説明

走行支援装置

【課題】状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能な走行支援装置を提供する。
【解決手段】運動量算出部40は、自車周囲の物体mについての総リスク値Rを最小とする目的地への最適経路に自車を誘導する最適運動量算出モード又は総リスク値Rが現在よりも減少する修正経路に自車を誘導するための修正運動量算出モードにより自車の走行を支援する。最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとでは、リスクに対して自車を誘導するロジックが異なる。最適運動量算出モードは総リスク値Rを最小とする最適経路に誘導するためドライバーへの負担が少ない。一方、修正運動量算出モードは総リスク値Rが現在より減少する修正経路に誘導するだけの処理なため演算負荷が低減される。そのため、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走行支援装置に関し、特に、所定の経路に自車を誘導するための走行支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
障害物の回避等のために所定の経路に自車を誘導するための走行支援装置が提案されている。例えば、特許文献1には、障害物の回避操作時に運転者の操舵量に応じて車両の操舵系を駆動する通常回避時操作モードと、障害物の位置と自車両の走行状態とに基づいて通常回避時操作モードによる運転者の回避操作によって障害物の回避が不能と判断されたときに運転者の障害物回避行動を反映させつつ障害物回避を行う緊急時車両制御モードとを備えている車両用支援制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−253770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような技術では、障害物回避時の緊急度に応じて、通常回避時操作モードと緊急時車両制御モードとの切替を実施している。しかしながら、上記の技術では、通常回避時操作モードと緊急時車両制御モードとでは、障害物の危険度を評価して自車に障害物を回避させるロジックはいずれも同じであり、緊急時車両制御モードでは通常回避操作時に比べて出力される操作量を大きくできるようにするだけである。上記の技術では、通常時及び緊急時のいずれも、装置の演算負荷やドライバーの負担はそれほど変わらない。そのため、上記技術では、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を考慮した走行支援が不十分である。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能な走行支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車の周囲の物体についての危険度を最小とする目的地までの最適経路に自車を誘導するための最適モードと、自車の周囲の物体についての危険度が現在よりも減少する修正経路に自車を誘導するための修正モードとのいずれかにより自車の走行を支援する走行支援手段を備えた走行支援装置である。
【0007】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の物体についての危険度を最小とする目的地までの最適経路に自車を誘導するための最適モードと、自車の周囲の物体についての危険度が現在よりも減少する修正経路に自車を誘導するための修正モードとのいずれかにより自車の走行を支援する。最適モードと修正モードとでは、危険度に対して自車を誘導するロジックが異なり、演算負荷やドライバーへの負担も異なる。最適モードは危険度を最小とする最適経路に誘導するためドライバーへの負担が少ない。一方、修正モードは危険度が現在より減少する修正経路に誘導するだけの処理なため演算負荷が低減される。そのため、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能となる。
【0008】
この場合、走行支援手段は、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和に応じて最適モードと修正モードとを切り替えることが好適である。
【0009】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和に応じて最適モードと修正モードとを切り替える。このため、特に最適モードの際に、自車の周囲の物体全ての危険度に基づいて精度良く最適経路を導き出すことができる。最適モードは危険度を最小とする最適経路に誘導するため物体の個数が多くても局所解の可能性が無い。修正モードは危険度が現在より減少する修正経路に誘導するため演算負荷が低減される。そのため、局所解の防止や演算負荷の低減を考慮して、最適モードと修正モードとを切り替えることが可能となる。
【0010】
