説明

複合材およびその製造方法

【課題】 セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との充填密度を均一として性能のばらつきを抑えることができる複合材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 複合材1が、粒度が比較的大きなセラミック粒体4を40〜85容積%、アルミニウム5を15〜60容積%含み、セラミック粒体4間の間隙にアルミニウム5が連続相を形成し、かつ、セラミック粒体4とアルミニウム5との界面に隙間がないようにした本体部2と、この本体部2の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部3とを備えて構成され、本体部2を、アルミニウム5をキャビティの下方から真空で吸引するとともに当該キャビティの上方から圧力を付与しながらセラミック粒体4間に含浸させて形成し、被覆部3を、無電解メッキにより形成されたメッキ層で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック粒体とアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方からなる複合材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワー半導体素子は大電流で駆動されるため発熱し、素子特性を維持するための放熱性に優れた放熱板が必要とされる。近年、特に高密度集積化や制御回路との混載による小型、軽量化が進められているため、高密度熱流の放散が重要な課題となっており、高熱伝導性の放熱基板が求められている。また、プラズマテレビ製造用の均熱板や、液晶パネル用ガラス基板に真空中でパターンを蒸着する際にも高熱が発生するため高熱伝導性の放熱基板が求められている。
【0003】
さらに、小型パソコンや測定機器、プロジェクタ等の分野においては、半導体素子の高密度集積化が進むに従って、半導体素子の発熱量が増大する一方で、機器の小型化によって、放熱に困難な構造となる傾向にある。このように、筐体、ヒートシンク材に対しても高熱伝導性の放熱基板が求められている。
また、車両においては、例えば、制動の分野においてブレーキディスクには高い放熱性が要求されており、パワートランジスタ等を使うような部分では、高熱伝導性の放熱基板が求められている。
以上のように、様々な分野で熱伝導性の高い材料が求められており、この要望に対して、従来は、金属板を使用したり、SiC(シリコンカーバイド)とA1(アルミニウム)との複合材であるSiC/A1系複合材を使用したりしている。
【0004】
前記金属板を使用する場合は熱膨張係数が大きいという問題があり、一方、SiC/A1系複合材は熱伝導率が充分ではないという問題がある。
従来のSiC/A1系複合材では、アルミニウム溶湯の中にSiC粉末を分散させる方法、SiC粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金粒子をバインダーや焼結助剤を加えて成形し、次いで焼結する方法などがあるが、これらの方法においては、SiCの含有率が20%容積程度と低いため等の理由により、熱伝導率が充分でなかった。
【0005】
また、以上のようなSiC/A1系複合材を、例えば放熱基板として、MPUやパワーモジュール等の半導体と接続して使用する場合、SiC/A1系複合材と半導体とを接着等によって固定することが多い。
しかし、複合材を構成するSiCとA1との収縮率が違うため、複合材が収縮したとき、図9に示すように、SiCの尖端部4Aが複合材100の表面から寸法Sだけ突出した状態となり、複合材100の表面に微細な凹凸が生じている。凹凸は、例えば0.05mm程度であるが、凹凸にかわりはなく、複合材100の表面は平滑ではない。そのため、複合材100をそのままの状態で使用し、SiC/A1系複合材とパワーモジュール等の半導体とを接着、固定した場合、両者の対向する表面間に上記0.05mm程度の凹凸があることから、互いが充分に密着されない。その結果、半導体からの放熱がSiC/A1系複合材100に充分に伝達されなくなり、放熱基板としての充分な機能を果たせないという問題が生じる。
【0006】
そこで、表面の平滑性を得て密着性をよくするために、SiC/A1系複合材の表面を研削または研磨することが行われるが、複合材の全面にわたってSiCの尖端が突出しているうえ、そのSiCの硬度が大きいため、研削加工の場合、工具の損傷が早い。また、研磨加工の場合は、長時間にわたる作業となり効率が悪く、大量の需要がある場合に対応できない。
さらに、研削、研磨加工して平滑に仕上げられた取り付け面に、被取り付け部材を取り付けた場合でも、SiC/A1系複合材と被取り付け部材との膨張率の違いから、繰り返し使用のうちに、互いが剥離してしまうおそれがある。
【0007】
以上のような多くの課題を解決するために、本出願人は、高熱伝導性を得ることができるとともに、表面を容易に高精度の平滑面とできて被取り付け部材に密着して取り付けることができ、繰り返し使用しても被取り付け部材との間で剥離することのない複合材を提案した(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に開示された複合材は、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された本体部と、その表面を覆う加工性に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金等からなる被覆部とで構成されている。
そして、本体部は、金型のキャビティ内に所定量のセラミック粒体を充填した後、金型の下方から真空ポンプによりキャビティ内の空気を抜いてキャビティ内を真空にして、キャビティ内にアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を流入させ、その溶湯をセラミック粒体間に含浸させて形成されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−238331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献1に開示された複合材では、本体部の形成時において、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との充填密度のばらつきが生じるおそれがある。
すなわち、本体部は、例えば、略200mm×200mm×厚さ3mm〜5mmの平板状の大きさに形成されている。本体部が、以上のような大きさとなっており、特に厚さが3mm〜5mmと薄いため、金型のキャビティ内にセラミック粒体を充填した後、キャビティの下方から真空ポンプで吸引しながらキャビティ内の空気を抜いてキャビティ内を真空とし、その後、アルミニウム等の溶湯を流入させたとき、充填されているセラミック粒体が邪魔となり、溶湯の流れが悪くなる。そのため、真空での吸引力の影響がキャビティの下方では強く及ぶが、キャビティの上方では弱くなる。
