説明

記憶素子及びメモリ

【課題】 記憶素子に流す電流の極性を変えなくても情報の記録を可能にすることにより、構造を簡素化することができるメモリを提供する。
【解決手段】 記憶層5に対して中間層4を介して磁化固定層3が設けられ、記憶層5に対して、非磁性層6を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層7が設けられ、積層方向に電流を流すことにより、記憶層5の磁化M2の向きが変化して記憶層5に対して情報の記録が行われる記憶素子10と、この記憶素子10に対して積層方向の電流を流す電流供給手段とを備え、電流供給手段から記憶素子10に電流が供給される時間の長さにより、記録される情報の内容が変わるメモリを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性層の磁化状態を情報として記憶する記憶層と、磁化の向きが固定された磁化固定層とから成り、電流を流すことにより記憶層の磁化の向きを変化させる記憶素子、及びこの記憶素子を備えたメモリに係わり、不揮発性メモリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、特に携帯端末等の個人用小型情報機器の飛躍的な普及に伴い、これを構成するメモリやロジック等の素子には、高集積化、高速化、低消費電力化等、さらなる高性能化が求められている。
特に、半導体不揮発性メモリの高速化・大容量化は、可動部分の存在等の理由により本質的に小型化・高速化・低消費電力化が困難な磁気ハードディスク等と相補的な技術として、また電源投入と同時にオペレーションシステムを立ち上げるいわゆる「インスタント・オン」等の新しい機能の実現に向けて、ますます重要になってきている。
【0003】
不揮発性メモリとしては、半導体フラッシュメモリやFeRAM(強誘電体不揮発メモリ)等が実用化されており、さらなる高性能化に向けての活発な研究開発が行われている。
【0004】
最近、磁性体を利用した新しい不揮発性メモリとして、トンネル磁気抵抗効果を利用したMRAM(Magnetic Random Access Memory )の開発進捗が著しく、注目を集めている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0005】
このMRAMは、情報の記録を行う微小な磁気メモリ素子を規則的に配置し、その各々にアクセスできるように、配線例えばワード線及びビット線を設けた構造を有している。
それぞれの磁気メモリ素子は、情報を強磁性体の磁化の向きとして記録させる記憶層を有して構成される。
【0006】
そして、磁気メモリ素子の構成としては、上述の記憶層と、トンネル絶縁膜(非磁性スペーサ膜)と、磁化の向きが固定された磁化固定層とから成る、いわゆる磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)を用いた構造が採用されている。磁化固定層の磁化の向きは、例えば反強磁性層を設けることにより固定することができる。
【0007】
このような構造においては、記憶層の磁化の向きと磁化固定層の磁化の向きとのなす角度に応じて、トンネル絶縁膜を流れるトンネル電流に対する抵抗値が変化する、いわゆるトンネル磁気抵抗効果を生じるため、このトンネル磁気抵抗効果を利用して、情報の書き込み(記録)を行うことができる。この抵抗値の大きさは、記憶層の磁化の向きと磁化固定層の磁化の向きとが反平行であるときに最大値をとり、平行であるときに最小値をとる。
【0008】
このように構成した磁気メモリ素子において、磁気メモリ素子への情報の書き込み(記録)は、ワード線及びビット線の両方に電流を流すことにより発生する合成電流磁界により、磁気メモリ素子の記憶層の磁化の向きを制御することにより行うことができる。一般的には、このときの磁化の向き(磁化状態)の違いを、「0」情報と「1」情報とにそれぞれ対応させて記憶させる。
一方、記録された情報の読み出しは、トランジスタ等の素子を用いてメモリセルの選択を行い、磁気メモリ素子のトンネル磁気抵抗効果を利用して、記憶層の磁化の向きの違いを電圧信号の差として検出することにより、記録された情報を検知することができる。
【0009】
このMRAMを他の不揮発性メモリと比較した場合、最大の特長は、強磁性体から成る記憶層の磁化の向きを反転させることにより、「0」情報と「1」情報とを書き換えるため、高速かつほぼ無限(>1015回)の書き換えが可能であることである。
【0010】
しかしながら、MRAMにおいては、記録された情報を書き換えるために、比較的大きい電流磁界を発生させる必要があり、アドレス配線にある程度大きい(例えば数mA程度)電流を流さなければならない。そのため消費電力が大きくなる。
【0011】
また、MRAMにおいては、書き込み用のアドレス配線と読み出し用のアドレス配線をそれぞれ必要とするため、構造的にメモリセルの微細化が困難であった。
さらに、素子の微細化に従って、アドレス配線も細くなり、充分な電流を流すことが難しくなる問題や、保磁力が大きくなるため必要となる電流磁界が増大して、消費電力が増えてしまう問題等を、生じることになる。
従って、素子の微細化が困難であった。
【0012】
そこで、より少ない電流で磁化反転が可能な構成として、スピントランスファによる磁化反転を利用する構成のメモリが注目されている。
スピントランスファによる磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極した電子を、他の磁性体に注入することにより、他の磁性体において磁化反転を起こさせるものである(例えば、特許文献1参照)。
