説明

表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法及び成形装置

【課題】表皮材のセット性を良好に維持しつつ、コアバックに起因する表皮材の皺発生を容易に抑制することができる方法および装置を提供する。
【解決手段】凹状彫込み32を有する第1型30と、凸状コア42を有する第2型40との間に、縁部51によってコア42の外周と略同形の窓部が形成された額縁状の第3型50を配設し、第3型50の表皮材保持面55に沿って表皮材12を保持し、型締めしてキャビティを形成させつつ、窓部52にかかる表皮材内側部12aを、コア42の前面でキャビティ35内側に押入し、発泡性樹脂92を注入し、コアバックを行いつつ発泡させる表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、型締めの開始時点以降かつコアバックの開始時点以前に、表皮材12のキャビティ内側に押入された部分12aと表皮材保持面に沿って保持された部分12bとを自動的に切離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に表皮材が一体的に積層された発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置に関し、特に額縁状の型を用いたコアバック成形を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂製品において、軽量化等の目的で発泡性樹脂を材料とするものが多用されつつある。このような発泡樹脂成形品の成形方法は、キャビティ(型によって形成された空間)に発泡性樹脂を注入し、発泡剤や超臨界流体によって発泡させるのが一般的である。キャビティは、基本的に凹状彫込みを有する第1型(いわゆる雌型)と凸状コアを有する第2型(いわゆる雄型)とによって形成される。
【0003】
このような発泡性樹脂成形品において、遮音性向上や外観向上等の目的で、成形品の表面に不織布等の表皮材を積層させる場合がある。そのような場合に好適な成形方法として、型締め時に、キャビティを構成する型面に沿って表皮材を配設しておき、そのキャビティ内で発泡、成形させる方法(以下表皮材積層成形と称する)が知られている。表皮材積層成形によると、成形と同時に表皮材が成形品の表面に積層されるので、樹脂成形後に別途表皮材を接着するものに比べ、工程が簡素化されて効率的である。例えば特許文献1には、表皮材としてオレフィン系熱可塑性エラストマーシートを用いた表皮材積層成形が示されている。
【0004】
一方、上記表皮材積層成形とは別に、いわゆるコアバック成形と呼ばれる成形方法が一般的に知られている。コアバック成形とは、発泡性樹脂注入時のキャビティ容積を発泡時よりも小さくしておき、発泡性樹脂を注入した直後にキャビティ容積を拡大させつつ発泡させる成形方法である。キャビティ容積の拡大は、第1型と第2型とを離反させるコアバックによってなされる。コアバック成形を行うことにより、より発泡を促進させ、発泡率の高い成形品を得ることができる。例えば特許文献2には、第1型を可動型、第2型を固定型とし、キャビティ内に発泡性樹脂を注入後、コアバックさせるものが示されている。この例ではコアを有する第2型を固定し、彫込みを有する第1型の方を第2型から離反させている。このように、コアバックは第1型と第2型とを相対的に離反させれば良く、実際に移動させる型は何れであっても良い。
【0005】
ところで、コアバック成形を行う場合、スキン層の影響に留意する必要がある。スキン層とは、一般的な発泡性樹脂成形において、型面に近い成形品表面付近に形成される低発泡率の層である。コアバック成形でしばしば問題となるのは、型開閉方向(第1型と第2型との相対移動方向)視で第1型の彫込み輪郭面に沿って形成されるスキン層である(以下単にスキン層という場合にはこのスキン層を指すものとする)。スキン層より内部側の、高発泡率の箇所では、コアバックによるキャビティ容積拡大が発泡を促進して好適であるのに対し、スキン層が形成される箇所においては、低発泡率であるにもかかわらず強制的にキャビティ容積が拡大されるので、発泡した樹脂が型の細部にまで行き渡り難く、成形性が悪化したり全体剛性が低下したりする虞がある。
【0006】
このような場合、スキン層付近での型開閉方向の容積拡大を行わず、あえて低発泡率のソリッド部を形成させ、スキン層がそのソリッド部に包含されるようにすれば良い。その具体的な方策として、例えば上記第1型、第2型とともに額縁状の第3型を用いる成形方法が有効である。第3型には、第2型のコアの外周と略同形の窓部が縁部によって形成されている。そして、上記第1型と第2型との間にこの第3型を介在させ、コアが第3型の窓部に挿通された状態でコアバックを行わせる。この第3型を用いる成形方法によってスキン層を包含するソリッド部を形成させるには、第3型の縁部の少なくとも窓部の近傍が、キャビティを構成する型面の一部(以下この部分をキャビティ構成縁部と称する)をなすようにすれば良い。つまり、型開閉方向視で、コアの輪郭を第1型の彫込みの輪郭よりも小さくしておけば良い。
【0007】
このようにすると、コアバックによって、型開閉方向視でコアに対応する箇所では型開閉方向の容積拡大がなされるが、キャビティ構成縁部に対応する箇所(コアの外側)では型開閉方向の容積拡大がなされない。したがってキャビティ構成縁部に対応する部分にソリッド部が形成されるのである。例えば特許文献3には、コアの周囲に設けられた複数のスライドコア(型開閉方向に垂直な方向にスライドする型)を組み合わせて額縁状の第3型を構成し、スキン層を包含するソリッド部を形成させるものが示されている(但し同特許文献では、スキン層を包含するソリッド部全体をスキン層と称し、厚いスキン層を形成させるとしている)。
【特許文献1】特開2002−219726号公報
【特許文献2】特開2003−39517号公報
【特許文献3】特開平8−90599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記表皮材積層成形を行うにあたり、額縁状の第3型を用いたコアバック成形を併用することは一応可能である。しかしその場合、条件によっては次のような問題点が生じる。
【0009】
それは、特に少なくとも第2型側(コア側)に表皮材を積層させる場合に生じる問題であって、以下図10を参照して説明するように、表皮材に弛みによる皺が発生するというものである。
【0010】
図10は、表皮材積層成形に、額縁状の第3型を用いたコアバック成形を併用した場合の射出成形装置100による従来技術の成形工程を示す図である。(a)は型締め工程途中における型タッチ状態、(b)は型締め工程が完了した状態、(c)は発泡工程におけるコアバックが完了した状態をそれぞれ示す図である。但し(c)において、説明の都合上、発泡性樹脂の図示は省略している。
【0011】
