車両接地面摩擦状態推定装置及びその方法
【課題】タイヤの摩擦限界に対する余裕度をより適切に推定する。
【解決手段】車両状態推定装置は、接地面において前記車輪のセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定するためのタイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45及びセルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46と、その入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決めるためのトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49を備える。
【解決手段】車両状態推定装置は、接地面において前記車輪のセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定するためのタイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45及びセルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46と、その入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決めるためのトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪接地面の摩擦状態或いは車輪の路面グリップ状態、又は摩擦限界に対する余裕度を推定するための装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、横軸が車輪のスリップ率に対応し且つ縦軸が路面の摩擦係数に対応する2次元マップに実際の車輪のスリップ率と路面の摩擦係数とに対応する点をプロットし、プロットした点と原点とを通る直線の傾きから夕イヤ摩擦状態を推定するものがある(特許文献1参照)。この推定したタイヤ摩擦状態に基づいて、車輪の制駆動力を制御している。
【特許文献1】特開2006−34012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の従来の技術にあっては、タイヤの摩擦限界を把握することができないため、タイヤ摩擦限界までの余裕度がわからない。
本発明の課題は、タイヤの摩擦限界に対する余裕度をより適切に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明は、入力部が、接地面において車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度との比である入力を設定する。また、出力部が、入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度がわかれば、その比を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを取得できる。この車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを基に、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤ摩擦状態を適切に推定できるため、タイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態の前提となる技術)
先ず、本実施形態の前提となる技術を説明する。
(1)車輪のスリップ角と車輪の横力との関係
図1はタイヤの特性曲線を示す。このタイヤの特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立する一般的な関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤの特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。横力Fyは、コーナリングフォースやサイドフォースに代表される値である。この実施形態では、横力が接地面において車輪に作用する車輪力に相当し、車輪のスリップ角が車輪のスリップ度に相当する。
【0007】
図1に示すように、タイヤの特性曲線では、スリップ角βtと横力Fyとの関係が、スリップ角βtの絶対値が増加するに従い線形から非線形に遷移する。すなわち、スリップ角βtが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ角βtと横力Fyとの間に線形関係が成り立つ。そして、スリップ角βt(絶対値)がある程度大きくなると、スリップ角βtと横力Fyとの関係が非線形関係になる。従って、タイヤの特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
【0008】
このような線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤの特性曲線の接線の傾き(勾配)に着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤの特性曲線の接線の傾きとは、スリップ角βtの変化量と横力Fyの変化量との比、すなわち、横力Fyのスリップ角βtに関する偏微分係数で示される値である。このように示されるタイヤの特性曲線の接線の傾きは、該タイヤの特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図1中に○印で示す交点)におけるタイヤの特性曲線の接線の傾きとみることもできる。そして、このようなタイヤの特性曲線上における位置、すなわちスリップ角βt及び横力Fyがわかれば、タイヤの摩擦状態の推定が可能になる。例えば、図1に示すように、タイヤの特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。タイヤの摩擦状態が安定状態であれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
【0009】
図2は、各種路面μのタイヤの特性曲線と摩擦円を示す。図2(a)は、各種路面μのタイヤの特性曲線を示す。図2(b)〜(d)は、各路面μの摩擦円を示す。路面μは例えば0.2、0.5、1.0である。図2(a)に示すように、タイヤの特性曲線は、各路面μで定性的に同様な傾向を示す。また、図2(b)〜(d)に示すように、路面μが小さくなるほど、摩擦円が小さくなる。すなわち、路面μが小さくなるほど、タイヤが許容できる横力が小さくなる。このように、タイヤ特性は、路面摩擦係数をパラメータとした特性である。よって、図2に示すように、路面摩擦係数の値に応じて、低摩擦の場合のタイヤの特性曲線、中摩擦の場合のタイヤの特性曲線、及び高摩擦の場合のタイヤの特性曲線等を得ることができる。
【0010】
図3は、各種路面μのタイヤの特性曲線と原点を通る任意の直線a,b,cとの関係を示す。図3に示すように、前記図1と同様に、各種路面μのタイヤの特性曲線について、任意の直線a,b,cとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線aとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一の直線との交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
【0011】
例えば、図4では、前記図3に示した直線cに着目している。図4に示すように、同一の直線cとの交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きは同一となる。すなわち、路面μがμ=0.2のタイヤの特性曲線上での交点x1を得る横力Fy1とスリップ角βt1との比(Fy1/βt1)、路面μがμ=0.5のタイヤの特性曲線上での交点x2を得る横力Fy2とスリップ角βt2との比(Fy2/βt2)、及び路面μがμ=1.0のタイヤの特性曲線上での交点x3を得る横力Fy3とスリップ角βt3との比(Fy3/βt3)が同一値となる。そして、それら各路面μのタイヤの特性曲線上で得られる各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一となる。
【0012】
図5は、任意の直線とタイヤの特性曲線との交点を示す横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(∂Fy/∂βt)との関係を示す。図5に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.2、0.5、1.0)でも、このように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとが一定の関係を示している。そのため、例えば乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この図5に示す特性曲線が成立する。すなわち、この図5に示すタイヤ特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤ特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要をすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図5の特性曲線は、図1と同様に、タイヤの特性曲線を示していると言える。しかし、図1と区別して、図5の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0013】
図5に示す特性曲線は、横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。
【0014】
また、横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が大きい領域では、図5の特性曲線は単調増加関数の形をしている。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが最大となることは、該接線の傾きがタイヤの特性曲線の線形領域のものであることを示す。なお、線形領域では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きは、横力Fyとスリップ角βtの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
【0015】
このようにして得ることができるタイヤの特性曲線上の接線の傾きは、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。具体的には、正値の領域の場合、スリップ角βtを増やすことでさらに強い横力Fy(コーナリングフォース等)を発生させることができることを示す。そして、零又は負値の領域の場合、スリップ角βtを増加させても横力Fy(コーナリングフォース等)が増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。
【0016】
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤの特性曲線について、そのタイヤの特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤの特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図5)。これにより、横力Fyとスリップ角βtとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。タイヤの摩擦状態の情報を得る手順を図6を用いて説明する。
【0017】
先ず、横力Fyとスリップ角βtとを検出する。そして、図6(a)に示す特性曲線(前記図5と同様の特性曲線)を用いることで、検出した横力Fy及びスリップ角βtに対応(Fy/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きを特定できる。例えば、図6(a)に示すように、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4,Id5を得る。このタイヤの特性曲線上の接線の傾きから、図6(b)に示すように、ある路面μのタイヤの特性曲線上の位置を特定できる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4,Id5に対応する位置xid1,xid2,xid3,xid4,xid5を特定できる。ここで、タイヤの特性曲線上における位置は、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を示すものとなる。このようなことから、図6(b)に示すようにタイヤの特性曲線上の位置を特定できることで、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力(例えばグリップの能力)を知ることができる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値又は零近傍である場合(例えばId4やId5)、それから特定できるタイヤの特性曲線上の位置(例えばxid4やxid5)に基づき、タイヤの横力が限界領域にあることがわかる。
【0018】
以上のような手順により、横力Fy及びスリップ角βtさえわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を用いることで、その横力Fy及びスリップ角βtを得た路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を知ることができる。
図7は、さらに摩擦円との関係を示す。図7(a)は、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す(前記図5と同様)。図7(b)は、タイヤの特性曲線を示す。図7(c)は、摩擦円を示す。これらの関係において、先ず、横力Fy及びスリップ角βtに対応(Fy/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きIdを得る(図7(a))。これにより、タイヤの特性曲線上の位置を特定できる(図7(b))。さらに、摩擦円における横力の相対的な値を知ることができる。すなわち、タイヤが許容できる横力に対するマージンMを知ることができる。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾き自体は、スリップ角βtの変化に対する横力Fyの変化割合を示すものとなる。よって、図7(a)に示す特性曲線の縦軸の値(タイヤの特性曲線上の接線の傾き)は、いわば車両挙動の変化速度を示すものであるとも言える。
【0019】
また、輪荷重を変化させたときの横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図8は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図8に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図8に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。このような輪荷重との関係も本願発明者は発見した。
【0020】
(2)車輪のスリップ角と車輪のセルフアライニングトルクとの関係
図9はタイヤの特性曲線を示す。このタイヤの特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪のセルフアライニングトルクMzとの間に成立する関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤの特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。また、セルフアライニングトルクは、ステアリングを中立位置に戻すトルクである。
【0021】
図9に示すように、タイヤの特性曲線では、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係が、スリップ角βtの絶対値が増加するに従い線形から非線形に遷移する。すなわち、スリップ角βtが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの間に線形関係が成り立つ。そして、スリップ角βt(絶対値)がある程度大きくなると、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係が非線形関係になる。従って、タイヤの特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
【0022】
このような線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤの特性曲線の接線の傾き(勾配)に着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤの特性曲線の接線の傾きとは、スリップ角βtの変化量とセルフアライニングトルクMzの変化量との比、すなわち、セルフアライニングトルクMzのスリップ角βtに関する偏微分係数で示される値である。このように示されるタイヤの特性曲線の接線の傾きは、該タイヤの特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図9中に○印で示す交点)におけるタイヤの特性曲線の接線の傾きとみることもできる。そして、このようなタイヤの特性曲線上における位置、すなわちスリップ角βt及びセルフアライニングトルクMzがわかれば、タイヤの摩擦状態の推定が可能になる。例えば、図9に示すように、タイヤの特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。タイヤの摩擦状態が安定状態であれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
【0023】
図10は、各種路面μのタイヤの特性曲線と原点を通る任意の直線a,b,cとの関係を示す。図10に示すように、前記図9と同様に、各種路面μのタイヤの特性曲線について、任意の直線a,b,cとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線aとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一の直線との交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
【0024】
例えば、図11では、前記図10に示した直線cに着目している。図11に示すように、同一の直線cとの交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きは同一となる。すなわち、路面μがμ=0.3のタイヤの特性曲線上での交点x1を得るセルフアライニングトルクMz1とスリップ角βt1との比(Mz1/βt1)、路面μがμ=0.6のタイヤの特性曲線上での交点x2を得るセルフアライニングトルクMz2とスリップ角βt2との比(Mz2/βt2)、及び路面μがμ=1.0のタイヤの特性曲線上での交点x3を得るセルフアライニングトルクMz3とスリップ角βt3との比(Mz3/βt3)が同一値となる。そして、それら各路面μのタイヤの特性曲線上で得られる各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一となる。
【0025】
図12は、任意の直線とタイヤの特性曲線との交点を示すセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(∂Mz/∂βt)との関係を示す。図12に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.3、0.6、1.0)でも、このように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとが一定の関係を示している。そのため、例えば乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この図12に示す特性曲線が成立する。すなわち、この図12に示すタイヤの特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤの特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要とすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図12の特性曲線は、図1と同様に、タイヤの特性曲線を示していると言える。しかし、図1と区別して、図12の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0026】
図12に示す特性曲線は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。
【0027】
また、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が大きい領域では、図5の特性曲線は単調増加関数の形をしている。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが最大となることは、該接線の傾きがタイヤの特性曲線の線形領域のものであることを示す。なお、線形領域では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きは、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
【0028】
このようにして得ることができるタイヤの特性曲線上の接線の傾きは、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。そして、横力Fyの場合と同様に、正値の領域の場合、スリップ角βtを増やすことでさらに強いセルフアライニングトルクMzを発生させることができることを示す。一方、零又は負値の領域の場合、スリップ角βtを増加させてもセルフアライニングトルクMzが増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。
【0029】
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤの特性曲線について、そのタイヤの特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤの特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図12)。これにより、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。タイヤの摩擦状態の情報を得る手順を図13を用いて説明する。
【0030】
先ず、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとを検出する。そして、図13(a)に示す特性曲線(前記図12と同様の特性曲線)を用いることで、検出したセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtに対応(Mz/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きを特定できる。例えば、図13(a)に示すように、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4を得る。このタイヤの特性曲線上の接線の傾きから、図13(b)に示すように、ある路面μのタイヤの特性曲線上の位置を特定できる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4に対応する位置xid1,xid2,xid3,xid4を特定できる。ここで、タイヤの特性曲線上における位置は、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を示すものとなる。このようなことから、図13(b)に示すようにタイヤの特性曲線上の位置を特定できることで、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力(例えばグリップの能力)を知ることができる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値又は零近傍である場合(例えばId3やId4)、それから特定できるタイヤの特性曲線上の位置(例えばxid3やxid4)に基づき、タイヤのセルフアライニングトルクが限界領域にあることがわかる。
【0031】
以上のような手順により、セルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtさえわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を用いることで、そのセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを得た路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を知ることができる。
また、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図14は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図14に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図14に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。このような輪荷重との関係も本願発明者は発見した。
【0032】
(3)車輪の横力と車輪のセルフアライニングトルクとの関係
図15は、スリップ角βtに対する、横力FyとセルフアライニングトルクMzとの関係を示す。例えば、スリップ角βtと横力Fyとの関係は、前記図1に示した関係である。また、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係は、前記図9に示した関係である。この図1と図9とを重ね合わせると、図15に示すようになる。この図15に示すように、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzともに、スリップ角βtの増加に対して、増加傾向から減少傾向に転じる特性を示す。このとき、セルフアライニングトルクMzが先に増加傾向から減少傾向に転じ、その後、横力Fyが増加傾向から減少傾向に転じる。
【0033】
図16は、前記図15に示す関係を各種路面μについて示したものである。前述のように、スリップ角βtと横力Fyとのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線ともいう。)では、同一の直線との交点で得られる各種路面μのそのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(μ勾配又は横方向μ勾配、以下、μ勾配ともいう。)が同一となる結果を得ることができる。また、前述のように、スリップ角βt及びセルフアライニングトルクMzとのタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線ともいう。)でも、同様な特性として、同一の直線との交点で得られる各種路面μのそのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(以下、トルク勾配ともいう。)が同一となる結果を得ることができる。すなわち、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線では、βt軸に対する位置関係が、路面μ変化がなければ一意に定まる。又は、路面μが変化すると、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線はともに、路面μに比例して(縦横比を維持して)拡大又は縮小された形状となる。すなわち、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線とは、路面μ変化によらず相対的な関係性を維持している。
【0034】
以上のような関係から、図16に示すように、ある路面μのMz−βt特性曲線上のセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)から、対応する路面μのFy−βt特性曲線上の接線の傾き(μ勾配)を特定できる。
