実際にあることから、研究者らは抗癌剤としてのチロシンキナーゼ阻害剤に目を向けている。F.Ciardiello、「Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitors as Anticancer Agents(抗癌剤としての表皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)」、Drugs 2000、60、増補1、25〜32およびE.Raymondら、「Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase as a Target for Anticancer Therapy(抗癌療法の標的としての表皮成長因子受容体チロシンキナーゼ)」、id.15〜23(これらの開示内容を本願明細書に援用する)。これらの阻害化合物は、モノクローナル抗体、免疫毒素結合体、リガンド−毒素組換えタンパク質、EGFRタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤−リガンドコンジュゲートをはじめとする、極めて多様な分子を含む。EGFRを発現することが確認されている癌が、肺癌、結腸癌、進行胃癌、膵臓癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌を含む場合、これらの化合物の投与は注射(系に作用または直接作用)または経口投与によって行われる。さらに、より先端的な合成化合物の方がより天然に近い(naturally occuring)の化合物よりも選択性が高く有力である。EGFRが媒介する核情報伝達については、受容体に対するEGFの結合を阻害する、ATPに対するEGF−EGFR複合体の結合を阻害する、および/または(EGF−R−P)によるEGFR基質の活性化を阻害することによって低減させることが可能である。
【0009】
タンパク質チロシンキナーゼの阻害剤の中には、相手よりも低めの濃度で自分よりも濃度が高めの他のチロシンキナーゼを阻害するものがある。こうした阻害剤としては、AG−494(チロシンキナーゼ阻害剤のチルホスチンファミリのメンバ)、AG−825(5−[(ベンズチアゾール−2−イル)チオメチル]−4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジリデンシアノアセトアミド)、AG−1478(4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン)、4−アニリロキナゾリン誘導体(W.A.Denny、「The 4-anilinoquinazoline class of inhibitors of the erbB family of receptor tyrosine kinases(受容体チロシンキナーゼのerbBファミリの阻害剤の4−アニリノキナゾリンクラス)」、Farmaco 2001年1月〜2月;56(1〜2):51〜6、可逆的に結合する類似物と非可逆的に結合する類似物の両方について検討)を含むEGF−R阻害剤、EI−146(エルブスタチン類似物)、メチル−2,5−ジヒドロキシケイ皮酸塩、HDBA(2−ヒドロキシ−5−(2,5−ジヒドロキシベンジルアミノ)−2−ヒドロキシ安息香酸;Onodaら、J.Natural Products、52:1252、1989)、ラベンダスチンA、RG−13022(EGFRを阻害する非フェノール系チルホスチン類似物)、RG−14620(EGFRに対して選択的で長期間にわたって作用する非フェノール系チルホスチン類似物)、チルホスチン23(RG−50810)、チルホスチン25([(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−メチレン]−プロパンジニトリル、Gazitら、J.Med.Chem.、32:2344、1989;RG−50875としても知られる)、チルホスチン46、チルホスチン47(RG−50864およびAG−213としても知られる)、チルホスチン51、チルホスチン1があげられる。
【0010】
S.B.NoonbergおよびC.C.Benzによる総論(「Tyrosine Kinase inhibitors Targeted to the Epidermal Growth Factor Receptor Subfamily-Role as Anticancer Agents(表皮成長因子受容体サブファミリを標的としたチロシンキナーゼ阻害剤−抗癌剤としての役割)」、Drugs、2000年4月:59(4)(当該開示内容を本願明細書に援用する))には、抗体、免疫毒素結合体、リガンド結合細胞毒剤、小分子キナーゼ阻害剤を含むEGF受容体のキナーゼ活性を阻害するためのさまざまな方法について説明されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
