警報システム
【課題】車両用サスペンション装置に用いられるボールジョイントの作動不良を適切に予測して運転者に報知する警報システムを提供すること。
【解決手段】マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22から車両の総走行距離Lを入力し、規定距離La未満であるときに、車速センサ23からの車速V、操舵トルクセンサ25からの操舵トルクT、転舵角センサ24からの転舵角δに基づき転舵輪が据え切りされた据え切り回数N、転舵角δを積算した積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となる積算転舵回数Mまたはサスペンションストロークセンサ27からのストローク量hを積算した積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となる積算ストローク回数Pを設定する。そして、規定距離Laにて設定した回数N、Mまたは回数Pが規定回数未満であるときに、報知装置26を作動させてボールジョイントの作動不良を運転者に報知する。
【解決手段】マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22から車両の総走行距離Lを入力し、規定距離La未満であるときに、車速センサ23からの車速V、操舵トルクセンサ25からの操舵トルクT、転舵角センサ24からの転舵角δに基づき転舵輪が据え切りされた据え切り回数N、転舵角δを積算した積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となる積算転舵回数Mまたはサスペンションストロークセンサ27からのストローク量hを積算した積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となる積算ストローク回数Pを設定する。そして、規定距離Laにて設定した回数N、Mまたは回数Pが規定回数未満であるときに、報知装置26を作動させてボールジョイントの作動不良を運転者に報知する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示されているような点火時期警報装置は知られている。この点火時期警報装置は、自動車の各種運転状況および各部位(エンジンやブレーキ)の劣化程度を検出する検出手段を備えており、この検出手段の検出信号から点火時期を判断する値を演算し、さらに、点火時期判断値の増加傾向値を演算し、この点火時期判断値を所定の基準値と比較することにより、点火時期を警報する信号を出力するとともに増加傾向値から点火時期が近いことを予知して警報する信号を出力するようになっている。
【0003】
また、例えば、下記特許文献2に示されているような車両のクラッチ評価システムも知られている。この車両のクラッチ評価システムにおいては、ギア状態判定部が車両の走行中におけるギアのイン状態またはオフ状態の少なくとも一方を判定し、時間係数部がギア状態判定部による判定に基づいてギアがオフ状態となるギアオフ時間を計測するようになっている。そして、演算部は、時間係数部が計数したギアオフ時間の積算値を求め、この積算値を走行距離で除算して、使用態様の厳しさの度合いに対応する評価値を算出するようになっている。
【0004】
ここで、車両を安定して走行させる点においては、エンジンやブレーキ、トランスミッション(クラッチ)の良好な作動を維持することはいうまでもなく、車両のサスペンション装置が良好に作動することも極めて重要である。そして、サスペンション装置は、車両の走行状態に応じて滑らかに作動することによって機能を発揮できるため、サスペンション装置には一般的にボールジョイントが設けられている。すなわち、設けられたボールジョイントが滑らかに回転し揺動することによって、サスペンション装置は滑らかに作動することができる。
【0005】
このため、ボールジョイントに、例えば、潤滑不良などにより内蔵されている樹脂シートが過度に摩耗して作動不良が生じると、滑らかな作動が損なわれ、その結果、サスペンション装置の作動にも支障をきたす可能性がある。したがって、ボールジョイントに作動不良が生じる可能性を的確に予測して運転者に報知し、速やかな点検や交換を促すようにすることが望まれている。
【0006】
この点に関し、例えば、下記特許文献3には、摩耗検知装置を備えた玉継手(ボールジョイント)が示されている。この玉継手(ボールジョイント)は、継手ソケットとボールスタットとが電気的なコンタクトによって電位差測定装置に接続されており、かつ、ボールスタッドの球状の座面と、対向する対向座面とが継手ソケット内で互いに電気的に絶縁されて形成されている。これにより、玉継手の摩耗状態を決定することができ、自動車の利用者が玉継手の耐用寿命の終わりと必要な修理との指示を適時に得ることができるようになっている。
【特許文献1】特開昭59−14540号公報
【特許文献2】特開2006−234155号公報
【特許文献3】特表2003−525404号公報
【発明の開示】
【0007】
ところで、上記特許文献3に示された摩耗検知装置を備えた玉継手(ボールジョイント)においては、別途、電位差測定装置を設ける必要があり、サスペンション装置に適用した場合には、ボールジョイントおよび周辺部品形状の設計自由度が制限される可能性がある。また、上記特許文献3に示された摩耗検知装置は、実際にボールジョイントに作動不良が生じて初めて摩耗状態を決定することができる。すなわち、この摩耗検知装置においては、摩耗状態を予測することができないため、例えば、ボールジョイントを交換する場合には、運転者は、サスペンション装置が良好に作動しない状態で修理工場まで走行しなければならない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両用サスペンション装置に用いられるボールジョイントの作動不良を適切に予測して運転者に報知する警報システムを提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムであって、前記ボールジョイントの作動状態を、前記車両用サスペンション装置の作動状態に基づいて推定する作動状態推定手段と、前記推定した前記ボールジョイントの作動状態と、予め設定される前記ボールジョイントの良好な作動状態とを比較して、前記ボールジョイントの作動不良が発生する可能性が高いか否かを予測して判定する予測判定手段と、前記判定に基づき、運転者に対して前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いことを報知する報知装置を作動させる作動手段とを備えたことにある。
【0010】
この場合、前記作動状態推定手段は、車両が所定の走行距離を走行するまでに、前記車両用サスペンション装置の、車両が略停止状態にあるときに車両の転舵輪が転舵される据え切りに伴う据え切り作動回数、前記車両の転舵輪が走行時に転舵されるごとに作動する積算転舵作動回数、および、車両の車高が変化するごとに作動する積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいて前記ボールジョイントの作動状態を推定するとよい。
【0011】
また、この場合、前記予測判定手段は、前記車両用サスペンション装置の前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のそれぞれに対応して予め設定されていて、前記ボールジョイントの作動状態を良好に維持するために必要なそれぞれの規定回数を用い、前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つが、対応する前記規定回数未満であるときに、前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと判定するとよい。
【0012】
これらによれば、作動状態推定手段が車両用サスペンション装置の据え切り作動回数、積算転舵作動回数および積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいてボールジョイントの作動状態を推定し、予測判定手段が車両用サスペンション装置の据え切り回数に対応する規定回数、積算転舵作動回数に対応する規定回数および積算車高変化作動回数に対応する規定回数を用いてこれら回数が対応する規定回数未満であるときにボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと予測して判定することができる。そして、ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと予測されるときには報知手段を作動させて運転者に報知することができる。
【0013】
したがって、サスペンション装置の作動に支障をきたすようなボールジョイントの作動不良が発生する前に確実に報知することができる。これにより、運転者に対して、ボールジョイントの点検や交換を適切にかつ速やかに促すことができる。
【0014】
また、作動状態推定手段は、据え切り作動回数、積算転舵作動回数および積算車高変化作動回数を設定するにあたり、例えば、車速センサや、転舵角センサ、操舵トルクセンサ、サスペンションストロークセンサなど、一般的に車両に搭載されているセンサによって検出される検出値を用いて前記各回数を設定(カウント)することができる。したがって、別途、センサや装置等を設ける必要がなくて、ボールジョイントの作動状態を適切に推定することができる。これにより、ボールジョイントおよび周辺部品形状の設計自由度が制限されることがなくて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の第1ないし第3実施形態に共通し、本発明に係る摩耗警報システムが適用される車両用サスペンション装置10のフロント側を概略的に示している。なお、車両用サスペンション装置10は、左右対称とされているため、図1においては車両左前輪側のみを示す。この車両用サスペンション装置10は、マクファーソン・ストラット式のサスペンションであり、車輪(転舵輪)を支持するキャリア11にストラット12の下端が一体的に組み付けられ、上端が車両の図示しないサスペンションタワーに組み付けられている。また、キャリア11は、図示省略のタイロッドを介して転舵軸と連結されており、転舵軸の変位に伴って回動可能となるように、ロアアーム13に組み付けられている。
【0016】
ロアアーム13は、図2に示すように、車両の前方側に位置する前方取付部13aが形成されていて、ブッシュ13bが圧入されている。また、ロアアーム13は、車両の後方側に位置する後方取付部13cが形成されていて、ブッシュ13dが圧入されている。そして、ロアアーム13は、前方取付部13aに圧入されたブッシュ13bと後方取付部13cに圧入されたブッシュ13dとを介してサスペンションメンバに組み付けられるようになっている。ここで、ブッシュ13b,13dは、周知のように、外筒部材と内筒部材とを連結するゴムなどの弾性部材を備えて構成されるものである。さらに、ロアアーム13の前方取付部13aおよび後方取付部13cよりも車幅方向外側には、キャリア11を相対回転可能に連結するロアボールジョイント14が一体的に設けられている。
【0017】