図17は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(∂Fy/∂βt、μ勾配)との関係を示す。図17は、前記図5と横軸が異なるだけで、同じ特性となる。すなわち、図17に示すように、どの各路面μでも、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(μ勾配)とが一定の関係を示す。すなわち、この図17に示すタイヤの特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤの特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要とすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図17の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0035】
そして、図17に示す特性曲線は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。また、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。また、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が大きい領域では、図17の特性曲線は単調増加関数の形をしている。
【0036】
このようにして得たμ勾配は、動的なコーナリングパワとして用いることができ、車両特性を推定したり車両挙動の限界を予測したりする上でとても重要なパラメータとなる。
また、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図18は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図18に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図18に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。
【0037】
(実施形態)
以上の技術の採用により実現した実施形態を次に説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図19は、第1の実施形態の車両の概略構成を示す。図19に示すように、車両は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24、車輪速センサ25、EPSECU(ElectricPower Steering Electronic Control Unit)26、操舵トルクセンサ35、ブレーキECU36、EPS(ElectricPower Steering)モータ27及び車両走行状態推定装置28を備える。車両走行状態推定装置28は、本発明に係る車両接地面摩擦状態推定装置を実現している。
【0038】
操舵角センサ21は、ステアリングホイール29と一体に回転するステアリングシャフト30の回転角を検出する。操舵角センサ21は、その検出結果(操舵角)を車両走行状態推定装置28に出力する。ヨーレイトセンサ22は、車両のヨーレイトを検出する。ヨーレイトセンサ22は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。横加速度センサ23は、車両の横加速度を検出する。横加速度センサ23は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。前後加速度センサ24は、車両の前後加速度を検出する。前後加速度センサ24は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。車輪速センサ25は、車体に設けられた各車輪31FL〜31RRの車輪速を検出する。車輪速センサ25は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。
【0039】
EPSECU26は、操舵角センサ21が検出した操舵角を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ27に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、操舵力アシストを行うための指令信号である。また、EPSECU26は、車両走行状態推定装置28が出力する指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ27に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、車両の不安定挙動を抑制するための指令信号である。
【0040】
操舵トルクセンサ35は、運転者からの入力トルクとなる操舵トルクを検出する。操舵トルクセンサ35は、検出した操舵トルクを車両走行状態推定装置28に出力する。
EPSモータ27は、EPSECU26が出力する操舵アシスト指令を基に、ステアリングシャフト30に回転トルクを付与する。これにより、EPSモータ27は、ステアリングシャフト30に連結されているラック・アンド・ピニオン機構(ピニオン32、ラック33)、タイロッド34及びナックルアームを介して左右の前輪31FL,31FRの転舵を補助する。
【0041】
ブレーキECU36は、車輪の制動力を制御する。ブレーキECU36は、車両走行状態推定装置28が出力する指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を基に、車輪の制動力を制御する。
車両走行状態推定装置28は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24、車輪速センサ25及び操舵トルクセンサ35の検出結果を基に、車両の走行状態を推定する。車両走行状態推定装置28は、その推定結果を基に、指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)をEPSECU26及びブレーキECU36に出力する。ここでいう指令値は、車両の不安定挙動を抑制するようにEPSモータ27や制動力を制御するための指令信号である。
【0042】
図20は、車両走行状態推定装置28の内部構成を示す。図20に示すように、車両走行状態推定装置28は、車体速度演算部41、車体スリップ角推定部42、タイヤスリップ角演算部43、EPSアシストトルク演算部44、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部(以下、Mz/βt演算部という。)46、輪荷重変化量演算部47、トルク勾配演算部48、μ勾配演算部49及び不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50を備える。
【0043】
車体速度演算部41は、車輪速センサ25が検出した車輪速及び前後加速度センサ24が検出した前後加速度を基に、車体速度を推定する。車体速度演算部41は、その推定結果を車体スリップ角推定部42及びタイヤスリップ角演算部43に出力する。具体的には、車体速度演算部41は、従動輪31RL,31RRの車輪速の平均値、又は各車輪31FL〜31RRの車輪速の平均値を算出して、その算出値を車体速度の基本値としている。車体速度演算部41は、その基本値を前後加速度により補正する。具体的には、その基本値から急加速時のタイヤ空転や急制動時のタイヤロックによる誤差の影響を除くように補正をする。車体速度演算部41は、その補正した値を車体速度の推定結果とする。
【0044】
車体スリップ角推定部42は、操舵角センサ21が検出した操舵角(タイヤ舵角δ)、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイトγ、横加速度センサ23が検出した横加速度、前後加速度センサ24が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度Vを基に、車両の横滑り角(スリップ角)を推定する。
図21は、車体スリップ角推定部42の構成例を示す。図21に示すように、車体スリップ角推定部42は、車両の状態量(車両の横滑り角β、スリップ角β)を推定する線形2入力オブザーバ61を備える。これにより、車体スリップ角推定部42は、車両の横滑り角(スリップ角)βを推定する。ここで、車両の2輪モデルを基に線形2入力オブザーバ61を構築している。その車両の2輪モデルを、車両の横方向の力とモーメントの釣り合いより、下記(1)式で表すことができる。
【0045】
【数1】
【0046】
ここで、図21に示すA,B,C,Dは車両の線形2輪モデルによって決まる行列である。また、タイヤ舵角を入力uとし、ヨーレイトと横加速度とを出力yとすると、前記(1)式の状態方程式(出力方程式)は、下記(2)式のようになる。
【0047】
【数2】
【0048】
ここで、mは車両質量である。Iはヨー慣性モーメントである。lfは車両重心点と前車軸間の距離である。lrは車両重心点と後車軸間の距離である。Cpfは前輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Cprは後輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Vは車体速度である。βは車両の横滑り角である。γはヨーレイトである。Gyは横加速度である。a11,a12,b1は行列A、Bの各要素である。
【0049】
そして、この状態方程式を基に、ヨーレイトと横加速度とを入力とし、オブザーバゲインK1として、線形2入力オブザーバ61を作成する。ここで、オブザーバゲインK1は、モデル化誤差の影響を受けにくく且つ安定した推定を行えるように設定した値である。
また、線形2入力オブザーバ61は、積分器62の入力を補正するβ推定補償器63を備える。これにより、線形2入力オブザーバ61は、限界領域においても推定精度を確保することができる。すなわち、β推定補償器63を備えることで、車両の2輪モデルの設計時に想定した路面状況で且つタイヤの横滑り角が非線形特性とはならない線形域だけでなく、路面μ変化時や限界走行時にあっても横滑り角βを精度よく推定できる。
【0050】
図22は、車体横滑り角βで走行している旋回中の車両を示す。図22に示すように、車体に働く場の力、つまり旋回中心から外側に向かって働く遠心力も、車幅方向から横滑り角β分ずれた方向に発生する。そのため、β推定補償器63は、下記(3)式に従って場の力のずれ分β2を算出する。このずれ分β2は、線形2入力オブザーバ61が推定した車両の横滑り角βに補正をかけるときの基準値(目標値)Gとなる。
【0051】
【数3】
【0052】
ここで、Gxは前後加速度である。また、図23に示すように、速度変化による力の釣り合いも考慮する。これにより、旋回によるもののみを抽出すると、前記(3)式を、下記(4)式として表すことができる。
【0053】
【数4】
【0054】
そして、β推定補償器63は、その目標値β2を線形2入力オブザーバ61が推定した横滑り角βから減算する。さらに、β推定補償器63は、その減算結果に、図24の制御マップによって設定した補償ゲインK2を乗算する。そして、β推定補償器63は、その乗算結果を積分器62の入力としている。
図24の制御マップでは、車両の横方向加速度Gyの絶対値(|Gy|)が第1しきい値以下である場合、補償ゲインK2が零となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値よりも大きい第2しきい値以上の場合、補償ゲインK2が比較的大きい一定値となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値と第2しきい値との間にある場合、横方向加速度Gyの絶対値が大きくなるほど、補償ゲインK2が大きくなる。
【0055】
このように、図24の制御マップでは、横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値以下で零近傍の値となる場合、補償ゲインK2を零としている。これにより、直進時のように旋回Gが発生しない状況下では補正をする必要がないことから、誤って補正が行われないようにしている。また、図24の制御マップでは、横方向加速度Gyの絶対値が増加して第1しきい値より大きくなると(例えば、0.1Gより大きくなると)、横方向加速度Gyの絶対値に比例してフィードバックゲイン(補償ゲイン)K2を増大させていき、横方向加速度Gyの絶対値が第2しきい値以上になると(例えば0.5G以上になると)、補償ゲインK2を制御の安定する一定値としている。このようにすることで、横滑り角βの推定精度を向上させている。
【0056】
タイヤスリップ角演算部43は、操舵角センサ21が検出した操舵角(タイヤ舵角δ)、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイトγ、車体速度演算部41が算出した車体速度V、及び車体スリップ角推定部42が算出した車両の横滑り角(車両のスリップ角)βを基に、下記(5)式に従って前後輪それぞれのスリップ角βf,βr(車輪のスリップ角βt)を算出する。
【0057】
【数5】
【0058】
タイヤスリップ角演算部43は、算出した前輪のスリップ角βf(βt)をMz/βt演算部46に出力する。本実施形態では、前輪操舵車両のEPSユニットの構成、すなわち操舵角センサ21及び操舵トルクセンサ35を用いて路面μ(例えば最大路面μ)を推定する構成である。そのため、路面μの推定に必要となるのは、操舵輪である前輪のスリップ角βfだけであり、後輪スリップ角βrは不要となる。
【0059】
なお、前輪と後輪とでそれぞれ別個に路面μ(例えば最大路面μ)を推定する場合は、後輪スリップ角βrも必要となる。その場合、後輪についてセルフアライニングトルク演算部又は検出部が必要となる。本実施形態で述べる前輪2輪をひとつにまとめて路面μを推定する手法と、前後輪別々に路面μを推定する手法や4輪それぞれで路面μを推定する手法とは、基本的な考え方は同様であるため、ここではその説明は省略する。
【0060】
セルフアライニングトルク演算部45は、前述のようなタイヤスリップ角演算部43によるタイヤスリップ角の算出と同時に、セルフアライニングトルクを算出する。そのため、EPSアシストトルク演算部44では、操舵アシストトルクを算出している。具体的には、EPSアシストトルク演算部44は、下記(6)式により、アシストトルクTEPSを算出する。
【0061】
【数6】
【0062】
ここで、EPSモータ27は、電流Iに比例したトルクを発生する。その比例係数をKMTRとする。また、モータ角をθMTRとしたとき、そのモータ角θMTRについての角加速度及び角速度に比例したトルク損失と摩擦によるトルク損失とがあるので、これらトルク損失を補正する。このとき、慣性に相当するゲインをIMTR、粘性(逆起電力含む)に相当するゲインをCMTR、摩擦をRMTRとし、これらパラメータは事前に同定しておく。
【0063】
セルフアライニングトルク演算部45は、EPSアシストトルク演算部44が算出したアシストトルク、運転者からの入力トルク(操舵トルク)及び操舵角情報(操舵角)を用いて、セルフアライニングトルクを算出する。具体的には、下記(7)式により、セルフアライニングトルクSATを算出する。
【0064】
【数7】
【0065】
ここで、TSTRは、操舵トルクセンサ35で検出した運転者のからの入力トルクである。θSTRは、操舵角センサ21が検出した操舵角である。この(7)式によれば、運転者からの入力トルクTSTRとアシストトルクTEPSの合計が、路面から入力されるセルフアライニングトルクSATとなる。
なお、ここでもEPSアシストトルク演算部44におけるアシストトルクの演算同様に、操舵系の摩擦等によるトルク損失分を補正する。具体的には、操舵角θSTRについての角加速度及び角速度に比例したトルク損失と、摩擦によるトルク損失とがあるので、これらトルク損失を補正する。このとき、慣性に相当するゲインをISTR、粘性に相当するゲインをCSTR、摩擦をRSTRとし、これらパラメータも事前に同定しておく。セルフアライニングトルク演算部45は、算出した操舵輪(前輪)のセルフアライニングトルクSAT(Mz)をMz/βt演算部46に出力する。
【0066】
Mz/βt演算部46は、セルフアライニングトルク演算部45及びタイヤスリップ角演算部43が算出した前輪のセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを基に、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を算出する。Mz/βt演算部46は、その算出結果をトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に出力する。
また、輪荷重変化量演算部47は、横加速度センサ23及び前後加速度センサ24が検出した横G・前後Gを基に、車輪の輪荷重変化量を算出する。具体的には、横G・前後Gに応じた車輪の輪荷重変化量を算出する。輪荷重変化量演算部47は、その算出結果をトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に出力する。
【0067】
トルク勾配演算部48は、Mz/βt演算部46が算出したセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を基に、スリップ角βt(βf)の変化量とセルフアライニングトルクMzの変化量との比を推定する。すなわち、トルク勾配を推定する。そのため、トルク勾配演算部48は、前記図12に示した特性図をトルク勾配特性マップとして有する。本実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のトルク勾配特性マップを有する。例えば、メモリ等の記憶媒体にトルク勾配特性マップを記憶し、保持している。これにより、トルク勾配演算部48は、トルク勾配特性マップを参照して、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するトルク勾配を推定値として得る。
【0068】
また、トルク勾配演算部48は、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量を基に、トルク勾配特性マップを補正する。前記図14を用いて説明したように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とトルク勾配との関係を示す特性曲線は、輪荷重に応じて変化する。具体的には、輪荷重に応じて大きさの異なる相似形の特性曲線となる。このようなことから、トルク勾配演算部48は、トルク勾配特性マップ(図12のマップ)を、その横軸(Mz/βt)と縦軸(トルク勾配)との比を保ちつつ補正する。例えば、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量が輪荷重の初期値を減少させるものであれば、その輪荷重に応じて小さくした相似形の特性曲線にする補正をする。
【0069】
また、トルク勾配演算部48は、荷重変化補正関数に従ってトルク勾配特性マップの縮尺比を算出し、縮尺比で補正をすることもできる。荷重変化補正関数は、変動がないときの輪荷重(初期値)を輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量に加算し、その加算値を前記初期値で除し、その除算値からトルク勾配特性マップの縮尺比を算出する関数である。これにより、トルク勾配特性マップをその横軸(Mz/βt)と縦軸(トルク勾配)との比を保ちつつ、その算出した縮尺比を乗算する(倍にする)ことで補正をする。
トルク勾配演算部48は、以上にようにした得た結果(トルク勾配又はその補正値)を不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
【0070】
μ勾配演算部49は、Mz/βt演算部46が算出したセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を基に、スリップ角βt(βf)の変化量とタイヤ横力Fy(Fyf)の変化量との比を推定する。すなわち、μ勾配を推定する。そのため、μ勾配演算部49は、前記図17に示した特性図をμ勾配特性マップとして有する。本実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のμ勾配特性マップを有する。例えば、メモリ等の記憶媒体にμ勾配特性マップを記憶し、保持している。これにより、μ勾配演算部49は、μ勾配特性マップを参照して、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するμ勾配を推定値として得る。
【0071】
また、μ勾配演算部49は、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量を基に、μ勾配特性マップを補正する。前記図18を用いて説明したように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とμ勾配との関係を示す特性曲線は、輪荷重に応じて変化する。具体的には、輪荷重に応じて大きさの異なる相似形の特性曲線となる。このようなことから、μ勾配演算部49は、μ勾配特性マップ(図17のマップ)を、その横軸(Mz/βt)と縦軸(μ勾配)との比を保ちつつ補正する。例えば、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量が輪荷重の初期値を減少させるものであれば、その輪荷重に応じて小さくした相似形の特性曲線にする補正をする。
【0072】
また、μ勾配演算部49は、荷重変化補正関数に従ってμ勾配特性マップの縮尺比を算出し、縮尺比で補正をすることもできる。荷重変化補正関数は、変動がないときの輪荷重(初期値)を輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量に加算し、その加算値を前記初期値で除し、その除算値からμ勾配特性マップの縮尺比を算出する関数である。これにより、μ勾配特性マップをその横軸(Mz/βt)と縦軸(μ勾配)との比を保ちつつ、その算出した縮尺比を乗算する(倍にする)ことで補正をする。
【0073】
μ勾配演算部49は、以上にようにした得た結果(μ勾配又はその補正値)を不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
なお、事前に旋回走行実験を行い、そのデータを基にトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを作成している。具体的には、実車での旋回実験(旋回半径一定の加速円旋回が良い)によりセルフアライニングトルク、横力及びスリップ角の実計測を行う。直接計測ができない場合は、他の物理量を計測することもできる。例えば、前後のタイヤ横力Fyf,Fyrを得るときには、横加速度Gy、ヨーレイトγを計測して、これと車両パラメータからなる下記(8)式を連立すれば良い(図25参照)。
【0074】
【数8】
【0075】
不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、μ勾配演算部49及びトルク勾配演算部48が算出(推定)したμ勾配及びトルク勾配を基に、車両の不安定挙動を抑制する処理を行う。そのため、μ勾配及びトルク勾配を基に、車両挙動が不安定になりそうなとき、又は不安定状態であると判定したときにEPSECU26及びブレーキECU36にアシスト指令値を出力する。本実施形態では、前輪操舵車両の操舵輪に本発明を適用する例を示しているため、前輪のグリップ状態を基に、車両のドリフトアウトを防止する処理を説明する。ここでいう車両のドリフトアウトは、前輪のグリップ状態が飽和して、前輪が横力を失った場合の車両挙動である。
【0076】
図26は、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50の処理手順を示す。図26に示すように、先ずステップS21において、トルク勾配が負値か否かを判定する。トルク勾配が負値の場合(トルク勾配<0)、ステップS22に進む。また、トルク勾配が正値の場合(トルク勾配≧0)、該図26の処理を終了する。
ステップS22では、μ勾配が負値か否かを判定する。μ勾配が正値の場合(μ勾配≧0)、ステップS23に進む。また、μ勾配が負値の場合(μ勾配<0)、ステップS24に進む。
【0077】
ステップS23では、EPSECU26に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力する。そして、該図26の処理を終了する。
ステップS24では、EPSECU26に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力する。そして、ステップS25に進む。
【0078】
ステップS25では、制動中か否かを判定する。制動中であれば、ステップS26に進む。制動中でなければ、該図26の処理を終了する。
ステップS26では、ブレーキECU36に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、μ勾配が低下している車輪となるμ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力する。そして、該図26の処理を終了する。
【0079】
以上のように不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両の不安定挙動を抑制する処理を行う。
(動作及び作用)
図27は、車体走行状態推定装置28での演算処理手順の一例を示す。車体走行状態推定装置28は、この演算処理を車両走行中に実行する。
【0080】
先ず、車体走行状態推定装置28は、車輪速センサ25が検出した車輪速及び前後加速度センサ24が検出した前後加速度を基に、車体速度を推定する(ステップS11)。そして、車体走行状態推定装置28は、操舵角センサ21が検出した操舵角、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイト、横加速度センサ23が検出した横加速度、前後加速度センサ24が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度を基に、スリップ角βf(車輪のスリップ角βt)を算出する(ステップS12)。
【0081】
また、車体走行状態推定装置28は、EPS電流(電流I)及びモータ回転速度等を基に、EPSアシストトルク(アシストトルクTEPS)を算出する(ステップS13)。そして、車体走行状態推定装置28は、算出したEPSアシストトルク、操舵角及び操舵トルクを基に、セルフアライニングトルクMzを算出する(ステップS14)。車体走行状態推定装置28は、そのように算出したセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを基に、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を算出する(ステップS15)。
【0082】
そして、車体走行状態推定装置28は、μ勾配特性マップを参照してセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するμ勾配(横方向μ勾配)を算出する(ステップS16)。また、車体走行状態推定装置28は、トルク勾配特性マップを参照してセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するトルク勾配を算出する(ステップS17)。
【0083】
それから、車体走行状態推定装置28は、前記図26の処理を行う。すなわち、トルク勾配が正値であれば(トルク勾配≧0)、該図27の処理を終了する(前記ステップS21)。すなわち、操舵反力を付加する制御等を行わずに終了する。また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であれば(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力する(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23)。また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であれば(トルク勾配<0かつμ勾配<0)、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力する(前記ステップS21→ステップS22→ステップS24)。このとき、さらに、制動中であれば、μ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力する(前記ステップS25→ステップS26)。
