説明

車両の制御装置

【課題】吸気切替弁や排気切替弁が固着した場合であっても、エンジンシステムを適切に作動させることが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置は、エンジンに接続された吸気通路及び排気通路上に、第1及び第2の過給機と、第1及び第2の過給機の両方を動作させるモードと第1の過給機のみを動作させるモードとの間で動作モードを切り替える吸気切替弁及び排気切替弁と、を有する車両に適用される制御装置である。車両の制御装置は、検出手段と制御手段とを備える。検出手段は、吸気切替弁及び排気切替弁の固着を検出する。制御手段は、吸気切替弁又は排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着が検出手段により検出された場合には、当該固着検出時のモードに対応した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツインターボシステムの内燃機関を備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術が特許文献1に記載されている。特許文献1では、ツインターボシステムにおいて、吸気切替弁の前後差圧、吸気管圧に基づき吸気切替弁、排気切替弁の閉弁固着を診断する技術が記載されている。特許文献2には、ツインターボシステムにおいて、ツインターボモードへの切り替え条件を変速比ごとに設定する技術が記載されている。特許文献3にも本発明と関連のある技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−346744号公報
【特許文献2】特開平5−98978号公報
【特許文献3】特開2004−232541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸気切替弁や排気切替弁の閉弁固着が発生すると、ツインターボシステムは、排気エネルギーが大きくなって本来2個の過給機を作動させるべき状態になっても、1個の過給機のみしか作動させることができない。この場合、エキマニ圧の上昇や過給機の過回転を引き起こして、システムの各部の破損を招く可能性がある。また、吸気制御弁や排気制御弁の開弁固着が発生した場合には、ツインターボシステムは排気エネルギーが小さくなって本来1個の過給機をさせるべき状態において、2個の過給機を作動させることとなる。そのため、この場合には、排気エネルギーの不足により2個の過給機を満足に作動させることができず、スモークの増加やドライバビリティの悪化を招く。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、吸気切替弁や排気切替弁が故障などにより固着した場合であっても、エンジンシステムを適切に作動させることが可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、エンジンと、前記エンジンに接続された吸気通路及び排気通路に設けられた、第1及び第2の過給機と、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させるモードと前記第1の過給機のみを動作させるモードとの間で動作モードを切り替える吸気切替弁及び排気切替弁と、を有する車両の制御装置は、前記吸気切替弁及び前記排気切替弁の固着を検出する検出手段と、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着が前記検出手段により検出された場合には、当該固着検出時の前記動作モードに対応した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定する制御手段と、を備える。
【0007】
上記の車両の制御装置は、エンジンに接続された吸気通路及び排気通路上に設けられた、第1及び第2の過給機と、第1及び第2の過給機の両方を動作させるモードと第1の過給機のみを動作させるモードとの間で動作モードを切り替える吸気切替弁及び排気切替弁と、を有する車両に適用される制御装置である。車両の制御装置は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、検出手段と制御手段とを備える。検出手段は、吸気切替弁及び排気切替弁の固着を検出する。制御手段は、吸気切替弁又は排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着が検出手段により検出された場合には、当該固着検出時のモードに対応した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定する。このようにすることで、弁の固着検出時の過給機の動作モードに対応させて排気エネルギーを調整することができ、エンジンシステムを適切に作動させることが可能となる。
【0008】
上記の車両の制御装置の他の一態様は、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の閉固着が前記検出手段により検出された場合には、変速比を高速段側に設定する。このようにすることで、排気エネルギーが過大になるのを抑え、エンジンシステムの各部が破損するのを防ぐことができる。
【0009】
上記の車両の制御装置の他の一態様は、前記制御手段は、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の開固着が前記検出手段により検出された場合には、変速比を低速段側に設定する。このようにすることで、排気エネルギーの不足による第1及び第2の過給機の動作不良を抑え、スモークの増加やドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