ロアボールジョイント14は、図3に示すように、一端にてキャリア11に締結されるボールスタッド14aを備えている。そして、このボールスタッド14aの他端にはボール14bが形成されており、このボール14bはソケット14c内に保持されるようになっている。また、ボール14bとソケット14cとの間には、樹脂シート14dが介在するようになっており、ボール14bと樹脂シート14d間にはグリスが塗布されるようになっている。さらに、ボールスタッド14aとソケット14cとの間には、ダストカバー14eが組み付けられている。これにより、ボール14bと樹脂シート14dとの間で相対的な摺動が可能となり、その結果、ボールスタッド14aはソケット14cに対して回転可能かつ揺動可能に組み付けられる。
【0018】
このように構成されるマクファーソン・ストラット式の車両用サスペンション装置10においては、ボールジョイント14がキャリア11を回転可能かつ揺動可能に支持することにより、キャリア11がロアアーム13に対して相対回転して、転舵輪を転舵させることができる。このため、ボールジョイント14の回転と揺動が損なわれる状況、例えば、ボール14bと樹脂シート14d間で潤滑不良が生じて滑らかな摺動が損なわれる状況では、車両用サスペンション装置10の滑らかな作動が損なわれる可能性がある。
【0019】
次に、ロアボールジョイント14における樹脂シート14dの摩耗状況を予測する摩耗警報システム20を説明する。この摩耗警報システム20は、図4に示すように、マイクロコンピュータ21を備えている。マイクロコンピュータ21は、CPU、ROM、RAMなどからなり、後述する図5のプログラムを実行することにより、樹脂シート14dの摩耗状況を予測する。このため、マイクロコンピュータ21には、走行距離センサ22、車速センサ23、転舵角センサ24、操舵トルクセンサ25が接続されている。
【0020】
走行距離センサ22は、車両の総走行距離を検出し、同検出した総走行距離Lをマイクロコンピュータ21に出力する。車速センサ23は、車両の車速を検出し、同検出した車速Vをマイクロコンピュータ21に出力する。転舵角センサ24は、転舵輪の転舵角を検出し、同検出した転舵角δをマイクロコンピュータ21に出力する。操舵トルクセンサ25は、図示しない操舵ハンドルを介して運転者が入力する操舵トルクを検出し、同検出した操舵トルクTをマイクロコンピュータ21に出力する。
【0021】
また、マイクロコンピュータ21には、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの摩耗に伴う作動不良を運転者に報知する報知装置26が接続されている。報知装置26は、例えば、図示しないメータクラスタ内に設けた表示灯やスピーカなどから構成されるものであり、マイクロコンピュータ21によってその作動が制御されるものである。
【0022】
次に、上記のように構成した警報システム20の作動について詳細に説明する。図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、マイクロコンピュータ21は、図5に示す摩耗警報プログラムの実行をステップS10にて開始する。そして、マイクロコンピュータ21は、続くステップS11にて、走行距離センサ22によって検出された総走行距離Lを入力する。そして、マイクロコンピュータ21は、検出された現在の総走行距離Lが予め設定(規定)された規定距離La以上であるか否かを判定する。ここで、規定距離Laは、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスが部分的に途切れている状況で通常通り転舵輪を転舵させたときに、樹脂シート14dの摩耗が過度に進行するとして予め実験的に設定される走行距離を表す。
【0023】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、現在の総走行距離Lが規定距離La以上であれば「Yes」と判定し、後述するステップS17に進む。一方、現在の走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS12に進む。
【0024】
ステップS12〜ステップS14においては、マイクロコンピュータ21は、車速が略「0」の状態で転舵輪が大きく転舵される状態、所謂、転舵輪が据え切りされているか否かを判定する。すなわち、ステップS12においては、マイクロコンピュータ21は、車速センサ23によって検出された車速Vを入力し、同入力した車速Vが予め設定された規定車速Va以下であるか否かを判定する。なお、規定車速Vaは、転舵輪が据え切りとなる車速(略「0」)として設定されるものである。
【0025】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出車速Vが規定車速Va以下であれば「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、検出車速Vが規定車速Vaよりも大きければ「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0026】
ステップS13においては、マイクロコンピュータ21は、操舵トルクセンサ25によって検出された操舵トルクTを入力し、同入力した操舵トルクTの絶対値が予め設定された規定操舵トルクTa以上であるか否かを判定する。なお、規定操舵トルクTaは、車速Vが略「0」のときに転舵輪を据え切りさせるために必要なトルクとして予め実験的に設定される操舵トルクを表す。
【0027】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出操舵トルクTの絶対値が規定操舵トルクTa以上であれば「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、検出操舵トルクTの絶対値が規定操舵トルクTa未満であれば「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0028】
ステップS14においては、マイクロコンピュータ21は、転舵角センサ24によって検出された転舵角δを入力し、同入力した転舵角δの絶対値が予め設定された規定転舵角δa以上であるか否かを判定する。なお、規定転舵角δaは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばし得るとして予め実験的に設定される転舵角を表す。
【0029】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出転舵角δの絶対値が予め設定された規定転舵角δa以上であれば「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、検出転舵角δの絶対値が規定転舵角δa未満であれば「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0030】
ステップS15においては、マイクロコンピュータ21は、転舵輪が据え切りされた回数を表す据え切り作動回数としての据え切り回数Nを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS15が実行される状況は、前記ステップS12〜ステップS14が全て成立する状況、言い換えれば、転舵輪が据え切りされている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した据え切り回数Nをインクリメントして新たな据え切り回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした据え切り回数Nを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS16に進む。
【0031】
ステップS16においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを予め設定された単位距離L1によって分割した次の区間すなわち単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Lo以上となるまで、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの摩耗の監視を中断する。このことを図6を用いて具体的に説明する。
【0032】
今、規定距離Laが単位距離Loによってα個の区間に分割されている状況を想定する。そして、図6に示すように、車両の総走行距離Lが走行距離「Lo」と走行距離「2×Lo」の区間内にあるときに、転舵輪が据え切りされたとする。この場合、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS15にて説明したように、据え切り回数Nを「1」だけインクリメントする。ところで、マイクロコンピュータ21は、1区間につき据え切り回数Nを1回だけインクリメントする、言い換えれば、1区間内で複数回転舵輪が据え切りされても据え切り回数Nを「1」だけインクリメントするようになっている。このため、マイクロコンピュータ21は、現在の車両の総走行距離Lが走行距離「2×Lo」以上、具体的には、走行距離「2×Lo」と走行距離「3×Lo」の区間内となるまで摩耗の監視を中断する。
【0033】
そして、マイクロコンピュータ21は、摩耗の監視を中断すると、ステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。この場合、マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22から検出された総走行距離Lを引き続き入力し続け、この総走行距離Lが走行距離α×Lo以上となった時点で、再び、摩耗警報プログラムの実行をステップS10にて開始する。
【0034】
一方、前記ステップS11にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS17に進む。ステップS17においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した据え切り回数Nの値が予め設定された規定据え切り回数Na以下であるか否かを判定する。ここで、規定据え切り回数Naは、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される据え切り回数を表す。
【0035】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nが規定据え切り回数Na以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS18に進む。
【0036】
一方、据え切り回数Nが規定据え切り回数Naよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、この場合には、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS10にて本プログラムの実行を開始する。
【0037】
ステップS18においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0038】
