説明

車両の軸重移動装置

【課題】車両の軸重移動装置に関し、従動軸から駆動軸への軸重移動時に従動輪のブレーキロックを確実に防止することができるようにする。
【解決手段】駆動軸と従動軸からなる後2軸の車両に備えられ、従動軸にかかる軸重を駆動軸に移動させる軸重移動装置において、従動軸から駆動軸へ軸重が移動している場合に、従動軸が枢支する従動輪に伝達されるブレーキ力をカットするブレーキカット手段41を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の軸重移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型車両(大型自動車)には、駆動軸である後前軸と従動軸(非駆動軸)である後後軸とからなる後2軸を備えた車両が存在する。かかる後2軸の大型車両においては、積荷のない空車時に従動軸にかかる軸重を駆動軸に移動させる軸重移動装置が開発され、実装されている。軸重移動装置は、例えばエアサスペンション機構を利用して空車時に駆動軸を押し下げ且つ従動軸を持ち上げて従動軸にかかる軸重を駆動軸に移動させ、これによって、空車時の駆動軸の軸重を増加させて発進性を改善することができるようになっている。
【0003】
しかしながら、軸重移動装置を用いて従動軸にかかる軸重を駆動軸に移動させると従動軸の軸重が軽くなり、ブレーキをかけると従動輪がロックしてしまうおそれがある。そのため、そのようなロック状態になる前に軸重の移動を規制することが行なわれている。ただし、ブレーキロックの発生を防止しつつ軸重移動を実施できることが好ましい。
これに関し、特許文献1には、軸重移動時にブレーキロックが発生しないように、従動軸である後後軸のサスペンション装置のエアスプリングの内圧を車重に応じて徐々に高くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−278534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、車重に応じて従動軸側のエアスプリングの内圧を徐々に制御するため、急ブレーキ時には依然としてロックするおそれがある。
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、従動軸から駆動軸への軸重移動時に従動輪のブレーキロックを確実に防止することができるようにした、車両の軸重移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両の軸重移動装置は、駆動軸と従動軸からなる後2軸の車両に備えられ、前記従動軸にかかる軸重を前記駆動軸に移動させる軸重移動装置であって、前記従動軸から前記駆動軸へ軸重が移動している場合に、前記従動軸が枢支する従動輪に伝達されるブレーキ力をカットするブレーキカット手段を備えたことを特徴としている。
【0007】
なお、前記ブレーキカット手段は、前記従動輪のブレーキアクチュエータに供給されるブレーキエアをカットするソレノイドバルブと、前記従動軸から前記駆動軸へ軸重が移動している場合に前記ソレノイドバルブにブレーキエアをカットする制御指令を送る制御手段とを有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両の軸重移動装置によれば、従動軸から駆動軸への軸重移動時には従動輪に伝達されるブレーキ力をカットするので、従動軸から駆動軸へ軸重が移動している場合には従動輪にブレーキがかからず、従動輪のブレーキロックを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の軸重移動装置のブレーキエア回路を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の軸重移動装置のエアサスペンション機構を模式的に示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の軸重移動装置のエアサスペンション機構を模式的に示す上面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両の軸重移動装置の制御手段を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面により本発明の車両の軸重移動装置の実施の形態について説明する。
<構成>
本実施形態の軸重移動装置は、図2及び図3に示すように、駆動軸である後前軸50RFと従動軸(非駆動軸)である後後軸50RRとを有する後2軸のいわゆる6×2方式大型車両(例えばトラック)に備えられるものである。後前軸50RFには左右一対の後前輪(駆動輪;図示略)が枢支され、一方、後後軸50RRには左右一対の後後輪(従動輪;図示略)が枢支されている。
