説明

表皮材用エンボス加飾シート、該エンボス加飾シートと接着剤層との積層体、および該エンボス加飾シートを用いたエンボス加飾一体成形品

【課題】射出成形時のエンボス潰れとシートの白化の両者を同時に解決することが出来るエンボス加飾シート、及び、エンボス加飾シートにコア材が充分に密着するための、エンボス加飾シートと接着剤層が積層された積層体を提供する。
【解決手段】射出成形による成形法において表皮材として使用するエンボス加飾シートであって、折り曲げ試験において白化せず、60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とするエンボス加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形による成形法において表皮材として使用するエンボス加飾シート、該エンボス加飾シートと接着剤層との積層体、ならびに、該エンボス加飾シートを用いたエンボス加飾一体成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮材とコア材との表皮一体成形品の製造方法としては、コア材を表皮材上に射出成形する表皮インサート一体成形法と、コア材を成形した後に表皮を貼り付ける二段成形法が主に用いられているが、二段成形法は曲面の成形が困難であることや製造に手間がかかり生産性に劣ることなどから、近年は表皮材として水系や溶剤系の接着剤を塗工した加飾シートをインサート一体成形する方法(特許文献1、2)が主流となっている。
【0003】
表皮インサート成形では、射出成形の際に高い熱と圧力が表皮材にかかるため、表皮材が変形したり、破損したりすることがあり、特にエンボス加飾などを施したシートを表皮材として用いた場合は、エンボス加飾が潰れ、凹凸のない、ノッペリとした触感のものしか得られない傾向がある。また、表皮材の裏面に発泡層を形成した、発泡複合シートを用いることにより、ある程度エンボス加飾を保持して表皮一体成形品を製造できることが知られているが、発泡層を用いている為に厚さが厚くなり、成形品端面の曲面部に対する追従性が失われるという問題がある。
【0004】
近年、各種電子機器筐体などの表皮一体成形品においては、ますます薄肉化、軽量化の傾向が進行しており、表皮材の厚さもますます薄肉化が求められている。薄肉にするために、発泡層のない表皮材を使用する表皮一体成形品が検討されつつある。例えば、金型面からの工夫として、金型のキャビティ内表面にエンボス加工を施した金型を使用し、非加飾シートをセットしてコア材を射出し、コア材の熱でシートのエンボス加工を同時に行い、シート表面にエンボス加飾を施した表皮一体成形品を得ることが提案されている。この方法では表面に十分な凹凸があり高い外観意匠・触感を持つ表皮一体成形品を得られるものの、エンボスデザイン毎に高価な射出金型を用意する必要があるため、多様なエンボス加飾バリエーションに対応することは不可能で、多様な表皮一体成形品を得るにはコスト高となる。
【0005】
また、昨今は各種電子機器筐体などの分野で、デザインバリエーションの多様化傾向が急速に進行しており、これに対応するために、転写箔やインサートフィルムを用いた表皮一体成形品が利用されている。しかしながら、転写箔やインサートフィルムを用いた表皮一体成形品は豊富なデザインバリエーションを実現できるが、表面に凹凸が少ないため、優れた外観意匠性・触感を得られないという課題があり、薄肉のエンボス加飾シートを用いた表皮一体成形品(エンボス加飾一体成形品)が求められている。
【0006】
エンボス加飾シートの潰れを抑制するための他の手段としては、加飾シートの配合組成を工夫し、シートに要求される他の物性とのバランス化を図ることが挙げられる。ここで、射出成形時の射出圧力や剪断発熱に起因するエンボス潰れを改良するために、単純に高耐熱性樹脂を用いた場合、シート自体が脆くなり、成形品端面の曲面部の白化や、シートの乱暴な扱いや運搬時の落下によってシートが白化し、材料ロスが発生するという問題が生じる。また、白化を回避しようと軟質樹脂を添加すると、耐熱性が低下し、エンボス潰れを回避することが困難である。さらに、ゲートダメージと言われる、樹脂注入口であるゲート部およびゲート近傍に、光沢や樹脂流動跡が現われ、加飾側の外観を損なう問題もある。このように、エンボス潰れと白化の問題を同時に解決することは、従来の手法では非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3314271号公報
【特許文献2】特開平9−183163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、射出成形時のエンボス潰れとシートの白化の両者を同時に解決することが出来るエンボス加飾シート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の課題は、該エンボス加飾シートにコア材が充分に密着するための、該エンボス加飾シートと接着剤層が積層された積層体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する為に、鋭意研究を重ねた結果、特定の物性を有するシートが、射出成形時におけるエンボス潰れがなく、また白化し難い特性を有し、そして、該物性を発現させるために、特定の配合組成を有する熱可塑性樹脂シートを使用することが、最も適していることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)射出成形による成形法において表皮材として使用するエンボス加飾シートであって、
折り曲げ試験において白化せず、60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とするエンボス加飾シート。
(2)(A)スチレン系樹脂20〜70重量%、(B)ポリオレフィン5〜40重量%、及び、(C)熱可塑性エラストマー5〜40重量%を配合した組成物からなる(1)記載のエンボス加飾シート。
(3)前記組成物が、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分の配合量の合計100重量部に対し、更に(D)変性ポリオレフィン1〜30重量部を含有する、(2)記載のエンボス加飾シート。
(4)(A)成分のスチレン系樹脂が、アクリロニトリル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体、アクリロニトリル・オレフィンゴム・スチレン共重合体、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体、メタクリル酸メチル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体、及び、ハイインパクトポリスチレンから選択される少なくとも1種からなる、(2)又は(3)記載のエンボス加飾シート。
(5)(B)成分のポリオレフィンが、メルトフローレート0.1〜20g/10分で、かつ荷重撓み温度が70〜160℃であるポリプロピレンである、(2)〜(4)のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
(6)(C)成分の熱可塑性エラストマーが、JIS K 6253におけるショアA硬度が20〜80であることを特徴とする、(2)〜(5)のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