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nと規定据え切り回数Naとを比較することにより、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定することができる。そして、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nが規定据え切り回数Na未満であるときに、報知装置26を作動させて、樹脂シート14dが過度に摩耗している、言い換えれば、潤滑不良が発生している可能性が高いとして運転者に対して報知することができる。
【0039】
したがって、車両用サスペンション装置10の作動に支障をきたすようなボールジョイント14の作動不良が発生する前に確実に報知することができる。これにより、運転者に対して、ボールジョイント14の点検や交換を適切にかつ速やかに促すことができる。
【0040】
また、マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22、車速センサ23、転舵角センサ24、操舵トルクセンサ25など、一般的に車両に搭載されているセンサによって検出される各検出値を用いて据え切り回数Nを設定することができる。したがって、別途、センサ等を設ける必要がなくて、ボールジョイント14の作動状態を適切に推定することができる。これにより、ボールジョイント14および周辺部品形状の設計自由度が制限されることがなくて好適である。
【0041】
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、転舵輪が据え切りされた回数すなわち据え切り回数Nを用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施した。ところで、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転する状況では、塗布されたグリスはボール14bの回転に伴って移動することが可能であるため、転舵輪の転舵角δを積算した値を用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施することも可能である。以下、この第2実施形態を説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0042】
この第2実施形態においても、マイクロコンピュータ21は、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗の発生を監視するために図7に示す摩耗警報プログラムを実行する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、ステップS50にて、第2実施形態に係る摩耗警報プログラムの実行を開始し、ステップS51にて、上述した第1実施形態に係る摩耗警報プログラムのステップS11と同様に、総走行距離Lが規定距離La以上であるか否かを判定する。すなわち、総走行距離Lが規定距離La以上であれば、マイクロコンピュータ21は「Yes」と判定してステップS56に進む。一方、総走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS52に進む。
【0043】
ステップS52においては、マイクロコンピュータ21は、図8に示すように、転舵輪の転舵に伴って変化する転舵角δを積分することによって得られる積算転舵角K(=∫|δ|dt)を演算する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、転舵角センサ24によって検出された転舵角δを入力し、同入力した転舵角δの絶対値を積分する。そして、積分した値を積算転舵角Kに設定し、ステップS53に進む。
【0044】
ステップS53においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを分割する予め設定された単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Loに到達しているか否かを判定する。言い換えれば、マイクロコンピュータ21は、車両が単位距離Loを走行したか否かを判定する。
【0045】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していれば「Yes」と判定してステップS54に進む。一方、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していなければ、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS51に戻り、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達するまで繰り返しステップS51およびステップS52を実行する。
【0046】
ステップS54においては、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS52にて演算した積算転舵角Kが予め設定された必要積算転舵角Ka以上であるか否かを判定する。なお、必要積算転舵角Kaは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばすために必要な予め実験的に設定される積算転舵角を表す。
【0047】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、図9に示すように、車両の総走行距離Lが前回までの摩耗警報プログラムの実行においてステップS54にて「Yes」と判定した時点から走行距離Loだけ増加して、言い換えれば、車両が走行距離Loだけ走行するごとに、積算転舵角Kが予め設定された必要積算転舵角Ka以上であれば「Yes」と判定してステップS55に進む。一方、積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka未満であれば「No」と判定してステップS51に戻り、再び、ステップS51以降の処理を実行する。
【0048】
ステップS55においては、マイクロコンピュータ21は、積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となった回数を表す積算転舵作動回数としての積算転舵回数Mを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS55が実行される状況は、前記ステップS54が成立する状況、言い換えれば、転舵輪が転舵されてボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した積算転舵回数Mをインクリメントして新たな積算転舵回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした積算転舵回数Mを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS50にて本プログラムの実行を開始する。
【0049】
一方、前記ステップS51にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS56に進む。ステップS56においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した積算転舵回数Mの値が予め設定された規定積算転舵回数Ma以下であるか否かを判定する。ここで、規定積算転舵回数Maは、車両の総走行距離Lが規定距離Laとなったときに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される積算転舵回数を表す。
【0050】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、積算転舵回数Mが規定積算転舵回数Ma以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS57に進む。
【0051】
一方、積算転舵回数Mが規定積算転舵回数Maよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS50にて本プログラムの実行を開始する。
【0052】
ステップS57においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0053】
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態によれば、転舵角センサ25によって検出された転舵角δを用いて、車両が規定距離Laだけ走行する間に行われた転舵輪の積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となった回数すなわち積算転舵回数Mと規定積算転舵回数Maとを比較することによって樹脂シート14dが過度に摩耗していないか否かを判別することができる。したがって、この場合においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
c.第3実施形態
上記第1実施形態においては転舵輪の据え切り回数Nを用い、上記第2実施形態においては転舵輪の積算転舵回数Mを用いて、言い換えれば、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対回転することに基づいて、樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施した。ところで、ロアボールジョイント14のボール14bは車高変化に伴うロアアーム13の変位によって揺動することができ、この揺動する状況であっても、塗布されたグリスは移動することが可能である。したがって、車高変化すなわちサスペンションストローク量を積算した値を用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施することも可能である。以下、この第3実施形態を説明するが、上記第1および第2実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0055】
この第3実施形態においては、図4にて破線で示すように、マイクロコンピュータ21に対して、各車輪位置の車高変化すなわちサスペンションストローク量hを検出して出力するストロークセンサ27が接続されている。そして、この第3実施形態においては、マイクロコンピュータ21がストロークセンサ27から出力されるサスペンションストローク量hを用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗の発生を監視するために図10に示す摩耗警報プログラムを実行する。
【0056】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、ステップS100にて、第3実施形態に係る摩耗警報プログラムの実行を開始し、ステップS101にて、上述した第1および第2実施形態に係る摩耗警報プログラムのステップS11およびステップS51と同様に、総走行距離Lが規定距離La以上であるか否かを判定する。すなわち、総走行距離Lが規定距離La以上であれば、マイクロコンピュータ21は「Yes」と判定してステップS106に進む。一方、総走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS102に進む。
【0057】
