説明

被膜形成物および被膜形成物の製造方法

【課題】被膜形成物および被膜形成物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含む化合物被膜を、成膜室に配置された基板の表面に形成することにより、被膜形成物を製造する方法であって、前記第1元素を含む第1ガスおよび前記第2元素を含む第2ガスから選択された1以上のガスを前記成膜室に供給し、前記1以上の元素を含む粒子を、前記ガスの中を通過させて前記基板に照射する段階と、前記成膜室における前記第1ガスと前記第2ガスの分圧比を変化させる段階と、を備えた被膜形成物の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成物および被膜形成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素を不純物として含む酸化亜鉛は、p型の伝導型を持ち、且つ可視光に対して透明性を有することが知られている。特許文献1には、真空容器において、アルゴン等の不活性ガス中に酸素及び窒素を含有させた混合ガスを導入しながら、亜鉛ターゲットをスパッタして、当該真空容器内に設置された基板上に窒素をドープした酸化亜鉛膜を成膜する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−144053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパッタをはじめとする物理的気相成長の方法において、酸素と窒素を反応ガスとして供給しながら、基板上に亜鉛を供給する従来の反応性成膜では、実用的に十分な量の窒素原子を不純物として酸化亜鉛に含ませることが困難であった。その理由として、酸化亜鉛における窒素の固溶限界が小さいことが考えられる。また、酸素と窒素が同時に存在する雰囲気において、亜鉛が酸素と優先的に結合を作りやすく、窒素とは結合しにくい理由も挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含む化合物被膜を、成膜室に配置された基板の表面に形成することにより、被膜形成物を製造する方法であって、前記第1元素を含む第1ガスおよび前記第2元素を含む第2ガスから選択された1以上のガスを前記成膜室に供給し、前記1以上の元素を含む粒子を、前記ガスの中を通過させて前記基板に照射する段階と、前記成膜室における前記第1ガスと前記第2ガスの分圧比を変化させる段階と、を備えた被膜形成物の製造方法が提供される。
【0006】
前記第1ガスを供給し、前記第2ガスを供給しない第1状態と、前記第2ガスを供給し、前記第1ガスを供給しない第2状態と、を切り替えることで、前記分圧比を変化させてよい。前記第1状態と前記第2状態との切り替えを繰り返してよい。前記第1元素が酸素であり、前記第2元素が窒素であって、前記化合物被膜の形成を、前記第1状態から開始してよい。
【0007】
前記化合物被膜をフィルタードアークイオンプレーティング法により形成してよい。前記化合物被膜の形成中に、前記基板に、直流または交流のバイアス電圧を印加してよい。前記1以上の元素は、亜鉛、シリコン、チタンおよびアルミニウムから選択された1以上の元素であり、前記第1元素は酸素であり、前記第2元素は窒素であってよい。
【0008】
本発明の第2の態様においては、基板と、前記基板の上に形成され、金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素、第1元素および第2元素を含む化合物被膜と、を備え、前記化合物被膜の厚さ方向において、前記第2元素に対する前記第1元素のモル比が、変化している被膜形成物が提供される。
【0009】
前記化合物被膜の前記基板との界面における前記モル比は、前記化合物被膜の膜中における前記モル比の平均値より大きくてよい。前記モル比は、前記化合物被膜の厚さ方向において、周期的に変化してよい。前記1以上の元素は、亜鉛、シリコン、チタンおよびアルミニウムから選択された1以上の元素であり、前記第1元素は酸素であり、前記第2元素は窒素であってよい。
【0010】
前記金属は亜鉛であり、前記窒素を、1×1021[cm−3]以上の濃度で含有してよい。前記金属は亜鉛であり、前記窒素を、固溶限界濃度以上の濃度で含有してよい。前記基板は、多結晶または非晶質の材料からなってよい。前記基板は、樹脂からなってよい。
