説明

車両の制御装置、制御方法、その方法を実現するプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】パーキングロック機構を備えた車両において、車両の停止状態を維持しつつパーキングロック機構によるパーキングロック頻度を向上させる。
【解決手段】ECUは、シフトポジションがPポジションに操作され(S102にてYES)、パーキングロック条件が成立すると(S104にてYES)、パーキングロック制御を実行するステップ(S106)と、パーキングロック制御前にファイナルギヤ機構が前進方向に回転していたか否かを判断するステップ(S108)と、前進方向に回転していたと判断されると(S108にてYES)、モータジェネレータを後進方向に回転させるステップ(S110)と、後進方向に回転していたと判断されると(S108にてNO)、モータジェネレータを前進方向に回転させるステップ(S112)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御に関し、特に、シフトポジションが駐車ポジションに操作された際に車軸をロックするパーキングロック機構を備えた車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車軸に接続された出力軸に取り付けられたパーキングギヤと、パーキングギヤとの噛み合いによりパーキングギヤの回転を停止状態でロックするパーキングポールとからなるパーキングロック機構を備える車両が公知である。このような車両では、運転者がシフトレバーを駐車(P)ポジションに操作すると、パーキングロック機構内のパーキングギヤとパーキングポールとを噛み合わせて車軸をロックする。たとえば、登坂路で運転者がシフトレバーを駐車ポジションに操作した場合、パーキングロック機構のギヤが噛み合っているときには、その後ブレーキペダルを離しても車両はその状態で停止している。一方、パーキングロック機構のギヤが噛み合っていないときには、その後ブレーキペダルを離すと、車重により車両はパーキングロック機構のギヤが噛み合うまで移動する。このとき、運転者に予期しない移動感(空走感)とショックを与えてしまう。これらの問題を解決する技術が、たとえば特開2006−81264号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
この公報に開示された自動車は、第1の車軸または第2の車軸に駆動力を出力可能な電動機と、ギヤの噛み合いにより前第1の車軸が回転しないよう固定するための固定手段と、路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力より小さく車重分力を打ち消す方向の調整駆動力を設定するための手段と、シフトレバーが駐車ポジションに操作された後にブレーキペダルの踏み込み量が所定踏み込み量未満になったとき、設定された調整駆動力の電動機からの出力と車両の車重分力の方向への移動とを伴って固定手段による固定が行なわれるように電動機と固定手段とを制御するための手段とを含む。
【0004】
この公報に開示された自動車によると、シフトレバーが駐車ポジションに操作された後にブレーキペダルの踏み込み量が所定踏み込み量未満になったときには、路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力より小さくその車重分力を打ち消す方向の調整駆動力の電動機からの出力と車両の車重分力の方向への移動とを伴って第1の車軸を回転しないように固定する固定手段による固定が行なわれるよう電動機と固定手段とを制御する。すなわち、路面勾配に基づく調整駆動力を電動機から出力することにより、車両の前後方向に作用する力を低減し車両の車重分力の方向への移動速度を小さくする。この結果、固定手段のギヤの噛み合いによる固定を緩やかに行なうことができ、ギヤの噛み合いによるショックを低減することができる。また、車両の移動速度を小さくすることにより運転者に与える空走感を低減することができる。
【特許文献1】特開2006−81264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された自動車において、パーキングロック機構のギヤを噛み合わせるためには、車両を移動させる必要がある。そのため、パーキングロック時の車両移動による運転者に与える空走感やショックは、完全には抑制されていなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の停止状態を維持しつつパーキングロック機構のギヤを噛み合わせることができる制御装置、制御方法、その方法を実現するプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る制御装置は、回転電機と駆動輪との間に設けられたギヤ機構と、回転電機の出力をギヤ機構に伝達する回転軸に接続され、回転軸により回転する第1のギヤと、第1のギヤとの噛み合いにより回転軸が回転しないように固定する第2のギヤとを備えた車両を制御する。この制御装置は、車両の運転者により操作されるシフトポジションを検出するための手段と、シフトポジションが駐車ポジションに操作された場合に、第1のギヤと噛み合い可能な方向に第2のギヤを作動するための手段と、第2のギヤの作動前におけるギヤ機構の回転方向に基づいて、回転電機の回転方向を設定するための設定手段と、第2のギヤの作動後に、設定された回転方向に回転するように、回転電機を制御するための手段とを含む。第5の発明に係る制御方法は、第1の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0008】