(7)(D)成分の変性ポリオレフィンが、極性基によって変性されたポリオレフィンであり、メルトフローレート0.1〜100g/10分、かつJIS K 7206におけるVicat軟化点が40〜100℃であることを特徴とする(3)〜(6)のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のエンボス加飾シートと接着剤層からなり、前記接着剤層がエンボス加飾シートのエンボス加飾面とは反対側の面に積層されてなる積層体。
(9)前記接着剤層が、溶剤系接着剤、水系接着剤およびホットメルト系接着剤から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする(8)記載の積層体。
(10)前記ホットメルト系接着剤が、オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーを主成分とする(9)記載の積層体。
(11)前記ホットメルト系接着剤が、変性ポリオレフィンを主成分とする(9)記載の積層体。
(12)前記ホットメルト系接着剤が、さらに粘着付与剤を含む接着性樹脂組成物である(9)〜(11)のいずれかに記載の積層体。
(13)前記ホットメルト系接着剤が、フィルム状であることを特徴とする(10)〜(12)のいずれかに記載の積層体。
(14)原料成分を混練した後、得られる原料組成物を成形してシートを作製し、前記シートを接着剤層と積層、およびエンボス加工することを特徴とする(10)〜(13)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(15)(1)〜(7)のいずれかに記載のエンボス加飾シート、及び、コア材からなるエンボス加飾一体成形品。
(16)(8)〜(13)のいずれかに記載の積層体、及び、コア材からなるエンボス加飾一体成形品。
(17)60°反射率を用いて測定されたエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とする(15)又は(16)記載のエンボス加飾一体成形品。
(18)(1)〜(7)のいずれかに記載のエンボス加飾シートまたは(8)〜(13)のいずれかに記載の積層体のエンボス加飾面の反対側に熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とし、射出成形時の前記熱可塑性樹脂の温度が160〜300℃であり、この際の射出圧力が50〜500MPaであることを特徴とする、(15)〜(17)のいずれかに記載のエンボス加飾一体成形品の製造方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
エンボス残留率と耐ゲートダメージ性を大幅に改善した加飾シートを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るエンボス加飾シートにおける60°反射率測定位置、ゲートダメージ面積、及び、接着性評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、射出成形による成形法において表皮材として使用するエンボス加飾シートであって、折り曲げ試験において白化せず、60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率が70%以上及びエンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とするエンボス加飾シートが提供される。
【0014】
折り曲げ試験とは、当該シートを手に持ち、90度折り曲げた時のシートの白化度合いと、そののち元に戻した時の白化の有無を試験するものである。白化の度合いは目視にて判定する。該折り曲げ試験において、シートが白化しない、あるいは、折り曲げた際に白化したとしても、元の位置にもどした時に白化が目立たない程度に回復するものは、射出成形した際の、成形品曲面部分の白化や、シート成形後の、乱暴な扱いや運搬時の落下によってシートが白化し、材料ロスが発生するという問題を回避することができる。
「折り曲げ試験において白化せず」とは、該折り曲げ試験において、シートが白化しない、あるいは、折り曲げた際に白化したとしても、元の位置にもどした時に白化が目立たない程度に回復する態様を意味する。
【0015】
60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率(%)とは、射出成形を行ったエンボス加飾シートについて、射出成形前のエンボス加飾面の60°反射率÷射出成形後のエンボス加飾面の60°反射率×100、の式によって求められる数値である。
より具体的には、エンボス加飾シートを射出成形金型内にセット(インサート)して、エンボス加飾面の反対側(エンボス加飾シートの裏面側)に熱可塑性樹脂の注入(射出)と成形を行い、図1に示すように、試験片(120mm四方の正方形)のエンボス加飾面において、射出成形前及び射出成形後に、射出成形金型のゲート(金型キャビティへの開放口;高さ2mm×幅5mm)形成面に接していた辺から30mm〜50mmの部位における60°反射率を、光沢計を用いて測定し、上記の式に基づいてエンボス残留率を算出する。
エンボス残留率は、70%以上であるが、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。70%より低い数値では、成形品に光沢が現われてくるため外観上好ましくない。
【0016】
ゲートダメージとは、射出成形時の樹脂圧力や剪断発熱によって、エンボス加飾シートのエンボスが潰れて、光沢や樹脂流動跡が現われ、エンボス加飾面の外観を損なう現象を指すものである。このゲートダメージを数値化するために、射出成形品のゲートダメージ面積÷射出成形品のエンボス加飾面積×100、の式によって与えられるゲートダメージ面積率(%)を導入する。具体的には、上記のように射出成形加工を行ったエンボス加飾シートについて、図1に示すように、試験片(120mm四方の正方形)のエンボス加飾面において、射出成形金型のゲート(高さ2mm×幅5mm)付近に発生したゲートダメージを目視により確認し、その面積が射出成形品のエンボス加飾面積(すなわち120mm×120mm)に占める率を算出する。
ゲートダメージ面積率は、20%以下であるが、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。20%以下に抑えることで、エンボス加飾面の外観に優れた成形品を得ることが出来る。ゲートダメージ面積率が20%より大きいと、光沢部分がより目立ち易く、またエンボス潰れが成形品全体に広がっていることになり、外観上好ましくない。
【0017】
本発明の、折り曲げ試験において白化せず、60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率が70%以上及びエンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とするエンボス加飾シートを製造するための樹脂シートを構成する組成物としては、(A)スチレン系樹脂20〜70重量%、(B)ポリオレフィン5〜40重量%、及び、(C)熱可塑性エラストマー5〜40重量%(ただし、(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合量の合計を100重量%とする)からなる組成物を用いることが好ましい。
【0018】
(A)成分のスチレン系樹脂は、耐熱性、柔軟性、耐候(光)性、耐薬品性及び成形加工性が容易であるといった特徴を有しており、表皮材としてのエンボス加飾シートの主原料として好適である。スチレン系樹脂としては、特に限定なく各種のものを用いることができる。例示するならば、ABS(アクリロニトリル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル・オレフィンゴム・スチレン共重合体)、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体)、MBS(メタクリル酸メチル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)等が挙げられる。
