車両の前部構造
【課題】車両の前部構造において、車両衝突によるバンパレインフォースメントのリペアビリティを改善すること、重量物であるバンパレインフォースメントの重心位置を後退させること、フロントオーバーハングを部分的に短縮すること、車両のヨー慣性モーメントを低減すること、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させること等である。
【解決手段】バンパレインフォースメント23は、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなり、1対のバンパレイン分割部L23,R23は、1対のフロントサイドフレーム22と中間クロスメンバ25とに夫々連結され、1対のフロントサイドフレーム22との連結部23aの間に連結部23aよりも後退させた車幅方向中間部23cを有する。
【解決手段】バンパレインフォースメント23は、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなり、1対のバンパレイン分割部L23,R23は、1対のフロントサイドフレーム22と中間クロスメンバ25とに夫々連結され、1対のフロントサイドフレーム22との連結部23aの間に連結部23aよりも後退させた車幅方向中間部23cを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前部構造に関し、特に、バンパレインフォースメントが、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両の前部構造では、車室の前端が(車室とエンジンルームとが)ダッシュパネルで仕切られ、このダッシュパネルから左右1対のフロントサイドフレームが前方へ延び、1対のフロントサイドフレームの前端側に車幅方向に長いバンパレインフォースメント(以下、バンパレインという)が架着され、このバンパレインが車両の前外装面を形成するバンパ部材で覆われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
バンパレインは、全体的に多少前方凸に湾曲しているものが多いが、こうしたものを含めて、基本的に、車幅方向に略ストレートに延びて車幅方向全幅に亙って一体的に繋がったものに形成されている。また、1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンにバンパレインが連結されたものが公知である。
【0004】
ここで、本願出願人は、ダッシュパネル(ダッシュロアパネル)の車幅方向中央部分に後方へ凹む凹部を形成し、この凹部にエンジンの後端部が収容されて、エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した車両を実用化している(特許文献1〜3等参照)。
【0005】
特許文献1,3の車両の前部構造では、バンパレインの後側において車幅方向に延びる中間クロスメンバが1対のフロントサイドフレームに架着され、特許文献1の構造では、バンパレインの後方にラジエータが前傾姿勢で配設され、中間クロスメンバの上側にバッテリが配設され、特許文献3の構造では、バンパレインと中間クロスメンバとの間にフロントトランクボックスが配設されている。特許文献2,3の車両の前部構造では、バンパレインから後方へ比較的離隔した位置でエンジンの直ぐ前側にラジエータが鉛直姿勢で配設され、エンジンの前方且つラジエータの上側にエアクリーナが配設されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−326981号公報
【特許文献2】特開2005−28911号公報
【特許文献3】特開2005−29057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向全幅に亙って一体的に繋がったものに形成されているため、車両衝突(前突)によって、バンパレインが損傷してバンパレインを取替える場合、その損傷部位が一部分だけであっても、バンパレイン全てを取替える必要があることから、バンパレインのリペアビリティが悪く修理費用が高価になる。
【0008】
更に、従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向に略ストレートに延びるように形成されているため、バンパレインの1対のフロントサイドフレームとの連結部の位置を後退させるのに限界があることから、重量物であるバンパレインの重心位置を後退させること、フロントオーバーハングを短縮すること、車両のヨー慣性モーメントを低減すること、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させること、等に限界がある。
【0009】
エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した車両では、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上を実現しているが、こうした改善を更に図りたいという要望に対して、上記課題が障害となる。
【0010】
また、従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向に略ストレートに延びるように形成され、バンパレインの1対のフロントサイドフレームとの連結部の位置を後退させるのに限界があることから、エンジンルームに前後方向のデッドスペースが大きくなる場合があり、こうした問題は、特に、エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した場合に顕著になり、また、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度が小さいという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、車両の前部構造において、車両衝突によるバンパレインフォースメントのリペアビリティを改善すること、重量物であるバンパレインフォースメントの重心位置を後退させること、フロントオーバーハングを部分的に短縮すること、車両のヨー慣性モーメントを低減すること、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させること、エンジンルームの前後方向のデッドスペースを縮小すること、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度を向上させること、等である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の車両の前部構造は、車室の前端を仕切るダッシュパネルと、このダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレームと、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントを覆うバンパ部材とを備えた車両の前部構造であって、前記バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなることを特徴とする。
【0013】
バンパレインフォースメントが車幅方向に分割された複数のバンパレイン分割部からなるため、車両衝突(前突)によって、バンパレインフォースメントが損傷しても、複数のバンパレイン分割部の全てが損傷する虞は低く、そして、複数のバンパレイン分割部は夫々が取替え可能であるため、損傷したバンパレイン分割部のみを新たなバンパレイン分割部に取替えて、バンパレインフォースメントを修復できる。
【0014】
請求項1の従属請求項として次の構成を採用可能である。
前記バンパレインフォースメントは、前記複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有する(請求項2)。前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有する(請求項3)。
【0015】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有する(請求項4)。前記1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部が夫々連結される(請求項5)。前記バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部が中間クロスメンバに連結される(請求項6)。
【0016】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結される(請求項7)。前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結される(請求項8)。前記バンパ部材は、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有する(請求項9)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなるので、車両衝突(前突)によって、バンパレインフォースメントが損傷しても、複数のバンパレイン分割部の全てが損傷する虞は低く、損傷したバンパレイン分割部のみを新たなバンパレイン分割部に取替えて、バンパレインフォースメントを修復することができ、つまりは、車両衝突によるバンパレインフォースメントのリペアビリティを改善することができ、バンパレインフォースメントの修理費用を抑制することができる。
【0018】
請求項2の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントは、複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有するので、バンパレインフォースメントの組付け性を著しく悪化させず、車両衝突によるリペアビリティを改善するのに適当な数のバンパレイン分割部でバンパレインフォースメントを構成することができる。
【0019】