その結果、キャビティの下方から真空で吸引したとき、セラミック粒体とアルミニウム等の溶湯とがキャビティの下方に強く引っ張られるため、セラミック粒体もわずかながらでも移動し、キャビティの下方において両部材の充填密度が密の状態なる。
これに対して、キャビティの上方では真空の吸引力が弱く、また、セラミック粒体が真空により吸引され下方が密状態となることに連れ、セラミック粒体とアルミニウム等の溶湯との充填密度が疎の状態となる。
【0010】
複合材の本体部としては、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金とが全体にわたって均一に複合されていることが所望の性能を引き出すための条件である。そのため、前述の従来例のように、本体部の下部の充填密度が密の状態で、上部の充填密度が疎の状態となっている場合、性能のばらつきが生じるという問題がある。
また、本体部は、キャビティの下方から真空で吸引しながらアルミニウム等の溶湯をセラミック粒体間に含浸させて形成されているが、セラミック粒体とアルミニウム等の熔湯との間隙に空気が入り込み、その結果、本体部に気孔が発生し、熱伝導率の低下を招く等、性能に影響を及ぼすという問題もある。
【0011】
さらに、IGBT(Inslated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の分野では、ますます高性能化が進み、それに連れて、優れた放熱性能を有し、高性能化に対応できる放熱基板が求められている。この放熱基板には、表面を容易に高精度の平滑面とできて被取り付け部材に密着して取り付けることができ、かつ、繰り返し使用しても被取り付け部材との間で剥離することがないことが、当然に要求されている。
【0012】
本発明の目的は、高熱伝導性を得ることができるとともに、表面を容易に高精度の平滑面とできて被取り付け部材に密着して取り付けることができ、かつ、繰り返し使用しても被取り付け部材との間で剥離することがない複合材およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との充填密度を均一として、性能のばらつきを抑えることができ、かつ内部の気孔を略完全に排除できる複合材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の複合材は、比較的大きな粒度のセラミック粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、 この本体部の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記セラミック粒体間に浸漬させて形成され、前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施して形成されたニッケルメッキ層で構成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
このような本発明によれば、複合材の本体部が、粒度が比較的大きなセラミック粒体を40〜85容積%も含有しているので、セラミック粒体とアルミニウムとも熱伝導性が鉄等他の金属と比べて優れていることから、高熱伝導性の複合材を得ることができる。
また、複合材を被取り付け部材に取り付ける際には、本体部が熱伝導性に優れた被覆部により高精度の平滑度で覆われているので、その被覆部を被取り付け部材に取り付ければよい。その結果、被取り付け部材との間で微細な隙間もなく、略完全に密着して取り付けることができ、被取り付け部材の熱が本体部にそのまま伝達されて放熱されるので、放熱基板としての充分な機能を発揮することができる。
【0016】
さらに、本体部中に粒度が比較的大きなセラミック粒体が40〜85容積%と、比較的多く含有されているので、本体部の線膨張率を小さく抑えることができる。従って、寸法精度が極めて優れた本体部となり、このような本体部を被取り付け部材に取り付けたとき、被取り付け部材との膨張率の違いにより互いが剥離することを防止でき、その結果、繰り返し使用が可能となり、複合材の長寿命化を図ることができる。
【0017】
また、本体部が、金型のキャビティ内にセラミック粒体を充填した後、キャビティ内を真空としてアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯をキャビティ内に流し込んだ直後に、金型の下方から真空吸引するとともにキャビティの上方から加圧してその溶湯をセラミック粒体間に浸漬させることで形成される。
キャビティ内に充填されたセラミック粒体は、キャビティ内を真空にする際にセラミック粒体同士が移動し、互いの位置が安定し、その状態で溶湯が流し込まれ、かつ加圧される。その結果、溶湯の流れが真空の吸引と加圧との相乗効果により加速されるため、セラミック粒体の隙間に十分に浸漬され、本体部の全面にわたって、セラミック粒体とアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方との充填密度を均一とすることができる。
また、溶湯はより流れやすい方に流れることから、まずキャビティの表面に沿って流れ、表面側から埋められる。その結果、セラミック粒体を、わずかでも厚さ方向の内側に押しやり、表面側をアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方で多く占めることができ、セラミック粒体の突出を少なくすることができる。
【0018】
また、本体部の表面に、セラミックとアルミニウムとの収縮率の違いによる微細な凹凸が形成されていても、外部電源を必要としない無電解ニッケルメッキ処理によれば、対象物がセラミックであっても施すことができるので、上記凹凸を解消することができる。
また、ニッケルメッキ層を形成するには、例えば金型で製造した本体部を、前処理を施した後に、無電解ニッケルメッキ処理装置に収容してメッキ処理を行なえばよく、容易に被覆部を形成することができる。
さらに、ニッケルメッキ層の表面は高精度の平滑度を有する平滑面となる。そのため、表面を後加工することなくそのままの状態で用いることができる。
【0019】
以上の本発明において、無電解ニッケルメッキとしては、自己触媒型化学還元メッキ型を用いると好適である。
無電解ニッケルメッキは、外部電源を必要としないメッキ法であり、外部電源を必要とする電気メッキに対応するものである。外部電源を用いない金属析出法としては、金属の標準酸化還元電位(イオン化傾向)の差によって生じる置換(浸漬)メッキと、還元剤を用いる化学還元メッキとの2つがよく知られている。
【0020】
化学還元メッキは、金属イオンが還元剤によって還元析出するものであり、析出金属が還元剤の反応に対して触媒作用を有することに最大の特徴がある。つまり、この自己触媒作用により、金属析出反応は連続的に進行し、メッキ皮膜が成長する。
現在、広く工業的に利用されている無電解ニッケルメッキや、無電解銅メッキは、以上に述べた自己触媒型化学還元メッキである。
なお、置換(浸漬)メッキによってニッケルメッキ層を形成してもよい。また、無電解ニッケルメッキに替えて、本体部に無電解銅メッキ処理を施して被覆部を形成してもよい。
【0021】