第1または5の発明によると、シフトポジションが駐車ポジションに操作されると、第1のギヤおよび第2のギヤ(以下、第1のギヤと第2のギヤとを合わせてパーキングロック機構とも記載する)を噛み合わせて駆動輪が回転しないように、第1のギヤに噛み合い可能な方向に第2のギヤが作動される。この第2のギヤの作動後において、第2のギヤと第1のギヤとの相対的な位置関係によっては、第1のギヤと第2のギヤとが噛み合わない場合がある。第1のギヤと第2のギヤとが噛み合っていない場合において、第1のギヤと第2のギヤとを噛み合わせるために、回転電機により回転軸および第1のギヤを回転させると、回転電機の回転方向によっては、回転軸の回転がギヤ機構を経由して駆動輪に伝達され、車両が移動してしまう場合が考えられる。そこで、第2のギヤの作動前におけるギヤ機構の回転方向に基づいて、回転電機の回転方向が設定される。第2のギヤの作動後に、設定された回転方向に回転するように、回転電機が制御される。たとえば、ギヤ機構の回転方向と反対の方向に回転電機が回転される。これにより、ギヤ機構内の遊びが存在する方向に回転電機が回転されるので、回転軸の回転をギヤ機構内の遊びで吸収しつつ、第1のギヤと第2のギヤとを噛み合わせることができる。これにより、車両の停止状態を維持しつつパーキングロック機構のギヤを噛み合わせることができる制御装置および制御方法を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、設定手段は、ギヤ機構の回転方向が前進方向であると、回転電機の回転方向を後進方向に設定し、ギヤ機構の回転方向が後進方向であると、回転電機の回転方向を前進方向に設定するための手段を含む。第6の発明に係る制御方法は、第2の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0010】
第2または6の発明によると、ギヤ機構の回転方向が前進方向であると、ギヤ機構内の遊びは後進方向に存在し、ギヤ機構の回転方向が後進方向であると、ギヤ機構内の遊びは前進方向に存在すると考えられる。そこで、ギヤ機構の回転方向が前進方向であると、回転電機の回転方向が後進方向に設定され、ギヤ機構の回転方向が後進方向であると、回転電機の回転方向が前進方向に設定される。これにより、ギヤ機構内の遊びが存在する前進方向および後進方向のいずれかの方向に、回転電機を回転させることができる。
【0011】
第3の発明に係る制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、設定手段は、駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが前進ポジションである場合に、ギヤ機構の回転方向が前進方向であると判断して、回転電機の回転方向を後進方向に設定し、駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが後進ポジションである場合に、ギヤ機構の回転方向が後進方向であると判断して、回転電機の回転方向を前進方向に設定するための手段を含む。第7の発明に係る制御方法は、第3の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0012】
第3または7の発明によると、駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションに基づいて、ギヤ機構の回転方向が判断される。そのため、ギヤ機構の回転方向を判断する専用のセンサ等を設けることなく、ギヤ機構の回転方向を適切に判断することができる。
【0013】
第4の発明に係る制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、制御装置は、回転電機の回転方向を検出するための手段をさらに含む。設定手段は、駐車ポジションに操作される直前の回転電機の回転方向が前進方向である場合に、ギヤ機構の回転方向が前進方向であると判断して、回転電機の回転方向を後進方向に設定し、駐車ポジションに操作される直前の回転電機の回転方向が後進方向である場合に、ギヤ機構の回転方向が後進方向であると判断して、回転電機の回転方向を前進方向に設定するための手段を含む。第8の発明に係る制御方法は、第4の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0014】
第4または8の発明によると、駐車ポジションに操作される直前の回転電機の回転方向に基づいて、ギヤ機構の回転方向が判断される。そのため、駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションに関わらず、ギヤ機構の回転方向を的確に判断するこができる。
【0015】
第9の発明に係るプログラムは、第5〜8のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実行させる。第10の発明に係る記録媒体は、第5〜8のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録する。
【0016】
第9または10の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第5〜8のいずれかの発明に係る制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0018】
図1を参照して、本実施の形態に係る制御装置を備えたハイブリッド車両全体の制御ブロック図を説明する。なお、本発明に係る制御装置を適用できる車両は、図1に示すハイブリッド車両に限定されず、他の態様を有するハイブリッド車両であってもよい。また、ハイブリッド車両ではなく、たとえば、エンジンからの駆動力により走行する車両や、モータからの駆動力により走行する電気自動車であってもよい。