EGFRの情報伝達を活性化するJNKやMEKKなどのキナーゼ同様にEGFRを阻害する目的で小さなヌクレオチド阻害剤も開発されている。代表的な米国特許として、EGFR阻害についての第5,914,269号および第6,187,585号、JNK阻害についての第5,877,309号、第6,133,246号、第6,221,850号、MEKK阻害についての第6,168,950号のほか、第6,054,440号、第6,159,697号、第6,262,241号(これらの開示内容(dislcosures)を本願明細書に援用する)などがあげられる。大半は、局所適用用組成物を調製するための教科書に記載された方法を参照して、局所的な真皮に作用させる経皮投与に適したものとして開示されているが、そのような治療を行う根拠は明記されていない(すなわち、このような治療法によって治療できるかもしれない真皮の状態が特定されていない)上、経皮送達による効能も何ら示されていない(すなわち、小さなヌクレオチド阻害剤を適用できるという証拠はない。)
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の開示と目的
上記に鑑みて、所望の治療効果を著しく損なうことなく、拮抗、競合または他の方法で局所および全身(経口)レチノイド療法に伴う剥離、落屑、乾燥を防ぐことは有益であろう。また、レチノイド治療計画に干渉したりこれを複雑にしたりすることなく上記の利点を提供することで、レチノイド療法による患者の適合性を改善できないまでも維持することはさらに有用だろう。
【0013】
このような目的で、本願発明者らは、EGFR情報伝達を阻害する1種以上の化合物を投与(adminstration)することで、治療で投与されたレチノイドによる剥離、落屑、乾燥といった副作用が低減することを発見した。好ましくは、これらの化合物は、イソフラボン(その一例としてゲニステイン(生のダイズ製品に見られる)があげられる)などの天然に生じる生成物を含むが、合成の類似物であっても役立つ可能性が高い。この阻害剤は可逆性阻害剤であってもよいし、受容体に対して非可逆的に結合するものであってもよいし、あるいはこれらの組み合わせを使用してもよい。このEGFR阻害剤については局所的に投与(admistration)すると好ましい。
【0014】
したがって、本発明は、EGFR阻害剤、好ましくは天然産物を、好ましくは局所投与法で適用することにより局所および全身レチノイド療法の副作用を少なくするための方法を提供するものである。この投与は、レチノイドと天然のEGFR阻害剤とを含む組成物を投与するなど、レチノイド療法と同時に行うことが可能である。また、天然のEGFR阻害剤を含む別の組成物を用いるなどの方法で患者側での必要に応じて投与したり、患者側での必要に応じて適用することも可能であり、これらの方法を併用することも可能である。
【0015】
また、もうひとつの実施形態では、本発明は、増殖源(レチノイド療法から日焼けまでおよぶ可能性がある)の如何を問わず過剰増殖による剥離症状を緩和するものである。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、レチノイドとEGFR阻害剤とを含む組成物をはじめとして、ヒトの皮膚への局所適用および全身適用に適したさまざまな組成物、好ましくはレチノイドと天然EGFR阻害剤との組み合わせを含む組成物ならびにEGFR阻害剤および皮膚軟化剤、保湿剤および/または湿潤剤を含む局所用組成物を提供するものである。
【0017】
さらに別の実施形態では、本発明は、洗浄剤組成物と、過剰増殖が特徴である接触性皮膚炎を引き起こす石鹸や他の組成物による刺激を和らげるための組成物とを提供するものである。具体的には、一態様において本発明は石鹸または界面活性剤とEGFR阻害剤、より好ましくはゲニステインあるいはステインを含有するダイズなどを挽いたまたは粉末化した植物性薬品などのイソフラビノイドを含む洗浄剤を提供するものである。もうひとつの態様では、本発明はEGFR阻害剤、より好ましくはゲニステインあるいはステインを含有するダイズなどを挽いたまたは粉末化した植物性薬品などのイソフラビノイドの分散液および/または懸濁液を、過剰増殖が特徴である接触性皮膚炎の治療用のローションまたはクリームの形態で提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
特定の実施形態の詳細な説明