この場合、走行支援手段は、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値以下であるときは、最適モードにより自車の走行を支援し、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値以下であるときは、修正モードにより自車の走行を支援することが好適である。
【0011】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値以下と少ないときは、最適モードとしても演算負荷が少ないため、物体それぞれについての危険度の総和に基づいて精度良く最適経路を導出できる。一方、走行支援手段は、自車の周囲の物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値を超えて多いときは、演算負荷の少ない修正モードによりリスクの少なくなる経路に自車を誘導して自車の走行を支援することができる。
【0012】
あるいは、走行支援手段は、自車の周囲の物体の個数に応じて最適モードと修正モードとを切り替えることが好適である。
【0013】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の物体の個数に応じて最適モードと修正モードとを切り替える。このため、特に修正モードの際に、自車の周囲の物体全ての危険度を算出する必要がなく、演算負荷を低減することができる。最適モードは危険度を最小とする最適経路に誘導するため物体の個数が多くても局所解の可能性が無い。修正モードは危険度が現在より減少する修正経路に誘導するため演算負荷が低減される。そのため、局所解の防止や演算負荷の低減を考慮して、最適モードと修正モードとを切り替えることが可能となる。
【0014】
この場合、走行支援手段は、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値を超えているときは、最適モードにより自車の走行を支援し、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値以下であるときは、修正モードにより自車の走行を支援することが好適である。
【0015】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値を超えて多いときは、局所解に陥ることの無い最適モードにより自車の走行を支援する。また、走行支援手段は、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値以下と少ないときは、演算負荷が少なく目的地の設定が必要ない修正モードにより自車の走行を支援する。これにより、局所解の防止や演算負荷の低減を実現できる。
【0016】
また、走行支援手段は、自車の周囲の交通環境に応じて最適モードと修正モードとを切り替えることが好適である。
【0017】
上記特許文献1における緊急時車両制御モードや、本発明における危険度を最小とする目的地までの最適経路に自車を誘導するための最適モードにおける最適経路の探索は、白線がない道路や交差点の中など周囲の交通環境によっては困難な場面もある。このような最適経路の探索が困難な場面か否かは、例えば、障害物回避時の緊急度だけによる判定では判別できない。一方、上記特許文献1における通常回避時操作モードでは、周囲の障害物の状況を考慮しておらず、周囲の危険に応じた支援を実施することができない。そこで、この構成によれば、走行支援手段は、自車の周囲の交通環境に応じて最適モードと修正モードとを切り替える。このため、交通環境に対する影響が少ない修正モードに適宜切り替えて、交通環境による影響を低減することが可能となる。
【0018】
この場合、走行支援手段は、自車の走行する道路が交差点及び白線が設けられていない道路のいずれかであるときは、修正モードにより自車の走行を支援することが好適である。
【0019】
この構成によれば、走行支援手段は、自車の走行する道路が交差点又は白線が設けられていない道路であり、最適な経路を算出し難い場合に、交通環境に対する影響が少ない修正モードに切り替える。これにより、交通環境による影響を低減できる。
【0020】
また、走行支援手段は、自車のドライバーの状態に応じて最適モードと修正モードとを切り替えることが好適である。
【0021】
この構成によれば、走行支援手段は、自車のドライバーの状態に応じてドライバーに負担の少ない最適モードと、演算負荷が少ない修正モードとを切り替える。このため、ドライバーの状態に応じて、ドライバーと装置との負荷を変更することができる。
【0022】
この場合、走行支援手段は、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値未満であるときは、最適モードにより自車の走行を支援し、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値以上であるときは、修正モードにより自車の走行を支援することが好適である。
【0023】
