説明

車両及び燃料カット制御装置

【課題】燃料カット制御が実施される車両において燃費及び排ガス性能を向上させることを目的としている。
【解決手段】エンジンEがクラッチ28を介して変速機35に接続された自動二輪車1であって、所定の燃料カット条件が成立したときに、エンジンEへの燃料供給を停止させる燃料カット制御部60を有するECU57と、クラッチ23の接続/遮断の状態を検出するためのクラッチスイッチ23とを備え、ECU57は、燃料カット条件が成立し、かつ、クラッチスイッチ23によりクラッチ23が遮断状態であることが検出された状態が発生した場合、その発生時から所定の遅延時間tにわたって燃料カット条件の成立とクラッチ23の遮断状態とが継続されると、エンジンEへの燃料供給を復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンがクラッチを介して変速機に接続され、所定の燃料カット条件が成立したときに、前記エンジンへの燃料供給を停止させる車両及び燃料カット制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンへの燃料供給量には、エンジン回転数やスロットル開度などに対応して予め基準値が定められている。エンジンの動作を制御する制御装置は、各種センサから取得したエンジン回転数やスロットル開度などに基づき、基準値として定められた燃料供給量を決定し、その量の燃料をインジェクタにより吸気中へ供給する。
【0003】
近年のエンジンでは、所定の減速状態となったときには、エンジンへの燃料供給を停止する燃料カット制御が実施され、燃費向上及び排ガス低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。そして、燃料カット制御の実施中にクラッチが遮断されると、駆動輪の慣性力がエンジンに伝達されずエンジンストールが生じ易くなるので、クラッチ遮断中はエンジンへの燃料供給を復帰させるようになっている。
【0004】
また、クラッチ状態を検出するクラッチスイッチがオンとオフの境界付近にある瞬間には、その出力信号としてオンとオフが微小時間中に交互に繰り返し出力されてしまい、燃料カットと燃料供給とが微小時間中に無駄に繰り返されることが考えられる(俗に、チャタリングと言う)。よって、それを回避するために、エンジンへの燃料供給が復帰した直後に燃料カット条件が成立しても、即座には燃料カット制御に移行せず、所定時間経過後に燃料カット制御に移行するようにし、燃料カット制御の開始の応答性が鈍感となるように設定している。
【特許文献1】特開2005−76600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、減速状態でシフトダウンをすべく運転者によりクラッチが遮断されると、実際にはクラッチ操作時間が僅かであり燃料カット制御を継続してもエンジンストールは生じないが、僅かな時間でもクラッチが遮断されたことでエンジンへの燃料供給が復帰する。そして、一旦、燃料供給が復帰すると、再び燃料カット条件が成立しても、チャタリング防止のために暫くは燃料供給が継続される。そうすると、エンジンへの無駄な燃料供給が生じ、燃費及び排ガス性能が低下することとなる。
【0006】
そこで本発明は、燃料カット制御が実施される車両において燃費及び排ガス性能を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る車両は、エンジンがクラッチを介して変速機に接続された車両であって、第1の燃料カット条件が成立したときに、前記エンジンへの燃料供給を停止させる燃料カット制御装置と、前記クラッチの接続/遮断の状態を検出するためのクラッチ状態検出手段とを備え、前記燃料カット制御装置は、前記燃料カット条件が成立し、かつ、前記クラッチ状態検出手段により前記クラッチが遮断状態であることが検出された状態が発生した場合、前記発生時から所定の遅延時間にわたって第2の燃料カット条件の成立と前記クラッチの遮断状態とが継続されると、前記エンジンへの燃料供給を復帰させることを特徴とする。
【0008】
前記構成によれば、第1の燃料カット条件が成立し、かつ、クラッチの遮断が発生した状態から、遅延時間が経過せずにクラッチが接続された場合には、エンジンへの燃料供給が復帰しないため、燃料供給の機会が低減され、燃費向上及び排ガス低減を図ることができる。かつ、排ガスが低減されると、排気浄化用の触媒をスケールダウンさせることができるので、コストダウンも可能となる。しかも、第1の燃料カット条件が成立し、かつ、クラッチの遮断が発生した状態から、所定の遅延時間にわたって第2の燃料カット条件の成立と前記クラッチの遮断状態とが継続された場合には、エンジンへの燃料供給が復帰されるので、長時間にわたってクラッチ遮断状態が継続した場合のエンジンストールの発生も防止することができる。