【0084】
以上の処理による得られる車両挙動を説明する。図28を用いて説明する。
前述のように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であるとき(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力している(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23)。図28に示すように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であるとき、注意領域の制御をしている。
【0085】
注意領域とは、セルフアライニングトルクが飽和(トルク勾配が負値)しているものの横力が未だ飽和前(μ勾配が正値)にある領域である。この注意領域では、ステアリングホイールを切り増すことで、ヨーレイトを増やすことができる。一方、不用意にステアリングホイールを切りすぎると横力Fyが飽和してしまう。このようなことから、注意領域の制御として、ステアリングホイールの切り増しを抑制する方向に操舵アシストするようにEPSECU26に指令値を出力している。例えば、これを、通常アシスト電流に所定値I1(A)の電流(以下、加算アシスト電流という。)を矩形波状に加算することで実現している。これにより、注意領域では、操舵反力の低下により、運転者がステアリングホイールを回し過ぎてしまうのを防止できる。すなわち例えば、セルフアライニングトルクが飽和し、操舵反力が低下したときに、ステアリングホイールが急に軽くなり、運転技量の低い運転者がついステアリングホイールを回し過ぎてしまうのを防止できる。
【0086】
なお、本実施形態では、トルク勾配やμ勾配をリアルタイムで定量的にかつ連続的に推定できる。そのため、切り増し操舵を抑制する方向であれば、指令値(加算アシスト電流)を、安定状態のトルク勾配やμ勾配からの低下量に比例した値にすることができる。ただし、セルフアライニングトルク低下分をキャンセルする指令値を滑らかにしまうと、熟練した運転者にタイヤグリップ力に余裕があるものと誤解させてしまう可能性がある。このようなことから、指令値に振動成分を載せたり(アシスト電流を振動させたり)、音や表示(ブザー、ランプ等)で運転者に知らせる等のインフォメーションの機能を追加することもできる。
【0087】
また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であるとき(トルク勾配<0かつμ勾配<0)、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力している(前記ステップS21→ステップS22→ステップS24)。図28に示すように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であるとき、飽和領域の制御をしている。
【0088】
飽和領域とは、ステアリングホイールを切り増しても横力(コーナリングフォース)を増やすことはできず、むしろステアリングホイールを切り増すと横力が低下する領域である。すなわち、車両挙動としてドリフトアウトが起きてしまっている領域である。飽和領域(飽和状態)が発生する要因としては様々考えられる。例えば、操舵輪のスリップ角をつけすぎ(ステアリングホイールを切り過ぎ)ていたり、旋回中に強いブレーキをかけすぎていたりすることが挙げられる。
【0089】
この飽和領域の制御では、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力している。例えば、これを、通常アシスト電流に所定値I2(A)(>I1)の指令値(加算アシスト電流)を矩形波状に加算することで実現している。これにより、運転者にステアリングホイールを切り戻すことを促し、グリップ力又は横力を確保することができるようになる。その結果、ドリフトアウトを抑制する等の車両挙動を安定化方向に遷移させることができる。
【0090】
さらに、この飽和領域で、制動をかけているとき、μ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力している(前記ステップS25→ステップS26)。すなわち、操舵輪のグリップを回復させるために操舵輪の制動力を弱めるよう指令値を出力している。ここで、左右輪の制動力を独立して制御できる車両であれば、旋回外輪の制動力を特に弱めることもできる。これにより、グリップ力の回復と同時に、左右輪の制動力差により旋回モーメントを発生させて、適切な旋回挙動を確保することができる。
なお、μ勾配が正値であるときには、安定領域の制御として、通常のアシスト制御を行っている。すなわち、指令値(加算アシスト電流)を付加することなく、通常アシスト電流でのみ、アシスト制御を行っている。
【0091】
以上のように、横力が飽和するより先にトルク勾配が飽和し、トルク勾配が低下し始めることを利用して、トルク勾配及びμ勾配を監視することで、セルフアライニングトルク及び横力の飽和状態を予測している。すなわち、トルク勾配及びμ勾配の低下を、前輪の横力が飽和に近付く状態を示す定量的な指標としている。そして、そのようなセルフアライニングトルク及び横力の飽和状態、さらには制動の有無に応じて、EPS反力制御(操舵反力制御)とブレーキ制御を行っている。
【0092】
(第1の実施形態の変形例)
(1)この第1の実施形態では、操舵反力制御によりステアリングホイールを戻す方向に電流を付加している。これに対して、ドリフトアウトを抑制するという目的であれば、単純に操舵アシストを減らしてマニュアルハンドルに近い状態にすることもできる。このように操舵アシストを減らすことで、操舵反力が重くなり、結果として、運転者がステアリングホイールを切り増すような操舵操作を抑制することができる。
【0093】
(2)この第1の実施形態では、入力変数となるセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)から出力変数となるグリップ特性パラメータ(トルク勾配、μ勾配)を決める際のそれらの間の非線形関係が特性マップ又は特性図といった形になっている。これに対して、そのような非線形関係を数式の形とすることもできる。また、可能であれば、非線形関係とせずに、線形関係に簡略化することもできる。
【0094】
(3)この第1の実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持っている。これに対して、前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持つこともできる。この場合、前輪の各輪毎にセルフアライニングトルク及びスリップ角を検出、計測又は推定できる構成を備えることで、前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを取得する。例えば、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に相当する構成(車両接地面摩擦状態推定装置相当の構成)を、車両の右輪と左輪とに備えることで実現できる。
【0095】
このように前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持つことで、左右輪それぞれについてのセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtの検出結果(推定結果)を基に、左右輪それぞれについてのトルク勾配やμ勾配を得ることができる。これにより、左右輪のトルク勾配(又はμ勾配)の違いから、走行中を含む路面状態の左右差を検出することもできる。これにより、左右輪のグリップ特性の違いを検出できる。例えば、路面μの差分、すなわちスプリットμ状態を検出できる。さらには、スプリットμ状態に起因した車両挙動又は車両特性を検出することができる。
【0096】
なお、この第1の実施形態では、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45及びセルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46は、接地面において前記車輪のステアリングを中立位置に戻すトルクであるセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力部を実現している。また、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、前記入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力部を実現している。すなわち、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、車両接地面摩擦状態推定装置を実現している。
【0097】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからグリップ特性パラメータを決めるように構成されている。又は、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されている。或いは、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、入力部で求めたセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値からグリップ特性パラメータの現在値を決定し、かつセルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値と前記セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じでグリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成されている。
【0098】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)は、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線になる。これにより、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、路面摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されている。
【0099】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)において、グリップ特性パラメータ(トルク勾配、μ勾配)は、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するときに増大する関数になる。クリティカルレシオ値は、トルク勾配が零又はμ勾配が零になる値に相当する。そして、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)では、クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、セルフアライニングトルクとスリップ度との比が増大すると、セルフアライニングトルクとスリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するようにグリップ特性パラメータが非線形に増大している。また、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しいとき、グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値に等しく、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から減少すると、前記グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値から減少し、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大すると、グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値から増大する。
【0100】
また、この第1の実施形態では、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、制御部を実現している。すなわち、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50による飽和領域の制御は、グリップ特性パラメータ(μ勾配)がクリティカルパラメータ値以下(μ勾配<0)のクリティカル領域(飽和領域)において、グリップ特性パラメータ(μ勾配)をクリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を実現している。また、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50による注意領域の制御は、グリップ特性パラメータ(μ勾配)が所定のクリティカルレパラメータ値より大きい(μ勾配>0)がクリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値(トルク勾配<0のときのμ勾配相当値)より小のマージナル領域(注意領域)において、グリップ特性パラメータ(μ勾配)をクリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を実現している。
【0101】
また、この第1の実施形態では、輪荷重変化量演算部47は、前記車輪の輪荷重を求める輪荷重検出部を実現している。また、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、前記輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、入力と出力の関係を補正する補正部の機能により実現している。
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)は、セルフアライニングトルクとスリップ度との比を表す第1軸とグリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線であり、グリップ特性曲線は、第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつグリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しく、グリップ特性曲線は、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、エンド点では、グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しい。そして、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、車輪荷重の変化に応じて、エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させることを実現している。又は、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように、輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正することを実現している。さらに、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、車輪荷重の増大に応じて、エンド点を第1軸と第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、クロスオーバ点を第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正することを実現している。ここで、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)でトルク勾配やμ勾配が零となる座標が、クロスオーバ点に相当する。また、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)でトルク勾配やμ勾配が最大となる座標が、エンド点に相当する。
【0102】
(第1の実施形態における効果)
(1)入力部が、接地面において車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度との比である入力を設定している。また、出力部が、入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決めている。よって、車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度がわかれば、その比を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを取得できる。
これにより、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを基に、タイヤ摩擦状態、グリップ状態を適切に推定できる。そして、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤ摩擦状態をより適切に推定できるため、タイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0103】
よって、実際の横加速度やヨーレイトを基にタイヤ摩擦状態を推定する方法(従来方法)と異なり、車両挙動の急変時にも、タイヤ摩擦状態を適切に推定できる。また、従来方法では、凍結路面等で発生する車両挙動変化の速度が遅いスロースピンや4輪ドリフト状態となった場合、横加速やヨーレイトの値が小さいため、ノイズの影響を受けてしまい、横加速度やヨーレイトの検出値自体の精度が悪化して、タイヤ摩擦状態の推定精度が悪かった。これに対して、本実施形態では、車両挙動変化の速度が遅い場合でも、横加速度やヨーレイトと比較して値が大きいスリップ度(例えばスリップ角)を利用して推定できるため、タイヤ摩擦状態を適切に推定できる。
【0104】
(2)グリップ特性パラメータを、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率(μ勾配)にしている。これは、セルフアライニングトルクと車輪力(例えば横力)とスリップ度(例えばスリップ角)とが、同じように路面μの影響を受けることを利用したもので、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率を得ている。すなわち、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から多くの情報を得ることを実現している。これにより、例えば、車輪力センサ等の検出手段で車輪力を得ることができなくても、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率を得ることができる。
【0105】
(3)グリップ特性パラメータを、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)にしている。これにより、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を基に、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度をより適切に推定できる。
(4)出力部が、グリップ特性パラメータとして、スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率(μ勾配)、及びスリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を出力している。すなわち、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を得て、さらには、スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率(μ勾配)を得ている。これにより、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から得た複数のパラメータ(トルク勾配、μ勾配)を用いることで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0106】
(5)スリップ度を、車輪のスリップ角としている。ここで、車輪のスリップ角の情報は、通常、車両において容易に取得できる情報である。これにより、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を容易に推定できる。
(6)出力部を、入力により表される入力変数と出力により表される出力変数との間の所定の非線形の関係に応じて、セルフアライニングトルクとスリップ度との比からグリップ特性パラメータを決めるように構成している。そして、入力変数と出力変数との間の所定の非線形関係を、特性曲線又は数式の形としている。このように出力部を簡単な構成にすることで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0107】
(7)グリップ特性パラメータを、車輪のグリップ状態を表わす変数としている。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからグリップ特性パラメータを決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0108】
(8)グリップ特性パラメータが、スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線の勾配、スリップ度に対するセルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線の勾配、又はこれら2つの勾配を表している。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0109】
(9)スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線又はスリップ度に対するセルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線が、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。また、グリップ特性パラメータが、高摩擦タイヤ特性曲線及び低摩擦タイヤ特性曲線うちの少なくとも一つの勾配を表している。そして、入力部が、セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値からセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値を求めている。また、出力部を、入力部で求めたセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値からグリップ特性パラメータの現在値を決定し、セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とセルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じでグリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成している。すなわち、タイヤ特性曲線が、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含む、といった地面の摩擦係数を必要としない構成を実現している。加えて、タイヤ特性曲線が、セルフアライニングトルクの現在値及びスリップ度の現在値を基に、グリップ特性パラメータの現在値を得る構成を実現している。これにより、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0110】
(10)タイヤ特性曲線が、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線になっている。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0111】
(11)グリップ特性パラメータを、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するとき増大する関数としている。このようにグリップ特性パラメータを関数として表現したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及び摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
(12)クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、セルフアライニングトルクとスリップ度との比が増大すると、セルフアライニングトルクとスリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するようにグリップ特性パラメータが非線形に増大している。このようにグリップ特性パラメータを所定の特性を有するものして表現したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0112】
(13)セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しいとき、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値に等しくなる。また、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値より下に減少すると、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値より下に減少する。そして、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値より上に増大すると、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値より上に増大する。このようにグリップ特性パラメータを所定の特性でより明確化したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0113】
(14)制御部が、グリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値以下のクリティカル領域においては、グリップ特性パラメータをクリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を行っている。さらに、制御部が、グリップ特性パラメータが所定のクリティカルレパラメータ値より大きいがクリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値より小のマージナル領域においては、グリップ特性パラメータをクリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を行っている。これにより、グリップリカバリー制御では、運転者にステアリングホイールの切り戻しを促す等して、グリップ力を確保することができる。さらに、グリップ低下予防制御では、運転者によるステアリングホイールの切り増し過ぎを防止し、グリップ力の低下を防止することができる。
【0114】
(15)車両接地面摩擦状態推定装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の右輪と左輪とに備えている。これにより、左右輪のグリップ特性の違いを検出することができるようになる。
(16)右輪についてのグリップ特性パラメータと左輪についてのグリップ特性パラメータとを比較して、地面の路面状態の左右差を検出している。これにより、路面状態の左右差として、例えば、路面μの差分、すなわちスプリットμ状態を検出できる。
【0115】
(17)輪荷重検出部が、車輪の輪荷重を求め、補正部が、輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、入力と出力の関係(トルク勾配特性マップ、μ勾配特性マップ)を補正している。これにより、輪荷重に影響されず、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