以上の複合材において、セラミック粒体の粒度とは、幅方向および厚さ方向の最大外接円の大きさをいい、比較的大きな粒度としては、0.15mm(100meshふるい上)以上あればよいが、0.3mm〜2.0mm(48〜49mesh)程度が好ましい。
【0022】
本発明の他の複合材は、比較的大きな粒度のセラミック粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、この本体部の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、少なくとも前記金型の下方から真空吸引して前記セラミック粒体間に浸漬させて形成され、前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部を収納したアルミニウム、アルミニウム合金および銅のうちの一つからなる容器で形成され、当該容器はその内部を真空状態とした後、HIP処理装置内に収容されるとともに、その装置内でHIP処理されて前記本体部と一体的に接合されることを特徴とする(請求項2)。
【0023】
このような本発明によれば、被覆部である容器と、その容器の内部に収納されている本体部とが、高温、高圧のガスを媒体として等方的に圧縮されるので、被覆部と本体部とが拡散接合されて一体化される。そのため、組織が緻密化されるとともに、本体部に残留した気孔が略完全に排除され、高品質の複合材を得ることができる。特に、熱伝導率の高い銅の容器を使用した場合、より優れた熱伝導率を有する複合材とすることができる。
【0024】
以上において、HIP処理とは、アルゴンなどの不活性ガスを圧力媒体として通常100MPa以上の圧力と、1000℃以上の温度との相乗効果を利用して加工処理する技術である。このHIP処理によれば、高い等方圧力(あらゆる方向から均等に加わる圧力)と、高温との相乗効果を利用することにより拡散現象を生じさせ、被処理物を金属的に一体化させることができる。
【0025】
本発明のさらに他の複合材は、比較的大きな粒度のダイヤモンド粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、この本体部の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記ダイヤモンド粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記ダイヤモンド粒体間に浸漬させて形成され、前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施して形成されたニッケルメッキ層で構成されていることを特徴とする(請求項3)。
【0026】
このような本発明によれば、複合材の本体部が、粒度が比較的大きなダイヤモンド粒体を40〜85容積%も含有しているので、ダイヤモンド粒体とアルミニウムとも熱伝導性が鉄等他の金属と比べて優れていることから、より高熱伝導性の複合材を得ることができる。
また、複合材を被取り付け部材に取り付ける際には、本体部が熱伝導性に優れた被覆部により高精度の平滑度で覆われているので、その被覆部を被取り付け部材に取り付ければよい。その結果、被取り付け部材との間で微細な隙間もなく、略完全に密着して取り付けることができ、被取り付け部材の熱が本体部にそのまま伝達されて放熱されるので、放熱基板としての充分な機能を発揮することができる。
【0027】
さらに、本体部中に粒度が比較的大きなダイヤモンド粒体が40〜85容積%と、比較的多く含有されているので、本体部の線膨張率を小さく抑えることができる。従って、寸法精度が極めて優れた本体部となり、このような本体部を被取り付け部材に取り付けたとき、被取り付け部材との膨張率の違いにより互いが剥離することを防止でき、その結果、繰り返し使用が可能となり、複合材の長寿命化を図ることができる。
【0028】
また、本体部が、金型のキャビティ内にダイヤモンド粒体を充填した後、キャビティ内を真空としてアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯をキャビティ内に流し込んだ直後に、金型の下方から真空吸引するとともにキャビティの上方から加圧してその溶湯をダイヤモンド粒体間に浸漬させることで形成される。
キャビティ内に充填されたダイヤモンド粒体は、キャビティ内を真空にする際にダイヤモンド粒体同士が移動し、互いの位置が安定し、その状態で溶湯が流し込まれ、かつ加圧される。その結果、溶湯の流れが真空の吸引と加圧との相乗効果により加速されるため、ダイヤモンド粒体の隙間に十分に浸漬され、本体部の全面にわたって、ダイヤモンド粒体とアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方との充填密度を均一とすることができる。
また、溶湯はより流れやすい方に流れることから、まずキャビティの表面に沿って流れ、表面側から埋められる。その結果、ダイヤモンド粒体を、わずかでも厚さ方向の内側に押しやり、表面側をアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方で多く占めることができ、ダイヤモンド粒体の突出を少なくすることができる。
【0029】
また、本体部の表面に、ダイヤモンド粒体とアルミニウムとの収縮率の違いによる微細な凹凸が形成されていても、外部電源を必要としない無電解ニッケルメッキ処理によれば、対象物がセラミックであっても施すことができるので、上記凹凸を解消することができる。
また、ニッケルメッキ層を形成するには、例えば金型で製造した本体部を、前処理を施した後に、無電解ニッケルメッキ処理装置に収容してメッキ処理を行なえばよく、容易に被覆部を形成することができる。
さらに、ニッケルメッキ層の表面は高精度の平滑度を有する平滑面となる。そのため、表面を後加工することなくそのままの状態で用いることができる。
【0030】
以上の複合材において、ダイヤモンド粒体の粒度とは、幅方向および厚さ方向の最大外接円の大きさをいい、比較的大きな粒度としては、0.15mm(100meshふるい上)以上あればよいが、0.3mm〜2.0mm(48〜49mesh)程度が好ましい。
【0031】
本発明の複合材の製造方法は、比較的大きな粒度のセラミック粒体と、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方からなる本体部と、この本体部の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部とを含む複合材の製造方法であって、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を40〜85容積%充填する第1の工程と、この第1の工程の後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を15〜60容積%流し込む第2の工程と、 この第2の工程の後、前記溶湯を流し込むと同時に前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記セラミック粒体間に浸漬させて本体部を形成する第3の工程と、この第3の工程の後、前記本体部の凝固後、その本体部を前記金型から取り出す第4の工程と、この第4の工程の後、前記金型から取り出した本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施してニッケルメッキ層を形成して前記被覆部を形成する第5の工程、とを有することを特徴とする(請求項4)。
