説明

複合材料及び半導体搭載用放熱基板、及びそれを用いたセラミックパッケージ

【課題】 低熱膨張率で且つ従来以上の高熱伝導率を備えると共に、塑性加工(圧延加工)性の向上、プレス打ち抜き時の破断面の平滑性の向上、半導体素子と放熱基板をハンダ付けした際の密着性の向上とハンダ流れの防止、更に放熱基板の軽量化とコスト性に優れる半導体装置用放熱基板を提供すること。
【解決手段】 複合材料は、30〜70質量%のCuと残部が実質的にMoとからなる複合合金を芯材10とし、前記芯材10の上下主平面に夫々Cu板をクラッドしてCu/Cu−Mo複合合金/Cuの構造を形成したクラッド材である。前記複合合金は、Cuプール相3とMo−Cu合金相2で形成されてなる。半導体搭載用放熱基板は、複合材料を用いたもので、この基板は予め10mm当たり15μm以下の反りが付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅プール相を有する銅−モリブデン複合合金を芯材とし、その塑性加工された上下の主平面(圧延面)に、さらに銅板をクラッド(圧接とも云う)した複合材料に関し、更に、詳しくは、銅プール相を有する複合合金を芯材に用いることによって、特に熱伝導率の向上や塑性加工(圧延)性の向上、さらに打抜き加工性の向上、軽量化、低コスト化を図った複合材料及び半導体搭載用放熱基板、及びそれを用いたセラミックパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体搭載用放熱基板としては、タングステン−銅系及び、モリブデン−銅系材料が好適に用いられている。その理由は、半導体素子のSiやGaAs並びに各種パッケージ材料、特にアルミナ、ALNと熱膨張係数を整合させることができ、高集積化、小型化に対応できる特長を持っているためである。
【0003】
半導体搭載用放熱基板に要求される特性をさらに詳しく述べると、(ア)搭載した半導体素子から発生される熱を効率よく放熱するため、高い熱伝導率を有すること。(イ)熱応力を極力小さくするため、半導体素子や各種パッケージ材料と熱膨張係数が近似していること。(ウ)パッケージの気密性維持や接合部の劣化防止などの信頼性を確保し、且つ、所望の放熱性などを確実にするため、空孔や亀裂などの欠陥が存在しないこと。(エ)当該放熱基板を所望のサイズにプレスで打抜き加工した際に断面が平滑であること。(オ)更に半導体素子に放熱基板をハンダ付けした際の良好な密着性、が挙げられる。
【0004】
従来より提供されている半導体搭載用放熱基板には、特許文献1に示されるタングステン−銅系、またはモリブデン−銅系などの2相合金がある。
【0005】
この技術は、1〜50%の気孔率を有するタングステンまたはモリブデンの強固な中間焼結体(多孔質の焼結体)を得て、当該気孔に銅を溶浸し所望の複合合金を作製するものである。この複合合金の合金組成が、例えば銅40重量%−タングステン60重量%の場合、熱膨張係数11.8×10−6/℃、熱伝導率0.73cal/cm.sec.℃(=305W/m・K)が得られている。また、銅50重量%、モリブデン50重量%の場合、熱膨張係数11.5×10−6/℃、熱伝導率0.66cal/cm.sec.℃(=276W/m・K)が得られている。以下の明細書の記載において、タングステンを単に「W」、モリブデンを「Mo」、銅を「Cu」と表記する。
【0006】
また、特許文献2において、Mo板の両面にそれぞれCu板を一体に接合(クラッドと同意語)したCu/Mo/Cuからなる放熱基板(一般にCMCと称す)が提案されている。
【0007】
この技術によれば、芯材となるMo板および各Cu板の厚さを0.03〜0.3mmの範囲内に設定することで、200〜260W/m・Kの熱伝導率が得られ、且つ接合される半導体素子にクラックや反り発生が少なくできる、と記載されている。
【0008】
また、前述した特許文献1の技術を改良した特許文献3において、WまたはMoの多孔体にCuを溶浸した芯材(W−Cuまたは、Mo−Cu)の両面にCu板を接合したCu/W−Cu/Cu及びCu/Mo−Cu/Cuからなる放熱基板が提案されている。
【0009】
この技術によれば、芯材の合金組成が例えば、Mo−Cu10wt.%の場合、熱膨張係数10.5×10−6/℃、熱伝導率330W/m・Kが得られる、と記載されている。
