説明

車両のピラー構造

【課題】 衝撃吸収性を損なうことなく、重量の増加を抑え、生産コストを削減し、部品の数を減らした車両のピラー構造を提供する。
【解決手段】 車両11のピラー構造24は、フロントピラー22の車室18内方側を、フロントピラーから所定距離Saだけ離間して内装部材25で覆うとともに、内装部材の一側面にはピラーに向けて固定台座を取付け、内装部材を軽金属から形成した。内装部材は、フロントピラーに沿う裏ベース部材46を形成し、裏ベース部材を表皮材47で被覆するとともに、表皮材の縁部51,51を裏ベース部材の端部に巻き込んだ。軽金属から形成した内装部材が塑性変形して、衝撃を吸収する。内装部材を衝撃吸収部材として使用することができる。中実若しくは中空な衝撃吸収部材を取付ける必要がなくなる。裏ベース部材の塑性加工は容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のルーフを支持する車両のピラー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピラー構造は、車体のルーフを支持するピラーに内装部材を取付けたものであるが、一般的に、内装部材の裏には衝撃吸収部材を配置する。衝撃吸収部材としてアルミニウム合金製の筒を採用した衝撃吸収構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−5502号公報(第5頁、図1)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は、従来の技術の基本構成を説明する図であり、従来の自動車の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造は、構造部材101と、樹脂製の内装材102と、内装材102の裏に接着剤103,104で取付けた金属製の筒状体105を備え、荷重源106で荷重が加わると(矢印Aの方向)、金属製の筒状体105がストロクD1だけ変形することで衝撃エネルギを吸収することができるとともに、接着剤103,104によって衝撃エネルギを吸収することができるというものである。
【0004】
しかし、特許文献1の車体上部の衝撃エネルギ吸収構造では、筒状体105は多角形の角管であり、筒状体105を採用することにより、重量が増加する。
また、筒状体105は、多角形の角管で、断面形状が複雑になり、押し出し成形の生産コストは高くなる。
さらに、衝撃エネルギ吸収構造は、構造部材101に筒状体105を接着剤で取付け、筒状体105に内装材102を接着剤103,104で取付けたものであり、衝撃エネルギ吸収構造を得るには、部品の数が多くなり、組立てに時間がかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、衝撃吸収性を損なうことなく、重量の増加を抑え、生産コストを削減し、部品の数を減らした車両のピラー構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車両のピラーの車室内方側を、ピラーから所定距離だけ離間して内装部材で覆った車両のピラー構造において、内装部材の一側面にはピラーに向けて固定台座を取付けるとともに、内装部材を軽金属から形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、内装部材は、ピラーに沿うとともに軸線方向に伸ばした裏ベース部材から形成され、裏ベース部材を表皮材で被覆するとともに、表皮材の縁部を裏ベース部材の端部に巻き込んだことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、固定台座は、裏ベース部材に固着する脚部と、脚部に連なりピラーに対向する取付座部と、から成形され、取付座部の中央にピラーに取付けるための掛止部材が嵌るスリットが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、内装部材の一側面にはピラーに向けて固定台座を取付けるとともに、内装部材を軽金属から形成したしたので、内装部材に衝撃が加わると、ピラーに直接取付けた軽金属から形成した内装部材が塑性変形して、衝撃を吸収する。つまり、内装部材を衝撃吸収部材として使用することができ、ピラーと内装部材との間に中実な衝撃吸収部材や中空な衝撃吸収部材を取付ける必要がなくなる。従って、ピラー構造の衝撃吸収性を損なうことなく、重量の増加を抑えることができる。
【0010】
