説明

車両の前部車体構造

【課題】アッパノーズ部により空力特性の向上を図り、かつ、表示部をアッパノーズ部またはフロントノーズ部に設けて、表示部で表示される情報視認時の視線移動が少なく、安全性上良好であり、情報視認性の向上を図り得る車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】フロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を備え、アッパノーズ部56とフロントノーズ部50との何れか一方に、車室2内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部70を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、このフロントノーズ部と連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、この中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネル(フロントウインドガラス)と、を備えたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両の空力特性を向上させるためには、車両前方から後方に傾斜して延びるノーズパネルの高さ位置を低く設定すると共に、このノーズパネルの前端部上方にスポイラを配設するとよいことが知られている。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示されているように、傾斜した上面を有して配設されたノーズパネルと、このノーズパネルの傾斜上面から上方に離間して配設されたバンパ部材(フローティングタイプのスポイラ)とを具備し、このバンパ部材がスポイラ機能を有するように形成したものがある。
この特許文献1に開示された従来構造によれば、車両前部構造を低ノーズ化して、ボンネットラインを低く抑え、上記バンパ部材にスポイラとしての機能を発揮させながら、ノーズパネルとバンパ部材との間の開口から導入した走行風を、ボンネット、フロントガラス、ルーフに沿って流し、空力抵抗の低減を図って、空力特性の向上を図ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、ノーズパネルと、該ノーズパネルの上方に配置されスポイラ機能を備えたバンパ部材(フローティングタイプのスポイラ)との間に開口を有する車両において、上述のバンパ部材の下側に、走行風導入用の開口を設け、走行風を有効利用して、エンジンルームの冷却、オイルクーラの冷却、またはエンジンへの吸気導入を行なうように構成したものが開示されている。
この特許文献2に開示された従来構造によれば空力特性の向上と、走行風の有効利用とを両立させることができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、車両の前端ノーズ部より上方に離間して車幅方向に延びるスポイラが配設された車両の前部車体構造において、上記スポイラには上方からの荷重を緩衝する緩衝部が設けられ、かつ、上記スポイラの下面と前端ノーズ部上面との間に走行風流入用の開口部を形成した構成が開示されている。
この特許文献3に開示された従来構造によれば、スポイラによる空力特性の確保と、緩衝部による歩行者保護との両立を図ることができる。
このような車両の前部車体構造においては、空力特性のさらなる向上と併せて、ドライバやパッセンジャに有用な表示情報の視認性向上が求められている。
【特許文献1】特開平5−69861号公報
【特許文献2】特開平9−86449号公報
【特許文献3】特開2001−138963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部を設け、このフロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部と上記フロントノーズ部との何れか一方に、車室内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部を設けることで、上記アッパノーズ部により空力特性の向上を図ることができ、しかも、表示部をアッパノーズ部またはフロントノーズ部に設けることにより、該表示部で表示される情報視認時の視線移動が少なく、安全性上良好であって、情報視認性の向上を図ることができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による車両の前部車体構造は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造であって、上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部と上記フロントノーズ部との何れか一方に、上記車室内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部を設けたものである。
上述の所定の情報は、スピードメータ、タコメータ、水温計、燃料計、油圧計などのメータ情報や、方向指示器情報や、半ドア、駐車ブレーキの戻し忘れ、冷却水不足、バッテリ液量不足、ウオッシャ液量不足、発電状態の異常、油圧低下、尾灯などのバルブの断線等のワーニング(warning)情報、その他の情報の少なくとも何れか1つに設定してもよい。
【0008】