【0032】
このような本発明によれば、高熱伝導性を得ることができるとともに、表面を容易に高精度の平滑面とできる。その結果、複合材を被取り付け部材に密着して取り付けることができ、かつ、繰り返し使用しても被取り付け部材との間で剥離することがなく、また、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との充填密度を均一とすることができ、性能のばらつきを抑えることができる。
【0033】
本発明の他の複合材の製造方法は、比較的大きな粒度のセラミック粒体と、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方からなる本体部と、この本体部の厚さ方向の表面を高精度の平滑度で覆う熱伝導性に優れた被覆部とを含む複合材の製造方法であって、 底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を40〜85容積%充填する第1の工程と、この第1の工程の後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を15〜60容積%流し込む第2の工程と、 この第2の工程の後、前記溶湯を流し込むと同時に少なくとも前記金型の下方から真空吸引して前記セラミック粒体間に浸漬させて本体部を形成する第3の工程と、この第3の工程の後、前記本体部の凝固後、その本体部を前記金型から取り出す第4の工程と、この第4の工程の後、前記金型から取り出した本体部を、被覆部を構成するアルミニウム、アルミニウム合金および銅のうちの一つからなる容器に収納する第5の工程と、この第5の工程の後、前記容器の内部を真空にするとともにその容器の開口部を封止する第6の工程と、 この第6の工程の後、内部に前記本体部を収納した状態で前記容器をHIP処理装置内に収容してHIP処理を行い前記容器と本体部とを一体接合させ、前記容器により前記被覆部を形成する第7の工程、とを有することを特徴とする(請求項5)。
【0034】
このような本発明によれば、被覆部である容器と、その容器の内部に収納されている本体部とが、高温、高圧のガスを媒体として等方的に圧縮されるので、被覆部と本体部とが拡散接合されて一体化される。そのため、組織が緻密化されるとともに、本体部に残留した気孔が略完全に排除され、高品質の複合材を得ることができる。
また、高熱伝導性を得ることができるとともに、表面を容易に高精度の平滑面とできる。その結果、複合材を被取り付け部材に密着して取り付けることができ、かつ、繰り返し使用しても被取り付け部材との間で剥離することがなく、また、セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との充填密度を均一とすることができ、性能のばらつきを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る複合材の第1実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1,2に示すように、第1実施形態の複合材1は本体部2と、この本体部2の表裏面を覆い、かつ本体部2と一体化された被覆部3としてのニッケルメッキ層とで構成されている。
【0036】
本体部2は、分散したセラミック粒体4の間に、アルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという)5を隙間なく混入して形成された連続相を有している。複合材1の厚さTは、例えば、3mmとなっているが、この厚さTは、3mmに限定されず、3mm以上でもよく、あるいは3mm以下でもよい。
【0037】
セラミック粒体4としては、SiCの他、A1N、BN、カーボン等の粒体が用いられ、その粒度は比較的大きなものが用いられている。比較的大きな粒度としては、例えば、0.15mm(100meshふるい上)以上あればよいが、製品の厚さなどを考慮に入れると、0.3mm〜2.0mm(48〜9mesh)程度の粒度範囲が好ましい。
【0038】
ここで、セラミック粒体4の粒度が0.15mm未満であると、セラミック粒体4間の間隙が小さくなりすぎて、アルミニウムの溶湯が入り込まなくなり、含浸不良を起こす。また、セラミック粒体4の使用に際しては、全体を略同じ粒度のものとしてもよいが、異なる粒度のセラミック粒体4を組み合わせて使用してもよい。
なお、セラミック粒体4の粒度とは、幅方向および厚さ方向の最大外接円の大きさをいう。また、セラミック粒体4は粒体ばかりでなく、繊維状のものを併用してもよい。さらに、カーボンとしては、カーボンブラック、カーボンバルーン等を用いることができる。
そして、本実施形態ではセラミック粒体4として、例えば、粒度0.7mmのSiCが使用されている。
【0039】
SiCの量は、40〜85容積%が適当である。40容積%未満であれば、複合材1における本体部2の熱伝導率が高くならず、85容積%を越えると本体部2の強度が不十分となる。一方、アルミニウムの量は、SiCの量に対応して15〜60容積%とされている。このように、本体部2の中に、比較的粒度が大きいSiCを比較的多量に含有させたので、熱伝導率を200W/mK以上、線膨張係数を9〜12×10−6程度にすることができる。
また、SiCには、予めセラミック微粉末が塗されている。このセラミック微粉末の量はSiCに対して、例えば、1:0.2〜0.4の割合とすることが好ましい。さらに、セラミック微粉末に替えてダイヤモンドの微粉末を塗してもよい。これにより、より一層の熱伝導率の向上を図ることができる。
【0040】
前記被覆部3は、前述のように、ニッケルメッキ層で形成されている。このニッケルメッキ層は、図示しない無電解ニッケルメッキ処理装置により形成されるようになっている。すなわち、ニッケルメッキ層は、前記本体部2を、以下に述べる本体製造装置50の金型51から取り出した後、図示しない無電解メッキ処理装置に収容した後、処理液や処理時間等を制御してメッキ処理されている。
この際、前述のように、セラミック粒体4とアルミニウム5との収縮率の差により生じる凹凸を充分に埋め、高精度の平滑度を有する表面となるように処理が行われる。
【0041】
以上の本体部2は、図3に示すような本体製造装置50により製造される。
本体製造装置50は、金型51と、注湯部53と、加圧装置54、吸引部59とを含み構成されている。
【0042】
金型51は、一対の板状体52A,52Bを含み構成され、これらの板状体52A,52Bの対向面にキャビティ51Aが形成されている。また、例えば一方の板状体52Aは移動型とされ、他方の板状体52Bは固定型となっている。そして、金型51で本体部2が製造され、冷却した後、一方の板状体52Aを、他方の板状体52Bから離れる方向にスライドさせて、本体部2を取り出せるようになっている。
【0043】
