説明

走査型電子顕微鏡、および走査型電子顕微鏡における画像の改良方法

【課題】
取得画像の像質や分解能の劣化を防ぐことができる走査型電子顕微鏡、および走査型電子顕微鏡の画像の改良方法を提供する。
【解決手段】
試料に電子ビームを照射し該試料から発生する二次信号の情報を画像化する走査型電子顕微鏡において、前記電子ビームを前記試料で走査する走査信号を補正する補正データを格納する記憶部と、該記憶部へ格納された補正データを用いて前記走査信号を補正する補正回路と、該補正回路で補正された走査信号を用いて得られた画像を表示するディスプレイとを備え、該ディスプレイには、さらに、前記補正データに基づいて生成された補正データ波形が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡に係り、特に、半導体デバイスが形成されるウェーハ等の半導体試料の検査に有用な走査型電子顕微鏡、およびその画像の改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、半導体試料に対して電気回路となるパターンの酸化,成膜,露光,エッチング等の工程を経ることにより形成される。半導体試料は、その工程の途中で、必要に応じて外観検査装置,異物検査装置等の検査装置により検査され、半導体試料の外観不良部や異物等の欠陥の座標情報が、ネットワークを介して観察装置に送信される。観察装置は、欠陥を拡大撮像して画像を生成する装置であり、この画像に基づいて欠陥の観察と発生原因究明が行われる。
【0003】
検査装置や観察装置には、半導体試料へ光を照射し、受光素子で反射光を取得し画像化する光学式と、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を応用した装置であって、半導体試料に電子ビームを照射し、半導体試料から発生する二次電子等の二次信号の情報を画像化するSEM式とが知られている。SEM式検査装置やSEM式レビュー装置は、光学式検査装置や光学式レビュー装置よりも分解能が高く、微小な欠陥を検出したり画像化できることを特徴とする。
【0004】
走査型電子顕微鏡は、試料上でプローブとしての電子ビームを走査し、この走査にともなって試料から発生した二次電子や反射電子を検出する。近年、電子ビームを試料へ収束させる対物レンズの近傍に引上げ電極を設ける改良により、二次電子や反射電子を効率良く検出器へ入射させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この構成により、対物レンズを通過する二次電子や反射電子を加速させるので、対物レンズで生じる電子ビームの色収差を低減させることができる。また、金属製の反射板を試料と検出器の間に設けることにより、試料表面から生じる二次電子と反射電子のエネルギーの違いを利用して両者を分離させ、それぞれを別々の検出器で捉えることで、二次電子にて試料表面の形状情報を、反射電子にて試料の立体情報を得る方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この例において、さらに静電レンズを設けることで、静電レンズへの印加電圧により二次電子と反射電子の分離を制御することができる。
【0005】
上記のように、走査型電子顕微鏡を半導体試料の検査や観察に用いるための様々な改良が行われているが、走査型電子顕微鏡は、試料上で電子ビームを走査することにより発生した二次信号を画像化することから、電子ビームの安定性が画質を左右する。電子ビームは、磁界と電界によってその軌道を曲げることができるが、予期しない要因による磁界や電界の変動があると、電子ビームの軌道が変動してしまい、画像の像質や分解能の劣化の可能性がある。特に、高分解能な走査型電子顕微鏡では、電源に起因する電流変動による電子ビームの軌道の変動の低減が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−73841号公報
【特許文献2】特開2002−83563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、取得画像の像質や分解能の劣化を防ぐことができる走査型電子顕微鏡、および走査型電子顕微鏡の画像の改良方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様は、試料に電子ビームを照射し該試料から発生する二次信号の情報を画像化する走査型電子顕微鏡において、前記電子ビームを前記試料で走査する走査信号を補正する補正データを格納する記憶部と、該記憶部へ格納された補正データを用いて前記走査信号を補正する補正回路と、該補正回路で補正された走査信号を用いて得られた画像を表示するディスプレイとを備え、該ディスプレイには、さらに、前記補正データに基づいて生成された補正データ波形が表示される構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、取得画像の像質や分解能の劣化を防ぐことができる走査型電子顕微鏡、および走査型電子顕微鏡の画像の改良方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の一実施例を説明する。