図10(a)に示すように、射出成形装置100は、凹状彫込み132を有する第1型130と、凸状のコア142を有する第2型140と、縁部151によってコア142の外周と略同形の窓部152が形成された額縁状の第3型150とを、彫込み132とコア142とを対向させるとともに、型締めによってコア142が窓部152に挿通されるように配設されている。この射出成形装置100は第2型140が固定型であり、第1型130および第3型150が可動型である。第2型140には発泡性樹脂をキャビティ35内に注入する射出部160の先端ノズルが接続されている。
【0012】
まず最初の工程として、図略の表皮材セット工程が設けられている。表皮材セット工程では、型開状態において、第1型130側に、彫込み132の形状に沿って表皮材16がセットされ、第2型140側に、型開閉方向(図の左右方向)に垂直な第3型150の表皮材保持面155に沿って縁部151から窓部152に亘って表皮材12がセットされる。
【0013】
表皮材セット工程に続く型締め工程では、まず第3型150の表皮材保持面155がコア142の先端面と面一の状態を保持したまま、第1型130が第2型140に接近させられる。そして第1型130が表皮材12および表皮材16を介して第3型150に接触した状態が図10(a)に示す型タッチ状態である。型タッチ時点で、第1型130、第2型140および第3型150による閉空間、すなわちキャビティ35が形成される。
【0014】
型タッチ後、第1型130および第3型150は、一体となって第2型140方向に移動する。これによって、相対的にコア142がキャビティ35内に入り込む。その際、表皮材12の窓部152にかかる部分(表皮材内側部12a)も、相対的にコア142の先端に押されて表皮材保持面155よりもキャビティ35側に押入される。
【0015】
図10(b)に示す型締め完了時点では、コア142が相対的に最も深くキャビティ35内に入り込んでいる。このときのキャビティ35内にある表皮材12の実面積は、型開閉方向の投影面積(型締め前の面積)よりも大きくなっている。表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとの間に段差が生じ、その段差を繋ぐ斜面状の斜面部12cが形成されるからである。この面積増大は、例えば表皮材12の伸びや、外側(表皮材外側部12b)からの引き込み等によってなされる。
【0016】
型締めが完了すると、次の注入工程で、射出部160によってキャビティ35内に発泡性樹脂が注入(射出)される。さらにその直後の発泡工程では、第1型130と第3型150とを一体にして第2型140から離反させるコアバックを行いつつ発泡を行わせる。このコアバックによってキャビティ35の容積が拡大するので、発泡が促進され、高発泡率の成形品を得ることができる。
【0017】
図10(c)は、第3型150の表皮材保持面155がコア142の先端面と面一となる位置までコアバックさせた状態を示している。この図に示すように、コアバックさせると面積の増大した表皮材12が弛んだ状態となる。図では説明のために表皮材12が弛み、弛み部12dが形成されているように示しているが、実際には図示しない発泡性樹脂の充填圧や発泡作用により、表皮材12は外側に押圧され、コア142や縁部151に密着する。そしてその状態で発泡が完了し、表皮材12と一体化した成形品が得られる。このとき、表皮材12の面積増大分が皺となって成形品の表面に現れる。この皺は外観上好ましくない。
【0018】
上記皺を防止するためには、例えば表皮材セット工程において、予め表皮材12を表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに分離しておき、それぞれコア142と表皮材保持面155とに別々にセットするような方法が考えられる。しかし、それでは表皮材12のセット性が悪化し、作業が煩雑になったり、装置が複雑化したりするという新たな問題が発生する。
【0019】
本発明は、かかる事情に鑑み、額縁状の型を用いたコアバック成形を併用する表皮材積層成形において、表皮材のセット性を良好に維持しつつ、コアバックに起因する表皮材の皺発生を容易に抑制することができる成形方法および成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、凹状彫込みを有する第1型と、凸状コアを有する第2型と、縁部によって上記コアの外周と略同形の窓部が形成された額縁状の第3型とを、上記彫込みと上記コアとを対向させるとともに、型締めによって上記コアが上記窓部に挿通されるように配設し、上記第1型と上記第2型との相対移動方向である型開閉方向に略垂直な上記第3型の表皮材保持面に沿って、上記縁部から上記窓部に亘って表皮材を保持し、上記第1型、上記第2型および上記第3型を型締めしてキャビティを形成させつつ、上記窓部にかかる表皮材を、上記コアの前面で上記表皮材保持面よりも上記キャビティ内側に押入し、形成された上記キャビティ内に発泡性樹脂を注入し、上記第1型と上記第2型とを離反させることによってキャビティ容積を拡大させるコアバックを行いつつ、そのキャビティ内で上記発泡性樹脂を発泡させる表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記型締めの開始時点以降かつ上記コアバックの開始時点以前に、上記表皮材の上記キャビティ内側に押入された部分と上記表皮材保持面に沿って保持された部分とを自動的に切離させることを特徴とする。
【0021】
なお、コアバックにおける型移動は、第1型と第2型とを相対的に離反させるものであって、コアバックという呼称に拘らず、実際に移動させる型は第1型であっても第2型であっても、その両方であっても良い。
【0022】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記縁部の少なくとも上記窓部の近傍が、上記キャビティを構成する型面の一部をなすキャビティ構成縁部であり、型開閉方向視で上記キャビティ構成縁部に対応する発泡性樹脂の発泡率が、上記コアに対応する発泡性樹脂の発泡率よりも低いことを特徴とする。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記表皮材の自動切離は上記型締め中に行われるものであって、上記表皮材が上記表皮材保持面と上記窓部との境界に接した状態で保持され、上記コアの前面が上記窓部を通過する際に、上記境界に接した箇所に作用する剪断力によって上記表皮材が自動的に切離されるものであることを特徴とする。
【0024】
請求項4に係る発明は、請求項2記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記表皮材の自動切離は上記発泡性樹脂の注入中に行われるものであって、上記型締めの完了時点で、上記表皮材に、上記表皮材保持面に沿って保持された部分と上記キャビティ内側に押入された部分との間の段差を斜面状に繋ぐ斜面部が形成されており、上記発泡性樹脂が注入される際の充填圧によって、上記表皮材が上記斜面部で自動的に切離されるものであることを特徴とする。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記コアバックにおける上記第1型と上記第2型との離反量は、上記型締め時における、上記コアの前面の上記表皮材保持面から上記キャビティ側への進入量と略等しいことを特徴とする。