また、内装部材に衝撃が加わると、ピラーに直接取付けた軽金属から形成した内装部材が塑性変形することで、衝撃を吸収する。つまり、内装部材を衝撃吸収部材として使用することができ、ピラーと内装部材との間に中実な衝撃吸収部材や中空な衝撃吸収部材を取付ける必要がなくなる。従って、ピラー構造の部品の数を減らすことができるという利点がある。
【0011】
さらに、内装部材に衝撃が加わると、ピラーに直接取付けた軽金属から形成した内装部材が塑性変形することで、衝撃を吸収する。その結果、例えば、樹脂製の中実な衝撃吸収部材に比べ、所定距離は小さくなり、ピラー構造を細くすることができる。従って、ピラー構造による圧迫感を抑制することができるとともに、開放感が向上し快適性の向上を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、内装部材は、ピラーに沿うとともに軸線方向に伸ばした裏ベース部材から形成され、裏ベース部材を表皮材で被覆するとともに、表皮材の縁部を裏ベース部材の端部に巻き込んだので、巻き込んだ表皮材の縁部によって、より確実に表皮材を接着することができる。
【0013】
また、内装部材は、軽金属から形成した裏ベース部材を表皮材で被覆するとともに、表皮材の縁部を裏ベース部材の端部に巻き込んだので、表皮材の縁部を裏ベース部材の端部に倣って切断する必要がなく、軽金属から形成した裏ベース部材に表皮材を取付ける作業は容易になるという利点がある。
【0014】
さらに、内装部材は、軽金属から形成しかつ、ピラーに沿うとともに軸線方向に伸ばした裏ベース部材から形成されたので、断面が例えばU形状の裏ベース部材であれば、塑性加工に用いる金型や装置は簡単になり、裏ベース部材の塑性加工は容易である。従って、生産コストを削減することができるという利点がある。
【0015】
請求項3に係る発明では、固定台座は、裏ベース部材に固着する脚部と、脚部に連なりピラーに対向する取付座部と、から成形され、取付座部の中央にピラーに取付けるための掛止部材が嵌るスリットが形成されているので、脚部によって所定距離を設定することができるとともに、内装部材が塑性変形するとほぼ同時に、脚部は塑性変形する。従って、内装部材に加わる衝撃を軽減することができる。
【0016】
また、固定台座は、取付座部の中央にピラーに取付けるための掛止部材が嵌るスリットが形成されているので、スリットで掛止部材を取付けると、ピラーから離す引張り力に対して、掛止部材の取付け強度を高めることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従う。
図1は、本発明のピラー構造を採用した車両の斜視図である。
車両11は、車体12と、車体12に設けた運転席13、助手席14と、車体12に取付けたインストルメントパネル15、フロントウインド16、左・右ドア17,17を備える。18は車室を示す。
【0018】
車体12は、フロントボデー21と、フロントボデー21に連ねたピラーとしてのフロントピラー22と、フロントピラー22に連ねたルーフ23と、を備える。24はピラー構造であるところのフロントピラー構造、25はピラー構造24の内装部材、26は内装部材の上端、27は内装部材の下端を示す。
【0019】
図2は、図1の2−2線断面図であり、フロントピラー構造24の断面を示す。
フロントピラー構造24は、フロントピラー22の車室18内方側(矢印a1の方向)を、フロントピラー22から所定距離Saだけ離間して内装部材25で覆うとともに、内装部材25の一側面25aの上・下端26(図1参照),27(図1参照)側にフロントピラー22に向けて固定台座31(図3参照),31を取付けたものである。
【0020】
フロントピラー22は、アウタパネル32と中間パネル33とインナパネル34を重ねて端同士を溶接したものである。
フロントウインド16は、ガラス35と、フロントピラー22にガラス35を取付けるサイドモール36、クリップ37、接着剤38とを備える。
ドア17は、ガラス41と、サッシュ42と、サッシュ42に取付けたガラスランチャンネル43、アウタウエザストリップ44、インナウエザストリップ45とを備える。
【0021】
内装部材25は、裏ベース部材46を表皮材47で被覆するとともに、表皮材47の縁部51,51を裏ベース部材46の端部52,52に矢印a2,a2のように巻き込んだもので、フロントピラー22のインナパネル34に固定台座31を掛止部材53で取付けた。
【0022】
表皮材47は、樹脂製の単層のシートであり、裏ベース部材46の車室18側に接着することで、フロントピラー構造24に上質感を与えることができ、結果的に、車室18の上質感を高めることができる。
