説明

試料の断面評価装置及び試料の断面評価方法

【課題】 試料の断面構造を観察・解析する場合、試料の温度を調整した状態で断面を加工する。
【解決手段】 試料室内で試料の断面を評価する装置であって、該試料を載置する試料ステージと、該試料の温度を調整するための温度調整手段と、該試料の断面加工、及び観察を行うため該試料に対してイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と、前記イオンビームの試料観察の照射に応じて前記試料から放出される放出信号を検出する検出手段とを備えている。前記温度調整手段により前記試料を予め設定された温度に調整した状態で、前記イオンビーム発生手段によるイオンビームの照射、及び前記検出手段による放出信号の検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の情報を取得するための評価装置に関する。より詳しくは、温度変化によって状態、形態が変化する試料の断面を加工し、評価する試料の断面評価装置、及び試料の断面評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生態系、プラスチックを始めとする有機物の断面評価や微細な構造の加工は、機能性デバイスの増加と共にその需要が増えつつある。
【0003】
有機物構造に関する情報を求めるために用いられている主な断面作製法としては、刃物による切断法、樹脂包埋法、凍結包埋法、凍結割断法、イオンエッチング法等が知られているが、有機物の内部構造を光学顕微鏡で観察する場合は、通常、有機物を樹脂で包埋した後、ミクロトームで切断するといった方法が採用されている。
【0004】
しかしながら、光学顕微鏡では断面のマクロ的な観察に限られ、また、切り出し位置を指定することができないため、指定した位置の構造を観察及び解析するためには、断面作製作業の繰り返しに非常に多くの労力を要していた。
【0005】
そこで、最近では、下記特許文献1等に記載されているような所定の場所を加工できる集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置が、開発されている。FIB装置は、イオン源からのイオンビームを細く集束して加工試料に照射し、エッチング等により加工を行う装置である。このFIBによるエッチング技術は、かなりポピュラーなものになりつつあり、特に半導体等の構造解析、不良解析、電子顕微鏡試料作製等に広く利用されている。
【特許文献1】特開平5−082479号公報
【特許文献2】特開平6−342638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のFIB装置を用いて、例えば有機物などのような温度によって状態や形態が変化する試料の断面構造を観察・解析する場合、FIB加工中に発生する熱によって試料の温度が変化し、それによって試料の状態や形態が変化してしまい、試料の断面構造を正確に解析することができない。
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、試料の温度を調整した状態で断面を加工し、情報を取得したい面の像情報を取得することのできる試料の断面評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明による試料の断面評価装置は、
試料室内で試料の断面を評価する装置であって、
該試料を載置する試料ステージと、該試料の温度を調整するための温度調整手段と、該試料の断面加工、及び観察を行うため該試料に対してイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と、前記イオンビームの試料観察の照射に応じて前記試料から放出される放出信号を検出する検出手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による試料の断面評価方法は、
試料の温度を調整する第1のステップと、
前記試料の所定部にマーキングを行う第2のステップと、
前記マークを指標として、加工位置を確認する第3のステップと、
所望の位置にイオンビームを照射して断面の切り出しを行う第4のステップと、
イオンビームの試料観察の照射に応じて前記試料から放出される放出信号を検出する第5のステップと、
検出された信号に基づいて像情報の取得を行う第6のステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度変化によって状態や形態に変化を生じる試料を所望の温度に調整した状態で、像情報を得たい面の露出すなわち断面加工、及び像情報を得たい面の正確な像情報の取得が可能となる。例えば、マーキング中やFIB加工中であっても試料の温度は所望の温度に保たれ、従来のような試料の状態や形態の変化は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