(18)入力と出力の関係が、セルフアライニングトルクとスリップ度との比を表す第1軸とグリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線として表わせる関数関係になっている。また、グリップ特性曲線が、第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつグリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しくなっている。さらに、グリップ特性曲線が、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、エンド点では、グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しくなっている。そして、補正部が、車輪荷重の変化に応じて、エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させている。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0116】
(19)クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように補正部が輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正している。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0117】
(20)補正部が、車輪荷重の増大に応じて、エンド点を第1軸と第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、クロスオーバ点を第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正している。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0118】
(21)操舵角検出手段が操舵角を検出している。また、操舵トルク検出手段が、運転者が操舵するときの操舵トルクを検出している。そして、セルフアライニングトルク算出手段が、操舵角検出手段が検出した操舵角及び操舵トルク検出手段が検出した操舵トルクを基に、セルフアライニングトルクを算出している。これにより、簡単にセルフアライニングトルクを得ることができる。
【0119】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態では、車体走行状態推定装置28が前後輪のμ勾配を基に、車両挙動を特定し、その特定した車両挙動に応じてアシスト制御している。
図29は、第2の実施形態における車体走行状態推定装置28の構成を示す。図29に示すように、車体走行状態推定装置28は、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62を備える。また、第2の実施形態では、前後輪それぞれについてμ勾配を検出する構成を備えている。具体的には、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に相当する構成(車両接地面摩擦状態推定装置相当の構成)を、車両の前輪と後輪とに対応させて備えている。
【0120】
図30は、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62による処理手順を示す。この処理手順に沿って、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62における処理内容を説明する。
図30に示すように、先ずステップS31において、スタビリティファクタ演算部61は、スタティックマージンSMを算出する。具体的には、スタビリティファクタ演算部61は、前後輪のμ勾配演算部49が算出(推定)した前後輪のμ勾配Kf,Krを基に、下記(9)式に従ってスタティックマージンSMを算出する。
【0121】
【数9】
【0122】
スタティックマージンSMは、ドリフトアウトやスピンの発生し易さを示す値となる。又は、スタティックマージンSMは、タイヤ横力の飽和状態を示す値となる。例えば、スタティックマージンSMは、前輪31FL,31FRのグリップ状態が限界に達し(タイヤ横力が飽和し)、前輪のμ勾配Kfが零又は負値になると、小さくなる。つまり、前輪でスリップ角が大きくなっても横力が増大しない状態(横力が飽和した状態)になり、ドリフトアウトが発生し易い状態となると、スタティックマージンSMは小さくなる。スタビリティファクタ演算部61は、このような特性を有するスタティックマージンSMを車両挙動推定部62に出力する。
【0123】
続いてステップS32以降で、車両挙動推定部62は、スタビリティファクタ演算部61が算出したスタティックマージンSMを基に、旋回特性がアンダーステア傾向、オーバステア傾向及びニュートラルステア傾向の何れかであるかを判定する。具体的には、先ずステップS32において、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零か否かを判定する。ここで、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零の場合(SM=0)、ステップS33に進む。また、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零でない場合(SM≠0)、ステップS34に進む。なお、スタティックマージンSMが零を含む所定の範囲内にある場合に、スタティックマージンSMが零であると判定することもできる。
【0124】
ステップS34では、スタティックマージンSMが正値か否かを判定する。ここで、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが正値の場合(SM>0)、ステップS35に進む。また、車両挙動推定部62は、そうでない場合(SM<0)、ステップS36に進む。
ステップS33では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がニュートラルステア傾向にあると判定する。また、ステップS35では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がアンダーステア傾向にあると判定する。さらに、ステップS36では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がオーバステア傾向にあると判定する。車両挙動推定部62は、その判定結果を、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
【0125】
不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62から入力される判定結果を基に、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。具体的には、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62がアンダーステア傾向にあると判定している場合(SM>0)、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。ここで出力する不安定挙動抑制アシスト指令は、EPSモータ27の出力を低減させるための指令信号である。これにより、アンダーステア傾向にあり、ドリフトアウトが発生し易いとき、EPSモータ27による操舵力アシストトルクを低減している。
【0126】
また、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62がオーバステア傾向にあると判定している場合(SM<0)、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。ここで出力する安定挙動抑制アシスト指令は、EPSモータ27の出力を低減させないようにしている。すなわち、操舵力アシストトルクの低減を抑制している。4輪ドリフト状態やスピン挙動が発生した場合には素早くカウンタステア(復帰操舵)を当てる必要がある。このため、単に前輪のグリップ低下に合わせてアシスト量を減らす制御だけでは、カウンタステアを当てにくくなる。このようなことから、操舵力アシストトルクを低減しないことで、オーバステア傾向にあり、スピンが発生し易い状況下で、素早いカウンタステアを当てることができ、車両挙動を安定化させることができる。
【0127】
そして、前記第1の実施形態のように、μ勾配及びトルク勾配を基に、注意領域(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)及び飽和領域(トルク勾配<0かつμ勾配<0)を特定して、その領域に対応させて安定挙動抑制アシスト指令を出力することもできる。これにより、注意領域及び飽和領域に対応させて、ドリフトアウトを防止したり、スピンの発生を防止したりすることもできる。
【0128】
(第2の実施形態における効果)
(1)車両接地面摩擦状態推定装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の前輪と後輪とにそれぞれ備えている。これにより、前後輪のグリップ特性の違いを検出することができるようになる。
(2)前輪についてのグリップ特性パラメータと後輪についてのグリップ特性パラメータとを比較して、車両特性の変動を推定している。これにより、車両特性の変動として、例えば、オーバステア傾向やアンダーステア傾向を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】前提となる技術を説明するために使用した図であり、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立するタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)を示す特性図である。
【図2】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)及び摩擦円を示す特性図である。
【図3】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。
【図4】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。
【図5】前提となる技術を説明するために使用した図であり、任意の直線とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)との交点を示す横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(μ勾配)との関係(μ勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図6】前提となる技術を説明するために使用した図であり、横力Fy及びスリップ角βtから、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きを得る手順の説明に使用した図である。
【図7】前提となる技術を説明するために使用した図であり、特性曲線(μ勾配特性マップ)、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)及び摩擦円の関係を示す図である。
【図8】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときの横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図9】前提となる技術を説明するために使用した図であり、車輪のスリップ角βtと車輪のセルフアライニングトルクMzとの間に成立するタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)を示す特性図である。
【図10】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。
【図11】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。
【図12】前提となる技術を説明するために使用した図であり、任意の直線とタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)との交点を示すセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(トルク勾配)との関係(トルク勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図13】前提となる技術を説明するために使用した図であり、セルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtから、タイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)上の接線の傾きを得る手順の説明に使用した図である。
【図14】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図15】前提となる技術を説明するために使用した図であり、スリップ角βtに対する、横力FyとセルフアライニングトルクMzとの関係を示す特性図である。
【図16】前提となる技術を説明するために使用した図であり、図15に示す関係を各種路面μについて示す特性図である。
【図17】前提となる技術を説明するために使用した図であり、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(μ勾配)との関係(μ勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図18】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図19】本発明の第1の実施形態である車両の概略構成を示す図である。
【図20】車両走行状態推定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図21】車体スリップ角推定部の内部構成を示すブロック図である。
【図22】旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。
【図23】旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。
【図24】補償ゲインを設定するための制御マップを説明するために使用した特性図である。
【図25】車両の線形2輪モデルを説明するために使用した図である。
【図26】不安定挙動抑制アシスト指令値演算部の処理手順を示すフローチャートであえる。
【図27】車体走行状態推定装置での演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図28】安全領域(トルク勾配≧0かつμ勾配≧0)、注意領域(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)及び飽和領域(トルク勾配<0かつμ勾配<0)での制御の説明に使用した図である。
【図29】第2の実施形態における車両走行状態推定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図30】第2の実施形態における車両走行状態推定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0130】
21 操舵角センサ、22 ヨーレイトセンサ、23 横加速度センサ、24 前後加速度センサ、25 車輪速センサ、26 EPSCPU、27 EPSモータ、28 車体走行状態推定装置(車両接地面摩擦状態推定装置)、29 ステアリングホイール、30 ステアリングシャフト、31FL〜31RR 車輪、32 ピニオン、33 ラック、34 タイロッド、35 操舵トルクセンサ、36 ブレーキECU、41 車体速度演算部、42 車体スリップ角推定部、43 タイヤスリップ角演算部、44 EPSアシストトルク演算部、45 セルフアライニングトルク演算部、46 セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部、47 輪荷重変化量演算部、48 トルク勾配演算部、49 μ勾配演算部、50 不安定挙動抑制アシスト指令値演算部、61 スタビリティファクタ演算部、62 車両挙動推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪接地面の摩擦状態或いは車輪の路面グリップ状態、又は摩擦限界に対する余裕度を推定するための装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、横軸が車輪のスリップ率に対応し且つ縦軸が路面の摩擦係数に対応する2次元マップに実際の車輪のスリップ率と路面の摩擦係数とに対応する点をプロットし、プロットした点と原点とを通る直線の傾きから夕イヤ摩擦状態を推定するものがある(特許文献1参照)。この推定したタイヤ摩擦状態に基づいて、車輪の制駆動力を制御している。
【特許文献1】特開2006−34012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の従来の技術にあっては、タイヤの摩擦限界を把握することができないため、タイヤ摩擦限界までの余裕度がわからない。
本発明の課題は、タイヤの摩擦限界に対する余裕度をより適切に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明は、入力部が、接地面において車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度との比である入力を設定する。また、出力部が、入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度がわかれば、その比を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを取得できる。この車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを基に、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤ摩擦状態を適切に推定できるため、タイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態の前提となる技術)
先ず、本実施形態の前提となる技術を説明する。
(1)車輪のスリップ角と車輪の横力との関係
図1はタイヤの特性曲線を示す。このタイヤの特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立する一般的な関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤの特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。横力Fyは、コーナリングフォースやサイドフォースに代表される値である。この実施形態では、横力が接地面において車輪に作用する車輪力に相当し、車輪のスリップ角が車輪のスリップ度に相当する。
【0007】
図1に示すように、タイヤの特性曲線では、スリップ角βtと横力Fyとの関係が、スリップ角βtの絶対値が増加するに従い線形から非線形に遷移する。すなわち、スリップ角βtが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ角βtと横力Fyとの間に線形関係が成り立つ。そして、スリップ角βt(絶対値)がある程度大きくなると、スリップ角βtと横力Fyとの関係が非線形関係になる。従って、タイヤの特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
【0008】
このような線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤの特性曲線の接線の傾き(勾配)に着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤの特性曲線の接線の傾きとは、スリップ角βtの変化量と横力Fyの変化量との比、すなわち、横力Fyのスリップ角βtに関する偏微分係数で示される値である。このように示されるタイヤの特性曲線の接線の傾きは、該タイヤの特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図1中に○印で示す交点)におけるタイヤの特性曲線の接線の傾きとみることもできる。そして、このようなタイヤの特性曲線上における位置、すなわちスリップ角βt及び横力Fyがわかれば、タイヤの摩擦状態の推定が可能になる。例えば、図1に示すように、タイヤの特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。タイヤの摩擦状態が安定状態であれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
【0009】
図2は、各種路面μのタイヤの特性曲線と摩擦円を示す。図2(a)は、各種路面μのタイヤの特性曲線を示す。図2(b)〜(d)は、各路面μの摩擦円を示す。路面μは例えば0.2、0.5、1.0である。図2(a)に示すように、タイヤの特性曲線は、各路面μで定性的に同様な傾向を示す。また、図2(b)〜(d)に示すように、路面μが小さくなるほど、摩擦円が小さくなる。すなわち、路面μが小さくなるほど、タイヤが許容できる横力が小さくなる。このように、タイヤ特性は、路面摩擦係数をパラメータとした特性である。よって、図2に示すように、路面摩擦係数の値に応じて、低摩擦の場合のタイヤの特性曲線、中摩擦の場合のタイヤの特性曲線、及び高摩擦の場合のタイヤの特性曲線等を得ることができる。
【0010】
図3は、各種路面μのタイヤの特性曲線と原点を通る任意の直線a,b,cとの関係を示す。図3に示すように、前記図1と同様に、各種路面μのタイヤの特性曲線について、任意の直線a,b,cとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線aとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一の直線との交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
【0011】
例えば、図4では、前記図3に示した直線cに着目している。図4に示すように、同一の直線cとの交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きは同一となる。すなわち、路面μがμ=0.2のタイヤの特性曲線上での交点x1を得る横力Fy1とスリップ角βt1との比(Fy1/βt1)、路面μがμ=0.5のタイヤの特性曲線上での交点x2を得る横力Fy2とスリップ角βt2との比(Fy2/βt2)、及び路面μがμ=1.0のタイヤの特性曲線上での交点x3を得る横力Fy3とスリップ角βt3との比(Fy3/βt3)が同一値となる。そして、それら各路面μのタイヤの特性曲線上で得られる各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一となる。
【0012】
図5は、任意の直線とタイヤの特性曲線との交点を示す横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(∂Fy/∂βt)との関係を示す。図5に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.2、0.5、1.0)でも、このように、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとが一定の関係を示している。そのため、例えば乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この図5に示す特性曲線が成立する。すなわち、この図5に示すタイヤ特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤ特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要をすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図5の特性曲線は、図1と同様に、タイヤの特性曲線を示していると言える。しかし、図1と区別して、図5の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0013】
図5に示す特性曲線は、横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。
【0014】
また、横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Fy/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。横力Fyとスリップ角βtの比(Fy/βt)が大きい領域では、図5の特性曲線は単調増加関数の形をしている。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが最大となることは、該接線の傾きがタイヤの特性曲線の線形領域のものであることを示す。なお、線形領域では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きは、横力Fyとスリップ角βtの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
【0015】
このようにして得ることができるタイヤの特性曲線上の接線の傾きは、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。具体的には、正値の領域の場合、スリップ角βtを増やすことでさらに強い横力Fy(コーナリングフォース等)を発生させることができることを示す。そして、零又は負値の領域の場合、スリップ角βtを増加させても横力Fy(コーナリングフォース等)が増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。
【0016】
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤの特性曲線について、そのタイヤの特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤの特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図5)。これにより、横力Fyとスリップ角βtとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。タイヤの摩擦状態の情報を得る手順を図6を用いて説明する。
【0017】
先ず、横力Fyとスリップ角βtとを検出する。そして、図6(a)に示す特性曲線(前記図5と同様の特性曲線)を用いることで、検出した横力Fy及びスリップ角βtに対応(Fy/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きを特定できる。例えば、図6(a)に示すように、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4,Id5を得る。このタイヤの特性曲線上の接線の傾きから、図6(b)に示すように、ある路面μのタイヤの特性曲線上の位置を特定できる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4,Id5に対応する位置xid1,xid2,xid3,xid4,xid5を特定できる。ここで、タイヤの特性曲線上における位置は、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を示すものとなる。このようなことから、図6(b)に示すようにタイヤの特性曲線上の位置を特定できることで、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力(例えばグリップの能力)を知ることができる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値又は零近傍である場合(例えばId4やId5)、それから特定できるタイヤの特性曲線上の位置(例えばxid4やxid5)に基づき、タイヤの横力が限界領域にあることがわかる。
【0018】
以上のような手順により、横力Fy及びスリップ角βtさえわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を用いることで、その横力Fy及びスリップ角βtを得た路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を知ることができる。