【0009】
前記第1の燃料カット条件と前記第2の燃料カット条件とは、同一条件であるとよいが、異なる条件であってもよい。
【0010】
前記遅延時間は、0.1秒以上1秒以下に設定されていることが望ましい。
【0011】
前記構成によれば、遅延時間が0.1秒以上であることにより、運転者が変速段のシフト操作を速やかに行った場合は、経験的にクラッチが遮断されてから遅延時間が経過する前にクラッチが接続されることとなり、通常のシフト操作時におけるクラッチ遮断後の燃料供給の復帰を回避することができる。また、遅延時間が1秒以下であることにより、燃料供給の復帰が遅れてエンジンストールが発生することを防止することができる。
【0012】
前記遅延時間は、前記エンジンの運転状態を表すパラメータに応じて変更されてもよい。
【0013】
前記構成によれば、エンジンの運転状態を表すパラメータ(例えば、エンジン回転数、スロットル開度、車速、変速段、吸気圧、エンジン冷却水温度、大気圧、走行モードなど)ごとに適切な遅延時間を設定できるため、より好適に燃費向上及び排ガス低減を図ることができる。
【0014】
前記遅延時間は、エンジンストールが生じる前に燃料供給を復帰させる時間に設定されていてもよい。
【0015】
前記構成によれば、エンジンストールの発生を防止しながら燃費向上及び排ガス低減を図ることができる。
【0016】
前記燃料カット制御装置は、前記復帰時には、その復帰初期における燃料供給量を通常よりも多い量に補正してもよい。
【0017】
前記構成によれば、燃料カット制御が続いて吸気通路の内壁面が乾燥した後に燃料供給が復帰することで、その燃料の一部が内壁面に付着して気化しなくても、その付着分を補うことができる。よって、運転者のスロットル操作に対する応答性が良い運転フィーリングを提供することができる。
【0018】
前記燃料カット制御装置は、前記復帰時には、その復帰初期における燃料供給量を通常よりも少ない量に補正してもよい。
【0019】
前記構成によれば、燃料カット状態から燃料供給が復帰する際にエンジン回転数が滑らかに増加し、ショックの少ない運転フィーリングを提供することができる。
【0020】
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段をさらに備え、前記燃料カット制御装置は、前記燃料カット条件の成立中において、前記エンジン回転数検出手段で検出されるエンジン回転数が所定値未満である場合に、前記クラッチ状態検出手段により前記クラッチが遮断状態であることが検出されると、前記遅延時間を経ずに前記エンジンへの燃料供給を復帰させてもよい。
【0021】
前記構成によれば、エンジン回転数が低い場合には、クラッチが遮断されると即座に燃料供給が復帰するため、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0022】
本発明に係る車両用の燃料カット制御装置は、エンジンがクラッチを介して変速機に接続された車両に用いられる燃料カット制御装置であって、第1の燃料カット条件が成立したときに、前記エンジンへの燃料供給を停止させ、前記燃料カット条件が成立し、かつ、前記クラッチが遮断状態である状態が発生した場合、前記発生時から所定の遅延時間にわたって第2の燃料カット条件の成立と前記クラッチの遮断状態とが継続されると、前記エンジンへの燃料供給を復帰させることを特徴とする。
【0023】
前記構成によれば、燃料カット条件の成立中において、クラッチが遮断されてから遅延時間が経過せずにクラッチが接続された場合には、エンジンへの燃料供給が復帰しないため、燃料供給の機会が低減され、車両の燃費向上及び排ガス低減を図ることができる。しかも、燃料カット条件の成立中において、クラッチが遮断されてから遅延時間が経過した場合には、エンジンへの燃料供給が復帰されるので、長時間にわたってクラッチ遮断状態が継続した場合のエンジンストールの発生も防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、燃料カット制御が実施される車両において燃費及び排ガス性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、自動二輪車に搭乗した運転者から見た方向を基準とする。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る自動二輪車1の左側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は前輪2及び後輪3を備えており、前輪2は上下方向に延びるフロントフォーク5の下部にて回転自在に支持され、該フロントフォーク5の上部には左右へ延びるバー型のステアリングハンドル4が、ステアリングシャフト(図示せず)を介して取り付けられている。該ステアリングシャフトは、フレームの一部を構成するヘッドパイプ6によって回転自在に支持されており、ライダーがステアリングハンドル4をステアリングシャフト回りに回動操作することにより、前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