注湯部53には、上記キャビティ51Aの上端に連通する湯道53Aが形成されている。この湯道53Aは、セラミック粒体4およびアルミニウム5をキャビティ51A内に導入しやすいように、上方が広くなった漏斗状に形成されている。
【0044】
ここで、固定金型とされる他方の板状体52Bのキャビティ51Aの表面中央部を可動型側にわずかに(例えば25μ程度)膨らました形状としてもよく、この場合、複合材1を被取り付け体にボルト締めにより取り付けるとき、強く締め付けた場合にボルト締めの部位が強く密着し、中央部が被取り付け体から離れる方向に反ることを防止することができる。
【0045】
また、複合材1の被取り付け体への取り付け、固定は、複合材1の例えば4隅に貫通孔をあけ、ボルト締め等により行うのが通常である。この場合、複合材1の本体部2がアルミニウム5と、SiCからなるセラミック粒体4とで形成されているので、複合材1が完成した後に貫通孔をあけようとすると、SiCが硬すぎて工具も傷み、穴加工が困難である。
【0046】
そこで、本実施形態では、予め一方の金型の所定位置に、図示しない治具を埋め込んでおき、この治具に丸パイプ等の貫通穴用部材を取り付け、この状態で金型のキャビティ内にSiCを充填した後、アルミニウム5の溶湯を流し込んで本体部1を形成する。そして、本体部1が凝固した後、金型を開くと、貫通穴用部材が埋め込まれた本体部が完成していることになる。
そのため、複合材を被取り付け体に取り付け、固定する際、既に貫通穴があいており、貫通穴をあける必要がないので、貫通穴をあける手間が省けるとともに、作業工程を早めることができる。
【0047】
金型51の上方には前記加圧装置54が設けられている。この加圧装置54は、金型51の注湯部53の上端面を密閉可能に配置された蓋部材55と、この蓋部材55の上面に設けられ、前記湯道53Aおよびキャビティ51Aに向けてエアを吹き付けるエア供給部56と、このエア供給部56と連結パイプ57を介して連結され、エア供給部56に圧縮空気を供給するエア源としてのコンプレッサー58とを備えて構成されている。
【0048】
蓋部材55は、矢印Aで示すように、注湯部53の上端面に対して装脱可能に設けられている。そして、キャビティ51Aの内部にアルミニウム5の溶湯が流入された直後に移動されて注湯部53の上端面を覆い、湯道53Aの上端部およびキャビティ51Aを密閉することができるようになっている。
【0049】
エア供給部44は、蓋部材55を注湯部53の上端面に被せた後、コンプレッサー58から供給された圧縮空気を、湯道53Aおよびキャビティ51Aの上端に向けて吹き付けるようになっている。これにより、キャビティ51Aの内部に充填されたアルミニウム5の溶湯が加圧される。
なお、エア圧は金型51の大きさ、言いかえれば、キャビティ51Aの大きさ、厚さに対応して適宜調整、制御され、最適の状態でアルミニウム5の溶湯をキャビティ51Aの上方から加圧できるようになっている。
【0050】
また、金型51のキャビティ51Aの下端には前記吸引部59が設けられ、この吸引部59は、真空ポンプPによってキャビティ51A内部の空気が吸引される真空ボックス60を備えて構成され、真空ボックス60はキャビティ51Aに連通している。
なお、金型51の下部と吸引部59との間には、例えばシート状の受け部材(図示しない)が設けられている。この受け部材には、アルミニウム5の溶湯は通さないが、エアを吸引できる極細の孔が多数あけられている。
【0051】
次に、以上のような構成の本体製造装置50を用いて複合材1を製造する方法を説明する。
まず、第1の工程として、金型51のキャビティ51Aの内部に、予めSiCの微粉末を塗したセラミック粒体4を、注湯部53の湯道53Aから流し込んで40〜85容積%充填する。
次いで、キャビティ51A内の空気を真空ポンプPによって吸引しつつキャビティ51A内を真空とした後、第2の工程として、15〜60容積%のアルミニウム5の溶湯を注湯部53の湯道53Aから流し込んでキャビティ51A内に充填させる。
【0052】
次に、第3の工程として、アルミニウム5の溶湯が充填された直後に、蓋部材55を降下させて金型51の上端部、つまり注湯部53の上端面に被せ、キャビティ51Aの上端部および湯道53Aの空間を密閉する。そして、密閉と同時にエア供給部56から圧縮エアをキャビティ51Aに向けて供給し、キャビティ51A内のアルミニウム5の溶湯を所定の圧力で上方から加圧する。
【0053】
以上のように、キャビティ51Aの下方から真空ポンプPによってキャビティ51Aの空気を吸引して真空とすると同時に、キャビティ51A内のアルミニウム5の溶湯を上方から圧縮エアで加圧することにより、アルミニウム5の溶湯は、キャビティ51A内のセラミック粒体4同士の間隙に均一に浸漬して本体部2を形成する。
加圧と吸引との相乗効果により、セラミック粒体4とアルミニウム5とが全体にわたって均一に充填され、また、アルミニウム5が、流れやすいキャビティ51Aの内面に沿っても流入する結果、本体部2の表裏面は後加工しなくてもよい高精度の平滑状態に出来上がる。
【0054】
そして、第4の工程として、形成された本体部2を冷却後に金型51から取り出す。
第5の工程として、本体製造装置50により製造された前記本体部2の表裏面に、図示しない無電解ニッケルメッキ用装置により前記無電解ニッケルメッキ処理が施され、図4に示すように、本体部2の表裏面にニッケルメッキ層(被覆部)3が形成される。
このニッケルメッキ層3は、本体部2の表裏面に厚さ寸法がdとなるようにメッキ時間等が制御されている。そして、厚さdは、例えば10μ〜50μに形成されており、製造された本体部2の前記微細な凹凸を完全に埋めることができる厚さになっている。
【0055】
ニッケルメッキ層3は、金型51から取り出した本体部2の表裏面に所定の前処理を施した後、その本体部2を、無電解ニッケルメッキ用装置に収容し、無電解ニッケルメッキ処理を施して形成される。そして、このニッケルメッキ層3により本体部2の表裏面の微細な凹凸が埋められ、高精度の平滑面となっている。そのため、複合材1をそのままの状態で使用し、被取り付け部材に取り付けることが可能である。
【0056】
図5には、以上のような複合材1の使用状態の一例が模式図として示されている。
この使用例では、ニッケルメッキ層3の表面が、無電解ニッケルメッキ処理された状態のままのものが使用され、研磨加工等の二次加工は行なわれていない。なお、ニッケルメッキ層3の表面は、被取り付け部材との間で要求される密着度を十分に満たす程度の平滑面となっている。
しかし、ニッケルメッキ層3の表面を研磨加工等の鏡面仕上げ加工をしてもよいことは勿論である。そして、鏡面仕上げ加工をすることにより、さらに高精度の平滑面を得ることができる。
【0057】
例えばMPU用のパワー半導体素子65は、A1Nチップ66に固着されており、このA1Nチップ66は、複合材1のニッケルメッキ層3の表面に固着されている。従って、複合材1と、A1Nチップ66および導体回路配線68とが、高精度の密着度で相互に取り付けられている。また、パワー半導体素子65には、ワイヤ67により導体回路配線68が接続されている。
【0058】
以上のような本実施形態によれば、次の効果がある。
