説明

被覆組成物および被覆物

【課題】優れた長期耐食性を有し、同時に、耐衝撃性、延性、硬度、耐屈曲性等の機械的特性に優れ、かつ、摺動に対する耐損傷性に優れる被膜を形成し得る被覆組成物およびそのような組成物から形成された被膜を有する被覆物を提供すること。
【解決手段】本発明の被覆組成物は、合成樹脂バインダーと、非導電性物質で表面処理された多層炭素ナノ繊維と、分散媒とを含む。好ましくは、多層炭素ナノ繊維は、その表面の少なくとも一部がグラフト化されている。好ましくは、被覆組成物は、合成樹脂バインダー100重量部に対して、多層炭素ナノ繊維を3〜15重量部、分散媒を10〜300重量部含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆組成物および被覆物に関する。より詳細には、本発明は、優れた機械的強度と耐食性とを同時に有する被膜を形成し得る被覆組成物およびそのような被膜を有する被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼等からなる機械部品や締結部材の表面に耐食性を付与し、摩擦や湿気等による劣化を防止する方法として、当該部品や部材表面への無機系塗料の塗布および亜鉛等の金属メッキが一般的によく知られている。しかし、これらの方法は、自然環境におけるまたは化学薬品に対する耐食性が不十分であるという問題がある。
【0003】
耐食性を改善する手段として、長期耐食性に優れるフッ素樹脂を被覆する方法が提案されている。フッ素樹脂は摩擦係数が小さく良好な摩擦特性を示すので摺動材への被覆に用いられ、また、締め付けトルクも低いのでボルト・ナット等の締結部材にも用いられている。しかし、フッ素樹脂被膜は軟らかく弱いので、摺動材や締結部材等に適用した場合には、金属材料等の表面に施した被覆の損傷を招きやすく、過酷な摺動(摩擦)条件下では摩耗が著しいという問題がある。
【0004】
上記フッ素樹脂被覆における問題を解決する手段として、フッ素樹脂中にフィブリル化アラミド繊維を添加する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、過酷な摩擦条件下においても耐はく離性を確保するために、フッ素樹脂を含む樹脂で構成される摺動層と、被覆材表面と摺動層との間にポリイミド樹脂および/またはポリアミドイミド樹脂とフッ素樹脂とを含む樹脂接合層とを設けた2層被覆方式が提案されている(特許文献2参照)。このような技術によれば、フッ素樹脂皮膜の耐損傷性に多少の改善は見られるものの、フッ素樹脂皮膜が損傷を受けやすいという本質的な問題はなんら解決されていない。さらに、特許文献2に記載の技術によれば、製造コストが大幅に増大するという問題も生じる。
【0005】
上記のような問題を解決するために、合成樹脂バインダー中に炭素ナノ繊維を含有する被覆剤が提案されている(特許文献3参照)。この技術によれば、耐損傷性は大幅に改善される。しかし、この被覆剤による被膜は、耐食性が不十分であるという問題がある。
【0006】
以上のように、耐損傷性のような機械的特性と耐食性とを同時に満足する被覆剤はいまだ得られていない。
【特許文献1】特開平6−122785号公報
【特許文献2】特開2002−276665号公報
【特許文献3】特開2005−28802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、優れた長期耐食性を有し、同時に、耐衝撃性、延性、硬度、耐屈曲性等の機械的特性に優れ、かつ、摺動に対する耐損傷性に優れる被膜を形成し得る被覆組成物およびそのような被膜を有する被覆物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の被覆組成物は、合成樹脂バインダーと、非導電性物質で表面処理された多層炭素ナノ繊維と、分散媒とを含む。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記多層炭素ナノ繊維の表面の少なくとも一部は、グラフト化されている。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記多層炭素ナノ繊維は、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する。別の実施形態においては、上記多層炭素ナノ繊維は、径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記被覆組成物は、上記合成樹脂バインダー100重量部に対して、上記多層炭素ナノ繊維を3〜15重量部、上記分散媒を10〜300重量部含む。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記合成樹脂バインダーは熱硬化性樹脂である。別の実施形態においては、上記合成樹脂バインダーは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂および水系フッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記分散媒は極性溶媒である。さらに好ましい実施形態においては、上記分散媒は、水、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記被覆組成物によれば、得られる被膜のヌープ硬さが20Hk以上であり、かつ、塩水噴霧試験による防錆力が200時間以上である。
