説明

車両の変速制御装置

【課題】この発明は、自動変速機の変速時に発生する車両の振動等の軽減を図り、その車両の振動等の発生を軽減するための装置の演算負荷の軽減も図ることを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンと、電動モータと、エンジントルク検出手段と、エンジン回転数検出手段と、モータトルク検出手段と、変速機入力トルク算出手段と、クラッチ油圧選択手段と、入力側回転数検出手段と、出力側回転数検出手段と、を備え、クラッチ油圧補正手段と、エンジントルク補正手段と、を備え、エンジントルクとモータトルクによって構成される変速機入力トルクの入力があって、自動変速機の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、エンジントルクが所定値未満であると判定された場合には変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正を行い、エンジントルクが所定値以上であると判定された場合にはエンジントルクの補正を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の変速制御装置に係り、特に、自動変速機の変速時に発生する車両の振動等の軽減を目的とした、車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行用の動力源として内燃機関型エンジン(以下、「エンジン」と記す。)と電力によって作動する電動モータとを搭載し、動力源からの出力を駆動軸に伝達するための自動変速機を備えた車両の変速制御装置においては、エンジンの出力するエンジントルクと電動モータの出力するモータトルクそれぞれに減速比もしくは増速比をかけた値を加算し、変速機入力トルクとしている。また、変速制御装置は、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップを用いて変速に使用するクラッチ油圧を演算している。そして、変速制御装置は、自動変速機の変速中の入力側回転数や車両振動などの挙動に応じて、クラッチ油圧を更新、学習している。
【0003】
エンジンと電動モータとを動力源とする車両の変速制御に関する従来技術としては、特許第3622338号公報(特許文献1)に開示されるものがある。
特許文献1に開示される変速制御装置は、高精度で応答性の良いモータジェネレータのトルク制御を行い、自動変速機の所定回転メンバの回転数を所定の目標回転数パターンに従って変化するようにモータジェネレータのトルクをフィードバック制御するものである。また、この変速制御装置には、自動変速機の出力トルクが目標トルクパターンに従って変化するようにモータジェネレータのトルクをフィードバック制御する技術も開示されている。これより、この変速制御装置は、変速ショックの少ない速切な変速制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3622338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記変速制御装置は、エンジントルクとモータトルクから変速機入力トルクを求めるために、エンジントルク検出手段からエンジントルク信号を入力し、モータトルク検出手段からモータトルク信号を入力している。
しかし、モータトルク信号の精度に対して、エンジントルク信号の精度は低い場合がある。これは、エンジントルクがエンジンの種々のパラメータに関連して変動する性質を持つためである。エンジントルクは、エンジン内部で燃料を燃やしてシリンダ内で得られた爆発力をエンジントルクとして取り出しているが、この爆発力は、例えばその時のエンジン回転数やスロットルバルブの開度等といった様々なパラメータの変化に影響を受けて変動する。
【0006】
これ対して、モータトルクは、電力によって電動モータを回転動作することによって得ている。電動モータヘの電力の供給があれば、ある程度想定したモータトルクが得られる。つまり、エンジントルクの方がモータトルクよりも車両のパラメータの変化に影響を受けやすいことから、モータトルク信号の精度に対してエンジントルク信号の精度は低い場合があるということになる。
しかも、エンジントルクとモータトルクの分担割合は電動モータに電力を供給するバッテリの充電状態に依存し、同じ変速機入力トルク値でも常時変動する。よって、変速時に想定挙動から外れていたとき、トルクの分担割合によって変速機入力トルクの精度が変わるため、信号値のトルクと実トルクが外れていたのか、それとも変速機入力トルクは正しいがクラッチ油圧値が外れていたのか区別が付かない。このため、変速制御装置は、精度よくクラッチ油圧を学習できず、エンジン回転数が所望する値以上に上昇するエンジンの吹け上がりが起こったり、自動変速機の変速ショックが発生したりする問題が発生する。