【0026】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記表皮材には切離ラインが設定され、その切離ラインに沿って予め脆弱部が形成されていることを特徴とする。
【0027】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記発泡性樹脂には、予め補強繊維が含有されていることを特徴とする。
【0028】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、上記発泡性樹脂には、予め超臨界流体が含有されていることを特徴とする。
【0029】
なお、超臨界流体とは、二酸化炭素(CO)や窒素(N)等を所定の臨界温度以上かつ臨界圧力以上の臨界状態とした公知の流体である。
【0030】
請求項9に係る発明は、凹状彫込みを有する第1型と、上記彫込みに対向する凸状コアを有する第2型と、上記コアの外周形状と略同形であって上記コアが挿通される窓部が、縁部によって形成された額縁状の第3型と、少なくとも上記第1型と上記第2型とを、上記第3型を挟んで型開閉方向に相対移動させる型移動手段と、上記型開閉方向に略垂直な上記第3型の表皮材保持面に沿って上記縁部から上記窓部に亘って表皮材を保持する表皮保持手段と、キャビティ内に発泡性樹脂を注入する注入手段とを備え、上記型移動手段が、上記第1型、上記第2型および表皮材が保持された上記第3型を型締めしてキャビティを形成させつつ、上記窓部にかかる表皮材を、上記コアの前面で上記表皮材保持面よりも上記キャビティ内側に押入し、その後に上記注入手段が上記キャビティ内に発泡性樹脂を注入し、さらにその後の発泡時に上記型移動手段が、上記第1型と上記第2型とを離反させることによってキャビティ容積を拡大させるコアバックを行う表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記型締めの開始時点以降かつ上記コアバックの開始時点以前に、上記表皮材の上記キャビティ内側に押入された部分と上記表皮材保持面に沿って保持された部分とを自動的に切離させるように構成されていることを特徴とする。
【0031】
請求項10に係る発明は、請求項9記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記縁部の少なくとも上記窓部の近傍が、上記キャビティを構成する型面の一部をなすキャビティ構成縁部であり、型開閉方向視で上記キャビティ構成縁部に対応する発泡性樹脂の発泡率が、上記コアに対応する発泡性樹脂の発泡率よりも低いことを特徴とする。
【0032】
請求項11に係る発明は、請求項9または10記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記表皮材の自動切離は上記型締め中に行われるものであって、上記表皮材が上記表皮材保持面と上記窓部との境界部に接した状態で保持され、上記コアの前面が上記窓部を通過する際に、上記境界部に作用する剪断力によって上記表皮材が自動的に切離されるものであることを特徴とする。
【0033】
請求項12に係る発明は、請求項10記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記表皮材の自動切離は上記発泡性樹脂の注入中に行われるものであって、上記型締めの完了時点で、上記表皮材に、上記表皮材保持面に沿って保持された部分と上記キャビティ内側に押入された部分との間の段差を斜面状に繋ぐ斜面部が形成されており、上記発泡性樹脂が注入される際の充填圧によって、上記表皮材が上記斜面部で自動的に切離されるものであることを特徴とする。
【0034】
請求項13に係る発明は、請求項9乃至12の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記コアバックにおける上記第1型と上記第2型との離反量は、上記型締め時における、上記コアの前面の上記表皮材保持面から上記キャビティ側への進入量と略等しいことを特徴とする。
【0035】
請求項14に係る発明は、請求項9乃至13の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記発泡性樹脂には、予め補強繊維が含有されていることを特徴とする。
【0036】
請求項15に係る発明は、請求項9乃至14の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、上記発泡性樹脂には、予め超臨界流体が含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
請求項1の発明によると、以下に述べるように、額縁状の型を用いたコアバック成形を併用する表皮材積層成形において、表皮材のセット性を良好に維持しつつ、コアバックに起因する表皮材の皺発生を容易に抑制することができる。
【0038】
本発明の構成によれば、型締め開始時点以降かつコアバック開始時点以前に、表皮材の彫込み側に押入された部分と表皮材保持面に沿って保持された部分とを自動的に切離させる。つまりコアバックを行うときには表皮材が既に切離されているので、キャビティ内側に押入された表皮材がコアバックによって弛むことがない。したがって、その弛みによる皺の発生が効果的に抑制される。
【0039】
一方、表皮材を型部にセットする際には、第3型の表皮材保持面に沿って縁部から窓部に亘って未切離の表皮材を保持させるだけで良い。つまり一度のセット作業で済むので表皮材のセット性を良好に維持することができる。
【0040】
請求項2の発明によると、以下に述べるように、スキン層における成形性の悪化や全体剛性の低下が効果的に抑制される。
【0041】
本発明の構成によれば、コアバックによって、型開閉方向視でコアに対応する箇所では型開閉方向の容積拡大がなされるが、キャビティ構成縁部に対応する箇所では当該容積拡大がなされない。したがって、そのキャビティ構成縁部に対応する箇所に低発泡率のソリッド部が形成される。そこで、スキン層がそのソリッド部に含まれるようにする(キャビティ構成縁部の幅をスキン層の厚さよりも大きくする)ことにより、本来低発泡率であるスキン層で強制的な容積拡大がなされることに起因する上記成形性の悪化や全体剛性の低下が効果的に抑制されるのである。
【0042】
請求項3または請求項4の発明によると、表皮材を切離するための別途カッターやカッターの駆動手段、或いはその制御手段等を必要とせず、簡単な構成でありながら剪断力(請求項3)や充填圧(請求項4)を利用して自動的に表皮材を切離することができる。
【0043】