【0015】
本発明の別の局面によれば、被覆物が提供される。この被覆物は、基体表面の少なくとも一部に、上記の被覆組成物による被膜が形成されている。好ましい実施形態においては、上記基体は、金属製工業部品、ボルト・ナット、軸受け、シール部品、締結フランジ、座金、ブレーキシュー、ジャッキ部品および半導体製造装置の摺動部品からなる群から選択される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表面が非導電性物質で処理された多層炭素ナノ繊維を用いることにより、機械的強度と耐食性とを同時に満足する被膜を形成し得る被覆組成物を提供することができる。すなわち、本発明によれば、いわゆるカーボンナノチューブによる被覆剤の機械的強度の改善という効果を維持しつつ、カーボンナノチューブの導電性に起因する被膜の腐食という問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の被覆組成物は、合成樹脂バインダーと、非導電性物質で表面処理された多層炭素ナノ繊維と、分散媒とを含む。
【0018】
合成樹脂バインダーとしては、目的や被覆される基体の種類に応じて任意の適切な合成樹脂が採用され得る。上記合成樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。合成樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ならびに、これらのブレンド、共重合体および変性体が挙げられる。1つの実施形態においては、好ましい合成樹脂は熱硬化性樹脂である。機械的強度(特に、硬度)に優れた被膜を形成することができるからである。1つの実施形態においては、好ましい合成樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂または水系フッ素樹脂である。炭素ナノ繊維の分散性に特に優れるからである。特に好ましい合成樹脂は、フェノール樹脂またはポリアミドイミド樹脂である。なお、合成樹脂の形態も特に限定されない。例えば、粉末であってもよく、ペレットであってもよく、合成樹脂を含む液状組成物であってもよい。
【0019】
本明細書において「多層炭素ナノ繊維」とは、単層炭素ナノ繊維以外のすべての炭素ナノ繊維を包含する。より具体的には、多層炭素ナノ繊維とは、2つ以上の炭素網層を構造中に有する炭素ナノ繊維である。多層炭素ナノ繊維は、その構造に起因して、表面に非常に多くの官能基が存在し得、および/または、表面に非常に多くの官能基を導入し得る。したがって、下記で詳述する表面処理が非常に良好に行われる。その結果、炭素ナノ繊維として被膜の機械的強度の大幅な向上に寄与し、かつ、簡便な表面処理により非導電性とされるので、従来のカーボンナノチューブの問題であった被膜の耐食性という問題を解決することができる。多層炭素ナノ繊維の形状および/またはサイズは、本発明の効果が得られる限りにおいて、適切に選択され得る。1つの実施形態においては、多層ナノ繊維の長さは、好ましくは5nm〜100μm、さらに好ましくは20nm〜10μmである。1つの実施形態においては、繊維径(直径)は、好ましくは5nm〜300nm、さらに好ましくは5nm〜250nmである。さらに、多層ナノ繊維の代表例としては、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維、および、径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する炭素ナノ繊維が挙げられる。底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の詳細は、特開2003-147644号公報に記載されている(本公報の開示は、本明細書に参考として援用される)。このような炭素ナノ繊維は、株式会社GSIクレオスから商品名カルベール(登録商標)として入手可能である。径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する炭素ナノ繊維の代表例としては、気相成長炭素繊維(VGCF)が挙げられる。気相成長炭素繊維は、例えば、昭和電工株式会社から商品名VGCF(R)として市販されている
【0020】
