説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】HV−MT車について、運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上すること。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関とモータ(MG)とを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機と、摩擦クラッチとを備える。MGトルクが車両減速側の回生トルクに調整されている状態において、運転者によるクラッチペダル操作によりクラッチが完全分断状態に移行したとき(t2)、回生トルクの大きさが「ゼロより大きい微小値A」まで減少させられ、その後、微小値Aに維持される。クラッチの完全分断状態への移行に伴って回生トルクが直ちにゼロに調整される場合と比べて、回生により発生するより多くのエネルギーをバッテリに蓄えることができ(ドットで示した領域を参照)、エネルギー効率(燃費)が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、ハイブリッド車両であって、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。以下、内燃機関の出力軸のトルクを「内燃機関トルク」と呼び、電動機の出力軸のトルクを「電動機トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
HV−MT車では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続される構成について考察する。この構成では、変速作動等のためクラッチペダルが踏み込まれた状態(より具体的には、摩擦クラッチが完全分断状態にある間)において、電動機トルクに基づいてトルク(具体的には、車両加速方向の駆動トルク、及び車両減速方向の回生トルク)を駆動輪に伝達することができる。
【0005】
これに対し、手動変速機と摩擦クラッチとを備え且つ動力源として内燃機関のみを搭載した従前から広く知られた車両(以下、「通常MT車」と呼ぶ)の場合、摩擦クラッチが完全分断状態にある間、内燃機関トルクに基づいてトルクを駆動輪に伝達することができない。
【0006】
ところで、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたい(近づけたい)という要求がある。この要求を満たす観点からすれば、HV−MT車において、摩擦クラッチが完全分断状態にある間、電動機トルクをゼロに調整する(電動機トルクを駆動輪に伝達しない)ことが好ましいと考えられる。
【0007】
具体的には、例えば、電動機トルクに基づく車両減速方向のトルク(回生トルク)が発生している状態において変速作動の開始に伴ってクラッチペダルが踏み込まれた場合(摩擦クラッチが完全分断状態に移行した場合)、回生トルクを直ちにゼロに調整することが考えられる。また、このように回生トルクがゼロに調整されている状態において、変速作動の終了に伴ってクラッチペダルが戻された場合(摩擦クラッチが完全分断状態でない状態に移行した場合)、電動機トルクに基づく車両駆動方向のトルク(駆動トルク)を駆動輪に直ちに伝達開始することが考えられる。
【0008】
ところで、電動機が回生トルク(>0)を発生している間、電動機は発電機として機能し、回生トルクに基づく発電によって得られるエネルギーをバッテリに蓄えることができる。従って、上記のようにクラッチペダルが踏み込まれた場合(摩擦クラッチが完全分断状態に移行した場合)において回生トルクを直ちにゼロに調整することは、エネルギー効率の向上(燃費の向上)の観点からすれば好ましくない。
【0009】
他方、電動機が駆動トルク(>0)を発生している間、電動機はモータとして機能し、駆動トルクを発生するためにバッテリに蓄えられているエネルギーを消費する。従って、上記のようにクラッチペダルが戻された場合(摩擦クラッチが完全分断状態でない状態に移行した場合)において駆動トルクを駆動輪に直ちに伝達開始することは、エネルギー効率の向上(燃費の向上)の観点からすれば好ましくない。以上の問題は、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を最優先した結果に基づくものである。
【0010】
本発明の目的は、HV−MT車を対象とする動力伝達制御装置であって、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上することができるものを提供することにある。
【0011】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、手動変速機と、摩擦クラッチと、制御手段とを備える。
【0012】
手動変速機は、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機であって、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記手動変速機の前記出力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0013】
摩擦クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化するクラッチである。前記クラッチ操作部材の操作は、第2検出手段により検出される。
【0014】