局所投与または全身投与用の天然および合成のレチノイド類似物としては、ビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、全トランス(トレチノイン)、9−シス(アリトレチノイン)、13−シス(イソトレチノイン)レチノイン酸)を含むビタミンA酸(レチノイン酸(RA))、エトレチナート(レチノイン酸エチルエステルのトリメチルメトキシフェニル類似物)のほか、EP−A2−0 379367号、米国特許第4,887,805号明細書および米国特許第4,888,342号明細書(これらの開示内容を本願明細書に援用する)に記載されているものがあげられる。さまざまな合成レチノイドおよびレチノイド活性がin vivoで認められる程度にレチノイド活性を有する化合物が、米国特許第5,514,825号明細書、同第5,698,700号明細書、同第5,696,162号明細書、同第5,688,957号明細書、同第5,677,451号明細書、同第5,677,323号明細書、同第5,677,320号明細書、同第5,675,033号明細書、同第5,675,024号明細書、同第5,672,710号明細書、同第5,688,175号明細書、同第5,663,367号明細書、同第5,663,357号明細書、同第5,663,347号明細書、同第5,648,514号明細書、同第5,648,503号明細書、同第5,618,943号明細書、同第5,618,931号明細書、同第5,618,836号明細書、同第5,605,915号明細書、同第5,602,130号明細書などの、書類上はアラガン・インコーポレイテッド(Allergan Inc.)に付与されたさまざまな特許に記載されている。レチノイド活性を持つものとして説明されているさらに他の化合物が、米国特許第5,648,563号明細書、同第5,648,385号明細書、同第5,618,839号明細書、同第5,559,248号明細書、同第5,616,712号明細書、同第5,616,597号明細書、同第5,602,135号明細書、同第5,599,819号明細書、同第5,556,996号明細書、同第5,534,516号明細書、同第5,516,904号明細書、同第5,498,755号明細書、同第5,470,999号明細書、同第5,468,879号明細書、同第5,455,265号明細書、同第5,451,605号明細書、同第5,343,173号明細書、同第5,426,118号明細書、同第5,414,007号明細書、同第5,407,937号明細書、同第5,399,586号明細書、同第5,399,561号明細書、同第5,391,753号明細書などに記載されており、上記の開示内容および参考文献をすべて本願明細書に援用する。現在開発中でなお一層の改良がなされるさらに多数の実験レチノイド化合物がある。
【0019】
ヒトの皮膚の光老化に関する本願発明者らの先の特許および出願では、ヒトの皮膚にUVが照射されるとコラーゲンを分解する酵素であるMMPが誘導されることを教示している。そこに記載の方法論を用いて、本願発明者らは、ヒトの皮膚へのUV照射がEGFRの活性化を引き起こすか否か、この活性化にゲニステインが何らかの作用をおよぼしたか否かを調査した。人間のボランティア(いずれも書面によるインフォームドコンセントを得ている)の協力で、各被験者の皮膚の選択した部分(通常は臀部または尻から)標準ビヒクルまたはゲニステイン(標準ビヒクルに5%溶解)で処置し、24時間密封包帯をし、続いて対象部位のうちゲニステインを1ヶ所とビヒクルを1ヶ所の2ヶ所に2MED相当のUV光線を照射した。各部位を照射から一定時間経過後に生検し、検討対象となるパラメータに対してゲニステインがどのような影響をおよぼすのかを判断した。EGFR活性化/リン酸化に対するゲニステインの影響(もしあれば)を判断するために、照射した部位と照射していない部位の両方についてUV曝露から生検までの時間を約30分とした。人間のボランティア1名についてのさまざまな状態での全EGFRタンパク質を示すウェスタンブロットの差し込み図と、その人についてさまざまな状態の各々で認められたリン酸化(活性化)受容体タンパク質の量とを図1に示す。図1のグラフは、5名のボランティアから得られるウェスタンブロットを用いて行った数量化の結果を量的に示したものである。図から明らかなように、未照射の部位ではビヒクルとゲニステインのどちらでもEGFRは活性化/燐酸化されなかった。しかしながら、UV光線がヒトの皮膚でEGFRを活性化し、ゲニステインがこの活性化を阻害することが、照射部位の生検から明らかになった。したがって、局所適用される特定の化合物がEGFRの活性化を防ぐのか否かをin vivoにて判断するためのレチノイドの代わりになるアゴニストとしてUV光線を使用することが可能である。もちろん、in vivo試験を行うには、ヒトにおける安全性について化合物をスクリーニングしなければならないだけでなく、このプロトコールを利用して化合物をスクリーニングし、これがUVサンスクリーン製剤ではないことを確認する。これによって、UV照射後にEGFRの活性化が阻害された場合にこの阻害が被験化合物からのサンスクリーン作用によるものではなかったことが分かる。
【0020】