【0011】
上記軸重移動装置は、エアサスペンション機構を利用して、空車時ないしは軽積車時に後前軸50RFを押し下げ且つ後後軸50RRを持ち上げて、後後軸50RRにかかる軸重を後前軸50RFに移動させるようになっている。
つまり、後前軸50RFと後後軸50RRとはそれぞれ、エアサスペンション機構を介してシャーシフレーム(より詳しくは、シャーシフレームを構成する、車両前後方向に延在する左右一対のサイドフレーム61)に懸架されており、車両の全重量が前軸(図示略)に作用する荷重と後軸(後前軸50RF及び後後軸50RR)に作用する荷重とに配分される。後軸に作用する荷重はさらに、後前軸50RFに作用する荷重と後後軸50RRに作用する荷重とに配分される。そして、積荷がない空車時や積荷が軽い軽積車時には、後前軸50RFに荷重を移動させ後前輪の接地圧を増大させて、発進性を向上させることができるようになっている。
【0012】
エアサスペンション機構は詳しくは、エアタンク(エア供給源)1と、エアコンプレッサ2(図1参照)と、エアスプリング3と、ショックアブソーバ4と、ラジアスロッド5と、スタビライザーロッド6と、スタビライザーバー7と、Vロッド8と、ハイトセンサ(車高検出手段)11と、エア圧センサ12と、エアサスバルブ13とを有している。
エアタンク1はエアコンプレッサ2に接続され、エアコンプレッサ2の駆動により常に一定圧の高圧エアが蓄積されるようになっている。
【0013】
エアスプリング3は、後前軸50RF及び後後軸50RRそれぞれに対して軸前方に左右一対と軸後方に左右一対の、各輪2個、1軸当たり4個が備えられている。各エアスプリング3はエアタンク1からエアが供給され、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面からの振動及び衝撃が車体に直接伝わらないよう吸収するとともに、車高を調整する機能を有している。また、各エアスプリング3には通常は同じエア圧が作用するようにエア圧が設定されている。一方、軸重が移動する場合には、後前軸50RF側のエアスプリング3にエアを供給し、後後軸50RR側のエアスプリング3からエアを抜くようになっている。
【0014】
各エアスプリング3は、その下端部がサポートビーム21によってアクスルハウジング51RF,51RRに取り付けられるとともに、その上端部がブラケット22によってサイドフレーム61に取り付けられている。このような構成によって、リアフロントアクスルハウジング51RFの内部に収納された後前軸50RFとリアリアアクスルハウジング51RRの内部に収納された後後軸50RRとがそれぞれ、エアスプリング3を介してサイドフレーム61に懸架されている。
【0015】
ショックアブソーバ4は、後前軸50RF及び後後軸50RRそれぞれに対して、1軸当たり左右一対の2個が備えられており、エアスプリング3の振動に対して減衰力を発生させるようになっている。ショックアブソーバ4は、その上端部がブラケット23によってサイドフレーム61に取り付けられるとともに、その下端部がサポートビーム21に取り付けられている。
【0016】
ラジアスロッド5は、一端側をハンガー24を介してサイドフレーム61に取り付けられるとともに、他端側をサポートビーム21を介してアクスルハウジング51RF,51RRに取り付けられて、車両前後方向の揺れを抑制するようになっている。
スタビライザーロッド6は、一端側をサイドフレーム61に取り付けられるとともに、他端側をスタビライザーバー7とサポートビーム21とを介してアクスルハウジング51RF,51RRに取り付けられて、車両のローリングを抑制するようになっている。
【0017】
Vロッド8は、各アクスルハウジング51RF,51RRと左右一対のサイドフレーム61との間に、基部が各アクスルハウジング51RF,51RRに取り付けられるとともに両端部がサイドフレーム61に取り付けられ、上面視でV字状に拡開した状態で配設されて、車幅方向の揺れ及び車両前後方向の揺れを抑制するようになっている。
ハイトセンサ11は、後前軸50RF及び後後軸50RRに対してそれぞれ設けられ、車体左右の車高(シャーシフレーム61の上下変位)をそれぞれ検出するようになっている。検出した車高情報は後述するECU30へ入力される。
【0018】
エア圧センサ12は、各エアスプリング3に設けられ、各エアスプリング3内のエア圧をそれぞれ検出するようになっている。検出したエア圧情報はECU30へ入力される。