【0019】
ハイブリッド車両は、エンジン120と、モータジェネレータ140A(MG(2)140A)と、モータジェネレータ140B(MG(1)140B)とを含む。なお、以下においては、説明の便宜上、MG(2)140AとMG(1)140Bとを区別することなく説明する場合には、モータジェネレータ140とも記載する。
【0020】
モータジェネレータ140は、ハイブリッド車両の走行状態に応じて、ジェネレータとして機能したりモータとして機能したりする。モータジェネレータ140の回転軸は、ドライブシャフト170を経由して、駆動輪180に駆動力を伝達する。車両は、モータジェネレータ140からの駆動力により走行する。モータジェネレータ140がジェネレータとして機能する場合に回生制動が行なわれる。モータジェネレータ140がジェネレータとして機能するときには、車両の運動エネルギが電気エネルギに変換されて、車両が減速される。
【0021】
ハイブリッド車両は、この他に、エンジン120やモータジェネレータ140で発生した動力を駆動輪180に伝達したり、駆動輪180の駆動をエンジン120やモータジェネレータ140に伝達したりする減速機160と、入力軸210がエンジン120のクランクシャフトに接続され、エンジン120の発生する動力を駆動輪180とMG(1)140Bとの2経路に分配する動力分割機構200と、モータジェネレータ140を駆動するための電力を蓄電するバッテリ150と、バッテリ150の直流とMG(2)140AおよびMG(1)140Bの交流とを変換しながら電流制御を行なうインバータ154と、ハイブリッド車両が最も効率よく運行できるようにハイブリッドシステム全体を制御するECU500等を含む。
【0022】
インバータ154は、ECU500からの制御信号に基づいて、モータジェネレータ140をモータまたはジェネレータとして機能させる。インバータ154は、モータジェネレータ140をモータとして機能させる場合、バッテリ150から供給された直流電力を交流電力に変換し、モータジェネレータ140に供給する。インバータ154は、モータジェネレータ140に供給する電力を制御することにより、モータジェネレータ140がECU500からの制御信号で要求される回転数および回転方向になるように制御する。
【0023】
さらに、バッテリ150とインバータ154との間には、昇圧コンバータ152が設けられている。これは、バッテリ150の定格電圧が、MG(2)140AやMG(1)140Bの定格電圧よりも低いので、バッテリ150からMG(2)140AやMG(1)140Bに電力を供給するときには、昇圧コンバータ152で電力を昇圧する。なお、MG(2)140AやMG(1)140Bで発電した電力をバッテリ150に充電する場合には、昇圧コンバータで電力を降圧する。
【0024】
ハイブリッド車両は、さらに、MG(2)140Aと減速機160との間に、ギヤ機構300を含む。
【0025】
ギヤ機構300は、動力分割機構200の出力軸220に設けられたギヤ222と噛み合うギヤ302と、ギヤ302に接続された回転軸304と、パーキングロック機構310と、回転軸304に接続され、減速機160に設けられたギヤ162と噛み合うファイナルギヤ322とを含む。なお、以下の説明においては、ファイナルギヤ322、ギヤ162および減速機160とを合わせて、ファイナルギヤ機構330とも記載する。
【0026】
パーキングロック機構310は、回転軸304の端部に接続されたパーキングギヤ312と、パーキングギヤ312と噛み合って、パーキングギヤ312および回転軸304をロックするパーキングロックポール314とを含む。
【0027】
パーキングロックポール314は、アクチュエータ320により作動される。シフトポジションがPポジション以外であると、パーキングギヤ312とパーキングロックポール314との噛み合いが解除されるように、パーキングロックポール314は、パーキングギヤ312から離れた状態に保持される。
【0028】
シフトポジションがPポジションに操作され、かつ所定のパーキングロック条件が成立すると、EUC500からの制御信号によりアクチュエータ320が駆動され、パーキングロックポール314をパーキングギヤ312に噛み合う方向に作動させる制御(パーキングロック制御)が実行される。
【0029】
パーキングギヤ312とパーキングロックポール314との噛み合い(以下、パーキングロック機構310によるパーキングロックとも記載する)により、回転軸304がロックされる。回転軸304に接続されたファイナルギヤ322は、ギヤ162、減速機160、ドライブシャフト170を経由して、機械的に駆動輪180に接続されているので、パーキングロック機構310は間接的に駆動輪180をロックしていることになる。
【0030】
ECU500には、レゾルバ回路142A,142Bと、シフトポジションセンサ504と、アクセルペダル506のアクセル開度センサ508と、エンジン回転数センサ510と、車速センサ512とがハーネスなどを介して接続されている。
【0031】
レゾルバ回路142Aは、MG(2)140Aの回転数および回転方向を検出し、検出結果を表わす信号をECU500に送信する。
【0032】
レゾルバ回路142Bは、MG(1)140Bの回転数および回転方向を検出し、検出結果を表わす信号をECU500に送信する。
【0033】
シフトレバー502の位置(シフトポジション)は、シフトポジションセンサ504により検出され、検出結果を表わす信号がECU500に送信される。
【0034】