ゲニステインは、本発明を実施するにあたって有用な、ケルセチン、エクオール、インドールカルバゾール、スタウロスポリン、ラベンダスチン、ダイゼイン、エルブスタチンも含む、天然に生じるフラボンおよびイソフラボンの群の一部である。これらの化合物は、局所適用されると皮膚に浸透できる比較的小さな分子だというだけではなく、タンパク質チロシンキナーゼを阻害する分子ファミリの一部でもある。本発明においても有用な場合がある受容体タンパク質チロシンキナーゼのさまざまな小分子阻害剤が、D.H.Boschelli、「Small molecule inhibitors of receptor tyrosine kinases(受容体チロシンキナーゼの小分子阻害剤)」、Drugs of the Future、24(5)、515〜537(1999)(その開示内容を本願明細書に援用する)に記載されている。受容体チロシンキナーゼ阻害剤は、受容体に対して可逆的に結合することもできるし非可逆的に結合することもできる。D.W.Fry、「Inhibition of the Epidermal Growth Factor Receptor Family of Tyrosine Kinases as an Approach to Cancer Chemotherapy: Progression from Reversible to Irreversible Inhibitors(癌の化学療法へのアプローチとしてのチロシンキナーゼの表皮成長因子受容体ファミリの阻害:可逆性阻害剤から非可逆性阻害剤への発展)」、Pharmacol Ther、第82巻、No.2〜3、第207〜218頁(1999);およびD.W.Fry、「Site-directed irreversible inhibitors of the erbB family of receptor tyrosine kinases as novel chemotherapeutic agents for cancer(癌に対する新規な化学治療薬としての受容体チロシンキナーゼのerbBファミリの部位得意的非可逆性阻害剤)」、AntiCancer Drug Design(2000)、15、3〜16(その開示内容を本願明細書に援用する)。非可逆的な阻害を選択する癌治療者らの要望とは異なり、本発明の実施には可逆性阻害剤と非可逆性阻害剤の両方が役立つ。上述した阻害剤および上記の刊行物に記載された阻害剤の多くが、本発明を実施するにあたって有用なものとなる可能性が高い。通常、皮膚に浸透(pentrate)しそうな阻害剤化合物は分子量が約1000未満であり、元来が非極性であるが、浸透促進組成物を使用することを含む本組成手法は、本発明に役立つことの糸口に別の阻害剤化合物をもたらす可能性がある。
【0021】
ゲニステインおよびそのβ−グルコシドコンジュゲートゲニスチンは、豆乳、豆腐、味噌、納豆(発酵させたダイズ)、醤油に見出される。その他の天然のEGFR活性化阻害剤およびその誘導体としては、スタウロスポリン、アエロプリシニン(K.Hinterdingら、「Synthesis and biological evaluation of aeroplysinin analogues: a new class of receptor tyrosine kinase inhibitors(アエロプリシニン類似物の合成と生物学的評価:受容体チロシンキナーゼ阻害剤の新規なクラス)」、Bioorg Med Chem 1998年8月;6(8):1153〜62、H.Waldmannら、「Selective Inhibition of Receptor Tyrosine Kinases by Synthetic Analogues of Aeroplysinin(アエロプリシニンの合成類似物による受容体チロシンキナーゼの選択的阻害)」、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1997年、36、No.13〜14、1541〜1542)、ラベンダスチンA(M.S.Symthら、「Non-amine based analogues of lavendustin A as protein-tyrosine kinase inhibitors(タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤としてのラベンダスチンAの非アミンベースの類似物)」J Med Chem 1993年10月1日;36(20):3010〜4)、植物の二次天然産物であるピセアタンノール(3,4,3’,5’−テトラヒドロキシ)トランススチルベン、N.C.Mishraら、「Inhibitory effect of piceatannol, a protein tyrosine kinase inhibitor, on asexual maturation of Plasmodium falciparum(タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤であるピセアタンノールがPlasmodium falciparumの無性成熟に対しておよぼす阻害作用)」、Indian J Exp Biol 1999年4月;37(4):418〜20、K.Thakkar、「Synthesis and protein-tyrosine kinase inhibitory activity of polyhydroxylated stilbene analogues of