説明

車両の制御装置

【課題】この発明は、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによって車両を容易に発進させることができ、その際にクラッチ位置センサなどの部品の増設を必要とせず、既存機種への転用を容易とすることを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンのスロットルバルブをバイパスして吸気通路を連通するアイドル・スピード・コントロール通路と、アイドル・スピード・コントロール通路を開閉するアイドル・スピード・コントロールバルブと、車両が停止状態から発進状態へ移行したことを判定する発進判定手段と、車両が発進状態にあると判定された時には、アイドル・スピード・コントロールバルブを開き、エンジンに流入する空気量を増量してエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサが作動中の場合には、コンプレッサの作動を停止させる制御手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の制御装置に係り、特に、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみで発進することを可能とした車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手動式の変速機及びクラッチを搭載した車両においては、車両の発進時に、アクセルペダル及びクラッチペダルを相互に適切なタイミングでアクセル操作及びクラッチ操作することで、滑らかな発進を行うことができる。このような車両においては、渋滞時などにおいて低速で移動・停止を行う場合に、アクセル操作を行わずに、クラッチ操作のみで発進・停止を行うことがある。
【0003】
そこで、手動式の変速機及びクラッチを搭載した車両において、車速が所定値以下、スロットル開度が所定値以下のときに、クラッチ位置に基づいて、エンジン回転数をアイドル回転数よりも上げることで、アクセル操作を行わずに、クラッチ操作のみで発進を可能とした制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−263138号公報
【特許文献2】特表平10−502147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1および特許文献2に記載の制御装置は、クラッチ位置を検出してエンジン回転数を上げていることから、クラッチ位置センサを追加して設ける必要があるため、システムを変更しなければなららず、既存機種への転用が困難な問題がある。
【0006】
この発明は、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによって車両を容易に発進させることができ、その際にクラッチ位置センサなどの部品の増設を必要とせず、既存機種への転用を容易とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、エンジンと、変速機と、前記エンジンの動力を変速機へ伝達するクラッチとを備えた車両の制御装置において、前記エンジンのスロットルバルブをバイパスして吸気通路を連通するアイドル・スピード・コントロール通路と、前記アイドル・スピード・コントロール通路を開閉するアイドル・スピード・コントロールバルブと、車両が停止状態から発進状態へ移行したと判定する発進判定手段と、前記発進判定手段により車両が発進状態にあると判定された時には前記アイドル・スピード・コントロールバルブを開き、前記エンジンに流入する空気量を増量してエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサが作動中の場合には、前記コンプレッサの作動を停止させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両の制御装置は、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによる車両発進時に、クラッチ結合によるエンジン回転数の低下により発進状態を判定し、エンジン回転数を上げてエンジントルクを増大させるので、発進しやすくすることができる。その際に、この発明の車両の制御装置は、空調装置のコンプレッサの駆動にエンジントルクが費やされないように、コンプレッサの駆動を停止することで、発進性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両の制御装置による制御のフローチャートである。(実施例)
【図2】車両の制御装置による制御のタイムチャートである。(実施例)
【図3】車両の制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、クラッチ結合によるエンジン回転数の低下により発進状態を判定し、エンジン回転数を上げてエンジントルクを増大させることで、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによる車両の発進をし易くするものである。
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1〜図3は、この発明の実施例を示すものである。図3において、1はエンジン、2は手動式の変速機、3はクラッチである。車両に搭載されるエンジン1は、変速機2と、前記エンジン1の動力を変速機2へ伝達するクラッチ3とを備えている。エンジン1は、燃焼室4に連通する吸気ポート5及び排気ポート6を備え、吸気ポート5及び排気ポート6を夫々開閉する吸気バルブ7及び排気バルブ8を備え、吸気バルブ7及び排気バルブ8を開閉駆動する吸気カム軸9及び排気カム軸10を備えている。
エンジン1は、エアクリーナ11と吸気管12とスロットルボディ13とサージタンク14と吸気マニホルド15とを順次に接続し、吸気ポート5に連通する吸気通路16を設けている。スロットルボディ13の吸気通路16には、スロットルバルブ17を設けている。また、エンジン1は、排気マニホルド18と、触媒コンバータ、排気管などを順次に接続し、排気ポート6に連通する排気通路19を設けている。