【0011】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】被膜形成物100の断面の一例を概略的に示す。
【図2】成膜装置200の構成を概略的に示す。
【図3】被膜形成物の製造方法の一例を表すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、一の実施態様である被膜形成物100の断面の一例を概略的に示す。被膜形成物100は、基板102と、化合物被膜104とを備える。
【0015】
基板102は、その表面が化合物被膜104の形成に適する基板であってよい。基板102は、その上に形成される化合物被膜104の支持基板として十分な機械的強度を有する基板であってよい。基板102は、例えば、石英基板、アルミナ基板、SiC基板、シリコン基板、GaAs基板、金属基板、または樹脂基板等であってよい。
【0016】
基板102は、単結晶、多結晶または非晶質の材料であってよい。例えば、基板102に形成する化合物被膜104が酸化亜鉛である場合に、酸化亜鉛は、非晶質基板上においても、容易に基板表面に対して垂直方向に六方晶のc軸が配向した膜成長をするので、基板102として、多結晶または非晶質材料を使用してもよい。また、後述の化合物被膜の製造方法において、電磁気フィルタにより選別され、揃ったエネルギーを持つイオンによって成膜するので、多結晶または非晶質の基板の上でも、結晶性のよい化合物被膜104が形成できる。
【0017】
化合物被膜104は、基板102の表面に接して形成されてよい。化合物被膜104は、金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含んでよい。上記金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素は、亜鉛、シリコン、チタンおよびアルミニウムから選択された1以上の元素であってよい。上記第1元素は酸素であってよい。上記第2元素は窒素であってよい。上記金属元素は亜鉛であってよい。化合物被膜104は、窒素を含む酸化亜鉛であってよい。
【0018】
ここで、金属元素とは、化合物をつくるとき陽イオンになり易い元素をいい、長周期型元素周期表で、ほぼホウ素とアスタチンを結ぶ線より左側の元素をいう。半金属元素は、B、Si、Ge、As、Sb、Te、Po等である。
【0019】
化合物被膜104は、酸窒化チタンであってよい。酸窒化チタンは、可視光応答の光触媒として利用できる。化合物被膜104は、酸窒化アルミニウムであってよい。酸窒化アルミニウムは、高輝度の青色蛍光体として利用できる。化合物被膜104は、サイアロン(Si−AlN−Al)であってよい。サイアロンは、導電性セラミックスまたは蛍光体として利用できる。化合物被膜104は、酸窒化ガリウムであってよい。酸窒化ガリウムは、青色発光ダイオードとして利用できる。
【0020】
化合物被膜104は、窒素を1×1021[cm−3]以上の濃度で含有してよい。化合物被膜104は、窒素を、固溶限界濃度以上の濃度で含有してよい。化合物被膜104は、窒素を、1×1022[cm−3]以下の濃度で含有してよい。
【0021】
化合物被膜104が、厚さ方向において、均一な組成分布を有することは、好ましい。化合物被膜104は、厚さ方向において、第2元素に対する第1元素のモル比が、変化してもよい。例えば、上記モル比は、化合物被膜104の厚さ方向において、周期的に変化してよい。このようなモル比の変化、特に周期的な変化は、後述の製造方法によって形成できる。化合物被膜104が酸化亜鉛である場合に、このような構造により、固溶限界濃度より多く窒素を含ませることができる。
【0022】
化合物被膜104の基板102との界面における上記モル比は、化合物被膜104の膜中における上記モル比の平均値より大きくてよい。このような元素の分布は、後述の製造方法において、成膜の最初段階に、第1元素を含む第1ガスを反応ガスとして導入することによって形成できる。このような構成をとることにより、成膜の初期段階に形成した第1元素および上記金属または半金属元素からなる化合物の結晶構造を、化合物被膜104の結晶全体に持たせることができる。
【0023】