piceatannol(ピセアタンノールのポリヒドロキシル化スチルベン類似物の合成とタンパク質チロシンキナーゼ阻害活性)」、J Med Chem 1993年10月1日;36(20):2950〜5)、ヒメニアルジシン(SK&F 108752)およびハービマイシン(A.M.Badgerら、「Inhibition of interleukin-1-induced proteoglycan degradation and nitric oxide production in bovine articular cartilage/chondrocyte cultures by the natural product, hymenialdisine(天然産物であるヒメニアルジシンによる、ウシ関節軟骨/軟骨細胞培養物におけるインターロイキン−1−誘導プロテオグリカン分解および一酸化炭素産生の阻害)」、J Pharmacol Exp Ther 1999年8月;290(2):587〜93)、ケンフェロールおよびケルセチン(およびケンフェロールグリコシドケンフェロール−O3αラムノピラノシドおよびケンフェロール−O3−α−アラビノピラノシド、M.Abou-Shoerら、「Flavonoids from Koelreuteria henryi and other sources as protein-tyrosine kinase inhibitors(タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤としてのKoelreuteria henryiおよび他のソースから得られるフラボノイド)」、J Nat Prod 1993年6月;56(6):967〜9、M.Cushmanら、「Synthesis and protein-tyrosine kinase inhibitory activities of flavonoid analogues(フラボノイド類似物の合成とタンパク質チロシンキナーゼ阻害活性)」、J Med Chem 1991年2月;34(2):798〜806)、エルブスタチンおよびチロホスチン(M.Treunerら、「Limited selectivity of a synthetic erbstatin derivative for tyrosine kinase and cell growth inhibition(合成エルブスタチン誘導体のチロシンキナーゼおよび細胞成長阻害に対する限られた選択性)」、Biochem Int 1992年3月;26(4):617〜25など)、Cladosporium cf. cladosporioidesから得られる、仮に(6bS,7R,8S)−7−メトキシ−4,8,9−トリヒドロキシ−1,6b,7,8−テトラヒドロ−2H−ベンゾ[j]フルオランテン−3−オン(XR774)という名称が付された新規な還元ベンゾフルオランテン(R.Sadeghiら、「Differential regulation of CD3- and CD28-induced IL-2 and IFN-gamma production by a novel tyrosine kinase inhibitor XR774 from Cladosporium cf. cladosporioides(Cladosporium cf. cladosporioidesから得られる新規なチロシンキナーゼ阻害剤XR774によるCD3−およびCD28誘導IL−2およびIFN−γ産生の差次的制御)」、Int Immunopharmacol 2001年1月;1(1):33〜48)があげられる。
【0022】
特許請求の範囲において使用する、「天然の」EGFR阻害剤とは、EGFRの活性化を阻害する機能(後述するものなど)を有し、かつ、存在しているままの形態で食品(または栄養補給剤)の原料として用いられるかそこから誘導される、あるいは化粧料として用いられるかそこから誘導される、自然界に存在する物質または生物から誘導される、化合物、混合物、単離物、抽出物ならびにこのような物質を化学的に若干修飾したものなどを意味する。たとえば、ダイズは天然物質であり、豆腐はダイズから誘導される食品源である。この豆またはカードのいずれかからゲニステインや他のイソフラボンを抽出または単離することが可能である。このような単離物または抽出物に対する若干の化学的修飾とは、元来が比較的単純で、食品や栄養補給剤、いくつかの医薬品、食品で現在でも用いられている修飾に類似した修飾を意味する。このような修飾としては、たとえば、レチノールのエステル化(通常は皮膚でレチノイン酸に変換される酢酸レチニルまたはパルミチン酸レチニルを提供する)などの単純なプロドラッグを作ることがあげられる。同様の修飾として、アスコルビン酸の塩またはエステルを作ることや、亜鉛の異なる塩(亜鉛を経口送達するための硫酸亜鉛またはグルコン酸亜鉛)を作ること、あるいは植物油の水素化などがあげられる。EGFR阻害作用を持つ特定の物質であれば、EGFRへのHB−EGFの結合、ATPへのEGF−EGFRの結合および/またはリン酸化されたEGFRが物質(隣接するEGFRなど)に結合する機能を阻害できることがあるため、上記は本発明を特定の阻害機序の賜物とみなしたり特定の阻害機序に限定したりするものではない。