上記多層炭素ナノ繊維は、その表面の少なくとも一部が非導電性物質で表面処理されている。このような多層炭素ナノ繊維を用いることにより、優れた機械的強度を維持しつつ、耐食性が格段に改善された被膜を得ることができる。このような優れた効果は、表面処理された多層炭素ナノ繊維を被覆組成物に適用してはじめて得られた知見であり、予期せぬ優れた効果である。これは、適切な表面処理を行うことにより、多層炭素ナノ繊維の表面が電気的に絶縁され、その結果、被膜の導電性が抑制されて、耐食性が格段に改善されると推定される。表面処理された多層炭素ナノ繊維を用いることにより、被膜の機械的強度と耐食性とを両立させたことが、本発明の大きな成果の1つである。
【0021】
上記表面処理は、化学的表面処理であってもよく、物理的表面処理であってもよい。化学的表面処理と物理的表面処理とを組み合わせてもよい。本明細書において、「化学的表面処理」とは、化学変化により表面性状を改変する処理のことをいい、「物理的表面処理」とは、化学反応を伴うことなく表面性状を改変する処理のことをいう。上記非導電性物質としては、採用される表面処理の種類に応じて任意の適切な非導電性物質が採用され得る。
【0022】
化学的表面処理の代表例としては、グラフト化が挙げられる。グラフト化の方法としては、代表的には、「グラフト・フロム法」および「グラフト・トゥ法」が挙げられる。グラフト・フロム法は、多層炭素ナノ繊維の表面の少なくとも一部に重合開始能を有する官能基を化学的に導入し、当該官能基を起点に低分子または高分子を成長させる方法である。グラフト・トゥ法は、分子末端および/または側鎖に官能基を有する低分子または高分子物質と多層炭素ナノ繊維表面とを化学反応で結合させる方法である。グラフト・フロム法で用いる低分子または高分子の成長法(代表的には重合法)としては、任意の適切な方法が用いられる。具体例としては、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、縮合重合法、配位重合法が挙げられる。例えば、ラジカル重合法による炭素ナノ繊維のグラフト化は、特開2005-29696号公報に記載の方法に従って行うことができる。本公報の開示は、本明細書に参考として援用される。グラフト・トゥ法で用いる低分子または高分子物質の官能基としては、多層炭素ナノ繊維の表面と所望の化学反応を起こし得る任意の官能基が採用され得る。有用な官能基の具体例としては、トリメトキシシリル基が挙げられる。このような化学表面処理により多層炭素ナノ繊維表面に導入される非導電性物質としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な物質が採用され得る。具体例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。導入される非導電性物質の数、種類、分子量、分子量分布、導入量、被覆厚み等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0023】
物理的表面処理の代表例としては、混合、コーティング、界面活性剤による処理が挙げられる。界面活性剤による処理が好ましい。多層炭素ナノ繊維に適切な非導電性を付与するのみならず、多層炭素ナノ繊維の被覆組成物における分散性を改善するからである。上記界面活性剤としては、上記のような表面処理の効果が得られる限りにおいて任意の適切な界面活性剤が採用され得る。したがって、界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であってもよく、カチオン性界面活性剤であってもよく、非イオン性界面活性剤であってもよく、両性界面活性剤であってもよい。カチオン性界面活性剤が好ましい。得られる被膜の耐食性の改善が顕著だからである。界面活性剤の具体例としては、ビックケミー社製のDisperbyk-130が挙げられる。界面活性剤の使用量は、合成樹脂バインダー100重量部に対して、好ましくは2〜20重量部、さらに好ましくは2〜5重量部である。
【0024】
上記多層炭素ナノ繊維は、好ましくは、界面活性剤およびグラフト化の両方で処理される。両方の処理を行うことにより相乗的な効果が得られるので、組成物における分散性、被膜の機械的強度および耐食性がいずれもきわめて優れたものとなる。
【0025】
上記多層炭素ナノ繊維は、上記表面処理に加えて、目的に応じて任意の適切な処理に供されてもよい。そのような処理としては、例えば、多層炭素ナノ繊維の切断処理が挙げられる。切断処理の具体的手段としては、超音波を用いる方法、酸溶液を用いる方法が挙げられる。多層炭素ナノ繊維を切断処理することにより、平均アスペクト比を小さくすることができる。その結果、被覆組成物における多層炭素ナノ繊維の分散性を向上させることができる。さらに、被膜の機械的特性を適正化することができる。
【0026】
上記炭素ナノ繊維は、上記合成樹脂バインダー100重量部に対して、好ましくは3〜15重量部、さらに好ましくは4〜12重量部の割合で被覆組成物中に含有される。含有量が3重量部未満では、所望の機械的特性を有する被膜が得られない可能性がある。含有量が15重量部を超えると、防錆能力が不十分となる可能性がある。
【0027】