ここでは、例としてSEM式レビュー装置について説明する。図1は、SEM式レビュー装置の電子光学カラムの構成を示す概略図である。図は縦断面図であるが、電子ビームの周辺を真空に保つための容器は省略している。引き出し電極103により電子源101から引き出された一次電子ビーム102は、コンデンサレンズ104で収束されて細く絞られ、アライメントレンズ108で光軸が調整され、対物レンズ112で収束されて細く絞られ、試料116に照射される。さらに、一次電子ビーム102は、対物レンズ112の電圧印加磁路114により、対物レンズ112と試料116との間で加速される。一次電子ビーム102のビーム径が小さくなっているので、試料116の画像を生成するために、偏向レンズ110によって一次電子ビーム102を偏向して、試料116上を二次元走査させ、同時に試料116で発生する二次電子107や反射電子115の二次信号を、偏向に同期して二次電子検出器105や反射電子検出器111で検出する。検出された二次信号は、制御部106で画像化されてディスプレイ109に表示される。反射電子115は、左右の信号成分がそれぞれ2つの反射電子検出器111によって検出され、増幅器を介してディスプレイ109の輝度信号として使用される。反射電子115を可能な限り多く検出する目的で、反射板113が設けられている。反射板113に反射電子115が衝突すると、二次信号が発生し、これが反射電子検出器111によって捕捉される。また、ディスプレイ109の偏向信号と、偏向レンズ110の偏向信号とは同期しているため、ディスプレイ109には、ウェーハ等の試料上のパターン形状を忠実に再現することができる。制御部106は、引き出し電極103,コンデンサレンズ104,アライメントレンズ108,偏向レンズ110,対物レンズ112の調整を行う機能も有している。
【0011】
図2,図3は、図1の制御部106の詳細を示す構成図であり、図2に従来の構成、図3に本実施例における構成を示す。図2において、オペレータが、GUI(Graphical User Interface)201を使用してSEM式レビュー装置を操作する。GUI201で入力された情報は、CPU(Central Processing Unit)202に伝達され、D/A変換器(Digital-to-Analog Converter)203を介して電圧電流変換回路205へ送られる。D/A変換器203の出力は、電圧電流変換回路205を通してアライメントレンズ206,偏向レンズ207,対物レンズ208に伝達される。CPU202に接続されているメモリ204は、制御データの記憶,CPU202の演算結果やプログラムの格納に使用される。
【0012】
本実施例では、図3に示すように、新たに電子ビーム補正用データ記憶装置301を設ける。ここには、GUI201やCPU202から送られるビームの軌道の補正用データが時系列で並べられて記憶されている。この補正用データにより、D/A変換器203を制御して、電源周期に同期させたダイナミックなビームの軌道の補正を行うことができる。環境測定器302は、SEM式レビュー装置の内部で発生する電流や磁場の変動を測定し、そのデータを電子ビーム補正用データ記憶装置301へ送り、環境の影響を考慮してビームの軌道の補正を行うことができる。
【0013】
図4,図6は、電流または磁場波形と走査信号波形の時間変化を示すグラフ、図5は、試料のSEM像の一例を示す画面図である。通常、走査型電子顕微鏡における電子ビームの走査信号は、水平方向と垂直方向の2次元で構成されている。図4は、そのうちの垂直方向の走査信号の波形と、装置内部で発生する電源の電流または磁場の周期ノイズを含む波形の時間的変化の一例を示している。電流または磁場の波形は、正弦波とはならず歪んでいることが多い。この一例のSEM像を図5(b)に示す。図5(a)に示す電流による影響を受けていない時の画像に比べ、図5(b)に示す電流による影響を受けた時の画像は、直線になるべきところに曲がりが出てしまう。本実施例では、図3に示した環境測定器302で図4に示した電流または磁場の波形を測定し、このデータを電子ビーム補正用データ記憶装置301へ送り、図6に示すように、測定した電流または磁場の波形に基づいて電子ビーム補正用データを生成し、走査信号波形を補正する。このようにすることで、電子ビームを、あたかも電源の周期ノイズの影響がない場合と同一の走査信号波形で制御することができる。生成された走査信号波形は、図1に示した偏向レンズ110の偏向コイルに与えられる。偏向コイルの応答性が低い場合には、偏向レンズ110とは別に、図示しないビーム補正用コイルを設け、このコイルに電子ビーム補正用データを加えてもよい。