請求項5の発明によると、型締め時に第1型の彫込み側に押入された表皮材が、発泡時に第3型の表皮材保持面まで戻される。つまり押入された表皮材が、押入されなかった表皮材と再び同一面を形成するように戻されるので、成形品の表面に切離による表皮材の不連続部が生じない。特に第3型にキャビティ構成縁部がある場合(請求項2参照)に、縁部とコアとの境界部に対応する成形品表面に表皮材の連続面を形成することができる。
【0044】
請求項6の発明によると、表皮材が切離ラインに沿った脆弱部で切離され易くなるので、切離位置精度を高めることが出来る。
【0045】
請求項7の発明によると、補強繊維によって成形品の剛性を向上することができる。特に、補強繊維としてガラスファイバー、カーボンファイバー、ナノファイバー等を選択した場合には、発泡時に補強繊維が型開閉方向に立ち上がるスプリングバック現象が有効となる。スプリングバック現象により、発泡をより促進しつつ、剛性等の成形品物性を高めることができる。その他の補強繊維として、線状或いは粒状の充填材や天然繊維等を選択しても良い。
【0046】
請求項8の発明によると、より微細かつ均一な発泡セル構造を形成し、剛性等の成形品物性を向上することができる。密度が液体に近く、流動性が気体の状態であるという性質を有する超臨界流体が、発泡時に溶融樹脂の中を活発に移動し、分子の奥深くまで拡散するからである。
【0047】
請求項9乃至15の発明によると、それぞれ上記請求項1、2、3、4、5、7及び8に対応する効果を奏する表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0049】
図1は本発明の第1実施形態によって得られるトランクマット10の使用形態を示す斜視図である。トランクマット10は、自動車のトランクルーム5内において、トランク床部6に覆設される薄板状の敷物である。トランクマット10は、略矩形の輪郭を有する薄板状に成形された発泡性樹脂と、その表面に積層された不織布等からなる表皮材とが一体に成形された表皮材積層発泡樹脂成形品8(以下成形品8と略称する)を主要部とする。
【0050】
図2は、成形品8を製造するための射出成形装置1(本発明にかかる表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置の一実施形態)の、型構造を中心とする概略装置構成図である。
【0051】
射出成形装置1の型部20は、第1型30、第2型40、第3型50からなる。第2型40が固定型、第1型30及び第3型50が移動型である。第1型30には、成形品8の輪郭形状と略同形の輪郭形状を有する彫込み32が形成されている。その彫込み深さは成形品8の最終板厚(16mm。好適範囲としては12〜24mm)に略等しい。
【0052】
一方第2型40には、彫込み32に嵌入可能な凸状のコア42が形成されている。コア42の輪郭形状は、略一定の幅をもって彫込み32の輪郭形状よりも小さくされている。第1型30と第2型40とは、彫込み32とコア42とが対向するように配置されている。
【0053】
なお説明の都合上、型部20において、第2型40のコア42の突出方向を前方、その反対側を後方とする。
【0054】
第3型50は、第1型30と第2型40との間に配設された額縁状の型である。すなわち第3型50の中央部には前後に貫通する窓部52が形成され、その窓部52を取り囲むように縁部51が構成されている。窓部52の輪郭形状はコア42の輪郭形状と略同形であって、僅かな隙間(クリアランス)をもってコア42を前後方向に挿通可能となっている。
【0055】
縁部51のうち、特に窓部52を取り囲む所定幅の部分がキャビティ構成縁部53となっている。キャビティ構成縁部53の第1型30に対向する面は、コア42の前面とともに、型締めによって形成されるキャビティの後方面を構成する(図4(c)参照)。
【0056】
縁部51の四隅付近には、後方に突出する4本のロッド54が設けられている。一方、第2型40には各ロッド54を摺動可能に挿通する4個のロッド挿通孔44が設けられている。第3型50は、ロッド54のロッド挿通孔44に対する摺動動作にガイドされて型移動する。
【0057】
そして、第1型30および第3型50を前後(型開閉方向)に移動させる型移動手段80が設けられている。型移動手段80は、第1型30を移動させる第1型移動手段82と、第3型50を移動させる第3型移動手段84とによって、第1型30および第3型50をそれぞれ独立して移動させる。図2には第1型移動手段82および第3型移動手段84を模式的にブロック体で示しているが、これらは、具体的には油圧機構やモータ駆動機構等の公知の機構からなる。
【0058】
さらに、型締め工程および型開工程において第1型30および第3型50に所定の移動動作を行わせるために、型移動手段80の動作を制御する型・射出制御部70が設けられている。型・射出制御部70は、後述する射出部60の発泡性樹脂射出動作も制御する。
【0059】
第2型40の後方には、射出部60(注入手段)が接続されている。射出部60は、発泡性樹脂を溶融させつつスクリューによって前方に送り、射出し、キャビティ内に発泡性樹脂を注入する公知の機構である。射出部60から射出された発泡性樹脂が、コア42を前後に貫通する注入通路48を通ってキャビティ内に導かれるように構成されている。
【0060】
当実施形態では発泡性樹脂を発泡させる手段として化学発泡剤を用いるが、射出成形装置1は、超臨界流体(詳細については後述する)を用いることも選択し得るように構成されている。そのため射出部60には、超臨界流体を貯溜するガスタンク75と、ガスタンク75内の超臨界流体を適宜射出部60に供給するように制御する超臨界流体制御部72とが接続されている。
【0061】
図2に示すように、型部20には表皮材12および表皮材16が保持されるように構成されている。すなわち、第1型30には表皮材16が、第3型50には表皮材12が、型締め前の表皮材セット工程において取付けられ、保持される(図3(a)参照)。
【0062】
縁部51の、第1型30に対向して型開閉方向に垂直な面、すなわち前面は表皮材保持面55となっている。表皮材12は、この表皮材保持面55に沿って、縁部51から窓部52に亘って平面状に取付けられ、保持される。表皮材保持面55には前方に突出する適宜数のピン56(表皮材保持手段)が設けられており、このピン56で表皮材12を刺衝することにより当該表皮材12が保持(仮止め)される。なお、第2型40のコア42の前面外周近傍にもピン56と同様に前方に突出するピン46が適宜数配設されている。
【0063】
表皮材12の、表皮材保持面55に保持された状態における窓部52と縁部51との境界に対応する位置に、脆弱部14が設けられている。脆弱部14は、周囲よりも低強度であったり、応力集中が起こり易かったりする部位であり、具体的にはミシン目を設ける等して形成される。脆弱部14は、予め設けられた切離ラインに沿って設けられている。当実施形態における切離ラインは、窓部52の輪郭形状に沿ったものである。