上記分散媒としては、上記合成樹脂および上記多層炭素ナノ繊維を適切に溶解および/または分散し均一な被覆組成物を調製し得る限りにおいて、任意の適切な液状物質が採用され得る。分散媒は、好ましくは極性溶媒である。上記炭素ナノ繊維を非常に良好に分散させることができるからである。極性溶媒の具体例としては、水、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられ得る。また、合成樹脂バインダーや多層炭素ナノ繊維の種類に応じて、極性溶媒と非極性溶媒(有機溶媒および/または無機溶媒)とを組み合わせて用いてもよいことはいうまでもない。
【0028】
分散媒の使用量は、分散媒の種類、多層炭素ナノ繊維の種類および量、被覆組成物に所望される粘度等に応じて適切に設定され得る。例えば、分散媒は、上記合成樹脂バインダー100重量部に対して、好ましくは10〜300重量部、さらに好ましくは30〜150重量部の割合で被覆組成物中に含有される。
【0029】
本発明の被覆組成物は、必要に応じて、顔料をさらに含み得る。顔料は、天然顔料、合成有機顔料または合成無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、好ましくは防錆顔料である。防錆顔料を用いることにより、さらに耐食性に優れた被膜を形成することができる。防錆顔料の具体例としては、複合酸化物系顔料、酸化クロム系顔料、有機顔料が挙げられる。顔料の使用量は目的に応じて変化し得る。例えば、顔料は、合成樹脂バインダー100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは5〜20重量部の割合で被覆組成物に含有され得る。顔料の粒径は、組成物中における分散性および凝集性等に応じて適切に設定され得るが、できるだけ微細であることが好ましい。例えば、顔料の平均粒径は4〜6μmであり、粒径分布は0.5〜10μmの範囲である。
【0030】
本発明の被覆組成物は、必要に応じて、潤滑剤をさらに含み得る。潤滑剤を用いることにより、被覆物表面の摩擦係数を制御することができる。その結果、例えば本発明の被覆組成物を摺動部材に適用した場合に、摺動によって生じる摩耗を顕著に低減することができる。潤滑剤の具体例としては、フッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン、ダイヤモンドナノ粉末が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられ得る。潤滑剤の使用量は目的(例えば、被覆物の使用環境)に応じて変化し得る。例えば、潤滑剤は、合成樹脂バインダー100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部の割合で被覆組成物に含有され得る。潤滑剤の平均粒径は好ましくは0.01〜4μmであり、粒径の実質的な最大値は好ましくは4〜6μmである。
【0031】
本発明の被覆組成物は、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤の具体例としては、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、静電助剤、触媒、スリップ防止剤が挙げられる。添加される添加剤の数、種類および量は、目的に応じて適切に選択され得る。
【0032】
以下、本発明の被覆組成物の調製方法の好ましい一例について説明する。
【0033】
まず、任意の適切な容器内に所定量の分散媒(好ましくは、極性溶媒)を入れる。当該分散媒中に、上記非導電性物質で表面処理された多層炭素ナノ繊維を上記所定量投入する。例えば、上記のグラフト化された多層炭素ナノ繊維を投入してもよく、上記の多層炭素ナノ繊維と界面活性剤とを投入してもよく、上記のグラフト化された多層炭素ナノ繊維と界面活性剤とを組み合わせて投入してもよい。好ましくは、多層炭素ナノ繊維は、徐々に分散媒に投入される。このような操作により、分散媒中に多層炭素ナノ繊維をより均一に分散させることができる。
【0034】
次に、多層炭素ナノ繊維を分散媒中に均一に分散させる処理を行う。分散処理の具体例としては、機械的に撹拌する方法、超音波を利用する方法が挙げられる。機械的に攪拌する方法としては、例えば、市販のホモジナイザーを用いて撹拌羽または撹拌棒の回転により分散媒/多層炭素ナノ繊維を分散させる方法が挙げられる。回転数は、分散媒の種類、炭素ナノ繊維の量等に応じて適切に設定され得る。例えば、回転数は、2000〜10000rpmである。超音波を利用する方法としては、市販の超音波発生器を用いることができる。これらの二つの方法を併用してもよい。このようにして、分散媒/多層炭素ナノ繊維の分散体が調製される。分散媒/多層炭素ナノ繊維の分散体をあらかじめ調製することにより、多層炭素ナノ繊維を被覆組成物中に均一に分散させることができる。
【0035】
次に、上記分散体と合成樹脂バインダーとを混合する。この混合も、上記分散処理と同様にして行われ得る。顔料、潤滑剤および/または任意の他の添加剤は、その種類や量等に応じて適切な時点で添加され得る。例えば、顔料は、合成樹脂バインダーと共に上記分散体に添加してもよく、合成樹脂バインダーの混合に続いて上記分散体に添加してもよい。最後に、当該混合物に、例えば市販の超音波発生器を用いて超音波を付与することにより、分散および混合の際に発生した泡を除去することができる。このようにして、本発明の被覆組成物が調製される。