なお、表皮材に採用するシートの層数は任意であり、多層でもよく、例えば、表皮材47と裏ベース部材46との間にさらにクッション層を入れた2層の表皮材としてもよい。
裏ベース部材46の一側面25aには、固定台座31(図3参照),31を溶接にて固定した。
【0023】
図3は、本発明の車両のピラー構造に用いた裏ベース部材の斜視図である。
裏ベース部材46は、ピラー(フロントピラー)22(図2参照)に沿って軸線C方向(矢印a3方向)に伸ばし、軸線Cに直交する断面がU形状である。また、裏ベース部材46は、上・下端26,27側に固定台座31,31を取付け、下端27にラグ54,54を取付けたものである。
裏ベース部材46の材質は、軽金属であり、軽金属は、例えば、アルミニウム合金である。
ラグ54は、インストルメントパネル15(図1参照)側に差し込まれることで、フロントピラー構造24の軸線C方向への熱膨張による伸びを吸収する。
【0024】
裏ベース部材46の製造方法を簡単に説明する。
まず、軽金属から形成したブランク材を所望の大きさの長方形に切断する。引き続き、ブランク材をプレス機に取付けた塑性加工用の金型(上金型、下金型を備える。)にセットし、金型を閉じることでブランク材を塑性変形させ、裏ベース部材46となる一次成形品を成形する。その次ぎに、一次成形品の余分な部位を切断することで余分な部位を排除し、二次成形品を得る。最後に、二次成形品に固定台座31,31及びラグ54,54を溶接で取付け、裏ベース部材46が完成する。
【0025】
このように、ピラー(フロントピラー)22(図2参照)に沿った形状、例えば、断面がU形状の裏ベース部材46であれば、塑性加工に用いる金型などの装置類は簡単になり、裏ベース部材46の塑性加工は容易である。従って、生産コストを削減することができるという利点がある。
【0026】
ここでは、プレス機並びに塑性加工の金型を例に説明したが、製造方法は任意であり、ダイカストで製造してもよい。断面がU形状の裏ベース部材46であれば、鋳造金型のキャビテイ形状は簡単であり、生産コストを削減することができるという利点がある。
【0027】
内装部材25では、一側面25aの両端(上・下端)26,27に固定台座31,31を取付けることで、固定台座31を取付けた両端に比べ、塑性変形後に固定台座31が介在しない中央はフロントピラーのインナパネル34(図2参照)からの所定距離Sa(図2参照)を大きくすることができ、衝撃を軽減することができる。
【0028】
図4は、本発明のピラー構造に採用した固定台座及び掛止部材の斜視図である。
固定台座31は、裏ベース部材46(図3参照)に固着する脚部55(第1・第2L字部56,57を有する。)と、脚部55に連なりピラー(フロントピラー)22(図2参照)に対向する取付座部58とから成形され、取付座部58の中央に掛止部材53を取付けるスリット61が形成されているものである。
固定台座31の材質は、裏ベース部材46と同等のものとし、裏ベース部材46に対して異材溶接とならないように選択するが望ましい。
【0029】
脚部55では、第1・第2L字部56,57を形成することで、裏ベース部材46と脚部55に対する溶接部の長さや数を大きくすることができ、溶接強度を高めることができる。
スリット61は、幅Ws、深さLsの切り欠で、切り欠を上に向けて開け且つ、軸線C方向(矢印a3方向)に配置したものである。
【0030】
掛止部材53は、裏ベース部材46(図3参照)を取付けるクリップであり、スリット61に掛かる断面U字状の掛止本体62を成形し、掛止本体62に連ねて嵌合先端63をフロントピラー22(図2参照)のインナパネル34(図2参照)の孔(図に示していない)に嵌めた後、孔に嵌合先端63が掛かるように形成したものである。
【0031】
掛止本体62は、取付座部58を挟む構造で、車室の内・外の方向(矢印a5の方向)に対して、着脱することはできない部位であり、フロントピラー22(図2参照)から離す(矢印a5の方向)引張り力に対して、取付け強度を高めることができるという利点がある。
【0032】
内装部材25の取付け要領を図3及び図4で説明する。
まず、スリット61に掛止部材53の掛止本体62を矢印(図4の一点鎖線を参照)のように嵌め、残りのスリット61にも同様に掛止本体62を嵌める。スリット61は、切り欠を上に向けて開けたので、次工程で内装部材25を取付ける際に、内装部材25を立てても、スリット61から掛止部材53は抜け落ちない。
【0033】
引き続き、内装部材25の上端26を上にして立て、インストルメントパネル15(図1参照)に連なる部位にラグ54,54を差し込むとともに、フロントピラーのインナパネル34(図2参照)に内装部材25を矢印a4(図3参照)のように押付けることで、インナパネル34(図2参照)の孔に嵌合先端63,63を嵌める。