上記構成によれば、フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を設けたので、このアッパノーズ部とフロントノーズ部との間には走行風が通過する通路が形成され、これにより、空力特性の向上を図ることができる。
しかも、上記表示部は、フロントウインドパネルよりもさらに車両前方に位置するアッパノーズ部またはフロントノーズ部に設けられているので、この表示部で表示される情報視認時の乗員の視線移動が少なく、安全性上良好であって、情報視認性の向上を図ることができる。
つまり、空力特性の向上と、情報視認性の向上と、の両立を図ることができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、上記表示部は上記車室からのみ視認を許容するように配設されたものである。
上記構成によれば、表示部は車室からのみ視認でき、車室以外の車両周辺からは目視不可であるため、安全性上、有利である。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記表示部を車幅方向に複数配設し、配設位置に対応した相応しい情報を表示するように構成したものである。
上記構成によれば、複数の表示部により、表示情報量の増大を図ることができ、また、表示情報のバリエーション増加をも図ることができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記車室内には少なくとも運転席と助手席とが設けられ、上記表示部には運転席乗員と助手席乗員に対応した相応しい情報を表示するように構成したものである。
上述の運転席乗員に対応した相応しい情報は、メータ情報や、方向指示器情報(つまり、ターンシグナル情報)や、ワーニング情報などの主要な情報に設定してもよく、助手席乗員に対応した相応しい情報は、オーディオ関係情報、空調関連情報、時刻情報、DVDその他の娯楽情報などの主要度合が低い情報に設定してもよい。
【0012】
上記構成によれば、ドライバに必要な情報と、パッセンジャに便利な情報とを、区別して表示することができ、また、運転席前方には主要な情報を表示し、助手席前方には主要度合が低い情報を表示することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記表示部に車両外部の死角情報を表示するように構成したものである。
上述の死角情報は、運転席乗員から本来なら目視不能なフロントバンパより斜め前方下方の撮像情報や車両コーナ部前方の撮像情報に設定してもよい。
上記構成によれば、上述の表示部に死角情報が表示されるので、安全性上有利となる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記フロントノーズ部とアッパノーズ部との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路を形成し、該整流通路の下面部を形成する整流下部面部と、上記中間ノーズ部上面と、上記フロントウインドパネル前面と、を所定の角度で略連続した形状に形成したものである。
【0015】
上記構成によれば、上述の整流通路の形成、並びに、整流下部面部と中間ノーズ部上面とフロントウインドパネル前面との所定角度での連続構造により、空力特性の向上を図ることができる。
また、上記所定角度により、ボンネットライン全体を低く設定することができるので、前方視認性の向上を図ることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記フロントノーズ部には上記表示部を保護する保護手段が設けられたものである。
上記構成によれば、上記保護手段により表示部に物が当たらないように保護することができるので、表示部の耐久性向上を図ることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記フロントウインドパネルの下方にはワイパが配設され、上記表示部は上記ワイパに向かう走行風量を低減するように上記フロントノーズ部の上面中央部に設けられたものである。
上記構成によれば、表示部で、ワイパに向かう走行風量を低減するので、ワイパが浮き上がるのを防止することができる。つまり、情報視認性向上と、ワイパ浮上り防止との両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部を設け、このフロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部と上記フロントノーズ部との何れか一方に、車室内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部を設けたので、上記アッパノーズ部により空力特性の向上を図ることができ、しかも、表示部をアッパノーズ部またはフロントノーズ部に設けることで、該表示部で表示される情報視認時の視線移動が少なく、安全性上良好であって、情報視認性の向上を図ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
空力特性の向上と、情報視認性の向上と、の両立を図るという目的を、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造であって、上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部と上記フロントノーズ部との何れか一方に、上記車室内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部を設けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0020】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は、車両の前部車体構造を示すが、まず、図1、図2、図3を参照して車両の全体構造について説明する。ここで、図1は車両の側面図、図2は車両の平面図、図3は車両の正面図である。
