説明

車両制御装置

【課題】 ペダル吸い込まれ感をより低減できる車両制御装置を提供する。
【解決手段】 ブレーキペダルBPのストローク量を検出するストロークセンサ42と、ストローク量がSTrmax未満の場合、最大回生制動力Frmaxと等しい回生許容量Frstmaxにより制限された要求回生制動力Frreqを算出する第1回生制動力算出部32aと、ストローク量がSTrmax以上の場合、最大回生制動力Frmaxより小さい回生許容量Frstmaxにより制限された要求回生制動力Frreqを算出する第2回生制動力算出部32bと、要求回生制動力Frreqに基づいて実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frと液圧制動力との和が車両に必要な制動力である要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する制動制御部32cと、を有するBCU32を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御装置では、回生制動力低下に伴い回生制動力から液圧制動力へすり替える際に発生するペダル吸い込まれ感の低減を目的とし、液圧制動力の増加速度を制限することでペダル反力の減少速度を抑制している。上記説明の技術に関係する一例は、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-276534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来装置において、ペダル吸い込まれ感をより低減して欲しいとのニーズがある。
本発明の目的は、ペダル吸い込まれ感をより低減できる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両制御装置では、マスタシリンダ状態量が所定の状態量未満のときに第1回生制動力を算出し、マスタシリンダ状態量が所定の状態量以上のときに第1回生制動力よりも小さな第2回生制動力を算出し、算出された第1または第2回生制動力に基づいて液圧制動力を算出する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の車両制御装置では、ペダル吸い込まれ感をより低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の車両制御装置を適用した車両の制駆動系を示すシステム構成図である。
【図2】実施例1のマスタシリンダM/Cのストローク量−マスタシリンダ圧特性図である。
【図3】実施例1の油圧制御ユニット31の構成図である。
【図4】実施例1のBCU32で実行される回生協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】ストローク量から求められる要求総制動力Fstの設定マップである。
【図6】ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frstmaxの設定マップである。
【図7】実施例1のホイルシリンダ消費液量特性図である。
【図8】モータおよびゲートアウト弁作動処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施しない場合のブレーキ踏み増しおよび保持の動作を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施する場合のブレーキ踏み増しおよび保持の動作を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施する場合のブレーキ踏み戻しの動作を示すタイムチャートである。
【図12】実施例2のBCU32で実行される回生協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】マスタシリンダ圧に応じた回生許容量Frpmcmaxの設定マップである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施例は、多くのニーズに適応できるように検討されており、回生制動力低下に伴う回生制動力から回生制動力へのすり替え時におけるペダル吸い込まれ感をより低減できることは検討されたニーズの1つである。
【0009】
〔実施例1〕
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両制御装置を適用した車両の制駆動系を示すシステム構成図である。
[システム構成]
駆動コントローラ40は、アクセル開度センサ41からのアクセル開度、各輪に設けられた車輪速センサ43FL,43FR,43RL,43RRにより算出される車速(車体速)、バッテリSOC等が入力される。駆動コントローラ40は、各センサからの情報に基づき、左右前輪FL,FRを駆動するエンジン30の動作制御と、図外の自動変速機の動作制御と、モータコントロールユニット(以下、MCU)33への駆動指令によるモータジェネレータ(以下、MG)36の動作制御とを行う。
実施例1の回生制動装置は、MCU33、MG36、インバータ(以下、INV)37およびバッテリ(以下、BAT)38により構成され、左右後輪RL,RRに対して回生制動力を発生させる。
MCU33は、駆動コントローラ40からの駆動指令に基づいて、MG36を力行運転する。また、ブレーキ制御ユニット(コントロールユニットであって、以下、BCU)32から通信線34を介して回生指令を受け取り、MG36を回生運転すると共に、少なくともMG36により発生された回生制動力の状態を、通信線34を介してBCU32に送る。
MG36は、左右後輪RL,RRのドライブシャフトRDS(RL),RDS(RR)とディファレンシャルギア39を介してそれぞれ連結され、MCU33からの指令に基づいて、力行または回生運転し、左右後輪RL,RRに駆動力または制動力を付与する。
INV37は、MG36が力行運転している場合には、BAT38の直流電力を交流電力に変換してMG36に供給する。一方、MG36が回生運転している場合には、MG36で発生する交流電力を直流電力に変換してBAT38を充電する。
【0010】
BCU32は、ブレーキペダルBPに取り付けられブレーキペダルBPのストローク量を検出するストロークセンサ(マスタシリンダ状態量検出部、ブレーキ操作量検出部、ブレーキ操作ストローク量センサ)42からの情報に基づいて車両に必要な制動力(ドライバ要求制動力)とMCU33へ要求する回生制動力を算出し、MCU33へ回生指令を行うと共に、MCU33から受信する回生制動力の状態等に基づいて、各輪で発生させるべき液圧制動力を算出し、油圧制御ユニット(以下、HU)31への作動指令を行う。
HU31は、BCU32からの作動指令に基づいて、左前輪FLのホイルシリンダW/C(FL)、右後輪RRのホイルシリンダW/C(RR)、右前輪FRのホイルシリンダW/C(FR)、左後輪RLのホイルシリンダW/C(RL)の各液圧の保持、増圧または減圧を行う。
マスタシリンダM/Cは、ブレーキペダルBPのストローク量に応じ、リザーバタンクRSVから供給されるブレーキ液をHU31へ送り出す。実施例1のマスタシリンダM/Cは、図2に示すようなストローク量−マスタシリンダ圧特性を有するストローク対応マスタシリンダとする。実施例1のマスタシリンダM/Cは、ブレーキペダルBPのストローク量がSTrmaxを超える所定のSTmc0に達するまではマスタシリンダ圧を発生させず、STmc0以上のストローク量では、ストローク量の増加に応じてマスタシリンダ圧が増加する特性を有する。この特性は、ブレーキペダルBPの無効ストローク量(初期位置から液圧発生開始までのストローク量)をSTmc0に設定することで実現できる。