図2は、被膜形成物100を製造する成膜装置200の構成を概略的に示す。成膜装置200は、成膜室202と、基板ホルダー204と、電圧源208と、カソード212と、ターゲット214と、トリガー216と、電磁気フィルタ218と、バルブ222と、マスフローコントローラ224と、バルブ226と、ガス容器228と、バルブ232と、マスフローコントローラ234と、バルブ236と、ガス容器238と、ロータリーポンプ242と、バルブ244と、ターボー分子ポンプ246と、バルブ248と、バルブ252と、リークバルブ254と、リークバルブ256とを備える。
【0024】
成膜室202は、基板102に化合物被膜104を成膜する真空容器である。成膜室202には、図示されないロードロックチャンバーが接続されてよい。成膜前後における基板の出し入りが、ロードロック方式によって行ってよい。ロードロック方式を採用することにより、成膜室202は、通常真空状態に保たれており、薄膜中に意図しない不純物が混入する可能性を極力排することができる。
【0025】
基板ホルダー204は、成膜過程において基板102を保持する。基板102は、化合物被膜104を成長させる基板面を下向きにして基板ホルダー204に設置されてよい。基板ホルダー204は、成膜過程において、基板ホルダー204の中心を鉛直に通るZ軸を回転軸として回転してよい。この回転により、基板102の表面に均一な化合物被膜104が生成できる。基板ホルダー204は、基板加熱機構を備えてよい。当該基板加熱機構は、基板102を加熱して、基板102に形成される化合物被膜104を構成する原子の熱拡散を促進して、化合物被膜104の均一性を向上できる。
【0026】
電圧源208は、基板102にバイアス電圧を印加してよい。図2には、電圧源208として、直流電圧源を示しているが、電圧源208は、交流電圧源であってもよい。バイアス電圧の値は、逆スパッタを誘発しない0から−200V程度の範囲で印加することが好ましい。基板にバイアス電圧を印加することにより、基板に入射する粒子のうち、イオンのエネルギーを制御して、入射イオンが成長中の化合物被膜104の表面から内部への拡散、および入射イオンからエネルギーを受ける化合物被膜104に含まれる原子の拡散を促進して、化合物被膜104の結晶性および均一性を向上できる。例えば、化合物被膜104が酸化亜鉛である場合に、窒素を添加することにより酸化亜鉛の結晶性が低下するが、基板にバイアス電圧を印加することにより、窒素添加による結晶性の低下を補償できる。
【0027】
カソード212は、成膜室202の下部に設置される。化合物被膜104の金属または半金属元素の供給源となるターゲット214は、カソード212に固定される。トリガー216は、ターゲット214の横に備えられる。電磁気フィルタ218は、成膜室202とカソード212との間に設けられる。
【0028】
成膜のとき、トリガー216をターゲット214表面に接触させた状態で電流を印加し、ついでトリガー216をターゲット214から引き離すことにより、ターゲット214とトリガー216との間にアーク放電を生じさせる。アーク放電により、ターゲット214から、ターゲット金属または半金属のイオン、中性原子、クラスター、マクロパーティクルなど、様々な状態の粒子217が生成される。これらの粒子を基板102に供給することにより、化合物被膜104を形成することができる。しかし、粒子217は、それぞれ様々なエネルギーを持つ。均一で高品位な化合物被膜104を得るためには、エネルギーのそろったイオンを用いて成膜することが望ましい。
【0029】
電磁気フィルタ218は、磁気強度を変更することにより、ターゲット214からアーク放電によりたたき出された粒子217のうち、一定のエネルギーを持つイオンだけを通過させることができる。電磁気フィルタ218によって選別されたイオンは、揃ったエネルギーを持つ。電磁気フィルタ218を通過して、揃ったエネルギーを持つイオンを用いて成膜することにより、結晶の配向成長が促進される。形成される化合物被膜104は、均一で、結晶粒が大きく、キャリア移動度が大きい。
【0030】
バルブ222、マスフローコントローラ224、バルブ226およびガス容器228は、反応性ガスとなる酸化ガスの供給系統を構成する。酸化ガスは、第1ガスの一例であってよい。酸化ガス流量は、マスフローコントローラ224によって、0から200sccmの範囲で、任意に制御できる。マスフローコントローラ224は、制御信号に従って、酸化ガスの流量を時間的に変調することができる。図2には、酸化ガスとして酸素を示すが、酸化ガスは、酸素原子を含む分子からなる他の反応性ガスであってもよい。例えば、酸化ガスとして、O、O、HOが例示できる。