【0021】
図1において、エンジンルーム1と車室2とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル(ダッシュパネル)3を設け、このダッシュロアパネル3の下部には、後方に向けて略水平に延びるフロアパネル4を、一体または一体的に連設し、このフロアパネル4の後部には、上方に立上がるキックアップ部5および凹形状のリヤシートパン6を形成し、このリヤシートパン6にはバルクヘッド7を介してリヤフロア8(フロアパネル)を連設している。
【0022】
上述のフロアパネル4の車幅方向中央部には、車室2内へ突出して、車両の前後方向に延びるトンネル部9を設けている。このトンネル部9は、ダッシュロアパネル3とバルクヘッド7との間を車両の前後方向に延びており、該トンネル部9は車体剛性の中心となるものである。なお、このトンネル部9の上部には、該トンネル部9の上部に沿って前後方向に延びるトンネルメンバ(いわゆるハイマウントバックボーンフレーム)を設けてもよい。
【0023】
また、上述のフロアパネル4の左右両サイドには、図2、図3に示すように、車両の前後方向に延びるサイドシル10を接合固定している。このサイドシル10は、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ12とを接合して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面13を有する車体剛性部材である。
【0024】
さらに、図1、図2に示すように、ダッシュロアパネル3とキックアップ部5との前後方向中間部において、上述のフロアパネル4上には、トンネル部9の縦壁とサイドシルインナ11との間を車幅方向に連結する左右のフロアクロスメンバ14,14を設け、このフロアクロスメンバ14とフロアパネル4との間には、車幅方向に延びる閉断面15を形成している。
【0025】
図2に示すように、上述のトンネル部9とサイドシル10との間の車幅方向の中間部において、フロアパネル4の下部には、車両の前後方向に延びる左右一対のフロアフレーム16,16を接合固定して、このフロアフレーム16とフロアパネル4との間には、前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0026】
また、リヤフロア8の下部両サイドには、図1、図2に示すように、車両の前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム17,17を接合固定して、このリヤサイドフレーム17とリヤフロア8との間には、前後方向に延びる閉断面を形成すると共に、これら一対のリヤサイドフレーム17,17の前部を、サイドシル10の後部と車両前後方向にオーバラップする位置まで延設させている。
【0027】
一方、エンジンルーム1の左右両サイドを車両の前後方向に延びるフロントフレームとしての一対のフロントサイドフレーム18,18を設けている。これらフロントサイドフレーム18,18は図1に示すように、その後部がダッシュロアパネル3の前面に沿って下方に延び、該フロントサイドフレーム18の後端部は上述のフロアフレーム16の前端部に連結されていて、このフロントサイドフレーム18とフロアフレーム16とは、図2に示すように、車両の前後方向に連続するものである。
【0028】
また、左右一対のフロントサイドフレーム18,18間には、車幅方向に延びる閉断面構造のフロントクロスメンバ19(いわゆるNo.1.5クロスメンバ)を設ける一方、一対のフロントサイドフレーム18,18の前方には、クラッシュカン20,20を介して、車幅方向に延びるバンパレイン21を設けている。
このバンパレイン21の車幅方向中間部には後方に後退する中間後退部21Aを形成すると共に、バンパレイン21の両端部にも後方に後退するサイド後退部21B,21Cを形成し、該バンパレイン21の平面から見た全体形状をW字状と成している。そして、このバンパレイン21の中間後退部21Aと上述のフロントクロスメンバ19との間を、クラッシュカン22で連結している。
【0029】
図1〜図3に示すように、上述のフロントクロスメンバ19の近傍において、左右一対のフロントサイドフレーム18,18間には、後部にファン23を備えたラジエータ24を配設している。このラジエータ24は次に述べるエンジン25の前方に配設されたものである。
【0030】
ところで、図1、図2に示すように、エンジンルーム1内の後部およびトンネル部9の車外側には、エンジン25とトランスミッション26とから成るパワートレイン27を配設し、エンジン25を可及的車両中心部に後退配置して所謂フロント・ミッドシップ・エンジン車と成している。
【0031】
また、上述のトンネル部9の車外側には、トランスミッション26の出力を、リヤディファレンシャル装置28に伝達するプロペラシャフト29を設け、上述のリヤディファレンシャル装置28の差動出力を左右のドライブシャフト30,30(図2参照)を介して後輪31,31に伝達すべく構成して、FR(前部機関後輪駆動)タイプの車両と成している。
【0032】