ここで、STrmaxは、ブレーキペダルBPのストローク量から求められる車両に必要な制動力が、MG36やINV37の特性、能力により決まる回生制動力の上限値である最大回生制動力Frmaxとなるときのストローク量である。
図2の特性において、STmc0はSTrmaxと一致させてもよい。
実施例1の液圧制動装置は、BCU32とHU31により構成され、各輪に対して液圧制動力を発生させる。
【0011】
[ブレーキ回路構成]
図3は、実施例1の油圧制御ユニット31の構成図である。
HU31は、P系統とS系統の2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造を有しており、クローズド油圧回路を用いている。ここで、「クローズド油圧回路」とは、ホイルシリンダW/Cへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダM/Cを介してリザーバタンクRSVへと戻す油圧回路をいう。ちなみに、クローズド油圧回路に対し、ホイルシリンダW/Cへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダM/Cを介すことなく直接リザーバタンクRSVへ戻すことが可能な油圧回路を、「オープン油圧回路」という。
なお、図3に記載された各部位の符号の末尾に付けられたPはP系統、SはS系統を示し、FL,RR,FR,RLは左前輪、右後輪、右前輪、左後輪に対応することを示す。以下の説明では、P,S系統または各輪を区別しないとき、P,SまたはFL,RR,FR,RLの記載を省略する。
P系統には、左前輪FLのホイルシリンダW/C(FL)、右後輪RRのホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪FRのホイルシリンダW/C(FR)、左後輪RLのホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、両ポンプPP,PSは、1つのモータMによって駆動され、吸入部19aから吸入したブレーキ液を吐出部19bへ吐出する。ポンプPは、プランジャポンプやギアポンプ等が適宜搭載される。
マスタシリンダM/Cと低圧リザーバ(以下、リザーバ)16とは、管路15により接続される。リザーバ16は、管路15が所定圧以下となる低圧時には管路15からリザーバ内部へ向かうブレーキ液の流れを許容し、管路15が所定圧を超える高圧時には管路15からリザーバ内部へ向かうブレーキ液の流れを禁止する圧力感応型のチェック弁機構20を有する。
リザーバ16とポンプPの吸入側とは管路8により接続されている。
【0012】
ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12により接続されている。管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応するノーマルオープン型の電磁弁であるソレノイドイン弁4が設けられている。また、管路12上であって、各ソレノイドイン弁4とポンプPとの間には、チェック弁7が設けられている。チェック弁7は、ポンプPからソレノイドイン弁4に向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。さらに、管路12上には、各ソレノイドイン弁4を迂回する管路17が設けられ、管路17には、チェック弁10が設けられている。各チェック弁10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13により接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドイン弁4との間で合流する。各管路13上には、ノーマルオーブン型の電磁弁であるゲートアウト弁3が設けられている。また、各管路13には、各ゲートアウト弁3を迂回する管路18が設けられ、管路18には、チェック弁9が設けられている。各チェック弁9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ホイルシリンダW/Cとリザーバ16とは管路14によって接続されている。各管路14には、ノーマルクローズ型の電磁弁であるソレノイドアウト弁5が設けられている。
管路15Pには、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ35が設けられている。なお、管路15に代えて管路15Sに設けてもよい。
管路12には、ポンプPの吐出圧を検出するポンプ圧センサ2が設けられている。
【0013】
[回生協調制御]
BCU32は、回生協調制御として、液圧制動と回生制動とを協調してエネルギ回収を行うが、回生協調制御中に車速やBAT38の入出力制限等により回生制動力が制限される場合には、回生制動力を低下させ、その分だけ液圧制動力を増加させることで車両に必要な制動力を確保する。これを回生制動力から液圧制動力へのすり替えという。逆に回生制動力の制限が緩和された場合には、回生制動力を増加させ、その分だけ液圧制動力を減少させてエネルギ回収効率の向上を図る。これを液圧制動力から回生制動力へのすり替えという。
ところで、液圧制動力から回生制動力にすり替える際、ホイルシリンダ圧を減圧させるために、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液を減少させる必要がある。一方、回生制動力から液圧制動力にすり替える場合、ホイルシリンダ圧を増圧させるために、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液を増加させる必要がある。このブレーキ液の吐出先および吸入元としては、マスタシリンダM/Cとリザーバ16が挙げられるが、実施例1では、HU31の各電磁弁の作動頻度を低減するために、マスタシリンダM/Cのみを吐出先および吸入元とし、各ホイルシリンダの圧力は同圧とする。
よって、実施例1では、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液をマスタシリンダM/Cに吐出する場合はゲートアウト弁3を開弁し、ホイルシリンダW/Cのブレーキ液をマスタシリンダM/Cから吸入する場合はゲートアウト弁3を閉弁しポンプPを作動させる。
【0014】
[回生協調制御処理]
実施例1では、回生制動力低下に伴う回生制動力から液圧制動力へのすり替えの際、マスタシリンダ圧の低下によるペダル吸い込まれ感の低減を狙いとし、ブレーキペダルBPのストロークに応じて回生制動力を制限する。すなわち、あらかじめ回生制動力を制限しておくことで、回生制動力低下に応じて液圧制動力を増加させる際のホイルシリンダ増圧量を抑え、ペダル吸い込まれ量を低減することにより、ペダル吸い込まれ感を低減する。
BCU32は、上記回生制動力の制限を実現する構成として、第1回生制動力算出部(第1回生制動力指令値算出部)32aと、第2回生制動力算出部(第2回生制動力指令値算出部)32bと、制動制御部32cと、すり替え制御部32dとを備える。