図7は、さらに摩擦円との関係を示す。図7(a)は、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す(前記図5と同様)。図7(b)は、タイヤの特性曲線を示す。図7(c)は、摩擦円を示す。これらの関係において、先ず、横力Fy及びスリップ角βtに対応(Fy/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きIdを得る(図7(a))。これにより、タイヤの特性曲線上の位置を特定できる(図7(b))。さらに、摩擦円における横力の相対的な値を知ることができる。すなわち、タイヤが許容できる横力に対するマージンMを知ることができる。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾き自体は、スリップ角βtの変化に対する横力Fyの変化割合を示すものとなる。よって、図7(a)に示す特性曲線の縦軸の値(タイヤの特性曲線上の接線の傾き)は、いわば車両挙動の変化速度を示すものであるとも言える。
【0019】
また、輪荷重を変化させたときの横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図8は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図8に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図8に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。このような輪荷重との関係も本願発明者は発見した。
【0020】
(2)車輪のスリップ角と車輪のセルフアライニングトルクとの関係
図9はタイヤの特性曲線を示す。このタイヤの特性曲線は、車輪のスリップ角βtと車輪のセルフアライニングトルクMzとの間に成立する関係を示す。例えば、タイヤモデルを実験データを基にチューニングすることで、前後輪それぞれで二輪分の等価特性図(タイヤの特性曲線)を得る。ここで、例えば、マジックフォーミュラ(MagicFormula)を基にタイヤモデルを構築している。また、セルフアライニングトルクは、ステアリングを中立位置に戻すトルクである。
【0021】
図9に示すように、タイヤの特性曲線では、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係が、スリップ角βtの絶対値が増加するに従い線形から非線形に遷移する。すなわち、スリップ角βtが零から所定の範囲内にある場合には、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの間に線形関係が成り立つ。そして、スリップ角βt(絶対値)がある程度大きくなると、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係が非線形関係になる。従って、タイヤの特性曲線は、線形部分と非線形部分とを有する。
【0022】
このような線形関係から非線形関係への遷移は、タイヤの特性曲線の接線の傾き(勾配)に着目すれば一目瞭然である。ここでいうタイヤの特性曲線の接線の傾きとは、スリップ角βtの変化量とセルフアライニングトルクMzの変化量との比、すなわち、セルフアライニングトルクMzのスリップ角βtに関する偏微分係数で示される値である。このように示されるタイヤの特性曲線の接線の傾きは、該タイヤの特性曲線に対して交わる任意の直線a,b,c,…との交点(図9中に○印で示す交点)におけるタイヤの特性曲線の接線の傾きとみることもできる。そして、このようなタイヤの特性曲線上における位置、すなわちスリップ角βt及びセルフアライニングトルクMzがわかれば、タイヤの摩擦状態の推定が可能になる。例えば、図9に示すように、タイヤの特性曲線上で、非線形域でも線形域に近い位置x0にあれば、タイヤの摩擦状態が安定状態にあると推定できる。タイヤの摩擦状態が安定状態であれば、例えばタイヤがその能力を発揮できるレベルにあると推定できる。又は車両が安定状態にあると推定できる。
【0023】
図10は、各種路面μのタイヤの特性曲線と原点を通る任意の直線a,b,cとの関係を示す。図10に示すように、前記図9と同様に、各種路面μのタイヤの特性曲線について、任意の直線a,b,cとの交点で接線の傾きを得る。すなわち、各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線aとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線bとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。各種路面μでのタイヤの特性曲線について、直線cとの交点で接線の傾きをそれぞれ得る。その結果、同一の直線との交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きが同一となる結果を得ることができる。
【0024】
例えば、図11では、前記図10に示した直線cに着目している。図11に示すように、同一の直線cとの交点で得られる各種路面μのタイヤの特性曲線上の接線の傾きは同一となる。すなわち、路面μがμ=0.3のタイヤの特性曲線上での交点x1を得るセルフアライニングトルクMz1とスリップ角βt1との比(Mz1/βt1)、路面μがμ=0.6のタイヤの特性曲線上での交点x2を得るセルフアライニングトルクMz2とスリップ角βt2との比(Mz2/βt2)、及び路面μがμ=1.0のタイヤの特性曲線上での交点x3を得るセルフアライニングトルクMz3とスリップ角βt3との比(Mz3/βt3)が同一値となる。そして、それら各路面μのタイヤの特性曲線上で得られる各交点x1,x2,x3での接線の傾きが同一となる。
【0025】
図12は、任意の直線とタイヤの特性曲線との交点を示すセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(∂Mz/∂βt)との関係を示す。図12に示すように、どの各路面μ(例えばμ=0.3、0.6、1.0)でも、このように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとが一定の関係を示している。そのため、例えば乾燥アスファルト路面や凍結路面等、路面μが異なる路面であっても、この図12に示す特性曲線が成立する。すなわち、この図12に示すタイヤの特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤの特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要とすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図12の特性曲線は、図1と同様に、タイヤの特性曲線を示していると言える。しかし、図1と区別して、図12の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0026】
図12に示す特性曲線は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。
【0027】
また、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比(Mz/βt)が大きい領域では、図5の特性曲線は単調増加関数の形をしている。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が正値であることを示す。また、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが最大となることは、該接線の傾きがタイヤの特性曲線の線形領域のものであることを示す。なお、線形領域では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きは、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtの比にかかわらず、常に一定の値を示す。
【0028】
このようにして得ることができるタイヤの特性曲線上の接線の傾きは、グリップ特性パラメータ、タイヤのグリップ状態を表す変数又はタイヤが横方向に出せる力の飽和状態を表すパラメータとなる。そして、横力Fyの場合と同様に、正値の領域の場合、スリップ角βtを増やすことでさらに強いセルフアライニングトルクMzを発生させることができることを示す。一方、零又は負値の領域の場合、スリップ角βtを増加させてもセルフアライニングトルクMzが増えることはなく、逆に低下する恐れがあることを示す。
【0029】
本願発明者は、以上に述べたように、各路面μのタイヤの特性曲線について、そのタイヤの特性曲線の原点を通る任意の一の直線とタイヤの特性曲線との交点で、接線の傾きが同一となる点を発見した。これにより、本願発明者は、路面μにかかわらず、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係がある特性曲線(グリップ特性曲線)として表せる結果を得た(図12)。これにより、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとがわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を基に、路面μの情報を必要とすることなく、タイヤの摩擦状態の情報を得ることができる。タイヤの摩擦状態の情報を得る手順を図13を用いて説明する。
【0030】
先ず、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとを検出する。そして、図13(a)に示す特性曲線(前記図12と同様の特性曲線)を用いることで、検出したセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtに対応(Mz/βtに対応)するタイヤの特性曲線上の接線の傾きを特定できる。例えば、図13(a)に示すように、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4を得る。このタイヤの特性曲線上の接線の傾きから、図13(b)に示すように、ある路面μのタイヤの特性曲線上の位置を特定できる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きId1,Id2,Id3,Id4に対応する位置xid1,xid2,xid3,xid4を特定できる。ここで、タイヤの特性曲線上における位置は、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を示すものとなる。このようなことから、図13(b)に示すようにタイヤの特性曲線上の位置を特定できることで、そのタイヤの特性曲線が成立する路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力(例えばグリップの能力)を知ることができる。例えば、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値又は零近傍である場合(例えばId3やId4)、それから特定できるタイヤの特性曲線上の位置(例えばxid3やxid4)に基づき、タイヤのセルフアライニングトルクが限界領域にあることがわかる。
【0031】
以上のような手順により、セルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtさえわかれば、特性曲線(グリップ特性曲線)を用いることで、そのセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを得た路面μでの、タイヤの摩擦状態やタイヤの能力を知ることができる。
また、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図14は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図14に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図14に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。このような輪荷重との関係も本願発明者は発見した。
【0032】
(3)車輪の横力と車輪のセルフアライニングトルクとの関係
図15は、スリップ角βtに対する、横力FyとセルフアライニングトルクMzとの関係を示す。例えば、スリップ角βtと横力Fyとの関係は、前記図1に示した関係である。また、スリップ角βtとセルフアライニングトルクMzとの関係は、前記図9に示した関係である。この図1と図9とを重ね合わせると、図15に示すようになる。この図15に示すように、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzともに、スリップ角βtの増加に対して、増加傾向から減少傾向に転じる特性を示す。このとき、セルフアライニングトルクMzが先に増加傾向から減少傾向に転じ、その後、横力Fyが増加傾向から減少傾向に転じる。
【0033】
図16は、前記図15に示す関係を各種路面μについて示したものである。前述のように、スリップ角βtと横力Fyとのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線ともいう。)では、同一の直線との交点で得られる各種路面μのそのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(μ勾配又は横方向μ勾配、以下、μ勾配ともいう。)が同一となる結果を得ることができる。また、前述のように、スリップ角βt及びセルフアライニングトルクMzとのタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線ともいう。)でも、同様な特性として、同一の直線との交点で得られる各種路面μのそのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(以下、トルク勾配ともいう。)が同一となる結果を得ることができる。すなわち、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線では、βt軸に対する位置関係が、路面μ変化がなければ一意に定まる。又は、路面μが変化すると、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線はともに、路面μに比例して(縦横比を維持して)拡大又は縮小された形状となる。すなわち、Fy−βt特性曲線とMz−βt特性曲線とは、路面μ変化によらず相対的な関係性を維持している。
【0034】
以上のような関係から、図16に示すように、ある路面μのMz−βt特性曲線上のセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)から、対応する路面μのFy−βt特性曲線上の接線の傾き(μ勾配)を特定できる。
図17は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(∂Fy/∂βt、μ勾配)との関係を示す。図17は、前記図5と横軸が異なるだけで、同じ特性となる。すなわち、図17に示すように、どの各路面μでも、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(μ勾配)とが一定の関係を示す。すなわち、この図17に示すタイヤの特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。そして、このタイヤの特性曲線において、その傾きは、路面μの影響を受けない点に特徴がある。つまり、路面状態の情報を取得又は推定を必要とすることなく、その傾きを特定できる特徴がある。ここで、図17の特性曲線を例えばグリップ特性曲線と呼ぶこともできる。
【0035】
そして、図17に示す特性曲線は、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が小さい領域(小レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾き(グリップ特性パラメータに相当)が負値となる。また、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなるに従い、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが一旦減少してから増加に転じる。ここで、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが負値であることは、横力のスリップ角に関する偏微分係数が負値であることを示す。また、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が大きい領域(大レシオ領域)では、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが正値になる。そして、この領域では、その比(Mz/βt)が大きくなると、タイヤの特性曲線上の接線の傾きが増加する。セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)が大きい領域では、図17の特性曲線は単調増加関数の形をしている。
【0036】
このようにして得たμ勾配は、動的なコーナリングパワとして用いることができ、車両特性を推定したり車両挙動の限界を予測したりする上でとても重要なパラメータとなる。
また、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を得ている。前述と同様な手順によりその関係を得ている。図18は、その関係を示す。ここで、輪荷重の初期値Fz(変動がないときの輪荷重の値)に対して、0.6、0.8、1.2、…倍することで輪荷重を変化させている。1.0倍の場合は輪荷重の初期値Fzになる。図18に示すように、タイヤの輪荷重が小さくなると、各輪荷重で得られるタイヤの特性曲線上の接線の傾きが小さくなる。このとき、各輪荷重で得たタイヤの特性曲線上の接線の傾きの最大値(線形領域の値)が、図18に示す特性図の原点を通る直線上を移動するようになる。さらに、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線上の接線の傾きとの関係を示す特性曲線は、その形を維持して大きさが異なるものとなる。すなわち相似形で大きさが異なるものとなる。
【0037】
(実施形態)
以上の技術の採用により実現した実施形態を次に説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図19は、第1の実施形態の車両の概略構成を示す。図19に示すように、車両は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24、車輪速センサ25、EPSECU(ElectricPower Steering Electronic Control Unit)26、操舵トルクセンサ35、ブレーキECU36、EPS(ElectricPower Steering)モータ27及び車両走行状態推定装置28を備える。車両走行状態推定装置28は、本発明に係る車両接地面摩擦状態推定装置を実現している。
【0038】
操舵角センサ21は、ステアリングホイール29と一体に回転するステアリングシャフト30の回転角を検出する。操舵角センサ21は、その検出結果(操舵角)を車両走行状態推定装置28に出力する。ヨーレイトセンサ22は、車両のヨーレイトを検出する。ヨーレイトセンサ22は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。横加速度センサ23は、車両の横加速度を検出する。横加速度センサ23は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。前後加速度センサ24は、車両の前後加速度を検出する。前後加速度センサ24は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。車輪速センサ25は、車体に設けられた各車輪31FL〜31RRの車輪速を検出する。車輪速センサ25は、その検出結果を車両走行状態推定装置28に出力する。
【0039】
EPSECU26は、操舵角センサ21が検出した操舵角を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ27に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、操舵力アシストを行うための指令信号である。また、EPSECU26は、車両走行状態推定装置28が出力する指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を基に、操舵アシスト指令をEPSモータ27に出力する。ここでいう操舵アシスト指令は、車両の不安定挙動を抑制するための指令信号である。
【0040】
操舵トルクセンサ35は、運転者からの入力トルクとなる操舵トルクを検出する。操舵トルクセンサ35は、検出した操舵トルクを車両走行状態推定装置28に出力する。
EPSモータ27は、EPSECU26が出力する操舵アシスト指令を基に、ステアリングシャフト30に回転トルクを付与する。これにより、EPSモータ27は、ステアリングシャフト30に連結されているラック・アンド・ピニオン機構(ピニオン32、ラック33)、タイロッド34及びナックルアームを介して左右の前輪31FL,31FRの転舵を補助する。
【0041】
ブレーキECU36は、車輪の制動力を制御する。ブレーキECU36は、車両走行状態推定装置28が出力する指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を基に、車輪の制動力を制御する。
車両走行状態推定装置28は、操舵角センサ21、ヨーレイトセンサ22、横加速度センサ23、前後加速度センサ24、車輪速センサ25及び操舵トルクセンサ35の検出結果を基に、車両の走行状態を推定する。車両走行状態推定装置28は、その推定結果を基に、指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)をEPSECU26及びブレーキECU36に出力する。ここでいう指令値は、車両の不安定挙動を抑制するようにEPSモータ27や制動力を制御するための指令信号である。
【0042】
図20は、車両走行状態推定装置28の内部構成を示す。図20に示すように、車両走行状態推定装置28は、車体速度演算部41、車体スリップ角推定部42、タイヤスリップ角演算部43、EPSアシストトルク演算部44、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部(以下、Mz/βt演算部という。)46、輪荷重変化量演算部47、トルク勾配演算部48、μ勾配演算部49及び不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50を備える。
【0043】
車体速度演算部41は、車輪速センサ25が検出した車輪速及び前後加速度センサ24が検出した前後加速度を基に、車体速度を推定する。車体速度演算部41は、その推定結果を車体スリップ角推定部42及びタイヤスリップ角演算部43に出力する。具体的には、車体速度演算部41は、従動輪31RL,31RRの車輪速の平均値、又は各車輪31FL〜31RRの車輪速の平均値を算出して、その算出値を車体速度の基本値としている。車体速度演算部41は、その基本値を前後加速度により補正する。具体的には、その基本値から急加速時のタイヤ空転や急制動時のタイヤロックによる誤差の影響を除くように補正をする。車体速度演算部41は、その補正した値を車体速度の推定結果とする。
【0044】
車体スリップ角推定部42は、操舵角センサ21が検出した操舵角(タイヤ舵角δ)、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイトγ、横加速度センサ23が検出した横加速度、前後加速度センサ24が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度Vを基に、車両の横滑り角(スリップ角)を推定する。
図21は、車体スリップ角推定部42の構成例を示す。図21に示すように、車体スリップ角推定部42は、車両の状態量(車両の横滑り角β、スリップ角β)を推定する線形2入力オブザーバ61を備える。これにより、車体スリップ角推定部42は、車両の横滑り角(スリップ角)βを推定する。ここで、車両の2輪モデルを基に線形2入力オブザーバ61を構築している。その車両の2輪モデルを、車両の横方向の力とモーメントの釣り合いより、下記(1)式で表すことができる。
【0045】
【数1】
【0046】
ここで、図21に示すA,B,C,Dは車両の線形2輪モデルによって決まる行列である。また、タイヤ舵角を入力uとし、ヨーレイトと横加速度とを出力yとすると、前記(1)式の状態方程式(出力方程式)は、下記(2)式のようになる。
【0047】
【数2】
【0048】
ここで、mは車両質量である。Iはヨー慣性モーメントである。lfは車両重心点と前車軸間の距離である。lrは車両重心点と後車軸間の距離である。Cpfは前輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Cprは後輪コーナリングパワー(左右輪合計値)である。Vは車体速度である。βは車両の横滑り角である。γはヨーレイトである。Gyは横加速度である。a11,a12,b1は行列A、Bの各要素である。
【0049】
そして、この状態方程式を基に、ヨーレイトと横加速度とを入力とし、オブザーバゲインK1として、線形2入力オブザーバ61を作成する。ここで、オブザーバゲインK1は、モデル化誤差の影響を受けにくく且つ安定した推定を行えるように設定した値である。
また、線形2入力オブザーバ61は、積分器62の入力を補正するβ推定補償器63を備える。これにより、線形2入力オブザーバ61は、限界領域においても推定精度を確保することができる。すなわち、β推定補償器63を備えることで、車両の2輪モデルの設計時に想定した路面状況で且つタイヤの横滑り角が非線形特性とはならない線形域だけでなく、路面μ変化時や限界走行時にあっても横滑り角βを精度よく推定できる。
【0050】
図22は、車体横滑り角βで走行している旋回中の車両を示す。図22に示すように、車体に働く場の力、つまり旋回中心から外側に向かって働く遠心力も、車幅方向から横滑り角β分ずれた方向に発生する。そのため、β推定補償器63は、下記(3)式に従って場の力のずれ分β2を算出する。このずれ分β2は、線形2入力オブザーバ61が推定した車両の横滑り角βに補正をかけるときの基準値(目標値)Gとなる。
【0051】
【数3】
【0052】
ここで、Gxは前後加速度である。また、図23に示すように、速度変化による力の釣り合いも考慮する。これにより、旋回によるもののみを抽出すると、前記(3)式を、下記(4)式として表すことができる。
【0053】
【数4】
【0054】
そして、β推定補償器63は、その目標値β2を線形2入力オブザーバ61が推定した横滑り角βから減算する。さらに、β推定補償器63は、その減算結果に、図24の制御マップによって設定した補償ゲインK2を乗算する。そして、β推定補償器63は、その乗算結果を積分器62の入力としている。
図24の制御マップでは、車両の横方向加速度Gyの絶対値(|Gy|)が第1しきい値以下である場合、補償ゲインK2が零となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値よりも大きい第2しきい値以上の場合、補償ゲインK2が比較的大きい一定値となる。また、車両の横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値と第2しきい値との間にある場合、横方向加速度Gyの絶対値が大きくなるほど、補償ゲインK2が大きくなる。
【0055】
このように、図24の制御マップでは、横方向加速度Gyの絶対値が第1しきい値以下で零近傍の値となる場合、補償ゲインK2を零としている。これにより、直進時のように旋回Gが発生しない状況下では補正をする必要がないことから、誤って補正が行われないようにしている。また、図24の制御マップでは、横方向加速度Gyの絶対値が増加して第1しきい値より大きくなると(例えば、0.1Gより大きくなると)、横方向加速度Gyの絶対値に比例してフィードバックゲイン(補償ゲイン)K2を増大させていき、横方向加速度Gyの絶対値が第2しきい値以上になると(例えば0.5G以上になると)、補償ゲインK2を制御の安定する一定値としている。このようにすることで、横滑り角βの推定精度を向上させている。
【0056】