一方、車室2内において、フロアクロスメンバ14と上下方向に対応する位置には、運転席シート32と助手席シート33とを車幅方向に並設している。これらの前列シートは、シートクッション34とシートバック35とをそれぞれ備えたバケットシート(セパレート・シート)である。
【0033】
また、車室2内において、リヤシートパン6と対応する位置には、リヤシート36を配設している。この後列シートは、シートクッション37とシートバック38とを備えたベンチタイプのシートである。
なお、図中、39はステアリングホイール、40はインストルメントパネル、41はステアリングラック、42はサブフレーム、43は前輪、44はリヤシートパン6の下部およびバルクヘッド7の後部に設けられた燃料タンクである。
【0034】
次に、車両の前部車体構造について詳述する。
図4は図1の要部拡大側面図、図5は車両前部の外観斜視図であって、この車両は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部50と、このフロントノーズ部50と連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部51と、この中間ノーズ部51の後方に設けられた車室2の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネル(フロントウインドガラスと同意、以下単にフロントウインドと略記する)52と、を備えている。
【0035】
図3に示すように、上述のフロントウインド52は、左右のフロントピラー53と、ルーフ部54の前端と、カウル部上端との間に形成されたフロントウインド開口を覆うもので、このフロントウインド52の下端部は、カウルパネル(図示せず)で支持される一方、図2に示すように、フロントウインド52の下方には該フロントウインド52を払拭する一対のワイパ55,55が設けられている。
【0036】
図3、図4に示すように、上述のフロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を設けている。このアッパノーズ部56は、エネルギ吸収可能なEA部材(エネルギ・アブソーバ部材)としての発泡ウレタン部材57と、この発泡ウレタン部材57の外部を覆う樹脂製の外皮58とから構成されていて、上下方向にエネルギ吸収可能に設けられている。
【0037】
図3に示すように、上述のアッパノーズ部56は、その車幅方向中央が上方に位置するなだらかな曲面形状に形成されており、アッパノーズ部56の車幅方向両サイド部は、フロントノーズ部50を介して、左右のフロントフェンダ59,59と連続するように構成されている。
【0038】
また、図3、図4に示すように、上述のフロントノーズ部50とアッパノーズ部56との間には、走行風を通過させて整流可能な整流通路60を形成している。すなわち、この実施例のアッパノーズ部56は、バンパ機能と、スポイラ機能と、歩行者保護機能とを兼ねるように構成している。
さらに、図4に示すように、上述の整流通路60の下面部を形成する整流下部面部60aと、上述の中間ノーズ部51上面と、上述のフロントウインド52前面とを、所定の角度で略連続した形状に形成している。
【0039】
この実施例では、上述の整流下部面部60aと、中間ノーズ部51上面と、フロントウインド52前面とを、図4に示すように、水平面(HOR)に対して約20度から25度の間の角度θで前低後高状に傾斜させている。
ここで上記角度θは20〜25度のうちで、22度が最も好ましい。また、上記角度θを20〜25度の範囲内に設定すると、空気抗力係数をCd=0.27だけ改善することができ、空力特性の向上を図ることができた。
【0040】
一方、車両を駆動するパワートレイン27、特にそのエンジン25は上述の中間ノーズ部51の下方に配設されており、エンジン25前方のスペース自由度の拡大を図るように構成している。すなわち、中間ノーズ部51の下方にエンジン25を配設することで、重量物としてのエンジン25を可及的車両中心側に寄せてレイアウトして、ヨー慣性モーメントの低減を図ることができるのは勿論、エンジン25よりも前方のスペース自由度の拡大を図って、フロントノーズ部50の高さや、傾斜角度などのレイアウトの自由度を確保すべく構成している。
【0041】
また、図3、図4に示すように、上述の一対のフロントサイドフレーム18,18は、フロントノーズ部50および中間ノーズ部51の下方に設けられており、一対のフロントサイドフレーム18,18の前方に設けられたバンパレイン21における中間後退部21Aは、上述のフロントノーズ部50の下方において後方に後退するように形成されており、この後退構造により、フロントノーズ部50の先端部の高さを低く設定して、低ボンネット化を図るように構成している。
さらに、図2で示したように、バンパレイン21の両端部にも後方に後退する左右のサイド後退部21B,21Cをそれぞれ形成することで、車両前部のデザインの自由度向上を図るように構成している。
【0042】
しかも、図1〜図5に示すように、フロントノーズ部50には、車室2内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部70を設けている。図4に示すように、この表示部70は整流通路60内の後部においてフロントノーズ部50の車幅方向中央部に設けたものであって、該表示部70は車室2からのみ視認できるように、その表示面70a(図6参照)を車室2に対向させて配置したものである。
【0043】