第1回生制動力算出部32aは、ストロークセンサ42により検出されたストローク量がSTrmax未満の場合、回生許容量Frstmaxにより制限された要求回生制動力(第1回生制動力)Frreqを算出する。
第2回生制動力算出部32bは、ストロークセンサ42により検出されたストローク量がSTrmax以上の場合、回生許容量Frstmaxにより制限された要求回生制動力(第2回生制動力)Frreqを算出する。
ここで、回生許容量Frstmaxは、ストローク量がSTrmax未満の場合は最大回生制動力Frmaxとし、STrmax以上の場合は最大回生制動力Frmaxよりも小さな値となる。よって、第2回生制動力算出部32bにより算出される要求回生制動力Frreqは、第1回生制動力算出部32aにより算出される要求回生制動力Frreqよりも小さな値となる。なお、回生許容量Frstmaxの算出方法については後で詳しく述べる。
制動制御部32cは、要求回生制動力Frreqに基づいて実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frと液圧制動力との和が車両に必要な制動力である要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する。
すり替え制御部32dは、ストローク量がSTrmaxからSTmc0となるまでの間、要求回生制動力Frreqを減少させつつ、液圧制動力を増加させて要求総制動力Freqを実現する。
【0015】
図4は、実施例1のBCU32で実行される回生協調制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS101では、ストロークセンサ42により検出されたブレーキペダルBPのストローク量から車両で発生させるべき制動力を要求総制動力Fstとして算出する。ストローク量から求められる要求総制動力Fstは、図5のマップを参照して設定する。Fstは、ストローク量が無効ストロークの範囲はゼロであり、無効ストロークを超えた場合、ストローク量の増加に応じて増加する。そして、STrmaxでは、最大回生制動力Frmaxに等しくなる。なお、図5のマップ上における無効ストローク量は、一般的なブレーキペダルの無効ストローク量と同等であり、実施例1のマスタシリンダM/Cにおける無効ストローク量よりも小さい。
ステップS102では、マスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmcを算出する。
ステップS103では、ストローク量から求められる要求総制動力Fstとマスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmcとを比較する。回生協調により実現される総制動力の下限は、回生制動力の下限と液圧制動力の下限との和となるが、実施例1ではゲートアウト弁3とポンプPでホイルシリンダ圧を制御するため、ホイルシリンダ圧の下限はマスタシリンダ圧となる。また、回生制動力の下限はゼロであるため、要求総制動力は少なくともマスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmc以上でなければならない。そこで、Fstに対してFmcが大であれば、ステップS104へ進み、そうでなければステップS105へ進む。
ステップS104では、要求総制動力Freqとして、マスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmcを適用する。
ステップS105では、要求総制動力Freqとして、ストローク量から求められる要求総制動力Fstを適用する。
ステップS106では、要求総制動力Freqとマスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmcとから、要求総制動力Freqを満足する最大の回生制動力である許容回生制動力Frreq0を算出する。許容回生制動力Frreq0は、要求総制動力Freqと液圧制動力の最小値との差分で与えられ、液圧制動力の最小値はマスタシリンダ圧により発生する液圧制動力Fmcであるから、Frreq0はFreqとFmcとの差分(Freq-Fmc)として算出される。
【0016】
ステップS107では、ストロークセンサ42により検出されたストローク量を用い、ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frstmaxを算出する。ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frstmaxは、図6のマップを参照して設定する。Frstmaxは、ストローク量がSTrmax未満の範囲では最大回生制動力Frmaxであり、ストローク量がSTrmaxからSTmc0までの範囲ではストローク量の増加に応じて所定勾配で減少し、ストローク量がSTmc0を超える範囲ではFrmax_mc0となる。ここで、Frmax_mc0は、回生制動力低下に伴い、回生制動力から液圧制動力へのすり替えを行う際、ドライバにマスタシリンダ圧の低下に伴うペダル吸い込まれ感を与えない(ペダル吸い込まれに伴う違和感を与えない)回生制動力とする。
Frmax_mc0は、許容する(ペダル吸い込まれ感を与えない)ペダル吸い込まれ量ΔST、マスタシリンダ断面積Smc、ホイルシリンダ消費液量特性、ストローク量STmc0における要求総制動力Fst_mc0から決定される。図7に実施例1のホイルシリンダ消費液量特性を示す。まず、Fst_mc0を発生させるホイルシリンダ圧Pwc_mc0を求め、ホイルシリンダ消費液量特性からすり替え後のホイルシリンダ液量Vwc_mc0を求める。続いて、許容する吸い込まれで発生する液量変化をΔST×Smcとし、Vwc_mc0-ΔST×Smcをすり替え前のホイルシリンダ液量Vwc2として求め、再びホイルシリンダ消費液量特性からすり替え前のホイルシリンダ圧Pwc2を求める。このPwc2を液圧制動力Fwc2とし、Fst_mc0とFwc2との差分をFrmax_mc0とする。
【0017】
ステップS108では、許容回生制動力Frreq0と吸い込まれに応じた回生許容量Frstmaxとを比較する。要求総制動力Freqを満足し、ドライバにペダル吸い込まれ感を与えないためには、発生する回生制動力をFrreq0以下、かつ、Frstmax以下とする必要がある。そこで、Frstmaxに対しFrreq0が大であればステップS109へ進み、そうでなければステップS110へ進む。
ステップS109では、許容回生制動力Frreq0よりも小さい回生許容量Frstmaxを、要求回生制動力Frreqとして適用する。
ステップS110では、ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frstmax以下である許容回生制動力Frreq0を要求回生制動力Frreqとして適用する。
ステップS111では、算出した要求回生制動力Frreqを、通信線34を介してMCU33に送信する。
ステップS112では、実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frを、通信線34を介してMCU33から受信する。
ステップS113では、実際に発生された回生制動力と液圧制動力との和が要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する。
