説明

誘電体セラミックス及び積層セラミックコンデンサ

【課題】 チタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等以上の高温加速寿命特性を有し、温度特性がX5R特性を示すチタン酸ストロンチウム系の積層セラミックコンデンサを得る。
【解決手段】 SrTiOを主相とし、SrTiO 100molに対してMg成分を、0.2〜5.0mol、Mn及びVから選ばれる金属元素を0.1〜1.0mol、Re成分(ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種または2種以上の金属元素)を0.3〜5.0mol、SiOまたはSiを含むガラス成分を0.15〜10molの割合で含有する誘電体セラミックスであり、前記誘電体セラミックスを構成するセラミック粒子がコアシェル構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックス及びその製造方法並びにこの誘電体セラミックスを用いた積層コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体セラミック層と、該誘電体セラミック層を介して交互に異なる端面に引出されるように形成された複数の内部電極と、で構成されるセラミック積層体を有しており、該セラミック積層体の両端面上に内部電極と電気的に接続するように外部電極が形成されているものである。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体セラミックスとしては、主にチタン酸バリウム(BaTiO)系の材料がある。チタン酸バリウム系の誘電体セラミックスは高い誘電率が得られるので、小型大容量の積層セラミックコンデンサを形成することができる。しかし反面、チタン酸バリウム系の誘電体セラミックスは圧電性を有している。そのため電圧を印加すると積層セラミックコンデンサが厚さ方向または長さ方向に伸縮して変位を起こす。この変位の方向は印加する電圧の方向により変化する。そして例えばパソコンのCPUの入力コンデンサや、液晶あるいはプラズマディスプレイの画像処理回路のように電圧が周期的に変化する条件下においては、変位の方向も連続的に変化して振動するように伸縮する。この変位の方向の連続的な変化は、いわゆる音鳴きの原因となるものである。
【0004】
音鳴きの原因となる積層セラミックコンデンサの変位を低減するため、誘電体セラミックスとしてチタン酸ストロンチウム(SrTiO)系材料が用いられる。チタン酸ストロンチウムは、例えば特開2004−292173号公報や特開2000−264729号公報に開示されているように、チタン酸バリウム系材料よりも低歪み率である。よってチタン酸ストロンチウム系材料を用いることで、音鳴きの原因となる積層セラミックコンデンサの変位を低減することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−292173号公報
【特許文献2】特開2000−264729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チタン酸ストロンチウム系材料を用いた誘電体セラミックスは、キュリー点が低温側(−60℃以下)にあるため、常温域における誘電率の温度変化が大きく、チタン酸バリウム系材料を用いた誘電体セラミックスに比べてR特性(温度変化率が±15%以内)の温度特性を有する積層セラミックコンデンサを得るのが困難であった。また、高温加速寿命特性についても、チタン酸ストロンチウム系の積層セラミックコンデンサはチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の特性を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、チタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の高温加速寿命特性を有し、温度特性がX5R特性(25℃基準で−55℃〜+85℃の温度範囲で±15%以内)を示すチタン酸ストロンチウム系の積層セラミックコンデンサを得ることができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では第一の解決手段として、SrTiOを主相とし、SrTiO 100molに対してMg成分を、MgO換算で0.2〜5.0mol、Mn及びVから選ばれる金属元素を、一分子中に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.1〜1.0mol、Re成分(ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種または2種以上の金属元素)を、一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.3〜5.0mol、SiOまたはSiを含むガラス成分を、SiO換算で0.15〜10molの割合で含有する誘電体セラミックスであって、前記誘電体セラミックスを構成するセラミック粒子がコアシェル構造を有している誘電体セラミックスを提案する。