この構成によれば、走行支援手段は、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値未満と低いときは、最適モードにより装置が主体となって自車の走行を支援し、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値以上と高いときは、ドライバーが主体となって演算負荷の少ない修正モードにより自車の走行を支援する。これにより、ドライバーの状態に応じて、ドライバーと装置との負荷を変更することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の走行支援装置によれば、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る走行支援装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る走行支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】最適運動量算出モードにおける最適経路を示す平面図である。
【図4】修正運動量算出モードにおける修正経路を示す平面図である。
【図5】交差点における望ましい最適経路と実際に算出される最適経路とを示す平面図である。
【図6】第2実施形態に係る走行支援装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る走行支援装置を説明する。図1に示す本発明の第1実施形態の走行支援装置10aは、センシング部20、状態検出部30、運動量算出部40及び制御部50を備えている。
【0027】
センシング部20は、運動量センサ21、可視光センサ22、距離センサ23及び位置センサ24を有している。運動量センサ21は、自車の運動状態を検出するために必要な、車速及びヨーレートを計測するジャイロセンサ等のセンサである。もし、走行支援装置10aに十分な計算資源があり、カメラ等の可視光センサ22やレーダ等の距離センサ23に十分な計測性能があるならば、カメラ等の可視光センサ22やレーダ等の距離センサ23によっても自車の運動状態を検出できる。距離センサ23は、例えば、水平画角180度をカバーするレーザレーダを用いることができる。
【0028】
可視光センサ22、距離センサ23及び位置センサ24は、車外の道路構造と、車両周囲の物体を停止状態及び移動状態のいずれの状態においても検出するために必要なセンサである。本実施形態では、カメラ等の可視光センサ22かレーダ等の距離センサ23の少なくともいずれかを有する。道路や他の車両等の物体が通信手段を持つことを前提にするのであれば、センシング部20は、他の車両等の物体の情報を受信する通信手段を有していても良い。位置センサ24は、GPS(Global Positioning System)により、自車の位置を検出する。また、位置センサ24は、地図情報データベースにより自車の目的地を設定するために用いられる。この場合の地図情報データベースは、道路幅、道路の曲率、及び交差点の形状等の道路形状に関する情報を含むことが望ましい。
【0029】
状態検出部30は、自車状態検出部31、道路構造検出部32及び可動物検出部33を有している。自車状態検出部31は、センシング部20における車速及びヨーレートを計測する運動量センサ21等のセンサから直接に車速及びヨーレートの計測値の入力を受けることができるのであれば、その計測値を運動量算出部40に出力する。センシング部20から加速度の計測値の入力しか受けることができない場合は、自車状態検出部31は、積分フィルタにより加速度の計測値を積分して、運動量算出部40に出力する。また、カメラ等の可視光センサ22かレーダ等の距離センサ23による計測結果によって、車外の状態から自車の状態を推定する必要がある場合には、自車状態検出部31は、より高度な特徴抽出処理及びフィルタ処理を行うことができる機能を有する必要がある。
【0030】
道路構造検出部32は、カメラ等の可視光センサ22かレーダ等の距離センサ23からの入力から特徴抽出処理及びフィルタ処理によって、自車の進入可能な領域を算出する。位置センサ24のGPSにより自車を測位した情報が入力されるときや、地図情報データベースから道路構造を検索可能なときは、道路構造検出部32は、カメラ等の可視光センサ22かレーダ等の距離センサ23の処理を省略することができる。
【0031】
可動物検出部33は、カメラ等の可視光センサ22かレーダ等の距離センサ23からの入力から特徴抽出処理及びパターン識別処理によって、可動物の位置及び速度といった状態を検出する。センシング部20において通信手段が使用できる場合には、通信手段により得られた情報を利用することができる。なお、可動物検出部33が検出する可動物には、駐車車両や立ち止まっている歩行者等の現在制止しているが、将来移動し得る物体も含まれる。
【0032】
運動量算出部40は、他者将来予測部41、リスク値算出部42、最適運動量算出部43及び修正運動量算出部44を有する。他者将来予測部41は、道路構造検出部32及び可動物検出部33からの情報から、車両運動等の移動物の運動学又は動力学の数理モデル等を利用して、N秒後までの他車両等の他者の将来の存在確率を空間的に算出する。