ステップS114では、要求液圧制動力Fwcreqを発生させるために必要な各輪の目標ホイルシリンダ圧Pwcreqを算出する。
ステップS115では、各輪の目標ホイルシリンダ圧Pwcreqに基づき、モータMおよびゲートアウト弁3の制御指令値を算出し、算出した指令値に基づきモータMおよびゲートアウト弁3を作動するモータおよびゲートアウト弁作動処理を実施し、リターンへ進む。
【0018】
[モータおよびゲートアウト弁作動処理]
図8は、図7のステップS115で実施されるモータおよびゲートアウト弁作動処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する。
ステップS301では、ポンプ圧センサ2Pの検出値と目標ホイルシリンダ圧Pwcreqとを比較し、Pwcreqが大であればホイルシリンダW/C(FL)およびW/C(RR)の圧力を増加させるためステップS303へ進み、そうでなければステップS302へ進む。
ステップS302では、ポンプ圧センサ2Sの検出値と目標ホイルシリンダ圧Pwcreqとを比較し、Pwcreqが大であればホイルシリンダW/C(FR)およびW/C(RL)の圧力を増加させるためステップS303へ進み、そうでなければステップS304へ進む。
ステップS303では、いずれかもしくは全てのホイルシリンダの圧力を増加させるため、モータMを作動させ、ポンプPによりブレーキ液の吐出を行う。
ステップS304では、いずれのホイルシリンダも圧力を増加させる必要がないため、モータMを停止する。
ステップS305では、ゲートアウト弁3の制御電流を算出する。制御電流は、マスタシリンダ圧とゲートアウト弁3で保持したいポンプ圧との差により求められるので、マスタシリンダ圧センサ35の検出値と目標ホイルシリンダ圧Pwcreqとの差から第1の電流を求め、さらにポンプ圧センサ2の検出値から必要に応じた第1の電流を増減させ、ゲートアウト弁3の制御電流とする。
ステップS306では、ステップS305で求めたゲートアウト弁3の制御電流に基づき、ゲートアウト弁3を駆動する。
【0019】
次に、作用を説明する。
まず、実施例1の回生協調制御の比較例として、回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施しない場合のブレーキ踏み増しおよび保持の動作を説明する。
図9は、実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施しない場合のブレーキ踏み増しおよび保持の動作を示すタイムチャートである。
ドライバは時点t1からブレーキペダルBPをストロークさせ始め、時点t4以降はブレーキペダルBPのストローク量を一定の踏力で維持する。
このとき、時点t2までストローク量は最大回生制動力Frmaxとなるストローク量STrmaxを下回っているため、回生制動力のみで制動を行う。時点t2以降は、ストローク量がSTrmaxを上回るため、ホイルシリンダ圧により液圧制動力を発生させ、車両に必要な制動力に対して回生制動力のみでは不足する制動力を補う。このとき、モータMを作動させ、目標となるホイルシリンダ圧を保持できるように、ゲートアウト弁3の電流を制御する。さらにマスタシリンダ圧が発生するストローク量STmc0以上にブレーキペダルBPがストロークすると、マスタシリンダ圧が増加し始める。時点t4に達すると、ドライバはブレーキペダルBPをストローク量ST3で保持するが、このときホイルシリンダ圧は保持させるため、モータMは停止させる。
時点t5に達し、発生可能な回生制動力が減少し始める車速Vcar1未満まで車速が低下すると、発生可能な回生制動力がゼロとなる車速Vcar0となるまで、回生制動力は低下し続ける。この回生制動力低下による発生制動力の減少を補うためにホイルシリンダ圧を増加させるが、このときマスタシリンダM/Cのブレーキ液をホイルシリンダW/Cに送ることでマスタシリンダ圧が低下するため、ペダルも反力も低下し、ブレーキ液が減少する分だけドライバがブレーキペダルBPを押してしまうため、ペダル吸い込まれが発生する。ペダル吸い込まれは、マスタシリンダ圧がゼロとなる時点t6まで継続される。時点t5からt6までの吸い込まれ量ST4-ST3は、車速がVcar1に達したときのマスタシリンダ圧の減少量により決まる。
【0020】
図10は、実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施する場合のブレーキ踏み増しおよび保持の動作を示すタイムチャートである。図10において、破線は図9に示した比較例の動作である。
ドライバの動作は図9の場合と同じであり、時点t1からブレーキペダルBPをストロークさせ始め、時刻t4以降はブレーキペダルBPのストローク量を一定の踏力で維持する。
時点t2までは図9と同じであるため、説明は省略する。
時点t2以降、図6に示した回生許容量Frstmaxに基づき、ブレーキペダルBPのストローク量に応じて回生制動力を制限すると共に、制限した回生制動力相当の液圧制動力を発生させるため、ホイルシリンダ圧を増加させる。時点t5'に達すると、車速低下に伴い回生制動力が減少し始めるため、この回生制動力低下を補うためにホイルシリンダ圧を増加させる。このとき、マスタシリンダ圧の低下によりペダル吸い込まれが発生するが、マスタシリンダ圧の低下量が小さいため吸い込まれ量ST4'-ST3は図9に示したST4-ST3よりも小さくなり、ドライバにペダル吸い込まれ感を与えることはない。
【0021】
図11は、実施例1の回生許容量Frstmaxによる回生制動力の制限を実施する場合のブレーキ踏み戻しの動作を示すタイムチャートである。
ドライバは時点t1からブレーキペダルBPをストロークさせ始め、時刻t4からt8にかけてブレーキペダルBPのストローク量を一定の踏力で維持し、時点t8からt11でブレーキペダルBPを離す。
時点t8までは図10と同じであるため、説明は省略する。
時点t9からt10にかけて、図6に示した回生許容量Frstmaxに基づき、ブレーキペダルBPのストローク量に応じて回生制動力の制限を緩めるため、回生制動力は増加する。一方、増加した回生制動力およびストローク減少に伴う制動力低下相当の液圧制動力低下を行うために、ゲートアウト弁3の電流を低下させ、ホイルシリンダ圧を低下させる。
時点t10からt11にかけては、ストローク量は回生制動力が最大となるストローク量STrmaxを下回っているため、回生制動力のみで制動を行う。
【0022】
[回生許容量による回生制動力制限作用]
ブレーキペダルのペダル反力は、マスタシリンダの圧力(マスタシリンダ圧)により作られている。仮にドライバが踏力一定で踏んでいる場合、ペダル反力が減ると、減った分だけドライバがブレーキペダルをストロークさせてしまうため、ペダル吸い込まれ感が発生する。ところで、車速が低下してくると回生制動力を減少させる必要があるが、その際に車両に必要な制動力を維持するためには、減少した回生制動力相当の液圧制動力が得られるようにホイルシリンダの増圧を行う必要がある。このとき、マスタシリンダのブレーキ液をホイルシリンダに送り込むため、マスタシリンダ圧が減少する。この減圧量が多いほど、ペダル吸い込まれ量が大きくなるため、ドライバに与える違和感が大きくなる。
従来の車両制御装置では、回生制動力低下に伴う回生制動力から液圧制動力へのすり替え時、液圧制動力の増加速度を制限することでペダル反力の減少速度を抑制しているが、ペダル吸い込まれ速度が低下したとしてもペダル吸い込まれ量は低減されないため、一定量以上の回生制動力の減少時には、ドライバにペダル吸い込まれ感を与えてしまう。