【0036】
本発明の別の局面によれば、被覆物が提供される。この被覆物は、基体表面の少なくとも一部に、上記の被覆組成物による被膜が形成されている。基体の具体例としては、金属製工業部品、ボルト・ナット、軸受け、シール部品、締結フランジ、座金、ブレーキシュー、ジャッキ部品および半導体製造装置の摺動部品が挙げられる。基体の材質としては、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、各種合金等の金属、アルミナ、ジルコニア、人造黒鉛、ガラス等のセラミック、各種プラスチック、各種複合材料が挙げられる。
【0037】
基体表面に被膜を形成する方法としては、被覆組成物を塗布する方法、被覆組成物に基体を浸漬する方法が挙げられる。塗布手段の具体例としては、スプレー、はけ塗り、ロール塗りが挙げられる。塗布後、適切な温度で熱処理または乾燥することにより、均質性の高い被膜が形成される。熱処理または乾燥温度は、合成樹脂バインダーの種類に応じて変化し得る。例えば、合成樹脂バインダーが熱硬化性樹脂である場合には、熱処理温度は好ましくは100〜300℃である。この場合、熱処理により、バインダーが架橋することにより硬化して、非常に硬度の高い被膜が形成され得る。また例えば、合成樹脂バインダーが熱可塑性樹脂である場合には、乾燥温度は好ましくは30〜100℃である。この場合、乾燥処理により、被覆組成物中の分散媒が蒸発して、均質性の高い被膜が形成され得る。
【0038】
形成される被膜の厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。厚みは、被覆組成物の塗布量を調整することにより制御され得る。厚みは、例えば1mm以上の厚膜であってもよく、5〜50μmの薄膜であってもよい。例えば、厚みを5〜50μmに調整することにより、基体が金属製であって機械部品として使用するような場合に、寸法公差内に収めることが容易になる。
【0039】
本発明においては、上記被膜のヌープ硬さは、好ましくは20Hk以上、さらに好ましくは30Hk以上、最も好ましくは60Hk以上である。このようなヌープ硬さであれば、実用上十分な摺動に対する耐損傷性を提供することができる。例えば、亜鉛粉末の無機系塗料によって形成された被膜のヌープ硬さは約30Hkであり、亜鉛メッキのヌープ硬さは約150Hkである。本発明の被覆組成物による被膜は、好ましい実施形態によれば亜鉛メッキと同等のヌープ硬さが実現可能であり、かつ、後述のようにメッキに比べて耐食性に格段に優れるので、きわめて有用である。実用的なヌープ硬さの上限は約200Hkである。なお、本明細書において、「ヌープ硬さ」とは、JIS Z 2251に記載の「ヌープ硬さ試験方法」に従って得られる値をいう。
【0040】
さらに、上記被膜のトルク係数値は、好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.10以下である。このようなトルク係数値であれば、摺動時の摩擦が低減され摺動によって生じる損傷を十分に回避することができる。実用的なトルク係数値の下限は約0.05である。なお、本明細書において、「トルク係数値」とは、JIS B 1186に記載の「セットのトルク係数値」に従って得られる値をいう。
【0041】
さらに、上記被膜の防錆力は好ましくは200時間以上、さらに好ましくは450時間以上、最も好ましくは1000時間以上である。防錆力は長ければ長いほど好ましい。上記のような機械的強度(例えば、ヌープ硬さおよびトルク係数値)を維持しつつ、このようなきわめて優れた防錆力(すなわち、耐食性)を実現したことが、本発明の大きな成果の1つである。なお、本明細書における「防錆力」とは、JIS Z 2371に記載の「塩水噴霧試験」に従って得られる値をいう。
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【実施例1】
【0043】
N−メチル−2−ピロリドン90gあたりに5gのTMSP−PMMAを室温で溶解させ、溶液を調製した。ここで、TMSP−PMMAは、分子末端に3−(トリメトキシシリル)プロピル基を有するポリメチルメタクリレートであり、その数平均分子量は2700、分子量分布は1.2であった。この溶液に、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維(株式会社GSIクレオス製、商品名カルベール(登録商標))5gを徐々に添加した。次に、市販の超音波発生器(100kHz)を用いて約30分間超音波を与え、炭素ナノ繊維の分散を促進した後、100℃で一晩(12時間)攪拌して、炭素ナノ繊維表面へのTMSP−PMMAのグラフト反応を進行させた。図1は、反応生成物の熱重量分析の結果を示すグラフである。