即ち、磁化の向きが固定された磁性層(磁化固定層)を通過したスピン偏極電子が、磁化の向きが固定されない他の磁性層(磁化自由層)に進入する際に、この磁性層の磁化にトルクを与えるという現象である。そして、ある閾値以上の電流を流せば、磁性層(磁化自由層)の磁化の向きを反転させることができる。
【0013】
例えば、磁化固定層と磁化自由層とを有する、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)や磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に対して、その膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、これらの素子の少なくとも一部の磁性層の磁化の向きを反転させることができる。
【0014】
これにより、磁化固定層と磁化自由層(記憶層)とを有する記憶素子を構成し、記憶素子に流す電流の極性を変えることにより、記憶層の磁化の向きを反転させ、「0」情報と「1」情報との書き換えを行う。
記録された情報の読み出しは、磁化固定層と磁化自由層(記憶層)との間にトンネル絶縁層を設けた構成とすることにより、MRAMと同様にトンネル磁気抵抗効果を利用することができる。
【0015】
そして、スピントランスファによる磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができる利点を有している。
磁化反転のために記憶素子に流す電流の絶対値は、例えば0.1μm程度のスケールの記憶素子で1mA以下であり、しかも記憶素子の体積に比例して減少するため、スケーリング上有利である。
【0016】
しかも、MRAMで必要であった記録用ワード線が不要となるため、メモリセルの構成が単純になるという利点もある。
【0017】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2001.2.12号(第164頁−171頁)
【非特許文献2】J.NaHas et al.,IEEE/ISSCC 2004 Visulas Supplement,p.22
【特許文献1】特開2003−17782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
スピントランスファを利用して情報の記録を行う記憶素子の、一般的な構成の概略断面図を図9に示す。
この記憶素子110は、下層から、下地層101、反強磁性層102、磁化固定層103、非磁性層104、記憶層105、キャップ層106の各層が積層されて構成されている。
記憶層105は、一軸磁気異方性を有する強磁性体から成り、この記憶層105の磁化状態、即ち記憶層105の磁化M112の向きによって、記憶素子110に情報を記憶させることができる。
また、記憶層105に対して、非磁性層104を介して、強磁性体から成り磁化M111の向きが固定されている磁化固定層103が設けられている。図9の構成では、磁化固定層103の下層に反強磁性層102が設けられていることにより、この反強磁性層102の作用により磁化固定層103の磁化M111の向きが固定されている。
【0019】
この記憶素子110に対して、情報を書き込む際には、記憶層105の膜面に垂直な方向、即ち記憶素子の積層方向に電流を流して、スピントランスファにより記憶層105の磁化M112の向きを反転させる。
【0020】
ここで、スピントランスファによる磁化反転について簡単に説明する。
電子は2種類のスピン角運動量をもつ。仮に、これら2種類のスピン角運動量を、それぞれ上向き及び下向きと定義する。非磁性体内部では両者が同数であり、強磁性体内部では両者の数に差がある。
【0021】
そして、図9に示す記憶素子110において、磁化固定層103及び記憶層105において、互いの磁気モーメントの向きが反平行状態にあり、電子を磁化固定層103から記憶層105に移動させる場合について考える。
磁化固定層103を通過した電子は、スピン偏極しており、スピン角運動量の上向きと下向きの数に差が生じている。
非磁性層104の厚さが充分に薄く、このスピン偏極が緩和して通常の非磁性体における非偏極(上向きと下向きが同数)状態になる前に、他方の磁性体である記憶層105に達すると、磁化固定層103及び記憶層105の磁気モーメントの向きが反平行状態にあって、スピン偏極度の符号が逆になっていることにより、系のエネルギーを下げるために一部の電子は反転、即ちスピン角運動量の向きを変えさせられる。このとき、系の全角運動量は保存されなくてはならないため、向きを変えた電子による角運動量変化の合計と等価な反作用が、記憶層105の磁気モーメントにも与えられる。
【0022】
電流即ち単位時間に通過する電子の数が少ない場合には、向きを変える電子の総数も少ないために、記憶層105の磁気モーメントに発生する角運動量変化も小さいが、電流が増えると、多くの角運動量変化を単位時間内に与えることができる。角運動量の時間変化はトルクであり、トルクがある閾値を超えると記憶層105の磁気モーメントM112は反転を開始し、その一軸異方性により180度回転したところで安定となる。即ち、反平行状態から平行状態への反転が起こる。
【0023】
一方、磁化固定層103及び記憶層105において、互いの磁気モーメントの向きが平行状態にあるとき、電流を逆に記憶層105から磁化固定層103へ電子を送る向きに流すと、今度は磁化固定層103で反射される際にスピン反転した電子が記憶層105に進入する際にトルクを与え、反平行状態へと反転させることができる。