【0009】
また本発明ではさらに第ニの解決手段として、複数の誘電体セラミック層と、該誘電体セラミック層間に形成された内部電極と、該内部電極に電気的に接続された外部電極とを有する積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層として上記の誘電体セラミックスを用いており、前記内部電極がNiまたはNi合金で形成されている積層セラミックコンデンサを提案する。
【0010】
上記第一及び第二の解決手段によれば、チタン酸ストロンチウム系の積層セラミックコンデンサは、コアシェル構造を有するセラミック粒子で構成された誘電体セラミックスを用いることによって、チタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の高温寿命特性を得ることが可能となる。また、チタン酸ストロンチウム系の誘電体セラミックスは、これを構成するセラミック粒子がコアシェル構造を有していることにより、コアとなるチタン酸ストロンチウムの結晶の温度特性と、シェルとなるチタン酸ストロンチウムの固溶体の温度特性との温度特性とが合成され、R特性の温度特性が得られるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の高温加速寿命特性を有し、温度特性がX5R特性を示すチタン酸ストロンチウム系の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の誘電体セラミックスに係る実施形態について説明する。本発明の誘電体セラミックスは、SrTiO+Mg成分+M成分+Re成分+Si成分(Re成分はSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種または2種以上の金属元素、M成分はMn及びVから選ばれる金属元素、Si成分はSiOまたはSiを含むガラス成分)で表される。
【0013】
SrTiOは、SrCOとTiOとを混合して、1200℃〜1300℃で熱処理して合成される。従来のSrTiOは1000℃以下で熱処理して合成していた。そのため結晶性が低く、コアシェル構造を形成することが困難であった。しかし本発明の誘電体セラミックスの主相となるSrTiOは、1200℃〜1300℃という比較的高温で熱処理するので、結晶性が高く、コアシェル構造を容易に形成できる。なお、誘電体セラミックスに耐還元性を持たせるため、Sr/Ti比は0.95〜1.05であることが望ましい。
【0014】
Mg成分は、SrTiO 100molに対して0.2〜5.0molである。この場合Mg成分はMgO換算でmol数が特定される。Mg成分が0.2molより少ない、あるいは5.0molより多い場合、誘電体セラミックスの焼結性が低下する。Mg成分としては通常MgOが用いられる。
【0015】
M成分はMn及びVから選ばれる金属元素であって、SrTiO 100molに対して0.1〜1.0molである。この場合M成分は一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算でmol数が特定される。ここで「一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算」とは、金属原子1個を1分子中に有している酸化物に換算することで、例えばVであればVO5/2として換算される。M成分が0.1molより少ない、あるいは1.0molより多い場合、誘電体セラミックスの焼結性が低下する。M成分の原料としては、Vの場合はVが用いられる。Mnの場合はMnOの他、MnCO、Mn等が用いられる。
【0016】
Re成分は、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種類または2種以上の希土類金属元素であって、SrTiO 100molに対して、一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.3mol〜5.0molである。Re成分が0.3molより少ない、あるいは5.0molより多い場合、誘電体セラミックスの焼結性が低下する。Re成分の原料としては、それぞれの3価の酸化物すなわちReで表される酸化物が用いられる。
【0017】
Si成分はSiOまたはSiを含むガラス成分であって、SrTiO 100molに対して、SiO換算で0.15mol〜10molである。Si成分が0.15molより少ないと誘電体セラミックスが緻密化しない。またSi成分が10molより多いと、セラミック粒子の粒成長が発生し、温度特性がR特性の範囲からはずれてしまう。Si成分の原料としては、SiOの他、Li−Si系ガラス、B−Si系ガラス等のガラス成分が挙げられる。なお、このようなガラス成分の場合、その添加量はSiのmol数によって特定される。
【0018】
なお、さらにCr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo及びWから選ばれる金属元素を一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.1mol程度添加しても良い。