【0023】
これに対し、実施例1の車両制御装置では、BCU32において、ブレーキペダルBPのストローク量がSTrmax以上の場合には回生許容量Frstmaxを最大回生制動力Frmaxよりも小さな値として回生制動力を回生許容量Frstmaxに制限するため、回生制動力低下に伴い回生制動力から液圧制動力へすり替える際のホイルシリンダ増圧量を、回生制動力を制限しない場合の増圧量よりも低減できる。よって、マスタシリンダ減圧量を小さくでき、ペダル吸い込まれ量ΔSTを抑制できるため、ドライバに与えるペダル吸い込まれ感を低減できる。
BCU32は、ブレーキペダルBPのストローク量がSTrmax以上の場合、回生制動力を回生許容量Frstmaxまで減少させつつ、液圧制動力を増加させて車両に必要な制動力を実現する。よって、車両に必要な制動力を確保しつつ、回生制動力を減少させることができる。
BCU32は、ブレーキペダルBPのストローク量を検出するストロークセンサ42に基づいて回生許容量Frstmaxを設定する。マスタシリンダM/Cの状態、すなわちマスタシリンダ圧は、ブレーキペダルBPのストローク量に応じて変化するため、ストローク量に基づいて回生許容量Frstmaxを設定することで、マスタシリンダ圧の変化に対してより早いタイミングで回生制動力を制限でき、マスタシリンダ減圧に伴うペダル吸い込まれ感をより確実に低減できる。
【0024】
実施例1のマスタシリンダM/Cは、ストローク量がSTrmaxよりも大きなSTmc0以上の場合はストローク量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が大きく発生し、ストローク量がSTmc0未満の場合はストローク量に対してマスタシリンダ圧を発生させないストローク対応マスタシリンダである。よって、ストローク量がSTrmaxに達するまでの間であって、回生制動力のみで車両に必要な制動力を達成できる場合には、HU31の各電磁弁を作動させることなく、液圧制動力をゼロにできる。このため、各電磁弁の作動頻度を抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
また、ストローク量がSTrmax未満の場合には、回生許容量Frstmaxを最大回生制動力Frmaxとして回生制動力を制限しないため、回生制動力低下に伴い最大回生制動力を液圧制動力にすり替える場合、ホイルシリンダ増圧量が大きくなるのに対し、マスタシリンダ圧はゼロであるため、ペダル吸い込まれ量ΔSTはゼロであり、ペダル吸い込まれの発生自体を防止できる。
BCU32は、ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frstmaxと要求総制動力Freqを満足する最大の回生制動力である許容回生制動力Frreq0とを比較し、値の小さな方を要求回生制動力FrreqとしてMCU33へ送信するため、MCU33によってMG36の発生する回生制動力を要求回生制動力Frreqまで低減できる。
回生制動装置は、ストローク量がSTrmaxのときはあらかじめ設定した最大回生制動力Frmaxを発生するように設定されているため、ブレーキペダルBPが踏み込まれたとき、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力Frmaxまで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
【0025】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) ドライバのブレーキ操作に基づいて算出されるドライバ要求制動力を得るために、車輪に対し算出された回生制動力を得るための回生制動装置(MCU33,MG36,INV37,BAT38)と、ドライバのブレーキ操作量に応じて作動するマスタシリンダM/Cと、マスタシリンダM/Cから吸入したブレーキ液を車輪に設けられたホイルシリンダW/Cへ圧送して算出された液圧制動力を得るためのポンプを有する液圧制動装置(HU31,BCU32)と、を備えた車両制御装置であって、ブレーキペダルBPのストローク量を検出するストロークセンサ42と、ストローク量がSTrmax未満の場合、回生許容量Frstmax(最大回生制動力Frmax)により制限された要求回生制動力Frreqを算出する第1回生制動力算出部32aと、ストローク量がSTrmax以上の場合、最大回生制動力Frmaxよりも小さな回生許容量Frstmaxにより制限された要求回生制動力Frreqを算出する第2回生制動力算出部32bと、要求回生制動力Frreqに基づいて実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frと液圧制動力との和が車両に必要な制動力である要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する制動制御部32cと、を有するBCU32を備えた。
よって、ドライバに与えるペダル吸い込まれ感を低減できる。
(2) BCU32は、ストローク量がSTrmaxからSTmc0となるまでの間、要求回生制動力Frreqを減少させつつ、液圧制動力を増加させて要求総制動力Freqを実現するすり替え制御部32dを備えた。
よって、車両に必要な制動力(要求制動力Freq)を確保しつつ、回生制動力を減少させることができる。
【0026】
(3) BCU32は、ストロークセンサ42により検出されたブレーキペダルBPのストローク量に基づいて回生許容量Frstmaxを設定する。
よって、マスタシリンダ圧の変化に対してより早いタイミングで回生制動力を制限でき、マスタシリンダ減圧に伴うペダル吸い込まれ感をより確実に低減できる。
(4) マスタシリンダM/Cは、ストローク量がSTmc0以上の場合はストローク量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が大きく発生し、STmc0未満の場合はストローク量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が小さいストローク対応マスタシリンダであって、STrmaxは、STmc0以下のストロークである。
よって、ストローク量がSTrmaxに達するまでの間であって、回生制動力のみで車両に必要な制動力を達成できる場合には、HU31の各電磁弁を作動させることなく、液圧制動力をゼロにできる。このため、各電磁弁の作動頻度を抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
(5) BCU32は、要求回生制動力FrreqをMCU33に送信する。
よって、MCU33によってMG36の発生する回生制動力を要求回生制動力Frreqまで低減できる。
【0027】
〔実施例2〕
実施例2は、マスタシリンダ圧に基づいて回生制動力を制限する点で実施例1と異なり、他の構成は実施例1と同一であるため、実施例1と同一の構成については図示並びに説明を省略する。
第1回生制動力算出部32aは、マスタシリンダ圧センサ35により検出されたマスタシリンダ圧がPmc3未満の場合、回生許容量Frpmcmaxにより制限された要求回生制動力(第1回生制動力)Frreqを算出する。