タイヤスリップ角演算部43は、操舵角センサ21が検出した操舵角(タイヤ舵角δ)、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイトγ、車体速度演算部41が算出した車体速度V、及び車体スリップ角推定部42が算出した車両の横滑り角(車両のスリップ角)βを基に、下記(5)式に従って前後輪それぞれのスリップ角βf,βr(車輪のスリップ角βt)を算出する。
【0057】
【数5】
【0058】
タイヤスリップ角演算部43は、算出した前輪のスリップ角βf(βt)をMz/βt演算部46に出力する。本実施形態では、前輪操舵車両のEPSユニットの構成、すなわち操舵角センサ21及び操舵トルクセンサ35を用いて路面μ(例えば最大路面μ)を推定する構成である。そのため、路面μの推定に必要となるのは、操舵輪である前輪のスリップ角βfだけであり、後輪スリップ角βrは不要となる。
【0059】
なお、前輪と後輪とでそれぞれ別個に路面μ(例えば最大路面μ)を推定する場合は、後輪スリップ角βrも必要となる。その場合、後輪についてセルフアライニングトルク演算部又は検出部が必要となる。本実施形態で述べる前輪2輪をひとつにまとめて路面μを推定する手法と、前後輪別々に路面μを推定する手法や4輪それぞれで路面μを推定する手法とは、基本的な考え方は同様であるため、ここではその説明は省略する。
【0060】
セルフアライニングトルク演算部45は、前述のようなタイヤスリップ角演算部43によるタイヤスリップ角の算出と同時に、セルフアライニングトルクを算出する。そのため、EPSアシストトルク演算部44では、操舵アシストトルクを算出している。具体的には、EPSアシストトルク演算部44は、下記(6)式により、アシストトルクTEPSを算出する。
【0061】
【数6】
【0062】
ここで、EPSモータ27は、電流Iに比例したトルクを発生する。その比例係数をKMTRとする。また、モータ角をθMTRとしたとき、そのモータ角θMTRについての角加速度及び角速度に比例したトルク損失と摩擦によるトルク損失とがあるので、これらトルク損失を補正する。このとき、慣性に相当するゲインをIMTR、粘性(逆起電力含む)に相当するゲインをCMTR、摩擦をRMTRとし、これらパラメータは事前に同定しておく。
【0063】
セルフアライニングトルク演算部45は、EPSアシストトルク演算部44が算出したアシストトルク、運転者からの入力トルク(操舵トルク)及び操舵角情報(操舵角)を用いて、セルフアライニングトルクを算出する。具体的には、下記(7)式により、セルフアライニングトルクSATを算出する。
【0064】
【数7】
【0065】
ここで、TSTRは、操舵トルクセンサ35で検出した運転者のからの入力トルクである。θSTRは、操舵角センサ21が検出した操舵角である。この(7)式によれば、運転者からの入力トルクTSTRとアシストトルクTEPSの合計が、路面から入力されるセルフアライニングトルクSATとなる。
なお、ここでもEPSアシストトルク演算部44におけるアシストトルクの演算同様に、操舵系の摩擦等によるトルク損失分を補正する。具体的には、操舵角θSTRについての角加速度及び角速度に比例したトルク損失と、摩擦によるトルク損失とがあるので、これらトルク損失を補正する。このとき、慣性に相当するゲインをISTR、粘性に相当するゲインをCSTR、摩擦をRSTRとし、これらパラメータも事前に同定しておく。セルフアライニングトルク演算部45は、算出した操舵輪(前輪)のセルフアライニングトルクSAT(Mz)をMz/βt演算部46に出力する。
【0066】
Mz/βt演算部46は、セルフアライニングトルク演算部45及びタイヤスリップ角演算部43が算出した前輪のセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを基に、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を算出する。Mz/βt演算部46は、その算出結果をトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に出力する。
また、輪荷重変化量演算部47は、横加速度センサ23及び前後加速度センサ24が検出した横G・前後Gを基に、車輪の輪荷重変化量を算出する。具体的には、横G・前後Gに応じた車輪の輪荷重変化量を算出する。輪荷重変化量演算部47は、その算出結果をトルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に出力する。
【0067】
トルク勾配演算部48は、Mz/βt演算部46が算出したセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を基に、スリップ角βt(βf)の変化量とセルフアライニングトルクMzの変化量との比を推定する。すなわち、トルク勾配を推定する。そのため、トルク勾配演算部48は、前記図12に示した特性図をトルク勾配特性マップとして有する。本実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のトルク勾配特性マップを有する。例えば、メモリ等の記憶媒体にトルク勾配特性マップを記憶し、保持している。これにより、トルク勾配演算部48は、トルク勾配特性マップを参照して、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するトルク勾配を推定値として得る。
【0068】
また、トルク勾配演算部48は、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量を基に、トルク勾配特性マップを補正する。前記図14を用いて説明したように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とトルク勾配との関係を示す特性曲線は、輪荷重に応じて変化する。具体的には、輪荷重に応じて大きさの異なる相似形の特性曲線となる。このようなことから、トルク勾配演算部48は、トルク勾配特性マップ(図12のマップ)を、その横軸(Mz/βt)と縦軸(トルク勾配)との比を保ちつつ補正する。例えば、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量が輪荷重の初期値を減少させるものであれば、その輪荷重に応じて小さくした相似形の特性曲線にする補正をする。
【0069】
また、トルク勾配演算部48は、荷重変化補正関数に従ってトルク勾配特性マップの縮尺比を算出し、縮尺比で補正をすることもできる。荷重変化補正関数は、変動がないときの輪荷重(初期値)を輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量に加算し、その加算値を前記初期値で除し、その除算値からトルク勾配特性マップの縮尺比を算出する関数である。これにより、トルク勾配特性マップをその横軸(Mz/βt)と縦軸(トルク勾配)との比を保ちつつ、その算出した縮尺比を乗算する(倍にする)ことで補正をする。
トルク勾配演算部48は、以上にようにした得た結果(トルク勾配又はその補正値)を不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
【0070】
μ勾配演算部49は、Mz/βt演算部46が算出したセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を基に、スリップ角βt(βf)の変化量とタイヤ横力Fy(Fyf)の変化量との比を推定する。すなわち、μ勾配を推定する。そのため、μ勾配演算部49は、前記図17に示した特性図をμ勾配特性マップとして有する。本実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のμ勾配特性マップを有する。例えば、メモリ等の記憶媒体にμ勾配特性マップを記憶し、保持している。これにより、μ勾配演算部49は、μ勾配特性マップを参照して、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するμ勾配を推定値として得る。
【0071】
また、μ勾配演算部49は、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量を基に、μ勾配特性マップを補正する。前記図18を用いて説明したように、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とμ勾配との関係を示す特性曲線は、輪荷重に応じて変化する。具体的には、輪荷重に応じて大きさの異なる相似形の特性曲線となる。このようなことから、μ勾配演算部49は、μ勾配特性マップ(図17のマップ)を、その横軸(Mz/βt)と縦軸(μ勾配)との比を保ちつつ補正する。例えば、輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量が輪荷重の初期値を減少させるものであれば、その輪荷重に応じて小さくした相似形の特性曲線にする補正をする。
【0072】
また、μ勾配演算部49は、荷重変化補正関数に従ってμ勾配特性マップの縮尺比を算出し、縮尺比で補正をすることもできる。荷重変化補正関数は、変動がないときの輪荷重(初期値)を輪荷重変化量演算部47が算出した輪荷重変化量に加算し、その加算値を前記初期値で除し、その除算値からμ勾配特性マップの縮尺比を算出する関数である。これにより、μ勾配特性マップをその横軸(Mz/βt)と縦軸(μ勾配)との比を保ちつつ、その算出した縮尺比を乗算する(倍にする)ことで補正をする。
【0073】
μ勾配演算部49は、以上にようにした得た結果(μ勾配又はその補正値)を不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
なお、事前に旋回走行実験を行い、そのデータを基にトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを作成している。具体的には、実車での旋回実験(旋回半径一定の加速円旋回が良い)によりセルフアライニングトルク、横力及びスリップ角の実計測を行う。直接計測ができない場合は、他の物理量を計測することもできる。例えば、前後のタイヤ横力Fyf,Fyrを得るときには、横加速度Gy、ヨーレイトγを計測して、これと車両パラメータからなる下記(8)式を連立すれば良い(図25参照)。
【0074】
【数8】
【0075】
不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、μ勾配演算部49及びトルク勾配演算部48が算出(推定)したμ勾配及びトルク勾配を基に、車両の不安定挙動を抑制する処理を行う。そのため、μ勾配及びトルク勾配を基に、車両挙動が不安定になりそうなとき、又は不安定状態であると判定したときにEPSECU26及びブレーキECU36にアシスト指令値を出力する。本実施形態では、前輪操舵車両の操舵輪に本発明を適用する例を示しているため、前輪のグリップ状態を基に、車両のドリフトアウトを防止する処理を説明する。ここでいう車両のドリフトアウトは、前輪のグリップ状態が飽和して、前輪が横力を失った場合の車両挙動である。
【0076】
図26は、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50の処理手順を示す。図26に示すように、先ずステップS21において、トルク勾配が負値か否かを判定する。トルク勾配が負値の場合(トルク勾配<0)、ステップS22に進む。また、トルク勾配が正値の場合(トルク勾配≧0)、該図26の処理を終了する。
ステップS22では、μ勾配が負値か否かを判定する。μ勾配が正値の場合(μ勾配≧0)、ステップS23に進む。また、μ勾配が負値の場合(μ勾配<0)、ステップS24に進む。
【0077】
ステップS23では、EPSECU26に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力する。そして、該図26の処理を終了する。
ステップS24では、EPSECU26に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力する。そして、ステップS25に進む。
【0078】
ステップS25では、制動中か否かを判定する。制動中であれば、ステップS26に進む。制動中でなければ、該図26の処理を終了する。
ステップS26では、ブレーキECU36に指令値(不安定挙動抑制アシスト指令)を出力する。ここでは、μ勾配が低下している車輪となるμ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力する。そして、該図26の処理を終了する。
【0079】
以上のように不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両の不安定挙動を抑制する処理を行う。
(動作及び作用)
図27は、車体走行状態推定装置28での演算処理手順の一例を示す。車体走行状態推定装置28は、この演算処理を車両走行中に実行する。
【0080】
先ず、車体走行状態推定装置28は、車輪速センサ25が検出した車輪速及び前後加速度センサ24が検出した前後加速度を基に、車体速度を推定する(ステップS11)。そして、車体走行状態推定装置28は、操舵角センサ21が検出した操舵角、ヨーレイトセンサ22が検出したヨーレイト、横加速度センサ23が検出した横加速度、前後加速度センサ24が検出した前後加速度及び車体速度演算部41が算出した車体速度を基に、スリップ角βf(車輪のスリップ角βt)を算出する(ステップS12)。
【0081】
また、車体走行状態推定装置28は、EPS電流(電流I)及びモータ回転速度等を基に、EPSアシストトルク(アシストトルクTEPS)を算出する(ステップS13)。そして、車体走行状態推定装置28は、算出したEPSアシストトルク、操舵角及び操舵トルクを基に、セルフアライニングトルクMzを算出する(ステップS14)。車体走行状態推定装置28は、そのように算出したセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtを基に、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)を算出する(ステップS15)。
【0082】
そして、車体走行状態推定装置28は、μ勾配特性マップを参照してセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するμ勾配(横方向μ勾配)を算出する(ステップS16)。また、車体走行状態推定装置28は、トルク勾配特性マップを参照してセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)に対応するトルク勾配を算出する(ステップS17)。
【0083】
それから、車体走行状態推定装置28は、前記図26の処理を行う。すなわち、トルク勾配が正値であれば(トルク勾配≧0)、該図27の処理を終了する(前記ステップS21)。すなわち、操舵反力を付加する制御等を行わずに終了する。また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であれば(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力する(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23)。また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であれば(トルク勾配<0かつμ勾配<0)、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力する(前記ステップS21→ステップS22→ステップS24)。このとき、さらに、制動中であれば、μ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力する(前記ステップS25→ステップS26)。
【0084】
以上の処理による得られる車両挙動を説明する。図28を用いて説明する。
前述のように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であるとき(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)、運転者によるステアリングホイール29の切り増しを抑制する方向に操舵反力を付加する指令値を出力している(前記ステップS21→ステップS22→ステップS23)。図28に示すように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が正値であるとき、注意領域の制御をしている。
【0085】
注意領域とは、セルフアライニングトルクが飽和(トルク勾配が負値)しているものの横力が未だ飽和前(μ勾配が正値)にある領域である。この注意領域では、ステアリングホイールを切り増すことで、ヨーレイトを増やすことができる。一方、不用意にステアリングホイールを切りすぎると横力Fyが飽和してしまう。このようなことから、注意領域の制御として、ステアリングホイールの切り増しを抑制する方向に操舵アシストするようにEPSECU26に指令値を出力している。例えば、これを、通常アシスト電流に所定値I1(A)の電流(以下、加算アシスト電流という。)を矩形波状に加算することで実現している。これにより、注意領域では、操舵反力の低下により、運転者がステアリングホイールを回し過ぎてしまうのを防止できる。すなわち例えば、セルフアライニングトルクが飽和し、操舵反力が低下したときに、ステアリングホイールが急に軽くなり、運転技量の低い運転者がついステアリングホイールを回し過ぎてしまうのを防止できる。
【0086】
なお、本実施形態では、トルク勾配やμ勾配をリアルタイムで定量的にかつ連続的に推定できる。そのため、切り増し操舵を抑制する方向であれば、指令値(加算アシスト電流)を、安定状態のトルク勾配やμ勾配からの低下量に比例した値にすることができる。ただし、セルフアライニングトルク低下分をキャンセルする指令値を滑らかにしまうと、熟練した運転者にタイヤグリップ力に余裕があるものと誤解させてしまう可能性がある。このようなことから、指令値に振動成分を載せたり(アシスト電流を振動させたり)、音や表示(ブザー、ランプ等)で運転者に知らせる等のインフォメーションの機能を追加することもできる。
【0087】
また、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であるとき(トルク勾配<0かつμ勾配<0)、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力している(前記ステップS21→ステップS22→ステップS24)。図28に示すように、トルク勾配が負値であり、かつμ勾配が負値であるとき、飽和領域の制御をしている。
【0088】
飽和領域とは、ステアリングホイールを切り増しても横力(コーナリングフォース)を増やすことはできず、むしろステアリングホイールを切り増すと横力が低下する領域である。すなわち、車両挙動としてドリフトアウトが起きてしまっている領域である。飽和領域(飽和状態)が発生する要因としては様々考えられる。例えば、操舵輪のスリップ角をつけすぎ(ステアリングホイールを切り過ぎ)ていたり、旋回中に強いブレーキをかけすぎていたりすることが挙げられる。
【0089】
この飽和領域の制御では、運転者によるステアリングホイール29の切り戻しを促す方向に操舵反力を付加する指令値を出力している。例えば、これを、通常アシスト電流に所定値I2(A)(>I1)の指令値(加算アシスト電流)を矩形波状に加算することで実現している。これにより、運転者にステアリングホイールを切り戻すことを促し、グリップ力又は横力を確保することができるようになる。その結果、ドリフトアウトを抑制する等の車両挙動を安定化方向に遷移させることができる。
【0090】
さらに、この飽和領域で、制動をかけているとき、μ勾配低下輪の制動力を弱めるように指令値を出力している(前記ステップS25→ステップS26)。すなわち、操舵輪のグリップを回復させるために操舵輪の制動力を弱めるよう指令値を出力している。ここで、左右輪の制動力を独立して制御できる車両であれば、旋回外輪の制動力を特に弱めることもできる。これにより、グリップ力の回復と同時に、左右輪の制動力差により旋回モーメントを発生させて、適切な旋回挙動を確保することができる。
なお、μ勾配が正値であるときには、安定領域の制御として、通常のアシスト制御を行っている。すなわち、指令値(加算アシスト電流)を付加することなく、通常アシスト電流でのみ、アシスト制御を行っている。
【0091】
以上のように、横力が飽和するより先にトルク勾配が飽和し、トルク勾配が低下し始めることを利用して、トルク勾配及びμ勾配を監視することで、セルフアライニングトルク及び横力の飽和状態を予測している。すなわち、トルク勾配及びμ勾配の低下を、前輪の横力が飽和に近付く状態を示す定量的な指標としている。そして、そのようなセルフアライニングトルク及び横力の飽和状態、さらには制動の有無に応じて、EPS反力制御(操舵反力制御)とブレーキ制御を行っている。
【0092】
(第1の実施形態の変形例)
(1)この第1の実施形態では、操舵反力制御によりステアリングホイールを戻す方向に電流を付加している。これに対して、ドリフトアウトを抑制するという目的であれば、単純に操舵アシストを減らしてマニュアルハンドルに近い状態にすることもできる。このように操舵アシストを減らすことで、操舵反力が重くなり、結果として、運転者がステアリングホイールを切り増すような操舵操作を抑制することができる。
【0093】
(2)この第1の実施形態では、入力変数となるセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)から出力変数となるグリップ特性パラメータ(トルク勾配、μ勾配)を決める際のそれらの間の非線形関係が特性マップ又は特性図といった形になっている。これに対して、そのような非線形関係を数式の形とすることもできる。また、可能であれば、非線形関係とせずに、線形関係に簡略化することもできる。
【0094】
(3)この第1の実施形態では、前輪全体(前輪2輪合計)のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持っている。これに対して、前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持つこともできる。この場合、前輪の各輪毎にセルフアライニングトルク及びスリップ角を検出、計測又は推定できる構成を備えることで、前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを取得する。例えば、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に相当する構成(車両接地面摩擦状態推定装置相当の構成)を、車両の右輪と左輪とに備えることで実現できる。
【0095】
このように前輪の各輪毎に個別のトルク勾配特性マップやμ勾配特性マップを持つことで、左右輪それぞれについてのセルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtの検出結果(推定結果)を基に、左右輪それぞれについてのトルク勾配やμ勾配を得ることができる。これにより、左右輪のトルク勾配(又はμ勾配)の違いから、走行中を含む路面状態の左右差を検出することもできる。これにより、左右輪のグリップ特性の違いを検出できる。例えば、路面μの差分、すなわちスプリットμ状態を検出できる。さらには、スプリットμ状態に起因した車両挙動又は車両特性を検出することができる。
【0096】
なお、この第1の実施形態では、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45及びセルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46は、接地面において前記車輪のステアリングを中立位置に戻すトルクであるセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力部を実現している。また、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、前記入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力部を実現している。すなわち、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、車両接地面摩擦状態推定装置を実現している。
【0097】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからグリップ特性パラメータを決めるように構成されている。又は、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されている。或いは、トルク勾配演算部48(トルク勾配特性マップ)及びμ勾配演算部49(μ勾配特性マップ)は、入力部で求めたセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値からグリップ特性パラメータの現在値を決定し、かつセルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値と前記セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じでグリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成されている。
【0098】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)は、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線になる。これにより、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49は、路面摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されている。
【0099】
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)において、グリップ特性パラメータ(トルク勾配、μ勾配)は、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するときに増大する関数になる。クリティカルレシオ値は、トルク勾配が零又はμ勾配が零になる値に相当する。そして、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)では、クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、セルフアライニングトルクとスリップ度との比が増大すると、セルフアライニングトルクとスリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するようにグリップ特性パラメータが非線形に増大している。また、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しいとき、グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値に等しく、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から減少すると、前記グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値から減少し、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大すると、グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値から増大する。
【0100】
また、この第1の実施形態では、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、制御部を実現している。すなわち、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50による飽和領域の制御は、グリップ特性パラメータ(μ勾配)がクリティカルパラメータ値以下(μ勾配<0)のクリティカル領域(飽和領域)において、グリップ特性パラメータ(μ勾配)をクリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を実現している。また、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50による注意領域の制御は、グリップ特性パラメータ(μ勾配)が所定のクリティカルレパラメータ値より大きい(μ勾配>0)がクリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値(トルク勾配<0のときのμ勾配相当値)より小のマージナル領域(注意領域)において、グリップ特性パラメータ(μ勾配)をクリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を実現している。