ただし、この平行状態から反平行状態へ反転させる場合に必要な電流量は、反平行状態から平行状態へと反転させる場合よりも多くなる。
【0024】
このように、記憶層105への情報(0情報/1情報)の記録は、磁化固定層103から記憶層105への向き、又はその逆向きに、それぞれの極性に対応するある閾値以上の電流を流すことによって行われる。
【0025】
また、記憶層105に記録された情報の読み出しは、記憶層105と磁化固定層103との磁気モーメントの相対角度に依存した抵抗変化、即ち互いに平行な場合に最小抵抗、反平行となった場合に最大抵抗となる、いわゆる磁気抵抗効果を利用して行うことができる。磁化固定層103の磁化の向きが、記憶層105の磁化の向きの基準となるので、磁化固定層103は参照層とも称される。
具体的には、記憶素子110に概一定電圧を印加して、その際に流れる電流の大小を検出することにより、情報の読み出しを行うことができる。
【0026】
ここでは、記憶素子110の抵抗状態と情報との関係を、低抵抗状態を「1」情報、高抵抗状態を「0」情報、とそれぞれ規定する。
また、図9のキャップ層106から下地層101に向けて、即ち上層から下層に向けて、電子を移動させる電流を、正極性の電流である、と規定する。このとき、正極性の電流を流すと、電子がキャップ層106から下地層101に向けて、即ち記憶層105から磁化固定層103に向けて移動するので、前述したように、磁化固定層103の磁化M111と記憶層105の磁化M112とが反平行の向きになり、記憶素子110が高抵抗状態になる。
従って、「1」情報(低抵抗状態)を書き込む電流は負極性、「0」情報(高抵抗状態)を書き込む電流は正極性になる。
【0027】
上述したスピントランスファによる磁化反転を利用してメモリを構成する場合には、記憶層に情報を書き込む(「0」情報と「1」情報とで書き換える)際に、電流の極性(正極性又は負極性)を変えなくてはならない。
このため、メモリセルを選択するために、例えば、p型トランジスタ及びn型トランジスタから成るトランスファゲートを用いてメモリセルを構成する。
【0028】
ここで、図9の記憶素子110を用いてメモリセルを構成したメモリの1つのメモリセルについて、第1層の配線層より下層を示した平面図を図10Aに示し、上面図を図10Bに示す。
図10A及び図10Bに示すように、NMOSトランジスタ119N及びPMOSトランジスタ119Pを、ソース同士及びドレイン同士で、それぞれ第1層の配線層116Aを介して電気的に接続することによって、選択用トランジスタが構成されている。
これにより、これらNMOSトランジスタ119N及びPMOSトランジスタ119Pから、所謂トランスファゲートが構成される。
そして、このトランスファゲートにより、記憶素子110に電流を流したり、記憶素子110に電流が流れないようにしたり、とスイッチングすることができる。
PMOSトランジスタ119Pのゲート電極114は、コンタクト層115Gを介して、第1層の配線層116Aにより形成されたワード線WLに接続されている。NMOSトランジスタ119Nのゲート電極114は、コンタクト層115Gを介してワード線WLに接続されている。記憶素子110に流す電流のオン・オフに対応して、PMOSトランジスタ119P側のワード線WLと、NMOSトランジスタ119N側のワード線WLとには、一方に制御信号が供給され、他方には同じ制御信号をインバータに通した制御信号が供給される。
このメモリセルにおいては、ビット線BLとセンス線SLに対して、正又は負の電位差を与え、ワード線WLに電圧を印加してトランスファゲートをオン状態にすることにより、記憶素子110の積層方向のいずれかの向きに電流を流すことができる。
【0029】
しかしながら、このような2つのトランジスタ119N,119Pから成るトランスファゲートを用いた構成のメモリセルとすると、トランジスタ1個でメモリセルが構成された、いわゆる1Tr型の他のメモリと比較して、構造や回路が複雑になる。
また、メモリセルごとに余分なスペースを必要とするために、メモリの高密度化や大容量化が難しくなる。
【0030】
上述した問題の解決のために、本発明においては、記憶素子に流す電流の極性を変えなくても情報の記録を可能にすることにより、構造を簡素化することができる記憶素子及びメモリを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の記憶素子は、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、積層方向に電流を流すことにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われるものであり、記憶層に対して、非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が設けられているものである。
【0032】
本発明のメモリは、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、記憶層に対して、非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が設けられ、積層方向に電流を流すことにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われる記憶素子と、この記憶素子に対して積層方向の電流を流す電流供給手段とを備え、電流供給手段から記憶素子に電流が供給される時間の長さにより、記録される情報の内容が変わるものである。
【0033】