第2回生制動力算出部32bは、マスタシリンダ圧センサ35により検出されたマスタシリンダ圧がPmc3以上の場合、回生許容量Frpmcmaxにより制限された要求回生制動力(第2回生制動力)Frreqを算出する。
ここで、回生許容量Frpmcmaxは、マスタシリンダ圧がPmc3未満の場合は最大回生制動力Frmaxとし、Pmc3以上の場合は最大回生制動力Frmaxよりも小さな値となる。よって、第2回生制動力算出部32bにより算出される要求回生制動力Frreqは、第1回生制動力算出部32aにより算出される要求回生制動力Frreqよりも小さな値となる。なお、回生許容量Frpmcmaxの算出方法については後で詳しく述べる。
制動制御部32cは、要求回生制動力Frreqに基づいて実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frと液圧制動力との和が車両に必要な制動力である要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する。
すり替え制御部32dは、マスタシリンダ圧がPmc3からPmc4となるまでの間、要求回生制動力Frreqを減少させつつ、液圧制動力を増加させて要求総制動力Freqを実現する。
【0028】
[回生協調制御処理]
図12は、実施例2のBCU32で実行される回生協調制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図4に示した実施例1のフローチャートと同じ処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
ステップS401では、マスタシリンダ圧センサ(マスタシリンダ状態量検出部、ブレーキ操作量検出部)35により検出されたマスタシリンダ圧を用い、ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frpmcmaxを算出する。ペダル吸い込まれに応じた回生許容量Frpmcmaxは、図13のマップを参照して設定する。すなわち、吸い込まれ感を与えないマスタシリンダ圧Pmc3での回生許容量Frpmcmaxは、少なくとも最大回生制動力Frmax以上であり、ドライバが回生制動力と液圧制動力のすり替えに伴うブレーキペダルBPの吸い込まれを感じるマスタシリンダ圧Pmc4では、回生許容量Frpmcmaxは、すり替えで吸い込まれ感を与えない回生制動力Frmax4以下となる特性とする。
なお、マスタシリンダ圧の増加に対して回生許容量Frpmcmaxが大きく減少すると、すり替え時における液圧制動力の増加勾配が大きくなり、ドライバにペダル吸い込まれ感を与えてしまう。そのため、マスタシリンダ圧の増加に対する回生許容量Frpmcmaxの減少勾配は、ペダル吸い込まれ感を与えない所定量以下とする。または、時間に対する液圧制動力の増加勾配を直接制限、もしくは時間に対する回生制動力の減少勾配制限による間接的な液圧制動力の増加勾配制限により、ペダル吸い込まれ感を低減してもよい。
【0029】
ステップS402では、許容回生制動力Frreq0と吸い込まれに応じた回生許容量Frpmcmaxとを比較する。要求総制動力Freqを満足し、ドライバにペダル吸い込まれ感を与えないためには、発生する回生制動力をFrreq0以下、かつ、Frpmcmax以下とする必要がある。そこで、Frpmcmaxに対しFrreq0が大であればステップS403へ進み、そうでなければステップS404へ進む。
ステップS403では、許容回生制動力Frreq0よりも小さい回生許容量Frpmcmaxを要求回生制動力Frreqとして適用する。
ステップS404では、吸い込まれに応じた回生許容量Frpmcmax以下である許容回生制動力Frreq0を要求回生制動力Frreqとして適用する。
【0030】
次に、作用を説明する。
実施例2では、マスタシリンダ圧に基づいて回生許容量Frpmcmaxを設定する。マスタシリンダ圧は、ブレーキペダルBPのストローク量に応じて変化するため、ストローク量に対し、マスタシリンダ圧の発生は必ず遅れる。よって、実施例2では、実施例1に比べ回生制限判断のタイミングが遅くなるが、ペダル吸い込まれ感に直接関係するマスタシリンダ圧に基づいて回生制動力を制限することで、ペダル吸い込まれ感を与えない範囲で最大の回生制動力を発生させることができる。つまり、実施例1と比較して、より大きな回生制動力を発生させることができるため、エネルギ回収効率を高めることができる。
次に、効果を説明する。
実施例2の車両制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) ドライバのブレーキ操作に基づいて算出されるドライバ要求制動力を得るために、車輪に対し算出された回生制動力を得るための回生制動装置(MCU33,MG36,INV37,BAT38)と、ドライバのブレーキ操作量に応じて作動するマスタシリンダM/Cと、マスタシリンダM/Cから吸入したブレーキ液を車輪に設けられたホイルシリンダW/Cへ圧送して算出された液圧制動力を得るためのポンプを有する液圧制動装置(HU31,BCU32)と、を備えた車両制御装置であって、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ35と、マスタシリンダ圧がPmc3未満の場合、回生許容量Frpmcmax(最大回生制動力Frmax)により制限された要求回生制動力Frreqを算出する第1回生制動力算出部32aと、マスタシリンダ圧がPmc3以上の場合、最大回生制動力Frmaxよりも小さな回生許容量Frpmcmaxにより制限された要求回生制動力Frreqを算出する第2回生制動力算出部32bと、要求回生制動力Frreqに基づいて実際に発生された回生制動力の検出値である実行回生制動力Frと液圧制動力との和が車両に必要な制動力である要求総制動力Freqとなるように、要求総制動力Freqと実行回生制動力Frとの差分を要求液圧制動力Fwcreqとして算出する制動制御部32cと、を有するBCU32を備えた。
よって、ドライバに与えるペダル吸い込まれ感を低減できる。
【0031】
(2) BCU32は、マスタシリンダ圧がPmc3からPmc4となるまでの間、要求回生制動力Frreqを減少させつつ、液圧制動力を増加させて要求総制動力Freqを実現するすり替え制御部32dを備えた。
よって、車両に必要な制動力(要求制動力Freq)を確保しつつ、回生制動力を減少させることができる。
(3) BCU32は、マスタシリンダ圧センサ35により検出されたマスタシリンダ圧に基づいて回生許容量Frpmcmaxを設定する。
よって、ペダル吸い込まれ感を与えない範囲で最大の回生制動力を発生させることができ、エネルギ回収効率を高めることができる。
(4) BCU32は、マスタシリンダ圧がPmc3未満の場合は回生許容量Frpmcmaxとして最大回生制動力Frmaxを算出する。
よって、マスタシリンダ圧がPmc3に達するまでの間であって、マスタシリンダ圧による液圧制動力と回生制動力のみで車両に必要な制動力を達成できる場合には、HU31の各電磁弁を非作動にできる。このため、各電磁弁の作動頻度を抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
(5) BCU32は、要求回生制動力FrreqをMCU33に送信する。
よって、MCU33によってMG36の発生する回生制動力を要求回生制動力Frreqまで低減できる。