グラフ中の実線Aが反応生成物の挙動を示し、破線BおよびCは、それぞれ、炭素ナノ繊維単独およびTMSP−PMMA単独の挙動を示す。このグラフを解析した結果、炭素ナノ繊維100重量部に対して約5重量部のTMSP−PMMAがグラフトされたと考えられる。さらに、図2は、グラフト化された炭素ナノ繊維の電子顕微鏡写真である。この写真から明らかなように、中央部の筒状の炭素ナノ繊維がPMMAで被覆されていることがわかる。ここで、未反応(添加量の約95%)のTMSP−PMMAが当該反応溶液中に存在していると考えられるが、これは適切な手段で除去してもよい。本実施例においては、上記で得られた反応溶液をそのまま、以下の被覆組成物の調製に用いた。未反応のTMSP−PMMAは、物理的表面処理剤として機能し得る場合があると考えられる。
【0044】
上記反応溶液に、室温で、液状のレゾールタイプのフェノール樹脂の所定量を徐々に加えた。次に、上記と同様にして超音波処理を行った後、市販のホモジナイザー攪拌装置(4枚羽の攪拌羽)を用いて10000rpmで約20分間攪拌処理し、被覆組成物を得た。なお、当該被覆組成物においては、フェノール樹脂の固形分100重量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを100重量部、炭素ナノ繊維を5重量部、TMSP−PMMA(未反応および既反応の両方の合計)5重量部を用いた。
【0045】
次に、エチルアルコールを用いて脱脂したSPCC冷間圧延鋼板(長さ150mm、幅70mm、厚み0.8mm)を基体とした。この基体全面に、上記被覆組成物をスプレー法によって塗布し、約200℃で熱処理して、厚み40〜50μmの被膜を形成した。スプレー塗布は、圧送式エアースプレーガン(イワタ製 WIDER−61型:口径1.3mm)を用い、エアー圧力0.29〜0.34MPa、被覆組成物の吐出量95〜200ml/minの条件で行った。被膜の厚みは、電磁式膜厚計(ケット科学製 LZ−330型)を用いてJIS K 5600−1−7に従って測定した。また、被覆物の断面を走査型顕微鏡で観察して基体と被膜との界面に顕著なボイド等がないことを確認した。さらに、基体として、M20でネジ部の長さが100mmのボルトおよびM20で高さ16mmの六角ナットを用い、それぞれの基体全面に上記と同様にして被膜を形成した。
【0046】
得られた被膜について、下記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
(1)密着性:SPCC冷間圧延鋼板基体に対する被膜の密着性を、JIS K 5600−5−6に従って評価した。
(2)硬度:SPCC冷間圧延鋼板基体に形成された被膜について、鉛筆引っかき硬さおよびヌープ硬さを測定して評価した。鉛筆引っかき硬さは、JIS K 5600−5−4に従って測定を行った。鉛筆引っかき硬さは、被膜にきず跡を生じなかった硬さ(鉛筆硬度)を測定した。ヌープ硬さは、JIS Z 2251に従って測定を行った。
(3)折り曲げ性:JIS K 5600−5−4に従って評価した。このとき、定められた条件下において折り曲げた後の折り曲げ部分の被膜表面を40倍の顕微鏡で観察し、割れまたははく離の有無を確認して判断した。
(4)耐衝撃性:JIS K 5600−5−3のデュポン式に従って測定を行った。先端の曲率半径の異なる1000gの重りを50cmの高さから被膜に落下させた後、40倍の顕微鏡で観察し、割れまたははく離の有無を確認して判断した。
(5)ボルト・ナット嵌合試験:上記被膜が形成されたボルト・ナットのネジ部について、トルク係数値(摩擦抵抗)および被膜の破壊の評価を行った。ボルトとナットには、軸力20トンを与えた。ネジ部のトルク係数値は、JIS B 1186に従って求めた。試験は、ボルト・ナット5セットについて行った。被膜の破壊は、ボルトとナットの被膜が損傷を受けて欠落した部分の割合を求めて評価した。
(6)耐食性:塩水噴霧試験により評価した。塩水噴霧試験は、JIS Z 2371に従って行った。
さらに、塩水噴霧から1500時間後の状態の写真を図3に示す。
【0047】
【表1】

【実施例2】
【0048】
N−メチル−2−ピロリドン100mlあたりカチオン性界面活性剤(ビックケミー社製、Disperbyk-130)2mlを用いて炭素ナノ繊維の表面処理溶液を調製した。この表面処理溶液に、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維(株式会社GSIクレオス製、商品名カルベール(登録商標))の所定量を徐々に添加し、ステンレス製の攪拌棒を用いて2〜3分攪拌し、炭素ナノ繊維の表面処理(界面活性剤処理)を行った。次に、市販の超音波発生器(100kHz)を用いて約30分間超音波を与え、炭素ナノ繊維の分散および表面処理を促進した。さらに、市販のホモジナイザー攪拌装置(4枚羽の攪拌羽)を用いて、10000rpmで約20分間攪拌し、炭素ナノ繊維の分散および表面処理をさらに促進した。このようにして、分散媒/表面処理された炭素ナノ繊維の分散体を調製した。