請求項3の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有するので、重量物であるバンパレインフォースメントの重心位置を後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、故に、車両のヨー慣性モーメントを低減でき、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させ、また、エンジンルームの前後方向のデッドスペースを縮小でき、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度を向上させることができる。
【0020】
請求項4の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有するので、バンパレインフォースメントの重心位置を一層後退させて、車幅方向両端部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、車両のヨー慣性モーメントの低減、車両の操縦安定性の向上、バンパ部材のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0021】
請求項5の車両の前部構造によれば、1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンを取付け、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部を夫々連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が一層向上する。
【0022】
請求項6の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部を中間クロスメンバに連結したので、この中間クロスメンバにより、車両の車体捩じれ剛性を高めるとともに、バンパレイン分割部を支持する支持剛性を高め、車両衝突時、バンパレイン分割部に入力された衝突荷重は、フロントサイドフレームにその前端側から伝達されるとともに、中間クロスメンバに伝達され中間クロスメンバからフロントサイドフレームの長さ方向途中部に伝達され、故に、バンパレイン分割部からの衝突荷重の分散性を高くして、バンパレイン分割部が不適切に折曲がる等して損傷することを防止し、衝撃吸収性能と共に衝突安全性を向上させ、また、中間クロスメンバを種々の車両装備品を連結支持するために有効利用することもできる。
【0023】
請求項7の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとを、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部に対して個別に1対の中間クラッシュカンを設けることで、各バンパレイン分割部に対して十分な衝撃吸収性能が発揮し得るように構成することができる。
【0024】
請求項8の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとを、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部に対して共通に中間クラッシュカンを設けることで、構造を簡単化することができる。
【0025】
請求項9の車両の前部構造によれば、バンパ部材は、1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有するので、バンパ部材の車幅方向中央部分を後方へ凹ませて、バンパ部材のデザイン性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の車両の前部構造は、車室の前端を仕切るダッシュパネル、ダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレーム、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメント、バンパレインフォースメントを覆うバンパ部材を備え、バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなる。
【実施例】
【0027】
図1〜図3に示すように、車両1(自動車1)は、左右1対の前輪2、左右1対の後輪3を備え、車両1の前部のエンジンルーム4にパワートレインであるエンジン5を搭載し、このエンジン5により後輪3を駆動するFR車である。
【0028】
図1〜図5に示すように、車両1の前部構造20は、車室6の前端を(車室6とエンジンルーム4とを)仕切るダッシュパネル21、ダッシュパネル21から前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレーム22、1対のフロントサイドフレーム22の前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメント23(以下、バンパレイン23という)、バンパレイン23を覆うバンパ部材24、バンパレイン23の後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレーム22に架着された中間クロスメンバ25を備えている。
【0029】
ダッシュパネル21の下端部には、車室6のフロアを形成するフロアパネル7の前端部が結合され、フロアパネル7の車幅方向両端部に左右1対のサイドシル8が結合されている。1対のフロントサイドフレーム22の後端部分は、ダッシュパネル21の前面に沿って下方へ延び、ダッシュパネル21の下端部において、フロアパネル7の下面に結合されて前後方向へ延びる左右1対のフロアフレーム9の前端部に結合されている。
【0030】
車室6には、ダッシュボード10、ステアリングホイール11、左右1対の前席12、左右1対の後席13等が配設され、車室6の少なくとも前席12の外側方がサイドドア14(図4参照)により開閉される。尚、図4の符号15は左右1対のヘッドランプ、図4の符号16は左右1対のサイドミラーである。
【0031】
車両1の前部構造20について詳しく説明する。
エンジンルーム4は、ダッシュパネル21、ダッシュパネル21に結合された左右1対のフロントエプロン部材30、バンパ部材24等で囲まれた部分に形成され、ボンネット31により開閉される。ボンネット31は、その後端部がダッシュパネル21の上端側のカウル部材(図示略)にヒンジ結合され、その後端部を中心に上下に回動され開閉する。
【0032】
1対のフロントサイドフレーム22の前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカン26が取付けられ、また、中間クロスメンバ25の車幅方向中央側部分の前端部に衝突荷重を吸収可能な左右1対の中間クラッシュカン27が取付けられ、これらクラッシュカン26,27にバンパレイン23が連結されている。
【0033】
バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23であって、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右対称の1対のバンパレイン分割部L23,R23からなる。
【0034】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、フロントサイドフレーム22との(フロントサイドフレーム22と連結される)連結部23aを有するとともにフロントサイドフレーム22の前側に位置するフレーム前側部23b、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23a(フレーム前側部23b)の間に位置する車幅方向中間部23c、連結部23a(フレーム前側部23b)よりも車幅方向外側に位置する車幅方向外側部23dを有する。
【0035】
フレーム前側部23bは、バンパレイン23の最前端部分であり、このフレーム前側部23bの前端面は、前方へ向くように形成されている。車幅方向中間部23cは、全体的に連結部23aよりも後退するように形成され、フロントサイドフレーム22の前端部よりも後方に位置するように後退させた中間後退部23eを有する。
【0036】
車幅方向中間部23cは、フレーム前側部23bから車幅方向内方且つ後方へ略ストレートに延び、この傾斜部分の後端部から少し車幅方向内方へ張出した形状に形成され、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cは、それら後端部の車幅方向内端面同士を車幅方向から接近対向させて、平面視にて後方凸(前方開)の略V字形状に形成されている。
【0037】
車幅方向中間部23cの後端部分とその近傍部が中間後退部23eとなり、この中間後退部23eから後方へ少し隔てて中間クロスメンバ25が配置され、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向内端部(中間後退部23e)が、1対のバンパレイン分割部L23,R23に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して中間クロスメンバ25に連結されている。
【0038】
車幅方向外側部23dは、フレーム前側部23bから車幅方向外方且つ後方へ略ストレートに延びるように形成されて、連結部23aよりも後方に位置するように後退させた外側後退部23fを有する。
【0039】
以上のように、バンパレイン23は、1対のバンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23b、車幅方向中間部23c、車幅方向外側部23dにより平面視にて車幅方向へ引き延ばしたようなM字形状に近い形成されている。尚、各バンパレイン分割部L23,R23は、例えば、ハイドロフォーム成形により、或いは、2部材を結合して、閉断面構造に構成されている。尚、各バンパレイン分割部L23,R23として、断面コ字状の開断面構造のバンパレイン分割部を採用してもよい。
【0040】
バンパ部材24は、1対のフロントエプロン部材30及びボンネット31から略連続するように前方へ延びて車両1の前外装面を形成し、このバンパ部材24のうちバンパレイン23(1対のバンパレイン分割部L23,R23)の前側に位置する部分は、全体的にバンパレイン23に沿った形状に形成されている。
【0041】