【0032】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例では、回生制動装置による回生制動力と液圧制御ユニットによる液圧制動力とのすり替えをブレーキコントロールユニットで実施する例を示したが、モータコントロールユニットとしてもよい。
実施例では、各ホイルシリンダの圧力を同圧としたが、必要な液圧制動力の大きさや車両挙動に応じて、各ホイルシリンダ圧に圧力差を生じさせてもよい。
実施例では、左右前輪をエンジンで駆動し、左右後輪をモータジェネレータで駆動する車両を前提としているが、回生制動装置と液圧制動装置とを備えた車両であれば、本発明を適用できる。
実施例では、制動力を単位として演算しているが、圧力やトルク、減速度を単位としてもよい。
実施例1では、ペダルストロークに基づいて回生制動力を制限する例を示したが、ペダルストロークに応じて発生させる減速度に基づいて回生制動力を制限する構成としてもよい。
実施例2ではマスタシリンダ圧に基づいて回生制動力を制限する例を示したが、ペダルストロークによる一次判断と、マスタシリンダ圧による二次判断とを組み合わせて回生制動力を制限する構成としてもよい。
【0033】
以下に、実施例から把握される特許請求の範囲に記載した発明以外の技術的思想について説明する。
(a) 請求項1に記載の車両制御装置において、
前記車両制御装置は、前記ブレーキ操作量が前記所定のブレーキ操作量のときにはあらかじめ設定した最大回生制動力を発生するように設定されていることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力まで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
(b) 請求項2に記載の車両制御装置において、
前記第1回生制動力は、あらかじめ設定した前記回生制動装置が発生する最大回生制動力であることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力まで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
(c) 請求項2に記載の車両制御装置において、
前記すり替え制御部は、算出された前記液圧制動力の単位時間当たりの増加勾配に基づいて、前記第2回生制動力の単位時間当たりの減少勾配を決定することを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧の急減によるペダル吸い込まれ感を抑制できる。
【0034】
(d) 請求項3に記載の車両制御装置において、
前記ブレーキ操作量検出部は、ブレーキペダルのストロークを検出するストロークセンサであることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧の変化に対してより早いタイミングで回生制動力を制限でき、マスタシリンダ減圧に伴うペダル吸い込まれ感をより確実に低減できる。
(e) 請求項3に記載の車両制御装置において、
前記ブレーキ操作量検出部は、前記マスタシリンダ内の圧力を検出するマスタシリンダ圧センサであることを特徴とする車両制御装置。
よって、ペダル吸い込まれ感を与えない範囲で最大の回生制動力を発生させることができ、エネルギ回収効率を高めることができる。
(f) ドライバのブレーキ操作量に基づいて算出されるドライバ要求制動力を得るために、車輪に対し算出された回生制動力指令値に基づく回生制動力を得るための回生制動装置と、ドライバのブレーキ操作量に応じて作動するマスタシリンダと、マスタシリンダから吸入したブレーキ液を前記車輪に設けられたホイルシリンダへ圧送して算出された液圧制動力指令値に基づく液圧制動力を得るためのポンプを有する液圧制動装置と、を備えた車両用の車両制御装置であって、
ドライバのブレーキ操作状態に関連するブレーキ操作状態量を検出するブレーキ操作状態量検出部と、
前記ブレーキ操作状態量検出手段により検出されたブレーキ操作状態量が所定の状態量未満のときに第1回生制動力指令値を算出する第1回生制動力指令値算出部と、
前記ブレーキ操作状態量検出手段により検出されたブレーキ操作状態量が前記所定の状態量以上のときに前記第1回生制動力指令値よりも小さな第2回生制動力を算出する第2回生制動力指令値算出部と、
前記ブレーキ操作状態量検出手段により検出されたブレーキ操作状態量が前記所定の状態量以上のときに前記液圧制動力指令値を増加させる制動制御部と、
を有するコントロールユニットを備えたことを特徴とする車両制御装置。
よって、回生制動力低下に伴う回生制動力から液圧制動力へのすり替え時におけるホイルシリンダ増圧量を、回生制動力指令値を制限しない場合の増圧量よりも低減できる。よって、マスタシリンダ減圧量を小さくでき、ペダル吸い込まれ量を抑制できるため、ドライバに与えるペダル吸い込まれ感を低減できる。
【0035】
(g) (f)に記載の車両制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記算出された第2回生制動力指令値を減少させつつ、前記液圧制動力指令値を増加させて前記ドライバ要求制動力を実現するためのすり替え制御部を備えたことを特徴とする車両制御装置。
よって、車両に必要な制動力を確保しつつ、第2回生制動力指令値を減少させることができる。
(h) (g)に記載の車両制御装置において、
前記すり替え制御部は、算出された前記液圧制動力指令値の単位時間当たりの増加勾配に基づいて、前記第2回生制動力指令値の単位時間当たりの減少勾配を決定することを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧の減少勾配が小さくなることでドライバに与えるペダル吸い込まれ感を抑制できる。
(i) (g)に記載の車両制御装置において、
前記ブレーキ操作状態量検出部は、ブレーキペダルのストローク量を検出するストロークセンサであることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧の変化に対してより早いタイミングで回生制動力を制限でき、マスタシリンダ減圧に伴うペダル吸い込まれ感をより確実に低減できる。
【0036】
(j) (g)に記載の車両制御装置において、
前記マスタシリンダは、前記ブレーキストローク量が第1ストローク量以上の場合はブレーキストローク変化量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が大きく発生し、前記第1ストローク量未満の場合はブレーキストローク変化量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が小さいストローク対応マスタシリンダであって、
前記所定の状態量は、前記第1ストローク量以下のブレーキストローク量であることを特徴とする車両制御装置。
よって、ストローク量が第1ストローク量に達するまでの間であって、回生制動力のみで車両に必要な制動力を達成できる場合には、液圧制動装置を作動させることなく、液圧制動力をゼロにできる。このため、液圧制動装置の作動頻度を抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
また、ストローク量が第1ストローク量未満の場合には、マスタシリンダ圧はゼロであるため、ペダル吸い込まれ量をゼロにでき、ペダル吸い込まれの発生自体を防止できる。
【0037】
(k) (g)に記載の車両制御装置において、