【0019】
本発明の誘電体セラミックスは、上記に示すような組成を有するとともに図2に示すようなコアシェル構造を有するセラミック粒子で構成されている。図2に示すセラミック粒子8は、純粋なチタン酸ストロンチウムの結晶相からなるコア9と、チタン酸ストロンチウムとMg等の添加成分との固溶相からなるシェル10と、を有する。セラミック粒子8はコアシェル構造を有していることにより、粒成長が抑制される。そのため、本発明の誘電体セラミックスは、粒成長しやすい固溶粒子で形成された従来のチタン酸ストロンチウム系の誘電体セラミックスと比較して、絶縁抵抗の高い粒界部分が多くなり、チタン酸バリウム系の誘電体セラミックスと同等の高温寿命特性が得られる。
【0020】
また、セラミック粒子8のコア9は純粋なチタン酸ストロンチウムの結晶が有する温度特性を示し、シェル10はチタン酸ストロンチウムの固溶体が有する温度特性を示す。セラミック粒子8全体の温度特性は、コア9の温度特性とシェル10の温度特性が合成された温度特性となる。異なる温度特性が合成されることにより、セラミック粒子8はフラットな温度特性を得られるようになる。その結果、本発明の誘電体セラミックスは、X5R特性の温度特性を有することができる。
【0021】
次に本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサについて説明する。本実施形態による積層セラミックコンデンサ1は、図1に示すように、誘電体セラミックス3と、該誘電体セラミックス3を介して対向しかつ交互に異なる端面へ引出されるように形成された内部電極4とを有する略直方体形状のセラミック積層体2を備え、該セラミック積層体2の両端面上には、内部電極と電気的に接続するように外部電極5が形成されている。その外部電極5上には必要に応じて外部電極5を保護するための第一のメッキ層6、半田ヌレ性を向上させるための第二のメッキ層7が形成される。
【0022】
誘電体セラミックス3は本発明の誘電体セラミックスで形成されている。よって本発明の積層セラミックコンデンサ1は、誘電体セラミックス3がコアシェル構造を有するチタン酸ストロンチウム系のセラミック粒子で構成されており、X5R特性の温度特性を有しかつチタン酸バリウム系の誘電体セラミックスと同等の高温寿命特性を有している。また、チタン酸ストロンチウムは常誘電体であるので、本発明の積層セラミックコンデンサ1はチタン酸バリウム系の誘電体セラミックスを用いた積層セラミックコンデンサよりも低歪み率となり、音鳴きの原因となる積層セラミックコンデンサの伸縮が低減される。
【0023】
内部電極4はNiまたはNi−Cu合金等のNi合金で形成される。NiまたはNi合金は融点が誘電体セラミックスの焼結温度(1100℃〜1400℃)よりも高いので、誘電体セラミックスの焼成と同時に焼成が可能である。また、Pd等に比べて安価であるので、内部電極の枚数が多くなる大容量の積層セラミックコンデンサを低コストで得ることができる。
【0024】
外部電極5は、内部電極4と電気的に接続する。外部電極5は、融点が誘電体セラミックスの焼結温度よりも高いNi等のペーストを用いて誘電体セラミックスの焼成と同時に焼成するか、セラミック積層体2の焼結後、AgペーストやCuペーストを用いて焼付けるなどの方法で形成される。この外部電極5の上には、外部電極5を保護するための第一のメッキ層6が形成され、さらに第一のメッキ層6の上に第二のメッキ層7が形成される。第一のメッキ層6には、Ni、Cu等の金属が用いられ、第二のメッキ層にはSnまたはSn合金等の半田ヌレ性の良好な金属が用いられる。
【0025】
次に、本発明の誘電体セラミックス及び積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。なお、以下のプロセスの説明においては、記載された組成比を焼結体となった時の組成比として説明する。配合については、例えば湿式混合でイオン溶出する分や焼成時に蒸発する分を考慮した分量で行い、記載された組成比で焼結体が形成されるように配合されるものとする。
【0026】
まず、SrCOとTiOを、Sr:Tiがモル比で95:100〜105:100になるように用意する。用意したSrCO及びTiOに水を加えてボールミル、ビーズミル、ディスパミル等を用いて15〜24時間程度湿式混合する。得られた混合物を乾燥させ、これを1200℃〜1300℃で2時間程度熱処理を行い、チタン酸ストロンチウムを合成する。
【0027】
一方、SrTiO 100molに対して、MgOを0.2〜5.0mol、M成分としてMnOまたはV(VO5/2換算)を0.1〜1.0mol、Re成分として例えばHoをHoO3/2換算で0.3〜5.0mol、Si成分として例えばSiOを0.15〜10molの割合になるように混合し、水を加えてボールミル、ビーズミル、ディスパミル等を用いて15〜24時間程度湿式混合する。その後乾燥させ、添加材料を得る。
【0028】