この中でも、耐熱性と柔軟性の点から、ABS、AES及びMBSがより好ましい。
【0019】
(A)成分の配合量は、20〜70重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、40〜70重量%がさらに好ましい。20重量%未満ではシートの収縮率が増大し、70重量%より多いと白化が発生し易くなり好ましくない。
【0020】
(B)成分のポリオレフィンとしては各種のものを用いることができ、例示するならば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等のポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のエチレンを主成分とする共重合体等を挙げることができる。
ポリオレフィンの中でも、耐熱性が高く、射出成形時の加熱によるエンボス潰れの抑制に特に効果があり、種々のタイプのものが入手しやすく安価であり、かつ軽量な素材で、その他にも、耐衝撃性、耐薬品性、防水性およびヒートシール性といった特徴を有しているという点で、ポリプロピレンが好ましい。
【0021】
ポリプロピレンとしては、メルトフローレート0.1〜20g/10分で、さらに荷重撓み温度が70〜160℃であることが好ましく、ランダム、ホモ、ブロックの制限なく使用できる。
ここでメルトフローレートとは、JIS K 7210におけるMFRのことである。メルトフローレートは、0.1〜15g/10分がより好ましく、0.1〜10g/10分がさらに好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分より小さいとシート成形の際に表面性の低下が発生し、20g/10分より大きいと、極端な流動性の向上により(A)成分との相容性が低下し好ましくない。
また、荷重撓み温度は、JIS K 7191に基づく。荷重撓み温度は、70〜140℃がより好ましく、70〜120℃がさらに好ましい。荷重撓み温度が70℃より低いと、十分な耐熱性が発現せずゲートダメージ面積率が増大し、160℃より高いと耐熱性と柔軟性のバランスが取り難くなるため好ましくない。
【0022】
(B)成分の配合量としては、5〜40重量%が好ましく、5〜35重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。5重量%未満では充分な耐熱性の付与が出来ず、エンボス残留率やゲートダメージ性を悪化させる可能性が大きい。40重量%より多い場合は、柔軟性と耐熱性のバランスをとることが出来ず、収縮率も増大するため好ましくない。
【0023】
(C)成分の熱可塑性エラストマーは、JIS K 6253におけるショアA硬度が20〜80であることが好ましく、ショアA硬度が20〜60の軟質タイプであることがより好ましく、ショアA硬度が30〜50であることがさらに好ましい。ショアA硬度が20より小さいと、粘着性が強まり、シート化およびエンボス工程において、ロールへ貼り付く不具合が発生したり、物性のバランスを取ることが困難になる。また80より大きいと、シートが硬くなり過ぎ、白化を防ぐことが困難になる。
【0024】
このような熱可塑性エラストマーを例示するならば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン等のジエン系ゴム、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体などの非ジエン系ゴム、スチレンーブタジエンジブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−イソプレンジブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンジブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、スチレンーブタジエン−スチレントリブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、エチレン−プロピレンエラストマー、スチレングラフトエチレン−プロピレンエラストマー、エチレン系アイオノマー樹脂、等が挙げられる。
これらの中でも、(A)成分のスチレン系樹脂、および(B)成分のポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好で、耐熱性を低下させることなく柔軟性の付与が可能であることから、スチレンーブタジエンジブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、スチレン−イソプレンジブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンジブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーや動的架橋型オレフィン系エラストマーが好ましい。
【0025】
(C)成分の配合量としては、5〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましい。5重量%未満では柔軟性に劣り白化が発生し易くなり、40重量%より多いと耐熱性の低下からゲートダメージ面積率が大きくなり、またコストアップとなるため好ましくない。
【0026】
本発明においては、(A)成分のスチレン系樹脂、(B)成分のポリオレフィン、及び、(C)成分の熱可塑性エラストマーを適切な配合比で含有する組成物を用いることにより、白化がなく、射出成形した際のエンボス潰れやゲートダメージの改良されたエンボス加飾シートを得ることができるが、これら3成分の更なる相容化の改良を目的として(D)成分の変性ポリオレフィンをさらに配合してもよい。
【0027】
(D)変性ポリオレフィンとしては、特に限定されず各種のものを使用することができるが、極性基によって変性されたポリオレフィンが好ましい。例示するならば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンを単独または共重合して得た重合体を酸化してカルボキシル基を導入したもの;エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル等の上記α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体のランダム共重合体、等が挙げられる。
【0028】
また、ポリオレフィンに対し、エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合してなる変性ポリオレフィンを用いることも可能である。ポリオレフィンとしては特に制限はなく、(B)成分の具体例で示したものを用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体とは、分子中にエチレン性二重結合と少なくとも1個のカルボン酸またはその誘導体部位を有する化合物である。具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプトー2−エン−5,6−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば、酸ハライド、アミド、イミド、エステルなど)が挙げられる。具体的な化合物の例としては、塩化マレニル、マレニルイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプトー2−エン−5,6−ジカルボン酸ジメチル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸アミノエチルおよびメタクリル酸アミノプロピルなどを挙げることができる。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプトー2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸アミノプロピルが好ましい。