(1)複合材1の本体部2が、粒度が比較的大きなセラミック粒体4が40〜85容積%、アルミニウム5が15〜60容積%からなり、セラミック粒体4間の間隙にアルミニウム5が連続相を形成し、かつ、セラミック粒体4とアルミニウム5との界面に隙間がないように形成されており、これらのセラミック粒体4とアルミニウム5とも熱伝導率が大きいため、本体部2の熱伝導率を200W/mK以上にすることができる。その結果、高熱伝導性の複合材1を得ることができ、優れた放熱基板として利用することができる。
【0059】
(2)本体部2が、セラミック粒体4が40〜85容積%を占める構成としたので、複合材1の線膨張係数を9〜12×10−6程度に抑えることができ、複合材1が膨張しにくい。従って、パワートランジスタ等の被取り付け部材に取り付けたとき、互いの膨張率の違いから生じる、繰り返し使用による剥がれ等を防止することができ、複合材1の長寿命化を図ることができる。
【0060】
(3)本体部2が、金型51のキャビティ51A内にセラミック粒体4を収容した後、アルミニウム5の溶湯を、キャビティ51Aの下方から真空ポンプでキャビティ51A内の空気を吸引してキャビティ51A内を真空とするとともに、キャビティ51Aの上方から圧縮エアで加圧してセラミック粒体4間に浸漬させて形成されているので、セラミック粒体4とアルミニウム5との充填密度を、本体部2の全面にわたって均一とすることができる。したがって、本体部2において性能のばらつきを抑えることができる。
【0061】
(4)本体部2の表面に、セラミック粒体4とアルミニウム5との収縮率の違いによる微細な凹凸が形成されていても、無電解ニッケルメッキ処理を施して凹凸を埋める所定厚さのニッケルメッキ層3を形成することができるので、高精度の平滑度を有する平面とすることができる。
【0062】
(5)本体部2の被覆部3がニッケルメッキ層により形成され、その表面は、例えば10〜20μ程度の凹凸となった高精度の平滑面とすることができる。そのため、研磨等の二次加工をせずに、熱伝導率が200W/mK以上ある複合材1を、パワートランジスタ、各種半導体デバイス部品、液晶パネル用のガラス基板、プラズマテレビ製造用の均熱板等の被取り付け部材に対して高精度の密着性を維持して接続させることができる。従って、急速な放熱が可能となり、放熱基板としての機能を充分に果たすことができる。
【0063】
(6)セラミック粒体4には予めSiCの微粉末が塗されているので、セラミック粒体4の粒体間の隙間にアルミニウム5が充填され、収縮する際、セラミック粒体4にまとわりついたSiCの微粉末に、アルミニウム5の収縮時にアルミニウム5を引っ張る作用が生じるため、アルミニウム5の収縮をわずかでも抑えることができる。その結果、セラミック粒体4とアルミニウム5との界面に生じる気孔を少なくでき、より高性能の熱伝導性を有する複合材1とできる。
【0064】
(7)複合材1の熱伝導率を200W/mK以上とすることができ、高熱伝導性のものとなっているので、複合材1を、高熱伝導性が必要な製品、例えば、プロジェクタの熱源である電灯の放熱対策に利用したり、パネルヒータのパネル本体、遠赤外線ヒータの発熱面、及び料理用の器具等に用いたりすることもでき、多方面での利用が可能となる。
【0065】
次に、図6、図7に基づいて本発明の第2実施形態を説明する。
この実施形態および以下の各実施形態において、前記第1実施形態の各部財と同一構成部材には、同一符号を付すとともに、その詳細な説明は省略または簡略化する。
【0066】
本第2実施形態の複合材11は、図6に示すように、前記第1実施形態の本体部2と、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金のうちの一つからなる容器(袋)で形成された被覆部13とを含み形成されている。実施形態ではアルミニウム箔製の袋からなる被覆部13とされ、この袋13内に前記本体部2を収納し、これら13,2を図7に示すHIP処理装置70により、HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加圧加工法)処理して前記複合材11を形成したものである。
【0067】
HIP処理は、アルゴンなどの不活性ガスを圧力媒体として通常100MPa以上の圧力と、1000℃以上の温度との相乗効果を利用して加工処理する技術である。
このHIP処理によれば、高い等方圧力(あらゆる方向から均等に加わる圧力)と、高温との相乗効果を利用することにより拡散現象を生じさせ、被処理物を金属的に一体化させることができる。
【0068】
図7に示すように、HIP処理装置70は、高圧円筒71に上蓋72および下蓋73を取り付けて構成されている。また、HIP処理装置70の内部には断熱層74が設けられ、さらにヒーター装置75が内蔵されている。そして、例えば上蓋72には、ガス供給口72Aが設けられ、このガス供給口72Aから、高温、高圧用のアルゴンガス等の不活性ガスがHIP処理装置70内に注入されるようになっている。
下蓋73には支持台76が設けられ、この支持台76上に、本体部2を収納した袋13が、例えば小突起を有するトレイ状の支持部材(図略)に載せられ、多数段に積層されている。
【0069】
HIP処理は、内部に本体部2を収納した袋13をHIP処理装置70内に収容した後、ガス供給口72Aからアルゴンガス等の不活性ガスを注入して圧力を高めるとともに、ヒーター装置75により不活性ガスを高温にし、設定条件で所定時間継続させる。
ここで、HIP処理装置70の温度は、被処理体としての本体部2のアルミの融点より低い温度に設定することが必要条件であり、融点より10℃以上低い温度が好ましく、実際には、安全性等を考慮して50℃〜100℃低い温度に設定することが一般的である。本実施形態では、例えば500℃で加熱するように設定されている。また、圧力は、例えば1200kgf/cmとされている。
【0070】
次に、以上のような構成の第2実施形態の作用を説明する。
まず、前記金型51において、前記第1〜3工程と同様の工程で製造し、かつ凝固した本体部2を、第4工程として金型51から取り出し、第5工程として図6に示すように、その本体部2をアルミニウム箔製の袋13の中に収納する。このアルミニウム箔としては、例えば0.2〜0.5mmの厚さのものが使用されている。
内部に本体部2を収納した袋13は、第6工程として、図示しない真空吸引装置により内部の空気が吸引されて真空状態とされ、その後、袋13の収納口13Aをロウ付け等により封止する。
【0071】
以上のような本体部2を収納した袋13は、第7工程として、図7に示すように、HIP処理装置70内に収容されてHIP処理が施され、これにより、本体部2と袋13とが金属的に一体化され、本実施形態の複合材11が形成される。
【0072】
なお、以上に説明した第2実施形態の複合材11の使用方法、および後述する第3実施形態の複合材21は、前記第1実施形態の複合材1の使用方法として図5を用いて説明したのと略同じである。また、HIP処理される複合材11は、袋13と本体部2とが、高温、高圧のガスを媒体として等方的に圧縮され、組織が緻密化されるので、本体部2の製造時に、少なくとも下方から真空で吸引されていれば、必ずしも上方から加圧しなくてもよい。