エンジンと、前記エンジンに接続された吸気通路及び排気通路に設けられた、第1及び第2の過給機と、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させるモードと前記第1の過給機のみを動作させるモードとの間で動作モードを切り替える吸気切替弁及び排気切替弁と、を有する車両の制御装置は、前記吸気切替弁及び前記排気切替弁の固着を検出する検出手段と、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着が前記検出手段により検出された場合には、当該固着検出時の前記動作モードに対応した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定する制御手段と、を備える。このようにすることで、エンジンシステムを適切に作動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【図2】エンジン回転数と燃料噴射量との間の関係を示すマップである。
【図3】吸気切替弁又は排気切替弁が閉固着した場合における車両の制御処理を示すフローチャートである。
【図4】エンジン回転数と燃料噴射量との間の関係を示すマップである。
【図5】吸気切替弁又は排気切替弁が開固着した場合における車両の制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0013】
[装置構成]
まず、実施形態に係る車両のエンジンシステムについて図1を参照して説明する。
【0014】
図1は、エンジンシステムの概略構成を示す図である。図1において、実線の矢印は吸気及び排気の流れを示し、破線の矢印は制御信号を示す。
【0015】
本実施形態に係るエンジンシステムは、ツインターボシステムであり、エンジン1と、2個の過給機5、6と、ECU(Electronic Control Unit)10と、を備える。2個の過給機5、6は、エンジン1に接続された吸気通路2及び排気通路3に設けられている。ここで、本発明における第1の過給機は過給機5に対応し、第2の過給機は過給機6に対応する。
【0016】
エンジン1は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、当該エンジン1の気筒内には、燃料噴射弁1aより燃料が噴射される。燃料噴射弁1aは、ECU10からの制御信号S1aにより制御される。
【0017】
吸気通路2は、吸気通路2aと、当該吸気通路2aをバイパスしている吸気通路2bとを有する。吸気通路2aには過給機5のコンプレッサ5aが設けられ、吸気通路2bには過給機6のコンプレッサ6aが設けられている。
【0018】
吸気通路2bには吸気切替弁11が設けられている。また、吸気通路2bには、コンプレッサ6aをバイパスしているバイパス通路2bb1が設けられており、バイパス通路2bb1には吸気バイパス弁13が設けられている。吸気切替弁11、吸気バイパス弁13はそれぞれ、ECU10からの制御信号S11、S13に基づいて、アクチュエータなどにより動作される。また、吸気切替弁11には、当該吸気切替弁11の開度を検出する開度センサ21が設けられている。開度センサ21は、検出された吸気切替弁11の開度に対応する検出信号S21をECU10に送信する。さらに、吸気通路2bには、吸気切替弁11をバイパスしているバイパス通路2bb2が設けられており、バイパス通路2bb2にはリード弁15が設けられている。
【0019】
排気通路3は、排気通路3aと、当該排気通路3aをバイパスしている排気通路3bとを有する。排気通路3aには過給機5のタービン5bが設けられ、排気通路3bには過給機6のタービン6bが設けられている。
【0020】
排気通路3bには排気切替弁12が設けられている。一方、排気通路3aには、タービン5bをバイパスしているパイパス通路3aaが設けられており、バイパス通路3aaには排気バイパス弁14が設けられている。排気切替弁12、排気バイパス弁14はそれぞれ、ECU10からの制御信号S12、S14に基づいて、アクチュエータにより動作される。また、排気切替弁12には、当該排気切替弁12の開度を検出する開度センサ22が設けられている。開度センサ22は、検出された排気切替弁12の開度に対応する検出信号S22をECU10に送信する。
【0021】
ECU10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備える。ECU10は、上述のエンジンシステムを含む車両全体の制御を行う。上述のエンジンシステムを含む車両は、例えばオートマチックトランスミッション(以下、ATともいう)車両のように、エンジン回転数及び負荷に応じてECU10が自動的に変速比を設定することが可能な変速機31を備えた車両である。本実施形態に係る車両の制御方法では、ECU10は、クランク角センサ32や開度センサ21、22からの検出信号に基づいて、エンジン1に供給される燃料噴射量の制御や、変速機31のギヤを切り替える制御を行う。
【0022】
[制御方法]
次に、本実施形態に係る車両の制御方法について説明する。
【0023】