【0029】
エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体の使用量は、特に制限されないが、主鎖のポリオレフィン100重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましい。0.1重量部より少ないと、相容化の効果が小さく、20重量部より多いと、残留モノマーが多く発生し、物性に悪影響を与える。
【0030】
ポリオレフィンに対して、エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合する際、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の単量体を用いてもよい。その他の単量体としては、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、芳香族ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ビニルエステル化合物、塩化ビニル、オキサゾリン基含有不飽和単量体などが挙げられる。
これらの中で、芳香族ビニル化合物や共役ジエン系化合物は、ポリプロピレンなどの分子鎖切断型ポリオレフィンへのグラフトの際に分子鎖の切断が抑制され、高い分子量を保ったまま、エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体を高い比率で導入することができるので好ましい。
【0031】
芳香族ビニル化合物を例示するならば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロメチルスチレン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン、2−メチルー5−ビニルピリジン、2−イソプロペニルピリジン、2−ビニルキノリン、3−ビニルイソキノリン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。
共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、ピペリレンなどが挙げられる。
【0032】
上記ポリオレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体、さらに必要に応じてその他の単量体を、ラジカル重合開始剤の存在下、または不存在下で加熱して反応させることにより、変性ポリオレフィンを得ることができる。
ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物あるいはアゾ化合物などを挙げることができる。例示するならば、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの有機過酸化物の1種または2種以上があげられる。
【0033】
これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、そのようなラジカル重合開始剤としては、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上があげられる。
【0034】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内にあることが好ましく、0.2〜5重量部の範囲内にあることがさらに好ましい。0.01重量部未満では変性が充分に進行せず、10重量部を超えると流動性、機械的特性の低下を招くことがある。
ポリオレフィン系重合体のグラフト変性は従来公知の方法で行うことができ、例えば、ポリオレフィン系重合体を有機溶媒に溶解し、次いでエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体、必要に応じて他のグラフト単量体、およびラジカル開始剤を溶液に添加し、70〜200℃、好ましくは80〜190℃の温度で、0.5〜15時間、好ましくは1〜10時間反応させることにより行われる。
【0035】
また、押出機などを使用して、ポリオレフィン系重合体とグラフト単量体、ラジカル重合開始剤を無溶媒で、加熱、混練、反応させて得ることもできる。反応温度は、ポリオレフィン系重合体の融点以上、具体的には120〜250℃の範囲である。このような温度条件下における反応時間は通常、0.5〜10分である。
【0036】
(D)成分の配合量は、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分の配合量の合計を100重量部とした場合、1〜30重量部が好ましく、1〜20重量部がより好ましく、3〜15重量部がさらに好ましい。1重量部未満では(A)成分のスチレン系樹脂、(B)成分のポリオレフィンおよび(C)成分の熱可塑性エラストマーの相容化効果が乏しいことや、エンボス残留率の悪化と白化の原因となるおそれがあり、30重量部より多いとゲートダメージの悪化とシート成形時におけるロール面への粘着問題が発生するおそれがあるため好ましくない。
【0037】
(D)成分の物性としては、メルトフローレート0.1〜100g/10分、かつJIS K 7206におけるVicat軟化点が40〜100℃の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、メルトフローレート0.1〜50g/10分、かつJIS K 7206におけるVicat軟化点が50〜80℃である。メルトフローレートは、0.1〜20g/10分であることがさらに好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分より小さいと、エンボス加工前のシートに凹凸が現れる傾向があり、100g/10分より大きいと、シート自体に粘着性が現れる傾向がある。また、Vicat軟化点は、55〜80℃であることがさらに好ましい。Vicat軟化点が40℃より低いと、シートの耐熱性が低下する傾向があり、100℃より高いと、シートの柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0038】
更に、本発明のエンボス加飾シート用樹脂組成物には、成形加工性を付与する目的で、通常良く知られた酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0039】
上記各成分を混練して原料組成物を調製し、成形してシート化することにより、本発明のエンボス加飾シートの製造に用いる樹脂シートを得ることができる。各成分の混練は、例えば、押出機、バンバリーミキサー、ミル、ニーダー、加熱ロール等を用いることにより行うことができる。また、シート化は、カレンダー成形、Tダイ押出成形、プレス成形等の従来から使用されている成形方法により行うことができる。
【0040】