【0023】
特定の化合物がEGFRの活性化を阻害する機能を判断するひとつのスクリーニング方法として、レチノイン酸(または別のレチノイド)などのEGFR活性化を誘導することが知られているアゴニストで惹起された培養細胞または器官培養物を使用する、好ましくはヒト細胞(上記にて引用したStollおよびElderの論文中に用いられているヒトの皮膚器官培養物など)を使用することがあげられる。化合物がレチノイド活性を呈する機能については、(いずれも本願明細書に援用する米国特許第5,871,909号および同第5654137号に記載されているように)被験レチノイド化合物でのチャレンジ後に細胞内レチノイン酸(retininoic acid)結合タンパク質(CRABP)またはそのDNAの誘導を検討することで判断可能である。EGFRの全体量は変化しておらず、EGFR活性化/リン酸化の量だけが増加する(図1に示す実験の場合と同様であった)ことを、被験アゴニスト化合物とウェスタンブロットとを併用して確認することが必須ではないが望ましい。培養細胞または器官培養物を所望のアゴニスト化合物に曝露した後、被験阻害剤化合物を加え、最後に(ウェスタンブロットなどにより)細胞を検査してEGFR活性化の度合いを判断する。
【0024】
レチノイドと同じ組成物に混在させることが可能である、局所適用によって人間を治療すべく治療的に使用されるレチノイドと相互適合性であるEGFR活性化阻害剤が得られる(その組成物中の他の賦形剤とも同様に相互適合性であると仮定する)。使用する阻害剤の量は、EGFRに対する阻害剤の選択性、それが可逆性阻害剤であるか非可逆性阻害剤であるか、その皮膚(組成物は浸透エンハンサを含むものであってもよい)への浸透能、安定性、代謝などによって左右される。通常、可逆性阻害剤については、組成物の0.1重量%から10重量%、より好ましくは約5重量%を使用し、非可逆性阻害剤はこれよりも少ない量で用いる。可逆性阻害剤と非可逆性阻害剤とを組み合わせたものを使用することも可能である。
【0025】
阻害剤とレチノイドとを併用することの代わりとして、あるいはこれに加えて、阻害剤と皮膚科学的に適したキャリアとを含む別の組成物を必要なときに患者が適用できるおよび/またはレチノイドの適用と同時に適用できるようにすることができる。レチノイド療法を開始するよりもいくらか前、好ましくは(使用する阻害剤とその投与形態に応じて)1時間から48時間前の間に患者が阻害剤「療法」を開始することが好ましいであろう。レチノイド療法の終了後しばらく、好ましくは少なくとも1日、さらに好ましくは約1週間、阻害剤療法を続けるようにすると好ましい。患者ごとに応答が異なる可能性があるため、一次組成物中の阻害剤では最適な効果が得られない場合は、別の組成物をレチノイドと阻害剤との組み合わせである一次組成物と併用しても有用である。さらに、レチノイド/阻害剤の組み合わせである市販品については、特定のレチノイド/阻害剤強度が限られた数値でしか得られない可能性が高いため、患者によってはレチノイド/阻害剤組成物中の阻害剤が求められるほど有効ではないという、ありそうもないわけではないイベントでは、別の阻害剤組成物が望ましい付加物になるであろう。これらの別の阻害剤組成物については、レチノイド療法または阻害剤の作用に干渉しない有効成分を別に含むようにしてもよく、特にレチノイド療法による副作用を緩和する一助となる成分を含むようにすることが可能である。このような成分としては、湿潤剤、保湿剤、皮膚軟化剤、さらには刺激の少ない抗菌剤(塩化ベンザルコニウムなど)や刺激の少ない麻酔薬(ベンゾカインなど)、これらの相互適合性混合物があげられる。香料や着色料などの従来から用いられているような別の成分を必要に応じて含むことが可能である。一次レチノイド/阻害剤組成物、別の阻害剤組成物またはその両方を、クリーム、ゲル、ローション、スプレーとして提供することが可能であり、皮膚科学業界および化粧品業界で一般に組成されている他の形態で提供することも可能である。
【0026】
本発明を用いると、投与量を増やす必要のある患者でレチノイドの投与量(適用量)を増やすことができるようになる場合がある。治療すべき症状に応じて、本発明のレチノイドの投与量は一般に1日4回から1週間に1回の範囲であるが、治療される症状と患者の応答によってはレチノイドの適用頻度をこれよりも多くしたり少なくしたりする方がよい場合もある。同様に、阻害剤の適用は同じく患者に生じるレチノイド治療の副作用に応じて1日4回以上から毎週1回または2〜3回の範囲であればよい。
【0027】