【0064】
後述するように、表皮材12はコアバック開始時点以前に脆弱部14で切断され、表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに切離されるように構成されている。また、表皮材12の、セット状態において第2型40の注入通路48の開口部に対応する位置には、射出された発泡性樹脂をキャビティ内に導くための孔15が設けられている。
【0065】
表皮材12,16の材質としては、成形品8の表側になる方(表皮材12または表皮材16の何れか一方)が不織布300g/mにポリエチレン(PE)100g/mのバッキングを設けたものとし、成形品8の裏側になる方(表皮材12または表皮材16の他方)が不織布200g/mとするのが好適である。
【0066】
その他の表皮材12,16の材質として、通気性シートや通気性フィルム等が好適である。
【0067】
なお当実施形態で用いられる発泡性樹脂としては、汎用ポリプロピレン(PP)が用いられる。詳しくは、ベース、希釈ともにホモPPとするか、ベースをホモPPとし、希釈をブロックPPとしたものが好適である。
【0068】
また発泡性樹脂には、補強繊維として、ガラスファイバー(長繊維)が20%混合される。ガラスファイバーに代えて、カーボンファイバー、ナノファイバー、繊維状や粒状の充填材、或いは天然繊維等を用いても良い。
【0069】
その他、着色用にカラーマスターバッチが3%混合される。
【0070】
化学発泡剤は予め射出部60において発泡性樹脂と混合され、その量は発泡性樹脂の6%とされる(好適範囲は4〜8%)。
【0071】
次に、成形品8の成形工程について説明する。図3は、成形品8を成形するための工程サイクルを示す図であって、(a)は表皮材セット工程完了状態、(b)は型締め工程中の型タッチ状態、(c)は型締め工程完了状態、(d)は注入工程中の状態、(e)は発泡性樹脂工程のコアバック完了状態、(f)は型開工程の成形品取出し状態をそれぞれ示す。各状態間に示す白抜き矢印は工程の順序を示すものである。
【0072】
また図4は図3に示す工程の一部を拡大して示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。
【0073】
図3(a)に示す表皮材セット工程では、型開状態において、第1型30に、彫込み32の凹形状に沿って表皮材16がセットされ、密着するように保持される。そのために例えば図略の真空吸引装置等を用いて表皮材16と彫込み32との間を真空吸引するように構成しても良い。
【0074】
一方、第3型50の表皮材保持面55に沿って、縁部51から窓部52に亘って表皮材12がセットされる。表皮材12は表皮材保持面55から突設されたピン56に刺衝され、保持されている。図示のように表皮材保持面55とコア42との前面とを面一にした場合には、表皮材16はコア42の前面から突設されたピン46にも刺衝され、保持される(コア42の前面を表皮材保持面55より相対的に後退させておき、ピン46が後の型締め工程中に表皮材12を刺衝するようにしても良い)。
【0075】
続く型締め工程では、まず第1型30が後方に移動し、表皮材12,16を介して第3型50と接触して型タッチ状態となる(図3(b),図4(a))。この時点で、第1型30の彫込み32と、第3型50のキャビティ構成縁部53と、第2型40のコア42前面とに囲まれた閉空間であるキャビティ35が形成される。キャビティ35を構成する各型面は、表皮材12または表皮材16で覆われている。
【0076】
型タッチ後、第1型30および第3型50は、一体となってさらに第2型40方向に移動する。これによって、相対的にコア42がキャビティ35内に入り込む。したがって、表皮材12の、表皮材保持面55と窓部52との境界に接した箇所には剪断力が作用する。この剪断力が作用する箇所には脆弱部14(図1参照)が設けられているので、表皮材12が脆弱部14に沿って表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに自動的に切離される。予め脆弱部14を設けておくことにより、脆弱部14付近に作用する剪断応力が脆弱部14に集中し、脆弱部14で切離され易くなる。すなわち脆弱部14が設けられた切離ラインでの切離位置精度が高められる。
【0077】
そして、表皮材内側部12aがコア42の前面から突設されたピン46に保持されてキャビティ35内に入り込み、表皮材外側部12bは表皮材保持面55に沿って保持される状態を維持する(図3(c),図4(b))。
【0078】
このとき、キャビティ35内の表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとを合わせた合計の実面積は、型開閉方向の投影面積と等しくなっている。つまり表皮材12を表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに切離することにより、従来の方法に見られる図10(b)に示す斜面部12cが形成されないようになっている。
【0079】
コア42が最もキャビティ35内に入り込んだ図4(b)の状態で、コア42の前面と第1型30の彫込み底面との距離(基本板厚)は、最終板厚16mmに対して4mmである。なお基本板厚の好適範囲は、最終板厚12〜24mmに対して3〜6mmである。
【0080】
続く注入工程で、射出部60から発泡性樹脂92が射出され、キャビティ35内に注入される(図3(d))。発泡性樹脂92の注入量は、キャビティ35の容積と同量である。発泡することを見込んで、キャビティ35の容積よりも注入量を少なくするショートショットを行っても良い。ショートショットの好適値は0〜8%である。
【0081】
注入工程後、直ちにコアバックを伴う発泡工程が行われる(図3(e),図4(c))。コアバック時の第1型30と第2型40との離反量は、型締め工程におけるコア42の表皮材保持面55からキャビティ35への進入量と等しい。つまりコアバック後はコア42の前面が表皮材保持面55と再び面一になる。それに伴って、いったん切離された表皮材内側部12aと表皮材外側部12b(図4(b))とが再び同一面を形成する表皮材12となる(図4(c))。このとき、表皮材12の実面積と型開閉方向視の投影面積との差がないので、図10(c)に示すような弛み部12dが発生しない。したがって、成形品8において、表皮材12に皺が発生するのを効果的に抑制することができる。
【0082】
また、表皮材12が連続面となるので、その切離箇所に段差による不連続面が生じることがなく、良好な外観を得ることができる。
【0083】