上記表皮材となるエンボス加飾シートは、片面側にエンボス加工が施され、凹凸などのエンボス模様が付与されており、エンボス加工されている面がエンボス加飾一体成形品において表皮材の表面側となる(以下、エンボス加飾シートの表面側ともいう)。上記エンボス加工は、特に限定されず、例えば、適当な温度に加熱された樹脂シートにエンボスロール(例えば、シボロール)で圧力を加えて表面に凹凸の浮き彫り模様などのエンボス模様を付ける方法などにより行うことができる。また、シートの加熱温度は、シートの軟化温度以上であればよく、特に限定されないが、160〜220℃であることが好ましい。また、上記エンボス加飾シートの表面側には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、さらに、表面処理、印刷、塗装、ハードコート処理などを施してもよい。印刷や塗装は特に限定されず、例えば、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷などの従来の方法で行うことができる。
【0041】
エンボス加飾シートの厚みは、200μm〜1500μmの範囲にあることが好ましい。200μmより薄いとゲートダメージが顕著であり、エンボス加飾一体成形品の意匠性が悪くなると共に、エンボスが消失するおそれがある。また、エンボス加飾シートの厚みが1500μmより厚いと、射出成形時に金型のキャビティの容積が小さくなるためコア材の肉厚が極端に薄くなり、不完全な成形品となる不具合(ショートショット)が発生するため好ましくない。
【0042】
以上のようにして得られるエンボス加飾シートに、コア材となる樹脂を射出することによりエンボス加飾一体成形品を得ることができる。
【0043】
また、本発明に係るエンボス加飾一体成形品は、エンボス加飾シートの裏面側に接着剤層が積層されてなる積層体にコア材となる樹脂を射出することにより得ることもできる。エンボス加飾シートとコア材とは、射出成形時の熱により溶着させることも可能であるが、接着剤層を介在させることで十分な密着性を付与することができる。
接着剤層に使用される接着剤としては特に限定されることなく、水系、溶剤系、ホットメルト系等の各種のものを使用することができ、使用する表皮材とコア材の組成に基づいて適宜選択すればよい。
【0044】
水系接着剤としては例えば、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン型、酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン型、EVA樹脂系エマルジョン型、アクリル樹脂系エマルジョン型、フェノール樹脂系エマルジョン型、尿素樹脂系エマルジョン型、メラミン樹脂系エマルション型、合成ゴム系ラテックス型などが挙げられる。
溶剤系接着剤としては例えば、酢酸ビニル樹脂系溶剤型、アクリル樹脂系溶剤型、クロロプレン系溶剤型、ゴム系溶剤型などが挙げられる。
【0045】
また、ホットメルト系接着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸−無水マレイン酸共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、無水マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、等のポリオレフィン系ホットメルト系接着剤、ウレタン系接着剤、合成ゴム系ホットメルト系接着剤、ポリエステル系ホットメルト系接着剤、ポリアミド系ホットメルト系接着剤、オレフィン系熱可塑性エラストマー系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂、エステル系熱可塑性エラストマー樹脂、アミド系熱可塑性エラストマー樹脂等を用いることができる。
この他、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤等の反応型接着剤、天然ゴム系、アクリル系、等の感圧型接着剤を用いることも可能である。
【0046】
ホットメルト系接着剤は溶剤を含まないため、表皮材(エンボス加飾シート)に比較的厚く塗工することが可能である。接着層が厚いと、射出成形時に熱や圧力に対するクッション層として作用するため、ゲートダメージやエンボス潰れを改良することができ、有利である。
ホットメルト系接着剤としては、オレフィン系エラストマーであるエチレン−プロピレン共重合体及びそのエラストマー、エチレン−α−オレフィン共重合体や、スチレン系エラストマーであるスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)及びその水素化物、スチレン−イソブチレン−スチレン(SIBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン(SEPS)が、粘着性と接着性の点で好ましい。
また、比較的極性の低い表皮材用エンボス加飾シートと、極性の比較的高いエンジニアリング樹脂からなるコア材を接着する場合、ホットメルト系接着剤としては、特に極性基で変性されたポリオレフィンが特に好ましい。変性ポリオレフィンとしては、特に限定されず、(D)成分の説明で例示したものをすべて好適に使用することが可能である。
【0047】
ホットメルト系接着剤には、被着体であるエンボス加飾シートおよびコア材への接着性を調整するために、粘着付与樹脂を添加してもよい。粘着付与樹脂としては従来公知のものを限定することなく使用することができ、その具体例としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン−フェノール系樹脂、クマロン−インデン樹脂、ダンマルゴム、芳香族石油樹脂、脂肪族石油樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。
粘着付与樹脂の使用量としては、ホットメルト系接着剤を構成する主たる樹脂100重量部に対し、1〜50部が好ましい。1部より少ないと粘着付与効果が小さく、50部より多いと、粘着性が高くなり過ぎ、例えば離型フィルムを積層した場合に剥がし難くなるといった不具合が生じるため好ましくない。
【0048】
ホットメルト系接着剤は、ペレットあるいは粉体形状のものを溶融して表皮材となる樹脂シートに塗工する、あるいは、上記樹脂シートとホットメルト系接着剤を共押出により積層することができるが、予めフィルム状に成形しておき、上記樹脂シートと積層することも可能である。フィルム化することによって、水系接着剤や溶剤系接着剤の使用時に見られる塗りムラが無く、均一な接着層を容易に作ることが出来る利点がある。フィルム状に成形された接着剤と、樹脂シートは、ラミネーターやプレス成形機等の、従来公知の方法により積層することが可能である。
【0049】
ホットメルト系接着剤を予めフィルム状に成形する場合、その厚みは30μm〜1300μmの範囲にあることが好ましい。30μmより薄いと加飾シートとのラミネーション工程においてホットメルト系接着剤が破れ生産出来ない。1000μmより厚いと積層体の厚みが大きくなることから、コア材の肉厚が極端に薄くなり、不完全な成形品となる不具合(ショートショット)が発生するため好ましくない。
【0050】
本発明におけるエンボス加飾シートと接着層の厚みの合計は200〜1500μmであることが好ましく、手で折り曲げたとき及び折り曲げたのちに元に戻したときに白化の残らないことが特徴である。厚みが200μm以下では、射出成形の際、流動する樹脂圧力に対して加飾シート強度が劣り、破損する可能性がある。厚みの合計は、好ましくは300〜800μmで、射出成形上、さらに好ましくは300〜600μmである。
【0051】
本発明に係る積層体は、上記エンボス加飾シートの裏面側に接着剤を塗布して接着剤層を形成して得ることができる。また、上記のエンボス加飾シート原料組成物より得られる樹脂シートを接着剤層と積層するとともに、接着剤層と反対側の面をエンボス加工することにより得ることもできる。後者の場合、エンボス加工は、上記エンボス加飾シートの製造におけるエンボス加工と同様の方法で行うことができる。