アクセル開度センサ508は、アクセルペダル506の開度を検出し、検出結果を表わす信号をECU500に送信する。
【0035】
エンジン回転数センサ510は、エンジン120の出力軸であるクランクシャフトの回転数(エンジン回転数NE)を検出し、検出結果を表わす信号をECU500に送信する。
【0036】
車速センサ512は、ドライブシャフト170の回転数を車速として検出し、検出結果を表わす信号をECU500に送信する。
【0037】
ECU500は、レゾルバ回路142A,142B、シフトレバー502のシフトポジションセンサ504、アクセル開度センサ508、エンジン回転数センサ510、および車速センサ512などから送られてきた信号、ROM(Read Only Memory)に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0038】
図2を参照して、動力分割機構200についてさらに説明する。動力分割機構200は、サンギヤ(S)202と(以下、単にサンギヤ202と記載する)、ピニオンギヤ204と、キャリア(C)206(以下、単にキャリア206と記載する)と、リングギヤ(R)208(以下、単にリングギヤ208と記載する)とを含む遊星歯車から構成される。
【0039】
ピニオンギヤ204は、サンギヤ202およびリングギヤ208と係合する。キャリア206は、ピニオンギヤ204が自転可能であるように支持する。サンギヤ202はMG(1)140Bの回転軸に連結される。キャリア206はエンジン120のクランクシャフトに連結される。リングギヤ208は出力軸220に連結される。
【0040】
エンジン120、MG(1)140BおよびMG(2)140Aが、遊星歯車からなる動力分割機構200を介して連結されることで、エンジン120、MG(1)140BおよびMG(2)140Aの回転数は、たとえば、図3に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる(図3は定常運転時の一例である)。
【0041】
以上のようなハイブリッド車両において、たとえば、シフトポジションがPポジションである場合において、エンジン120を始動する際には、出力軸220に生じる反力をMG(2)140Aで受け止めながら、MG(1)140Bをモータとして機能させてエンジン120をクランキングする。
【0042】
具体的には、図4に示すように、MG(2)140Aによりリングギヤ208に固定トルク(反力トルク)を発生させておいて、MG(1)140Bによりサンギヤ202に正トルクを発生させる。これにより、キャリア206を経由してエンジン回転数NEが上昇させられて、エンジン120がクランキングされる。
【0043】
このようなクランキング時において、MG(2)140Aに発生させる固定トルクの大きさおよびタイミングによっては、MG(1)140Bの回転による反力を受け止めることができず、出力軸220が回転してしまい、ハイブリッド車両が運転者の意図に反して移動してしまう場合がある。このような移動を抑制するために、シフトポジションがPポジションである場合において、パーキングロック機構310によるパーキングロックを確実に行ない、リングギヤ208を機械的に固定することが望ましい。そのため、パーキングロック機構310によるパーキングロック頻度を向上させる必要がある。
【0044】
しかし、パーキングロック制御後において、MG(2)140Aを回転させてパーキングロックポール314とパーキングギヤ312とを噛み合わせようとすると、MG(2)140Aの回転方向によっては、MG(2)140Aの回転により、車両が移動してしまう場合が考えられる。
【0045】
そこで、本実施の形態に係る制御装置は、MG(2)140Aと駆動輪180との間に設けられたファイナルギヤ機構330の回転方向に基づいて、パーキングロック制御後のMG(2)140Aの回転方向を設定し、設定された回転方向にMG(2)140Aを回転させる制御信号を、インバータ154に送信する。
【0046】
図5を参照して、本実施の形態に係る制御装置の機能ブロック図について説明する。図5に示すように、この制御装置は、車両状態モニタ部550と、パーキングロック制御部560と、回転方向設定部570とを含む。
【0047】
車両状態モニタ部550は、シフトポジションセンサ504から送信されるシフトポジション、車速センサ512から送信される車速、レゾルバ回路142A,142Bから送信されるMG(1)140BおよびMG(2)140Aの回転方向などを、車両状態としてモニタする。
【0048】
パーキングロック制御部560は、車両状態モニタ部550からの情報に基づいて、アクチュエータ320に制御信号を送信することにより、パーキングロック制御を実行する。
【0049】
回転方向設定部570は、車両状態モニタ部550からの情報およびパーキングロック制御部560からの情報に基づいて、MG(2)140Aの回転方向を設定し、設定された回転方向にMG(2)140Aが回転するように、インバータ154に制御信号を送信する。
【0050】
このような機能ブロックを有する本実施の形態に係る制御装置は、デジタル回路やアナログ回路の構成を主体としたハードウェアでも、ECUに含まれるCPU(Central Processing Unit)およびメモリとメモリから読み出されてCPUで実行されるプログラムとを主体としたソフトウェアでも実現することが可能である。一般的に、ハードウェアで実現した場合には動作速度の点で有利で、ソフトウェアで実現した場合には設計変更の点で有利であると言われている。以下においては、ソフトウェアとして制御装置を実現した場合を説明する。なお、このようなプログラムを記録した記録媒体についても本発明の一態様である。