上述の本発明の記憶素子の構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して中間層を介して磁化固定層が設けられており、積層方向に電流を流すことにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われるので、積層方向に電流を流してスピントランスファ(スピン注入)による情報の記録を行うことができる。
また、記憶層に対して、非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が設けられていることにより、駆動層は磁化の向きが積層方向であることから、垂直磁気異方性を有している。これにより、記憶素子の積層方向に電流を流すと、駆動層と記憶層との間の偏極電子の移動(スピン注入)により、記憶層の磁化ベクトルに対して積層方向の力を与えるため、記憶層の磁化ベクトルに歳差運動を生じさせて、磁化の向きを変化させることができる。そして、電流を流す時間によって、電流を流す前の磁化の向きから反転させる、或いは反転させない(電流を流す前と同じ向きにする)ように制御することが可能になる。
従って、電流の極性を変えなくても、同じ極性の電流を記憶素子に流す時間を変えることにより、「0」及び「1」の情報の記録を行うことが可能になる。
【0034】
上述の本発明のメモリの構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、記憶素子に対してその積層方向の電流を流す電流供給手段(電極や配線、電源等)とを備え、記憶素子が上記本発明の記憶素子の構成であることにより、電流供給手段を通じて記憶素子の積層方向に電流を流してスピントランスファ(スピン注入)による情報の記録を行うことができる。
また、電流供給手段から記憶素子に電流が供給される時間の長さにより、記録される情報の内容が変わる構成であるので、電流供給手段から記憶素子に流す電流の極性を変えなくても、同じ極性の電流だけで「0」及び「1」の情報の記録を行うことができる。
【0035】
また、上記本発明の記憶素子において、駆動層が2層以上の積層膜からなり、駆動層の記憶層に対向する側に分極率がより高い材料から成る層が配置され、記憶層と対向しない側に垂直磁気異方性がより強い材料から成る層が配置されている構成とすることも可能である。
このような構成としたときには、記憶層に対向する側の分極率がより高い材料から成る層(第1の層)により、スピントランスファ(スピン注入)の効率を高めることができ、また記憶層と対向しない側の垂直磁気異方性がより強い材料から成る層(第2の層)により、記憶層に対向する側の第1の層との相互作用によって、第1の層の磁気モーメントを記憶素子の積層方向に向けることができる。このように、駆動層を構成する2層以上の層にそれぞれ役割を分担させることができるため、駆動層の材料選択の幅を広げることが可能になり、また相互作用を利用して記憶層の磁化の向きを容易に動かすことができるため、単層の駆動層では実現不可能な低電流での記録も可能になる。
【発明の効果】
【0036】
上述の本発明によれば、電流の極性を変えなくても、同じ極性の電流を流す時間を変えることにより、記憶素子の記憶層に「0」及び「1」の情報の記録を行うことが可能になる。このため、各メモリセルに選択トランジスタを設ける場合に、記憶素子に流す電流の極性に対応して、その極性の電流を流しやすい1個のトランジスタを設ければよくなる。
【0037】
これにより、選択トランジスタを単一のトランジスタ(例えばNMOSトランジスタ)のみにより構成することができるため、選択トランジスタとして2個のトランジスタから成るトランスファゲートを構成していたメモリと比較して、メモリセルの構成を簡素化して、メモリセルのサイズを縮小化することができる。
これにより、記憶素子から成るメモリセルを多数構成したメモリにおいて、記憶素子を高密度に集積することが可能になる。即ち、メモリを小型化したり、高密度化して記憶容量を大きくしたりすることが容易に可能になる。
従って、本発明によれば、高密度の不揮発性メモリを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明は、前述したスピントランスファ(スピン注入)により、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。記憶層は、強磁性層等の磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
【0039】
スピン注入により磁性層の磁化の向きを反転させる基本的な動作は、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)もしくはトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ素子)から成る記憶素子に対して、その膜面に垂直な方向(記憶素子の各層の積層方向)に、ある閾値以上の電流を流すものである。
【0040】
本発明では、さらに、従来の記憶層及び磁化固定層(参照層)の他に、記憶層に対して非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている、即ち垂直磁気異方性を有する駆動層を設けて、記憶素子を構成する。
そして、情報の記録、即ち記憶層の磁化の向きを反転させる動作は、駆動層から記憶層へ電子を送る方向の電流を流すことによってのみ行い、記録のための電流極性の反転は行わない。
そして、記憶層の磁化の向きの制御は、電流を供給する時間を変えることによって行う。
【0041】
この原理について説明する。
駆動層は、垂直磁気異方性を有することから、記憶素子の各層の積層方向(z軸方向)に平行な磁気異方性を有している。