【0033】
リスク値算出部42は、他者将来予測部41により予測された少なくとも他者のN秒後までの存在確率を積算してリスク値とする。リスク値算出部42は、存在確率に自車との衝突時の運動エネルギー等を掛け合わせた値をリスク値としても良い。リスク値算出部42は、存在確率の積算を時間や、大型車両、小型車量、軽車両、人等の他者の属性に対して重み付けをしてリスク値を算出しても良い。また、リスク値算出部42は、算出したリスク値によって、最適運動量算出部43による最適運動量算出モードと修正運動量算出部44による修正運動量算出モードとを切り替える。
【0034】
最適運動量算出部43は、最適運動量算出モードとして、リスク値を最小化する目的地までの車両の軌道を生成し、車両運動の数理モデル等を利用して、N秒後までに実現すべき自車の軌道を実現するための運動量(ここでは、自車の軌道を修正するための操作量)を算出する。
【0035】
修正運動量算出部44は、修正運動量算出モードにおいて、車両の操作量を軸としたリスク値の関数の中で、リスク値が負の勾配方向に減少する運動量(ここでは、自車の軌道を修正するための操作量)を算出する。
【0036】
制御部50は、操舵装置51、加減速装置52、音声発生装置53及び操作反力発生装置54を有する。制御部50は、音声発生装置53により音声でドライバーを誘導したり、操舵装置51、加減速装置52及び操作反力発生装置54を駆動し、運動量算出部40で算出された操作量を実現する。修正運動量算出モードでは、音声発生装置53による音声や、操作反力発生装置54によるステアリングハンドル、アクセルペダル及びブレーキペダルへの反力により修正を促すが、ドライバーが修正に抗う操作を行なう際には、ドライバーの操作を優先する。
【0037】
以下、本実施形態の走行支援装置10aの動作について説明する。図2に示すように、走行支援装置10aは、自車の状態、道路の構造及び自車周囲の可動物を検出する(S11)。例えば、センシング部20のジャイロセンサ等の運動量センサ21による検出結果から、状態検出部30の自車状態検出部31は、自車の左右方向の水平軸(X軸)と自車の前後方向の奥行き軸(y軸)からなる速度ベクトルと、xy平面上でのヨーレートを検出する。
【0038】
道路構造検出部32は、位置センサ24のGPSにより得られた緯度及び経度と、地図情報データベースの情報とから、現在自車が走行している道路のマップマッチングを行う。現在走行している道路形状のモデルである両側曲線と、距離センサ23のレーザレーダの検出値の内で静止物による計測点とを最小自乗基準で当てはめることで、道路上の自車位置を推定することができる。例えば、道路形状を以下の下式(1)の二次曲線で表現すると、地図データベースの電子地図上で道路の曲率パラメータc,cと道路幅wは既知であるので、N個のレーザレーダ計測点(x,y)が観測されたときに、自車の道路上の位置xoffsetの最小自乗推定値が下式(1)のように求まる。
【数1】



【0039】
ここで、路外逸脱度L(x)、レーザレーダによる静止障害物判定L(x)により、走行可能領域L(x)を以下の下式(2)で定義する。
【数2】



【0040】
可動物検出部33では、製造段階において予め可動物を撮影したカメラ映像を多数用意し、画素値からHistogram of Oriented Gradients(HOG)(Histogram of Oriented Gradients for human Detection,. IEEE Conputer Vision and Pattern Recognition, 886-893, 200)と呼ばれる特徴量を算出し、歩行者や車両であるかどうかをSupport Vector Machine(SVM)と呼ばれる識別器を使って機械学習しておく。可動物検出部33では、このHOGとSVMとを走行中に実行して、移動中であるか静止しているかに関わらず、画像中の車両や歩行者の位置を検出し、カメラ取り付け位置からの座標変換によって、道路構造検出部32と同じ座標系で車両や歩行者等の可動物の位置を算出する。可動物検出部33では、可動物の速度については、この検出結果の差分をとっても良いが、可動物の存在位置周辺にレーザレーダの計測点があれば、これを時間的に追跡することで、より精度の高い可動物の速度を検出することができる。ある位置xm0=(xm0,ym0)に存在する可動物mを以下の下式(3)のような2次元の正規分布で表現することができる。また、可動物検出部33では、駐車車両や道路構造上の陰(死角)を検出した場合に、その領域に仮想的に歩行者等を検出したこととする。
【数3】



【0041】
運動量算出部40の他者将来予測部41は、可動物は等速運動すると仮定して、ある時刻Tまでの可動物の将来位置を予測する(S12)。例えば、可動物mの速度がvm0であるとき、時刻の刻み幅をΔtとすると、下式(4)のように算出できる。