コアバックを行うことによりキャビティ35の容積が拡大するので、発泡が促進され、高発泡率の樹脂成形体90を得ることができる。樹脂成形体90の発泡率は均一ではなく、部位によって異なっている。すなわち、型開閉方向視でコア42に対応する箇所では大きな容積拡大がなされるので、比較的発泡率の高い高発泡率部96(図4(c)では模式的に○印群で示す)が形成されるのに対し、型表面に近い箇所や、型開閉方向視でキャビティ構成縁部53に対応する箇所には比較的発泡率の低いソリッド部94が形成される(図4(c)では模式的にクロスハッチングで示す)。キャビティ構成縁部53を設けることによって、第1型30の型面付近に形成される低発泡率のスキン層をソリッド部94に包含させている。これによって、本来低発泡率であるスキン層で強制的な容積拡大がなさることに起因する成形性の悪化や全体剛性の低下が効果的に抑制される。
【0084】
また、特に高発泡率部96において、発泡性樹脂92中に含まれるガラスファイバーにスプリングバック現象が起こる。スプリングバック現象とは、発泡性樹脂92の充填時にはガラスファイバーの軸線が溶解樹脂の流動方向(当実施形態では型開閉方向に略垂直な方向)に揃っているが、コアバックによる発泡を行わせることにより、ガラスファイバーが型開閉方向に立ち上がる現象である。スプリングバック現象により、発泡をより促進しつつ、剛性等の成形品物性を高めることができる。ガラスファイバー以外に、カーボンファイバー、ナノファイバー等を選択した場合にも、このスプリングバック現象による効果を得ることができる。
【0085】
発泡・成形が完了して所定の冷却がなされた後、型開工程(図3(f))において第1型30が第2型40および第3型50と離反する。そして樹脂成形体90の表面に表皮材12,16が積層された成形品8が取り出される。
【0086】
その後、再び表皮材セット工程(図3(a))に移行し、上記サイクルが繰り返される。
【0087】
以上のような工程サイクルによって、コアバック時に表皮材12の弛みがなく、その弛みに起因する皺のない外観良好な成形品8を得ることができる。特に、型締め工程において表皮材12を切離するようにしているので、表皮材セット工程では表皮材保持面55に沿って縁部51から窓部52に亘って未切離の表皮材12を保持させるだけで良い。つまり一度のセット作業で済むので表皮材のセット性を良好に維持することができる。
【0088】
しかも、型締め工程においてコア42が窓部52を通過する際の剪断力によって表皮材12を切離するようにしているので、表皮材12を切離するための別途カッターやカッターの駆動手段、或いはその制御手段等を用いることなく、簡単な構成で自動切離を実現することができる。
【0089】
図5は、本発明の第2実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。当実施形態は第1実施形態に対し、型形状のみ異なり、その他の構成は同一である。なお、図5以降の図において、図1〜図4と同一または同一機能の部材には同一の符号を付し、その重複説明を省略する。
【0090】
当実施形態は、コア42aおよび窓部52aの輪郭が彫込み32の輪郭と略同形である点が第1実施形態と異なっている。つまり縁部51aに、第1実施形態におけるキャビティ構成縁部53に相当する部分がない。そのため、図5(c)に示すようにソリッド部94が薄くなるので、スキン層の影響があまり問題にならない場合に適用するのが良い。ソリッド部94が薄くなる分、樹脂成形体90に占める高発泡率部96の割合が高くなるので、全体の発泡率を高めることができるという利点がある。
【0091】
図6は、本発明の第3実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(c)、(d)、(e)に対応する部分拡大図である。当実施形態は型構造を含めて第1実施形態と同一構造であるが、表皮材12の切離形態が異なっている。すなわち、表皮材12の自動切離が注入工程で行われるように構成されている。
【0092】
図6(a)に示す型締め工程完了時点ではまだ表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとの切離がなされず、これらの間の段差を斜面状に繋ぐ斜面部12cが形成されている。したがって、この時点での表皮材12の実面積は、型開閉方向の投影面積よりも増大している。
【0093】
そして、続く注入工程でキャビティ35に発泡性樹脂92が注入される。その際の充填圧によって、キャビティ35の内圧が上昇し、斜面部12cを外側に押圧する。その押圧力によって表皮材12が脆弱部14(図1参照)に沿って自動的に切離される。この切離によって、斜面部12cは縁部51に密着し、余剰分(面積増大分に相当する)はコア42の側面部に密着する(図6(b))。表皮材12の切離によってキャビティ35の容積が拡大し、その拡大したキャビティ35内に発泡性樹脂92が充満する。
【0094】
続く発泡工程でコアバックがなされるが、この時点で既に表皮材12の切離が完了しているので、コアバックによって表皮材12に弛みが生じない。発泡後の状態(図6(c))では、斜面部12cの面積増大分が樹脂成形体90の内部に埋没するので、表面に皺となって表われることがない。また、斜面部12cの切離端が樹脂成形体90の内部に隠れるので、より良い外観を得ることができる。
【0095】
なお、以上のような工程を円滑に行うためには、脆弱部14の強度を、コア42が窓部52を通過する際の剪断力では切離せず、発泡性樹脂92の充填圧によって切離する程度に調整しておけば良い。
【0096】
当実施形態においても第1実施形態と同様に、表皮材セット工程における良好なセット性を得ることができ、また表皮材12を切離するための別途カッターやカッターの駆動手段、或いはその制御手段等を用いることなく、簡単な構成で自動切離を実現することができる。
【0097】
図7は、本発明の第4実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。当実施形態は第1実施形態に対し、表皮材12のセット位置が異なる。
【0098】
当実施形態では、第3型50bに立設されるピン56aが、第2型40側に設けられている。つまり第3型50bの表皮材保持面55bが第2型40側に形成されている。そして表皮材セット工程において、表皮材12が表皮材保持面55bに沿って保持される(図7(a))。
【0099】
そして型締め工程において、コア42が窓部52に入る際の剪断力によって表皮材12が表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに切離される(図7(b))。このようにしても第1実施形態と同様に、表皮材セット工程における良好なセット性を得ることができ、また表皮材12を切離するための別途カッターやカッターの駆動手段、或いはその制御手段等を用いることなく、簡単な構成で自動切離を実現することができる。
【0100】
なお、図7(c)に示すように、樹脂成形体90の、キャビティ構成縁部53に当面する箇所は表皮材12に覆われないことになる。この部分を表皮材12で覆うには、成形品8を取り出した後、樹脂成形体90の外側の余った表皮材16(第1型30と縁部51とで挟まれた部分)を内側に折り返し、別途接着剤等で接着すれば良い。
【0101】