なお、本発明における、断面とは、試料の内部のある一面から見た面のみを示すのではなく、試料が加工(堆積、エッチングを含む)された場合においても、その加工後にある視点から見た時に観察できる面も含む。
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態における試料の断面評価装置の概略構成図である。
【0014】
断面評価装置は、断面加工用集束イオンビーム装置であって、試料1が固定されると共に固定された試料1の温度を設定された温度に保つ保温部2を備える。この保温部2は、試料室3内に収容可能である。
【0015】
試料室3には、保温部2に固定された試料1に対してイオンビームを照射するイオンビーム発生部4及びイオンビームの照射によって試料1から発生する信号を検出する検出部5が設けられており、更にマーキング手段6が設けられている。試料室3内は、不図示のポンプによって排気され、所定の低圧力を保てるようになっており、これによりイオンビームの照射が可能となっている。本発明においては、試料室内の圧力を1E−2Pa以下にすることが好ましい。
【0016】
イオンビーム発生部4は、試料1にイオンビームを照射して断面を切り出すために用いられる他、SIM(走査イオン顕微鏡:Scanning Ion Microscope)観察のために用いることも可能である。SIM観察の場合には、試料1にイオンビームを照射したときに発生する2次電子、又は2次イオンが検出器5にて検出され、検出器5からの検出信号に基づいて映像化が行われる。
【0017】
マーキング手段6は、試料1にマークを付けるために用いられる。必要に応じて、移動可能な保温部2上の試料1にSIM観察可能なマークを付ける。評価したい加工位置がSIM像で分かりにくい場合でも評価位置近くにマークを付けることによって容易に評価位置を確認することができる。
【0018】
検出器5からの検出信号は制御部7に供給されており、上記のSIM観察時の映像化及びSEM(走査型電子顕微鏡)観察時の映像化はこの制御部7によって行われる。例えば、制御部7は、検出器5からの検出信号から映像情報を取得し、この取得した映像情報を不図示の表示装置に表示させることで映像化を行う。この他、制御部7は、イオンビーム発生部4におけるイオンビームの発生を制御したり、それらイオンビームの試料1への照射及び走査の制御を行ったりする。ビームの走査の制御は、ビーム側又は試料が固定されるステージ側、もしくはそれら両方で行うことができるが、走査速度などを考慮すると、ビーム側で制御することが望ましい。
【0019】
なお、イオンビーム発生部等の構成は、上記特許文献2等に記載されているような構成であってもよい。
【0020】
(温度調整手段の構成)
本実施形態における温度調整手段は、試料ステージに載置される試料に温度調整を行う手段である。
【0021】
図2は、本発明の第1の実施形態における断面評価装置の温度調整手段の概略構成を示す図である。
【0022】
温度調整手段は、試料ステージに取り付けられ、試料が固定される温度可変機構と、温度可変機構の一部に取り付けられ、試料の近傍の温度を検出する第1の温度検出手段と、第1の温度検出手段にて検出される温度に基づいて温度可変機構における温度を調節し、試料を予め設定された温度に保つ温度制御手段とを有し、また、温度調整手段は、試料の温度を直接検出する第2の温度検出手段を有する。
【0023】
すなわち、図2を参照すると、温度調整手段は、試料ステージ8の試料1が固定される部分に取り付けられた温度可変機構12と、温度可変機構12の一部に取り付けられ、温度可変機構12に固定される試料1の近傍の温度を検出する温度計11a(第1の温度検出手段)と、温度計11aにて検出される温度に基づいて温度可変機構12における温度を調節し、試料1を予め設定された温度に保つ温度制御部7aと、試料1の温度を直接検出する温度計11b(第2の温度検出手段)と、からなる。温度可変機構12と試料ステージ8は、保温部2を形成している。
【0024】
なお、図2には示されていないが、温度計11bにて検出された温度を表示する表示部を更に備え、取扱者はこの表示部に表示される温度から、試料1の温度を確認可能である。
【0025】
また、試料室3の外部の制御部7の一部である温度制御部7aは、温度計11a,11bの双方で検出された温度に基づいて温度可変機構12における温度を調節するように構成することもでき、このように構成することで、より正確に試料1の温度を制御することが可能となる。また、場合によっては、温度計11bのみを用いて制御してもよい。
【0026】