吸気切替弁11及び排気切替弁12が開弁状態になると、外部から吸気通路2に取り入れられた吸気は吸気通路2a、2bの両方を通過し、エンジン1に供給される。一方、エンジン1から排出された排気は排気通路3a、3bの両方を通過する。そのため、この場合には、過給機5、6の両方が動作することとなる。一方、吸気切替弁11又は排気切替弁12が閉弁状態になると、吸気は吸気通路2bを通過できなくなる、又は、排気は排気通路2bを通過できなくなる。そのため、この場合には、過給機6は動作せず、過給機5のみが動作することとなる。
【0024】
ここで、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が、アクチュエータなどの故障により閉弁又は開弁した状態で固着した場合について述べる。吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉弁した状態で固着(閉固着)した場合には、排気エネルギーが増大して本来2個の過給機5、6を動作させるべき状態になっても、エンジンシステムは1個の過給機5のみしか動作させることができない。そのため、この場合には、排気エネルギーが過大となり、コンプレッサ出口温度の上昇やエキマニ圧の上昇、過給機5の過回転を引き起こして、エンジンシステムの各部の破損を招く可能性がある。一方、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開弁した状態で固着(開固着)した場合には、排気エネルギーが減少して本来1個の過給機5を動作させるべき状態になっても、エンジンシステムは2個の過給機5、6の両方を動作させることとなる。そのため、この場合には、排気エネルギーの不足により2個の過給機5、6を満足に作動させることができず、スモークの増加やドライバビリティの悪化を招く可能性がある。
【0025】
そこで、本実施形態に係る車両の制御方法では、ECU10は、開度センサ21、22からの検出信号を基に、吸気切替弁11及び排気切替弁12の固着を検出することとする。そして、ECU10は、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着を検出した場合には、弁の固着検出時の動作モードに適合した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定することとする。ここでいう過給機の動作モードとは、1個の過給機5で動作しているモード、あるいは、2個の過給機5、6で動作しているモードのうち、いずれかのモードである。このようにすることで、過給機の動作モードに対応させて排気エネルギーを調整することができ、エンジンシステムを適切に作動させることが可能となる。以下に具体的に述べる。
【0026】
まず、最初に、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着した場合における車両の制御方法について図2、図3を用いて説明する。
【0027】
図2は、エンジン回転数と燃料噴射量との間の関係を示すマップである。図2において、実線51によって囲まれるハッチングされた領域Ar1は、1個の過給機5で動作可能な運転領域である。なお、後に詳しく述べるが、破線52によって囲まれる領域は、2個の過給機5、6で動作可能な運転領域である。また、本実施形態に係る車両では、ギヤG1からギヤG4で示す4つの変速段を変速機31は有するものとする。ギヤG1からギヤG2、ギヤG2からギヤG3、ギヤG3からギヤG4へと切り替わるに従い、変速段は高速段側に移行する。グラフ61〜64はそれぞれ、ギヤG1〜G4に変速段を設定した場合におけるエンジン1の動作点の動作軌跡を示している。例えば、変速機31の変速段がギヤG1に設定された場合には、動作点はグラフ61に沿って移動する。図2において、点A1は動作軌跡61上の点を示し、点A2、B2は動作軌跡62上の点を示し、点A3、B3は動作軌跡63上の点を示し、点B4は動作軌跡64上の点を示している。
【0028】
先にも述べたように、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着した場合には、エンジンシステムは1個の過給機5のみしか動作させることができない。この場合において、運転領域Ar1を動作点が超えた場合には、排気エネルギーが過大となり、エンジンシステムの各部の破損を招く可能性がある。
【0029】
そこで、ECU10は、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁の閉固着を検出した場合には、運転領域内Ar1内に動作点が位置するように変速比を高速段側に設定することとする。例えば、閉固着の検出時にギヤG1に変速段が設定されている場合には、ECU10は、運転領域Ar1外の点A1へ動作点が移動したときに、エンジン回転数及び燃料噴射量を制御して、ギヤG1からギヤG2へと変速段のシフトアップを行い、運転領域Ar1内の点B2へと当該動作点を移動させる。閉固着の検出時にギヤG2に変速段が設定されている場合には、ECU10は、運転領域Ar1外の点A2へ動作点が移動したときに、エンジン回転数及び燃料噴射量を制限して、ギヤG2からギヤG3へと変速段のシフトアップを行い、運転領域Ar1内の点B3へと当該動作点を移動させる。閉固着の検出時にギヤG3に変速段が設定されている場合には、ECU10は、運転領域Ar1外の点A3へ動作点が移動したときに、エンジン回転数及び燃料噴射量を制御して、ギヤG3からギヤG4へと変速段のシフトアップを行い、運転領域Ar1内の点B4へと当該動作点を移動させる。
【0030】
以上に述べたように、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着した場合には、ECU10は、運転領域内Ar1内に動作点が位置するように変速比を高速段側に設定することとする。