図6は上記表示部70の構成を示す斜視図で、この表示部70は上記表示面70aと、ハウジング71と、内部装置(図示せず)と、を備えている。また、図6は表示部70の表示の一例を示し、表示面70aの左右両部には、方向指示器情報a,bを表示し、中央部には車速情報cを表示するように構成している。
【0044】
図6で示した表示例に代えて、図4に示すように、フロントノーズ部50から前方かつ下部後方に回り込んだアンダカウル部に、運転席乗員から目視不能なフロントバンパより斜め前方下方を撮像するCCDカメラ72のような撮像手段を設け、この撮像手段で撮像した車両外部の死角情報を、上記表示面70aに表示するように構成してもよい。ここで、上記CCDカメラ72をバンパレイン21に取付け、上記アンダカウル部に開口を設け、この開口からCCDカメラ72を斜め下方に臨設してもよい。
【0045】
また、上述のフロントノーズ部50には上記表示部70を保護する保護手段が設けられている。この実施例では上述のアッパノーズ部56が表示部70を保護する保護手段を兼ねるように構成しており、別途保護手段を設けることなく、該アッパノーズ部56で表示部70を保護し、表示部70に物が当たらないように構成している。なお、図5において、61はリトラクタブル式のヘッドランプである。
【0046】
このように構成した車両の前部車体構造の作用について説明する。
車両の前進走行時、該車両には前方からの走行風が相対的に吹付けられ、この走行風は車体前部に当って、アッパノーズ部56の上側を吹抜ける風と、整流通路60内を吹抜ける風とに分れ、翼理論から風の吹抜け長さの短い面から長い面に向けて、押下げ力(いわゆる、ダウンフォース)が発生する。
【0047】
このため、アッパノーズ部56を備えた車両の前部車体構造は、全体的に路面に対して押付けられるような力を受け、前輪43,43の接地力が増加し、走行安定性が増す。このように上述のアッパノーズ部56による空力特性が確保され、車両の走行安定性の向上によって、走行性能が改善される。
【0048】
しかも、整流下部面部60aと、中間ノーズ部51上面と、フロントウインド52前面とを、水平面(HOR)に対して約20〜25度の間の角度θで前低後高状に傾斜させたので、空気抗力係数の改善により、空力特性をさらに向上させることができた。
【0049】
一方、図7に示すように、車両の歩行者X(例えば、子供)とが衝突した場合、歩行者Xの上体がアッパノーズ部56上に倒れるが、発泡ウレタン部材57と外皮58とから成るアッパノーズ部56が撓んで、その衝撃エネルギを吸収するので、歩行者保護を図ることができる。このアッパノーズ部56の撓みは、図7で示す断面構造の撓みと、図3示すアッパノーズ部56全体の撓みとの双方を意味する。
また、上記表示部70で表示される情報を車室2内から目視する時、インストルメントパネル40に表示部を設けるものと比較して、乗員の視線移動が少なくなるので、情報視認性の向上を図ることができる。
【0050】
このように図1〜図7で示した実施例の車両の前部車体構造は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部50と、該フロントノーズ部50に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部51と、該中間ノーズ部51の後方に設けられた車室2の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインド52と、を備えた車両の前部車体構造であって、上記フロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を備え、該アッパノーズ部56と上記フロントノーズ部50との何れか一方(この実施例では、フロントノーズ部50側)に、上記車室2内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部70を設けたものである(図4参照)。
【0051】
この構成によれば、フロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を設けたので、このアッパノーズ部56とフロントノーズ部50との間には走行風が通過する通路60が形成され、これにより、空力特性の向上を図ることができる。
しかも、上記表示部70は、フロントウインド52よりもさらに車両前方に位置するフロントノーズ部50に設けられているので、この表示部70で表示される情報視認時の乗員の視線移動が少なく、安全性上良好であって、情報視認性の向上を図ることができる。
つまり、空力特性の向上と、情報視認性の向上と、の両立を図ることができる。
【0052】
また、上記表示部70は上記車室2からのみ視認を許容するように配設されたものである(図4参照)。
この構成によれば、表示部70は車室2からのみ視認でき、車室2以外の車両周辺からは目視不可であるため、安全性上、有利である。
【0053】
さらに、上記表示部70に車両外部の死角情報を表示するように構成したものである(図4参照)。
ここで、上述の死角情報は、運転席乗員から本来なら目視不能なフロントバンパより斜め前方下方の撮像情報や車両コーナ部前方の撮像情報に設定してもよい。
この構成によれば、上述の表示部70に死角情報が表示されるので、安全性上有利となる。
【0054】
加えて、上記フロントノーズ部50とアッパノーズ部56との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路60を形成し、該整流通路60の下面部を形成する整流下部面部60aと、上記中間ノーズ部51上面と、上記フロントウインド52前面と、を所定の角度θで略連続した形状に形成したものである(図4参照)。