図8は、本発明の第5実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。当実施形態は第1実施形態に対し、表皮材12の保持形態が異なる。
【0102】
当実施形態では、第3型50が縁部51cおよび縁部51dの2層に分割されている。そして、その間に形成された表皮材保持面55c,55dに沿って、スプリング58(表皮材保持手段)を介して表皮材12を保持するように構成されている(図8(a))。
【0103】
そして型締め工程において、コア42が窓部52dを抜けて窓部52cに入る際の剪断力によって表皮材12が表皮材内側部12aと表皮材外側部12bとに切離される(図8(b))。このようにしても第1実施形態と同様に、表皮材セット工程における良好なセット性を得ることができ、また表皮材12を切離するための別途カッターやカッターの駆動手段、或いはその制御手段等を用いることなく、簡単な構成で自動切離を実現することができる。
【0104】
当実施形態では、表皮材12が表裏両面から位置規制された状態で剪断力が作用するので、より良好な切離を行い易いという利点がある。
【0105】
図9は、本発明の第6実施形態を示す図であり、(a)、(b)はそれぞれ図3の(b)、(c)に対応する拡大図である。但し第1型30側の構成は第1実施形態と同様なので省略している。当実施形態は第1実施形態に対し、第3型50eの構造が異なる。
【0106】
当実施形態では、第3型50eは、第2型40を箱状に取り囲むように構成されている。そして第2型40の後面と第3型50eの内面とがロッド54aで連結されている。ロッド54aの長さを変動させることにより、第2型40と第3型50eとを相対移動させ、表皮材保持面55eからのコア42の突出量を変動させることができる。
【0107】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、発泡性樹脂92を発泡させる手段として、化学発泡剤に代えて、或いは付加して超臨界流体を用いても良い。超臨界流体とは、所定の臨界温度以上かつ臨界圧力以上の超臨界状態とした公知の流体である。当実施形態で用いる超臨界流体の種類は、不活性ガス、好ましくは二酸化炭素(CO)や窒素(N)が好適である。超臨界流体は、液体に近い密度でありながら気体の流動性を有する。COの臨界温度は31℃、臨界圧力は7.4MPaである。またNの臨界温度は−147℃、臨界圧力は3.4MPaである。
【0108】
発泡性樹脂に予め超臨界流体を混合する場合には、図2に示すガスタンク75に超臨界流体を貯溜しておき、超臨界流体制御部72を介して射出部60に超臨界流体を送り込むようにすれば良い。
【0109】
発泡性樹脂92に超臨界流体を混合すると、発泡時に溶融樹脂の中を活発に移動し、分子の奥深くまで拡散するので、より微細かつ均一な発泡セル構造を形成し、樹脂成形体90の剛性等の物性を向上することができる。
【0110】
また、上記実施形態では第2型40を固定型とし、第1型30および第3型50を可動型としたが、これに限定するものではなく、例えば第1型30を固定型とし、第2型40および第3型50を可動型としても良い。また、射出部60を第1型30側に設け、射出部60から射出された発泡性樹脂92が第1型30の内部を通ってキャビティ35に注入されるように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の第1実施形態によって得られるトランクマットの使用形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すトランクマットの主要構成部材である表皮材積層発泡樹脂成形品を製造するための射出成形装置の、型構造を中心とする概略装置構成図である。
【図3】表皮材積層発泡樹脂成形品を成形するための工程サイクルを示す図であって、(a)は表皮材セット工程完了状態、(b)は型締め工程中の型タッチ状態、(c)は型締め工程完了状態、(d)は注入工程中の状態、(e)は発泡性樹脂工程のコアバック完了状態、(f)は型開工程の成形品取出し状態をそれぞれ示す。
【図4】図3に示す工程の一部を拡大して示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。
【図6】本発明の第3実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(c)、(d)、(e)に対応する部分拡大図である。
【図7】本発明の第4実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。
【図8】本発明の第5実施形態を示す図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の(b)、(c)、(e)に対応する部分拡大図である。
【図9】本発明の第6実施形態を示す図であり、(a)、(b)はそれぞれ図3の(b)、(c)に対応する拡大図である。
【図10】表皮材積層成形に額縁状の型を用いたコアバック成形を併用した場合の射出成形装置による従来技術の成形工程を示す図であって(a)は型締め工程途中における型タッチ状態、(b)は型締め工程が完了した状態、(c)は発泡工程におけるコアバックが完了した状態をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0112】
1 射出成形装置(表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置)
8 表皮材積層発泡樹脂成形品
12 表皮材
12a 表皮材内側部(表皮材切離後に、キャビティ内側に押入される部分)
12b 表皮材外側部(表皮材切離後に、表皮材保持面に沿って保持される部分)
12c 斜面部
14 脆弱部
30 第1型
32 彫込み
35 キャビティ
40 第2型
42 コア
50,50a,50b,50c,50e 第3型
51,51a,51b,51c,51d,51e 縁部
52,52a,52c,52d 窓部
53 キャビティ構成縁部
55,55a,55b,55e 表皮材保持面
56,56a ピン(表皮材保持手段)
58 スプリング(表皮材保持手段)
60 射出部(注入手段)
80 型移動手段
92 発泡性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状彫込みを有する第1型と、凸状コアを有する第2型と、縁部によって上記コアの外周と略同形の窓部が形成された額縁状の第3型とを、上記彫込みと上記コアとを対向させるとともに、型締めによって上記コアが上記窓部に挿通されるように配設し、
上記第1型と上記第2型との相対移動方向である型開閉方向に略垂直な上記第3型の表皮材保持面に沿って、上記縁部から上記窓部に亘って表皮材を保持し、
上記第1型、上記第2型および上記第3型を型締めしてキャビティを形成させつつ、上記窓部にかかる表皮材を、上記コアの前面で上記表皮材保持面よりも上記キャビティ内側に押入し、