【0073】
以上のような第2実施形態によれば、前記(1)〜(3)、(6)、(7)と略同様の効果の他、次の効果がある。
(8)被覆部を構成する袋13と、その袋13の内部に収納されている本体部2とが、HIP処理装置70により、高温、高圧のガスを媒体として等方的に圧縮されるので、袋13と本体部2とが拡散接合されて一体化される。そのため、組織が緻密化されるとともに、本体部に残留した気孔が略完全に排除されるなど内部欠陥が除去され、かつセラミック粒体4が完全にアルミニウム箔製の袋13で覆われるため、表面に突出することがなくなる。その結果、高品質の複合材を得ることができる。
【0074】
(9)アルミニウム箔製の袋13が被覆部として本体部2を覆い、かつ両者13,2が拡散接合して一体化されているので、アルミニウム箔の厚さを、厚くする等、調整することで、複合材11を完成した後、例えば鏡面仕上げ加工を施すこともできる。その結果、例えば20ミクロン程度の超精密仕上げ面をも得ることができるので、被取付け部品との間で略完全密着接合が可能となり、複合材のもつ優れた性能を略100パーセント生かすことができる。
【0075】
次に、図8に基づいて本発明の第3実施形態を説明する。
本第3実施形態は、前記本体部2を構成するセラミック粒体4に替えて、そのセラミック粒体4と粒形および割合を略同じとして、ダイヤモンド粒体14を利用したものである。
すなわち、複合材21は本体部12と、この本体部12の表裏面を覆い、かつ本体部1 2と一体化された被覆部である前記ニッケルメッキ層3とで構成されている。
【0076】
本体部12は、分散したダイヤモンド粒体14の間に、アルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという)5を隙間なく混入して形成された連続相を有している。複合材21の厚さTは、例えば、3mmとなっているが、この厚さTは、3mmに限定されず、3mm以上でもよく、あるいは3mm以下でもよい。
【0077】
ダイヤモンド粒体14の粒度は比較的大きなものが用いられている。比較的大きな粒度としては、例えば、0.15mm(100meshふるい上)以上あればよいが、製品の厚さなどを考慮に入れると、0.3mm〜2.0mm(48〜9mesh)程度の粒度範囲が好ましい。
【0078】
以上のようなダイヤモンド粒体の容積%は40〜85とされ、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の容積%は15〜60とされている。
【0079】
前記本体部21は、第1実施形態の本体部1の製造と同様に前記本体製造装置50を用いて製造される。
すなわち、本体製造装置50の金型51のキャビティ51A内にダイヤモンド粒体14を収容した後、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯をキャビティ51Aの下方から真空で吸引するとともに、当該キャビティ51Aの上方または外方から圧力を付与しながらダイヤモンド粒14間の間隙に含浸させて形成されている。
【0080】
本体部12の表裏面には、前記第1実施形態と同様に、図示しない無電解ニッケルメッキ用装置により前記ニッケルメッキ層が形成され、このニッケルメッキ層により、前記被覆部3が形成されている。
この被覆部3は、本体部2の表裏面に厚さ寸法がdとなって施工されている。そして、厚さdは、例えば10μ〜50μに形成されており、製造された本体部2の前記微細な凹凸を埋めることができる厚さになっている。
【0081】
以上のような第3実施形態によれば、前記第1実施形態の本体部2がセラミック粒体4で形成されているのに対し、第4実施形態の本体部12がダイヤモンド粒体14で形成されているので、前記(1)〜(7)と略同様の効果の他に、セラミック粒体4に比べてダイヤモンドの熱伝導率がはるかに優れている分を加味した効果が得られる。
【0082】
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記第1実施形態では、本体部2を製造するために、真空ポンプによる吸引と、エア供給部56から吹き出される圧縮エアによる加圧とで行なっているが、これに限らず、例えば、真空ポンプによる吸引と、金型51を振動装置により振動を与えることで加圧する方法でもよい。これによっても、セラミック粒体4とアルミニウム5の溶湯との含浸をより確実にすることができる。
【0083】
また、前記第3実施形態では、複合材21を構成する本体部12をダイヤモンド粒体 14とアルミニウム5とで形成し、被覆部を無電解ニッケルメッキ処理によるニッケルメッキ層で形成したが、これに限らない。ダイヤモンド粒体14とアルミニウム5とで本体部12を形成した後、前記第2実施形態と同様に、内部に本体部12を収納したアルミニウム箔製の袋13で被覆部を構成するとともに、この袋13および本体部12をHIP処理して複合材を形成してもよい。
【0084】
さらに、前記第2実施形態、および上記変形形態では、被覆部を構成する容器としての袋13をアルミニウム箔で形成したが、これに限らない。銅(Cu)箔製の容器を使用してもよい。この場合、銅の熱伝導率が403W/m・Kであるのに対し、アルミニウムの熱伝導率が236W/m・Kなので、銅の方がアルミニウムより格段に熱伝導率がよく、したがって、より熱伝導率のよい複合材を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、MPUやパワーモジュール等の半導体から発生した熱を吸収、放熱する放熱用基板や、基板の表面に薄膜を形成する成膜装置としての、真空蒸着装置、スパッタリング装置、CVD(化学的気相成長)装置等に用いられる放熱用基板あるいは搬送用基板、プラズマテレビ製造用の均熱板、小型パソコン、測定機器等の電子機器に用いられる筐体、ヒートシンク材、さらに、車両の制御部等で発生した熱を吸収、放熱し、あるいは、ブレーキ部等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る複合材の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】前記第1実施形態の複合材を示す平断面図である。
【図3】前記第1実施形態の複合材の本体部を製造する本体製造装置を示す縦断面図である。
【図4】前記第1実施形態の複合材の詳細を示す縦断面図である。
【図5】前記第1実施形態の複合材の使用状態を示す縦断面図である。
【図6】本発明に係る複合材の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図7】前記第2実施形態の複合材を製造するHIP処理装置を示す縦断面図である。
【図8】本発明に係る複合材の第3実施形態を示す縦断面図である。
【図9】一般的な複合材のセラミック粒体とアルミニウムとの関係を示す断面図。
【符号の説明】
【0087】
1,11,21 複合材
2,12 本体部
3,13 被覆部であるニッケルメッキ層
4 セラミック粒体
5 アルミニウムまたはアルミニウム合金
50 本体製造装置
51 金型
51A キャビティ
70 HIP処理装置