このように、温度制御手段は、第1及び第2の温度検出手段の少なくとも一方にて検出される温度に基づいて温度可変機構における温度を調節し、試料を予め設定された温度に保っている。
【0027】
温度可変機構12は温度計11aと共にユニット化されており、設定温度に応じて、必要な温度域の制御が可能なユニットを試料ステージ8に組み込めるようになっている。そのようなユニットとしては、例えば、ヒータ等の加熱機構を有する高温ユニットや、冷却機構を有する低温ユニットがある。また、必要に応じて、室温付近の低温側から高温側両方の温度可変機能を備えたユニットを用いることも可能である。
【0028】
試料ステージ8は、所定の方向に移動及び傾斜可能であり、固定された試料1を機械的に上下左右に移動、あるいは傾斜させることができ、これにより試料1を所望の評価位置に移動させることができる。この試料ステージ8における試料1の移動制御は、上述の制御部7により行われる。
【0029】
上記の冷却機構は、ペルチェ素子やヘリウム冷凍機のような冷却機構でもよい。又は、保温部の試料が固定される部分と対向する側に冷媒を流す冷媒管を設け、液体又は気化した窒素や水などの冷媒を保温部と熱的に接触させる方式でもよい。
【0030】
また、加工中に発生する熱の吸収効率を上げるために、試料と冷却部(保温部)の接触効率を高める工夫をすることが好ましい。
【0031】
このような工夫は、例えば、試料を包みこむように構成可能で、且つ、加工時及び観察時にそれぞれ使用される装置の光学系を遮らない形状の試料ホルダを作製したり、試料の形状を試料ステージに合わせた形状に加工した上で、最大の接触面積を保ちつつ保持させることで可能である。
【0032】
又は、試料の非加工領域を被覆するような冷却部材を、ビーム系を遮らない部分のみ更に被覆するようにしてもよい。
【0033】
(試料の断面評価方法)
以下に、本発明に係る断面評価方法について述べる。
【0034】
図3は、図1,2に示す断面評価装置を用いた試料の断面評価の一手順を示すフローチャート図である。
【0035】
以下、図3を参照して断面評価の手順を説明すると共に、その手順に沿った制御部7によるSIM観察のための制御及び温度制御部7aによる試料の温度制御についても具体的に説明する。
【0036】
まず、試料1を試料ステージ8の所定の位置(温度可変機構12)に固定し(ステップS10)、これを試料室3に導入した後、評価温度を設定する(ステップS11)。評価温度が設定されると、温度制御部7aにより温度可変機構12における温度が制御され、試料1の温度がその設定された評価温度に維持される。
【0037】
このときの試料1の温度は温度計11bにて検出されており、取扱者は、不図示の表示部に表示されたその検出温度から試料1が評価温度に保たれたかどうかを確認することができる。
【0038】
本実施形態においては、試料を室温より冷却した状態で加工を行うことが好ましい。また、0°C以下の温度に冷却すると、試料中の水分がある場合は固化することができ、より好ましい。
【0039】
このような冷却工程は、まず試料を室温以下の所定の温度に冷却し、冷却した試料を減圧雰囲気下に保持し、試料の照射面付近から発生した熱を吸収しながら集束ビームを照射することにより、照射されない部分の形状を保持したまま加工するとよい。
【0040】
また、試料を冷却する際、室温状態から急速に冷却してもよい。この場合、冷却速度を40℃/min以上の速さで冷却することが好ましい。これにより、例えば温度によって分散性の変化する混合物に対しての断面形状を測定したい場合は、急冷された状態の断面を観察することができる。
【0041】
該冷却工程は、減圧工程の前に行われることが好ましい。これにより、減圧による試料の蒸発を抑えることが可能となる。しかし、試料が蒸発量の少ない物質で構成されている場合、減圧と同時に冷却を行ってもよい。
【0042】
冷却する工程は、対象とする試料によって異なるが、PET等の一般的な有機物の場合は、0℃〜−200℃、好ましくは−50℃〜−100℃の温度範囲で冷却することが好ましい。
【0043】
また、低温冷却時に加工時間、冷却時間が長くなりすぎると、試料室内の残留ガスや、加工時に発生する物質が低温の試料に吸着してしまい、所望の加工や観察が難しくなる場合がある。このため、残留ガスや、加工時に発生する物質を吸着するトラップ手段を設け、該トラップ手段を冷却しながら加工及び情報の取得を行うことが好ましい。
【0044】
本発明において、対象となる試料が有機物、特に蛋白質や、他の生体物質などの熱に弱い物質や、水分を含む組成物などに好適に適用できる。特に、水分を含んだ組成物に対しては、水分を試料中に保持したまま加工することができ、好ましい。
【0045】