【0007】
また、上記特許文献1の変速制御装置は、常にモータジェネレータを用いて自動変速機の変速制御時における変速ショック等を軽減した変速制御を行う構成としており、モータジェネレータによる変速制御の補正の演算負荷が大きいものになっている。このため、変速制御装置としては、エンジンや自動変速機側でその変速ショックの原因を除去する構成とし、モータジェネレータによる変速制御補正の演算負荷を軽減できることが望ましい。
【0008】
この発明は、自動変速機の変速時に発生する車両の振動等の軽減を図り、その車両の振動等の発生を軽減するための装置の演算負荷の軽減も図ることを目的とした、車両の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、車両の動力源からの出力を駆動軸に伝達するための自動変速機を備えた車両の変速制御装置において、エンジンと、電動モータと、前記エンジンの出力トルクを検出するエンジントルク検出手段と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記電動モータの出力トルクを検出するモータトルク検出手段と、前記エンジントルクと前記モータトルクから前記自動変速機に入力される変速機入力トルクを求める変速機入力トルク算出手段と、前記変速機入力トルクの値に応じて前記自動変速機の変速に使用する前記自動変速機のクラッチ油圧を選択するクラッチ油圧選択手段と、前記エンジンおよび前記電動モータからの前記自動変速機への入力側の回転数を検出する入力側回転数検出手段と、前記自動変速機から車両の駆動輪への出力側の回転数を検出する出力側回転数検出手段と、を備え、前記変速機入力トルクに対する前記クラッチ油圧の補正を行うクラッチ油圧補正手段と、前記エンジントルクの補正を行うエンジントルク補正手段と、を備え、前記エンジントルクと前記モータトルクによって構成される前記変速機入力トルクの入力があって、前記自動変速機の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、前記エンジントルクが所定値未満であると判定された場合には前記クラッチ油圧補正手段が変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正を行い、前記エンジントルクが所定値以上であると判定された場合には前記エンジントルク補正手段がエンジントルクの補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の車両の変速制御装置は、変速機入力トルクを構成するモータトルクの値の大小に応じて、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの補正またはエンジントルク補正マップのいずれかの補正が必要であるかを判別でき、それらの補正を実施できる。
この発明の車両の変速制御装置は、変速機入力トルクを構成するモータトルクの値の大小に応じて変速機入力トルクの精度の良否を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は車両の変速制御装置の制御フローチャートである。(実施例)
【図2】図2は車両の変速制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図3】図3は変速機入力トルク−クラッチ油圧マップを示す図である。(実施例)
【図4】図4はエンジントルク補正マップを示す図である。(実施例)
【図5】図5は2速−3速変速時にエンジンが吹き上がるような変速状態となったエンジン回転数波形を示す図である。(実施例)
【図6】図6は2速−3速変速時に変速が早すぎるような変速状態となったエンジン回転数波形を示す図である。(実施例)
【図7】図7は3速−2速変速時に変速が早すぎるような変速状態となったエンジン回転数波形を示す図である。(実施例)
【図8】図8は3速−2速変速時にエンジンが吹き上がるような変速状態となったエンジン回転数波形を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図8は、この発明の実施例を示すものである。図2において、1は車両である。車両1は、動力源として、燃料の燃焼により駆動力を発生させる内燃機関型エンジン(以下「エンジン」と記す。)2と、電力により駆動力を発生する電動モータ3とを搭載し、自動変速機4を備えている。エンジン2及び電動モータ3からの駆動力は、自動変速機4により回転数・トルクを変換して差動装置5に出力され、左右の駆動軸6、7により左右の駆動輪8、9を回転させ、車両1を走行させる。