エアサスバルブ13は、車高の保持や軸重の移動のために、エアタンク1からエアスプリング3へのエアの給気及び排気を行なうバルブである。
軸重移動装置はまた、上記のようなエアサスペンション機構に加えて、軸重移動スイッチ40と、軸重移動スイッチ40のオン時に作動する軸重移動バルブ(ソレノイドバルブ)41とを備えている。
【0019】
軸重移動スイッチ40は運転席に設けられ、ドライバの軸重移動の要求に応じてドライバによりオンオフ操作されるスイッチである。軸重移動スイッチ40がオンされていれば、後述するようにECU30がハイトセンサ11及びエア圧センサ12から入力された情報に基づき、空車時または軽積車時であることを検知する。
軸重移動バルブ41は、図1に示すように、エアタンク1から後後輪のブレーキアクチュエータ52RRにブレーキエアを供給するエア配管上に介装されている。
【0020】
ECU30は、ROMやRAM等のメモリやCPU等から構成された電子制御ユニットであり、図4に示すように、入力側にはハイトセンサ11とエア圧センサ12と軸重移動スイッチ40とが電気的に接続されているとともに、出力側にはエアサスバルブ13と軸重移動バルブ41とが電気的に接続されている。
そして、ECU30は、軸重移動スイッチ40がオンされているときに、ハイトセンサ11から入力された車高情報とエア圧センサ12から入力されたエア圧情報とに基づき、空車であるか、あるいは軽積車であることを検知するようになっている。そして、空車時あるいは軽積車時には、エアサスバルブ13を介して各エアスプリング3のエアを増減する軸重移動制御を実施する。同時に、軸重移動バルブ41を制御して、軸重移動制御時には後後輪のブレーキアクチュエータ52RRに供給されるブレーキエアをカットするブレーキカット制御を実施するようになっている。
【0021】
なお、ECU30は、発進・停止時の車両挙動変化によりエアスプリング3のエア圧が変化した場合、エア圧センサ12によりこれを検知して各エアスプリング3のエアの増減を行なうことがある。また、後述するように、ECU30は、ABS機能と坂道発進補助機能も有している。
図1は、後前輪及び後後輪のブレーキアクチュエータ52RF,52RRに供給されるブレーキエアの回路図である。このブレーキエア回路には、エアタンク1か供給されるエアが流通する。このエアタンク1は、エアスプリング3にエアを供給するエアタンク1と共通のものであって、エアコンプレッサ2により加圧されたエアが、エアクーラ14により冷却され、エアドライヤ15によりエア中に含まれる水分を除去された後、エアタンク1に蓄積される。エアタンク1内の圧力はセーフティバルブ16により所定圧以上に高まらないように制御される。
【0022】
後前輪及び後後輪のブレーキアクチュエータ52RF,52RRとエアタンク1とを接続するブレーキエア回路上には、前述の軸重移動バルブ41と、リレーバルブ71と、ABSバルブ72と、ロードセンシングバルブ73と、セレクトバルブ74とが介装されている。
リレーバルブ71は、坂道発進補助機能を達成するための坂道発進補助機能付きリレーバルブであり、ドライバにより操作されるブレーキペダル75の踏込み量に応じたブレーキエア圧が入力されるようになっている。そして、ECU30からの坂道発進補助制御信号に応じて、坂道発進時のブレーキ力を保持するようにブレーキエア圧を調整することができるようになっている。調整されたブレーキエア圧は、第1及び第2の出力ポートから左右輪それぞれのABSバルブ72に出力されるとともに、第3の出力ポートから軸重移動バルブ41に出力される。
【0023】
ABSバルブ72は、アンチロックブレーキシステム(Antilock Brake System;ABS)のためのバルブであり、ECU30からのABS制御信号に応じてエア圧を増減調整することができるようになっている。
ロードセンシングバルブ73は、後前軸50RFの軸重に応じて後後輪のブレーキアクチュエータ52RRに作用するブレーキエア圧を制御するものである。
【0024】
セレクトバルブ74は、一方の入力ポートにABSバルブ72からのブレーキエア圧が作用するとともに他方の入力ポートにロードセンシングバルブ73からのブレーキエア圧が作用して、何れか低い方のブレーキエア圧を後後輪のブレーキアクチュエータ52RRに供給するようになっている。
軸重移動バルブ41は、前述したように、軸重移動スイッチ40のオン時に開閉制御され、軸重移動スイッチ40がオンのときに空車あるいは軽積車であることが検知されたら、ECU30からの制御指令を受けて、リレーバルブ71とロードセンシングバルブ73とを接続するブレーキエア回路を閉鎖してブレーキエアをカットするようになっている。これによって、セレクトバルブ74の他方の入力ポートに作用するブレーキエア圧はゼロとなり、セレクトバルブ74は軸重移動時には軸重移動バルブ41によってゼロにされたブレーキエア圧を選択して、後後輪にはブレーキ力が発生しないようになっている。