即ち、バンパ部材24は、1対のバンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23b、車幅方向中間部23c、車幅方向外側部23dに夫々対応する、1対のバンパ部材フレーム前側部24b、バンパ部材車幅方向中間部24c、1対のバンパ部材車幅方向外側部24dを有し、バンパ部材車幅方向中間部24cは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cに沿って後退させて、これら中間後退部23eに対応するバンパ部材中間後退部24eを有する。
【0042】
エンジン5は、エンジンルーム4において、ダッシュパネル21の前方且つ中間クロスメンバ25の後方且つ1対のフロントサイドフレーム22の間に、その大部分がフロントサイドフレーム22の上端よりも下方位置となるように配設されている。ダッシュパネル21の車幅方向中央部分に後方へ凹む凹部21aが形成され、この凹部21aにエンジン5の後端部が収容されて、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するようにエンジンルーム4に後方配置されている。
【0043】
エンジン5の駆動力は、トランスミッション40、プロペラシャフト41、差動装置42、左右1対の後輪車軸43を介して1対の後輪3に伝達され、トランスミッション40、プロペラシャフト41等は、フロアパネル7の車幅方向中央部に形成された上方凸のトンネル部(図示略)の内部(下面側)に配設されている。
【0044】
エンジンルーム4の下端側には、フロントサスペンション(図示略)を支持するサスペンションクロスメンバ45、前輪2を操舵する為のパワーステアリング装置46、ラジエータとクーリングファンを有するクーリングユニット47が配設されている。
【0045】
クーリングユニット47は、1対のフロントサイドフレーム22間の距離と略同じ車幅方向幅を有し、フロントサイドフレーム22よりも下方位置であって、バンパレイン23の中間後退部23e及び中間クロスメンバ25の下側において、サスペンションクロスメンバ45、パワーステアリング装置46と干渉しないように後傾姿勢で配置されている。
【0046】
尚、図示省略するが、バンパ部材24に、少なくともクーリングユニット47のラジエータを冷却するために、走行風を導入するエア導入口を形成し、更に、このエア導入口からクーリングユニット47に走行風を導くエアダクトを配設してもよい。尚、エンジンルーム4には、図示略のオイルクーラ、エアクリーナ、バッテリ等の車両装備品が所定の配置で配設される。
【0047】
以上説明した車両1の前部構造20によれば次の効果を奏する。
バンパレイン23は、1対のバンパレイン分割部L23,R23を有し、この1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、1対のフロントサイドフレーム22との連結部23aの間に連結部23aよりも後退させた車幅方向中間部23cを有するので、連結部23aの位置を後退させるのに限界があっても、重量物であるバンパレイン23の重心位置を後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、故に、車両1のヨー慣性モーメントを低減でき、車両1の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させることができ、また、エンジンルーム4の前後方向のデッドスペースを縮小でき、車両1の前外装面を形成するバンパ部材24の形状を含むデザインの自由度を向上させることができる。
【0048】
特に、この車両1では、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するように且つ低重心にてエンジンルーム4に後方配置されることで、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上を実現しているが、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cにより、こうした改善を更に図ることができ、また、エンジン5の前記後方配置により、従来のバンパレインでは、エンジンルーム4に前後方向のデッドスペースが大きくなり易いが、このデッドスペースを確実に縮小しつつ、上記効果を発揮できる。
【0049】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、車幅方向中間部23cに、フロントサイドフレーム22の前端部よりも後方に位置するように後退させた中間後退部23eを有するので、バンパレイン23の重心位置を一層後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングの短縮、車両1のヨー慣性モーメントの低減、車両1の操縦安定性の向上、バンパ部材24のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0050】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、連結部23aよりも車幅方向外側部23dに、連結部23aよりも後方に位置するように後退させた外側後退部23fを有するので、バンパレイン23の重心位置を一層後退させて、車幅方向両端部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、車両1のヨー慣性モーメントの低減、車両1の操縦安定性の向上、バンパ部材24のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0051】
1対のフロントサイドフレーム22の前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカン26を取付け、この1対のクラッシュカン26に1対のバンパレイン分割部L23,R23を夫々連結したので、更に、1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して夫々連結したので、衝撃吸収性能を高めて衝突安全性の向上させることができる。
【0052】
バンパレイン分割部L23,R23の最前端部分であるフレーム前側部23bに連結部21aを有するので、連結部21aの位置を従来の位置よりも後退させずに、バンパレイン23の重心位置を後退させて、フロントオーバーハングを部分的に短縮でき、また、衝突発生時には、バンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23bから衝突加重が入力されることが多く、故に、クラッシュカン26の機能を確実に発揮させて衝突安全性を向上させることができる。
【0053】
バンパ部材24は、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cに沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部24cを有するので、更に、このバンパ部材車幅方向中間部24cは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の中間後退部23eに沿って後退させた中間後退部24eを有するので、バンパ部材24の車幅方向中央部分を後方へ凹ませて、バンパ部材24のデザイン性を高めることができる。
【0054】
ダッシュパネル21の前方且つ1対のフロントサイドフレーム22の間にパワートレインであるエンジン5を配設したので、エンジン5の低重心化を図って、車両1の操縦安定性を更に向上させ、また、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジン5をエンジンルーム4に後方配置する場合に有利になり、こうして、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上等を一層図ることが可能になる。
【0055】
バンパレイン23の後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレーム22に架着された中間クロスメンバ25を備え、1対のバンパレイン分割部L23,R24の車幅方向内端部を中間クロスメンバ25に連結したので、この中間クロスメンバ25により、車両1の車体捩じれ剛性を高めるとともに、バンパレイン分割部L23,R23を支持する支持剛性を高めることができる。
【0056】
即ち、車両衝突時、バンパレイン分割部L23,R23に入力された衝突荷重は、フロントサイドフレーム22にその前端側から伝達されるとともに、中間クロスメンバ25に伝達され中間クロスメンバ25からフロントサイドフレーム22の長さ方向途中部に伝達され、故に、バンパレイン分割部L23,R23からの衝突荷重の分散性を高くして、バンパレイン分割部L23,L24が不適切に折曲がる等して損傷することを防止し、衝撃吸収性能と共に衝突安全性を向上させ、また、中間クロスメンバ25を種々の車両装備品を連結支持するために有効利用することもできる。
【0057】
バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなるので、車両衝突(前突)によって、バンパレイン23が損傷しても、1対のバンパレイン分割部L23,R23の全て(両方)が損傷する虞は低く、損傷したバンパレイン分割部L23又はR23のみを新たなバンパレイン分割部L23又はR23に取替えて、バンパレイン23を修復することができ、つまりは、車両衝突によるバンパレイン23のリペアビリティを改善することができ、バンパレイン23の修理費用を抑制することができる。
【0058】
バンパレイン23が、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなるので、バンパレイン23の組付け性を著しく悪化させず、車両衝突によるリペアビリティを改善するのに適当な数(1対)のバンパレイン分割部L23,R23でバンパレイン23を構成することができる。
【0059】
1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを、1対のバンパレイン分割部L23,R23に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部L23,R23に対して個別に1対の中間クラッシュカン27を設けることで、各バンパレイン分割部L23,R23に対して十分な衝撃吸収性能を発揮し得るように構成することができる。