【0051】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU500が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、このプログラムは、予め定められたサイクルタイムで繰返し実行される。
【0052】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ECU500は、シフトポジションセンサ504から送信されるシフトポジション、車速センサ512から送信される車速およびレゾルバ回路142Aから送信されるMG(2)140Aの回転方向のモニタを開始する。
【0053】
S102にて、ECU500は、シフトポジションがPポジションに操作されたか否かを判断する。シフトポジションがPポジションに操作されたと判断されると(S102にてYES)、処理はS104に移される。そうでないと(S102にてNO)、処理はS100に戻される。
【0054】
S104にて、ECU500は、パーキングロック条件が成立したか否かを判断する。ECU500は、たとえば、車速が略零で車両が停車している場合に、パーキングロック条件が成立したと判断する。なお、パーキングロック条件が成立したか否かの判断方法は、これに限定されない。パーキングロック条件が成立すると(S104にてYES)、処理はS106に移される。そうでないと(S104にてNO)、この処理は終了する。
【0055】
S106にて、ECU500は、パーキングロック制御を実行する。ECU500は、パーキングロックポール314をパーキングギヤ312に噛み合う方向に作動させる制御信号をアクチュエータ320に送信する。
【0056】
S108にて、ECU500は、シフトポジションおよびMG(2)140Aの回転方向の少なくともいずれかに基づいて、パーキングロック制御前にファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたか否かを判断する。ECU500は、たとえば、Pポジションに操作される直前のシフトポジションがDポジションである場合に、ファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたと判断する。なお、ECU500は、たとえば、Pポジションに操作される直前のMG(2)140Aの回転方向が前進方向である場合に、ファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたと判断するようにしてもよい。ファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたと判断されると(S108にてYES)、処理はS110に移される。そうでないと(S108にてNO)、処理はS112に移される。
【0057】
S110にて、ECU500は、MG(2)140Aを後進方向に回転させるようにインバータ154に制御信号を送信する。なお、ECU500は、ギヤ機構300を回転させることができ、かつ車両を駆動させることのない小さなトルクでMG(2)140Aを回転させる制御信号を、インバータ154に送信するようにしてもよい。
【0058】
S112にて、ECU500は、MG(2)140Aを前進方向に回転させるようにインバータ154に制御信号を送信する。なお、ECU500は、上述のS110と同様に、ギヤ機構300を回転させることができ、かつ車両を駆動させることのない小さなトルクでMG(2)140Aを回転させる制御信号を、インバータ154に送信するようにしてもよい。
【0059】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係るECU500により制御されるパーキングロック機構310およびファイナルギヤ機構330の動作について、図7乃至図10を参照して説明する。図7乃至図10は、パーキング機構310およびファイナルギヤ機構330を、図1に示す矢印Aの方向から見た図である。
【0060】
シフトポジションがPポジションに操作され(S102にてYES)、パーキングロック条件が成立し(S104にてYES)、パーキングロック制御が実行されて(S106)、パーキングロックポール314がパーキングギヤ312の方向に作動される。この際、パーキングポール314がパーキングギヤ312と噛み合わない場合がある。
【0061】
図7は、ファイナルギヤ機構330(ファイナルギヤ332)が後進方向に回転していた場合において、その後パーキングロック制御が実行されたにも関わらず、パーキングポール314がパーキングギヤ312と噛み合っていない状態を示している。このような状態においては、図7に示すように、ファイナルギヤ332をギヤ162に後進方向に押し当てた状態となっており、ファイナルギヤ332とギヤ162との遊びが、前進方向に存在する。
【0062】
そこで、パーキングロック制御前にファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたか否かが判断される(S108)。たとえば、Pポジションに操作される直前のシフトポジションがRポジションであると、ファイナルギヤ機構330が後進方向に回転していたと判断され(S108にてNO)、MG(2)140Aが前進方向に回転される(S112)。
【0063】
これにより、図8に示すように、パーキングギヤ312が前進方向に遊び分だけ回転し、噛み合っていなかったパーキングポール314とパーキングギヤ312とが噛み合い、パーキング機構310によるパーキングロックが行なわれる。このとき、ファイナルギヤ332も前進方向に回転するが、ファイナルギヤ332の回転はファイナルギヤ332とギヤ162との遊び分で吸収されるため、図8に示すように、ギヤ162は回転しない。これにより、車両の停止状態を維持しつつ、パーキング機構310によるパーキングロック頻度を向上させることができる。