【0027】
ステアリングハンドル4には、その左グリップ部分にクラッチレバー11が設けられている。クラッチレバー11の根元部分には、運転者によりクラッチレバー11が把持されたか否かを検出するクラッチスイッチ23がクラッチ状態検出手段として設けられている。ヘッドパイプ6からは左右一対のメインフレーム7が後方へ延設され、メインフレーム7の後部からは、ピボットフレーム8が下方へ延設されている。このピボットフレーム8に設けられたピボット9には、スイングアーム10の前端部が軸支されており、スイングアーム10の後端部には後輪3が回転自在に支持されている。
【0028】
メインフレーム7の上方であってステアリングハンドル4の後方には燃料タンク12が設けられ、燃料タンク12の後方には運転者騎乗用のシート13が設けられている。また、メインフレーム7の下方にはエンジンEが搭載されており、エンジンEの両側はカウリング15により覆われている。このエンジンEは並列4気筒の4サイクルエンジンであり、そのクランクシャフト16が車体の左右方向に向けて設けられている。このエンジンEの出力は、チェーン14を介して後輪3へ伝えられ、後輪3が回転することによって自動二輪車1が走行する。
【0029】
また、エンジンEの排気ポート17には排気管18が接続され、排気管18はエンジンEの前方から下方を通って後方へ延設されている。一方、エンジンEの吸気ポート19にはスロットル装置20の下流側端部が接続され、スロットル装置20の上流側端部には、左右のメインフレーム7の間に配置されたエアクリーナーボックス21が接続されている。
【0030】
図2は図1に示す自動二輪車1のエンジンEを示す左側面図である。図2に示すように、エンジンEは下方から順に、オイルパン30、クランクケース31、シリンダブロック32、シリンダヘッド33、及びシリンダヘッドカバー34から主として構成されている。クランクケース31内には、クランクシャフト16と、変速機35を構成するメインシャフト36及びカウンターシャフト37とが収容されている。また、メインシャフト36の一端にはクラッチ28が設けられており、クラッチ28は接続状態においてクランクシャフト16の回転力をメインシャフト36へ伝達するようになっている。このクラッチ28は、運転者がクラッチレバー11(図1参照)を把持することにより、エンジンEから後輪3への動力伝達を遮断する。
【0031】
シリンダヘッドカバー34内には、DOHC型のバルブシステム(図示せず)が収容されている。また、シリンダヘッド33には、その前部に排気ポート17が形成され、後部には吸気ポート19が形成されており、その吸気ポート19にスロットル装置20が接続されている。
【0032】
図3は図2に示すエンジンEが備えるスロットル装置20の右側面図である。図3に示すように、スロットル装置20は、エンジンEの各気筒に対応して4つの吸気通路を有するボディ部40を備え、ボディ部40の各吸気通路には、下流側のメインスロットルバルブ41と上流側のサブスロットルバルブ42とが設けられている。このうちメインスロットルバルブ41は、ステアリングハンドル4(図1参照)の右グリップ部分に設けられたスロットルグリップ(図示せず)との間でケーブルを介して接続されており、運転者によるスロットルグリップの回動操作に応じて回動し、吸気通路を開閉する構成になっている。また、サブスロットルバルブ42はその回動軸に変速ギヤを介してモータ43が接続されており、図1に示すようにシート13の下方に配置されたECU(Electric Control Unit)57からの指示に基づいて回動し、吸気通路を開閉する構成になっている。
【0033】
図2及び3に示すように、スロットル装置20は、ボディ部40の後部にフューエルインジェクタ45を備えている。フューエルインジェクタ45は、吸気通路毎に設けられており、上方に配された燃料タンク12(図1参照)からの燃料を、ECU57(図1参照)からの指示に基づいて吸気通路内へ霧状に噴射する。噴射された燃料は吸気に混じり、シリンダブロック32及びシリンダヘッド33に囲まれて形成される燃焼室46(図2参照)へ吸入される。燃焼室46の上部には点火装置47が設けられ、点火装置47は、ECU57(図1参照)からの指示に基づいて点火し、燃焼室46内に吸入された混合ガスを燃焼させる。
【0034】
