説明

車両の側面衝突対策構造

【課題】本発明は、車両の前面衝突対策の構造を車両の側面衝突対策の構造部材として兼用することができる車両の側面衝突対策構造を提供する。
【解決手段】本発明は、シート装置20のシートクッション21内部に乗員αが着座した状態における乗員の臀部前方の大腿部近傍に位置するように配置され、車両の前面衝突時にシートクッションに着座した乗員の前方への移動を抑える乗員移動抑制部材25を、車幅方向に沿って車体側部の開口部4近傍まで延設して、開口部側の端部を閉じた状態のドア13の内面と向き合わせ、車両の側面衝突時、ドアから加わる衝撃荷重を乗員移動抑制部材で受ける構成とした。これにより、乗員移動抑制部材は、車両の前面衝突時はシートクッションに着座した乗員が慣性で車両前方への移動するのを抑え、車両の側面衝突時はドアから加わる衝撃荷重を受けて、ドアが車室内に侵入するのを抑えるという、二つの機能を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に側面衝突に対する対策を施す車両の側面衝突対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)では、乗員安全性の確保のため、前面衝突や側面衝突など自動車の衝突形態別(衝突方向別)に対策を施すことが行われている。
代表的な例を挙げると、自動車の前面衝突に対しては、例えば特許文献1に示されるようにシート装置のシートクッションの内部に乗員移動抑制部材を設ける対策がある。これは、乗員移動抑制部材を、シートクッションに着座した乗員の臀部前方の大腿部近傍に位置するように配置して、自動車の前面衝突時にシートクッションに着座した乗員が慣性で車両前方へ移動するのを抑制するものである。
【0003】
また側面衝突に対しては、ドア内にインパクトバー部材を設けたり、特許文献2に示されるように車幅方向に延び、端部が閉じたドアの内面と向き合うように配置されたガード部材を設けたりする対策がある。これは、自動車の側面衝突時、ドアから加わる衝撃荷重をインパクトバー部材やガード部材で受けて、ドアが車室内に侵入するのを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−46513号公報
【特許文献2】特開平9−95264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車では、側面衝突に対する対策が注目されている。
ところで、従来から、側面衝突対策は、特許文献1,2のように前面衝突対策とは全く別な対策として取り扱われているために、側面衝突対策の構造と前面衝突対策の構造とは全く独立した構造を採用している。このため、上記のような前面衝突および側面衝突に対する構造を両方とも採用する場合、部品点数や組立工数が増加しやすく、重量増加やコスト的な負担が強いられやすい。特に、側面衝突対策は、部材の板厚や材質等によりその安全性に大きく影響が出るため、より重量やコストへの負担が大きいと言える。そのため、重量やコスト的負担を抑えた前面衝突対策および側面衝突対策の構造が求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、車両の前面衝突対策の構造を車両の側面衝突対策の構造部材として兼用することができる車両の側面衝突対策構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、シート装置のシートクッション内部に乗員が着座した状態における乗員の臀部前方の大腿部近傍に位置するように配置され、車両の前面衝突時にシートクッションに着座した乗員の前方への移動を抑える乗員移動抑制部材を、車幅方向に沿って車体側部の開口部近傍まで延設して、開口部側の端部を閉じた状態のドアの内面と向き合うように形成し、車両の側面衝突時、ドアから加わる衝撃荷重を乗員移動抑制部材で受けるように構成した。
【0008】
同構成により、乗員移動抑制部材は、車両の前面衝突時にはシートクッションに着座した乗員が慣性で車両前方への移動するのを抑え、車両の側面衝突時にはドアから加わる衝撃荷重を受けて、ドアが車室内に侵入するのを抑えるという、二つの機能を果たす。