制御手段は、前記内燃機関の出力軸のトルク(内燃機関トルク)、及び前記電動機の出力軸のトルク(電動機トルク)を制御する。前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていると判定されている場合、前記電動機トルクは、その大きさが前記加速操作部材の操作量に基づいて決定される基本電動機トルクに調整される。基本電動機トルクは、前記加速操作部材の操作量が所定量以上の場合に前記車両の加速方向の駆動トルクとなり、前記加速操作部材の操作量が前記所定量未満の場合に前記車両の減速方向の回生トルクとなる。加速操作部材の操作量は、第1検出手段により検出される。「前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていると判定されている場合」とは、具体的には、摩擦クラッチが完全分断状態でない状態(完全接合状態、或いは半接合状態)にあり、且つ、手動変速機がニュートラル以外の状態にあると判定されている状態を指す。「手動変速機のニュートラル以外の状態」とは、手動変速機の入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態を指す。
【0015】
本発明に係る動力伝達制御装置の特徴は、前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態から実現されていない状態に移行したと判定されたことに基づいて、回生トルク減少制御を実行することにある。回生トルク減少制御では、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさが前記基本電動機トルクの大きさからゼロより大きい所定の微小値まで減少させられ、その後、前記微小値に維持される。ここにおいて、前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記摩擦クラッチが完全分断状態でない状態から前記完全分断状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルク減少制御を開始することが好適である。「前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていないと判定されている場合」とは、具体的には、摩擦クラッチが完全分断状態にあるか、又は、手動変速機がニュートラル状態にあると判定されている状態を指す。「手動変速機のニュートラル状態」とは、手動変速機の入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が実現されていない状態を指す。
【0016】
本発明によれば、クラッチペダルが踏み込まれた場合(摩擦クラッチが完全分断状態に移行した場合)(或いは、手動変速機がニュートラル状態に移行した場合)、回生トルクの大きさがゼロではなく「ゼロより大きい微小値」まで減少させられ、その後、前記微小値に維持される。従って、上記のようにクラッチペダルが踏み込まれた場合(摩擦クラッチが完全分断状態に移行した場合)(或いは、手動変速機がニュートラル状態に移行した場合)において回生トルクが直ちにゼロに調整される場合と比べて、エネルギー効率(燃費)が向上する。加えて、クラッチペダルが踏み込まれた後も(摩擦クラッチが完全分断状態に移行した後も)(或いは、手動変速機がニュートラル状態に移行した後も)回生トルクが基本電動機トルクに維持される場合と比べて、HV−MT車の運転フィーリングが通常MT車の運転フィーリングにより近づく。即ち、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上することができる。
【0017】
上記本発明に係る装置においては、前記回生トルク減少制御の実行により前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさが前記微小値に維持された状態において前記摩擦クラッチの前記完全分断状態が前記回生トルク減少制御の開始から所定時間継続したと判定されたことに基づいて、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを前記微小値からゼロに向けて徐々に減少するように構成され得る。また、前記シフト操作部材のシフト位置が低速側にあるほど、前記車両の速度が大きいほど、又は、運転者により操作される前記車両を減速させるための減速操作部材の操作量が大きいほど、前記微小値をより大きい値に設定することが好適である。
【0018】
また、本発明に係る動力伝達制御装置の他の特徴は、回生トルク減少制御として、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを第1所定期間だけ前記基本電動機トルクの大きさに維持しその後ゼロまで減少する制御を実行することにある。これによっても、上述した回生トルク減少制御と同様の理由によって、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上することができる。
【0019】
また、本発明に係る動力伝達制御装置の他の特徴は、前記回生トルク減少制御の実行により前記電動機トルクの大きさがゼロに維持された状態において前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていない状態から実現されている状態に移行したと判定されたことに基づいて、電動機トルク復帰制御を実行することにある。電動機トルク復帰制御では、前記電動機トルクの大きさが第2所定期間だけゼロに維持され、その後、前記電動機トルクが前記基本電動機トルクに復帰される。ここにおいて、前記回生トルク減少制御の実行により前記電動機トルクの大きさがゼロに維持された状態において前記摩擦クラッチが完全分断状態から前記完全分断状態でない状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記電動機トルク復帰制御を開始することが好適である。
【0020】