【0010】
上記の各技術においては、熱膨張係数や熱伝導率は所望の値を得ることができる。しかし、下記の(i)から(vi)に示される問題点がある。
【0011】
(i)WやMoは延性に乏しく、多量に用いると塑性加工(圧延加工)性が悪くなる。
【0012】
(ii)また、プレスによる打ち抜き加工時に、破断面(切断面)が平滑にならない。
【0013】
(iii)また、半導体素子に放熱基板をハンダ付けした際に、反りが生じて良好な密着性が得られない。
【0014】
(iv)また、半導体素子に放熱基板をハンダ付けした際に、ハンダが表面傷部に沿って流れ出て例えばALNの接合が不安定になり接合信頼性を損なうことがある。
【0015】
(v)近年、例えば電気自動車のインバーターでは、大きな発熱を伴う大容量の半導体素子が用いられるため、低熱膨張率と高熱伝導率を備えることは勿論、特に軽量化された放熱基板が求められているが、WやMoは密度が高く、これを多量に用いる上記の何れもの従来技術では放熱基板の軽量化には限界がある。
【0016】
(vi)一方、放熱基板材料に用いるWやMoは希少金属のため高価であることや、近時は、特にMo原料が高騰傾向にあるため、生産コスト及び供給面での問題が顕在化している状況にある。
【0017】
そこで、放熱基板としての特性を維持し、且つ、Mo使用量を減らす技術の提供が強く求められている。
【0018】
【特許文献1】特公平2−31863号公報
【特許文献2】特開平5−29507号公報
【特許文献3】特開平6−268117号公報
【特許文献4】国際公開第2004/038049号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の一般的な技術的課題は、低熱膨張率で且つ従来以上の高熱伝導率を備えると共に、塑性加工性、例えば、圧延加工性の向上、プレス打ち抜き時の破断面の平滑性の向上、半導体素子と放熱基板をハンダ付けした際の密着性の向上とハンダ流れの防止、更に近時の要求、即ち、放熱基板の軽量化とコスト性に優れる半導体装置用放熱基板を提供することにある。
【0020】
本発明の具体的な技術的課題は、上記の課題を満足するCuをクラッドしたCu/Cu−Mo/Cuなる構造を備えた複合材料及び半導体搭載用放熱基板、及びそれを用いたセラミックパッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは先に、特許文献4にて、Mo−Cu複合圧延材料において、Mo−Cuの合金構造を変えることによりMo含有量が少なくても、熱伝導が高く、且つ、熱膨張が小さい材料を提供する技術を開示した。
【0022】
この材料の構造は、材料中にCuプール相とCu−Mo複合相とを含むため熱特性が優れている。
【0023】
しかし、上記材料は、一方向(X方向)のみの圧延であり、その圧延方向にCuプール相とCu−Mo複合相が繊維状に伸びているため、プレスで所望の形状に打ち抜きを行うと、圧延方向の破断面が歪み、凹凸が激しく平滑な破断面が得られない。ときにはクラック状になる場合がある。この結果、寸法精度あるいは、ニッケルめっき後、当該打抜き破断面にシミなどが発生するため適用が限られている。
【0024】
本発明者らは、Cu/Cu−Mo/Cuの複合材料の芯材となるCu−Mo材に、上記の合金構造材を適用することにより、熱膨張が小さく、且つ熱伝導が高くできること。また、X方向とY方向の合金組織を等しく形成することで、プレスの打ち抜き破断面も平滑で寸法精度が向上、また、めっき後のシミなど実使用上も問題がなく、さらに全体としてMo使用量を少なくできることを確認し本発明を完成するに到った。
【0025】
即ち、本発明の複合材料及び半導体搭載用放熱基板、及びそれを用いたセラミックパッケージは、次の通りの特徴を有している。
【0026】
また、本発明によれば、30〜70質量%の銅(Cu)と残部が実質的にモリブデン(Mo)とからなる複合合金を芯材とし、前記芯材の上下主平面に銅板を夫々クラッドして銅/銅−モリブデン複合合金/銅なる構造を形成したクラッド材であって、前記複合合金は、銅プール相とモリブデン−銅合金相で形成されていることを特徴とする複合材料が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、前記複合材料において、前記芯材となる複合合金の銅プール相が5〜30質量%であることを特徴とする複合材料が得られる。