【0031】
バルブ232、マスフローコントローラ234、バルブ236およびガス容器238は、反応性ガスとなる窒化ガスの供給系統を構成する。窒化ガスは、第2ガスの一例であってよい。窒化ガス流量は、マスフローコントローラ234によって、0から200sccmの範囲で、任意に制御できる。マスフローコントローラ234は、制御信号に従って、窒化ガスの流量を時間的に変調することができる。図2には、窒化ガスとして窒素を示すが、窒化ガスは、窒素原子を含む分子からなる他の反応性ガスであってもよい。例えば、窒化ガスとして、N、NHが例示できる。
【0032】
成膜時に、成膜室202に導入された酸化ガスと窒化ガスは、アークプラズマにより解離し、酸素もしくは窒素の原子、イオン、ラジカルなど反応性の強い状態で存在する。これらは酸化源および窒化源となる。ターゲット214から供給される金属または半金属は、基板102に到達するまでに、酸化もしくは窒化され、基板上に化合物として合成される。
【0033】
ロータリーポンプ242、バルブ244、ターボー分子ポンプ246、バルブ248、バルブ252、リークバルブ254およびリークバルブ256は、成膜室202の真空度を制御する真空系統を構成する。真空引きの初期段階では、バルブ252を開き、ロータリーポンプ242を用いて真空に引くが、所定の真空度になってから、バルブ252を閉め、バルブ244とバルブ248を開き、ターボー分子ポンプ246を用いて、引き続き真空に引く。上記の真空系統により、成膜のとき、成膜室202の真空度を所定の範囲に制御できる。
【0034】
図3は、被膜形成物100の製造方法の一例を表すフローチャートを示す。被膜形成物100の製造方法は、準備作業を行う段階S310と、成膜装置の真空引きを行う段階S320と、基板を成膜装置に設置する段階S330と、アーク放電を生じさせる段階S340と、第1ガスを供給する段階S350と、第1ガスを停止すると同時に第2ガスの供給を開始する段階S360と、第2ガスを停止すると同時に第1ガスの供給を開始する段階S370と、アーク放電およびガスの導入を停止する段階S380と、基板を取り出す段階S390とを備える。
【0035】
準備作業を行う段階S310において、ターゲット214をカソード212に設置する。同じターゲットを金属または半金属元素の供給源として、繰り返し被膜形成物100を製造する場合には、ターゲット214を一回設置してから、それが完全に消耗されるまで、後続の製造プロセスにおいて、この段階S310は省略できる。
【0036】
成膜装置の真空引きを行う段階S320において、成膜室202を真空に引く。バルブ252を開き、ロータリーポンプ242を用いて真空に引くが、所定の真空度になってから、バルブ252を閉め、バルブ244とバルブ248を開き、ターボー分子ポンプ246を用いて、引き続き真空に引く。上記の真空系統により、成膜室202の真空度を所定の範囲に制御する。ロードロック方式によって、繰り返し被膜形成物100を製造する場合には、上記真空系統により、成膜室202の真空度が維持される。
【0037】
基板を成膜装置に設置する段階S330において、基板102を基板ホルダー204に設置する。ロードロック方式を利用すれば、成膜室202の真空度を維持しながら、基板102の出し入りができる。基板ホルダー204を回転させよい。電圧源208によって、基板102にバイアス電圧を印加してよい。
【0038】
基板102について、基板ホルダー204に備える基板加熱機構によって加熱してもよく、非加熱でもよい。本製造方法では、電磁気フィルタにより選別され、揃ったエネルギーを持つイオンによって成膜するので、基板102を加熱しなくても、結晶質のよい化合物被膜104が形成できる。そこで、本製造方法において、基板102として、熱に弱い樹脂基板も使用できる。
【0039】
アーク放電を生じさせる段階S340において、トリガー216をターゲット214表面に接触させた状態で電流を印加し、ついでトリガー216をターゲット214から引き離すことにより、ターゲット214とトリガー216との間にアーク放電を生じさせる。アーク放電により生成したターゲット元素粒子217のうち、電磁気フィルタ218により選別されたイオンが、基板102に到達して、化合物被膜104の形成に寄与する。
【0040】