本発明によれば、クラッチペダルが戻された場合(摩擦クラッチが完全分断状態でない状態に移行した場合)(或いは、手動変速機がニュートラル以外の状態に移行した場合)、電動機トルクが第2所定時間だけゼロに維持され、その後、電動機トルクが前記基本電動機トルクに復帰される。従って、上記のようにクラッチペダルが戻された場合(摩擦クラッチが完全分断状態でない状態に移行した場合)(或いは、手動変速機がニュートラル以外の状態に移行した場合)において駆動トルクを駆動輪に直ちに伝達開始する場合と比べて、エネルギー効率(燃費)が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を搭載したHV−MT車の概略構成図である。
【図2】図1に示した装置によって回生トルク減少制御が実行される際の一例を示したタイムチャートである。
【図3】図1に示した装置によって回生トルク減少制御及びMGトルク復帰制御が実行される際の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備えたハイブリッド車両であり、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと摩擦クラッチC/Tとを備える。即ち、この車両は、上述したHV−MT車である。
【0024】
エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0025】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。M/Tは、例えば、前進用の4つの変速段(1速〜4速)、及び後進用の1つの変速段(R)を備えている。M/Tは、ニュートラル状態となり得る。「M/Tのニュートラル状態」とは、M/Tの入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が実現されていない状態を指す。「M/Tのニュートラル以外の状態」とは、M/Tの入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態(具体的には、前進用又は後進用の変速段が選択されている状態)を指す。
【0026】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0027】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0028】
接合状態としては、完全接合状態、半接合状態、及び、完全分断状態が存在する。完全接合状態とは、滑りを伴わずに動力を伝達する状態を指す。半接合状態とは、滑りを伴いながら動力を伝達する状態を指す。完全分断状態とは、動力を伝達しない状態を指す。クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)が増大していくと、C/Tは、完全接合状態から半接合状態を経て完全分断状態へと移行する。
【0029】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0030】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、周知のギヤ列等を介してM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。以下、E/Gの出力軸のトルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸のトルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0031】
本装置は、クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量、クラッチストローク等)を検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、車輪の速度を検出する車輪速度センサS5と、を備えている。
【0032】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S5、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータ(図示せず)を制御することによりMGトルクを制御する。
【0033】
具体的には、EGトルクとMGトルクとの配分は、上述のセンサS1〜S5、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて調整される。EGトルク及びMGトルクの大きさはそれぞれ、主としてアクセル開度に基づいて調整される。特に、MGトルクは、本例では、センサS1の出力に基づいてC/Tが完全分断状態でない状態(即ち、完全接合状態及び半接合状態)にあると判定されている場合、基本MGトルクに調整される。
【0034】
基本MGトルクは、アクセル開度が所定値(>0)以上の場合に車両の加速方向のトルク(駆動トルク)となり、アクセル開度が前記所定値未満の場合に車両の減速方向のトルク(回生トルク)となる。基本MGトルクの大きさはアクセル開度に基づいて決定される。具体的には、駆動トルクとしての基本MGトルクの大きさは、アクセル開度が前記所定値から増大するにつれてゼロから増大する。回生トルクとしての基本MGトルクの大きさは、アクセル開度が前記所定値からゼロに向けて減少するにつれてゼロから増大する。前記所定値は、一定であってもよいし、車速等に応じて異ならせてもよい。前記所定値は、事前に実験等を通して最適値に決定され得る。
【0035】
M/Gが回生トルク(>0)を発生している間、M/Gは発電機として機能し、回生トルクに基づく発電によって得られるエネルギーをバッテリ(図示せず)に蓄えることができる。他方、M/Gが駆動トルク(>0)を発生している間、M/Gはモータとして機能し、駆動トルクを発生するためにバッテリ(図示せず)に蓄えられているエネルギーを消費する。
【0036】
(回生トルク減少制御、及びMGトルク復帰制御)