次に、合成したチタン酸ストロンチウムと添加材料とを混合し、水を加えてボールミル、ビーズミル、ディスパミル等を用いて15〜24時間程度湿式混合する。その後この混合物を乾燥させ、1000℃で仮焼きする。このようにして誘電体セラミック組成物を得る。
【0029】
得られた誘電体セラミック組成物と、ブチラール系またはアクリル系の有機バインダー、溶剤及びその他添加剤とを混合してセラミックスラリーを形成する。このセラミックスラリーをロールコータ等の塗布装置を用いてシート化し、誘電体セラミック層3となる所定の厚みのセラミックグリーンシートを形成する。このセラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷によって所定のパターン形状にNiまたはNi合金の導電ペーストを塗布して内部電極4となる導電体層を形成する。
【0030】
導電体層を形成したセラミックグリーンシートを必要枚数積層した後、圧着し、生の積層体を形成する。これを個別チップに切断分割した後、大気中または窒素等の非酸化性ガス中で脱バインダーする。脱バインダー後、個別チップの内部電極露出面に導電ペーストを塗布して外部電極5となる導電体膜を形成する。この導電体膜を形成した個別チップを所定の温度の窒素―水素雰囲気中(酸素分圧10−10atm程度)で焼成する。なお、外部電極5は、個別チップを焼成してセラミック積層体2を形成した後、内部電極露出面にガラスフリットを含有する導電ペーストを塗布して焼付けても良い。外部電極5は、内部電極と同じ金属を使用できる他、Ag、Pd、AgPd、Cu、Cu合金などが使用できる。さらに外部電極5上にNi、Cu等で第一のメッキ層6、その上にSnまたはSn合金等で第二のメッキ層7を形成し、積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【実施例】
【0031】
(主相の合成)
主相A:出発原料として、SrCOを101mol、TiOを100molの割合になるようにそれぞれ秤量して準備した。次に準備した出発原料をボールミルにて15時間湿式混合し、乾燥後1300℃で2時間熱処理して主相Aの粉末を得た。
【0032】
主相B:出発原料として、SrCOを101mol、TiOを100molの割合になるようにそれぞれ秤量して準備した。次に準備した出発原料をボールミルにて15時間湿式混合し、乾燥後1000℃で2時間熱処理して主相Bの粉末を得た。
【0033】
主相C:出発原料として、SrCOを101mol、TiOを100mol、MgOを2.0mol、MnOを0.4mol、YbをYbO3/2換算で3.0molの割合になるようにそれぞれ秤量して準備した。次に準備した出発原料をボールミルにて15時間湿式混合し、乾燥後1000℃で2時間熱処理して主相Cの粉末を得た。主相A、B及びCの組成を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例1)
表2に示すように、主相A100molに対して、MgOを2.0mol、MnOを0.4mol、YbをYbO3/2換算で3.0mol、SiOを1.5molの割合になるようにそれぞれ秤量して準備した。準備したMgO、MnO、Yb及びSiOを混合し、水を加えてボールミルを用いて15〜24時間程度湿式混合して添加材料を得た。得られた添加材料と主相Aとを混合し、水を加えてボールミルを用いて15〜24時間程度湿式混合した。その後この混合物を乾燥させ、1000℃で仮焼きして誘電体セラミック組成物の粉末を得た。
【0036】
上記の粉末に、ポリビニルブチラール、有機溶剤、可塑剤を加えて混合し、セラミックスラリーを形成した。このセラミックスラリーをロールコータにてシート化し、厚みが7μmのセラミックグリーンシートを得た。このセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷でNi内部電極ペーストを塗布して、内部電極パターンを形成した。内部電極パターンを形成したセラミックグリーンシートを、11枚積み重ね、さらにこの上下に内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートを重ねて圧着し、4.0×2.0×1.0mmの大きさに切断分割して生チップを形成した。この生チップを窒素雰囲気中で脱バインダーし、Ni外部電極ペーストを塗布して、還元雰囲気中(窒素−水素雰囲気、酸素分圧10−10atm)にて1330℃で1時間保持して焼成し、その後室温まで750℃/hrの降温速度で温度を下げた。このようにして3.2×1.6×0.8mmの大きさの試料1の積層セラミックコンデンサを得た。また、試料2として、主相Bを用いて以後の工程を試料1の場合と同様に行った。このようにして試料2の積層セラミックコンデンサを得た。
【0037】
また、主相Cを用い、主相Cと主相C100molに対してSiOを1.5molの割合になるように秤量して混合し、水を加えてボールミルを用いて15〜24時間程度湿式混合した。その後この混合物を乾燥させ、1000℃で仮焼きして誘電体セラミック組成物の粉末を得た。この誘電体セラミック組成物の粉末を用いて以後の工程を試料1の場合と同様に行い、試料3の積層セラミックコンデンサを得た。
【0038】
【表2】