前記自動変速機3は、変速段を切り替える変速用クラッチ11を備えている。変速用クラッチ11は、変速用油圧装置12の供給するクラッチ油圧により係合、解放され、自動変速機3の変速段を切り換えて変速する。
【0014】
前記自動変速機3は、変速制御装置13により変速を制御される。
変速制御装置13は、入力側に、前記エンジン2の出力するエンジントルクを検出するエンジントルク検出手段14と、前記エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数検出手段15と、前記電動モータ3の出力するモータトルクを検出するモータトルク検出手段16と、前記エンジン2および電動モータ3からの自動変速機4への入力側の回転数を検出する入力側回転数検出手段17と、前記自動変速機4から車両1の駆動輪8、9への出力側の回転数を検出する出力側回転数検出手段18と、を備えている。
変速制御装置13は、内部に、変速機入力トルク算出手段19と、クラッチ油圧選択手段20と、エンジントルク選択手段21と、を備えている。変速機入力トルク算出手段19は、前記エンジントルク検出手段14が検出したエンジントルクと前記モータトルク検出手段16が検出したモータトルクから、自動変速機4に入力される変速機入力トルクを求める。クラッチ油圧選択手段20は、前記変速機入力トルク算出手段19が求めた変速機入力トルクの値に応じて、図3に示す変速機入力トルク−クラッチ油圧マップから自動変速機4の変速に使用する変速用クラッチ11のクラッチ油圧を選択する。エンジントルク選択手段21は、図4のエンジントルク補正マップから前記エンジン回転数検出手段15より求めたエンジン回転数に相当するエンジントルクを選択する。
また、変速制御装置13は、内部に、前記変速機入力トルク算出手段19が求めた変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正を行うクラッチ油圧補正手段22と、前記エンジントルク検出手段14が検出したエンジントルクの補正を行うエンジントルク補正手段23と、を備えている。
さらに、変速制御装置13は、内部に、変速挙動判定手段24と、補正手段実施判定手段25とを備えている。変速挙動判定手段24は、自動変速機4の変速時の挙動(例えば、変速中の入力側回転数や車両1の振動など)が想定する挙動であるかないかを判断する。補正手段実施判定手段25は、変速挙動判定手段24による自動変速機4の変速時の挙動が想定する挙動であるかないかの判断結果に基づいて、クラッチ油圧補正手段22によるクラッチ油圧補正の実施、不実施を判断するとともに、エンジントルク補正手段23によるエンジントルク補正の実施、不実施を判断する。
【0015】
車両1の変速制御装置13は、エンジントルク検出手段14が検出したエンジントルクとエンジントルク補正マップの補正値から補正エンジントルクを求め、求めた補正エンジントルクとモータトルク検出手段16が検出したモータトルクとから変速機入力トルクを求め(モータトルク+モータトルク=変速機入力トルク)、変速機入力トルクとクラッチ油圧のマップ(変速機入力トルク−クラッチ油圧マップ)から自動変速機3の変速に使用するクラッチ油圧を求める。
変速制御装置13は、自動変速機3の変速時の挙動を示す変速中の入力側回転数や車両1の振動などが想定から外れた場合、変速機入力トルクを構成するエンジントルクとモータトルクとの割合に基づいて変速機入力トルクの信頼性を判断し、その信頼性が高い場合(モータトルクの割合が大きい)は変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの油圧値を更新し、信頼性が低い場合(エンジントルクの割合が大きい)はエンジントルク補正マップの補正値を更新する。
これにより、従来の方法で問題であった変速機入力トルクが外れているのか、変速機入力トルクに対して変速に使用するクラッチ油圧が外れているのかを判断することができ、クラッチ油圧を精度良く補正および学習することができる。
【0016】
次に作用を説明する。
図1は、車両1の変速制御装置13による変速制御のフローチャートである。
変速制御装置13は、制御がスタートすると(S01)、エンジントルクTineとエンジン回転数Nineに基づいてエンジントルク補正マップ(図4)から補正値を選択して補正エンジントルTinecを演算し(S02)、補正エンジントルクTinecとモータトルクTinmとから変速機入力トルクTinを演算し(S03)、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップ(図3)により変速に使用するクラッチ油圧を選択する(S04)。