【0028】
本発明によれば、前記いずれか一つの複合材料において、前記芯材となる複合合金の中の銅プール相の粒子径が30〜200μmであることを特徴とする複合材料が得られる。
【0029】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの複合材料において、前記複合合金中のモリブデン粒子及び銅プール相は、前記主平面から見ると円板状に略等しく延ばされており且つX及びY方向から板の端面を見ると扁平に押し潰されて形成されていることを特徴とする複合材料が得られる。
【0030】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの複合材料において、前記芯材及び銅板のクラッド材は塑性加工によって形成されていることを特徴とする複合材料が得られる。
【0031】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの複合材料において、前記銅/銅−モリブデン複合合金/銅のクラッド材の各層厚の比率が1:1:1〜1:5:1からなることを特徴とする複合材料が得られる。
【0032】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの複合材料において、前記銅/銅−モリブデン複合合金/銅のクラッド材の上下銅層の厚みをそれぞれS上、S下としたときに、その比を1.0<S上/S下<1.5の範囲としたことを特徴とする複合材料が得られる。
【0033】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの複合材料を用いた半導体搭載用放熱基板であって、前記基板は予め10mm当たり15μm以下の反りが付与されていることを特徴とする半導体搭載用放熱基板が得られる。
【0034】
また、本発明によれば、前記半導体搭載用放熱基板において、前記基板の面粗度がRa1.0以下であることを特徴とする半導体搭載用放熱基板が得られる。
【0035】
また、本発明によれば、前記いずれか1つの半導体搭載用放熱基板を用いていることを特徴とするセラミックパッケージが得られる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る複合材料及びそれを用いた放熱基板によれば、半導体素子のSiやGaAsならびに各種パッケージ材料、特にアルミナあるいはALNと熱膨張係数を簡単且つ精密に整合させることができる。
【0037】
本発明の複合材料及びそれを用いた放熱基板によれば、低熱膨張率で且つ従来以上の高熱伝導率を備えると共に、軽量化に優れるため、移動体通信関係のマイクロ波、光関係の放熱基板として、あるいは、大きな発熱を伴う大容量の半導体素子が用いられる電気を駆動力とする自動車のインバーター用放熱基板として好適に使用できる。
【0038】
本発明の複合材料及びそれを用いた放熱基板によれば、塑性加工性、例えば、圧延加工性やプレス打ち抜き時の寸法精度や破断面の平滑性が向上する。さらに、打抜き破断面の平滑性の向上によってニッケルめっき後のシミの発生が解消されるため、生産性向上に大きく寄与する。
【0039】
本発明の複合材料及びそれを用いた放熱基板によれば、半導体素子と放熱基板をハンダ付けした際の密着性の向上とハンダ流れが防止できるため、例えばALNの接合が安定になり接合信頼性が向上する。
【0040】
本発明の複合材料及びそれを用いた放熱基板によれば、特に、高価なWやMoの使用量、つまり含有量を少なくできるため、低コストの放熱基板を提供できる。さらに、WやMoの原料高騰下においても安定して提供できるため、工業的意義は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に、本発明の複合材料及び半導体搭載用放熱基板の実施の形態について説明する。
【0042】
図1は本発明の実施の形態による銅/銅−モリブデン複合合金/銅の複合材料を示す斜視図である。図1を参照すると、複合材料20は、銅−モリブデン複合合金の芯材10の両面に銅11を圧延等の塑性加工によって形成してなる。