上述したように、本装置では、M/Gの出力軸がM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。従って、変速作動等のためクラッチペダルCPが踏み込まれた状態(C/Tが完全分断状態にある間)において、MGトルクに基づいてトルク(具体的には、駆動トルク又は回生トルク)を駆動輪に伝達することができる。
【0037】
これに対し、手動変速機と摩擦クラッチとを備え且つ動力源として内燃機関のみを搭載した従前から広く知られた車両(上述した通常MT車)の場合、摩擦クラッチが完全分断状態にある間、内燃機関のトルクに基づいてトルクを駆動輪に伝達することができない。
【0038】
HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたい(近づけたい)という要求がある。この要求を満たす観点からみれば、本装置において、C/Tが完全分断状態にある間、MGトルクをゼロに調整する(MGトルクを駆動輪に伝達しない)ことが好ましいと考えられる。
【0039】
以下、このことについて図2を参照しながら説明する。図2に示す例では、時刻t1以前にて、C/Tが完全接合状態に維持されている。また、時刻t1以前にて、アクセル開度がゼロに戻されることによりMGトルク(=基本MGトルク)が、駆動トルクから回生トルクへと移行している。このように、C/Tが完全接合状態に維持され、且つ、MGトルクに基づく回生トルク(=基本MGトルク)が発生している状態において、時刻t1にて、変速作動等のためにクラッチペダルCPの踏み込み操作が開始されている。これにより、時刻t1以降、CPの踏み込み操作の進行に伴ってC/Tは、完全接合状態から半接合状態へと移行し、時刻t2(点Q1を参照)以降、C/Tは、完全分断状態に維持されている。
【0040】
図2に示す例において、上述したように「C/Tが完全分断状態にある間、MGトルクをゼロに調整する」ことを達成するためには、C/Tが完全分断状態に移行する時刻t2以降、図2に破線で示すように、回生トルクの大きさを基本MGトルクの大きさから直ちにゼロに調整・維持することが考えられる。
【0041】
しかしながら、このようにC/Tが完全分断状態に移行した時点で回生トルクを直ちにゼロに調整することは、その直後から、回生トルクに基づく発電によって得られるエネルギーをバッテリに蓄えることができなくなることを意味する。従って、エネルギー効率の向上(燃費の向上)の観点からすれば好ましくない。
【0042】
そこで、本装置では、時刻t2以降、図2に実線で示すように、回生トルクの大きさが基本MGトルクの大きさから微小値A(>0)まで減少させられ(時刻t3を参照)、その後、微小値Aに維持される。C/Tの完全分断状態が、時刻t3から所定時間P1が経過した時刻t4まで継続した場合、時刻t4以降、回生トルクの大きさが微小値Aからゼロに向けて徐々に減少させられる。そして、時刻t4から所定時間P2が経過した時刻t5以降、回生トルクがゼロに維持される。なお、時刻t2以前にて、回生トルクの大きさが微小値A未満の場合、時刻t2以降、回生トルクの大きさは、前記「微小値A未満」の値に維持され得る。
【0043】
この結果、上記のように「時刻t2以降において回生トルクの大きさが直ちにゼロに調整される場合(図2の破線を参照)」と比べて、図2に微細なドットで示す領域に相当する分だけ多くのエネルギーをバッテリに蓄えることができる。即ち、エネルギー効率(燃費)が向上する。加えて、C/Tが完全分断状態に移行した後も回生トルクの大きさが基本MGトルクの大きさに維持され続ける場合と比べて、HV−MT車の運転フィーリングが通常MT車の運転フィーリングにより近づく。即ち、本装置によれば、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上することができる。
【0044】
微小値Aは、シフトレバーSLのシフト位置が低速側にあるほど、車速が大きいほど、又は、ブレーキペダルBPの操作量(踏力)が大きいほど、より大きい値に設定され得る。これにより、運転フィーリングを更に向上させることができる。
【0045】
なお、シフトレバーSLのシフト位置が低速側にあるほど、車速が大きいほど、又は、ブレーキペダルBPの操作量(踏力)が大きいほど、所定時間P1、或いは所定時間P2をより長く設定してもよい。
【0046】
次に、図3を参照しながら他の例について説明する。図3に示す例では、時刻t2にてC/Tが完全分断状態に移行した後においてC/Tが完全分断状態に維持される段階までは図2に示す例と同じである。図3に示す例では、その後、アクセル開度がゼロから増大するとともに、クラッチペダルCPの戻し操作が行われている。CPの戻し操作の進行に伴って、時刻t7(点Q2を参照)以降、C/Tは完全分断状態から半接合状態へと移行し、時刻t9以降、C/Tは完全接合状態に維持されている。なお、時刻t7では、アクセル開度が既に前記所定値を超えている(即ち、基本MGトルクが既に駆動トルクとして演算される)ものとする。
【0047】
図3に示す例において、上述したように「C/Tが完全分断状態にある間、MGトルクをゼロに調整する」ことを達成するためには、C/Tが完全分断状態に移行する時刻t2以降、図3に破線で示すように、回生トルクの大きさを基本MGトルクの大きさから直ちにゼロに調整・維持し、且つ、このように回生トルクの大きさがゼロに調整されている状態においてC/Tが完全分断状態でない状態に移行する時刻t7以降、図3に破線で示すように、MGトルクを基本MGトルク(=駆動トルク>0)に直ちに復帰することが考えられる。
【0048】