次に、変速時の挙動(変速中の入力側回転数や車両1の振動など)が想定する挙動であったかを判断する(S05)。この判断(S05)において、挙動が想定していた挙動でYESの場合は、何もせず制御をエンドとする(S06)。この判断(S05)において、挙動が想定していた挙動と違って、NOの場合は、エンジントルクTineが所定値Te未満であるかを判断する(S07)。
この判断(S07)において、エンジントルクTineが所定値Te未満でYESの場合は、変速機入力トルクTinは信頼性が高いとし、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの油圧値を更新し(S08)、制御をエンドにする(S06)。この判断(S07)において、エンジントルクTineが所定値Te以上でNOの場合は、変速機入力トルクTinの信頼度が低いとし、エンジントルク補正マップの補正値を更新し(S09)、制御をエンドにする(S06)。なお、所定値Teは、所定のエンジントルクである。所定値Teは、エンジン回転数の上昇に伴って上昇するように設定しても良い。
【0017】
前記変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの更新(S08)においては、エンジン2および電動モータ3から自動変速機4へ入力する入力側回転数(入力側回転数検出手段17)と、自動変速機4から車両1の駆動軸6、7へ出力する出力側回転数(出力側回転数検出手段18)から、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの油圧値を、想定した挙動からの外れ方に応じて更新する。一例として、(S04)において変速機入力トルクTinから求めたクラッチ油圧が小さいと判断された場合は、図3に破線で示すように、変速機入力トルクTin及びその前後のクラッチ油圧を高い側に更新する方法がある。
また、前記エンジントルク補正マップの更新(S09)においては、エンジントルク補正マップの補正値を、想定した挙動からの外れ方に応じて更新する。一例として、(S02)においてエンジントルク補正マップから求めた補正値(図4において「+α1」)と、その補正値の周辺の補正値(図4において「+α2」、「+α3」)を更新する方法がある。
図1に示すフローチャートの処理は、自動変速機3の変速制御中に所定のタイムサイクルで繰り返し実施される。初回のフロー処理時における図4のエンジントルク補正マップ内の数値は、いずれも0(ゼロ)である。エンジントルクTineが補正されるごとに、このエンジントルク補正マップ内に補正値が追加、更新されていく。なお、このエンジントルク補正マップ内の補正値の追加、更新は、その時のエンジントルクTineおよびエンジン回転数Nineの箇所のみでなく、その周囲のエンジントルクTineおよびエンジン回転数Nineの箇所にも補正値の追加、更新がなされる構成としても良い。さらに、これら補正値は、車両1の動力停止(イグニッションOFF)後にも維持される構成とすることが望ましい。
【0018】
図5〜図8には、変速が失敗と判定されるタイムチャートの一例と、それらの場合におけるエンジントルクおよび変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正方法について示す。
図5は、変速段が2速から3速に変速されたとき(2速−3速変速時)にエンジン2が吹き上がるような変速状態となり、変速に失敗したと判定される例である。この場合、エンジントルク補正値を上げる側に補正する、又は、2速変速用のクラッチ油圧を上げる側、3速変速用のクラッチ油圧を上げる側に(場合によっては一方のクラッチ油圧のみを上げる側)補正する。
図6は、変速段が2速から3速に変更されたとき(2速−3速変速時)に変速(回転同期)が早すぎるような変速状態となり、変速に失敗したと判定される例である。この場合、エンジントルク補正値を下げる側に補正する、又は、2速変速用のクラッチ油圧を上げる側、3速変速用のクラッチ油圧を下げる側に(場合によっては一方のクラッチ油圧のみを下げる側)補正する。
図7は、変速段が3速から2速に変更されたとき(3速−2速変速時)に変速(回転同期)が早すぎるような変速状態となり、変速に失敗したと判定される例である。この場合、エンジントルク補正値を上げる側に補正する、又は、2速変速用のクラッチ油圧を下げる側、3速変速用のクラッチ油圧を上げる側に(場合によっては一方のクラッチ油圧のみを上げる側)補正する。
図8は、変速段が3速から2速に変更されたとき(3速−2速変速時)にエンジン2が吹き上がるような変速状態となり、変速に失敗したと判定される例である。この場合、エンジントルク補正値を上げる側に補正する、又は、2速変速用のクラッチ油圧を上げる側、3速変速用のクラッチ油圧を上げる側に(場合によっては一方のクラッチ油圧のみを上げる側)補正する。