ステップS102においては、マイクロコンピュータ21は、図11に示すように、車高変化に伴って変化するサスペンションストローク量hを積分することによって得られる積算ストローク量S(=∫|h|dt)を演算する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、ストロークセンサ27によって検出されたサスペンションストローク量hを入力し、同入力したサスペンションストローク量hの絶対値を積分する。そして、積分した値を積算ストローク量Sに設定し、ステップS103に進む。
【0058】
ステップS103においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを分割する予め設定された単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Loに到達しているか否かを判定する。言い換えれば、マイクロコンピュータ21は、車両が単位距離Loを走行したか否かを判定する。
【0059】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していれば「Yes」と判定してステップS104に進む。一方、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していなければ、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS101に戻り、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達するまで繰り返しステップS101およびステップS102を実行する。
【0060】
ステップS104においては、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS102にて演算した積算ストローク量Sが予め設定された必要積算ストローク量Sa以上であるか否かを判定する。なお、必要積算ストローク量Saは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に揺動し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばすために必要な予め実験的に設定される積算ストローク量を表す。
【0061】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、図12に示すように、車両の総走行距離Lが前回までの摩耗警報プログラムの実行においてステップS104にて「Yes」と判定した時点から走行距離Loだけ増加して、言い換えれば、車両が走行距離Loだけ走行するごとに、積算ストローク量Sが予め設定された必要積算ストローク量Sa以上であれば「Yes」と判定してステップS105に進む。一方、積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa未満であれば「No」と判定してステップS101に戻り、再び、ステップS101以降の処理を実行する。
【0062】
ステップS105においては、マイクロコンピュータ21は、積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となった回数を表す積算車高変化作動回数としての積算ストローク回数Pを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS105が実行される状況は、前記ステップS104が成立する状況、言い換えれば、車高が変化することによりボール14bが十分に揺動してボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した積算ストローク回数Pをインクリメントして新たな積算ストローク回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした積算ストローク回数Pを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS100にて本プログラムの実行を開始する。
【0063】
一方、前記ステップS101にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS106に進む。ステップS106においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した積算ストローク回数Pの値が予め設定された規定積算ストローク回数Pa以下であるか否かを判定する。ここで、規定積算ストローク回数Paは、車両の総走行距離Lが規定距離Laとなったときに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される積算ストローク回数を表す。
【0064】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、積算ストローク回数Pが規定積算ストローク回数Pa以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS107に進む。
【0065】
一方、積算ストローク回数Pが規定積算ストローク回数Paよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS100にて本プログラムの実行を開始する。
【0066】
ステップS107においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0067】
以上の説明からも理解できるように、この第3実施形態によれば、ストロークセンサ27によって検出されたサスペンションストローク量hを用いて、車両が規定距離Laだけ走行する間に発生した積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となった回数すなわち積算ストローク回数Pと規定積算ストローク回数Paとを比較することによって樹脂シート14dが過度に摩耗していないか否かを判別することができる。したがって、この場合においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、上記各実施形態においては、マクファーソン・ストラット式のサスペンションを採用し、このサスペンションにおけるキャリア11とロアアーム13とを連結するロアボールジョイント14の作動異常すなわち樹脂シート14dの過度の摩耗発生を判定するように実施した。しかし、他の方式のサスペンション、例えば、ダブルウイッシュボーン方式のサスペンションやマルチリンク方式のサスペンションにおいても、ボールジョイントが用いられているため、これら他の方式のサスペンションに本発明に係る摩耗警報システムを採用して実施可能であることはいうまでもない。この場合であっても、上記各実施形態と同様に、ボールジョイントに用いられる樹脂シートの過度の摩耗を適切に判定することができるため、同様の効果が期待できる。
【0070】
また、上記各実施形態においては、それぞれ、個別に据え切り回数N、積算転舵回数Mおよび積算ストローク回数Pを用いるように実施した。しかし、これらを適宜組み合わせて実施することによって、より精密に樹脂シート14dの過度の摩耗を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る摩耗警報システムを適用する車両用サスペンション装置の各実施形態に共通の左前輪側を示した斜視図である。
【図2】図1のロアアームを説明するための斜視図である。
【図3】図1および図2に示したロアボールジョイントの構造を説明するための断面図である。
【図4】本発明に係り、各実施形態に共通の摩耗警報システムを実現するためのブロック図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図6】第1実施形態に係り、マイクロコンピュータが監視を中止する状態を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算転舵角の演算を説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算転舵角と必要積算転舵角との比較判定時期を説明するための図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図11】第3実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算ストローク量の演算を説明するための図である。
【図12】第3実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算ストローク量と必要積算ストローク量との比較判定時期を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10…車両用サスペンション装置、11…キャリア、12…ストラット、13…ロアアーム、13a…前方取付部、13b…ブッシュ、13c…後方取付部、13d…ブッシュ、14…ロアボールジョイント、14a…ボールスタッド、14b…ボール、14c…ソケット、14d…樹脂シート、14e…ダストカバー、20…摩耗警報システム、21…マイクロコンピュータ、22…走行距離センサ、23…車速センサ、24…転舵角センサ、25…操舵トルクセンサ、26…報知装置、27…サスペンションストロークセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示されているような点火時期警報装置は知られている。この点火時期警報装置は、自動車の各種運転状況および各部位(エンジンやブレーキ)の劣化程度を検出する検出手段を備えており、この検出手段の検出信号から点火時期を判断する値を演算し、さらに、点火時期判断値の増加傾向値を演算し、この点火時期判断値を所定の基準値と比較することにより、点火時期を警報する信号を出力するとともに増加傾向値から点火時期が近いことを予知して警報する信号を出力するようになっている。
【0003】
また、例えば、下記特許文献2に示されているような車両のクラッチ評価システムも知られている。この車両のクラッチ評価システムにおいては、ギア状態判定部が車両の走行中におけるギアのイン状態またはオフ状態の少なくとも一方を判定し、時間係数部がギア状態判定部による判定に基づいてギアがオフ状態となるギアオフ時間を計測するようになっている。そして、演算部は、時間係数部が計数したギアオフ時間の積算値を求め、この積算値を走行距離で除算して、使用態様の厳しさの度合いに対応する評価値を算出するようになっている。
【0004】
ここで、車両を安定して走行させる点においては、エンジンやブレーキ、トランスミッション(クラッチ)の良好な作動を維持することはいうまでもなく、車両のサスペンション装置が良好に作動することも極めて重要である。そして、サスペンション装置は、車両の走行状態に応じて滑らかに作動することによって機能を発揮できるため、サスペンション装置には一般的にボールジョイントが設けられている。すなわち、設けられたボールジョイントが滑らかに回転し揺動することによって、サスペンション装置は滑らかに作動することができる。
【0005】
このため、ボールジョイントに、例えば、潤滑不良などにより内蔵されている樹脂シートが過度に摩耗して作動不良が生じると、滑らかな作動が損なわれ、その結果、サスペンション装置の作動にも支障をきたす可能性がある。したがって、ボールジョイントに作動不良が生じる可能性を的確に予測して運転者に報知し、速やかな点検や交換を促すようにすることが望まれている。