しかしながら、このようにC/Tが完全分断状態に移行した時点で回生トルクを直ちにゼロに調整することは、その直後から、回生トルクに基づく発電によって得られるエネルギーをバッテリに蓄えることができなくなることを意味する。加えて、C/Tが完全分断状態でない状態に移行した時点でMGトルクを直ちに基本MGトルクに復帰することは、その直後から、MGトルク(駆動トルク)を発生するためにバッテリに蓄えられているエネルギーを消費することを意味する。これらのことは、エネルギー効率の向上(燃費の向上)の観点からすれば好ましくない。
【0049】
そこで、本装置では、時刻t2以降、図3に実線で示すように、時刻t2から第1所定期間T1が経過した時刻t6まで回生トルクの大きさが基本MGトルクの大きさに維持され、その後、回生トルクを大きさがゼロに調整・維持される。加えて、本装置では、時刻t7以降、図3に実線で示すように、時刻t7から第2所定期間T2が経過した時刻t8までMGトルクの大きさがゼロに維持され、その後、MGトルクが基本MGトルク(=駆動トルク>0)に復帰される。
【0050】
この結果、上記のように「時刻t2以降において回生トルクの大きさが直ちにゼロに調整される場合(図3の破線を参照)」と比べて、図3に微細なドットで示す左側の領域に相当する分だけ多くのエネルギーをバッテリに蓄えることができる。加えて、「時刻t7以降においてMGトルクが基本MGトルクに直ちに復帰される場合(図3の破線を参照)」と比べて、図3に微細なドットで示す右側の領域に相当する分だけ消費するエネルギーを少なくすることができる。即ち、エネルギー効率(燃費)が向上する。加えて、C/Tが完全分断状態に移行した後も回生トルクの大きさが基本MGトルクの大きさに維持され続ける場合と比べて、HV−MT車の運転フィーリングが通常MT車の運転フィーリングにより近づく。即ち、本装置によれば、HV−MT車の運転フィーリングを通常MT車の運転フィーリングに一致させたいという要求を考慮しながらエネルギー効率(燃費)を向上することができる。
【0051】
時刻t6として、上述した「時刻t5から第1所定期間T1が経過した時点」に代えて、「時刻t5からクラッチのストロークが完全分断側に第1ストロークS1だけ進行した時点」が採用されてもよい。同様に、時刻t8として、上述した「時刻t7から第2所定期間T2が経過した時点」に代えて、「時刻t7からクラッチのストロークが完全接合側に第2ストロークS2だけ進行した時点」が採用されてもよい。
【0052】
第1所定期間T1(又は、第1ストロークS1)は、シフトレバーSLのシフト位置が低速側にあるほど、車速が大きいほど、又は、ブレーキペダルBPの操作量(踏力)が大きいほど、より長い期間(より大きい値)に設定され得る。これにより、運転フィーリングを更に向上させることができる。
【0053】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「内燃機関の出力軸と手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態」と「内燃機関の出力軸と手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていない状態」との判別が、「クラッチC/Tが完全接合状態にあるか否か」を判定することでなされているが、この判別が、「手動変速機M/Tがニュートラル状態にあるか否か」を判定することでなされてもよい。この場合、「M/Tがニュートラル状態にあるか否か」の判定は、シフト位置センサS2の検出結果に基づいてなされ得る。
【0054】
加えて、上記実施形態では、「クラッチC/Tが完全接合状態にあるか否か」の判定が、クラッチペダルCPの操作量(ストローク)を検出するクラッチ操作量センサS1に基づいてなされているが、この判定が、クラッチペダルCPの操作量(ストローク)が所定量未満ではオフ状態となり所定量以上ではオン状態となるスイッチに基づいてなされてもよい。
【符号の説明】
【0055】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、S4…ブレーキ操作量センサ、S5…車輪速度センサ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸に前記電動機の出力軸が接続され、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチと、
運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記クラッチ操作部材の操作を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関の出力軸のトルクである内燃機関トルク、及び前記電動機の出力軸のトルクである電動機トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていると判定されている場合において、前記電動機トルクを、その大きさが前記加速操作部材の操作量に基づいて決定される基本電動機トルクであって前記加速操作部材の操作量が所定量以上の場合に前記車両の加速方向の駆動トルクとなり前記加速操作部材の操作量が前記所定量未満の場合に前記車両の減速方向の回生トルクとなる基本電動機トルクに調整するように構成され、
前記制御手段は、