この垂直磁気異方性を有する駆動層から、記憶層に向けて偏極電子を供給してスピン注入を行うと、記憶層の磁気モーメントに対して、z軸の回りの歳差運動を励起する。
そして、この歳差運動をどこで止めるか、即ち、いつ偏極電子の供給を止めるかによって、磁化容易軸方向(x軸方向)で落ち着く記憶層の磁化の向きが異なってくる。
【0042】
従って、記憶素子に電流パルスを供給した場合に、電流パルスのパルス幅(時間)を変えることによって、記憶層の磁化の向きが反転するか反転しないかを制御することが可能である。
【0043】
磁化固定層(参照層)、記憶層、駆動層を分離する非磁性層(中間層)には、スピンがその分極情報を失うのに必要な距離(スピン拡散長)の長いCu等の非磁性金属膜、或いはAl酸化膜等のトンネル絶縁膜を用いることが望ましい。
【0044】
記憶素子の記憶層に記録された情報を読み出す方法としては、記憶素子の記憶層に薄いトンネル絶縁層を介して、情報の基準となる磁化固定層(参照層)を設けて、トンネル絶縁層を介して流れる強磁性トンネル電流によって読み出してもよいし、磁気抵抗効果により読み出してもよい。
【0045】
また、記憶層と磁化固定層(参照層)との間をトンネル絶縁層とし、駆動層と記憶層の間を非磁性金属層(非磁性導電層)として、読み出した情報の出力信号が記憶層と磁化固定層(参照層)とでほぼ決定されるように構成することが望ましい。
【0046】
また、記憶層の磁気ダンピング定数を0.03以上とすると、記憶層の磁化の向きが変わるパルス幅の間隔が広くなるため、情報の記録の動作のマージンを広くとることができる。
【0047】
なお、上述した、パルス電流を供給する時間の長さにより記憶層の磁化の向きの変化を制御する記録方法は、特定の情報(0もしくは1)を選択的に上書きするものではないため、記録を行うべきメモリセル(記憶素子の記憶層)に現在記録されている情報が「0」或いは「1」のいずれの状態にあるかを、事前に読んで確認してから記録を行うための回路(いわゆるWrite−after−Read回路)を設けて、メモリを構成する。
この回路を用いると、記録前後の情報の内容が同じであり、記憶層の磁化の向きを反転させる必要のない場合には、記録電流の供給を行わないようにすることが可能になることから、低消費電力化が可能である。
【0048】
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の一実施の形態として、メモリのメモリセルを構成する記憶素子の概略構成図(断面図)を図1に示す。
この記憶素子10は、下層から、下地層1、反強磁性層2、磁化固定層3、非磁性層4、記憶層5の順に、各層が積層されてなる。
【0049】
磁化固定層3の下に反強磁性層2が設けられており、この反強磁性層2により、磁化固定層3の磁化M1の向きが固定される。図1では磁化固定層3の磁化M1の向きが、右向きに固定されている。
【0050】
記憶層5は、情報を磁化状態即ち記憶層5の磁化M2の向きにより保持するものであり、磁化M2の向きが右向きであるか左向きであるかにより、それぞれ情報を保持することができる。
【0051】
また、記憶層5と磁化固定層3との間に非磁性層4が設けられていることにより、記憶層5と磁化固定層3とにより、GMR素子又はMTJ素子が構成される。これにより、磁気抵抗効果を利用して、記憶層5の磁化M2の向きを検出することができる。
即ち、記憶層5の磁化M2の向きが、磁化固定層3の磁化M1の向き(右向き)に対して、平行(右向き)の場合には電気抵抗が低くなり、反平行(左向き)の場合には電気抵抗が高くなることから、磁気抵抗効果を利用して、記憶層5の磁化M2の向きを検出することができる。
【0052】
磁化固定層3や記憶層5の材料としては、特に限定はないが、鉄、ニッケル、コバルトの1種もしくは2種以上から成る合金材料を用いることができる。さらにNb,Zr等の遷移金属元素や、B等の軽元素を含有させることもできる。
反強磁性層2の材料としては、鉄、ニッケル、白金、イリジウム、ロジウム等の金属元素とマンガンとの合金、コバルトやニッケルの酸化物等が使用できる。
【0053】
非磁性層4は、非磁性導電層により、或いは、トンネルバリア層等の絶縁層により構成する。非磁性導電層としては、例えば、ルテニウム、銅、クロム、金、銀等が使用できる。トンネルバリア層としては、酸化アルミニウム等の絶縁材料を使用することができる。
【0054】
本実施の形態では、特に、記憶素子10の記憶層5に対して、非磁性層6を介して、前述した、磁化の向きが積層方向にほぼ固定された駆動層7を設けている。
即ち、図1に示すように、記憶層5の上に、さらに非磁性層6、駆動層7、キャップ層8が積層されて、記憶素子10が構成されている。
【0055】
また、本実施の形態では、記憶素子10に対して、キャップ層8から下地層1への向きに、即ち駆動層7から記憶層5への向きに、電子を流すことにより、記憶層5に情報の記録を行い、記録のための電流極性の反転は行わない。そして、情報の記録時にその向きに電子が流れるように、電極や配線、電源等の電流供給手段を構成する。
このとき、記録電流Iは、電子を流す向きとは逆であり、図中矢印9で示すように下地層1からキャップ層8への向きになる。
【0056】
さらに、電流供給手段から電流を供給する時間の長さにより、記憶層5に記録する情報(「0」或いは「1」)を制御する。
【0057】
これにより、電流供給手段から記憶素子10に供給する電流の極性を、一方のみとすることができ、選択トランジスタとして、NMOSトランジスタとPMOSトランジスタの両方を設ける必要がなくなり、どちらか一方を設ければ充分になる。