【0014】
図7は、画像の状態からビームを補正する手順を示すフローチャートである。初期状態にて画像を取得する(ステップ701)。次に、取得した画像の輝度やコントラストを画像処理により調整し(ステップ702)、ディスプレイ109へ画像を表示する(ステップ703)。オペレータは、表示された画像に図5(b)に示したような形状の曲がりがあるかどうかを判断し(ステップ704)、曲がりがある場合には、図6に示した電子ビーム補正用データをディスプレイ109に表示させ(ステップ705)、走査信号波形の加工を指示する(ステップ706)。電子ビーム補正用データ記憶装置301は、加工された走査信号波形を格納し(ステップ707)、偏向レンズ110の電流制御を行う(ステップ708)。そして、画像を表示させて、像の曲がりが改善されたかどうかを確認する。改善の程度が不十分な場合は、以上のステップを繰り返すことで、像曲がりのない画像を取得することができる。ディスプレイ109には、電子ビーム補正用データや加工された電子ビーム補正用データとともに、補正された走査信号波形により偏向された電子ビームで取得された画像が表示されるので、オペレータは、両者の比較により画像の曲がりの補正の程度が適切であるかどうかを確認することができる。
【0015】
ステップ704の、像の曲がりを、オペレータが判断するのではなく、制御部106で判断するようにすることもできる。図5(a)に示すような像の形状が予めわかっている場合には、制御部106は、これを基準として図5(b)に示すような曲がりのある像との差を演算により求め、閾値との大小で曲がりの有無を判断する。
【0016】
図8は、ディスプレイ109へ表示される画面の一例を示す画面図であり、図7に示したフローチャートのステップ706において、オペレータが走査信号波形の加工を指示する場合の設定ウィンドウ801を示している。設定ウィンドウ801には、補正データ表示エリア802,取得画像表示エリア803,ゲイン調整バー804,位相調整バー805,画像取得ボタン806,自動設定ボタン807が表示されている。
【0017】
既に記憶されている補正データを使用する場合、補正データ読込ボタン810を押し下げると、その補正データ波形812が表示される。補正データが複数ある場合は、選択ボタン808を押し下げると、補正データ表示エリア802に、選択メニューとして複数の補正データが表示された補正データ表示領域814が表示される。
【0018】
ひとつの補正データをマウスポインタ等で指定すると、その補正データ波形812が表示される。表示された補正データ波形812を編集する場合、補正データ表示領域814に表示された補正データを直接書き換える方法と、ゲイン調整バー804,位相調整バー805を使用する方法とがある。もちろん両方を併用することもできる。補正データ波形812の一部の形状を編集したり加工したりする場合は、補正データ表示選択部813の大きさを変えてその領域を指定することができ、ゲイン調整バー804や位相調整バー805を動かすことでゲインや位相を変えることができる。また、図3に示した環境測定器302で測定したSEM式レビュー装置の内部で発生する電流や磁場の変動に基づいて、電子ビーム補正用データを生成する場合には、環境測定データ取得ボタン809を押し下げる。
【0019】
画像取得ボタン806を押し下げると、補正データ表示エリア802に現在表示されている補正データを使用した場合の画像が取得され、その画像が取得画像表示エリア803に表示される。
【0020】
自動設定ボタン807は、取得画像表示エリア803に表示された画像の曲がりがなくなるような補正データが、近似演算により作成され、その補正データで画像が補正されるものであり、おおよその補正が可能である。しかし、画像の曲がりを完全になくすには、オペレータによる微細なチューニングが必要である。
【0021】
所望の画像が得られた場合、補正データを記憶する必要があるが、その場合には補正データ格納ボタン811を押し下げる。
【0022】
なお、画面内の表示は、必ずしも文字ではなくアイコンでもよい。また、ボタン等が選択、あるいは押し下げされたことを表すために、ボタンアイコンが凹んで見える効果,ボタンや文字の白黒反転効果や着色,チェックマーク付与などの手法を用いることができる。
【0023】
以上述べたように、本発明の実施例によれば、電源に同期して発生する電子ビームを揺らす要因をキャンセルするので、取得画像の像質や分解能の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】SEM式レビュー装置の電子光学カラムの構成を示す概略図。
【図2】制御部106の詳細を示す構成図。
【図3】制御部106の詳細を示す構成図。
【図4】電流または磁場波形と走査信号波形の時間変化を示すグラフ。
【図5】試料のSEM像の一例を示す画面図。
【図6】電流または磁場波形と走査信号波形の時間変化を示すグラフ。