特に、集束イオンビームを照射する場合には、減圧雰囲気下で行われる。そのため、水分を含む組成物や、揮発性の高い有機分子などに加工を施す場合、加工中に発生する熱によって水分が蒸発してしまう場合があり、本発明の温度調整手段を設ける効果は大きい。
より正確な加工及び構造評価を行うために、予め好適な加工時の保持温度を抽出する工程を備えることも好ましい。この場合、加工したい試料と等価な試料をリファレンスとして用いて、複数の設定温度において加工を行い、加工部のダメージと冷却温度の関連を調べた上で好ましい保持温度を決めるとよい。
【0046】
試料1が評価温度に保たれたことを確認後、試料1の温度を常に確認しながら、試料1の表面にマーキングを行う(ステップS12)。このマーキングでは、試料1をマーキング可能なマーキング位置に移動し、試料の評価位置周辺に光学顕微鏡やレーザー顕微鏡等で確認しながらSIM像で観察可能なマークを付ける。このことによって、加工位置がSIM像で識別し難い試料でもマークとの相対位置によってSIM像上で加工位置を確実に設定できる。マークは、レーザー加工機能の付いた顕微鏡等を用いて形成可能である。
【0047】
マーキング位置は、加工位置を特定できるような形状、位置を選ぶことが可能である。その際、加工位置を決定するSIM像観察で、確認できる位置に分かりやすい形状で適宜形成可能である。マーキングによってFIB加工位置が、変質しないよう予め条件を決めてから行うことが望ましい。
【0048】
本発明では、試料の温度を調整しながらマーキングできるので、変質しやすい試料等は、冷却しながら、あるいは、雰囲気を制御しながらマーキング可能である。その場合も、温度条件、マーキング位置は、評価したい試料の材質、形状、によって予め条件を決めておくことが望ましい。
【0049】
マーキング終了後、FIB加工位置が特定できることを確認したら、ステージをFIB加工位置に移動し、試料1の表面のSIM観察を行う(ステップS13)。このSIM観察では、制御部7によってイオンビーム発生部4によるイオンビームの照射及び試料ステージ8の移動が制御されることで、イオンビーム発生部4からのイオンビームで試料1が走査される。更に、この走査に同期して、検出器5にて2次電子(又は2次イオン:以下同様)が検出され、制御部7がその2次電子の検出信号に基づいてSIM像を不図示の表示部へ表示する。これにより、取扱者は、試料1の表面のSIM観察を行うことができる。このSIM観察は、観察用の弱いイオンビームを用いる。SIM像は、FIB加工位置と予めマーキング工程によって形成したマークを含む。
【0050】
次いで、試料1の表面のSIM観察によって得られた像(上記の表示部へ表示されたSIM像)から断面評価位置を決定する(ステップS14)。このとき、SIM像で断面評価位置が分かりにくい場合でも、SIM像中のマークを目印として、加工位置を特定することができるので、制度良く加工位置を決定できる。
【0051】
その決定した断面評価位置を更に加工ビームでSIM観察する(ステップS15)。
【0052】
次いで、FIB加工条件を設定する(ステップS16)。このFIB加工条件設定では、ステップS15の表面SIM観察によって得られたSIM像上で切り出し領域及び切り出し位置を決定し、更に加速電圧、ビーム電流及びビーム径の断面加工条件を設定する。断面加工条件には、粗加工条件と仕上げ加工条件があり、この時点でそれぞれ設定される。粗加工条件は、ビームの径及びエネルギー量が仕上げ加工条件のそれより大きい。なお、切り出し領域及び切り出し位置の決定は、上記ステップS13で得られる観察ビームでのSIM像上で行うことも可能であるが、精度上の問題を考慮すると、実際に加工を行うイオンビームのSIM像上で行うことがより望ましい。
【0053】
FIB加工条件が設定されると、まず、FIB加工(粗加工)を行う(ステップS17)。この粗加工では、制御部7によってイオンビーム発生部4が上記設定された粗加工条件で制御され、更に試料ステージ8の移動が制御されることで、ステップS16で決定された切り出し領域及び切り出し位置に、切断に必要な量のイオンビームが照射される。
【0054】
粗加工後、試料1の表面をSIM観察し、該SIM観察によって得られた像(SIM像)上で所望の位置近くまで加工されているかを確認する(ステップS18)。所望の位置近くまで加工されていなかった場合は、上記のステップS17及びS18を繰り返す。加工された断面の表面SIM像が極端に粗い場合も、上記のステップS17及びS18を繰り返すが、その際は、イオンビームの量を徐々に小さくするなどの操作が加わる。ステップS18における表面SIM観察の制御は、上記のステップS13の場合と同様である。
【0055】