これにより、変速制御装置13は、次の変速で、今回の更新したエンジントルク補正マップと入力トルク−油圧マップとを用いて最適な変速制御を行うことができる。
【0019】
このように、車両1の変速制御装置13は、エンジントルクTineとモータトルクTinmによって構成される変速機入力トルクTinの入力があって、変速挙動判定手段24により自動変速機4の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、エンジントルクTineが所定値Te未満であると判定された場合にはクラッチ油圧補正手段22が変速機入力トルクTinに対するクラッチ油圧の補正を行い、エンジントルクTineが所定値Te以上であると判定された場合にはエンジントルク補正手段23がエンジントルクTineの補正を行う。
これにより、変速制御装置13は、変速機入力トルクTinを構成するモータトルクTinmの値の大小に応じて、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの補正またはエンジントルク補正マップのいずれかの補正が必要であるかを判別でき、それらの補正を実施できる。このため、変速制御装置13は、変速機入力トルクTinを構成するモータトルクTinmの値の大小に応じて、変速機入力トルクTinの精度の良否を判定できる。
また、変速制御装置13は、変速挙動判定手段24により自動変速機4の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、変速機入力トルクTinに占めるエンジントルクTineの割合が所定値未満であると判定された場合にはクラッチ油圧補正手段22が変速機入力トルクTinに対するクラッチ油圧の補正を行い、変速機入力トルクTinに占めるエンジントルクTineの割合が所定値以上であると判定された場合にはエンジントルク補正手段23がエンジントルクTineの補正を行う。
これにより、変速制御装置13は、変速機入力トルクTinを構成するエンジントルクTineおよびモータトルクTinmの割合に応じて、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップの補正またはエンジントルク補正マップのいずれかの補正が必要であるかを判別でき、それらの補正を実施できる。このため、変速制御装置13は、変速機入力トルクTinを構成するエンジントルクTineおよびモータトルクTinmの割合に応じて、変速機入力トルクTinの精度の良否を判定できる。
さらに、変速制御装置13においては、クラッチ油圧補正手段22は、補正が必要とされるクラッチ油圧に対応する変速機入力トルクTinの近傍の、変速機入力トルクTinに対応するクラッチ油圧の補正も行い、エンジントルク補正手段23は、補正が必要とされるエンジントルクTineに対応するエンジン回転数Nineの近傍の、エンジン回転数Nineに対応するエンジントルクTineの補正も行う。
これにより、変速制御装置13は、補正が必要とされる特定のクラッチ油圧または特定のエンジントルクTineの周囲の、クラッチ油圧またはエンジントルクTineも補正でき、補正の実施頻度を減らすことができ、装置の演算負荷の軽減を図ることができ、エンジン2の吹け上がりや変速ショックの発生を抑えることができる。
【0020】
なお、上述実施例においては、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップ(図3)とエンジントルク補正マップ(図4)を分けているが、二つを組み合わせた3次元間マップとしてもよい。また、エンジントルク補正マップは、エンジントルク補正値をエンジントルクとエンジン回転数から求めているが、入力側回転数、エンジン水温、アクセル開度等を加えて求めてもよい。さらに、エンジントルク補正マップは、必要に応じて変速用クラッチ11の各クラッチ毎、自動変速機3の変速毎に分けてもよい。
また、変速機入力トルクの信頼性を判断は、エンジントルクとモータトルクの割合等に変えてもよい。さらに、変速機入力トルク−クラッチ油圧マップとエンジントルク補正マップの更新は、エンジン2、自動変速機3が十分暖機されていることを条件として、十分暖機状況下でのみ実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明は、自動変速機の変速時に発生する車両の振動等の軽減を図り、その車両の振動等の発生を軽減するための装置の演算負荷の軽減も図ることができるものであり、駆動源としてエンジンと駆動モータを搭載した四輪車にかぎらず、二輪車に適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 車両
2 エンジン
3 電動モータ
4 自動変速機
5 差動装置
6、7 駆動軸