【0052】
また、エンボス加飾シート、及び、積層体は、140℃における高温引張弾性率(高温50%モジュラス)が0.15〜1.5MPaであることが好ましい。高温引張弾性率が0.15MPa未満であると、射出成形時に表皮材が流動しにくく、コア材が表面に浮き出るゲートダメージが発生するおそれがある。また高温引張弾性率が1.5MPaを超えると、エンボス加工時に所定のエンボスを施したり、射出成形においてコーナー部形状を形成したりすることが困難になる傾向がある。
【0053】
本発明のエンボス加飾一体成形品は、上記の表皮材(エンボス加飾シート)又は積層体と、射出成形により上記の表皮材又は積層体と一体成形されたコア材からなる。上記のように、本発明のエンボス加飾一体成形品は、薄肉の非発泡エンボス加飾シートを表皮材として用いることにより、軽量化、薄肉化、デザインの多様化が可能となる。
【0054】
コア材としては特に限定されず、種々の樹脂を使用することができ、例示するならば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ゴム強化ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等の汎用樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、等のエンジニアリング樹脂、等である。
これらの中で、本発明のエンボス加飾シートの使用が想定される電気・電子機器の筐体用途には、スチレン系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂が主成分として使用されることが多い。ここで、「主成分」とは、コア材の樹脂成分全体に対し、50質量%以上含まれている樹脂成分をいう。
【0055】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、従来のスチレン系樹脂を用いることができる。例えば、ブタジエン系のゴムラテックスに、アクリロニトリル、スチレン、メチルメタクリレート(MMA)などのモノマーをグラフト共重合して得られるABS樹脂、MBS樹脂、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)などを単独又は二種以上組合せて用いることができる。また、ポリスチレン(PS)の連続層にゴム粒子を分散させてなるハイインパクトポリスチレン(HIPS)、エチレン−スチレンランダム共重合樹脂、スチレン−オレフィン系アロイなども使用できる。
【0056】
ポリカーボネート系樹脂(PC樹脂)としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートエステル交換反応にて重合して得られる樹脂、塩化メチレンとビスフェノールAのアルカリ水溶液との2相間で重合して得られる樹脂、ピリジンとホスゲンの付加物を作りこれとビスフェノールAとの反応により重合してなる樹脂などのポリカーボネート系樹脂を用いることができる。また、これらのPC樹脂に必要に応じて、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PA(ポリアミド)樹脂、PO(ポリオレフィン)樹脂などを少量混合したものを使用することもできる。
【0057】
上記コア材に用いるスチレン系樹脂及びPC樹脂は単独で用いてもよく、それらを組合せて用いてもよい。優れた耐熱変形性を有するエンボス加飾一体成形品が得られる。また、本発明のエンボス加飾一体成形品を電子機器筐体として用いる場合、コア材の材料としては、PC樹脂とABS樹脂との樹脂混合物を用いることが特に好ましい。電子機器筐体として要求される耐熱変形性などの性能が極めて優れるからである。なお、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂の混合割合は特に限定されるものではないが、重量比で、PC樹脂/ABS樹脂=90/10〜10/90であることが好ましく、耐熱変形性と流動性のバランスから、PC樹脂/ABS樹脂=80/20〜20/80であることが特に好ましい。
【0058】
また、上記コア材に用いる樹脂には、一般的に熱可塑性樹脂に添加される公知の添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、充填材、着色剤などが目的に応じて任意に配合されていてもよいが、添加剤の配合にあたっては本発明の目的、効果を阻害しないように、添加剤の種類、配合量などを考慮する必要がある。
【0059】
上記コア材のMFRは、50〜200(測定温度260℃、荷重10kg)であることが好ましく、50〜100であることがより好ましい。コア材のMFRが50未満であると、ショートショットなどの成形不良、ウェルドラインなどの外観不良や残留歪が大きくなってソリなどの成形不良が発生する傾向がある。一方、コア材のMFRが200を超えると、成形品の衝撃強度などが低下し、耐熱性が低下するなどの不具合が生じる傾向がある。なお、上記コア材の材料としてABS樹脂とPC樹脂との樹脂混合物を用いる場合は、これらの樹脂混合物のMFRが50〜200(測定温度260℃、荷重10kg)であることが好ましい。
【0060】
上記コア材の厚みは、一体成形品の厚み(エンボス加飾シート、接着層及びコア材の厚みの合計)の40〜80%であることが好ましい。40%未満であると、コア材の強度不足や充填不良のおそれがあり、80%を超えると、一体成形品の軽量化が難しい。
【0061】
上記エンボス加飾一体成形品は、最大長径は、200mm以上であることが好ましく、200〜500mmであることがさらに好ましい。大型電子機器筐体などの大型表皮一体成形品の成形に有効であるからである。本発明において、「最大長径」とは、エンボス加飾一体成形品の大きさを表現するためのパラメータで、成形品を直線的に長さ計測した時の最大長さを意味する。例えば、エンボス加飾一体成形品が略方形である場合は、対角線長さが最大長径となる。ここで、「略方形」とは、外縁部の向き合った2辺がそれぞれ平行で且つ十分な長さの直線部分を有する形状を意味し、角部に丸みを持たせた形状を含み、具体的には、略正方形、略長方形、菱形、台形などが挙げられる。
【0062】
上記エンボス加飾一体成形品は、60°反射率を用いて測定されたエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下である。
【0063】
以下、本発明のエンボス加飾一体成形品の製造方法について説明する。
本発明のエンボス加飾一体成形品の製造方法は、上記の表皮材に対して上記のコア材を射出成形により一体成形する製造方法であればよく、特に限定されない。例えば、(I)先ず、エンボス加飾シート又は積層体を、従来の真空成形、圧空成形、プレス成形などにより予備賦形する。次いで、エンボス加飾シート又は積層体を、エンボス加飾面の反対側にコア材となる熱可塑性樹脂が射出成形される向きで射出成形金型に装着し、キャビティ空間内に上記コア材となる熱可塑性樹脂を射出成形し、上記エンボス加飾シート又は積層体と上記コア材を一体化してエンボス加飾一体成形品とする。又は、(II)エンボス加飾シート又は積層体を断続/連続的に、エンボス加飾面の反対側にコア材となる熱可塑性樹脂が射出成形される向きで射出成形金型のコア側に供給し、シート押え枠で固定した後、金型キャビティ空間内に上記のコア材となる熱可塑性樹脂を射出成形し、上記エンボス加飾シート又は積層体と上記コア材を一体化してエンボス加飾一体成形品としてもよい。その際、ゲート近傍のシートを吸引して、金型のコア側に接触させてもよい。