【0043】
図2は図1の芯材の塑性加工前の状態を示す概略斜視図である。図2を参照すると、芯材10は小さなモリブデン粒子1と銅2とによって形成された複合相の空隙に銅が溶浸されて、大きな粒子からなる銅プール相3が形成されている。
【0044】
図3は、図1の芯材の塑性加工後の状態を示す概略斜視図である。図3を参照すると、芯材10は、塑性加工を施されて、複合相中のモリブデン粒子1と銅プール相3が押しつぶされて、主平面から見ると円板状に且つX方向及びY方向の断面から見ると扁平に形成されている。
【0045】
次に、本発明の半導体搭載用放熱基板の具体的製造工程について順を追って説明する。
【0046】
I.粉末の混合:
先ず、芯材となるMo−Cu合金の製造方法について説明する。
【0047】
30〜200μmのCu粉末と1〜10μmのMo粉末をCu5〜30質量%で秤量し、次いで、V型ミキサーで混合する。
【0048】
混合はV型ミキサー等で均一混合する。なお、粉砕混合ではCu粉末が変形し、Cuプール形状も変化するため好ましくない。
【0049】
II.成形体の作製及び空隙量の調整:
次に、上記の混合粉末をプレスで成形する。空隙量は成形時の圧力によって調整する。圧力が設備能力を超える場合には、800〜1400℃の還元ガス雰囲気中で中間焼結して空隙量を調整する。
【0050】
なお、混合粉末の成形は、プレスあるいはCIP成形いずれでも可能であり、最終形状によって適宜選択できる。
【0051】
III.Cuプール相の形成:
上記のプレスによる成形体、あるいは中間焼結による中間焼結体の空隙量に対しCu板を配し、1400℃までの温度範囲で、好ましくは1150〜1300℃の水素雰囲気中で加熱し、溶融したCuを空隙内に溶浸させて各種組成のCu−Mo複合合金を得る。
【0052】
上記の空隙にCuを30〜70質量%溶浸させることによりCu粉末部分がCuプール(溜まり)となり、Cuプール相の比率が5〜30%からなる芯材用素材としての本発明のMo−Cu合金を得る。
【0053】
図2に示すように、芯材10としてのモリブデン粒子1及び銅2からなるCu−Mo中間焼結体(複合相)の空隙部に溶浸によるCuプール相3が形成されている。
【0054】
IV.芯材の作製:
上記で得たCu−Mo複合合金からなる芯材10の素材に加工率30〜98%の冷間圧延ロールあるいは温間圧延ロールにて塑性加工(温間圧延温度は後述)を施し、図3に示す所定の厚みを有するMo−Cu複合圧延板を得る。
【0055】
図3を参照すると、上記の塑性加工は、Cu板をクラッドした後の芯材10の加工度が等しくなるように圧延方向及び、この圧延方向と直角の方向への加工度、つまり、クロス率を調整する。このクロス率の調整によって、圧延された芯材(板状)10の面内でのCuプール相3及び複合相中のMo粒子1を芯材10の主平面から見て円板状に略等しく延ばすことができ、且つX及びY方向から板の端面を見ると扁平に押し潰し形成することができる。この結果、熱膨張係数を等方的にし、且つ、打抜き時の破断面を平滑にすることができる。
【0056】
なお、上記の加工率とは、加工量/初期形状×100%(加工量=初期形状−加工後形状)のことである。
【0057】
Mo−Cu複合圧延板のクロス率(例えばクロス率50%とは、圧延面の互いの直角方向の加工率が同じことを指す)は20〜80%になるように、クラッドの前後で途中クロス圧延する。
【0058】
クロス率が20%未満、あるいは80%を超えるとプレスによる打ち抜き時の破断面が2次剪断を伴なったり、層状クラックが発生する。従って、クロス率の望ましい範囲は20以上、80%以下である。
【0059】
芯材の表面の酸化物はブラシなどを用いて除去し、且つ、還元性雰囲気中700〜850℃でアニールして表面の清浄化を行う。
【0060】
V.銅板のクラッド(圧接)加工:
次に、上記で得た芯材の上下の各主平面にCu板を配置し、還元雰囲気中700〜950℃にて、加熱し、加工率10〜50%の塑性加工(圧延加工)を施して、図1に示す所定の厚みのCuクラッド板を得る。
【0061】