【0101】
また、この第1の実施形態では、輪荷重変化量演算部47は、前記車輪の輪荷重を求める輪荷重検出部を実現している。また、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、前記輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、入力と出力の関係を補正する補正部の機能により実現している。
また、この第1の実施形態では、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)は、セルフアライニングトルクとスリップ度との比を表す第1軸とグリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線であり、グリップ特性曲線は、第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつグリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しく、グリップ特性曲線は、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、エンド点では、グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しい。そして、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、車輪荷重の変化に応じて、エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させることを実現している。又は、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように、輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正することを実現している。さらに、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49における輪荷重変化量に基づく特性マップの補正は、車輪荷重の増大に応じて、エンド点を第1軸と第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、クロスオーバ点を第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正することを実現している。ここで、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)でトルク勾配やμ勾配が零となる座標が、クロスオーバ点に相当する。また、トルク勾配特性マップの特性曲線(図12)及びμ勾配特性マップの特性曲線(図17)でトルク勾配やμ勾配が最大となる座標が、エンド点に相当する。
【0102】
(第1の実施形態における効果)
(1)入力部が、接地面において車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度との比である入力を設定している。また、出力部が、入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決めている。よって、車輪のセルフアライニングトルクと車輪のスリップ度がわかれば、その比を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを取得できる。
これにより、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータを基に、タイヤ摩擦状態、グリップ状態を適切に推定できる。そして、車輪のグリップ力が限界領域にあるときにも、タイヤ摩擦状態をより適切に推定できるため、タイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0103】
よって、実際の横加速度やヨーレイトを基にタイヤ摩擦状態を推定する方法(従来方法)と異なり、車両挙動の急変時にも、タイヤ摩擦状態を適切に推定できる。また、従来方法では、凍結路面等で発生する車両挙動変化の速度が遅いスロースピンや4輪ドリフト状態となった場合、横加速やヨーレイトの値が小さいため、ノイズの影響を受けてしまい、横加速度やヨーレイトの検出値自体の精度が悪化して、タイヤ摩擦状態の推定精度が悪かった。これに対して、本実施形態では、車両挙動変化の速度が遅い場合でも、横加速度やヨーレイトと比較して値が大きいスリップ度(例えばスリップ角)を利用して推定できるため、タイヤ摩擦状態を適切に推定できる。
【0104】
(2)グリップ特性パラメータを、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率(μ勾配)にしている。これは、セルフアライニングトルクと車輪力(例えば横力)とスリップ度(例えばスリップ角)とが、同じように路面μの影響を受けることを利用したもので、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率を得ている。すなわち、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から多くの情報を得ることを実現している。これにより、例えば、車輪力センサ等の検出手段で車輪力を得ることができなくても、スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率を得ることができる。
【0105】
(3)グリップ特性パラメータを、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)にしている。これにより、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を基に、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度をより適切に推定できる。
(4)出力部が、グリップ特性パラメータとして、スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率(μ勾配)、及びスリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を出力している。すなわち、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から、スリップ度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化率(トルク勾配)を得て、さらには、スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率(μ勾配)を得ている。これにより、セルフアライニングトルクとスリップ度との比から得た複数のパラメータ(トルク勾配、μ勾配)を用いることで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0106】
(5)スリップ度を、車輪のスリップ角としている。ここで、車輪のスリップ角の情報は、通常、車両において容易に取得できる情報である。これにより、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を容易に推定できる。
(6)出力部を、入力により表される入力変数と出力により表される出力変数との間の所定の非線形の関係に応じて、セルフアライニングトルクとスリップ度との比からグリップ特性パラメータを決めるように構成している。そして、入力変数と出力変数との間の所定の非線形関係を、特性曲線又は数式の形としている。このように出力部を簡単な構成にすることで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0107】
(7)グリップ特性パラメータを、車輪のグリップ状態を表わす変数としている。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからグリップ特性パラメータを決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0108】
(8)グリップ特性パラメータが、スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線の勾配、スリップ度に対するセルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線の勾配、又はこれら2つの勾配を表している。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0109】
(9)スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線又はスリップ度に対するセルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線が、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含んでいる。また、グリップ特性パラメータが、高摩擦タイヤ特性曲線及び低摩擦タイヤ特性曲線うちの少なくとも一つの勾配を表している。そして、入力部が、セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値からセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値を求めている。また、出力部を、入力部で求めたセルフアライニングトルクとスリップ度との比の現在値からグリップ特性パラメータの現在値を決定し、セルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とセルフアライニングトルクの現在値とスリップ度の現在値に対応する低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じでグリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成している。すなわち、タイヤ特性曲線が、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含む、といった地面の摩擦係数を必要としない構成を実現している。加えて、タイヤ特性曲線が、セルフアライニングトルクの現在値及びスリップ度の現在値を基に、グリップ特性パラメータの現在値を得る構成を実現している。これにより、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0110】
(10)タイヤ特性曲線が、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線になっている。そして、出力部を、地面の摩擦係数を用いずに、セルフアライニングトルクとスリップ度との比だけからタイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成している。このように地面の摩擦係数を必要としない構成により、地面の摩擦係数毎のマップを必要としない等の簡単な構成を実現し、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0111】
(11)グリップ特性パラメータを、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するとき増大する関数としている。このようにグリップ特性パラメータを関数として表現したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及び摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
(12)クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、セルフアライニングトルクとスリップ度との比が増大すると、セルフアライニングトルクとスリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するようにグリップ特性パラメータが非線形に増大している。このようにグリップ特性パラメータを所定の特性を有するものして表現したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0112】
(13)セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しいとき、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値に等しくなる。また、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値より下に減少すると、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値より下に減少する。そして、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値より上に増大すると、グリップ特性パラメータが、クリティカルパラメータ値より上に増大する。このようにグリップ特性パラメータを所定の特性でより明確化したことで、タイヤ摩擦状態、グリップ状態及びタイヤの摩擦限界に対する余裕度を適切に推定できる。
【0113】
(14)制御部が、グリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値以下のクリティカル領域においては、グリップ特性パラメータをクリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を行っている。さらに、制御部が、グリップ特性パラメータが所定のクリティカルレパラメータ値より大きいがクリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値より小のマージナル領域においては、グリップ特性パラメータをクリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を行っている。これにより、グリップリカバリー制御では、運転者にステアリングホイールの切り戻しを促す等して、グリップ力を確保することができる。さらに、グリップ低下予防制御では、運転者によるステアリングホイールの切り増し過ぎを防止し、グリップ力の低下を防止することができる。
【0114】
(15)車両接地面摩擦状態推定装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の右輪と左輪とに備えている。これにより、左右輪のグリップ特性の違いを検出することができるようになる。
(16)右輪についてのグリップ特性パラメータと左輪についてのグリップ特性パラメータとを比較して、地面の路面状態の左右差を検出している。これにより、路面状態の左右差として、例えば、路面μの差分、すなわちスプリットμ状態を検出できる。
【0115】
(17)輪荷重検出部が、車輪の輪荷重を求め、補正部が、輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、入力と出力の関係(トルク勾配特性マップ、μ勾配特性マップ)を補正している。これにより、輪荷重に影響されず、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
(18)入力と出力の関係が、セルフアライニングトルクとスリップ度との比を表す第1軸とグリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線として表わせる関数関係になっている。また、グリップ特性曲線が、第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、セルフアライニングトルクとスリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつグリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しくなっている。さらに、グリップ特性曲線が、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、エンド点では、グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しくなっている。そして、補正部が、車輪荷重の変化に応じて、エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させている。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0116】
(19)クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように補正部が輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正している。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0117】
(20)補正部が、車輪荷重の増大に応じて、エンド点を第1軸と第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、クロスオーバ点を第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正している。すなわち、グリップ特性曲線が輪荷重に応じて変化するときの特性(相似形状で変化するような特性)を利用し、補正している。これにより、高い精度でグリップ特性パラメータを得ることができる。
【0118】
(21)操舵角検出手段が操舵角を検出している。また、操舵トルク検出手段が、運転者が操舵するときの操舵トルクを検出している。そして、セルフアライニングトルク算出手段が、操舵角検出手段が検出した操舵角及び操舵トルク検出手段が検出した操舵トルクを基に、セルフアライニングトルクを算出している。これにより、簡単にセルフアライニングトルクを得ることができる。
【0119】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態では、車体走行状態推定装置28が前後輪のμ勾配を基に、車両挙動を特定し、その特定した車両挙動に応じてアシスト制御している。
図29は、第2の実施形態における車体走行状態推定装置28の構成を示す。図29に示すように、車体走行状態推定装置28は、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62を備える。また、第2の実施形態では、前後輪それぞれについてμ勾配を検出する構成を備えている。具体的には、タイヤスリップ角演算部43、セルフアライニングトルク演算部45、セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部46、トルク勾配演算部48及びμ勾配演算部49に相当する構成(車両接地面摩擦状態推定装置相当の構成)を、車両の前輪と後輪とに対応させて備えている。
【0120】
図30は、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62による処理手順を示す。この処理手順に沿って、スタビリティファクタ演算部61及び車両挙動推定部62における処理内容を説明する。
図30に示すように、先ずステップS31において、スタビリティファクタ演算部61は、スタティックマージンSMを算出する。具体的には、スタビリティファクタ演算部61は、前後輪のμ勾配演算部49が算出(推定)した前後輪のμ勾配Kf,Krを基に、下記(9)式に従ってスタティックマージンSMを算出する。
【0121】
【数9】
【0122】
スタティックマージンSMは、ドリフトアウトやスピンの発生し易さを示す値となる。又は、スタティックマージンSMは、タイヤ横力の飽和状態を示す値となる。例えば、スタティックマージンSMは、前輪31FL,31FRのグリップ状態が限界に達し(タイヤ横力が飽和し)、前輪のμ勾配Kfが零又は負値になると、小さくなる。つまり、前輪でスリップ角が大きくなっても横力が増大しない状態(横力が飽和した状態)になり、ドリフトアウトが発生し易い状態となると、スタティックマージンSMは小さくなる。スタビリティファクタ演算部61は、このような特性を有するスタティックマージンSMを車両挙動推定部62に出力する。
【0123】
続いてステップS32以降で、車両挙動推定部62は、スタビリティファクタ演算部61が算出したスタティックマージンSMを基に、旋回特性がアンダーステア傾向、オーバステア傾向及びニュートラルステア傾向の何れかであるかを判定する。具体的には、先ずステップS32において、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零か否かを判定する。ここで、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零の場合(SM=0)、ステップS33に進む。また、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが零でない場合(SM≠0)、ステップS34に進む。なお、スタティックマージンSMが零を含む所定の範囲内にある場合に、スタティックマージンSMが零であると判定することもできる。
【0124】
ステップS34では、スタティックマージンSMが正値か否かを判定する。ここで、車両挙動推定部62は、スタティックマージンSMが正値の場合(SM>0)、ステップS35に進む。また、車両挙動推定部62は、そうでない場合(SM<0)、ステップS36に進む。
ステップS33では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がニュートラルステア傾向にあると判定する。また、ステップS35では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がアンダーステア傾向にあると判定する。さらに、ステップS36では、車両挙動推定部62は、車両の旋回特性がオーバステア傾向にあると判定する。車両挙動推定部62は、その判定結果を、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50に出力する。
【0125】
不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62から入力される判定結果を基に、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。具体的には、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62がアンダーステア傾向にあると判定している場合(SM>0)、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。ここで出力する不安定挙動抑制アシスト指令は、EPSモータ27の出力を低減させるための指令信号である。これにより、アンダーステア傾向にあり、ドリフトアウトが発生し易いとき、EPSモータ27による操舵力アシストトルクを低減している。
【0126】
また、不安定挙動抑制アシスト指令値演算部50は、車両挙動推定部62がオーバステア傾向にあると判定している場合(SM<0)、不安定挙動抑制アシスト指令をEPSECU26に出力する。ここで出力する安定挙動抑制アシスト指令は、EPSモータ27の出力を低減させないようにしている。すなわち、操舵力アシストトルクの低減を抑制している。4輪ドリフト状態やスピン挙動が発生した場合には素早くカウンタステア(復帰操舵)を当てる必要がある。このため、単に前輪のグリップ低下に合わせてアシスト量を減らす制御だけでは、カウンタステアを当てにくくなる。このようなことから、操舵力アシストトルクを低減しないことで、オーバステア傾向にあり、スピンが発生し易い状況下で、素早いカウンタステアを当てることができ、車両挙動を安定化させることができる。
【0127】
そして、前記第1の実施形態のように、μ勾配及びトルク勾配を基に、注意領域(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)及び飽和領域(トルク勾配<0かつμ勾配<0)を特定して、その領域に対応させて安定挙動抑制アシスト指令を出力することもできる。これにより、注意領域及び飽和領域に対応させて、ドリフトアウトを防止したり、スピンの発生を防止したりすることもできる。
【0128】
(第2の実施形態における効果)
(1)車両接地面摩擦状態推定装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の前輪と後輪とにそれぞれ備えている。これにより、前後輪のグリップ特性の違いを検出することができるようになる。
(2)前輪についてのグリップ特性パラメータと後輪についてのグリップ特性パラメータとを比較して、車両特性の変動を推定している。これにより、車両特性の変動として、例えば、オーバステア傾向やアンダーステア傾向を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】前提となる技術を説明するために使用した図であり、車輪のスリップ角βtと車輪の横力Fyとの間に成立するタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)を示す特性図である。
【図2】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)及び摩擦円を示す特性図である。
【図3】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。
【図4】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。
【図5】前提となる技術を説明するために使用した図であり、任意の直線とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)との交点を示す横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(μ勾配)との関係(μ勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図6】前提となる技術を説明するために使用した図であり、横力Fy及びスリップ角βtから、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きを得る手順の説明に使用した図である。
【図7】前提となる技術を説明するために使用した図であり、特性曲線(μ勾配特性マップ)、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)及び摩擦円の関係を示す図である。
【図8】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときの横力Fyとスリップ角βtとの比(Fy/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図9】前提となる技術を説明するために使用した図であり、車輪のスリップ角βtと車輪のセルフアライニングトルクMzとの間に成立するタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)を示す特性図である。
【図10】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す特性図である。
【図11】前提となる技術を説明するために使用した図であり、各路面μのタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)について、該タイヤの特性曲線の原点を通る直線との交点での接線の傾きを示す他の特性図である。
【図12】前提となる技術を説明するために使用した図であり、任意の直線とタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)との交点を示すセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、該交点でのタイヤの特性曲線上の接線の傾き(トルク勾配)との関係(トルク勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図13】前提となる技術を説明するために使用した図であり、セルフアライニングトルクMz及びスリップ角βtから、タイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)上の接線の傾きを得る手順の説明に使用した図である。