所望の位置近くまで粗加工されたことが確認されると、続いて、FIB加工(仕上げ加工)を行う(ステップS19)。この仕上げ加工では、制御部7によってイオンビーム発生部4が上記設定された仕上げ加工条件で制御され、更に試料ステージ8の移動が制御されることで、ステップS17で粗加工された部分に仕上げ加工に必要な量のイオンビームが照射される。この仕上げ加工により、たとえばSEMを用いた高倍率での観察を行うことができる平滑な断面を作製することができる。
【0056】
このようにして加工を終了した試料は、断面を側面から観察するため、試料温度を保ったままステージを傾斜し、観察用の弱いイオンビームをスキャンして、SIM像を得ることでき、これにより加工位置の断面形態を評価(ステップS20)することができる。また、必要によって、試料温度を室温に戻し試料を取り出して他の評価装置で評価することも可能である。
【0057】
以上の様に、本実施形態の断面評価方法では、評価する試料1の温度を常に設定値に保つことができるため、FIB加工中に試料1の状態や形態が変化することがない。よって、正確な微細構造評価を行うことができる。
【0058】
以上説明した実施形態において、イオンビームによる試料の加工では、切削や研磨などの機械加工にみられるようなせん断応力、圧縮応力及び引張り応力は発生しないため、硬さや脆さの異なる材料が混合されている複合試料、空隙を持つ試料、基板上に形成した有機物の微細構造、溶媒に溶けやすい試料などについてシャープな断面を作製することができる。
【0059】
また、試料温度を設定値に保つことが可能なため、温度によって状態や形態が変化する材料を含む試料であっても、層の構造破壊を起こさずに、所望の設定温度で、指定した位置を直接加工することができる。
【0060】
上述した実施形態における断面評価方法は、ガラス等の各種基板上のポリマー構造、マイクロ粒子、液晶を含むポリマー構造、繊維状材料への粒子分散構造、温度転移材料を含む試料の所望温度の解析に対して有効である。また、イオンビームあるいは電子ビームに対してダメージを受けやすい試料に対しても有効であることは言うまでもない。
【0061】
なお、本発明の上記実施形態では、試料の断面を評価する方法に関して説明してきたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、表面の付着物質を取り除き、観察したい表面を露出させ、表面観察を行う試料の表面評価方法も本発明に含まれる。
【0062】
(実施形態2)
図4は、本発明の第2の実施形態における断面評価装置の概略構成図である。
【0063】
本実施形態においては、図4に示すように、実施形態1の構成に加え、試料室内の残留ガスや加工時に発生する物質の試料への再付着を防止するためのトラップ手段16を設けている。
【0064】
該トラップ手段16は、熱伝導率の良い金属などによって構成され、試料の冷却中に試料の温度と同等あるいは試料の温度よりも更に低温で保持される。
【0065】
本実施形態は、室温以下に試料を保持した状態で加工及び観察を行う場合において、試料への不純物の付着の防止に効果がある。
【0066】
このようなトラップ手段16は、試料の載置された試料ステージ、イオンビーム発生手段、電子ビーム発生手段及び検出手段が配置された状態において、検出、及び加工の際のビーム系に懸からない位置に配置される。また、トラップ手段16は、これら検出、加工を妨げない位置であれば、なるべく試料に近い位置に配置するのがトラップ効率を向上させるためには好ましい。更に、低い圧力に保たれた試料室内に1ヶ所以上配置することも可能である。
【0067】
(実施形態3)
図5は、本発明の第3の実施形態における断面評価装置の概略構成図である。
【0068】
本実施形態では、図5に示すように、第2の試料室を配置し、試料加工を行う本体試料室と切り離した構成の装置を示す。試料は、本体の第1試料室3内で加工された後、真空を保ったまま第2試料室3aに移され、第1試料室3と真空ラインを切り離した後、不図示のガス導入部から第2試料室3aにドライガスを導入することができる。このことによって、ガス導入は、第1試料室3に全く及ぶことがないだけでなく、第1試料室3を最小限の大きさにすることが可能な構成になる。この第2試料室3aは、試料を本体の第1試料室3に導入前の予備試料室として用いることも可能で、効率の良い試料導入もできる構成である。
【0069】
(実施形態4)
本発明における装置を、液晶表示装置、又は有機半導体の製造工程における断面評価装置として用いた例を挙げる。
【0070】
本実施形態では、比較的大面積である試料において、温度調整を行う場合について述べる。
【0071】
大画面液晶表示装置に使用される液晶が塗布されたガラス基板等の大型の試料の一部分において、断面の状態を正確に評価したい場合は、加工部付近の領域のみを局所的に温度調整することも可能であるが、基板全体を温度調整することも好ましい。この場合、該保温部の試料設置面と対向する位置に冷媒を流す冷媒流動管を設けて、ホルダ全体を冷却するとよい。