【0060】
次に、前記メイン実施例の構成を部分的に変更した車両の前部構造について説明する。但し、前記メイン実施例と同一又は類似する構成については、同一符号又は類似符号を付して説明して、適宜、詳細な説明を省略し、前記メイン実施例と基本的に同じ効果については説明を省略する。
【0061】
1]図6に示すように、変形例1の車両の前部構造20Aでは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向内端部(中間後退部23e)が、1対のバンパレイン分割部L23,R23に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカン27Aを介して中間クロスメンバ25に連結されている。例えば、中間クラッシュカン27Aは、メイン実施例の各中間クラッシュカン27よりも車幅方向幅が大きく(例えば、2倍近くに)なるように構成されている。
【0062】
1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを、1対のバンパレイン分割部L23,R23に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカン27Aを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部L23,R23に対して共通に1つの中間クラッシュカン27Aを設けることで、構造を簡単化することができる。
【0063】
2]図7に示すように、変形例2の車両の前部構造20Bでは、バンパレイン23Bにおいて、左右1対のバンパレイン分割部L23B,R23Bが、夫々、メイン実施例のフレーム前側部23bの車幅方向内側半部と車幅方向中間部23cとに対応する内側バンパレイン分割部23B1と、メイン実施例のフレーム前側部23bの車幅方向外側半部と車幅方向外側部23dとに対応する外側バンパレイン分割部23B2からなる。
【0064】
即ち、バンパレイン23Bは、車幅方向に4分割されて夫々が取替え可能な4つのバンパレイン分割部23B1,23B2で構成され、各内側バンパレイン分割部23B1は、その車幅方向外端部がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結されるとともに、その車幅方向内端部が中間クラッシュカン27を介して中間クロスメンバ25に連結され、また、各外側バンパレイン分割部23B2は、その車幅方向内端部がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結されている。
【0065】
このように、バンパレイン23Bを4つのバンパレイン分割部23B1,23B2で構成することで、メイン実施例と比べた場合、車両衝突(前突)によって、1つのバンパレイン分割部23B1又は23B2のみが損傷する場合があり、そうなった場合、より小型になった1つのバンパレイン分割部23B1又は23B2のみを新たなバンパレイン分割部23B1又は23B2に取替えればよいため、車両衝突によるバンパレイン23Bのリペアビリティを一層改善することができる。
【0066】
3]図8〜図10に示すように、変形例3の車両の前部構造20Cでは、バンパ部材24Cにおいて、バンパ部材車幅方向中間部24Ccが、1対のバンパ部材フレーム前側部24bを含めて全体的に車幅方向に略ストレートに延びるように形成されている。
【0067】
バンパ部材車幅方向中間部24Ccには、ダウンフォースを発生させる為の走行風を導入するエア導入口24Chが形成されて、このエア導入口24Chにバンパグリル24Ciが装着されている。エア導入口24Chは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23a(フレーム前側部23b)の間の前側に位置し、このエア導入口24Chとボンネット31の前端側に形成されたエア排出口50とを繋ぐエア通路51が、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cの前側から上側を通るように設けられている。エア通路51の上側に断面翼形状のスポイラー52が設けられ、このスポイラー52が、車両走行時、周知の翼理論によりダウンフォースを発生させる。
【0068】
この車両の前部構造20Cによれば、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23aの間の車幅方向中間部23cが連結部23aよりも後退するように形成されているため、前記のように、エア導入口24Chを1対の車幅方向中間部23cの前側に位置させて、エア通路51を1対の車幅方向中間部23cの前側から上側を通るように設けることができ、故に、スポイラー52を、ダウンフォースをより発生させ得る形状に形成して設けることができる。
【0069】
4]図11に示すように、変形例4の車両の前部構造20Dでは、バンパレイン23Dが車幅方向に略ストレートに延びるように形成され、バンパ部材24Dはこのバンパレイン23Dに沿った形状に形成されている。バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23D,R23Dであって、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右対称の1対のバンパレイン分割部L23D,R23Dからなる。
【0070】
各バンパレイン分割部L23D,R23Dは、その車幅方向外側部分がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結され、その車幅方向内側部分が中間クラッシュカン27Dを介して中間クロスメンバ25Dに連結されている。中間クロスメンバ25Dは1対のフロントサイドフレーム22の前端近傍部に架着されている。
【0071】
5]変形例5として、図示省略するが、バンパレイン23については、メイン実施例のようにM字形状する必要はなく、例えば、車幅方向中間部を前側から後側に凹形に凹んだ形状にする、或いは、バンパレイン23の車幅方向中間部にフロントサイドフレーム22の前端よりも後退させた中間後退部を設けない等々、種々の構成を採用可能である。
【0072】
6]メイン実施例の各構成と変形例1〜5の各構成とを可能であれば組合わせて、車両の前部構造を構成してもよい。
【0073】
7]その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示事項以外の種々の構成を付加して実施可能であり、また、本発明については、実施例に開示の車両に限らず、FF車等の種々の車両に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】車両の前部構造を含む要部平の断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII −III 線断面図である。
【図4】車両の前部構造の前方斜め上側からの斜視図である。
【図5】車両の前部構造の要部の前方斜め上側からの斜視図である。
【図6】変形例1の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図7】変形例2の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図8】変形例3の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図9】変形例3の車両の前部構造の前方斜め上側からの斜視図である。
【図10】変形例3の車両の前部構造の要部の縦断面図である。
【図11】変形例4の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 車両
6 車室
20,20A,20B,20C,20D 前部構造
21 ダッシュパネル
22 フロントサイドフレーム
23,23B バンパレイン(バンパレインフォースメント)
L23,R23,23B1,23B2,L23D,R23D バンパレイン分割部
23c 車幅方向中間部
23d 車幅方向外側部
23f 外側後退部
24,24D バンパ部材
24c バンパ部材車幅方向中間部
25 中間クロスメンバ
26 クラッシュカン
27,27A 中間クラッシュカン
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前部構造に関し、特に、バンパレインフォースメントが、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両の前部構造では、車室の前端が(車室とエンジンルームとが)ダッシュパネルで仕切られ、このダッシュパネルから左右1対のフロントサイドフレームが前方へ延び、1対のフロントサイドフレームの前端側に車幅方向に長いバンパレインフォースメント(以下、バンパレインという)が架着され、このバンパレインが車両の前外装面を形成するバンパ部材で覆われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
バンパレインは、全体的に多少前方凸に湾曲しているものが多いが、こうしたものを含めて、基本的に、車幅方向に略ストレートに延びて車幅方向全幅に亙って一体的に繋がったものに形成されている。また、1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンにバンパレインが連結されたものが公知である。
【0004】
ここで、本願出願人は、ダッシュパネル(ダッシュロアパネル)の車幅方向中央部分に後方へ凹む凹部を形成し、この凹部にエンジンの後端部が収容されて、エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した車両を実用化している(特許文献1〜3等参照)。
【0005】