【図14】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Mz−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図15】前提となる技術を説明するために使用した図であり、スリップ角βtに対する、横力FyとセルフアライニングトルクMzとの関係を示す特性図である。
【図16】前提となる技術を説明するために使用した図であり、図15に示す関係を各種路面μについて示す特性図である。
【図17】前提となる技術を説明するために使用した図であり、セルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)と、タイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾き(μ勾配)との関係(μ勾配特性マップ)を示す特性図である。
【図18】前提となる技術を説明するために使用した図であり、輪荷重を変化させたときのセルフアライニングトルクMzとスリップ角βtとの比(Mz/βt)とタイヤの特性曲線(Fy−βt特性曲線)上の接線の傾きとの関係を示す特性図である。
【図19】本発明の第1の実施形態である車両の概略構成を示す図である。
【図20】車両走行状態推定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図21】車体スリップ角推定部の内部構成を示すブロック図である。
【図22】旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。
【図23】旋回中の車体に働く場の力を説明するために使用した図である。
【図24】補償ゲインを設定するための制御マップを説明するために使用した特性図である。
【図25】車両の線形2輪モデルを説明するために使用した図である。
【図26】不安定挙動抑制アシスト指令値演算部の処理手順を示すフローチャートであえる。
【図27】車体走行状態推定装置での演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図28】安全領域(トルク勾配≧0かつμ勾配≧0)、注意領域(トルク勾配<0かつμ勾配≧0)及び飽和領域(トルク勾配<0かつμ勾配<0)での制御の説明に使用した図である。
【図29】第2の実施形態における車両走行状態推定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図30】第2の実施形態における車両走行状態推定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0130】
21 操舵角センサ、22 ヨーレイトセンサ、23 横加速度センサ、24 前後加速度センサ、25 車輪速センサ、26 EPSCPU、27 EPSモータ、28 車体走行状態推定装置(車両接地面摩擦状態推定装置)、29 ステアリングホイール、30 ステアリングシャフト、31FL〜31RR 車輪、32 ピニオン、33 ラック、34 タイロッド、35 操舵トルクセンサ、36 ブレーキECU、41 車体速度演算部、42 車体スリップ角推定部、43 タイヤスリップ角演算部、44 EPSアシストトルク演算部、45 セルフアライニングトルク演算部、46 セルフアライニングトルク−スリップ角比演算部、47 輪荷重変化量演算部、48 トルク勾配演算部、49 μ勾配演算部、50 不安定挙動抑制アシスト指令値演算部、61 スタビリティファクタ演算部、62 車両挙動推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定装置において、
接地面において前記車輪のステアリングを中立位置に戻すトルクであるセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力部と、
前記入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力部と、
を備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項2】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率であることを特徴とする請求項1に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項3】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度の変化量に対する前記セルフアライニングトルクの変化率であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記グリップ特性パラメータとして、前記スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率、及び前記スリップ度の変化量に対する前記セルフアライニングトルクの変化率を出力することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項5】
前記スリップ度は、車輪のスリップ角であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記入力により表される入力変数と前記出力により表される出力変数との間の所定の非線形の関係に応じて、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比から前記グリップ特性パラメータを決めるように構成されていて、前記入力変数と出力変数との間の所定の非線形関係は、特性曲線又は数式の形であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項7】
前記グリップ特性パラメータは、車輪のグリップ状態を表わす変数であり、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記グリップ特性パラメータを決めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項8】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線の勾配、前記スリップ度に対する前記セルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線の勾配、又はこれら2つの勾配を表し、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記タイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項9】
前記スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線又は前記スリップ度に対する前記セルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含み、前記グリップ特性パラメータは、前記高摩擦タイヤ特性曲線及び低摩擦タイヤ特性曲線うちの少なくとも一つの勾配を表し、前記入力部は、前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値から前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の現在値を求め、前記出力部は、前記入力部で求めた前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の現在値から前記グリップ特性パラメータの現在値を決定し、かつ前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値に対応する前記高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値と前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値に対応する前記低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じで前記グリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成されていることを特徴とする請求項8に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項10】
前記タイヤ特性曲線は、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線であり、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記タイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項11】
前記グリップ特性パラメータは、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するときに増大する関数であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項12】
前記クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比が増大すると、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するように前記グリップ特性パラメータが非線形に増大することを特徴とする請求項11に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項13】
前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比が前記クリティカルレシオ値に等しいとき、前記グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値に等しく、前記セルフアライニングトルクとスリップ度との比が前記クリティカルレシオ値から減少すると、前記グリップ特性パラメータは、前記クリティカルパラメータ値から減少し、前記セルフアライニングトルクとスリップ度との比が前記クリティカルレシオ値から増大すると、前記グリップ特性パラメータは、前記クリティカルパラメータ値から増大することを特徴とする請求項11又は12に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項14】
前記グリップ特性パラメータが前記クリティカルパラメータ値以下のクリティカル領域においては、前記グリップ特性パラメータを前記クリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を行い、前記グリップ特性パラメータが前記所定のクリティカルレパラメータ値より大きいが前記クリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値より小のマージナル領域においては、前記グリップ特性パラメータを前記クリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を行う制御部を備えることを特徴とする請求項13に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項15】
請求項1〜14の何れかに記載の装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の右輪と左輪とに備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項16】
請求項1〜14の何れかに記載の装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の前輪と後輪とにそれぞれ備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項17】
前記右輪についての前記グリップ特性パラメータと前記左輪についての前記グリップ特性パラメータとを比較して、地面の路面状態の左右差を検出することを特徴とする請求項15に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項18】
前記前輪についての前記グリップ特性パラメータと前記後輪についての前記グリップ特性パラメータとを比較して、車両特性の変動を推定することを特徴とする請求項16に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項19】
前記車輪の輪荷重を求める輪荷重検出部と、前記輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、前記入力と前記出力の関係を補正する補正部と、を備えることを特徴とする請求項1〜18の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項20】
前記入力と出力の関係は、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比を表す第1軸と前記グリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線として表わせる関数関係であり、前記グリップ特性曲線は、前記第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつ前記グリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しく、前記グリップ特性曲線は、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、前記エンド点では、前記グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しく、前記補正部は、車輪荷重の変化に応じて、前記エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させることを特徴とする請求項19に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項21】
前記補正部は、前記クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように、輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正することを特徴とする請求項20に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項22】
前記補正部は、車輪荷重の増大に応じて、前記エンド点を前記第1軸と前記第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、前記クロスオーバ点を前記第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正することを特徴とする請求項20又は21に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項23】
操舵角を検出する操舵角検出手段と、
運転者が操舵するときの操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵角検出手段が検出した操舵角及び前記操舵トルク検出手段が検出した操舵トルクを基に、前記セルフアライニングトルクを算出するセルフアライニングトルク算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜22の何れか1項に記載の車両設置面摩擦状態推定装置。
【請求項24】
車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定方法において、
接地面において前記車輪のセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力ステップと、
前記入力ステップで設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力ステップと、
を有することを特徴とする車両接地面摩擦状態推定方法。
【請求項1】
車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定装置において、
接地面において前記車輪のステアリングを中立位置に戻すトルクであるセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力部と、
前記入力部で設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力部と、
を備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項2】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度の変化量に対する車輪に作用する車輪力の変化率であることを特徴とする請求項1に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項3】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度の変化量に対する前記セルフアライニングトルクの変化率であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記グリップ特性パラメータとして、前記スリップ度の変化量に対する車輪力の変化率、及び前記スリップ度の変化量に対する前記セルフアライニングトルクの変化率を出力することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項5】
前記スリップ度は、車輪のスリップ角であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記入力により表される入力変数と前記出力により表される出力変数との間の所定の非線形の関係に応じて、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比から前記グリップ特性パラメータを決めるように構成されていて、前記入力変数と出力変数との間の所定の非線形関係は、特性曲線又は数式の形であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項7】
前記グリップ特性パラメータは、車輪のグリップ状態を表わす変数であり、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記グリップ特性パラメータを決めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項8】
前記グリップ特性パラメータは、前記スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線の勾配、前記スリップ度に対する前記セルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線の勾配、又はこれら2つの勾配を表し、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記タイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項9】
前記スリップ度に対する車輪力のタイヤ特性曲線又は前記スリップ度に対する前記セルフアライニングトルクのタイヤ特性曲線は、高摩擦係数を有する高摩擦路面用の高摩擦タイヤ特性曲線及び高摩擦係数より低い低摩擦係数を有する低摩擦路面用の低摩擦タイヤ特性曲線を含み、前記グリップ特性パラメータは、前記高摩擦タイヤ特性曲線及び低摩擦タイヤ特性曲線うちの少なくとも一つの勾配を表し、前記入力部は、前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値から前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の現在値を求め、前記出力部は、前記入力部で求めた前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の現在値から前記グリップ特性パラメータの現在値を決定し、かつ前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値に対応する前記高摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値と前記セルフアライニングトルクの現在値と前記スリップ度の現在値に対応する前記低摩擦タイヤ特性曲線の勾配の値とが同じで前記グリップ特性パラメータの現在値に等しいと設定するよう構成されていることを特徴とする請求項8に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項10】
前記タイヤ特性曲線は、路面摩擦係数に依存するタイヤ特性を表わす特性曲線であり、前記出力部は、地面の摩擦係数を用いずに、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比だけから前記タイヤ特性曲線の勾配を決めるように構成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項11】
前記グリップ特性パラメータは、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値から増大するときに増大する関数であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項12】
前記クリティカルレシオ値よりも大の大レシオ領域において、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比が増大すると、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比の増加に対するグリップ特性パラメータの増加の割合が増加するように前記グリップ特性パラメータが非線形に増大することを特徴とする請求項11に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項13】
前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比が前記クリティカルレシオ値に等しいとき、前記グリップ特性パラメータは、クリティカルパラメータ値に等しく、前記セルフアライニングトルクとスリップ度との比が前記クリティカルレシオ値から減少すると、前記グリップ特性パラメータは、前記クリティカルパラメータ値から減少し、前記セルフアライニングトルクとスリップ度との比が前記クリティカルレシオ値から増大すると、前記グリップ特性パラメータは、前記クリティカルパラメータ値から増大することを特徴とする請求項11又は12に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項14】
前記グリップ特性パラメータが前記クリティカルパラメータ値以下のクリティカル領域においては、前記グリップ特性パラメータを前記クリティカルパラメータ値より増大させるグリップリカバリー制御を行い、前記グリップ特性パラメータが前記所定のクリティカルレパラメータ値より大きいが前記クリティカルパラメータ値より大の所定の第1パラメータ閾値より小のマージナル領域においては、前記グリップ特性パラメータを前記クリティカルパラメータ値に向かって減少することを防止するグリップ低下予防制御を行う制御部を備えることを特徴とする請求項13に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項15】
請求項1〜14の何れかに記載の装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の右輪と左輪とに備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項16】
請求項1〜14の何れかに記載の装置を少なくとも2つ備え、その2つの装置を車両の前輪と後輪とにそれぞれ備えることを特徴とする車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項17】
前記右輪についての前記グリップ特性パラメータと前記左輪についての前記グリップ特性パラメータとを比較して、地面の路面状態の左右差を検出することを特徴とする請求項15に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項18】
前記前輪についての前記グリップ特性パラメータと前記後輪についての前記グリップ特性パラメータとを比較して、車両特性の変動を推定することを特徴とする請求項16に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項19】
前記車輪の輪荷重を求める輪荷重検出部と、前記輪荷重検出部が求めた輪荷重を基に、前記入力と前記出力の関係を補正する補正部と、を備えることを特徴とする請求項1〜18の何れか1項に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項20】
前記入力と出力の関係は、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比を表す第1軸と前記グリップ特性パラメータを表す第2軸とを有する平面座標系におけるグリップ特性曲線として表わせる関数関係であり、前記グリップ特性曲線は、前記第1軸とクロスオーバ点で交差し、該クロスオーバ点では、前記セルフアライニングトルクと前記スリップ度との比がクリティカルレシオ値に等しく、かつ前記グリップ特性パラメータがクリティカルパラメータ値に等しく、前記グリップ特性曲線は、クロスオーバ点からエンド点まで伸び、前記エンド点では、前記グリップ特性パラメータが最大パラメータ値に等しく、前記補正部は、車輪荷重の変化に応じて、前記エンド点を第1軸と第2軸の交点である原点を通る直線上で移動させることを特徴とする請求項19に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項21】
前記補正部は、前記クリティカルレシオ値より大きい領域において、互いに交差することなく互いに沿って曲線状に伸びる曲線族を形成するように、輪荷重に応じてグリップ特性曲線を修正することを特徴とする請求項20に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項22】
前記補正部は、車輪荷重の増大に応じて、前記エンド点を前記第1軸と前記第2軸との交点である原点を通る直線上で原点から離れる方向に移動させ、前記クロスオーバ点を前記第1軸上で原点から離れる方向に移動させるように関数関係を補正することを特徴とする請求項20又は21に記載の車両接地面摩擦状態推定装置。
【請求項23】
操舵角を検出する操舵角検出手段と、
運転者が操舵するときの操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵角検出手段が検出した操舵角及び前記操舵トルク検出手段が検出した操舵トルクを基に、前記セルフアライニングトルクを算出するセルフアライニングトルク算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜22の何れか1項に記載の車両設置面摩擦状態推定装置。
【請求項24】
車両の車輪の接地面グリップ特性を推定するための車両接地面摩擦状態推定方法において、
接地面において前記車輪のセルフアライニングトルクと前記車輪のスリップ度との比である入力を設定する入力ステップと、
前記入力ステップで設定した入力を基に、車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータである出力を決める出力ステップと、
を有することを特徴とする車両接地面摩擦状態推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2010−105479(P2010−105479A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278032(P2008−278032)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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