【0055】
この構成によれば、上述の整流通路60の形成、並びに、整流下部面部60aと中間ノーズ部51上面とフロントウインド52前面との所定角度θでの連続構造により、空力特性の向上を図ることができる。
また、上記所定角度θにより、ボンネットライン全体を低く設定することができるので、前方視認性の向上を図ることができる。
【0056】
さらに、上記フロントノーズ部50には上記表示部70を保護する保護手段(アッパノーズ部56参照)が設けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、上記保護手段(アッパノーズ部56参照)により表示部70に物が当たらないように、前方、上方、左右両側方から保護することができるので、表示部70の耐久性向上を図ることができる。
【0057】
図8は車両の前部車体構造の他の実施例を示す正面図であって、図8に示すこの実施例では、表示部70でワイパ55(図2参照)に向かう走行風量を低減するように、該表示部70をフロントノーズ部50の上面中央に設けたものである。
【0058】
図3に示した表示部70の車幅方向の長さに対して、図8の表示部70の車幅方向の長さを長く設定して、整流通路60を通る走行風を該表示部70により車幅方向中央側から車幅方向両サイド側に偏向させ、これにより、ワイパ55(図2参照)に向かう走行風量の低減を図るように構成している。
【0059】
このように、図8で示した実施例においては、上記フロントウインド52の下方にはワイパ55(図2参照)が配設され、上記表示部70は上記ワイパ55に向かう走行風量を低減するように上記フロントノーズ部50の上面中央部に設けられたものである。
この構成によれば、表示部70で、ワイパ55に向かう走行風量を低減するので、ワイパ55が浮き上がるのを防止することができる。つまり、情報視認性向上と、ワイパ浮上り防止との両立を図ることができるうえ、図3の実施例に対して、表示部70のワイド画面化を図ることができる。
【0060】
図8で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図8において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0061】
図9のa,bは表示部70の取付け構造の他の実施例を示し、図9のaに示す構造は、乗員のアイポイントと、表示部70とを結ぶライン、つまり、乗員の視線に対して表示部70の表示面70aが直交するように、該表示部70をフロントノーズ部50に取付けたものである。
【0062】
図9のbに示す構造は、整流通路60内の後部において、アッパノーズ部56の下面に、ブラケット73を介して、表示部70を取付けると共に、乗員の視線に対して表示部70の表示面70aが直交するように配設したものである。
【0063】
図9のa,bで示したように、乗員の視線に対して表示面70aを直交配置すると、情報視認性のさらなる向上を図ることができる。なお、図9のa,bで示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図9において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、図9において矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示す。
【実施例2】
【0064】
図10〜図13は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示し、図10は前部車体構造を示す側面図、図11は平面図、図12は正面図、図13は図10の要部拡大側面図である。
図10〜図13で示すこの実施例においては、表示部70,70を車幅方向に複数配設し、複数の表示部70,70の配設位置に対応した相応しい情報を表示するように構成している。
【0065】
詳しくは、2つの表示部70,70を設け、一方の表示部70を運転席シート32の前方対応部においてアッパノーズ部56の後端部に埋設し、他方の表示部70を助手席シート33の前方対応部においてアッパノーズ部56の後端部に埋設し、図13に示すように、これらの各表示部70が車室2からのみ視認可能となるように、その表示面70aをアッパノーズ部56の後端に臨設したものである。
しかも、表示部70,70には運転席乗員(つまり、ドライバ)と助手席乗員(つまり、パッセンジャ)に対応した相応しい情報を表示するように構成している。
【0066】
この実施例では、運転席シート32前方の表示部70には、メータ情報や、方向指示器情報や、ワーニング情報などの主要な情報の少なくとも1つを表示し、助手席シート33前方の表示部70には、オーディオ関係情報、空調関連情報、時刻情報、DVDその他の娯楽情報などの主要度合いが低い情報の少なくとも1つを表示するように構成している。
【0067】
このように、図10〜図13で示した実施例においては、上記表示部70を車幅方向に複数配設し、配設位置に対応した相応しい情報を表示するように構成したものである(図11、図12参照)。
この構成によれば、複数の表示部70,70により、表示情報量の増大を図ることができ、また、表示情報のバリエーション増加をも図ることができる。
【0068】