【実施例】
【0072】
ここでは、上述の各実施形態の断面評価装置を用いて実際に試料の断面評価を行った例を説明する。
【0073】
本実施例では、図1に示した断面評価装置を用いた。保温部2として、図2に示した試料ステージ8に低温温度可変機構の付いたユニットが組み込まれたものを用いて、ガラス基板上に液晶(チッソ社製二周波駆動液晶:DF01XX)を含むポリマー構造体(重合成モノマー:HEMA,R167,HDDAを液晶と共に混合し重合したもの)が作製された試料の断面評価を以下の手順で行った。
【0074】
まず、試料を低温温度可変機構の付いたユニット上にカーボンペーストで固定し、このユニットを試料ステージ8にセットした。この試料がセットされた試料ステージ8を試料室3に導入した後、試料室3内を所定の低圧力になるまで排気した。
【0075】
次に、設定温度を−100℃に設定し、試料がその評価温度に保たれたことを確認した。
【0076】
図6(a)は、評価位置近傍にマーキング後の試料表面の一例を示す光学顕微鏡像の模式図、
図6(b)は、評価位置決定後の図6(a)と同じ位置のSIM像を示す模式図、
図6(c)は、FIB加工後の光学顕微鏡像を示す模式図である。
【0077】
試料ステージをマーキング位置に移動し、備え付けの光学顕微鏡で試料表面を観察したところ、ライン上に異物のある評価位置を確認した。そのままレーザービームを用いて評価位置近傍にマークを4箇所形成した(図6(a))。試料20の表面中央にライン21と評価位置22がある。その評価位置22を中心として、上下左右にマーク25があり、これらのマークから評価位置が特定できる配置である。
【0078】
次に、試料ステージをFIB加工位置に移動させ、試料温度を常に確認しながら試料の断面観察位置を含んだ領域について試料表面のSIM観察を行った。このときのイオンビームは、観察モードのごく弱い条件で行った。具体的には、ガリウムイオン源を用い、加速電圧30kV、ビーム電流20pA、ビーム径約30nmとした。そして、このとき、ライン21は、SIM像では確認できず、評価位置22もうっすらと分かる程度であったが、4つのマークをたよりにFIB加工位置29を設定した(図6(b))。
【0079】
次に、指定した断面加工位置をFIB加工(粗加工)した。具体的には、加速電圧30kV、ビーム電流50nA、ビーム径約300nmとして断面加工位置に40μm角で、深さ30μmの矩形状の凹部を形成した。この粗加工では、少しずつ段階的に弱い条件で加工するようにし、加工中は、時々、加工中の試料表面をSIM観察し、所望の位置近くまで加工されているかを確認した。加工後、試料ステージをマーキング位置に移動し、マーキング手段についている光学顕微鏡で評価位置近傍を観察したところ、ライン21上にある評価位置をFIB加工していることを確認できた(図6(c))。
【0080】
所望の位置まで加工できていることを確認した後、更に、断面加工精度を上げるための仕上げ加工として、SIM観察の場合と同等の弱い条件で、粗加工のときよりも細いビームで粗加工した断面加工位置を更に加工した。
【0081】
図7(a)は、FIB加工により作製された断面の一例を示す模式図、
図7(b)は、図7(a)に示す断面をSIM観察する際の状態を示す模式図である。
【0082】
図7(a)において、試料40のほぼ中央部に、イオンビーム30の照射により矩形状の凹部が形成されている。途中の断面SIM観察では、ステージを傾斜させ、観察用の弱いビームを図7(b)に示すような角度で照射することで確認した。このように試料の断面が側面から観察可能である。
【0083】
次に、そのまま試料室中で試料温度をゆっくり室温に戻し、水分を十分取り除いたドライ窒素で試料室3の圧力を上昇させた後、試料1をFIB装置から取り出した。
【0084】
最後に、上記の様にして作製した試料をSEMに導入し、断面のSEM観察を行った。このときのSEM観察の条件は、加速電圧800Vで、撮影倍率〜5万倍までとした。このSEM観察により、ポリマー層の中に液晶が包まれている様子を観察することができた。
【0085】
以上のように、本実施例では、試料の温度を−100℃で維持しながらFIB加工を行ったため、加工中に液晶層がだれること無く、断面加工を行うことができた。また、FIB装置中でSIM観察することで断面形状を確認した。更に、SEMに導入し、SEM観察ができたため、ポリマー中に液晶が存在している様子を断面観察することができた。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態における断面評価装置の概略構成図
【図2】本発明の第1の実施形態における断面評価装置の温度調整手段の概略構成図
【図3】図1,2に示す断面評価装置を用いた試料の断面評価の一手順を示すフローチャート図