請求項2に記載の発明は、さらに側面衝突時におけるドアの車室内への侵入を抑える効果を高めるために、ドアは、ドア内蔵の補強部材を備え、補強部材が、ドアが閉じた状態で乗員移動抑制部材のドア開口部側の端部と車幅方向で対向するように配置されることとした。
【0009】
請求項3に記載の発明は、さらに側面衝突時に乗員移動抑制部材でドアの侵入が効果的に抑えられるよう、乗員移動抑制部材の開口部側の端部と閉じたドアの補強部材との間の空隙は、衝撃吸収部材で占められ、補強部材に加わる衝撃荷重が衝撃吸収部材で緩和された後、衝撃吸収部材を通じて乗員移動抑制部材に伝達されることとした。
請求項4に記載の発明は、さらに側面衝突時におけるドアの車室内への侵入を効果的に抑えるために、補強部材は、車両前後方向に延設されて車両の側面衝突時の衝撃を受けるインパクトバー部材を用いた。
【0010】
請求項5に記載の発明は、さらに一つの乗員移動抑制部材で車体両側の側面衝突に対して対処できるよう、車体の両側部に開口部およびドアがそれぞれ備えられた構造を前提として、乗員移動抑制部材は、その車幅方向両端部を車幅方向に沿って車体両側部の各開口部近傍まで延設して車体両側部の閉じた状態の各ドアの内面と向き合うように形成することとした。
【0011】
請求項6に記載の発明は、さらに一つの乗員移動抑制部材で、多くの乗員が前面衝突や側面衝突の双方から守れるよう、シートクッションは、ベンチシートタイプのリヤシートクッションとした。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、乗員移動抑制部材は、車両の前面衝突時にはシートクッションに着座した乗員が慣性で車両前方への移動するのを抑えるだけでなく、車両の側面衝突時には、ドアから加わる衝撃荷重を受けて、ドアが車室内に侵入するのを抑えるという二つの機能を果たす。つまり、車両の前面衝突対策の構造が側面衝突対策の構造部材として兼用できることになる。
【0013】
それ故、車両の前面衝突の対策で用いる乗員移動抑制部材を流用して、車両の側面衝突に対する対策を講じることができ、部材の共通化により、部品点数や組立工数が抑えられ、同衝突対策に費やすコストの低減や重量の低減を図ることができる。
請求項2の発明によれば、車両の側面衝突時は、ドアに内蔵される補強部材で衝撃荷重を受けるので、ドアが車室内への侵入を抑える効果を高めることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、さらに車両の側面衝突時の衝撃荷重は、乗員移動抑制部材の開口部側の端部と閉じたドアの補強部材との間の空隙を占める衝撃吸収部材で緩和されて乗員移動抑制部材に伝わるから、侵入するドアを乗員移動抑制部材で効果的に抑えることができる。
請求項4の発明によれば、車両前後方向に延設するインパクトバー部材がもたらすドア侵入抑制作用により、車両の側面衝突時、効果的にドアの車室内への侵入を抑えることができる。
【0015】
請求項5の発明によれば、車両の両側部のいずれの側の側面衝突であっても、乗員移動抑制部材でドアから加わる衝撃荷重を受けることができ、しかも、一方側のドアからの衝撃荷重を乗員移動抑制部材を介して他方側の車体に伝達することで衝撃荷重を効率良く吸収することができる。それ故、ドアが車室内に侵入するのをより確実に抑えることができるようになり、一つの乗員移動抑制部材を用いた簡単な構造で、車両の両側からの側面衝突に対し、一層効果的に対処できる。
【0016】
請求項6の発明によれば、ベンチシートタイプのリヤシートクッションを用いることにより、一つの乗員移動抑制部材で、同リヤシートクッションに着座した多くの乗員を前面衝突や側面衝突の双方から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る側面衝突対策構造を適用した車両のリヤ側を示す斜視図。
【図2】同じくリヤドアを閉じたときを示す斜視図。
【図3】同じくリヤシートを外したときを示す分解斜視図。
【図4】リヤドアを閉じた車体の側面図。
【図5】同車両の前面衝突時の挙動を説明する側面図。