【0006】
この点に関し、例えば、下記特許文献3には、摩耗検知装置を備えた玉継手(ボールジョイント)が示されている。この玉継手(ボールジョイント)は、継手ソケットとボールスタットとが電気的なコンタクトによって電位差測定装置に接続されており、かつ、ボールスタッドの球状の座面と、対向する対向座面とが継手ソケット内で互いに電気的に絶縁されて形成されている。これにより、玉継手の摩耗状態を決定することができ、自動車の利用者が玉継手の耐用寿命の終わりと必要な修理との指示を適時に得ることができるようになっている。
【特許文献1】特開昭59−14540号公報
【特許文献2】特開2006−234155号公報
【特許文献3】特表2003−525404号公報
【発明の開示】
【0007】
ところで、上記特許文献3に示された摩耗検知装置を備えた玉継手(ボールジョイント)においては、別途、電位差測定装置を設ける必要があり、サスペンション装置に適用した場合には、ボールジョイントおよび周辺部品形状の設計自由度が制限される可能性がある。また、上記特許文献3に示された摩耗検知装置は、実際にボールジョイントに作動不良が生じて初めて摩耗状態を決定することができる。すなわち、この摩耗検知装置においては、摩耗状態を予測することができないため、例えば、ボールジョイントを交換する場合には、運転者は、サスペンション装置が良好に作動しない状態で修理工場まで走行しなければならない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両用サスペンション装置に用いられるボールジョイントの作動不良を適切に予測して運転者に報知する警報システムを提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムであって、前記ボールジョイントの作動状態を、前記車両用サスペンション装置の作動状態に基づいて推定する作動状態推定手段と、前記推定した前記ボールジョイントの作動状態と、予め設定される前記ボールジョイントの良好な作動状態とを比較して、前記ボールジョイントの作動不良が発生する可能性が高いか否かを予測して判定する予測判定手段と、前記判定に基づき、運転者に対して前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いことを報知する報知装置を作動させる作動手段とを備えたことにある。
【0010】
この場合、前記作動状態推定手段は、車両が所定の走行距離を走行するまでに、前記車両用サスペンション装置の、車両が略停止状態にあるときに車両の転舵輪が転舵される据え切りに伴う据え切り作動回数、前記車両の転舵輪が走行時に転舵されるごとに作動する積算転舵作動回数、および、車両の車高が変化するごとに作動する積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいて前記ボールジョイントの作動状態を推定するとよい。
【0011】
また、この場合、前記予測判定手段は、前記車両用サスペンション装置の前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のそれぞれに対応して予め設定されていて、前記ボールジョイントの作動状態を良好に維持するために必要なそれぞれの規定回数を用い、前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つが、対応する前記規定回数未満であるときに、前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと判定するとよい。
【0012】
これらによれば、作動状態推定手段が車両用サスペンション装置の据え切り作動回数、積算転舵作動回数および積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいてボールジョイントの作動状態を推定し、予測判定手段が車両用サスペンション装置の据え切り回数に対応する規定回数、積算転舵作動回数に対応する規定回数および積算車高変化作動回数に対応する規定回数を用いてこれら回数が対応する規定回数未満であるときにボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと予測して判定することができる。そして、ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと予測されるときには報知手段を作動させて運転者に報知することができる。
【0013】
したがって、サスペンション装置の作動に支障をきたすようなボールジョイントの作動不良が発生する前に確実に報知することができる。これにより、運転者に対して、ボールジョイントの点検や交換を適切にかつ速やかに促すことができる。
【0014】
また、作動状態推定手段は、据え切り作動回数、積算転舵作動回数および積算車高変化作動回数を設定するにあたり、例えば、車速センサや、転舵角センサ、操舵トルクセンサ、サスペンションストロークセンサなど、一般的に車両に搭載されているセンサによって検出される検出値を用いて前記各回数を設定(カウント)することができる。したがって、別途、センサや装置等を設ける必要がなくて、ボールジョイントの作動状態を適切に推定することができる。これにより、ボールジョイントおよび周辺部品形状の設計自由度が制限されることがなくて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の第1ないし第3実施形態に共通し、本発明に係る摩耗警報システムが適用される車両用サスペンション装置10のフロント側を概略的に示している。なお、車両用サスペンション装置10は、左右対称とされているため、図1においては車両左前輪側のみを示す。この車両用サスペンション装置10は、マクファーソン・ストラット式のサスペンションであり、車輪(転舵輪)を支持するキャリア11にストラット12の下端が一体的に組み付けられ、上端が車両の図示しないサスペンションタワーに組み付けられている。また、キャリア11は、図示省略のタイロッドを介して転舵軸と連結されており、転舵軸の変位に伴って回動可能となるように、ロアアーム13に組み付けられている。
【0016】
ロアアーム13は、図2に示すように、車両の前方側に位置する前方取付部13aが形成されていて、ブッシュ13bが圧入されている。また、ロアアーム13は、車両の後方側に位置する後方取付部13cが形成されていて、ブッシュ13dが圧入されている。そして、ロアアーム13は、前方取付部13aに圧入されたブッシュ13bと後方取付部13cに圧入されたブッシュ13dとを介してサスペンションメンバに組み付けられるようになっている。ここで、ブッシュ13b,13dは、周知のように、外筒部材と内筒部材とを連結するゴムなどの弾性部材を備えて構成されるものである。さらに、ロアアーム13の前方取付部13aおよび後方取付部13cよりも車幅方向外側には、キャリア11を相対回転可能に連結するロアボールジョイント14が一体的に設けられている。
【0017】
ロアボールジョイント14は、図3に示すように、一端にてキャリア11に締結されるボールスタッド14aを備えている。そして、このボールスタッド14aの他端にはボール14bが形成されており、このボール14bはソケット14c内に保持されるようになっている。また、ボール14bとソケット14cとの間には、樹脂シート14dが介在するようになっており、ボール14bと樹脂シート14d間にはグリスが塗布されるようになっている。さらに、ボールスタッド14aとソケット14cとの間には、ダストカバー14eが組み付けられている。これにより、ボール14bと樹脂シート14dとの間で相対的な摺動が可能となり、その結果、ボールスタッド14aはソケット14cに対して回転可能かつ揺動可能に組み付けられる。
【0018】
このように構成されるマクファーソン・ストラット式の車両用サスペンション装置10においては、ボールジョイント14がキャリア11を回転可能かつ揺動可能に支持することにより、キャリア11がロアアーム13に対して相対回転して、転舵輪を転舵させることができる。このため、ボールジョイント14の回転と揺動が損なわれる状況、例えば、ボール14bと樹脂シート14d間で潤滑不良が生じて滑らかな摺動が損なわれる状況では、車両用サスペンション装置10の滑らかな作動が損なわれる可能性がある。
【0019】
次に、ロアボールジョイント14における樹脂シート14dの摩耗状況を予測する摩耗警報システム20を説明する。この摩耗警報システム20は、図4に示すように、マイクロコンピュータ21を備えている。マイクロコンピュータ21は、CPU、ROM、RAMなどからなり、後述する図5のプログラムを実行することにより、樹脂シート14dの摩耗状況を予測する。このため、マイクロコンピュータ21には、走行距離センサ22、車速センサ23、転舵角センサ24、操舵トルクセンサ25が接続されている。
【0020】
走行距離センサ22は、車両の総走行距離を検出し、同検出した総走行距離Lをマイクロコンピュータ21に出力する。車速センサ23は、車両の車速を検出し、同検出した車速Vをマイクロコンピュータ21に出力する。転舵角センサ24は、転舵輪の転舵角を検出し、同検出した転舵角δをマイクロコンピュータ21に出力する。操舵トルクセンサ25は、図示しない操舵ハンドルを介して運転者が入力する操舵トルクを検出し、同検出した操舵トルクTをマイクロコンピュータ21に出力する。
【0021】
また、マイクロコンピュータ21には、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの摩耗に伴う作動不良を運転者に報知する報知装置26が接続されている。報知装置26は、例えば、図示しないメータクラスタ内に設けた表示灯やスピーカなどから構成されるものであり、マイクロコンピュータ21によってその作動が制御されるものである。
【0022】
次に、上記のように構成した警報システム20の作動について詳細に説明する。図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、マイクロコンピュータ21は、図5に示す摩耗警報プログラムの実行をステップS10にて開始する。そして、マイクロコンピュータ21は、続くステップS11にて、走行距離センサ22によって検出された総走行距離Lを入力する。そして、マイクロコンピュータ21は、検出された現在の総走行距離Lが予め設定(規定)された規定距離La以上であるか否かを判定する。ここで、規定距離Laは、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスが部分的に途切れている状況で通常通り転舵輪を転舵させたときに、樹脂シート14dの摩耗が過度に進行するとして予め実験的に設定される走行距離を表す。
【0023】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、現在の総走行距離Lが規定距離La以上であれば「Yes」と判定し、後述するステップS17に進む。一方、現在の走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS12に進む。
【0024】