【0031】
ここで、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着した場合における上述の車両の制御処理について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0032】
まず、ステップS101において、ECU10は、開度センサ21、22からの検出信号を基に、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着しているか否かについて判定する。具体的には、ECU10は、検出信号S21、S22より求められる吸気切替弁11及び排気切替弁12の開度の値と、ECU10自身が制御信号S11、12として送信している吸気切替弁11及び排気切替弁12の開度の値とがそれぞれ略一致しているか否かによって行う。
【0033】
ステップS101において、ECU10は、それぞれの開度の値が略一致し、吸気切替弁11及び排気切替弁12が閉固着していないと判定した場合には(ステップS101:No)、本制御処理をリターンする。一方、ECU10は、それぞれの開度の値が略一致せず、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が閉固着していると判定した場合には(ステップS101:Yes)、ステップS102の処理へ進む。例えば、ECU10は、制御信号S11、12として送信している吸気切替弁11又は排気切替弁12の開度の値が開状態を示しているのに対し、検出信号S21、S22より求められる吸気切替弁11又は排気切替弁12の開度の値が閉状態を示すものである場合には、吸気切替弁11又は排気切替弁12が閉固着していると判定する。
【0034】
ステップS102において、ECU10は、クランク角センサ32からの検出信号に基づいて、エンジン回転数を取得する。また、ステップS103において、ECU10は、燃料噴射量を取得する。なお、ステップS102、S103の処理は、この順序と逆順であっても良いし、または、同時に行っても良いのは言うまでもない。
【0035】
ステップS104において、ECU10は、ステップS102、S103で取得されたエンジン回転数及び燃料噴射量に基づいて動作点を求め、求められた動作点が1個の過給機5で動作可能な運転領域内にあるか否かについて判定する。図2で言うと、ECU10は、求められた動作点が運転領域Ar1内にあるか否かについて判定する。
【0036】
ステップS104において、ECU10は、求められた動作点が運転領域Ar1内にあると判定した場合には(ステップS104:Yes)、本制御処理をリターンする。一方、ECU10は、求められた動作点が運転領域外にあると判定した場合には(ステップS104:No)、ステップS105の処理へ進む。ステップS105において、ECU10は、エンジン回転数及び燃料噴射量を制御して、変速段のシフトアップを行うことで、運転領域内Ar1内に動作点が位置するように制御する。この後、ECU10は、本制御処理をリターンする。
【0037】
以上に述べたように、ECU10は、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁の閉固着を検出した場合には、運転領域内Ar1内に動作点が位置するように変速比を高速段側に設定することとする。このようにすることで、排気エネルギーが過大になるのを抑え、エンジンシステムの各部が破損するのを防ぐことができる。
【0038】
次に、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開固着した場合における車両の制御方法について図4、図5を用いて説明する。
【0039】
図4は、図2と同様、エンジン回転数と燃料噴射量との間の関係を示すマップである。図4では、図2と異なり、破線52によって囲まれる領域Ar2がハッチングされている。図4において、ギヤG4からギヤG3、ギヤG3からギヤG2、ギヤG2からギヤG1へと切り替わるに従い、変速段は低速段側に移行する。図4において、点C4は動作軌跡64上の点を示し、点D3は動作軌跡63上の点を示している。
【0040】
先にも述べたように、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開固着した場合には、排気エネルギーが減少して本来1個の過給機をさせるべき状態になっても、2個の過給機を作動させることとなる。この場合には、排気エネルギーの不足により2個の過給機を満足に作動させることができず、スモークの増加やドライバビリティの悪化を招く。
【0041】
そこで、ECU10は、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁の開固着を検出した場合には、運転領域内Ar2内に動作点が位置するように変速比を低速段側に設定することとする。例えば、開固着の検出時にギヤG4に変速段が設定されている場合には、ECU10は、運転領域Ar2外の点C4へ動作点が移動したときに、エンジン回転数及び燃料噴射量を制御して、ギヤG4からギヤG3へと変速段のシフトダウンを行い、運転領域Ar2内の点D3へと当該動作点を移動させる。
【0042】
ここで、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開固着した場合における上述の車両の制御処理について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。
【0043】