【0064】
図9は、ファイナルギヤ機構330(ファイナルギヤ332)が前進方向に回転していた場合において、その後パーキングロック制御が実行されたにも関わらず、パーキングポール314がパーキングギヤ312と噛み合っていない状態を示している。このような状態においては、図9に示すように、ファイナルギヤ332をギヤ162に前進方向に押し当てた状態となっており、ファイナルギヤ332とギヤ162との遊びが、後進方向に存在する。
【0065】
そこで、パーキングロック制御前にファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたか否かが判断される(S108)。たとえば、Pポジションに操作される直前のシフトポジションがDポジションであると、ファイナルギヤ機構330が前進方向に回転していたと判断され(S108にてYES)、MG(2)140Aが後進方向に回転される(S110)。
【0066】
これにより、図10に示すように、パーキングギヤ312が後進方向に遊び分だけ回転し、噛み合っていなかったパーキングポール314とパーキングギヤ312とが噛み合い、パーキング機構310によるパーキングロックが行なわれる。このとき、ファイナルギヤ332も後進方向に回転するが、ファイナルギヤ332の回転はファイナルギヤ332とギヤ162との遊び分で吸収されるため、図10に示すように、ギヤ162は回転しない。これにより、車両の停止状態を維持しつつ、パーキング機構310によるパーキングロック頻度を向上させることができる。
【0067】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置によれば、パーキングロック制御後において、パーキング制御実行前のファイナルギヤ機構の回転方向に基づいて、MG(2)の回転方向が設定される。設定された回転方向にMG(2)が回転される。これにより、ファイナルギヤ機構内の遊びが存在する方向にMG(2)を回転させることができる。そのため、MG(2)による回転軸の回転をギヤ機構内の遊びで吸収しつつ、パーキング機構内のギヤを噛み合わせることができる。これにより、車両の停止状態を維持しつつ、パーキング機構によるパーキングロック頻度を向上させることができる。
【0068】
なお、本実施の形態においては、ファイナルギヤ機構330内のギヤの遊びとして、ファイナルギヤ332とギヤ162との噛み合い部における遊びについて説明した(図7乃至図10参照)が、ファイナルギヤ機構330内のギヤの遊びはこれに限定されない。たとえば、ファイナルギヤ機構330の一部を構成する減速機160内のギヤの遊びであってもよい。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載される車両の構造を示す図である。
【図2】図1の動力分割機構を示す図である。
【図3】エンジン、MG(1)およびMG(2)の回転数の関係を示す共線図(その1)である。
【図4】エンジン、MG(1)およびMG(2)の回転数の関係を示す共線図(その2)である。
【図5】本発明の実施の形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る制御装置であるECUの制御構造を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に係る制御装置で制御されるパーキングロック機構の動作を示す図(その1)である。
【図8】本発明の実施の形態に係る制御装置で制御されるパーキングロック機構の動作を示す図(その2)である。
【図9】本発明の実施の形態に係る制御装置で制御されるパーキングロック機構の動作を示す図(その3)である。
【図10】本発明の実施の形態に係る制御装置で制御されるパーキングロック機構の動作を示す図(その4)である。
【符号の説明】
【0071】
120 エンジン、140 モータジェネレータ、140A MG(2)、140B MG(1)、142A,142B レゾルバ回路、150 バッテリ、152 昇圧コンバータ、154 インバータ、160 減速機、162,222,302 ギヤ、170 ドライブシャフト、180 駆動輪、200 動力分割機構、202 サンギヤ、204 ピニオンギヤ、206 キャリア、208 リングギヤ、210 入力軸、220 出力軸、300 ギヤ機構、304 回転軸、310 パーキングロック機構、312 パーキングギヤ、314 パーキングロックポール、320 アクチュエータ、330 ファイナルギヤ機構、332 ファイナルギヤ、500 ECU、502 シフトレバー、504 シフトポジションセンサ、506 アクセルペダル、508 アクセル開度センサ、510 エンジン回転数センサ、512 車速センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と駆動輪との間に設けられたギヤ機構と、前記回転電機の出力を前記ギヤ機構に伝達する回転軸に接続され、前記回転軸により回転する第1のギヤと、前記第1のギヤとの噛み合いにより前記回転軸が回転しないように固定する第2のギヤとを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の運転者により操作されるシフトポジションを検出するための手段と、
前記シフトポジションが駐車ポジションに操作された場合に、前記第1のギヤと噛み合い可能な方向に前記第2のギヤを作動するための手段と、
前記第2のギヤの作動前における前記ギヤ機構の回転方向に基づいて、前記回転電機の回転方向を設定するための設定手段と、