ステップS12〜ステップS14においては、マイクロコンピュータ21は、車速が略「0」の状態で転舵輪が大きく転舵される状態、所謂、転舵輪が据え切りされているか否かを判定する。すなわち、ステップS12においては、マイクロコンピュータ21は、車速センサ23によって検出された車速Vを入力し、同入力した車速Vが予め設定された規定車速Va以下であるか否かを判定する。なお、規定車速Vaは、転舵輪が据え切りとなる車速(略「0」)として設定されるものである。
【0025】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出車速Vが規定車速Va以下であれば「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、検出車速Vが規定車速Vaよりも大きければ「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0026】
ステップS13においては、マイクロコンピュータ21は、操舵トルクセンサ25によって検出された操舵トルクTを入力し、同入力した操舵トルクTの絶対値が予め設定された規定操舵トルクTa以上であるか否かを判定する。なお、規定操舵トルクTaは、車速Vが略「0」のときに転舵輪を据え切りさせるために必要なトルクとして予め実験的に設定される操舵トルクを表す。
【0027】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出操舵トルクTの絶対値が規定操舵トルクTa以上であれば「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、検出操舵トルクTの絶対値が規定操舵トルクTa未満であれば「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0028】
ステップS14においては、マイクロコンピュータ21は、転舵角センサ24によって検出された転舵角δを入力し、同入力した転舵角δの絶対値が予め設定された規定転舵角δa以上であるか否かを判定する。なお、規定転舵角δaは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばし得るとして予め実験的に設定される転舵角を表す。
【0029】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、検出転舵角δの絶対値が予め設定された規定転舵角δa以上であれば「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、検出転舵角δの絶対値が規定転舵角δa未満であれば「No」と判定してステップS11に戻り、再び、ステップS11以降の処理を実行する。
【0030】
ステップS15においては、マイクロコンピュータ21は、転舵輪が据え切りされた回数を表す据え切り作動回数としての据え切り回数Nを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS15が実行される状況は、前記ステップS12〜ステップS14が全て成立する状況、言い換えれば、転舵輪が据え切りされている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した据え切り回数Nをインクリメントして新たな据え切り回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした据え切り回数Nを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS16に進む。
【0031】
ステップS16においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを予め設定された単位距離L1によって分割した次の区間すなわち単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Lo以上となるまで、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの摩耗の監視を中断する。このことを図6を用いて具体的に説明する。
【0032】
今、規定距離Laが単位距離Loによってα個の区間に分割されている状況を想定する。そして、図6に示すように、車両の総走行距離Lが走行距離「Lo」と走行距離「2×Lo」の区間内にあるときに、転舵輪が据え切りされたとする。この場合、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS15にて説明したように、据え切り回数Nを「1」だけインクリメントする。ところで、マイクロコンピュータ21は、1区間につき据え切り回数Nを1回だけインクリメントする、言い換えれば、1区間内で複数回転舵輪が据え切りされても据え切り回数Nを「1」だけインクリメントするようになっている。このため、マイクロコンピュータ21は、現在の車両の総走行距離Lが走行距離「2×Lo」以上、具体的には、走行距離「2×Lo」と走行距離「3×Lo」の区間内となるまで摩耗の監視を中断する。
【0033】
そして、マイクロコンピュータ21は、摩耗の監視を中断すると、ステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。この場合、マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22から検出された総走行距離Lを引き続き入力し続け、この総走行距離Lが走行距離α×Lo以上となった時点で、再び、摩耗警報プログラムの実行をステップS10にて開始する。
【0034】
一方、前記ステップS11にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS17に進む。ステップS17においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した据え切り回数Nの値が予め設定された規定据え切り回数Na以下であるか否かを判定する。ここで、規定据え切り回数Naは、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される据え切り回数を表す。
【0035】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nが規定据え切り回数Na以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS18に進む。
【0036】
一方、据え切り回数Nが規定据え切り回数Naよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、この場合には、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS10にて本プログラムの実行を開始する。
【0037】
ステップS18においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS19に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0038】
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nと規定据え切り回数Naとを比較することにより、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定することができる。そして、マイクロコンピュータ21は、据え切り回数Nが規定据え切り回数Na未満であるときに、報知装置26を作動させて、樹脂シート14dが過度に摩耗している、言い換えれば、潤滑不良が発生している可能性が高いとして運転者に対して報知することができる。
【0039】
したがって、車両用サスペンション装置10の作動に支障をきたすようなボールジョイント14の作動不良が発生する前に確実に報知することができる。これにより、運転者に対して、ボールジョイント14の点検や交換を適切にかつ速やかに促すことができる。
【0040】
また、マイクロコンピュータ21は、走行距離センサ22、車速センサ23、転舵角センサ24、操舵トルクセンサ25など、一般的に車両に搭載されているセンサによって検出される各検出値を用いて据え切り回数Nを設定することができる。したがって、別途、センサ等を設ける必要がなくて、ボールジョイント14の作動状態を適切に推定することができる。これにより、ボールジョイント14および周辺部品形状の設計自由度が制限されることがなくて好適である。
【0041】
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、転舵輪が据え切りされた回数すなわち据え切り回数Nを用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施した。ところで、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転する状況では、塗布されたグリスはボール14bの回転に伴って移動することが可能であるため、転舵輪の転舵角δを積算した値を用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施することも可能である。以下、この第2実施形態を説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0042】
この第2実施形態においても、マイクロコンピュータ21は、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗の発生を監視するために図7に示す摩耗警報プログラムを実行する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、ステップS50にて、第2実施形態に係る摩耗警報プログラムの実行を開始し、ステップS51にて、上述した第1実施形態に係る摩耗警報プログラムのステップS11と同様に、総走行距離Lが規定距離La以上であるか否かを判定する。すなわち、総走行距離Lが規定距離La以上であれば、マイクロコンピュータ21は「Yes」と判定してステップS56に進む。一方、総走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS52に進む。
【0043】
ステップS52においては、マイクロコンピュータ21は、図8に示すように、転舵輪の転舵に伴って変化する転舵角δを積分することによって得られる積算転舵角K(=∫|δ|dt)を演算する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、転舵角センサ24によって検出された転舵角δを入力し、同入力した転舵角δの絶対値を積分する。そして、積分した値を積算転舵角Kに設定し、ステップS53に進む。
【0044】
ステップS53においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを分割する予め設定された単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Loに到達しているか否かを判定する。言い換えれば、マイクロコンピュータ21は、車両が単位距離Loを走行したか否かを判定する。