また、上記車室2内には少なくとも運転席シート32と助手席シート33とが設けられ、上記表示部70,70には運転席乗員(ドライバ)と助手席乗員(パッセンジャ)に対応した相応しい情報を表示するように構成したものである(図11参照)。
上述の運転席乗員に対応した相応しい情報は、メータ情報や、方向指示器情報や、ワーニング情報などの主要な情報に設定してもよく、助手席乗員に対応した相応しい情報は、オーディオ関係情報、空調関連情報、時刻情報、DVDその他の娯楽情報などの主要度合が低い情報に設定してもよい。
【0069】
この構成によれば、ドライバに必要な情報と、パッセンジャに便利な情報とを、区別して表示することができ、また、運転席シート32の前方には主要な情報を表示し、助手席シート33の前方には主要度合が低い情報を表示することができる。
【0070】
さらに、実施例で開示したように、左右一対の表示部70,70を、アッパノーズ部56の後端部に埋設し、その表示面70aのみを乗員に対向すべく該アッパノーズ部56後端に臨設すると、このアッパノーズ部56により表示部70を保護することができるうえ、表示部70が整流通路60を通過する走行風の空気抵抗とならないので、空力特性向上に有効となる。
なお、図10〜図13で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図10〜図13において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0071】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のフロントウインドパネルは、実施例のフロントウインド52に対応し、
以下同様に、
運転席は、運転性シート32に対応し、
助手席は、助手席シート33に対応し、
保護手段は、アッパノーズ部56に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す側面図
【図2】車両の前部車体構造を示す平面図
【図3】車両の前部車体構造を示す正面図
【図4】図1の要部拡大側面図
【図5】車両の外観構造を示す部分斜視図
【図6】表示部の斜視図
【図7】車両と歩行者が衝突した時の歩行者保護を示す説明図
【図8】車両の前部車体構造の他の実施例を示す正面図
【図9】表示部の取付け構造の他の実施例を示す説明図
【図10】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図11】図10の平面図
【図12】図10の正面図
【図13】図10の要部拡大側面図
【符号の説明】
【0073】
2…車室
32…運転席シート(運転席)
33…助手席シート(助手席)
50…フロントノーズ部
51…中間ノーズ部
52…フロントウインド(フロントウインドパネル)
55…ワイパ
56…アッパノーズ部(保護手段)
60…整流通路
60a…整流下部面部
70…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造であって、
上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、
該アッパノーズ部と上記フロントノーズ部との何れか一方に、上記車室内に乗車した乗員に対して所定の情報を表示する表示部を設けた
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記表示部は上記車室からのみ視認を許容するように配設された
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記表示部を車幅方向に複数配設し、配設位置に対応した相応しい情報を表示するように構成した
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記車室内には少なくとも運転席と助手席とが設けられ、
上記表示部には運転席乗員と助手席乗員に対応した相応しい情報を表示するように構成した
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記表示部に車両外部の死角情報を表示するように構成した
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記フロントノーズ部とアッパノーズ部との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路を形成し、
該整流通路の下面部を形成する整流下部面部と、上記中間ノーズ部上面と、上記フロントウインドパネル前面と、を所定の角度で略連続した形状に形成した
請求項1〜5の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
上記フロントノーズ部には上記表示部を保護する保護手段が設けられた
請求項1〜6の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項8】
上記フロントウインドパネルの下方にはワイパが配設され、
上記表示部は上記ワイパに向かう走行風量を低減するように上記フロントノーズ部の上面中央部に設けられた
請求項1または6記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−149143(P2009−149143A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327017(P2007−327017)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】