【0049】
次に、上記分散体に、液状のレゾールタイプのフェノール樹脂の所定量を徐々に加えた。次に、上記と同様にして、超音波およびホモジナイザーによる分散処理を行い、被覆組成物を得た。なお、当該被覆組成物においては、フェノール樹脂の固形分100重量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを100重量部、炭素ナノ繊維を4.73重量部用いた。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0050】
フェノール樹脂の固形分100重量部に対して炭素ナノ繊維を11.05重量部用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。さらに、塩水噴霧から2000時間後の状態を後述の比較例4と比較した写真を図4に示す。
【実施例4】
【0051】
フェノール樹脂(固形分)100重量部の代わりにポリアミドイミド樹脂(固形分)100重量部を用いたこと、および、ポリアミドイミド樹脂の固形分100重量部に対して炭素ナノ繊維を4.55重量部用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、乾燥温度を180℃としたこと以外は実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0052】
ポリアミドイミド樹脂の固形分100重量部に対して炭素ナノ繊維を10.64重量部用いたこと以外は実施例4と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例4と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例6】
【0053】
カチオン系界面活性剤の代わりにアニオン系界面活性剤(ビックケミー社製、商品名Anti-Terre-206)を用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例7】
【0054】
カチオン系界面活性剤の代わりにアニオン系界面活性剤を用いたこと以外は実施例4と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例8】
【0055】
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する炭素ナノ繊維(昭和電工株式会社製、VGCF(R))4.73重量部を用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【実施例9】
【0056】
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する炭素ナノ繊維(昭和電工株式会社製、VGCF(R))4.55重量部を用いたこと以外は実施例4と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例4と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、通常の単層カーボンナノチューブ(SWCNT:CNI社製)4.73重量部を用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
単層カーボンナノチューブ11.05重量部を用いたこと以外は比較例1と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例3)
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、通常の単層カーボンナノチューブ(SWCNT:CNI社製)4.55重量部を用いたこと以外は実施例4と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例4)
単層カーボンナノチューブ10.64重量部を用いたこと以外は比較例3と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。さらに、塩水噴霧から2000時間後の状態の写真を実施例3と併せて図4に、24時間後の状態の写真を図5に示す。
【0061】
(比較例5)
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、カーボンブラック4.73重量部を用いたこと以外は実施例2と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例1と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例6)
底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維の代わりに、カーボンブラック4.55重量部を用いたこと以外は実施例4と同様にして被覆組成物を調製した。この被覆組成物を用いて、実施例4と同様にして被膜を形成した。得られた被膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0063】