【0058】
次に、本実施の形態のメモリの概略構成図(断面図)を図2に示す。この図2は、メモリ(記憶装置)を構成する1つのメモリセルの断面図を示している。
このメモリは、図1に示した記憶素子10により、メモリセルが構成されている。
この記憶素子10は、前述したように、情報を磁化状態即ち磁化M2の向きにより保持する記憶層5を有する。
【0059】
また、シリコン基板等の半導体基体11に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域12、ソース領域13、並びにゲート電極14が、それぞれ形成されている。
このうち、ゲート電極14は、図2とは別の断面にあるワード線WL(図3参照)に接続される。ドレイン領域12は、コンタクト層15D、第1層の配線層16A、埋め込み金属層17を介して、第2層の配線層16Bから成るセンス線SLに接続されている。ソース領域13は、コンタクト層15S、第1層の配線層16A、第2層の配線層16B,第3層の配線層16C及び各配線層16A,16B,16Cの間の埋め込み金属層17を介して、記憶素子10に接続されている。
そして、記憶素子10は、その上の第4層の配線層18から成るビット線BLに接続されている。
【0060】
なお、ドレイン領域12を、例えば隣接する2つのメモリセルのそれぞれの選択用トランジスタに共通して形成することにより、センス線SLを2個のメモリセルに共通とすることが可能になる。
【0061】
続いて、図2の1つのメモリセルについて、その上面図を図3に示す。
図3に示すように、NMOSトランジスタ19Nのみによって、選択用トランジスタが構成されている。
そして、このNMOSトランジスタ19Nにより、記憶素子10に電流を流したり、記憶素子10に電流が流れないようにしたり、とスイッチングすることができる。
NMOSトランジスタ19Nのゲート電極14は、コンタクト層15Gを介してワード線WLに接続されている。記憶素子10に流す電流のオン・オフに対応して、ワード線WLに制御信号(電圧)が供給される。
【0062】
本実施の形態のメモリは、図2及び図3に示したメモリセルの構成を有することにより、ビット線BLとセンス線SLに対して、電位差を与え、ワード線WLに電圧を印加してNMOSトランジスタ19Nをオン状態にすることにより、記憶素子10の積層方向のいずれか一方の向きだけに電流を流すことができる。
【0063】
そして、図3に示すように、NMOSトランジスタ19Nのみにより選択用トランジスタが構成されているため、図10A及び図10Bに示した、2つのトランジスタ119N,119Pにより選択トランジスタが構成された場合と比較して、メモリセルの面積を大幅に低減させることが可能になる。
【0064】
ここで、本実施の形態のメモリについて、図1に示した記憶素子10を実際に作製して、特性を調べた。
図4Aは、図1の記憶素子10の記憶層5の磁気モーメントがx軸方向(磁化容易軸方向)の右向きである状態で、1ns(ナノ秒;以下同様)のパルス電流を印加し、その後電流を遮断した場合の磁気モーメントの運動を示したものである。また、図4Bは、記憶層の磁気モーメントのx軸成分mxの時間変化を示したものである。
図5A及び図5Bは、逆に記憶層5の磁気モーメントがx軸方向の左向きである状態で、同様に1nsのパルス電流を印加し、その後電流を遮断した場合の磁気モーメントの運動を示したものである。
このように、1nsのパルス電流により、記憶層の磁化を、右向きから左向きに、左向きから右向きに、それぞれ反転させられることが示された。
【0065】
次に、記憶素子10に流すパルス電流のパルス幅(時間)を変化させて、100ns後に記憶層5の磁化M2がどちらに向いていたかを調べた。
記憶層5の材料をCoFeB合金として、その飽和磁化を1[T]、磁気ダンピング定数を0.01、膜厚を5nmとし、記憶素子10の平面形状を短軸0.1μm・長軸0.2μmの楕円形状とした。
そして、記憶素子10に流す電流Iを、600μAと650μAとして、それぞれの電流量について、電流パルスのパルス幅による100ns後の記憶層5の磁化M2の向きの変化を調べた。
結果を図6A及び図6Bに示す。図6Aは電流I=600μAの場合を示し、図6Bは電流I=650μAの場合を示している。なお、図6の縦軸mxは、記憶層5の磁化M2の向きを示しており、実線は初期状態の磁化が右向き(mx=1)の場合、破線は初期状態が左向き(mx=−1)の場合を示している。
【0066】
図6Aに示すように、電流I=600μAの場合には、パルス電流のパルス幅によらず、記憶層5の磁化M2の向きが変化しない。
一方、図6Bに示すように、電流I=650μAの場合には、パルス電流のパルス幅により、記憶層5の磁化M2の向きが変化しなかったり、反転したり、同じ向きに戻ったりする。例えば、パルス幅0〜0.9nsでは磁化の向きが変化せず、パルス幅1〜1.2nsでは磁化の向きが反転し、パルス幅1.3nsでは磁化の向きが元の向きに戻り、パルス幅1.5nsでは最終的に元の向きから反転した向きになる。
【0067】
即ち、600μAと650μAとの間に存在する閾値を超える電流を印加した場合には、反転が起こるか或いは起こらないかは、パルス電流を供給した時間に依存して、ほぼ周期的に変化する。
即ち、反転を起こさせたい場合には、図6Bで反転が起こる時間T(例えば1.5ns)のパルス幅でパルス電流幅を供給するように設定すればよい。このとき、記憶層5の磁化M2の向きの初期状態が右向きでも左向きでも反転するため、電流の極性を初期状態に応じて変える必要はない。
【0068】