【0064】
上記において、射出成形の際のゲート形状は、特に限定されるものではないが、薄肉製品のソリの防止やコア材の流動性の向上などの観点から、点ゲート、フィルムゲート、ファンゲートなどを用いることが好ましい。中でも、コア材の金型キャビティへの充填性などの観点から、金型キャビティへの開放口が、短径0.5〜2.5mm、長径20〜100mmの長方形形状となっているフィルムゲートあるいはファンゲートが特に好ましい。さらに、エンボス加飾一体成形品の最大長径が200mm以上の大型電子機器筐体などとして用いる大型のエンボス加飾一体成形品の成形には、短径1.0〜2.5mm、長径30〜100mmのファンゲートを用いることが好ましい。
【0065】
また、射出成形は、射出成形機を使用し、エンボス加飾シートを雌金型にセットし、雄雌金型を閉じ、金型間に形成された金型キャビティにコア材となる熱可塑性樹脂を射出して充填する。射出成形の際のシリンダー温度及びノズル温度は使用するコア材となる熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば、熱可塑性樹脂の温度が160〜300℃となるよう、シリンダー温度は160〜300℃、ノズル温度は180〜280℃であることが好ましい。熱可塑性樹脂の温度は、200〜260℃であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の温度が160℃未満であるとショートショットが起きたりエンボス加飾シートが破れたりするおそれがあり、300℃を超えるとコア材が熱分解するおそれがある。
【0066】
また、射出成形の際の射出速度は、70〜200mm/秒の範囲が好ましい。射出速度が70mm/秒未満であるとエンボスがつぶれるという不具合が生じる傾向があり、200mm/秒を超えるとバリを発生し易くなりトリミングが難しくなる傾向がある。特に、表皮材となるエンボス加飾シートのエンボスをそのまま残すという観点から、100〜130mm/秒の範囲がさらに好ましい。
【0067】
また、射出成形の際の射出圧力は、50〜500MPaの範囲が好ましく、表皮材となるエンボス加飾シートのエンボスを残留させるという観点から、70〜250MPaがより好ましい。射出圧力が50MPa未満であるとショートショットになる傾向があり、500MPaを超えるとゲートダメージ面積率が増大する傾向がある。
上記のように、本発明の製造方法によれば、特定のゲート形状、シリンダー温度、ノズル温度、射出速度、射出圧力などを組合せることにより、凹凸などのエンボス模様の残留性を向上でき、且つ大型表皮一体成形品の成形が可能となる。
【0068】
また、本発明の製造方法によれば、表皮材としてエンボス加飾シートを用いることにより、射出成形金型として凹凸が付されたものを用いる必要がない。すなわち、表皮一体成形品の形状、大きさなどに合わせた射出成形金型に、凹凸を施す必要がないので効率的であり、金型の製造コストも低減することができる。
また、本発明の製造方法によれば、厚さが0.2〜1.5mmであり、140℃における高温引張弾性率(高温50%モジュラス)が0.15〜1.5MPaのエンボス加飾シート又は積層体を用いることにより、射出成形時に表皮が破損することなく、薄い表皮で、大型のエンボス加飾一体成形品を得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
[使用原料]
(A)成分:スチレン系樹脂
ABS:旭化成(株)製 スタイラック321
AES:三菱レイヨン(株)製 ダイヤラックSE60
MBS:(株)カネカ製 テルアロイA−10
(B)成分:ポリオレフィン
PP−1:(株)プライムポリマー製 プライムポリプロB221WB(荷重撓み温度90℃、MFR0.5)
PP−2:(株)プライムポリマー製 プライムポリプロE111G(荷重撓み温度115℃、MFR0.5)
(C)成分:熱可塑性エラストマー
SEPS:(株)クラレ製 セプトン2063(ショアA硬度36)
TPV(動的架橋型オレフィン系エラストマー):エクソンモービル社製 サントプレーン211−55(ショアA硬度55)
(D)成分:変性ポリオレフィン
変性PO:日油(株)製 モディパーA8200(MFR0.3、Vicat68℃)
【0071】
[評価方法]
(白化)
射出成形前のエンボス加飾シートを手で90度折り曲げ、以下の基準に基づいて、目視により白化を評価した。
◎:白化しない
○:折り曲げると若干白化するが、元に戻すと白化が消える
△:折り曲げるとやや白化し、元に戻してもうっすら白化が残る
×:折り曲げると完全に白化し、元に戻しても白化したまま
(エンボス残留率)
射出成形前と成形後に、エンボス加飾シート(120mm四方の正方形)の60°反射率を光沢計VG−2000(日本電色工業(株)製)を用いて測定し、両者の比から、エンボス残留率を算出した。反射率については、射出成形金型のゲート形成面に接していた辺より30mm〜50mm離れた部位を測定した。
(ゲートダメージ面積率)
射出成形品(120mm四方の正方形)のエンボス加飾面において、射出成形金型のゲート付近に発生したゲートダメージの面積と、射出成形品のエンボス加飾面積(すなわち120mm×120mm)から算出した。
(接着性)
図1に示すように、射出成形品(120mm四方の正方形)中央部の表皮側に、コア材にまで達する深さの切り込みを樹脂流動方向に2本(成形品の外周部から長さ100mm、10mm間隔)入れ、2本の切り込みの間の表皮材を切り込み端部(成形品の外周部)から手で剥離し、以下の基準に基づいて、表皮材のコア材に対する接着性を評価した。
◎:まったく剥がれない
○:端部で僅かに剥がれる(剥がれた表皮材の長さが5mm以内)
△:中心部まで剥がれる(剥がれた表皮材の長さが30〜60mm)
×:すべて剥がれる(剥がれた表皮材の長さが100mm)
【0072】
(製造例1)
接着層Aの製造
エチレン−プロピレン共重合体(エチレン含量15重量%、MFR=8)100重量部、1,3−ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油(株)製パーブチルP、1分間半減期175℃)0.5重量部をシリンダー温度200℃、スクリュ回転数150rpmに設定した二軸押出機(44mmφ、L/D=38.5、(株)日本製鋼所製、製品名TEX44XCT)に供給して溶融混練した後、次いで、シリンダー途中よりメタクリル酸グリシジル5重量部、およびスチレン5重量部を加え溶融混練して変性ポリオレフィン樹脂ペレットを得た。得られたペレットをTダイ押出機にて製膜し、幅400mm×厚み約100μmのフィルムを得た。
【0073】
(製造例2)
接着層Bの製造
前記接着層Aの製造にて得られた、変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、粘着付与剤(ヤスハラケミカル(株)製、YSポリスターT130)10重量部をドライブレンドし、Tダイ押出機にて、幅400mm×厚み約100μmのフィルムを得た。
【0074】
(製造例3)
接着層Cの製造
前記接着層Aの製造にて得られた、変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、スチレン系エラストマー((株)カネカ製、SIBSTAR 072T)20重量部をドライブレンドし、Tダイ押出機にて、幅400mm×厚み約100μmのフィルムを得た。
【0075】
(実施例1)