【数4】



【0042】
しかしながら、道路構造検出部32で得たレーザレーダの計測点の集合から、xmtには他の障害物が存在する場合がある。このとき、可動物検出部33では、走行可能領域L(x)を利用して、他者である可動物が障害物を避けて且つできるだけ急に方向転換しないような他者の進行角度θを下式(5)のように決定する。下式(5)で、αは方向転換の重み付けを決定する設計パラメータである。
【数5】



【0043】
リスク値算出部42は以下のようにしてリスク値Rを算出する(S13)。リスク値算出部42は、可動物mに対するリスク値を、以下の混合正規分布である下式(6)で表現する。
【数6】



【0044】
リスク値算出部42は、走行環境にM個の可動物が存在するとき、ある位置xに自車が存在する場合の総リスク値R(x)を可動物と静止した障害物とに自車が衝突する程度と考えて、下式(7)のように算出する。ここで、βは可動物の評価を重み付ける設計パラメータである。
【数7】



【0045】
自車の位置は原点O=(0,0)であるので、総リスク値R(O)>γであれば(S14)、リスク値算出部42は、最適運動量算出部43による最適運動量算出モードにスイッチングを行なう(S15)。総リスク値R(O)≦γであれば(S14)、リスク値算出部42は、修正運動量算出部44による修正運動量算出モードにスイッチングを行なう(S16)。このγは任意の設計パラメータである。
【0046】
最適運動量算出モードにスイッチングがなされたときは(S14)、最適運動量算出部43は、自車の動力学モデルを一般の微分法的式の形式で記述し、可動物と静止した障害物に可能な限り衝突しないための最適制御問題のコスト関数Jのもとで、以下の下式(8)で示す最適制御問題を解く(S15)。ここで、uは車両への制御入力であり、umax,uminは制御入力の上限値と下限値とを表している。また、f(x,u)は、車両の動力学モデルを一般的に表現しているものであるが、質点モデルや二輪車モデル等のモデルを用いれば良い。このときの自車の動力学モデル及び最適制御問題の解法には、公知の技術を適用することができる。
【数8】



【0047】
修正運動量算出モードにスイッチングがなされたときは(S14)、修正運動量算出部44は、現在時刻からT秒後までの他者予測を考慮したコスト関数として総リスク値R(O)を用いるとすると、総リスク値R(O)を減少させる方向の制御量uの修正量Δuを下式(9)のようにして算出する(S16)。ここで、σは修正量を調整するための設計パラメータである。
【数9】



【0048】
制御部50は、最適運動量算出モード(S15)又は修正運動量算出モード(S16)で算出した最適運動量又は修正運動量を実現するように制御部50内の各装置に指令を与える(S17)。最適運動量算出モードでは、制御部50は操舵装置51及び加減速装置52に指令を与える。一方、修正運動量算出モードでは、制御部50は修正運動量算出部44で算出した修正量を、ステアリング、アクセルペダル及びブレーキペダルに備えられた操作反力発生装置54に指令し、運転者にリスクのある物体に近づかない運転操作を教示する。あるいは、修正運動量算出モードでは、制御部50は修正量に基づいて音声発生装置53により運転者にリスクのある物体に近づかない運転操作を教示する。
【0049】
本実施形態によれば、運動量算出部40は、自車の周囲の物体mについての総リスク値Rを最小とする目的地までの最適経路に自車を誘導するための最適運動量算出モードと、自車の周囲の物体mについての総リスク値Rが現在よりも減少する修正経路に自車を誘導するための修正運動量算出モードとのいずれかにより自車の走行を支援する。最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとでは、リスクに対して自車を誘導するロジックが異なり、演算負荷やドライバーへの負担も異なる。最適運動量算出モードは総リスク値Rを最小とする最適経路に誘導するためドライバーへの負担が少ない。一方、修正運動量算出モードは総リスク値Rが現在より減少する修正経路に誘導するだけの処理なため演算負荷が低減される。そのため、状況に応じて演算負荷の低減やドライバーとの協調を適切に行うことが可能となる。
【0050】
図3に示すように、最適運動量算出モードでは、最適運動量算出部43は、自車VMの現在の予測進路Ppreから物体mについてのリスク値Rが最小となる最適経路Pbestを算出し、最適経路Pbestを実現するための最適運動量Mbestを自車の目標運動量とする。一方、修正運動量算出モードでは、修正運動量算出部44は、自車VMが現在遭遇している物体mのリスク値Rの勾配を利用し、予測進路Ppreから物体mについてのリスク値Rが小さくなる修正経路Pmoを算出し、修正経路Pmoを実現するための最適運動量Mmoを自車の目標運動量とする。
【0051】