【図6】同車両の側面衝突時の挙動を説明する断面図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る側面衝突対策構造を適用した車両のリヤ側を示す斜視図。
【図8】同車両の側面衝突時の挙動を説明する断面図。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る側面衝突対策構造の要部を示す分解斜視図。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る側面衝突対策構造の要部を示す分解斜視図。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る側面衝突対策構造の要部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図1ないし図6に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
図1は本発明を適用した4ドア(フロントとリヤ)式の自動車(車両)の車室内のリヤ側を示し、図2は同じくリヤドアを閉じたときの状態を示し、図3は同じくリヤシートを外したときの状態を示している。
図1〜図3に示される自動車のリヤ側の主な構造を説明すると、図中1は自動車の車体である。車体1内には、フロント側からリヤ側に渡る車室2が形成されている。また車体1の車幅方向両側部には、それぞれフロントドア用のドア開口部3、リヤドア用のドア開口部4(本願の開口部に相当)が形成されている。ドア開口部3やドア開口部4は、フロントフロアパネル5やリヤフロアパネル6の車幅方向側部に配置されるサイドシル8、ルーフパネル(図示しない)の側部に配置されるルーフサイドレール9、ドア開口部3とドア開口部4を仕切るセンタピラー10、リヤピラー11などといった骨格部材で囲まれている。
【0019】
図1〜図3に示されるようにフロント用のドア開口部3には、フロントドア、例えば横開き式のフロントドア(図示しない)が設けられ、リヤ用のドア開口部4には、リヤドア、例えば横開き式のリヤドア13(本願のドアに相当)が設けられ、ドア開口部3,4を通じて乗員が車両に乗り降りできる構造となっている。フロントドア(図示しない)、リヤドア13は、いずれも図6に示されるようにドアアウタパネル15とドアインナパネル16を接合してなる箱形のドアパネル部17の上部に、サッシュ部17aを設け、ドアパネル部17の内面にドアトリム27を設けて構成してある。フロントドア(図示しない)、リヤドア13のドアパネル部17内には、サッシュ部17aを通るウインド部材17bや同ウインド部材17bを昇降する昇降装置(図示しない)と共に、ドア剛性強度を高める補強部材、例えば車両の前後方向に延びる複数本のインパクトバー部材18,19が上下段に設けられている。インパクトバー部材18,19は、いずれもドアパネル部17内の前後部の全体に渡り配置されていて、車両の側面衝突時のフロントドアやリヤドア13に加わる衝撃を受けるようにしてある(リヤドア側しか図示せず)。
【0020】
フロントフロアパネル5上には、フロントシート(図示しない)が設置される。また図1〜図4に示されるようにリヤフロアパネル6上には、リヤシート20(本願のシート装置に相当)が設置されている。リヤシート20は、車両の後輪(図示しない)付近、具体的には、ホイールハウス前方でドア開口部4に隣接して設置されている。リヤシート20は、シートクッション、例えば車室2の車幅方向(両側のドア開口部4まで)に渡る幅寸法を有するベンチシートタイプのシートクッション21と同シートクッション21の後部に配置されるシートバック22とを組み合わせてなる。このうちシートクッション21の上面の車幅方向両側には、例えば他の部分より凹ませた座面で形成される着座部23がそれぞれ形成されている。またシートバック22の車幅方向両側には、例えば他の部分より凹ませた背凭れ面で形成される背凭れ部24がそれぞれ形成されていて、図4に示されるように乗員αの腰を着座部23に下ろし、背を背凭れ部24に寄り掛けることにより、乗員αがリヤシート20に着座されるようにしてある。特に着座部23の座面は、車体後部に向かうにしたがい下がるように傾斜していて、図4に示すように乗員αは、臀部βが、大腿部γより下側に配置される良好な着座姿勢で着座される。