第1ガスを供給する段階S350において、酸化ガスを導入する。バルブ222とバルブ226とを開き、マスフローコントローラ224によって流量を制御しながら、ガス容器228から酸化ガス導入する。この段階は、段階S340の放電開始と同期して始めてよい。酸化ガスを導入することにより、基板102に金属または半金属の酸化物の薄膜が形成される。
【0041】
第1ガスを停止すると同時に第2ガスの供給を開始する段階S360において、酸化ガスの供給を停止して、窒化ガスを導入する。バルブ222を閉めて、酸化ガスを停止すると同時に、バルブ232とバルブ236とを開き、マスフローコントローラ234によって流量を制御しながら、ガス容器238から窒化ガスを導入する。この段階によって、成膜室202における酸化ガスと窒化ガスの分圧比を変化させることができる。窒化ガスを導入することにより、段階S350において形成された金属または半金属の酸化物の薄膜の上に、金属または半金属の窒化物の薄膜が形成される。
【0042】
第2ガスを停止すると同時に第1ガスの供給を開始する段階S370において、窒化ガスの供給を停止して、酸化ガスを導入する。バルブ232を閉めて、窒化ガスを停止すると同時に、バルブ222を開き、マスフローコントローラ224によって流量を制御しながら、再びガス容器228から酸化ガスを導入する。この段階によって、成膜室202における酸化ガスと窒化ガスの分圧比を変化させることができる。酸化ガスを導入することにより、段階S360において形成された金属または半金属の窒化物の薄膜の上に、更に金属または半金属の酸化物の薄膜が形成される。
【0043】
段階S360と段階S370とを繰り返して、金属または半金属の酸化物と金属または半金属の窒化物が積層する化合物被膜104を形成できる。各段階における反応ガスの流量および導入時間により、積層構造の各層の厚さを制御することができる。
【0044】
前述の通り、成膜室202に導入された酸化ガスもしくは窒化ガスは、アークプラズマにより解離し、酸素もしくは窒素の原子、イオン、ラジカルなど反応性の強い状態で存在する。酸化ガスと窒化ガスが同時に導入されると、それぞれのガスが単独に導入される場合に比して、成膜速度が非常に遅くなる。それは、解離した酸素および窒素が、金属または半金属との反応に寄与する他に、意図しない酸素と窒素との反応も同時に起こすことにより、NOxガスが生成することに起因すると考えられる。それを防止するために、本実施態様は、酸化ガスと窒化ガスをパルス状に交互に導入することにする。それは、段階S360と段階S370とを繰り返すことにより実現する。
【0045】
段階S360および段階S370の時間を短く取ることにより、それぞれの段階において形成される薄膜を1から10nmの範囲の厚さに制御できる。この場合の金属または半金属の酸化物および金属または半金属の窒化物の薄膜は、厚さが数原子から十数原子程度しかない極めて薄い層である。段階S360と段階S370とを繰り返す場合、隣接する金属または半金属の酸化物層と金属または半金属の窒化物層との間に、金属または半金属、酸素および窒素の原子が相互に拡散して、金属または半金属の酸化物層と金属または半金属の窒化物層との明確な界面が消失しながら、化合物被膜104の成長が進行する。その結果、基板102の上に、構成元素である金属または半金属、酸素および窒素が均一に分布する化合物被膜104を形成することができる。
【0046】
段階S350、段階S360および段階S370の時間、およびそれぞれの段階におけるガス流量を制御することにより、希望の組成を有する化合物被膜104を形成することができる。上記各段階の条件を制御することにより、膜厚方向に均一な組成を持つ化合物被膜104を形成できるが、意図的に各段階の条件を変更することによって、膜厚方向に組成が変調した化合物被膜104を形成することもできる。
【0047】
生成する化合物被膜104は、金属または半金属の酸化物と金属または半金属の窒化物のうち、厚みが相対的に厚い層の影響を受けた結晶構造となる。例えば、酸化亜鉛の結晶に窒素を不純物として含む化合物被膜104を形成する場合に、ターゲット214として金属亜鉛を使用して、段階S360の時間と窒化ガスの流量に対して、段階S370の時間を長くして、酸化ガスの流量を多くする条件の下で、酸化亜鉛の薄膜と窒化亜鉛の薄膜を交互に積層すれば、窒素を含む酸化亜鉛の化合物被膜104を形成することができる。
【0048】
アーク放電およびガスの導入を停止する段階S380において、トリガー216に印加する電流を停止してアーク放電を停止する。バルブ226とバルブ222とを閉めて、酸化ガスの供給を停止する。