また、図2に示すように、エンジンEには、クランクシャフト16の回転角を検出することによりエンジン回転数を検出可能なエンジン回転数センサ50がエンジン回転数検出手段として設けられている。図3に示すように、スロットル装置20には、メインスロットルバルブ41及びサブスロットルバルブ42のそれぞれの開度を検出するスロットル開度センサ55(図3参照)が設けられている。
【0035】
図4は図1に示す自動二輪車1に搭載されたECU57等の構成を示すブロック図である。図4に示すように、エンジン回転数センサ50、スロットル開度センサ55及びクラッチスイッチ23が、燃料カット制御装置であるECU57に接続されている。ECU57は、各センサ50,55及びスイッチ23の出力信号に基づき、吸気中への燃料供給の停止/復帰などの制御を行うように構成されている。具体的には、ECU57は、気筒毎に設けられたフューエルインジェクタ45を駆動する燃料噴射駆動回路61と、燃料供給の停止/復帰などに関する制御信号を燃料噴射駆動回路61へ出力する燃料カット制御部60とを有している。
【0036】
図5は図4に示すECU57の制御を説明するためのフローチャートである。以下、図4及び5に基づいて、エンジンEの減速時における燃料カット制御について説明する。ECU57の燃料カット制御部60は、エンジンEの運転状態が所定の燃料カット条件を満たすか否かを判定する。具体的には、エンジン回転数センサ50で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS1)。ステップS1でYesの場合には、スロットル開度センサ55で検出されるスロットル開度が所定値(例えば、5〜10°)以下であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2でYesの場合には、燃料カット条件が成立したと判定される(ステップS3)。なお、ステップS1又はステップS2でNoの場合には、燃料カット制御が終了し、ステップS1に戻る(ステップS10)。
【0037】
燃料カット条件が成立すると、燃料カット制御が実施される(ステップS4)。燃料カット制御は、フューエルインジェクタ45から吸気中への燃料供給を強制的に停止させる制御である。これにより、減速中における無駄な燃料消費が低減され、燃費向上及び排ガス低減が図られることとなる。
【0038】
次いで、燃料カット制御中には、クラッチ28が遮断されるとエンジンストールが発生し易くなるため、適宜、燃料供給を復帰させる必要がある。そのために、クラッチスイッチ23により運転者がクラッチレバー11を把持したことが検出されたか否か、即ち、クラッチ28が遮断状態であるか否かが判定される(ステップS5)。ステップS5でNoの場合には、燃料カット制御を継続すべくステップS1に戻る。一方、ステップS5でYesの場合には、エンジン回転数センサ50で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS6)。なお、このステップS6における所定値は、ステップS1における所定値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
ステップS6でNoの場合には、エンジン回転数が低く、クラッチ28の遮断によってエンジンストールがより発生し易いため、即座に燃料供給を復帰させる(ステップS8)。一方、ステップS6でYesの場合には、スロットル開度センサ55で検出されるスロットル開度が所定値(例えば、5〜10°)以下であるか否かが判定される(ステップS7)。なお、ステップS7における所定値は、ステップS2における所定値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ステップS7でNoの場合には、運転者に加速あるいはエンジン回転数を上昇させる意図があるとみなせるので、即座に燃料供給を復帰させる(ステップS8)。
【0040】
一方、ステップS7でYesの場合、即ち、燃料カット条件が継続して成立している場合には、クラッチスイッチ23でクラッチ遮断状態が検出された時点から、所定の遅延時間t(例えば、0.1秒≦t≦1秒)が経過したか否かを判定する(ステップS8)。この遅延時間tは、エンジンEの運転状態を表すパラメータ(例えば、エンジン回転数、スロットル開度、車速、変速段、吸気圧、エンジン冷却水温度、大気圧など)に応じた値に設定されている。
【0041】
ステップS8でNoの場合には、クラッチスイッチ23により運転者がクラッチレバー11を把持したことが検出されたままであるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12でNoの場合には、クラッチ28が接続状態となってエンジンストールが生じないため、燃料カット制御を継続すべくステップS1に戻る。つまり、クラッチ28の遮断時間が遅延時間t未満で短時間である場合には、燃料供給が復帰しない。