【0021】
このリヤシート20には、図示はしないが着座した乗員αの上体をサポートするシートベルト装置が組み付けてある。また図1〜図6に示されるようにリヤシート20には、この他の車両の前面衝突に対する対策が施されている。この対策には、リヤシート20のシートクッション21内に乗員移動抑制部材、例えばクロスパイプ部材25を車幅方向に渡り挿通させた構造が用いられている。クロスパイプ部材25は、図4および図5に示されるようにシートクッション21内部で、着座部23に乗員αが着座した状態における臀部β前方の大腿部γ近傍の位置、具体的には乗員αの大腿部γの下側の位置を挿通するように配置されている。この構造により、車両の前面衝突時の際、クロスパイプ部材25で、シートクッション21に着座した乗員αが慣性で車両前方への移動するのを抑えるようにしている。
【0022】
この前面衝突の対策を流用して、図1〜図6に示されるようにリヤシート20の両側方には側面衝突への対策が講じてある。この対策には、クロスパイプ部材25の端部を、閉じた状態のリヤドア13の内面と向き合わせて、車両の側面衝突の際、リヤドア13から加わる衝撃荷重をクロスパイプ部材25で受ける構造が用いてある。同構造には、リヤドア13内に内蔵されたインパクトバー部材19や、そのまま車体両側のリヤドア13にも利用できることを考慮した構造が用いられている。
【0023】
これらの点を説明すると、例えば図1〜図6に示されるようにインパクトバー部材18,19のうち、下段のインパクトバー部材19のリヤ側の端部は、クロスパイプ部材25端の位置に車幅方向で重なるよう対応させて配置させてあり、リヤドア13の閉じた状態のとき、インパクトバー部材19が、ドアインナパネル16を挟んで、クロスパイプ部材25の端部と車幅方向で対向するようにしてある。さらに述べるとインパクトバー部材19のリヤ側の端部は、衝撃吸収部材としての例えばドアバルクヘッド26を支持脚として用いて、ドアインナパネル16に支持してある。残るインパクトバー部材19のフロント側の端部は、支持脚24(図2に図示)を介してドアインナパネル16に支持され、インパクトバー部材19全体をドアアウタパネル15寄りに配置させている(リヤドア13からの衝撃を受けやすくするため)。ドアバルクヘッド26は、衝撃荷重の吸収に適した構造部品、例えばインパクトバー部材19の直径寸法より大きな外形をもつ箱形の構造部品で形成してある。また図6に示されるようにドアトリム27は、ドアバルクヘッド26が配置されているドアインナパネル16の内面部分が車室2内に臨む状態となるよう、例えば同部分だけトリム部分が無い状態にしてあり、車両の側面衝突時、リヤドア13から加わる衝撃荷重が、インパクトバー部材19、インパクトバー部材19端とドアインナパネル16間の空隙を占めるドアバルクヘッド26を通じて、露出した内面部分13a(クロスパイプ部材25端と向き合う内面部分)へ伝わる構造にしてある。
【0024】
このリヤドア13に対して車体1側には、つぎのような構造が用いられている。すなわち、シートクッション21内部を挿通するクロスパイプ部材25には、図1〜図6に示されるように例えば車体両側の各ドア開口部4の近傍まで車幅方向に延びたパイプ部材が用いられている。そのため、パイプ部材の各端部がシートクッション21の内部から側方に、若干、突き出ている。このクロスパイプ部材25の各端面は、車体1に設けた衝撃吸収部材、例えば車体バルクヘッド29で覆ってある。具体的には車体バルクヘッド29は、図6に示されるようにシートクッション21の側部と隣り合うサイドシル8部分のうち、例えばサイドシルアウタパネル8aの上部に、衝撃荷重の吸収に適した構造部、例えばサイドシル8と連続する扁平箱部30を形成して構成される。このドア開口部4内に突き出る車体バルクヘッド29がクロスパイプ部材25端と車幅方向で重なり合うように配置してある。この車体バルクヘッド29は、閉じた状態のリヤドア13の内面部分13aとクロスパイプ部材25端との間の空隙を占める大きさに定められていて、リヤドア13を閉じると、車体バルクヘッド29が、内面部分13aと重なり合うようにしている。