まず、ステップS201において、ECU10は、開度センサ21、22からの検出信号を基に、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開固着しているか否かについて判定する。具体的には、ECU10は、図3のフローチャートにおけるステップS101の処理と同様に、検出信号S21、S22より求められる吸気切替弁11及び排気切替弁12の開度の値と、ECU10自身が制御信号S11、12として送信している吸気切替弁11及び排気切替弁12の開度の値とがそれぞれ略一致しているか否かによって行う。
【0044】
ステップS201において、ECU10は、それぞれの開度の値が略一致し、吸気切替弁11及び排気切替弁12が開固着していないと判定した場合には(ステップS201:No)、本制御処理をリターンする。一方、ECU10は、それぞれの開度の値が略一致せず、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁が開固着していると判定した場合には(ステップS201:Yes)、ステップS202の処理へ進む。例えば、ECU10は、制御信号S11、12として送信している吸気切替弁11又は排気切替弁12の開度の値が閉状態を示しているのに対し、検出信号S21、S22より求められる吸気切替弁11又は排気切替弁12の開度の値が開状態を示すものである場合には、吸気切替弁11又は排気切替弁12が開固着していると判定する。
【0045】
ステップS202において、ECU10は、クランク角センサ32からの検出信号に基づいて、エンジン回転数を取得する。また、ステップS203において、ECU10は、燃料噴射量を取得する。なお、ステップS202、S203の処理は、この順序と逆順であっても良いし、または、同時に行っても良いのは言うまでもない。
【0046】
ステップS204において、ECU10は、ステップS202、S203で取得されたエンジン回転数及び燃料噴射量に基づいて動作点を求め、求められた動作点が2個の過給機5、6で動作可能な運転領域内にあるか否かについて判定する。図4で言うと、ECU10は、求められた動作点が運転領域Ar2内にあるか否かについて判定する。
【0047】
ステップS204において、ECU10は、求められた動作点が運転領域Ar2内にあると判定した場合には(ステップS204:Yes)、本制御処理をリターンする。一方、ECU10は、求められた動作点が運転領域外にあると判定した場合には(ステップS204:No)、ステップS205の処理へ進む。ステップS205において、ECU10は、エンジン回転数及び燃料噴射量を制御して、変速段のシフトダウンを行うことで、運転領域内Ar2内に動作点が位置するように制御する。この後、ECU10は、本制御処理をリターンする。
【0048】
以上に述べたように、ECU10は、吸気切替弁11又は排気切替弁12のうち、少なくともどちらか一方の弁の開固着を検出した場合には、運転領域内Ar2内に動作点が位置するように変速比を低速段側に設定することとする。このようにすることで、排気エネルギーの不足による2個の過給機の動作不良を抑え、スモークの増加やドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
【0049】
なお、上述の実施形態では、2個の過給機が並列に配置されたエンジンシステムを例に説明したが、本発明を適用可能な例としてはこれに限られず、2個の過給機が直列に配置され、過給機1個で動作する動作モードと過給機2個で動作する動作モードとの間で切り替えを行うことが可能なエンジンシステムにおいても本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
5、6 過給機
11 吸気切替弁
12 排気切替弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンに接続された吸気通路及び排気通路上に設けられた、第1及び第2の過給機と、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させるモードと前記第1の過給機のみを動作させるモードとの間で動作モードを切り替える吸気切替弁及び排気切替弁と、を有する車両の制御装置であって、
前記吸気切替弁及び前記排気切替弁の固着を検出する検出手段と、
前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の固着が前記検出手段により検出された場合には、当該固着検出時の前記動作モードに対応した運転領域内に動作点が位置するように変速比を設定する制御手段と、を備える車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の閉固着が前記検出手段により検出された場合には、変速比を高速段側に設定する請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記吸気切替弁又は前記排気切替弁のうち、少なくともどちらか一方の弁の開固着が前記検出手段により検出された場合には、変速比を低速段側に設定する請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185542(P2010−185542A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31212(P2009−31212)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】