【0042】
ステップS12でYesの場合には、ステップS6に戻る。そして、ステップS8でYesの場合には、クラッチ28が遮断されてから所定の遅延時間tが経過し、エンジンストールの可能性が高まるため、エンジンEへの燃料供給が復帰させられる(ステップS9)。つまり、クラッチ28の遮断時間が遅延時間t以上で長時間となった場合には、エンジンストールの防止のために燃料供給が復帰する。次いで、クラッチスイッチ23により運転者がクラッチレバー11を離したことが検出されたか否か、即ち、クラッチ28が接続されたか否かが判定される(ステップS10)。ステップS10でNoの場合には、燃料供給の復帰を継続すべくステップS8に戻る。一方、ステップS10でYesの場合には、燃料カット制御に戻るためにステップS1に戻る。
【0043】
図6は図4に示すECU57による燃料カット条件の成立時における制御を説明するタイミングチャートである。なお、図6中の横軸は時間を示す。図6に示すように、所定の減速状態で燃料カット条件(エンジン回転数が所定値以上かつスロットル開度が所定値以下)が成立した時に、図中A時点のように減速状態におけるシフトダウンのためにクラッチ28が短い時間で遮断されると、遅延時間tの経過前にクラッチ28が接続状態に戻るため、燃料カット制御はオフされることなく継続される。一方、図中B時点のようにクラッチ28が遅延時間tよりも長い時間にわたって遮断され続けると、クラッチ28の遮断開始から遅延時間t分だけ遅れて燃料供給が復帰することとなる。
【0044】
一方、図7の比較例では、燃料カット制御中にクラッチが遮断されると即座に燃料供給が復帰する。そして、その後にクラッチが接続されても、チャタリングを防止すべく、所定時間dの経過を待ってから燃料カットに戻るようになっている。つまり、比較例では、燃料カット条件の成立時における燃料供給復帰の機会が多くなっている。このように、図6と図7とを対比すれば分かるように、本実施形態によれば、燃料カット条件が成立した減速時における燃料供給復帰(燃料カット制御のオフ)の機会が低減され、燃費向上及び排ガス低減を図ることができる。
【0045】
また、燃料カット制御が続くと、エンジンEの吸気ポート19及びスロットル装置20の吸気通路の内壁面が乾燥するため、燃料供給復帰時に噴射された燃料の一部は、内壁面に付着して気化しないこととなる。そこで、その付着分を補うため、復帰初期において、通常の燃料噴射量に補正量Cを加算した量の燃料を噴射させ、その補正量Cを時間経過と共に徐々にゼロまで減少させている。即ち、復帰初期において、燃料供給量を通常よりも多い量に補正している。これにより、運転者のスロットル操作に対する応答性が良い運転フィーリングを提供することができる。なお、通常の燃料噴射量とは、エンジン回転数、スロットル開度、吸気圧などに対応して予め決められた燃料供給の基準量を意味している。
【0046】
また、変形例として、燃料供給の復帰初期における燃料供給量を通常よりも抑制するようにしてもよい。図8はその変形例における燃料カット条件の成立時における制御を説明するタイミングチャートである。図8に示すように、変形例では、燃料カット状態からの燃料供給復帰時には、その復帰初期において、通常の燃料噴射量に補正量Cを減算した量の燃料を噴射させ、その補正量Cを時間経過と共に徐々にゼロまで減少させている。即ち、復帰初期において、通常の燃料噴射量まで徐々に増加するように、燃料供給量を通常よりも少ない量に補正している。これにより、燃料カット状態から燃料供給復帰する際にエンジン回転数が滑らかに増加し、ショックの少ない運転フィーリングを提供することができる。
【0047】
なお、本実施形態では自動二輪車を例に説明したが、他の車両にも適用可能であり、たとえば不整地走行車(ATV)等にも適用してもよい。また、本実施形態では、クラッチ状態検出手段としてクラッチスイッチ23を用いたが、クラッチ28の状態(接続又は遮断)を検出可能であれば各種センサを用いてもよい。また、本実施形態では、燃料カット条件をエンジン回転数及びスロットル開度に基づいて判定したが、その他に、エンジンへの吸気圧やエンジン冷却水の温度等にも基づいて判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係る車両及び燃料カット制御装置は、燃費及び排ガス性能を向上させることができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車やATV等の車両に広く適用すると有益である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車に搭載されたエンジンを示す左側面図である。