つまり、クロスパイプ部材25端は、閉じた両側の各リヤドア13の内面部分13aと向き合う構造にしてある。これにより、車両の側面衝突時にリヤドア13から加わる衝撃は、インパクトバー部材18,19やドアパネル部17を経て、ドア開口部4を囲む骨格部材で受ける他に、リヤドア13の内面部分13aや車体バルクヘッド29を通じて、クロスパイプ部材25で受けるようにしてある。クロスパイプ部材25は、車体1に支持されている。ここでは、図1〜図3および図6に示されるようにシートクッション21内部を挿通しているクロスパイプ部材25の両端部は、扁平箱部30の側面に取着された支持プレート32で支えられ、中央部は、リヤフロアパネル6の上面に取着された支持プレート33で支えられている。図3に示されるように、シートクッション21を取り外した状態において、クロスパイプ部材25は、車体1側に固定された状態で残るよう構成されている。シートクッション21の下部には、クロスパイプ部材25に対応して切り欠き21aが形成されており、シートクッション21を取り付けた状態では、クロスパイプ部材25が切り欠き21aから収容されてシートクッション21内部に配置された状態(図1、図2参照)となる。
【0025】
なお、ここでは、シートクッション21とクロスパイプ部材25とを別体で構成し、シートクッション21側の形状等をクロスパイプ部材25に合わせて対応させているが、クロスパイプ部材25をシートクッション21内部に内蔵させた構造であってもよい。
このように構成された衝突対策構造において、例えば自動車の走行中、車体前部が衝突するという前面衝突が生じ、図5に示されるように車両前部に矢印F1で示すような衝撃荷重が加わったとする。すると、リヤシート20に着座していた乗員αは、衝突の慣性で、矢印aのように車両前方へ移動しようとする。
【0026】
このとき、シートクッション21に着座した乗員αの大腿部γ直下には、クロスパイプ部材25が配置されているから、図5に示されるようにクロスパイプ部材25により、乗員αの臀部βの動きが規制される。これにより、着座していた乗員αの車両前方への移動は抑制され、乗員αの安全性が確保できる。
また例えばリヤドア13に他の車両の前部が衝突するという側面衝突が生じ、図6に示されるようにリヤドア13の側方から矢印F2で示す横方向の衝撃荷重が加わったとする。
【0027】
このとき、シートクッション21内部のクロスパイプ部材25端は、閉じたリヤドア14の内面部分13aと向き合っていて、衝撃荷重F2を受ける体制が整っている。
これにより、クロスパイプ部材25は、衝撃荷重F2を受ける。すると、衝撃荷重F2によって車室2内へ侵入しようとするリヤドア13は、ドア開口部3,4を囲む骨格部材で受けるだけでなく、シートクッション21内部に配置されているクロスパイプ部材25で受けるので、そのリヤドア13の侵入は抑えられ、乗員αの安全性が確保できる。
【0028】
それ故、シートクッション21内部のクロスパイプ部材25は、前面衝突時、着座した乗員αが車両前方へ移動するのを抑えるだけでなく、側面衝突時、衝突荷重F2を受けてリヤドア13が車室2内に侵入するのを抑えるという、二つの機能を果たす。特にクロスパイプ部材25は、シートクッション21に着座した乗員αの近くに配置されるから、リヤドア13が乗員αに接近するのを防ぐには有効であるうえ、シートクッション21の内部を通るため、車室2内の居住性を妨げずにすむ。また、側面衝突時、リヤドア13とともにセンタピラー10も車室2内へ侵入しようとするが、リヤドア13の車室2内への侵入を抑えることで、センタピラー10の侵入も抑えることができる。
【0029】
したがって、前面衝突の対策で用いるクロスパイプ部材25を流用して、側面衝突に対する対策を講じることができる。つまり、車両の前面衝突対策の構造をそのまま側面衝突対策の構造部材として兼用できる。この結果、部材の共通化により、側面衝突の対策は、部品点数や組立工数が抑えられ、衝突対策に費やすコストや重量を低減できる。
