説明

表面形状測定装置

【課題】被検物の表面形状測定中に発生する触針子の接触異常を迅速かつ的確に検知することができる表面形状測定装置を提供する。
【解決手段】触針子2を被検物13に接触させた状態で相対的に水平走査させて、前記被検物13の表面形状を測定する表面形状測定装置1であって、所定時間内の前記触針子2の変位量の変動に相当する周波数を求める演算部と、前記周波数の相対的時間変化量に基づいて、前記触針子2と前記被検物13の接触状態を判定する判定部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学関連素子等の表面形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズや金型等の光学関連素子の表面形状評価を行う装置として、触針子を光学関連素子等の被検物の面上に追従させる接触走査式の測定方法を採用した表面形状測定装置が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。以下、図7を参照して、本装置の測定原理について説明する。
【0003】
触針子101を先端に有する触針軸102は、静圧軸受103により滑らかに摺動可能な状態で保持されている。触針軸102の摺動する距離は変位計104によって測定可能であり、静圧軸受103及び変位計104は平板部材105上に載置され、触針ユニットとして構成されている。
【0004】
角度調整部材106の後部をY軸正方向に上昇させると、触針ユニット全体が水平方向に対して傾斜した状態となる。このとき、触針軸102は静圧軸受103によって滑らかに摺動可能に保持されているので、自らの重力により傾斜方向(Z軸負方向)へ進もうとする力が作用する。この結果、触針子101は前方に位置する被検物107に向かって摺動し、その表面に接触する。
【0005】
触針子101が被検物107に接触している状態で、駆動機構108により被検物107をX軸方向に走査すると、被検物107の形状に沿って触針子101が追従し、これに従って触針軸102が変位する。変位する触針軸102の位置座標を変位計104により、また、走査される被検物107の位置座標を変位計109により時系列的に取得することで被検物107の形状が得られる。本装置においては、触針子101を被検物107の表面に接触させる力(以下、測定力と称する。)を発生させるために、バネによる弾性力やエアによる圧力によらず、触針軸102自身の重力を利用する自重傾斜方式が採用されている。本装置によれば、例えば5mgfといった非常に小さな測定力を得ることが可能であり、かつ角度調整部材106により容易に測定力を調整することができる。
【特許文献1】特表2005−502876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本装置においては、触針軸102と静圧軸受103の間隙が数μm程度と非常に狭くなっていること、測定力を重力のみに頼っていること等の理由から、埃や微粒子といった異物が上記間隙に混入したり、上記間隙内で結露を生じたりした場合に、触針軸102が静圧軸受103内で滑らかに摺動せず、被検物107の表面を正確に追従しなくなることがある。さらに、異物の混入や結露の程度と状態によっては、摺動が停止してしまうこともあり得る。
【0007】
測定中にこのような状態が発生すると、得られる測定データは被検物の形状を反映せず、無意味なものとなってしまう。また、測定中にこのような状態の発生に気づいたとしても、再測定が必要となるため、余計な時間がかかる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、被検物の表面形状測定中に発生する触針子の接触異常(測定中であるにもかかわらず被検物に接触していない状態等)を迅速かつ的確に検知することができる表面形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面形状測定装置は、触針子を被検物に接触させた状態で相対的に水平走査させて、前記被検物の表面形状を測定する表面形状測定装置であって、所定時間内の前記触針子の変位量の変動に相当する周波数を求める演算部と、前記周波数の相対的時間変化量に基づいて、前記触針子と前記被検物の接触状態を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の表面形状測定装置によれば、被検物の表面形状測定中に、触針子と被検物の接触状態を判定することが可能であり、触針子が被検物表面上を追従していない等の異常状態の発生を迅速に検知することができる。
【0011】
前記演算部は、フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて、前記周波数を求めてもよい。この場合、測定中における触針子の変位量の変動を適切に周波数に変換することができる。
【0012】
前記判定部は、前記演算部によって求められた前記周波数の時間推移を観測し、前記周波数の前記相対的時間変化量の不連続点の有無を検出することによって前記接触状態を判別してもよい。この場合、周波数の変化を精度よく検知することができる。
【0013】
前記判定部は、前記演算部によって求められた前記周波数を観測し、前記周波数の値と、前記触針子と前記被検物との相対位置関係とを関連付けた所定の表に基づいて、前記接触状態を判別してもよい。この場合、表によって的確に触針子の状態を判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被検物の表面形状測定中に発生する触針子の接触異常を、迅速かつ的確に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態について、図1から図4を参照して説明する。なお、特に説明のない限り、「前方」および「後方」とは、それぞれZ軸の負方向及び正方向を指すものとする。本実施形態の表面形状測定装置1は、触針子2と、Y軸駆動機構3と、X軸駆動機構4と、コンピュータ5とを備えて構成されている。