加熱温度が700℃以下では圧接後に剥がれが生じやすく、また、950℃以上ではCuクラッド後のCPCの層比が場所によって変化が起こり特性が安定しないためである。
【0062】
加工率10%未満ではCuクラッド後剥がれが生じやすく、また、50%を超えるとCuクラッド後のCPCの層比が場所によって変化し、安定しないためである。
【0063】
トータルの加工率を選択することによってCuクラッド板の熱膨張係数を概ねALNやGaAsの熱膨張係数と合致させることができる。得られたCuクラッド板は、ALNやGaAs等の半導体素子とロー付けあるいはハンダ接合され、外囲材とビス止めを行う。
【0064】
この外囲材とのビス止めで放熱性を損なう空間をなくするために、クラッドする上下Cu板の板厚比を1.0<S上/S下<1.5の範囲で変化させる(S上、S下は上下銅板の各々の厚みを示す)。
【0065】
あるいは、Cuクラッド板を後述の打抜き加工した後、予め反りを長さ10mm当たり15μm以下に付与せしめてロー付けあるいはハンダ付け後の反りを調整する。
【0066】
VI.冷間圧延及びプレス打抜き
Cuクラッド板の表面スケールを除去した後、冷間圧延にて所定の厚みにし、打ち抜きプレスして最終形状に打ち抜きする。
【0067】
VII.めっき前の面粗度仕上げ:
上記の打ち抜き後、砥粒入りブラシ(商品名:デュポン社 タイネックスTX−C)にて研磨を行い所定の面粗度に仕上げる。
【0068】
めっき前のCu板面の面粗度はRa1.0以下にする必要がある。その理由はCu板面の面粗度がRa1.0を超えるとロー材あるいはハンダ流れが調整できず、ロー材あるいはハンダが表面傷部に沿って流れ出てALNの接合が不安定になり接合信頼性を損なうことがあるためである。ロー材あるいはハンダを調整できる好ましい面粗度は、実験によりRa1.0以下が好ましいことが判明した。
【0069】
この面粗度はブラシ研磨後の粗さが製品の粗さを支配するため、前述のとおりRa1.0以下にすることが必要である。
【0070】
VIII.めっき:
次に、Cu/Cu−Mo/Cuをプレスによって打ち抜いて得られた板の平面部にニッケルめっきを施し放熱基板を得る。ニッケルめっきを行う理由は、Cuの酸化による経時変化の防止およびハンダの流れを良くするためである。ニッケルめっき厚は2〜8.5μmが好ましい。2μm未満ではロー材あるいはハンダの濡れが安定しないためである。
【0071】
通常、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの場合には、この面にALNとのハンダ付けを行う。
【0072】
次に、本発明の複合材料が有する特性等について説明する。
【0073】
Mo−Cu複合合金の合金構造をCuプール相とMo−Cu複合相の2相の構成にすることで、Moの含有量を少なくでき、且つ熱伝導率を維持しながら、熱膨張係数が大幅に低下させることができる。
【0074】
例えば、下記表1の試料1に示すとおり、Mo粒子が均一に分散した70%Mo−30%Cu合金(以下、均一分散Mo−Cu合金をPCMと称し、その中で30%Cuを含むものをPCM30と称する)を90%圧延加工した複合圧延板の熱膨張係数は7×10−6/℃で熱伝導率は200W/m・Kである。
【0075】
なお、このPCMの作製方法は、Mo圧粉体にCuを含浸して放熱基板材料を得る技術であり、本出願人の特許文献4に開示した実施例に準じて作製した。
【0076】
また、下記表1の試料3に示すとおり、Cuプール相を10%有する70%Mo−30%Cu合金(以下、Cuプール相を有するMo−Cu合金をLCMと称し、30%CuでCuプール相を10%有するものをその数値を採って、LCM30−10と称する)を90%圧延加工した圧延板の熱膨張係数は6.2×10−6/℃と低下し、熱伝導率は200W/m・Kとなる。
【0077】
Cuプール相の量は、研磨加工を施した試料断面を50倍の光学顕微鏡写真を撮り、同視野中のCuの部分を画像処理してその中のCuプール相に該当する視野の面積比率を出し、これを分析された全Cu量値との結果より算定した値である。
【0078】
また、下記表1の試料1と試料4の比較から分かるとおり、Mo粒子が均一に分散した70%Mo−30%Cuと同一の熱膨張係数となるCuプール相を有するLCMの組成はCuプール相が10%のLCM40−10でよく、Cu含有量が多いことから熱伝導率が222W/m・Kと約一割高い。