【0034】
つまり、フロントピラー22(図2参照)に内装部材25を押付けると、内装部材25の取付は完了するので、内装部材25の取付は容易であり、生産コストを削減することができる。
【0035】
図5は、本発明のピラー構造の衝撃吸収を説明する図である。
ピラー構造24の内装部材25に衝撃が矢印a6のように加わると、内装部材25は二点鎖線で示す状態から実線で示すように塑性変形して、衝撃を低減する。具体的には、内装部材25に衝撃が矢印a6のように加わると、裏ベース部材46は、軽金属の特性と断面形状(例えば、断面U形状)による強度(断面係数)によって得られる強さで、所定距離Saだけ塑性変形することで、衝撃を吸収する。
【0036】
ピラー構造24は、フロントピラー22と内装部材25との空間に衝撃吸収を目的とする部材を取付けずに、内装部材25を衝撃吸収部材として使用するので、軽量化を図ることができるとともに、部品の数を減らすことができる。
【0037】
このように、車両のピラー構造24では、内装部材25の両端(上・下端)26(図1参照),27(図1参照)側に所定距離Saだけ離す固定台座31(図3参照),31(図3参照)を取付けるとともに、内装部材25を軽金属から形成したので、衝撃吸収性を損なうことなく、重量の増加を抑え、生産コストを削減し、部品の数を減らすことができる。
【0038】
ピラー構造24では、フロントピラー22と内装部材25との空間に衝撃吸収を目的とする部材を取付けずに、衝撃吸収部材として内装部材25を使用するので、内装部材25が塑性変形した際にフロントピラー22と内装部材25と間に衝撃吸収を目的とする部材が挟まらない。従って、フロントピラー22のインナパネル34を基準に設定する所定距離Saを小さくすることができる。
つまり、車室18内方側(矢印a1の方向)への出っ張りを小さくすることができ、ピラー構造24による圧迫感を抑制することができるとともに、開放感が向上し快適性の向上を図ることができる。
【0039】
尚、本発明の車両のピラー構造は、フロントピラー22に適用したが、フロントピラー22に限定しない。ルーフを支持する各ピラー(例えば、センターピラー)に採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の車両のピラー構造は、四輪車に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のピラー構造を採用した車両の斜視図
【図2】図1の2−2線断面図
【図3】本発明の車両のピラー構造に用いた裏ベース部材の斜視図
【図4】本発明のピラー構造に採用した固定台座及び掛止部材の斜視図
【図5】本発明のピラー構造の衝撃吸収を説明する図
【図6】従来の技術の基本構成を説明する図
【符号の説明】
【0042】
11…車両、18…車室、22…ピラー(フロントピラー)、24…ピラー構造、25…内装部材、26,27…両端(上・下端)、31…固定台座、46…裏ベース部材、47…表皮材、51…表皮材の縁部、52…裏ベース部材の端部、53…掛止部材、55…脚部、58…取付座部、61…スリット、Sa…所定距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のピラーの車室内方側を、該ピラーから所定距離だけ離間して内装部材で覆った車両のピラー構造において、
前記内装部材の一側面には前記ピラーに向けて固定台座を取付けるとともに、内装部材を軽金属から形成したことを特徴とする車両のピラー構造。
【請求項2】
前記内装部材は、ピラーに沿うとともに軸線方向に伸ばした裏ベース部材から形成され、該裏ベース部材を表皮材で被覆するとともに、該表皮材の縁部を前記裏ベース部材の端部に巻き込んだことを特徴とする請求項1記載の車両のピラー構造。
【請求項3】
前記固定台座は、前記裏ベース部材に固着する脚部と、該脚部に連なり前記ピラーに対向する取付座部と、から成形され、該取付座部の中央に前記ピラーに取付けるための掛止部材が嵌るスリットが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両のピラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69431(P2006−69431A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257099(P2004−257099)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】