【0049】
基板を取り出す段階S390において、基板102に化合物被膜104が形成された被膜形成物100を成膜室202から取り出す。ロードロック方式を利用すれば、成膜室202の真空度を維持しながら、被膜形成物100を取り出すことができる。以上により、被膜形成物100の製造プロセスが終了する。連続して被膜形成物100を製造する場合には、次の基板102を成膜装置に設置する段階330から上述の製造過程を繰り返せばよい。
【0050】
本実施態様において、図2に示すフィルタードアークイオンプレーティング式成膜装置を用いた被膜形成物100の製造方法の例を説明したが、この製造方法は、フィルタードアークイオンプレーティング式の成膜方法に限定するものではない。この製造方法は、例えば、真空蒸着またはスパッタなど、その他の物理気相成長法による成膜方法においても実施できる。
【実施例】
【0051】
(実施例)
図2に示す構成を有する成膜装置200を用いて、図3に示す製造方法に従って、窒素を含む酸化亜鉛薄膜を成膜した。基板102として、合成石英ガラスウェハを使用した。ターゲット214として、99.9%の亜鉛を使用した。酸化ガスとして、酸素ガスを用いて、窒化ガスとして、窒素ガスを用いた。
【0052】
合成石英ガラスウェハを基板ホルダー204に設置して、基板ホルダー204を回転させた。電圧源208を用いて基板102に−100Vのバイアス電圧を印加した。50Aのアーク電流をトリガー216に印加して、亜鉛ターゲット214の上にアーク放電を生じさせた。放電開始と同期させて、成膜室202に酸素ガスを導入した。流量50sccmの酸素ガスを20秒導入した後、酸素ガスの供給を停止すると同時に窒素ガスの供給を開始した。窒素ガスの流量および供給時間は、それぞれ5sccmと10秒であった。その後、窒素ガスの供給を停止すると同時に再び酸素ガスの供給を開始した。
【0053】
酸素ガスを供給する段階において、流量および供給時間がそれぞれ50sccmと20秒であり、約1nmの薄膜が生成できる。窒素ガスを供給する段階において、流量および供給時間がそれぞれ5sccmと10秒であり、約0.5nmの薄膜が生成できる。二つの段階を交互に繰り返して、3600秒の後、アーク放電およびガスの導入を停止して、基板を取り出した。
【0054】
触針式段差計を用いて、生成した薄膜の厚さを測定した結果、膜厚が200nmであった。平均の成膜速度が3.3nm/minであって、高速成膜であった。二次イオン質量分析法(SIMS)により、生成した薄膜の組成を分析した結果、膜厚方向に均一に窒素が1×1021/cm含まれていた。
【0055】
(比較例)
酸素ガスおよび窒素ガスを導入する方法が上記の実施例と異なる以外、他の条件は同じである。上記の実施例のように、酸素ガスと窒素ガスをパルス状に交互に導入せず、アーク放電と同期させて、酸素ガスおよび窒素ガスを同時に導入して、3600秒の成膜をした。酸素ガスおよび窒素ガスの流量は、それぞれ50sccmと5sccmであった。
【0056】
触針式段差計を用いて、生成した薄膜の厚さを測定した結果、膜厚が40nmであった。平均の成膜速度が0.67nm/minであって、上記実施例に比して非常に低速であった。二次イオン質量分析法(SIMS)により、生成した薄膜の組成を分析した結果、膜厚方向に均一に窒素が4×1020/cm含まれていた。それは、酸化亜鉛に不純物として窒素元素を導入できた量が、上記実施例の半分以下であったことを示す。また、他の論文において、レーザーアブレーション法により酸化亜鉛膜を形成した場合に、2×1020/cmの窒素が導入された例が記載されている。この値は、上記実施例により導入した窒素含有量の5分の1である。
【0057】
上述の実施態様により、不純物元素が十分に含まれる化合物被膜が得られる。また、上述の製造方法により、高速に当該化合物被膜を形成でき、製造効率を大きく上げることができる。例えば、窒素を不純物として十分含む酸化亜鉛の薄膜を高速に形成することができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0059】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0060】
100 被膜形成物
102 基板
104 化合物被膜
200 成膜装置
202 成膜室
204 基板ホルダー
208 電圧源