表1から明らかなように、本発明の実施例の被覆組成物は、機械的特性(特に、鉛筆硬さおよびヌープ硬さ)と耐食性(塩水噴霧試験)とを同時に満足する被膜を形成することがわかる。より具体的には、本発明の実施例の被覆組成物は、単層炭素ナノ繊維を用いた比較例1〜4に比べて耐食性の改善が著しい。特に、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する炭素ナノ繊維をPMMAでグラフトしたものを用いた実施例1、および、カチオン性界面活性剤で表面処理した実施例2〜5は、単層炭素ナノ繊維を用いた比較例1〜4に比べて、耐食性が桁違いに改善されている。また、本発明の実施例の被覆組成物は、炭素ナノ繊維を用いていない(カーボンブラックを用いた)比較例5〜6に比べて、機械的特性(特に、ヌープ硬さ、折り曲げ性、耐衝撃性および被膜破壊)が格段に改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の被覆組成物は、金属製工業部品、ボルト・ナット等の各種締結部品、軸受け、各種シール部品、締結フランジ、座金、ブレーキシュー、ジャッキ部品、半導体製造装置の摺動部品等の機械部品の被覆に好適に利用され得る。さらに、各種の環境遮断ライニング被覆にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1の被覆組成物に用いられるグラフト化された炭素ナノ繊維の熱重量分析の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1の被覆組成物に用いられるグラフト化された炭素ナノ繊維の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例1により得られた被覆物の塩水噴霧から1500時間後の状態を示す写真である。
【図4】本発明の実施例3により得られた被覆物の塩水噴霧から2000時間後の状態を、比較例4の被覆物の状態と比較して示す写真である。
【図5】比較例4により得られた被覆物の塩水噴霧から24時間後の状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂バインダーと、非導電性物質で表面処理された多層炭素ナノ繊維と、分散媒とを含む、被覆組成物。
【請求項2】
前記多層炭素ナノ繊維の表面の少なくとも一部が、グラフト化されている、請求項1に記載の被覆組成物。
【請求項3】
前記多層炭素ナノ繊維が、底の無いカップ形状を有する炭素網層が入れ子状に多数積層した構造を有する、請求項1または2に記載の被覆組成物。
【請求項4】
前記多層ナノ繊維が、径の異なる複数の筒状の炭素網層が同軸状に配置された構造を有する、請求項1または2に記載の被覆組成物。
【請求項5】
前記合成樹脂バインダー100重量部に対して、前記多層炭素ナノ繊維を3〜15重量部、前記分散媒を10〜300重量部含む、請求項1から4のいずれかに記載の被覆組成物。
【請求項6】
前記合成樹脂バインダーが熱硬化性樹脂である、請求項1から5のいずれかに記載の被覆組成物。
【請求項7】
前記合成樹脂バインダーが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂および水系フッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載の被覆組成物。
【請求項8】
前記分散媒が極性溶媒である、請求項1から7のいずれかに記載の被覆組成物。
【請求項9】
前記分散媒が、水、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載の被覆組成物。
【請求項10】
得られる被膜のヌープ硬さが20Hk以上であり、かつ、塩水噴霧試験による防錆力が200時間以上である、請求項1から9のいずれかに記載の被覆組成物。
【請求項11】
基体表面の少なくとも一部に、請求項1から10のいずれかに記載の被覆組成物による被膜が形成されている、被覆物。
【請求項12】
前記基体が、金属製工業部品、ボルト・ナット、軸受け、シール部品、締結フランジ、座金、ブレーキシュー、ジャッキ部品および半導体製造装置の摺動部品からなる群から選択される、請求項11に記載の被覆物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−291280(P2007−291280A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122801(P2006−122801)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(391019212)株式会社竹中製作所 (7)
【出願人】(000105154)株式会社GSIクレオス (31)
【出願人】(506145290)
【Fターム(参考)】