前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態から実現されていない状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを前記基本電動機トルクの大きさからゼロより大きい所定の微小値まで減少しその後前記微小値に維持する回生トルク減少制御を実行するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記摩擦クラッチが完全分断状態でない状態から前記完全分断状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルク減少制御を開始するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記回生トルク減少制御の実行により前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさが前記微小値に維持された状態において前記摩擦クラッチの前記完全分断状態が前記回生トルク減少制御の開始から所定時間継続したと判定されたことに基づいて、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを前記微小値からゼロに向けて徐々に減少するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記シフト操作部材のシフト位置が低速側にあるほど、前記車両の速度が大きいほど、又は、運転者により操作される前記車両を減速させるための減速操作部材の操作量が大きいほど、前記微小値をより大きい値に設定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸に前記電動機の出力軸が接続され、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチと、
運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記クラッチ操作部材の操作を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関の出力軸のトルクである内燃機関トルク、及び前記電動機の出力軸のトルクである電動機トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていると判定されている場合において、前記電動機トルクを、その大きさが前記加速操作部材の操作量に基づいて決定される基本電動機トルクであって前記加速操作部材の操作量が所定量以上の場合に前記車両の加速方向の駆動トルクとなり前記加速操作部材の操作量が前記所定量未満の場合に前記車両の減速方向の回生トルクとなる基本電動機トルクに調整するように構成され、
前記制御手段は、
前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態から実現されていない状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを第1所定期間だけ前記基本電動機トルクの大きさに維持しその後ゼロまで減少する回生トルク減少制御を実行するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸に前記電動機の出力軸が接続され、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチと、
運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記クラッチ操作部材の操作を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関の出力軸のトルクである内燃機関トルク、及び前記電動機の出力軸のトルクである電動機トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていると判定されている場合において、前記電動機トルクを、その大きさが前記加速操作部材の操作量に基づいて決定される基本電動機トルクであって前記加速操作部材の操作量が所定量以上の場合に前記車両の加速方向の駆動トルクとなり前記加速操作部材の操作量が前記所定量未満の場合に前記車両の減速方向の回生トルクとなる基本電動機トルクに調整するように構成され、
前記制御手段は、
前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている状態から実現されていない状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルクとしての前記電動機トルクの大きさを前記基本電動機トルクの大きさからゼロまで減少する回生トルク減少制御を実行し、
前記回生トルク減少制御の実行により前記電動機トルクの大きさがゼロに維持された状態において前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されていない状態から実現されている状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記電動機トルクの大きさを第2所定期間だけゼロに維持しその後前記電動機トルクを前記基本電動機トルクに復帰する電動機トルク復帰制御を実行するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機トルクが前記回生トルクとしての前記基本電動機トルクに調整されていて、且つ、前記摩擦クラッチが完全分断状態でない状態から前記完全分断状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記回生トルク減少制御を開始するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記回生トルク減少制御の実行により前記電動機トルクの大きさがゼロに維持された状態において前記摩擦クラッチが完全分断状態から前記完全分断状態でない状態に移行したと判定されたことに基づいて、前記電動機トルク復帰制御を開始するように構成された車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126271(P2012−126271A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280006(P2010−280006)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】