前記第1回生制動力指令値は、あらかじめ設定した前記回生制動装置が発生する最大回生制動力であることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力まで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
(l) (k)に記載の車両制御装置において、
前記回生制動装置は、前記ブレーキストローク量が所定のストローク量の場合には、あらかじめ設定した最大回生制動力を発生するように設定されていることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力まで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
(m) ドライバのブレーキ操作量に基づいて算出されるドライバ要求制動力を得るために、車輪に対し算出された回生制動力指令値に基づく回生制動力を得るための回生制動装置と、液圧制動力を得るための液圧制動装置を備えた車両用の車両制御装置であって、
前記液圧制動装置は、ドライバのブレーキ操作量に応じて作動するマスタシリンダから吸入したブレーキ液を前記車輪に設けられたホイルシリンダへ圧送して算出された液圧制動力指令値に基づく液圧制動力を得るように構成され、
ドライバのブレーキ操作ストローク量を検出するブレーキ操作ストローク量センサと、
前記ブレーキ操作ストローク量センサにより検出されたストローク量が所定のストローク量未満のときに第1回生制動力を発生するための指令値を算出する第1回生制動力指令値算出部と、
前記ブレーキ操作ストローク量センサにより検出されたストローク量が前記所定のストローク量以上のときに前記第1回生制動力指令値よりも小さな第2回生制動力を算出する第2回生制動力指令値算出部と、
前記ブレーキ操作ストローク量センサにより検出されたストローク量が前記所定のストローク量以上のときに前記液圧制動力指令値を増加させ、前記第2回生制動力指令値を低減させて前記ドライバ要求制動力を発生させる制動制御部と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
よって、回生制動力低下に伴う回生制動力から液圧制動力へのすり替え時におけるホイルシリンダ増圧量を、回生制動力指令値を制限しない場合の増圧量よりも低減できる。よって、マスタシリンダ減圧量を小さくでき、ペダル吸い込まれ量を抑制できるため、ドライバに与えるペダル吸い込まれ感を低減できる。
【0038】
(n) (m)に記載の車両制御装置において、
前記マスタシリンダは、前記ストローク量が第1ストローク量以上で前記マスタシリンダ圧が上昇し、第1ストローク量未満ではストローク量に対し、前記マスタシリンダ圧の上昇を制限するマスタシリンダ圧制限手段を備えたマスタシリンダであって、
前記所定のストローク量は、前記第1ストローク量以下であることを特徴とする車両制御装置。
よって、ストローク量が第1ストローク量に達するまでの間であって、回生制動力のみで車両に必要な制動力を達成できる場合には、液圧制動装置を作動させることなく、液圧制動力をゼロにできる。このため、液圧制動装置の作動頻度を抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
また、ストローク量が第1ストローク量未満の場合には、マスタシリンダ圧はゼロであるため、ペダル吸い込まれ量をゼロにでき、ペダル吸い込まれの発生自体を防止できる。
(o) (n)に記載の車両制御装置において、
前記回生制動装置は、前記ストローク量が所定のストローク量の場合には、あらかじめ設定した最大回生制動力を発生するように設定されていることを特徴とする車両制御装置。
よって、マスタシリンダ圧が立ち上がる前に回生制動力を最大回生制動力まで高めることができ、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0039】
31 油圧制御ユニット
32a 第1回生制動力算出部
32b 第2回生制動力算出部
32c 制動制御部
32d すり替え制御部
33 モータコントロールユニット(回生制動装置)
35 マスタシリンダ圧センサ(マスタシリンダ状態量検出部、ブレーキ操作量検出部)
36 モータジェネレータ(回生制動装置)
37 インバータ(回生制動装置)
38 バッテリ(回生制動装置)
42 ストロークセンサ(マスタシリンダ状態量検出部、ブレーキ操作量検出部)
M/C マスタシリンダ
W/C ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバのブレーキ操作に基づいて算出されるドライバ要求制動力を得るために、車輪に対し算出された回生制動力を得るための回生制動装置と、ドライバのブレーキ操作量に応じて作動するマスタシリンダと、マスタシリンダから吸入したブレーキ液を前記車輪に設けられたホイルシリンダへ圧送して算出された液圧制動力を得るためのポンプを有する液圧制動装置と、を備えた車両に用いられる車両制御装置であって、
前記マスタシリンダの状態に関連するマスタシリンダ状態量を検出するマスタシリンダ状態量検出部と、
前記マスタシリンダ状態量検出部により検出されたマスタシリンダ状態量が所定の状態量未満のときに第1回生制動力を算出する第1回生制動力算出部と、
前記マスタシリンダ状態量検出部により検出されたマスタシリンダ状態量が前記所定の状態量以上のときに前記第1回生制動力よりも小さな第2回生制動力を算出する第2回生制動力算出部と、
前記算出された第1または第2回生制動力に基づいて前記液圧制動力を算出する制動制御部と、
を有するコントロールユニットを備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記算出された第2回生制動力を減少させつつ、前記液圧制動力を増加させて前記ドライバ要求制動力を実現するためのすり替え制御部を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記マスタシリンダ状態量検出部は、前記ブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出部であることを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御装置において、
前記マスタシリンダは、前記ブレーキ操作量が第1操作量以上の場合はブレーキ操作量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が大きく発生し、前記第1操作量未満の場合はブレーキ操作量に対するマスタシリンダ圧の上昇勾配が小さいストローク対応マスタシリンダであって、
前記所定の状態量は、前記第1操作量以下の所定のブレーキ操作量であることを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記算出された回生制動力を前記回生制動装置に指令値として送信することを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−23004(P2013−23004A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157728(P2011−157728)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】