8、9 駆動輪
11 変速用クラッチ
12 変速用油圧装置
13 変速制御装置
14 エンジントルク検出手段
15 エンジン回転数検出手段
16 モータトルク検出手段
17 入力側回転数検出手段
18 出力側回転数検出手段
19 変速機入力トルク算出手段
20 クラッチ油圧選択手段
21 エンジントルク選択手段
22 変速機入力トルク算出手段
22 クラッチ油圧補正手段
23 エンジントルク補正手段
24 変速挙動判定手段
25 補正手段実施判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源からの出力を駆動軸に伝達するための自動変速機を備えた車両の変速制御装置において、エンジンと、電動モータと、前記エンジンの出力トルクを検出するエンジントルク検出手段と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記電動モータの出力トルクを検出するモータトルク検出手段と、前記エンジントルクと前記モータトルクから前記自動変速機に入力される変速機入力トルクを求める変速機入力トルク算出手段と、前記変速機入力トルクの値に応じて前記自動変速機の変速に使用する前記自動変速機のクラッチ油圧を選択するクラッチ油圧選択手段と、前記エンジンおよび電動モータからの前記自動変速機への入力側の回転数を検出する入力側回転数検出手段と、前記自動変速機から車両の駆動輪への出力側の回転数を検出する出力側回転数検出手段と、を備え、前記変速機入力トルクに対する前記クラッチ油圧の補正を行うクラッチ油圧補正手段と、前記エンジントルクの補正を行うエンジントルク補正手段と、を備え、前記エンジントルクと前記モータトルクによって構成される前記変速機入力トルクの入力があって、前記自動変速機の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、前記エンジントルクが所定値未満であると判定された場合には前記クラッチ油圧補正手段が変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正を行い、前記エンジントルクが所定値以上であると判定された場合には前記エンジントルク補正手段がエンジントルクの補正を行うことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
車両の動力源からの出力を駆動軸に伝達するための自動変速機を備えた車両の変速制御装置において、エンジンと、電動モータと、前記エンジンの出力トルクを検出するエンジントルク検出手段と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記電動モータの出力トルクを検出するモータトルク検出手段と、前記エンジントルクと前記モータトルクから前記自動変速機に入力される変速機入力トルクを求める変速機入力トルク算出手段と、前記変速機入力トルクの値に応じて前記自動変速機の変速に使用する前記自動変速機のクラッチ油圧を選択するクラッチ油圧選択手段と、前記エンジンおよび電動モータからの前記自動変速機への入力側の回転数を検出する入力側回転数検出手段と、前記自動変速機から車両の駆動輪への出力側の回転数を検出する出力側回転数検出手段と、を備え、前記変速機入力トルクに対する前記クラッチ油圧の補正を行うクラッチ油圧補正手段と、前記エンジントルクの補正を行うエンジントルク補正手段と、を備え、前記自動変速機の変速時の挙動が想定する挙動でないと判断された場合に、前記変速機入力トルクに占める前記エンジントルクの割合が所定値未満であると判定された場合には前記クラッチ油圧補正手段が変速機入力トルクに対するクラッチ油圧の補正を行い、前記変速機入力トルクに占める前記エンジントルクの割合が所定値以上であると判定された場合には前記エンジントルク補正手段がエンジントルクの補正を行うことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項3】
前記クラッチ油圧補正手段は、補正が必要とされるクラッチ油圧に対応する変速機入力トルクの近傍の変速機入力トルクに対応するクラッチ油圧の補正も行い、前記エンジントルク補正手段は、補正が必要とされるエンジントルクに対応するエンジン回転数の近傍のエンジン回転数に対応するエンジントルクの補正も行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61027(P2013−61027A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200532(P2011−200532)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】