212 カソード
214 ターゲット
216 トリガー
217 粒子
218 電磁気フィルタ
222 バルブ
224 マスフローコントローラ
226 バルブ
228 ガス容器
232 バルブ
234 マスフローコントローラ
236 バルブ
238 ガス容器
242 ロータリーポンプ
244 バルブ
246 ターボー分子ポンプ
248 バルブ
252 バルブ
254 リークバルブ
256 リークバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含む化合物被膜を、成膜室に配置された基板の表面に形成することにより、被膜形成物を製造する方法であって、
前記第1元素を含む第1ガスおよび前記第2元素を含む第2ガスから選択された1以上のガスを前記成膜室に供給し、前記1以上の元素を含む粒子を、前記ガスの中を通過させて前記基板に照射する段階と、
前記成膜室における前記第1ガスと前記第2ガスの分圧比を変化させる段階と、
を備えた被膜形成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1ガスを供給し、前記第2ガスを供給しない第1状態と、
前記第2ガスを供給し、前記第1ガスを供給しない第2状態と、
を切り替えることで、前記分圧比を変化させる
請求項1に記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1状態と前記第2状態との切り替えを繰り返す
請求項2に記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1元素が酸素であり、前記第2元素が窒素であって、
前記化合物被膜の形成を、前記第1状態から開始する
請求項3に記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項5】
前記化合物被膜をフィルタードアークイオンプレーティング法により形成する
請求項1から請求項4の何れかに記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項6】
前記化合物被膜の形成中に、前記基板に、直流または交流のバイアス電圧を印加する
請求項1から請求項5の何れかに記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項7】
前記1以上の元素は、亜鉛、シリコン、チタンおよびアルミニウムから選択された1以上の元素であり、
前記第1元素は酸素であり、
前記第2元素は窒素である
請求項1から請求項6の何れかに記載の被膜形成物の製造方法。
【請求項8】
基板と、
前記基板の上に形成され、金属元素および半金属元素から選択された1以上の元素、第1元素および第2元素を含む化合物被膜と、を備え、
前記化合物被膜の厚さ方向において、前記第2元素に対する前記第1元素のモル比が、変化している
被膜形成物。
【請求項9】
前記化合物被膜の前記基板との界面における前記モル比は、前記化合物被膜の膜中における前記モル比の平均値より大きい
請求項8に記載の被膜形成物。
【請求項10】
前記モル比は、前記化合物被膜の厚さ方向において、周期的に変化している
請求項8または請求項9に記載の被膜形成物。
【請求項11】
前記1以上の元素は、亜鉛、シリコン、チタンおよびアルミニウムから選択された1以上の元素であり、
前記第1元素は酸素であり、
前記第2元素は窒素である
請求項8から請求項10の何れかに記載の被膜形成物。
【請求項12】
前記金属は亜鉛であり、
前記窒素を、1×1021[cm−3]以上の濃度で含有する
請求項11に記載の被膜形成物。
【請求項13】
前記金属は亜鉛であり、
前記窒素を、固溶限界濃度以上の濃度で含有する
請求項11に記載の被膜形成物。
【請求項14】
前記基板は、多結晶または非晶質の材料からなる
請求項8から請求項13の何れかに記載の被膜形成物。
【請求項15】
前記基板は、樹脂からなる
請求項14に記載の被膜形成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−280941(P2010−280941A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134419(P2009−134419)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】