本願明細書にて説明するように、局所投与であるか全身投与(経口投与など)であるかを問わず、すべてのレチノイド療法でHB−EGFが誘導されることを理解されたい。HB−EGFはEGFRに結合して自己を活性化するとともに、本発明で緩和する副作用を引き起こす。本願明細書にて提示するin vivoでのデータはアゴニストとしてレチノイドではなくUV光を使用した場合のものであるため、EGFRを活性化するHB−EGFモードがバイパスされているが、本発明は、UV照射、座瘡に対するレチノイド療法、癌療法およびEGFRが活性化/リン酸化される他の機序によって誘導されるものであるか否かを問わず、EGFRのリン酸化が原因で生じる副作用を緩和するための方法および組成物を提供するものであることは当業者であれば明らかであろう。また、本願明細書では人間を治療する場合について説明したが、EGFRを活性化するレチノイドおよび他の化合物は獣医のベティナリー(vetinary)治療にも使用され、動物におけるEFGR活性化誘導副作用も本方法および組成物で緩和される。
【0028】
刺激性の接触性皮膚炎(ICD)があると、石鹸、洗剤、界面活性剤および他のクレンジング組成物および洗浄用組成物から、EGFRが活性化される可能性の高い他の状況が生じる。人間または動物の医療分野あるいは食品調理分野で働く人々は汚染や二次汚染を回避するために頻繁に手を洗わなければならない。潤滑油およびグリースにはじまって、塗料、芝生や農業用の化学薬品、洗剤および洗浄/脱脂剤、写真用および印刷用の化学薬品に至るまで、さまざまな化学薬品を使って働く人々またはこうした化学薬品に曝露される人々は、毎日または継続的にこのような組成物に曝露されることが多い。このような組成物にヒトの皮膚が慢性的に接すると、皮膚の剥離、ひび割れ(eczema craque)および/または肥厚につながることが多い。このような症状は、皮膚の剥離、ひび割れ、肥厚に結びつく皮膚細胞の過剰増殖を生じるEGFRの活性化を非常に強く連想させる。少量の化合物がアレルゲンとして機能し、免疫応答によって皮膚炎が生じる(このため将来わずかに曝露されても激症皮膚炎につながる可能性がある)アレルギー性の接触性皮膚炎(ACD)とは異なり、刺激性の接触性皮膚炎は一般に用量−応答関係が原因となっている(曝露量が多ければ多いほど、皮膚炎の反応が一層強くなる)。これらの症状を和らげるひとつの方法として、人間が使用する石鹸、洗剤、界面活性剤または他のクレンジング組成物または洗浄用組成物に、0.1重量%〜10重量%、より好ましくは1重量%〜7重量%の量でEGFR阻害剤を取り入れることがあげられる。好ましいEGFR阻害剤は上述した天然阻害剤または植物学的に誘導される阻害剤であり、特にゲニステインおよびケルセチン、さらにはクレンジング組成物に安定して取り入れることが可能なものである。このEGFR阻害剤は、棒状または固形あるいは液体またはローション(シャンプーを含む)として提供される石鹸(または洗剤など)と併用することが可能である。たとえば、おそらく1日10から20回は手を洗わなければならず、慢性的に激しく石鹸に曝露されることでICDにかかっている医療従事者であれば、予防的にICDを防ぐEGFR阻害剤を含む石鹸から恩恵を受ける。同様に、化学肥料や除草剤、殺菌剤に曝露される庭師、あるいはグリースや潤滑油、さらにはさまざまな油圧液や伝熱流体に曝露される自動車整備士であれば、EGFR阻害剤を含む石鹸を使って後始末をすることから恩恵を受けるであろう。さらに、動物にも同様のEGFR誘導ICDが生じるため、EGFR阻害剤を含む動物用シャンプーは動物とこの動物のシャンプーをする人間の両方に役立つであろう。もちろん、石鹸または洗浄剤に含まれる他の成分は、低アレルギー性ではないのであればEGFRを活性化しないものであると好ましい。このような洗浄剤には、ラノリン(ラノリンアルコールではない)などの保湿剤、皮膚軟化剤なども含むと好ましい。
【0029】
以上から明らかなように、レチノイドなどのさまざまな物質および乾癬または日焼けなどのさまざまな他の症状が原因でEGFRが活性化される可能性がある。レチノイン酸受容体(α、β、γの各サブタイプを含むRAR)を活性化する物質または症状あるいはRARを活性化する化合物に変換される物質はいずれもEGFRを誘発して過剰増殖と剥離を引き起こす可能性がある。たとえば、レチニルエステルを局所的に適用すると外側の表皮でRARを活性化する物質に変換される。ひいてはHB−EFGが生成され、これが表皮の一番下の層に達し、上述したようにEGFRを活性化する。したがって、EGFRの活性化を防止するには、MAPK(MAPKK、MAPKKK)、ERK、リン酸化−JUNなどの阻害剤が役に立つ。
【0030】
皮膚が成長する刺激として作用する物質(レチノイドなど)または症状(皮膚損傷)はいずれも過剰増殖の可能性があることから、表皮成長因子の活性化によって成長が起こる程度に剥離が引き起こされる可能性がある。したがって、上述したように、洗剤が原因で皮膚に知覚できる傷ができると、たとえ素人目に見たときに石鹸で洗うだけでは皮膚に傷などできていないとしても、剥離につながる皮膚の増殖の原因になる可能性がある。
【0031】