【0079】
このLCM40を芯材として上下に銅を被せ層比を2:3:2にてクラッドする(以下、Cu/Cu−Mo/Cuクラッド材をその数値を採って、CPCと称し、層比を3桁で示し、芯材のCu%が40%でCuプール相が10%のクラッドをCPC232(40−10)と称する)ことにより、熱膨張係数は7.5×10−6/℃、熱伝導率310W/m・Kとなり、パッケージ材料として汎用されているアルミナとの組み合わせで許容できる熱膨張の範囲を確保できる。
【0080】
一方、Moが均一に分散したPCMの場合、CPC232(40−10)と同じ熱膨張係数を得るためには、PCM30を芯材とするCPC232(30)となる。
【0081】
従って、熱膨張係数をアルミナと整合させるため、例えば、7.5×10−6/℃に定める場合、従来のMo−Cu焼結合金では芯材は70Mo−30Cu合金が必要で、必然的にコスト高で熱伝導率も255W/m・Kと低くなる。
【0082】
しかし、本発明のLCMを芯材に用いることによって、60%Mo−40%Cuの少ないMo含有量でよく、しかもCu含有量の増加によって熱伝導率は310W/m・Kと増加した放熱基板を得ることができる。
【0083】
このようにLCMを芯材に用いた本発明のCPC放熱基板は、Moが均一に分散したMo−Cu合金つまり、PCMを芯材とする試料番号6及び15のCPCに比べ、熱膨張率が同一でありながら熱伝導率を増加させることができ、且つMo含有量を減らしCu含有量を増加させることが出来るため、より低コストの放熱基板を提供することが可能となる。
【0084】
また、本発明の放熱基板では、Mo含有量の低減によりMo−Cu複合合金の密度が低くなり、同程度の熱膨張を持つW−Cu合金あるいはMo−Cu合金に比べ密度が低くなるので半導体装置の軽量化が可能となる。
【0085】
さらに、同一の熱膨張率を持つMo−Cu合金に比べ熱伝導率が高いため、合金体積を減少できるので半導体装置の軽量化が可能となる。
【0086】
本発明に関わる芯材のMo−Cu複合合金のCu含有量は、放熱基板としてMo基板に比べて利用価値のある30質量%以上であり、且つ、熱膨張係数の点で放熱基板として通常利用できる範囲を考慮して70質量%以下とする。
【0087】
特に、パッケージ材料として最も広く使用されているアルミナと組み合わせる場合には、熱膨張係数の整合を得るためCu含有量を40〜60質量%とすることが好ましい。
【0088】
また、前述のとおり、Cu−Mo複合合金中のCuプールの大きさは30〜200μmが好ましい。30μm以下では熱伝導向上効果が少なく、200μm以上ではCuプール分散がまばらになるため場所による熱伝導、熱膨張のバラツキが大きくなるためである。
【0089】
同じく、Cuプール相の量は、CuプールとMo−Cu複合相の合計に対し5〜30質量%が好ましい。5質量%以下では熱伝導向上効果が少なく、Mo−Cu複合相中のMo量が多く熱膨張が低くなるが、30質量%以上ではMo−Cu複合相の絶対量が少なくなり、結果として熱膨張が大きくなるためである。
【0090】
これらCuプール相を持つ焼結合金の熱膨張係数は、Cuプール量の大きさと塑性加工の加工率で精密に調整することができる。但し、全加工率については99%以下、いずれでも特性上問題はない。
【0091】
しかし、99%を超えると塑性加工の幅方向端での割れが生じやすくなるので99%以下が好ましい。
【0092】
Cu層とMo−Cu複合合金基材の比率は1:1:1〜1:5:1が実用範囲である。Cu層比率が1:1:1以下になると熱膨張係数が大きくなりすぎアルミナとのマッチングが悪くセラミックの破壊が起きる。また、1:5:1を超えるとCuをクラッドして熱伝導率を向上させる効果が少なくなるためである。
【0093】
クラッドする上下Cu板の板厚比は1.0<S上/S下<1.5の範囲である。上下Cu板の板厚比が1.5を超えるとロー材あるいはハンダ接合後の反りが多くなりすぎビス止めなどで、アルミナ、ALNが破壊するため1.5を超えないことが好ましい。
【0094】