【0016】
触針子2は静圧軸受6を貫通した状態で静圧軸受6内を滑らかに摺動可能に配置され、静圧軸受6は触針子2を前方に向けてベース平板8上に固定される。
Y軸駆動機構3は、モータ等の公知の機構からなり、基台11上に固定される。Y軸駆動機構3の上部後方には、静圧軸受6の傾斜角度を調整する傾斜角度調整機構9が設けられ、傾斜角度調整機構9の前方には、静圧軸受6が傾斜角度調整機構9によって傾斜する際の支点となる支柱10が設けられる。傾斜角度調整機構9は、例えばY軸方向に伸縮可能なアクチュエータで構成されるが、これに代えて上述の特許文献1に記載されているような、ねじと角度調整部材とを用いて構成された機構を用いてもよい。またY軸駆動機構3の後方には、触針子2のY軸方向位置を検出する変位計12が設けられる。
傾斜角度調整機構9および支柱10の上にはベース平板8が載置されている。したがって、静圧軸受6および触針子2は、Y軸駆動機構3によってY軸方向(図1における上下方向)に移動可能に構成されている。
【0017】
X軸駆動機構4は、例えばモータや圧電アクチュエータ等で構成され、基台11上であってY軸駆動機構3の前方に設けられる。X軸駆動機構4の上には、レンズ、金型又は光学素子等の被検物13を支持固定する保持部材14が設けられる。保持部材14に支持固定された被検物13は、X軸駆動機構4によってX軸方向(図1における紙面に垂直な方向)に移動可能に構成されている。X軸駆動機構4の前方には、被検物13のX軸方向の変位を検出する変位計15が設けられる。
【0018】
図2はコンピュータ5の構成を示すブロック図である。コンピュータは、制御部16と、演算部17と、判定部18とを備えて構成されている。制御部16は、Y軸駆動機構3およびX軸駆動機構4と接続されており、表面形状測定装置1全体の動作制御を行う。演算部17および判定部18は、被検物13の形状測定及び後述する触針子2の状態判定を行う。各変位計7、12および15は、制御部16に接続されており、それぞれの検出値が制御部16に入力される。
【0019】
上記の構成を備えた表面形状測定装置1の動作について、以下に説明する。
まず、被検物13を、形状測定を行う面が触針子2に対向するように、保持部材14に支持固定する。次に、傾斜角度調整機構9を操作して、ベース平板8の後部を上方に移動させると、ベース平板8は支柱10を支点として傾斜する。静圧軸受6で保持された触針子2は、自身の重力によって、静圧軸受6内を滑らかに摺動し、その先端は前方に向かって移動し、被検物13の表面に接触して停止する。
【0020】
この状態で、制御部16によってX軸駆動機構4とY軸駆動機構3とを駆動し、被検物13と触針子2を相対的に動かすことにより、被検物13の表面を触針子2によって走査させる。各変位計7、12及び15の検出値は制御部16に入力され、演算部17によって解析、再構成が行われ、被検物13の表面形状が測定される。このとき、並行して変位計7の検出値を解析することにより、被検物13と触針子2との接触状態および触針子2の異常の有無の判定が行われる。
【0021】
上記接触状態等の判定について、図3および図4を参照して説明する。図3はコンピュータ5内で行われる接触状態等判定のフローチャートである。
【0022】
まず、ステップS1において、制御部16が、測定が完了したかどうかを判定する。判定結果が「YES」の場合は一連の処理を終了し、判定結果が「NO」の場合はステップS2に進む。
ステップS2において、制御部16が変位計7の出力値Zを所定のサンプリング周波数で取得し、点群データとして蓄積する。サンプリング周波数は例えば1MHzに設定されるが、これに限らず、他の周波数でもよい。
【0023】
次にステップS3において、ステップS2で例えば0.1秒間に蓄積した点群データに対し、図4に示すように、演算部17がフーリエ変換を行う。
【0024】
ステップS4において、演算部17は変換後に得られるパワースペクトルから1次ピーク周波数ftを求めて判定部18に送信し、被検物13の表面形状測定中、ftの監視を継続する。
【0025】
ステップS5において、判定部18は、取得した周波数ftの値とその直前のタイミングで取得した周波数ft−1の値との差が所定範囲内の量であるかどうかを判定する。この判定結果が「YES」の場合は、処理はステップS1に戻り、ftの監視が継続される。判定結果が「NO」の場合、周波数ftの変化量が所定範囲を超えており、周波数ftの変化が不連続であると判定する。このとき、触針子2と被検物13との接触状態あるいは触針子2自体に何らかの変化が発生している可能性があるので、判定部18は、当該判定結果を制御部16に送信する。
【0026】
ステップS6において、制御部16は、異常発生を知らせる或いは触針子2の状態の確認を促す旨を、図示しないディスプレイに表示したり、図示しないスピーカーから音声として出力する等の処理を行い、装置の操作者に告知を行って、一連の処理を終了する。
【0027】
本実施形態の表面形状測定装置1によれば、測定中の周波数ftの値の変化について継続的に監視するので、測定中に触針子2が被検物13の表面から離れた場合や、触針子2自体が破損した場合など、何らかの変化が触針子2に生じたことを自動的に検知することができる。よって、これらの問題に対して、測定を一旦中止して再測定を行うなど、迅速かつ柔軟に対応することができる。
【0028】
次に、本発明の第2の実施形態について図5および図6を参照しながら説明する。本実施形態と上述の第1実施形態の異なる点は、被検物13と触針子2との接触状態及び触針子2の異常の有無の判定を、あらかじめ設定した表を参照することによって行う点である。
本実施形態の表面形状測定装置は、コンピュータ5に代えて、図5に示すコンピュータ25を備えている。コンピュータ25は判定部18に代えて、判定部28を備えている。コンピュータ25以外の構成要素は第1実施形態と同一である。
【0029】
以下、本実施形態の表面形状測定装置の動作を、図6を参照して説明する。図6は、本実施形態における、被検物13と触針子2との接触状態および触針子2の異常の有無の判定のフローチャートである。