最適運動量算出モードのみを利用した場合は、周囲にリスク値Rを全て利用して、目標地点までの最適経路Pbestを算出する必要があり、演算負荷や必要なメモリ容量が増大する。また、最適運動量算出モードでは、白線の無い道路や、交差点内等の走路認識が困難な環境では、経路の基準線がなく、白線や走路に基づいてリスク値Rの算出ができないため、最適経路Pbestの算出が困難である。また、最適運動量算出モードでは、目標地点の設定が必要となる。
【0052】
一方、修正運動量算出モードのみを利用した場合は、現在、自車VMが遭遇しているリスクのある物体mに対してのみ修正させるため、複数のリスクのある物体mが存在した場合に正しい方向に誘導することが困難である場合がある。また、修正運動量算出モードでは、複数のリスクのある物体が存在した場合に、袋小路のように局所解に陥る可能性がある。
【0053】
そのため、本実施形態では、リスク値算出部42は、自車VMの周囲の物体mそれぞれについての総リスク値Rに応じて最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを切り替える。このため、特に最適運動量算出モードの際に、自車VMの周囲の物体m全てのリスクに基づいて精度良く最適経路Pbestを導き出すことができる。最適運動量算出モードはリスク値Rを最小とする最適経路Pbestに誘導するため物体mの個数が多くても局所解の可能性が無い。修正運動量算出モードはリスク値Rが現在より減少する修正経路Pmoに誘導するため演算負荷が低減される。そのため、局所解の防止や演算負荷の低減を考慮して、最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを切り替えることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、最適運動量算出部43は、自車VMの周囲の物体mそれぞれについての総リスク値Rが所定の閾値γ以下と少ないときは、最適運動量算出モードとしても演算負荷が少ないため、物体mそれぞれについての総リスク値Rに基づいて精度良く最適経路Pbestを導出できる。一方、修正運動量算出部44は、自車VMの周囲の物体mそれぞれについての総リスク値Rが所定の閾値γを超えて多いときは、演算負荷の少ない修正運動量算出モードによりリスクの少なくなる修正経路Pmoに自車VMを誘導して自車VMの走行を支援することができる。
【0055】
特に、本実施形態では、可動物検出部33では、このHOGとSVMを使って機械学習を実行して、画像中の車両や歩行者の位置を検出し可動物とする。また、可動物検出部33は、駐車車両や道路構造上の陰(死角)を検出した場合に、その領域に仮想的に歩行者等を検出したこととする。
【0056】
上記特許文献1の技術では、自車と相対的に停止している移動障害物の水平方向距離が極めて近く、僅かな挙動で接触事故に繋がる場面において、自車が安定して走行している限りは回避ロジックが作動しない。例えば、上記特許文献1の技術では、路側に歩行者が停止状態で立っている場合に、歩行者に接触寸前の側方間隔で通過しても、緊急回避ロジックは作動しない。また、上記特許文献1の技術では、自車と道路上の構造物との水平方向距離が極めて近く、自車から不可視の道路上構造物の陰からの飛び出しが発生すると緊急回避によっても間に合わないような場合においても、緊急回避ロジックが作動しない。例えば、上記特許文献1の技術では、大型駐車車両の横を高速走行していても、緊急回避ロジックは作動しない。
【0057】
一方、本実施形態では、HOGとSVMを使って機械学習を行って車両や歩行者の位置を検出し可動物とし、駐車車両や道路構造上の陰も考慮するため、静止した可動物や死角からの飛び出しにも対応できる。
【0058】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、リスク値算出部42は、最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを、自車周囲に存在するリスクのある物体の数に応じて切り替える点が上記第1実施形態と異なっている。上記第1実施形態では、全ての自車周辺の可動物に対して将来位置を予測して存在確率を算出し、その積算値であるリスク値を算出する必要がある。しかし、修正運動量算出モードが選択される場合には、全ての可動物を考慮したリスク値の算出は、演算負荷を考慮した場合、無駄となる可能性がある。
【0059】
本実施形態は、このような演算負荷を低減したものであり、自車周辺に存在するリスクのある物体の数のみを算出して、物体の数に応じてモード切替を実施し、各モードが選択された場合に、それぞれ必要なリスク値のみを算出させることで、演算負荷を低減させることができる。自車周辺に存在するリスクの数が所定の閾値以下と少ない場合は、修正運動量算出モードにおける、局所解等の問題が生じる可能性が低い。また、ドライバーにとって、リスクの対象が少なければリスク回避のための操作を迷うことは少なく、最適経路の算出は必ずしも必要はない。
【0060】
そのため、自車周辺に存在するリスクのある物体の数が所定の閾値以下のときは、リスク値算出部42は、修正運動量算出モードを選択する。一方、自車周辺に存在するリスクのある物体の数が所定の閾値を超えて多いときは、リスク値算出部42は、逆に、局所解を防止し、ドライバーの負担を少なくするため、最適運動量算出モードを選択する。