上述の本実施の形態によれば、記憶素子10の記憶層5に対して、非磁性層6を介して、磁化の向きが記憶素子10の積層方向にほぼ固定され、垂直磁気異方性を有する駆動層7が設けられていることにより、記憶素子10の積層方向に電流を流すと、駆動層7と記憶層5との間の偏極電子の移動(スピン注入)により、記憶層5の磁化ベクトルに対して積層方向の力を与えるため、記憶層5の磁化ベクトルに歳差運動を生じさせて、記憶層5の磁化M2の向きを変化させることができる。
そして、電流を流す時間によって、電流を流す前の磁化M2の向きから反転させる、或いは反転させない(電流を流す前と同じ向きにする)ように制御することが可能になる。
【0069】
従って、電流の極性を変えなくても、同じ極性の電流Iを記憶素子10に流す時間を変えることにより、「0」及び「1」の情報の記録を行うことが可能になる。
このため、各メモリセルに選択トランジスタを設ける場合に、記憶素子10に流す電流の極性に対応して、その極性の電流を流しやすい1個のトランジスタを設ければよくなる。
【0070】
このように選択トランジスタをNMOSトランジスタ19Nのみにより構成することができるため、選択トランジスタとして2個のトランジスタから成るトランスファゲートを構成していたメモリと比較して、メモリセルの構成を簡素化して、メモリセルのサイズを縮小化することができる。
これにより、記憶素子10から成るメモリセルを多数構成したメモリにおいて、記憶素子を高密度に集積することが可能になる。即ち、メモリを小型化したり、高密度化して記憶容量を大きくしたりすることが容易に可能になる。
【0071】
従って、本実施の形態の構成によれば、高密度の不揮発性メモリを実現することができる。
【0072】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。
本実施の形態においては、メモリセルを構成する記憶素子10の記憶層5の磁気ダンピング定数αを0.03以上と大きくして、メモリを構成する。
記憶層5の磁気ダンピング定数αを増大させるためには、記憶層にPt,Au等の原子量の大きな元素や希土類元素を添加する方法や、これらの元素Pt,Au等を含有する層と記憶層とを積層させる等の方法をとる。
なお、記憶素子10及びメモリのその他の構成は、先の実施の形態と同様とするので、重複説明を省略する。
【0073】
ここで、記憶層5の磁気ダンピング定数αの、動作マージンに対する影響を調べた。
記憶層5の磁気ダンピング定数α=0.03として、その他の条件は図6に測定結果を示したものと同様にして、記憶素子10を作製した。
そして、記憶素子10に流す電流Iを、700μAと750μAとして、それぞれの電流量について、電流パルスのパルス幅による100ns後の記憶層5の磁化M2の向きの変化を調べた。
結果を図7A及び図7Bに示す。図7Aは電流I=700μAの場合を示し、図7Bは電流I=750μAの場合を示している。
【0074】
図7A及び図7Bに示すように、α=0.03とすると、図6A及び図6Bに示したα=0.01の場合と比較して、記録に必要な電流パルスの電流量Iはやや大きくなるものの、磁化の向きが変化するときのパルス幅の間隔が長くなっているため、パルス幅のバラツキに対して、より大きなマージンを得ることが可能である。
【0075】
従って、本実施の形態によれば、記憶素子10の記憶層5の磁気ダンピング定数αを0.03以上と大きくしたことにより、パルス幅のバラツキに対してより大きなマージンを得ることができるため、情報の記録の動作を安定して行うことができる。
【0076】
次に、本発明のさらに他の実施の形態として、メモリのメモリセルを構成する記憶素子の概略構成図(断面図)を図8に示す。
本実施の形態では、図8に示すように、駆動層7を2層の磁性層7A及び7Bの積層構造として、記憶素子20を構成する。
【0077】
2層の磁性層7A,7Bのうち、記憶層5と対向する磁性層7Aは、スピントランスファ効率を向上させるために、分極率が大きく、偏極度の高い電流を供給できるCoFe等の材料で構成する。ここで、この磁性層7Aは、単独で垂直磁気異方性を有する必要はない。
【0078】
一方、記憶層5と対向しない磁性層7Bについては、垂直異方性の強いFePtやCo/Pt多層膜、希土類合金等を使用して、記憶層5と対向する磁性層7Aとの相互作用により、磁性層7Aの磁気モーメントを記憶素子20の積層方向に向けることに貢献させる。
【0079】
このように、駆動層7を構成する2層の磁性層7A,7Bにそれぞれ役割を分担させることにより、駆動層7の材料選択の幅を広げることが可能となり、単独の磁性層では実現不可能な低電流での記録も可能となる。
【0080】
その他の構成は、先の実施の形態の記憶素子10及びメモリと同様であるので、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0081】
上述の本実施の形態によれば、記憶素子20の駆動層7が2層7A,7Bの積層膜からなり、駆動層7の記憶層5に対向する側に分極率がより高い材料から成る層7Aが配置され、記憶層5と対向しない側に垂直磁気異方性がより強い材料から成る層7Bが配置されている。
これにより、記憶層5に対向する側の分極率がより高い材料から成る層7Aによって、スピントランスファの効率を向上させることができる。
また、記憶層5と対向しない側の垂直磁気異方性がより強い材料から成る層7Bにより、層7Aとの相互作用によって、層7Aの磁気モーメントを記憶素子20の積層方向に向けることができる。
【0082】
このように、駆動層7を構成する2層の磁性層7A,7Bにそれぞれ役割を分担させることができるため、駆動層7の材料選択の幅を広げることが可能になる。