【0030】
まずステップS1からステップS4において、第1実施形態と同様の手順で周波数ftの値を算出し、判定部18に送信する。
【0031】
ステップS15において、ステップS4で得られたftに対応する状態を識別するため、判定部28があらかじめ用意された表1を参照して、触針子2の状態を判定する。
【0032】
【表1】

【0033】
表1にはある時間tにおける周波数ftの帯域と、それに対応する触針子2と被検物13との接触状態あるいは触針子2自体の状態と、この状態に対応する戻り値dtとが格納されている。例えばftが所定の値f1未満である場合は、触針子2と被検物13とが接触状態にあること(接触)を示す戻り値d1が判定部28に返される。同様に、触針子2が何ものにも接触していない状態(非接触)と判定されたときは戻り値d2が判定部28に返され、触針子2先端の破損もしくは異物が付着した状態(異常)と判定されたときは戻り値d3が判定部28に返される。
【0034】
ステップS16において、戻り値としてd2およびd3のいずれかが返されたかどうかを判定部28が判定する。判定結果が「NO」の場合は、処理はステップS1に戻り、ftの監視が継続される。判定結果が「YES」の場合、触針子2と被検物13との接触状態あるいは触針子2自体に何らかの変化が発生している可能性があるので、判定部28は当該判定結果を制御部16に送信する。
【0035】
ステップS17において、制御部16は、戻り値に応じて、異常発生を知らせるあるいは触針子2の状態の確認を促す旨を、図示しないディスプレイに表示したり、図示しないスピーカーから音声として出力する等の処理を行い、装置の操作者に告知を行って、一連の処理を終了する。
【0036】
本実施形態の表面形状測定装置によれば、表1を参照することによって、触針子2の状態を周波数ftの値に応じて具体的に識別するため、測定中何らかの変化が触針子2に生じたことに加えて、具体的な状態まで自動的に検知することができる。したがって、操作者はより迅速かつ適切に、触針子2のトラブルに対応することができる。
【0037】
さらに、検知された各状態に応じた処置を自動的に施すように装置全体を構成および制御すれば、異常の検知のみならず、トラブル処理まで自動的に行う表面形状測定装置とすることも可能である。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば上述した各実施形態においては、変位計7の出力値Zに対して、フーリエ変換を行っているが、これに代えて、ウェーブレット変換等の他の変換を行ってから判定処理を行ってもよい。また、上述の第2実施形態においては、触針子2の状態が「接触」、「非接触」、「異常」の3つに分類されているが、これに限らず、周波数ftの帯域によってユーザがさらに細かく定義した状態およびパラメータを格納した表を判定部28に参照させることによって、より詳細な状態検知を自動的に行うようにすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は光学関連素子等の表面形状測定装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態の表面形状測定装置の左側面図である。
【図2】同実施形態におけるコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態における触針子状態判定のフローチャートである。
【図4】同実施形態の変位計の出力値とフーリエ変換後のパワースペクトルを示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の表面形状測定装置におけるコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図6】同実施形態における触針子状態判定のフローチャートである。
【図7】従来の表面形状測定装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…表面形状測定装置、2…触針子、13…被検物、17…演算部、18、28…判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触針子を被検物に接触させ、相対的に水平走査させて前記被検物の表面形状を測定する表面形状測定装置であって、
所定時間内の前記触針子の変位量の変動に相当する周波数を求める演算部と、
前記周波数の相対的時間変化量に基づいて、前記触針子と前記被検物の接触状態を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする表面形状測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて、前記周波数を求めることを特徴とする請求項1に記載の表面形状測定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記演算部によって求められた前記周波数の時間推移を観測し、前記周波数の前記相対的時間変化量の不連続点の有無を検出することによって前記接触状態を判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面形状測定装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記演算部によって求められた前記周波数を観測し、前記周波数の値と、前記触針子と前記被検物との相対位置関係とを関連付けた所定の表に基づいて、前記接触状態を判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164558(P2008−164558A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62(P2007−62)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】