【0025】
後前輪のブレーキアクチュエータ52RFに対しては、ABS制御時にはABSバルブ72によってブレーキエア圧を制御されるが、それ以外ではリレーバルブ71から出力されたブレーキエア圧がABSバルブ72を介してそのまま作用するようになっている。
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る車両の軸重移動装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
【0026】
従来の軸重移動の機能はそのまま保持されるので、空車時ないしは軽積車時に駆動軸50RFの軸重を増加させて、空車時や軽積車時の発進性を確保することができる。
また、従動軸50RRから駆動軸50RFへの軸重移動時には、軸重移動バルブ41により従動輪のブレーキアクチュエータ52RRに供給されるブレーキエアをカットするので、従動軸50RRから駆動軸50RFへ軸重が移動した場合には従動輪にブレーキがかからず、従動輪のブレーキロックを確実に防止することができる。
【0027】
また、ブレーキロックを確実に防止することができるので、ブレーキライニングの磨耗やタイヤの磨耗減少に有利となり、ひいては燃費を向上させることができる。
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0028】
例えば、上記実施形態では、懸架装置としてエアスプリング3を有するエアサスペンション機構を備えた車両に適用した場合について説明したが、リーフスプリングを有するサスペンション機構を備えた車両に適用しても良い。つまり、軸重移動はエアを用いて実施しても良いし、メカニカルに実施しても良い。
また、上記実施形態では、ブレーキエア回路上に軸重移動バルブ41を設けたが、各車輪のブレーキ力を個別に制御できるブレーキ機構においては、軸重の移動時に従動輪のブレーキアクチュエータに作用するブレーキエアのみをカットするようにして、制御ソフトのみを変更することによって実現することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 エアタンク
2 エアコンプレッサ
3 エアスプリング
4 ショックアブソーバ
5 ラジアスロッド
6 スタビライザーロッド
7 スタビライザーバー
8 Vロッド
11 ハイトセンサ(車高検出手段)
12 エア圧センサ
13 エアサスバルブ
14 エアクーラ
15 エアドライヤ
16 セーフティバルブ
21 サポートビーム
22 ブラケット
23 ブラケット
24 ハンガー
30 ECU(制御手段;ブレーキカット手段)
40 軸重移動スイッチ
41 軸重移動バルブ(ブレーキカット手段;ソレノイドバルブ)
50RF 後前軸
50RR 後後軸
51RF リアフロントアクスルハウジング
51RR リアリアアクスルハウジング
52RF 後前輪のブレーキアクチュエータ
52RR 後後輪のブレーキアクチュエータ
61 サイドフレーム(シャーシフレーム)
71 リレーバルブ
72 ABSバルブ
73 ロードセンシングバルブ
74 セレクトバルブ
75 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と従動軸からなる後2軸の車両に備えられ、前記従動軸にかかる軸重を前記駆動軸に移動させる軸重移動装置であって、
前記従動軸から前記駆動軸へ軸重が移動している場合に、前記従動軸が枢支する従動輪に伝達されるブレーキ力をカットするブレーキカット手段を備えた
ことを特徴とする、車両の軸重移動装置。
【請求項2】
前記ブレーキカット手段は、
前記従動輪のブレーキアクチュエータに供給されるブレーキエアをカットするソレノイドバルブと、
前記従動軸から前記駆動軸へ軸重が移動している場合に前記ソレノイドバルブにブレーキエアをカットする制御指令を送る制御手段とを有している
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の軸重移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131836(P2011−131836A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295177(P2009−295177)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】