特許文献1,3の車両の前部構造では、バンパレインの後側において車幅方向に延びる中間クロスメンバが1対のフロントサイドフレームに架着され、特許文献1の構造では、バンパレインの後方にラジエータが前傾姿勢で配設され、中間クロスメンバの上側にバッテリが配設され、特許文献3の構造では、バンパレインと中間クロスメンバとの間にフロントトランクボックスが配設されている。特許文献2,3の車両の前部構造では、バンパレインから後方へ比較的離隔した位置でエンジンの直ぐ前側にラジエータが鉛直姿勢で配設され、エンジンの前方且つラジエータの上側にエアクリーナが配設されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−326981号公報
【特許文献2】特開2005−28911号公報
【特許文献3】特開2005−29057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向全幅に亙って一体的に繋がったものに形成されているため、車両衝突(前突)によって、バンパレインが損傷してバンパレインを取替える場合、その損傷部位が一部分だけであっても、バンパレイン全てを取替える必要があることから、バンパレインのリペアビリティが悪く修理費用が高価になる。
【0008】
更に、従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向に略ストレートに延びるように形成されているため、バンパレインの1対のフロントサイドフレームとの連結部の位置を後退させるのに限界があることから、重量物であるバンパレインの重心位置を後退させること、フロントオーバーハングを短縮すること、車両のヨー慣性モーメントを低減すること、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させること、等に限界がある。
【0009】
エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した車両では、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上を実現しているが、こうした改善を更に図りたいという要望に対して、上記課題が障害となる。
【0010】
また、従来の車両の前部構造では、バンパレインが車幅方向に略ストレートに延びるように形成され、バンパレインの1対のフロントサイドフレームとの連結部の位置を後退させるのに限界があることから、エンジンルームに前後方向のデッドスペースが大きくなる場合があり、こうした問題は、特に、エンジンが前輪の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジンをエンジンルームに後方配置した場合に顕著になり、また、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度が小さいという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、車両の前部構造において、車両衝突によるバンパレインフォースメントのリペアビリティを改善すること、重量物であるバンパレインフォースメントの重心位置を後退させること、フロントオーバーハングを部分的に短縮すること、車両のヨー慣性モーメントを低減すること、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させること、エンジンルームの前後方向のデッドスペースを縮小すること、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度を向上させること、等である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の車両の前部構造は、車室の前端を仕切るダッシュパネルと、このダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレームと、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントを覆うバンパ部材とを備えた車両の前部構造であって、前記バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなることを特徴とする。
【0013】
バンパレインフォースメントが車幅方向に分割された複数のバンパレイン分割部からなるため、車両衝突(前突)によって、バンパレインフォースメントが損傷しても、複数のバンパレイン分割部の全てが損傷する虞は低く、そして、複数のバンパレイン分割部は夫々が取替え可能であるため、損傷したバンパレイン分割部のみを新たなバンパレイン分割部に取替えて、バンパレインフォースメントを修復できる。
【0014】
請求項1の従属請求項として次の構成を採用可能である。
前記バンパレインフォースメントは、前記複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有する(請求項2)。前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有する(請求項3)。
【0015】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有する(請求項4)。前記1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部が夫々連結される(請求項5)。前記バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部が中間クロスメンバに連結される(請求項6)。
【0016】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結される(請求項7)。前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結される(請求項8)。前記バンパ部材は、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有する(請求項9)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなるので、車両衝突(前突)によって、バンパレインフォースメントが損傷しても、複数のバンパレイン分割部の全てが損傷する虞は低く、損傷したバンパレイン分割部のみを新たなバンパレイン分割部に取替えて、バンパレインフォースメントを修復することができ、つまりは、車両衝突によるバンパレインフォースメントのリペアビリティを改善することができ、バンパレインフォースメントの修理費用を抑制することができる。
【0018】
請求項2の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントは、複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有するので、バンパレインフォースメントの組付け性を著しく悪化させず、車両衝突によるリペアビリティを改善するのに適当な数のバンパレイン分割部でバンパレインフォースメントを構成することができる。
【0019】
請求項3の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有するので、重量物であるバンパレインフォースメントの重心位置を後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、故に、車両のヨー慣性モーメントを低減でき、車両の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させ、また、エンジンルームの前後方向のデッドスペースを縮小でき、車両の前外装面を形成するバンパ部材の形状を含むデザインの自由度を向上させることができる。
【0020】
請求項4の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有するので、バンパレインフォースメントの重心位置を一層後退させて、車幅方向両端部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、車両のヨー慣性モーメントの低減、車両の操縦安定性の向上、バンパ部材のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0021】
請求項5の車両の前部構造によれば、1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンを取付け、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部を夫々連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が一層向上する。
【0022】
請求項6の車両の前部構造によれば、バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部を中間クロスメンバに連結したので、この中間クロスメンバにより、車両の車体捩じれ剛性を高めるとともに、バンパレイン分割部を支持する支持剛性を高め、車両衝突時、バンパレイン分割部に入力された衝突荷重は、フロントサイドフレームにその前端側から伝達されるとともに、中間クロスメンバに伝達され中間クロスメンバからフロントサイドフレームの長さ方向途中部に伝達され、故に、バンパレイン分割部からの衝突荷重の分散性を高くして、バンパレイン分割部が不適切に折曲がる等して損傷することを防止し、衝撃吸収性能と共に衝突安全性を向上させ、また、中間クロスメンバを種々の車両装備品を連結支持するために有効利用することもできる。
【0023】
請求項7の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとを、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部に対して個別に1対の中間クラッシュカンを設けることで、各バンパレイン分割部に対して十分な衝撃吸収性能が発揮し得るように構成することができる。
【0024】
請求項8の車両の前部構造によれば、1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとを、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部に対して共通に中間クラッシュカンを設けることで、構造を簡単化することができる。