またリヤドア13に内蔵の補強部材とクロスパイプ部材25の端部とを対向させると、補強部材でも衝撃を受けるので、効果的にリヤドア13の車室2内への侵入を抑えることができる。特に補強部材として、側面衝突時の衝撃を受けるのに適したインパクトバー部材19を用い、インパクトバー部材19をクロスパイプ部材25の端部と対向するように配置させた構成とすれば、一層、効果的にリヤドア13の車室2内への侵入を防ぐことができる。
【0030】
そのうえ、ドア開口部4の近傍に配置されたクロスパイプ部材25端と、閉じたリヤドア13の補強部材であるインパクトバー部材19との間の空隙を、衝撃吸収部材であるドアバルクヘッド26、車体バルクヘッド29で占めて、加わる衝撃荷重F2を、これら両バルクヘッド26,29で緩和してからクロスパイプ部材25に伝達させると、クロスパイプ部材25を十分に活用して、リヤドア13の車室2内への侵入を抑えることができる。
【0031】
またクロスパイプ部材25は、両側の端部を、車体両側の閉じた状態のリヤドア13の内面に向き合せると、車両の両側のいずれの側の側面衝突に対しても、クロスパイプ部材25でリヤドア13から加わる衝撃荷重F2を受けることができる。しかも、一方側のリヤドア13からの衝撃荷重F2をクロスパイプ部材25を介して他方側の扁平箱部30に伝達することで衝撃荷重を効率良く吸収できる構造となるから、当該リヤドア13が車室2内へ侵入するのをより確実に抑えることができ、一つのクロスパイプ部材25を用いるという簡単な構造で、車両の両側からの側面衝突に対して一層効果的に対処できる。
【0032】
特にクロスパイプ部材25が挿通するシートクッション21には、ベンチシートタイプを用いると、一つのクロスパイプ部材25で、同シートクッション21に着座した多くの乗員αを前面衝突や側面衝突の双方から保護することができる。
図7および図8は、本発明の第2の実施形態を示す。
【0033】
本実施形態は、第1の実施形態のようなドア開口部4の近傍に配置されるクロスパイプ部材25端と、閉じたリヤドア13のインパクトバー部材19間の空隙を、リヤドア13に設けたバルクヘッド26、車体2側(サイドシル8)に設けたバルクヘッド29で占める構造でなく、リヤドア13に設けたバルクヘッド35,36(いずれも本願の衝撃吸収部材に相当)だけで、クロスパイプ部材25端と、閉じたリヤドア13のインパクトバー部材19間の空隙を占めるようにしたものである。
【0034】
具体的には、図7および図8に示されるようにクロスパイプ部材25は、シートクッション21の側面に端部(ドア開口部4の近傍)を配置させて、リヤフロアパネル6に設けた支持プレート37で支えておく。リヤドア13のドアトリム27は、リヤ側の下部に膨出部38を形成し、リヤドア13を閉じると、同膨出部38の前面壁が、シートクッション21の側面部分と重なるようにしておく。そして、ドアインナパネル16の車室外側の側面に、インパクトバー部材19の端部を支持するバルクヘッド35を設けて、ドアインナパネル16とインパクトバー部材19端との間をバルクヘッド35で占めるようにし、ドアインナパネル16の車室内側の側面にバルクヘッド36を設けて、ドアインナパネル16と膨出部38の前面壁との間をバルクヘッド36で占めるようにして、リヤドア13を閉じたとき、クロスパイプ部材25、バルクヘッド36、バルクヘッド35、インパクトバー部材19が互いに重なるようにしたものである。
【0035】
このようにしても第1の実施形態と同様、前面衝突の対策で用いるクロスパイプ部材25を流用して、側面衝突に対する対策を講じることができる。
むろん、第1の実施形態の側面衝突対策構造や第2の実施形態の側面衝突対策構造は、第1の実施形態の図1〜図3や第2の実施形態の図7に示されるようなフロントフロアパネル5から立ち上がる壁部6aを有するリヤフロアパネル6を採用して、リヤシート20に着座する乗員αの足元スペースを確保する構造に限らず、図9に示す第3の実施形態や図10に示す第4の実施形態のようにフロントフロアパネル5と連続して横方向に延びるリヤフロアパネルを採用し、フロントフロアパネル5に凹部5aを形成することで、リヤシート20に着座する乗員αの足元スペースを確保した車両に本発明を適用してもよい。
【0036】