前記スロットルボディ13には、スロットルバルブ17をバスパスして吸気通路16を連通するアイドル・スピード・コントロール通路20と、アイドル・スピード・コントロール通路20を開閉するアイドル・スピード・コントロールバルブ21とを備えている。
アイドル・スピード・コントロールバルブ21は、エンジン1を制御するエンジン制御部22に接続されている。エンジン制御部22には、エンジン回転数センサ23と、アクセル開度センサ24と、車速センサ25とが接続されている。また、エンジン制御部22には、コンプレッサリレー26を介して空調装置のコンプレッサ27を接続している。
エンジン制御部22は、エンジン回転数センサ23から入力するエンジン回転数と、アクセル開度センサ24から入力するアクセルペダルのアクセル開度と、車速センサ25から入力する車速とに基づいて、エンジン1のアイドル運転時に、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開閉し、エンジン1に流入する空気量を増減してエンジン回転数が目標アイドル回転数になるように、アイドル回転数制御を実行する。また、エンジン制御部22は、コンプレッサリレー26により空調装置のコンプレッサ27を作動・停止する空調制御を実行する。
【0012】
この車両には、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによる車両の発進を制御する制御装置28を設けている。制御装置28は、エンジン制御部22に発進判定手段29と制御手段30とを備えている。
前記発進判定手段29は、車両が停止状態から発進状態へ移行したことを判定する。この発進判定手段29は、図2に示すように、車速があらかじめ設定された速度以下(停車状態)で、アクセル開度があらかじめ設定された開度以下(全閉状態)で、クラッチ結合でエンジン回転数があらかじめ設定された回転数以下(アイドル回転数以下)に低下した場合に、発進状態であると判定する。
前記制御手段30は、発進判定手段29により車両が発進状態にあると判定された時に、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開き、アイドル・スピード・コントロール通路20によりエンジン1に流入する空気量を増量してエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサ27が作動中の場合には、コンプレッサリレー26によりコンプレッサ27の作動を停止させる。
【0013】
次に作用を説明する。
車両の制御装置28は、図1に示すように、制御がスタートすると(100)、発進制御の回数リセットの条件が成立するかを判断する(101)。この判断(101)がNOの場合は、判断(103)に移行する。この判断(101)がYESの場合は、制御実施回数nをゼロ(n=0)とし(102)、エンジン1の始動後であって、且つエンジン回転数が設定回転数以上(NE≧tNECLSTEX)であるかを判断する(103)。
この判断(103)がNOの場合は、この判断(103)を繰り返す。この判断(103)がYESの場合は、車速が設定車速+ヒステリシス以下(SPD≦kSPDCLSTEX+kHIS)であるかを判断する(104)。
この判断(104)がNOの場合は、この判断(104)を繰り返す。この判断(104)がYESの場合は、アクセル開度が設定開度未満(TAD<kTADCLST)であるかを判断する(105)。
この判断(105)がNOの場合は、前記判断(104)に戻る。この判断(105)がYESの場合は、エンジン回転数が設定回転数+ヒステリシス未満(NE<tNECLSTEX+tHIS)であるかを判断する(106)。
この判断(106)がNOの場合は、前記判断(104)に戻る。この判断(106)がYESの場合は、制御実施回数nが設定回数未満(n=kNCLSTEX)であるかを判断する(107)。
この判断(107)がNOの場合は、前記判断(104)に戻る。この判断(107)がYESの場合は、空調装置のコンプレッサ27が停止しているかを判断する(108)。
【0014】
前記判断(108)において、コンプレッサ27が停止していてYESの場合は、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開いてエンジン1に流入する空気量を増量し、クラッチ3による発進時のエンジン回転数を目標発進回転数に上げる補正を実施する(109)。
その後、制御実施回数nを1だけ増加(n+1)し(110)、エンジン回転数が目標発進回転数+終了判定回転数以上(NE≧tgNE+kNEDCLSTH)であるかを判断する(111)。
この判断(111)がNOの場合は、前記判断(104)に戻る。この判断(111)がYESの場合は、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を閉じてエンジン1に流入する空気量を減量し、クラッチ3による発進時のエンジン回転数を目標発進回転数に上げる補正を終了し(112)、制御をエンドにする(113)。
【0015】
前記判断(108)において、コンプレッサ27が作動していてNOの場合は、コンプレッサリレー26によりコンプレッサ27の作動を停止させ(114)、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開いてエンジン1に流入する空気量を増量し、クラッチ3による発進時のエンジン回転数を目標発進回転数に上げる補正を実施する(115)。
その後、制御実施回数nを1だけ増加(n+1)し(116)、エンジン回転数が目標発進回転数+終了判定回転数以上(NE≧tgNE+kNEDCLSTH)であるかを判断する(117)。