ABS:旭化成(株)製 スタイラック321、(株)プライムポリマー製ランダムポリプロピレン(プライムポリプロB221WB)、および(株)クラレ製スチレン系熱可塑性エラストマー(セプトン2063)を表1に示す比率で混合し、バンバリーミキサーで事前混練を行い、その後、日本ロール製造(株)製・逆L4本カレンダー成形機に投入し、ロール温度180〜200℃、引取速度16〜18m/minにて、厚み約300〜400μmのシートを得た。得られたシートはグラビア印刷にて、木目調の模様を施した。
印刷されたシートと製造例1で得られた接着層Aを、小島製作所(株)製プラスチック用エンボッサーにて180〜200℃に加温し、10〜35m/minのライン速度で、エンボス工程とラミネート工程を同時に実施し、エンボス加飾シートを得た。得られたシートの総厚みは、約450〜500μmであった。
エンボス加飾シートの白化を、上記の方法にて評価した。結果を表1に示した。
次に、得られたエンボス加飾シートを、120mm×120mm×厚み2mmサイズの平板を採取できる金型(ゲート径:厚み2mm×幅5mm)のキャビティ側に貼り付け、(株)東芝製80トン射出成形機にて、帝人化成(株)製の非ハロゲン難燃PC/ABS樹脂(マルチロンTN−7000F)をコア材として、シリンダー設定温度260℃、金型温度60℃、射出速度約100mm/sec、射出圧力140MPaにて射出し、射出成形品を得た。
成形品のエンボス残留率、ゲートダメージ面積率、接着性を、上記の方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0076】
(実施例2〜8、比較例1〜3)
表皮材層の配合、および接着剤層を表1に示したように変更した以外は実施例1に記載した方法と同様にして、エンボス加飾シートおよび一体成形品を得た。各種評価した結果を表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より明らかなように、本発明のエンボス加飾シートは、白化しにくく、射出成形した際のエンボス残留率が高く、また、ゲートダメージ面積率が低い。実施例1〜7では、エンボス加飾シートに接着層を積層しているため、コア材との接着性も良好である。一方、表皮材の成分として、(A)成分のみを用いた比較例1、2、および、(B)成分と(C)成分の使用量が、本発明の範囲から外れている比較例3では、白化、エンボス残留率、ゲートダメージ面積率とも不良である。また、接着層を用いていない比較例1、3においては、接着性も悪い結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形による成形法において表皮材として使用するエンボス加飾シートであって、
折り曲げ試験において白化せず、60°反射率を用いて測定された射出成形後のエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とするエンボス加飾シート。
【請求項2】
(A)スチレン系樹脂20〜70重量%、(B)ポリオレフィン5〜40重量%、及び、(C)熱可塑性エラストマー5〜40重量%を配合した組成物からなる請求項1記載のエンボス加飾シート。
【請求項3】
前記組成物が、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分の配合量の合計100重量部に対し、更に(D)変性ポリオレフィン1〜30重量部を含有する、請求項2記載のエンボス加飾シート。
【請求項4】
(A)成分のスチレン系樹脂が、アクリロニトリル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体、アクリロニトリル・オレフィンゴム・スチレン共重合体、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体、メタクリル酸メチル・共役ジエンゴム・スチレン共重合体、及び、ハイインパクトポリスチレンから選択される少なくとも1種からなる、請求項2又は3記載のエンボス加飾シート。
【請求項5】
(B)成分のポリオレフィンが、メルトフローレート0.1〜20g/10分で、かつ荷重撓み温度が70〜160℃であるポリプロピレンである、請求項2〜4のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
【請求項6】
(C)成分の熱可塑性エラストマーが、JIS K 6253におけるショアA硬度が20〜80であることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
【請求項7】
(D)成分の変性ポリオレフィンが、極性基によって変性されたポリオレフィンであり、メルトフローレート0.1〜100g/10分、かつJIS K 7206におけるVicat軟化点が40〜100℃であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のエンボス加飾シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のエンボス加飾シートと接着剤層からなり、前記接着剤層がエンボス加飾シートのエンボス加飾面とは反対側の面に積層されてなる積層体。
【請求項9】
前記接着剤層が、溶剤系接着剤、水系接着剤およびホットメルト系接着剤から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする請求項8記載の積層体。
【請求項10】
前記ホットメルト系接着剤が、オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーを主成分とする請求項9記載の積層体。
【請求項11】
前記ホットメルト系接着剤が、変性ポリオレフィンを主成分とする請求項9記載の積層体。
【請求項12】
前記ホットメルト系接着剤が、さらに粘着付与剤を含む接着性樹脂組成物である請求項9〜11のいずれかに記載の積層体。
【請求項13】
前記ホットメルト系接着剤が、フィルム状であることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の積層体。
【請求項14】
原料成分を混練した後、得られる原料組成物を成形してシートを作製し、前記シートを接着剤層と積層、およびエンボス加工することを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載のエンボス加飾シート、及び、コア材からなるエンボス加飾一体成形品。
【請求項16】
請求項8〜13のいずれかに記載の積層体、及び、コア材からなるエンボス加飾一体成形品。
【請求項17】
60°反射率を用いて測定されたエンボス残留率が70%以上、及び、エンボス加飾面のゲートダメージ面積率が20%以下であることを特徴とする請求項15又は16記載のエンボス加飾一体成形品。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれかに記載のエンボス加飾シートまたは請求項8〜13のいずれかに記載の積層体のエンボス加飾面の反対側に熱可塑性樹脂を射出成形することを特徴とし、射出成形時の前記熱可塑性樹脂の温度が160〜300℃であり、この際の射出圧力が50〜500MPaであることを特徴とする、請求項15〜17のいずれかに記載のエンボス加飾一体成形品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−25610(P2011−25610A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175755(P2009−175755)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(590000927)龍田化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】