形成された上記キャビティ内に発泡性樹脂を注入し、
上記第1型と上記第2型とを離反させることによってキャビティ容積を拡大させるコアバックを行いつつ、そのキャビティ内で上記発泡性樹脂を発泡させる表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法において、
上記型締めの開始時点以降かつ上記コアバックの開始時点以前に、上記表皮材の上記キャビティ内側に押入された部分と上記表皮材保持面に沿って保持された部分とを自動的に切離させることを特徴とする表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
上記縁部の少なくとも上記窓部の近傍が、上記キャビティを構成する型面の一部をなすキャビティ構成縁部であり、
型開閉方向視で上記キャビティ構成縁部に対応する発泡性樹脂の発泡率が、上記コアに対応する発泡性樹脂の発泡率よりも低いことを特徴とする請求項1記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
上記表皮材の自動切離は上記型締め中に行われるものであって、
上記表皮材が上記表皮材保持面と上記窓部との境界に接した状態で保持され、上記コアの前面が上記窓部を通過する際に、上記境界に接した箇所に作用する剪断力によって上記表皮材が自動的に切離されるものであることを特徴とする請求項1または2記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
上記表皮材の自動切離は上記発泡性樹脂の注入中に行われるものであって、
上記型締めの完了時点で、上記表皮材に、上記表皮材保持面に沿って保持された部分と上記キャビティ内側に押入された部分との間の段差を斜面状に繋ぐ斜面部が形成されており、
上記発泡性樹脂が注入される際の充填圧によって、上記表皮材が上記斜面部で自動的に切離されるものであることを特徴とする請求項2記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
上記コアバックにおける上記第1型と上記第2型との離反量は、上記型締め時における、上記コアの前面の上記表皮材保持面から上記キャビティ側への進入量と略等しいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
上記表皮材には切離ラインが設定され、その切離ラインに沿って予め脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項7】
上記発泡性樹脂には、予め補強繊維が含有されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項8】
上記発泡性樹脂には、予め超臨界流体が含有されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項9】
凹状彫込みを有する第1型と、
上記彫込みに対向する凸状コアを有する第2型と、
上記コアの外周形状と略同形であって上記コアが挿通される窓部が、縁部によって形成された額縁状の第3型と、
少なくとも上記第1型と上記第2型とを、上記第3型を挟んで型開閉方向に相対移動させる型移動手段と、
上記型開閉方向に略垂直な上記第3型の表皮材保持面に沿って上記縁部から上記窓部に亘って表皮材を保持する表皮保持手段と、
キャビティ内に発泡性樹脂を注入する注入手段とを備え、
上記型移動手段が、上記第1型、上記第2型および表皮材が保持された上記第3型を型締めしてキャビティを形成させつつ、上記窓部にかかる表皮材を、上記コアの前面で上記表皮材保持面よりも上記キャビティ内側に押入し、その後に上記注入手段が上記キャビティ内に発泡性樹脂を注入し、さらにその後の発泡時に上記型移動手段が、上記第1型と上記第2型とを離反させることによってキャビティ容積を拡大させるコアバックを行う表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置において、
上記型締めの開始時点以降かつ上記コアバックの開始時点以前に、上記表皮材の上記キャビティ内側に押入された部分と上記表皮材保持面に沿って保持された部分とを自動的に切離させるように構成されていることを特徴とする表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項10】
上記縁部の少なくとも上記窓部の近傍が、上記キャビティを構成する型面の一部をなすキャビティ構成縁部であり、
型開閉方向視で上記キャビティ構成縁部に対応する発泡性樹脂の発泡率が、上記コアに対応する発泡性樹脂の発泡率よりも低いことを特徴とする請求項9記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項11】
上記表皮材の自動切離は上記型締め中に行われるものであって、
上記表皮材が上記表皮材保持面と上記窓部との境界部に接した状態で保持され、上記コアの前面が上記窓部を通過する際に、上記境界部に作用する剪断力によって上記表皮材が自動的に切離されるものであることを特徴とする請求項9または10記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項12】
上記表皮材の自動切離は上記発泡性樹脂の注入中に行われるものであって、
上記型締めの完了時点で、上記表皮材に、上記表皮材保持面に沿って保持された部分と上記キャビティ内側に押入された部分との間の段差を斜面状に繋ぐ斜面部が形成されており、
上記発泡性樹脂が注入される際の充填圧によって、上記表皮材が上記斜面部で自動的に切離されるものであることを特徴とする請求項10記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項13】
上記コアバックにおける上記第1型と上記第2型との離反量は、上記型締め時における、上記コアの前面の上記表皮材保持面から上記キャビティ側への進入量と略等しいことを特徴とする請求項9乃至12の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項14】
上記発泡性樹脂には、予め補強繊維が含有されていることを特徴とする請求項9乃至13の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項15】
上記発泡性樹脂には、予め超臨界流体が含有されていることを特徴とする請求項9乃至14の何れか1項に記載の表皮材積層発泡樹脂成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−160736(P2007−160736A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360524(P2005−360524)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】