【0045】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していれば「Yes」と判定してステップS54に進む。一方、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していなければ、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS51に戻り、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達するまで繰り返しステップS51およびステップS52を実行する。
【0046】
ステップS54においては、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS52にて演算した積算転舵角Kが予め設定された必要積算転舵角Ka以上であるか否かを判定する。なお、必要積算転舵角Kaは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に回転し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばすために必要な予め実験的に設定される積算転舵角を表す。
【0047】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、図9に示すように、車両の総走行距離Lが前回までの摩耗警報プログラムの実行においてステップS54にて「Yes」と判定した時点から走行距離Loだけ増加して、言い換えれば、車両が走行距離Loだけ走行するごとに、積算転舵角Kが予め設定された必要積算転舵角Ka以上であれば「Yes」と判定してステップS55に進む。一方、積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka未満であれば「No」と判定してステップS51に戻り、再び、ステップS51以降の処理を実行する。
【0048】
ステップS55においては、マイクロコンピュータ21は、積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となった回数を表す積算転舵作動回数としての積算転舵回数Mを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS55が実行される状況は、前記ステップS54が成立する状況、言い換えれば、転舵輪が転舵されてボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した積算転舵回数Mをインクリメントして新たな積算転舵回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした積算転舵回数Mを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS50にて本プログラムの実行を開始する。
【0049】
一方、前記ステップS51にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS56に進む。ステップS56においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した積算転舵回数Mの値が予め設定された規定積算転舵回数Ma以下であるか否かを判定する。ここで、規定積算転舵回数Maは、車両の総走行距離Lが規定距離Laとなったときに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される積算転舵回数を表す。
【0050】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、積算転舵回数Mが規定積算転舵回数Ma以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS57に進む。
【0051】
一方、積算転舵回数Mが規定積算転舵回数Maよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS50にて本プログラムの実行を開始する。
【0052】
ステップS57においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS58に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0053】
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態によれば、転舵角センサ25によって検出された転舵角δを用いて、車両が規定距離Laだけ走行する間に行われた転舵輪の積算転舵角Kが必要積算転舵角Ka以上となった回数すなわち積算転舵回数Mと規定積算転舵回数Maとを比較することによって樹脂シート14dが過度に摩耗していないか否かを判別することができる。したがって、この場合においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
c.第3実施形態
上記第1実施形態においては転舵輪の据え切り回数Nを用い、上記第2実施形態においては転舵輪の積算転舵回数Mを用いて、言い換えれば、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対回転することに基づいて、樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施した。ところで、ロアボールジョイント14のボール14bは車高変化に伴うロアアーム13の変位によって揺動することができ、この揺動する状況であっても、塗布されたグリスは移動することが可能である。したがって、車高変化すなわちサスペンションストローク量を積算した値を用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dの過度の摩耗が発生しているか否かを判定するように実施することも可能である。以下、この第3実施形態を説明するが、上記第1および第2実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0055】
この第3実施形態においては、図4にて破線で示すように、マイクロコンピュータ21に対して、各車輪位置の車高変化すなわちサスペンションストローク量hを検出して出力するストロークセンサ27が接続されている。そして、この第3実施形態においては、マイクロコンピュータ21がストロークセンサ27から出力されるサスペンションストローク量hを用いて、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗の発生を監視するために図10に示す摩耗警報プログラムを実行する。
【0056】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、ステップS100にて、第3実施形態に係る摩耗警報プログラムの実行を開始し、ステップS101にて、上述した第1および第2実施形態に係る摩耗警報プログラムのステップS11およびステップS51と同様に、総走行距離Lが規定距離La以上であるか否かを判定する。すなわち、総走行距離Lが規定距離La以上であれば、マイクロコンピュータ21は「Yes」と判定してステップS106に進む。一方、総走行距離Lが規定距離La未満であれば、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS102に進む。
【0057】
ステップS102においては、マイクロコンピュータ21は、図11に示すように、車高変化に伴って変化するサスペンションストローク量hを積分することによって得られる積算ストローク量S(=∫|h|dt)を演算する。すなわち、マイクロコンピュータ21は、ストロークセンサ27によって検出されたサスペンションストローク量hを入力し、同入力したサスペンションストローク量hの絶対値を積分する。そして、積分した値を積算ストローク量Sに設定し、ステップS103に進む。
【0058】
ステップS103においては、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが、規定距離Laを分割する予め設定された単位距離Loの整数倍となる走行距離α×Loに到達しているか否かを判定する。言い換えれば、マイクロコンピュータ21は、車両が単位距離Loを走行したか否かを判定する。
【0059】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していれば「Yes」と判定してステップS104に進む。一方、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達していなければ、マイクロコンピュータ21は「No」と判定してステップS101に戻り、車両の総走行距離Lが走行距離α×Loに到達するまで繰り返しステップS101およびステップS102を実行する。
【0060】
ステップS104においては、マイクロコンピュータ21は、前記ステップS102にて演算した積算ストローク量Sが予め設定された必要積算ストローク量Sa以上であるか否かを判定する。なお、必要積算ストローク量Saは、ロアボールジョイント14のボール14bが樹脂シート14dに対して相対的に揺動し、ボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく延ばすために必要な予め実験的に設定される積算ストローク量を表す。
【0061】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、図12に示すように、車両の総走行距離Lが前回までの摩耗警報プログラムの実行においてステップS104にて「Yes」と判定した時点から走行距離Loだけ増加して、言い換えれば、車両が走行距離Loだけ走行するごとに、積算ストローク量Sが予め設定された必要積算ストローク量Sa以上であれば「Yes」と判定してステップS105に進む。一方、積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa未満であれば「No」と判定してステップS101に戻り、再び、ステップS101以降の処理を実行する。
【0062】
ステップS105においては、マイクロコンピュータ21は、積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となった回数を表す積算車高変化作動回数としての積算ストローク回数Pを「1」だけインクリメントする。すなわち、ステップS105が実行される状況は、前記ステップS104が成立する状況、言い換えれば、車高が変化することによりボール14bが十分に揺動してボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っている状況である。したがって、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行において設定した積算ストローク回数Pをインクリメントして新たな積算ストローク回数を設定する。そして、マイクロコンピュータ21は、インクリメントした積算ストローク回数Pを、例えば、不揮発性またはバッテリバックアップされたRAMの所定記憶位置に記憶してステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS100にて本プログラムの実行を開始する。