P 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較的大きな粒度のセラミック粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、
この本体部と一体形成されるとともに当該本体部の表面を覆い、かつ前記セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との収縮率の違いにより生じる凹凸を埋める熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、
前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記セラミック粒体間に浸漬させて形成され、
前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施して形成されたニッケルメッキ層で構成されていることを特徴とする複合材。
【請求項2】
比較的大きな粒度のセラミック粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、
この本体部と一体形成されるとともに当該本体部の表面を覆い、かつ前記セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との収縮率の違いにより生じる凹凸を埋める熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、
前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、少なくとも前記金型の下方から真空吸引して前記セラミック粒体間に浸漬させて形成され、
前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部を収納したアルミニウム、アルミニウム合金および銅のうちの一つからなる容器で形成され、当該容器はその内部を真空状態とした後、HIP処理装置内に収容されるとともに、その装置内でHIP処理されて前記本体部と一体的に接合されることを特徴とする複合材。
【請求項3】
比較的大きな粒度のダイヤモンド粒体が40〜85容積%、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方が15〜60容積%からなる板状の本体部と、
この本体部と一体形成されるとともに当該本体部の表面を覆い、かつ前記セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との収縮率の違いにより生じる凹凸を埋める熱伝導性に優れた被覆部とを含み形成され、
前記本体部が、底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記ダイヤモンド粒体を充填した後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を前記キャビティの上方から当該キャビティ内に流し込むと同時に、前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記ダイヤモンド粒体間に浸漬させて形成され、
前記被覆部が、前記本体部を前記金型から取り出した後、前記本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施して形成されたニッケルメッキ層で構成されていることを特徴とする複合材。
【請求項4】
比較的大きな粒度のセラミック粒体と、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方からなる本体部と、この本体部と一体形成されるとともに当該本体部の表面を覆い、かつ前記セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との収縮率の違いにより生じる凹凸を埋める熱伝導性に優れた被覆部とを含む複合材の製造方法であって、
底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を40〜85容積%充填する第1の工程と、
この第1の工程の後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を15〜60容積%流し込む第2の工程と、
この第2の工程の後、前記溶湯を流し込むと同時に前記金型の下方から真空吸引するとともに前記キャビティの上方から加圧して前記セラミック粒体間に浸漬させて本体部を形成する第3の工程と、
この第3の工程の後、前記本体部の凝固後、その本体部を前記金型から取り出す第4の工程と、
この第4の工程の後、前記金型から取り出した本体部の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施してニッケルメッキ層を形成して前記被覆部を形成する第5の工程、とを有することを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項5】
比較的大きな粒度のセラミック粒体と、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方からなる本体部と、 この本体部と一体形成されるとともに当該本体部の表面を覆い、かつ前記セラミック粒体とアルミニウムまたはアルミニウム合金との収縮率の違いにより生じる凹凸を埋める熱伝導性に優れた被覆部とを含む複合材の製造方法であって、
底部にエアのみを通過させるシート部材を配置した金型のキャビティ内に前記セラミック粒体を40〜85容積%充填する第1の工程と、
この第1の工程の後、前記アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれか一方の溶湯を15〜60容積%流し込む第2の工程と、
この第2の工程の後、前記溶湯を流し込むと同時に少なくとも前記金型の下方から真空吸引して前記セラミック粒体間に浸漬させて本体部を形成する第3の工程と、
この第3の工程の後、前記本体部の凝固後、その本体部を前記金型から取り出す第4の工程と、
この第4の工程の後、前記金型から取り出した本体部を、被覆部を構成するアルミニウム、アルミニウム合金および銅のうちの一つからなる容器に収納する第5の工程と、
この第5の工程の後、前記容器の内部を真空にするとともにその容器の開口部を封止する第6の工程と、
この第6の工程の後、内部に前記本体部を収納した状態で前記容器をHIP処理装置内に収容してHIP処理を行い前記容器と本体部とを一体接合させ、前記容器により前記被覆部を形成する第7の工程、とを有することを特徴とする複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−247058(P2007−247058A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31850(P2007−31850)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(301076681)
【出願人】(501491413)
【Fターム(参考)】