また図11に示す第5の実施形態のように、第1、第3の実施形態で示した車体バルクヘッド29をサイドシル8のサイドシルインナパネル8bに設けて、クロスパイプ部材25端と、閉じたリヤドア13の内面部分13a間を車体バルクヘッド29で占めるようにしてもよく、2つのバルクヘッドの設置の仕方には限定されるものではない。
但し、第2〜第5の実施形態において、第1の実施形態と同じ部分には同一符号を付してその説明を省略した。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば上述した実施形態では、本発明の側面衝突対策構造をベンチシートタイプのリヤシートに適用した例を挙げたが、ベンチシートタイプでなくてもよいし、フロントシートに本発明を適用しても構わない。また乗員移動抑制部材も、クロスパイプ部材でなく、他の部材を用いてもよい。むろん、車両も、4ドアでなく、それ以外形式のドアを有する車両に本発明を適用してもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1 車体
2 車室
4 ドア開口部(開口部)
13 リヤドア(ドア)
19 インパクトバー部材(補強部材)
20 リヤシート(シート装置)
21 リヤシートクッション(シートクッション)
25 クロスパイプ部材(乗員移動抑制部材)
26,29 ドアバルクヘッド、車体バルクヘッド(衝撃吸収部材)
α 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に形成される開口部を開閉するドアと、
前記開口部に隣接して車室内に設置されるシート装置と、
前記シート装置のシートクッションの内部で乗員が着座した状態における乗員の臀部前方の大腿部近傍に位置するように配置されて、車両の前面衝突時に前記シートクッションに着座した乗員の前方への移動を抑える乗員移動抑制部材と、を備え、
前記乗員移動抑制部材は、車幅方向に沿って前記開口部近傍まで延設されて前記開口部側の端部が閉じた状態の前記ドアの内面と向き合うように形成され、車両の側面衝突時、前記ドアから加わる衝撃荷重を前記乗員移動抑制部材で受けるように構成された
ことを特徴とする車両の側面衝突対策構造。
【請求項2】
前記ドアは、同ドア内部に内蔵される補強部材を備え、
前記補強部材は、前記ドアが閉じた状態で前記乗員移動抑制部材のドア開口部側の端部と車幅方向で対向するように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の側面衝突対策構造。
【請求項3】
前記乗員移動抑制部材の前記開口部側の端部と閉じた前記ドアの補強部材との間の空隙は、衝撃吸収部材で占められ、前記補強部材に加わる衝撃荷重が前記衝撃吸収部材で緩和された後、前記衝撃吸収部材を通じて前記乗員移動抑制部材に伝達されることを特徴とする請求項2に記載の車両の側面衝突対策構造。
【請求項4】
前記補強部材は、車両前後方向に延設されて車両の側面衝突時の衝撃を受けるインパクトバー部材であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両の側面衝突対策構造。
【請求項5】
前記開口部およびドアは、前記車体の両側部にそれぞれ備えられ、
前記乗員移動抑制部材は、その車幅方向両端部が車幅方向に沿って前記車体両側部の前記各開口部近傍まで延設されて前記車体両側部の閉じた状態の前記各ドアの内面と向き合うように形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両の側面衝突対策構造。
【請求項6】
前記シートクッションは、ベンチシートタイプのリヤシートクッションであることを特徴とする請求項5に記載の車両の側面衝突対策構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−264948(P2010−264948A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119870(P2009−119870)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】