【0061】
本実施形態によれば、リスク値算出部42は、自車の周囲の物体の個数に応じて最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを切り替える。このため、特に修正運動量算出モードの際に、自車の周囲の物体全てのリスク値を算出する必要がなく、演算負荷を低減することができる。最適運動量算出モードは危険度を最小とする最適経路に誘導するため物体の個数が多くても局所解の可能性が無い。修正運動量算出モードは危険度が現在より減少する修正経路に誘導するため演算負荷が低減される。そのため、局所解の防止や演算負荷の低減を考慮して、最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを切り替えることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態によれば、リスク値算出部42は、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値を超えて多いときは、局所解に陥ることの無い最適運動量算出モードを選択し、自車の走行を支援する。また、リスク値算出部42は、自車の周囲の物体の個数が所定の閾値以下と少ないときは、演算負荷が少なく目的地の設定が必要ない修正運動量算出モードを選択し、自車の走行を支援する。これにより、局所解の防止や演算負荷の低減を実現できる。
【0063】
以下、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、リスク値算出部42は、最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを、自車周囲の道路環境に応じて切り替える。上述したように、最適運動量算出モードでは、白線のない道路や交差点内などの走路認識が困難な環境では、白線や走路に対するリスク値の算出が困難であるため、経路の基準線がなく、最適経路の算出が困難である。
【0064】
例えば、図5に示すように、交差点での右折の場合、交差点内には自車VMが走行するための白線等の基準路がないため、右折先の目標点Pに対し、適切な最適経路Pbestではなく、不適切な最適経路PbestRが算出されてしまう可能性がある。このように、交差点内や、白線の無い道路等の走路の認識が困難な道路については、最適運動量算出モードではなく、修正運動量算出モードでの修正運動量Mmoの算出しかできない可能性がある。
【0065】
しかし、上記第1実施形態のように総リスク値の大きさのみでモード切替を行うと、上述のような最適運動量算出モードでの最適運動量Mbestの算出が困難である状況において、最適運動量算出モードが選択されてしまう場合がある。
【0066】
そこで、本実施形態では、交差点や、白線のない道路や、白線だけではなく縁石等も認識できず走路の認識が不可能であった道路の場合は、リスク値算出部42は修正運動量算出モードを選択し、それ以外の場合に最適運動量算出モードを選択するものとする。
【0067】
本実施形態では、リスク値算出部42は、自車の周囲の交通環境に応じて最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを切り替える。このため、交通環境に対する影響が少ない修正運動量算出モードに適宜切り替えて、交通環境による影響を低減することが可能となる。
【0068】
特に本実施形態では、リスク値算出部42は、自車の走行する道路が交差点又は白線が設けられていない道路であり、最適な経路を算出し難い場合に、交通環境に対する影響が少ない修正運動量算出モードに切り替える。これにより、交通環境による影響を低減できる。
【0069】
以下、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態においては、リスク値算出部42は、最適運動量算出モードと修正運動量算出モードとを、自車のドライバーの状態に応じて切り替える。図6に示すように、本実施形態の走行支援装置10bの状態検出部30はドライバ状態検出部34を有している。ドライバ状態検出部34は、ドライバーの覚醒度及びドライバーのステアリングホイールの操作量を利用してドライバーの状態を検出する。上記第1実施形態では、ドライバーの状態を利用していないため、ドライバーの覚醒度やドライバーの操作によっては、ドライバーに煩わしいと感じさせてしまう可能性がある。
【0070】
そこで、本実施形態では、リスク値算出部42は、ドライバーの覚醒度やドライバーの操作量を検出し、それらの値に応じてモードを切り替えることで、ドライバーにとって煩わしくないシステムを実現することが可能となる。本実施形態では、ドライバーの覚醒度が所定の閾値以上である場合や、ドライバーの操作量(例えば、ステアリングホイールのトルク)が所定の閾値以上と大きい場合には、ドライバーを主体とし、走行支援装置10bのシステムを補助的な役割として利用するため、リスク値算出部42は、修正運動量算出モードを選択する。逆に、ドライバーの覚醒度が所定の閾値未満である場合や、ドライバーの操作量が所定の閾値未満と小さい場合には、走行支援装置10bが主体となり、障害物等を回避できるように、リスク値算出部42は、最適運動量算出モードを選択する。