【0025】
請求項9の車両の前部構造によれば、バンパ部材は、1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有するので、バンパ部材の車幅方向中央部分を後方へ凹ませて、バンパ部材のデザイン性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の車両の前部構造は、車室の前端を仕切るダッシュパネル、ダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレーム、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメント、バンパレインフォースメントを覆うバンパ部材を備え、バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなる。
【実施例】
【0027】
図1〜図3に示すように、車両1(自動車1)は、左右1対の前輪2、左右1対の後輪3を備え、車両1の前部のエンジンルーム4にパワートレインであるエンジン5を搭載し、このエンジン5により後輪3を駆動するFR車である。
【0028】
図1〜図5に示すように、車両1の前部構造20は、車室6の前端を(車室6とエンジンルーム4とを)仕切るダッシュパネル21、ダッシュパネル21から前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレーム22、1対のフロントサイドフレーム22の前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメント23(以下、バンパレイン23という)、バンパレイン23を覆うバンパ部材24、バンパレイン23の後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレーム22に架着された中間クロスメンバ25を備えている。
【0029】
ダッシュパネル21の下端部には、車室6のフロアを形成するフロアパネル7の前端部が結合され、フロアパネル7の車幅方向両端部に左右1対のサイドシル8が結合されている。1対のフロントサイドフレーム22の後端部分は、ダッシュパネル21の前面に沿って下方へ延び、ダッシュパネル21の下端部において、フロアパネル7の下面に結合されて前後方向へ延びる左右1対のフロアフレーム9の前端部に結合されている。
【0030】
車室6には、ダッシュボード10、ステアリングホイール11、左右1対の前席12、左右1対の後席13等が配設され、車室6の少なくとも前席12の外側方がサイドドア14(図4参照)により開閉される。尚、図4の符号15は左右1対のヘッドランプ、図4の符号16は左右1対のサイドミラーである。
【0031】
車両1の前部構造20について詳しく説明する。
エンジンルーム4は、ダッシュパネル21、ダッシュパネル21に結合された左右1対のフロントエプロン部材30、バンパ部材24等で囲まれた部分に形成され、ボンネット31により開閉される。ボンネット31は、その後端部がダッシュパネル21の上端側のカウル部材(図示略)にヒンジ結合され、その後端部を中心に上下に回動され開閉する。
【0032】
1対のフロントサイドフレーム22の前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカン26が取付けられ、また、中間クロスメンバ25の車幅方向中央側部分の前端部に衝突荷重を吸収可能な左右1対の中間クラッシュカン27が取付けられ、これらクラッシュカン26,27にバンパレイン23が連結されている。
【0033】
バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23であって、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右対称の1対のバンパレイン分割部L23,R23からなる。
【0034】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、フロントサイドフレーム22との(フロントサイドフレーム22と連結される)連結部23aを有するとともにフロントサイドフレーム22の前側に位置するフレーム前側部23b、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23a(フレーム前側部23b)の間に位置する車幅方向中間部23c、連結部23a(フレーム前側部23b)よりも車幅方向外側に位置する車幅方向外側部23dを有する。
【0035】
フレーム前側部23bは、バンパレイン23の最前端部分であり、このフレーム前側部23bの前端面は、前方へ向くように形成されている。車幅方向中間部23cは、全体的に連結部23aよりも後退するように形成され、フロントサイドフレーム22の前端部よりも後方に位置するように後退させた中間後退部23eを有する。
【0036】
車幅方向中間部23cは、フレーム前側部23bから車幅方向内方且つ後方へ略ストレートに延び、この傾斜部分の後端部から少し車幅方向内方へ張出した形状に形成され、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cは、それら後端部の車幅方向内端面同士を車幅方向から接近対向させて、平面視にて後方凸(前方開)の略V字形状に形成されている。
【0037】
車幅方向中間部23cの後端部分とその近傍部が中間後退部23eとなり、この中間後退部23eから後方へ少し隔てて中間クロスメンバ25が配置され、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向内端部(中間後退部23e)が、1対のバンパレイン分割部L23,R23に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して中間クロスメンバ25に連結されている。
【0038】
車幅方向外側部23dは、フレーム前側部23bから車幅方向外方且つ後方へ略ストレートに延びるように形成されて、連結部23aよりも後方に位置するように後退させた外側後退部23fを有する。
【0039】
以上のように、バンパレイン23は、1対のバンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23b、車幅方向中間部23c、車幅方向外側部23dにより平面視にて車幅方向へ引き延ばしたようなM字形状に近い形成されている。尚、各バンパレイン分割部L23,R23は、例えば、ハイドロフォーム成形により、或いは、2部材を結合して、閉断面構造に構成されている。尚、各バンパレイン分割部L23,R23として、断面コ字状の開断面構造のバンパレイン分割部を採用してもよい。
【0040】
バンパ部材24は、1対のフロントエプロン部材30及びボンネット31から略連続するように前方へ延びて車両1の前外装面を形成し、このバンパ部材24のうちバンパレイン23(1対のバンパレイン分割部L23,R23)の前側に位置する部分は、全体的にバンパレイン23に沿った形状に形成されている。
【0041】
即ち、バンパ部材24は、1対のバンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23b、車幅方向中間部23c、車幅方向外側部23dに夫々対応する、1対のバンパ部材フレーム前側部24b、バンパ部材車幅方向中間部24c、1対のバンパ部材車幅方向外側部24dを有し、バンパ部材車幅方向中間部24cは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cに沿って後退させて、これら中間後退部23eに対応するバンパ部材中間後退部24eを有する。
【0042】
エンジン5は、エンジンルーム4において、ダッシュパネル21の前方且つ中間クロスメンバ25の後方且つ1対のフロントサイドフレーム22の間に、その大部分がフロントサイドフレーム22の上端よりも下方位置となるように配設されている。ダッシュパネル21の車幅方向中央部分に後方へ凹む凹部21aが形成され、この凹部21aにエンジン5の後端部が収容されて、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するようにエンジンルーム4に後方配置されている。
【0043】
エンジン5の駆動力は、トランスミッション40、プロペラシャフト41、差動装置42、左右1対の後輪車軸43を介して1対の後輪3に伝達され、トランスミッション40、プロペラシャフト41等は、フロアパネル7の車幅方向中央部に形成された上方凸のトンネル部(図示略)の内部(下面側)に配設されている。
【0044】
エンジンルーム4の下端側には、フロントサスペンション(図示略)を支持するサスペンションクロスメンバ45、前輪2を操舵する為のパワーステアリング装置46、ラジエータとクーリングファンを有するクーリングユニット47が配設されている。
【0045】
クーリングユニット47は、1対のフロントサイドフレーム22間の距離と略同じ車幅方向幅を有し、フロントサイドフレーム22よりも下方位置であって、バンパレイン23の中間後退部23e及び中間クロスメンバ25の下側において、サスペンションクロスメンバ45、パワーステアリング装置46と干渉しないように後傾姿勢で配置されている。
【0046】
尚、図示省略するが、バンパ部材24に、少なくともクーリングユニット47のラジエータを冷却するために、走行風を導入するエア導入口を形成し、更に、このエア導入口からクーリングユニット47に走行風を導くエアダクトを配設してもよい。尚、エンジンルーム4には、図示略のオイルクーラ、エアクリーナ、バッテリ等の車両装備品が所定の配置で配設される。
【0047】
以上説明した車両1の前部構造20によれば次の効果を奏する。
バンパレイン23は、1対のバンパレイン分割部L23,R23を有し、この1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、1対のフロントサイドフレーム22との連結部23aの間に連結部23aよりも後退させた車幅方向中間部23cを有するので、連結部23aの位置を後退させるのに限界があっても、重量物であるバンパレイン23の重心位置を後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、故に、車両1のヨー慣性モーメントを低減でき、車両1の操縦安定性(ハンドリング性能)を向上させることができ、また、エンジンルーム4の前後方向のデッドスペースを縮小でき、車両1の前外装面を形成するバンパ部材24の形状を含むデザインの自由度を向上させることができる。