前記第2のギヤの作動後に、前記設定された回転方向に回転するように、前記回転電機を制御するための手段とを含む、制御装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記ギヤ機構の回転方向が前進方向であると、前記回転電機の回転方向を後進方向に設定し、前記ギヤ機構の回転方向が後進方向であると、前記回転電機の回転方向を前進方向に設定するための手段を含む、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが前進ポジションである場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記前進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記後進方向に設定し、前記駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが後進ポジションである場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記後進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記前進方向に設定するための手段を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記回転電機の回転方向を検出するための手段をさらに含み、
前記設定手段は、前記駐車ポジションに操作される直前の前記回転電機の回転方向が前記前進方向である場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記前進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記後進方向に設定し、前記駐車ポジションに操作される直前の前記回転電機の回転方向が前記後進方向である場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記後進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記前進方向に設定するための手段を含む、請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
回転電機と駆動輪との間に設けられたギヤ機構と、前記回転電機の出力を前記ギヤ機構に伝達する回転軸に接続され、前記回転軸により回転する第1のギヤと、前記第1のギヤとの噛み合いにより前記回転軸が回転しないように固定する第2のギヤとを備えた車両の制御方法であって、
前記車両の運転者により操作されるシフトポジションを検出するステップと、
前記シフトポジションが駐車ポジションに操作された場合に、前記第1のギヤと噛み合い可能な方向に前記第2のギヤを作動するステップと、
前記第2のギヤの作動前における前記ギヤ機構の回転方向に基づいて、前記回転電機の回転方向を設定する設定ステップと、
前記第2のギヤの作動後に、前記設定された回転方向に回転するように、前記回転電機を制御するステップとを含む、制御方法。
【請求項6】
前記設定ステップは、前記ギヤ機構の回転方向が前進方向であると、前記回転電機の回転方向を後進方向に設定し、前記ギヤ機構の回転方向が後進方向であると、前記回転電機の回転方向を前進方向に設定するステップを含む、請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記設定ステップは、前記駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが前進ポジションである場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記前進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記後進方向に設定し、前記駐車ポジションに操作される直前のシフトポジションが後進ポジションである場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記後進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記前進方向に設定するステップを含む、請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記制御方法は、前記回転電機の回転方向を検出するステップをさらに含み、
前記設定ステップは、前記駐車ポジションに操作される直前の前記回転電機の回転方向が前記前進方向である場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記前進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記後進方向に設定し、前記駐車ポジションに操作される直前の前記回転電機の回転方向が前記後進方向である場合に、前記ギヤ機構の回転方向が前記後進方向であると判断して、前記回転電機の回転方向を前記前進方向に設定するステップを含む、請求項6に記載の制御方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−175343(P2008−175343A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11274(P2007−11274)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】