反りの付与について、ロールレベラー(例えば、理工社製 上4本、下5本ローラータイプ)にて、長手方向、短手方向に反りを長さ10mm当たり15μm以下付与せしめる。15μmを超えると接合後の反りが大きくなり同様にALNが破損しやすくなるためである。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0096】
(実施例1)
平均粒径100μmのCu粉末と平均粒径3μmのMo粉末を20〜60%Cu−残部Moの割合でV型ミキサーにて30分混合した。混合粉末を39.2〜245MPa(0.4〜2.5ton/cm)でプレス成形し、型押密度が4.6〜8×10kg/m(g/cm)からなる50×100×10mmの成形体を作製した。この成形体に空隙量に対し1.1倍のCu板を配し1300℃、水素雰囲気中で加熱し、溶融したCuを成形体の空隙内に溶浸させて各種組成のCu−Mo合金(LCM30−10、LCM40−10と20、LCM50−10と20、LCM60−20、LCM70−20)を得た。
【0097】
この合金の表面の余剰Cuや汚れを除去するためホーニングした後、250℃で温間圧延加工により加工率60%の塑性加工をそれぞれ施した。LCM30−10、LCM40−10と20に塑性加工後の圧延体から試料片を切り出し、熱伝導率及び熱膨張係数を測定した。その結果を下記表1に示す。尚、熱伝導率は塑性加工の前後で変化はなかった。
【0098】
【表1】

【0099】
上記の熱伝導率の測定は、真空理工製熱定数測定装置TC−3000型を用い、レーザーフラッシュ法によって板状試片にてその厚み方向で計量した値である。
【0100】
熱膨張係数の測定は、圧延方向に切り出した板状試片の平面で計量された値で、ブルカー・エイエックス(株)横型熱膨張測定装置TD5000Sを用い測定した。
【0101】
この圧延板の上下に銅板をリベットで固定し、900℃、水素雰囲気中で30分加熱し、その後、25%圧下率でクラッドした。芯材の圧延板とCu板の比率を1:4:1及び2:3:2の2種に変化させた。
【0102】
Cuをクラッドした板の表面の酸化皮膜をブラシで研磨除去した後、厚み3mmまで冷間圧延を行った。その後、打ち抜き加工を施し砥粒入りブラシにて研磨を行い表面粗度をRa0.5とし、放熱基板を作製した。この打ち抜き体の端面は平滑であり、Niめっき後もシミがなく良好であった。また、この3mmの圧延体から試料片を切り出し、熱伝導率とX方向及びY方向の熱膨張係数を測定した。この結果を上記表1に示す。
【0103】
尚、比較のため、銅を予配合せずに、その他は上記実施例と同一の方法、条件にて製作した均一分散の30%.40%Cu−Mo合金(PCM30、PCM40)を用いCuクラッド材を作製し、実施例1と同様に熱伝導率と熱膨張係数を測定した。
【0104】
上記表1の試料6と7の比較及び15と16の比較から分かるとおり、最終組成のCu量が同一でも本発明材に用いられる合金構成にすることにより、熱膨張係数は0.8×10−6/℃程度低くなる。
【0105】
また、アルミナの熱膨張係数に近い7.5×10−6/℃の特性はCPC232(40−10)で達成でき、従来の均一分散タイプのCPC232(PCM30)に比べ熱膨張係数は同一でも熱伝導率が55watt高く、密度も50kg/m(×10−3g/cm)と低く、且つ、全体のMo含有量も4.3%少なくできるため軽量化、低コスト化も可能であることが分かる。
【0106】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、銅板の上下厚みのみを変化させたCPC232(LCM40−10)を作製した。
【0107】
この圧延板から10×40mmサイズの試験片を切り出し、ニッケルめっきを施して、99.5%以上のアルミナを含むセラミックス枠(一方の面をタングステンでメタライズした後、ニッケルめっきしたもの)とを銀−銅の共晶組成の銀ローにて850℃に加熱ロー付けし、CPC板の反りを測定した値を表2に示す。
【0108】
また、上下銅層が等しいCPC232(LCM40−10)圧延板に対し前述のロールレベラーにて、長手方向に反りを付与した。
【0109】
この圧延板から10×40mmサイズの試験片を切り出し、ニッケルめっきを施し、上記と同様にロー付けして、反りを測定した値を合せて下記表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