【0039】
こうして得られた3.2×1.6×0.8mmサイズで誘電体セラミック層の厚み4μmの積層セラミックコンデンサについて、誘電率(ε)、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察した。誘電率は、試料となる積層セラミックコンデンサを10個用意し、それぞれの静電容量をヒューレットパッカード社のLCRメータ4284Aにて測定して、この測定値と、試料となる積層セラミックコンデンサの内部電極の交差面積、誘電体セラミック層厚み及び積層枚数から計算して、試料10個の平均値を算出したものとした。tanδはヒューレットパッカード社のLCRメータ4284Aにて測定して試料10個分の測定値を求め、その平均値とした。
【0040】
温度特性については、各試料10個にて、−55℃〜+85℃の範囲で5℃間隔で静電容量をサンプリングし、10個の試料全部が25℃の時の静電容量から±15%以内にあれば○とした。高温寿命特性については、各試料20個にて、加速条件を150℃,70Vとし、リーク電流をモニタして、電流が500nA以上流れた所で破壊したものとし、その時の秒数から次の計算式
log(平均寿命)−50×log(EXP(1))×(0.25−1/層厚)
で寿命レベルを算出した。この寿命レベルが4以上のものを、チタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルとして合格とした。
【0041】
コアシェル構造の有無については、各試料ともTEM(透過電子顕微鏡)によって観察し、コアシェル構造を有するセラミック粒子があれば○とした。これらの結果を表3に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
以上の結果から、主相Aを用いた誘電体セラミックスおよび積層セラミックコンデンサであれば、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。また、主相Aを用いた誘電体セラミックスでは、コアシェル構造を有するセラミック粒子が観察された。
【0044】
(実施例2)
表4の組成の焼結体が得られるように、実施例1の本発明例1と同様にして、誘電体セラミック粉末を形成した。ここではMgの添加量及び種類を変化させてその効果を検証した。
【0045】
【表4】