【0063】
一方、前記ステップS101にて、走行距離センサ22から入力した総走行距離Lが規定距離La以上となっていれば、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS106に進む。ステップS106においては、マイクロコンピュータ21は、前回までの摩耗警報プログラムの実行によって設定した積算ストローク回数Pの値が予め設定された規定積算ストローク回数Pa以下であるか否かを判定する。ここで、規定積算ストローク回数Paは、車両の総走行距離Lが規定距離Laとなったときに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間に塗布されたグリスをボール14bの相対回転範囲内で途切れることなく存在させることができるとして予め実験的に設定される積算ストローク回数を表す。
【0064】
すなわち、マイクロコンピュータ21は、積算ストローク回数Pが規定積算ストローク回数Pa以下であれば、車両が規定距離Laだけ走行するまでに、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが存在していない時期があり、すなわち、ボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っていない時期があり、ボール14bの相対回転によって樹脂シート14dが過度に摩耗している可能性が高い。このため、マイクロコンピュータ21は、「Yes」と判定してステップS107に進む。
【0065】
一方、積算ストローク回数Pが規定積算ストローク回数Paよりも大きければ、ロアボールジョイント14のボール14bと樹脂シート14dとの間にグリスが十分に行き渡っており、ボール14bが相対回転しても樹脂シート14dが過度に摩耗していない。このため、マイクロコンピュータ21は、「No」と判定してステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を一旦終了する。そして、マイクロコンピュータ21は、所定の短い時間の経過後に、再び、ステップS100にて本プログラムの実行を開始する。
【0066】
ステップS107においては、マイクロコンピュータ21は、報知装置26を作動させ、ロアボールジョイント14の樹脂シート14dに過度の摩耗が起きている可能性が高いことを報知する。そして、運転者に対して、ロアボールジョイント14の点検の実施や交換を促す。なお、この場合、運転者がロアボールジョイント14の点検や交換を実施するまで、報知装置26は運転者に対して樹脂シート14dの摩耗異常を報知するようになっているとよい。このように、報知装置26を作動させると、マイクロコンピュータ21は、ステップS108に進み、摩耗警報プログラムの実行を終了する。
【0067】
以上の説明からも理解できるように、この第3実施形態によれば、ストロークセンサ27によって検出されたサスペンションストローク量hを用いて、車両が規定距離Laだけ走行する間に発生した積算ストローク量Sが必要積算ストローク量Sa以上となった回数すなわち積算ストローク回数Pと規定積算ストローク回数Paとを比較することによって樹脂シート14dが過度に摩耗していないか否かを判別することができる。したがって、この場合においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、上記各実施形態においては、マクファーソン・ストラット式のサスペンションを採用し、このサスペンションにおけるキャリア11とロアアーム13とを連結するロアボールジョイント14の作動異常すなわち樹脂シート14dの過度の摩耗発生を判定するように実施した。しかし、他の方式のサスペンション、例えば、ダブルウイッシュボーン方式のサスペンションやマルチリンク方式のサスペンションにおいても、ボールジョイントが用いられているため、これら他の方式のサスペンションに本発明に係る摩耗警報システムを採用して実施可能であることはいうまでもない。この場合であっても、上記各実施形態と同様に、ボールジョイントに用いられる樹脂シートの過度の摩耗を適切に判定することができるため、同様の効果が期待できる。
【0070】
また、上記各実施形態においては、それぞれ、個別に据え切り回数N、積算転舵回数Mおよび積算ストローク回数Pを用いるように実施した。しかし、これらを適宜組み合わせて実施することによって、より精密に樹脂シート14dの過度の摩耗を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る摩耗警報システムを適用する車両用サスペンション装置の各実施形態に共通の左前輪側を示した斜視図である。
【図2】図1のロアアームを説明するための斜視図である。
【図3】図1および図2に示したロアボールジョイントの構造を説明するための断面図である。
【図4】本発明に係り、各実施形態に共通の摩耗警報システムを実現するためのブロック図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図6】第1実施形態に係り、マイクロコンピュータが監視を中止する状態を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算転舵角の演算を説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算転舵角と必要積算転舵角との比較判定時期を説明するための図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係り、図4のマイクロコンピュータによって実行される摩耗警報プログラムのフローチャートである。
【図11】第3実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算ストローク量の演算を説明するための図である。
【図12】第3実施形態に係り、マイクロコンピュータによる積算ストローク量と必要積算ストローク量との比較判定時期を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10…車両用サスペンション装置、11…キャリア、12…ストラット、13…ロアアーム、13a…前方取付部、13b…ブッシュ、13c…後方取付部、13d…ブッシュ、14…ロアボールジョイント、14a…ボールスタッド、14b…ボール、14c…ソケット、14d…樹脂シート、14e…ダストカバー、20…摩耗警報システム、21…マイクロコンピュータ、22…走行距離センサ、23…車速センサ、24…転舵角センサ、25…操舵トルクセンサ、26…報知装置、27…サスペンションストロークセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムであって、
前記ボールジョイントの作動状態を、前記車両用サスペンション装置の作動状態に基づいて推定する作動状態推定手段と、
前記推定した前記ボールジョイントの作動状態と、予め設定される前記ボールジョイントの良好な作動状態とを比較して、前記ボールジョイントの作動不良が発生する可能性が高いか否かを予測して判定する予測判定手段と、
前記判定に基づき、運転者に対して前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いことを報知する報知装置を作動させる作動手段とを備えたことを特徴とする警報システム。
【請求項2】
請求項1に記載した警報システムにおいて、
前記作動状態推定手段は、
車両が所定の走行距離を走行するまでに、前記車両用サスペンション装置の、
車両が略停止状態にあるときに車両の転舵輪が転舵される据え切りに伴う据え切り作動回数、前記車両の転舵輪が走行時に転舵されるごとに作動する積算転舵作動回数、および、車両の車高が変化するごとに作動する積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいて前記ボールジョイントの作動状態を推定することを特徴とする警報システム。
【請求項3】
請求項2に記載した警報システムにおいて、
前記予測判定手段は、
前記車両用サスペンション装置の前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のそれぞれに対応して予め設定されていて、前記ボールジョイントの作動状態を良好に維持するために必要なそれぞれの規定回数を用い、
前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つが、対応する前記規定回数未満であるときに、前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと判定することを特徴とする警報システム。
【請求項1】
車両用サスペンション装置に設けられて、車体に対して前記車両用サスペンションを作動可能に連結するボールジョイントに発生する作動不良を予測して報知する警報システムであって、
前記ボールジョイントの作動状態を、前記車両用サスペンション装置の作動状態に基づいて推定する作動状態推定手段と、
前記推定した前記ボールジョイントの作動状態と、予め設定される前記ボールジョイントの良好な作動状態とを比較して、前記ボールジョイントの作動不良が発生する可能性が高いか否かを予測して判定する予測判定手段と、
前記判定に基づき、運転者に対して前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いことを報知する報知装置を作動させる作動手段とを備えたことを特徴とする警報システム。
【請求項2】
請求項1に記載した警報システムにおいて、
前記作動状態推定手段は、
車両が所定の走行距離を走行するまでに、前記車両用サスペンション装置の、
車両が略停止状態にあるときに車両の転舵輪が転舵される据え切りに伴う据え切り作動回数、前記車両の転舵輪が走行時に転舵されるごとに作動する積算転舵作動回数、および、車両の車高が変化するごとに作動する積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つに基づいて前記ボールジョイントの作動状態を推定することを特徴とする警報システム。
【請求項3】
請求項2に記載した警報システムにおいて、
前記予測判定手段は、
前記車両用サスペンション装置の前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のそれぞれに対応して予め設定されていて、前記ボールジョイントの作動状態を良好に維持するために必要なそれぞれの規定回数を用い、
前記据え切り作動回数、前記積算転舵作動回数および前記積算車高変化作動回数のうちの少なくとも一つが、対応する前記規定回数未満であるときに、前記ボールジョイントの作動に不良が発生する可能性が高いと判定することを特徴とする警報システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−248905(P2009−248905A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102497(P2008−102497)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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