また、2層7A,7Bの相互作用を利用して、記憶層5の磁化M2の向きを容易に動かすことができるため、単層の駆動層7では実現不可能な低電流での記録も可能になる。
【0083】
上述の各実施の形態における記憶素子の層構成は、その本質的な役割を果たす範囲において変更が可能である。
例えば、磁化固定層として、反強磁性層との積層によらず、単独で十分に大きな保磁力を有する強磁性材料を用いてもよい。
また、記憶層や磁化固定層を構成する磁性体層は、単層の磁性体層に限定されるものではなく、組成の異なる2層以上の磁性体層を直接積層したり、2層以上の磁性体層を非磁性層を介して積層した積層フェリ構造としたりすることも可能である。
その他、各層の積層順序や層構成と電流の向きとの組み合わせ等の構成も、上述の各実施の形態とは異なる構成とすることも可能である。
本発明では、記憶層に対して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が少なくとも設けられて、記憶素子が構成されていればよい。
【0084】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施の形態のメモリのメモリセルを構成する記憶素子の概略構成図(断面図)である。
【図2】図1の記憶素子を用いたメモリの1つのメモリセルの断面図である。
【図3】図2のメモリセルの上面図である。
【図4】記憶層の磁気モーメントが右向きのときに電流パルスを印加した後の磁気モーメントの運動を示す図である。 A 記憶層の磁気モーメントの時間変化である。 B 記憶層の磁気モーメントのx軸方向の成分の時間変化である。
【図5】記憶層の磁気モーメントが左向きのときに電流パルスを印加した後の磁気モーメントの運動を示す図である。 A 記憶層の磁気モーメントの時間変化である。 B 記憶層の磁気モーメントのx軸方向の成分の時間変化である。
【図6】A、B 電流パルスのパルス幅の変化に対する100ns後の記憶層の磁化の向きを示す図である。
【図7】A、B 記憶層の磁気ダンピング定数を0.03とした場合の電流パルスのパルス幅の変化に対する100ns後の記憶層の磁化の向きを示す図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態のメモリのメモリセルを構成する記憶素子の概略構成図(断面図)である。
【図9】スピントランスファを利用して情報の記録を行う記憶素子の、一般的な構成の概略断面図である。
【図10】従来のスピントランスファを利用したメモリのメモリセルの構造を示した図である。 A メモリセルの第1層の配線層より下層を示した平面図である。 B メモリセルの上面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 下地層、2 反強磁性層、3 磁化固定層、4,6 非磁性層、5 記憶層、7 駆動層、8 キャップ層、10,20 記憶素子、12 ドレイン領域、13 ソース領域、14 ゲート電極、19N NMOSトランジスタ、WL ワード線、BL ビット線、SL センス線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、
前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、
積層方向に電流を流すことにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われる記憶素子であって、
前記記憶層に対して、非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が設けられている
ことを特徴とする記憶素子。
【請求項2】
前記中間層がトンネル絶縁層であり、前記非磁性層が非磁性導電層であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
前記駆動層が2層以上の積層膜からなり、前記駆動層の前記記憶層に対向する側に分極率がより高い材料から成る層が配置され、前記記憶層と対向しない側に垂直磁気異方性がより強い材料から成る層が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項4】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、
前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、
前記記憶層に対して、非磁性層を介して、磁化の向きが積層方向にほぼ固定されている駆動層が設けられ、
積層方向に電流を流すことにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われる記憶素子と、
前記記憶素子に対して、前記積層方向の電流を流す電流供給手段とを備え、
前記電流供給手段から前記記憶素子に電流が供給される時間の長さにより、記録される情報の内容が変わる
ことを特徴とするメモリ。
【請求項5】
情報を記録する際に、前記電流供給手段から前記記憶素子に流す電流の極性が一方のみであることを特徴とする請求項4に記載されたメモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−128579(P2006−128579A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318464(P2004−318464)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】