【図7】画像の状態からビームを補正する手順を示すフローチャート。
【図8】ディスプレイ109へ表示される画面の一例を示す画面図。
【符号の説明】
【0025】
102 一次電子ビーム
106 制御部
108,206 アライメントレンズ
109 ディスプレイ
110,207 偏向レンズ
111 反射電子検出器
112,208 対物レンズ
113 反射板
114 電圧印加磁路
116 試料
201 GUI
202 CPU
203 D/A変換器
204 メモリ
205 電圧電流変換回路
301 電子ビーム補正用データ記憶装置
302 環境測定器
801 設定ウィンドウ
802 補正データ表示エリア
803 取得画像表示エリア
804 ゲイン調整バー
805 位相調整バー
806 画像取得ボタン
807 自動設定ボタン
808 補正データ選択ボタン
809 環境測定データ取得ボタン
810 補正データ読込ボタン
811 補正データ格納ボタン
812 補正データ波形
813 補正データ表示選択部
814 補正データ表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子ビームを照射し該試料から発生する二次信号の情報を画像化する走査型電子顕微鏡において、
前記電子ビームを前記試料で走査する走査信号を補正する補正データを格納する記憶部と、
該記憶部へ格納された補正データを用いて前記走査信号を補正する補正回路と、
該補正回路で補正された走査信号を用いて得られた画像を表示するディスプレイとを備え、
該ディスプレイには、さらに、前記補正データに基づいて生成された補正データ波形が表示されることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項2】
試料に電子ビームを走査して発生する二次信号から画像を生成しディスプレイへ表示する走査型電子顕微鏡において、
前記画像の形状に関して予め定められた基準と異なる形状のデータを格納する記憶装置と、
該記憶装置に格納された前記データを前記ディスプレイに表示させるとともに、前記データの形状変更指令の入力に基づいて前記データを変更し、該変更されたデータを用いて前記電子ビームを走査する走査信号波形を補正する制御部とを備えたことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記ディスプレイには、前記記憶装置に格納された前記データとともに、前記画像が表示されることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記電子ビームを偏向させる偏向器の電源の電流または磁場の少なくともひとつを測定する環境測定器を備え、
前記制御部は、該環境測定器で測定された電流または磁場の値に基づいて、前記電子ビームを走査する走査信号波形を補正することを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項2の記載において、前記記憶装置に格納されたデータは複数であり、前記ディスプレイに表示された選択メニューを用いてひとつのデータが選択されることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項2の記載において、前記記憶装置に格納されたデータを編集加工できるメニューが前記ディスプレイに表示されることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項7】
試料に電子ビームを照射し該試料から発生する二次信号の情報を画像化する走査型電子顕微鏡における画像の改良方法において、
記憶部に予め格納された補正データをディスプレイへ表示させ、
表示された補正データから選択された補正データを用いて、前記試料上での前記電子ビームの走査を制御する走査信号波形を補正し、
該補正された走査信号波形で前記試料を走査して得られた画像を前記ディスプレイへ表示させることを特徴とする走査型電子顕微鏡における画像の改良方法。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記補正データは、前記ディスプレイに表示された編集加工メニューにより加工可能であることを特徴とする走査型電子顕微鏡における画像の改良方法。
【請求項9】
請求項7の記載において、前記補正データは、前記電子ビームを偏向させる偏向器の電源の電流または磁場の少なくともひとつの値を含むことを特徴とする走査型電子顕微鏡における画像の改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−15731(P2010−15731A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172879(P2008−172879)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】