【図3】図2に示すエンジンが備えるスロットル装置の右側面図である。
【図4】図1に示す自動二輪車に搭載されたECU等の構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すECUの制御を説明するためのフローチャートである。
【図6】図4に示すECUによる燃料カット条件の成立時における制御を説明するタイミングチャートである。
【図7】比較例における図6相当のタイミングチャートである。
【図8】本発明の変形例における燃料カット条件の成立時における制御を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 自動二輪車(車両)
23 クラッチスイッチ(クラッチ状態検出手段)
28 クラッチ
35 変速機
45 フューエルインジェクタ
50 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)
55 スロットル開度センサ
57 ECU(燃料カット制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンがクラッチを介して変速機に接続された車両であって、
第1の燃料カット条件が成立したときに、前記エンジンへの燃料供給を停止させる燃料カット制御装置と、
前記クラッチの接続/遮断の状態を検出するためのクラッチ状態検出手段とを備え、
前記燃料カット制御装置は、前記燃料カット条件が成立し、かつ、前記クラッチ状態検出手段により前記クラッチが遮断状態であることが検出された状態が発生した場合、前記発生時から所定の遅延時間にわたって第2の燃料カット条件の成立と前記クラッチの遮断状態とが継続されると、前記エンジンへの燃料供給を復帰させることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記第1の燃料カット条件と前記第2の燃料カット条件とは、同一条件である請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記遅延時間は、0.1秒以上1秒以下に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記遅延時間は、前記エンジンの運転状態を表すパラメータに応じて変更される請求項1乃至3のいずれかに記載の車両。
【請求項5】
前記遅延時間は、エンジンストールが生じる前に燃料供給を復帰させる時間に設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両。
【請求項6】
前記燃料カット制御装置は、前記復帰時には、その復帰初期における燃料供給量を通常よりも多い量に補正することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両。
【請求項7】
前記燃料カット制御装置は、前記復帰時には、その復帰初期における燃料供給量を通常よりも少ない量に補正することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両。
【請求項8】
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段をさらに備え、
前記燃料カット制御装置は、前記燃料カット条件の成立中において、前記エンジン回転数検出手段で検出されるエンジン回転数が所定値未満である場合に、前記クラッチ状態検出手段により前記クラッチが遮断状態であることが検出されると、前記遅延時間を経ずに前記エンジンへの燃料供給を復帰させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の車両。
【請求項9】
エンジンがクラッチを介して変速機に接続された車両に用いられる燃料カット制御装置であって、
第1の燃料カット条件が成立したときに、前記エンジンへの燃料供給を停止させ、
前記燃料カット条件が成立し、かつ、前記クラッチが遮断状態である状態が発生した場合、前記発生時から所定の遅延時間にわたって第2の燃料カット条件の成立と前記クラッチの遮断状態とが継続されると、前記エンジンへの燃料供給を復帰させることを特徴とする車両用の燃料カット制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−71253(P2010−71253A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242205(P2008−242205)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】