上記の説明は一例にすぎず、限定することは意図してない。本願明細書を熟読すれば、当業者には、さまざまな変更、修正および追加の内容が明らかになろう。このような変更、修正、追加はいずれも特許請求の範囲に記載の本発明の範囲および趣旨に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ヒトの皮膚のUV光線によるEGFRの活性化(リン酸化)を阻害するゲニステインの機能をリン酸化された受容体の量の倍化変化量として示した図であり、差し込み図は、全EGFRと活性化/リン酸化された(EGF−R−(P))とを比較したウェスタンブロットの内容を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚科学的(dermatological)症状の治療時における局所適用向けのレチノイド含有薬剤を製造するにあたって、EGFR阻害特性を有する、ゲニステインと、ゲニスチンと、ケルセチンと、エクオールと、スタウロスポリンと、アエロプリシニンと、インドカルバゾールと、ラベンダスチンと、ピセアタンノールと、ケンフェロールと、ダイゼインと、エルブスタチンと、チルホスチンと、これらの誘導体と、から選択される、天然EGFR阻害化合物を用いることを特徴とする使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用において、前記レチノイドが、レチノイン酸、全トランスレチノイン酸、13−シスレチノイン酸、9−シスレチノイン酸、レチノール、レチナール、レチノイン酸エステルまたはこれらの混合物から選択される、天然レチノイドであることを特徴とする使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用において、前記レチノイドが合成レチノイドであることを特徴とする使用。
【請求項4】
請求項1〜3の内のいずれか1項に記載の使用において、皮膚科学的な症状が、座瘡と、座瘡瘢痕と、湿疹と、角化障害と、癌と、前癌病変と、化学予防と、疣贅と、サルコイドーシスと、光老化皮膚の治療と、光老化皮膚の防止と、老徴のある皮膚の治療と、老徴のある皮膚の防止と、炎症後色素沈着と、UVによってコラーゲン生合成ができなくなることと、これらの組み合わせと、から選択されることを特徴とする使用。
【請求項5】
請求項1〜4の内のいずれか1項に記載の使用において、前記天然EGFR阻害剤が、ダイズ由来の化合物、混合物、単離物または抽出物の形態で存在することを特徴とする使用。
【請求項6】
EGFRのUV活性化によって引き起こされる剥離を低減するための局所適用向けのサンスクリーン製剤を製造するにあたって、EGFR阻害特性を有する、ゲニステインと、ゲニスチンと、ケルセチンと、エクオールと、スタウロスポリンと、アエロプリシニンと、インドカルバゾールと、ラベンダスチンと、ピセアタンノールと、ケンフェロールと、ダイゼインと、エルブスタチンと、チルホスチンと、これらの誘導体と、から選択される、天然EGFR阻害化合物を用いることを特徴とする使用。
【請求項7】
請求項6に記載の使用において、サンスクリーン製剤がUVA遮断剤とUVB遮断剤とを含有することを特徴とする使用。
【請求項8】
EGFRの局所的な化学活性化によって引き起こされる剥離を低減するための皮膚洗浄剤を製造するにあたって、EGFR阻害特性を有する、ゲニステインと、ゲニスチンと、ケルセチンと、エクオールと、スタウロスポリンと、アエロプリシニンと、インドカルバゾールと、ラベンダスチンと、ピセアタンノールと、ケンフェロールと、ダイゼインと、エルブスタチンと、チルホスチンと、これらの誘導体と、から選択される、天然EGFR阻害化合物を使用することを特徴とする使用。
【請求項9】
人間または動物に使用するための洗浄剤であって、石鹸または界面活性剤を含み、かつ、EGFR阻害特性を有する、ゲニステインと、ゲニスチンと、ケルセチンと、エクオールと、スタウロスポリンと、アエロプリシニンと、インドカルバゾールと、ラベンダスチンと、ピセアタンノールと、ケンフェロールと、ダイゼインと、エルブスタチンと、チルホスチンと、これらの誘導体と、から選択される天然EGFR阻害化合物をEGFRの局所的な化学活性化によって引き起こされる剥離を低減するのに有効な量で含むことを特徴とする洗浄剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−79038(P2009−79038A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216055(P2008−216055)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【分割の表示】特願2002−567353(P2002−567353)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(500376829)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ミシガン (2)
【Fターム(参考)】