【0048】
特に、この車両1では、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するように且つ低重心にてエンジンルーム4に後方配置されることで、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上を実現しているが、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cにより、こうした改善を更に図ることができ、また、エンジン5の前記後方配置により、従来のバンパレインでは、エンジンルーム4に前後方向のデッドスペースが大きくなり易いが、このデッドスペースを確実に縮小しつつ、上記効果を発揮できる。
【0049】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、車幅方向中間部23cに、フロントサイドフレーム22の前端部よりも後方に位置するように後退させた中間後退部23eを有するので、バンパレイン23の重心位置を一層後退させて、車幅方向中央部分におけるフロントオーバーハングの短縮、車両1のヨー慣性モーメントの低減、車両1の操縦安定性の向上、バンパ部材24のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0050】
1対のバンパレイン分割部L23,R23は、夫々、連結部23aよりも車幅方向外側部23dに、連結部23aよりも後方に位置するように後退させた外側後退部23fを有するので、バンパレイン23の重心位置を一層後退させて、車幅方向両端部分におけるフロントオーバーハングを短縮でき、車両1のヨー慣性モーメントの低減、車両1の操縦安定性の向上、バンパ部材24のデザインの自由度の向上を更に図ることができる。
【0051】
1対のフロントサイドフレーム22の前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカン26を取付け、この1対のクラッシュカン26に1対のバンパレイン分割部L23,R23を夫々連結したので、更に、1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して夫々連結したので、衝撃吸収性能を高めて衝突安全性の向上させることができる。
【0052】
バンパレイン分割部L23,R23の最前端部分であるフレーム前側部23bに連結部21aを有するので、連結部21aの位置を従来の位置よりも後退させずに、バンパレイン23の重心位置を後退させて、フロントオーバーハングを部分的に短縮でき、また、衝突発生時には、バンパレイン分割部L23,R23のフレーム前側部23bから衝突加重が入力されることが多く、故に、クラッシュカン26の機能を確実に発揮させて衝突安全性を向上させることができる。
【0053】
バンパ部材24は、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cに沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部24cを有するので、更に、このバンパ部材車幅方向中間部24cは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の中間後退部23eに沿って後退させた中間後退部24eを有するので、バンパ部材24の車幅方向中央部分を後方へ凹ませて、バンパ部材24のデザイン性を高めることができる。
【0054】
ダッシュパネル21の前方且つ1対のフロントサイドフレーム22の間にパワートレインであるエンジン5を配設したので、エンジン5の低重心化を図って、車両1の操縦安定性を更に向上させ、また、エンジン5が前輪2の車軸位置よりも後方に位置するように、エンジン5をエンジンルーム4に後方配置する場合に有利になり、こうして、ヨー慣性モーメントの低減、操縦安定性の向上等を一層図ることが可能になる。
【0055】
バンパレイン23の後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレーム22に架着された中間クロスメンバ25を備え、1対のバンパレイン分割部L23,R24の車幅方向内端部を中間クロスメンバ25に連結したので、この中間クロスメンバ25により、車両1の車体捩じれ剛性を高めるとともに、バンパレイン分割部L23,R23を支持する支持剛性を高めることができる。
【0056】
即ち、車両衝突時、バンパレイン分割部L23,R23に入力された衝突荷重は、フロントサイドフレーム22にその前端側から伝達されるとともに、中間クロスメンバ25に伝達され中間クロスメンバ25からフロントサイドフレーム22の長さ方向途中部に伝達され、故に、バンパレイン分割部L23,R23からの衝突荷重の分散性を高くして、バンパレイン分割部L23,L24が不適切に折曲がる等して損傷することを防止し、衝撃吸収性能と共に衝突安全性を向上させ、また、中間クロスメンバ25を種々の車両装備品を連結支持するために有効利用することもできる。
【0057】
バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなるので、車両衝突(前突)によって、バンパレイン23が損傷しても、1対のバンパレイン分割部L23,R23の全て(両方)が損傷する虞は低く、損傷したバンパレイン分割部L23又はR23のみを新たなバンパレイン分割部L23又はR23に取替えて、バンパレイン23を修復することができ、つまりは、車両衝突によるバンパレイン23のリペアビリティを改善することができ、バンパレイン23の修理費用を抑制することができる。
【0058】
バンパレイン23が、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部L23,R23からなるので、バンパレイン23の組付け性を著しく悪化させず、車両衝突によるリペアビリティを改善するのに適当な数(1対)のバンパレイン分割部L23,R23でバンパレイン23を構成することができる。
【0059】
1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを、1対のバンパレイン分割部L23,R23に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカン27を介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部L23,R23に対して個別に1対の中間クラッシュカン27を設けることで、各バンパレイン分割部L23,R23に対して十分な衝撃吸収性能を発揮し得るように構成することができる。
【0060】
次に、前記メイン実施例の構成を部分的に変更した車両の前部構造について説明する。但し、前記メイン実施例と同一又は類似する構成については、同一符号又は類似符号を付して説明して、適宜、詳細な説明を省略し、前記メイン実施例と基本的に同じ効果については説明を省略する。
【0061】
1]図6に示すように、変形例1の車両の前部構造20Aでは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向内端部(中間後退部23e)が、1対のバンパレイン分割部L23,R23に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカン27Aを介して中間クロスメンバ25に連結されている。例えば、中間クラッシュカン27Aは、メイン実施例の各中間クラッシュカン27よりも車幅方向幅が大きく(例えば、2倍近くに)なるように構成されている。
【0062】
1対のバンパレイン分割部L23,R23と中間クロスメンバ25とを、1対のバンパレイン分割部L23,R23に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカン27Aを介して連結したので、衝撃吸収性能と共に衝突安全性が向上するが、この場合、1対のバンパレイン分割部L23,R23に対して共通に1つの中間クラッシュカン27Aを設けることで、構造を簡単化することができる。
【0063】
2]図7に示すように、変形例2の車両の前部構造20Bでは、バンパレイン23Bにおいて、左右1対のバンパレイン分割部L23B,R23Bが、夫々、メイン実施例のフレーム前側部23bの車幅方向内側半部と車幅方向中間部23cとに対応する内側バンパレイン分割部23B1と、メイン実施例のフレーム前側部23bの車幅方向外側半部と車幅方向外側部23dとに対応する外側バンパレイン分割部23B2からなる。
【0064】
即ち、バンパレイン23Bは、車幅方向に4分割されて夫々が取替え可能な4つのバンパレイン分割部23B1,23B2で構成され、各内側バンパレイン分割部23B1は、その車幅方向外端部がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結されるとともに、その車幅方向内端部が中間クラッシュカン27を介して中間クロスメンバ25に連結され、また、各外側バンパレイン分割部23B2は、その車幅方向内端部がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結されている。
【0065】
このように、バンパレイン23Bを4つのバンパレイン分割部23B1,23B2で構成することで、メイン実施例と比べた場合、車両衝突(前突)によって、1つのバンパレイン分割部23B1又は23B2のみが損傷する場合があり、そうなった場合、より小型になった1つのバンパレイン分割部23B1又は23B2のみを新たなバンパレイン分割部23B1又は23B2に取替えればよいため、車両衝突によるバンパレイン23Bのリペアビリティを一層改善することができる。
【0066】
3]図8〜図10に示すように、変形例3の車両の前部構造20Cでは、バンパ部材24Cにおいて、バンパ部材車幅方向中間部24Ccが、1対のバンパ部材フレーム前側部24bを含めて全体的に車幅方向に略ストレートに延びるように形成されている。