この判断(117)がNOの場合は、前記判断(104)に戻る。この判断(117)がYESの場合は、コンプレッサリレー26によりコンプレッサ27を作動させ(118)、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を閉じてエンジン1に流入する空気量を減量し、クラッチ3による発進時のエンジン回転数を目標発進回転数に上げる補正を終了し(112)、制御をエンドにする(113)。
【0016】
この車両の制御装置28は、図2に示すように、時点Aにおいて、車速が設定速度以下(停車状態)、アクセル開度が設定開度以下(全閉状態)、クラッチ結合でエンジン回転数が設定回転数以下(アイドル回転数以下)に低下して、発進状態であると判定すると、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開いて空気量の増量によりエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサ27が作動中の場合にはコンプレッサ27の作動を停止させる空調制御を実行する。
制御装置28は、時点Bにおいて、エンジン回転数が所定回転数以上の条件を満足すると、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を閉じてエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を終了し、また、コンプレッサ27を停止していた場合にはコンプレッサ27を再び作動させる空調制御を実行する。
【0017】
このように、車両の制御装置28は、車両が発進状態にあると判定された時に、アイドル・スピード・コントロールバルブ21を開き、アイドル・スピード・コントロール通路20によりエンジン1に流入する空気量を増量してエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサ27が作動中の場合には、コンプレッサリレー26によりコンプレッサ27の作動を停止させる。
車両の発進時に空調装置を使用していると、コンプレッサ27の駆動によってエンジントルクが消費され、エンジン回転が低下し易いため、空調装置の未使用時に対し、クラッチ操作のみでの発進性は更に悪化する。そこで、制御装置28は、空調装置の制御にアイドル・スピード・コントロールバルブ21による空気量の増量を連動させ、クラッチ操作のみによる発進時に強制的に空調装置のコンプレッサ27を停止させることで、発進性を更に向上させている。
これにより、車両の制御装置28は、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによる車両発進時に、クラッチ結合によるエンジン回転数のアイドル回転数以下への低下により発進状態を判定し、エンジン回転数を上げてエンジントルクを増大させるので、発進しやすくすることができる。その際に、制御装置28は、空調装置のコンプレッサ27の駆動にエンジントルクが費やされないように、コンプレッサ27の駆動を停止することで、発進性をさらに向上させることができる。
また、車両の制御装置28は、車速があらかじめ設定された速度以下で、アクセル開度があらかじめ設定された開度以下で、エンジン回転数があらかじめ設定された回転数以下に低下した場合に、発進状態であると判定している。
これにより、制御装置28は、発進状態の判定にクラッチ位置を使用していないので、発進制御だけのために新たにクラッチ位置を検出するセンサを追加する必要がない。この結果、この制御装置28は、クラッチ位置センサなどの部品の増設を必要としないので、従来のシステムを変更することなく、既存機種への転用が容易である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明は、アクセル操作を行わずにクラッチ操作のみによる車両の発進をしやすくすることができ、4輪車だけでなく、2輪車にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 エンジン
2 変速機
3 クラッチ
4 燃焼室
5 吸気ポート
6 排気ポート
11 エアクリーナ
12 吸気管
13 スロットルボディ
14 サージタンク
15 吸気マニホルド
16 吸気通路
19 排気通路
20 アイドル・スピード・コントロール通路
21 アイドル・スピード・コントロールバルブ
22 エンジン制御部
23 エンジン回転数センサ
24 アクセル開度センサ
25 車速センサ
26 コンプレッサリレー
27 コンプレッサ
28 制御装置
29 発進判定手段
30 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、変速機と、前記エンジンの動力を変速機へ伝達するクラッチとを備えた車両の制御装置において、
前記エンジンのスロットルバルブをバイパスして吸気通路を連通するアイドル・スピード・コントロール通路と、
前記アイドル・スピード・コントロール通路を開閉するアイドル・スピード・コントロールバルブと、
車両が停止状態から発進状態へ移行したことを判定する発進判定手段と、
前記発進判定手段により車両が発進状態にあると判定された時には、前記アイドル・スピード・コントロールバルブを開き、前記エンジンに流入する空気量を増量してエンジン回転数を上げるエンジン回転数制御を実行し、かつ空調装置のコンプレッサが作動中の場合には、前記コンプレッサの作動を停止させる制御手段とを備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記発進判定手段は、車速があらかじめ設定された速度以下で、アクセル開度があらかじめ設定された開度以下で、エンジン回転数があらかじめ設定された回転数以下に低下した場合に、発進状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−33006(P2011−33006A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183024(P2009−183024)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】