【0046】
上記の誘電体セラミック粉末を、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを形成し、誘電率、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察し、表5にまとめた。
【0047】
【表5】

【0048】
以上の結果から、Mgの範囲が0.2〜5.0molの範囲であれば、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。
【0049】
(実施例3)
表6の組成の焼結体が得られるように、実施例1と同様にして、誘電体セラミック粉末を形成した。ここではMnまたはVの添加量を変化させてその効果を検証した。
【0050】
【表6】

【0051】
上記の誘電体セラミック粉末を、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを形成し、誘電率、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察し、表7にまとめた。
【0052】
【表7】

【0053】
以上の結果から、MnまたはVの範囲が0.1〜1.0molの範囲であれば、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。また、本発明の範囲内であればMnとVを混合しても良いことがわかった。
【0054】
(実施例4)
表8の組成の焼結体が得られるように、実施例1と同様にして、誘電体セラミック粉末を形成した。ここでは希土類成分の添加量及び種類を変化させてその効果を検証した。
【0055】
【表8】

【0056】
上記の誘電体セラミック粉末を、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを形成し、誘電率、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察し、表9にまとめた。
【0057】
【表9】

【0058】
以上の結果から、希土類成分の範囲が0.3〜5.0molの範囲であれば、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。なお、試料24の結果から、本発明で規定した以外の希土類成分(La)を用いた場合は固溶状態が変化してコアシェル構造を形成しないことがわかった。また、本発明の規定した希土類成分であれば本発明の効果が得られることがわかった。
【0059】
(実施例5)
表10の組成の焼結体が得られるように、実施例1と同様にして、誘電体セラミック粉末を形成した。ここではSiOの添加量を変化させてその効果を検証した。
【0060】
【表10】

【0061】
上記の誘電体セラミック粉末を、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを形成し、誘電率、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察し、表11にまとめた。
【0062】
【表11】

【0063】
以上の結果から、SiOの範囲が0.15〜10molの範囲であれば、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。なお、SiOの添加量が少ないと、試料27に示すように、緻密化せず、SiOの添加量が多いと、試料28に示すように、コアシェル構造が形成されずに所望の温度特性及び寿命特性が得られないことがわかった。
【0064】
(実施例6)
表12の組成の焼結体が得られるように、実施例1と同様にして、誘電体セラミック粉末を形成した。ここでは試料1の組成にCr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo及びWから選ばれる金属元素を添加させてその効果を検証した。
【0065】
【表12】

【0066】
上記の誘電体セラミック粉末を、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを形成し、誘電率、tanδ、温度特性及び高温寿命特性の測定並びにコアシェル構造の有無を観察し、表13にまとめた。
【0067】
【表13】

【0068】
以上の結果から、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo及びWから選ばれる金属元素をさらに添加しても、温度特性がX5R特性であり、高温加速寿命特性がチタン酸バリウム系の積層セラミックコンデンサと同等の寿命レベルであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】積層セラミックコンデンサの断面を模式的に表した図である。
【図2】コアシェル構造を有するセラミック粒子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1 積層セラミックコンデンサ
2 セラミック積層体
3 誘電体セラミックス
4 内部電極
5 外部電極
6 第一のメッキ層
7 第ニのメッキ層
8 セラミック粒子
9 コア
10 シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SrTiOを主相とし、
SrTiO 100molに対して
Mg成分を、MgO換算で0.2〜5.0mol
Mn及びVから選ばれる金属元素を、一分子中に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.1〜1.0mol
Re成分(ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種または2種以上の金属元素)を、一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.3〜5.0mol
SiOまたはSiを含むガラス成分を、SiO換算で0.15〜10mol
の割合で含有する誘電体セラミックスであって、
前記誘電体セラミックスを構成するセラミック粒子がコアシェル構造を有している。
ことを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
複数の誘電体セラミック層と、該誘電体セラミック層間に形成された内部電極と、該内部電極に電気的に接続された外部電極とを有する積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体セラミック層が
SrTiOを主相とし、
SrTiO 100molに対して
Mg成分を、MgO換算で0.2〜5.0mol
Mn及びVから選ばれる金属元素を、一分子中に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.1〜1.0mol
Re成分(ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選ばれる1種または2種以上の金属元素)を、一分子に金属元素が一原子含まれる酸化物換算で0.3〜5.0mol
SiOまたはSiを含むガラス成分を、SiO換算で0.15〜10mol
の割合で含有する誘電体セラミックスであり、
前記誘電体セラミックスを構成するセラミック粒子がコアシェル構造を有しており、前記内部電極がNiまたはNi合金で形成されている
ことを特徴とする積層セラミックコンデンサ。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96671(P2009−96671A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269955(P2007−269955)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】