本例によって、接合する上下銅板の板厚比が1.5以下であれば実用的に問題が無いことが確認できた。
【0112】
また、長手方向に反りを10mm当たり15μm付与することで、ハンダ接合後の反り及び、ALNに破損が発生しないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る複合材料は、セラミックパッケージ等の半導体パッケージにおける半導体搭載用放熱基板に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態による銅/銅−モリブデン複合合金/銅の複合材料を示す斜視図である。
【図2】図1の芯材の塑性加工前の状態を示す概略斜視図である。
【図3】図1の芯材の塑性加工後の状態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0115】
1 モリブデン粒子
2 銅
3 銅プール相
10 芯材
11 銅
20 複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜70質量%の銅(Cu)と残部が実質的にモリブデン(Mo)とからなる複合合金を芯材とし、前記芯材の上下主平面に銅板をクラッドして銅/銅−モリブデン複合合金/銅なる構造を形成したクラッド材であって、前記複合合金は、銅プール相とモリブデン−銅合金相で形成されていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料において、前記芯材となる複合合金の銅プール相が5〜30質量%であることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材料において、前記芯材となる複合合金の中の銅プール相の粒子径が30〜200μmであることを特徴とする複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3の内のいずれか1つに記載の複合材料において、前記複合合金中のモリブデン粒子及び銅プール相は、前記主平面から見ると円板状に略等しく延ばされており且つX及びY方向から板の端面を見ると扁平に押し潰されて形成されていることを特徴とする複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4の内のいずれか1つに記載の複合材料において、前記芯材及び銅板のクラッド材は塑性加工によって形成されていることを特徴とする複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5の内のいずれか1つに記載の複合材料において、前記銅/銅−モリブデン複合合金/銅のクラッド材の各層厚の比率が1:1:1〜1:5:1からなることを特徴とする複合材料。
【請求項7】
請求項1〜6の内のいずれか1つに記載の複合材料において、前記銅/銅−モリブデン複合合金/銅のクラッド材の上下銅層の厚みをそれぞれS上、S下で表したときに、その比を1.0<S上/S下<1.5の範囲としたことを特徴とする複合材料。
【請求項8】
請求項1〜7の内のいずれか1つに記載の複合材料を用いた半導体搭載用放熱基板であって、前記基板は予め10mm当たり15μm以下の反りが付与されていることを特徴とする半導体搭載用放熱基板。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体搭載用放熱基板において、前記基板の面粗度がRa1.0以下であることを特徴とする半導体搭載用放熱基板。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の半導体搭載用放熱基板を用いていることを特徴とするセラミックパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−142126(P2007−142126A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333500(P2005−333500)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】