【0071】
本実施形態によれば、リスク値算出部42は、自車のドライバーの状態に応じてドライバーに負担の少ない最適運動量算出モードと、演算負荷が少ない修正運動量算出モードとを切り替える。このため、ドライバーの状態に応じて、ドライバーと装置との負荷を変更することができる。
【0072】
また本実施形態によれば、リスク値算出部42は、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値未満と低いときは、最適運動量算出モードにより装置が主体となって自車の走行を支援し、自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値以上と高いときは、ドライバーが主体となって演算負荷の少ない修正運動量算出モードにより自車の走行を支援する。これにより、ドライバーの状態に応じて、ドライバーと装置との負荷を変更することができる。
【0073】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10a,10b…走行支援装置、20…センシング部、21…運動量センサ、22…可視光センサ、23…距離センサ、24…位置センサ、30…状態検出部、31…自車状態検出部、32…道路構造検出部、33…可動物検出部、34…ドライバ状態検出部、40…運動量算出部、41…他者将来予測部、42…リスク値算出部、43…最適運動量算出部、44…修正運動量算出部、50…制御部、51…操舵装置、52…加減速装置、53…音声発生装置、54…操作反力発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の周囲の物体についての危険度を最小とする目的地までの最適経路に前記自車を誘導するための最適モードと、
前記自車の周囲の前記物体についての危険度が現在よりも減少する修正経路に前記自車を誘導するための修正モードと、
のいずれかにより前記自車の走行を支援する走行支援手段を備えた走行支援装置。
【請求項2】
前記走行支援手段は、前記自車の周囲の前記物体それぞれについての危険度の総和に応じて前記最適モードと前記修正モードとを切り替える、請求項1に記載の走行支援装置。
【請求項3】
前記走行支援手段は、前記自車の周囲の前記物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値以下であるときは、前記最適モードにより前記自車の走行を支援し、前記自車の周囲の前記物体それぞれについての危険度の総和が所定の閾値以下であるときは、前記修正モードにより前記自車の走行を支援する、請求項2に記載の走行支援装置。
【請求項4】
前記走行支援手段は、前記自車の周囲の前記物体の個数に応じて前記最適モードと前記修正モードとを切り替える、請求項1に記載の走行支援装置。
【請求項5】
前記走行支援手段は、前記自車の周囲の前記物体の個数が所定の閾値を超えているときは、前記最適モードにより前記自車の走行を支援し、前記自車の周囲の前記物体の個数が所定の閾値以下であるときは、前記修正モードにより前記自車の走行を支援する、請求項3に記載の走行支援装置。
【請求項6】
前記走行支援手段は、前記自車の周囲の交通環境に応じて前記最適モードと前記修正モードとを切り替える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の走行支援装置。
【請求項7】
前記走行支援手段は、前記自車の走行する道路が交差点及び白線が設けられていない道路のいずれかであるときは、前記修正モードにより前記自車の走行を支援する、請求項5に記載の走行支援装置。
【請求項8】
前記走行支援手段は、前記自車のドライバーの状態に応じて前記最適モードと前記修正モードとを切り替える、請求項1〜6のいずれか1項に記載の走行支援装置。
【請求項9】
前記走行支援手段は、前記自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値未満であるときは、前記最適モードにより前記自車の走行を支援し、前記自車のドライバーの覚醒度及び操作量のいずれかが所定の閾値以上であるときは、前記修正モードにより前記自車の走行を支援する、請求項7に記載の走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−203795(P2011−203795A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67988(P2010−67988)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】