【図4】本発明の第2の実施形態における断面評価装置の概略構成図
【図5】本発明の第3の実施形態における断面評価装置の概略構成図
【図6】図6(a)は、評価位置近傍にマーキング後の試料表面の一例を示す光学顕微鏡像の模式図、図6(b)は、評価位置決定後の図6(a)と同じ位置のSIM像を示す模式図、図6(c)は、FIB加工後の光学顕微鏡像を示す模式図
【図7】図7(a)は、FIB加工により作製された断面の一例を示す模式図、図7(b)は、図7(a)に示す断面をSIM観察する際の状態を示す模式図
【符号の説明】
【0087】
1,20,40…試料
2…保温部
3…試料室(第1試料室)
3a…第2試料室
4…イオンビーム発生部
5…検出器
6…マーキング手段
7…制御部
7a…温度制御部
8…試料ステージ
11a,11b…温度計
12…温度可変機構
16…トラップ手段
21…ライン
22…評価位置
25…マーク
30,31…イオンビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内で試料の断面を評価する装置であって、
該試料を載置する試料ステージと、該試料の温度を調整するための温度調整手段と、該試料の断面加工、及び観察を行うため該試料に対してイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と、前記イオンビームの試料観察の照射に応じて前記試料から放出される放出信号を検出する検出手段とを備えていることを特徴とする試料の断面評価装置。
【請求項2】
前記試料にマーキングを行うマーキング手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の試料の断面評価装置。
【請求項3】
前記検出手段からの信号に基づいて像情報の取得を行う情報取得手段を備えていること特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の試料の断面評価装置。
【請求項4】
前記温度調整手段により前記試料を予め設定された温度に調整した状態で、前記マーキング手段による試料のマーキング、前記イオンビーム発生手段によるイオンビームの照射、及び前記検出手段による放出信号の検出を行うこと特徴とする請求項2又は3に記載の試料の断面評価装置。
【請求項5】
前記温度調整手段は、前記試料を室温以下の温度に冷却する冷却手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の試料の断面評価装置。
【請求項6】
前記試料ステージ、前記イオンビーム発生手段、及び前記検出手段は、雰囲気制御可能な前記試料室内に配置され、該試料室内には残留するガスを捕捉するトラップ手段を更に備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の試料の断面評価装置。
【請求項7】
前記試料室を第1の試料室として該第1の試料室に接続可能な位置に雰囲気制御可能な第2の試料室を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の試料の断面評価装置。
【請求項8】
前記マーキング手段にレーザーが配置されていることを特徴とする請求項2に記載の試料の断面評価装置。
【請求項9】
前記イオンビーム発生手段による前記イオンビームの試料観察の照射が、前記試料の所定部の加工前後の断面を走査して行われ、前記情報取得手段は、該走査に同期して前記検出手段で検出される複数の点からの放出信号に基づいて前記断面に関する像情報を取得することを特徴とする請求項3に記載の試料の断面評価装置。
【請求項10】
試料の温度を調整する第1のステップと、
前記試料の所定部にマーキングを行う第2のステップと、
前記マークを指標として、前記所定部の断面の加工位置を確認する第3のステップと、
所望の位置にイオンビームを照射して断面の切り出しを行う第4のステップと、
イオンビームの試料観察の照射に応じて前記試料から放出される放出信号を検出する第5のステップと、
検出された信号に基づいて像情報の取得を行う第6のステップと、
を有することを特徴とする試料の断面評価方法。
【請求項11】
前記放出信号が2次電子あるいは2次イオン、又はその両方であることを特徴とする請求項10に記載の試料の断面評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−79846(P2006−79846A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259826(P2004−259826)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】