【0067】
バンパ部材車幅方向中間部24Ccには、ダウンフォースを発生させる為の走行風を導入するエア導入口24Chが形成されて、このエア導入口24Chにバンパグリル24Ciが装着されている。エア導入口24Chは、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23a(フレーム前側部23b)の間の前側に位置し、このエア導入口24Chとボンネット31の前端側に形成されたエア排出口50とを繋ぐエア通路51が、1対のバンパレイン分割部L23,R23の車幅方向中間部23cの前側から上側を通るように設けられている。エア通路51の上側に断面翼形状のスポイラー52が設けられ、このスポイラー52が、車両走行時、周知の翼理論によりダウンフォースを発生させる。
【0068】
この車両の前部構造20Cによれば、1対のバンパレイン分割部L23,R23の連結部23aの間の車幅方向中間部23cが連結部23aよりも後退するように形成されているため、前記のように、エア導入口24Chを1対の車幅方向中間部23cの前側に位置させて、エア通路51を1対の車幅方向中間部23cの前側から上側を通るように設けることができ、故に、スポイラー52を、ダウンフォースをより発生させ得る形状に形成して設けることができる。
【0069】
4]図11に示すように、変形例4の車両の前部構造20Dでは、バンパレイン23Dが車幅方向に略ストレートに延びるように形成され、バンパ部材24Dはこのバンパレイン23Dに沿った形状に形成されている。バンパレイン23は、車幅方向に2分割されて夫々が取替え可能な左右1対のバンパレイン分割部L23D,R23Dであって、1対のフロントサイドフレーム22に夫々連結された左右対称の1対のバンパレイン分割部L23D,R23Dからなる。
【0070】
各バンパレイン分割部L23D,R23Dは、その車幅方向外側部分がクラッシュカン26を介してフロントサイドフレーム22に連結され、その車幅方向内側部分が中間クラッシュカン27Dを介して中間クロスメンバ25Dに連結されている。中間クロスメンバ25Dは1対のフロントサイドフレーム22の前端近傍部に架着されている。
【0071】
5]変形例5として、図示省略するが、バンパレイン23については、メイン実施例のようにM字形状する必要はなく、例えば、車幅方向中間部を前側から後側に凹形に凹んだ形状にする、或いは、バンパレイン23の車幅方向中間部にフロントサイドフレーム22の前端よりも後退させた中間後退部を設けない等々、種々の構成を採用可能である。
【0072】
6]メイン実施例の各構成と変形例1〜5の各構成とを可能であれば組合わせて、車両の前部構造を構成してもよい。
【0073】
7]その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示事項以外の種々の構成を付加して実施可能であり、また、本発明については、実施例に開示の車両に限らず、FF車等の種々の車両に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】車両の前部構造を含む要部平の断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII −III 線断面図である。
【図4】車両の前部構造の前方斜め上側からの斜視図である。
【図5】車両の前部構造の要部の前方斜め上側からの斜視図である。
【図6】変形例1の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図7】変形例2の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図8】変形例3の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【図9】変形例3の車両の前部構造の前方斜め上側からの斜視図である。
【図10】変形例3の車両の前部構造の要部の縦断面図である。
【図11】変形例4の車両の前部構造の要部の平断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 車両
6 車室
20,20A,20B,20C,20D 前部構造
21 ダッシュパネル
22 フロントサイドフレーム
23,23B バンパレイン(バンパレインフォースメント)
L23,R23,23B1,23B2,L23D,R23D バンパレイン分割部
23c 車幅方向中間部
23d 車幅方向外側部
23f 外側後退部
24,24D バンパ部材
24c バンパ部材車幅方向中間部
25 中間クロスメンバ
26 クラッシュカン
27,27A 中間クラッシュカン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前端を仕切るダッシュパネルと、このダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレームと、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントを覆うバンパ部材とを備えた車両の前部構造であって、
前記バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記バンパレインフォースメントは、前記複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有することを特徴とする請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部が夫々連結されたことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、
前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部が中間クロスメンバに連結されたことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の車両の前部構造。
【請求項7】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の前部構造。
【請求項8】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の前部構造。
【請求項9】
前記バンパ部材は、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有することを特徴とする請求項2〜8の何れかに記載の車両の前部構造。
【請求項1】
車室の前端を仕切るダッシュパネルと、このダッシュパネルから前方へ延びる左右1対のフロントサイドフレームと、1対のフロントサイドフレームの前端側に架着された車幅方向に長いバンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントを覆うバンパ部材とを備えた車両の前部構造であって、
前記バンパレインフォースメントは、車幅方向に分割されて夫々が取替え可能な複数のバンパレイン分割部からなることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記バンパレインフォースメントは、前記複数のバンパレイン分割部として、1対のフロントサイドフレームに夫々連結された左右1対のバンパレイン分割部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、1対のフロントサイドフレームとの連結部の間に前記連結部よりも後退させた車幅方向中間部を有することを特徴とする請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記1対のバンパレイン分割部は、夫々、前記連結部よりも車幅方向外側部に、前記連結部よりも後方に位置するように後退させた外側後退部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記1対のフロントサイドフレームの前端部に衝突荷重を吸収可能な1対のクラッシュカンが取付けられ、この1対のクラッシュカンに1対のバンパレイン分割部が夫々連結されたことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記バンパレインフォースメントの後側において車幅方向に延びて1対のフロントサイドフレームに架着された中間クロスメンバを備え、
前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向内端部が中間クロスメンバに連結されたことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の車両の前部構造。
【請求項7】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に夫々対応して設けられ衝突荷重を吸収可能な1対の中間クラッシュカンを介して連結されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の前部構造。
【請求項8】
前記1対のバンパレイン分割部と中間クロスメンバとが、1対のバンパレイン分割部に共通に設けられ衝突荷重を吸収可能な1つの中間クラッシュカンを介して連結されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の前部構造。
【請求項9】
前記バンパ部材は、前記1対のバンパレイン分割部の車幅方向中間部に沿って後退させたバンパ部材車幅方向中間部を有することを特徴とする請求項2〜8の何れかに記載の車両の前部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−184630(P2009−184630A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29401(P2008−29401)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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